質量分析計内へとイオンを効率的に搬送するための方法および装置
本発明による方法においては、イオンパルスを生成し、イオンパルスの持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し、イオンパルスを過渡的電界の中へと受領し、過渡的電界のイオンドリフト領域から、導入開口の動的ガスフロー領域内へと、イオンを収集する。同様に、本発明による装置は、質量分析器内へとイオンを搬送するための装置であって、イオンパルスを生成し得るよう構成されたイオン生成源と、イオンパルスを受領し得るとともに過渡的な電界を生成し得るよう構成された過渡的電界形成デバイスと、イオンドリフト領域から、導入開口の動的ガスフロー領域へと、イオンを収集し得るとともに、さらに、質量分析器内へとイオンを搬送し得るよう構成されたイオンコレクタと;を具備している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、質量分析計に関するものであり、特に、質量分析計のためのパルス型イオン生成源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析は、イオン化した化学種の質量を測定するために使用される分析手法であり、この分析手法においては、イオン化した化学種の質量電荷比に基づいてイオンを分離し、イオン検知器内においてイオンを検出する。質量分析のための化学的サンプルのイオン化は、様々な手法によって行うことができ、例えば、大気圧でのマトリクス支援レーザー脱離イオン化(atmospheric pressure matrix-assisted laser desorption ionization,AP−MALDI)や、電気噴霧イオン化や、大気圧での化学的イオン化(atmospheric pressure chemical ionization,APCI)や、誘導結合プラズマ(inductively-
coupled plasma,ICP)放電や、光イオン化、といったような手法によって行うことができる。生成されたイオンは、大気圧導入口を通して、減圧領域内へと、搬送される。減圧領域内においては、イオンガイドが、質量検出器内へとイオンを直接的に導く。
【0003】
大気圧イオン生成源においては、イオン(あるいは、電気噴霧イオン化の場合の小さな液滴といったような帯電種)は、生成された後に、分散してしまう。生成イオンの分散は、大気圧生成源からのイオンの効率的なサンプリングを、困難なものとする。大気圧導入口は、典型的には、小さな開口である、すなわち、横断面積が制限された毛細管である。したがって、生成されたイオンの大部分は、典型的には、開口を通り抜けることができず、質量分析にとっての損失となる。小さな開口すなわち毛細管を通してのイオンの効率的な搬送は、開口に対して直接的に隣接している領域からかなり離れた領域においてイオンが生成される場合には、さらに一層困難なものとなる。高感度かつ高処理速度の質量分析を行うためには、イオンが質量検出器に到達する前のイオン損失量を最小化することが重要である。
【0004】
大気圧生成源からイオンをサンプリングするための1つのアプローチは、質量分析計のサンプリング開口/チューブに対して同軸的にイオンを生成することである。しかしながら、このアプローチは、正確な開口の位置合わせと、生成源の位置決めと、を必要とする。さらに、正確な手法を使用した場合であってさえ、サンプリング効率は、一般に、イオン数に関し、104 分の1未満である。AP−MALDIの場合には、Laiko 氏他による、米国特許第5,965,884号明細書、および、Anal. Chem. 2000 (vol. 72, pp. 652-657, vol. 72, pp. 5239-5243) に記載されているように、レーザー照射パルスを使用することによって、イオンが生成される。これら文献の記載内容は、参考のため、ここに組み込まれる。AP−MALDIによって生成されたイオンは、静電界と質量分析計内に向けた取込ガスフローとの双方を補助的に使用することにより、質量分析計の大気圧導入口内へと抽出される。AP−MALDI構成においては、開口に対して直接的に同軸的にレーザービームを位置決めすることは、最良の感度をもたらす。しかしながら、それでも、イオンの大部分が、同軸的な連続的抽出操作時に、質量分析計の導入口の壁のところにおいて失われる。参考のためその記載内容の全体がここに組み込まれることとなる米国特許第4,209,696号明細書には、電気噴霧イオン化生成源と、針穴開口と、の組合せが開示されている。この構成は、非効率的なイオンサンプリングの他の例であって、高精度での開口の位置合わせと生成源の位置決めとを必要とする。
【0005】
さらに他のアプローチにおいては、Smith 氏他による米国特許第6,107,628号明細書に開示されているように、サンプリング開口内へとイオンを焦点合わせする。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。Smith 氏他は、徐々に縮径していくような一連をなす複数の部材からなるイオン漏斗を開示している。ラジオ波周波数(RF)電圧が、複数の部材に対して交互的に印加され、これにより、イオンが案内される。Franzen 氏他は、(参考のためその記載内容の全体がここに組み込まれることとなる米国特許第5,747,799号明細書において)開口プレートの前方に配置されたプレートレンズを使用して焦点合わせを行うことを開示している。Fenn氏他は、(参考のためその記載内容の全体がここに組み込まれることとなる米国特許第4,542,293号明細書において)毛細管の前方に配置されたプレートレンズを使用して焦点合わせを行うことを開示している。加えて、質量分析計の導入口として、円錐形状スキマー開口が使用された。これにより、平面開口と比較して、イオン収集効率を向上させることができる。しかしながら、このアプローチは、形成された静電界の円錐形状による受領角度によって、制限されてしまう。加えて、この場合にも、生成源の位置決めが、性能面において重要である。
【0006】
すべての焦点合わせデバイスは、本来的に複雑であって、位置決め精度に依存するものであり、効率的でない。したがって、イオン生成源のイオンサンプリング効率を増大させデバイスが要望されている。
【特許文献1】米国特許第5,965,884号明細書
【特許文献2】米国特許第4,209,696号明細書
【特許文献3】米国特許第6,107,628号明細書
【特許文献4】米国特許第5,747,799号明細書
【特許文献5】米国特許第4,542,293号明細書
【非特許文献1】Anal. Chem. 2000 (vol. 72, pp. 652-657, vol. 72, pp. 5239-5243)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの目的は、質量分析計の外部で生成されたイオン種に関し、感度を増大させること、および、検出限界を向上させること、である。
【0008】
本発明の他の目的は、質量分析計の大気圧導入口を通してのイオンの搬送を改良することである。
【0009】
さらに他の目的は、質量分析器の軸に対してのレーザースポットの位置合わせがイオン収集に関して重要ではないような技術を提供することである。
【0010】
しかしながら、他の目的は、質量分析器の導入口の開口直径よりも大きなレーザー照射面積からのイオン収集を提供することである。
【0011】
上記の目的および他の目的は、本発明に基づいて達成され、本発明による装置および方法においては、イオンパルスを生成し、イオンパルスの持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し、イオンパルスを過渡的電界の中へと受領し、過渡的電界のイオンドリフト領域から、導入開口の動的ガスフロー領域内へと、イオンを収集する。同様に、質量分析器内へとイオンを搬送するための装置は、イオンパルスを生成し得るよう構成されたイオン生成源と、イオンパルスを受領し得るとともに過渡的な電界を生成し得るよう構成された過渡的電界形成デバイスと、イオンドリフト領域から、導入開口の動的ガスフロー領域へと、イオンを収集し得るとともに、さらに、質量分析器内へとイオンを搬送し得るよう構成されたイオンコレクタと;を具備している。
【0012】
本発明の1つの見地においては、装置は、AP−MALDIイオン生成源と、スイッチング回路と、過渡的な高電圧(以下、「高電圧」を『HV』と略記する)抽出電界を形成する遅延デバイス(あるいは、時限デバイス)と、を備えている。AP−MALDIイオン生成源内においては、イオンは、パルス型レーザーによって生成される。レーザーパルスは、過渡的な高電圧抽出電界の兆候に先立って生成される。本発明によれば、過渡的な高電圧抽出電界は、レーザーパルスの後における所定設定インターバルの間にわたって維持され、その後、除去される。その結果、質量分析器の導入口内へと搬送されるイオンが増大する。HV抽出電界が、静的なものでもかつ連続的なものでもなく、イオンパルスが形成された後における限定的な初期的期間にわたって印加されることにより、本明細書においては、『遅延抽出』という用語は、パルス状イオンの生成と関連させつつ使用される様々な手法を記述するために使用される。
【0013】
従来技術によるイオン収集においては、イオンは、ターゲットから、質量分析計(MS)の入口に向けて、静電界の印加によってドリフトする。その結果、イオン生成源からのイオンのうちのいくつかは、入口に到着し、その後、質量分析器領域へと搬送される。しかしながら、大多数のイオンは、質量分析器の入口を囲む金属部分(典型的には、毛細管あるいは円錐形状壁)に衝突して中性化され、質量分析から失われる。
【0014】
本発明においては、従来技術において使用される静電界が、過渡的な電界へと、変更される。例えば、過渡的電界は、イオンパルスの生成後に印加することができる。イオンは、質量分析器の入口に向けて、過渡的な電界の中をドリフトする。導入口に到着する直前に、過渡的な電界を、終了させる、あるいは、少なくとも低減させる。電界によるイオンのドリフト速度が電界強度に正比例することにより、イオンは、電界が存在し続けていた場合ほどは、強く壁を衝撃しない。さらに、過渡的電界の終了後のイオンの運動は、質量分析器内へと流入するガスフローのガス運動学(つまり、質量分析器の動的ガスフロー領域)によって、支配される。特に電界がない状態では、ガス運動学が、質量分析器の導入口近傍の移動メカニズムを決定する。その結果、イオンは、壁上において失われることがなく、より多くのイオンが、動的ガスフロー領域内のガスフローに乗って搬送され、質量分析器内へと収集される。したがって、動的ガスフローが重大となるような領域へとイオンが到達した後に電界を『オフ』とすることによって、金属壁に対するイオンの衝突およびそれによる中性化を引き起こすことがなく、イオンの損失を軽減することができる。
【0015】
本発明の1つの特徴点は、質量分析計の導入口に対して正確に同軸的にイオンを導入し得るだけでなく、過渡的電界内でのイオンドリフトを許容することにより、非同軸的に生成されたイオンをも収集し得ることである。本発明によるこの特徴点は、質量分析器内へのイオン搬送の劣化を引き起こすことなく、例えばMALDIといったような大気圧イオン生成源のレーザー位置変動を許容することができる。提供する。さらに、本発明によるこの特徴点は、様々なレーザー位置や様々なレーザーサイズや様々なレーザーエネルギーやターゲットプレートと質量分析計(MS)との間の様々な構成を許容するものであり、これにより、イオン処理能力を改良することができて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明およびその利点は、添付図面を参照しつつ、以下の詳細な説明を読むことにより、明瞭となるであろう。
【0017】
添付図面においては、複数の図面にわたって、同一の部材または同様の部材には、同じ参照符号が付されている。図1は、質量分析器10内へとイオンを搬送し得るような本発明による装置を示すブロック図である。イオン生成源は、質量分析用のイオンパルスを生成する。本発明による装置は、過渡的電界形成デバイスを備えている。この過渡的電界形成デバイスは、イオンパルスを受領し得るよう構成されているとともに、イオン生成源からのイオンパルスの持続時間に対応した過渡的な電界を生成し得るよう構成されている。過渡的電界形成デバイスは、図1においては、遅延機能付きの(あるいは、時限機能付きの)抽出イオン生成源20として示されている。イオンは、イオンドリフト領域内においてドリフトし、質量分析器10の導入口へと向かう。イオンは、イオンコレクタの動的ガスフロー領域内において、質量分析器10内に導入される。イオンコレクタは、図1においては、大気圧導入口30として示されている。本明細書においては、『イオン』という用語は、任意のイオン種を意味しており、限定するものではないけれども、イオン化された原子や、イオン化された分子や、1価にイオン化された種や、2価にイオン化された種や、3価以上にイオン化された種や、帯電した小滴や、電荷が化学的に付着してなる他の帯電種、などを含んでいる。質量分析器10の内部においては、イオンは、イオンガイド40に沿って、質量電荷比を分析し得るよう構成された質量検出器50へと、導かれる。
【0018】
上述したように、本発明においては、時間的に変化する電界が、すなわち、過渡的な電界が、イオン収集を改良する。図2は、本発明のこの見地を例示するタイミング図である。この例においては、AP−MALDIイオン生成源からの各レーザーパルスが、遅延/パルス発生器をトリガーし、遅延/パルス発生器が、HV抽出電界の印加のための適切な遅延タイミングをセットする。したがって、連続的な抽出の場合とは異なり、遅延的な抽出(あるいは、タイミングを計った抽出、時限的な抽出)が使用される。レーザーパルスの放出から、HV抽出電界がグラウンド電位近傍へとあるいはグラウンド電位へと急速に低下される瞬間までにわたっての経過時間は、『遅延抽出インターバル』と称される。HV抽出電界が存在していない時間インターバルは、『保持時間』と称される。保持時間は、レーザーパルスどうしの時間間隔よりも短いものとしてセットする(あるいは、設定する)ことができる。これにより、回路は、ターゲットプレートをHVへと戻し、次なるレーザーパルスのために初期化することができる。本発明の1つの好ましい実施形態においては、保持時間は、0.2〜10msとされ、これにより、イオンに対して、導入口へのドリフトし得るだけの適切な時間を与えることができる。
【0019】
図3は、イオンを抽出するために使用される過渡的HV電界を印加するために本発明において使用される回路の例示である。この例における回路においては、質量分析計の内部抵抗に対して適合した複数のHV適合抵抗器(例えば、EBG LLC resistors 社によるモデルSGP)を使用することによって、ターゲットプレート80を、所望のHV電位に保持することができる。例えばAPMALDI装置のレーザーといったようなレーザーからのレーザー出力を使用することにより、遅延/パルス発生器60(例えば、Stanford
Research Systems, Inc.社によるモデルDG535)をトリガーすることができ、これにより、レーザーパルス発生後における設定時間経過時点で、高速HVトランジスタスイッチ70(例えば、Behlke Electronic GmBH 社による モデルHTS121)を活性化することができる。高速HVトランジスタスイッチ70が活性化されると、HVは、即座に短絡され、所定の保持時間にわたってグラウンド値に維持される。保持時間の経過後に、100MΩ抵抗器と、負荷キャパシタンス(つまり、ターゲットプレート80のキャパシタンス)とが、HVを初期値へと復帰させるための立ち上がり時間を決定する。図3に示す例示としての回路においては、立ち上がり時間は、約4msである。立ち上がり時間は、この実施形態においては、10Hzレーザーにおけるレーザーパルスどうしの時間間隔よりも短いものとされている。しかしながら、立ち上がり時間は、本発明においては、様々なレーザー繰返し速度や様々なイオンパルス速度に適合するように、調節することができる。
【0020】
図4Aは、本発明の好ましい一実施形態を概略的に示している。図4は、質量分析器10(例えば、Thermo Finnigan Corp. 社によるLCQ古典モデルといったような、四極型イオントラップ質量分析計QIT−MS)から電気的に絶縁された延出毛細管イオン生成源90(例えば、MassTech Inc. 社によるモデルAP/MALDI−110)を示している。ターゲットプレート80上の高電圧から発生し得るアークから質量分析器10を保護し得るよう、質量分析器10は、毛細管の長さの一部に沿って、例えばテフロン(登録商標)やガラスや有機ポリマーといったような適切な材料から形成された絶縁スペーサチューブ100を例えば使用することによって、電気的に絶縁される。図4Aに示すように、支持チューブ105を使用することにより、スペーサチューブ100を毛細管90に対して配置することができる。ターゲットプレート80のHVから質量分析器10を絶縁する代替的な手法においては、図4Bに示すように、質量分析器10の導入口の周縁部分において、絶縁キャップ130を使用する。電気的な絶縁は、毛細管90を接地することを可能とする、あるいは、毛細管90を所望電位でもって浮かせることを可能とする。ターゲットプレート80と電気絶縁済み毛細管90との間の距離を2mmとしてターゲットプレート上に8kVという電位を与えた試験においては、アークが発生したものの、質量分析器10に損傷はなく、質量分析器10の動作が停止することもなかった。
【0021】
図3に関して上述した遅延的抽出回路、および、図4Aおよび図4Bに関して上述した電気絶縁を使用して、様々なHV抽出電界において、様々な遅延抽出インターバルについて試験を行い、本発明の効果を検証した。このような試験においては、延出毛細管の公称内径は、0.825mmとされ、質量分析計導入口からの離間距離は、6.6cmとされ、挿入されたテフロン(登録商標)製スペーサの軸方向長さは、0.127cmとされ、毛細管90の先端からターゲットプレート80までの離間距離は、2.0mmとされた。1msよりも長いインターバルと典型的には100μs未満といったような短いインターバルとを交互的に行うことにより、連続抽出と遅延抽出とを比較した。長い時間インターバルによって連続抽出を近似することは、1msを超える遅延抽出インターバルを使用した場合と、実際に連続抽出電界を印加した場合と、の間に実質的な差が存在しないことが実証されたという結果によって、正当化される。これは論理的である。なぜなら、1msを超えるインターバルの場合には、レーザーパルスの後に、イオンが、電界の変化によって影響されるべき生成源の中に生成源の中にもはや存在していないからである。
【0022】
さらに、本発明においては、遅延抽出インターバルの間に保持される第1電位から、『保持時間』に保持される第2電位であるとともに例えば第1電位よりも小さいものとされた第2電位への、スイッチングは、イオンの搬送および収集を改良する。例えば、本発明においては、1〜5kV/mmという範囲の第1電位と、第2電位と、の間のスイッチングを、使用することができる。ターゲットプレートに対しては、DC電位を印加することができる。これに代えて、質量分析計の導入口をバイアスすることができ、これにより、必要な過渡電界を形成することができる。
【0023】
本発明においては、例えばMALDIといったようなレーザーに基づいたイオン化方法ほど迅速でないようなパルス型イオン化技術も、また、使用することができる。パルス型イオン化方法は、イオン生成のために数msという時間を必要とすることができる。このようなパルス型イオン化技術に対する本発明の適用においては、より長いイオン化時間に適合させ得るよう、遅延抽出インターバル(あるいは、時限的抽出インターバル)を調節する。したがって、ある電位から他の電位までの電界の立ち下がり時間は、本発明に基づき、イオン収集を改良し得るように調節される。さらに、ある電位から他の電位までのスイッチングは、イオン生成の終端時点または開始時点と同期させることができる。また、電位に関し、時間的に変動する波形を使用することができ、これにより、使用されている特定のイオン化プロセスの特性に適合させることができる。同様に、本発明においては、保持時間における電位は、時間的に変動するものとすることができる。
【0024】
同様に、MALDIにおいて使用されるイオンドリフト技術とは異なり、より高速のイオンドリフト技術が使用される場合には、遅延抽出インターバルおよび立ち下がり時間は、短いものとすることができる。有利には、イオンがより長い期間にわたって形成される場合、本発明においては、すべてイオンが形成される前に電位をスイッチングすることができ、イオン収集を改良することができて有利である。したがって、本発明は、様々なパルス型イオン化生成源に対して適用することができる。
【0025】
図4Aに示す構成に関して電界ラインをモデリングすることにより、電気的な力が、ターゲットプレートから、導入口の壁へと、および、導入口の先端へと、向いていることが示された。本発明においては、静電的『漏斗』構成を使用することができる。本発明に基づく過渡的電界の使用と、Smith 氏他による上記文献におけるイオン漏斗といったような技術と、の組合せは、本発明の範囲内である。
【0026】
本発明の利点を実証するため、200fmolレベルでの5ペプチド(例えば、Sigma 社による MS-CAL2 Proteo Mass Peptide MALDI-MS Calibration Kit )と、アルファ−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮(alpha-cyanno-4-hydroxycinnamic acid,CHCA)マトリクスと、の標準混合物を使用して、標準的なAP/MALDIターゲットプレート上に、サンプルを調製した。各サンプルは、2μLというペプチドマトリクス溶液(ペプチドは、それぞれ、100fmol/μLという濃度とされた)でもって採取され、5mm/minという螺旋状速度でもってAP/MALDIの螺旋状運動オプションによって操作された。調製したサンプルは、図4Aに示すように、ターゲットプレート80上においてサンプル85として配置された。AP−MALDIを使用することにより、安定したイオン信号を得ることができた。
【0027】
遅延抽出と連続抽出とを比較した結果は、本発明による遅延抽出を使用した場合には、相対イオン強度と感度ゲインとが、2倍以上にわたって、改良されることが示された(例えば、図5A参照)。総イオン流(total ion current,TIC)の比較(例えば、図5A参照)により、2.4kV/mmという抽出電界を印加した場合、20〜25μsという遅延抽出インターバル(あるいは、時限的抽出インターバル)が、最適に改良された結果をもたらすことが、示された。本発明による時限的抽出を使用した場合には、2.5倍以上という特定のペプチドピーク(1534Da:図5B;1047Da:図5C)に関する改良が観察された。
【0028】
上述したように、本発明によってもたらされる改良は、毛細管の導入口に向けてイオンを引きつける電気的な力を除去することによって、イオンが毛細管の壁を衝撃して中性化してしまわないことの結果であるように考えられる。図5A〜図5Cにおいては、最良の結果は、イオンが毛細管の導入口に到着する直前に電界が除去されなおかつこれと同時にイオンが導入口に対して十分に接近している状態で毛細管に対する残りの距離をエアフローによってイオンを搬送し得るような遅延インターバルを使用した場合であることが判明した。遅延インターバルが短すぎる場合には、エアフロー領域に対してイオンを搬送するのに必要な電気的な力が、適切ではなく、検出されるイオンの数が少なくなる。遅延インターバルが長すぎる場合には、結果は、連続抽出の結果に近づく。データは、さらに、HV抽出電界が低下するにつれて、最適の遅延インターバルが長くなることを示している。したがって、より高い収集効率に関する上記説明と、観測された結果と、の間には、電気力が大きければインターバルが短くかつ電気力が小さければより長いインターバルが必要とされるという点において、一致している。結果は、さらに、一般に、電界強度が大きくなるほど、可能な改良度合いが大きくなる。さらに大きな電界強度においては、さらなる改良を行うことができる。しかしながら、例えばコロナ放電やアーク発生といったような現象が、イオン収集に影響を及ぼしかねない。
【0029】
AP/MALDIの従来技術においては、例えば Doroshenko 氏他による Int J Mass Spectrom (vol 221, pp. 39-58,2002)に記載されているように、連続的抽出における最適の電界は、1〜1.25kV/mmという範囲である。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。遅延抽出と、1〜1.25kV/mmの場合の連続的抽出と、を比較すれば、より大きな電界が印加された際に予想される改良であることがわかる。遅延抽出と、1〜1.25kV/mmの場合の連続的抽出と、を比較すれば、本発明においては、TICに関する感度という観点において、3倍以上の改良をもたらすことができ(例えば、図6A参照);1534Daピーク領域という特定のペプチドのピークに関しては、4倍以上の増大化をもたらすことができ(例えば、図6B参照);1047Daピーク領域に関しては、3倍以上の増大化をもたらすことができる(例えば、図6C参照)。
【0030】
図5A〜図5Cおよび図6A〜図6Cに示す結果は、パルス型レーザーが同軸上に位置合わせされた場合(つまり、図4Aに示すように、毛細管の導入口の前方に位置合わせされた場合)である。MALDIレーザー位置が中央位置からオフセットされた場合、本発明による遅延抽出手法であると、観察された信号強度は、1.2mmというのオフセット距離では、全く変化しない(例えば、図7参照)。対照的に、連続抽出においては、信号強度は、同軸位置から0.4mm以内というオフセット距離では変化しないものの、0.8〜1.2mmという距離にわたってオフセットした時には、著しく低下した。図7からわかるように、本発明による遅延抽出は、より正確な位置合わせが必要とされるような連続抽出と比較して、レーザー位置の変動に関して、影響を受けにくい。位置合わせのオフセットに関し、本発明による遅延抽出は、連続抽出と比較して、13倍以上にわたって信号強度を改良する。
【0031】
したがって、本発明によってもたらされる1つの利点は、従来的レーザースポットサイズと比較して、より大きなレーザースポットサイズを使用し得ることである。これにより、感度をさらに向上させることができる。この場合、オフセットの場合の収集効率が大きいことに加えて、従来的レーザースポットサイズと比較してより大きなレーザースポットサイズを有したレーザー(つまり、従来的レーザースポットサイズが0.4mmであるのに対し、本発明におけるレーザースポットサイズは、2.4mmである)を使用して生成されたイオンは、収集に際して失われない。したがって、遅延抽出は、連続抽出と比較して、レーザー位置に対する過敏さが少ない。
【0032】
図8Aは、質量分析器10の円錐形状導入口140へと過渡的な電界を印加し得るよう、本発明において使用される回路を示す例示である。この実施形態においては、質量分析計に対する導入口は、質量分析器によって制御された低電圧に維持される。図8Bに示すような円錐形状導入口140は、スキマーとすることができる。このようなスキマーは、例えば、Morris, H.R.氏他による Rapid Communications in Mass Spectrometry (vol.10 (8), pp. 889-896,1996) に記載されている質量分析計に対する大気圧導入口として使用されているのと同様のものである。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。
【0033】
図8Bに示すような装置に対して本発明による遅延抽出技術を適用することにより、3.5kV/mmという電界の強度において、TICに関し、2倍以上の改良が明らかとなった(例えば、図9A〜図9C参照)。最適の感度が得られるようにしてターゲットプレートに対して印加される高電圧に関する遅延抽出インターバルは、約5μsである。図4Aに示す装置において使用された上述のインターバルと比較して、このようなより短いインターバルは、おそらく、図4Aの実施形態における導入口の開口と、図8Aの実施形態における導入口の開口と、の間の差異によって説明することができる。使用された2つの質量分析計に関するエアフロー取込構成の差異、および、ターゲットプレートと質量分析器差との間の離間距離が1.0mmだけ短いことが、TICの最大化に影響を及ぼす要因である。
【0034】
図8Aに示す装置における遅延抽出手法と、2kV/mmという連続抽出設定と、を比較することにより、本発明においては、TICに関する感度を4倍以上改良し得ること(例えば、図10A参照)、および、特定のペプチドピーク領域を5倍以上改良し得ること(例えば、図10Bおよび図10C参照)が示された。試験が、同じペプチド基準上において、なおかつ、20fmolレベル(2μLスポットを使用して調製され、10fmol/μLというペプチド濃度とされた)で行われたときには、200fmol(図9)の場合閉じに同じレスポンスが見出された。
【0035】
円錐形状導入口の中心軸からの距離の関数としての信号強度の分析が、図12に示されている。円錐形状導入口を使用した実施形態においても、同様に、本発明の遅延抽出技術を使用すれば、信号は、0.8mmというオフセットにおいても安定している。これとは異なり、連続抽出モードにおいては、信号強度は、レーザー照射が0.4mmだけ中心軸から逸脱しただけでも、急激に低下する。円錐形状導入口を有した質量分析計に対して本発明による遅延抽出を使用した場合のイオン信号に関する相対的改良は、0.4mmという軸ズレに関しては5倍以上であり、0.8mmという軸ズレに関しては100倍以上である。
【0036】
AP−MALDI生成源に加えて、本発明は、他の大気圧生成源に対しても適用することができる。図8Cは、一般的な大気圧イオン化技術を使用した本発明の他の実施形態を概略的に示している。例えば電気噴霧イオン化および化学的イオン化といったような大気圧イオン化技術は、米国特許第5,756,994号明細書に開示されている。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。よって、本発明に適した1つの大気圧イオン化生成源は、電気噴霧式イオン化生成源である。電気噴霧イオン化においては、イオンは、図8Cに示すような外周円筒チューブ210から放出される霧状ガス流と、中央注入チューブ200から放出されるを霧状小滴と、によって形成される。小さな液滴(溶剤を含んで)が蒸発する際には、小滴は、大いに帯電するようになり、最終的には、小滴は、小さな気相の多価帯電したイオンへと分裂するようになる。図8Cに示すように、帯電した液滴は、質量分析器の入口と比較して、過渡的な高電位が存在した領域を通してスプレーされる。本発明においては、過渡的な高電位が使用され、質量分析器の入口に向けてイオンをドリフトさせる。
【0037】
さらに、本発明に適した他の大気圧イオン化生成源は、大気圧でのイオン化生成源である。大気圧でのイオン化においては、コロナ放電が、電子の生成源を構成し、例えば注入チューブ200からのガス流を、イオン化することができる。この場合にも、本発明に基づき、過渡的な高電界が使用され、質量分析器の入口に向けてイオンをドリフトさせる。
【0038】
さらに、図8Cに示すような構成に起因する電界構成は、電界レンズ(つまり、焦点合わせデバイス)と見なすことができ、この場合、注入チューブ200に起因する電界ラインは、接地された質量分析器導入口90において終端する。生成されたイオンは、このような電界ラインに沿ってドリフトし、質量分析器導入口90へと到達する。他のレンズ構成を使用することができる。例えば、上述したような『漏斗』状電界を使用することができる。
【0039】
大気圧イオン生成源からのイオン収集における改良に加えて、図8Dに示すように、毛細管導入口90とスキマー230との間の中間的圧力領域(例えば、約1Torrという圧力領域)におけるイオン収集も、また、大気圧における導入開口に関して上述したのと同様の機構の場合には、イオン損失を受ける。その結果、本発明においては、図8Dに示すように、過渡的電界形成デバイス(図8Dに示すように、毛細管の一部2は、接地された内部ガススキマー230よりも基端側において、過渡的な電位を有している)を、有利には、適用することができ、これにより、質量分析計の内部の中間圧力領域におけるイオン損失を低減することができる。毛細管の一部2は、絶縁スペーサ1によって、毛細管の導入口90から絶縁されている。
【0040】
さらに、本発明は、陽イオンまたは陰イオンを受領する質量分析器に対して適用可能である。本発明は、様々なガス支援イオン化方法に対して適用可能である。例えば、V.
Laiko 氏他による Anal. Chem. vol. 72, pp. 652-657, 2000 に記載されているようなAP−MALDIのようにガスがイオンのドリフト方向に流れ得るようなガス支援イオン化方法に対して、また、例えば、John Fenn 氏他による Science vol. 246, pp. 64-71, 1989という文献に記載されているイオン化源といったような電気噴霧イオン化の場合のようにガスがイオンのドリフト方向とは逆向きに他のガス支援イオン化方法に対して、適用可能である。これら文献の記載内容は、参考のため、ここに組み込まれる。
【0041】
上述した好ましい実施形態が、本発明の原理を例示するものに過ぎないことは、理解されるであろう。当業者であれば、本発明を逸脱することなく、様々な変形を行い得ることは、明らかであろう。様々な変形には、限定するものではないけれども、様々なレーザーエネルギーの使用や、様々なレーザー作用の使用や、様々なレーザー位置の使用や、様々な圧力の使用や、導入口とプレートとの間の離間距離を様々に変更することや、様々なイオン生成源の使用や、様々なHV電界の使用や、様々な電気動力学の適用や、様々な質量分析器の使用、がある。
【0042】
したがって、一般に、本発明は、質量分析器内へとイオンを搬送するための装置および方法に関するものである。本発明による装置および方法においては、図13に示すように例示としての各ステップを行う。ステップ1310においては、イオンパルスを生成する。本発明によれば、イオンは、大気圧で、あるいは、大気圧近傍で、あるいは、1Torrを超える圧力で、あるいは、100mTorrを超える圧力で、生成することができる。イオンは、例えばAP−MALDIのように、レーザー脱離/イオン化を使用して、生成することができる。非同軸的位置(あるいは、軸ズレした位置)からでもイオンを収集し得るという本発明の特性により、レーザー脱離/イオン化に際して使用されるレーザービームは、質量分析器の導入口の直径の1〜6倍に相当する直径を有することができる、および/または、質量分析器の導入口軸から、導入口直径の1〜6倍という距離にわたってオフセットすることができる。さらに、イオンパルスは、帯電した液滴を噴霧しさらにこれら液滴をパルス型電界領域を通すことによって、生成することができる。さらに、生成源にかかわらず、イオンは、本発明に基づき、焦点合わせデバイスとして機能する過渡的電界電位を印加することによって、質量分析器の導入口へと案内される。これにより、連続的イオン生成源からイオンを集めることができる。したがって、本発明は、連続的レーザーイオン化から、および、化学的イオン化から、および、電気噴霧イオン化生成源から、イオンパルスを生成することができる。
【0043】
ステップ1320においては、過渡的な電界を、イオンパルスの持続時間と時間的に関連させつつ、形成する。イオンは、質量分析器に向けて、過渡的電界によって確立されたイオンドリフト領域内にわたってドリフトする。このステップ1320においては、過渡的な電界の形成は、第1電位と第2電位とのうちの一方をゼロあるいはゼロ近傍とした場合には、第1電位と第2電位との間に間においてスイッチングを行うことにより、行うことができる。このステップ1320における過渡的電界の生成は、イオンパルスの生成前に過渡的電界をパルス的に形成することも、および/または、イオンパルスの生成後に過渡的電界をパルス的に形成することも、できる。このステップ1320においては、過渡的な電界の持続時間は、イオンパルスの持続時間と比較して、それ以上の長さとすることができる。これに代えて、過渡的な電界の持続時間は、イオンパルスの持続時間よりも短いものとすることができる。過渡的な電界は、イオンパルスの後に終了することができる。過渡的な電界は、時間的に変動するものとすることができる。
【0044】
ステップ1330においては、イオンを、過渡的な電界の中に受領する。
【0045】
ステップ1340においては、イオンを、過渡的電界のイオンドリフト領域から、質量分析器の動的ガスフロー領域内へと、収集する。本発明によれば、イオン収集に際し、ガスフロー中のイオンは、高圧領域から低圧領域へと、流れる。例えば、イオンは、ガスフロー(つまり、動的ガスフロー領域)に乗ることができ、質量分析器の外部の高圧領域と質量分析器の内部の低圧領域とを接続している毛細管チューブの中へと、流入する。毛管チューブは、セグメント化されたチューブとすることができる。ステップ1330においては、個別の電圧を、各セグメントに対して印加することができる。このような電圧印加は、例えば、イオンパルスを生成し得るよう過渡的な電圧を印加することにより行うことができる、あるいは、質量分析器の内部へのイオン収集を補助し得るよう個々のセグメントに対して印加することにより行うことができる。さらに、連続的な生成源によって生成されたイオンは、パルス型の焦点合わせ電位を有した少なくとも1つの電界レンズを使用して、質量分析器の導入口に向けて案内することができる。そのような方法においては、パルス的なイオン生成源(あるいは、初期的には連続的なイオン生成源)から生成されたイオンは、質量分析器内へと効率的に収集される。
【0046】
イオンの収集後には、本発明の質量分析器は、1つのイオンと他のイオンとを識別し得るよう、質量検出に際して従来技術において周知の技術を使用する。例えば、イオントラップ質量分析計や、rf四極子形質量分析計や、磁気セクター型質量分析計や、飛行時間型質量分析計、を使用する。本発明は、イオン収集効率を改良し、これにより、質量分析器の結果的な信号対雑音比を改良することができ、また、サンプルの利用効率を改良することができる。
【0047】
上記開示を考慮すれば、本発明を様々に修正したり変化したりすることが可能である。したがって、そのような変形も本発明の範囲内であること、および、本発明の実施に際して細部を変更し得ることは、理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明の一見地を示すタイミング図である。
【図3】イオンを抽出するために使用される過渡的HV電界を形成するため、本発明において使用される回路を示す回路図である。
【図4A】本発明の一実施形態を概略的に示す図であって、質量分析器から電気的に絶縁された延出毛細管を示している。
【図4B】本発明の一実施形態を概略的に示す図であって、質量分析器の導入口上に配置された絶縁キャップを示している。
【図5A】連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図5B】連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図5C】連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図6A】典型的に1kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図6B】典型的に1kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図6C】典型的に1kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図7】質量分析器の導入口から非同軸的に生成されたイオンに関し、本発明におけるイオン信号の安定性を概略的に示すグラフである。
【図8A】質量分析器の円錐形状導入口の周囲に過渡的電界を形成するため、本発明において使用される回路を概略的に示す回路図である。
【図8B】質量分析器の円錐形状導入口に対して適用されたような、本発明の他の実施形態を概略的に示す図である。
【図8C】一般的な大気圧イオン化技術を使用しているような、本発明の他の実施形態を概略的に示す図である。
【図8D】質量分析器の内部に対して本発明を適用した様子を概略的に示す図である。
【図9A】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび200fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図9B】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび200fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図9C】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび200fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図10A】質量分析器の円錐形状導入口に関して試験した場合に、典型的に2kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図10B】質量分析器の円錐形状導入口に関して試験した場合に、典型的に2kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図10C】質量分析器の円錐形状導入口に関して試験した場合に、典型的に2kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図11A】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび20fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図11B】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび20fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図11C】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび20fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図12】質量分析器の導入口から非同軸的に生成されたイオンに関し、本発明におけるイオン信号の安定性を概略的に示すグラフである。
【図13】本発明による方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
10 質量分析器
20 遅延機能付きの抽出イオン生成源(過渡的電界形成デバイス)
90 毛細管
80 ターゲットプレート
100 絶縁スペーサチューブ
140 円錐形状導入口
230 スキマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、質量分析計に関するものであり、特に、質量分析計のためのパルス型イオン生成源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析は、イオン化した化学種の質量を測定するために使用される分析手法であり、この分析手法においては、イオン化した化学種の質量電荷比に基づいてイオンを分離し、イオン検知器内においてイオンを検出する。質量分析のための化学的サンプルのイオン化は、様々な手法によって行うことができ、例えば、大気圧でのマトリクス支援レーザー脱離イオン化(atmospheric pressure matrix-assisted laser desorption ionization,AP−MALDI)や、電気噴霧イオン化や、大気圧での化学的イオン化(atmospheric pressure chemical ionization,APCI)や、誘導結合プラズマ(inductively-
coupled plasma,ICP)放電や、光イオン化、といったような手法によって行うことができる。生成されたイオンは、大気圧導入口を通して、減圧領域内へと、搬送される。減圧領域内においては、イオンガイドが、質量検出器内へとイオンを直接的に導く。
【0003】
大気圧イオン生成源においては、イオン(あるいは、電気噴霧イオン化の場合の小さな液滴といったような帯電種)は、生成された後に、分散してしまう。生成イオンの分散は、大気圧生成源からのイオンの効率的なサンプリングを、困難なものとする。大気圧導入口は、典型的には、小さな開口である、すなわち、横断面積が制限された毛細管である。したがって、生成されたイオンの大部分は、典型的には、開口を通り抜けることができず、質量分析にとっての損失となる。小さな開口すなわち毛細管を通してのイオンの効率的な搬送は、開口に対して直接的に隣接している領域からかなり離れた領域においてイオンが生成される場合には、さらに一層困難なものとなる。高感度かつ高処理速度の質量分析を行うためには、イオンが質量検出器に到達する前のイオン損失量を最小化することが重要である。
【0004】
大気圧生成源からイオンをサンプリングするための1つのアプローチは、質量分析計のサンプリング開口/チューブに対して同軸的にイオンを生成することである。しかしながら、このアプローチは、正確な開口の位置合わせと、生成源の位置決めと、を必要とする。さらに、正確な手法を使用した場合であってさえ、サンプリング効率は、一般に、イオン数に関し、104 分の1未満である。AP−MALDIの場合には、Laiko 氏他による、米国特許第5,965,884号明細書、および、Anal. Chem. 2000 (vol. 72, pp. 652-657, vol. 72, pp. 5239-5243) に記載されているように、レーザー照射パルスを使用することによって、イオンが生成される。これら文献の記載内容は、参考のため、ここに組み込まれる。AP−MALDIによって生成されたイオンは、静電界と質量分析計内に向けた取込ガスフローとの双方を補助的に使用することにより、質量分析計の大気圧導入口内へと抽出される。AP−MALDI構成においては、開口に対して直接的に同軸的にレーザービームを位置決めすることは、最良の感度をもたらす。しかしながら、それでも、イオンの大部分が、同軸的な連続的抽出操作時に、質量分析計の導入口の壁のところにおいて失われる。参考のためその記載内容の全体がここに組み込まれることとなる米国特許第4,209,696号明細書には、電気噴霧イオン化生成源と、針穴開口と、の組合せが開示されている。この構成は、非効率的なイオンサンプリングの他の例であって、高精度での開口の位置合わせと生成源の位置決めとを必要とする。
【0005】
さらに他のアプローチにおいては、Smith 氏他による米国特許第6,107,628号明細書に開示されているように、サンプリング開口内へとイオンを焦点合わせする。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。Smith 氏他は、徐々に縮径していくような一連をなす複数の部材からなるイオン漏斗を開示している。ラジオ波周波数(RF)電圧が、複数の部材に対して交互的に印加され、これにより、イオンが案内される。Franzen 氏他は、(参考のためその記載内容の全体がここに組み込まれることとなる米国特許第5,747,799号明細書において)開口プレートの前方に配置されたプレートレンズを使用して焦点合わせを行うことを開示している。Fenn氏他は、(参考のためその記載内容の全体がここに組み込まれることとなる米国特許第4,542,293号明細書において)毛細管の前方に配置されたプレートレンズを使用して焦点合わせを行うことを開示している。加えて、質量分析計の導入口として、円錐形状スキマー開口が使用された。これにより、平面開口と比較して、イオン収集効率を向上させることができる。しかしながら、このアプローチは、形成された静電界の円錐形状による受領角度によって、制限されてしまう。加えて、この場合にも、生成源の位置決めが、性能面において重要である。
【0006】
すべての焦点合わせデバイスは、本来的に複雑であって、位置決め精度に依存するものであり、効率的でない。したがって、イオン生成源のイオンサンプリング効率を増大させデバイスが要望されている。
【特許文献1】米国特許第5,965,884号明細書
【特許文献2】米国特許第4,209,696号明細書
【特許文献3】米国特許第6,107,628号明細書
【特許文献4】米国特許第5,747,799号明細書
【特許文献5】米国特許第4,542,293号明細書
【非特許文献1】Anal. Chem. 2000 (vol. 72, pp. 652-657, vol. 72, pp. 5239-5243)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの目的は、質量分析計の外部で生成されたイオン種に関し、感度を増大させること、および、検出限界を向上させること、である。
【0008】
本発明の他の目的は、質量分析計の大気圧導入口を通してのイオンの搬送を改良することである。
【0009】
さらに他の目的は、質量分析器の軸に対してのレーザースポットの位置合わせがイオン収集に関して重要ではないような技術を提供することである。
【0010】
しかしながら、他の目的は、質量分析器の導入口の開口直径よりも大きなレーザー照射面積からのイオン収集を提供することである。
【0011】
上記の目的および他の目的は、本発明に基づいて達成され、本発明による装置および方法においては、イオンパルスを生成し、イオンパルスの持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し、イオンパルスを過渡的電界の中へと受領し、過渡的電界のイオンドリフト領域から、導入開口の動的ガスフロー領域内へと、イオンを収集する。同様に、質量分析器内へとイオンを搬送するための装置は、イオンパルスを生成し得るよう構成されたイオン生成源と、イオンパルスを受領し得るとともに過渡的な電界を生成し得るよう構成された過渡的電界形成デバイスと、イオンドリフト領域から、導入開口の動的ガスフロー領域へと、イオンを収集し得るとともに、さらに、質量分析器内へとイオンを搬送し得るよう構成されたイオンコレクタと;を具備している。
【0012】
本発明の1つの見地においては、装置は、AP−MALDIイオン生成源と、スイッチング回路と、過渡的な高電圧(以下、「高電圧」を『HV』と略記する)抽出電界を形成する遅延デバイス(あるいは、時限デバイス)と、を備えている。AP−MALDIイオン生成源内においては、イオンは、パルス型レーザーによって生成される。レーザーパルスは、過渡的な高電圧抽出電界の兆候に先立って生成される。本発明によれば、過渡的な高電圧抽出電界は、レーザーパルスの後における所定設定インターバルの間にわたって維持され、その後、除去される。その結果、質量分析器の導入口内へと搬送されるイオンが増大する。HV抽出電界が、静的なものでもかつ連続的なものでもなく、イオンパルスが形成された後における限定的な初期的期間にわたって印加されることにより、本明細書においては、『遅延抽出』という用語は、パルス状イオンの生成と関連させつつ使用される様々な手法を記述するために使用される。
【0013】
従来技術によるイオン収集においては、イオンは、ターゲットから、質量分析計(MS)の入口に向けて、静電界の印加によってドリフトする。その結果、イオン生成源からのイオンのうちのいくつかは、入口に到着し、その後、質量分析器領域へと搬送される。しかしながら、大多数のイオンは、質量分析器の入口を囲む金属部分(典型的には、毛細管あるいは円錐形状壁)に衝突して中性化され、質量分析から失われる。
【0014】
本発明においては、従来技術において使用される静電界が、過渡的な電界へと、変更される。例えば、過渡的電界は、イオンパルスの生成後に印加することができる。イオンは、質量分析器の入口に向けて、過渡的な電界の中をドリフトする。導入口に到着する直前に、過渡的な電界を、終了させる、あるいは、少なくとも低減させる。電界によるイオンのドリフト速度が電界強度に正比例することにより、イオンは、電界が存在し続けていた場合ほどは、強く壁を衝撃しない。さらに、過渡的電界の終了後のイオンの運動は、質量分析器内へと流入するガスフローのガス運動学(つまり、質量分析器の動的ガスフロー領域)によって、支配される。特に電界がない状態では、ガス運動学が、質量分析器の導入口近傍の移動メカニズムを決定する。その結果、イオンは、壁上において失われることがなく、より多くのイオンが、動的ガスフロー領域内のガスフローに乗って搬送され、質量分析器内へと収集される。したがって、動的ガスフローが重大となるような領域へとイオンが到達した後に電界を『オフ』とすることによって、金属壁に対するイオンの衝突およびそれによる中性化を引き起こすことがなく、イオンの損失を軽減することができる。
【0015】
本発明の1つの特徴点は、質量分析計の導入口に対して正確に同軸的にイオンを導入し得るだけでなく、過渡的電界内でのイオンドリフトを許容することにより、非同軸的に生成されたイオンをも収集し得ることである。本発明によるこの特徴点は、質量分析器内へのイオン搬送の劣化を引き起こすことなく、例えばMALDIといったような大気圧イオン生成源のレーザー位置変動を許容することができる。提供する。さらに、本発明によるこの特徴点は、様々なレーザー位置や様々なレーザーサイズや様々なレーザーエネルギーやターゲットプレートと質量分析計(MS)との間の様々な構成を許容するものであり、これにより、イオン処理能力を改良することができて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明およびその利点は、添付図面を参照しつつ、以下の詳細な説明を読むことにより、明瞭となるであろう。
【0017】
添付図面においては、複数の図面にわたって、同一の部材または同様の部材には、同じ参照符号が付されている。図1は、質量分析器10内へとイオンを搬送し得るような本発明による装置を示すブロック図である。イオン生成源は、質量分析用のイオンパルスを生成する。本発明による装置は、過渡的電界形成デバイスを備えている。この過渡的電界形成デバイスは、イオンパルスを受領し得るよう構成されているとともに、イオン生成源からのイオンパルスの持続時間に対応した過渡的な電界を生成し得るよう構成されている。過渡的電界形成デバイスは、図1においては、遅延機能付きの(あるいは、時限機能付きの)抽出イオン生成源20として示されている。イオンは、イオンドリフト領域内においてドリフトし、質量分析器10の導入口へと向かう。イオンは、イオンコレクタの動的ガスフロー領域内において、質量分析器10内に導入される。イオンコレクタは、図1においては、大気圧導入口30として示されている。本明細書においては、『イオン』という用語は、任意のイオン種を意味しており、限定するものではないけれども、イオン化された原子や、イオン化された分子や、1価にイオン化された種や、2価にイオン化された種や、3価以上にイオン化された種や、帯電した小滴や、電荷が化学的に付着してなる他の帯電種、などを含んでいる。質量分析器10の内部においては、イオンは、イオンガイド40に沿って、質量電荷比を分析し得るよう構成された質量検出器50へと、導かれる。
【0018】
上述したように、本発明においては、時間的に変化する電界が、すなわち、過渡的な電界が、イオン収集を改良する。図2は、本発明のこの見地を例示するタイミング図である。この例においては、AP−MALDIイオン生成源からの各レーザーパルスが、遅延/パルス発生器をトリガーし、遅延/パルス発生器が、HV抽出電界の印加のための適切な遅延タイミングをセットする。したがって、連続的な抽出の場合とは異なり、遅延的な抽出(あるいは、タイミングを計った抽出、時限的な抽出)が使用される。レーザーパルスの放出から、HV抽出電界がグラウンド電位近傍へとあるいはグラウンド電位へと急速に低下される瞬間までにわたっての経過時間は、『遅延抽出インターバル』と称される。HV抽出電界が存在していない時間インターバルは、『保持時間』と称される。保持時間は、レーザーパルスどうしの時間間隔よりも短いものとしてセットする(あるいは、設定する)ことができる。これにより、回路は、ターゲットプレートをHVへと戻し、次なるレーザーパルスのために初期化することができる。本発明の1つの好ましい実施形態においては、保持時間は、0.2〜10msとされ、これにより、イオンに対して、導入口へのドリフトし得るだけの適切な時間を与えることができる。
【0019】
図3は、イオンを抽出するために使用される過渡的HV電界を印加するために本発明において使用される回路の例示である。この例における回路においては、質量分析計の内部抵抗に対して適合した複数のHV適合抵抗器(例えば、EBG LLC resistors 社によるモデルSGP)を使用することによって、ターゲットプレート80を、所望のHV電位に保持することができる。例えばAPMALDI装置のレーザーといったようなレーザーからのレーザー出力を使用することにより、遅延/パルス発生器60(例えば、Stanford
Research Systems, Inc.社によるモデルDG535)をトリガーすることができ、これにより、レーザーパルス発生後における設定時間経過時点で、高速HVトランジスタスイッチ70(例えば、Behlke Electronic GmBH 社による モデルHTS121)を活性化することができる。高速HVトランジスタスイッチ70が活性化されると、HVは、即座に短絡され、所定の保持時間にわたってグラウンド値に維持される。保持時間の経過後に、100MΩ抵抗器と、負荷キャパシタンス(つまり、ターゲットプレート80のキャパシタンス)とが、HVを初期値へと復帰させるための立ち上がり時間を決定する。図3に示す例示としての回路においては、立ち上がり時間は、約4msである。立ち上がり時間は、この実施形態においては、10Hzレーザーにおけるレーザーパルスどうしの時間間隔よりも短いものとされている。しかしながら、立ち上がり時間は、本発明においては、様々なレーザー繰返し速度や様々なイオンパルス速度に適合するように、調節することができる。
【0020】
図4Aは、本発明の好ましい一実施形態を概略的に示している。図4は、質量分析器10(例えば、Thermo Finnigan Corp. 社によるLCQ古典モデルといったような、四極型イオントラップ質量分析計QIT−MS)から電気的に絶縁された延出毛細管イオン生成源90(例えば、MassTech Inc. 社によるモデルAP/MALDI−110)を示している。ターゲットプレート80上の高電圧から発生し得るアークから質量分析器10を保護し得るよう、質量分析器10は、毛細管の長さの一部に沿って、例えばテフロン(登録商標)やガラスや有機ポリマーといったような適切な材料から形成された絶縁スペーサチューブ100を例えば使用することによって、電気的に絶縁される。図4Aに示すように、支持チューブ105を使用することにより、スペーサチューブ100を毛細管90に対して配置することができる。ターゲットプレート80のHVから質量分析器10を絶縁する代替的な手法においては、図4Bに示すように、質量分析器10の導入口の周縁部分において、絶縁キャップ130を使用する。電気的な絶縁は、毛細管90を接地することを可能とする、あるいは、毛細管90を所望電位でもって浮かせることを可能とする。ターゲットプレート80と電気絶縁済み毛細管90との間の距離を2mmとしてターゲットプレート上に8kVという電位を与えた試験においては、アークが発生したものの、質量分析器10に損傷はなく、質量分析器10の動作が停止することもなかった。
【0021】
図3に関して上述した遅延的抽出回路、および、図4Aおよび図4Bに関して上述した電気絶縁を使用して、様々なHV抽出電界において、様々な遅延抽出インターバルについて試験を行い、本発明の効果を検証した。このような試験においては、延出毛細管の公称内径は、0.825mmとされ、質量分析計導入口からの離間距離は、6.6cmとされ、挿入されたテフロン(登録商標)製スペーサの軸方向長さは、0.127cmとされ、毛細管90の先端からターゲットプレート80までの離間距離は、2.0mmとされた。1msよりも長いインターバルと典型的には100μs未満といったような短いインターバルとを交互的に行うことにより、連続抽出と遅延抽出とを比較した。長い時間インターバルによって連続抽出を近似することは、1msを超える遅延抽出インターバルを使用した場合と、実際に連続抽出電界を印加した場合と、の間に実質的な差が存在しないことが実証されたという結果によって、正当化される。これは論理的である。なぜなら、1msを超えるインターバルの場合には、レーザーパルスの後に、イオンが、電界の変化によって影響されるべき生成源の中に生成源の中にもはや存在していないからである。
【0022】
さらに、本発明においては、遅延抽出インターバルの間に保持される第1電位から、『保持時間』に保持される第2電位であるとともに例えば第1電位よりも小さいものとされた第2電位への、スイッチングは、イオンの搬送および収集を改良する。例えば、本発明においては、1〜5kV/mmという範囲の第1電位と、第2電位と、の間のスイッチングを、使用することができる。ターゲットプレートに対しては、DC電位を印加することができる。これに代えて、質量分析計の導入口をバイアスすることができ、これにより、必要な過渡電界を形成することができる。
【0023】
本発明においては、例えばMALDIといったようなレーザーに基づいたイオン化方法ほど迅速でないようなパルス型イオン化技術も、また、使用することができる。パルス型イオン化方法は、イオン生成のために数msという時間を必要とすることができる。このようなパルス型イオン化技術に対する本発明の適用においては、より長いイオン化時間に適合させ得るよう、遅延抽出インターバル(あるいは、時限的抽出インターバル)を調節する。したがって、ある電位から他の電位までの電界の立ち下がり時間は、本発明に基づき、イオン収集を改良し得るように調節される。さらに、ある電位から他の電位までのスイッチングは、イオン生成の終端時点または開始時点と同期させることができる。また、電位に関し、時間的に変動する波形を使用することができ、これにより、使用されている特定のイオン化プロセスの特性に適合させることができる。同様に、本発明においては、保持時間における電位は、時間的に変動するものとすることができる。
【0024】
同様に、MALDIにおいて使用されるイオンドリフト技術とは異なり、より高速のイオンドリフト技術が使用される場合には、遅延抽出インターバルおよび立ち下がり時間は、短いものとすることができる。有利には、イオンがより長い期間にわたって形成される場合、本発明においては、すべてイオンが形成される前に電位をスイッチングすることができ、イオン収集を改良することができて有利である。したがって、本発明は、様々なパルス型イオン化生成源に対して適用することができる。
【0025】
図4Aに示す構成に関して電界ラインをモデリングすることにより、電気的な力が、ターゲットプレートから、導入口の壁へと、および、導入口の先端へと、向いていることが示された。本発明においては、静電的『漏斗』構成を使用することができる。本発明に基づく過渡的電界の使用と、Smith 氏他による上記文献におけるイオン漏斗といったような技術と、の組合せは、本発明の範囲内である。
【0026】
本発明の利点を実証するため、200fmolレベルでの5ペプチド(例えば、Sigma 社による MS-CAL2 Proteo Mass Peptide MALDI-MS Calibration Kit )と、アルファ−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮(alpha-cyanno-4-hydroxycinnamic acid,CHCA)マトリクスと、の標準混合物を使用して、標準的なAP/MALDIターゲットプレート上に、サンプルを調製した。各サンプルは、2μLというペプチドマトリクス溶液(ペプチドは、それぞれ、100fmol/μLという濃度とされた)でもって採取され、5mm/minという螺旋状速度でもってAP/MALDIの螺旋状運動オプションによって操作された。調製したサンプルは、図4Aに示すように、ターゲットプレート80上においてサンプル85として配置された。AP−MALDIを使用することにより、安定したイオン信号を得ることができた。
【0027】
遅延抽出と連続抽出とを比較した結果は、本発明による遅延抽出を使用した場合には、相対イオン強度と感度ゲインとが、2倍以上にわたって、改良されることが示された(例えば、図5A参照)。総イオン流(total ion current,TIC)の比較(例えば、図5A参照)により、2.4kV/mmという抽出電界を印加した場合、20〜25μsという遅延抽出インターバル(あるいは、時限的抽出インターバル)が、最適に改良された結果をもたらすことが、示された。本発明による時限的抽出を使用した場合には、2.5倍以上という特定のペプチドピーク(1534Da:図5B;1047Da:図5C)に関する改良が観察された。
【0028】
上述したように、本発明によってもたらされる改良は、毛細管の導入口に向けてイオンを引きつける電気的な力を除去することによって、イオンが毛細管の壁を衝撃して中性化してしまわないことの結果であるように考えられる。図5A〜図5Cにおいては、最良の結果は、イオンが毛細管の導入口に到着する直前に電界が除去されなおかつこれと同時にイオンが導入口に対して十分に接近している状態で毛細管に対する残りの距離をエアフローによってイオンを搬送し得るような遅延インターバルを使用した場合であることが判明した。遅延インターバルが短すぎる場合には、エアフロー領域に対してイオンを搬送するのに必要な電気的な力が、適切ではなく、検出されるイオンの数が少なくなる。遅延インターバルが長すぎる場合には、結果は、連続抽出の結果に近づく。データは、さらに、HV抽出電界が低下するにつれて、最適の遅延インターバルが長くなることを示している。したがって、より高い収集効率に関する上記説明と、観測された結果と、の間には、電気力が大きければインターバルが短くかつ電気力が小さければより長いインターバルが必要とされるという点において、一致している。結果は、さらに、一般に、電界強度が大きくなるほど、可能な改良度合いが大きくなる。さらに大きな電界強度においては、さらなる改良を行うことができる。しかしながら、例えばコロナ放電やアーク発生といったような現象が、イオン収集に影響を及ぼしかねない。
【0029】
AP/MALDIの従来技術においては、例えば Doroshenko 氏他による Int J Mass Spectrom (vol 221, pp. 39-58,2002)に記載されているように、連続的抽出における最適の電界は、1〜1.25kV/mmという範囲である。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。遅延抽出と、1〜1.25kV/mmの場合の連続的抽出と、を比較すれば、より大きな電界が印加された際に予想される改良であることがわかる。遅延抽出と、1〜1.25kV/mmの場合の連続的抽出と、を比較すれば、本発明においては、TICに関する感度という観点において、3倍以上の改良をもたらすことができ(例えば、図6A参照);1534Daピーク領域という特定のペプチドのピークに関しては、4倍以上の増大化をもたらすことができ(例えば、図6B参照);1047Daピーク領域に関しては、3倍以上の増大化をもたらすことができる(例えば、図6C参照)。
【0030】
図5A〜図5Cおよび図6A〜図6Cに示す結果は、パルス型レーザーが同軸上に位置合わせされた場合(つまり、図4Aに示すように、毛細管の導入口の前方に位置合わせされた場合)である。MALDIレーザー位置が中央位置からオフセットされた場合、本発明による遅延抽出手法であると、観察された信号強度は、1.2mmというのオフセット距離では、全く変化しない(例えば、図7参照)。対照的に、連続抽出においては、信号強度は、同軸位置から0.4mm以内というオフセット距離では変化しないものの、0.8〜1.2mmという距離にわたってオフセットした時には、著しく低下した。図7からわかるように、本発明による遅延抽出は、より正確な位置合わせが必要とされるような連続抽出と比較して、レーザー位置の変動に関して、影響を受けにくい。位置合わせのオフセットに関し、本発明による遅延抽出は、連続抽出と比較して、13倍以上にわたって信号強度を改良する。
【0031】
したがって、本発明によってもたらされる1つの利点は、従来的レーザースポットサイズと比較して、より大きなレーザースポットサイズを使用し得ることである。これにより、感度をさらに向上させることができる。この場合、オフセットの場合の収集効率が大きいことに加えて、従来的レーザースポットサイズと比較してより大きなレーザースポットサイズを有したレーザー(つまり、従来的レーザースポットサイズが0.4mmであるのに対し、本発明におけるレーザースポットサイズは、2.4mmである)を使用して生成されたイオンは、収集に際して失われない。したがって、遅延抽出は、連続抽出と比較して、レーザー位置に対する過敏さが少ない。
【0032】
図8Aは、質量分析器10の円錐形状導入口140へと過渡的な電界を印加し得るよう、本発明において使用される回路を示す例示である。この実施形態においては、質量分析計に対する導入口は、質量分析器によって制御された低電圧に維持される。図8Bに示すような円錐形状導入口140は、スキマーとすることができる。このようなスキマーは、例えば、Morris, H.R.氏他による Rapid Communications in Mass Spectrometry (vol.10 (8), pp. 889-896,1996) に記載されている質量分析計に対する大気圧導入口として使用されているのと同様のものである。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。
【0033】
図8Bに示すような装置に対して本発明による遅延抽出技術を適用することにより、3.5kV/mmという電界の強度において、TICに関し、2倍以上の改良が明らかとなった(例えば、図9A〜図9C参照)。最適の感度が得られるようにしてターゲットプレートに対して印加される高電圧に関する遅延抽出インターバルは、約5μsである。図4Aに示す装置において使用された上述のインターバルと比較して、このようなより短いインターバルは、おそらく、図4Aの実施形態における導入口の開口と、図8Aの実施形態における導入口の開口と、の間の差異によって説明することができる。使用された2つの質量分析計に関するエアフロー取込構成の差異、および、ターゲットプレートと質量分析器差との間の離間距離が1.0mmだけ短いことが、TICの最大化に影響を及ぼす要因である。
【0034】
図8Aに示す装置における遅延抽出手法と、2kV/mmという連続抽出設定と、を比較することにより、本発明においては、TICに関する感度を4倍以上改良し得ること(例えば、図10A参照)、および、特定のペプチドピーク領域を5倍以上改良し得ること(例えば、図10Bおよび図10C参照)が示された。試験が、同じペプチド基準上において、なおかつ、20fmolレベル(2μLスポットを使用して調製され、10fmol/μLというペプチド濃度とされた)で行われたときには、200fmol(図9)の場合閉じに同じレスポンスが見出された。
【0035】
円錐形状導入口の中心軸からの距離の関数としての信号強度の分析が、図12に示されている。円錐形状導入口を使用した実施形態においても、同様に、本発明の遅延抽出技術を使用すれば、信号は、0.8mmというオフセットにおいても安定している。これとは異なり、連続抽出モードにおいては、信号強度は、レーザー照射が0.4mmだけ中心軸から逸脱しただけでも、急激に低下する。円錐形状導入口を有した質量分析計に対して本発明による遅延抽出を使用した場合のイオン信号に関する相対的改良は、0.4mmという軸ズレに関しては5倍以上であり、0.8mmという軸ズレに関しては100倍以上である。
【0036】
AP−MALDI生成源に加えて、本発明は、他の大気圧生成源に対しても適用することができる。図8Cは、一般的な大気圧イオン化技術を使用した本発明の他の実施形態を概略的に示している。例えば電気噴霧イオン化および化学的イオン化といったような大気圧イオン化技術は、米国特許第5,756,994号明細書に開示されている。この文献の記載内容は、参考のため、その全体がここに組み込まれる。よって、本発明に適した1つの大気圧イオン化生成源は、電気噴霧式イオン化生成源である。電気噴霧イオン化においては、イオンは、図8Cに示すような外周円筒チューブ210から放出される霧状ガス流と、中央注入チューブ200から放出されるを霧状小滴と、によって形成される。小さな液滴(溶剤を含んで)が蒸発する際には、小滴は、大いに帯電するようになり、最終的には、小滴は、小さな気相の多価帯電したイオンへと分裂するようになる。図8Cに示すように、帯電した液滴は、質量分析器の入口と比較して、過渡的な高電位が存在した領域を通してスプレーされる。本発明においては、過渡的な高電位が使用され、質量分析器の入口に向けてイオンをドリフトさせる。
【0037】
さらに、本発明に適した他の大気圧イオン化生成源は、大気圧でのイオン化生成源である。大気圧でのイオン化においては、コロナ放電が、電子の生成源を構成し、例えば注入チューブ200からのガス流を、イオン化することができる。この場合にも、本発明に基づき、過渡的な高電界が使用され、質量分析器の入口に向けてイオンをドリフトさせる。
【0038】
さらに、図8Cに示すような構成に起因する電界構成は、電界レンズ(つまり、焦点合わせデバイス)と見なすことができ、この場合、注入チューブ200に起因する電界ラインは、接地された質量分析器導入口90において終端する。生成されたイオンは、このような電界ラインに沿ってドリフトし、質量分析器導入口90へと到達する。他のレンズ構成を使用することができる。例えば、上述したような『漏斗』状電界を使用することができる。
【0039】
大気圧イオン生成源からのイオン収集における改良に加えて、図8Dに示すように、毛細管導入口90とスキマー230との間の中間的圧力領域(例えば、約1Torrという圧力領域)におけるイオン収集も、また、大気圧における導入開口に関して上述したのと同様の機構の場合には、イオン損失を受ける。その結果、本発明においては、図8Dに示すように、過渡的電界形成デバイス(図8Dに示すように、毛細管の一部2は、接地された内部ガススキマー230よりも基端側において、過渡的な電位を有している)を、有利には、適用することができ、これにより、質量分析計の内部の中間圧力領域におけるイオン損失を低減することができる。毛細管の一部2は、絶縁スペーサ1によって、毛細管の導入口90から絶縁されている。
【0040】
さらに、本発明は、陽イオンまたは陰イオンを受領する質量分析器に対して適用可能である。本発明は、様々なガス支援イオン化方法に対して適用可能である。例えば、V.
Laiko 氏他による Anal. Chem. vol. 72, pp. 652-657, 2000 に記載されているようなAP−MALDIのようにガスがイオンのドリフト方向に流れ得るようなガス支援イオン化方法に対して、また、例えば、John Fenn 氏他による Science vol. 246, pp. 64-71, 1989という文献に記載されているイオン化源といったような電気噴霧イオン化の場合のようにガスがイオンのドリフト方向とは逆向きに他のガス支援イオン化方法に対して、適用可能である。これら文献の記載内容は、参考のため、ここに組み込まれる。
【0041】
上述した好ましい実施形態が、本発明の原理を例示するものに過ぎないことは、理解されるであろう。当業者であれば、本発明を逸脱することなく、様々な変形を行い得ることは、明らかであろう。様々な変形には、限定するものではないけれども、様々なレーザーエネルギーの使用や、様々なレーザー作用の使用や、様々なレーザー位置の使用や、様々な圧力の使用や、導入口とプレートとの間の離間距離を様々に変更することや、様々なイオン生成源の使用や、様々なHV電界の使用や、様々な電気動力学の適用や、様々な質量分析器の使用、がある。
【0042】
したがって、一般に、本発明は、質量分析器内へとイオンを搬送するための装置および方法に関するものである。本発明による装置および方法においては、図13に示すように例示としての各ステップを行う。ステップ1310においては、イオンパルスを生成する。本発明によれば、イオンは、大気圧で、あるいは、大気圧近傍で、あるいは、1Torrを超える圧力で、あるいは、100mTorrを超える圧力で、生成することができる。イオンは、例えばAP−MALDIのように、レーザー脱離/イオン化を使用して、生成することができる。非同軸的位置(あるいは、軸ズレした位置)からでもイオンを収集し得るという本発明の特性により、レーザー脱離/イオン化に際して使用されるレーザービームは、質量分析器の導入口の直径の1〜6倍に相当する直径を有することができる、および/または、質量分析器の導入口軸から、導入口直径の1〜6倍という距離にわたってオフセットすることができる。さらに、イオンパルスは、帯電した液滴を噴霧しさらにこれら液滴をパルス型電界領域を通すことによって、生成することができる。さらに、生成源にかかわらず、イオンは、本発明に基づき、焦点合わせデバイスとして機能する過渡的電界電位を印加することによって、質量分析器の導入口へと案内される。これにより、連続的イオン生成源からイオンを集めることができる。したがって、本発明は、連続的レーザーイオン化から、および、化学的イオン化から、および、電気噴霧イオン化生成源から、イオンパルスを生成することができる。
【0043】
ステップ1320においては、過渡的な電界を、イオンパルスの持続時間と時間的に関連させつつ、形成する。イオンは、質量分析器に向けて、過渡的電界によって確立されたイオンドリフト領域内にわたってドリフトする。このステップ1320においては、過渡的な電界の形成は、第1電位と第2電位とのうちの一方をゼロあるいはゼロ近傍とした場合には、第1電位と第2電位との間に間においてスイッチングを行うことにより、行うことができる。このステップ1320における過渡的電界の生成は、イオンパルスの生成前に過渡的電界をパルス的に形成することも、および/または、イオンパルスの生成後に過渡的電界をパルス的に形成することも、できる。このステップ1320においては、過渡的な電界の持続時間は、イオンパルスの持続時間と比較して、それ以上の長さとすることができる。これに代えて、過渡的な電界の持続時間は、イオンパルスの持続時間よりも短いものとすることができる。過渡的な電界は、イオンパルスの後に終了することができる。過渡的な電界は、時間的に変動するものとすることができる。
【0044】
ステップ1330においては、イオンを、過渡的な電界の中に受領する。
【0045】
ステップ1340においては、イオンを、過渡的電界のイオンドリフト領域から、質量分析器の動的ガスフロー領域内へと、収集する。本発明によれば、イオン収集に際し、ガスフロー中のイオンは、高圧領域から低圧領域へと、流れる。例えば、イオンは、ガスフロー(つまり、動的ガスフロー領域)に乗ることができ、質量分析器の外部の高圧領域と質量分析器の内部の低圧領域とを接続している毛細管チューブの中へと、流入する。毛管チューブは、セグメント化されたチューブとすることができる。ステップ1330においては、個別の電圧を、各セグメントに対して印加することができる。このような電圧印加は、例えば、イオンパルスを生成し得るよう過渡的な電圧を印加することにより行うことができる、あるいは、質量分析器の内部へのイオン収集を補助し得るよう個々のセグメントに対して印加することにより行うことができる。さらに、連続的な生成源によって生成されたイオンは、パルス型の焦点合わせ電位を有した少なくとも1つの電界レンズを使用して、質量分析器の導入口に向けて案内することができる。そのような方法においては、パルス的なイオン生成源(あるいは、初期的には連続的なイオン生成源)から生成されたイオンは、質量分析器内へと効率的に収集される。
【0046】
イオンの収集後には、本発明の質量分析器は、1つのイオンと他のイオンとを識別し得るよう、質量検出に際して従来技術において周知の技術を使用する。例えば、イオントラップ質量分析計や、rf四極子形質量分析計や、磁気セクター型質量分析計や、飛行時間型質量分析計、を使用する。本発明は、イオン収集効率を改良し、これにより、質量分析器の結果的な信号対雑音比を改良することができ、また、サンプルの利用効率を改良することができる。
【0047】
上記開示を考慮すれば、本発明を様々に修正したり変化したりすることが可能である。したがって、そのような変形も本発明の範囲内であること、および、本発明の実施に際して細部を変更し得ることは、理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明の一見地を示すタイミング図である。
【図3】イオンを抽出するために使用される過渡的HV電界を形成するため、本発明において使用される回路を示す回路図である。
【図4A】本発明の一実施形態を概略的に示す図であって、質量分析器から電気的に絶縁された延出毛細管を示している。
【図4B】本発明の一実施形態を概略的に示す図であって、質量分析器の導入口上に配置された絶縁キャップを示している。
【図5A】連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図5B】連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図5C】連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図6A】典型的に1kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図6B】典型的に1kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図6C】典型的に1kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を示すグラフである。
【図7】質量分析器の導入口から非同軸的に生成されたイオンに関し、本発明におけるイオン信号の安定性を概略的に示すグラフである。
【図8A】質量分析器の円錐形状導入口の周囲に過渡的電界を形成するため、本発明において使用される回路を概略的に示す回路図である。
【図8B】質量分析器の円錐形状導入口に対して適用されたような、本発明の他の実施形態を概略的に示す図である。
【図8C】一般的な大気圧イオン化技術を使用しているような、本発明の他の実施形態を概略的に示す図である。
【図8D】質量分析器の内部に対して本発明を適用した様子を概略的に示す図である。
【図9A】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび200fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図9B】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび200fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図9C】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび200fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図10A】質量分析器の円錐形状導入口に関して試験した場合に、典型的に2kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図10B】質量分析器の円錐形状導入口に関して試験した場合に、典型的に2kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図10C】質量分析器の円錐形状導入口に関して試験した場合に、典型的に2kV/mmで動作する連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図11A】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび20fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図11B】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび20fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図11C】質量分析器の円錐形状導入口に関し、5ペプチドおよび20fmolというレベルで試験した場合に、連続的な抽出電界と比較した場合の、本発明におけるイオン信号強度の改良を概略的に示すグラフである。
【図12】質量分析器の導入口から非同軸的に生成されたイオンに関し、本発明におけるイオン信号の安定性を概略的に示すグラフである。
【図13】本発明による方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
10 質量分析器
20 遅延機能付きの抽出イオン生成源(過渡的電界形成デバイス)
90 毛細管
80 ターゲットプレート
100 絶縁スペーサチューブ
140 円錐形状導入口
230 スキマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導入開口を有した質量分析器内へとイオンを搬送するための方法であって、
持続時間を有したイオンパルスを生成し;
前記イオンパルスの前記持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し、これにより、前記開口に向けて前記イオンをドリフトさせ;
前記イオンパルスを前記過渡的電界の中へと受領し;
前記イオンパルスが前記開口に近づくにつれて、前記過渡的電界を低減させ;
前記過渡的電界のイオンドリフト領域から、前記導入開口の動的ガスフロー領域内へと、前記イオンを収集する;
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記低減を、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口に到着した時点で、終了させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、
前記過渡的電界の前記低減を、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口のところにおいて中性化する前に、終了させることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、第1電位と第2電位との間のスイッチングを行うことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、
前記スイッチングに際しては、前記第1電位と前記第2電位とのいずれかをゼロまたはゼロ近傍のものとすることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記生成ステップの前に、前記過渡的電界を形成することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記生成ステップの後に、前記過渡的電界を形成することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記過渡的電界の持続時間を、前記イオンパルスの持続時間よりも長いものとすることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記過渡的電界の持続時間を、前記イオンパルスの持続時間よりも短いものとすることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記イオンパルスの生成時に、前記過渡的電界を形成することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、時間的に変動する電界パルスを形成することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、
前記イオンの前記収集に際しては、前記質量分析器の壁がなす導入口へと流入するガス流によって前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、前記質量分析器の毛細管の導入口内へと前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、加熱した毛細管内へと前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、スキマーがなす渦内へと前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項12記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、前記イオン収集を補助し得るよう、前記イオンドリフト領域内へと追加的ガスフローを供給することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、大気圧であるいは大気圧近傍で、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、1Torr以上の圧力で、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、100mTorr以上の圧力で、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、レーザー脱離/イオン化技術を使用して、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、
前記レーザー脱離/イオン化技術を使用した前記イオンの前記生成に際しては、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍の直径を有したレーザービームを使用して、サンプルをイオン化することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20記載の方法において、
前記レーザー脱離/イオン化技術を使用した前記イオンの前記生成に際しては、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍という距離だけ前記質量分析器の導入軸からオフセットしたレーザービームを使用して、サンプルをイオン化することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項1記載の方法において、
前記収集に際しては、焦点合わせデバイスを使用して、前記質量分析器の導入口に前記イオンを案内することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、化学的イオン化技術によって前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、
前記イオンの前記生成に際しては、大気圧コロナ放電を利用することを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、電気噴霧イオン化技術によって前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法において、
前記イオンの前記生成に際しては、前記質量分析器の導入口と比較してより大きな電界を有した領域を通過させつつ、帯電した液滴をスプレーすることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法において、
さらに、過渡的電位を有した電界構成によって前記質量分析器の前記導入口へと前記液滴を案内し、これにより、前記イオンパルスを生成することを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1記載の方法において、
前記収集に際しては、ガスフロー内の前記イオンを、高圧領域から、前記質量分析器の内部の低圧領域に向けて、搬送することを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29記載の方法において、
前記搬送に際しては、前記高圧領域と前記低圧領域とを接続している毛細管チューブ内に前記ガスを流すことを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30記載の方法において、
前記ガスを前記のように流すに際しては、2つ以上へとセグメント化されたセグメント化毛細管チューブの内部に前記ガスを流すことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31記載の方法において、
さらに、前記セグメント化毛細管をなす各セグメントに対してそれぞれ個別の電圧を印加することを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項32記載の方法において、
前記個別の電圧の前記印加によって、前記イオンパルスを生成することを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項32記載の方法において、
前記個別の電圧の前記印加によって、前記質量分析器の内部へのイオン収集を補助することを特徴とする方法。
【請求項35】
導入開口を有した質量分析器内へとイオンを搬送するための装置であって、
持続時間を有したイオンパルスを生成し得るよう構成されたイオン生成源と;
前記イオンパルスを受領し得るとともに前記イオンパルスの前記持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し得るよう構成され、これにより、前記質量分析器の前記開口に向けて前記過渡的電界がなすイオンドリフト領域内にわたって前記イオンをドリフトさせ得るような、過渡的電界形成デバイスと:
前記イオンドリフト領域から、前記導入開口の動的ガスフロー領域へと、前記イオンを収集し得るとともに、さらに、前記質量分析器内へと前記イオンを搬送し得るよう構成されたイオンコレクタと;
を具備し、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスが前記導入開口に接近するにつれて前記過渡的電界を低減させ得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項36】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口に到着した時点で、前記電界を終了させるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項37】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口のところにおいて中性化する前に、前記電界を終了させるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項38】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、第1電位と第2電位との間にわたってスイッチングを行い得るように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項39】
請求項35記載の装置において、
前記第1電位と前記第2電位とのいずれかが、ゼロまたはゼロ近傍のものとされていることを特徴とする装置。
【請求項40】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスの生成終了前に、前記過渡的電界を形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項41】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスの生成終了後に、前記過渡的電界を形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項42】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記過渡的電界の持続時間を前記イオンパルスの持続時間よりも長いものとして、前記過渡的電界をパルス的に形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項43】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記過渡的電界の持続時間を前記イオンパルスの持続時間よりも短いものとして、前記過渡的電界をパルス的に形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項44】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、時間的に変動する電界パルスを形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項45】
請求項35記載の装置において、
前記イオンコレクタが、前記質量分析器に対する導入口を備え、
この導入口が、ガス流に乗せて前記イオンを前記質量分析器内へと導入し得るような寸法とされていることを特徴とする装置。
【請求項46】
請求項45記載の装置において、
前記導入口が、ガススキマーを備えていることを特徴とする装置。
【請求項47】
請求項45記載の装置において、
前記導入口が、前記ガス流に乗せて前記イオンを導入し得るよう構成された毛細管を備えていることを特徴とする装置。
【請求項48】
請求項47記載の装置において、
前記毛細管が、加熱された毛細管とされていることを特徴とする装置。
【請求項49】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、大気圧であるいは大気圧近傍で、前記イオンを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項50】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、1Torr以上の圧力で、前記イオンを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項51】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、100mTorr以上の圧力で、前記イオンを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項52】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、レーザーイオン化生成源を備えていることを特徴とする装置。
【請求項53】
請求項52記載の装置において、
前記レーザーイオン化生成源が、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍の直径を有したレーザービームを備え、これにより、サンプルをイオン化し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項54】
請求項52記載の装置において、
前記レーザーイオン化生成源が、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍という距離だけ前記質量分析器の導入軸からオフセットしたレーザービームを備え、これにより、サンプルをイオン化し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項55】
請求項35記載の装置において、
前記イオン化生成源が、電気噴霧イオン化生成源を備えていることを特徴とする装置。
【請求項56】
請求項55記載の装置において、
前記電気噴霧イオン生成源が、前記質量分析器の導入口と比較してより大きな電界を有した領域を通過させつつ、帯電した液滴をスプレーし得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項57】
請求項56記載の装置において、
前記電気噴霧イオン生成源が、過渡的電位を有した電界構成によって前記質量分析器の前記導入口へと前記液滴を案内し、これにより、前記イオンパルスを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項58】
請求項35記載の装置において、
前記イオン化生成源が、化学的イオン化生成源を備えていることを特徴とする装置。
【請求項59】
請求項58記載の装置において、
前記化学的イオン化生成源が、前記イオンを生成し得るよう、大気圧コロナ放電を行うことを特徴とする装置。
【請求項60】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記質量分析器の導入口に対して前記イオンを直接的に案内し得るよう構成された焦点合わせデバイスを備えていることを特徴とする装置。
【請求項61】
請求項60記載の装置において、
前記焦点合わせデバイスが、レンズを備えていることを特徴とする装置。
【請求項62】
請求項35記載の装置において、
前記イオンコレクタが、ガスフロー内の前記イオンを、高圧領域から、前記質量分析器の内部の低圧領域に向けて、搬送し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項63】
請求項62記載の装置において、
前記イオンコレクタが、前記高圧領域と前記低圧領域とを接続している毛細管チューブを備えていることを特徴とする装置。
【請求項64】
請求項63記載の装置において、
前記毛細管チューブが、2つ以上へとセグメント化されたセグメント化毛細管チューブとされていることを特徴とする装置。
【請求項65】
請求項64記載の装置において、
さらに、前記セグメント化された各セグメントを相互連結する絶縁毛細管を備えていることを特徴とする装置。
【請求項66】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、
前記イオンコレクタから離間して配置されたプレートと、
このプレートに対する高電圧の印加をオンオフし得るよう構成された高電圧スイッチと、
を備えていることを特徴とする装置。
【請求項67】
請求項66記載の装置において、
さらに、前記イオンパルスと関連させつつ前記高電圧スイッチを駆動させ得るよう構成された遅延/パルス発生器を具備していることを特徴とする装置。
【請求項68】
請求項66記載の装置において、
前記プレートが、サンプルを備え、
このサンプル上においてレーザーパルス脱離/イオン化を行うことにより、前記イオンパルスが生成されることを特徴とする装置。
【請求項69】
請求項35記載の装置において、
前記イオンコレクタが、前記質量分析器に対する円錐形状導入口を備えていることを特徴とする装置。
【請求項70】
請求項69記載の装置において、
前記円錐形状導入口が、スキマーを有していることを特徴とする装置。
【請求項1】
導入開口を有した質量分析器内へとイオンを搬送するための方法であって、
持続時間を有したイオンパルスを生成し;
前記イオンパルスの前記持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し、これにより、前記開口に向けて前記イオンをドリフトさせ;
前記イオンパルスを前記過渡的電界の中へと受領し;
前記イオンパルスが前記開口に近づくにつれて、前記過渡的電界を低減させ;
前記過渡的電界のイオンドリフト領域から、前記導入開口の動的ガスフロー領域内へと、前記イオンを収集する;
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記低減を、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口に到着した時点で、終了させることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、
前記過渡的電界の前記低減を、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口のところにおいて中性化する前に、終了させることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、第1電位と第2電位との間のスイッチングを行うことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、
前記スイッチングに際しては、前記第1電位と前記第2電位とのいずれかをゼロまたはゼロ近傍のものとすることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記生成ステップの前に、前記過渡的電界を形成することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記生成ステップの後に、前記過渡的電界を形成することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記過渡的電界の持続時間を、前記イオンパルスの持続時間よりも長いものとすることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記過渡的電界の持続時間を、前記イオンパルスの持続時間よりも短いものとすることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、前記イオンパルスの生成時に、前記過渡的電界を形成することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1記載の方法において、
前記過渡的電界の前記生成に際しては、時間的に変動する電界パルスを形成することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1記載の方法において、
前記イオンの前記収集に際しては、前記質量分析器の壁がなす導入口へと流入するガス流によって前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、前記質量分析器の毛細管の導入口内へと前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、加熱した毛細管内へと前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、スキマーがなす渦内へと前記イオンを搬送することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項12記載の方法において、
前記ガス流による前記イオンの前記搬送に際しては、前記イオン収集を補助し得るよう、前記イオンドリフト領域内へと追加的ガスフローを供給することを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、大気圧であるいは大気圧近傍で、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、1Torr以上の圧力で、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、100mTorr以上の圧力で、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、レーザー脱離/イオン化技術を使用して、前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、
前記レーザー脱離/イオン化技術を使用した前記イオンの前記生成に際しては、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍の直径を有したレーザービームを使用して、サンプルをイオン化することを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20記載の方法において、
前記レーザー脱離/イオン化技術を使用した前記イオンの前記生成に際しては、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍という距離だけ前記質量分析器の導入軸からオフセットしたレーザービームを使用して、サンプルをイオン化することを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項1記載の方法において、
前記収集に際しては、焦点合わせデバイスを使用して、前記質量分析器の導入口に前記イオンを案内することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、化学的イオン化技術によって前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法において、
前記イオンの前記生成に際しては、大気圧コロナ放電を利用することを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項1記載の方法において、
前記イオンパルスの前記生成に際しては、電気噴霧イオン化技術によって前記イオンを生成することを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26記載の方法において、
前記イオンの前記生成に際しては、前記質量分析器の導入口と比較してより大きな電界を有した領域を通過させつつ、帯電した液滴をスプレーすることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27記載の方法において、
さらに、過渡的電位を有した電界構成によって前記質量分析器の前記導入口へと前記液滴を案内し、これにより、前記イオンパルスを生成することを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1記載の方法において、
前記収集に際しては、ガスフロー内の前記イオンを、高圧領域から、前記質量分析器の内部の低圧領域に向けて、搬送することを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29記載の方法において、
前記搬送に際しては、前記高圧領域と前記低圧領域とを接続している毛細管チューブ内に前記ガスを流すことを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30記載の方法において、
前記ガスを前記のように流すに際しては、2つ以上へとセグメント化されたセグメント化毛細管チューブの内部に前記ガスを流すことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31記載の方法において、
さらに、前記セグメント化毛細管をなす各セグメントに対してそれぞれ個別の電圧を印加することを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項32記載の方法において、
前記個別の電圧の前記印加によって、前記イオンパルスを生成することを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項32記載の方法において、
前記個別の電圧の前記印加によって、前記質量分析器の内部へのイオン収集を補助することを特徴とする方法。
【請求項35】
導入開口を有した質量分析器内へとイオンを搬送するための装置であって、
持続時間を有したイオンパルスを生成し得るよう構成されたイオン生成源と;
前記イオンパルスを受領し得るとともに前記イオンパルスの前記持続時間と関連させつつ過渡的な電界を生成し得るよう構成され、これにより、前記質量分析器の前記開口に向けて前記過渡的電界がなすイオンドリフト領域内にわたって前記イオンをドリフトさせ得るような、過渡的電界形成デバイスと:
前記イオンドリフト領域から、前記導入開口の動的ガスフロー領域へと、前記イオンを収集し得るとともに、さらに、前記質量分析器内へと前記イオンを搬送し得るよう構成されたイオンコレクタと;
を具備し、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスが前記導入開口に接近するにつれて前記過渡的電界を低減させ得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項36】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口に到着した時点で、前記電界を終了させるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項37】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスが前記質量分析器の導入口のところにおいて中性化する前に、前記電界を終了させるように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項38】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、第1電位と第2電位との間にわたってスイッチングを行い得るように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項39】
請求項35記載の装置において、
前記第1電位と前記第2電位とのいずれかが、ゼロまたはゼロ近傍のものとされていることを特徴とする装置。
【請求項40】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスの生成終了前に、前記過渡的電界を形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項41】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記イオンパルスの生成終了後に、前記過渡的電界を形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項42】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記過渡的電界の持続時間を前記イオンパルスの持続時間よりも長いものとして、前記過渡的電界をパルス的に形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項43】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記過渡的電界の持続時間を前記イオンパルスの持続時間よりも短いものとして、前記過渡的電界をパルス的に形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項44】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、時間的に変動する電界パルスを形成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項45】
請求項35記載の装置において、
前記イオンコレクタが、前記質量分析器に対する導入口を備え、
この導入口が、ガス流に乗せて前記イオンを前記質量分析器内へと導入し得るような寸法とされていることを特徴とする装置。
【請求項46】
請求項45記載の装置において、
前記導入口が、ガススキマーを備えていることを特徴とする装置。
【請求項47】
請求項45記載の装置において、
前記導入口が、前記ガス流に乗せて前記イオンを導入し得るよう構成された毛細管を備えていることを特徴とする装置。
【請求項48】
請求項47記載の装置において、
前記毛細管が、加熱された毛細管とされていることを特徴とする装置。
【請求項49】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、大気圧であるいは大気圧近傍で、前記イオンを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項50】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、1Torr以上の圧力で、前記イオンを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項51】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、100mTorr以上の圧力で、前記イオンを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項52】
請求項35記載の装置において、
前記イオン生成源が、レーザーイオン化生成源を備えていることを特徴とする装置。
【請求項53】
請求項52記載の装置において、
前記レーザーイオン化生成源が、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍の直径を有したレーザービームを備え、これにより、サンプルをイオン化し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項54】
請求項52記載の装置において、
前記レーザーイオン化生成源が、前記質量分析器の導入口の直径の1〜6倍という距離だけ前記質量分析器の導入軸からオフセットしたレーザービームを備え、これにより、サンプルをイオン化し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項55】
請求項35記載の装置において、
前記イオン化生成源が、電気噴霧イオン化生成源を備えていることを特徴とする装置。
【請求項56】
請求項55記載の装置において、
前記電気噴霧イオン生成源が、前記質量分析器の導入口と比較してより大きな電界を有した領域を通過させつつ、帯電した液滴をスプレーし得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項57】
請求項56記載の装置において、
前記電気噴霧イオン生成源が、過渡的電位を有した電界構成によって前記質量分析器の前記導入口へと前記液滴を案内し、これにより、前記イオンパルスを生成し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項58】
請求項35記載の装置において、
前記イオン化生成源が、化学的イオン化生成源を備えていることを特徴とする装置。
【請求項59】
請求項58記載の装置において、
前記化学的イオン化生成源が、前記イオンを生成し得るよう、大気圧コロナ放電を行うことを特徴とする装置。
【請求項60】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、前記質量分析器の導入口に対して前記イオンを直接的に案内し得るよう構成された焦点合わせデバイスを備えていることを特徴とする装置。
【請求項61】
請求項60記載の装置において、
前記焦点合わせデバイスが、レンズを備えていることを特徴とする装置。
【請求項62】
請求項35記載の装置において、
前記イオンコレクタが、ガスフロー内の前記イオンを、高圧領域から、前記質量分析器の内部の低圧領域に向けて、搬送し得るよう構成されていることを特徴とする装置。
【請求項63】
請求項62記載の装置において、
前記イオンコレクタが、前記高圧領域と前記低圧領域とを接続している毛細管チューブを備えていることを特徴とする装置。
【請求項64】
請求項63記載の装置において、
前記毛細管チューブが、2つ以上へとセグメント化されたセグメント化毛細管チューブとされていることを特徴とする装置。
【請求項65】
請求項64記載の装置において、
さらに、前記セグメント化された各セグメントを相互連結する絶縁毛細管を備えていることを特徴とする装置。
【請求項66】
請求項35記載の装置において、
前記過渡的電界形成デバイスが、
前記イオンコレクタから離間して配置されたプレートと、
このプレートに対する高電圧の印加をオンオフし得るよう構成された高電圧スイッチと、
を備えていることを特徴とする装置。
【請求項67】
請求項66記載の装置において、
さらに、前記イオンパルスと関連させつつ前記高電圧スイッチを駆動させ得るよう構成された遅延/パルス発生器を具備していることを特徴とする装置。
【請求項68】
請求項66記載の装置において、
前記プレートが、サンプルを備え、
このサンプル上においてレーザーパルス脱離/イオン化を行うことにより、前記イオンパルスが生成されることを特徴とする装置。
【請求項69】
請求項35記載の装置において、
前記イオンコレクタが、前記質量分析器に対する円錐形状導入口を備えていることを特徴とする装置。
【請求項70】
請求項69記載の装置において、
前記円錐形状導入口が、スキマーを有していることを特徴とする装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2006−518914(P2006−518914A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503357(P2006−503357)
【出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/003355
【国際公開番号】WO2004/075230
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(505312198)サイエンス・アンド・エンジニアリング・サービシズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/003355
【国際公開番号】WO2004/075230
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(505312198)サイエンス・アンド・エンジニアリング・サービシズ・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】
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