説明

質量分析計

【課題】装置の小型化を実現し、たとえ試料中に微少量しか存在していない測定対象ガスであっても、感度良く分析することができるようにすることである。
【解決手段】試料をイオン化するためのイオン化室3と、前記試料を前記イオン化室3内に導入する試料導入部4と、前記イオン化室3内に設けられ、前記試料導入部4により導入された試料中から測定対象ガスSを選択的に濃縮する選択濃縮手段5と、前記選択濃縮手段5により濃縮された測定対象ガスSに紫外光Lを照射して、その測定対象ガスSをイオン化する光照射部2と、前記光照射部2によってイオン化された測定対象ガスSの質量を分析する質量分析部7と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば大気中のガスの化学成分等を分析するための質量分析計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料中に微少量しか存在しない測定対象ガスは、分析感度を上げるために濃縮してから分析する必要があった。
【0003】
大気中の例えば揮発性有機化合物(VOC)を濃縮して分析する方法としては、例えば特許文献1に示すように、シリコン膜の透過率の差を用いて濃縮し、気相光イオン化もしくは電子衝撃イオン化によりイオン化して分析する方法がある。また揮発性有機化合物(VOC)の他の濃縮方法としては特許文献2に示すように、モレキュラーシープ吸着法もある。
【0004】
しかしながら、シリコン膜を用いた場合には、揮発性有機化合物(VOC)のみしか濃縮できず、他種類の測定対象ガスを濃縮することができないという問題がある。また、シリコン膜により揮発性有機化合物(VOC)を濃縮することができるとはいっても、揮発性有機化合物(VOC)の種類によってシリコン膜の透過率が異なることから、測定したい種類の揮発性有機化合物(VOC)を効率よく濃縮することは困難である。
【0005】
さらに、シリコン膜を用いたもの、及びモレキュラーシープ吸着法を用いたものは、濃縮部と分析部とが、独立して設置されているために装置全体が大型化してしまうという問題もある。加えて、上記濃縮方法は、分析部に導入する前に煩雑な濃縮工程が必要であるという問題もある。
【特許文献1】特開平07−010788号公報
【特許文献2】特開2000−070649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点を一挙に解決するためになされたものであり、装置の小型化及び濃縮の簡単化を実現し、たとえ試料中に微少量しか存在していない測定対象ガスであっても、感度良く分析することができるようにすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る質量分析計は、試料をイオン化するためのイオン化室と、前記試料を前記イオン化室内に導入する試料導入部と、前記イオン化室内に設けられ、前記試料導入部により導入された試料中から測定対象ガスを選択的に濃縮する選択濃縮手段と、前記選択濃縮手段により濃縮された測定対象ガスに光を照射して、その測定対象ガスをイオン化する光照射部と、前記光照射部によってイオン化された測定対象ガスの質量を分析する質量分析部と、を備えていることを特徴とする。ここで、光照射部としては、紫外光ランプ、可視光ランプ又はレーザが考えられる。また、紫外光とは、100(nm)〜400(nm)の波長の光をいい、波長の長い順にUVA(400〜320nm)、UVB(320〜280nm)、UVC(280〜190nm)、真空紫外域(190〜100nm)に分けられる。可視光とは、400(nm)〜780(nm)の波長をいう。
【0008】
このようなものであれば、選択濃縮手段によって測定対象ガスを濃縮しているので、濃縮の簡単化を実現し、その測定対象ガスが試料中に微少量しか存在しないものであっても感度良く分析することができるようになる。また、選択濃縮手段をイオン化室内に設けているので、装置の小型化(省スペース)を実現することができる。
【0009】
前記選択濃縮手段の具体的な実施の態様としては、温度調節可能な導電体の金属基板であり、その表面温度と表面状態を制御することで、測定対象ガスを選択的に吸着させるものである。より詳細には、前記選択濃縮手段が、金属基板と、当該金属基板の温度を調節する温度調節機構とを備え、前記金属基板の温度を調節することにより、前記基板表面に吸着する前記測定対象ガスを選択し、その吸着の度合いを制御するものであることが望ましい。金属基板としては、例えば白金基板やステンレス基板等が考えられる。温度調節機構としては、例えば金属基板の温度を上昇させるためのヒータと、金属基板の温度を下げるためのペルチェ電子冷却器が考えられる。
【0010】
また、前記光照射部を、その射出する光の波長を変更可能に構成して、光の波長を選択することにより、ガス種類の違いによるイオン化の度合いの違いを利用することが望ましい。
【0011】
光イオン化法では、光源の波長によってイオン化できるガスに制限があり、イオン化ポテンシャルの高いガスを光イオン化するためには、短波長の特殊な光源が必要となってしまうという問題がある。また、電子衝撃イオン化法はフラグメントパターンのデータベースが充実しているため良く用いられているが、多くのフラグメントイオンが生成し親分子量相当のイオンが得られないため、解析が煩雑になる傾向がある。したがって、この方法では、ガスの有機成分のような微量で種類の多い物質の混合物から成分情報を得ることは効率が悪いという問題がある。これらの問題を解決するためには上記2例のように対象ガスに直接光を照射するのではなく、前記光照射部が、先ず前記金属基板に光を照射することにより表面励起させ、この励起エネルギにより当該基板に吸着した測定対象ガスをイオン化する方法が考えられる。
【0012】
このようなものであれば、励起表面イオン化反応によって、イオン化するので種々のガスをフラグメント化を抑制しつつ分析することができる。また、金属基板が、濃縮機能だけでなくイオン化機能も兼ねているので、装置構成の簡略化及び小型化を実現することができる。さらに、表面励起イオン化反応においては、負イオン生成によるイオン化反応も生じるので、親分子の同定が容易になる。また、照射する光エネルギが、測定対象ガスのイオン化ポテンシャルに満たない場合であってもイオン化することができる場合がある。
【0013】
例えば、常温のステンレス金属基板を用いて、窒素(N)、水(HO)、酸素(O)、二酸化炭素(CO)を測定することができる。
【0014】
気相中での光イオン化反応と表面励起イオン化反応には大きな違いがある。光気相イオン化反応の場合は一般に光励起から反応までが1つの分子内で起こるが、表面励起イオン化反応の場合は、吸着分子内で起こるとは限らない。金属基板からの電子移動や電子励起が起こり、そのため容易に吸着分子のイオン化反応を引き起こす。この励起表面イオン化反応を利用することで、気相中でのイオン化が困難な分子のイオン化が容易になる。またエネルギの低い状態でソフトイオン化されるのでフラグメンテーションが少ないという効果もある。
【0015】
前記光照射部に可視光ランプ又は紫外光ランプを用いた場合には特に、その性質上射出された光が広がってしまい金属基板に照射される光量が減少してしまうという問題がある。そこで、この問題を解決してイオン化効率を向上させ、測定対象ガスの分析感度を良くするためには、前記光照射部と前記金属基板との間に集光レンズを設けて、前記光照射部からの光を前記金属基板上に集光するようにしていることが望ましい。
【0016】
イオン化室の通過窓に気化したガスなどが付着するのを防止して、光照射部から射出される光の光量ロスを抑制して、イオン化効率を高めるためには、前記集光レンズを、前記イオン化室の前記光照射部からの光を通過させる通過窓に設けていることがさらに望ましい。
【0017】
測定対象ガスをイオン化する光照射部として可視光ランプや紫外光ランプ等の連続光を用いた場合には、イオントラップ法を用いるか、もしくは質量分析部の高電圧をパルス化して、飛行時間のスタートタイミングを決めることがある。
【0018】
また、気化した試料などが集光レンズ又は通過窓に吸着することを好適に防ぎ、光量を減らすことなく照射するためには、前記集光レンズと前記金属基板との間に設けられ、前記集光レンズにより集光された光を通過させる光束通過孔を有するバッフルを備えていることが望ましい。
【0019】
光照射部からの光の光量ロスを好適に防止して、より一層イオン化効率を良くするためには、前記光照射部の光射出口と前記集光レンズとを一体にしていることが望ましい。
【0020】
光照射部とイオン化室とを分離して設ける場合において、光量ロスを少なくするためには、前記光照射部の光射出口と前記集光レンズとの間の空間を、真空あるいは、前記光照射部からの光を吸収しないガスでパージすることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、選択濃縮手段によって測定対象ガスを濃縮しているので、濃縮の簡単化を実現し、その測定対象ガスが試料中に微少量しか存在しないものであっても感度良く分析することができるようになる。また、選択濃縮手段をイオン化室内に設けているので、装置の小型化(省スペース)を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明の一実施形態に係る質量分析計について図面を参照して説明する。
【0023】
本実施形態に係る質量分析計1は、図1に模式的に示すように、光照射部2と、当該光照射部2からの真空紫外光Lが通過する通過窓31を有するイオン化室3と、当該イオン化室3に試料を導入する試料導入部4と、イオン化室3内に配置されて、前記試料導入部4により導入された試料中から測定対象ガスSを選択的に吸着して濃縮する選択濃縮手段5と、通過窓31に設けられ、光照射部2からの真空紫外光Lを選択濃縮手段5に集光する集光レンズ6と、選択濃縮手段5においてイオン化された測定対象ガスの質量を分析する質量分析部7と、質量分析部7からの信号を受信して測定対象ガスSの化学組成及び化学成分を算出する演算装置8とを備えている。
【0024】
以下に各部2〜8について図1及び図2を参照して説明する。なお、図2は、本実施形態における光照射部2、選択濃縮手段5及び集光レンズ6を主として示す図である。
【0025】
光照射部2は、例えば真空紫外光Lを射出する光源20と、真空紫外光Lを射出するための光射出口21とを有している。光源20は、射出する光(真空紫外光L)の波長を変更することができるものである。光射出口21には、窓板22が設けられている。この窓板22は、例えば無機結晶により形成されている。また、窓板22を光源本体23に取り付ける方法としては、無機物質である金属並びに金属塩や特別な有機接着剤等を使用すると、光源本体23の内部から外部へのガス放出が少なく光源20の寿命を延ばすことができる。さらに光源20は、図3に示すように、その射出する真空紫外光Lの光軸が、後述する選択濃縮手段5の金属基板51に交わるように配置している。そうすると、金属基板51に真空紫外光Lが照射されて金属基板51表面で光電効果が生じる。これによって、金属基板51の表面に吸着している測定対象ガスSがイオン化されて、その基板表面から脱離する。
【0026】
イオン化室3は、試料導入部4により質量分析計1の外部から導入された試料に含まれる測定対象ガスSをイオン化する部屋であり、イオン化室3内の圧力は、図示しないロータリーポンプとターボ分子ポンプとを用いて例えば10―3〜10―6Pa程度に設定している。そして、光源20からの真空紫外光Lが通過する通過窓31を有しており、試料に含まれる測定対象ガスSをある程度選択的に吸着させて濃縮する選択濃縮手段5と、イオン化したイオンを後述する加速電極71に導くリペラー電極33とが内部に設けられている。
【0027】
なお、リペラー電極33は、イオン化した測定対象ガスSを加速電極に導くための電極であり、飛行時間を計測するために演算装置8によって電圧をパルス的に印加するように制御されている。
【0028】
通過窓31は、イオン化室3の壁面30に設けられ、イオン化室3外に設けられた光源20からの真空紫外光Lをイオン化室3内に導くためのものである。
【0029】
試料導入部4は、測定対象ガスSを含む試料(大気)をイオン化室3内に導入するためのものであり、キャピラリー41等を用いたものである。試料は、イオン化室3内に導入されると同時に、金属基板51に吹き付けられるようにしている。そして、その試料中の測定対象ガスSが、金属基板51の表面に吸着される。試料導入部4は、キャピラリー41の他にパルスバルブ等を用いることができる。
【0030】
選択濃縮手段5は、イオン化室3内に設けられ、試料導入部4によりイオン化室3内に導入された試料中に含まれる測定対象ガスSをある程度選択的に吸着して濃縮するものである。
【0031】
具体的に選択濃縮手段5は、金属基板51と、この金属基板51の温度を調節する温度調節機構52とから構成されている。
【0032】
金属基板51は、イオン化室3内において、通過窓31から所定距離離間して、試料導入部4により導入された試料が通過する領域(試料の流路)上に設けられている。つまり、導入された試料が金属基板51の表面に吹き付けられるように配置されている。そして、試料中の測定対象ガスSをある程度選択的に吸着するものである。金属基板51の種類は、金属基板51によって物質との相互作用が異なるので、測定対象ガスSの種類によって適宜選択される。本実施形態では、例えば白金基板を用いている。
【0033】
温度調節機構52は、金属基板51の表面温度を測定対象ガスSが吸着しやすい温度に調節するものであり、金属基板51の温度を上げるヒータ521と、その金属基板51の温度を下げるペルチェ電子冷却器522とを備えている。そして、ヒータ521及びペルチェ電子冷却器522は、所定の温度となるように、図示しない制御装置によって電流制御されることにより、金属基板51の表面温度を調節する。これらは、例えば金属基板51の裏面に設けるようにしている。
【0034】
選択濃縮手段5が測定対象ガスSを選択的に吸着する仕組みは、以下の通りである。すなわち、ガス分子が金属表面に触れると、その金属表面とガス分子との状態によって、共有結合やイオン結合などにより固体表面(金属基板51の表面)にガス分子が吸着したり(化学吸着)、ファンデルワールス力により固体表面(金属基板51の表面)に吸着したり(物理吸着)する。本実施形態では、いずれの吸着も想定され、特に区別することはない。
【0035】
金属基板51は、その表面温度を調節することによって吸着する物質が異なる。この性質を利用して、温度調節機構52によって金属基板51の表面温度を、測定対象ガスSが吸着する温度に調節することにより、ある程度選択的にそのガスSのみを吸着させることができる。つまり、測定対象ガスSを基板表面上に濃縮することができる。
【0036】
集光レンズ6は、イオン化室3の通過窓31に設けられ、光源20からの真空紫外光Lを金属基板表面に集光するものである。つまり、集光レンズにより集光された真空紫外光Lは金属基板表面で所定範囲内に照射される。集光レンズ6の材質は、使用する波長域により、CaF、MgF、LiF、石英、ガラス等の材質を用いることができる。また、集光レンズ6の通過窓31への装着は、本実施形態では、Oリング10をフランジ部311との間に設けているが、フランジ部311に直接接合しても良い。
【0037】
なお、本実施形態では、光源20からの真空紫外光Lを光量ロスを抑えてイオン化室3に導くために、光源20と集光レンズ6との間の空間を図示しないケーシング及びポンプによって真空にしている。
【0038】
質量分析部7は、試料から気化したガスがイオン化されて生じたイオンを加速させる加速電極71と、加速されたイオンが所定空間内を飛行する時間を測定し、その飛行時間に基づいて当該ガスSの質量を算出する飛行時間型質量分析部72と、からなる。
【0039】
飛行時間に基づいてイオン化されたガスSの質量を分析する飛行時間型質量分析部72は、加速電極71により加速され、自由飛行中のイオンを跳ね返すリフレクトロン721と、該リフレクトロン721により跳ね返されたイオンを検出するイオン検出器722とから構成している。このときリフレクトロン721は加速電極71と対向する位置に設けており、イオン検出器722はリフレクトロン721と対向する位置、即ち加速されたイオンが自由飛行を開始する位置の近傍に設けている。
【0040】
イオン検出器722は、マイクロチャンネルプレート(MCP)を利用したものである。そして、イオン検出器722にイオンが到達したことにより生じる信号であるイオン信号を図示しない増幅器を介して演算装置8に出力するものである。
【0041】
演算装置8は、CPU、メモリ、入出力インターフェイス等を備えた汎用乃至専用のコンピュータであり、メモリの所定領域に記憶させた所定のプログラムにしたがってCPU、周辺機器等を協働させることにより、増幅器で処理されたイオン信号に基づいて加速後イオン検出器432に到達するまでの時間を算出し、質量スペクトル等を算出等するものである。
【0042】
さらに本実施形態の質量分析計1は、バッフル9を有している。
【0043】
バッフル9は、イオン化室3内において、集光レンズ6と金属基板51との間に設けられ、集光レンズ6と金属基板51とを隔てるとともに、集光レンズ6により集光された真空紫外光Lを通過させる光束通過孔91を有する。光束通過孔91は、集光レンズ6によって集光された真空紫外光Lを通過させる程度の面積を有する孔である。
【0044】
次にこのように構成した質量分析計1の動作について説明する。
【0045】
まず、試料導入部4によりイオン化室3内に導入すると同時に、一定時間試料を金属基板51に吹き付ける。そうすると、金属基板51の表面上に測定対象ガスSが吸着される。このとき、金属基板51の表面を測定対象ガスSが吸着する温度に調節している。これによって、測定対象ガスSを選択的に吸着させて濃縮した後、真空紫外光Lを照射する。金属基板51に照射された光エネルギによって表面に吸着した測定対象ガスSがイオン化されて金属基板51の表面から脱離する。
【0046】
次に、リペラー電極33に電圧をパルス的に印加してイオン化した測定対象ガスSを加速電極71内に導入する。そして、加速電極71によって加速されたイオンを飛行時間型質量分析部72によって分析する。
【0047】
以上のように構成した本実施形態に係る質量分析計1によれば、選択濃縮手段5によって測定対象ガスSを濃縮しているので、濃縮の簡単化を実現し、その測定対象ガスSが試料中に微少量しか存在しないものであっても感度良く分析することができる。また、金属基板51の励起表面イオン化反応によって、イオン化するので種々のガスをフラグメント化を抑制しつつ分析することができる。さらに、選択濃縮手段5をイオン化室3内に設けており、濃縮機能だけでなくイオン化機能も有するので、装置1の簡略化及び小型化を実現することができる。
【0048】
さらに、表面励起イオン化反応においては、負イオン生成によるイオン化反応も生じるので親分子の同定が容易になり、また照射する光エネルギが、測定対象ガスのイオン化ポテンシャルに満たない場合であってもイオン化することができる。また、本実施形態によって、試料気体中に微少量しか存在せず、しかも気相中での光イオン化が困難な分子を透過効率の高い質量分析法や、選択イオン化して総イオン検出法をもちいて測定することが可能となる。
【0049】
加えて、本実施形態によれば、負イオン生成による特徴的なイオン反応が見られる。その結果、今まで測定が困難であった微少量成分の高感度計測が可能となる。
【0050】
集光レンズ6により光源20からの真空紫外光Lを集光レンズ6から所定距離離れた位置(金属基板51)に集光することができるので、イオン化室3の通過窓31に気化したガス等が吸着するのを防止して光源2からの真空紫外光Lの光量ロスを低下させ、効率良くイオン化することができる。また集光レンズ6をイオン化室3の通過窓31に設けて、集光レンズ6が通過窓31の機能を果たすようにしているので、上記効果を簡単な構成で実現することができる。
【0051】
さらに、集光レンズ6と金属基板51との間にバッフル9を設けているので、気化したガスSなどが集光レンズ6に吸着することを好適に防ぎ、集光レンズ6の光透過率の低下、つまり真空紫外光Lの光量を減らすことなく照射してイオン化効率を良くすることができる。
【0052】
その上、光射出口21と集光レンズ6との間に空間を真空にしているので、さらに一層光量ロスを防ぐことができ、試料のイオン化を効率的に行うことができる。
【0053】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0054】
例えば、前記実施形態では、光量ロスのために光照射部と集光レンズとの間の空間を真空にしているが、その他にも、その空間を窒素ガス等の真空紫外光を吸収しないガスでパージするようにしても良い。
【0055】
また、前記実施形態では、光源と集光レンズとが分離したものであったが、図4に示すように、光照射部2の光射出口21と集光レンズ6とを一体にして、光源2の光射出口21とイオン化室3の通過窓31とを連続させる構造にすることも良い。これによれば、前記実施形態のように、光量ロスのために光源2と集光レンズ6との間の空間を真空にしたり、所定のガスで充満させる等の対策を講ずることなく、最も効率よく真空紫外光Lをイオン化室3内の金属基板51に導くことができる。
【0056】
前記実施形態では、光源は真空紫外光を照射するものであったが、真空紫外光以外の紫外光や可視光を照射するものであっても良い。
【0057】
さらに、質量分析部は、飛行時間型でなくとも良く、磁場型、四重極型、イオントラップ型、イオンサイクロトロン型等を用いるものであっても良い。
【0058】
加えて、前記実施形態では、金属基板を用いたものであったが、棒状の金属を用いて、その断面を表面として用いても良い。
【0059】
検出器としては、マルチチャンネル検出器、エレクトロンマルチプライヤー、ファラデーカップを用いたものであっても良い。
【0060】
その他、前記実施形態を含む前記した各構成を適宜組み合わせるようにしてもよく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る質量分析計の模式的構成図。
【図2】同実施形態における光照射部、集光レンズ及び選択濃縮手段を主として示す図。
【図3】その他の変形実施形態に係る質量分析計における光照射部、集光レンズ及び選択濃縮手段を主として示す図。
【符号の説明】
【0062】
1 ・・・質量分析計
S ・・・ガス
2 ・・・光照射部
L ・・・真空紫外光
4 ・・・試料導入部
7 ・・・質量分析部
31・・・通過窓
33・・・リペラー電極
3 ・・・イオン化室
4 ・・・試料導入部
5 ・・・選択濃縮手段
51・・・金属基板
52・・・温度調節機構
6 ・・・集光レンズ
9 ・・・バッフル
91・・・光束通過孔
21・・・光射出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するためのイオン化室と、
前記試料を前記イオン化室内に導入する試料導入部と、
前記イオン化室内に設けられ、前記試料導入部により導入された試料中から測定対象ガスを選択的に濃縮する選択濃縮手段と、
前記選択濃縮手段に、前記測定対象ガスをイオン化するための光を照射する光照射部と、
イオン化された測定対象ガスの質量を分析する質量分析部と、を備えている質量分析計。
【請求項2】
前記選択濃縮手段が、金属基板と、当該金属基板の温度を調節する温度調節機構とを備えるものである請求項1記載の質量分析計。
【請求項3】
前記光照射部が、前記金属基板に光を照射することにより、当該基板を表面励起させ、当該基板に吸着した測定対象ガスをイオン化するものである請求項2記載の質量分析計。
【請求項4】
前記光照射部は、前記光の波長を変更可能に構成している請求項1、2又は3記載の質量分析計。
【請求項5】
前記光照射部と前記金属基板との間に集光レンズを設けて、前記光照射部からの光を前記金属基板上に集光するようにしている請求項2、3又は4記載の質量分析計。
【請求項6】
前記集光レンズを、前記イオン化室の前記光照射部からの光を通過させる通過窓に設けている請求項5記載の質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−309879(P2007−309879A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141561(P2006−141561)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】