説明

質量分析計におけるイオンの断片化

本発明は、試料の衝突エネルギーを調節する質量分析計に関する。質量スペクトル解析の間にイオンの断片化を制御するためのシステム、方法、またはコンピュータ使用可能な媒体が開示される。質量分析計内において開始衝突エネルギーが提供され、試料から生成された複数の前駆体イオンの少なくとも一つを断片化させて、複数の娘断片イオンを生産する。質量分析計内の、断片化していない前駆体イオンに関連するイオン電流および娘イオン断片に関連するイオン電流が測定される。そして、娘イオン断片の電流に対する、断片化していない前駆体イオンに関連するイオン電流の比率が測定される。質量分析計内で提供される衝突エネルギーが調節されて、比率が所定の範囲の値へと動かされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、2006年1月11日に出願された、表題「Fragmenting Ions in Mass Spectrometry」の米国仮特許出願第60/757,867号(この全体の内容が、参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
本発明は質量分析計に関し、特に、試料の衝突エネルギーを調節する質量分析計に関する。
【0003】
質量分析技術には、質量分析計内における物理的変化を経たイオンの検出を伴いうる。多くの場合、物理的変化には、選択された前駆体(または「親」)イオンの断片化、および、得られた断片イオンの質量スペクトルの記録を伴う。断片イオンの質量スペクトルの情報は、前駆体イオンの構造解明に役立つことが多い。質量分析/質量分析(MS/MSまたはMS)スペクトルを得るために用いられる一般的なアプローチは、適切な質量―電荷(m/z)分析器により、選択された前駆体イオンを単離し、前駆体イオンを中性のガスとエネルギー衝突させて、得られた断片イオンの質量を分析することにより、質量スペクトルを生成するものである。
【0004】
三連四重極質量分析計(TQMSs)は、衝突セルと呼ばれることもある、断片化工程のための加圧反応領域により分離された、二つの四重極質量分析器を用いて、MS/MS分析を行う。第一の四重極質量分析器が、試料混合物の目的のイオンまたは前駆体イオンを、不活性のバックグラウンドガスを含む衝突セルに選択的に透過させる。中性のガス原子または分子と衝突すると、衡突誘起解離(CID)により断片が生産される。その後、断片が第三の四重極質量分析器に透過し、質量分析される。これらの断片から、前駆体イオンの構造を含めた化学情報を得られる。
【0005】
四重極―飛行時間型(QqTOF)質量分析計は、TQMSシステムにおいて使用される第三の四重極のセットの代わりに、飛行時間型(TOF)質量分析器を通常用いる。MS/MS技術におけるTOF分析器の利用により、広範囲の高速反復スキャンが必要な場合の能力が改善される。TOF分析器によって、例えば、広範なm/z比にわたって完全なスキャンデータが得られ、各スキャンがミリ秒以下の時間枠で完了される。単一の質量スペクトルを蓄積することにおいて多数のスキャンが所望され得る点で、これは特に有益である。
【0006】
質量分析器から選択された前駆体イオンの衝突セル内の断片化の性質は、衝突セル内で前駆体イオンに与えられる衝突エネルギー(CE)に依存する。CE(断片化エネルギーと呼ばれることもある)は、イオンが衝突セルに入る際に有する、および/または衝突セル内にあるイオンに与えられる、運動量または入射エネルギー(injection energy)、および衝突セル内に提供される任意のガス(単数または複数)の圧力を含む要素の関数である。
【0007】
前駆体イオンからさらに情報を得るために、上で概説したMS/MSスキームに、さらなるMSのステージを適用し、MS/MS/MSまたはMSを得られる。例えば、断片イオンが共鳴励起されてさらなるCIDが促進されるイオントラップとして衝突セルが操作されうる。たとえば、Douglas等の名により2000年6月8日に公開された、特許文献1を参照。その場合には、TQMSデバイスの第三の四重極は、得られる断片化スペクトルを記録する質量分析器として機能する。
【0008】
MSおよびMS技術においては、前駆体イオンの電荷状態および質量に基づいて、最適な衝突エネルギーが選択されうる。たとえば、参考として全体が本明細書に援用される、非特許文献1を参照。この情報は理論的には知られているが、実際には最適な衝突エネルギーに近似することは困難であり得、有用なスペクトルを生み出すためには、時間および試料を費やす数度の試みが必要なことが多い。例えば、最適でない衝突エネルギーの使用は、前駆体イオンの過剰な断片化または不十分な断片化、および入手可能な構造情報の量および質の大幅な低下をもたらしうる。得られたスペクトルにおける前駆体イオンの維持は、断片化の程度を測定するための標準イオンを提供する上で有用でありうる。
【0009】
改善されたイオンの断片化スペクトルを得るための代替的なアプローチは、Bloomfield等の名において2004年3月4日に公開された、特許文献2に記載される。
【特許文献1】国際公開第00/33350号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0041090号明細書
【非特許文献1】Haller等、J.Am.Soc.Mass Spectrom.1996年,7,677―681
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
要約
一般的に本発明は、イオンの断片化を制御するために有用なシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品に関する。このような制御は、例えば、娘イオンおよび残留前駆体イオンの標的化された分布を有する質量スペクトルを得る上で有用である。本明細書の開示にしたがい、前駆体イオンに与えられる衝突エネルギーを、最も好ましくは実時間で変化させることにより、断片化の制御が達成される。実時間で追跡される断片イオンの分布は、使用されている衝突(または断片化)エネルギーに関連する。
【0011】
本発明の一態様によれば、改善されたイオン断片化は、
(i) 質量分析計内に提供される開始衝突エネルギーにおいて、試料から生成された複数の前駆体イオンの少なくとも一つを断片化させて、複数の娘イオン断片を作る工程と、
(ii) 質量分析計内における断片化していない前駆体イオンに関連する全イオン電流を測定する工程と、
(iii) 質量分析計内における娘イオン断片に関連するイオン電流を測定する工程と、
(iv) 娘イオン断片に関連する電流に対する断片化していない前駆体イオンに関連する電流の比率を測定する工程と、
(v) (i)において質量分析計内に提供される衝突エネルギーを調節して、比率を所定の範囲内の値に動かす工程と、
(vi) 比率の値を所定の範囲にするために、(i)〜(v)を必要に応じて反復する工程
により得られる。
【0012】
最適な衝突エネルギーは、さまざまな方法で決定されうる。一つの適切な様式は、たとえばHaller等、J.Am.Soc.Mass Spectrom.1996,7,677―681に記載されるように、前駆体イオンの電荷状態および質量に基づく。
【0013】
関連技術の当業者には当然のことながら、イオンに与えられる衝突エネルギーは、さまざまな方法により与えられ調節されればよく、その多くは公知であり、その他は今後間違いなく開発される。例えば、衝突セルに入る際のイオンの運動量は、たとえば、本明細書に記載されるように、質量分析計の様々な構成要素の相対的電圧を調節することにより、および/または構成要素内のガスの相対的圧力を調節することにより、調節されうる。さらに、たとえば四重極または他のイオンガイドまたはイオントラップ内において、高周波(radio−frequency)(AC)、高周波(radio frequency)(RF)、および/または定常状態(直流またはDC)励起を用いて半径および/または軸方向に励起させることにより、イオンを質量分析計内で励起させうる。質量分析計内のイオンに与えられるエネルギーを調節し、これによりイオンの断片化を制御する任意の方法であって、本明細書の開示と合致するものは、本発明を実施するために適切である。
【0014】
本明細書に記載されるプロセスは、適切なコンピュータプログラミングを用いて操作される自動化された制御システムなど、適切なデバイスの実行および利用によって、自動化様式で実施されるのが好ましい。自動化されたプロセスが用いられる場合には、分析者は例えば、介入する必要が一切なくなり得る。さらに分析者は、分析プロセスの開始時または分析プロセスの間に、初期の開始条件など適切な入力を提供することが可能になる。初期の開始条件には、任意の相互作用に適用される開始衝突または断片化エネルギー(CE)、および衝突エネルギーの変更などが含まれうる。このような変更は、たとえば一定であってもよいし、たとえば、現在の反復に適用されるエネルギーと、所望の断片化または衝突エネルギー値との間の測定された差の関数として変化してもよい。
【0015】
適切な開始エネルギーは、例えば、Haller等、J.Am.Soc.Mass Spectrom.1996,7,677―681に記載されるように、前駆体イオンの電荷状態および質量を用いて決定されてもよい。
【0016】
本明細書に記載される、適切なコンピュータ制御プログラムと組み合わせた自動化された質量分析器を用いた本発明の実施により、7回またはそれ以下の反復において、一電子ボルト(1eV)の範囲内までの最適な衝突または断片化エネルギーを取得できることが期待される。適切な衝突エネルギーが、わずか2回以内の反復で得られることが多い。
【0017】
他の態様においては、本発明は、そのようなプロセスの実施における使用に適した、装置およびコンピュータプログラム製品を提供する。
【0018】
本発明が添付の図面に示されるが、これらは例示的であり制限的ではなく、類似の参照は類似または対応する部分をさすものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
例示的実施形態の詳細な説明
図1および2は、本発明を実施するための使用に適した質量分析計10、10’のシステムブロック図である。図1および2に示された質量分析計10、10’は、TQMSおよびQqTOFの構成を含む。しかし、関連技術の技術者には当然のことながら、本発明を実施するための使用に適した様々な質量分析計の構成が現在利用可能であり、今後間違いなく開発される。たとえば、四重極およびTOFにもとづくデバイスに加えて、適切に適合されたイオントラップおよびフーリエ変換デバイスを用いたデバイスも、本発明を実施する際の使用に適切である。特に、本発明の範囲を制限するものではないが、任意の種類のタンデム型または反復型(たとえばMS)質量分析計が、本発明を実施する際の使用に適切である。
【0020】
図1および2に示される質量分析計10、10’の各々には、イオン供給源12が含まれ、これには、例えばエレクトロスプレー、イオンスプレー、またはコロナ放電デバイス、または他の公知の供給源または後に開発される供給源で、本明細書に記載の発明を実施するための使用に適するものが挙げられ得る。供給源12からのイオンは、開口プレート16の開口14を通って、カーテンガスチャンバ18内へと導かれうる。カーテンガスチャンバ18には、ガス供給源(図示せず)から、アルゴン、窒素、またはその他の、好ましくは不活性のガスなどのカーテンガスが供給され得る。カーテンガスおよびカーテンガスチャンバ18を導入および使用するための適切な方法は、たとえば、Cornell Research Foundation,Inc.に対する米国特許第4,891,988号に開示されており、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0021】
イオンは、カーテンガスチャンバ18からオリフィスプレート20のオリフィス19を通過して、差動排気真空チャンバ(differentially−pumped vacuum chamber)21内へと通されうる。関連技術の技術者には当然のことながら、カーテンガスチャンバ18の使用およびチャンバ18、21内のガス圧力差を用いて、供給源12から放出されたイオンの所望の組を、所望の態様で質量分析計10’内を通過させうる。かかるイオンはその後、スキマープレート24の開口22を通過して、第二の差動排気真空チャンバ26内へと通されうる。通常は、伝統的に実行されるシステムにおいては、チャンバ21の圧力は、1または2トルのオーダーで維持され、質量分析計の本来の第一のチャンバとして説明されることが多いチャンバ26の圧力は、約7または8ミリトルの圧力に排気される。
【0022】
チャンバ26内には、従来のRFのみのガイドなどを含みうる、多重極イオンガイドQ0が提供されうる。現在では、多くの新しい種類のイオンガイドが提供されており、本開示を理解した関連技術の技術者には当然のことながら、そのうちのいくつかまたは全ては、本明細書に開示の発明を実施するために適切である。イオンガイドQ0は、例えば、質量分析計内に存在するイオン流を冷却し、集束させる役割をすることができ、チャンバ26内に存在する比較的高いガス圧力によって、そのような機能を補助しうる。チャンバ26は、通常は大気圧で作動するイオン供給源12と、より低い圧力の真空チャンバ21、26の間にインタフェイスを提供する役割も果たし、これにより、イオン流から受けとったガスをさらなる処理の前に制御する役目をする。
【0023】
図1および2に示される実施形態においては、四重極間(interquad)開口IQ1が、チャンバ26からのイオン流を第二メイン真空チャンバ30内へ提供する。第二チャンバ30内においては、Brubakerレンズとして役割を果たしうる、(軸方向の長さが短いロッドを示す「stubbies」を表わすSTと記されている)RFのみのロッドが提供されうる。四重極ロッドセットQ1も真空チャンバ30内に提供されればよく、約1〜3×10−5トルに排気されうる。チャンバ30には、たとえば、参考としてその内容の全体が本明細書に援用される米国特許第6,111,250号においてThomsonおよびJolliffeにより教示されるように、34で衝突ガスが供給され、出口端に向かってバイアスされた軸方向電場を提供するように設計されうる衝突セル32内に、第二四重極ロッドセットQ2も提供されればよい。セル32は、チャンバ30の中に提供され、どちらかの端に四重極間開口IQ2、IQ3を含みうる。伝統的に実行されるシステムにおいては、セル32は通常、5×10−4〜8×10−3トルの範囲の圧力に、より好ましくは、約5×10−3トルの圧力に維持される。
【0024】
図1に示される実施形態においては、質量分析計10は、レンズ129とTOF質量分析器130とを含む。当業者には当然のことながら、現在では、様々なTOF質量分析器の構成が利用可能であることが知られており、今後間違いなく開発される。前述のとおり、本明細書に開示の目的に適する任意の質量分析器および他デバイスが、本発明の実施に適切である。
【0025】
図1に示される実施形態においては、イオンがチャンバ30を出ると、フォーカシンググリッド129および開口128を通過して、分析器130のイオン貯蔵ゾーン134へと通される。関連技術の技術者には当然のことながら、イオンは貯蔵ゾーン134に集められ、グリッド135で印加される電気パルスおよび加速カラム138を用いて、ウィンドウ135を通過してメインチャンバまたは飛行管144へと通される。図のように、TOF分析器130の遠位端、および検出器142にイオンミラー140が提供されうる。
【0026】
グリッド136および加速カラム138で提供される電場の影響下において、矢印150によって示されるように、イオン雲146が、イオンミラー140へ向けて加速された後、検出器142内へと加速されうる。関連技術の技術者には当然のことながら、雲146のイオンの質量―電荷(m/z)比は、適切なタイミングと、136、138、および146で印加される電場の分析により測定されうる。
【0027】
TQMS分析器10’を表わす、図2に示される実施形態では、イオンは35で示される第三の四重極ロッドセットQ3内に入り、出口レンズ40を通ってチャンバ32を出る。Q3の領域の圧力は、Q1の圧力と同じ、すなわち1〜3×10−5トルでありうる。出口レンズ40から出るイオンを検出するために、検出器76が提供される。
【0028】
図1および2に示される実施形態では、質量分析計10、10’は、コントローラ160を含む。コントローラ160は、質量分析計10、10’および関連するデバイスにより取得またはその他の方法で提供されたデータシグナルを受け取り、保存し、あるいは処理するように適合され得、本明細書に開示されるように、質量分析計10、10’内でイオンに与えられる衝突エネルギーを調節および/またはその他の方法で制御するために適合していればよい。コントローラ160はさらに、たとえばキーボードなど、システムのユーザ(単数または複数)からシステムコマンドを受け、実行するために適切な入力/出力デバイス、マウスおよびトラックボールなどのポインティングおよび制御デバイス、ならびに、陰極線管、または液晶ダイオード(LCD)、または発光ダイオード(LED)にもとづくスクリーンなどのディスプレイを含む、MSシステム10、10’を制御するために適切なユーザインタフェースを提供しうる。特に、コントローラ160は、検出器142、76により取得されたデータを処理し、かかるデータの処理により少なくとも部分的に決定されたコマンドシグナルを、質量分析計10、10’に与えるように適合されていればよい。
【0029】
関連技術の技術者には当然のことながら、コントローラ160には、本明細書に記載の目的を達成するために適切な、任意のデータ収集および処理システム(単数または複数)またはデバイス(単数または複数)が含まれうる。コントローラ160は、例えば、適切にプログラムされているかプログラム可能な、一般的または特定の目的をもったコンピュータ、または他の自動データ処理デバイスを含みうる。コントローラ160は、例えば、質量分析計10、10’により実施されるイオン検出スキャンを制御およびモニタするように;本明細書に記載されるように、提供された供給源13および衝突チャンバ32により、質量分析計10、10’によるそのようなイオンの検出データを取得および処理するように;および、質量分析計10、10’の様々な構成要素に与えられる様々なRF、DC、およびAC電圧、および質量分析計10、10’の様々なセクション内のガス圧力を制御するように、適合されうる。
【0030】
したがって、コントローラ160は、一つ以上のアプリケーションおよびオペレーティングシステムを含む、適切にコード化された構造化されたプログラミングによる、および、任意の必要または所望の一時的および永続的記憶装置による、自動および/または対話制御に適する、一つ以上の自動データ処理チップ、ならびに、スイッチ、リレーおよびデバイスコントローラ等の任意の適切な関連ハードウェアを含みうる。本開示を理解した関連技術の技術者には当然のことながら、本発明の実施に適切な、様々なプロセッサおよびプログラム言語が、現在市販されており、今後間違いなく開発される。適切なプロセッサおよびプログラミングを含む適切なコントローラの例は、カナダ、オンタリオ州のMDS Sciexより入手可能なAPI3000TMまたはAPI400TMMSシステムに組み込まれているものである。
【0031】
様々なRFおよびDC電圧および補助ACを様々な四重極に提供するための、電源37、36、および38が提供され、コントローラ160の制御下で操作されうる。Q0は、例えば、参照により内容が本明細書に援用される米国特許第4,963,736号に教示されるように、イオンを冷却および集束させる機能の、RFのみの多重極イオンガイドQ0として操作されうる。さらなる例としては、Q1は、RF/DC電場および電圧を用いた分解四重極として用いられうる。電源37、36により提供されるRFおよび/またはDC電圧は、コントローラ160の使用により、またはコントローラ160を使用して、目的の前駆体イオン、またはm/zが所望の範囲のイオンだけをQ2に透過させるように選択されうる。目的の前駆体イオンおよび/または所望のm/zの範囲の前駆体イオンは、任意の適切な手段を使用して決定されうる。例えば、一つ以上のそのような値を知っている人間のユーザが、コントローラ160による解読、保存、および/またはその他の処理のための制御システムソフトウェアを含めた、適切に適合された入力/出力デバイスを用いて、それらの値をコントローラ160に入力しうる。
【0032】
さらに、供給源34から衝突セルQ2(32)に衝突ガスが供給され、前駆体イオンを解離または断片化させて第一世代またはそれ以降の世代の娘断片イオンが生産されうる。DC電圧も、(前述の電源または異なる供給源の一つ以上を使用して)プレートIQ1、IQ2、IQ3および出口レンズ40に印加されうる。以下により詳細に議論されるように、前駆体イオンがQ2に入る際の入射エネルギーを変化させるために、電源36、37および/または38の出力、および/またはIQ1、IQ2、IQ3におけるプレートに印加されるRFおよび/またはDC電圧(単数または複数)を、手動またはコントローラ160の制御下で変化させうる。図2に示される実施形態においては、Q3は、軸方向放出技術を用いて質量に依存した様式でイオンを捕捉してQ3からスキャンアウト(scan out)する、リニアイオントラップとして操作されうる。
【0033】
衝突セルQ2(32)を含め、質量分析計10、10’の一つ以上の任意の段階において、前駆体および断片イオンのエネルギーおよび移動を制御するために、前述のように、電源36、37、38の任意の一つ以上:デバイスQ0、ST、Q1、Q2、Q3の電極の電圧およびIQ1、IQ2、およびIQ3における電圧;18で提供されるカーテンガスの圧力、および、チャンバ21、26、30、および32で提供される圧力、ならびに、質量分析器130、76の一つ以上の任意の構成要素が、本明細書に記載のとおりコントローラ160により制御されうる。
【0034】
図1および2に示される実施形態においては、従来技術において知られているように、イオン供給源12からのイオンは、真空チャンバ30に導かれればよく、そこで必要に応じて、前駆体イオンのm/z(すなわち質量電荷比の範囲)が、四重極ロッドセットに印加されるRFおよび/またはDC電圧の操作をとおして、Q1により選択されうる。前駆体イオンの選択後には、たとえば、参照により内容が本明細書に援用される米国特許第5,248,875号に教示されるように、前駆体イオンが、適切に選択されたQ1とIQ2の間の電圧降下(または上昇)によりQ2内へと加速され、これにより所望の入射エネルギーで前駆体イオンが入射され、断片化が誘発されうる。たとえば、カナダ、オンタリオ州のMDS Sciexより入手可能なAPI3000TMまたはAPI400TMMSシステムのような適切に適合されたデバイスにおいては、所望の入射エネルギーに応じて、Q1とIQ2の間に約0〜150ボルトのDC電圧降下が提供されうる。
【0035】
衝突セル32内のイオンの断片化の程度は、衝突セルおよび/または四重極Q2内の圧力、およびQ1とIQ2の間の電圧差によって、部分的に制御されうる。好ましい実施形態では、前駆体イオンに印加される入射エネルギーを変化させるために、質量分析計10、10’の様々な構成要素内の圧力、およびQ1とIQ2の間のDC電圧差が、コントローラ160により自動的に、またはシステム10、10’のユーザのコマンド入力に応じて、制御されうる。あるいは、コントローラ160および/またはユーザにより、Q1とQ2、IQ1とIQ2、IQ1とQ1、Q0とIQ1との間の電圧および圧力を変化させることにより、前駆体イオンに印加される入射エネルギーを変化させうる。同様に、テーパの程度によって入射エネルギーを変化させるために、テーパ状のロッドセットを使用しうる。衝突セル32内でイオンを半径および/または軸方向に励起させるなど、衝突セルに入射されるイオン流に印加される電圧を変化させるための他の手段も可能である。
【0036】
本発明の実施形態による質量分析計の一般的な操作工程が、図3に示される。図3に示されるプロセス300は、例えば、コントローラ160の完全または一部自動制御下における、質量分析計10、10’、および/または本明細書に開示の目的と匹敵した他の質量分析計の任意のものなどの、質量分析計による実施に適する。プロセス300は、特定のCEでの、100msなどの特定の時間のMS/MSスペクトルを得るのに適する。
【0037】
302で、例えば100msなど所望の時間のMS―MSスペクトルが得られる。MS―MSスペクトルは、所望の前駆体イオン組を衝突条件に供して目的の娘イオン組を生産することにより得られる。たとえば、このような前駆体イオン組を、衝突セルQ2(32)において、所望の予め決められたCEを含む環境の所望のセットに供し得る。あらゆる残留前駆体イオン、およびこうして生産された娘イオンのイオン電流を表すスペクトルが得られる。
【0038】
304では、必要に応じて、任意の適切な技術(単数または複数)により、スペクトルを生成するために用いられるシグナルから、化学的/電気的ノイズが排除される。多くの適切な技術が現在利用可能であり、その他は今後間違いなく開発される。
【0039】
306では、前もって設定されたCEでの衝突から生じた目的の娘イオン断片の電流の強度に対する親イオンの電流の強度の比率(「イオン電流比率」)が、本明細書に開示の目的に適した任意の方法を用いて測定される。
【0040】
308では、302で生産およびスキャンされたイオンのイオン電流比率が高すぎるか、低すぎるか、または所望の限度の範囲内かが判定される。
【0041】
イオン電流比率が低すぎる場合には、たとえばQ1およびIQ2間に誘起された相対的電圧および/または衝突チャンバ32内の相対的ガス圧力を減らすことにより、310でCEが減少されうる。
【0042】
比率が高すぎる場合には、314でCEを増加させうる。比率が所望または他に許容できる限度の範囲内である場合には、CEは現在の値で維持されうる。
【0043】
316では、所望のイオン電流および/または所望のスペクトル強度が得られたかが判定されうる。所望の結果が得られている場合には、プロセス300が停止され、他の場合には、結果が得られるまでプロセスが繰り返されうる。
【0044】
最初の一連の実験から得られた結果が、図4に示される。記載されたプロセスにより、断片化エネルギーと質量の初期の関係を一切定めずに、適切な断片化効率を選択することが可能になるが、試料の性質により、良い開始点の手掛かりが与えられることが多い。ここでは、試料のペプチドの性質および単一荷電状態により、約50eV/1000Daという質量とCEの間の有用な近似的関係が示唆される。
【0045】
経験的に得られるこのような関係は、ペプチドの他の電荷状態および他の非ペプチド化合物について知られている。(たとえば、Haller等、J.Am.Soc.Mass Spectrom.1996,7,677―681を参照)。しかし、同じ化合物クラスであっても同一の質量のイオンの構造の多様性が断片化に大きく影響しうるため、関係はゆるやかな近似にとどまり、公式というよりはガイドラインである。適切に構成されたコンピュータプログラミングとあわせて実施される本明細書に記載のプロセスを用いて、そのような比率を実験的に測定できる。
【0046】
単一の分析に、多様な化合物クラスの複数のMS/MSが必要な場合には、最適な断片化効率を提供するためにかかる方程式を導くことは不可能でありうる。本明細書に記載される方法により、理論上のではなく実際の断片化パターンに基づいて独立してMS/MSスペクトルを最適化することにより、システム10、10’が迅速かつ好ましくは自動的に、最適な効率に到達することが可能になる。選択された初期の開始断片化条件が理想からかけ離れた場合であっても、反復的フィードバックにより、条件が速やかに最適なポイントへ移動される。
【0047】
CEは、例えば、前回の反復の値からCEを10%変化させることにより、反復するごとにその現在値の任意の適切な割合だけ変更されうる。多くの場合には、最適な値を通り越す可能性が高くなりうるため、大きな変更を回避することが好ましい。同様に、多くの場合には、小さな変更により、必要な反復の数が非常に多くなりうる。関連技術の技術者には当然のことながら、CEの相対的変化が、現在実行された反復におけるスペクトルの質および/またはイオン電流比率などの要因により決定されるような、動的に制御されたCE変動工程を有することも可能である。このようなプロセスは、コントローラ160内において適切に構成されたコンピュータプログラムを操作する、適切に構成された自動データ処理デバイスを用いた実施に適切である。
【0048】
いくつかの場合には、たとえば、理想からかけ離れているCEのほうが、理想により近いCEよりも大きく変更されるように、各反復において、目標値に対する断片イオン対親イオンの比率の近さとの関係で、衝突エネルギーの変更の大きさを計算することが有益でありうる。したがって、各反復におけるCEの変化は、CE値が最適に近づくにつれ減少しうる。このアプローチは、最適な断片化条件を達成する上で最も効率的な想定であるが、いくつかの他の方法も利用可能であり、一定の条件において有利でありうる。
【0049】
たとえば、衝突エネルギーでの娘または前駆体イオンの強度の相対的変化を用いて、所望の衝突エネルギーを予測できる。さらに、MSスキャンにおいて前駆体イオンが自動的に選択される場合には、MSスペクトルにおける前駆体イオンの強度を用いて、断片に対する前駆体イオンの比率と対比して、MS/MS収集における前駆体イオンの標的イオン強度を設定できる。
【0050】
衝突または断片化エネルギーの所望の変化を決定するための使用に適した関係の例は、
ΔCE=mln(測定された比率)+Bであり、
本開示を理解した関連技術の技術者には当然のことながら、mおよびBは、実験から導かれる定数である。
【0051】
図4は、それぞれ(A)74eV、(B)94eV、および(C)95.5eVに等しい別個のCE値で得られた、タンパク質のウシ血清アルブミンから得た三つの異なるペプチドの断片化パターンを示すスペクトルプロットである。プロットを準備するために使用されたデータは、本発明によりCEを反復することなく得られた。
【0052】
図5は、本発明による分析から得られた、図4で分析されたペプチドの最終的な断片化パターンを示すスペクトルプロットである。図5のスペクトルプロットは、図4に示される分析において印加されたのと同じ初期衝突エネルギーを用いた分析から得られた。しかし、衝突はその後本発明にしたがい、計算された断片化効率に基づき、目標の親/断片イオン分布にしたがって自動的に増減され、または変更されずにおかれた。図5に示されるスペクトルは、複数の衝突エネルギーのレベルで得られた断片化スペクトルの和として解釈されうる。示された具体例においては、衝突エネルギーは(a)増加させられ、(b)不変にとどめられ、(c)減少させられた。
【0053】
図5に示される例における各スキャンの累積時間は、250msであり、複数のスキャンが合計されて図の各スペクトルが生成された。各スキャンは、80amuおよび280amuの二つのQ2RF工程から成った。最初のスキャンが完了し、スペクトルが現在の断片化条件を完全に表わすように統計学的に有効な数のイオンがMS/MSスペクトルに存在するまで、断片化効率は計算されなかった。これらの条件を達成する際には、断片娘イオンに対する親イオンのカウントの比率が、アルゴリズム的に測定された。この例では、上述のより効率的かつ比例的な調節とは対照的に、各反復において一定の衝突エネルギーの調節が行われた。娘イオン対親イオンの比率が高い場合には衝突エネルギーを15%増加させ、値が低い場合には15%減少させ、値が選択された許容範囲内に収まった場合には、値は不変とした。
【0054】
いくつかの場合には、衝突エネルギーを迅速に最適値に調節できるように、スキャンを可能な限り速い速度で得ることが有益である。そのような場合および他の場合には、断片化エネルギーを変更する決定が、ユーザの目的の質量の範囲だけではなく、検出器により記録される全てのイオン事象に基づいてなされることが有益でありうる。
【0055】
本明細書に記載の実施例の目的においては、所与の数の全断片イオンが記録されるか、または約2秒の蓄積時間に達するまで、各スペクトルが蓄積された。
【0056】
図6は、本発明に従い、改善されたイオン断片化を得、および/または最適な衝突または断片化エネルギーを特定する方法を示す流れ図である。
【0057】
602では、所望の断片化または娘イオンを得るために、一つ以上の前駆体イオンが選択される。例えば、所望の分析を実施するために、図1および2に示される質量分析計10、10’のユーザは、質量分析計10、10’内に所望のMS/MSスキャン条件を設定し、適切な物質を含む試料のイオン化を生じ、所望の前駆体イオン(単数または複数)が衝突セルQ2(32)内に入射されるように適合されたコマンドおよび/またはデータシグナルを、適切に構成されたユーザインタフェースを使用して、コントローラ160に与えることができる。たとえば、四重極セットQ1は、ガス圧力および電源36により提供されるRF/DC電圧の適切な組み合わせを用いて、所望の初期または開始CEにおいて所望の前駆体イオン(単数または複数)だけが衝突セルQ2(32)内に入射されるように構成されうる。
【0058】
604では、衝突セルQ2(32)は、所与のm/zの範囲内の、たとえば所望の値に等しいかそれ未満のm/zの範囲を有する、全イオン断片を、質量分析器130、35に透過させるように構成されうる。たとえば、適切に構成されたユーザインタフェースが、一つ以上の選択された範囲内の断片化イオンを衝突セルQ2(32)に放出させるための、コントローラにより解釈可能なシグナルを、コントローラ160に与えるように適合されてもよい。このような方法が現在うまく適用されているタイプの多くの分析においては、衝突セルQ2(32)は、二つ以上の特定のm/z値を有する断片イオンを放出するように構成されうる。例えば、適切に構成された電圧ランプまたは他の電磁パルスを衝突セルq2(32)に通すことにより、m/zスペクトルの一つ以上の所望の部分のイオンが質量分析器35、130に放出され得る。本発明によりイオンを衝突セルから放出するための使用に適した多くの技術が現在知られており、今後間違いなく開発される。
【0059】
606では、衝突セルQ2(32)からの透過ウインドウ(transmission window)の期間が設定される。多くの分析においては、分析の目的および質量分析計機器10、10’の感度と合致する、可能な限り短く最も速やかに繰り返されるサイクルに透過ウインドウを設定することが有益でありうる。これにより、たとえば統計学的に有意な方法により、得られたm/zスペクトルを最も短時間で評価することが可能になる。たとえば、本明細書に記載されるタイプの装置を現在の実験室の操作条件下で使用して、スペクトルが100ms毎に得られ、本明細書に記載されるように、ユーザに指定された蓄積時間が達成されるまで、または、ユーザが決定または所望するエンドスキャン条件が生じるまで合計される。
【0060】
608では、衝突セルQ2(32)内において、初期または開始衝突エネルギー(CE)が設定される。本明細書に記載されるように、初期CEは、たとえば以前の経験および/または最善の経験に基づいた推測を含む、任意の適切な基準により設定されうる。所定の機器構成について一定の値が確立され得るか、または、分析したい前駆体イオン(単数または複数)の電荷およびm/zに基づく値が使用され、または化合物構造技術を使用して推定され得る。
【0061】
610では、スキャンサイクルが開始される。イオン供給源12からイオンが提供され、たとえば上記の手順にしたがって処理される。
【0062】
612では、衝突チャンバQ2(32)から提供されるイオンの検出から提供されるデータが、好ましくは実時間で(すなわち、可能性のある最小限の遅延で)処理される。全ての所望の前駆体および娘イオンの全カウント(すなわちイオン電流)を表わすデータは、さらなる処理のために保存されうる。たとえばランダムアクセスまたはFLASHメモリ、ディスク保存など、コントローラ160にアクセスでき、好ましくはコントローラ160により制御可能な、任意の適切な一時的または永続的メモリを使用して、保存が提供されうる。
【0063】
イオンカウント(すなわち、イオン電流)を表す所望の量のデータが集められたら、614で、娘イオン電流に対する前駆体イオン電流の比率が計算されうる。
【0064】
616では、娘イオン電流に対する前駆体イオン電流の比率が判定される。判定された比率および分析の目的によって、多くの様々な行動がとられうる。たとえば、比率が前もって決定された所望の範囲内であり、断片化プロセスが所望の効率で進んでいることが示される場合には、618で、プロセス600が停止され、所望の分析におけるさらなる工程があれば行われうる。
【0065】
比率が所望の範囲から外れる場合には、620で、スペクトルにおいて検出される全イオンカウントが判定されうる。判定されたイオンカウントおよび分析の目的によって、多くの様々な行動がとられうる。たとえば、全イオンカウントが所望の閾値以下である場合は、622で、所望の閾値レベルが達成されるまでCEを新しいレベルにリセットする一切の決定を延期させるためのフラグが設定され、処理は、たとえば工程またはステージ610など、プロセスの以前のポイントに戻りうる。
【0066】
620で、所望の閾値レベルのイオンがカウントされたと判定され、616でイオン電流比率が所望の範囲から外れたと判定された場合には、624で、たとえば衝突セルQ2(32)によって印加されるCEを含む、質量分析計システム10、10’の構成が調節されうる。
【0067】
616、620で、CEをリセットするか、他の方法で質量分析計10、10’を再構成するか否かを判定する際の使用に適するイオン電流の範囲の例は、0.01〜0.25の範囲である。この範囲が、発明者により良好な結果をもって用いられている。
【0068】
本発明にしたがって分析を行う際に、衝突セルQ2(32)内において印加されるCEの変化を決定するために有用な、実験的に導かれる公式の例は、
CEの変化=4.5ln(比率)+13.5
である。
【0069】
CEは電子ボルト(eV)で測定される。この公式は、様々な状況で優れた結果を提供することが発明者により分かっている。
【0070】
624における質量分析計Q2(32)の再構成の一部として、たとえば新しいCEが設定された時間、分析のポイントなど、状況を表すデータが、将来の処理および参照のために、好ましくはコントローラ160にアクセス可能でありコントローラ160により制御可能なメモリに保存されうる。さらに、全前駆体シグナルおよび全断片シグナルを追跡するメモリバッファが変更またはリセットされうる。
【0071】
プロセス610〜624は、たとえば出力m/zスペクトルが明確さの所望のレベルになるように所望の量のデータが集められるまで、または、所望のウインドウのデータが記録されるまで、繰り返されうる。
【0072】
本発明が好ましい実施形態と関連して図と共に説明されたが、関連技術の技術者には当然のことながら、本発明の精神と範囲から逸脱することなく多くの変更および修正がなされうる。したがって、かかる変更および修正が本発明の範囲内に含まれるため、本発明は、上で記載した方法論または構造の細かな詳細に限られるものではない。プロセス自体に必要であるか内在する場合を除き、図を含めて、本開示に記載される方法またはプロセスの工程またはステージの特定の順序は一切示唆されない。多くの場合、プロセス工程の順序は、記載の方法の目的、効果、または重要性を変えることなく変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明を実施するための使用に適した質量分析計のシステムブロック図である。
【図2】図2は、本発明を実施するための使用に適した質量分析計のシステムブロック図である。
【図3】図3は、本発明により、イオン断片化の改善を達成し、および/または最適な衝突または断片化エネルギーを特定する方法を示す流れ図である。
【図4】図4は、それぞれ(A)74eV、(b)94eV、および(c)95.5eVの衝突エネルギーで得られた、タンパク質のウシ血清アルブミンから得た三つの異なるペプチドの断片化パターンを示すスペクトルプロットである。
【図5】図5は、本発明による分析から得られた、図4で分析されたペプチドの最終的な断片化パターンを示すスペクトルプロットである。
【図6】図6は、本発明により、イオン断片化の改善を達成し、および/または最適な衝突または断片化エネルギーを特定する方法を示す流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量スペクトル解析の間に、イオンの断片化を制御する方法であり、
(i) 質量分析計内に提供される開始衝突エネルギーにおいて、試料から生成された複数の前駆体イオンの少なくとも一つを断片化させて、複数の娘イオン断片を作る工程と、
(ii) 該質量分析計内の断片化していない前駆体イオンに関連するイオン電流を測定する工程と、
(iii) 該質量分析計内の該娘イオン断片に関連するイオン電流を測定する工程と、
(iv) 該娘イオン断片に関連する該電流に対する該断片化していない前駆体イオンに関連する該電流の比率を測定する工程と、
(v) (i)において該質量分析計内に提供される該衝突エネルギーを調節して、該比率を所定の範囲または値に動かす工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記比率を前記所定の範囲にするために、必要に応じて(i)〜(v)を繰り返す工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記衝突エネルギーが、関係:
ΔCE=mln(イオン電流比率)+B
を用いて決定される量により調節され、ΔCEが該衝突エネルギーが調節される変化であり、mおよびBが理論的解析および実験の少なくとも一つにより導かれる定数である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記衝突エネルギーが、関係:
ΔCE=4.5ln(イオン電流比率)+13.5(eV)
を用いて決定される量により調節される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
質量スペクトル解析の間に、イオンの断片化を制御するのに有用なシステムであり、該システムは、
(i) 質量分析計内に提供される開始衝突エネルギーにおいて、試料から生成された複数の前駆体イオンの少なくとも一つを断片化させて、複数の娘イオン断片を作り、
(ii) 該質量分析計内の断片化していない前駆体イオンに関連するイオン電流を測定し、
(iii) 該質量分析計内の該娘イオン断片に関連するイオン電流を測定し、
(iv) 該娘イオン断片に関連する該電流に対する該断片化していない前駆体イオンに関連する該電流の比率を測定し、
(v) (i)において該質量分析計内に提供される該衝突エネルギーを調節して、該比率を所定の範囲または値に動かす
ように適合されたコントローラを含む、システム。
【請求項6】
前記コントローラが、前記比率を前記所定の範囲にするために、(i)〜(v)を必要に応じて繰り返すように適合された、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記衝突エネルギーが、関係:
ΔCE=mln(イオン電流比率)+B
を用いて決定される量により調節され、ΔCEが該衝突エネルギーが調節される変化であり、mおよびBが理論的解析および実験の少なくとも一つにより導かれる定数である、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
前記衝突エネルギーが、関係:
ΔCE=4.5ln(イオン電流比率)+13.5(eV)
を用いて決定される量により調節される、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
質量分析計が、
(i) 質量分析計内に提供される開始衝突エネルギーにおいて、試料から生成された複数の前駆体イオンの少なくとも一つを断片化させて、複数の娘イオン断片を作り、
(ii) 該質量分析計内の断片化していない前駆体イオンに関連するイオン電流を測定し、
(iii) 該質量分析計内の該娘イオン断片に関連するイオン電流を測定し、
(iv) 該娘イオン断片に関連する該電流に対する該断片化していない前駆体イオンに関連する該電流の比率を測定し、
(v) (i)において該質量分析計内に提供される該衝突エネルギーを調節して、該比率を所定の範囲または値に動かす
ようにするためのコンピュータ読み取り可能なコードがその中に統合された、コンピュータ使用可能な媒体。
【請求項10】
前記比率を前記所定の範囲にするために、前記質量分析計に、(i)〜(v)を必要に応じて繰り返させるように適合されたコードを含む、請求項9に記載の媒体。
【請求項11】
前記衝突エネルギーが、関係:
ΔCE=mln(イオン電流比率)+B
を用いて決定される量により調節され、ΔCEが該衝突エネルギーが調節される変化であり、mおよびBが理論的解析および実験の少なくとも一つにより導かれる定数である、請求項9に記載の媒体。
【請求項12】
前記衝突エネルギーが、関係:
ΔCE=4.5ln(イオン電流比率)+13.5(eV)
を用いて決定される量により調節される、請求項11に記載の媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−523234(P2009−523234A)
【公表日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549730(P2008−549730)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際出願番号】PCT/CA2007/000050
【国際公開番号】WO2007/079589
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(505377197)エムディーエス インコーポレイテッド ドゥーイング ビジネス スルー イッツ エムディーエス サイエックス ディヴィジョン (12)
【出願人】(505310541)アプレラ コーポレイション (12)
【Fターム(参考)】