説明

質量分析計

【課題】イオンサイクロトロン共鳴質量分析計との関連で、高い質量分析を、小型で相対的に価格が低廉な質量分析計で達成するような改善を行う。
【解決手段】イオン源(11)と、イオン注入装置(12)と、特殊形付きの電極(14,16)によって限定される電場発生手段と、イオンを検出するための検出器(18)とを有する質量分析計が提供される。電極(14,16)は、それらの間に略超対数の形の場をもたらすように形造られており、それによってイオンは分析のための場のポテンシャル井戸内に捕捉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析計またはこれに関連する改善に関するものであり、更に具体的には、分析されるべきイオンの捕捉を利用する形態の質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の分子量または原子量は、それが検出されたならば、物質を識別することを可能にする有用な特性である。質量分析計は、その中に分析のために導入される物質またはその他の分子の分子量を定量することが出来る測定器具である。質量分析計は、種々の異なる方法で作動するが、本発明は、特に分析目的のためにイオンが空間の特定の領域内に捕捉され、または閉じこめられる形の質量分析計を対象とする。この種の公知の形式の質量分析計は、いわゆる「4重極イオン捕捉」質量分析計であり、且つまた「イオンサイクロトロン共鳴」質量分析計である。
【0003】
現在利用可能な4重極イオン捕捉質量分析計は、イオンを捕捉するために無線周波で振動する三次元の4重極電場を使用する。次いでイオンは、装置を質量分析計として作動することを可能にするために、質量/電荷比に基づいて選択的に電場から放射することが出来る。この形態の質量分析計は、相対的に安価に且つ寸法も小さく製造することが出来、ガスクロマトグラフ(GC−MS)用の質量選択検出器として人気がある。
【0004】
現在利用可能なイオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析計は、イオンを捕捉するために電場と極めて強い磁場の組み合わせを使用する。捕捉されたイオンは、イオンの質量に関連した周波数で磁場線の周囲をらせん状に回転する。次いでイオンは、その渦巻き運動の半径が増大するように励起され、且つ半径が増大するに連れて、イオンは、イメージ電流を誘引する検出板の近くを通過するように調整される。時間の関数としてこれらの検出板上で測定された信号は、イオンの数と周波数(それ故質量)に関連せしめられる。フーリエ変換のような在来の技術は、イオンの成分周波数を得るために、従って、周波数(およびそれ故質量)スペクトルを生成するために、測定された信号に適用することが出来る。この形式の質量分析計は、極めて高度の質量分解能をもたらすことが出来る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の公知の形態の質量分析計には、不利な点もある。例えば、4重極イオン捕捉質量分析計は、小型で且つ価格も低廉な構造にすることが出来る一方で、分析が極めて低速の走査を使用して実施されないときは、得られる質量分解能および質量範囲が余り高くないのである。これはガスクロマトグラフの質量測定には十分であるが、生化学的性格を有する分子の分子量への適用性を制約する。更に、イオンサイクロトロン共鳴質量分析計には、質量分析計が効果的に作動するために必要な高磁場を供与するために、それ自体、高価な超伝導マグネットを準備することが必要である。更にまた、この形式の超伝導マグネットは、現在利用可能な技術では、マグネットを冷却するために液体ヘリウムの使用が必要であり、且つまたその連続的な供給が要求されるので、相対的にコストの高い液体ヘリウムのために、必然的に高い維持経費を要する結果になる。
【0006】
本発明の課題は、イオンサイクロトロン共鳴質量分析計との関連で、高い質量分析を、小型で相対的に価格が低廉な質量分析計で達成することが出来るような、改善された質量分析計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明によって、分析されるべきイオンを発生するイオン源と、当該イオンを捕捉することが出来る電場を発生させる電場発生手段と、その質量/電荷比に従ってイオンを検出する検出手段とから構成され、当該電場がその軸に沿ってポテンシャルの谷を限定し、且つ当該イオンが、当該ポテンシャルの谷の範囲内に捕捉され、且つ当該軸に沿った当該ポテンシャルの谷の範囲内で実質的に調和振動を行うようになされ、当該イオンが当該軸に対して直交の面において回転運動を行う質量分析計が提供される。
【0008】
とりわけ電場発生手段によって形成される上記の電場は、実質的には「超対数形状」のものである。
【0009】
この装置によって、簡単にして廉価な方法で、高度の分解能でイオン質量/電荷比を検出することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
さて、本発明を、添付の図面との関連で実施例のみを使用して更に説明すれば、次の通りである。
【0011】
さて図1には、イオン源11と、イオン注入装置12と、間に測定キャビテイ17を限定する外部および内部の特殊形付の電極14、16によって限定される電場発生手段13と、以下において定義される方法で、電場内に捕捉され、或いはそこから放射されるイオンを検出するための−または複数個の検出器18とから構成される質量分析計10の概略が示されている。
【0012】
イオン源11は、在来型の連続的イオン源か或いは律動的イオン源のいずれかから成り、その前部にあるスロット19を通って放射されるイオンの流れを発生させる。
【0013】
(図3に更に明確に図示されている)イオン注入装置12は、2個の同心の円筒形の電極21、22から成り、外部電極21は内部電極22よりも実質的に直径が大である。外部電極21は、イオン源からのイオンが外部および内部電極21、22の間の領域内に通過流入する接線方向の1個の孔を持っている。イオン注入装置12は、電場発生手段の周囲に取り付けられており、以下において説明する方法で、これと接続されている。外部円筒形電極21は、以下において明らかになる理由で、その末端に置いて段が付されている。図示されている実施形態においては、内部円筒形電極22は別個の電極として形成されているが、内部円筒形電極22としての機能を完全に果たすために、図1に表示されているような、特殊形付電極16の上部表面36を使用することも可能である。
【0014】
電場発生装置13は、内部円筒形電極22の境界内に配置され、それぞれ2個の特殊形付電極、すなわち内部および外部の電場発生電極14、16を含んでいる。内部および外部の特殊形付電極14、16の間の空間17は、測定チャンバを形成する。電極14、16は、以下において明確にされる理由で特殊な形付にされている。外部特殊形付電極16は、周囲間隙26によって二つの部分23、24、すなわち励起電極部23と検出電極部24とに分けられている。外部電極部分23、24の間の周囲間隙26は、以下において明確にする方法で、イオンが注入装置から測定チャンバ17に進行することを可能にする。
【0015】
円筒形電極および特殊形付電極は、電極に希望通りの電圧を適用することを可能にするポテンシャル分離装置(分圧器)27を介して、それぞれの固定電圧供給装置に接続されている。
【0016】
測定チャンバ17は、測定チャンバ17をおよそ10−8トルまたはそれ以下の超高真空(UHV)にするように作動する真空ポンプに連結されている。
【0017】
電圧が供給されると、内部および外部の特殊形付電極14、16は、測定チャンバ17内にいわゆる「超対数電場」を形成するために相互に作用するそれぞれの電場を形成する。超対数電場の電位分布は、図4に記載されており、円筒座標(r、z)において、次の方程式によって記述される。
【0018】
U(r,z)=k/2[(z−a)2−r2/2]+b.ln(r/c)+d
この場合、a、b、c、dおよびkは定数である。この図からは、このような電場が、軸(Z)の方向に沿ってポテンシャルの谷を持っており、これが、イオンが逃げ出すための十分なエネルギーを持っていないときに、イオンをポテンシャルの谷に捕捉することを可能にする。電場は、半径方向(すなわち図4の軸rに沿った)におけるポテンシャルの底部が、図1および2に示されている測定チャンバ17の長手方向の軸に沿って存在するように配置されている。本発明を図示する目的で、超対数電場がこのように記載されているが、他の形態の電場を使用することも可能であると考えられる。発生される電場の形状に関する制約は、単に電場がイオンを捕捉することが出来る三次元の谷をポテンシャルの限界において限定することだけであり、且つイオンはこの電極を巡る回転運動によって内部電極に衝突することを阻止される。
【0019】
マイクロプロセッサーをベースとする回路に接続することもできる適当な検出器が備えられ、これが、チャンバ17内のイオンの次のような周波数特性、すなわちその軸方向における調和運動と、放射方向における振動と、角回転の周期の一つまたはそれ以上を検出することによって、従来のフーリェ変換技術に従って信号を分析する。要求される高い性能を与える最も適当な周波数は、軸方向の調和振動である。これらの周波数は、イオンが測定チャンバ17内にある間に検出することが出来る。イオンは、必要に応じまたは適当に、測定チャンバ17から放射された後で検出することも出来る。測定チャンバ17内の検出が用いられるときには、以下において記載されているように、外部電極16の半分を検出器として使用することが可能である。電極14、16の各々は、必要に応じて2部分またはそれ以上の電極部分に分けることが出来る。
【0020】
使用するに当たっては、測定されるべきイオンは、イオン源11によって製造され、板27−31によって集中され且つ加速されて、入口スリット19を通ってイオン源11から出て行く。
【0021】
イオン源11は、外部円筒形電極21内の(図示されていない)接線方向入口の開き孔の方向に向けられており、イオンは、軸方向に入口から離れて移動するように、小さな軸方向の速度分力で、円筒形電極21、22の間の注入キャビテイ32内に入る。二本の電極21、22の間に形成される電場は、内部円筒形電極22を巡るらせん状の軌道にイオンを進入させる。
【0022】
注入装置12から測定チャンバ17内にイオンを注入するためには、励起電極部分および検出電極部分23、24の間の周囲間隙の方向に向けられたポテンシャルの谷を限定するために、円筒形電極21、22(およびそれが適している場合には、36)によって形成される電場を修正することが必要である。本発明の装置においては、これは円筒形電極壁内に段階を設けることによって達成され、これが周囲間隙によって引き起こされるフリンジ効果と共同して、望む方法で電場を修正する。もちろん、望み通りの、或いは適当と思われる他の手段を使用して同一の効果を達成することも可能であると思われる。時間とともに電極21、22、23、34に使用される電圧を上げることによって、ポテンシャルの谷の側面の勾配が増大し、これによってこの谷の境界内でイオンを強制的に振動させる。更に電圧が増大すると、場の強さが増大し、それ故、縦軸方向へのイオンの力が増大し、かくてイオンのらせんの半径を減少させる。かくて、半径の小さならせんで回転を強いられることにより、且つまた電極21、22、23、34によって形成される場の修正によって引き起こされるポテンシャルの谷によって、イオンが間隙26の中に収束するのを見ることが出来る。これは、図式的に図6に示すとおりである。もちろん、注入装置12は、望み通りの、或いは適当と思われるいかなる形状も、これを採ることが出来、例えば電極21、22は存在する必要なく、電極23、24は分断することが出来、且つまた場の一部は注入中はスイッチを遮断し、且つ注入が完了次第、イオンを捕捉するために再びスイッチを入れることが出来る。この装置は、より大なる感度を備えるために開発されたものである。
【0023】
十分なイオンが測定チャンバ17内に導入された後では、特殊形付電極14、16への電圧の供給は一定に維持され、円筒形電極21、22への電圧の供給は、超対数電場の外側のすべてのイオンが注入装置12内で失われるように、これを変更することが出来る。
【0024】
電場発生装置内の特殊形付電極14、16は、必要とされるポテンシャルの配分において等電性の表面形状を有するような形状にされている。超対数電場は測定チャンバ17内で、電極14、16によって創出され、イオン注入装置12から間隙26を通って注入されるイオンは、それがらせん状の軌道で電極14を旋回するための十分な回転エネルギーを持つことを確保することによって、内部電極14を叩かないように、この電場内のポテンシャルの谷の中に維持される。かくて、分析されるべきイオンは電場内で捕捉され、中央の電極14の周囲のらせん状の軌道内の超対数電場によって創出される谷の境界内で前後に振動することを強いられる。
【0025】
イオンがひとたび超対数電場内に捕捉されるならば、以下において説明するように、さまざまな分析方法を用いることが出来る。
【0026】
質量分析が完了した後は、注入または測定チャンバ内に残留するイオンは、いずれも短時間、電極14、16への電圧を変化させることによって排出される。
【0027】
質量分析は、以下において順次考察される二つのモードの一方により、本発明の質量分析計を使用して実施することが出来る。
【0028】
1.フーリェ変換モード
場の中には、振動の三つの特性周波数がある。第一の周波数は、軸方向におけるイオンの調和運動であって、そこではイオンはこの方向におけるエネルギーとは独立にポテンシャルの谷の中で振動する。
【0029】
第二の特性周波数は放射方向の振動であって、これは、すべての軌道が完全には円形ではないことによるものである。
【0030】
捕捉されたイオンの第三の周波数特性は、角回転の周波数である。
【0031】
振動の諸周波数を検出するためには、運動がコヒレントである必要がある。放射方向および回転方向の振動は、コヒレントではない。何故なら、イオンがかなりの時間に亘って連続的に測定キャビテイ17内に注入され、このために内部の形付電極14の周囲のイオンの配分が不規則であるからである。最も簡単なのは、軸方向の振動にコヒレンスを誘導することであり、それ故、この目的のために、上述したように、外部電極16が二つの部分23、24で形成される。もし、電圧パルスがこの電極の一方の部分23に適用されるときは、二つの部分23、24の間の間隙26を通過した後に、測定チャンバ17内に円板として存在するイオンが、軸方向に他方の部分23または24に向かって力を受けることになる。このパルスの後、二つの部分23、24上の電圧は、今一度同等にされ、そしてイオンは軸方向において、場のポテンシャルの谷の中で調和運動で振動するのである。次いで、外部特殊形付電極16の一方の部分または双方の部分23、24が、イオンが前後に振動するときのイメージ電流を検出するために使用される。かくて時間領域から周波数領域への信号のフーリェ変換は、在来の方法で質量スペクトルを発生することが出来る。高い質量分解能が可能なのはこのモードにおける検出である。
【0032】
2.質量選択不安定(MSI)モード
質量検出の第二のモードは、超対数電場におけるポテンシャルの谷からのイオンの放射と検出器への集積を含んでいる。
【0033】
この操作モードは、従来の4重極イオン捕捉において使用される方法と類似しているが、この装置においては、周囲方向における不安定が存在しないという点で大きく相違する。
【0034】
本発明の重要な利点を利用するという意味で用いられる主要な分析方法はフーリェ変換モードであると思われるが、MSIモードが役に立つ例もある。例えば1個の質量は、トラップ(捕捉部)から他のすべての質量を放射することによって、後に続くMS/MS分析のために蓄積することが出来、或いは望まない成分からの高い強度の信号を、動作範囲を改善するために放射することが出来る。
【0035】
この方法においては、電極14、16に使用される電圧は、4重極または4重極イオン捕捉装置の場合のように、二つの質量不安定の可能性を生じ、時間とともに正弦曲線状に変化する。
【0036】
a)パラメトリック共鳴
質量分析計の内部および外部の特殊形付電極14、16の間の電圧が正弦曲線状に変化する場合には、トラップ内のイオンの運動を描く方程式は、有名なマシュー方程式である。4重極または4重極トラップと完全に類似しているので、運動方程式の解答は、二つのパラメターaおよびqで表現することが出来、安定度の図面上にグラフとして表示することが出来る。
【0037】
与えられた質量に対する適切な周波数の適用は、軸方向に振動の励起をもたらし、且つまた十分な励起後に測定チャンバ17からの放射をもたらす。イオンを検出する便利な手段は、検出器に向かって加速することが出来る二次電子を発生する外部電極16における転化ダイノード32との衝突である(図8)。4重極イオン捕捉に対する主たる利点は、必要とされる無線周波電圧の大きさが、ずっと低いことであり、このことは、この方法における分析計の質量範囲が効果的に無限になっていることを意味する。従来の走査モードにおける4重極イオン捕捉の質量範囲は、高質量で極めて高い電圧が(>10、000)要求されるので、実際上は、数千ダルトンに限定されているが、本発明の質量分析計では、わずか数十ボルトの電圧しか必要とされないのである。
【0038】
この方法によれば、質量分解能に関して2種類の走査方法がある。第一の方法は、大略の単位質量分解能を提供する急速走査モードである。第二の方法は、極めて高い分解能の達成を可能にするが、走査速度を犠牲にして行う非調和電場摂動の追加を利用するものである。走査速度が遅ければ遅いほど、それだけ分解能は高くなる。
【0039】
b)共鳴励起
この操作モードにおいては、正弦曲線状の振動が、特定質量の共鳴性の軸方向周波数で、外部特殊形付電極16の半分23、24に適用される。上記のように、低分解能および高分解能モードの双方の操作が可能である。パラメトリック励起モードに比較して、低分解能モードにおけるこの操作の不利益は、間違った結果をもたらす多数の側方振動である。しかしながら、共鳴励起モードは、非調和電場摂動を利用する高分解能の走査モードでは、パラメトリック励起モードと競争になる。ここでも高分解能は、走査速度の犠牲においてのみ可能である。パラメトリック励起と共鳴励起のいずれが高分解能のための最善の質量選択不安定性(MSI)モードであるかは、使用される用途次第である。例えばパラメトリック励起モードは、ビーム幅には大きな依存度を示さないが、共鳴励起モードは、励起中のエネルギー獲得率が速いために、高分解能で高い走査率を提供する。
【0040】
先行技術のタイプに属する質量分析計、そしてとりわけイオンサイクロトロン共鳴(ICR)仕様に対する本発明の質量分析計の主要な利点は、高質量での格段に優れた検出効率である。これは、雑音比(S/N)に対する信号が、イメージ電流周波数に比例するという事実によって生ずるものである。イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析計では、振動の周波数はI/M(Mはイオンの率を変える質量)として減少する。本発明の質量分析計によれば、振動の周波数は、I/M1/2として減少し、それ故ずっと緩慢に減少する。かくて本発明の質量分析計は、10−100kDaの領域では検出効率において30−100の増加を実現するはずである。この高質量能力は、生物学的成分に質量分析計を使用において重要である。
【0041】
本発明の質量分析計は、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)仕様におけるよりも、低質量(<1000)では、質量分解能が比較的少ない。これは、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析計では、場の精度が比較的高いことによって生ずるものである。
【0042】
更に、本発明の質量分析計において許容することが出来る(イオンおよびそれ故動作範囲に関連する)空間電荷効果は、イオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析計において許容することが出来る以上に大である。これは、イオンが、より長い軌道に沿って分散され、且つ中央の電極の存在によって相互にイオンの遮蔽が多少あることによって生ずるものである。
【0043】
これらの比較は、図9にグラフとして示すとおりである。
【0044】
本発明の装置により、高分解能測定を行うことを可能にし、製造するのに相対的に簡単で且つ価格低廉な質量分析計を提供することが可能であることが認められる。
【0045】
もちろん、本発明は、例としてのみ記述した上記の実施形態にのみ限定されることを意図するものでないことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による質量分析計の一形態の図解側面図である。
【図2】図1の一部を拡大して電場発生装置および測定チャンバを示した側面図である。
【図3】図1の一部を拡大してイオン注入装置の一形態の一部を示した側面図である。
【図4】電場発生装置によって用意される電場のポテンシャル配分の一形態のグラフ表示である。
【図5】図4の電場を伴う測定チャンバ内に捕捉されたイオンの運動の図式的な表示である。
【図6】イオン注入装置から測定チャンバへのイオンの運動の図式的な表示である。
【図7】励起後の軸方向における測定チャンバ内のイオンの運動を示す、図2と類似した側面図を示すものである。
【図8】本発明の選択不安定性(MSI)モードにおける測定チャンバからのイオン放射器の一形態を部分的に断面で示す図式的表示である。
【図9】本発明(1)の質量分析計の性能を示す質量分析計のさまざまなパラメターと、在来型のイオンサイクロトロン共鳴(ICR)質量分析計の同様のパラメターのグラフ表示である。
【符号の説明】
【0047】
10 質量分析計、11 イオン源、12 イオン注入装置、13 電場発生手段、14,16 特殊形付きの電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析されるべきイオンを発生するイオン源と、当該イオンを捕捉することが出来る電場を発生させる電場発生手段と、その質量/電荷比に従ってイオンを検出する検出手段とから構成され、当該電場がその軸に沿ってポテンシャルの谷を限定し、且つ当該イオンが、当該ポテンシャルの谷の範囲内で捕捉され、且つ当該軸に沿った当該ポテンシャルの谷の範囲内で実質的に調和振動を行うようになされ、当該イオンが当該軸に対して直交の面において回転運動を行なう質量分析計。
【請求項2】
発生される電場が実質的に超対数的な形状であり、且つ次の方程式、すなわち、
U(r,z)=k/2[(z−a)2−r2/2]+b.ln(r/c)+d
によって定義され、その場合においてr、zが円柱座標であり、且つa、b、c、d、kがc>0で、且つk>0であるような定数である、請求項1による質量分析計。
【請求項3】
電場発生手段が、それぞれ方程式z1(r)およびz2(r)によって限定される形状と、U(r、z1(r))=U1、および、U(r、z2(r))=U2、によって限定されるポテンシャルを有する一対の電極から構成される、請求項2による質量分析計。
【請求項4】
当該電極が同軸であり、一方の電極が外部電極を形成し、他方の電極が内部電極を形成する、請求項3による質量分析計。
【請求項5】
当該電極の少なくとも一方が、間に間隔を置いて互いに隣接して配置されている少なくとも2個の部分から形成されている、請求項3または請求項4による質量分析計。
【請求項6】
注入電場を発生させ、イオンを中に捕捉するために、電場発生手段によって創出される電場の中にイオンを注入する、イオン注入装置が設けられている、請求項1から5のいずれか一による質量分析計。
【請求項7】
イオン注入装置が、電場発生手段の少なくとも一部を包囲するように、電場発生手段の外側に配列された電極から構成されている、請求項6による質量分析計。
【請求項8】
上記のイオン注入装置が、一対の同軸の円筒形電極から構成されている、請求項7による質量分析計。
【請求項9】
当該電極の一方の少なくとも一部が、イオンが中に捕捉されるように、電場発生手段によって形成される電場内に導かれるために通過することが出来るポテンシャルの谷を発生させるために、注入電場を修正するために利用される、請求項7または8による質量分析計。
【請求項10】
上記のイオン源が、当該イオンを上記のイオン注入装置内に加速し且つ集中させるための加速集中手段を含んでいる、請求項6から9のいずれか一による質量分析計。
【請求項11】
上記の加速集中手段が、複数の帯電板から成る、請求項10による質量分析計。
【請求項12】
上記の加速集中手段を通過した後で、イオンが管状の部材を通して導かれる、請求項10または11による質量分析計。
【請求項13】
形成された注入電場が、イオンに上記の電極の内部を巡るらせん状の軌道をたどらせる、請求項7による質量分析計。
【請求項14】
上記のイオン注入装置が、上記の電極の上記の間隙を通って、上記の電場発生手段によって形成される電場の中にイオンを注入するように作動可能である、請求項5から13のいずれか一による質量分析計。
【請求項15】
当該電場発生手段のいずれかの部分に適用されるさまざまな電圧によって、当該イオンの調和振動が励起される、請求項1から14のいずれか一による質量分析計。
【請求項16】
注入電場内のポテンシャルの谷に侵入後に、当該ポテンシャルの谷の内部でイオンの振動の大きさを減少させるために、電極に適用された電圧が変更され、これによって当該電極の間の当該間隙を通って当該電場発生手段内へイオンが導かれることを許容する、請求項9から15のいずれか一による質量分析計。
【請求項17】
上記の検出手段が、上記の電極の一部において誘導されたイメージ電流を検出することによって、当該イオンを検出するように作動する、請求項1から16のいずれか一による質量分析計。
【請求項18】
当該イオンが、検出のために当該電場から励起され且つ放射される、請求項1から16のいずれか一による質量分析計。
【請求項19】
当該検出手段が、少なくともその一部とのイオンの衝突によって発生される二次粒子を検出する、請求項18による質量分析計。
【請求項20】
当該検出手段が、ダイノードおよび二次電子検出器から構成され、当該イオンが二次電子を発生させるために当該ダイノードと衝突するように配置された後で、当該二次電子が当該検出器によって検出される、請求項19による質量分析計。
【請求項21】
上記のイオン源によって発生されるイオンを、より小さなイオンに分裂させるように作動可能であり、これによって質量分析計がMS/MS配列で作動することを可能にする、更なる破砕手段を含んでいる、前記請求項のいずれかによる質量分析計。
【請求項22】
当該破砕手段が、上記電場内に捕捉されたときに、上記の選定されたイオンを破砕し、選定されないイオンを当該電場から放射するように作動可能である、請求項21による質量分析計。
【請求項23】
付属の図面に関連して本明細書において実質的に記載されている質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−198624(P2008−198624A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120472(P2008−120472)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【分割の表示】特願2007−148975(P2007−148975)の分割
【原出願日】平成8年3月29日(1996.3.29)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】