質量分析計およびイオン分離検出方法
等風速線原理に従って動作する質量分析計であり、この質量分析計において、マスフィルタが、イオンを、それらの質量対電荷比に係わらず名目上の等しい速度まで加速させる。質量分析計は、凹面レンズと、ビーム経路においてこれに続く凸面レンズとによって形成された静電レンズ配置に基づいた改良検出器を備える。これらのレンズは、イオンを、それらの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向させる。そして、イオンの質量対電荷比は、ビーム経路に配置されたマルチチャンネルプレートなどの適切な検出器アレイによって決定されることができる。これにより、小型で感度の高い機器が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計、並びに、質量分析計用のイオン分離およびイオン検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、中性分析分子をイオン化して、所定の範囲にわたるより小さいイオンを生成するように断片化し得る荷電親イオンを形成することが可能である。結果として得られたイオンは、累進的により高い質量/電荷(m/z)比で順次捕集されて、原分子の「フィンガープリントを作成する」ために使用可能であるとともに多くの他の情報を提供するいわゆる質量スペクトルを生成する。一般に、質量分析計は、高感度、低検出限界、および多様な用途を提供する。
【0003】
磁場セクタ型、四重極型、および飛行時間型を含む質量分析計の多数の従来構成が存在する。つい最近、本発明者の一人は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,247,847号明細書[1]に記載されるように、別の基本原理によって動作する新型の質量分析計を開発した。米国特許第7,247,847号明細書の質量分析計は、すべてのイオン種を、それらの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速させて、いわゆる等速型の質量分析計または等風速線型の質量分析計を提供する。これは、質量に係わらず同等の運動エネルギーをすべてのイオン種に付与することを目的とする飛行時間の質量分析計と対照的である。
【0004】
米国特許第7,247,847号明細書は、検出器の設計について異なる2つの主要な実施形態を開示している。これらの2つの従来技術の設計は、添付の図面の図1および図2に転載されている。
【0005】
図1および図2の両方において、連続して接続された3つの主要な構成要素、すなわち、イオン源12と、マスフィルタ14(分析器と呼ばれることもある)と、イオン検出器16と、を備える質量分析計10が示されている。
【0006】
図1の設計において、イオン検出器16は、検出器アレイ56と、イオンをそれぞれの質量対電荷比に従って検出器アレイ上で分散させるイオン分散器と、を備える。イオン分散器は、イオンを、それらのエネルギーに応じた、ひいてはそれらの質量対電荷比に応じた量の分だけアレイ上で偏向させる湾曲した電界を生成する電極52、54を備える。最小エネルギー(最低質量)のイオンは最大角度で偏向され、最大エネルギー(最高質量)のイオンは最小角度で偏向される。従って、イオンは、図1に示すように左から右へ空間的に分散される。なお、このタイプの分散では、偏向前にイオンが非常に薄い矩形断面を有することを必要とすることが理想的である。実際は、イオン源12およびマスフィルタ14によって生成されたイオンビームは円形断面を有し、これにより検出器の分解能が制限される。分解能は、ビーム経路内に設けられたイオン吸収スリットによってイオンビームを縮小することによって向上させられ得るが、これは、検出器にとって一部のイオンが失われ、それによって感度を低下させることを意味する。従って、分解能と感度とのトレードオフが存在する。
【0007】
図2の設計では、イオンが通過する開口を有する環状の第1検出器電極60を備える別のイオン検出器16が使用される。この電極60はエネルギー選別器として機能する。これに続いて、第2検出器電極62がイオン経路内に配置される。これは、ファラデーカップなどの単一素子検出器である。第1検出器電極60および第2検出器電極62に電圧を印加する電圧供給部63が設けられる。使用中、第1検出器電極60および第2検出器電極62は、Vt+Vrボルトの電位に設定され、ここでVtは、上に定義したような経時変化する電圧プロファイルであり、Vrは、Vr電子ボルト未満のエネルギーを有するイオンを反発または反射するように選択されたバイアス電圧である。従って、Vr電子ボルト以上のエネルギーを有するイオンのみが第1検出器電圧60を通過し、検出用の第2検出器電圧62に到達する。
【0008】
一連の質量スペクトルデータを得るために、Vrは当初はゼロに設定され、そのためパケット内のすべてのイオンが検出される。次のパケットについては、Vrをわずかに増加させて最小エネルギーのイオンを反射し、残りのイオンを検出する。すべてのイオンが反射されてイオンが検出されない状態の電界になるまで、パケットごとにVrを漸増させながらこのプロセスを繰り返す。パケットごとに検出された信号の一連のデータを処理して、m/z比に対するイオン電流のグラフすなわち質量スペクトルを作成することができる。この構成によって簡潔で小型の線形構造を可能にする。しかし、電圧掃引プロセスは、イオンの大部分が排除されて感度が低下することを意味する。また、この設計は、イオン源12およびマスフィルタ14から検出器16へのビーム軸に沿った途切れない直通経路が存在するという点で、ノイズを被る。従って、イオン源内で生成されたエネルギー光子が検出器に入射して、誤カウントを引き起こすおそれがある。さらに、放電される程度に十分に格子に近づくように通過するもののオフアクシスに著しくは偏向されないエネルギーイオンによって生成される非イオン化原子および分子、いわゆる中性物質が検出器に衝突して誤カウントを引き起こす場合がある。
【0009】
従って、等速原理または等風速線原理に従って動作する質量分析計の検出器の設計を改善することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、質量分析計であって、複数のイオンを含むイオンビームを供給するように動作可能なイオン源であって、複数のイオンの各々が質量対電荷比を有する、イオン源と、イオン源からイオンビームを受けるように配置され、かつイオンパケットを射出するように構成されたマスフィルタであって、各々のイオンパケットにおいて、イオンはそれぞれの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度を有し、イオンパケットがビーム軸に沿って射出される、マスフィルタと、マスフィルタからイオンパケットを受けるようにビーム軸に配置されたイオン検出器であって、イオンを、それらの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向するように動作可能なレンズ配置を備え、および、ビーム軸から離れて別々の距離に位置する複数のチャンネルを有する、ビーム軸からの距離に従ってイオンの質量電荷比を検出するための位置敏感センサをさらに備える、イオン検出器と、を備える、質量分析計が提供される。
【0011】
この設計は、ビームラインが一直線であるため機器を小型化でき、かつすべてのイオンを並行して捕集することができるため感度を高くできるという点において、2つの従来の検出器設計の利点を組み合わせている。
【0012】
反比例するという用語は、より高い質量対電荷比のイオンがより少なく偏向され、より低い質量対電荷比のイオンがより多く偏向されることを示すために用いられるのであり、偏向が特定の数学関数に従うことを示すために用いられるのではない。
【0013】
位置敏感センサという用語は、少なくとも1次元または1方向においてイオンが当たった位置を測定可能なイオンセンサを意味する。一部の実施形態では2次元位置感度が必要である一方、他の実施形態では1次元位置感度が適切である。
【0014】
レンズ配置は、第1レンズおよび第2レンズを備え、これらのレンズのうちの一方は凹面レンズであり、他方は凸面レンズであることが好ましい。凹面レンズは、凸面レンズより先に、すなわち、ビームラインに沿って凸面レンズの上流に前記イオンを受けるように配置されることが好ましい。
【0015】
レンズは、球形にされてよく、イオンを、当該イオンの質量対電荷比に従ってビーム軸を中心に半径方向に散らす。またはレンズは円柱形にされてよく、当該イオンの質量対電荷比に従ってビーム軸を中心に単軸方向にイオンを散らす。
【0016】
レンズ配置および位置敏感センサは、イオンがレンズ配置と位置敏感センサとの間の焦点を通過するように互いに配置されることが好ましい。
【0017】
レンズ配置によって影響を受けない、ビーム軸に沿って伝播した非荷電粒子を除去するように偏向されたイオンの経路内に、ビームストップを有利に配置することができる。ビームストップは、レンズ配置の2つのレンズ間に便利に配置される。非荷電粒子を除去するのに有用であるとともに、ビームストップは、最大閾値を超える質量対電荷比を有するイオンを除去するように、ビーム軸から水平に延在するように配置および寸法設定することができる。また、最低閾値未満の質量対電荷比を有するイオンを除去するように偏向されたイオンの経路内に、ビームマスクを配置することができる。ビームマスクは、ビームストップと共平面にされてもよく、またはビームライン沿いの異なる位置とされてもよい。一般に、ビームマスクは、ビーム断面の一部を切り取る開口を画定する。
【0018】
好ましい実施形態において、マスフィルタは、電極配置および駆動回路から構成され、駆動回路は、イオンをそれらの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速させる役割を果たす機能形態を有する経時変化電圧プロファイルを印加するように構成される。
【0019】
当然のことながら、レンズ配置を作り上げるレンズの倍率は、レンズバイアスを調整することによって、特に、電圧源によってレンズに印加された電圧を調整することによって構成されることが可能である。例えば、これは、使用中、上述の最低閾値および最高閾値ならびに検出器の全体的な質量対電荷感度および範囲を調整できることを意味する。
【0020】
本発明のさらなる一態様によれば、質量分析法であって、複数のイオンを含むイオンビームを生成することであって、イオンの各々は質量対電荷比を有することと、マスフィルタ内のイオンの群を、それらの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速し、それによってイオンパケットを形成することと、ビーム軸に沿ってイオンパケットをマスフィルタから射出することと、イオンを、それぞれの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向することと、ビーム軸からの距離に従ってイオンの質量対電荷比を検出することと、を含む、質量分析法が提供される。
【0021】
イオンの偏向量は、所望の範囲の質量対電荷比が検出されるように調整されることが好ましい。イオンの偏向量は、複数の所望の範囲の質量対電荷比が単一の測定周期内で検出されるように、複数回にわたって調整されることもできる。これらの範囲は、重複しなくてよいが、第1範囲が比較的広く、第2範囲およびそれ以降の範囲が、第1範囲から得られた結果に相互作用的に応じて選択される、第1範囲の部分範囲である、ということが好ましい。
【0022】
本発明をより理解し、本発明の実施方法を示すために、添付の図面を一例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術に係る質量分析計の概略断面図である。
【図2】図1に示すイオン検出器とは別のイオン検出器を有する、従来技術に係る質量分析計の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る質量分析計の概略断面図である。
【図4】図3の質量分析計内のイオンパケットの概略図である。
【図5】図3のイオン検出器アセンブリの概略斜視図である。
【図6】図3のイオン検出器のセンサ表面上で捕集されたイオンの概略正面図である。
【図7】別の実施形態のイオン検出器アセンブリの概略斜視図である。
【図8】図7の別の実施形態のイオン検出器のセンサ表面上で捕集されたイオンの概略正面図である。
【図9】イオンパケット内のすべてのイオンを等速まで加速させるのに使用することができる電圧パルスの一機能形態を示す。
【図10】イオンパケット内のすべてのイオンを等速まで加速させるのに使用することができる電圧パルスの一機能形態を示す。
【図11】イオンパケット内のすべてのイオンを等速まで加速させるのに使用することができる電圧パルスの一機能形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図3は、本発明に係る質量分析計の概略断面図である。気体の質量分析に関してこの質量分析計を説明するが、本発明は非気体検体に同様に適用可能である。
【0025】
質量分析計10は、Oリング(図示せず)によって密封されたフランジ継手22によって結合されたステンレス鋼部分から主に形成された本体20を有する。本体20は細長くて中空である。気体入口24が本体20の一端に設けられている。メッシュ構造を有する第1イオンリペラー電極26が、気体入口24の下流で、本体20の内部にわたって設けられている。メッシュ構造は、気体入口24を通って導入された気体に対して高い透過性を示すが、適切な電圧が印加されるとイオンを反発するように機能する。
【0026】
電子源フィラメント28と、電子ビーム電流制御電極30と、電子コレクタ32と、を備えるイオン化装置が第1イオンリペラー電極26の下流に配置される。電子源フィラメント28および電流制御電極30は、本体20の内部の一方側に配置され、電子コレクタ32は、本体20の内部の他方側に電子源フィラメント28および電流制御電極30に対向して配置される。適切な電流および電圧を印加することによって、電子が、電子源フィラメント28によって生成されて制御電極30によって平行にされ、本体20を横切ってコレクタ32までストリーム内を進むという点において、これらの特徴は従来の様式で動作する。
【0027】
アインツェルレンズ34の形態をとるイオンコリメータがイオン化装置の下流に配置される。アインツェルレンズは、イオンビームを平行にするとして当該技術分野で知られている[2]。レンズ34の下流には、本体20の一方側のみに配置される第2イオンリペラー電極36と、環状であって本体20の横方向に延在し、イオンが通過する開口を有するイオンコレクタ電極38と、がある。イオンコレクタ電極38および本体10はともに接地される。
【0028】
上述の特徴はともに、加速させられることに適した形態のイオンをそれらの質量対電荷比に従って供給するイオン源12を備えるものとみなされることができる。
【0029】
コレクタ電極38の下流には、電極配置を備えるマスフィルタ14が位置付けられる。マスフィルタ14は、イオンコレクタ電極38と指数パルス電極40との間を長さdにわたって延在する。指数パルス電極40は、環状であり、かつイオンが通過する開口を有する。指数パルス電極40に経時変化電圧プロファイルを印加するために駆動回路41が設けられる。
【0030】
マスフィルタの外壁を画定する本体10の一部に出口42が設けられる。出口42は、質量分析計10の内部の圧力を、所要の動作圧力、一般に、質量分析計について通常の1.3×10−3Pa(〜10−5torr)未満まで低減させることができる真空システムの接続を可能にする。出口42は、本体20の端部で、ガス入口24の付近に位置付けられてもよい。
【0031】
「指数ボックス」という用語が、マスフィルタ14を指すために以下で用いられる。すなわち、指数ボックス14の寸法は、イオンコレクタ電極38と指数パルス電極40との間の長さdと、これらの電極によって囲まれた領域とによって画定されることができる。
【0032】
指数パルス電極40の下流にはイオン検出器16が設けられる。イオン検出器は、第1電極および第2電極100、102を備える。第1電極および第2電極は、レンズとして個別に機能し、イオンに対するレンズ組合せを集合的に形成する。ここで、第1電極および第2電極は、機器の主軸がレンズの「光」軸Oと一致するように配置される。本件において光はもちろん存在しないものの、光軸という用語が便宜上用いられるのは、この用語が技術用語であるからである。第1電極100は、発散レンズまたは凹面レンズとして機能し、円形断面の平行イオンビームの入射イオンを光軸Oから離れるように発散させる役割を果たす。第2電極102は、第1電極100から放出された発散イオンが収束するのに十分なパワーの収束レンズまたは凸面レンズとして機能するため、イオンは焦点Fに到達し、その後、検出器アレイ108に当たる前に再び発散する。
【0033】
発散第1電極100の下流で主ビーム経路または光軸の線上にビームストップ112が配置され、ビームストップ112は、発散第1電極レンズ100の作用の影響を受けず、従って影響を受けずに主ビーム経路に沿い続ける粒子を遮断するものの、ビームストップ112の周辺を迂回した当該質量対電荷比を有するイオンを遮断しないように、位置決めおよび寸法設定される。従って、ビームストップは、光子ならびに非イオン化原子および分子などの粒子を除去することになる。
【0034】
レンズの組合せは単一レンズと同等であるという基本的な光学原理に従って、当然のことながら、3つ以上の電極、例えば、3つまたは4つのレンズを使用して同一の効果をもたらすことができることが理解されよう。同様の理由から、単一の電極を使用することもできる。しかし、ビームストップ112を都合よく設けることができないため、単一の電極の使用は一般に好まれない。
【0035】
2つの電極100、102は、イオンの通過を可能にする開口を有する環状である。第1電圧源および第2電圧源104、106が第1電極および第2電極100、102に対してそれぞれ設けられる。各電圧源104、106は、対応の電極100、102に所望の電圧を印加する役割を果たす。個々の測定中、各電極に印加される電圧は一定に維持されなければならない。個々の測定は、単一のイオンパケットについての測定であってよいが、一連のイオンパケットの集積に対して実行されることが多い。
【0036】
各電極レンズ100、102に印加される電圧はレンズの倍率を規定することが理解されよう。ひいては、2つのレンズの倍率とレンズ組合せから検出器プレート108までの距離とが、検出器アレイ上のイオンの領域、すなわち「フットプリント」を決定する。従って、検出器アレイによって収集された質量対電荷比の範囲を、レンズ電圧および/または、便利さの度合いが下がるが、レンズに対する検出器の位置の適切な調整によって変化させることができる。ビームストップを用いてより重い比較的低電荷のイオン(より高い質量/電荷比イオン)を遮断することができる、これによって、より軽い比較的高電荷のイオンが検出器アレイを完全に外れるという事実と組み合わせて、機器が所望の範囲の質量対電荷比のみを検出することが可能になる。この効果は、第1レンズ100に対して光軸に沿ってビームストップを移動させることによって、またはビームストップの直径を変化させることによって得ることができる。
【0037】
この効果を十分に利用するために、円形開口を有するビームマスク114を、例えば、検出器アレイに先立って設けて、閾値m/z比未満のイオンを遮断することができる。ビームマスク114は、図示のように検出器アレイの直前に、またはレンズ組合せ内の他の位置に位置決めされることが可能である。別の位置は、ビームストップ112と同一平面上にあり、または実際は、凸面レンズが最初にイオンを発散させる場所と検出器との間の任意の場所である。また、ビームマスク114を設けることは、円形ではなく正方形や長方形である通常の検出器アレイの結果として、検出器アレイの末端にイオンが当たる場合に生じ得る処理の複雑化回避の要望という実際の検討事項に対して有用であり得る。
【0038】
これらの調整特徴によって、当該機器が別々のターゲットについて異なるように構成されることを可能にする。一方では、アイソトープ検出は、狭い範囲の質量対電荷比に対して高倍率を要するであろう。他方では、さまざまな通常発生するイオンを含む広範囲が必要とされる場合、低倍率が求められるであろう。また、別々の倍率で同一のサンプルから多数の組のデータを収集し、かつ結果として得られるデータを任意に共同で処理することが想定され得る。さらには、機器は、広範囲の質量対電荷比の粗い走査、およびそれに続く、粗い走査によって特定された質量対電荷比の1つ以上の特定の範囲を対象とした細かい走査を追跡し得る。
【0039】
アレイ検出器108は、本例においてマイクロチャンネルプレートである。マイクロチャンネルアレイ検出器108は単一層2次元検出器である。他の位置敏感検出器を用いてもよい。読出装置110が、アレイ検出器108に対するイオン衝突の位置を読み出すために設けられる。
【0040】
電極26、32、34、36、40、100、102は、セラミック材料または高密度ポリエチレン(HDPE)などの適切な絶縁材料から形成された電極支持体44上に取り付けられる。
【0041】
質量分析計10の動作を以下に説明する。
【0042】
分析されるべき気体は、気体入口24を介して低圧で質量分析計10の内部に入れられる。気体減圧手段は図示されていないが、膜の使用、毛細管漏出、ニードル弁など、多くの公知の利用可能な技術がある。気体は第1イオンリペラー電極26のメッシュを通過する。
【0043】
そして、気体は電子源フィラメント28からの電子流によってイオン化され、正イオンのビームが生成される。電子は、電流制御電極30に対して正電圧で設定される電極である電子コレクタ32で捕集されて、約70eVのエネルギーで、図2の点線で示すようにイオン源の軸付近に供給される。これは、このエネルギーでほとんどの分子をイオン化することができるため、通常、電子衝突イオン化の最適エネルギーに関するものと一般にみなされるが、望ましくないレベルの細分化を引き起こすほど大きくない。電子コレクタ32に印加される正確な電圧は、通常、実験によって設定されるであろうが、おそらく140V程度になる。電子衝突イオン化源の多くの可能な設計、および実際に、イオン化を引き起こす他の方法が存在すると理解されたい。本明細書で説明して添付の図面に示す方法および構造は、好ましい実施形態に過ぎない。
【0044】
電子流によってイオン化されない気体は、質量分析計10を通過し、出口42に接続された真空システムによって排出される。フランジ接続が適切である。
【0045】
上記で参照した点線は、機器の本体20の円筒対称性の主軸と少なくとも実質的に一致する機器の一次軸に従って、イオンが質量分析計10を通過することも示す。
【0046】
正電圧が第1イオンリペラー電極26に印加されて(正)イオンを反発し、アインツェルレンズ34を介して(正)イオンを誘導し、それによって細くて平行なイオンビームを生成する。正電圧が第2イオンリペラー電極36に印加され、それによってイオンビームは第2イオンリペラー電極36によって偏向される。図2で「A」と表記された点線経路をたどる偏向されたイオンは、空間電荷の蓄積を防ぐために接地されるイオンコレクタ電極38で捕集される。
【0047】
イオンがマスフィルタに入ることを可能にするために、第2イオンリペラー電極36の電圧は、イオンの小さいパケットが偏向されないように周期的に0Vに設定され、それによってイオンはイオンコレクタ電極38の開口を介して指数ボックス14に入る。このように、第2イオンリペラー電極36およびイオンコレクタ電極38は、イオンパケットを生成するパルス生成器を形成する。
【0048】
イオンパルスが指数ボックス14に入るとき、指数電圧が駆動回路41によって指数パルス電極40に印加される。指数パルスは、時間tに対してVt=V0exp(t/τ)という形態をとり、ここでτは時定数である。最大電圧はVmaxとして示される(この場合、イオンは正に荷電しているので、指数パルスは負に向かう。負に荷電しているイオンの場合、正に向かうことが必要であろう)。電圧パルスに起因する指数的に増加する電界のイオンに対する効果は、指数パルス電極40に向けて、次第に増加する割合でイオンを加速することである。最大電荷を担持するイオンと同様に、最小質量を有するイオンは低慣性を有し、より急速に加速されるので、最低m/z比を有するイオンは最高加速度を経験する。逆に、最高m/z比を有するイオンは最低加速度を経験する。t秒後、すべてのイオンが距離dを移動し、指数パルス電極40を通過し、この時点で指数電圧パルスは終わる。またt秒後、すべてのイオンは同一の速度vt mm s−1で移動しており、ここでvt=d/τであるが、これらのイオンは空間的に分離される。これは、指数的に増加する電圧パルスの特有の結果であり、それにより、電極間隔dおよび電圧パルスの成形およびタイミングが適切に選ばれる場合、すべてのイオンの速度は、イオンの質量に係わらず、それらのイオンが指数ボックスを出るときに同一である。この数学的導出は、米国特許第7,247,847号明細書の付録に示されている。
【0049】
完全指数ボックスは、すべてのイオンを等しい速度まで加速させる。実際には、システムの不完全性に起因して、通常、イオンは速度範囲を有する。通常、1%程度の速度の拡大が達成されると予測することができ、これは、分析計からの最終結果に対して無視できる悪影響を及ぼす。実際には、これより大きい速度の拡大であり、約10%までの拡大、例えば、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%までの拡大について有意義な結果を得ることができる。
【0050】
通常、距離dは数センチメートル程度とすることができる。例えば、dを3cmとし、存在する最高m/z比のイオンが100Thのm/zである場合、イオンが距離dを移動するために、0.77μsの時定数τを有する指数パルスが3.8μs印加される必要がある。これにより、−2kVのパルスの終端におけるピーク電圧が与えられる。
【0051】
それぞれ異なる電極に印加される必要がある電圧の正確な値は、質量分析計10で採用されたまさにその形状によって決まる。1組の適切な電圧の例は以下のとおりである。
イオンリペラー電極 +10V
電子コレクタ +140V
アインツェルレンズI +5V
II +3V
III +4V
イオンリペラー電極 +60V
【0052】
イオンが指数ボックスを出ると、イオンはそれらのm/z比に従って検出されることになり、そのため質量スペクトルを導出することができる。
【0053】
図3に示すイオン検出器16は、以下のように動作する。
【0054】
電圧源104を用いて第1の所望の電圧を第1電極100に印加する。印加された電圧の極性は、第1電極100の開口を通過するイオンに対して負である。これにより、電極100の開口を通過するイオンは、光軸に対して放射状に外側へ偏向する。図3に点線で示すように、イオンは光軸から離れるように発散する。
【0055】
同時に、電圧源106を用いて第2の所望の電圧を第2電極102に印加する。印加された電圧の極性は、第2電極102の開口を通過するイオンに対して正である。これにより、第1電極100を通過したイオンは、放射状に内側へ偏向する。図3に点線で示すように、イオンは光軸に向かって放射状に収束し、ある点で光軸上の焦点Fに収束する。
【0056】
ビームストップ112は、荷電していない、従って電極レンズ100および102の影響を受けない粒子がマイクロチャンネルアレイ検出器108に到達するのを防ぐ。そのような粒子としては、例えば紫外線エネルギー範囲の光子、非イオン化原子または分子(いわゆるエネルギー中性物質)、およびサンプリングシステムの設計によって存在し得る非荷電デブリが含まれる。
【0057】
イオンが第2電極102の開口を通過すると、イオンは図3に示すように収束経路に沿って移動し続け、ある点で焦点Fを横切り、その後マイクロチャンネルプレートアレイ検出器108に当たるまで再び発散する。マイクロチャンネルプレートは、106〜107という通常のゲインを与えるイオン乗算装置であり、すなわち、単一のイオンが、電流パルスとして捕集される106〜107の電子を生成することができる。
【0058】
図3のイオン経路(点線)は、第2電極102の開口を通過した後にイオンが焦点Fにおいて軸を横切ることを示している。焦点の位置は、2つの電極100、102に印加された電圧および電極100、102間の距離によって決まる。さらに、イオンが検出器に当たる円形領域の大きさは、これらのパラメータおよび電極と検出器との間の距離に従って変化する。
【0059】
なお、検出器は、イオンが焦点に到達しない場合に焦点の上流に配置されてよい。
【0060】
図3のマイクロチャンネルプレートアレイ検出器108はアレイ検出器である。最もエネルギーの高いイオン(すなわち、最高質量および最低荷電イオン)は、2つの電極100、102によって最も少なく偏向され、それにより最後には検出器表面の中心に向かう。反対に、最高荷電状態にある最軽量イオンは、検出器表面の周辺に向かって、または検出器表面の周辺を越えて最も多く偏向される。
【0061】
当然のことながら、マイクロチャンネルプレートアレイ検出器108に当たるイオンは放射状にそのようになる(すなわち、質量対電荷比を有する円形衝突パターンが観測される)。というのは、第1電極および第2電極の環状開口は、放射対称を有するイオンを発散および収束させる。従って、マイクロチャンネルプレートアレイ上に一連の半径をマッピングすることが可能である。こうして、原点、すなわち光軸が検出器アレイに一致する点から特定の距離をおいたところでマイクロチャンネルプレートアレイに衝突するイオンが、特定のm/z比を有することになる。言い換えれば、上に規定した原点とともに極座標(r、θ)を用いて、共通のV座標、または実際には「r±δr」という範囲におけるすべてのチャンネルが同一のm/z比、またはm/z比範囲に関係し、信号処理の間に合計される。
【0062】
D P Langstaff[3]によって述べられているように、検出器表面へのイオン衝突の位置を読み出すことに使用することができるいくつかの技術がある。これらの技術としては、ディスクリートアノードおよび一致アレイ、ならびに電荷分割検出器および光学結像検出器が含まれる。
【0063】
他の2次元位置敏感検出器、例えば、電荷結合素子(CCD)から構成される、または電荷結合素子(CCD)を備える検出器を用いることができることも理解されるであろう。原則として、本実施形態において1次元検出器を用いることも可能であり、当該検出器は上に定義したような原点を横切る細長片として配置される。しかし、これにより、イオンの大部分が捕集されず、それによって感度が低下することになるであろう。
【0064】
分析計の質量範囲および分解能は、電圧供給部104、106を用いて、電極100、102に印加された固定電圧の操作によって制御することができる。従って、図3に示すイオン検出器構成16を用いて、低分解能または高分解能スペクトルを収集することができる。これは、2つの電極100、102に印加された1組の固定電圧を用いて低分解能スペクトルを収集し、次にこれらの2つの固定電圧を調整して、選択された狭い範囲をより高分解能で効果的に拡大することによって達成され得る。当然のことながら、分解能は、依然としてイオン源のエネルギーの広がりおよび指数加速パルスの正確さなどによって制限される。
【0065】
このイオン検出器16によって単一のイオンパケットについて結果を得ることができる一方、信号対雑音比、それによって、分析器の感度を向上させるように、引き続くパケットを蓄積することができる。あるいは、このイオン検出器を用いて時間分解データを得ることができる。
【0066】
図3に示す構成を実施する場合、検出器14に入る当該イオン種のすべてではなくてもほとんどを捕集することが可能である。というのは、2次元アレイを用いてイオンを検出することができるからである。そのような2次元アレイを図3に示す2つの電極と組み合わせて用いることによって、イオンの質量を、イオンがマイクロチャンネルプレートアレイ表面に衝突する特定の半径によって検出することができる。さらに、図3に示す構成内に任意のビームストップ112が組み込まれる場合、イオンは依然としてマイクロチャンネル検出器アレイ108に衝突し検出されるが、望ましくない非イオンが検出器に到達することは防がれるはずである。
【0067】
図4は、指数ボックス14の原理を概略的に示している。イオンパケット44が、ゼロ印加電圧を有するイオンコレクタ電極38において指数ボックスに入る。そして、イオンは指数パルス電極40に移動し、そこに経時変化する電圧プロファイル46が駆動回路41によって印加される。この例において、イオンは正であるので、プロファイルは負に向かう形態Vt=V0exp(t/τ)をとる。指数パルス電極を通過した後、後部の最重量イオン48(最大m/z比)と前部の最軽量イオン50(最小m/z比)を有するイオンは、距離Pにわたって空間的に分離される。より完全な説明が米国特許第7,247,847号明細書に示されている。
【0068】
図5は、イオン検出器16の概略斜視図である。円形開口101を有する第1電極レンズ100、円形ディスクであるビームストップ112、円形開口103を有する第2電極レンズ、および感知チャンネルの2次元領域を備えるセンサ表面109を有するアレイ検出器108という主な要素が、イオンの移動方向の順に示されている。これらの要素の各々は、光軸またはビーム軸Oに直交する平面内の正方形として示されている。この図は、第1電極レンズ100に入る直前の時間t1におけるビーム方向に沿う有限長のイオンパケットP1を示している。光軸Oからの半径距離r1という有限範囲内に通常分布する、多数の原子イオンおよび分子イオンが概略的に示されており、この領域は光軸Oに対する円形断面を有する。こうして、パケットP1は円柱によって画定された体積を占める。第1電極レンズ100の影響を受ける領域にイオンが入ると、イオンは半径方向に発散して、漸増する光軸Oからの放射距離rを占める。ビームストップ112を通過する際、レンズ100が印加した電界によって偏向されていない中性粒子、ならびにビームストップを回避するために十分に偏向されていない十分に高い質量対電荷比を有するイオンが阻止される。上述のとおり、この効果を意図的に利用して、進行中の測定について、当該最大値を超える質量対電荷比を有するイオン種を除去することができる。次に、イオンパケットのイオンは、第2電極レンズ102の影響を受ける領域に入り、光軸に対して半径方向内側に偏向する。イオンは第2電極レンズ102の開口103を通過し、第2電極レンズ102と検出器アレイ108との間のある点において、焦点Fを通過する。その後、イオンは再び発散し、そして時間t2において、かつ参照符号P2で示されているように、検出器アレイ108のセンサ表面109に衝突する。概略的に示したとおり、イオン分布は、より低い質量電荷比のイオンが衝突の円形領域の周辺に向かい、より高い質量/電荷比のイオンが衝突の円形領域の中心に向かって位置するようになっている。言い換えれば、光軸のセンサ表面との交点、すなわち検出原点から所与のイオンの衝突点までの半径方向距離は、当該イオンの質量/電荷比の尺度である。この半径方向距離と質量対電荷比との間に線形の関係または略線形の関係が存在することが好ましい。しかし、公知の関係が許容できる。というのは、これを信号処理中に適用して、センサアレイの各ピクセル、チャンネル、またはセルに対して、当該ピクセル、チャンネル、またはセルの原点からの距離に基づいて、ピクセルの範囲および半径方向距離と質量/電荷比との関係に基づく質量/電荷比、またはより正確には質量対電荷比の範囲を指定できるからである。
【0069】
図6は、同心円を描いて質量対電荷比値および例示的イオンを示す、センサ表面109上で捕集されたイオンの概略正面図である。ここで、少しずつ暗くなる陰影を用いてより重い原子種を示し、単一原子、二原子分子、および三原子分子が概略的に描かれている。概略図において荷電状態の効果を示す試みはされていない。より重いイオンが原点の付近に当たり、最も軽いイオンが原点から最も遠くにあることが示されている。
【0070】
図7は、別の実施形態のイオン検出器アセンブリ16の主要部の概略斜視図である。図3は、イオン検出器の対称性についてのみ図5の構成と異なるこの別の実施形態も、正確に示している。同一の参照符号を用いて対応する特徴を示す。図5に示す構成について、レンズは球面レンズであり、その結果、光軸沿いのあらゆる点において光軸に直交する円形断面を有するイオンビームになる。代わりに、図7の別の実施形態は、円柱レンズに基づく。従って、第1レンズ電極および第2レンズ電極100、102の各々は、図5の実施形態の円形開口の代わりに直線端または直線縁を有する電極要素から形成される。電極レンズ100は、間に開口101を形成する平行な直線対向縁を有する1組の共面対向電極要素100aおよび100bによって形成される。各要素100a、100bは、略矩形形状を有するとして示されているが、ビーム経路の末端の形状は多分に任意である。電極レンズ100と同等の構成は、図5の実施形態にレンズのように単一の要素から形成することであろうが、細長い矩形開口を有する。第2電極レンズ102は、第1電極レンズ100と同様の構造を有し、開口103を形成する1組の共面要素102aおよび102bを備える。こうして電極レンズは、図5の実施形態の球面レンズとは異なり円柱レンズとして機能する。さらに、本実施形態のビームストップ112は、互いに平行であり、かつ第1電極レンズおよび第2電極レンズの対向する内縁の伸びる方向にも平行に走る、直線縁または直線端を有する。さらに、この別の実施形態においてビームマスク114(図示せず)が用いられる場合、このビームマスク114もまた、互いに平行であり、かつ第1電極レンズおよび第2電極レンズの対向する内縁の伸びる方向にも平行に走る、直線縁または直線端を有するであろう。
【0071】
第1レンズに入る直前のイオンパケットP1が示され、半径r1の円形断面およびビーム軸に沿う有限長を有し、それによって円柱を形成している。第1電極レンズ100に入ると、イオンは、図5の実施形態の半径方向拡張とは対照的に、1次元伸張変換で、図において垂直に、単軸方向に外側へ偏向される。ここで、伸長の軸は、電極レンズの内縁の伸びる方向に直交する。これは、徐々に拡張する断面を示すことによって表されている。先行の実施形態に関連して述べたとおり、第1レンズ100の開口101を通過した後、イオンは図の垂直方向に離れて広がり続け、望ましくない中性粒子および任意に一部のイオンを捕捉するビームストップ112を通過する。そして、イオンパケットのイオンは第2電極レンズ102の影響を受け、単軸方向に内側へ促され、最後に第2電極の開口103の通過後であって検出アレイ108に衝突する前に光軸F沿いのある点において線状焦点Fに到達する。線状焦点を通過した後、イオンパケットのイオンは再び単軸方向に発散し、時間t2において検出器アレイ108のセンサ領域109に当たる。これらのイオンは参照符号P2に示すように質量対電荷比に従って原点の両側に垂直に広がる。
【0072】
図8は、別の実施形態のイオン検出器のセンサ表面上で捕集されたイオンの概略正面図である。水平線を引いて質量/電荷比値および例示的イオンを示しており、少しずつ暗くなる陰影を用いてより重い原子種を示し、単一原子、二原子分子、および三原子分子が概略的に描かれている。概略図において荷電状態の効果を示す試みはされていない。3つの原子を有するより重いイオンが原点の付近に当たり、単一原子を有する最も軽いイオンが原点から最も遠くにあることが示されている。原点の上方の所定距離または下方の当該距離は、同一の質量電荷比を表すことが明らかである。さらに、本実施形態では、1次元検出器アレイが2次元検出器アレイと同様の機能性を有するであろうことが明らかである。従って、多重チャンネル光電子増倍管または他の1次元検出器アレイの使用を検討することができる。
【0073】
米国特許第7,247,847号明細書から転載された図9、図10、および図11は、別々の可能な電圧プロファイルを示している。
【0074】
図9は、時間に対する電圧のグラフとしてアナログ指数パルスを示している。
【0075】
図10は、デジタル信号の階段状特性を有するデジタル式合成指数パルスを示している。
【0076】
図11は、定振幅、短期間、および漸増繰返し周波数のパルスの周波数変調パルス列を示している。
【0077】
これらの別々の電圧プロファイルの特徴および相対的利点は、米国特許第7,247,847号明細書に、より詳細に示されている。アナログ指数パルスの生成に適切な駆動回路も米国特許第7,247,847号明細書に開示されており、本設計にも用いることができる。実際は、設計における駆動経路および可能な変形例に関する米国特許第7,247,847号明細書に記載のすべてが本明細書において当てはまる。
【0078】
さらに、本設計が米国特許第7,247,847号明細書に示す設計と異なるイオン検出器16に関する以外は、米国特許第7,247,847号明細書に記載の設計および使用の変形例、ならびに米国特許第7,247,847号明細書との重複を避けるために本明細書から省略された設計の詳細が本発明に同様に当てはまることが明らかである。特に、イオン源12およびマスフィルタ14に関する米国特許第7,247,847号明細書のすべての記載は本発明に同様に当てはまる。
【0079】
本明細書において上述したすべては、正イオン質量分析計に関係する。負イオン質量分析は一般的には用いられないが、本発明の原則は、負イオンに同様に十分に適用することができる。そのような場合、正に向かう指数パルスの使用を含み、本明細書に記載の電界の極性を逆にする必要があるであろう。
【0080】
さらに、上述の詳細な説明において静電レンズ配置の観点からイオン検出器の設計が説明されてきたが、同等の磁気レンズ配置を設けることが可能であろう。従って、本発明は、より一般的に電磁レンズ配置に当てはまる。
【0081】
このように等風速線原理に係る質量分析計を説明してきた。すなわち、マスフィルタは、イオンをそれらの質量電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速する。本発明の実施形態に係る質量分析計は、凹面レンズと、ビーム経路においてこれに続く凸面レンズとによって形成された静電レンズ配置に基づいた新規の検出器を備える。これらのレンズは、イオンを、それらの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向する。そして、イオンの質量対電荷比は、ビーム経路に配置されたマルチチャンネルプレートなどの適切な検出器アレイによって決定することができる。これにより、小型で感度の高い機器が提供される。
【0082】
参照文献
[1]米国特許第7,247,847号明細書
[2]“Enhancement of ion transmission at low collision energies via modifications to the interface region of a 4-sector tandem mass-spectrometer”, Yu W., Martin S.A., Journal of the American Society for Mass Spectroscopy, 5(5) 460-469, May 1994
[3]“An MCP based detector array with integrated electronics”, D.P. Langstaff, International Journal of Mass Spectrometry, volume 215, pages 1-12 (2002)
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計、並びに、質量分析計用のイオン分離およびイオン検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は、中性分析分子をイオン化して、所定の範囲にわたるより小さいイオンを生成するように断片化し得る荷電親イオンを形成することが可能である。結果として得られたイオンは、累進的により高い質量/電荷(m/z)比で順次捕集されて、原分子の「フィンガープリントを作成する」ために使用可能であるとともに多くの他の情報を提供するいわゆる質量スペクトルを生成する。一般に、質量分析計は、高感度、低検出限界、および多様な用途を提供する。
【0003】
磁場セクタ型、四重極型、および飛行時間型を含む質量分析計の多数の従来構成が存在する。つい最近、本発明者の一人は、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,247,847号明細書[1]に記載されるように、別の基本原理によって動作する新型の質量分析計を開発した。米国特許第7,247,847号明細書の質量分析計は、すべてのイオン種を、それらの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速させて、いわゆる等速型の質量分析計または等風速線型の質量分析計を提供する。これは、質量に係わらず同等の運動エネルギーをすべてのイオン種に付与することを目的とする飛行時間の質量分析計と対照的である。
【0004】
米国特許第7,247,847号明細書は、検出器の設計について異なる2つの主要な実施形態を開示している。これらの2つの従来技術の設計は、添付の図面の図1および図2に転載されている。
【0005】
図1および図2の両方において、連続して接続された3つの主要な構成要素、すなわち、イオン源12と、マスフィルタ14(分析器と呼ばれることもある)と、イオン検出器16と、を備える質量分析計10が示されている。
【0006】
図1の設計において、イオン検出器16は、検出器アレイ56と、イオンをそれぞれの質量対電荷比に従って検出器アレイ上で分散させるイオン分散器と、を備える。イオン分散器は、イオンを、それらのエネルギーに応じた、ひいてはそれらの質量対電荷比に応じた量の分だけアレイ上で偏向させる湾曲した電界を生成する電極52、54を備える。最小エネルギー(最低質量)のイオンは最大角度で偏向され、最大エネルギー(最高質量)のイオンは最小角度で偏向される。従って、イオンは、図1に示すように左から右へ空間的に分散される。なお、このタイプの分散では、偏向前にイオンが非常に薄い矩形断面を有することを必要とすることが理想的である。実際は、イオン源12およびマスフィルタ14によって生成されたイオンビームは円形断面を有し、これにより検出器の分解能が制限される。分解能は、ビーム経路内に設けられたイオン吸収スリットによってイオンビームを縮小することによって向上させられ得るが、これは、検出器にとって一部のイオンが失われ、それによって感度を低下させることを意味する。従って、分解能と感度とのトレードオフが存在する。
【0007】
図2の設計では、イオンが通過する開口を有する環状の第1検出器電極60を備える別のイオン検出器16が使用される。この電極60はエネルギー選別器として機能する。これに続いて、第2検出器電極62がイオン経路内に配置される。これは、ファラデーカップなどの単一素子検出器である。第1検出器電極60および第2検出器電極62に電圧を印加する電圧供給部63が設けられる。使用中、第1検出器電極60および第2検出器電極62は、Vt+Vrボルトの電位に設定され、ここでVtは、上に定義したような経時変化する電圧プロファイルであり、Vrは、Vr電子ボルト未満のエネルギーを有するイオンを反発または反射するように選択されたバイアス電圧である。従って、Vr電子ボルト以上のエネルギーを有するイオンのみが第1検出器電圧60を通過し、検出用の第2検出器電圧62に到達する。
【0008】
一連の質量スペクトルデータを得るために、Vrは当初はゼロに設定され、そのためパケット内のすべてのイオンが検出される。次のパケットについては、Vrをわずかに増加させて最小エネルギーのイオンを反射し、残りのイオンを検出する。すべてのイオンが反射されてイオンが検出されない状態の電界になるまで、パケットごとにVrを漸増させながらこのプロセスを繰り返す。パケットごとに検出された信号の一連のデータを処理して、m/z比に対するイオン電流のグラフすなわち質量スペクトルを作成することができる。この構成によって簡潔で小型の線形構造を可能にする。しかし、電圧掃引プロセスは、イオンの大部分が排除されて感度が低下することを意味する。また、この設計は、イオン源12およびマスフィルタ14から検出器16へのビーム軸に沿った途切れない直通経路が存在するという点で、ノイズを被る。従って、イオン源内で生成されたエネルギー光子が検出器に入射して、誤カウントを引き起こすおそれがある。さらに、放電される程度に十分に格子に近づくように通過するもののオフアクシスに著しくは偏向されないエネルギーイオンによって生成される非イオン化原子および分子、いわゆる中性物質が検出器に衝突して誤カウントを引き起こす場合がある。
【0009】
従って、等速原理または等風速線原理に従って動作する質量分析計の検出器の設計を改善することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第一の態様によれば、質量分析計であって、複数のイオンを含むイオンビームを供給するように動作可能なイオン源であって、複数のイオンの各々が質量対電荷比を有する、イオン源と、イオン源からイオンビームを受けるように配置され、かつイオンパケットを射出するように構成されたマスフィルタであって、各々のイオンパケットにおいて、イオンはそれぞれの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度を有し、イオンパケットがビーム軸に沿って射出される、マスフィルタと、マスフィルタからイオンパケットを受けるようにビーム軸に配置されたイオン検出器であって、イオンを、それらの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向するように動作可能なレンズ配置を備え、および、ビーム軸から離れて別々の距離に位置する複数のチャンネルを有する、ビーム軸からの距離に従ってイオンの質量電荷比を検出するための位置敏感センサをさらに備える、イオン検出器と、を備える、質量分析計が提供される。
【0011】
この設計は、ビームラインが一直線であるため機器を小型化でき、かつすべてのイオンを並行して捕集することができるため感度を高くできるという点において、2つの従来の検出器設計の利点を組み合わせている。
【0012】
反比例するという用語は、より高い質量対電荷比のイオンがより少なく偏向され、より低い質量対電荷比のイオンがより多く偏向されることを示すために用いられるのであり、偏向が特定の数学関数に従うことを示すために用いられるのではない。
【0013】
位置敏感センサという用語は、少なくとも1次元または1方向においてイオンが当たった位置を測定可能なイオンセンサを意味する。一部の実施形態では2次元位置感度が必要である一方、他の実施形態では1次元位置感度が適切である。
【0014】
レンズ配置は、第1レンズおよび第2レンズを備え、これらのレンズのうちの一方は凹面レンズであり、他方は凸面レンズであることが好ましい。凹面レンズは、凸面レンズより先に、すなわち、ビームラインに沿って凸面レンズの上流に前記イオンを受けるように配置されることが好ましい。
【0015】
レンズは、球形にされてよく、イオンを、当該イオンの質量対電荷比に従ってビーム軸を中心に半径方向に散らす。またはレンズは円柱形にされてよく、当該イオンの質量対電荷比に従ってビーム軸を中心に単軸方向にイオンを散らす。
【0016】
レンズ配置および位置敏感センサは、イオンがレンズ配置と位置敏感センサとの間の焦点を通過するように互いに配置されることが好ましい。
【0017】
レンズ配置によって影響を受けない、ビーム軸に沿って伝播した非荷電粒子を除去するように偏向されたイオンの経路内に、ビームストップを有利に配置することができる。ビームストップは、レンズ配置の2つのレンズ間に便利に配置される。非荷電粒子を除去するのに有用であるとともに、ビームストップは、最大閾値を超える質量対電荷比を有するイオンを除去するように、ビーム軸から水平に延在するように配置および寸法設定することができる。また、最低閾値未満の質量対電荷比を有するイオンを除去するように偏向されたイオンの経路内に、ビームマスクを配置することができる。ビームマスクは、ビームストップと共平面にされてもよく、またはビームライン沿いの異なる位置とされてもよい。一般に、ビームマスクは、ビーム断面の一部を切り取る開口を画定する。
【0018】
好ましい実施形態において、マスフィルタは、電極配置および駆動回路から構成され、駆動回路は、イオンをそれらの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速させる役割を果たす機能形態を有する経時変化電圧プロファイルを印加するように構成される。
【0019】
当然のことながら、レンズ配置を作り上げるレンズの倍率は、レンズバイアスを調整することによって、特に、電圧源によってレンズに印加された電圧を調整することによって構成されることが可能である。例えば、これは、使用中、上述の最低閾値および最高閾値ならびに検出器の全体的な質量対電荷感度および範囲を調整できることを意味する。
【0020】
本発明のさらなる一態様によれば、質量分析法であって、複数のイオンを含むイオンビームを生成することであって、イオンの各々は質量対電荷比を有することと、マスフィルタ内のイオンの群を、それらの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速し、それによってイオンパケットを形成することと、ビーム軸に沿ってイオンパケットをマスフィルタから射出することと、イオンを、それぞれの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向することと、ビーム軸からの距離に従ってイオンの質量対電荷比を検出することと、を含む、質量分析法が提供される。
【0021】
イオンの偏向量は、所望の範囲の質量対電荷比が検出されるように調整されることが好ましい。イオンの偏向量は、複数の所望の範囲の質量対電荷比が単一の測定周期内で検出されるように、複数回にわたって調整されることもできる。これらの範囲は、重複しなくてよいが、第1範囲が比較的広く、第2範囲およびそれ以降の範囲が、第1範囲から得られた結果に相互作用的に応じて選択される、第1範囲の部分範囲である、ということが好ましい。
【0022】
本発明をより理解し、本発明の実施方法を示すために、添付の図面を一例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来技術に係る質量分析計の概略断面図である。
【図2】図1に示すイオン検出器とは別のイオン検出器を有する、従来技術に係る質量分析計の概略断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る質量分析計の概略断面図である。
【図4】図3の質量分析計内のイオンパケットの概略図である。
【図5】図3のイオン検出器アセンブリの概略斜視図である。
【図6】図3のイオン検出器のセンサ表面上で捕集されたイオンの概略正面図である。
【図7】別の実施形態のイオン検出器アセンブリの概略斜視図である。
【図8】図7の別の実施形態のイオン検出器のセンサ表面上で捕集されたイオンの概略正面図である。
【図9】イオンパケット内のすべてのイオンを等速まで加速させるのに使用することができる電圧パルスの一機能形態を示す。
【図10】イオンパケット内のすべてのイオンを等速まで加速させるのに使用することができる電圧パルスの一機能形態を示す。
【図11】イオンパケット内のすべてのイオンを等速まで加速させるのに使用することができる電圧パルスの一機能形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図3は、本発明に係る質量分析計の概略断面図である。気体の質量分析に関してこの質量分析計を説明するが、本発明は非気体検体に同様に適用可能である。
【0025】
質量分析計10は、Oリング(図示せず)によって密封されたフランジ継手22によって結合されたステンレス鋼部分から主に形成された本体20を有する。本体20は細長くて中空である。気体入口24が本体20の一端に設けられている。メッシュ構造を有する第1イオンリペラー電極26が、気体入口24の下流で、本体20の内部にわたって設けられている。メッシュ構造は、気体入口24を通って導入された気体に対して高い透過性を示すが、適切な電圧が印加されるとイオンを反発するように機能する。
【0026】
電子源フィラメント28と、電子ビーム電流制御電極30と、電子コレクタ32と、を備えるイオン化装置が第1イオンリペラー電極26の下流に配置される。電子源フィラメント28および電流制御電極30は、本体20の内部の一方側に配置され、電子コレクタ32は、本体20の内部の他方側に電子源フィラメント28および電流制御電極30に対向して配置される。適切な電流および電圧を印加することによって、電子が、電子源フィラメント28によって生成されて制御電極30によって平行にされ、本体20を横切ってコレクタ32までストリーム内を進むという点において、これらの特徴は従来の様式で動作する。
【0027】
アインツェルレンズ34の形態をとるイオンコリメータがイオン化装置の下流に配置される。アインツェルレンズは、イオンビームを平行にするとして当該技術分野で知られている[2]。レンズ34の下流には、本体20の一方側のみに配置される第2イオンリペラー電極36と、環状であって本体20の横方向に延在し、イオンが通過する開口を有するイオンコレクタ電極38と、がある。イオンコレクタ電極38および本体10はともに接地される。
【0028】
上述の特徴はともに、加速させられることに適した形態のイオンをそれらの質量対電荷比に従って供給するイオン源12を備えるものとみなされることができる。
【0029】
コレクタ電極38の下流には、電極配置を備えるマスフィルタ14が位置付けられる。マスフィルタ14は、イオンコレクタ電極38と指数パルス電極40との間を長さdにわたって延在する。指数パルス電極40は、環状であり、かつイオンが通過する開口を有する。指数パルス電極40に経時変化電圧プロファイルを印加するために駆動回路41が設けられる。
【0030】
マスフィルタの外壁を画定する本体10の一部に出口42が設けられる。出口42は、質量分析計10の内部の圧力を、所要の動作圧力、一般に、質量分析計について通常の1.3×10−3Pa(〜10−5torr)未満まで低減させることができる真空システムの接続を可能にする。出口42は、本体20の端部で、ガス入口24の付近に位置付けられてもよい。
【0031】
「指数ボックス」という用語が、マスフィルタ14を指すために以下で用いられる。すなわち、指数ボックス14の寸法は、イオンコレクタ電極38と指数パルス電極40との間の長さdと、これらの電極によって囲まれた領域とによって画定されることができる。
【0032】
指数パルス電極40の下流にはイオン検出器16が設けられる。イオン検出器は、第1電極および第2電極100、102を備える。第1電極および第2電極は、レンズとして個別に機能し、イオンに対するレンズ組合せを集合的に形成する。ここで、第1電極および第2電極は、機器の主軸がレンズの「光」軸Oと一致するように配置される。本件において光はもちろん存在しないものの、光軸という用語が便宜上用いられるのは、この用語が技術用語であるからである。第1電極100は、発散レンズまたは凹面レンズとして機能し、円形断面の平行イオンビームの入射イオンを光軸Oから離れるように発散させる役割を果たす。第2電極102は、第1電極100から放出された発散イオンが収束するのに十分なパワーの収束レンズまたは凸面レンズとして機能するため、イオンは焦点Fに到達し、その後、検出器アレイ108に当たる前に再び発散する。
【0033】
発散第1電極100の下流で主ビーム経路または光軸の線上にビームストップ112が配置され、ビームストップ112は、発散第1電極レンズ100の作用の影響を受けず、従って影響を受けずに主ビーム経路に沿い続ける粒子を遮断するものの、ビームストップ112の周辺を迂回した当該質量対電荷比を有するイオンを遮断しないように、位置決めおよび寸法設定される。従って、ビームストップは、光子ならびに非イオン化原子および分子などの粒子を除去することになる。
【0034】
レンズの組合せは単一レンズと同等であるという基本的な光学原理に従って、当然のことながら、3つ以上の電極、例えば、3つまたは4つのレンズを使用して同一の効果をもたらすことができることが理解されよう。同様の理由から、単一の電極を使用することもできる。しかし、ビームストップ112を都合よく設けることができないため、単一の電極の使用は一般に好まれない。
【0035】
2つの電極100、102は、イオンの通過を可能にする開口を有する環状である。第1電圧源および第2電圧源104、106が第1電極および第2電極100、102に対してそれぞれ設けられる。各電圧源104、106は、対応の電極100、102に所望の電圧を印加する役割を果たす。個々の測定中、各電極に印加される電圧は一定に維持されなければならない。個々の測定は、単一のイオンパケットについての測定であってよいが、一連のイオンパケットの集積に対して実行されることが多い。
【0036】
各電極レンズ100、102に印加される電圧はレンズの倍率を規定することが理解されよう。ひいては、2つのレンズの倍率とレンズ組合せから検出器プレート108までの距離とが、検出器アレイ上のイオンの領域、すなわち「フットプリント」を決定する。従って、検出器アレイによって収集された質量対電荷比の範囲を、レンズ電圧および/または、便利さの度合いが下がるが、レンズに対する検出器の位置の適切な調整によって変化させることができる。ビームストップを用いてより重い比較的低電荷のイオン(より高い質量/電荷比イオン)を遮断することができる、これによって、より軽い比較的高電荷のイオンが検出器アレイを完全に外れるという事実と組み合わせて、機器が所望の範囲の質量対電荷比のみを検出することが可能になる。この効果は、第1レンズ100に対して光軸に沿ってビームストップを移動させることによって、またはビームストップの直径を変化させることによって得ることができる。
【0037】
この効果を十分に利用するために、円形開口を有するビームマスク114を、例えば、検出器アレイに先立って設けて、閾値m/z比未満のイオンを遮断することができる。ビームマスク114は、図示のように検出器アレイの直前に、またはレンズ組合せ内の他の位置に位置決めされることが可能である。別の位置は、ビームストップ112と同一平面上にあり、または実際は、凸面レンズが最初にイオンを発散させる場所と検出器との間の任意の場所である。また、ビームマスク114を設けることは、円形ではなく正方形や長方形である通常の検出器アレイの結果として、検出器アレイの末端にイオンが当たる場合に生じ得る処理の複雑化回避の要望という実際の検討事項に対して有用であり得る。
【0038】
これらの調整特徴によって、当該機器が別々のターゲットについて異なるように構成されることを可能にする。一方では、アイソトープ検出は、狭い範囲の質量対電荷比に対して高倍率を要するであろう。他方では、さまざまな通常発生するイオンを含む広範囲が必要とされる場合、低倍率が求められるであろう。また、別々の倍率で同一のサンプルから多数の組のデータを収集し、かつ結果として得られるデータを任意に共同で処理することが想定され得る。さらには、機器は、広範囲の質量対電荷比の粗い走査、およびそれに続く、粗い走査によって特定された質量対電荷比の1つ以上の特定の範囲を対象とした細かい走査を追跡し得る。
【0039】
アレイ検出器108は、本例においてマイクロチャンネルプレートである。マイクロチャンネルアレイ検出器108は単一層2次元検出器である。他の位置敏感検出器を用いてもよい。読出装置110が、アレイ検出器108に対するイオン衝突の位置を読み出すために設けられる。
【0040】
電極26、32、34、36、40、100、102は、セラミック材料または高密度ポリエチレン(HDPE)などの適切な絶縁材料から形成された電極支持体44上に取り付けられる。
【0041】
質量分析計10の動作を以下に説明する。
【0042】
分析されるべき気体は、気体入口24を介して低圧で質量分析計10の内部に入れられる。気体減圧手段は図示されていないが、膜の使用、毛細管漏出、ニードル弁など、多くの公知の利用可能な技術がある。気体は第1イオンリペラー電極26のメッシュを通過する。
【0043】
そして、気体は電子源フィラメント28からの電子流によってイオン化され、正イオンのビームが生成される。電子は、電流制御電極30に対して正電圧で設定される電極である電子コレクタ32で捕集されて、約70eVのエネルギーで、図2の点線で示すようにイオン源の軸付近に供給される。これは、このエネルギーでほとんどの分子をイオン化することができるため、通常、電子衝突イオン化の最適エネルギーに関するものと一般にみなされるが、望ましくないレベルの細分化を引き起こすほど大きくない。電子コレクタ32に印加される正確な電圧は、通常、実験によって設定されるであろうが、おそらく140V程度になる。電子衝突イオン化源の多くの可能な設計、および実際に、イオン化を引き起こす他の方法が存在すると理解されたい。本明細書で説明して添付の図面に示す方法および構造は、好ましい実施形態に過ぎない。
【0044】
電子流によってイオン化されない気体は、質量分析計10を通過し、出口42に接続された真空システムによって排出される。フランジ接続が適切である。
【0045】
上記で参照した点線は、機器の本体20の円筒対称性の主軸と少なくとも実質的に一致する機器の一次軸に従って、イオンが質量分析計10を通過することも示す。
【0046】
正電圧が第1イオンリペラー電極26に印加されて(正)イオンを反発し、アインツェルレンズ34を介して(正)イオンを誘導し、それによって細くて平行なイオンビームを生成する。正電圧が第2イオンリペラー電極36に印加され、それによってイオンビームは第2イオンリペラー電極36によって偏向される。図2で「A」と表記された点線経路をたどる偏向されたイオンは、空間電荷の蓄積を防ぐために接地されるイオンコレクタ電極38で捕集される。
【0047】
イオンがマスフィルタに入ることを可能にするために、第2イオンリペラー電極36の電圧は、イオンの小さいパケットが偏向されないように周期的に0Vに設定され、それによってイオンはイオンコレクタ電極38の開口を介して指数ボックス14に入る。このように、第2イオンリペラー電極36およびイオンコレクタ電極38は、イオンパケットを生成するパルス生成器を形成する。
【0048】
イオンパルスが指数ボックス14に入るとき、指数電圧が駆動回路41によって指数パルス電極40に印加される。指数パルスは、時間tに対してVt=V0exp(t/τ)という形態をとり、ここでτは時定数である。最大電圧はVmaxとして示される(この場合、イオンは正に荷電しているので、指数パルスは負に向かう。負に荷電しているイオンの場合、正に向かうことが必要であろう)。電圧パルスに起因する指数的に増加する電界のイオンに対する効果は、指数パルス電極40に向けて、次第に増加する割合でイオンを加速することである。最大電荷を担持するイオンと同様に、最小質量を有するイオンは低慣性を有し、より急速に加速されるので、最低m/z比を有するイオンは最高加速度を経験する。逆に、最高m/z比を有するイオンは最低加速度を経験する。t秒後、すべてのイオンが距離dを移動し、指数パルス電極40を通過し、この時点で指数電圧パルスは終わる。またt秒後、すべてのイオンは同一の速度vt mm s−1で移動しており、ここでvt=d/τであるが、これらのイオンは空間的に分離される。これは、指数的に増加する電圧パルスの特有の結果であり、それにより、電極間隔dおよび電圧パルスの成形およびタイミングが適切に選ばれる場合、すべてのイオンの速度は、イオンの質量に係わらず、それらのイオンが指数ボックスを出るときに同一である。この数学的導出は、米国特許第7,247,847号明細書の付録に示されている。
【0049】
完全指数ボックスは、すべてのイオンを等しい速度まで加速させる。実際には、システムの不完全性に起因して、通常、イオンは速度範囲を有する。通常、1%程度の速度の拡大が達成されると予測することができ、これは、分析計からの最終結果に対して無視できる悪影響を及ぼす。実際には、これより大きい速度の拡大であり、約10%までの拡大、例えば、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%までの拡大について有意義な結果を得ることができる。
【0050】
通常、距離dは数センチメートル程度とすることができる。例えば、dを3cmとし、存在する最高m/z比のイオンが100Thのm/zである場合、イオンが距離dを移動するために、0.77μsの時定数τを有する指数パルスが3.8μs印加される必要がある。これにより、−2kVのパルスの終端におけるピーク電圧が与えられる。
【0051】
それぞれ異なる電極に印加される必要がある電圧の正確な値は、質量分析計10で採用されたまさにその形状によって決まる。1組の適切な電圧の例は以下のとおりである。
イオンリペラー電極 +10V
電子コレクタ +140V
アインツェルレンズI +5V
II +3V
III +4V
イオンリペラー電極 +60V
【0052】
イオンが指数ボックスを出ると、イオンはそれらのm/z比に従って検出されることになり、そのため質量スペクトルを導出することができる。
【0053】
図3に示すイオン検出器16は、以下のように動作する。
【0054】
電圧源104を用いて第1の所望の電圧を第1電極100に印加する。印加された電圧の極性は、第1電極100の開口を通過するイオンに対して負である。これにより、電極100の開口を通過するイオンは、光軸に対して放射状に外側へ偏向する。図3に点線で示すように、イオンは光軸から離れるように発散する。
【0055】
同時に、電圧源106を用いて第2の所望の電圧を第2電極102に印加する。印加された電圧の極性は、第2電極102の開口を通過するイオンに対して正である。これにより、第1電極100を通過したイオンは、放射状に内側へ偏向する。図3に点線で示すように、イオンは光軸に向かって放射状に収束し、ある点で光軸上の焦点Fに収束する。
【0056】
ビームストップ112は、荷電していない、従って電極レンズ100および102の影響を受けない粒子がマイクロチャンネルアレイ検出器108に到達するのを防ぐ。そのような粒子としては、例えば紫外線エネルギー範囲の光子、非イオン化原子または分子(いわゆるエネルギー中性物質)、およびサンプリングシステムの設計によって存在し得る非荷電デブリが含まれる。
【0057】
イオンが第2電極102の開口を通過すると、イオンは図3に示すように収束経路に沿って移動し続け、ある点で焦点Fを横切り、その後マイクロチャンネルプレートアレイ検出器108に当たるまで再び発散する。マイクロチャンネルプレートは、106〜107という通常のゲインを与えるイオン乗算装置であり、すなわち、単一のイオンが、電流パルスとして捕集される106〜107の電子を生成することができる。
【0058】
図3のイオン経路(点線)は、第2電極102の開口を通過した後にイオンが焦点Fにおいて軸を横切ることを示している。焦点の位置は、2つの電極100、102に印加された電圧および電極100、102間の距離によって決まる。さらに、イオンが検出器に当たる円形領域の大きさは、これらのパラメータおよび電極と検出器との間の距離に従って変化する。
【0059】
なお、検出器は、イオンが焦点に到達しない場合に焦点の上流に配置されてよい。
【0060】
図3のマイクロチャンネルプレートアレイ検出器108はアレイ検出器である。最もエネルギーの高いイオン(すなわち、最高質量および最低荷電イオン)は、2つの電極100、102によって最も少なく偏向され、それにより最後には検出器表面の中心に向かう。反対に、最高荷電状態にある最軽量イオンは、検出器表面の周辺に向かって、または検出器表面の周辺を越えて最も多く偏向される。
【0061】
当然のことながら、マイクロチャンネルプレートアレイ検出器108に当たるイオンは放射状にそのようになる(すなわち、質量対電荷比を有する円形衝突パターンが観測される)。というのは、第1電極および第2電極の環状開口は、放射対称を有するイオンを発散および収束させる。従って、マイクロチャンネルプレートアレイ上に一連の半径をマッピングすることが可能である。こうして、原点、すなわち光軸が検出器アレイに一致する点から特定の距離をおいたところでマイクロチャンネルプレートアレイに衝突するイオンが、特定のm/z比を有することになる。言い換えれば、上に規定した原点とともに極座標(r、θ)を用いて、共通のV座標、または実際には「r±δr」という範囲におけるすべてのチャンネルが同一のm/z比、またはm/z比範囲に関係し、信号処理の間に合計される。
【0062】
D P Langstaff[3]によって述べられているように、検出器表面へのイオン衝突の位置を読み出すことに使用することができるいくつかの技術がある。これらの技術としては、ディスクリートアノードおよび一致アレイ、ならびに電荷分割検出器および光学結像検出器が含まれる。
【0063】
他の2次元位置敏感検出器、例えば、電荷結合素子(CCD)から構成される、または電荷結合素子(CCD)を備える検出器を用いることができることも理解されるであろう。原則として、本実施形態において1次元検出器を用いることも可能であり、当該検出器は上に定義したような原点を横切る細長片として配置される。しかし、これにより、イオンの大部分が捕集されず、それによって感度が低下することになるであろう。
【0064】
分析計の質量範囲および分解能は、電圧供給部104、106を用いて、電極100、102に印加された固定電圧の操作によって制御することができる。従って、図3に示すイオン検出器構成16を用いて、低分解能または高分解能スペクトルを収集することができる。これは、2つの電極100、102に印加された1組の固定電圧を用いて低分解能スペクトルを収集し、次にこれらの2つの固定電圧を調整して、選択された狭い範囲をより高分解能で効果的に拡大することによって達成され得る。当然のことながら、分解能は、依然としてイオン源のエネルギーの広がりおよび指数加速パルスの正確さなどによって制限される。
【0065】
このイオン検出器16によって単一のイオンパケットについて結果を得ることができる一方、信号対雑音比、それによって、分析器の感度を向上させるように、引き続くパケットを蓄積することができる。あるいは、このイオン検出器を用いて時間分解データを得ることができる。
【0066】
図3に示す構成を実施する場合、検出器14に入る当該イオン種のすべてではなくてもほとんどを捕集することが可能である。というのは、2次元アレイを用いてイオンを検出することができるからである。そのような2次元アレイを図3に示す2つの電極と組み合わせて用いることによって、イオンの質量を、イオンがマイクロチャンネルプレートアレイ表面に衝突する特定の半径によって検出することができる。さらに、図3に示す構成内に任意のビームストップ112が組み込まれる場合、イオンは依然としてマイクロチャンネル検出器アレイ108に衝突し検出されるが、望ましくない非イオンが検出器に到達することは防がれるはずである。
【0067】
図4は、指数ボックス14の原理を概略的に示している。イオンパケット44が、ゼロ印加電圧を有するイオンコレクタ電極38において指数ボックスに入る。そして、イオンは指数パルス電極40に移動し、そこに経時変化する電圧プロファイル46が駆動回路41によって印加される。この例において、イオンは正であるので、プロファイルは負に向かう形態Vt=V0exp(t/τ)をとる。指数パルス電極を通過した後、後部の最重量イオン48(最大m/z比)と前部の最軽量イオン50(最小m/z比)を有するイオンは、距離Pにわたって空間的に分離される。より完全な説明が米国特許第7,247,847号明細書に示されている。
【0068】
図5は、イオン検出器16の概略斜視図である。円形開口101を有する第1電極レンズ100、円形ディスクであるビームストップ112、円形開口103を有する第2電極レンズ、および感知チャンネルの2次元領域を備えるセンサ表面109を有するアレイ検出器108という主な要素が、イオンの移動方向の順に示されている。これらの要素の各々は、光軸またはビーム軸Oに直交する平面内の正方形として示されている。この図は、第1電極レンズ100に入る直前の時間t1におけるビーム方向に沿う有限長のイオンパケットP1を示している。光軸Oからの半径距離r1という有限範囲内に通常分布する、多数の原子イオンおよび分子イオンが概略的に示されており、この領域は光軸Oに対する円形断面を有する。こうして、パケットP1は円柱によって画定された体積を占める。第1電極レンズ100の影響を受ける領域にイオンが入ると、イオンは半径方向に発散して、漸増する光軸Oからの放射距離rを占める。ビームストップ112を通過する際、レンズ100が印加した電界によって偏向されていない中性粒子、ならびにビームストップを回避するために十分に偏向されていない十分に高い質量対電荷比を有するイオンが阻止される。上述のとおり、この効果を意図的に利用して、進行中の測定について、当該最大値を超える質量対電荷比を有するイオン種を除去することができる。次に、イオンパケットのイオンは、第2電極レンズ102の影響を受ける領域に入り、光軸に対して半径方向内側に偏向する。イオンは第2電極レンズ102の開口103を通過し、第2電極レンズ102と検出器アレイ108との間のある点において、焦点Fを通過する。その後、イオンは再び発散し、そして時間t2において、かつ参照符号P2で示されているように、検出器アレイ108のセンサ表面109に衝突する。概略的に示したとおり、イオン分布は、より低い質量電荷比のイオンが衝突の円形領域の周辺に向かい、より高い質量/電荷比のイオンが衝突の円形領域の中心に向かって位置するようになっている。言い換えれば、光軸のセンサ表面との交点、すなわち検出原点から所与のイオンの衝突点までの半径方向距離は、当該イオンの質量/電荷比の尺度である。この半径方向距離と質量対電荷比との間に線形の関係または略線形の関係が存在することが好ましい。しかし、公知の関係が許容できる。というのは、これを信号処理中に適用して、センサアレイの各ピクセル、チャンネル、またはセルに対して、当該ピクセル、チャンネル、またはセルの原点からの距離に基づいて、ピクセルの範囲および半径方向距離と質量/電荷比との関係に基づく質量/電荷比、またはより正確には質量対電荷比の範囲を指定できるからである。
【0069】
図6は、同心円を描いて質量対電荷比値および例示的イオンを示す、センサ表面109上で捕集されたイオンの概略正面図である。ここで、少しずつ暗くなる陰影を用いてより重い原子種を示し、単一原子、二原子分子、および三原子分子が概略的に描かれている。概略図において荷電状態の効果を示す試みはされていない。より重いイオンが原点の付近に当たり、最も軽いイオンが原点から最も遠くにあることが示されている。
【0070】
図7は、別の実施形態のイオン検出器アセンブリ16の主要部の概略斜視図である。図3は、イオン検出器の対称性についてのみ図5の構成と異なるこの別の実施形態も、正確に示している。同一の参照符号を用いて対応する特徴を示す。図5に示す構成について、レンズは球面レンズであり、その結果、光軸沿いのあらゆる点において光軸に直交する円形断面を有するイオンビームになる。代わりに、図7の別の実施形態は、円柱レンズに基づく。従って、第1レンズ電極および第2レンズ電極100、102の各々は、図5の実施形態の円形開口の代わりに直線端または直線縁を有する電極要素から形成される。電極レンズ100は、間に開口101を形成する平行な直線対向縁を有する1組の共面対向電極要素100aおよび100bによって形成される。各要素100a、100bは、略矩形形状を有するとして示されているが、ビーム経路の末端の形状は多分に任意である。電極レンズ100と同等の構成は、図5の実施形態にレンズのように単一の要素から形成することであろうが、細長い矩形開口を有する。第2電極レンズ102は、第1電極レンズ100と同様の構造を有し、開口103を形成する1組の共面要素102aおよび102bを備える。こうして電極レンズは、図5の実施形態の球面レンズとは異なり円柱レンズとして機能する。さらに、本実施形態のビームストップ112は、互いに平行であり、かつ第1電極レンズおよび第2電極レンズの対向する内縁の伸びる方向にも平行に走る、直線縁または直線端を有する。さらに、この別の実施形態においてビームマスク114(図示せず)が用いられる場合、このビームマスク114もまた、互いに平行であり、かつ第1電極レンズおよび第2電極レンズの対向する内縁の伸びる方向にも平行に走る、直線縁または直線端を有するであろう。
【0071】
第1レンズに入る直前のイオンパケットP1が示され、半径r1の円形断面およびビーム軸に沿う有限長を有し、それによって円柱を形成している。第1電極レンズ100に入ると、イオンは、図5の実施形態の半径方向拡張とは対照的に、1次元伸張変換で、図において垂直に、単軸方向に外側へ偏向される。ここで、伸長の軸は、電極レンズの内縁の伸びる方向に直交する。これは、徐々に拡張する断面を示すことによって表されている。先行の実施形態に関連して述べたとおり、第1レンズ100の開口101を通過した後、イオンは図の垂直方向に離れて広がり続け、望ましくない中性粒子および任意に一部のイオンを捕捉するビームストップ112を通過する。そして、イオンパケットのイオンは第2電極レンズ102の影響を受け、単軸方向に内側へ促され、最後に第2電極の開口103の通過後であって検出アレイ108に衝突する前に光軸F沿いのある点において線状焦点Fに到達する。線状焦点を通過した後、イオンパケットのイオンは再び単軸方向に発散し、時間t2において検出器アレイ108のセンサ領域109に当たる。これらのイオンは参照符号P2に示すように質量対電荷比に従って原点の両側に垂直に広がる。
【0072】
図8は、別の実施形態のイオン検出器のセンサ表面上で捕集されたイオンの概略正面図である。水平線を引いて質量/電荷比値および例示的イオンを示しており、少しずつ暗くなる陰影を用いてより重い原子種を示し、単一原子、二原子分子、および三原子分子が概略的に描かれている。概略図において荷電状態の効果を示す試みはされていない。3つの原子を有するより重いイオンが原点の付近に当たり、単一原子を有する最も軽いイオンが原点から最も遠くにあることが示されている。原点の上方の所定距離または下方の当該距離は、同一の質量電荷比を表すことが明らかである。さらに、本実施形態では、1次元検出器アレイが2次元検出器アレイと同様の機能性を有するであろうことが明らかである。従って、多重チャンネル光電子増倍管または他の1次元検出器アレイの使用を検討することができる。
【0073】
米国特許第7,247,847号明細書から転載された図9、図10、および図11は、別々の可能な電圧プロファイルを示している。
【0074】
図9は、時間に対する電圧のグラフとしてアナログ指数パルスを示している。
【0075】
図10は、デジタル信号の階段状特性を有するデジタル式合成指数パルスを示している。
【0076】
図11は、定振幅、短期間、および漸増繰返し周波数のパルスの周波数変調パルス列を示している。
【0077】
これらの別々の電圧プロファイルの特徴および相対的利点は、米国特許第7,247,847号明細書に、より詳細に示されている。アナログ指数パルスの生成に適切な駆動回路も米国特許第7,247,847号明細書に開示されており、本設計にも用いることができる。実際は、設計における駆動経路および可能な変形例に関する米国特許第7,247,847号明細書に記載のすべてが本明細書において当てはまる。
【0078】
さらに、本設計が米国特許第7,247,847号明細書に示す設計と異なるイオン検出器16に関する以外は、米国特許第7,247,847号明細書に記載の設計および使用の変形例、ならびに米国特許第7,247,847号明細書との重複を避けるために本明細書から省略された設計の詳細が本発明に同様に当てはまることが明らかである。特に、イオン源12およびマスフィルタ14に関する米国特許第7,247,847号明細書のすべての記載は本発明に同様に当てはまる。
【0079】
本明細書において上述したすべては、正イオン質量分析計に関係する。負イオン質量分析は一般的には用いられないが、本発明の原則は、負イオンに同様に十分に適用することができる。そのような場合、正に向かう指数パルスの使用を含み、本明細書に記載の電界の極性を逆にする必要があるであろう。
【0080】
さらに、上述の詳細な説明において静電レンズ配置の観点からイオン検出器の設計が説明されてきたが、同等の磁気レンズ配置を設けることが可能であろう。従って、本発明は、より一般的に電磁レンズ配置に当てはまる。
【0081】
このように等風速線原理に係る質量分析計を説明してきた。すなわち、マスフィルタは、イオンをそれらの質量電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速する。本発明の実施形態に係る質量分析計は、凹面レンズと、ビーム経路においてこれに続く凸面レンズとによって形成された静電レンズ配置に基づいた新規の検出器を備える。これらのレンズは、イオンを、それらの質量電荷比に反比例するビーム軸からの距離の分、ビーム軸から離れるように偏向する。そして、イオンの質量対電荷比は、ビーム経路に配置されたマルチチャンネルプレートなどの適切な検出器アレイによって決定することができる。これにより、小型で感度の高い機器が提供される。
【0082】
参照文献
[1]米国特許第7,247,847号明細書
[2]“Enhancement of ion transmission at low collision energies via modifications to the interface region of a 4-sector tandem mass-spectrometer”, Yu W., Martin S.A., Journal of the American Society for Mass Spectroscopy, 5(5) 460-469, May 1994
[3]“An MCP based detector array with integrated electronics”, D.P. Langstaff, International Journal of Mass Spectrometry, volume 215, pages 1-12 (2002)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が質量対電荷比を有する複数のイオンを含むイオンビームを供給するように動作可能なイオン源と、
前記イオン源から前記イオンビームを受けるように配置され、かつイオンパケットを射出するように構成されたマスフィルタであって、該イオンパケットの各々において前記イオンがそれぞれの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度を有し、該イオンパケットがビーム軸に沿って射出される、マスフィルタと、
前記マスフィルタから前記イオンパケットを受けるように前記ビーム軸に配置されたイオン検出器とを備え、
前記イオン検出器は、イオンを、それらの質量対電荷比に反比例する前記ビーム軸からの距離の分、前記ビーム軸から離れるように偏向するように動作可能なレンズ配置を備え、および、前記ビーム軸から離れて異なる距離にある複数のチャンネルを有し、前記ビーム軸からのそれらの距離に従って前記イオンの質量対電荷比を検出する位置敏感センサをさらに備える、質量分析計。
【請求項2】
前記レンズ配置は第1レンズおよび第2レンズを備える、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記第1レンズは凹面レンズであり、前記第2レンズは凸面レンズである、請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記凹面レンズは、前記凸面レンズより先に前記イオンを受けるように配置される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記レンズ配置は球形であり、イオンを当該イオンの質量対電荷比に従って前記ビーム軸を中心に半径方向に散らす、請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項6】
前記レンズ配置は円柱形であり、イオンを当該イオンの質量対電荷比に従って前記ビーム軸を中心に単軸方向に散らす、請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項7】
前記レンズ配置によって影響を受けない前記ビーム軸に沿って伝播した非荷電粒子を除去するように、前記偏向されたイオンの経路内にビームストップが配置される、請求項1〜6のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項8】
前記ビームストップは、最大閾値を超える質量対電荷比を有するイオンを除去するように、前記ビーム軸から水平に延在するように配置および寸法設定される、請求項7に記載の質量分析計。
【請求項9】
最小閾値未満の質量対電荷比を有するイオンを除去するように、前記偏向されたイオンの経路内にビームマスクが配置される、請求項1〜8のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項10】
質量分析方法であって、
各々が質量対電荷比を有する複数のイオンを含むイオンビームを生成することと、
マスフィルタ内の前記イオンの群を、それらの質量電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速させ、それによってイオンパケットを形成することと、
ビーム軸に沿って前記マスフィルタから前記イオンパケットを射出することと、
イオンを、それぞれの質量対電荷比に反比例する前記ビーム軸からの距離の分、前記ビーム軸から離れるように偏向することと、
前記ビーム軸からのそれらの距離に従って前記イオンの質量対電荷比を検出することと、を含む、質量分析方法。
【請求項11】
前記イオンの偏向量は、所望の範囲の質量対電荷比が検出されるように調整される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記イオンの偏向量は、複数の所望の範囲の質量対電荷比が単一の測定周期内で検出されるように、複数回調整される、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
各々が質量対電荷比を有する複数のイオンを含むイオンビームを供給するように動作可能なイオン源と、
前記イオン源から前記イオンビームを受けるように配置され、かつイオンパケットを射出するように構成されたマスフィルタであって、該イオンパケットの各々において前記イオンがそれぞれの質量対電荷比に係わらず名目上等しい速度を有し、該イオンパケットがビーム軸に沿って射出される、マスフィルタと、
前記マスフィルタから前記イオンパケットを受けるように前記ビーム軸に配置されたイオン検出器とを備え、
前記イオン検出器は、イオンを、それらの質量対電荷比に反比例する前記ビーム軸からの距離の分、前記ビーム軸から離れるように偏向するように動作可能なレンズ配置を備え、および、前記ビーム軸から離れて異なる距離にある複数のチャンネルを有し、前記ビーム軸からのそれらの距離に従って前記イオンの質量対電荷比を検出する位置敏感センサをさらに備える、質量分析計。
【請求項2】
前記レンズ配置は第1レンズおよび第2レンズを備える、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記第1レンズは凹面レンズであり、前記第2レンズは凸面レンズである、請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記凹面レンズは、前記凸面レンズより先に前記イオンを受けるように配置される、請求項3に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記レンズ配置は球形であり、イオンを当該イオンの質量対電荷比に従って前記ビーム軸を中心に半径方向に散らす、請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項6】
前記レンズ配置は円柱形であり、イオンを当該イオンの質量対電荷比に従って前記ビーム軸を中心に単軸方向に散らす、請求項1〜4のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項7】
前記レンズ配置によって影響を受けない前記ビーム軸に沿って伝播した非荷電粒子を除去するように、前記偏向されたイオンの経路内にビームストップが配置される、請求項1〜6のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項8】
前記ビームストップは、最大閾値を超える質量対電荷比を有するイオンを除去するように、前記ビーム軸から水平に延在するように配置および寸法設定される、請求項7に記載の質量分析計。
【請求項9】
最小閾値未満の質量対電荷比を有するイオンを除去するように、前記偏向されたイオンの経路内にビームマスクが配置される、請求項1〜8のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項10】
質量分析方法であって、
各々が質量対電荷比を有する複数のイオンを含むイオンビームを生成することと、
マスフィルタ内の前記イオンの群を、それらの質量電荷比に係わらず名目上等しい速度まで加速させ、それによってイオンパケットを形成することと、
ビーム軸に沿って前記マスフィルタから前記イオンパケットを射出することと、
イオンを、それぞれの質量対電荷比に反比例する前記ビーム軸からの距離の分、前記ビーム軸から離れるように偏向することと、
前記ビーム軸からのそれらの距離に従って前記イオンの質量対電荷比を検出することと、を含む、質量分析方法。
【請求項11】
前記イオンの偏向量は、所望の範囲の質量対電荷比が検出されるように調整される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記イオンの偏向量は、複数の所望の範囲の質量対電荷比が単一の測定周期内で検出されるように、複数回調整される、請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2013−520765(P2013−520765A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553381(P2012−553381)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002063
【国際公開番号】WO2011/101607
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(508106091)イリカ テクノロジーズ リミテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/002063
【国際公開番号】WO2011/101607
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(508106091)イリカ テクノロジーズ リミテッド (4)
【Fターム(参考)】
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