説明

質量分析計を使用して物質を分析するためのシステムおよび方法

試料中の化合物を分析するためのシステムおよび方法。一実施形態において、本技術は、試料からイオンを放射すること;放射されたイオンを指定イオンについて選択すること;指定イオンをフラグメント化すること;複数の指定イオン・フラグメントについて走査すること;それぞれの指定イオン・フラグメントに対して、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースを測定すること;複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを生成することを含む、試料を分析する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に質量分析法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の組成を測定するための分析は、毒性学、科学捜査および環境検査、並びに食品・医薬品研究を含む多くの応用において必要となりうる。しばしば、分析試料の分析は、目的の多種多様な分析物の存在についてなされる。かかる試料は、例えば、分析対象から採取される体液の形態とすることができ、検査対象からの瑣末な内因性イオンのみならず、目的の薬物代謝産物をしばしば含む。目的の多数の分析物の有無および量を複雑な試料中で正確に測定することは、難しく多くの時間を必要としかねない。
【0003】
試料の質量スペクトルを発生させて、その組成を見出すために、質量分析計がしばしば利用される。これは通常、試料のイオン化、異なる質量のイオンの分離、およびイオン束の強度測定を通じて、その相対的存在量を記録することによって達成される。例えば、イオンは、飛行時間型質量分析計を用いて所定の飛行経路を進むようにパルス化される。次に、このイオンが検出器によって記録される。イオンが検出器に到達するのに必要な時間、「飛行時間」を用いて、イオンの質量対電荷比m/zを計算することができる。
【0004】
(イオン前駆体の質量に加えて)付加的な情報を、衝突セル(または他の手段)におけるCID(衝突誘起解離:collision induced dissociation)を利用してイオンをフラグメント化し、MSMSスペクトルを生成することによって次に得ることができる。MSMS機能をもつ大部分の機器においては、質量スペクトル発生、前駆イオン選択、およびMSMS(質量スペクトル/質量スペクトル:mass spectrum/mass spectrum)スペクトル生成プロセスを自動化モードで実施することができる。この取得モードは、しばしば情報依存型取得(IDA:Information Dependant Acquisition)、またはデータ依存型実験(DDE:Data Dependant Experimet)と呼ばれる。
【0005】
試料からイオンを質量分析計中に時間をかけて溶離または放出するために、液体クロマトグラフのようなクロマトグラフ装置を使うことができる。質量分析計が受け取ったイオンを分析するためには、多重反応モニター法(MRM:Multiple reaction monitoring)または他の技術が利用できる。
【0006】
MRMを利用するLC/MS定量化技術において、試料が複雑な場合には、目的の分析物とQ1およびQ3質量が同じで干渉を示すマトリックス成分がしばしば含まれる。その結果、どのクロマトグラム・ピークが目的の特定の分析物を表すのか、判断が難しいことがある。保持時間も少し変化して、ピークの発見をより難しくすることもある。少数の分析物を扱う場合は、通常、特定の試料清浄化技術、同位体を濃縮した分析物バージョンによる内部標準の利用、或いは手作業による頻繁な介入によって、この問題に対処することができる。しかしながら、かかる解決法は、多数の分析物に対して実用的ではない。
【0007】
かくして、本出願人は、試料からのイオンを分析し、かつ同定するためのシステムおよび方法の必要性を認識するに至った。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一様態において、本技術は、試料中の分析物を分析するためのシステムに関する。本システムは、試料からイオンを放射するためのイオン源;イオン源からのイオンを受け取るように適合された質量分析計;動作可能なように質量分析計に連結されており、目的の指定イオンについて分析するために第1の質量分析器を制御し、かつ目的の指定イオン・フラグメントについて分析するために第2の質量分析器を制御するように構成されているコントローラを含む。本システムは、少なくとも1つの分析物パラメータ・セットを記憶するためのデータ記憶装置も含み、それぞれの分析物パラメータ・セットは、指定前駆イオン、複数の指定イオン・フラグメント、および保持時間ウィンドウを含む。
【0009】
本質量分析計は、イオン源から受け取ったイオンを選択するための第1の質量分析計、
第1の質量分析器から受け取ったイオンをフラグメント化するように構成されているイオン・フラグメンター(ion fragmenter)、イオン・フラグメンターから受け取ったイオン・フラグメントを選択するように構成されている第2の質量分析器、および第2の質量分析器から受け取ったイオン・フラグメントを検出するように構成されている少なくとも1つの検出器を含む。
【0010】
コントローラは、分析物パラメータ・セットに対して応答性があり、それぞれの分析物パラメータ・セットに対する保持時間ウィンドウの間に、該コントローラは、対応する指定前駆イオンについて選択をするために第1の質量分析器を制御し、かつ対応する指定イオン・フラグメントについて選択をするために第2の質量分析器を制御するように構成される。該コントローラは、分析物パラメータ・セットにおけるそれぞれの指定イオン・フラグメントに対するクロマトグラフィー・トレース(chromatographic trace)を測定するように構成されており、該コントローラは、分析物パラメータ・セットに対する複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成される。
【0011】
それぞれのクロマトグラフィー・トレースは、各データ・ポイントがある時点で検出器によって検出されたイオン・フラグメントの強度に対応する複数のデータ・ポイントを備えることができ、コントローラは、対応する保持時間ウィンドウの間の各時点に対して、それぞれのクロマトグラフィー・トレースの各対応データ・ポイントの値を乗じることによって、分析物セットに対する結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成することができる。
【0012】
別の様態において、本技術は、イオン源から放射されたイオンを分析するためのシステムに直接に関係する。本システムは、イオン源からイオンを受け取って選択するように適合された第1の質量分析器、第1の質量分析器から受け取ったイオンをフラグメント化するように構成されているイオン・フラグメンター、イオン・フラグメンターから受け取ったイオン・フラグメントを選択するように構成されている第2の質量分析器、および第2の質量分析器から受け取ったイオン・フラグメントを検出するように構成されている検出器を含む。
【0013】
本システムは、動作可能なように第1および第2の質量分析器、フラグメンター、並びに検出器に連結されたコントローラをさらに含み、該コントローラは、目的の指定イオンについて分析するために第1の質量分析器を制御し、かつ目的の指定イオン・フラグメントについて選択をするために第2の質量分析器制御するように構成される。本システムは、少なくとも1つの分析物パラメータ・セットを記憶するためのデータ記憶装置をさらに含み、それぞれの分析物パラメータ・セットは、指定前駆イオン、複数の指定イオン・フラグメント、および保持時間ウィンドウを含む。
【0014】
コントローラは、分析物パラメータ・セットに対して応答性があり、それぞれの分析物パラメータ・セットに対する保持時間ウィンドウの間に、該コントローラは、対応する指定前駆イオンについて選択をするために第1の質量分析器を制御し、かつ対応する指定イオン・フラグメントについて選択をするために第2の質量分析器を制御するように構成される。該コントローラは、分析物パラメータ・セットにおけるそれぞれの指定イオン・フラグメントに対するクロマトグラフィー・トレースを測定するようにさらに構成され、該コントローラは、複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成される。
【0015】
それぞれのクロマトグラフィー・トレースは、各データ・ポイントがある時点で検出器によって検出されたイオン・フラグメントの強度に対応する複数のデータ・ポイントを備えることができ、コントローラは、対応する保持時間ウィンドウの間の各時点に対して、それぞれのクロマトグラフィー・トレースの各対応データ・ポイントの値を乗じることによって、分析物セットに対する結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成することができる。
【0016】
なおさらなる様態において、本技術は、試料からイオンを放射すること;放射されたイオンを指定イオンについて選択すること;指定イオンをフラグメント化すること;複数の指定イオン・フラグメントについて走査すること;それぞれの指定イオン・フラグメントに対して、指定クロマトグラフィー・トレースを測定すること;複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを生成することを含む、試料を分析する方法に関する。
【0017】
いくつかの実施形態において、結合されたクロマトグラフィー・トレースを生成するプロセスは、結合されたクロマトグラフィー・トレースを生成するために、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースを一緒に乗じることを含む。
【0018】
本方法は、決定された保持時間に対応するデータを含んだレポートを生成することをさらに含むことができる。
【0019】
別の様態において、本発明は、コンピュータ・コントローラをもつ質量分析計に、本方法を実行させるように構成されている、コンピュータ可読媒体に関連することもできる。
【0020】
同様の参照番号が同様の部分を指す次の図面を参照して、以下に、本発明が例としてのみ記載される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本開示に従って作製された質量分析計の概略図である。
【図2】図1の質量分析計の記憶装置に記憶できるような分析物パラメータ・データの代表的な例である。
【図3】図3Aは、図2のパラメータ・セットにおける第1の指定イオン・フラグメントに対応するクロマトグラフィー・トレースの代表的な例である。図3Bは、図2のパラメータ・セットにおける第2の指定イオン・フラグメントに対応するクロマトグラフィー・トレースの代表的な例である。図3Cは、図2のパラメータ・セットにおける第3の指定イオン・フラグメントに対応するクロマトグラフィー・トレースの代表的な例である。
【図4】図3A、3Bおよび3Cにおける指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、本開示に従って結合されたクロマトグラフィー・トレースの代表的な例である。
【図5】本開示に従って化合物を分析する方法のステップを示すフロー・ダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、本開示に従って作製された、全般的に10として参照される、分析システムが示される。システム10は、当然のことながら、本開示に従って計画的MRMを実施することができるように構成される。
【0023】
分析システム10は、四重極・飛行時間ハイブリッド型または三連四重極システムのようなMS/MSシステムとするとよい質量分析計11を含む。分析計11は、RAMまたは他の適切なコンピュータ可読媒体に記憶された適切にプログラムされた分析エンジン14をもつ、適切にプログラムされたコントローラまたは中央処理装置(CPU:central processing unit)12を備える。代わりに、エンジン14は、データを遠隔処理するために、CPU12から遠く離れたCPU上に存在してもよい。(キーボードまたは制御ボタンのような入力構成部分16、およびディスプレイのような出力構成部分16を典型的に含んだ)入力/出力(I/O)デバイス16も、動作可能なようにCPU12に連結される。データ記憶装置17も提供される。
【0024】
システム10は、分析する試料21から生成されたイオンを放射するように構成されているイオン源20も含む。イオン源20は、当然のことながら、例えば(ガスクロマトグラフィー源と併せて用いることができる)電子衝撃または化学イオン化源、または(液体ガスクロマトグラフィー源と併せて、もしくは動作可能なように連結して用いることができる)エレクトロスプレーもしくは大気圧化学イオン化型イオン源、或いは脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI:desorption electrospray ionization)またはレーザ脱離イオン化源のような、連続イオン源であってもよい。
【0025】
イオン源20は、(示していないが)多重極イオン・ガイド、リング・ガイドのようなイオン透過型イオン・ガイド、または四重極質量フィルターのようなイオン質量フィルター、或いはイオン・トラップ・デバイスなどとともに提供されてもよい。簡潔に言えば、用語イオン源20は、イオンを試料21から発生させて、目的の分析物イオンを検出するために放射する構成部品を記載するために用いられた。タンデム型質量フィルターおよびイオン・トラップを有するシステムのような、他のタイプのイオン源20を用いてもよい。好ましいイオン源は、イオンを試料21から多数回にわたって放射し、MRMまたは他の適切な技術を用いて質量分析計11による質量分析が可能なイオン源である。
【0026】
当然のことながら、溶媒に溶解した化合物を試料21中の他の物質から分離し、MS分析用にかかる物質を放出または放射するために、液体クロマトグラフィーを利用することができる。目的の分析物は、LC相の間に生じる化学的相互作用のタイミングが異なるので時間をかけて放出される。予想される化学的相互作用に基づいて、特定の分析物の放出時間を見積もることができる。
【0027】
上述のように、分析計11は、Q1、Q2およびQ3のロッドセットをもつ三連四重極・質量分析計を備えることができる。プロセッサ12により(トリガー・エンジン14を用いて)、ロッドセットQ1およびQ3を制御し、特定のm/zをもつイオンを選択またはフィルターすることができる。それと対照的に、ロッドセットQ2はチャンバーとともに提供され、Q1から受け取ったイオンをフラグメント化するための衝突セルまたはフラグメンターとして機能するように構成される。その結果として生じたイオン・フラグメントは、検出器22で検出または記録する前にロッドセットQ3に送り、そこでフィルターすることができる。
【0028】
イオンを検出器22上に集束させるために、静電レンズのような光学系24または他の集束要素を、放射イオンの経路、典型的にQ3ロッドセットと検出器22との間に配置することができる。
【0029】
図2には、データ記憶装置17に記憶することができるような分析物パラメータ・データ200の代表的な例が示される。分析物パラメータ・データ200は、少なくとも1つの分析物パラメータ・セット202を含み、それぞれの分析物パラメータ・セット202は、指定前駆イオン204に対応するm/z値、指定イオン・フラグメント206に対応する複数のm/z値、および保持時間ウィンドウ208に対応するタイミング・データを含む。パラメータ・セット202が3つのイオン・フラグメント206をもつデータ例を説明したが、当然のことながら、それぞれのセット202に対していろいろな数のフラグメント206を決定することもできる。同じく当然のことながら、保持時間ウィンドウ208は、対応する前駆イオン204が、イオン源20によって試料21から放射されると予想される、予め決定された時間に対応する。同じく当然のことながら、いくつかの簡易化された応用では、全分析時間にわたって「ウィンドウ」が働くように取扱うことができるので、保持時間または走査ウィンドウ・データ208は必要条件ではない。
【0030】
図3A〜3Cは、以下により詳細に議論されるように、試料21を分析のために質量分析計11で処理することによって生成できるような複数のデータ・ポイントを備えるクロマトグラフィー・トレースを例示しており、それぞれのデータ・ポイントは、ある時点で検出器によって検出されたイオン・フラグメントの強度に対応している。当然のことながら、図3Aから3Cに示されるような、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースに相当するチャートを生成することはできるが、その必要はなく−むしろ本開示に従って、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースのデータをデータ記憶装置17に単純に記憶し、分析器エンジン14を用いて処理するとよい。
【0031】
図3Aに示されるのは、図2に関連して議論されたパラメータ・セット202’における、第1の指定イオン・フラグメント206Aに対応する(データ記憶装置17に記憶できる)クロマトグラフィー・トレース300Aの代表的な例である。チャート300Aの縦軸302は、検出器22によって検出された指定イオン・フラグメント206Aの強度を表す。チャート300Aの横軸304は時間に対応し、この例では測定単位は分である。この例のデータでは、優勢なピーク310Aがおよそ23.03分に現れる。
【0032】
同様に図3Bは、図2に関連して議論されたパラメータ・セット202’における、第2の指定イオン・フラグメント206Bに対応する(データ記憶装置17に記憶できる)クロマトグラフィー・トレース300Bの代表的な例である。チャート300Bの縦軸302は、検出器22によって検出された指定イオン・フラグメント206Bの強度を表す。チャート300Bの横軸304は時間に対応し、この例では測定単位は分である。この例のデータでは、優勢なピーク310Bがおよそ21.81分に現れる。
【0033】
同じく同様に図3Cは、図2に関連して議論されたパラメータ・セット202’における第2の指定イオン・フラグメント206Cに対応する(データ記憶装置17に記憶できる)クロマトグラフィー・トレース300Cの代表的な例である。チャート300Cの縦軸302は、検出器22によって検出された指定イオン・フラグメント206Cの強度を表す。チャート300Cの横軸304は時間に対応し、この例では測定単位は分である。この例のデータでは、優勢なピーク310Cがおよそ21.88分に現れる。
【0034】
次に図4に移ると、分析エンジン14によって生成され、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース300A、300Bおよび300Cの非線形結合に相当する(データ記憶装置17に記憶できるような)結合されたクロマトグラフィー・トレース400の代表的な例が示される。チャート400の縦軸402は、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース300A、300Bおよび300Cから乗算された強度値を表す。チャート400の横軸404は時間に対応し、この例では測定単位は分である。
当然のことながら、動作中にCPU12/分析エンジン14は、分析物パラメータ・データ200、特に(例えば、202’を含む)分析物パラメータ・セット202に対して応答性がある。以下により詳細で議論されるように、エンジン14は、対応する前駆イオン204および確認用イオン・フラグメント206をそれぞれの分析物パラメータ・セット202に対応する保持時間ウィンドウ208の間にフィルターするために、質量分析器Q1およびQ3の動作を調節するように構成される。パラメータ・セット(例えば、202’)に対して、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース(例えば、300A、300Bおよび300C)が測定された時点で、エンジン14は、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレース(例えば、400)を生成するようにさらに構成される。エンジン14は、分析物パラメータ・セットに対応する保持時間を決定するようにさらに構成される。
【0035】
図5は、分析計システム10によって分析時に実行され、全般的に500として参照される本方法のステップを提示する。典型的に、分析時間を開始する前に、目的の(それについて試料21が分析される)分析物が決定される(ブロック502)。典型的に、それぞれの目的の分析物に対する指定前駆イオン204、および対応する複数の指定イオン・フラグメント206が、分析物パラータ・データ200中の分析物パラメータ・セット202に記憶される。それぞれのパラメータ・セット202に対応する保持時間ウィンドウ208も決定されて記憶される(ブロック504)。
【0036】
当然のことながら、多数の目的の分析物に対する分析物パラメータ・セット202(指定前駆イオン204および指定イオン・フラグメント206、並びに対応する保持時間ウィンドウ208)を予め計算してデータ記憶装置17にデータ・ライブラリとして記憶し、分かりやすくインテックス付けしユーザおよびCPU12が、I/Oデバイス16を利用してこれを読み出せるようにしてもよい。
【0037】
ユーザは、通常は次に、分析時間を開始するコマンド、すなわちそれを受信すると分析エンジン14が分析時間を開始するようにプログラムされたコマンドを、(通常はI/Oデバイス16を用いて)入力することになる(ブロック506)。
【0038】
分析時間に入ると、試料21からイオン放射を開始するためにイオン源20が起動される(先述のように、これでLC相が開始されてもよい)(ブロック508)。当然のことながら、試料は、例えば、分析対象から採取される体液を含んでもよく、検査対象からの瑣末な内因性イオンのみならず、目的の薬物代謝産物をしばしば含む。
【0039】
次に、システム10は、対応する保持時間ウィンドウ208の間に、放射イオンから指定前駆イオン204を選択的にフィルターするように構成される(ブロック510)。当然のことながら、CPU12/分析エンジン14は、ロッドセットQ1が、イオン源20から受け取ったイオンから指定前駆イオン204を選択的にフィルターするようにプログラムされている。
【0040】
次に、フラグメント化モジュール/ロッドセットQ2は、フィルターされたイオン204を受け取り、これをフラグメント化する(ブロック512)。次にQ3ロッドセットは、このフラグメントを受け取り、対応する指定イオン・フラグメント206について走査またはフィルターするように、分析エンジン14によって制御される(ブロック514)。かかる指定イオン・フラグメント206は(もしあれば)、検出器22に衝突することが可能である。検出器22が指定イオン・フラグメント206を検出した場合(ブロック516)、分析エンジン14は、対応するデータをデータ記憶装置17に記憶するようにプログラムされている。当然のことながら、ブロック510〜516のフィルタリング、フラグメント化、フィルタリングおよび検出ステップは一般に、期せずして重なった保持時間ウィンドウ208を共有する複数の分析物パラメータ・セット202に対して実質的に同時に実施される。
【0041】
プロセス500は、分析時間が終了してイオン放射が停止されるまで、様々なステップ510〜516を循環的に繰り返す。
【0042】
分析エンジン14は、複数の、および典型的にそれぞれの指定イオン・フラグメント206に対して、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース(例えば、300A、300B、300C)を測定する(ブロック518)。特定のパラメータ・セット202、202’に対する保持時間ウィンドウ208の終了後(分析時間中またはそれ以降であってもよい)に、かかるトレースが得られることになる。上述のように、トレース(例えば、300A、300B、300C)は、図3A、3Bおよび3Cに示されるクロマトグラフィー・チャートによって表されるデータ・ポイントの一群を単に備えるだけかもしれず、分離されたステップでなくてもよいこともある。
【0043】
それぞれの分析物パラメータ・セット202、202’に対して、分析エンジン14は、複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース(例えば、300A、300B、300C)の非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレース400を決定する(ブロック520)。分析エンジン14は、対応する保持時間ウィンドウの間の各時点に対して、それぞれのかかる指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース(例えば、300A、300B、300C)における各対応データ・ポイントの値を乗じることによって、分析物パラメータ・セットに対する結合されたクロマトグラフィー・トレース400を測定するように構成することができる。かくして、例えば、結合されたクロマトグラフィー・トレース400の時間23.17分におけるポイント450の値は、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース300A、300B、300Cにおいて対応する(すべて23.17分のときの)値350A、350B、350Cを一緒に乗じることによって決定される。
【0044】
分析エンジン14は、次に分析物パラメータ・セット202’に対する、すなわちそれに対応する指定前駆イオン204’に対する保持時間を決定することができる(ブロック522)。典型的に、エンジン14は、結合されたクロマトグラフィー・トレース400における優勢なピーク410を検出することによって保持時間を決定する。分析物パラメータ・セット(例えば、202’)におけるすべての指定フラグメント(例えば、206A、206B、206C)は、同じ保持時間を共有する(従って、それぞれの指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース300A、300B、300Cにおいて非ゼロ強度値をもつ)筈であり、トレース(例えば、300A、300B、300C)におけるデータ・ポイント値を一緒に乗じることによって、最大値/優勢なピークが保持時間に一致することが期待される。
【0045】
それ故に、例えば、図3Aの(23.03分における)ピーク310A、および図4の(21.80分における)ピーク410を参照するとわかるように、ピーク310Aは、誤解を招きやすく、マトリックス成分による干渉を反映している。図4における(23.17分のポイント450に近い)23.03分に対応する値はゼロに近い。
【0046】
分析エンジン14は、次に指定前駆イオン204’を定量化することができる(ブロック524)。典型的に、エンジン14は、決定された保持時間(ブロック522で決定される)に対応する、指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレース(例えば、300A、300B、300C)における優勢なピーク(例えば、310B、310C)を積分することによって、この量を決定することができる。或いは当然のことながら、定量化については、結合されたクロマトグラフィー・トレース400における優勢なピーク410を積分することによって、決定することもできる。
【0047】
当然のことながら、コントローラ12は、決定された保持時間、1つまたはそれ以上のクロマトグラフィー・トレース300A、300B、300C、400、様々な指定イオン204の量、従って、対応する目的の分析物の有無を確認することによって、レポートを生成することができる(ブロック526)。
【0048】
かくして、本明細書に図示および記載されることは、主題発明の好ましい実施形態を構成するが、当然のことながら、その範囲が添付の請求項に明記される様々な変更を、主題発明から逸脱することなく加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析物を分析するためのシステムであって、
(a)前記試料からイオンを放射するためのイオン源;
(b)前記イオン源から前記イオンを受け取るように適合された質量分析計であって、
(i)前記イオン源から受け取ったイオンを選択するための第1の質量分析器、
(ii)前記第1の質量分析器から受け取ったイオンをフラグメント化するように構成されているイオン・フラグメンター、
(iii)前記イオン・フラグメンターから受け取ったイオン・フラグメントを選択するように構成されている第2の質量分析器、および
(iv)前記第2の質量分析器から受け取ったイオン・フラグメントを検出するように構成されている少なくとも1つの検出器
を含む質量分析計;
(c)動作可能なように前記質量分析計に連結されており、目的の指定イオンについて選択をするために前記第1の質量分析器を制御し、かつ目的の指定イオン・フラグメントについて選択をするために前記第2の質量分析器を制御するように構成されているコントローラ;
(d)少なくとも1つの分析物パラメータ・セットを記憶するためのデータ記憶装置であって、それぞれの分析物パラメータ・セットは、
(i)指定前駆イオン、
(ii)複数の指定イオン・フラグメント、および
(iii)保持時間ウィンドウ
を含むデータ記憶装置;
を備えており、
(e)前記コントローラは、前記分析物パラメータ・セットに対して応答性があり、それぞれの分析物パラメータ・セットに対する前記保持時間ウィンドウの間に、前記コントローラは、対応する指定前駆イオンについて選択をするために前記第1の質量分析器を制御し、かつ対応する指定イオン・フラグメントについて選択をするために前記第2の質量分析器を制御するように構成され;
(f)前記コントローラは、前記分析物パラメータ・セットにおける複数の前記指定イオン・フラグメントに対するクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成され、かつ前記コントローラは、複数の前記指定イオン・フラグメントのクロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成されている
システム。
【請求項2】
それぞれの指定イオン・フラグメントのクロマトグラフィー・トレースは、各データ・ポイントがある時点で前記検出器によって検出されたイオン・フラグメントの強度に対応する複数のデータ・ポイントを備え、前記コントローラは、前記対応する保持時間ウィンドウの間の各時点に対して、前記結合におけるそれぞれの指定イオン・フラグメントのクロマトグラフィー・トレースの各対応データ・ポイントの値を乗じることによって、分析物パラメータ・セットに対する前記結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記分析物パラメータ・セットに対応する保持時間を決定するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記コントローラは、前記結合されたクロマトグラフィー・トレースにおける優勢なピークを検出するように構成され、前記決定された保持時間は、前記優勢なピークに対応するように選択される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記コントローラは、少なくとも1つの指定クロマトグラフィー・トレースからのピークであって、前記決定された保持時間に対応する前記ピークを積分するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
動作可能なように前記コントローラに連結されたデータ記憶装置をさらに備え、前記データ記憶装置は、前記検出器によって検出された前記イオン・フラグメントに対応するデータを保存するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記イオン源は、動作可能なように液体クロマトグラフに連結された、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
イオン源から放射されたイオンを分析するためのシステムであって、
(a)前記イオン源からイオンを受け取って、選択するように適合された第1の質量分析器、
(b)前記第1の質量分析器から受け取ったイオンをフラグメント化するように構成されているイオン・フラグメンター、
(c)前記イオン・フラグメンターから受け取ったイオン・フラグメントを選択するように構成されている第2の質量分析器、および
(d)前記第2の質量分析器から受け取ったイオン・フラグメントを検出するように構成されている検出器;
(e)動作可能なように前記第1および第2の質量分析器、前記フラグメンター、並びに前記検出器に連結されたコントローラであって、目的の指定イオンについて分析器のために前記第1の質量分析器を制御し、かつ目的の指定イオン・フラグメントについて選択をするために前記第2の質量分析器を制御するように構成されているコントローラ;
(f)それぞれの分析物パラメータ・セットが、
(i)指定前駆イオン、
(ii)複数の指定イオン・フラグメント、および
(iii)保持時間ウィンドウ
を含む、少なくとも1つの分析物パラメータ・セット;
を備え、
(g)前記コントローラは、前記分析物パラメータ・セットに対して応答性があり、それぞれの分析物パラメータ・セットに対する前記保持時間ウィンドウの間に、前記コントローラは、対応する指定前駆イオンについて選択をするために前記第1の質量分析器を制御し、かつ対応する指定イオン・フラグメントについて選択をするために前記第2の質量分析器を制御するように構成され;
(h)前記コントローラは、前記分析物パラメータ・セットにおけるそれぞれの指定イオン・フラグメントに対するクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成され、かつ前記コントローラは、複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成されている
システム。
【請求項9】
それぞれの指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースは、各データ・ポイントがある時点で前記検出器によって検出されたイオン・フラグメントの強度に対応する複数のデータ・ポイントを備えており、前記コントローラは、各時点に対して、それぞれの指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの各対応データ・ポイントの値を乗じることによって、分析物パラメータ・セットに対する前記結合されたクロマトグラフィー・トレースを測定するように構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記コントローラは、保持時間を決定するように構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記結合されたクロマトグラフィー・トレースにおける優勢なピークを検出するように構成され、前記決定された保持時間は、前記優勢なピークに対応するように選択される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記コントローラは、少なくとも1つの指定クロマトグラフィー・トレースからのピークであって、前記決定された保持時間に対応する前記ピークを積分するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
動作可能なように前記コントローラに連結されたデータ記憶装置をさらに備え、前記データ記憶装置は、前記検出器によって検出された前記イオン・フラグメントに対応するデータを保存するように構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
試料を分析する方法であって、
(a)前記試料からイオンを放射すること;
(b)前記放射されたイオンを指定イオンについて選択すること;
(c)前記指定イオンをフラグメント化すること;
(d)複数の指定イオン・フラグメントについて走査すること;
(e)それぞれの指定イオン・フラグメントに対する指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースを測定すること;
(f)複数の指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースの非線形結合に相当する、結合されたクロマトグラフィー・トレースを生成すること
を含む、方法。
【請求項15】
ステップ(f)は、前記結合されたクロマトグラフィー・トレースを生成するために、前記指定フラグメント・クロマトグラフィー・トレースを一緒に乗じることを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(g)保持時間を決定すること
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記決定された保持時間に対応するデータを含んだレポートを生成することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記決定された保持時間は、前記結合されたクロマトグラフィー・トレースにおける優勢なピークに対応する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
(h)少なくとも1つの指定クロマトグラフィー・トレースからのピークであって、前記決定された保持時間に対応する前記ピークを積分すること
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(b)から(d)は、予め決定された保持時間ウィンドウの間に実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記保持時間ウィンドウは、前記指定イオンが、前記試料から放射されると予想される時間に対応するように選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(b)から(f)は、それぞれの保持時間ウィンドウが指定イオンに対応する複数の保持時間ウィンドウの間に、複数の異なった指定イオンに対して実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
各保持時間ウィンドウは、前記対応する指定イオンが、前記試料から放射されると予想される時間に対応するように選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
コンピュータ・コントローラをもつ質量分析計に、請求項14に記載の方法を実施させるように構成されているコンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−505672(P2011−505672A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536297(P2010−536297)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際出願番号】PCT/CA2008/002083
【国際公開番号】WO2009/070871
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】