説明

質量分析計においてイオンをフィルタリングするための方法、システムおよび装置

イオンをフィルタリングするための方法および質量分析計が提供される。質量分析計は、概して、イオンガイドと、四重極質量フィルタと、衝突セルと、飛行時間(ToF)検出器とを備え、かつイオンビームをToF検出器に透過することが可能である。質量分析計は、イオンビームの中のイオンが実質的に断片化されないままであり、四重極質量フィルタが、イオンガイドおよび記衝突セルのうちのいずれかの中の圧力よりもかなり低い圧力で動作するように、MSモードで動作する。四重極質量フィルタは、関心のある範囲外のイオンをイオンビームからフィルタリングして、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを残すように、帯域通過モードで動作する。関心のある範囲内のイオンは、ToF検出器で分析される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、概して、質量分析計に関し、具体的には、質量分光計でイオンをフィルタリングするための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計がMSモードで動作するときに、イオンビームのイオン集団全体は、サンプリングされるが、概して断片化されない。しかしながら、イオン集団は、しばしば、広い質量範囲全体にわたって散乱する種を含有する。関心のある質量範囲が、イオンビームの中に存在するイオンの質量範囲よりも非常に狭いときに、ある問題が起こり得る。具体的には、連続するイオン流が直交飛行時間(ToF)質量分析計で記録されるときに、観察される可能性がある1つの問題は、到着イベントの「ラップアラウンド」である。「ラップアラウンド」は、ToF繰り返し率が比較的に高く、関心のある質量範囲を記録するのに十分であり、さらに、ビームの中に存在する高m/zの種がより遅く飛行するときに起こり、したがって、次の抽出と関連して到着する可能性があり、それによって、次の抽出のスペクトルを汚染する。換言すれば、高m/zの種がより遅く飛行するので、該種は、元のToF抽出ウィンドウの代わりに、結果として生じるToF抽出に現れる可能性があり、したがって、実際には存在しない低質量の種として現れる。同じく関心のある質量範囲外にイオンが存在することに関連する、別の問題は、該イオンが、ToF検出器の検出能力を「使い果たす」ことである。関心のある質量範囲外のイオン種の強い存在があるときには、該種が依然としてToF検出器に到着しているので、検出器の飽和が起こる可能性がある。加えて、検出器の寿命を短縮する可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本明細書の第1の側面は、質量分析計でイオンをフィルタリングするための方法を提供し、質量分析計は、イオンガイドと、四重極質量フィルタと、衝突セルと、飛行時間(ToF)検出器とを備え、質量分析計は、イオンビームをToF検出器に透過することが可能である。方法は、イオンビームの中のイオンが実質的に断片化されないままであり、四重極質量フィルタが、イオンガイドおよび衝突セルのうちのいずれかの圧力よりもかなり低い圧力で動作するように、質量分析計をMSモードで動作させるステップを含む。方法は、関心のある範囲外のイオンをイオンビームからフィルタリングして、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを残すように、四重極質量フィルタを帯域通過モード動作させるステップをさらに含む。方法は、関心のある範囲内のイオンをToF検出器で分析するステップをさらに含む。
【0004】
関心のある範囲の低質量境界および高質量境界は、四重極質量フィルタに印加されるRF電圧およびDC電圧の組み合わせによって規定することができる。四重極質量フィルタに印加されるRF電圧およびDC電圧は、四重極質量フィルタの安定線図に基づいて決定することができる。関心のある範囲外のイオンがイオンビームからフィルタリングされるように、四重極質量フィルタを帯域通過モードで動作させるステップは、四重極質量フィルタの安定線図上の動作線の傾斜が変化し、それによって、低質量境界および高質量境界を制御するように、RF電圧およびDC電圧を調整するステップを含むことができる。安定線図は、マシューの方程式から導出することができる。RF電圧およびDC電圧は、質量分析計で獲得される異なる透過ウィンドウについてデータを補間することによって決定することができる。
【0005】
関心のある範囲内のイオンをToF検出器で分析するステップは、質量分析計のデューティサイクルを増加させるように、ToF抽出をオーバーパルシングするステップを含むことができる。方法は、関心のある範囲の幅をオーバーパルシングと協調させるステップをさらに含むことができる。
【0006】
方法は、衝突セルからのイオンをToF検出器で分析する前に、衝突セルを介して、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを断片化するステップをさらに含むことができる。衝突セルを介して、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを断片化するステップは、関心のある範囲内のイオンの運動エネルギーを、断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、および衝突セルの圧力を、断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、のうちの少なくとも1つによって起こり得る。方法は、衝突セルの中の関心のある範囲内のイオンを断片化するステップと、関心のある範囲内のイオンが、断片化されずに衝突セルを通過することを可能にするステップとを交互に行うステップと、分析のために、ToF検出器で断片化された、および断片化されていないイオンの質量スペクトルを収集するステップと、をさらに含むことができる。方法は、関心のある断片化された範囲外のイオンの少なくとも一部分がイオンビームからフィルタリングされ、イオンビームの中の関心のある断片化された範囲内のイオンを残すように、RFおよびDC電圧の組み合わせを衝突セルに印加することによって、衝突セルを帯域通過モードで動作させるステップをさらに含むことができる。
【0007】
イオンガイドおよび衝突セルの圧力は、mトルの範囲であり、四重極質量フィルタの圧力は、10−5トルの範囲とすることができる。
【0008】
本明細書の第2の側面は、イオンガイドと、四重極質量フィルタと、衝突セルと、飛行時間(ToF)検出器とを備える、イオンをフィルタリングするための質量分析計を提供する。質量分析計は、イオンガイドからToF検出器にイオンビームを透過することが可能である。質量分析計は、イオンビームの中のイオンが、実質的に断片化されていないままであり、四重極質量フィルタが、イオンガイドおよび衝突セルのうちのいずれかの圧力よりもかなり低い圧力で動作するように、MSモードで動作することがさらに可能である。質量分析計は、関心のある範囲外のイオンがイオンビームからフィルタリングされて、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを残すように、四重極質量フィルタを帯域通過モード動作させることがさらに可能である。質量分析計は、関心のある範囲内のイオンをToF検出器で分析することがさらに可能である。
【0009】
関心のある範囲の低質量境界および高質量境界は、四重極質量フィルタに印加されるRF電圧およびDC電圧の組み合わせによって規定することができる。四重極質量フィルタに印加されるRF電圧およびDC電圧は、四重極質量フィルタの安定線図に基づいて決定することができる。関心のある範囲外のイオンがイオンビームからフィルタリングされるように、四重極質量フィルタを帯域通過モードで動作させるために、質量分析計は、四重極質量フィルタの安定線図上の動作線の傾斜が変化し、それによって、低質量境界および高質量境界を制御するように、RF電圧およびDC電圧を調整することがさらに可能である。RF電圧およびDC電圧は、質量分析計で獲得される異なる透過ウィンドウについてデータを補間することによって決定することができる。
【0010】
関心のある範囲内のイオンをToF検出器で分析することは、質量分析計のデューティサイクルを増加させるように、ToF抽出をオーバーパルシングすることを含む。質量分析計は、関心のある範囲の幅をオーバーパルシングと協調させることがさらに可能であり得る。
【0011】
質量分析計は、衝突セルからのイオンをToF検出器で分析する前に、衝突セルを介して、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを断片化することがさらに可能であり得る。衝突セルを介して、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを断片化することは、関心のある範囲内のイオンの運動エネルギーを、断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、および衝突セルの圧力を、断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、のうちの少なくとも1つによって起こり得る。質量分析計は、衝突セルの中の関心のある範囲内のイオンを断片化することと、関心のある範囲内のイオンが、断片化されずに衝突セルを通過することを可能にすることとを交互に行うこと、および分析のために、ToF検出器で断片化された、および断片化されていないイオンの質量スペクトルを収集すること、がさらに可能であり得る。質量分析計は、関心のある断片化された範囲外のイオンの少なくとも一部分がイオンビームからフィルタリングされ、関心のある断片化された範囲内のイオンがイオンビームの中に残るように、RFおよびDC電圧の組み合わせを衝突セルに印加することによって、衝突セルを帯域通過モードで動作させることがさらに可能であり得る。
【0012】
イオンガイドおよび衝突セルの圧力は、mトルの範囲であり、四重極質量フィルタの圧力は、10−5トルの範囲とすることができる。
【0013】
実施形態を、以下の図を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、限定的でない実施形態による、四重極質量フィルタを介して関心のある範囲内のイオンをフィルタリングすることが可能である、質量分析計のブロック図である。
【図2】図2は、限定的でない実施形態による、質量分析計の四重極質量フィルタの安定線図の概略図である。
【図3】図3は、限定的でない実施形態による、四重極質量フィルタでいかなるフィルタリングも起こらなかったときに、図1の質量分析計のToF検出器から収集される代表的な質量スペクトルの概略図である。
【図4】図4は、限定的でない実施形態による、質量スペクトルでラップアラウンドが起こったときに、図1の質量分析計のToF検出器から収集される代表的な質量スペクトルの概略図である。
【図5】図5は、限定的でない実施形態による、関心のある範囲内のイオンが四重極質量フィルタを介してフィルタリングされたときに、図1の質量分析計のToF検出器から収集される代表的な質量スペクトルの概略図である。
【図6】図6は、限定的でない実施形態による、質量分析計で関心のある範囲内のイオンをフィルタリングするための方法600のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、質量分析計を表し、質量分析計は、イオンガイド130と、四重極質量フィルタ140と、衝突セル150(例えば、断片化モジュール)と、飛行時間(ToF)検出器160とを備え、質量分析計100は、イオン源120からToF検出器160にイオンビームを透過することが可能である。いくつかの実施形態において、質量分析計100は、イオン源120がイオン性材料をイオン化するのを制御すること、および質量分析計100のモジュール間のイオンの移送を制御することを含むが、これらに限定されない、質量分析計100の動作を制御するための、プロセッサ185をさらに備えることができる。具体的には、プロセッサ185は、以下に説明するように四重極質量フィルタ140を制御し、ToF検出器160を介して獲得される質量スペクトルを処理することがさらに可能である。いくつかの実施形態において、質量分析計100は、生成物質量スペクトルを記憶するための任意の好適なメモリデバイスをさらに備える。
【0016】
動作中に、イオン性材料がイオン源120の中に導入される。イオン源120は、概して、イオン性材料をイオン化して、イオンビームの形態でイオン190を生成するが、該イオンは、イオンガイド130に移送される(Q0としても識別され、イオンガイド130が質量分析に一切関与していないことを示す)。イオンガイド130の圧力は、イオン190と搬送ガスとの間に十分な数の衝突を起こさせて、イオン190がイオンガイド130の長さに沿って移動する間にイオンの衝突集束を可能にするように制御される。いくつかの実施形態において、イオンガイド130の圧力は、約5mトルであるように制御される。他の実施形態において、イオンガイド130の圧力は、例えば1〜100mトルの範囲内で、任意の好適な値に制御することができる。
【0017】
イオン190は、電場および/または圧力差を介して、イオンガイド130から四重極質量フィルタ140(Q1としても識別される)に移送され、四重極質量フィルタ140は、下記で説明される様式で、関心のある範囲外のイオンがイオンビームからフィルタリングされ、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオン191が残るように、帯域通過モードで動作することが可能である。
【0018】
次いで、四重極質量フィルタ140から放出されたイオン191は、任意の好適な電場を介して、衝突セル150(q2としても識別される)に移送することができる。いくつかの実施形態において、質量分析計100は、衝突セル150を通過するイオン191が実質的に断片化されないままであるように、MSモードで動作する。イオン191は、その後、任意の好適な電場および/または圧力差を介して、質量分析のためのToF検出器160に移送され、その結果、イオンスペクトルの生成が得られる。
【0019】
一般に、四重極質量フィルタ140は、イオン190の有効なフィルタリングのために、かつ四重極質量フィルタ140でイオン190のいかなる衝突および/または断片化も起こらないことを確実にするように、イオンガイド130または衝突セル150のうちのいずれかの圧力よりもかなり低い圧力で動作していることを理解されたい。例えば、いくつかの実施形態において、四重極質量フィルタ140の圧力は、約10−5トル(すなわち、10−2mトル)であるように制御することができる。少ない割合のイオン190のだけが、約10−4トル未満で四重極質量フィルタ140において衝突を受けることを理解されたい。いくつかの実施形態において、四重極質量フィルタ140は、10−7トル等の非常に低い圧力で動作することが可能であり得、これは、概して、相当な付加コストを伴って達成されるが、必ずしも付加的な利益を伴わない。前述のように、イオンガイド130の圧力は、イオンガイド130が、イオン源120(実質的に大気圧である)と四重極質量フィルタ140との間の圧力差として部分的に作用するように、約5mトルの圧力に制御することができる。さらに、いくつかの実施形態において、衝突セル150は、イオン191がToF検出器160に進入する前に該イオンの断片化および衝突焦束を引き起こす圧力に制御される。いくつかの実施形態において、衝突セル150は、約5mトルの圧力に制御される。
【0020】
しかしながら、質量分析計100がMSモードで動作するときに、イオン191が衝突セル150に進入する運動エネルギーは、イオン191の実質的な断片化を引き起こさないように、例えば四重極質量フィルタ140と衝突セル150との間でイオンを加速する好適な電場を印加することによって、十分低くなるように制御される。しかしながら、前述のように、四重極質量フィルタ140の圧力は、衝突セル150の圧力およびイオンガイド130の圧力よりもかなり低く、例えば、本例示的実施形態において、四重極質量フィルタ140の圧力は、衝突セル150の圧力およびイオンガイド130の圧力よりも約2桁低い。他の実施形態において、四重極質量フィルタ140の圧力は、衝突セル150の圧力およびイオンガイド130の圧力より少なくとも2桁低い。
【0021】
質量分析計100の中のイオン191の非断片化(MSモード)と断片化(MSMSモード)との間の移行は、イオンガイド130と衝突セル150とのDC電圧間の電圧差が増加したときに起こり、それによって、より高い運動エネルギーを、衝突セル150に進入するイオン191に与える。イオン191の断片化が起こり始めるエネルギーは、概して、調査中の化合物、すなわち、イオン源120に導入されるイオン性材料の性質に依存するものと理解されたい。
【0022】
さらに、いくつかの実施形態では、非断片化(MS)モードにおいて、衝突セル150は、断片化が起こらないように、四重極質量フィルタ140の圧力と同程度の低い圧力で動作させることができることを理解されたい。しかしながら、衝突セル150をMSモードにおいて低い圧力で動作させることにはある不利な点がある。第1に、イオン191の分析は、イオン191がMSモードでは断片化されず、MSMSモードでは断片化される、MSモードとMSMSモードとの間の迅速な切り替えを含み得ることである。衝突セル150の圧力が、(イオン191の運動エネルギーではなく)これらのモード間で変化するように制御される場合、衝突セル150の圧力の制御は、概して、迅速に行わなければならず、これは、質量分析計100の提供および構築に対する付加的な機器(ポンプ等)を必要とし、したがって、付加的な出費、ならびに分析手順の複雑化を必要とする。実際に、そのような付加的な機器を伴わない状態では、イオン191がより高い運動エネルギー(例えば、約10−5トル)を有するときに、断片化を防止するために必要とされる低圧力まで排気する時間が長くなる可能性があり、そのように行うことは、質量分析計100のスループットをかなり低下させる。代替として、衝突セル150の圧力変化を迅速化するために、CADガス管理システムを質量分析計100に組み込むことができるが、これは、質量分析計100に対してかなりの複雑さおよびコストを加える可能性がある。
【0023】
衝突セル150を非断片化モードにおいて高い圧力で動作させるもう1つの理由は、衝突セル150の中のガスの存在がイオンビームの衝突集束につながるので、イオンガイド130と衝突セル150との間の領域における機械的整合の問題を低減することである。衝突セル150の圧力が、断片化のMSMSモードと非断片化のMSモードとの間で変動する場合、TOF検出器150におけるイオンビームの同調は、これらのモードのそれぞれについて異なり得、異なる校正パラメータを伴う。しかし、衝突セル150の圧力がMSモードおよびMSMSモードの双方で十分に高く(すなわち、同じ、または同程度に)保たれる場合、衝突セル150を出るイオンは、衝突焦束により、どちらのモードでも同じ性質を有することになる。したがって、例示的実施形態において、衝突セル150の圧力は、同じ圧力(約5mトル)に維持される一方で、四重極質量フィルタ140の圧力は、この領域を通過する大部分のイオンについて、質量フィルタ140内でいかなる衝突も起こらないことを確実にするように、かなり低い(約10−5トル)。四重極質量フィルタ140の圧力が高過ぎる場合は、イオンと残存する分子との間で衝突が起こり、イオン190の損失につながる。
【0024】
さらに、図示されていないが、質量分析計100は、イオン源120、イオンガイド130、四重極質量フィルタ140、衝突セル150、および/またはToF検出器160に好適な真空を提供するために、任意の適切な数の真空ポンプを備えることができる。いくつかの実施形態において、質量分析計100のある要素間には圧力差が作成され得、例えば、圧力差は、概して、イオン源120とイオンガイド130との間に印加され、よって、イオン源120は、大気圧であり、イオンガイド130は、真空状態であることを理解されたい。同じく図示されていないが、質量分析計100は、任意の適切な数のコネクタと、電源と、RF(無線周波数)電源と、DC(直流)電源と、ガス源(例えば、イオン源120および/または衝突セル150用)と、質量分析計100の動作を可能にするための任意の他の好適な構成要素とをさらに備えることができる。
【0025】
イオン源120は、イオン性材料をイオン化するための、任意の好適なイオン源を備える。イオン源120には、エレクトロスプレーイオン源、イオンスプレーイオン源、コロナ放電デバイス等が挙げられるが、これに限定されない。これらの実施形態において、イオン源120は、任意の好適な様式でイオン性をイオン源120に分配させる(例えば、溶出させる)ことが可能である、液体クロマトグラフィシステム等の、質量分離システム(図示せず)に接続することができる。
【0026】
いくつかの限定的でない実施形態において、イオン源120は、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)イオン源を備えることができ、イオン性材料の試料は、最初に、概して平行移動ステージを備えることができるMALDIプレート上に分配される。それに応じて、イオン源120は、MALDIイオン源の中に挿入することができるMALDIプレートを介して、イオン性材料を受け取り、任意の好適な順序で、イオン性材料の試料をイオン化することが可能である。これらの実施形態において、任意の適切な数のサンプルを伴うプレートがその上に分配された任意の適切な数のMALDIを、MALDIイオン源に挿入する前に調製することができる。しかしながら、概して、イオン源120は、概して限定的でなく、任意の好適なイオン源が本実施形態の範囲内にあることを理解されたい。
【0027】
イオン源120で生成されるイオン190は、例えば真空差、および/または好適な電場、および/または搬送ガスを介して、イオンガイド130に移送される。イオンガイド130は、概して、四重極ロッドセットが挙げられるが、これに限定されない、任意の好適な多重極またはRFイオンガイドを備えることができる。イオンガイド130は、概して、イオン190を冷却および集束させることが可能であり、さらに、大気圧であるイオン源120と、質量分析計100の以降のかなり低い圧力である真空モジュールとの間のインターフェースとしての役割を果たすことができる。
【0028】
イオン191は、次いで、例えば任意の好適な真空差および/または好適な電場を介して、四重極質量フィルタ140に移送される。前述のように、四重極質量フィルタ140は、イオン190の断片化および/または散乱損失を防止するために、スループットを確実にするために、そして、比較的に狭いフィルタリング能力が可能であることを確実にするために、イオンガイド130または衝突セル150よりもかなり低い圧力で操作される(例えば、1amu、または代替として1m/zという低さである。「amu」および「m/z」は、概して、代替可能に使用できることを理解されたい)。一般に、四重極質量フィルタ140は、関心のある範囲外からのイオンが、イオンビームの中のイオン190からフィルタリングされ、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオン191が残るように、帯域通過モードで動作することが可能である。一般に、四重極質量フィルタ140のフィルタリング能力は、プロセッサ185によって制御することができる、少なくともRF電源195およびDC電源196を介して制御される。さらに、図1に示されるRF電源195と、DC電源196と、四重極質量フィルタ140との間の接続は、概略的なものに過ぎないこと、および四重極質量フィルタ140の極のそれぞれへの、ならびにRF電源195とDC電源196との間の実際の接続は、関心のある範囲内のイオン191をフィルタリングするための四重極質量フィルタ140を制御するのに好適であることを理解されたい。
【0029】
イオン191は、次いで、衝突セル150に移送される。質量分析計100がMSMSモードで動作している場合、イオン191は、生成物イオンが生成されるように断片化することができる。しかしながら、本実施形態において、質量分析計100は、MSモードで動作し、衝突セル150は、イオン191が実質的に断片化されないままであるように、低エネルギーモード(および/または代替として、低圧力)で動作することを理解されたい。したがって、イオン191は、イオンスペクトル(すなわち、質量スペクトル)の分析および生成のために、ToF検出器160に移送される。ToF検出器160は、直交飛行時間(TOF)検出器、リフレクトロンToF検出器、タンデム型ToF検出器等が挙げられるが、これらに限定されない、任意の好適な飛行時間質量検出器モジュールを備えることができる。
【0030】
ここで、四重極質量フィルタ140に戻ると、関心のある範囲の低質量境界および高質量境界は、四重極質量フィルタ140に印加されるRF電圧のおよびDC電圧の組み合わせによって規定されることを理解されたい。さらに、四重極質量フィルタ140のフィルタリングは、概して、安定線図に従って動作することを理解されたい。例えば、限定的でない実施形態による、安定線図200の概略図が図2に示される。一般に、低質量境界および高質量境界を制御するために四重極質量フィルタ140に印加されるRFおよびDC電圧は、安定線図200等の安定線図に基づいて決定することができる。
【0031】
一般に、安定線図200は、当業者には知られているように、マシューの方程式から導出することができる。安定線図200は、DC電源196を介して四重極質量フィルタ140に印加されるDC電圧に依存する、変数aと、RF電力源195を介して四重極質量フィルタ140に印加されるRF電圧に依存する、変数qとの関数である。さらにまた、変数aおよびqは、どちらも、所与のイオンの質量電荷比(m/z)に反比例する。安定線図200は、「良好な真空」、すなわち、イオンと緩衝液ガス分子との間にいかなる衝突もないという前提条件に基づいて導出される。緩衝ガス分子との衝突は、断片化および散乱損失のため、四重極質量フィルタのイオン透過に対して有害な影響を有する可能性がある。曲線201は、四重極質量フィルタ140の安定性を表す。曲線201の下側に位置するaおよびqの組み合わせは、所与のイオンについて、その軌道が安定しており、かつ四重極質量フィルタの境界の範囲内にとどめられる、四重極質量フィルタ140の安定した動作モードを表す。曲線201の上側のaおよびqの組み合わせは、イオン運動が不安定であり、イオンが最終的に四重極質量フィルタ140の電極に当たる一方で、四重極質量フィルタ140の縦軸に沿って進行することを表す。さらに、線202は、所与の一組のRFおよびDC電圧について、異なるm/z値を伴うイオンが全てこの線に沿って分布するので、当業者には知られているように、四重極質量フィルタ140の動作線を表す。線202と曲線201との間の交差点203は、四重極質量フィルタ140によってフィルタリングされたイオン191の関心のある質量範囲を表す。本質的には、線202は、四重極質量フィルタ140に進入することができるイオンの質量の全範囲を表し、動作線202上の交差点の範囲内にある質量のイオンだけが、四重極質量フィルタ(すなわち、交差点203)を通過する。さらに、RFおよびDC電圧を比例的に調整することによって、動作線202の傾斜は、同じ状態のままである一方で、四重極質量フィルタ140によってフィルタリングされたイオンの質量の境界は、例えば、異なる質量が交差点203の範囲内にあるように、イオンの質量を線202の上下に移動させることによって制御することができる。従来技術において、交差点203は、質量分析計100の良好な解像度を確実にするために、特に、質量分析計100がMSMSモードで動作するときに、意図的に狭く保たれる(例えば、1amuという低さ)。さらに、質量分析計100の解像度は、四重極質量フィルタ140の圧力に依存し、したがって、四重極質量フィルタ140を低圧力に保つ付加的な理由である。
【0032】
しかしながら、線202の傾斜および交差点は、四重極質量フィルタ140に独立して印加されるRF電圧(例えば、振幅、周波数、絶対平均値等)およびDC電圧(例えば、平均値)を変動させることによって制御することができる。例えば、線204は、DC電圧がゼロボルトである状態の四重極質量フィルタ140の動作線を表し、よって、四重極質量フィルタ140は、低質量カットオフ範囲を超える全てのイオン190を透過する(すなわち、関心のある範囲は、四重極質量フィルタ190のRF電圧、および周波数、ならびに寸法によって決定されるカットオフ質量を超える、四重極質量フィルタ140全質量範囲である)。線204は、明確にするために安定線図200のx軸からのオフセットであるように示されているが、線204は、x軸に沿って延びていることを理解するよう留意されたい。
【0033】
したがって、RFおよびDC電圧を独立して調整することによって、線205等の動作線を生成することができ、安定線図200上の線205の傾斜は、RFおよびDC電圧に従って変化し、それによって、線205と曲線201との間の交差点206によって表される高質量境界、および線205と曲線201との間の交差点207によって表される低質量境界を制御する。さらに、関心のある領域の低質量境界および高質量境界の再現性は、四重極質量フィルタ140の圧力に依存する。低質量境界および高質量境界は、四重極質量フィルタ140におけるイオン190と搬送ガスとの間の相互作用の除去により、高真空状態の下でより良好に規定され、かつ安定するものと予期される。
【0034】
いくつかの実施形態において、安定線図200等の線図は、関心のある範囲内のイオン191が四重極質量フィルタ140を通して透過される一方で、関心のある範囲外のイオンが概して廃棄されるように、イオン191について関心のある範囲を取得するためのRFおよびDC電圧を決定するために使用することができる。他の実施形態において、四重極質量フィルタ140は、安定線図200等の安定線図に従って動作するものと理解されるが、関心のある範囲を制御するためのRFおよびDC電圧は、質量分析計100で獲得される異なる透過ウィンドウ(すなわち、異なる関心のある範囲)について取得されるデータを補間することによって決定される。例えば、既知の試料をイオン源120に導入することができ、そして、RF電源195およびDC電源196からのRFおよびDC電圧は、それぞれ、関心のある範囲の幅を、特に関心のある範囲の低質量境界および高質量境界を変化させるように制御することができる。換言すれば、異なる質量透過ウィンドウのデータ、例えば、関心のある範囲の低質量境界および高質量境界に対する異なるRFおよびDC電圧の効果を概説するデータを、質量分析計100で獲得することができる。
【0035】
ここで、四重極質量140においていかなるフィルタリングも起こらなかったときに、ToF検出器160から収集される代表的な質量スペクトル300の概略図を表す、図3を参照する。これらの実施形態において、質量スペクトルは、質量種A、B、C、D、E、F、およびGから成り、質量種Gは、質量種A、B、C、D、E、およびFよりも相対的に高い質量を伴う。このように、質量種Gは、質量分析計100を通してA、B、C、D、E、およびFよりも遅い速度で進行し、具体的には、質量四重極分析器140からToF検出器160までより遅い速度で進行する。したがって、質量分析計100の抽出速度に応じて、質量種Gは、スペクトルの中で「ラップアラウンド」する可能性があり、限定的でない実施形態による、図4に示されるように、次の質量スペクトル400の中に低質量種として誤って現れる。したがって、質量種Gが関心のある範囲外である場合は、関心のある範囲の少なくとも高質量境界を制御して質量種Gをイオン191から除去するために、質量四重極質量フィルタ140に印加されるRFおよびDC電圧を制御することが望ましい。図3に戻ると、四重極質量フィルタ140は、100m/zの低質量境界および400m/zの高質量境界を伴う、関心のある質量範囲310を有するように制御することができる。したがって、質量種Gがイオン191からフィルタリングされる一方で、質量種A、B、C、D、E、およびFは、イオン191に含まれ、限定的でない実施形態による、図5に示される質量スペクトル500をもたらす。
【0036】
そのようなフィルタリングは、質量分析計100のデューティサイクルを増加させるように、ToF検出器160をオーバーパルシングすることをさらに可能にする。一般に、質量スペクトル300または質量スペクトル400等の質量スペクトルを獲得することができるように、イオン191からToF検出器160の中へのイオン191の第1の位置が抽出されるという点で、イオン191のToF検出器160の中への進入は、切片でサンプリングされることを理解されたい。ToF検出器160に注入されたイオン191の第1の部分は、次いで、図1に示されるように、ToF検出器160を通して経路197上を進行し、より軽いイオンは、より重いイオンよりも速く進行し、好適な検出器表面198に影響を与え、経路197を進行するのにかかる飛行時間は、イオンの質量電荷比の2乗根に比例する。一般に、質量分析計100は、イオン191の第1の部分が検出表面198で収集されるまで、イオン191の第2の部分がToF検出器160の中に抽出されないように制御される。しかしながら、概してより良好な効率のために好まれる、より短いサイクル、すなわち、より高い抽出速度は、図4に示されるラップアラウンド効果につながり、したがって、質量分析計100に導入される試料が概して未知である場合は、誤った質量スペクトルにつながる。
【0037】
いずれの場合においても、関心のある範囲外のイオンをフィルタリングして除去するように、四重極質量フィルタ140を制御することによって、関心のある範囲内のイオン191を残し、質量分析計100のデューティサイクルを増加させるように、ToF抽出のオーバーパルシングを利用することができ、そこでは、イオン191の第1の部分が検出表面198に到達する前に、イオン191の第2の部分がToF検出器160の中に抽出される。したがって、デューティサイクルが増加し、ラップアラウンド効果が取り除かれる。
【0038】
いくつかの実施形態において、ラップアラウンドが検出される一方で、質量分析計100がオーバーパルシングモードで動作している場合に、ラップアラウンドが取り除かれるまで、関心のある質量範囲が減少する可能性があるという点で、関心のある質量範囲の幅は、オーバーパルシングと協調させることができる。例えば、第2の質量スペクトルが、第1の質量スペクトルには存在しない低質量種を含む場合は、ラップアラウンドが起こっていると判断することができ、また、低質量種が、実際は、イオン191の第2の部分がToF検出器160の中に導入される前に、検出器表面198に到達するまでの十分な時間が与えられた、関心のある範囲内の高質量種であると判断することができる。関心のある範囲の高質量境界は、次いで、高質量種を取り除くために低下させることができ、オーバーパルシングと協調する関心のある質量範囲の幅をもたらす。
【0039】
さらなる実施形態において、質量分析計100は、衝突セル150からのイオンをToF検出器160で分析する前に、イオン191が衝突セル150の中で断片化されるように、MSMSモードで動作させることができる。したがって、イオン191は、ToF検出器160で分析される断片化されたイオンを生成するように断片化される。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、イオン191は、衝突セル150内で該断片化を引き起こすのに十分な運動エネルギーを伴って衝突セル150に進入する。他の実施形態において、衝突セル150内の圧力は、前述のように、断片化を引き起こすように制御することができる。
【0040】
さらなる実施形態において、衝突セル150は、関心のある断片化された範囲外のイオンの少なくとも一部分が、イオンビームからフィルタリングされ、イオンビームの中の関心のある断片化された範囲内のイオンを残すように、RFおよびDC電圧の組み合わせを衝突セル140に印加することによって、四重極質量フィルタ140に類似した、帯域通過モードで動作させることができる。例えば、衝突セル150が四重極質量フィルタ140に類似した四重極を備える実施形態において、断片化されたイオンは、衝突セル150に印加されるRFおよびDC電圧を制御することによって、前述したものに類似した様式でフィルタリングすることができる。緩衝ガスの存在のため、衝突セル150のフィルタリングの鋭さが、四重極質量フィルタ140のフィルタリングよりも劣っている可能性があることを理解されたい。
【0041】
ここで、質量分析計でイオンをフィルタリングするための方法600を示す、図6を参照する。方法600の説明を援助するために、方法600は、質量分析計100を使用して実行されるものと仮定する。さらに、方法600に関する以下の論議は、質量分析計100およびその種々の構成要素のさらなる理解につながるであろう。しかしながら、質量分析計100および/または方法600は、変動する可能性があり、必ずしも相互に関連して本明細書に論じられるように機能するわけではなく、また、そのような変形例が本実施形態の範囲内であることを理解されたい。
【0042】
ステップ610で、質量分析計100は、イオンビームの中のイオン190および/またはイオン191が実質的に断片化されないままであるように、MSモードで動作する。例えば、イオンガイド130と衝突セル150との間の電位差は、衝突セル150に進入するイオンが実質的に断片化されないままである(例えば、イオンが、ある運動エネルギーを伴って衝突セル150に進入し、それによってイオンは、実質的に断片化されないままである)ように制御することができる。代替として、または、イオンガイド130と衝突セル150との間の電位差の制御と組み合わせて、衝突セル150の圧力は、衝突セル150に進入するイオンが実質的に断片化されないままであるように制御することができる。プロセッサ185は、質量分析計100をMSモードで動作させるために、質量分析計100の好適な構成要素を制御することができることを概して理解されたい。
【0043】
さらに、四重極質量フィルタ140の圧力は、関心のある質量領域の上下の境界の有効かつ再現可能な制御のために低下させられることを理解されたい。さらに、四重極質量フィルタ140は、イオンガイド130または衝突セル150のいずれかよりもかなり低い圧力で動作していることを理解されたい。
【0044】
ステップ620で、イオン源120で生成されたイオン190は、四重極質量フィルタ140に注入される。プロセッサ185は、イオン190を四重極質量フィルタ140の中に注入するために、量分析計100の好適な構成要素を制御することができることを概して理解されたい。
【0045】
ステップ630で、四重極質量フィルタ140は、関心のある範囲外のイオンをイオンビームからフィルタリングし、イオンビームの中のイオン191を関心のある範囲に残すように、帯域通過モードで動作する。例えば、関心のある範囲は、RF電圧源195およびDC電圧源196の動作を介して、それぞれ、好適なRFおよびDC電圧を選択することによって選択することができる。具体的には、関心のある範囲の低質量境界および高質量境界は、四重極質量フィルタ140に印加されるRF電圧およびDC電圧の組み合わせによって規定することができる。好適なRFおよびDC電圧は、関心のある範囲外のイオンがイオンビームからフィルタリングされるように、前述した安定線図200等の四重極質量フィルタ140の安定線図に基づいて決定することができる。さらに、RFおよびDC電圧は、四重極質量フィルタ140の安定線図上の動作線の傾斜が変化し、それによって、低質量境界および高質量境界を制御するように調製することができる。
【0046】
代替として、RFおよびDC電圧は、既知の試料の質量分析計100の中への導入を介して事前に実行される校正/提供プロセス中に、質量分析計100で獲得される異なる透過ウィンドウのデータを補間すること、RFおよびDC電圧を調整すること、および既知の資料の帯域通過範囲に対するそれらの効果を測定することによって、決定することができる。
【0047】
いずれにしても、プロセッサ185は、関心のある範囲内のイオンがイオンビームからフィルタリングされるように、四重極質量フィルタ140を帯域通過モードで動作させるために、質量分析計100の好適な構成要素を制御することができることを概して理解されたい。
【0048】
ステップ640で、イオン191は、ToF検出器160によって分析される。いくつかの実施形態において、ステップ640は、前述のように、質量分析計100のデューティサイクルを増加させるように、ToF抽出をオーバーパルシングするステップを含むことができる。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、オーバーパルシングは、関心のある範囲の幅と協調させることができる。プロセッサ185は、分析および/またはオーバーパルシングの協調を可能にするように、質量分析計100の好適な構成要素を制御することができることを概して理解されたい。
【0049】
いくつかの実施形態において、方法600は、例えば、イオン191の運動エネルギーを、衝突セル150で断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、および衝突セル150の圧力を、イオン191の断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、のうちの少なくとも1つによって、衝突セル150からのイオンをToF検出器160で分析する前に、衝突セル150でイオン191を断片化するステップをさらに含むことができる。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、前述のように、衝突セル150は、関心のある断片化された範囲外のイオンの少なくとも一部分がイオンビームからフィルタリングされ、イオンビームの中の関心のある断片化された範囲内のイオンを残すように、RFおよびDC電圧の組み合わせを衝突セル150に印加することによって、四重極質量フィルタ140と同様に、帯域通過モードで動作させることができる。したがって、イオン190は、最初に、四重極質量フィルタ140でフィルタリングしてイオン191を残すことができる。イオン191は、次いで、衝突セル150で断片化することができ、断片化されたイオンは、同じような手法でフィルタリングすることができる。
【0050】
いくつかの実施形態において、プロセッサ185は、質量分析計100を、イオン190が前述のように帯域通過モードで動作する四重極質量フィルタ140でフィルタリングされる、帯域通過モードで動作するように制御することができ、さらに、ToF検出器160を介して、断片化を伴わない、および断片化を伴う、の間で質量スペクトル交互に収集するように、質量分析計を制御することができることをさらに理解されたい。断片化を伴う、および断片化を伴わない個々の質量スペクトルは、イオン組成、ある化学基の存在、ある構成要素の存在に関する定量的情報等が挙げられるが、これらに限定されない、情報を抽出するために、数学的ツールによってさらに処理することができる。
【0051】
いずれにしても、関心のある範囲外のイオンがイオンビームからフィルタリングされ、イオンビームの中の関心のある範囲内のイオンを残すように、四重極質量フィルタ140を帯域通過モードで動作させることによって、ラップアラウンドの問題に対処する。さらに、イオンビームから関心のある範囲外のイオンを取り除くことによって、ToF検出器160の検出能力に対処し、これは、ToF検出器160の寿命も長くする。
【0052】
当業者であれば、いくつかの実施形態において、質量分析計100の機能性は、予めプログラムされたハードウェアもしくはファームウェア要素(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、電気的消去可能プログラマブルROM(EEPROM)等)、または他の関連する構成要素を使用して実装できることを理解するであろう。他の実施形態において、質量分析計100の機能は、計算装置の動作のためのコンピュータが読み取り可能なプログラムコードを記憶する、コードメモリ(図示せず)にアクセスする計算装置を使用して達成することができる。コンピュータが読み取り可能なプログラムコードは、固定され、有形であり、かつこれらの構成要素によって直接的に読み取り可能である、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶することができる(例えば、可撤性ディスケット、CD−ROM、ROM、固定ディスク、USBドライブ)。代替として、コンピュータが読み取り可能なプログラムコードは、遠隔で記憶することができるが、伝送媒体上でネットワーク(インターネットが挙げられるが、これに限定されない)に接続されたモデムまたは他のインターフェースデバイスを介して、これらの構成要素に伝送可能であり得る。伝送媒体は、非無線媒体(例えば、光、および/またはデジタル、および/またはアナログ通信線)もしくは無線媒体(例えば、マイクロ波、赤外線、自由空間光学、または他の伝送スキーム)、またはそれらの組み合わせとなり得る。
【0053】
当業者は、実施形態を実装するためのさらに多くの代替の実装例および修正例があること、および前述の実装例および実施例は、1つ以上の実施形態の例証に過ぎないことを理解するであろう。したがって、範囲は、本明細書に添付される特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計においてイオンをフィルタリングする方法であって、該質量分析計は、イオンガイドと、四重極質量フィルタと、衝突セルと、飛行時間(ToF)検出器とを備え、該質量分析計は、イオンビームを該ToF検出器に透過することが可能であり、
該方法は、
該イオンビームの中のイオンが実質的に断片化されないままであり、該四重極質量フィルタが、該イオンガイドおよび該衝突セルのうちのいずれかの圧力よりも実質的に低い圧力で動作するように、該質量分析計をMSモードで動作させることと、
関心のある範囲外のイオンを該イオンビームからフィルタリングして、該イオンビームの中の該関心のある範囲内のイオンを残すように、該四重極質量フィルタを帯域通過モードで動作させることと、
該関心のある範囲内の該イオンを該ToF検出器で分析することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記関心のある範囲の低質量境界および高質量境界は、前記四重極質量フィルタに印加されるRF電圧およびDC電圧の組み合わせによって規定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記四重極質量フィルタに印加される前記RF電圧および前記DC電圧は、該四重極質量フィルタの安定線図に基づいて決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記関心のある範囲外のイオンが前記イオンビームからフィルタリングされるように、前記四重極質量フィルタを帯域通過モードで動作させることは、該四重極質量フィルタの安定線図上の動作線の傾斜が変化することによって、前記低質量境界および前記高質量境界を制御するように、前記RF電圧および前記DC電圧を調整することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記安定線図は、マシューの方程式から導出される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記RF電圧および前記DC電圧は、前記質量分析計で獲得される異なる透過ウィンドウについてデータを補間することによって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記関心のある範囲内の前記イオンを前記ToF検出器で分析することは、前記質量分析計のデューティサイクルを増加させるように、ToF抽出をオーバーパルシングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記関心のある範囲の幅を前記オーバーパルシングと協調させることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記衝突セルからのイオンを前記ToF検出器で分析する前に、前記衝突セルを介して、前記イオンビームの中の前記関心のある範囲内の前記イオンを断片化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記衝突セルを介して、前記イオンビームの中の前記関心のある範囲内の前記イオンを断片化することは、該関心のある範囲内のイオンの運動エネルギーを、前記断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、および前記衝突セルの圧力を、該断片化を引き起こすのに十分な値に制御することのうちの少なくとも1つによって起こる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記衝突セルの中の前記関心のある範囲内の前記イオンを断片化することと、該関心のある範囲内のイオンが、断片化されずに該衝突セルを通過することを可能にすることとを交互に行うことと、分析のために、前記ToF検出器において、断片化されたイオンおよび断片化されていないイオンの質量スペクトルを収集することとをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
関心のある断片化された範囲外の前記イオンの少なくとも一部分が前記イオンビームからフィルタリングされ、該イオンビームの中の該関心のある断片化された範囲内のイオンを残すように、RF電圧およびDC電圧の組み合わせを前記衝突セルに印加することによって、該衝突セルを帯域通過モードで動作させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記イオンガイドおよび前記衝突セルの圧力は、mトルの範囲であり、前記四重極質量フィルタの前記圧力は、10−5トルの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
イオンをフィルタリングする質量分析計であって、
該質量分析計は、
イオンガイドと、四重極質量フィルタと、衝突セルと、飛行時間(ToF)検出器とを備え、該質量分析計は、
該イオンガイドから該ToF検出器にイオンビームを透過することと
該イオンビームの中のイオンが、実質的に断片化されていないままであり、該四重極質量フィルタが、該イオンガイドおよび該衝突セルのうちのいずれかの圧力よりもかなり低い圧力で動作するように、MSモードで動作することと
関心のある範囲外のイオンが該イオンビームからフィルタリングされて、該イオンビームの中の該関心のある範囲内のイオンを残すように、該四重極質量フィルタを帯域通過モード動作させることと、
該関心のある範囲内の該イオンを該ToF検出器で分析することと
を行うことが可能である、質量分析計。
【請求項15】
前記関心のある範囲の低質量境界および高質量境界は、前記四重極質量フィルタに印加されるRF電圧およびDC電圧の組み合わせによって規定される、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記四重極質量フィルタに印加される前記RF電圧および前記DC電圧は、前記四重極質量フィルタの安定線図に基づいて決定される、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記関心のある範囲外のイオンが前記イオンビームからフィルタリングされるように、前記四重極質量フィルタを帯域通過モードで動作させるために、前記質量分析計は、該四重極質量フィルタの前記安定線図上の動作線の傾斜が変化することによって、前記低質量境界および前記高質量境界を制御するように、前記RF電圧および前記DC電圧を調整することがさらに可能である、請求項16に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記RF電圧および前記DC電圧は、前記質量分析計で獲得される異なる透過ウィンドウについてデータを補間することによって決定される、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記関心のある範囲内の前記イオンを前記ToF検出器で分析することは、前記質量分析計のデューティサイクルを増加させるように、ToF抽出をオーバーパルシングすることを含む、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記関心のある範囲の幅を前記オーバーパルシングと協調させることがさらに可能である、請求項19に記載の質量分析計。
【請求項21】
前記衝突セルからのイオンを前記ToF検出器で分析する前に、該衝突セルを介して、前記イオンビームの中の前記関心のある範囲内の前記イオンを断片化することがさらに可能である、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項22】
前記衝突セルを介して、前記イオンビームの中の前記関心のある範囲内のイオンを断片化することは、該関心のある範囲内のイオンの運動エネルギーを、該断片化を引き起こすのに十分な値に制御すること、および、前記衝突セルの圧力を、該断片化を引き起こすのに十分な値に制御することのうちの少なくとも1つによって起こる、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記衝突セルの中の前記関心のある範囲内の前記イオンを断片化することと、該関心のある範囲内の前記イオンが、断片化されずに該衝突セルを通過することを可能にすることとを交互に行うこと、ならびに、分析のために、前記ToF検出器において、断片化されたイオンおよび断片化されていないイオンの質量スペクトルを収集することがさらに可能である、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項24】
関心のある断片化された範囲外の前記イオンの少なくとも一部分が前記イオンビームからフィルタリングされ、該イオンビームの中の該関心のある断片化された範囲内のイオンを残すように、RF電圧およびDC電圧の組み合わせを衝突セルに印加することによって、前記衝突セルを帯域通過モードで動作させることがさらに可能である、請求項21に記載の質量分析計。
【請求項25】
前記イオンガイドおよび前記衝突セルの圧力は、mトルの範囲であり、前記四重極質量フィルタの前記圧力は、10−5トルの範囲である、請求項14に記載の質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−504146(P2013−504146A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−527166(P2012−527166)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【国際出願番号】PCT/CA2010/001357
【国際公開番号】WO2011/026228
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】