説明

質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタの駆動方法

質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタを駆動するための無線周波数(RF)駆動システムおよび方法は、RFゲインステージに結合されたプログラム可能なRF周波数源を有する。RFゲインステージを、イオントラップまたは質量フィルタで形成されるタンク回路に変圧器結合する。検出回路および電力回路を使用して、イオントラップまたは質量フィルタを駆動するRFゲインステージの電力を計測する。電力回路によってフィードバック値を生成し、そのフィードバック値を、RF周波数源を調節するために使用する。RF周波数源の周波数を、RFゲインステージの電力が最小レベルになるまで調節する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる2008年5月27日出願の米国特許仮出願第61/056,362号の優先権の恩典を主張する。本出願は、2008年12月8日出願の米国特許出願第12/329,787号の一部継続出願である。
【0002】
技術分野
本発明は、イオントラップ、イオントラップ質量分析計、より具体的には、線形四重極型のような質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタを駆動するための無線周波数システムに関する。
【発明の概要】
【0003】
概要
質量分析計イオントラップを駆動するための無線周波数(RF)システムは、RF信号を生成する、周波数をプログラム可能なRF発生器を有する。RFゲインステージは、RF信号を受信し、かつ増幅されたRF信号を生成する。検出回路は、RFゲインステージに送達される供給電流に比例する検出信号を生成する。変圧器は、RFゲインステージの出力部に結合された一次側(primary)、および質量分析計イオントラップのキャパシタンスでタンク回路を形成するように結合された二次側(secondary)を有する。電力回路が、検出信号を使用してRFゲインステージの電力消費を測定して、RFゲインステージに供給される電力が低下するようにRF発生器の周波数を調節する。
【0004】
ひとたびRF発生器の周波数が設定されると、電力モニタリングを使用して、可変条件が変圧器二次側およびイオントラップの共振周波数をドリフトさせる場合の周波数を連続的に調節することができる。質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタ(たとえば線形四重極型)を駆動するために要する電力ははるかに低いため、質量分析計のサイズおよび費用を減らして、それにより、潜在的用途の数を増すことができる。
【0005】
本発明の一つまたは複数の態様の詳細を添付図面および以下の詳細な説明で述べる。本発明の他の特徴、目的および利点は、詳細な説明および図面ならびに請求の範囲から明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】質量分析計システムのシステムブロック図を示す。
【図2】質量分析計システムのためのRFトラッピングおよび放出回路を示す。
【図3】イオントラップを示す。
【図4】イオントラップの性能を変更するための回路を示す。
【図5】図5Aは、RF信号源を制御するためのフィードバック信号を生成するための回路を示す。図5Bは、周波数制御されたRF信号源を構成するための回路を示す。
【図6】図2のRFシステムの周波数トラッキングの流れ図を示す。
【図7】図2のRFシステムの共振周波数を測定するための流れ図を示す。
【図8】本発明の態様の流れ図を示す。
【図9】イオントラップに供給される電力に対する周波数の例示的なプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
本発明の態様において、イオントラップがマススペクトロメトリ化学分析を実施する。イオントラップは、駆動信号によって生成される動的電場を使用して、計測試料からのイオンを動的に捕捉する。イオンは、それらを捕捉している無線周波数(RF)電場の特性(たとえば振幅、周波数など)を変化させることにより、質量・電荷比(質量(m)/電荷(z))に対応して選択的に放出される。
【0008】
本発明の態様において、イオントラップは、イオンをイオントラップ内の四重極場の中に動的に捕捉する。この場は、エンドキャップ電圧(または信号)に対して中央電極に印加されるRF源からの電気信号によって生成される。もっとも簡単な形態において、一定のRF周波数の信号が中央電極に印加され、二つのエンドキャップ電極が静的なゼロボルトで維持される。中央電極信号の振幅は、イオントラップ内に保持されるイオンの様々な質量を選択的に不安定化するために、線形に増大させられる。この振幅放出構造は、最適な性能または分解能をもたらすことができず、実際には、出力スペクトル中に二重のピークを生じさせることがある。この振幅放出法は、第二の信号をエンドキャップ間で異なって印加することによって改良することができる。この第二の信号は、トラップ内のイオンの永年共振周波数がエンドキャップ励起周波数と合致した場合にイオントラップからのイオンの共振放出を生じさせる双極子軸方向励起を生じさせる。
【0009】
イオントラップまたは質量フィルタは、ほぼ純粋なキャパシタンスに見える等価回路を有する。イオントラップを駆動するために必要な電圧の振幅は高くなることがあり(たとえば1500ボルト)、多くの場合、高い電圧を生成するために変圧器結合の使用を要する。変圧器二次側のインダクタンスおよびイオントラップのキャパシタンスが平行なタンク回路を形成する。共振周波数以外の周波数でこの回路を駆動すると、不要な損失を生じさせ、回路の費用およびサイズを増すおそれがある。これは、特に、質量分析計を小型化してその使用および市場性を高めようとする努力を妨げると考えられる。
【0010】
加えて、回路を共振状態で駆動することには、可能な限りもっともクリーンでひずみが小さくおよびノイズが少ない信号を生成するなどの他の恩典がある。タンク回路は、共振周波数以外のすべての周波数の信号を減衰する。このようにして、タンク回路は、特定の周波数だけが共振するそれ自体の狭帯域フィルタとして働く。オフ周波数ノイズおよび高調波成分はフィルタリングによって除去される。また、共振状態では、信号駆動増幅器によってもたらされる電力の量は非常に低い。必要とされる電力は、唯一、変圧器非効率または抵抗損失で失われる電力である。回路電力は、小さな物理的区域中、タンク回路中の誘導要素と容量要素の間で前後に移送される。外部増幅器からはわずかな電力しか得られないため、より少ない電力が電磁干渉(EMI)として放射される。
【0011】
したがって、RFシステムにとって、コンポーネントのサイズを最小化し、費用および電力を減らし、超高品質信号を提供し、放射されるEMIを減らす回路によってイオントラップが駆動されることを保証することが有利である。これは、ポータブル質量分析計用途において非常に重要になる。
【0012】
図1は、質量分析計システム100中の要素のブロック図である。試料101を、透過性膜チューブ102に通して低い圧力105(たとえば真空)を有するチャンバ112に導入することができる。その結果、濃縮した試料ガス103が膜チューブ102を通して受け入れられ、イオントラップ104に進む。電子113が供給源111によって周知の手法で生成され、加速電位110によってイオントラップ104に送られる。電子113はイオントラップ104中の試料ガス103を電離させる。RFトラッピングおよび放出回路109が、イオントラップ104内に交流電場を生成して、イオンの質量に比例する様式で、まずイオンを捕捉し、次いでイオンを放出するために、イオントラップ104に結合されている。さらなる改変回路108を使用してイオントラップ104の動作を増強することもできる。イオン検出器106が、特定のイオン質量に対応する様々な時間間隔で放出されたイオンの数を記録する。これらのイオン数は、分析に備えて数値化され、スペクトルとしてディスプレイ107上に表示される。
【0013】
透過性膜102は、ガス試料が均一な温度になることを保証するために、埋め込まれた加熱装置(図示せず)を備えることもできる。さらに、電子113を提供する装置111は、イオントラップ104に入る電子113を集束させるように作用可能である電界レンズを備えることもできる。電界レンズは、エンドキャップのアパーチャの前方に焦点を有することができる(たとえば図3を参照)。電界レンズは、イオントラップ104中のより良好な電子分散を提供し、ならびにトラップ104に入る電子の割合を増すように作用する。電子113の供給源111は、従来手段よりも低い電力で電子を生成することを可能にする電子エミッタとしての炭素ナノチューブで構成されることもできる。また、当業者は、本発明の態様の範囲内である、変更された(1)試料101を質量分析計100に導入する方法と、(2)電離方法111と、(3)検出器106とを有することができるイオントラップを備える質量分析計100の多くの構造があるということを認識すると考えられることが留意されるべきである。
【0014】
本発明の態様において、イオントラップ104は、回路109に対して最小限のキャパシタンス負荷しか生成しない設計を有するように構成されている。イオントラップ104は、その特性を改善するために最小化されたその内面粗さを有することができる。
【0015】
図2は、イオントラップ104を駆動するRFトラッピングおよび放出回路109の回路・ブロック図を示す。例示的なイオントラップ104は、中央電極219とエンドキャップ218および220とを備える。イオントラップ104は、本明細書に記載されるようなものであっても、または本明細書に記載されるような様式で作動させることができる他の同等なイオントラップ設計であってもよい。寄生キャパシタンス213および214が点線によって示されている。エンドキャップ218および220は大地電位に結合されることができ、キャパシタンス213および214は回路109に対するキャパシタンス負荷を表す。
【0016】
RF源201は、正弦波RF信号を生成し、かつ制御ライン221に結合された入力部を有することが示されている。制御ライン221の値は、RF信号の周波数を上下に調節するように作動可能である。態様において、RF源201の周波数は、最適化パラメータに応答して手作業で調節することができる。差動増幅器204(たとえば演算増幅器)は、正入力部および負入力部ならびに出力部を有する。抵抗器205および206を使用する負のフィードバックを使用して、増幅器ステージの閉ループゲインを抵抗器値の比として設定してもよい。RF信号はフィルタ203によってフィルタリングされ(たとえば低域または帯域)、増幅器204の正入力部に印加される。増幅器204は、コンデンサー209を使用して増幅器出力オフセット電圧をブロックし、抵抗器210を使用して増幅器安定性を改善する。増幅器204のフィルタリングされた出力は変圧器211の入力部に印加される。イオントラップ104を駆動するためには高い電圧(たとえば1500ボルト)が必要になることがあるため、変圧器211は逓昇変圧器であってもよい。これは、増幅ステージの一次側コンポーネントが比較的低い電圧を有することを可能にする。
【0017】
増幅器204は、バイポーラ電源(PS)電圧216および217によって給電されることができる。電流検出回路208を使用して、PS電圧216からの電流をモニタすることもできる。電力制御回路207は、制御ライン221を介してRF源201を制御するために、イオントラップ104を駆動する際に散逸する電力をモニタするように構成されることができる。制御回路207は、RF源201の特性に依存して、アナログまたはデジタルのいずれであってもよい。いずれの場合でも、回路109は、PS電圧216および217によって提供される電力を最小化する周波数でイオントラップ104を駆動するように作動する。
【0018】
イオントラップ104を駆動するために必要な電力を最小化するようにRF源201の周波数を調節することができる。駆動電力を最小化するRF源201の結果として生じる周波数は、変圧器211の二次側のインダクタンスとイオントラップ104のキャパシタンスとを含む回路を共振させる周波数である。RF源201の周波数は、所望の値に設定することができ、可変コンポーネント(たとえば可変コンデンサー212)を使用して、二次回路を、RF源201の設定された所望の周波数と共振するように変更することができる。RF源201の中心周波数を設定し、かつ変圧器211の二次側を同調させるために二次回路を調節することができる。その後、制御221によるフィードバックを使用して、イオントラップ104を駆動するために必要な電力を動的に最小化するように共振周波数を調節することができる。
【0019】
回路207は、まずRF源201の周波数を設定してイオントラップ104に対する電力を最小化するプログラム可能なプロセッサを使用することができる。その後、イオンが捕捉された期間ののち、イオントラップ104を駆動する二次信号の振幅が、イオンを放出するように作用する様式で振幅変調されるように、変圧器211の二次側からの振幅フィードバックを使用して、RF源201の振幅または増幅器ステージのゲインのいずれかを調節する。
【0020】
回路207は、まずRF源201の周波数を設定してイオントラップ104に対する電力を最小化するプログラム可能なプロセッサを使用することができる。その後、イオンが捕捉された期間ののち、イオントラップ104を駆動する二次信号の周波数が、イオンを放出するように作用する様式で周波数変調されるように、RF源201の周波数を変化させる。
【0021】
一つの態様において、回路109は、容量分圧器を使用して、変圧器211の出力電圧の試料を増幅器204の負入力部にフィードバックすることもできる。この負のフィードバックを使用して、イオントラップ104を駆動している場合の変圧器211の電圧出力を安定化することができる。
【0022】
図3は、本発明の態様のイオントラップ104の電極の断面および詳細を示す。第一のエンドキャップ218は入口アパーチャ304を有し、中央電極219はアパーチャ306を有し、第二のエンドキャップ220は出口アパーチャ305を有する。エンドキャップ218および219ならびに電極219は、トロイダル構造または本発明の態様にしたがってイオンを捕捉しかつ放出するのに十分な他の同等な形状を有することができる。第一のイオントラップエンドキャップ218は通常、大地またはゼロボルトに結合されることができるが、しかし他の態様はゼロ以外のボルトを使用することもできる。たとえば、第一のエンドキャップ218は、可変DC電圧または他の信号に接続されることができる。イオントラップ中央電極219は回路109(図1および2を参照)によって駆動される。第二のイオントラップエンドキャップ220は、直接または回路要素108(図1を参照)によってゼロボルトまたは別の信号源に接続されることができる。薄い絶縁体(図示せず)をスペース309中に配置して、第一のエンドキャップ218、第二のエンドキャップ220および中央電極219を分離して、それにより、キャパシタンス213および214(点線によって示す)を形成することもできる。一般的なイオントラップの動作および構造が米国特許第3,065,640号に記載され、その後、Marchによって提供された記載(March, R. E.およびTodd, J. F. J、「Practical Aspects of Ion Trap Mass Spectrometry」1995、CRC Press)を含む、当技術分野の多くの著者によって包含されている。これらの両方は参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
図4は、回路109(図1および2を参照)によってアクティブに駆動されるイオントラップ104のブロック図400を示す。エンドキャップ218は、試料ガスを捕集するための入口アパーチャ304を有し、中央電極219は、生成されたイオンを保持するためのアパーチャ306を有し、第二のエンドキャップ220は出口アパーチャ305を有する。エンドキャップ218は、大地またはゼロボルトに結合されることができるが、しかし他の態様は、ゼロ以外のボルトまたはさらなる信号源を使用することもできる。中央電極219は回路109によって駆動される。エンドキャップ220は、改変回路108(この態様においては、コンデンサー402と抵抗器403との並列な組み合わせを含む)によってゼロボルトに接続されることもできる。薄い絶縁体(図示せず)をスペース309中に配置して、第一のエンドキャップ218、第二のエンドキャップ220および中央電極219を分離することもできる。
【0024】
図4に示される態様400は、中央電極219とエンドキャップ220との間に自然に存在する固有キャパシタンス214(点線によって記す)を有する。キャパシタンス214は、コンデンサー402のキャパシタンスと直列状態にあり、したがって、容量分圧器を形成し、それにより、回路109からの信号から誘導される電位をエンドキャップ220に印加する。回路109が変動電圧を中央電極219に印加する場合に、より小さな振幅の変動電圧が容量分圧器の作用を介してエンドキャップ220に印加される。当然、中央電極219とエンドキャップ218との間には対応する固有キャパシタンス213(点線によって記す)が存在する。別個の抵抗器403がエンドキャップ220とゼロボルトとの間に追加されてもよい。抵抗器403が、電圧ドリフトまたは過度な電荷増大を生じさせるおそれのある浮遊DC電位をエンドキャップ220が発生させることを防ぐように働く電気経路を提供する。抵抗器403のインピーダンスが、追加されるコンデンサー402のインピーダンスよりも確実にかなり大きくなるために、抵抗器403の値は、回路109の作動周波数で、1〜10メガオーム(MΩ)の範囲になるような大きさにされる。抵抗器403の抵抗値がCA402のインピーダンスよりもあまり大きくない場合には、容量分圧器によって、中央電極219の信号と第二のエンドキャップ220に印加される信号との間に移相が生じる。また、抵抗器403の値が低すぎる場合には、エンドキャップ220に印加される信号の振幅は対象の周波数範囲の周波数の関数として変化する。抵抗器403なしでは、容量分圧器(CS214およびCA402)は実質的に周波数から独立している。追加されるコンデンサー402の値は、所与のシステム特性に最適化された値を有するように調節されることができるよう、可変性であることができる。
【0025】
図5Aは、プログラム可能なRF信号源201を制御するのに適した、制御ライン221(図2を参照)上にフィードバック信号を生成するための例示的な回路を示す。制御ライン221上の信号は、アナログ電圧であってもよいし、一つまたは複数のラインから形成されるデジタル通信法であってもよいことが留意される。増幅器204は電源電圧216および217によって給電される。この態様においては、電流検出抵抗器501が電圧216と直列に結合され、その電圧降下が差動増幅器502に結合されている。増幅器204への電流ドローを増幅器のバイポーラ電源の一つのみでモニタすることにより、増幅器204の出力電流がモニタされる場合には必要になると考えられる高速整流または類似手段の必要なしに電力をモニタすることができる。差動増幅器502は、電源電流供給回路109に比例する出力電圧をイオントラップ104に生成する。アナログ・デジタル(A/D)変換器503がこの電圧をデジタル値に変換する。デジタル制御装置504がデジタル値を受信し、回路109のための全電力に応答してデジタル制御信号を制御ライン221上でイオントラップ104に出力する。デジタル制御装置504は、入力505からプログラミングを受信する記憶されたプログラム制御装置であることができる。その後、回路109の電力に対応する受信されたデジタル値に応答してデジタル制御信号のために出力される値を指示するプログラムステップを記憶することができる。このようにして、イオントラップ104を可能な最低の電力レベルで駆動するために、イオントラップ104のための回路109が初期化され、自動的に調節される方法を指示するプログラムを書き、記憶することができる。
【0026】
図5Bは、プログラム可能なRF源201(図2を参照)を構成するための例示的な回路のブロック図を示す。位相/周波数回路510を使用して、基準周波数514が、プログラム可能な周波数分割器513の出力と比較される。周波数分割器513は、供給源201からの出力515を生成する電圧制御発振器(VCO)512の出力をプログラム可能な因数Nで割る。この構造において、RF源周波数は基準周波数514のN倍になる。数Nはプログラム可能であるため、制御221上のデジタル値を使用して出力515の周波数を制御することができる。回路109の態様で使用することができるRF源201に関して示される例示的な回路に関して可能な多くの変形がある。RF源201の機能性はまた、単一の集積回路においても利用可能である。
【0027】
図6は、電力制御回路207中で実行され、図2の回路109のための省略可能な周波数トラッキングステップ804で使用されるステップの流れ図を示す。ステップ601において、電力制御回路207から数値を出力して、RF源201を、図7のステップから測定された共振周波数Fnに設定する。ステップ602において、発振器201の周波数の増加を示すためにはプラス符号を使用し、発振器201の周波数の減少を示すためにはマイナス符号を使用する。初期符号値は、随意に選択されるか、または共振周波数ドリフトの予想方向に基づく。ステップ603において、発振器201の周波数を、その時点の符号によって示される方向に所定の量だけ増加させ、その間に電力制御回路207がイオントラップ104に対する電力Psをモニタする。ステップ604において、試験を実施して電力Psが増加中であるかどうかを判定する。試験の結果がYESである場合には、周波数変化方向を示す符号を反対の符号に切り替える。その後、分岐を経てステップ603に戻る。ステップ604における試験の結果がNOである場合には、その時点の符号をそのままに維持し、分岐を経てステップ603に戻る。このようにして、発振器201の周波数を前後に揺動させて、イオントラップ104に対する電力を最小値で維持する。
【0028】
図7は、共振作動周波数をサーチする間に電力制御回路207で実行され、ステップ802で使用されるステップの流れ図を示す。ステップ701において、RF源201を、プログラム可能な周波数範囲内の低いプログラム可能な周波数に設定する。周波数範囲は、イオントラップまたは質量フィルタの有効作動周波数範囲に基づいて測定され、サーチ時間を減らすために最小化される。この信号の振幅は、一定に保持され、共振周波数から有意に離れた周波数で過度な電力ドローまたは加熱を生じさせないために十分に低く設定される。ステップ702において、粗い値を出力して、発振器の周波数を徐々に増大方向にスキャンしていく。この値は変数インジケータFiを与えられる。ステップ703において、回路109に対する電流をモニタして、イオントラップ104を駆動するための電力Psを測定する。ステップ704において、試験を実施して、イオントラップ104に対する電力が所定の量よりも増加したかどうかを判定する。ステップ704における試験の結果がNOである場合には、分岐を経てステップ702に戻る。ステップ704における試験の結果がYESである場合には、分岐を経てステップ705に戻り、そこで電流Fiを保存し、周波数範囲Fi〜Fi-2にわたって周波数をほんの少しずつ減少させる。ステップ705において、発振器の周波数を調節する微細値を出力して、発振器の周波数を、Fi(最後の粗い周波数ステップ)から、最後の三つの出力された粗い周波数ステップを包含するFi-2までの範囲で減少させる。ステップ706において、共振周波数Fnを、周波数範囲Fi〜Fi-2をスキャンする間に見いだされた最小電力に対応する共振周波数として選択する。その後、分岐を経てステップ803(図8を参照)に戻る。
【0029】
増幅器204は、増幅器204に電力を供給する二つの電源入力部、すなわち一方が正電圧216のための電源入力部、もう一方が負電圧217のための電源入力部を有する。小さな抵抗器(電流分路抵抗器)が正電源ピン216と並列に配置されてもよい(図2の回路208を参照)。この電源入力部に流れ込む電流はこの抵抗器を通って流れる。この抵抗器のΩ単位の抵抗は既知であるため、この抵抗器を通って流れる電流は、この抵抗器をはさんでの電圧降下を計測することによってわかる(V=I*R)。この抵抗器をはさんでの電圧降下が最小値である場合、電源ピンを通って流れる電流もまた最小値であり、したがって、増幅器204によって使用される電力は最小値である。回路の共振周波数において、増幅器204に対する電流入力は有意に低下する。システムは、この共振周波数を見いだすために、作動前にシステムの全周波数範囲を掃引する(周波数がスキャンされる場合に電流分路抵抗器にかかる電圧をモニタすることにより)。電流分路抵抗器にかかる電圧は、電流分路増幅器コンポーネントによって増幅され、アナログ・デジタル変換器に供給されることができる。アナログ・デジタル変換器のデジタル出力は、たとえば電力制御回路207内のマイクロプロセッシング要素に供給されることができる。システムは、出力電圧を直接計測するのではなく、バイポーラ電源の一つへの電流をモニタする。これにより、真の共振周波数のより正確な値が提供され、かつ信号を整流するか、ピーク検出器を使用するかまたはRMS変換を実行して振幅を測定する必要性が、取り除かれる。
【0030】
図8は、図2の回路109を作動させる間に電力制御回路207中で実行される一般的ステップの流れ図を示す。ステップ801において、リセットによって質量分析計100をONにする。ステップ802において、サーチモードを開始し、そこで、RF源201の周波数を調節して、例示的なイオントラップ104を最小限の電力で駆動するための共振周波数を測定する(たとえば図7を参照)。ステップ803において、測定した周波数で質量分析計システム100を作動させる。ステップ804において、システム作動中に、省略可能な周波数トラッキングを開始して、作動周波数を、イオントラップおよび関連回路の共振点における応答変化においてイオントラップ104を駆動するための最小電力で維持する(たとえば図6を参照)。
【0031】
図9は、本発明の態様にしたがってイオントラップ104を駆動するための周波数対電力の例示的プロットを示す。開始スキャン周波数Fiが共振周波数Fnとともに示されている。Fnは増幅器204の最小電力消費点と合致する。周波数がFnを超えて増加し続ける場合の連続的な電力低下は、増幅器204のバンド幅制限によるものである。
【0032】
本明細書に記載された態様は、質量分析計の電力およびサイズを減らして、質量分析計システムが、従来のユニットの費用およびサイズのせいで以前にはそのようなユニットを使用することができなかった他のシステム中のコンポーネントになりうるように作用する。たとえば、小型質量分析計100を危険現場に配置して、ガスを分析し、人に危険を呈する状態の報告を遠隔操作で送り返すこともできる。本明細書における態様を使用する小型質量分析計100は、空輸における戦略的位置に配置して、機能不全またはテロリスト脅威の指標になる可能性のある危険なガスに関して環境を試験することもできる。本発明は、機能性質量分析計を製造するために必要なサイズおよび電力を減らして、そのような装置が通常は考慮されない場所および用途でその運用を使用することができることにおける価値を予想した。
【0033】
本発明の数多くの態様を記載した。とは言うものの、本発明の精神および範囲を逸することなく、様々な改変を加えることができることが理解されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF信号を生成する、周波数および振幅をプログラム可能なRF発生器と、
該RF信号を受信しかつ増幅されたRF信号を生成する、RFゲインステージと、
該RFゲインステージに送達される供給電流に比例する検出信号を生成する、検出回路と、
該RFゲインステージの出力部に結合された一次側(primary)、および質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタのキャパシタンスでタンク回路を形成するように結合された二次側(secondary)を有する、変圧器と、
該検出信号を受信しかつ該RF発生器へのフィードバック制御信号を生成し、該RFゲインステージに供給される該RF信号の電力レベルを低下させるために該RF発生器の周波数を調節する、電力回路と
を備える、質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタを駆動するためのシステム。
【請求項2】
前記検出回路が、
前記RFゲインステージに対する電源入力部と直列状態にある、電流検出抵抗器と、
該抵抗器の一つの端子に結合された正入力部および該抵抗器の第二の端子に結合された負入力部を有し、該RFゲインステージに供給される電力に比例する出力信号を生成する、差動増幅器と
を備える、請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記プログラム可能なRF発生器が、プログラム可能な周波数分割回路を有する位相固定ループ(PLL)回路を備える、請求項2記載のシステム。
【請求項4】
前記プログラム可能な周波数分割回路がデジタル的にプログラム可能である、請求項3記載のシステム。
【請求項5】
前記差動増幅器の出力電圧をデジタルフィードバック信号に変換するためのアナログ・デジタル(A/D)変換器をさらに備える、請求項4記載のシステム。
【請求項6】
前記変圧器が、
共振回路を質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタのキャパシタンスとともに形成する二次インダクタンスを有する、逓昇変圧器
である、請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記RF発生器が、フィルタ回路を有する前記RFゲインステージに結合されている、請求項1記載のシステム。
【請求項8】
前記RF発生器が前記変圧器の一次側に結合されている、請求項7記載のシステム。
【請求項9】
前記RFゲインステージのゲインが抵抗器の比によって設定される、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記フィルタ回路が直列抵抗器を備える、請求項8記載のシステム。
【請求項11】
前記質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタを特定の作動周波数範囲に同調させるように構成された、該質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタと並列状態にある可変コンデンサー
をさらに備える、請求項1記載のシステム。
【請求項12】
質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタに結合された二次側を有する、変圧器と、
該変圧器の一次側に結合された出力部を有する、RFゲインステージと、
該RFゲインステージの入力部に結合された、信号を生成する周波数および振幅をプログラム可能なRF源であって、該質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタを駆動する場合に該RFゲインステージに供給される電力レベルを最小値にまで低下させるために該プログラム可能なRF源の周波数を動的に調節するように、該プログラム可能なRF源の回路が構成されている、周波数および振幅をプログラム可能なRF源と
を備える、質量分析計のイオントラップまたは質量フィルタを駆動するための無線周波数(RF)ドライバシステム。
【請求項13】
質量分析計を作動させる方法であって、
該質量分析計を駆動するための回路が、変圧器を介して該質量分析計に結合されたRFゲインステージを含み、かつRF発生器が該RFゲインステージの入力部に結合されている、該質量分析計内でイオンを捕捉するために該質量分析計を信号で駆動する段階、
該質量分析計を駆動しながら該RFゲインステージに供給される電力レベルをモニタし、かつ該電力レベルに比例するフィードバック信号を生成する段階、および
該質量分析計を駆動する場合の該RFゲインステージに供給される電力レベルを低下させるために該RF発生器の周波数を調節するように、該フィードバック信号を結合する段階
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−522379(P2011−522379A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511776(P2011−511776)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045283
【国際公開番号】WO2009/154979
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(510312639)アストロテック コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】