質量分析計用衝突セル
質量分析計のための新規湾曲型衝突セルが記載される。衝突セルは、直線区間に進入する前駆体イオンの所望の量の運動エネルギーを損失させるように選択される長さを有する直線区間を含み、前駆体イオンが衝突セルの湾曲区間に進入すると、前駆体イオンは、衝突セルから抜け出すことも、そこに接触することもなく、それによって、湾曲部分内のその通過の間存続する傾向を有する。一実施形態において、衝突セルは、四重極セットを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/973,547号(2007年9月19日出願)の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
セクションの表題は構成に資するためであり、本教示の主題を限定するものではない。
【0003】
(技術分野)
本明細書の教示は、概して、質量分析法と、質量分析計用新規衝突セルに関する。
【背景技術】
【0004】
質量分析法では、衝突セルによって分離される、2つの質量分析器が、直列に使用され得る。衝突セル内では、前駆体イオンは、衝突誘起解離によって分裂され、いくつかの生成イオンを発生させる。代替として、前駆体イオンは、衝突ガス内で反応し、付加体または他の反応生成物を形成し得る。用語「生成イオン」とは、衝突セル内の前駆体イオンとガス分子との間の衝突によるイオン生成物の任意のものを意味すると意図される。次いで、衝突セルからの生成イオン(および残留前駆体イオン)は、第2の質量分析器内に進行し、通常、生成イオンの質量スペクトルを発生させるように走査される。直線型衝突セルの例示的実施形態は、Douglasらの特許文献1において見られ、その内容は、参照することによって、本明細書に組み込まれる。
【0005】
湾曲型衝突セルの例示的実施形態は、例えば、非特許文献1において見られ、参照することによって、本明細書に組み込まれる。湾曲型衝突セルの使用理由は、質量分析計内のイオン経路の全長を減少させることである。湾曲型衝突セルの実施例は、Varian, Inc.(3120 Hansen Way, Palo Alto, CA 94304− 1030 USA)製1200L Quadropole LC/MSである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,248,875号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Syka, Schoen and Ceja, Proceedings Of the 34th American Society for Mass Spectrometry (”ASMS”) Conference Mass Spectrom. Allied Top., Cincinnati, OH, 1986, p. 718−719
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオンの径方向閉じ込めのための湾曲四重極を組み込む、ガス充填衝突セルに進入するイオンは、典型的には、イオンが四重極の径方向トラッピングポテンシャル内に閉じ込められたままであることが可能な運動エネルギーで進入しなければならない。四重極の軸方向軸に垂直のイオンの運動エネルギーが、擬ポテンシャル井戸深度よりも高い場合、イオンは、四重極電極上で損失される可能性がある。当業者は、イオンの損失が、質量分析の際、低感度および他の不利益をもたらし得ることを理解するであろう。したがって、そのような損失を低減および/または実質的に排除することが所望され得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
種々の側面では、本出願人の教示は、質量分析計用衝突セルを提供し、衝突セルは、直線および湾曲区間の両方を備える。
【0010】
さらなる側面では、本出願人の教示は、そのような衝突セルを備える、質量分析計を提供する。
【0011】
種々の実施形態では、例えば、本出願人の教示による衝突セルは、前駆体イオンを受け入れるための入口を有する直線区間であって、前駆体イオンに十分な運動エネルギーを損失させ、直線区間の通過に伴って、衝突セルから抜け出すことも、衝突セルと衝突することもなく、前駆体イオンに湾曲区間を進行させるように選択される長さである、直線区間を備える。
【0012】
さらなる側面では、本出願人の教示は、そのような衝突セルおよび質量分析計を設計、製作、および操作する方法と、そのような衝突セルを使用して、イオンの質量分析を行なう方法とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
当業者は、後述の図面が、例証目的のためだけのものであることを理解するであろう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。
【図1】図1は、本出願人の教示の実施形態による、質量分析計の概略図である。
【図2】図2は、図1の衝突セル領域Q2をさらに詳細に示す。
【図3】図3は、従来の衝突セル領域Q2PAを示す。
【図4】図4は、従来の衝突セル領域Q2PAの一部をさらに詳細に示す。
【図5】図5は、単純エネルギー損失モデルを使用する、距離および圧力に応じた、イオン運動エネルギーのグラフである。
【図6】図6は、Q3質量に応じた、Q2トラッピングポテンシャルのグラフである。
【図7】図7は、「ウェッジ」の実施例の図である。
【図8】図8は、領域Q2PA上で行なわれるあるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図9】図9は、領域Q2上で行なわれるあるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図10】図10は、領域Q2および領域Q2PA上で行なわれるある実験の結果を示すグラフである。
【図11】図11は、領域Q2および領域Q2PA上で行なわれるシミュレーションに及ぼす異なる駆動周波数の影響を示すグラフである。
【図12】図12は、直線型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図13】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図14】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図15】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図16】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図17a】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図17b】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図18】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
種々の要素を参照して、本教示と関連して使用される語句「a」または「an」は、別途明示的に指示されない限り、「1つ以上」または「少なくとも1つ」を包含するものと理解されたい。
【0015】
図1を参照すると、本出願人の教示による質量分析計(「MS」)は、概して、20として示される。例証される実施形態では、MS20は、イオン源28から試料前駆体イオンを受け入れるように動作可能な開口部24を含む、四重極領域QJet(Applied Biosystems/MDS Sciexの商標)を備える。例証される実施形態では、開口部24は、カーテン板32およびオリフィス板36を特徴とする。本実施形態では、領域QJetは、約2乃至約4トールの圧力で動作する。
【0016】
また、図1に示される実施形態では、MS20は、領域QJetに隣接して、衝突集束イオンガイド領域Q0を備え、領域QJetから、開口IQ0を介して、前駆体イオンを受け入れ、開口IQ1を介して、それらのイオンを放出する。本実施形態では、領域Q0は、約5ミリトール乃至約10ミリトールの圧力で動作する。
【0017】
また、図1に示される実施形態では、MS20は、Brubakerレンズとして機能する、第1の短太体RFのみのイオンガイドST1と、第1のイオンガイド領域Q1と、第2の短太体ST2とを備える。第1の短太体ST1は、開口IQ1に隣接して、領域Q0から出る前駆体イオンを受け入れる。順に、第1の短太体ST1内の前駆体イオンは、第1の短太体ST1、第1のイオンガイド領域Q1、および第2の短太体ST2を進行する。
【0018】
また、示される実施形態では、MS20は、J字型湾曲型衝突セルQ2を備える。湾曲型衝突セルQ2は、直線区間または部分40と、湾曲区間または部分4と、第2の短太体ST2から前駆体イオンを受け入れるための入口開口IQ2と、領域Q2のその通過の間、前駆体イオンから発生される生成イオンを含む、イオンを解放するための出口開口IQ3とを備える。第2のイオンガイド領域Q2は、以下に詳述される。
【0019】
また、示される実施形態では、MS20は、第3の短太体ST2と、第3のイオンガイド領域Q3と、出口レンズ32と、検出器36とを備える。第3の短太体ST3は、開口IQ3に隣接して、領域Q2からのイオンを受け入れる。順に、第3の短太体ST3内のイオンは、第3の領域Q3を通って、レンズ32を介して、検出器36内に進行する。
【0020】
当業者には、領域Q2以外のMS20の部分の好適な構造および操作方法が公知であって、その正確な構成が、特に限定されていないことを理解するであろう。故に、それらの部分および操作のさらなる議論は、領域Q2に関する議論に対応するものに限定される。当業者は、本明細書の教示に従って、湾曲型衝突セルと使用するために好適な質量分析計の多くの種類および構成が利用可能であって、恐らく、今後も開発されるであろうことをさらに理解するであろう。本教示におけるイオンガイド領域Q0、Q1、Q2、およびQ3と、短太体ST1、ST2、およびST3とから成る、典型的イオンガイドは、当該分野において公知のように、概して、構造的支持のために必要とされる補助的構成要素に加えて、少なくとも1つの電極を含み得る。種々の実施形態では、例えば、電極は、4(四重極)、6(六重極)、8(八重極)以上の複数のロッドのロッドセットとして、または複数のリングのセットとして、構成可能であって、衝突セルは、衝突ガスの収容を補助する外筒またはシェルとともに構成され得る。
【0021】
次に、図2を参照すると、湾曲型衝突セルQ2が、さらに詳細に示される。領域Q2は、略線形、すなわち、直線区間40と、湾曲区間44とを備える。図2に示されるように、線形区間40は、AおよびBとして示される線の間にある一方、湾曲区間44は、BおよびCとして示される線の間にある。操作時、多くの状況下、領域Q2全体に分散され得る28Daの特定の質量を有する衝突ガス、例えば、窒素を領域Q2内に提供することは有益である。質量分析計内の衝突ガスの使用、その使用が有益である条件、および種々の種類の衝突ガスは、当業者によって十分理解されている。
【0022】
本実施形態では、直線区間40の所望の長さA−Bは、以下のパラメータを使用して決定可能である。
a)開口IQ2を介した領域Q2への進入に伴う前駆体イオンの運動エネルギー
b)領域Q2内の温度および圧力
c)領域Q2内の衝突ガスの特定の質量および他の特性
d)所望の前駆体イオンが分裂するために必要とされる内部エネルギー量
e)領域Q2内のイオンガイドに印加される電圧の高周波(「RF」)振幅
比較のため、第2のイオンガイド領域Q2PAと称される、従来のU字型衝突セルの図が、図3に示される。イオンガイド領域Q2PAは、イオンガイド領域Q2の構造の大部分を共有し、したがって、イオンガイド領域Q2内の要素に対応するイオンガイド領域Q2PA内の要素は、「従来技術」を表す添え字「PA」が続くことを除き、同一参照文字を伴う。したがって、当業者は、イオンガイド領域Q2PAがイオンガイド領域Q2内の線形区間40に対応する任意の直線区間を含まないことを除き、イオンガイド領域Q2PAが、イオンガイド領域Q2と実質的に同一であることを認識するであろう。イオンガイド領域Q2PAの代表的実施例は、Varian, Inc.(Palo Alto, California)から市販の1200L Quadrupole LC/MSシステム内に組み込まれる。
【0023】
本発明者らは、線形区間40が、従来未知かつ予想外の改良点を当該技術にもたらすことを見出した。その際、本発明者らは、湾曲型衝突セル内の軸方向距離および圧力に応じて、イオンが有する運動エネルギー量を計算するために使用可能なモデルを適用した。Covey and Douglas(JASMS 1993,4,616−623)のエネルギー損失モデルは、前駆体イオンの運動エネルギーを記述するために使用可能な関係の実施例である。本モデルでは、イオンの運動エネルギーEは、式1を使用して求められ得る。
【0024】
【化1】
式1中、
nは、衝突ガス密度
lは、経路長
σは、衝突断面積
m1は、イオンの質量
m2は、衝突ガス(典型的には、窒素、28Da)の質量
E0は、イオンの初期運動エネルギー
イオンが領域Q2、Q2PA内に閉じ込められるためには、イオンガイド軸に垂直のイオンの運動エネルギーは、擬ポテンシャル井戸深度未満であることが必要である。
【0025】
擬ポテンシャル井戸深度は、領域Q2、Q2PA内のイオンガイドのRF径方向閉じ込め場の時間平均ポテンシャルである。擬ポテンシャル井戸深度は、例えば、式2(H.G. Dehrnelt, Adv. Atom. Mol. Phys. 3, 53−72 (1967)参照)を使用して計算され得る。
【0026】
【化2】
式中、Vrfは、RF電圧振幅(ゼロからピーク値、極から接地)であって、quは、式3によって定義されるMathieuパラメータである。
【0027】
【化3】
式中、r0は、湾曲型衝突セルQ2、Q2PA内のイオン経路46、120の平均半径であって、Ωは、RF電圧周波数である。
着目パラメータは、イオンガイドの軸に垂直のイオンの運動エネルギーEである。三連四重極API4000LC/MS/MS System(API4000は、Applied Biosystems/MDS Sciexの商標である)等の多重イオンガイド質量分析計に一般的に適用される形状、操作条件、および分析に関して、Q2、Q2PA等の湾曲型衝突セルにおいて問題となり得る点は、図4に表されており、湾曲区間44のイオン経路が、長さ約15cmであって、領域Q2、Q2PAが、約90°の湾曲を有する。(図4は、縮尺通りではないことに留意されたい)。図4を参照すると、図4に示される湾曲区間への距離Zmmでは、イオンガイド縦軸120に垂直の運動エネルギー量(E┴)が、イオンガイドのトラッピングポテンシャルを克服するために十分である場合、イオンは、外側ロッド48と衝突するであろう。
【0028】
180°および長さ約15センチメートル(cm)のQ2区間湾曲の場合、r=47.746ミリメートル(mm)およびr’=51.917mmである図4に示される形状に対して、z=20.4mm(およびθ=23.1°)となる。したがって、Zは、湾曲区間44PAの開始点であるイオンガイド縦軸46、120から開始するイオンが、電極と衝突するまで、直線に進行可能である距離である。本距離および角度では、E┴=0.392*E(すなわち、E┴=sin(θ)*E)となる。
【0029】
実施例として、領域Q2、Q2PAのqu=0.2824(m/z(Q3)=609.2、比率qu(Q2PA)=04qu(Q3)に対応する)、F=816kHz、r0=4.171mm、およびVrf=203.8V時のイオンレセルピンのトラッピングポテンシャル(質量/電荷(m/z)=609.2、σ=280Å2)は、14.4eVである。前駆体イオンは、前駆体イオンの電極への衝突またはそこからの抜け出しを防止するために、E┴が約14.4eV未満となるように、十分な運動エネルギーを損失しなければならないであろう。
【0030】
図5は、3つの異なる圧力における窒素への距離に応じた、609.2の質量電荷比(m/z)を有するイオン、例えば、レセルピンイオンの運動エネルギーを示す。イオンが、直線に進行し、径方向閉じ込め障壁を通過するために十分な運動エネルギーを有する場合、湾曲の入口から約20.4mmの最小距離で、イオンガイド電極、または衝突セルの他の補助的構成要素と衝突するであろう。
【0031】
障壁を通過するためには、イオンは、Z方向に、E┴=14.4eVに対応する約36.7eVを超える運動エネルギーを必要とするであろう。図5は、約50eVの運動エネルギーで領域Q2内に注入されたレセルピンイオンが、十分なエネルギーを損失し、約5.0および約10.0mトールの窒素では、イオンガイドロッドと衝突しない(すなわち、「トラッピングされる」)ことを示す。しかしながら、約1.0mトールでは、イオンは、径方向閉じ込め障壁を克服するために十分なエネルギーを有し、イオンガイド電極、または衝突セルの他の補助的構成要素と衝突する。
【0032】
また、MS/MS実験の間、領域Q2、Q2PAのイオンガイドのトラッピングポテンシャルは、領域Q3質量分解能構成に応じて変動することに留意されたい。これは、従来の三連四重極質量分析計(すなわち、領域Q2PAが、領域Q2の代わりに、MS20内で使用される)では、RF振幅は、Q3質量分析四重極から導出されるためである。上述が、API4000(領域Q2が全体的に線形衝突セルから成ることを除き、MS20と類似構造を有する、公知の従来の三連四重極質量分析計(以下、Q2PAL))で行なわれる時、qu(Q2PAL)/qu(Q3)の比率は、約0.4である。例えば、Q1が質量分析モードで動作していて、609m/zのみの前駆体イオンを通過させる場合、前駆体イオンは、50eVの平均運動エネルギーでQ2PALに進入可能である。Q2PALでは、前駆体イオンは、衝突ガスと衝突することが予想され得、例えば、448m/z、397m/z、195m/z等のQ3を通過する生成イオンを発生するように分裂し得る。Q3が質量分析モードで動作するとき、低質量から高質量(例えば、150−650m/z)にかけて走査し得る。実質的に、Q2PALセル内で発生される609m/zの全分裂片は、RF振幅および分解直流(DC)電圧の特定の組み合わせによって決定される質量のみ伝達させる(すなわち、通過させる)、Q3分析四重極内に通過することが予想され得る。Q2PAL区間は、Q2に印加される電圧のRF振幅がQ3に印加されるものに追従するように、Q3に容量的に結合され得る。API4000システムで行なわれる時、qu(Q2PAL)/qu(Q3)の比率は、約0.4である。
【0033】
しかしながら、MS20が図1に示されるように構成される本実施形態では、qu(Q2)/qu(Q3)は、有利に、約0.6まで増加した。また、領域Q3質量分析四重極は、質量によって走査されるが、Q1質量分析四重極は、前駆体イオン質量に固定されたままであることを認識されたい。これは、領域Q2のRF振幅が、領域Q1RF振幅の一定の比率ではなく、領域Q2内の前駆体イオンのトラッピングポテンシャルが、Q3質量分解能設定に応じて変動する、すなわち、Q3上に存在するRF振幅に応じて変動することを意味する。
【0034】
図6は、qu(Q2)≒0.4qu(Q3)およびqu(Q2)≒0.6qu(Q3)の両方の場合の前駆体イオンレセルピン(m/z=609.2)を示す。径方向トラッピングポテンシャルは、Q3質量の増加に伴って、Q3RF振幅の2乗に比例して増加する。当業者には公知のように、四重極質量分析器では、伝達質量は、4つのロッド電極(それぞれ、2つのロッドの2極)に印加されるRFおよびDCポテンシャルに応じる。RFおよびDCポテンシャルを適切に増減することによって、より大きな質量のイオンを伝達させることが可能となる。
【0035】
上述の計算は、イオンが湾曲型衝突セル(領域Q2PA、または領域Q2の湾曲区間44等)内へのイオン注入の間存続すべき場合、イオンは大きすぎる運動エネルギーを有してはならず、または衝突セル圧力が低過ぎてもならないことを示す。衝突セル圧力を増加させることは、イオンの運動エネルギーを許容可能レベルに低減する方法の1つである。しかしながら、高活性エネルギーを伴うイオンは、セル圧力の大幅な増加を必要とする場合があり、質量分析四重極内に悪影響をもたらし得る。例示的悪影響の1つは、質量分析真空室内の圧力における上昇である。これは、最適条件を満たさないイオン検出器の動作をもたらし得る。他の悪影響として、特に、より軽いイオンに関して、イオン散乱による感度の損失が挙げられ得る。故に、衝突ガスが使用される場合、相応じて、その圧力が調節され得る。
【0036】
領域Q2における湾曲区間44への直線区間40の提供によって、湾曲区間44への遭遇に先立って、イオンのある程度の運動エネルギーを消散させ、それによって、湾曲区間44内のイオン存続の可能性を向上させる。
【0037】
湾曲型衝突セル内に印加されるポテンシャル場の不連続または他の不規則性を回避するためには、種々の図に示されるような直線および湾曲区間が、一体型電極から一体的に形成される、そのようなセルを提供することは有益であり得る。
【0038】
イオン軌道シミュレータを使用して、シミュレーションを行なった。シミュレータは、3次元空間における例示的電極をモデル化した。タウロコール酸イオンのイオン質量(m/z=514)の軌道を実施した。シミュレーションは、領域Q2PAの形態で構築された領域と、領域Q2の形態で構築された領域とに対して行なった。
【0039】
領域Q2に対して、直線区間40は、長さ約4cmであった。領域Q2およびQ2PAに対して、湾曲区間44および44PAの曲率半径は、約45mmであった。領域Q2およびQ2PAはそれぞれ、A極およびB極を備え、それぞれが2つの電極を有し、合計4つのロッド(四重極)であった。RF信号は、A極とB極間で180度位相がずれていた。シミュレーションは、2つの異なるRF周波数816および940kHzで行なった。初期イオンエネルギーは、100eVに設定され、圧力は、窒素10mトールとし、衝突断面積は、225Å2であった。タウロコール酸は、約280Å2の測定衝突断面積を有するレセルピンの構造と類似する。タウロコール酸は、若干小さく、したがって、本イオンの合理的衝突断面積は、約200Å2−250Å2であると予想されるであろう。無作為に選択されるRF位相および位置の初期開始条件を伴うイオンに対して、10軌道が実行された。また、10V/mのドリフト電場を印加し、軸方向勾配の影響をシミュレートした。衝突セルの湾曲区間は、図7に示されるように、電極の半径3度以内に画定される電極の一区間、すなわち、「ウェッジ」またはスライスを使用することによって生成された。3度区間からの出るイオンの最終条件は、図7に示されるように、次の3度区間の初期開始条件として使用した。シミュレーションは、イオンが湾曲区間から出(すなわち、衝突セルから抜け出す)、軌道が電極上で終端(すなわち、イオンが電極と衝突)するか、または少数の例ではあるが、イオンが十分な運動エネルギーを損失し、衝突ガスとの衝突がウェッジの入口で出し尽くされたため、イオン軌道が停止するまで継続された。後者の条件は、単に、シミュレータのアーチファクトであって、イオン運動エネルギーが十分低く、電極と衝突しないことを暗示する。この場合、イオンは、湾曲区間の伝達の間存続したとして扱われ得る。
【0040】
図8は、シミュレーションで使用される、領域Q2PAの図を示し、図9は、領域Q2の図を示す。RF周波数は、図8および9に示される両シミュレーションの結果に対して、940kHzであった。Q2およびQ2PAのRF振幅は、Q3に印加されるものの55%であった。これは、実際のRF振幅比をシミュレートする。これは、イオンがQ2またはQ2PAに進入する時、qu=0.388で514m/zとなり、Q3は、514m/zを伝達するように設定された。Q3が質量を分析する場合、イオンは、qu=0.706で伝達されることに留意されたい。Q3が80m/zを伝達させるように設定された場合、衝突セルのqu値は、514m/zに対して0.060であるのに対して、80m/zの場合、qu値は、0.388となるであろう。
【0041】
図8では、イオンは、100eVの運動エネルギーおよび窒素10mトールで、領域Q2PA内に注入された。結果は、開始時、514m/zの10イオン中10イオンが、セルの伝達の間存続したことを示す。対照的に、分裂片80m/zに対応するRF振幅では、514m/zの軌道はすべて、領域Q2PAの入口近傍の電極で終端または「衝突」した。領域Q2PAの入口は、グラフの上半分である。
【0042】
図9は、湾曲区間44に加えて、4cmの直線区間40を備える、Q2区間のシミュレーションの結果を示す。あらゆる他の初期条件は、図8と同一とした。結果は、RF振幅がより低い質量分裂片に対して設定される時、領域Q2の伝達の間存続する514m/zイオンの数が増加することを示す。これは、RF振幅が、領域Q2PA内の正常な伝達に対して低過ぎるレベルまで低下した場合、区間Q2の直線区間40が、セルの伝達の間存続するために、十分な運動エネルギーを514m/zのイオンが損失することを可能にしたことを意味する。
【0043】
タウロコール酸分子の実験を行なった。本分子は、質量514m/zのマイナスイオンを形成する。タウロコール酸の主要分裂は、80m/zで生じる。上述のように、タウロコール酸は、約280Å2の測定衝突断面積を有するレセルピンの構造と類似する。タウロコール酸は、レセルピンよりも若干小さく、したがって、本イオンの合理的衝突断面積は、約200Å2乃至約250Å2であるだろう。また、タウロコール酸のイオンは、分裂が困難であって、効率的分裂のためには、90eVを超える衝突エネルギーを必要とする。本イオンの小サイズおよび靭性は、領域Q2PAの代わりに、領域Q2の利点を実証するために理想的である。Q2衝突セルのRF振幅の比は、Q3質量分析四重極に印加されるものの55%であった。これは、Q3が80m/zを分析するように設定される時、Q2のqu値は、514m/zの場合、0.060であって、80m/zの場合、0.388であることを意味する。また、本実験では、領域Q2の湾曲区間44は、セルの縦軸において50mmの半径を有する一方、直線区間40は、長さ25mmであったことに留意されたい。
【0044】
図10に示されるデータは、2つの異なる計器上で取得された。領域Q2PA(すなわち、湾曲区間44PAのみを伴う)は、816kHzで動作した。対照的に、領域Q2は、25mmの長さを伴う直線区間40を含み、940kHzの周波数で動作した。Q3に対する衝突セルのRF振幅の比は、両システムに対して55%であった。直線区間と湾曲型衝突セルのデータから、タウロコール酸を分裂させ、80m/z分裂片を伝達させる際、はるかに効率的であることが明らかである。周波数の影響は、式2および3を検討することによって理解され得る。擬ポテンシャル井戸深度は、同一qu値における940kHz計器(すなわち、Q2)と比較して、816kHz計器(すなわち、Q2PA)の場合、0.754倍、(816kHz/940kHZ)2となるであろう。
【0045】
図10は、514m/z乃至80m/zの分裂の%分裂を示す。%分裂は、イオンエネルギー20eV時、衝突セル内に衝突ガスを伴わない、514m/zの強度によって除される、衝突エネルギー100eV時の80m/z分裂の強度として定義される。領域Q2PA(すなわち、衝突セルの前に直線区間40を伴わない)では、分裂効率は、ガスセル内の窒素34mトールで最大化する。領域Q2(すなわち、2.5cmの直線区間40を伴う)では、最大分裂効率は、約9.5mトールの圧力で生じる。領域Q2内の直線区間40の利益は、効率的分裂のために必要とされる衝突セル圧力の低下である。このように実現される利点の中でも、イオンの散乱等の結果として生じる減少とともに、Q1、Q3、および検出器内に維持される高真空領域のためのポンピング要件の低減が挙げられる。最大衝突セル圧力制限が10mトールに設定される場合、分裂効率の利得は、図10のデータでは、8.5倍となるであろう。
【0046】
816から940kHzへの駆動周波数の増加は、イオンの閉じ込めのために有益であるが、軽度の影響とみなされ得る。これは、例えば、816および940kHzの駆動周波数がQ2PAおよびQ2の両方に使用された図11のシミュレーション結果によって示される。図11は、駆動周波数の差異が、衝突セルの前の直線区間40の追加と比較して、軽度の影響であることを示す。また、駆動周波数の大幅な増加(例えば、2倍以上)は、前駆体イオンを衝突セル内に径方向に閉じ込めたままにするために十分な擬ポテンシャル井戸深度をもたらすことが予想される。しかしながら、ある状況における可能性のある不利点は、式3によって決定される起こり得る質量範囲の関連減少であろう。最大質量範囲は、イオンガイド電源から利用可能な電圧によって決定され得る。また、電圧制限は、放電、トラッキング、および/または絶縁破壊が生じ得る電圧によって決定される。ある時点では、より高い電圧は、異なる種類の電気フィードスルーを必要とし、フィードスルーは、最大電圧制限によって設計および定格されるため、より高い電圧の使用は、より高い定格電気フィードスルーの使用を必要とする可能性があり、価格の割増しに関連し得る。結果として、イオンガイドへの室壁のより高い電圧の通過は、市販の計器のコストを増加し得る。周波数を単に2倍にすることは、擬ポテンシャル井戸深度を4倍増加させる一方、質量範囲もまた、4分の1に減少し、必ずしもではないが、潜在的に、市販の計器において、望ましくない影響となり得る。
【0047】
本出願人の教示は、直線前区間および可変半径の湾曲区間を有する湾曲型衝突セルをさらに含む。
【0048】
本明細書の教示による前直線区間を有する湾曲型衝突セルの設計に伴って、大幅な数の変数が存在する。これらは、衝突セル圧力、初期イオン運動エネルギー、着目イオンの衝突断面積、中性衝突相手(例えば、衝突ガス)の質量、および着目イオンが電極と衝突する(または衝突セルから抜け出す)のを防止するために必要とされる擬ポテンシャル井戸深度を含むが、それらに限定されない。さらに、擬ポテンシャル井戸深度は、衝突セルの場半径、衝突セルの駆動周波数、および着目イオンの質量を含む、因子に依存する。加えて、イオンガイド電極または他の衝突セル構成要素のサイズ、印加されるポテンシャル、および電極間の空間のため、物理的制限が存在する。
【0049】
解離(すなわち、分裂)を生じさせるために小運動エネルギーのみを必要とする脆弱なイオンは、Q2衝突セルへの短距離内で完全に解離(すなわち、分裂)され得、したがって、直線区間において、最小限の運動エネルギー減少のみを必要とする。故に、可変有効長の直線区間が企図される。例えば、本開示に精通した当業者によって理解されるように、所望の地点で運動エネルギーを減少するために必要とされるものよりも長い直線区間40が提供される場合、所望の運動エネルギーを維持するために、そのような直線(および/または湾曲)区間において、RFおよび/またはDC場が使用され得る。これは、例えば、可変物理長の直線区間40を使用する必要性をなくし得る。
【0050】
分裂がより困難なイオンは、より高い衝突エネルギーを必要とする場合があり、したがって、他のパラメータは同等に保持されたまま、より長い直線区間40を伴う構成を使用することによって、利点をもたらし得る。故に、本出願人は、パラメータの均衡を選択するための考慮によって、分裂効率および衝突セルQ2の生成物および前駆体イオンの伝達の両方を向上させることが可能であると認識する。例えば、種々の実施形態では、ST2とIQ2との間のDC場の加速等の適切な手段によって、前駆体イオンに十分な運動エネルギーを印加することによって、衝突セルQ2の直線区間40内の分裂が困難な前駆体イオンの解離を生じさせることが可能である。結果として得られる生成イオンおよび任意の残留前駆体イオンは、直線区間40内にある間、継続して高レベルの運動エネルギーを有することが可能である。結果として、直線区間40に十分な長さを提供することによって、これらのイオンは、湾曲区間44の伝達の間存続するために、十分な運動エネルギーを損失可能である。前駆体イオン(または生成イオン)のさらなる解離は、伝達の間、湾曲区間44内で生じ得る。
【0051】
本教示は、衝突セルの直線または湾曲区間内の前駆体イオンの分裂を記載するが、種々の実施形態では、当業者によって理解されるように、解離せずに、イオンまたは複数のイオンが衝突セルに入りおよびそこから出ることを可能にすることが有益である状況が生じ得る。概して、前駆体イオン、前駆体イオンの以前の解離に付随する生成イオン、またはそれらの組み合わせと称されるかにかかわらず、イオンは、直線区間40に進入し、直線区間40の長さを横断する間、所望の量の運動エネルギーを損失する。衝突解離がない場合、イオンは、衝突セルからの抜け出しまたはそこに接触せずに、湾曲部分内およびそこを通る通過の間存続可能である。上述のように、衝突解離がある場合は、イオンは、衝突セルからの抜け出しまたはそこに接触せずに、湾曲部分内の通過の間存続可能であって、生成イオンを発生させる分裂を生じる。
【0052】
湾曲区間44の実際の物理的寸法は、特定のイオンの最適分析のための対応する直線区間40の必要長を決定し得る。また、湾曲区間44の湾曲度は、区間40の長さの計算に影響を及ぼすであろう。例えば、180度湾曲区間44に進入するイオンは、より小さい全曲率の湾曲区間44を有する衝突セルに進入する同等イオンよりも短い距離で、外側電極に遭遇するであろう。
【0053】
また、他の考慮も、湾曲型衝突セルの設計選択に影響を及ぼし得る。衝突セルを湾曲させる目的の1つは、所望のイオン経路長に対応する計器の全体的物理長の減少である。したがって、質量分析計器の全体的物理長を最小限にする観点から、イオン経路の全長が直線イオン経路の全長を超える点まで、直線区間40の長さを増加させることは、Q2衝突セルを湾曲させる目的に反する傾向になり得る。
【0054】
長さLのイオン経路を提供する四重極分析器は、180度湾曲された場合、衝突セルの最長寸法に対して、約0.68Lの物理長を節約する、半径L/πの分析器を形成するであろう。90度衝突セルを湾曲させることは、半径2L/πの衝突セルに、最長寸法に対して、約0.36Lの結果として得られる節約を提供するであろう。直線イオン経路と比較した湾曲イオン経路の全長に対して、衝突セルに続く光学(すなわち、Q3四重極、検出器等)の長さがさらに節約される。図12は、直線型衝突セル(Q2)を利用する典型的三連四重極を示す。距離XLは、衝突セルと、衝突セルの下流に続く光学との長さである。
【0055】
図13から15は、衝突セルの湾曲区間44の前(すなわち、上流)に直線区間40を有する、湾曲型衝突セルのいくつかの変形例を示す。衝突セルを湾曲させることによって、長さXLを図13−15に示される長さXB、XC、XDに減少させ、計器内に提供されるイオン経路の対応する部分と比較して、より短い全長をもたらす。図13では、湾曲は、90度未満であって、所与の直線軸方向線に沿って、イオン経路の全長に比較的小さい減少をもたらす。図14では、湾曲部分44は、90度の曲りを備え、図13の低湾曲部分によって提供されるものよりも短い全長と、同一総イオン経路長を有する図12の計器のものよりも大幅に短い全長を提供する。180度の曲りの湾曲区間44を備える、図15に示される衝突セルは、さらに短い全長である。図13−15のそれぞれでは、衝突セル内に提供されるイオン経路は、例えば、一般的な現在の用途における約1ミリメートルからXL−X’uの最大値の範囲であり得る短直線区間を含む(式中、X’u(U=A、B、またはC)は、長さゼロの直線区間の場合によって決定される)。図16では、直線区間は、その最大値と等しく、図12に示される直線イオン経路の長さと等しい湾曲イオン経路をもたらす。図16は、直線区間40の最大長を示す。
【0056】
180度の湾曲型衝突セルの場合、最小半径は、分析四重極(例えば、Q1、Q3)の物理長によって制限され得る。例えば、図17aは、半径「r」の平均半径(すなわち、衝突セルの中心軸46までの半径)を有する湾曲区間44を伴う、湾曲型衝突セルを示す。それぞれの分析四重極Q1、Q3の各電極98は、対応する支持カラー99内に含まれ得る。支持カラー99は、四重極の整列を保持および維持し、電極98への電気接続を容易にするための構造を提供可能である。場半径r0(図17bに示される分析四重極によって範囲指定される内接円の半径として定義される)を含む、四重極の寸法と、実践的機械的理由とに応じて、支持カラーの内外半径は、最小値に制約され得る。図17aに示される構成では、分析四重極Q1は、分析四重極Q3に本質的に隣接および平行して位置付けられるように想定され得、この近接近では、組み合わされた支持カラーの外半径は、平均半径「r」を決定するための制限因子となり得る。例示的実施形態では、各支持カラーの外径は、約9.5r0、およびr0=4.17mmであり得る。故に、Q1およびQ3支持カラーが、互いに略接触するように整列され得る場合、平均半径「r」の最小値は、約19.8mmであり得る。したがって、湾曲型衝突セルの軸長は、πr、すなわち、62.2mmと等しい。
【0057】
上述のように、45mmと等しい半径r、すなわち、45/4.17=10.79r0の湾曲型衝突セルの場合、湾曲軸、すなわち、平均イオン経路46の長さは、141.4mmである。
【0058】
上述のように、湾曲区間は、直線区間に嵌合または物理的に結合されるが、しかしながら、また、本出願人の教示は、直線前区間を伴う湾曲型衝突セルが、例えば、図18に示されるように、モジュール式の2つ以上の中間部分または区間を備える実施形態も提供する。そこでは、直線区間Q2Aは、湾曲区間Q2Bおよびイオンガイド領域Q1からモジュール化されていることが分かる。これは、異なる実施形態における可変分析ニーズに対応するために、例えば、それぞれの直線および/またはそれぞれの湾曲区間40、44(それぞれ、Q2AおよびQ2Bとして図18に示す)を交換する可能性を提供する。
【0059】
本出願人の教示は、種々の実施形態に関連して記述されるが、本出願人の教示が、そのような実施形態に限定されることを意図するものではない。反対に、本出願人の教示は、当業者によって理解されるように、広範な代替例、修正例、および同等物を包含する。
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/973,547号(2007年9月19日出願)の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に援用される。
【0002】
セクションの表題は構成に資するためであり、本教示の主題を限定するものではない。
【0003】
(技術分野)
本明細書の教示は、概して、質量分析法と、質量分析計用新規衝突セルに関する。
【背景技術】
【0004】
質量分析法では、衝突セルによって分離される、2つの質量分析器が、直列に使用され得る。衝突セル内では、前駆体イオンは、衝突誘起解離によって分裂され、いくつかの生成イオンを発生させる。代替として、前駆体イオンは、衝突ガス内で反応し、付加体または他の反応生成物を形成し得る。用語「生成イオン」とは、衝突セル内の前駆体イオンとガス分子との間の衝突によるイオン生成物の任意のものを意味すると意図される。次いで、衝突セルからの生成イオン(および残留前駆体イオン)は、第2の質量分析器内に進行し、通常、生成イオンの質量スペクトルを発生させるように走査される。直線型衝突セルの例示的実施形態は、Douglasらの特許文献1において見られ、その内容は、参照することによって、本明細書に組み込まれる。
【0005】
湾曲型衝突セルの例示的実施形態は、例えば、非特許文献1において見られ、参照することによって、本明細書に組み込まれる。湾曲型衝突セルの使用理由は、質量分析計内のイオン経路の全長を減少させることである。湾曲型衝突セルの実施例は、Varian, Inc.(3120 Hansen Way, Palo Alto, CA 94304− 1030 USA)製1200L Quadropole LC/MSである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,248,875号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Syka, Schoen and Ceja, Proceedings Of the 34th American Society for Mass Spectrometry (”ASMS”) Conference Mass Spectrom. Allied Top., Cincinnati, OH, 1986, p. 718−719
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオンの径方向閉じ込めのための湾曲四重極を組み込む、ガス充填衝突セルに進入するイオンは、典型的には、イオンが四重極の径方向トラッピングポテンシャル内に閉じ込められたままであることが可能な運動エネルギーで進入しなければならない。四重極の軸方向軸に垂直のイオンの運動エネルギーが、擬ポテンシャル井戸深度よりも高い場合、イオンは、四重極電極上で損失される可能性がある。当業者は、イオンの損失が、質量分析の際、低感度および他の不利益をもたらし得ることを理解するであろう。したがって、そのような損失を低減および/または実質的に排除することが所望され得る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
種々の側面では、本出願人の教示は、質量分析計用衝突セルを提供し、衝突セルは、直線および湾曲区間の両方を備える。
【0010】
さらなる側面では、本出願人の教示は、そのような衝突セルを備える、質量分析計を提供する。
【0011】
種々の実施形態では、例えば、本出願人の教示による衝突セルは、前駆体イオンを受け入れるための入口を有する直線区間であって、前駆体イオンに十分な運動エネルギーを損失させ、直線区間の通過に伴って、衝突セルから抜け出すことも、衝突セルと衝突することもなく、前駆体イオンに湾曲区間を進行させるように選択される長さである、直線区間を備える。
【0012】
さらなる側面では、本出願人の教示は、そのような衝突セルおよび質量分析計を設計、製作、および操作する方法と、そのような衝突セルを使用して、イオンの質量分析を行なう方法とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
当業者は、後述の図面が、例証目的のためだけのものであることを理解するであろう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。
【図1】図1は、本出願人の教示の実施形態による、質量分析計の概略図である。
【図2】図2は、図1の衝突セル領域Q2をさらに詳細に示す。
【図3】図3は、従来の衝突セル領域Q2PAを示す。
【図4】図4は、従来の衝突セル領域Q2PAの一部をさらに詳細に示す。
【図5】図5は、単純エネルギー損失モデルを使用する、距離および圧力に応じた、イオン運動エネルギーのグラフである。
【図6】図6は、Q3質量に応じた、Q2トラッピングポテンシャルのグラフである。
【図7】図7は、「ウェッジ」の実施例の図である。
【図8】図8は、領域Q2PA上で行なわれるあるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図9】図9は、領域Q2上で行なわれるあるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【図10】図10は、領域Q2および領域Q2PA上で行なわれるある実験の結果を示すグラフである。
【図11】図11は、領域Q2および領域Q2PA上で行なわれるシミュレーションに及ぼす異なる駆動周波数の影響を示すグラフである。
【図12】図12は、直線型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図13】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図14】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図15】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図16】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図17a】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図17b】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【図18】図13−18は、本出願人の教示による、湾曲型衝突セルを有する質量分析器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
種々の要素を参照して、本教示と関連して使用される語句「a」または「an」は、別途明示的に指示されない限り、「1つ以上」または「少なくとも1つ」を包含するものと理解されたい。
【0015】
図1を参照すると、本出願人の教示による質量分析計(「MS」)は、概して、20として示される。例証される実施形態では、MS20は、イオン源28から試料前駆体イオンを受け入れるように動作可能な開口部24を含む、四重極領域QJet(Applied Biosystems/MDS Sciexの商標)を備える。例証される実施形態では、開口部24は、カーテン板32およびオリフィス板36を特徴とする。本実施形態では、領域QJetは、約2乃至約4トールの圧力で動作する。
【0016】
また、図1に示される実施形態では、MS20は、領域QJetに隣接して、衝突集束イオンガイド領域Q0を備え、領域QJetから、開口IQ0を介して、前駆体イオンを受け入れ、開口IQ1を介して、それらのイオンを放出する。本実施形態では、領域Q0は、約5ミリトール乃至約10ミリトールの圧力で動作する。
【0017】
また、図1に示される実施形態では、MS20は、Brubakerレンズとして機能する、第1の短太体RFのみのイオンガイドST1と、第1のイオンガイド領域Q1と、第2の短太体ST2とを備える。第1の短太体ST1は、開口IQ1に隣接して、領域Q0から出る前駆体イオンを受け入れる。順に、第1の短太体ST1内の前駆体イオンは、第1の短太体ST1、第1のイオンガイド領域Q1、および第2の短太体ST2を進行する。
【0018】
また、示される実施形態では、MS20は、J字型湾曲型衝突セルQ2を備える。湾曲型衝突セルQ2は、直線区間または部分40と、湾曲区間または部分4と、第2の短太体ST2から前駆体イオンを受け入れるための入口開口IQ2と、領域Q2のその通過の間、前駆体イオンから発生される生成イオンを含む、イオンを解放するための出口開口IQ3とを備える。第2のイオンガイド領域Q2は、以下に詳述される。
【0019】
また、示される実施形態では、MS20は、第3の短太体ST2と、第3のイオンガイド領域Q3と、出口レンズ32と、検出器36とを備える。第3の短太体ST3は、開口IQ3に隣接して、領域Q2からのイオンを受け入れる。順に、第3の短太体ST3内のイオンは、第3の領域Q3を通って、レンズ32を介して、検出器36内に進行する。
【0020】
当業者には、領域Q2以外のMS20の部分の好適な構造および操作方法が公知であって、その正確な構成が、特に限定されていないことを理解するであろう。故に、それらの部分および操作のさらなる議論は、領域Q2に関する議論に対応するものに限定される。当業者は、本明細書の教示に従って、湾曲型衝突セルと使用するために好適な質量分析計の多くの種類および構成が利用可能であって、恐らく、今後も開発されるであろうことをさらに理解するであろう。本教示におけるイオンガイド領域Q0、Q1、Q2、およびQ3と、短太体ST1、ST2、およびST3とから成る、典型的イオンガイドは、当該分野において公知のように、概して、構造的支持のために必要とされる補助的構成要素に加えて、少なくとも1つの電極を含み得る。種々の実施形態では、例えば、電極は、4(四重極)、6(六重極)、8(八重極)以上の複数のロッドのロッドセットとして、または複数のリングのセットとして、構成可能であって、衝突セルは、衝突ガスの収容を補助する外筒またはシェルとともに構成され得る。
【0021】
次に、図2を参照すると、湾曲型衝突セルQ2が、さらに詳細に示される。領域Q2は、略線形、すなわち、直線区間40と、湾曲区間44とを備える。図2に示されるように、線形区間40は、AおよびBとして示される線の間にある一方、湾曲区間44は、BおよびCとして示される線の間にある。操作時、多くの状況下、領域Q2全体に分散され得る28Daの特定の質量を有する衝突ガス、例えば、窒素を領域Q2内に提供することは有益である。質量分析計内の衝突ガスの使用、その使用が有益である条件、および種々の種類の衝突ガスは、当業者によって十分理解されている。
【0022】
本実施形態では、直線区間40の所望の長さA−Bは、以下のパラメータを使用して決定可能である。
a)開口IQ2を介した領域Q2への進入に伴う前駆体イオンの運動エネルギー
b)領域Q2内の温度および圧力
c)領域Q2内の衝突ガスの特定の質量および他の特性
d)所望の前駆体イオンが分裂するために必要とされる内部エネルギー量
e)領域Q2内のイオンガイドに印加される電圧の高周波(「RF」)振幅
比較のため、第2のイオンガイド領域Q2PAと称される、従来のU字型衝突セルの図が、図3に示される。イオンガイド領域Q2PAは、イオンガイド領域Q2の構造の大部分を共有し、したがって、イオンガイド領域Q2内の要素に対応するイオンガイド領域Q2PA内の要素は、「従来技術」を表す添え字「PA」が続くことを除き、同一参照文字を伴う。したがって、当業者は、イオンガイド領域Q2PAがイオンガイド領域Q2内の線形区間40に対応する任意の直線区間を含まないことを除き、イオンガイド領域Q2PAが、イオンガイド領域Q2と実質的に同一であることを認識するであろう。イオンガイド領域Q2PAの代表的実施例は、Varian, Inc.(Palo Alto, California)から市販の1200L Quadrupole LC/MSシステム内に組み込まれる。
【0023】
本発明者らは、線形区間40が、従来未知かつ予想外の改良点を当該技術にもたらすことを見出した。その際、本発明者らは、湾曲型衝突セル内の軸方向距離および圧力に応じて、イオンが有する運動エネルギー量を計算するために使用可能なモデルを適用した。Covey and Douglas(JASMS 1993,4,616−623)のエネルギー損失モデルは、前駆体イオンの運動エネルギーを記述するために使用可能な関係の実施例である。本モデルでは、イオンの運動エネルギーEは、式1を使用して求められ得る。
【0024】
【化1】
式1中、
nは、衝突ガス密度
lは、経路長
σは、衝突断面積
m1は、イオンの質量
m2は、衝突ガス(典型的には、窒素、28Da)の質量
E0は、イオンの初期運動エネルギー
イオンが領域Q2、Q2PA内に閉じ込められるためには、イオンガイド軸に垂直のイオンの運動エネルギーは、擬ポテンシャル井戸深度未満であることが必要である。
【0025】
擬ポテンシャル井戸深度は、領域Q2、Q2PA内のイオンガイドのRF径方向閉じ込め場の時間平均ポテンシャルである。擬ポテンシャル井戸深度は、例えば、式2(H.G. Dehrnelt, Adv. Atom. Mol. Phys. 3, 53−72 (1967)参照)を使用して計算され得る。
【0026】
【化2】
式中、Vrfは、RF電圧振幅(ゼロからピーク値、極から接地)であって、quは、式3によって定義されるMathieuパラメータである。
【0027】
【化3】
式中、r0は、湾曲型衝突セルQ2、Q2PA内のイオン経路46、120の平均半径であって、Ωは、RF電圧周波数である。
着目パラメータは、イオンガイドの軸に垂直のイオンの運動エネルギーEである。三連四重極API4000LC/MS/MS System(API4000は、Applied Biosystems/MDS Sciexの商標である)等の多重イオンガイド質量分析計に一般的に適用される形状、操作条件、および分析に関して、Q2、Q2PA等の湾曲型衝突セルにおいて問題となり得る点は、図4に表されており、湾曲区間44のイオン経路が、長さ約15cmであって、領域Q2、Q2PAが、約90°の湾曲を有する。(図4は、縮尺通りではないことに留意されたい)。図4を参照すると、図4に示される湾曲区間への距離Zmmでは、イオンガイド縦軸120に垂直の運動エネルギー量(E┴)が、イオンガイドのトラッピングポテンシャルを克服するために十分である場合、イオンは、外側ロッド48と衝突するであろう。
【0028】
180°および長さ約15センチメートル(cm)のQ2区間湾曲の場合、r=47.746ミリメートル(mm)およびr’=51.917mmである図4に示される形状に対して、z=20.4mm(およびθ=23.1°)となる。したがって、Zは、湾曲区間44PAの開始点であるイオンガイド縦軸46、120から開始するイオンが、電極と衝突するまで、直線に進行可能である距離である。本距離および角度では、E┴=0.392*E(すなわち、E┴=sin(θ)*E)となる。
【0029】
実施例として、領域Q2、Q2PAのqu=0.2824(m/z(Q3)=609.2、比率qu(Q2PA)=04qu(Q3)に対応する)、F=816kHz、r0=4.171mm、およびVrf=203.8V時のイオンレセルピンのトラッピングポテンシャル(質量/電荷(m/z)=609.2、σ=280Å2)は、14.4eVである。前駆体イオンは、前駆体イオンの電極への衝突またはそこからの抜け出しを防止するために、E┴が約14.4eV未満となるように、十分な運動エネルギーを損失しなければならないであろう。
【0030】
図5は、3つの異なる圧力における窒素への距離に応じた、609.2の質量電荷比(m/z)を有するイオン、例えば、レセルピンイオンの運動エネルギーを示す。イオンが、直線に進行し、径方向閉じ込め障壁を通過するために十分な運動エネルギーを有する場合、湾曲の入口から約20.4mmの最小距離で、イオンガイド電極、または衝突セルの他の補助的構成要素と衝突するであろう。
【0031】
障壁を通過するためには、イオンは、Z方向に、E┴=14.4eVに対応する約36.7eVを超える運動エネルギーを必要とするであろう。図5は、約50eVの運動エネルギーで領域Q2内に注入されたレセルピンイオンが、十分なエネルギーを損失し、約5.0および約10.0mトールの窒素では、イオンガイドロッドと衝突しない(すなわち、「トラッピングされる」)ことを示す。しかしながら、約1.0mトールでは、イオンは、径方向閉じ込め障壁を克服するために十分なエネルギーを有し、イオンガイド電極、または衝突セルの他の補助的構成要素と衝突する。
【0032】
また、MS/MS実験の間、領域Q2、Q2PAのイオンガイドのトラッピングポテンシャルは、領域Q3質量分解能構成に応じて変動することに留意されたい。これは、従来の三連四重極質量分析計(すなわち、領域Q2PAが、領域Q2の代わりに、MS20内で使用される)では、RF振幅は、Q3質量分析四重極から導出されるためである。上述が、API4000(領域Q2が全体的に線形衝突セルから成ることを除き、MS20と類似構造を有する、公知の従来の三連四重極質量分析計(以下、Q2PAL))で行なわれる時、qu(Q2PAL)/qu(Q3)の比率は、約0.4である。例えば、Q1が質量分析モードで動作していて、609m/zのみの前駆体イオンを通過させる場合、前駆体イオンは、50eVの平均運動エネルギーでQ2PALに進入可能である。Q2PALでは、前駆体イオンは、衝突ガスと衝突することが予想され得、例えば、448m/z、397m/z、195m/z等のQ3を通過する生成イオンを発生するように分裂し得る。Q3が質量分析モードで動作するとき、低質量から高質量(例えば、150−650m/z)にかけて走査し得る。実質的に、Q2PALセル内で発生される609m/zの全分裂片は、RF振幅および分解直流(DC)電圧の特定の組み合わせによって決定される質量のみ伝達させる(すなわち、通過させる)、Q3分析四重極内に通過することが予想され得る。Q2PAL区間は、Q2に印加される電圧のRF振幅がQ3に印加されるものに追従するように、Q3に容量的に結合され得る。API4000システムで行なわれる時、qu(Q2PAL)/qu(Q3)の比率は、約0.4である。
【0033】
しかしながら、MS20が図1に示されるように構成される本実施形態では、qu(Q2)/qu(Q3)は、有利に、約0.6まで増加した。また、領域Q3質量分析四重極は、質量によって走査されるが、Q1質量分析四重極は、前駆体イオン質量に固定されたままであることを認識されたい。これは、領域Q2のRF振幅が、領域Q1RF振幅の一定の比率ではなく、領域Q2内の前駆体イオンのトラッピングポテンシャルが、Q3質量分解能設定に応じて変動する、すなわち、Q3上に存在するRF振幅に応じて変動することを意味する。
【0034】
図6は、qu(Q2)≒0.4qu(Q3)およびqu(Q2)≒0.6qu(Q3)の両方の場合の前駆体イオンレセルピン(m/z=609.2)を示す。径方向トラッピングポテンシャルは、Q3質量の増加に伴って、Q3RF振幅の2乗に比例して増加する。当業者には公知のように、四重極質量分析器では、伝達質量は、4つのロッド電極(それぞれ、2つのロッドの2極)に印加されるRFおよびDCポテンシャルに応じる。RFおよびDCポテンシャルを適切に増減することによって、より大きな質量のイオンを伝達させることが可能となる。
【0035】
上述の計算は、イオンが湾曲型衝突セル(領域Q2PA、または領域Q2の湾曲区間44等)内へのイオン注入の間存続すべき場合、イオンは大きすぎる運動エネルギーを有してはならず、または衝突セル圧力が低過ぎてもならないことを示す。衝突セル圧力を増加させることは、イオンの運動エネルギーを許容可能レベルに低減する方法の1つである。しかしながら、高活性エネルギーを伴うイオンは、セル圧力の大幅な増加を必要とする場合があり、質量分析四重極内に悪影響をもたらし得る。例示的悪影響の1つは、質量分析真空室内の圧力における上昇である。これは、最適条件を満たさないイオン検出器の動作をもたらし得る。他の悪影響として、特に、より軽いイオンに関して、イオン散乱による感度の損失が挙げられ得る。故に、衝突ガスが使用される場合、相応じて、その圧力が調節され得る。
【0036】
領域Q2における湾曲区間44への直線区間40の提供によって、湾曲区間44への遭遇に先立って、イオンのある程度の運動エネルギーを消散させ、それによって、湾曲区間44内のイオン存続の可能性を向上させる。
【0037】
湾曲型衝突セル内に印加されるポテンシャル場の不連続または他の不規則性を回避するためには、種々の図に示されるような直線および湾曲区間が、一体型電極から一体的に形成される、そのようなセルを提供することは有益であり得る。
【0038】
イオン軌道シミュレータを使用して、シミュレーションを行なった。シミュレータは、3次元空間における例示的電極をモデル化した。タウロコール酸イオンのイオン質量(m/z=514)の軌道を実施した。シミュレーションは、領域Q2PAの形態で構築された領域と、領域Q2の形態で構築された領域とに対して行なった。
【0039】
領域Q2に対して、直線区間40は、長さ約4cmであった。領域Q2およびQ2PAに対して、湾曲区間44および44PAの曲率半径は、約45mmであった。領域Q2およびQ2PAはそれぞれ、A極およびB極を備え、それぞれが2つの電極を有し、合計4つのロッド(四重極)であった。RF信号は、A極とB極間で180度位相がずれていた。シミュレーションは、2つの異なるRF周波数816および940kHzで行なった。初期イオンエネルギーは、100eVに設定され、圧力は、窒素10mトールとし、衝突断面積は、225Å2であった。タウロコール酸は、約280Å2の測定衝突断面積を有するレセルピンの構造と類似する。タウロコール酸は、若干小さく、したがって、本イオンの合理的衝突断面積は、約200Å2−250Å2であると予想されるであろう。無作為に選択されるRF位相および位置の初期開始条件を伴うイオンに対して、10軌道が実行された。また、10V/mのドリフト電場を印加し、軸方向勾配の影響をシミュレートした。衝突セルの湾曲区間は、図7に示されるように、電極の半径3度以内に画定される電極の一区間、すなわち、「ウェッジ」またはスライスを使用することによって生成された。3度区間からの出るイオンの最終条件は、図7に示されるように、次の3度区間の初期開始条件として使用した。シミュレーションは、イオンが湾曲区間から出(すなわち、衝突セルから抜け出す)、軌道が電極上で終端(すなわち、イオンが電極と衝突)するか、または少数の例ではあるが、イオンが十分な運動エネルギーを損失し、衝突ガスとの衝突がウェッジの入口で出し尽くされたため、イオン軌道が停止するまで継続された。後者の条件は、単に、シミュレータのアーチファクトであって、イオン運動エネルギーが十分低く、電極と衝突しないことを暗示する。この場合、イオンは、湾曲区間の伝達の間存続したとして扱われ得る。
【0040】
図8は、シミュレーションで使用される、領域Q2PAの図を示し、図9は、領域Q2の図を示す。RF周波数は、図8および9に示される両シミュレーションの結果に対して、940kHzであった。Q2およびQ2PAのRF振幅は、Q3に印加されるものの55%であった。これは、実際のRF振幅比をシミュレートする。これは、イオンがQ2またはQ2PAに進入する時、qu=0.388で514m/zとなり、Q3は、514m/zを伝達するように設定された。Q3が質量を分析する場合、イオンは、qu=0.706で伝達されることに留意されたい。Q3が80m/zを伝達させるように設定された場合、衝突セルのqu値は、514m/zに対して0.060であるのに対して、80m/zの場合、qu値は、0.388となるであろう。
【0041】
図8では、イオンは、100eVの運動エネルギーおよび窒素10mトールで、領域Q2PA内に注入された。結果は、開始時、514m/zの10イオン中10イオンが、セルの伝達の間存続したことを示す。対照的に、分裂片80m/zに対応するRF振幅では、514m/zの軌道はすべて、領域Q2PAの入口近傍の電極で終端または「衝突」した。領域Q2PAの入口は、グラフの上半分である。
【0042】
図9は、湾曲区間44に加えて、4cmの直線区間40を備える、Q2区間のシミュレーションの結果を示す。あらゆる他の初期条件は、図8と同一とした。結果は、RF振幅がより低い質量分裂片に対して設定される時、領域Q2の伝達の間存続する514m/zイオンの数が増加することを示す。これは、RF振幅が、領域Q2PA内の正常な伝達に対して低過ぎるレベルまで低下した場合、区間Q2の直線区間40が、セルの伝達の間存続するために、十分な運動エネルギーを514m/zのイオンが損失することを可能にしたことを意味する。
【0043】
タウロコール酸分子の実験を行なった。本分子は、質量514m/zのマイナスイオンを形成する。タウロコール酸の主要分裂は、80m/zで生じる。上述のように、タウロコール酸は、約280Å2の測定衝突断面積を有するレセルピンの構造と類似する。タウロコール酸は、レセルピンよりも若干小さく、したがって、本イオンの合理的衝突断面積は、約200Å2乃至約250Å2であるだろう。また、タウロコール酸のイオンは、分裂が困難であって、効率的分裂のためには、90eVを超える衝突エネルギーを必要とする。本イオンの小サイズおよび靭性は、領域Q2PAの代わりに、領域Q2の利点を実証するために理想的である。Q2衝突セルのRF振幅の比は、Q3質量分析四重極に印加されるものの55%であった。これは、Q3が80m/zを分析するように設定される時、Q2のqu値は、514m/zの場合、0.060であって、80m/zの場合、0.388であることを意味する。また、本実験では、領域Q2の湾曲区間44は、セルの縦軸において50mmの半径を有する一方、直線区間40は、長さ25mmであったことに留意されたい。
【0044】
図10に示されるデータは、2つの異なる計器上で取得された。領域Q2PA(すなわち、湾曲区間44PAのみを伴う)は、816kHzで動作した。対照的に、領域Q2は、25mmの長さを伴う直線区間40を含み、940kHzの周波数で動作した。Q3に対する衝突セルのRF振幅の比は、両システムに対して55%であった。直線区間と湾曲型衝突セルのデータから、タウロコール酸を分裂させ、80m/z分裂片を伝達させる際、はるかに効率的であることが明らかである。周波数の影響は、式2および3を検討することによって理解され得る。擬ポテンシャル井戸深度は、同一qu値における940kHz計器(すなわち、Q2)と比較して、816kHz計器(すなわち、Q2PA)の場合、0.754倍、(816kHz/940kHZ)2となるであろう。
【0045】
図10は、514m/z乃至80m/zの分裂の%分裂を示す。%分裂は、イオンエネルギー20eV時、衝突セル内に衝突ガスを伴わない、514m/zの強度によって除される、衝突エネルギー100eV時の80m/z分裂の強度として定義される。領域Q2PA(すなわち、衝突セルの前に直線区間40を伴わない)では、分裂効率は、ガスセル内の窒素34mトールで最大化する。領域Q2(すなわち、2.5cmの直線区間40を伴う)では、最大分裂効率は、約9.5mトールの圧力で生じる。領域Q2内の直線区間40の利益は、効率的分裂のために必要とされる衝突セル圧力の低下である。このように実現される利点の中でも、イオンの散乱等の結果として生じる減少とともに、Q1、Q3、および検出器内に維持される高真空領域のためのポンピング要件の低減が挙げられる。最大衝突セル圧力制限が10mトールに設定される場合、分裂効率の利得は、図10のデータでは、8.5倍となるであろう。
【0046】
816から940kHzへの駆動周波数の増加は、イオンの閉じ込めのために有益であるが、軽度の影響とみなされ得る。これは、例えば、816および940kHzの駆動周波数がQ2PAおよびQ2の両方に使用された図11のシミュレーション結果によって示される。図11は、駆動周波数の差異が、衝突セルの前の直線区間40の追加と比較して、軽度の影響であることを示す。また、駆動周波数の大幅な増加(例えば、2倍以上)は、前駆体イオンを衝突セル内に径方向に閉じ込めたままにするために十分な擬ポテンシャル井戸深度をもたらすことが予想される。しかしながら、ある状況における可能性のある不利点は、式3によって決定される起こり得る質量範囲の関連減少であろう。最大質量範囲は、イオンガイド電源から利用可能な電圧によって決定され得る。また、電圧制限は、放電、トラッキング、および/または絶縁破壊が生じ得る電圧によって決定される。ある時点では、より高い電圧は、異なる種類の電気フィードスルーを必要とし、フィードスルーは、最大電圧制限によって設計および定格されるため、より高い電圧の使用は、より高い定格電気フィードスルーの使用を必要とする可能性があり、価格の割増しに関連し得る。結果として、イオンガイドへの室壁のより高い電圧の通過は、市販の計器のコストを増加し得る。周波数を単に2倍にすることは、擬ポテンシャル井戸深度を4倍増加させる一方、質量範囲もまた、4分の1に減少し、必ずしもではないが、潜在的に、市販の計器において、望ましくない影響となり得る。
【0047】
本出願人の教示は、直線前区間および可変半径の湾曲区間を有する湾曲型衝突セルをさらに含む。
【0048】
本明細書の教示による前直線区間を有する湾曲型衝突セルの設計に伴って、大幅な数の変数が存在する。これらは、衝突セル圧力、初期イオン運動エネルギー、着目イオンの衝突断面積、中性衝突相手(例えば、衝突ガス)の質量、および着目イオンが電極と衝突する(または衝突セルから抜け出す)のを防止するために必要とされる擬ポテンシャル井戸深度を含むが、それらに限定されない。さらに、擬ポテンシャル井戸深度は、衝突セルの場半径、衝突セルの駆動周波数、および着目イオンの質量を含む、因子に依存する。加えて、イオンガイド電極または他の衝突セル構成要素のサイズ、印加されるポテンシャル、および電極間の空間のため、物理的制限が存在する。
【0049】
解離(すなわち、分裂)を生じさせるために小運動エネルギーのみを必要とする脆弱なイオンは、Q2衝突セルへの短距離内で完全に解離(すなわち、分裂)され得、したがって、直線区間において、最小限の運動エネルギー減少のみを必要とする。故に、可変有効長の直線区間が企図される。例えば、本開示に精通した当業者によって理解されるように、所望の地点で運動エネルギーを減少するために必要とされるものよりも長い直線区間40が提供される場合、所望の運動エネルギーを維持するために、そのような直線(および/または湾曲)区間において、RFおよび/またはDC場が使用され得る。これは、例えば、可変物理長の直線区間40を使用する必要性をなくし得る。
【0050】
分裂がより困難なイオンは、より高い衝突エネルギーを必要とする場合があり、したがって、他のパラメータは同等に保持されたまま、より長い直線区間40を伴う構成を使用することによって、利点をもたらし得る。故に、本出願人は、パラメータの均衡を選択するための考慮によって、分裂効率および衝突セルQ2の生成物および前駆体イオンの伝達の両方を向上させることが可能であると認識する。例えば、種々の実施形態では、ST2とIQ2との間のDC場の加速等の適切な手段によって、前駆体イオンに十分な運動エネルギーを印加することによって、衝突セルQ2の直線区間40内の分裂が困難な前駆体イオンの解離を生じさせることが可能である。結果として得られる生成イオンおよび任意の残留前駆体イオンは、直線区間40内にある間、継続して高レベルの運動エネルギーを有することが可能である。結果として、直線区間40に十分な長さを提供することによって、これらのイオンは、湾曲区間44の伝達の間存続するために、十分な運動エネルギーを損失可能である。前駆体イオン(または生成イオン)のさらなる解離は、伝達の間、湾曲区間44内で生じ得る。
【0051】
本教示は、衝突セルの直線または湾曲区間内の前駆体イオンの分裂を記載するが、種々の実施形態では、当業者によって理解されるように、解離せずに、イオンまたは複数のイオンが衝突セルに入りおよびそこから出ることを可能にすることが有益である状況が生じ得る。概して、前駆体イオン、前駆体イオンの以前の解離に付随する生成イオン、またはそれらの組み合わせと称されるかにかかわらず、イオンは、直線区間40に進入し、直線区間40の長さを横断する間、所望の量の運動エネルギーを損失する。衝突解離がない場合、イオンは、衝突セルからの抜け出しまたはそこに接触せずに、湾曲部分内およびそこを通る通過の間存続可能である。上述のように、衝突解離がある場合は、イオンは、衝突セルからの抜け出しまたはそこに接触せずに、湾曲部分内の通過の間存続可能であって、生成イオンを発生させる分裂を生じる。
【0052】
湾曲区間44の実際の物理的寸法は、特定のイオンの最適分析のための対応する直線区間40の必要長を決定し得る。また、湾曲区間44の湾曲度は、区間40の長さの計算に影響を及ぼすであろう。例えば、180度湾曲区間44に進入するイオンは、より小さい全曲率の湾曲区間44を有する衝突セルに進入する同等イオンよりも短い距離で、外側電極に遭遇するであろう。
【0053】
また、他の考慮も、湾曲型衝突セルの設計選択に影響を及ぼし得る。衝突セルを湾曲させる目的の1つは、所望のイオン経路長に対応する計器の全体的物理長の減少である。したがって、質量分析計器の全体的物理長を最小限にする観点から、イオン経路の全長が直線イオン経路の全長を超える点まで、直線区間40の長さを増加させることは、Q2衝突セルを湾曲させる目的に反する傾向になり得る。
【0054】
長さLのイオン経路を提供する四重極分析器は、180度湾曲された場合、衝突セルの最長寸法に対して、約0.68Lの物理長を節約する、半径L/πの分析器を形成するであろう。90度衝突セルを湾曲させることは、半径2L/πの衝突セルに、最長寸法に対して、約0.36Lの結果として得られる節約を提供するであろう。直線イオン経路と比較した湾曲イオン経路の全長に対して、衝突セルに続く光学(すなわち、Q3四重極、検出器等)の長さがさらに節約される。図12は、直線型衝突セル(Q2)を利用する典型的三連四重極を示す。距離XLは、衝突セルと、衝突セルの下流に続く光学との長さである。
【0055】
図13から15は、衝突セルの湾曲区間44の前(すなわち、上流)に直線区間40を有する、湾曲型衝突セルのいくつかの変形例を示す。衝突セルを湾曲させることによって、長さXLを図13−15に示される長さXB、XC、XDに減少させ、計器内に提供されるイオン経路の対応する部分と比較して、より短い全長をもたらす。図13では、湾曲は、90度未満であって、所与の直線軸方向線に沿って、イオン経路の全長に比較的小さい減少をもたらす。図14では、湾曲部分44は、90度の曲りを備え、図13の低湾曲部分によって提供されるものよりも短い全長と、同一総イオン経路長を有する図12の計器のものよりも大幅に短い全長を提供する。180度の曲りの湾曲区間44を備える、図15に示される衝突セルは、さらに短い全長である。図13−15のそれぞれでは、衝突セル内に提供されるイオン経路は、例えば、一般的な現在の用途における約1ミリメートルからXL−X’uの最大値の範囲であり得る短直線区間を含む(式中、X’u(U=A、B、またはC)は、長さゼロの直線区間の場合によって決定される)。図16では、直線区間は、その最大値と等しく、図12に示される直線イオン経路の長さと等しい湾曲イオン経路をもたらす。図16は、直線区間40の最大長を示す。
【0056】
180度の湾曲型衝突セルの場合、最小半径は、分析四重極(例えば、Q1、Q3)の物理長によって制限され得る。例えば、図17aは、半径「r」の平均半径(すなわち、衝突セルの中心軸46までの半径)を有する湾曲区間44を伴う、湾曲型衝突セルを示す。それぞれの分析四重極Q1、Q3の各電極98は、対応する支持カラー99内に含まれ得る。支持カラー99は、四重極の整列を保持および維持し、電極98への電気接続を容易にするための構造を提供可能である。場半径r0(図17bに示される分析四重極によって範囲指定される内接円の半径として定義される)を含む、四重極の寸法と、実践的機械的理由とに応じて、支持カラーの内外半径は、最小値に制約され得る。図17aに示される構成では、分析四重極Q1は、分析四重極Q3に本質的に隣接および平行して位置付けられるように想定され得、この近接近では、組み合わされた支持カラーの外半径は、平均半径「r」を決定するための制限因子となり得る。例示的実施形態では、各支持カラーの外径は、約9.5r0、およびr0=4.17mmであり得る。故に、Q1およびQ3支持カラーが、互いに略接触するように整列され得る場合、平均半径「r」の最小値は、約19.8mmであり得る。したがって、湾曲型衝突セルの軸長は、πr、すなわち、62.2mmと等しい。
【0057】
上述のように、45mmと等しい半径r、すなわち、45/4.17=10.79r0の湾曲型衝突セルの場合、湾曲軸、すなわち、平均イオン経路46の長さは、141.4mmである。
【0058】
上述のように、湾曲区間は、直線区間に嵌合または物理的に結合されるが、しかしながら、また、本出願人の教示は、直線前区間を伴う湾曲型衝突セルが、例えば、図18に示されるように、モジュール式の2つ以上の中間部分または区間を備える実施形態も提供する。そこでは、直線区間Q2Aは、湾曲区間Q2Bおよびイオンガイド領域Q1からモジュール化されていることが分かる。これは、異なる実施形態における可変分析ニーズに対応するために、例えば、それぞれの直線および/またはそれぞれの湾曲区間40、44(それぞれ、Q2AおよびQ2Bとして図18に示す)を交換する可能性を提供する。
【0059】
本出願人の教示は、種々の実施形態に関連して記述されるが、本出願人の教示が、そのような実施形態に限定されることを意図するものではない。反対に、本出願人の教示は、当業者によって理解されるように、広範な代替例、修正例、および同等物を包含する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの電極を含む衝突セルであって、
第1の端部で前駆体イオンを受け入れるための入口を有する直線区間であって、該前駆体イオンを分裂させ、生成イオンを発生させること、第1の端部から第2の端部への該直線区間の通過に伴って、該前駆体イオンの運動エネルギーを損失させること、および該第1の端部から該第2の端部への該直線区間の通過に伴って、該生成イオンの運動エネルギーを損失させること、のうちの少なくとも1つを行なうように構成される、直線区間と、
該直線区間の該第2の端部下流の湾曲区間であって、該前駆体イオンを分裂させ、そこから生成イオンを発生させるように構成される、湾曲区間と
を備える、衝突セル。
【請求項2】
前記衝突セルは、四重極セットを備える、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項3】
前記直線区間および前記湾曲区間は、嵌合される、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項4】
中間区間が、前記直線区間と前記湾曲区間との間に配置される、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項5】
前記直線区間は、長さ約25ミリメートル乃至4センチメートルであって、前記湾曲区間は、その縦軸に沿って、約45ミリメートル乃至約50ミリメートルの湾曲の平均半径を有する、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項6】
衝突セルを製作するための方法であって、
前駆体イオンを選択するステップと、
該前駆体イオンから生成イオンを発生させるための、所望の半径、軸方向距離、電極の数および構成、動作圧力、ならびに動作周波数を含む、該衝突セルの湾曲区間のパラメータを決定するステップと、
第1のレベルの運動エネルギーを決定するステップであって、該前駆体イオンが該第1のレベルで該衝突セル内に導入されると、該第1のレベルの運動エネルギーは、該前駆体イオンを該電極のうちの1つにクラッシュさせる、ステップと、
第2のレベルの運動エネルギーを決定するステップであって、該前駆体イオンが該第2のレベルで該衝突セル内に導入されると、該前駆体イオンに該湾曲区間の通過の間存続させる、ステップと、
該湾曲区間に接続される該衝突セルの直線区間の長さを選択するステップであって、
該長さは、スパンに基づき、該スパンは、該前駆体イオンが、該スパンに沿って進行する間に、第3のレベルの運動エネルギーを損失させるために必要とされ、該第3のレベルの運動エネルギーは、該第1のレベルと該第2のレベルとの間の差と略等しい、ステップと
を包含する、方法。
【請求項7】
前記電極の数および構成は、少なくとも1つの四重極セット備える衝突セルを提供するように選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突セルを構築するステップをさらに包含し、
該ステップは、
前記直線区間が、前記長さと前記前駆体イオンを受け入れるための入口とを有するステップであって、該直線区間は、前記前駆体イオンが該直線区間の通過に伴って運動エネルギーを損失することを可能にする、ステップと、
湾曲区間が、その第1の端部で、前記直線部分および前記入口と反対の該直線区間の一端と融合するステップであって、該湾曲区間は、該前駆体イオンの衝突がそこから前記生成イオンを発生させることを可能とする、ステップと
を有する、
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記直線区間は、長さ約25ミリメートル乃至約4センチメートルであって、前記湾曲部分は、その縦軸に沿って、約45ミリメートル乃至約50ミリメートルの湾曲の平均半径を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のレベルの運動エネルギーを決定するステップは、前記軸方向距離および前記圧力に応じて、前記前駆体イオンの運動エネルギー量を計算するためのモデルに基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のレベルを決定するステップは、前記湾曲区間内に前記前駆体イオンを閉じ込めるために必要とされるエネルギー量を決定するステップに基づき、該湾曲区間の軸に垂直の前記前駆体イオンの運動エネルギーは、前記電極の擬ポテンシャル井戸深度未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
湾曲区間および該湾曲部分の入口で結合される直線区間を備え、該直線区間は、該直線区間に進入するイオンの所望の量の運動エネルギーを損失させるように選択される長さを有し、該イオンが該湾曲区間に進入すると、該イオンは、前記衝突セルから抜け出すことも、そこに接触することもなく、それによって、該湾曲部分内の通過の間存続する、
質量分析計用衝突セル。
【請求項13】
衝突セルによって相互接続される四重極領域のうちの少なくとも2つを備え、
該衝突セルは、
湾曲区間および該湾曲区間の入口で接続される直線区間を含み、該直線区間は、該直線区間に進入するイオンの所望の量の運動エネルギーを損失させるように選択される長さを有し、該イオンが該湾曲区間に進入すると、該イオンは、該衝突セルから抜け出すことも、そこに接触することもなく、それによって、該湾曲部分内の通過の間存続する、
質量分析計。
【請求項1】
少なくとも1つの電極を含む衝突セルであって、
第1の端部で前駆体イオンを受け入れるための入口を有する直線区間であって、該前駆体イオンを分裂させ、生成イオンを発生させること、第1の端部から第2の端部への該直線区間の通過に伴って、該前駆体イオンの運動エネルギーを損失させること、および該第1の端部から該第2の端部への該直線区間の通過に伴って、該生成イオンの運動エネルギーを損失させること、のうちの少なくとも1つを行なうように構成される、直線区間と、
該直線区間の該第2の端部下流の湾曲区間であって、該前駆体イオンを分裂させ、そこから生成イオンを発生させるように構成される、湾曲区間と
を備える、衝突セル。
【請求項2】
前記衝突セルは、四重極セットを備える、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項3】
前記直線区間および前記湾曲区間は、嵌合される、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項4】
中間区間が、前記直線区間と前記湾曲区間との間に配置される、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項5】
前記直線区間は、長さ約25ミリメートル乃至4センチメートルであって、前記湾曲区間は、その縦軸に沿って、約45ミリメートル乃至約50ミリメートルの湾曲の平均半径を有する、請求項1に記載の衝突セル。
【請求項6】
衝突セルを製作するための方法であって、
前駆体イオンを選択するステップと、
該前駆体イオンから生成イオンを発生させるための、所望の半径、軸方向距離、電極の数および構成、動作圧力、ならびに動作周波数を含む、該衝突セルの湾曲区間のパラメータを決定するステップと、
第1のレベルの運動エネルギーを決定するステップであって、該前駆体イオンが該第1のレベルで該衝突セル内に導入されると、該第1のレベルの運動エネルギーは、該前駆体イオンを該電極のうちの1つにクラッシュさせる、ステップと、
第2のレベルの運動エネルギーを決定するステップであって、該前駆体イオンが該第2のレベルで該衝突セル内に導入されると、該前駆体イオンに該湾曲区間の通過の間存続させる、ステップと、
該湾曲区間に接続される該衝突セルの直線区間の長さを選択するステップであって、
該長さは、スパンに基づき、該スパンは、該前駆体イオンが、該スパンに沿って進行する間に、第3のレベルの運動エネルギーを損失させるために必要とされ、該第3のレベルの運動エネルギーは、該第1のレベルと該第2のレベルとの間の差と略等しい、ステップと
を包含する、方法。
【請求項7】
前記電極の数および構成は、少なくとも1つの四重極セット備える衝突セルを提供するように選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突セルを構築するステップをさらに包含し、
該ステップは、
前記直線区間が、前記長さと前記前駆体イオンを受け入れるための入口とを有するステップであって、該直線区間は、前記前駆体イオンが該直線区間の通過に伴って運動エネルギーを損失することを可能にする、ステップと、
湾曲区間が、その第1の端部で、前記直線部分および前記入口と反対の該直線区間の一端と融合するステップであって、該湾曲区間は、該前駆体イオンの衝突がそこから前記生成イオンを発生させることを可能とする、ステップと
を有する、
請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記直線区間は、長さ約25ミリメートル乃至約4センチメートルであって、前記湾曲部分は、その縦軸に沿って、約45ミリメートル乃至約50ミリメートルの湾曲の平均半径を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のレベルの運動エネルギーを決定するステップは、前記軸方向距離および前記圧力に応じて、前記前駆体イオンの運動エネルギー量を計算するためのモデルに基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のレベルを決定するステップは、前記湾曲区間内に前記前駆体イオンを閉じ込めるために必要とされるエネルギー量を決定するステップに基づき、該湾曲区間の軸に垂直の前記前駆体イオンの運動エネルギーは、前記電極の擬ポテンシャル井戸深度未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
湾曲区間および該湾曲部分の入口で結合される直線区間を備え、該直線区間は、該直線区間に進入するイオンの所望の量の運動エネルギーを損失させるように選択される長さを有し、該イオンが該湾曲区間に進入すると、該イオンは、前記衝突セルから抜け出すことも、そこに接触することもなく、それによって、該湾曲部分内の通過の間存続する、
質量分析計用衝突セル。
【請求項13】
衝突セルによって相互接続される四重極領域のうちの少なくとも2つを備え、
該衝突セルは、
湾曲区間および該湾曲区間の入口で接続される直線区間を含み、該直線区間は、該直線区間に進入するイオンの所望の量の運動エネルギーを損失させるように選択される長さを有し、該イオンが該湾曲区間に進入すると、該イオンは、該衝突セルから抜け出すことも、そこに接触することもなく、それによって、該湾曲部分内の通過の間存続する、
質量分析計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17a】
【図17b】
【図18】
【公表番号】特表2010−539658(P2010−539658A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525173(P2010−525173)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001654
【国際公開番号】WO2009/036569
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001654
【国際公開番号】WO2009/036569
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】
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