説明

質量分析計

【課題】イオン化室の通過窓に気化したガス等が吸着するのを防止して光源からの光量ロスを低下させ、効率良くイオン化することができる質量分析計を提供することである。
【解決手段】紫外光Lを射出する紫外光源2と、前記紫外光源2からの紫外光Lが通過する通過窓31及び測定対象粒子をイオン化するイオン化領域32を有するイオン化室3と、前記イオン化室3に前記測定対象粒子を含む試料を導入する試料導入部4と、前記通過窓31に設けられ、前記紫外光源2からの紫外光Lを前記イオン化領域32に集光する集光レンズ6と、前記イオン化領域32においてイオン化された試料の質量を分析する質量分析部7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば大気中の粒子状物質やエアロゾル粒子あるいは自動車排気ガスの微小粉塵等(以下、いずれも粒子という。)の化学成分等を分析するための質量分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中に浮遊しているエアロゾル粒子は、健康へ悪影響を及ぼし、地球温暖化、冷却化にも関与し、また不均一反応を起こして大気環境に大きな影響を与えると考えられているため、粒子の粒径分布計測や化学成分分析への要求が高まっている。そのためリアルタイムに個別粒子の質量分析を行う様々な質量分析計が開発されている。その1つに、エアロゾル粒子を高温ヒータと衝突させることにより、その一部もしくは全部を気化し、そのガスを電子衝撃イオン化し四重極質量分析計で計測する方法が知られている。
【0003】
このような電子衝撃イオン化法は、フラグメントパターンのデータベースが充実しているため良く用いられているが、多くのフラグメントイオンが生成し親分子量相当のイオンが得られない傾向がある。したがって、この方法では、粒子の有機成分のような微量で数の多い物質の混合物から成分情報を得ることは効率が悪い。
【0004】
そこで、フラグメンテーション化を抑えたイオン化法として特許文献1に示すように、真空紫外光を照射することによりイオン化する方法がある。真空紫外光源を効率よく使用するには、できるだけ高温ヒータに真空紫外光源の光射出口を近づける必要がある。
【0005】
しかし、近づければ近づけるほど高温ヒータで揮発した炭化水素や有機ガス等が、紫外光源からの紫外光をイオン化室内に導入するための通過窓に吸着し、その通過窓が曇ってしまい、試料をイオン化するための照射光量が減少してしまうという欠点がある。
【0006】
この問題点を解決するための簡便な方法の1つに、イオン化室の通過窓とイオン化域との位置を離間させる方法が考えられる。しかし、位置を離間させると、光射出口からの真空紫外光が広がってしまい、高温ヒータ部分で気化したガス成分に照射される光量が減衰してしまうという問題がある。
【特許文献1】特開平2002−189018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、簡単な構成でありながら、イオン化室の通過窓に気化したガス等が吸着するのを防止して光源からの光量ロスを低下させ、効率良くイオン化することができる質量分析計を提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る質量分析計は、紫外光を射出する紫外光源と、前記紫外光源からの紫外光が通過する通過窓及び測定対象粒子をイオン化するイオン化領域を有するイオン化室と、前記イオン化室に前記測定対象粒子を含む試料を導入する試料導入部と、前記通過窓に設けられ、前記光源からの紫外光を前記イオン化領域に集光する集光レンズと、前記イオン化領域においてイオン化された試料の質量を分析する質量分析部と、を備えていることを特徴とする。ここで、紫外光とは、100(nm)〜400(nm)の波長の光をいい、波長の長い順にUVA(400〜320nm)、UVB(320〜280nm)、UVC(280〜190nm)、真空紫外域(190〜100nm)に分けられる。
【0009】
このようなものであれば、集光レンズにより紫外光源からの紫外光を集光レンズから所定距離離れた位置に集光することができるので、イオン化室の通過窓に気化したガス等が吸着するのを防止して光源からの光量ロスを低下させ、効率良くイオン化することができる。また集光レンズをイオン化室の通過窓に設けて、集光レンズが通過窓の機能を果たすようにしているので、上記効果を簡単な構成で実現することができる。
【0010】
また、前記試料導入部によりイオン化室内に導入された試料を気化する気化部をさらに備えていることが好ましい。
【0011】
気化部の具体的な実施の態様としては、前記気化部が、前記イオン化領域に設けられて、前記試料を気化するヒータを有していることが望ましい。
【0012】
また、気化した試料などが集光レンズに吸着することを好適に防ぎ、紫外光の光量を減らすことなく照射するためには、前記集光レンズと前記イオン化領域との間に設けられ、前記集光レンズにより集光された紫外光を通過させる光束通過孔を有するバッフルを備えていることが望ましい。
【0013】
紫外光源からの紫外光の光量ロスを好適に防止して、より一層イオン化効率を良くするためには、前記紫外光源の光射出口と前記集光レンズとを一体にしていることが望ましい。
【0014】
紫外光源とイオン化室とを分離して設ける場合において、光量ロスを少なくするためには、前記紫外光源の光射出口と前記集光レンズとの間の空間を、真空あるいは、前記紫外光源からの紫外光を吸収しないガスでパージしていることしていることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、集光レンズにより紫外光源からの紫外光を集光レンズから所定距離離れた位置(イオン化領域)に集光することができるので、イオン化室の通過窓に気化したガス等が吸着するのを防ぎ光源からの光量ロスを可及的に小さくして、効率良くイオン化することができる。また集光レンズをイオン化室の通過窓に設けて、集光レンズが通過窓の機能を果たすようにしているので、上記効果を簡単な構成で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の第1実施形態に係る質量分析計について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る質量分析計1は、図1に模式的に示すように、真空紫外光Lを射出する紫外光源2と、当該紫外光源2からの真空紫外光Lが通過する通過窓31及び測定対象である試料がイオン化されるイオン化領域32を有するイオン化室3と、当該イオン化室3に試料を導入する試料導入部4と、イオン化室3内に設けられ、試料導入部4により導入された試料を気化する気化部5と、通過窓31に設けられ、紫外光源2からの真空紫外光Lをイオン化領域32に集光する集光レンズ6と、イオン化領域32においてイオン化された試料の質量を分析する質量分析部7と、質量分析部7からの信号を受信して粒子Sの化学組成及び化学成分を算出する演算装置8とを備えている。
【0018】
以下に各部2〜8について図1及び図2を参照して説明する。なお、図2は、本実施形態における紫外光源2、集光レンズ6及びイオン化領域32を主として示す図である。
【0019】
紫外光源2は、真空紫外光Lを射出するものであり、真空紫外光Lを射出するための光射出口21を有している。光射出口21には、窓板22が設けられている。この窓板22は、例えば無機結晶により形成されている。また、この窓板22を光源本体23に取り付ける方法としては、無機物質である金属並びに金属塩や特別な有機接着剤等を使用すると光源2の内部から外部へのガス放出が少なく光源2の寿命を延ばすことができる。さらに紫外光源2は、図3に示すように、その射出する真空紫外光Lの光軸が、後述する気化部5のヒータ51に略平行になるように配置している。そうすると、気化した試料に広範囲にわたって真空紫外光Lを照射することができる。
【0020】
イオン化室3は、試料導入部4により質量分析計1の外部から導入された試料に含まれる粒子Sをイオン化する部屋であり、イオン化室3内の圧力は、図示しないロータリーポンプとターボ分子ポンプとを用いて例えば10―3〜10―6Pa程度に設定している。そして、紫外光源2からの真空紫外光Lが通過する通過窓31と、試料に含まれる粒子Sを気化する気化部5と、気化したガスをイオン化するイオン化領域32と、イオン化したイオンを後述する加速電極71に導くリペラー電極33とを有している。
【0021】
通過窓31は、イオン化室3の壁面30に設けられ、イオン化室3外に設けられた紫外光源2からの真空紫外光Lをイオン化室3内に導くためのものである。
【0022】
イオン化領域32は、通過窓31から所定距離離間して設けられており、試料から気化したガスに真空紫外光Lを照射してイオン化する領域である。本実施形態では、後述する気化部5のヒータ51の上部近傍に設定している。紫外光源2からの真空紫外光Lは、集光レンズ6によってイオン化領域32内に集光されている。
【0023】
試料導入部4は、粒子Sを含む試料(大気)をイオン化室3内に導入するためのものであり、エアロダイナミックレンズ41を用いたものである。この試料導入部4によりイオン化室3内に導入された粒子Sを含む試料は後述するヒータ51に衝突して、気化される。
【0024】
なお、図1においては、紫外光源2と試料導入部4とを、紫外光源2からの真空紫外光Lはイオン化領域32に照射され、試料導入部4からの試料はヒータ51に当たるように配置しているが、紫外光源2と試料導入部4との位置関係は図1に限定されず適宜設定されるものである。
【0025】
気化部5は、イオン化室3内に導入された試料を気化するものであり、ヒータ51を備えている。ヒータ51のイオン化室3内における配置位置は、試料導入部4から導入された試料が直接当たる範囲内において適宜設定される。本実施形態では、試料導入部4により導入された試料の流路上に配置されていて、試料導入部4から導入された試料が、ヒータ51に衝突して気化する。
【0026】
集光レンズ6は、イオン化室3の通過窓31に設けられ、紫外光源2からの真空紫外光Lをイオン化領域32内に集光するものである。集光レンズ6の材質は、使用する波長域により、CaF、MgF、LiF等の材質を用いることができる。また、集光レンズ6の通過窓31への装着は、本実施形態では、Oリング10をフランジ部311との間に設けているが、フランジ部311に直接接合しても良い。
【0027】
なお、本実施形態では、紫外光源2からの真空紫外光Lを光量ロスを抑えてイオン化室3に導くために、紫外光源2と集光レンズ6との間の空間を図示しないケーシング及びポンプによって真空にしている。
【0028】
質量分析部7は、試料から気化したガスがイオン化されて生じたイオンを加速させる加速電極71と、加速されたイオンが所定空間内を飛行する時間を測定し、その飛行時間に基づいて当該粒子Sの質量を算出する飛行時間型質量分析部72と、からなる。
【0029】
飛行時間に基づいてイオン化された粒子Sの質量を分析する飛行時間型質量分析部72は、加速電極71により加速され、自由飛行中のイオンを跳ね返すリフレクトロン721と、該リフレクトロン721により跳ね返されたイオンを検出するイオン検出器722とから構成している。このときリフレクトロン721は加速電極71と対向する位置に設けており、イオン検出器722はリフレクトロン721と対向する位置、即ち加速されたイオンが自由飛行を開始する位置の近傍に設けている。
【0030】
イオン検出器722は、マイクロチャンネルプレート(MCP)を利用したものである。そして、イオン検出器722にイオンが到達したことにより生じる信号であるイオン信号を図示しない増幅器を介して演算装置8に出力するものである。
【0031】
演算装置8は、CPU、メモリ、入出力インターフェイス等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、メモリの所定領域に記憶させた所定のプログラムにしたがってCPU、周辺機器等を協働させることにより、増幅器で処理されたイオン信号に基づいて加速後イオン検出器432に到達するまでの時間を算出し、質量スペクトル等を算出等するものである。
【0032】
さらに本実施形態の質量分析計1は、バッフル9を有している。
【0033】
バッフル9は、イオン化室3内において、集光レンズ6とイオン化領域32との間に設けられ、集光レンズ6とイオン化領域32とを隔てるとともに、集光レンズ6により集光された真空紫外光Lを通過させる光束通過孔91を有する。光束通過孔91は、集光レンズ6によって集光された真空紫外光Lを通過させる程度の面積を有する孔である。
【0034】
以上のように構成した本実施形態に係る質量分析計1によれば、集光レンズ6により紫外光源2からの真空紫外光Lを集光レンズ6から所定距離離れた位置(イオン化領域32)に集光することができるので、イオン化室3の通過窓31に気化したガス等が吸着するのを防止して光源2からの真空紫外光Lの光量ロスを低下させ、効率良くイオン化することができる。また集光レンズ6をイオン化室3の通過窓31に設けて、集光レンズ6が通過窓31の機能を果たすようにしているので、上記効果を簡単な構成で実現することができる。また、気化部5によって気化したガス成分を、フラグメンテーションを抑えてイオン化することができる。この方法により、大気エアロゾル粒子の有機成分のように微量で多くの数に物質の混合物のスペクトルからの成分情報を今までよりも一層精度良くメインテナンス作業を減らして測定することが可能となる。大気エアロゾルの発生源やそれらが環境や人体に及ぼす影響については未知なところが非常に多く残されており、盛んに研究・調査が行われている。本発明は、これらの問題の解明に役立つと考えられる。例えば、特に有機エアロゾルの測定、ディーゼルエンジン排ガス測定、たばこ煙測定、燃焼プロセスガス測定などの数多くの微粒有機成分を含む微粒子の成分計測において有用である。
【0035】
さらに、集光レンズ6とイオン化領域32との間にバッフル9を設けているので、気化した試料Sなどが集光レンズ6に吸着することを好適に防ぎ、真空紫外光Lの光量を減らすことなく照射してイオン化効率を良くすることができる。
【0036】
その上、光射出口21と集光レンズ6との間に空間を真空にしているので、さらに一層光量ロスを防ぐことができ、試料のイオン化を効率的に行うことができる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0038】
例えば、前記実施形態では、光量ロスのために紫外光源と集光レンズとの間の空間を真空にしているが、その他にも、その空間を窒素ガス等の真空紫外光を吸収しないガスでパージするようにしても良い。
【0039】
また、前記実施形態では、紫外光源と集光レンズとが分離したものであったが、図4に示すように、紫外光源の光射出口と集光レンズとを一体にして、紫外光源の光射出口とイオン化室の通過窓とを連続させる構造にすることも良い。これによれば、前記実施形態のように、光量ロスのために紫外光源と集光レンズとの間の空間を真空にしたり、所定のガスで充満させる等の対策を講ずることなく、最も効率よく真空紫外光をイオン化室内のイオン化領域に導くことができる。
【0040】
前記実施形態では、紫外光源が、真空紫外光を照射するものであったが、真空紫外光以外の紫外光を照射するものであっても良い。
【0041】
その上、質量分析部は、飛行時間型でなくとも良く、磁場型、四重極型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン型等を用いるものであっても良い。
【0042】
試料導入部はエアロダイナミックレンズを用いたものに限られることはなく、例えばキャピラリタイプのものであっても良い。
【0043】
その他、前記実施形態を含む前記した各構成を適宜組み合わせるようにしてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係る質量分析計の模式的構成図。
【図2】同実施形態における紫外光源、集光レンズ及びイオン化領域を主として示す図。
【図3】同実施形態における真空紫外光の光軸、試料の入射方向及びヒータの位置関係を示す図。
【図4】その他の変形実施形態に係る質量分析計における紫外光源、集光レンズ及びイオン化領域を主として示す図。
【符号の説明】
【0045】
1 ・・・質量分析計
S ・・・粒子
2 ・・・紫外光源
L ・・・真空紫外光
4 ・・・試料導入部
7 ・・・質量分析部
31・・・通過窓
32・・・イオン化領域
3 ・・・イオン化室
4 ・・・試料導入部
6 ・・・集光レンズ
5 ・・・気化部
51・・・ヒータ
9 ・・・バッフル
91・・・光束通過孔
21・・・光射出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光を射出する紫外光源と、
前記紫外光源からの紫外光が通過する通過窓及び測定対象粒子をイオン化するイオン化領域を有するイオン化室と、
前記イオン化室に前記測定対象粒子を含む試料を導入する試料導入部と、
前記通過窓に設けられ、前記紫外光源からの紫外光を前記イオン化領域に集光する集光レンズと、
前記イオン化領域においてイオン化された試料の質量を分析する質量分析部と、を備えている質量分析計。
【請求項2】
前記試料導入部により導入された試料を気化する気化部をさらに備えている請求項1記載の質量分析計。
【請求項3】
前記気化部が、前記イオン化領域に設けられて、前記試料を気化するヒータを有していることを特徴とする請求項2記載の質量分析計。
【請求項4】
前記集光レンズと前記イオン化領域との間に設けられ、前記集光レンズにより集光された紫外光を通過させる光束通過孔を有するバッフルを備えている請求項1、2又は3記載の質量分析計。
【請求項5】
前記紫外光源の光射出口と前記集光レンズとの間の空間を、真空にしていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の質量分析計。
【請求項6】
前記紫外光源の光射出口と前記集光レンズとの間の空間を、前記紫外光源からの紫外光を吸収しないガスでパージしていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の質量分析計。
【請求項7】
前記紫外光源の光射出口と前記集光レンズとを一体にしていることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−309878(P2007−309878A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141560(P2006−141560)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】