説明

質量分析計に関する改良

本発明は、未反応イオンと反応生成物イオンの両方から質量スペクトルを収集する、反応セルを含む質量分析計に関する。より詳細には(但し、他を除くものではない)、本発明は、前駆物質およびフラグメントイオンから質量スペクトルを収集するタンデム型質量分析法に使用できることが分かった。本発明は、イオンを、質量分析器へ送る前に、フラグメント化またはその他の処理のための反応セルへ送る配置を提示する。あるいは、イオンは、迂回経路に沿って質量分析器へ直接進むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未反応イオンと反応生成物イオンの両方から質量スペクトルを収集する、反応セルを含む分析計(mass spectrometer)に関する。より詳細には、本発明は(但し、他を除くものではない)、前駆物質およびフラグメントイオンから質量スペクトルを収集するタンデム型質量分析法に使用できることが分かった。
【背景技術】
【0002】
質量分析計は一般に、分析物をイオン化し、抽出して質量分析器(mass analyser)へ送り出すイオン源を含んでいる。イオン光学系(optics)は、質量分析計の中を通るイオンを制御する。イオン源と質量分析器との間のイオン経路は、1つ以上のイオントラップ/イオン貯蔵部を含み、更に追加の質量分析器を含んでいても良い。このような追加質量分析器は、プレスキャン(すなわち、イオンの初期同定に用いられる低分解能質量スペクトル)を手早く取得するためにしばしば使われる。他の質量分析器は、分解能の高いものとなる傾向がある。
【0003】
最も広い意味において、本発明は、分析するイオンの数を変えるため反応セルを選択的に使用する質量分析法に関するものである。“反応”とは、いくつか例を挙げるならば、質量分別、他イオンの導入、イオンのフラグメント化、イオンの反応による新しい分子種の生成、あるいはイオンのエネルギーまたは荷電状態の変化など、イオン数を変える全ての作用である。もちろん、反応セル中でこれらを組み合わせても良い。多くの場合、未反応イオンと生成物イオンの両方から質量スペクトルを収集することが好ましい。これにより差スペクトルが得られ、生成物イオンが容易に同定できる。
【0004】
従来のタンデム型質量分析計では、イオン源と高分解能質量分析器との間のイオン経路上に反応セルも存在する。その結果、全てのイオンが反応セルを通って高分解能質量分析器に到達しなければならない。前駆物質イオンの質量スペクトルが必要な場合には、反応セルを不活性化しなければならない。多くの場合、質量分析計では、前駆物質と生成物イオンとからの質量スペクトルの取得の間で連続的にスイッチを切り替えるため、反応セルの作動も反応と非反応との間で連続的に切り替えなくてはならない。これは、最も良い場合でも時間遅延とイオン損失を招き、最悪の場合は(例えば、反応性ガスとの反応により)、分析時間内でこのように切り替えることが不可能となる。
【0005】
本発明について更に詳しく示すため、タンデム型質量分析法について少々述べる。タンデム型質量分析法は、反応セル中での前駆物質イオンのフラグメント化を含むものである。フラグメント化は多くの方法、例えば、電子捕獲解離(ECD)、衝突誘導解離(CID)、光子誘導解離(PID)、表面誘導解離(SID)、電子移動解離(ETD)などで行うことができる。タンデム型質量分析法では、その狭義の意味において、フラグメント化は一段階のみであるため、前駆物質と最初に発生したフラグメントイオンのスペクトルしか取れない。しかし、フラグメントイオン自体がフラグメント化するよう、更にフラグメント化段階を行っても良い。これはMSn分析法と呼ばれ、nは選択のレベルを示す。タンデム型質量分析法はMS2に相当する。
【0006】
典型的なタンデム型質量分析計は、Hunt DF, Buko AM, Ballard JM, Shabanowitz J, and Giordani AB; Biomedical Mass Spectrometry, 8 (9) (1981) 397-408(四重極により前駆物質とフラグメントの両方が選択される); H.R. Morris, T. Paxton, A. Dell, J. Langhorne, M. Berg, R.S. Bordoli, J. Hoyes and R.H. Bateman; Rapid Comm. in Mass Spectrom; 10 (1996) 889-896 などの論文、および米国特許第6285027B1号(前駆物質を四重極で選択し、フラグメントを飛行時間型(TOF)分析器を用いて分析する)などの多くの特許に開示されている。これらの質量分析計はいずれも、イオン源と質量分析器との間のイオン経路上に設けられたフラグメント化セルを備えている。このため、前駆物質イオンの質量スペクトルが必要な場合には、反応セルを不活性化しなければならない。CIDではこのとき、フラグメント化セルから衝突ガスを排出する必要があり、これは時間のかかる工程である。
【0007】
よりスループットの高いフラグメント化は、米国特許出願公開第2002/115,056号、米国特許出願公開第2002/119,490号、および米国特許出願公開第2002/168,682号に提示されている。ここでは全ての前駆物質に対して同時にイオンフラグメント化を行っており、速度を優先するため特異性を犠牲にしている。
【0008】
米国特許第6,586,727号は、フラグメントイオンからスペクトルを収集する際にはフラグメント化に有利になるよう反応セルを操作し、前駆物質イオンからスペクトルを収集する際にはフラグメント化が少なくなるよう反応セルを操作する、折衷案を提案している。前駆物質およびフラグメントイオンから得たスペクトルより、それぞれ、対象とするフラグメントイオン、または所定の中性損失(neutral loss)によって分離した前駆物質/フラグメントピーク対を探す。続くタンデム型質量分析法のため、同定された対を選んでも良い。信頼性の高い同定のためには、前駆物質およびフラグメント質量ピークの両方のm/zを、数ppmの正確さで求めなければならない。故に、このような同時処理法では、FT−ICR、単反射TOFまたは多反射TOF、オービトラップ(orbitrap)など、その全てがほぼパルス型で操作される、正確な質量分析器を用いる必要がある。しかし、米国特許第6,586,727号では、反応セルから出た連続イオンビームは、伝達性およびデューティーサイクルの非常に低い、直交加速型TOF検出器でサンプリングされるため、この方法の感度は低下してしまう。また質量分析計の設計は、フラグメント化を行っている間に前駆物質スペクトルを取得することを想定していない(これは、ETD、ECD、IRMPDなど、比較的フラグメント化の遅い方法には非常に有利と考えられる)。一般にこのような装置は直線状の結合構造をしているため、この新しい方法を組み込むのは非常に困難であり、また分析性能を低下させてしまう。
【0009】
国際公開第97/48120号は、飛行時間型(TOF)質量分析器を用いたタンデム型質量分析計を述べている。通常とは異なり、TOF検出器の上方に、反応セルを設けている。イオン源で発生した前駆物質イオンは、側面からTOF分析器へ排出されてイオン鏡で反射される。前駆物質イオンの質量スペクトルが必要とされる場合、反射された前駆物質イオンがTOF分析器の検出素子に入るようにイオン鏡を操作する。フラグメントイオンを対象とする場合は、反射されたイオンが検出素子に入らず、代わりにTOF分析器から出てフラグメント化が行われる反応セルに入るよう、イオン鏡を操作する。反応セルから排出されたフラグメントイオンは、フラグメントイオンを反射して検出素子に入るようイオン鏡を操作した、TOF分析器へ戻る。この結合構造により反応セルの設計と操作は非常に融通の利くものとなるが、直交方向へのパルス発生の低いデューティーサイクルによりイオンの損失が高くなるため、その有用性は限られる。
【0010】
上記の質量分析計は、既に述べたフラグメント化/非フラグメント化モード間の切り替えの問題の他にも、多くの問題を抱えている。スペクトルは全てのフラグメントイオンから同時に取得される。その結果、フラグメントスペクトルが非常に混み合うため、検出できる前駆物質/フラグメント対の数が制限される。更にこれは、調査対象となるイオン強度のダイナミック・レンジに悪影響を及ぼす(すなわち、強度の低い前駆物質ピークが見過ごされるおそれがある)。
【0011】
【非特許文献1】Hunt DF, Buko AM, Ballard JM, Shabanowitz J, and Giordani AB; Biomedical Mass Spectrometry, 8 (9) (1981) 397-408
【非特許文献2】H.R. Morris, T. Paxton, A. Dell, J. Langhorne, M. Berg, R.S. Bordoli, J. Hoyes and R.H. Bateman; Rapid Comm. in Mass Spectrom; 10 (1996) 889-896
【特許文献1】米国特許第6285027B1号
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/115,056号
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/119,490号
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/168,682号
【特許文献5】米国特許第6,586,727号
【特許文献6】国際公開第97/48120号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の質量分析計の制限を、1)フラグメント化するイオンと、フラグメント化しないイオンとが辿る、質量分析計の中を通るイオン経路を物理的に分けることで、また、2)その後、フラグメント化した、またはフラグメント化していないイオンを精密な質量分析器へパルスとして注入するため、共通のユニットを使用することで、無くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この背景に対抗するものとして、また第1の態様より、本発明は、イオン源と反応セルと質量分析器とを含む質量分析計である。この質量分析計は、主イオン経路と枝イオン経路とを持つことを特徴とする。主イオン経路はイオン源と質量分析器との間に伸びている。主イオン経路は、主イオン経路または枝イオン経路のいずれかに沿って、イオンがイオン源から下流へ移動するように選択的に導くよう操作可能なイオン光学系から成る接合部において枝イオン経路と交わる。枝イオン経路は、接合部、あるいは、主イオン経路および枝イオン経路の両方から流れ込むイオンを質量分析器に向けて導くよう操作可能な追加のイオン光学系から成る追加の接合部のいずれかにおいて、質量分析器の上流の主イオン経路に合流する。反応セルは、枝イオン経路の別の部分に置かれている。質量分析器のすぐ上流のイオン光学系は、イオンのパルスを主イオン経路に沿って質量分析器へ導くよう操作可能である。
【0014】
分析器に向かう主イオン経路ではなく枝イオン経路上に反応セルを置くということは、前駆物質イオンから質量スペクトルを収集する際に反応セルが迂回されることを意味している。この結果、反応セルを繰り返しオン/オフに切り替える必要がなくなり、反応セルを常にオンの状態としておいて、接合部のイオン光学系を、イオンを反応セルへ導く場合と、イオンのパルスとして質量分析器へ向ける場合とで切り替えるだけで良い。一般に、イオン光学系の切り替え速度は反応セルのオン/オフを切り替える速度より速い(特に、反応ガスまたは熱陰極がある場合)。気体充填型セルではイオン走行時間も短縮される(一般に、数〜数十ミリ秒)。
【0015】
比較的遅いフラグメント化法(ETD、ECD、IRMPDなど)では、枝経路にイオンを閉じ込め、その間に前駆物質の質量分析に主経路を用いると都合が良いであろう。
【0016】
“主”イオン経路および“枝”イオン経路とは単に相対的な言い方であり、“主”の語が付いたからといって特に重要である必要はないことは理解されよう。このため、主イオン経路が実際には枝イオン経路より短かい、あるいは構成要素が少ないこともある。
【0017】
有益なことに、質量分析器の直上のイオン光学系は、イオンをイオンのパルスとして質量分析器へ放出するよう操作可能である。一般に、同じm/zのイオンのパルス持続時間は1ミリ秒以下が好ましく、望ましくは10マイクロ秒以下である。最も望ましい形態は、0.5マイクロ秒以下(これは約400〜2000のm/zに用いられる)の短いイオンパルスである。あるいは、特にm/zに広がりのあるイオンパルスでは、放出されるパルスの空間長は1m以下、望ましくは50mm以下である。最も望ましい形態は約5〜10mm、またはそれより短いイオンパルスである。最も望ましい形態は、オービトラップ型分析器や多反射型TOF分析器などの静電型質量分析器に特に有益である。
【0018】
反応セルを枝イオン経路の末端に置いても良い。このように配置すると、反応セルが枝イオン経路からイオンを受け取り、イオンに処理を行い、生成物イオンを枝イオン経路に沿って上流方向へ戻るように排出し、接合部において主イオン経路に合流させるよう操作可能である。再び接合部に達すると、接合部のイオン光学系は、イオンを主イオン経路に沿って下流の質量分析器へ導くよう操作可能である。
【0019】
あるいは反応セルを、第2の接合部で主イオン経路と合流する枝イオン経路の途中に置いても良い。第2接合部は、主イオン経路と枝イオン経路の両方から流れ込むイオンを質量分析器に向けて導くよう操作可能なイオン光学系を備えている。この配置では、反応セルが枝イオン経路からイオンを受け取り、イオンに処理を行い、生成物イオンを枝イオン経路の延長に沿って下流方向の追加接合部へ排出するよう操作可能である。
【0020】
いずれの場合も、質量分析器の直前の接合部は、イオンを溜め、後に溜めたイオンをパルスとして質量分析器へ放出することができる。
【0021】
第2の態様より、本発明は長軸を持つ質量分析計であって、この質量分析計は、前記軸に沿ってイオンを放出するイオン源と、前記軸上に設けられた入り口を備えた反応セルと、質量分析器と、第1モードと第2モードとの間で切り替え可能なイオン光学系とを含むものである。第1モードでは、イオン源からのイオンは前記軸に沿って前記反応セルへ導かれ、反応セル中で生成した生成物イオンは分析のための質量分析器へ導かれる。第2モードでは、イオン源からのイオンは前記軸から偏向され、反応セルに入ることなく分析のための質量分析器へ導かれる。
【0022】
望ましくは、質量分析器はイオン源と質量分析器とを結ぶ主イオン経路上にある。反応セルは接合部で主イオン経路と交わる枝イオン経路上にあり、接合部は主イオン経路または枝イオン経路のいずれかに沿って選択的にイオンを導くよう操作可能なイオン光学系を備えている。枝イオン経路と、接合部より上流の主イオン経路の部分とは、長軸に沿って伸びている。
【0023】
第3の態様より、本発明は長軸を持つ質量分析計であって、この質量分析計は、前記軸に沿ってイオンを放出するイオン源と、反応セルと、前記軸上に設けられた入り口を備えた質量分析器と、第1モードと第2モードの間で切り替え可能なイオン光学系とを含むものである。第1モードでは、イオン源からのイオンは前記軸から偏向されて反応セルへ導かれ、反応セル中で生成した生成物イオンは前記軸へ戻って質量分析器の前記入り口へ導かれる。第2モードでは、イオン源からのイオンは前記軸に沿って、反応セルに入ることなく分析のための質量分析器へ導かれる。
【0024】
望ましくは、質量分析器は、長軸に一致する主イオン経路上にあり、反応セルは、接合部で主イオン経路と交わる別の枝イオン経路上にあり、接合部は、主イオン経路または枝イオン経路のいずれかに沿って選択的にイオンを導くよう操作可能なイオン光学系を備えている。
【0025】
必要に応じて、第2および第3の態様に従った質量分析計は、イオンをイオンのパルスとして質量分析器に送るよう配置されている。
【0026】
必要に応じて、質量分析計は更に、接合部および/または追加の接合部に置かれたイオントラップを含んでいても良い。これにより、イオンを捉えた後、そのまま主イオン経路に沿って、または枝イオン経路へ放出することができる。一般に望ましい実施の形態では、イオントラップは曲線状トラップである。イオンは、反応セルに対して軸方向に、質量分析器に対して直交方向に放出される。直交方向への放出は、イオントラップの曲線を利用してイオンを収束できるため有利である。
【0027】
必要に応じて、反応セルは、衝突誘導解離用の気体充填型衝突セル、更にイオンを導入するためのイオン源を備えたセル(例えば、ETDまたは電荷減少(charge reduction)用)、光子誘導結合用のレーザー源を備えたセル、表面誘導解離用の表面を備えたセル、電子捕獲解離用の電子源を備えたセル、イオンの不安定性または電荷フィルタとして働くDCまたは電界非対称イオン移動度(field-asymmetric ion mobility)分光計、あるいは上記の組み合わせのいずれであっても良い。
【0028】
質量分析計は更に、第1および第2モードに従って質量分析計の作動を制御するよう操作可能なコントローラを含んでいても良い。第1モードは、イオン源がイオンを発生する工程と、イオン光学系がイオンを接合部へ導く工程と、接合部のイオン光学系がイオンを反応セルへ導く工程と、反応セルがイオンに処理を行って生成物イオンを生成する工程と、イオン光学系が生成物イオンを質量分析器へ導く工程と、質量分析器が、生成物イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを取得する工程とを含む。第2モードは、イオン源がイオンを発生する工程と、イオン光学系がイオンを接合部へ導く工程と、接合部のイオン光学系がイオンを質量分析器へ導く工程と、質量分析器が、イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを取得する工程とを含む。
【0029】
注目すべき重要な点は、2つのモードを同時に実行できることである。例えば、第1群のイオンを反応セル中で処理している間に、生成物の質量スペクトルを生成するため、第2群のイオンを何ら妨害を受けることなく質量分析器へ向けて流すことができる。
【0030】
必要に応じて、質量分析計は更に、反応セルによって生成した生成物イオンを分別するよう操作可能なフィルタを含んでいても良い。このフィルタは、質量またはエネルギー(あるいは、質量分析計中でイオンの質量とエネルギーとの間に深い関係がある場合には、実際上その両方)に基づいてイオンを分別するよう操作可能である。例えば、所望の質量範囲のイオンを選ぶことができる。
【0031】
特に便利なフィルタは、枝イオン経路の末端にある反応セルに備えられたものであろう。生成物イオンを反射して枝イオン経路に沿って戻すためにイオン鏡を用いる。所望の上限エネルギーまたは質量以下のイオンを反射するようイオン鏡の電位を印加する。反射されたイオンに相対するように、もう一つの電位を印加する。この電位は、この閾値を超えるイオンだけがそれを検出する質量分析器へ流れて行くよう、下限エネルギーまたは質量を定めるために印加する。このようにして上限と下限の間のエネルギーまたは質量を持つイオンのみが通過して質量分析器へ戻り、その他のイオンは全て排除される。
【0032】
第4の態様より、本発明は、第1群のイオンを、イオン源から主イオン経路に沿って質量分析器へ導き、第1群イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを得る工程と、第2群のイオンを、イオン源から枝イオン経路に沿って、主イオン経路から外れている反応セルへ導き、反応セル中で生成物イオンを生成し、生成物イオンを、枝イオン経路に沿って導いて主イオン経路に合流させ、生成物イオンを主イオン経路に沿って質量分析器へ導き、生成物イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを得る工程と、を含む質量分析法である。
【0033】
有利なことに、これにより質量分析計が作動している間中、反応セルを連続的に作動させることができる。別な言い方をするなら、反応セルに流入するイオンに処理を行って生成物イオンを生成するよう反応セルを作動モードにしたまま、イオン経路を、反応セルへ続く枝イオン経路と、反応セルを迂回する主イオン経路との間で切り替えることで、得られる質量スペクトルを、生成物イオンのものと前駆物質イオンのものとに替えることのできる、前駆物質および生成物イオンから質量スペクトルを収集するための質量分析計の操作法を提示する。
【0034】
必要に応じて上記の方法を、前駆物質イオンにフラグメント化を行ってフラグメントイオンとすることで生成物イオンを生成する、タンデム型質量分析法に用いても良い。イオンを“反応”させるには他の方法を用いても良い。本質的に反応セルは何らかの方法で反応セル中のイオンの数を変える。イオン自体が変わり(例えば、フラグメント化または反応により)、イオンが加わり(例えば、較正物(calibrants))、イオンが除かれ(例えば、質量またはイオン移動度選択に従って)、あるいはイオンの性質が変化する(例えば、その運動または内部エネルギーなど)。
【0035】
複雑な混合物の分析には、質量分析計を2段階で用いることができる。実験の第1段階では、質量選択を行わず、全ての前駆物質イオンとこれら前駆物質イオンのフラグメントとを質量分析器で測定する。この2つの質量スペクトルを比較し、m/zまたはm/zの違いから、前記生成物イオンのどれが前駆物質イオンのどれに対応するかを同定する。信頼性の高い同定を行うには、m/zまたはm/zの違いは、a)0.01%、b)0.002%、c)0.001%、d)0.0005%、e)0.0002%より良好な正確さで測定すべきである。質量の正確さが上がると、誤認の確率(chances of false positives)は下がる。
【0036】
対象とする前駆物質を同定後、フィルタを使用するよう質量分析計を切り替え、対象とする1つまたはいくつかの前駆物質だけを一群のイオンから単離し、単離したイオンだけを枝イオン経路に沿って反応セルへ向けることができる。こうしてこの選択された対象前駆物質から得られたフラグメントイオンを、次に質量分析器へ運んで、フラグメントスペクトルを得る。またこれを、データベースで検索することができる。
【0037】
本発明の方法は更に、既に先で述べたような質量またはエネルギーフィルタリングを含んでいても良い。
【0038】
本発明はまた、上記のいずれかの方法に従って質量分析計が作動するよう操作可能なコントローラである。本発明は更に、上記のコントローラ上で実行させると、上記の方法のいずれかに従って質量分析計を作動させるコンピュータプログラム命令を含むコンピュータプログラムと、このようなコンピュータプログラムを運搬するコンピュータ読み取り可能な媒体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明をより理解し易くするため、添付図を参照しながら代表的な実施例について述べる。
【0040】
本発明は、反応セルと、別のイオン経路上に設けられた質量分析器とを備えた質量分析計を提示する。この配置はいくつかの方法で実現できる。図1に、4つの可能な形態をごく簡単な形で示す。
【0041】
図1aは、イオン源20と、主イオン経路40上に置かれた質量分析器30と、枝イオン経路60上に置かれた反応セル50とを含む質量分析計10の配置を示している。図1a〜図1dでは、主イオン経路を実線40、枝イオン経路を点線60で示している。質量分析計10は、イオン源20から質量分析器30へ伸びる主イオン経路40に一致した長軸12を持つ。主イオン経路40は、イオン源20から、イオン光学系によって形成された接合部70へ伸びる第1枝40aを持つ。主イオン経路40の第2枝40bは、接合部70から質量分析器30へ続いている。枝イオン経路60は、接合部70から反応セル50へ伸びている。枝イオン経路60を長軸12に対して直角に示しているが、他の角度を選んでも良い。イオン光学系70は、選択的に次の3ルートのいずれかに沿ってイオンを導くよう操作可能である。(i)主イオン経路40の第1枝40aから第2枝40bへ、(ii)主イオン経路40の第1枝40aから枝イオン経路60へ、(iii)枝イオン経路60から主イオン経路40の第2枝40bへ。
【0042】
作動中、質量分析計10は、前駆物質イオンまたは生成物イオンのどちらからも質量スペクトルを収集するよう操作できる。前駆物質イオンからスペクトルを収集する場合、イオン源20で前駆物質イオンを生じ、これを接合部70へ導く。ここでイオン光学系が前駆物質イオンを主イオン経路40の第2枝40bに沿って質量分析器30へ直接導き、質量分析器30で質量スペクトルを収集する。生成物イオンから質量スペクトルを収集する場合、イオン源20で発生した前駆物質イオンを接合部70のイオン光学系で偏向させ、枝イオン経路60に沿って反応セル50へ運ぶ。反応セル50中で前駆物質イオンから生成物イオンが生成する。生成物イオンは枝イオン経路60に沿って接合部70へ戻り、ここでイオン光学系が生成物イオンを偏向させて、主イオン経路40の第2枝40bから質量分析器30へ送り、質量分析器30で生成物イオンの質量スペクトルを収集する。全ての図において、イオントラップ、四重極、および飛行時間型などに含まれる質量分析の追加工程を、イオン源20と接合部70との間に組み込むことができる。
【0043】
図1bは、質量分析器30と反応セル50とを入れ替えた以外は図1aとほぼ同じである、別の配置を示している。その結果、主イオン経路40の第1枝40と枝イオン経路60とが長軸12に沿って伸びることになる。前駆物質イオンから質量スペクトルを収集している間、イオン源20で生成した前駆物質イオンは接合部70へ導かれ、ここでイオン光学系がイオンを偏向して主イオン経路40の第2枝40bに沿って質量分析器30へ向ける。図では直角に偏向するように示されているが、他の角度を選んでも良い。生成物イオンから質量スペクトルを収集する間、前駆物質イオンは単に、接合部70を通り、枝イオン経路60に沿って反応セル50へ導かれる。生成物イオンが生成すると、生成物イオンは接合部70へ戻り、ここでイオン光学系により偏向されて主イオン経路40の第2枝40bに沿って質量分析器30へ運ばれる。
【0044】
望ましくは、図1aおよび図1bのいずれも、イオンをパルスとして質量分析器30へ送るよう接合部70のイオン光学系を操作する。
【0045】
図1aおよび図1bの質量分析計10はいずれも長軸12を持ち、その上に質量分析器30または反応セル50のどちらかが置かれている。別の配列では長軸12を持たない。例えば、接合部70のイオン光学系は、質量分析器30と反応セル50の両方に対して直交方向にイオンを偏向するものであっても良く、これにより、例えばT型の質量分析計ができる。また、偏向角が直角より小さければY型の質量分析計ができる。
【0046】
図1aおよび図1bの実施の形態では、生成物イオンは、前駆物質イオンが反応セル50に入る方向と逆向きに反応セル50から出ていかなければならない。図1cおよび図1dは、生成物イオンが、前駆物質イオンが反応セル50に入る方向と同じ向きに反応セル50から出ていく質量分析計10を示している。
【0047】
図1cは、その長軸12と一致した主イオン経路40を備えた質量分析計10を示している。枝イオン経路60は、第1接合部70aで主イオン経路40から別れ、第2接合部70bで再び主イオン経路40と合流し、この枝イオン経路60上に反応セル50が置かれている。その結果、主イオン経路40は、(i)イオン源20から第1接合部70aの間に伸び、質量分析計10を通る全てのイオンに共通する、第1枝40a、(ii)第1接合部70aと第2接合部70bとの間に伸び、枝イオン経路60に平行に走る第2枝40b、(iii)第2接合部70bから質量分析器30へ伸び、質量分析計10を通る全てのイオンに共通する第3枝40c、の3つの部分から成ることになる。
【0048】
前駆物質イオンから質量スペクトルを得る場合、イオン源20で発生したイオンを主イオン経路40の第1枝40aに沿って第1接合部70aへ導く。このイオン光学系は単に主イオン経路40の第2枝40bに沿ってほぼ同じ方向に更にイオンを導く。前駆物質イオンが第2接合部70bに到達すると、イオン光学系は再びイオンを主イオン経路40の第3枝40cを通る経路に沿って質量分析器30へ導く。望ましくは、第2接合部70bのイオン光学系は、質量分析器30へイオンをパルスとして放出するよう操作する。
【0049】
生成物イオンから質量スペクトルを収集する場合、イオン源20で生じた前駆物質イオンは第1接合部70aへ達し、ここでイオン光学系は、枝イオン経路60に沿って反応セル50へイオンを逸らせる。ここで、前駆物質イオンから生成物イオンが生成する。図1aおよび図1bの実施の形態では、イオンを、反応セル50中に捕捉して元の方向に放出するか、反射しなければならない。図1cの実施の形態では、所望ならばイオンを捕捉しても良いが、イオンは単に反応セル50を通り抜けるだけで、この間に反応することができる。反応セル50を出た生成物イオンは第2接合部70bに達し、ここでイオン光学系によりその経路が変えられ、生成物イオンは主イオン経路40に合流して質量分析器30へ至る。
【0050】
図1dの質量分析計10は、主イオン経路40の第2枝40bと枝イオン経路60とを入れ替えられた以外はほぼ同じである。その結果、反応セル50は、質量分析計10の長軸12上になる。前駆物質イオンから質量スペクトルを収集する場合、イオン源20で生じたイオンは、第1接合部70aでイオン光学系によって逸らされ、反応セル50を迂回して伸びる主イオン経路40の第2枝40bを流れる。その後、前駆物質イオンは再び曲げられて主イオン経路40上に戻り、第3枝40cを通って質量分析器30へ流れる。生成物イオンから質量スペクトルを採る場合、第1接合部70aのイオン光学系は単に、長軸12に沿って流れるよう前駆物質イオンを導き、これにより前駆物質イオンは枝イオン経路60を辿って反応セル50に至り、ここで反応して生成物イオンを生成する。生成物イオンは、引き続き枝イオン経路60に沿って第2接合部70bへ流れ、ここから長軸12に従って質量分析器30へ導かれる。
【0051】
もちろん、図1cおよび図1dに似た他の配置も可能である。例えば、質量分析器30を長軸12上に置かず、軸から外れて反応セル50と並べて置いても良い。これは、イオンはどのようなイオン経路を通っても一つの接合部70でのみ偏向されることを意味し、接合部70aで偏向されて反応セル50および接合部70bへまっすぐ進むか、あるいはその逆である。反応セル50と質量分析器30の両方を長軸12から外れて置くこともできる。例えば、長軸12の両側に、例えば同じ距離で離して置いても良い。
【0052】
以上より明らかなように、質量分析器10に別々のイオン経路、一つは反応セル50を通り、もう一つは反応セル50を迂回する経路を設ける。このようにすると、反応セル50を常に作動状態におき、前駆物質イオンの走査が必要な場合は、イオンに反応セル50を迂回させるだけで未反応のまま残すことができる。生成物イオンの走査が必要な場合は、イオン光学系70を素早く切り替え、前駆物質イオンの流れを反応セル50に向ける。
【0053】
図1a〜図1dの配置は非常に概略化されており、本発明に最も関連性のある基本的な要素だけが示されている。一般に、本発明による質量分析計の具体的な実施の形態には、更に機能を加えるためのその他の部品、例えば、イオントラップ、イオン貯蔵部、質量分析計10を通るイオンを導くための、更にはイオンを選別するための追加のイオン光学系などが含まれている。本発明によるタンデム型質量分析計10の例示的な実施の形態を、図2に概略的に、図4に更に詳細に示す。タンデム型質量分析計10は、前駆物質およびフラグメントイオンから質量スペクトルを収集するために用いられる。
【0054】
質量分析計10は、イオン源20から反応セル50まで伸びた長軸12を持つ、図1bのものに相当する。イオン源20は従来型のどのようなものでも良い。図4は、イオン化される分析物イオン22が、イオン化器24によってイオン源20に供給されていることを示している。
【0055】
イオン源20から出たイオンは、イオン光学系80により質量分析計10の長軸12に沿って導かれ、直線状イオントラップ90に入る。イオンは、例えば、米国特許出願公開第2003/0183759号、または米国特許第6,177,668号によれば、イオントラップ90に一時的に蓄積される。この実施の形態では、イオンが気体分子と衝突してその運動エネルギーの一部を失うよう、イオントラップ90は1mTorr(約0.13Pa)のヘリウムを含んでいる。イオンは、一定時間遅延させた後(イオントラップ90中に十分なイオンが蓄積されるよう選ぶ)、またはイオントラップ90中で十分なイオンが検出された後、イオントラップ90から放出される。後者を行うには、イオントラップ90中に溜まったイオンのプレスキャンに使用できるよう、質量分析および検出のできるイオントラップ90を準備する。
【0056】
イオントラップ90から放出されたイオンは、イオン光学系100によって中間イオン貯蔵部70へ導かれる。中間イオン貯蔵部70は、長軸12がそれを通って伸びながら曲がるよう、湾曲した四重極線状トラップ70から成る。中間イオン貯蔵部70の端には、イオンを捉え、放出するために用いられるゲート電極72およびゲート電極74がそれぞれ付けられている。イオンを気体式冷却で捕集するよう、中間イオン貯蔵部70に冷却ガスを流し込む。冷却ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、その他適当な気体状物質が使用できるが、窒素が望ましい。典型的に、中間イオン貯蔵部70には、1mTorrr(約0.13Pa)以下の窒素が用いられる。他の構成要素がガスを殆ど含まないよう、また必要な高真空に保たれるよう、ポンピングポートおよび矢印110で示されているようにポンピング装置を用いる。
【0057】
多数のイオン粒子を蓄積するため、イオントラップ90から単回注入または多回注入を行って、中間イオン貯蔵部70にイオンを蓄積する。イオン蓄積は、当該技術でよく知られているように、自動利得制御を用いて行っても良い。
【0058】
中間イオン貯蔵部70は、図1bの接合部70に相当し、イオン源20から中間イオン貯蔵部70へのイオン経路は、主イオン経路40の第1枝40aを形成する。こうして中間イオン貯蔵部70に蓄積したイオンは、枝イオン経路60に沿って軸方向へ、または主イオン経路40の第2枝40bに沿って直交方向へ放出される。湾曲した中間イオン貯蔵部70は、パルスとしたイオンビームを質量分析器30へ直交方向に放出するために使用できるため有利である。こうして、更に形成を行わなくても、イオンを緊密に詰まった塊として(すなわち、非常に素早く)質量分析器30へ直接放出することができる。
【0059】
前駆物質イオンから質量スペクトルを収集するには、中間イオン貯蔵部70は、イオンを、中間イオン貯蔵部70の電極78中に設けた開口部76を通って直交方向に高分解能質量分析器30へ放出する。この実施の形態では、オービトラップ型の静電質量分析器30を用いている。中間イオン貯蔵部70の湾曲は、それから放出されるイオンを、イオン光学系120を通り、質量分析器30の入り口32に向けて収束させる。更に、中間イオン貯蔵部70中に捉えられたイオンはゲート72およびゲート74に印加された電位の作用を受け、イオンが中間イオン貯蔵部70の中心に集まり、これも収束を助ける。質量分析器30に入ると、通常の方法で前駆物質イオンから質量スペクトルを収集する。
【0060】
生成物イオンから質量スペクトルを収集する場合、中間イオン貯蔵部70を、イオン光学系130を経て反応セル50へイオンを放出するよう操作する。この実施の形態では、質量分析計10はタンデム型質量分析計であり、反応セルは、CIDによりイオンをフラグメント化させるための気体充填型衝突セル50から成る。衝突セル50を捕捉モードで作動させるが、この実施の形態では透過モードを用いている。衝突セル50の端にはイオン鏡52があり、このイオン鏡52には大きな電位がかけられていてイオンを反射する。このように前駆物質イオンは衝突セル50に入り、ここでフラグメント化する。イオンはイオン鏡52に入り、ここでフラグメントイオンは反射され、前駆物質イオンは通過する(以下で更に詳しく説明する)。フラグメントイオンは次に逆方向に衝突セル50を横切り、ここで更にフラグメント化する。フラグメントイオンは衝突セル50から出て、イオン光学系130に導かれて中間イオン貯蔵部70に再び入り、フラグメントイオンはここで捕捉される。前駆物質イオンがパルスとして中間イオン貯蔵部70から放出されるように、フラグメントイオンもパルスとして中間イオン貯蔵部70に戻る傾向がある。捕捉されると、フラグメントイオンは更に成形する必要なく、パルスとして直接(すなわち、非常に素早く)質量分析器30へ放出される。次に、既に前駆物質イオンについて述べたように、質量分析器30でスペクトルを収集する。
【0061】
更に、予め質量を選択するため、イオントラップ90または中間イオン貯蔵部70を使用しても良い。予備的質量選択によって、広い質量範囲の前駆物質イオンをいくつかの狭い範囲(一般に、質量範囲の20〜50%)に分けることができるため、リン酸基などのある部分の欠損によって、残りのフラグメントの質量(つまり、エネルギー)が大きく広がることがない。予備的質量選択にイオントラップ90を用いる場合、イオントラップ90からの連続充填の間、イオンを蓄積するために中間イオン貯蔵部70を用いても良い。それぞれの充填は質量のより狭いサブレンジに相当する。サブレンジ内の全ての前駆物質イオンは、フラグメント化され、同時に分析することができる。
【0062】
サブレンジ全体をフラグメント化した場合にフラグメントスペクトルがあまり複雑にならないよう、衝突セル50をエネルギー選択による粗い質量フィルタとして作動させても良い。これは、フラグメントイオンがその前駆物質とほぼ同じ速度を持つため、そのエネルギーがその質量に比例していることを利用している。粗い質量選択を用いたこのような実施の形態は、スペクトルが複雑になるのを抑えるため、多数の前駆物質からのフラグメントの同時分析に特に適している。衝突セル50中での質量選択により、不要なイオン(例えば、未反応の前駆物質イオン)を除外し、および/または狭い質量範囲を選択する(例えば、有望なフラグメントの質量範囲を狭いサブレンジに分割し、各サブレンジからの質量スペクトルの収集を最適化する)ことができる。これは質量分析計10に適当な電位を印加することで達成できる。その可能な配置の一つを図3に示す。
【0063】
高エネルギーフィルタは、上限となるよう電位Rを印加したイオン鏡52によって形成される。図3に示すように、前駆物質イオンのパルスは中間イオン貯蔵部70から放出され、ゲート74上に印加された電位Uo(200で示されているように、一般に100〜300V)により加速される。前駆物質イオンは、その小さな質量のため衝突セル50中でフラグメントとなるにつれてエネルギーを失う。電圧Rは、所望の閾値エネルギー以下のフラグメントイオンを反射するよう選び、残る全ての前駆物質イオンと不要な高エネルギー(つまり高質量)フラグメントイオンは、210に示されているように鏡270の後ろに流れ去り、あるいは別のイオン貯蔵部(図示せず)に集められる。
【0064】
低エネルギーフィルタは、中間イオン貯蔵部70の前の都合の良い位置に電位Ufを印加することで形成される。この実施の形態では、電位をゲート74に印加する。すなわち、前駆物質イオンのパルスが中間イオン貯蔵部70から出た後、電位UoをUfに低下させる。Ufは、所望の閾値より低いエネルギー(つまり、質量)を持つフラグメントイオンが反射され、220で示されているように、反応セル50中に捕捉されるように選択する。閾値以上のエネルギーを持つイオンは、230で示されているように、中間イオン貯蔵部70へ戻ることができ、ここからイオンは質量分析器30へ導かれる。
【0065】
この結果、反応セル50は、そのエネルギー(1/2×mv2)が、zeUf < 1/2×mv2 < zeRの範囲にある場合だけにイオンを質量分析器30へ送るようなエネルギー分析器として働く。UfとRは、所望範囲のフラグメントイオン質量が選択されるように選ぶ。この質量選択により質量スペクトル中の候補ピークの数が少なくなるため、ダイナミック・レンジが向上し、同定ミスが少なくなる。更に、中性損失に正確に従って質量で分離した前駆物質およびフラグメントのスペクトルの比較も可能となる。
【0066】
図5は、本発明によるタンデム型質量分析計10の別の実施の形態を線図で示したものである。質量分析計10は図1bの配置を持つが、これは共通する主イオン経路40を分割している点で図2の質量分析計10とおおよそ同じである。このため、この部分については再び述べない。
【0067】
枝イオン経路60側へ行くと、イオン貯蔵部70の後に衝突セル50がある。衝突セル50はイオン鏡52で終わらず、代わりに、長軸12に沿ってエネルギー分析器140へイオンを流す開口部を備えたゲート電極(図示せず)がある。透過モードで作動させると、前駆物質イオンのパルスがイオン貯蔵部70から軸方向へ放出され、衝突セル50中でフラグメント化され、フラグメントイオンは枝イオン経路60に沿ってエネルギー分析器140へ向かう。エネルギー分析器140は、所望範囲のエネルギー(つまり、質量)のフラグメントイオンだけをそこから放出し、枝イオン経路60に沿って流すよう操作する。必要とされるエネルギー分解能は非常に低いため、例えば、円筒状、球状、平板状など、殆どの公知のエネルギー分析器140が使用できる。選択されたフラグメントイオンは、エネルギー分析器140の下流に設けられた追加イオン貯蔵部150中に捉えられる。追加イオン貯蔵部150には、捕捉し易くするためにガスを充填しても良い。
【0068】
図6は、中間イオン貯蔵部70、衝突セル50、エネルギー分析器140、および追加イオン貯蔵部150に印加される電位を示している。イオンは電位U0によって中間イオン貯蔵部70から加速される。追加イオン貯蔵部150には、一般にU0より低い、電圧Ufがかけられている。追加イオン貯蔵部150中の貯蔵は、気体冷却およびRFフィールドを用いて行うことが好ましい。このように、追加イオン貯蔵部150は、RFのみの多極または一組のRFのみの開口部を含んでいても良い。追加イオン貯蔵部150にイオンを捕捉した後、衝突セル50と追加イオン貯蔵部150の電位をUoに上げ、エネルギー分析器140も、このエネルギーのイオンを透過させるよう調整して、後に高分解能質量分析器30へ注入するため、フラグメントイオンをイオン貯蔵部70へ戻す。
【0069】
衝突セル50に電位Uoを新たに印加するため、衝突セル50中のイオンエネルギーは十分に低くなると考えられ、戻る途上で更にフラグメント化が起こることはない。この結果、イオンが戻る前に衝突セル50からガスを排気する必要が無くなる。
【0070】
当業者には、本発明の範囲から外れることなく、上記の実施の形態に対して変形を行えることが明らかであろう。
【0071】
例えば、イオン源20は、次の可能性のある非網羅的なリストから自由に選ぶことができる。エレクトロスプレー源、大気圧光イオン化源または化学イオン化源、大気圧/減圧/真空MALDI源、電子衝撃(EI)源、化学イオン化(CI)源、二次イオン源、または最先端の質量分析またはイオン選択に関するもの(例えば、DCまたは電界(field)非対称イオン移動度分光計、移動波分光計など)などのイオン化源は、いずれも適切な選択であろう。
【0072】
イオントラップ90も、行われる実験に応じて、多くの在来型のものから選ぶことができる。選択枝としては、共鳴または質量選択型イオン選択を備えた貯蔵用RF多極、3D四重極イオントラップ、または、放射状または軸方向放射を備えた線形トラップが挙げられる。上記の実施の形態は、捕捉モードにおいてイオントラップ90を用いるよう示されているが、透過モードで使用するように変えても良い。例えば、イオントラップ90上におかれる電位マットは、イオンを導いてそれを通過させるだけである。選択肢としては、輸送のため長くした電極、扇形磁場(magnetic sector)またはウィーン(Wien)フィルタ、四重極質量フィルタなどが挙げられる。
【0073】
更に、中間イオン貯蔵部70は、3D四重極イオントラップ、RF切り替えのない貯蔵用RF多極、米国特許第5,763,878号または米国特許出願公開2002/0092980号による貯蔵用多極、あるいは、英国特許第GB0413852.5号によるRF切り替えを備えた貯蔵用RF四重極などのイオントラップ及びイオン貯蔵部から選ぶことができる。
【0074】
中間イオン貯蔵部70は、上流から来るイオンまたは下流から戻るイオンに対し、透過モードまたは捕捉モードのどちらでも作動させることができる。上流および下流からの到達物の両方に対して同じ種類の捕捉器を用いる必要はない。
【0075】
捕捉モードは、イオントラップ90からのイオンの多回充填と共に用いても良い。これには、我々の同時係属中の英国特許出願に記載のような、異なる種類のイオンの充填も含まれる。
【0076】
透過モードでは、イオンが中間イオン貯蔵部70を通り抜けるよう、適当な排出口に導くだけである。前駆物質イオンから質量スペクトルを収集するには、前駆物質イオンが反応セル50を迂回するよう、単にイオンを軸方向に導き、または直交方向に偏向させて質量分析器30に向ける。このように、反応セル50は前駆物質イオンに全く作用を及ぼさないため、質量分析計30の作動の間は常に反応セル50を作動状態にしておくことができる。作動時における透過モードの変形の一つは、イオントラップ90と反応セル50との間で多数のイオンをバウンドさせ、所定数バウンドさせた後に捕捉モードに切り替えるものである。それぞれのバウンドの間に、イオントラップ90、中間イオン貯蔵部70、または反応セル50中で異なる種類の処理を行うことができる。
【0077】
上記で述べた静電質量分析器30ではオービトラップ型が特に望ましいが、他の種類のものも使用できる。例えば、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)セル、単または多反射飛行時間型(TOFF)質量分析計も適していると言える。
【0078】
反応セル50は、反応の前にイオンを捕捉するか、あるいは、透過モードでイオンが通り抜ける際にイオンが反応するように作動させることができる。図2および図4の質量分析計10を捕捉モードで作動させる場合、フラグメントイオンを捉えるため、イオン鏡52上の大きな電位と中間イオン貯蔵部70上の電位とを組み合わせて(後者の電位は、反応セル50の入り口にも印加することができるが)用いても良い。
【0079】
反応セル50は、反応セル50中のイオンの数を効果的に操作して、何らかの方法でその数を変える、多くの形態の一つである。イオン自体が変化し(例えば、フラグメント化または反応により)、イオンが加わり(例えば、較正物)、イオンが除かれ(例えば、質量選択に従って)、あるいはイオンの性質(例えば、その運動または内部エネルギーなど)が変化する。このように、反応セル50は、衝突誘導解離に用いられる上記の気体充填型衝突セルの他にも、これらの目的に適う可能性のある多くのもののいずれかであって良い。例えば、反応セル50は、更にイオンを導入するためのイオン源を備えたセル(反対極性のイオンも含む)、光子誘導結合用のレーザー源を備えたセル、表面誘導解離用の表面を備えたセル、電子捕獲解離用の電子源を備えたセル、あるいは、イオン不安定性または電荷フィルタとして働くDCまたは電界非対称イオン移動度分光計である。
【0080】
もちろん、上記の質量分析計を操作する方法はコントローラを用いて実行しても良い。コントローラは、ハードウェアまたはソフトウェアの形を取る。例えば、コントローラは、上述のように質量分析計を作動させる、その中に記憶させたコンピュータプログラムを備えた、適当にプログラムされたコンピュータの形を取っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1a】本発明の実施の形態による質量分析計の異なる配置を示す線図である。
【図1b】本発明の実施の形態による質量分析計の異なる配置を示す線図である。
【図1c】本発明の実施の形態による質量分析計の異なる配置を示す線図である。
【図1d】本発明の実施の形態による質量分析計の異なる配置を示す線図である。
【図2】本発明の実施の形態による質量分析計の線図である。
【図3】図2の質量分析計の中間イオン貯蔵部、反応セル、およびイオン鏡に印加される電位を示すグラフである。
【図4】図2の一般的な配置による質量分析計の更に詳細な図である。
【図5】本発明の別の実施の形態による質量分析計の線図である。
【図6】図5の質量分析計の中間イオン貯蔵部、反応セル、エネルギー分析器、および追加イオン貯蔵部に印加される電位を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、反応セルと、質量分析器と、を含む質量分析計であって、
前記質量分析計は、主イオン経路と枝イオン経路とを有し、
前記主イオン経路は、前記イオン源と前記質量分析器との間に伸び、
前記主イオン経路は、前記主イオン経路または前記枝イオン経路のいずれかに沿って、イオンが前記イオン源から下流へ移動するように選択的に導くよう操作可能なイオン光学系(optics)から成る接合部において前記枝イオン経路と交わり、
前記枝イオン経路は、前記接合部、あるいは、前記主イオン経路および前記枝イオン経路の両方から流入するイオンを前記質量分析器へ向けて導くよう操作可能な追加のイオン光学系から成る追加の接合部のいずれかにおいて、前記質量分析器の上流の前記主イオン経路に合流し、
前記反応セルは、前記枝イオン経路の別の部分に置かれ、
前記質量分析器のすぐ上流の前記イオン光学系は、イオンのパルスを前記主イオン経路に沿って前記質量分析器へ導くよう操作可能である、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析計であって、
前記反応セルは、前記枝イオン経路からイオンを受け取り、前記イオンに処理を行い、生成物イオンを、前記枝イオン経路に沿って上流方向へ戻るように排出して前記接合部において前記主イオン経路に合流させるよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析計であって、
前記接合部の前記イオン光学系は、イオンが前記反応セルから上流へ戻り、前記主イオン経路に沿って下流の前記質量分析器へ移動するように導くよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項4】
請求項1に記載の質量分析計であって、
前記反応セルは、前記枝イオン経路からイオンを受け取り、前記イオンに処理を行い、生成物イオンを前記枝イオン経路の延長に沿って下流方向の前記追加接合部へ排出するよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項5】
長軸を持つ質量分析計であって、
前記質量分析計は、
前記軸に沿ってイオンを放出するイオン源と、
前記軸上に設けられた入り口を備えた反応セルと、
質量分析器と、
第1モードと第2モードの間で切り替え可能なイオン光学系と、
を含み、
前記第1モードでは、前記イオン源からのイオンは前記軸に沿って前記反応セルへ導かれ、前記反応セル中で生成した生成物イオンは分析のための前記質量分析器へ導かれ、
前記第2モードでは、前記イオン源からのイオンは前記軸から偏向され、前記反応セルに入ることなく分析のための前記質量分析器へ導かれる、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項6】
請求項5に記載の質量分析計であって、
前記質量分析器は、前記イオン源と前記質量分析器とを結ぶ主イオン経路上にあり、
前記反応セルは、接合部で前記主イオン経路と交わる枝イオン経路上にあり、
前記接合部は、前記主イオン経路または前記枝イオン経路のいずれかに沿って選択的にイオンを導くよう操作可能なイオン光学系を備え、
前記枝イオン経路と、前記接合部より上流の前記主イオン経路の部分とは、前記長軸に沿って伸びている、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項7】
長軸を持つ質量分析計であって、
前記質量分析計は、
前記軸に沿ってイオンを放出するイオン源と、
反応セルと、
前記軸上に設けられた入り口を備えた質量分析器と、
第1モードと第2モードの間で切り替え可能なイオン光学系と、
を含み、
前記第1モードでは、前記イオン源からのイオンは前記軸から偏向されて前記反応セルへ導かれ、前記反応セル中で生成した生成物イオンは前記軸へ戻って前記質量分析器の前記入り口へ導かれ、
前記第2モードでは、前記イオン源からのイオンは前記軸に沿って、前記反応セルに入ることなく分析のための前記質量分析器へ導かれる、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項8】
請求項7に記載の質量分析計であって、
前記質量分析器は、前記長軸に一致する主イオン経路上にあり、
前記反応セルは、接合部で前記主イオン経路と交わる別の枝イオン経路上にあり、
前記接合部は、前記主イオン経路または前記枝イオン経路のいずれかに沿って選択的にイオンを導くよう操作可能なイオン光学系を備えている、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
更に、イオンをイオンパルスとして前記質量分析器へ送るよう配置されていることを特徴とする質量分析計。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記質量分析器は、FT−ICR、飛行時間、または静電質量分析器のいずれかであることを特徴とする質量分析計。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
接合部および/または追加の接合部に置かれたイオントラップを更に含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項12】
請求項11に記載の質量分析計であって、
前記イオントラップは、RFのみの電位で操作可能な電極と、前記イオントラップにガスを導入するために配置された導入口とを含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項13】
請求項11または請求項12のいずれかに記載の質量分析計であって、
前記イオントラップは、曲線状トラップであることを特徴とする質量分析計。
【請求項14】
請求項13に記載の質量分析計であって、
前記イオントラップは、軸方向および直交方向の両方にイオンを放出するよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項15】
請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記反応セルは、付属のガス供給を備えていることを特徴とする質量分析計。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記反応セルは、フラグメント化セルとして操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記接合部の上流に更にイオントラップを含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項18】
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記接合部の上流に更に質量分析器を含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項19】
請求項17に従属する請求項18に記載の質量分析計であって、
前記イオントラップは、質量分析器となることを特徴とする質量分析計。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記質量分析計の動作を制御するよう操作可能なコントローラを更に含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項21】
請求項20に記載の質量分析計であって、
前記コントローラは、第1および第2モードに従って操作可能であり、
第1モードは、
前記イオン源がイオンを発生する工程と、
前記イオン光学系がイオンを前記接合部へ導く工程と、
前記接合部の前記イオン光学系がイオンを前記反応セルへ導く工程と、
前記反応セルが前記イオンに処理を行って生成物イオンを生成する工程と、
前記イオン光学系が前記生成物イオンを前記質量分析器へ導く工程と、
前記質量分析器が、前記生成物イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを取得する工程と、
を含み、
第2モードは、
前記イオン源がイオンを発生する工程と、
前記イオン光学系がイオンを前記接合部へ導く工程と、
前記接合部の前記イオン光学系がイオンを前記質量分析器へ導く工程と、
前記質量分析器が、前記イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを取得する工程と、
を含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項22】
請求項21に記載の質量分析計であって、
前記コントローラは、イオンが前記反応セル中で処理されている間に、前記接合部の前記イオン光学系がイオンを前記質量分析器へ導くよう、第1および第2モードを同時に実行するよう配置されていることを特徴とする質量分析計。
【請求項23】
請求項22に記載の質量分析計であって、
前記コントローラは、
(a)前記イオン源がイオンを発生し、
(b)前記イオン光学系が前記イオンを前記接合部へ導き、
(c)前記接合部のイオン光学系が前記イオンの第1画分を前記質量分析器へ導き、
(d)前記質量分析器が、前記イオンの前記第1画分から少なくとも1つの質量スペクトルを取得し、
(e)前記接合部の前記イオン光学系が前記イオンの第2画分を前記反応セルへ導き、
(f)前記反応セルが、前記イオンの前記第2画分に処理を行って生成物イオンを生成し、
(g)前記イオン光学系が前記生成物イオンを前記質量分析器へ導き、
(h)前記質量分析器が、前記生成物イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを取得する、
よう配置されており、
工程(d)と工程(f)とは同時に実行される、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項24】
請求項21から請求項23のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
操作の第1モードにおいて、前記コントローラは、前記イオン光学系が、前記生成物イオンを反応セルから上流へ前記枝イオン経路に沿って放出し、前記接合部の前記イオン光学系が、前記生成物イオンを下流へ、前記主イオン経路に沿って前記質量分析器へ導くよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項25】
請求項21から請求項23のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
操作の第1モードにおいて、前記コントローラは、前記イオン光学系が、前記生成物イオンを前記反応セルから下流へ、前記枝イオン経路の延長に沿って前記追加接合部へ導くよう操作可能であり、
前記接合部では、追加のイオン光学系が、前記生成物イオンを下流へ、前記主イオン経路に沿って前記質量分析器へ導く、
ことを特徴とする質量分析計。
【請求項26】
請求項21から請求項25のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記コントローラは、前記質量分析器が、a)0.01%、b)0.002%、c)0.001%、d)0.0005%、または、e)0.0002%より良好な、m/z測定の正確さを示すよう管理する機能を備えていることを特徴とする質量分析計。
【請求項27】
請求項1から請求項26のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記反応セルの上流に設けられた質量フィルタを更に含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項28】
請求項21から請求項26のいずれか1項に従属する請求項27に記載の質量分析計であって、
前記コントローラは、前記反応セルに導くイオンを選別するため前記質量フィルタを使用するよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項29】
請求項1から請求項28のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記反応セルで生成した生成物イオンを分別するよう操作可能なフィルタを更に含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項30】
請求項29に記載の質量分析計であって、
前記フィルタは、質量/電荷比に従ってイオンを分別することを特徴とする質量分析計。
【請求項31】
請求項29に記載の質量分析計であって、
前記フィルタは、イオンをエネルギーに従って分別するエネルギー分析器を構成することを特徴とする質量分析計。
【請求項32】
請求項31に記載の質量分析計であって、
前記フィルタは、所定範囲内のエネルギーを持つイオンを選択するよう操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項33】
請求項29から請求項32のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記フィルタは、前記反応セルの下流の前記枝イオン経路の延長上に置かれていることを特徴とする質量分析計。
【請求項34】
請求項1から請求項33のいずれか1項に記載の質量分析計であって、
前記反応セルは、第1電極から成る付属のイオン鏡を備え、
前記第1電極は、第1の所定閾値より低いエネルギーを持つイオンのみを反射するよう、第1の電圧で操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項35】
請求項34に記載の質量分析計であって、
前記イオン鏡である前記第1電極の上流に置かれた第2電極を更に含み、
前記第2電極は、第2の所定閾値より高いエネルギーを持つイオンのみを通過させるよう、より低い第2の電圧で操作可能であることを特徴とする質量分析計。
【請求項36】
第1群(set)のイオンを、イオン源から主イオン経路に沿って質量分析器へ導き、前記第1群のイオンから少なくとも1つの質量スペクトルを得る工程と、
第2群のイオンを、前記イオン源から枝イオン経路に沿って、前記主イオン経路から外れている反応セルへ導き、前記反応セル中で生成物イオンを生成し、前記生成物イオンを、前記枝イオン経路に沿って導いて前記主イオン経路に合流させ、前記生成物イオンを前記主イオン経路に沿って前記質量分析器へ導き、前記生成物イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを得る工程と、
を含む質量分析法であって、
イオンは前記質量分析器にイオンパルスとして到達することを特徴とする質量分析法。
【請求項37】
請求項36に記載の質量分析法であって、
前記イオンを、1ミリ秒(ms)以下、10マイクロ秒(μs)以下、または0.5μs以下のいずれかの持続時間を持つパルスとして到達させる工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項38】
請求項36または請求項37に記載の質量分析法であって、
前記イオンを、1m以下、50mm以下、10mm以下、または5mm以下のいずれかの空間長(spatial lengths)を持つパルスとして到達させる工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項39】
請求項36から請求項38のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記質量分析計は、前記枝イオン経路と前記主イオン経路との合流点に置かれたイオン光学系を含み、
イオンのパルスを前記質量分析器へ放出するよう前記イオン光学系を操作する工程を更に含む、
ことを特徴とする質量分析法。
【請求項40】
請求項36から請求項39のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記反応セル中において前記第2群イオンから生成物を生成する工程は、前記第1群イオンから少なくとも1つの質量スペクトルを得る工程と同時に行われることを特徴とする質量分析法。
【請求項41】
請求項40に記載の質量分析法であって、
前記第1および第2群イオンを共にイオン源から導き、前記イオンを第1および第2群に分けて、前記第1群イオンを前記質量分析器へ導き、前記第2群イオンを前記反応セルへ導く工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項42】
請求項36から請求項41のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記第1群イオンと生成物イオンの質量スペクトルを比較し、m/zまたはm/zの違いから、前記生成物イオンのどれが前駆物質イオンのどれに対応するかを同定する工程を更に含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項43】
請求項42に記載の質量分析法であって、
同定を助けるためデータベースを使用する工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項44】
請求項42または請求項43に記載の質量分析法であって、
m/zまたはm/zの差は、a)0.01%、b)0.002%、c)0.001%、d)0.0005%、または、e)0.0002%より良好な正確さで求められることを特徴とする質量分析法。
【請求項45】
請求項42から請求項44のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
反応セルおよびフラグメントイオンの分析を特徴とする質量分析法。
【請求項46】
請求項36から請求項45のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記生成物イオンを、前記枝イオン経路に沿って上流方向へ戻るよう導き、前記主イオン経路に合流させる工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項47】
請求項46に記載の質量分析法であって、
前記反応セルから上流へ戻ってきた前記生成物イオンを、前記主イオン経路に沿って下流へ、前記質量分析器へ導く工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項48】
請求項36から請求項45のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記反応セルから出た前記生成物イオンを、前記枝イオン経路の延長に沿って下流方向へ導く工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項49】
請求項36から請求項48のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記反応セル中でイオンをフラグメント化して、前記生成物イオンを生成する工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項50】
請求項36から請求項49のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
前記イオンを前記反応セル中に捕捉する工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項51】
請求項36から請求項50のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
イオンを分別して、所定範囲内の質量またはエネルギーを持つイオンを選択する工程と、
前記選択イオンを前記反応セルへ導く工程と、
前記選択イオンをフラグメント化する工程と、
前記フラグメント化イオンから質量スペクトルを収集する工程と、
を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項52】
請求項51に記載の質量分析法であって、
イオンの選択と、前記選択イオンのフラグメント化と、を繰り返す工程を含み、
質量スペクトルを収集するためにフラグメントイオンを前記質量分析器へ導く前に、前記フラグメントイオンをイオン貯蔵部に連続的に蓄積する、
ことを特徴とする質量分析法。
【請求項53】
請求項36から請求項52のいずれか1項に記載の質量分析法であって、
質量またはエネルギーに従って生成物イオンを分別する工程を更に含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項54】
請求項53に記載の質量分析法であって、
所定範囲内の質量またはエネルギーを持つ生成物イオンを選択するための分別工程を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項55】
請求項53または請求項54に記載の質量分析法であって、
前記反応セルより下流の電極に電位を印加し、前記電極が上限値より低いエネルギーのイオンのみを反射するようにする工程を含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項56】
請求項55に記載の質量分析法であって、
前記第1電極より上流に置いた電極に第2の電位を印加し、前記第2電極が下限値より低いエネルギーのイオンのみを反射するようにする工程を更に含み、
前記質量分析器は、前記第2電極より上流に置かれていることを特徴とする質量分析法。
【請求項57】
請求項36から請求項56のいずれか1項に記載の方法に従って質量分析計を作動させることのできるコントローラ。
【請求項58】
請求項57に記載のコントローラ上で実行すると、請求項36から請求項56のいずれか1項に記載の方法に従って質量分析計を作動させる、コンピュータプログラム指示を含むコンピュータプログラム。
【請求項59】
請求項58に記載のコンピュータプログラムを運搬する、コンピュータ可読媒体。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−536263(P2008−536263A)
【公表日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503592(P2008−503592)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001174
【国際公開番号】WO2006/103448
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】