説明

質量分析計

衝突またはフラグメンテーションセル(5)の上流に配置されたイオン移動度分光計またはセパレータ(3)を含む質量分析計が開示される。イオンは、イオン移動度分光計またはセパレータ(3)内でそのイオン移動度にしたがって分離される。衝突またはフラグメンテーションセル(5)に入射する際のイオンのフラグメンテーションエネルギーを最適化するために、イオン移動度分光計またはセパレータ(3)に存在するイオンの運動エネルギーは時間とともに実質的に直線的に増加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計および質量分析の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハイブリッド四重極飛行時間質量分析計の大多数は、四重極質量フィルタ、その四重極質量フィルタの下流に配置されたフラグメンテーションセル、およびそのフラグメンテーションセルの下流に配置された飛行時間質量分析器を含む。この質量分析計は、従来、飛行時間(TOF)データセットを問い合わせることによって、候補の親または前駆体イオンが特定されるデータ指向分析(DDA)型実験のために使用される。次いで、特定の質量対電荷比を有する親または前駆体イオンは四重極質量フィルタによって選択的に移送されるように構成され、他方他のイオンはその質量フィルタによって実質的に減衰される。四重極質量フィルタによって移送された、選択された親または前駆体イオンはフラグメンテーションセルに移送され、フラグメントまたは娘イオンにフラグメンテーションされる。次いで、フラグメントまたは娘イオンは質量分析され、フラグメントまたは娘イオンの質量分析は、その親または前駆体イオンについてのさらなる構造情報を生み出す。
【0003】
親または前駆体イオンのフラグメンテーションは、衝突誘起解離(「CID」)として公知のプロセスによって一般に実現される。イオンはフラグメンテーションセル中へ加速され、フラグメンテーションセル内に維持された衝突ガスに激しく衝突する際にフラグメンテーションされる。一旦十分なフラグメントイオン質量スペクトルデータが得られると、次いで質量フィルタが異なる質量対電荷比を有する異なる親または前駆体イオンを選択するように設定され得る。次いで、このプロセスは複数回繰り返され得る。このアプローチによって総実験デューティサイクルが低減できることが理解される。
【0004】
特定の質量対電荷比を有する親または前駆体イオンを選択するステップを行わないことによって実験デューティサイクルを増加することは公知である。この公知方法は、特定の親または前駆体イオンを選択することなく、その代わりに、衝突またはフラグメンテーションセルをフラグメンテーション動作モードと非フラグメンテーション動作モードとの間で交互に繰り返し切り換える。
【0005】
この公知アプローチは、理想的には前駆体または親イオンだけに関連する第1のデータセット(非フラグメンテーション動作モードにおいて)およびフラグメントイオンだけに関連する第2のデータセット(フラグメンテーション動作モードにおいて)を生成する。ソフトウェアアルゴリズムを使用して親イオン質量スペクトル中に見られる個々の親または前駆体イオンをフラグメントイオン質量スペクトル中に見られる対応のフラグメントイオンと照合し得る。この公知アプローチは、上記の直列プロセスとは違って本質的に並列プロセスであり、総実験デューティサイクルにおいてその分増加が生じ得る。
【0006】
この公知アプローチに関連する問題は、フラグメンテーション動作モードにおいて同時にフラグメンテーションされる前駆体または親イオンが特定のものではなく、したがって異なる質量対電荷比および電荷状態を有する広範囲のイオンが同時にフラグメンテーションされるよう図られることである。ある親または前駆体イオンに対する最適なフラグメンテーションエネルギーはフラグメンテーションの対象となるそのイオンの質量対電荷比およびそのイオンの電荷状態の両方に依存するので、同時にフラグメンテーションされることが望まれるすべての親または前駆体イオンに対して最適となるような1つのフラグメンテーションエネルギーは存在しない。したがって、最適な方法でフラグメンテーションされない親または前駆体イオンがあり得、実際には全くフラグメンテーションされない親または前駆体イオンがあり得る可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フラグメンテーションエネルギーを獲得期間中に漸進的に傾斜または段階的に増加して、獲得期間の少なくとも一部が異なる親または前駆体イオンに対する最適なフラグメンテーションエネルギーにおいてまたはその近くで費やされることを確実にし得ることが考えられ得る。しかし、このアプローチが採用されたならば、獲得時間の著しい割合が非最適なフラグメンテーションエネルギーを得る親または前駆体イオンにも費やされるであろう。その結果、フラグメントイオン質量スペクトルにおけるフラグメントイオンの強度は比較的低いままとなる可能性がある。フラグメンテーション動作モード中にフラグメンテーションエネルギーの段階または傾斜的な増加を図ることの別の結果は、親または前駆体イオンの一部がそのまま残り、したがってこれらの親または前駆体イオンが本来はフラグメントイオンのみに関連するはずのデータセット中に見られるという欠点がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によると、イオンをそのイオン移動度にしたがって分離するように配置および適合されるイオン移動度分光計またはセパレータと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1の運動エネルギーE1を得るように加速し、時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なる運動エネルギーE2を得るように加速するように配置および適合される加速手段と、
前記加速手段によって加速されたイオンを受け取るように配置されるフラグメンテーションデバイスと
を含む質量分析計が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第1および第2イオンは、好ましくは実質的に異なる質量対電荷比を有するが、好ましくは同じ電荷状態を有する。
【0010】
加速手段は、好ましくはイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへと進む際にイオンが得る運動エネルギーを変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される。加速手段は、好ましくは実質的に連続的および/または直線的および/または漸進的および/または規則的な方法で、イオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへと進む際にイオンが得る運動エネルギーを変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される。あるいは、加速手段は、実質的に非連続的および/または非直線的および/または段階的な方法でイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへと進む際にイオンが得る運動エネルギーを変更および/または変化および/または走査するように配置および適合され得る。
【0011】
上記好ましい実施形態によると、E2>E1である。
【0012】
加速手段は、好ましくはイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへ移送される際にイオンが得る運動エネルギーを時間とともに漸進的に増加するように配置および適合される。好ましくは、加速手段は、イオンがフラグメンテーションデバイスに入射する際にフラグメンテーションのための実質的に最適な運動エネルギーを得るようにイオンを加速するように配置および適合される。
【0013】
本発明の一態様によると、イオンをそのイオン移動度にしたがって分離するように配置および適合されるイオン移動度分光計またはセパレータと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1のポテンシャル差V1を通して加速し、時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なるポテンシャル差V2を通して加速するように配置および適合される加速手段と、
前記加速手段によって加速されたイオンを受け取るように配置されるフラグメンテーションデバイスと
を含む質量分析計が提供される。
【0014】
第1および第2イオンは、好ましくは実質的に異なる質量対電荷比を有するが、好ましくは同じ電荷状態を有する。
【0015】
加速手段は、好ましくはイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへと進む際にイオンが通過するポテンシャル差を変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される。加速手段は、好ましくは実質的に連続的および/または直線的および/または漸進的および/または規則的な方法でイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへと進む際にイオンが通過するポテンシャル差を変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される。あるいは、加速手段は、実質的に非連続的および/または非直線的および/または段階的な方法でイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへと進む際にイオンが通過するポテンシャル差を変更および/または変化および/または走査するように配置および適合され得る。
【0016】
上記好ましい実施形態によると、V2>V1である。
【0017】
加速手段は、好ましくはイオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへ移送される際にある期間にわたりイオンが通過するポテンシャル差を漸進的に増加するように配置および適合される。
【0018】
先の実施形態ほどではないが、好ましい実施形態によると、上記状況はV2<V1の場合に起こり得ることが考えられる。例えば、これは多価イオンがフラグメンテーションされる場合に起こり得る。この先の実施形態ほどではないが、好ましい実施形態によると、加速手段は、イオンがイオン移動度分光計またはセパレータからフラグメンテーションデバイスへ移送される際にある期間にわたりイオンが通過するポテンシャル差を低減するように配置および適合される。
【0019】
加速手段は、好ましくはイオンがフラグメンテーションデバイスに入射する際にフラグメンテーションのための実質的に最適なポテンシャル差を通過するようにイオンを加速するように配置および適合される。加速手段は、好ましくはイオンをフラグメンテーションデバイス中へ加速および/または先ほどではないが好ましくは減速するように配置および適合される。
【0020】
イオン移動度分光計またはセパレータは、好ましくは気相電気泳動デバイスであり、好ましくはイオンをそのイオン移動度または関連の物理化学性質にしたがって一時的に分離するように構成される。
【0021】
一実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータは、ドリフトチューブと、前記ドリフトチューブの少なくとも一部に沿って軸方向DC電圧勾配を維持するための1つ以上の電極とを含み得る。イオン移動度分光計またはセパレータは、ドリフトチューブの少なくとも一部に沿って軸方向DC電圧勾配を維持するための手段をさらに含み得る。
【0022】
他の実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータは1つ以上の多重極ロッドセットを含み得る。イオン移動度分光計またはセパレータは、例えば、1つ以上の四重極、六重極、八重極またはより高次のロッドセットを含み得る。特に好ましい実施形態によると、1つ以上の多重極ロッドセットは軸方向にセグメント化されるか、または複数の軸方向セグメントを含む。
【0023】
他の実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータは複数の電極を含み得(例えば、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90または100電極)、ここで、イオン移動度分光計またはセパレータの電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、使用時にイオンが通るアパーチャを有する。一実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータの電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、実質的に同じサイズまたは面積のアパーチャを有し得る。あるいは、先の実施形態ほどではないが、好ましい実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータの電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、イオンガイドまたはイオントラップの軸に沿った方向にサイズまたは面積が漸進的により大きくおよび/またはより小さくなるアパーチャを有し得る。
【0024】
イオン移動度分光計またはセパレータの電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、好ましくは(i)≦1.0mm、(ii)≦2.0mm、(iii)≦3.0mm、(iv)≦4.0mm、(v)≦5.0mm、(vi)≦6.0mm、(vii)≦7.0mm、(viii)≦8.0mm、(ix)≦9.0mm、(x)≦10.0mm、および(xi)>10.0mmからなる群から選択される内径または内寸法を有するアパーチャを有し得る。
【0025】
別の実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータは、複数のプレートまたはメッシュ電極を含み得、プレートまたはメッシュ電極の少なくともいくつかは使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される。好ましくは、プレートまたはメッシュ電極の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される。イオン移動度分光計またはセパレータは、例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または>20プレートまたはメッシュ電極を含み得る。プレートまたはメッシュ電極は、好ましくはそのデバイス内にイオンを閉じ込めるためにACまたはRF電圧が供給される。隣接するプレートまたはメッシュ電極は、好ましくはACまたはRF電圧の逆相が供給される。
【0026】
イオン移動度分光計またはセパレータはその種々の異なる形態において好ましくは複数の軸方向セグメントを含む。例えば、イオン移動度分光計またはセパレータは、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100の軸方向セグメントを含み得る。
【0027】
好ましい実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも一部に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するためのDC電圧手段が好ましくは提供される。DC電圧手段は、例えば、イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するように配置および適合され得る。
【0028】
他の実施形態によると、過渡DC電圧手段が提供され得、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形をイオン移動度分光計またはセパレータを形成する電極に印加するように配置および適合され得る。過渡DC電圧または過渡DC電圧波形は、好ましくはイオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動する。過渡DC電圧手段は、好ましくはイオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形を電極に印加するように配置および適合される。
【0029】
他の実施形態によると、ACまたはRF電圧手段が好ましくは提供され、2つ以上の位相シフトACまたはRF電圧をイオン移動度分光計またはセパレータを形成する電極に印加するように配置および適合される。この実施形態によると、ACまたはRF電圧手段は、イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動する。好ましくは、ACまたはRF電圧手段は、イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って1つ以上のACまたはRF電圧を電極に印加するように配置および適合される。
【0030】
イオン移動度分光計またはセパレータは、好ましくは複数の電極を含み、イオンをイオン移動度分光計もしくはセパレータ内に半径方向に、またはイオン移動度分光計もしくはセパレータの中心軸の回りに閉じ込めるために、イオン移動度分光計またはセパレータの複数の電極の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%にACまたはRF電圧を印加するように配置および適合されるACまたはRF電圧手段が好ましくは提供される。前記デバイス内にイオンを閉じ込めるために使用されるACまたはRF電圧手段は、好ましくは(i)<50Vピークからピーク、(ii)50〜100Vピークからピーク、(iii)100〜150Vピークからピーク、(iv)150〜200Vピークからピーク、(v)200〜250Vピークからピーク、(vi)250〜300Vピークからピーク、(vii)300〜350Vピークからピーク、(viii)350〜400Vピークからピーク、(ix)400〜450Vピークからピーク、(x)450〜500Vピークからピーク、および(xi)>500Vピークからピーク、からなる群から選択される振幅を有するACまたはRF電圧を、イオン移動度分光計またはセパレータの複数の電極に供給するように配置および適合される。ACまたはRF電圧手段は、好ましくは(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz、および(xxv)>10.0MHzからなる群から選択される周波数を有するACまたはRF電圧をイオン移動度分光計またはセパレータの複数の電極に供給するように配置および適合される。
【0031】
好ましい実施形態によると、質量分析計は、イオン移動度分光計またはセパレータの少なくとも一部(好ましくは、イオン移動度分光計またはセパレータの少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%)を(i)>0.001mbar、(ii)>0.01mbar、(iii)>0.1mbar、(iv)>1mbar、(v)>10mbar、(vi)>100mbar、(vii)0.001〜100mbar、(viii)0.01〜10mbar、および(ix)0.1〜1mbarからなる群から選択される圧力に維持するように配置および適合される手段をさらに含むのが好ましい。
【0032】
イオンガイドまたは移送手段は、前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れるイオンを、前記フラグメンテーションデバイスへ向かってまたは、前記フラグメンテーションデバイス中へ、ガイドするかまたは移送するために、イオン移動度分光計またはセパレータとフラグメンテーションデバイスとの間に配置されるか、またはそうでなければ位置づけられ得る。
【0033】
フラグメンテーションデバイスは、好ましくは衝突またはフラグメンテーションセルを含む。衝突またはフラグメンテーションセルは、好ましくは衝突またはフラグメンテーションセル内の衝突ガス分子を用いた衝突誘起解離(「CID」)によってイオンをフラグメンテーションするように配置される。
【0034】
衝突またはフラグメンテーションセルは、好ましくはイオンが衝突またはフラグメンテーションセルに入射できるようにするための上流開口と、イオンが前記衝突またはフラグメンテーションセルから出射できるようにするための下流開口とを有するハウジングを含む。
【0035】
一実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、多重極ロッドセット(例えば、四重極、六重極、八重極またはより高次のロッドセット)を含み得る。多重極ロッドセットは軸方向にセグメント化され得る。
【0036】
フラグメンテーションデバイスは、好ましくは複数の電極(例えば、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90または100の電極)を含む。一実施形態によると、フラグメンテーションデバイスの電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、使用時にイオンが通るアパーチャを有する。好ましくは、フラグメンテーションデバイスの電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、実質的に同じサイズまたは面積のアパーチャを有する。先の実施形態ほどではないが、別の好ましい実施形態によると、フラグメンテーションデバイスの電極の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%は、前記フラグメンテーションデバイスの軸に沿った方向にサイズまたは面積が、漸進的により大きくおよび/またはより小さくなるアパーチャを有し得る。
【0037】
好ましくは、フラグメンテーションデバイスの電極の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%は、(i)≦1.0mm、(ii)≦2.0mm、(iii)≦3.0mm、(iv)≦4.0mm、(v)≦5.0mm、(vi)≦6.0mm、(vii)≦7.0mm、(viii)≦8.0mm、(ix)≦9.0mm、(x)≦10.0mm、および(xi)>10.0mmからなる群から選択される内径または内寸法を有するアパーチャを有する。
【0038】
別の実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、複数のプレートまたはメッシュ電極を含み得、前記プレートまたはメッシュ電極の少なくともいくつかは、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される。好ましくは、フラグメンテーションデバイスは複数のプレートまたはメッシュ電極を含み得、プレートまたはメッシュ電極の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%は、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される。フラグメンテーションデバイスは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または>20プレートまたはメッシュ電極を含み得る。好ましくは、プレートまたはメッシュ電極は、フラグメンテーションデバイス内にイオンを閉じ込めるために、ACまたはRF電圧が供給される。隣接するプレートまたはメッシュ電極は、好ましくはACまたはRF電圧の逆相が供給される。
【0039】
フラグメンテーションデバイスは複数の軸方向セグメント(例えば、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100の軸方向セグメント)を含み得る。
【0040】
一実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも一部に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するためのDC電圧手段をさらに含む。好ましくは、DC電圧手段は、フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するように配置および適合される。
【0041】
一実施形態によると、フラグメンテーションは、フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動するために、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形をフラグメンテーションデバイスを形成する電極に印加するように配置および適合される過渡DC電圧手段を含み得る。好ましくは、過渡DC電圧手段は、フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形を電極に印加するように配置および適合される。
【0042】
一実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動するために、2つ以上の位相シフトACまたはRF電圧をフラグメンテーションデバイスを形成する電極に印加するように配置および適合されるACまたはRF電圧手段を含み得る。好ましくは、ACまたはRF電圧手段は、フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って1つ以上のACまたはRF電圧を電極に印加するように配置および適合される。
【0043】
フラグメンテーションデバイスは、好ましくは複数の電極を含み、好ましくはイオンをフラグメンテーションデバイス内に半径方向にまたはフラグメンテーションデバイスの中心軸の回りに閉じ込めるために、フラグメンテーションデバイスの複数の電極の少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%にACまたはRF電圧を印加するように配置および適合されるACまたはRF電圧手段が提供される。好ましくは、ACまたはRF電圧手段は、(i)<50Vピークからピーク、(ii)50〜100Vピークからピーク、(iii)100〜150Vピークからピーク、(iv)150〜200Vピークからピーク、(v)200〜250Vピークからピーク、(vi)250〜300Vピークからピーク、(vii)300〜350Vピークからピーク、(viii)350〜400Vピークからピーク、(ix)400〜450Vピークからピーク、(x)450〜500Vピークからピーク、および(xi)>500Vピークからピーク、からなる群から選択される振幅を有するACまたはRF電圧をフラグメンテーションデバイスの複数の電極に供給するように配置および適合される。好ましくは、ACまたはRF電圧手段は、(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz、および(xxv)>10.0MHzからなる群から選択される周波数を有するACまたはRF電圧をフラグメンテーションデバイスの複数の電極に供給するように配置および適合される。
【0044】
一実施形態によると、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%、フラグメンテーションデバイスは、好ましくは(i)>0.0001mbar、(ii)>0.001mbar、(iii)>0.01mbar、(iv)>0.1mbar、(v)>1mbar、(vi)>10mbar、(vii)0.0001〜0.1mbar、および(viii)0.001〜0.01mbarからなる群から選択される圧力に維持されるように配置および適合される。
【0045】
先の実施形態ほどではないが、好ましい実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、イオンを表面誘起解離(「SID」)によってフラグメンテーションするように配置および適合され得る。ここで、イオンは、ガス分子ではなくそのイオンを表面または電極へ加速することによってフラグメンテーションされる。
【0046】
一実施形態によると、質量分析計は、ある動作モードにおいて、イオン移動度分光計またはセパレータの上流でイオンをトラップし、1パルスのイオンを前記イオン移動度分光計またはセパレータへ通過させるかまたは移送するように配置および適合される手段をさらに含み得る。
【0047】
フラグメンテーションデバイスを、イオンが実質的にフラグメンテーションされる第1の動作モード、とフラグメンテーションされるイオンが実質的により少ないかまたは全くない第2の動作モードとの間で切り換えるように、配置および適合される制御システムが好ましくは提供される。第1の(フラグメンテーション)動作モードにおいて、イオン移動度分光計またはセパレータに存在するイオンは、好ましくは(i)≧10V、(ii)≧20V、(iii)≧30V、(iv)≧40V、(v)≧50V、(vi)≧60V、(vii)≧70V、(viii)≧80V、(ix)≧90V、(x)≧100V、(xi)≧110V、(xii)≧120V、(xiii)≧130V、(xiv)≧140V、(xv)≧150V、(xvi)≧160V、(xvii)≧170V、(xviii)≧180V、(xix)≧190V、および(xx)≧200Vからなる群から選択される比較的高いポテンシャル差を通して加速される。第2の(非フラグメンテーション)動作モードにおいて、イオン移動度分光計またはセパレータに存在するイオンは、好ましくは(i)≦20V、(ii)≦15V、(iii)≦10V、(iv)≦5V、および(v)≦1Vからなる群から選択される比較的低いポテンシャル差を通して加速される。
【0048】
制御システムは、好ましくは1ミリ秒、5ミリ秒、10ミリ秒、15ミリ秒、20ミリ秒、25ミリ秒、30ミリ秒、35ミリ秒、40ミリ秒、45ミリ秒、50ミリ秒、55ミリ秒、60ミリ秒、65ミリ秒、70ミリ秒、75ミリ秒、80ミリ秒、85ミリ秒、90ミリ秒、95ミリ秒、100ミリ秒、200ミリ秒、300ミリ秒、400ミリ秒、500ミリ秒、600ミリ秒、700ミリ秒、800ミリ秒、900ミリ秒、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒、8秒、9秒または10秒ごとに少なくとも1回、フラグメンテーションデバイスを第1の動作モードと第2の動作モードとの間で定期的におよび/または繰り返し切り換えるように配置および適合される。
【0049】
質量分析計は、好ましくは(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザ脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝突(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、および(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源からなる群から選択されるイオン源をさらに含む。イオン源はパルス化または連続イオン源であり得る。
【0050】
質量分析計は、好ましくはフラグメンテーションデバイスの下流に配置された質量分析器をさらに含む。質量分析器は、好ましくは(i)フーリエ変換(「FT」)質量分析器、(ii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析器、(iii)飛行時間(「TOF」)質量分析器、(iv)直交加速度飛行時間(「oaTOF」)質量分析器、(v)軸方向加速度飛行時間質量分析器、(vi)扇形磁場質量分析計、(vii)ポールまたは3D四重極質量分析器、(viii)2Dまたは直線四重極質量分析器、(ix)ペニングトラップ質量分析器、(x)イオントラップ質量分析器、(xi)フーリエ変換オービトラップ、(xii)静電フーリエ変換質量分析計、および(xiii)四重極質量分析器からなる群から選択される。
【0051】
質量分析計は、イオン移動度分光計またはセパレータの上流に配置された1つ以上の質量もしくは質量対電荷比フィルタおよび/または分析器をさらに含み得る。1つ以上の質量もしくは質量対電荷比フィルタおよび/または分析器は、(i)四重極質量フィルタまたは分析器、(ii)ウィーンフィルタ、(iii)扇形磁場質量フィルタまたは分析器、(iv)速度フィルタ、および(v)イオンゲートからなる群から選択され得る。
【0052】
本発明の一態様によると、質量分析の方法であって、
イオン移動度分光計またはセパレータにおいて、イオンを、そのイオン移動度にしたがって分離するステップと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1の運動エネルギーE1を得るよう加速するステップと、
時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なる運動エネルギーE2を得るように加速するステップと、
前記フラグメンテーションデバイスにおいて前記第1および第2のイオンをフラグメンテーションするステップと
を含む方法が提供される。
【0053】
本発明の一態様によると、質量分析の方法であって、
イオン移動度分光計またはセパレータにおいて、イオンを、そのイオン移動度にしたがって分離するステップと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1のポテンシャル差V1を通して加速するステップと、
時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なるポテンシャル差V2を通して加速するステップと、
前記フラグメンテーションデバイスにおいて前記第1および第2のイオンをフラグメンテーションするステップと
を含む方法が提供される。
【0054】
上記好ましい実施形態は、好ましくはフラグメンテーションデバイスの上流に配置されたイオン移動度分光計またはセパレータデバイスを使用して、実質的に予測可能な方法で、イオンを一時的に分離するステップを好ましくは含む。フラグメンテーションデバイスは、好ましくは>10-3mbarの圧力に維持された衝突ガスを収納する衝突またはフラグメンテーションセルを備える。任意の与えられた時刻に、イオン移動度セパレータに存在するイオンの質量対電荷比範囲(所定の電荷状態に対して)は一般に予測され得る。したがって、次いで任意の特定時刻に衝突またはフラグメンテーションセルに入射されるイオンの質量対電荷比もまた一般に予測され得る。上記好ましい実施形態は、衝突またはフラグメンテーションセルに入射するイオンのエネルギーを設定するステップと、イオンがフラグメンテーションデバイス中へまたはそれに向かって好ましくは加速される際にイオンがフラグメンテーションのための最適なエネルギーを持ち続けるようにエネルギーを時間とともに変化させるステップとを含む。
【0055】
したがって、上記好ましい実施形態は、対象のイオンの全質量対電荷比範囲にわたり実質的に改善されたフラグメンテーション効率でイオンがフラグメンテーションされることを可能にし、したがって当該分野における重要な進歩を示す。
【0056】
本発明の種々の実施形態をあくまでも例として添付の図面を参照してここに説明する。
【0057】
図1は、好ましい実施形態に係る質量分析計を模式的に示す図である。
【0058】
図2は、異なる質量対電荷比を有する一価イオンが好ましい実施形態に係るイオン移動度分光計またはセパレータを出射するのにかかる時間を示す図である。
【0059】
図3は、例えば、MALDIイオン源から出射された際の一価イオンについての、質量対電荷比に対する最適なフラグメンテーションエネルギーのプロットを示す図である。
【0060】
図4は、一価イオンが上記好ましい実施形態に係るイオン移動度分光計またはセパレータをドリフト通過するのにかかる時間に対する、イオンが有するべきフラグメンテーションのための最適なエネルギーのプロットを示す図である。
【0061】
本発明の好ましい実施形態をここで図1を参照して説明する。好ましくは、イオン源1を含む質量分析計が提供される。好ましくは、第1の移送光学部品2またはイオンガイドがイオン源1の下流に配置され、好ましくは、イオン移動度分光計またはセパレータ3が第1の移送光学部品2またはイオンガイドの下流に配置される。第1の移送光学部品2またはイオンガイドは、一実施形態によると、使用時にイオンが通るアパーチャを有する複数の電極を有する四重極ロッドセットイオンガイドまたはイオントンネルイオンガイドを含み得る。
【0062】
イオン移動度分光計またはセパレータ3は、好ましくはイオンをそのイオン移動度または関連の物理化学性質にしたがって分離するように配置される。したがって、イオン移動度分光計またはセパレータ3は、好ましくは一形態の気相電気泳動デバイスである。
【0063】
イオン移動度分光計またはセパレータ5は、多くの異なる形態を取り得る(より詳細は後述)。一実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータ3は、進行波イオン移動度セパレータデバイスを含み得る。ここで、1つ以上の進行または過渡DC電圧または波形が、そのデバイスを形成する電極に印加される。あるいは、デバイス3は、イオンを半径方向に閉じ込めてもよいし、閉じ込めなくてもよいドリフトセルを含み得る。
【0064】
ある実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータ4は、1つ以上のガードリング電極を有するドリフトチューブを含み得る。一定の軸方向DC電圧勾配が、好ましくはドリフトチューブの長さに沿って維持される。ドリフトチューブは、好ましくは>10-3mbar、より好ましくは>10-2mbarのガス圧力で維持され、イオンは、好ましくは一定のDC電圧勾配を印加することによって、デバイスに沿って、かつデバイスを通って駆動される。比較的高いイオン移動度を有するイオンは、比較的低いイオン移動度を有するイオンよりも前にイオン移動度セパレータまたは分光計3から現れる。
【0065】
他の実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータ3は、多重極ロッドセットを含み得る。特に好ましい実施形態によると、多重極ロッドセット(例えば、四重極ロッドセット)は軸方向にセグメント化され得る。その複数の軸方向セグメントは、静的な軸方向DC電圧勾配がイオン移動度分光計またはセパレータ3の長さに沿って維持され得るように、異なるDCポテンシャルに維持され得る。また、別の実施形態によると、イオンをイオン移動度分光計またはセパレータ3の軸方向長さに沿ってかつ通って駆動するために、1つ以上の時変DCポテンシャルが軸方向セグメントに印加され得ることが考えられる。あるいは、イオンをイオン移動度分光計またはセパレータ3の長さに沿って駆動するために1つ以上のACまたはRF電圧が軸方向セグメントに印加され得る。これらの種々の実施形態によると、イオンはイオン移動度分光計またはセパレータ3の好ましくは軸方向ドリフト領域に存在する背景ガスを通過する際に、そのイオン移動度にしたがって分離されることが理解される。
【0066】
イオン移動度分光計またはセパレータ3は、別の実施形態によると、使用時にイオンが通るアパーチャを有する複数のプレート、リングまたはワイヤ電極を含むイオントンネルまたはイオンファンネル構成を含み得る。あるイオントンネル構成において、実質的にすべての電極は同様のサイズのアパーチャを有する。あるイオンファンネル構成において、アパーチャのサイズは、好ましくは漸進的により小さくなるか、またはより大きくなる。これらの実施形態によると、一定のDC電圧勾配が、イオントンネルまたはイオンファンネルイオン移動度分光計またはセパレータの長さに沿って維持され得る。あるいは、イオンをイオン移動度分光計またはセパレータ3の長さに沿って駆動するために1つ以上の過渡もしくは時変DCポテンシャルまたはACもしくはRF電圧が、イオントンネルまたはイオンファンネル構成を形成する電極に印加され得る。
【0067】
なおさらなる実施形態によると、イオン移動度分光計またはセパレータ3はサンドイッチプレート構成を含み得る。ここで、イオン移動度分光計またはセパレータ3は、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される複数のプレートまたはメッシュ電極を含む。また、電極構成は好ましくは軸方向にセグメント化され得、その結果、イオンをイオン移動度分光計またはセパレータ3の長さに沿っておよび通って駆動するために、他の実施形態と同様に、静的なDCポテンシャル勾配、時変DCポテンシャルまたはACもしくはRF電圧のいずれかが軸方向セグメントに印加され得る。
【0068】
イオンは、好ましくはACまたはRF電圧がイオン移動度分光計またはセパレータ3を形成する電極に印加されることによって、イオン移動度分光計またはセパレータ3内に半径方向に閉じ込められる。印加されたACまたはRF電圧により、好ましくは、イオンが半径方向に逃げることを阻止する半径方向擬ポテンシャル井戸が、好ましくは形成される。
【0069】
一実施形態によると、イオントラップ(図示せず)が好ましくはイオン移動度分光計またはセパレータ3の上流に提供される。イオントラップは、好ましくは1つ以上のパルスのイオンをイオン移動度分光計またはセパレータ3中へまたはそれに向かって周期的に放出するように配置される。
【0070】
第2の移送光学部品4またはイオンガイドが、イオン移動度分光計またはセパレータ3から出射されるかまたはそこを離れるイオンを受け取るために、必要に応じてイオン移動度分光計またはセパレータ3の下流に配置され得る。第2の移送光学部品4またはイオンガイドは、一実施形態によると、使用時にイオンが通るアパーチャを有する複数の電極を有する四重極ロッドセットイオンガイドまたはイオントンネルイオンガイドを含み得る。
【0071】
好ましくは衝突またはフラグメンテーションセル5を含むフラグメンテーションデバイス5が、好ましくは第2の移送光学部品4またはイオンガイドの下流に配置されるか、またはイオン移動度分光計またはセパレータ3から出射されたイオンを直接または間接に受け取るように配置され得る。
【0072】
フラグメンテーションデバイス5は、好ましくは多くの異なる形態を取り得る衝突またはフラグメンテーションセル5を含む。最も簡単な形態において、衝突またはフラグメンテーションデバイス5は、多重極ロッドセット衝突またはフラグメンテーションセルを含み得る。一実施形態によると、衝突またはフラグメンテーションセル5は、進行波衝突またはフラグメンテーションセル5を含み得る。前記進行波衝突またはフラグメンテーションセル5において、イオンを衝突またはフラグメンテーション5を通って駆動するために、衝突またはフラグメンテーションセルを形成する電極に、1つ以上の進行もしくは過渡DC電圧または波形が、印加される。過渡DCポテンシャルをフラグメンテーションデバイス5を形成する電極に印加することにより、好ましくはフラグメントイオンが衝突またはフラグメンテーションセル5を通る通過時間が早まる。
【0073】
あるいは、衝突またはフラグメンテーションセル5は、直線加速衝突またはフラグメンテーションセルを含み得る。ここで、一定の軸方向DC電圧勾配が、衝突またはフラグメンテーションセル5の軸方向長さの少なくとも一部に沿って維持される。
【0074】
上記好ましい実施形態によると、衝突またはフラグメンテーションセル5は、好ましくは衝突誘起解離(「CID」)によってイオンをフラグメンテーションするように配置される。ここで、衝突またはフラグメンテーションセル5内に提供される衝突ガスにイオンが衝突した際にフラグメンテーションされるように十分なエネルギーで衝突またはフラグメンテーションセル5中へ、イオンは、加速される。先の実施形態ほどではないが、好ましい実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、表面誘起解離(「SID」)によってイオンをフラグメンテーションするためのデバイスを含み得る。前記SIDにおいて、イオンは表面または電極へ加速されることによってフラグメンテーションされる。
【0075】
一実施形態によるとフラグメンテーションデバイス5は、多重極ロッドセットを含み得る。一実施形態によると、多重極ロッドセット(例えば、四重極ロッドセット)は軸方向にセグメント化され得る。その複数の軸方向セグメントは、静的な軸方向DC電圧勾配がフラグメンテーションデバイス5の長さに沿って維持され得るように、異なるDCポテンシャルに維持され得る。別の実施形態によると、フラグメントイオンをフラグメンテーションデバイス5の軸方向長さに沿っておよび通って駆動するために、1つ以上の時変DCポテンシャルが軸方向セグメントに印加され得ることが考えられる。あるいは、フラグメンテーションデバイス5の長さに沿って駆動するために、1つ以上のACまたはRF電圧が軸方向セグメントに印加され得る。一定の非ゼロDC電圧勾配をフラグメンテーションデバイスの長さに沿って印加したり、または1つ以上の過渡DCもしくはACもしくはRF電圧をフラグメンテーションデバイスを形成する電極に印加する必要はないが、フラグメンテーションデバイス5の長さに沿って静的なまたは時変電界を印加することによって、フラグメントイオンがフラグメンテーションデバイス5を通る通過時間を改善できる。
【0076】
フラグメンテーションデバイス5は、別の実施形態によると、使用時にイオンが通るアパーチャを有する複数のプレート電極を有するイオントンネルまたはイオンファンネル構成を含み得る。あるイオントンネル構成において、実質的にすべての電極は同様のサイズのアパーチャを有する。あるイオンファンネル構成において、アパーチャのサイズは、好ましくは漸進的により小さくまたはより大きくなる。これらの実施形態によると、一定のDC電圧勾配が、イオントンネルまたはイオンファンネルフラグメンテーションデバイスの長さに沿って維持され得る。あるいは、イオンをフラグメンテーションデバイス5の長さに沿って駆動するために、1つ以上の過渡もしくは時変DCポテンシャルまたはACもしくはRF電圧が、イオントンネルまたはイオンファンネル構成を形成する電極に印加され得る。
【0077】
なおさらなる実施形態によると、フラグメンテーションデバイス5は、サンドイッチプレート構成を含み得る。この構成において、フラグメンテーションデバイス5は、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される複数のプレートまたはメッシュ電極を含む。また、電極構成は、好ましくは軸方向にセグメント化され得、その結果、イオンをフラグメンテーションデバイス5の長さに沿っておよび通って駆動するために、他の実施形態と同様に、静的なDCポテンシャル勾配、時変DCポテンシャルまたはACもしくはRF電圧のいずれかが軸方向セグメントに印加され得る。
【0078】
イオンは、好ましくはACまたはRF電圧がフラグメンテーションデバイス5を形成する電極に印加されることによって、フラグメンテーションデバイス5内に半径方向に閉じ込められる。印加されたACまたはRF電圧により、好ましくはイオンが半径方向に逃げることを阻止する半径方向擬ポテンシャル井戸が好ましくは形成される。
【0079】
衝突またはフラグメンテーションガスが、好ましくはフラグメンテーションデバイス5内に提供される。衝突またはフラグメンテーションガスは、ヘリウム、メタン、ネオン、窒素、アルゴン、キセノン、空気またはそのようなガスの混合物を含み得る。窒素またはアルゴンが特に好ましい。
【0080】
第3の移送光学部品6またはイオンガイドが、フラグメンテーションデバイス5と直交加速飛行時間質量分析器との間のインターフェースとして働くように、フラグメンテーションデバイス5の下流に配置され得る。第3の移送光学部品6またはイオンガイドは、一実施形態によると、使用時にイオンが通るアパーチャを有する複数の電極を有する四重極ロッドセットイオンガイドまたはイオントンネルイオンガイドを含み得る。直交加速飛行時間質量分析器のプッシャー電極7を図1に示す。直交加速質量分析器のドリフト領域、リフレクトロンおよびイオン検出器は図1に示していない。飛行時間質量分析器の動作は、当業者に周知であるのでより詳細な説明は省略する。
【0081】
イオン源1は多くの異なる形態を取り得、好ましい実施形態によると、MALDIイオン源が提供され得る。MALDIイオン源は、MALDIイオン源1によって生成されるイオンのうち、通常一価イオンが最も多いという利点がある。これにより、イオン移動度分光計またはセパレータ3の動作が簡単化され、上記好ましい実施形態によると、イオンがイオン移動度分光計またはセパレータ3を出射する際にイオンが受けるポテンシャル差を変化させるステップを特に簡単化する。上記好ましい実施形態のこの態様を後でより詳細に説明する。
【0082】
他の実施形態によると、他のタイプのイオン源1が使用され得る。例えば、大気圧イオン化(API)イオン源および、特に、エレクトロスプレーイオン化イオン源が使用され得る。
【0083】
イオン源1によって出射されたイオンは、イオン源1自身内、別個のイオントラップ(図1に図示せず)内、またはイオン移動度分光計またはセパレータ3の上流部分または区分内のいずれかに、ある期間蓄積され得る。例えば、イオン移動度分光計またはセパレータ3は、イオントラップ領域として機能する上流部分と、イオンがそのイオン移動度にしたがって分離される下流部分イオンとを含み得る。
【0084】
イオンが何らかの方法で蓄積された後、次いである範囲の異なる質量対電荷比を有する1パケットまたはパルスのイオンが、好ましくは放出される。このイオンのパケットまたはパルスは、好ましくは、イオンがそのイオン移動度にしたがって分離される、イオン移動度分光計またはセパレータ3か、またはイオン移動度分光計またはセパレータ3の主区分のいずれかに、移送または通過されるように配置される。
【0085】
MALDIイオン源から出射されたイオンのうち最も多いのが一価イオンであるので、イオンがイオン移動度分光計またはセパレータ3を通過してそこから出射するのにかかる時間は、好ましくはそのイオンの質量対電荷比の関数である。イオンの質量対電荷比とイオン移動度分光計またはセパレータ3の通過または出射時間との関係は、一般に既知かつ予測可能であり、図2を参照してより詳細に説明する。
【0086】
図2は、異なる質量対電荷比の一価イオンを表すピークと、イオンが上記好ましい実施形態に係るイオン移動度分光計またはセパレータ3を通過し出射するのにかかる時間とを示すいくつかの実験結果を示す。種々のイオンの質量対電荷比を図2に示す。図2から分かるように、比較的低い質量対電荷比を有するイオンは、イオン移動度分光計またはセパレータ3を比較的短時間で通過し出射するが、比較的高い質量対電荷比を有するイオンは、イオン移動度分光計またはセパレータ3を通過し出射する時間が実質的により長い。例えば、図2から分かるように、質量対電荷比<350を有するイオンは、イオン移動度分光計またはセパレータ3の長さを約2ミリ秒未満で通過するが、質量対電荷比>1000を有するイオンは、イオン移動度分光計またはセパレータ3の長さを通過するのに約7ミリ秒を超える時間がかかる。
【0087】
図2において、ゼロとして示される時刻は、イオンパケットまたはパルスが、最初に蓄積ステージまたはイオントラップ領域から、イオン移動度分光計またはセパレータ3の本体中へ、最初に放出される時刻に対応する。図2から分かるように、特定のイオン移動度分光計またはセパレータ3を使用すると、最も高い質量対電荷比のイオンがイオン移動度分光計またはセパレータ3を出射するのに12ミリ秒またはそれ以上の時間がかかる。
【0088】
フラグメンテーションデバイス5は、一定のフラグメンテーション動作モードにおいて使用されるように配置され得る。しかし、他の実施形態によると、フラグメンテーションデバイス5は、好ましくは1回の実験中に好ましくは有効に繰り返しONおよびOFFを切り換えられ得る。
【0089】
フラグメンテーションデバイス5が、非フラグメンテーション(すなわち、親イオン)動作モードで動作すると、次いでフラグメンテーションデバイス5は有効にOFFに切り換えられ、次いでフラグメンテーションデバイス5は有効にイオンガイドとして機能する。この動作モードにおいて、イオン移動度分光計またはセパレータ3とフラグメンテーションデバイス5との間に維持されたポテンシャル差は、好ましくは比較的低く維持される。したがって、イオン移動度分光計またはセパレータ3を出射するイオンは、イオンがフラグメンテーションされるような十分なエネルギーなしにはフラグメンテーションデバイス5中へ加速されない。したがって、イオンがフラグメンテーションデバイス5をこの動作モードで通過する際のその親または前駆体イオンのフラグメンテーションは最小限であるかまたは実質的に起こらない。次いで親または前駆体イオンは、好ましくは実質的にフラグメンテーションされずにフラグメンテーションデバイス5を通過し出射する。
【0090】
次いでフラグメンテーションデバイス5から実質的にフラグメンテーションされずに現れる親または前駆体イオンは、好ましくは第3の移送光学部品またはイオンガイド6を通過し、次いで好ましくは直交加速飛行時間質量分析器7によって質量分析される。次いで親または前駆体イオン質量スペクトルが得られ得る。
【0091】
フラグメンテーションデバイス5がフラグメンテーション動作モードで動作すると、次いでイオン移動度分光計またはセパレータ3とフラグメンテーションデバイス5との間に維持されたポテンシャル差は、好ましくはイオン移動度分光計またはセパレータ3から現れるイオンが、フラグメンテーションに対して最適なエネルギーでフラグメンテーションデバイス5に入射されるように設定される。上記好ましい実施形態によると、フラグメンテーションデバイス5はフラグメンテーション動作モードで動作されている間(すなわち、例えば非フラグメンテーション動作モードに戻るように切り換えられる前)、イオン移動度分光計またはセパレータ5の出射口とフラグメンテーションデバイス5の入射口との間に維持されるポテンシャル差は、好ましくは時間とともに漸進的に増加される。これにより、イオン移動度分光計またはセパレータ3から現れるイオンは、次いでフラグメンテーションに対して最適なエネルギーを有してフラグメンテーションデバイス5に入射するようなエネルギーに加速される。
【0092】
一実施形態によると、フラグメンテーションデバイスは、非フラグメンテーション動作モードおよびフラグメンテーション動作モードにおいて、等しくない時間を費やし得ることが考えられる。例えば、1回の実験中にフラグメンテーションデバイス5は、非フラグメンテーション動作モードよりもフラグメンテーション動作モードにおいて比較的長い時間を費やし得る。
【0093】
例えば、MALDIイオン源から出射される一価イオンに対する最適なフラグメンテーションエネルギー(単位:eV)をそのイオンの質量対電荷比に対してプロットしたものを図3に示す。図3から分かるように、例えば、質量対電荷比が200のイオンは衝突ガス分子と衝突する前に約10eVのエネルギーを有する場合に、最適にフラグメンテーションされるが、質量対電荷比が2000の一価イオンは衝突ガス分子と衝突する前に約100eVのエネルギーを有する場合に、最適にフラグメンテーションされる。
【0094】
図2および3に示されたデータおよび関係は、イオンのフラグメンテーションを最適にするために、イオン移動度分光計またはセパレータ3から現れてフラグメンテーションデバイス5に入射しようとしているイオンが時間の関数として有するように配置されるべき最適なエネルギーを計算するために使用され得る。最適なフラグメンテーションエネルギーは、イオンの質量対電荷比の関数として変化する。任意の時点でイオン移動度分光計またはセパレータ3から現れるイオンの質量対電荷比は一般に既知であるので、最適なフラグメンテーションエネルギーと1パケットまたはパルスのイオンがイオン移動度分光計またはセパレータ3に入射してからの時間との関係は、決定され得る。図4は、好ましい実施形態によって、好ましくは、どのようにイオンのフラグメンテーションエネルギーが時間の関数として変化するように構成されるべきかのグラフを示す。
【0095】
上記好ましい実施形態によると、親または前駆体イオンがイオン移動度分光計またはセパレータ3から現れ、その後フラグメンテーションデバイス5へと進む際に、そのイオンは好ましくは実質的に最適な方法によりフラグメンテーションデバイス5内でフラグメンテーションされるようなポテンシャル差を通して加速される。次いで、その結果フラグメンテーションデバイス5内に生成されたフラグメントまたは娘イオンは、好ましくはフラグメンテーションデバイス5を出射するように配置される。フラグメントまたは娘イオンは、一定または時変電界がフラグメンテーションデバイス5の長さに沿って印加されることによってフラグメンテーションデバイス5を離れるように駆動され得る。次いで、フラグメンテーションデバイス5から現れたフラグメントまたは娘イオンは、好ましくは第3の移送光学部品6またはイオンガイドを通過し、次いで好ましくは、例えば、直交加速飛行時間質量分析器7によって質量分析される。しかし、他の実施形態によると、イオンは別の形態の質量分析器によって質量分析され得る。
【0096】
上記好ましい実施形態のよると、実質的に全対象質量対電荷比範囲にわたり、親または前駆体イオンの効率的かつ最適なフラグメンテーションが、容易に得られる。したがって、上記好ましい実施形態によると、フラグメントイオン感度が著しく増加または改善され、前駆体または親イオンのフラグメントイオン質量スペクトルへのクロスオーバーが実質的に低減される。したがって、上記好ましい実施形態は、フラグメントイオン質量スペクトルが生成されることを、可能にする。ここで、フラグメントイオン質量スペクトルに見られる実質的にすべてのイオンは、実際にフラグメントイオンである。このことは、従来のアプローチからの重要な改善を示す。従来のアプローチでは、いくつかの親または前駆体イオンが最適にはフラグメンテーションされていないので、フラグメントイオン質量スペクトルであるはずのところに親イオンがなお見られ得る。
【0097】
MALDIイオン源が使用され得るが、他のイオン源(例えば、大気圧イオン化(「API」)イオン源および、特に、エレクトロスプレーイオン化イオン源が等しく好ましい)が使用され得る。最も従来の大気圧イオン化イオン源およびエレクトロスプレーイオン源は、特にMALDIイオン源と一価ではなく多価の親または前駆体イオンを生成しやすい点が異なる。しかし、上記好ましい実施形態は、多価イオンがイオン源によって生成もしくは発生される構成、または多価イオンがイオン移動度分光計もしくはセパレータ3へ通過される構成に等しく適用可能である。
【0098】
上記好ましい実施形態によると、多価イオンがイオン源によって生成され、イオン移動度分光計またはセパレータ3へ移送され、次いでフラグメンテーションデバイス5へ通過されると、多価イオンの衝突エネルギーは、好ましくは同じポテンシャル差を通して加速される一価イオンに対する電荷数に比例して増加される。例えば、同じ質量対電荷比を有するイオンを考えると、例えば、一価イオンの最適な衝突エネルギーが10eVである場合、二価イオンに対する衝突エネルギーは20eVに設定され、三価イオンに対する衝突エネルギーは30eVに設定される。
【0099】
当業者に理解されるように、イオン移動度分光計またはセパレータ3を通るドリフト時間の関数としての最適なフラグメンテーションエネルギー間の正確な対応は多価イオンに対して少し変化するが、イオン移動度分光計またはセパレータ3から現れるイオンのエネルギーを時間の関数として漸進的に増加させる上記好ましい実施形態の一般動作原理は同じままである。
【0100】
イオン移動度分光計またはセパレータから現れるイオンの運動エネルギーが好ましくは時間とともに増加される上記好ましい実施形態に対する例外は、質量分析計が二価(または多価)イオンのフラグメンテーションを最適化するステップから一価イオンのフラグメンテーションを最適化するステップへ切り換わることである。例えば、二価(または多価)イオンは、同じ質量対電荷比を有する一価イオンより前にイオン移動度分光計またはセパレータ3を出射する。二価イオンは、例えば、20eVの運動エネルギーを得るように配置され得る。次いで質量分析計が同じ質量対電荷比を有する一価イオンのフラグメンテーションを最適化するステップへ切り換わると、一価イオンは10eVの運動エネルギーを得るように配置され得る。
【0101】
本発明を好ましい実施形態を参照して説明してきたが、添付の特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を逸脱せずに形態および詳細において種々の変更がなされ得ることが当業者には理解される。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、好ましい実施形態に係る質量分析計を模式的に示す図である。
【図2】図2は、異なる質量対電荷比を有する一価イオンが好ましい実施形態に係るイオン移動度分光計またはセパレータを出射するのにかかる時間を示す図である。
【図3】図3は、例えば、MALDIイオン源から出射された際の一価イオンについての、質量対電荷比に対する最適なフラグメンテーションエネルギーのプロットを示す図である。
【図4】図4は、一価イオンが上記好ましい実施形態に係るイオン移動度分光計またはセパレータをドリフト通過するのにかかる時間に対する、イオンが有するべきフラグメンテーションのための最適なエネルギーのプロットを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンをそのイオン移動度にしたがって分離するように配置および適合されるイオン移動度分光計またはセパレータと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1の運動エネルギーE1を得るように加速し、かつ時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なる運動エネルギーE2を得るように加速するように配置および適合される加速手段と、
前記加速手段によって加速されたイオンを受け取るように配置されるフラグメンテーションデバイスと
を含む質量分析計。
【請求項2】
前記加速手段が、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへと進む際に前記イオンが得る運動エネルギーを変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記加速手段が、実質的に連続的および/または直線的および/または漸進的および/または規則的な方法で、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへと進む際に前記イオンが得る運動エネルギーを変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記加速手段が、実質的に非連続的および/または非直線的および/または段階的な方法で、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへと進む際に前記イオンが得る運動エネルギーを変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される請求項2に記載の質量分析計。
【請求項5】
2>E1である、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項6】
前記加速手段が、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへ移送される際に前記イオンが得る運動エネルギーを、時間とともに漸進的に増加するように、配置および適合される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項7】
加速手段が、イオンが前記フラグメンテーションデバイスに入射する際にフラグメンテーションのための実質的に最適な運動エネルギーを得るように、前記イオンを加速するように、配置および適合される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項8】
イオンをそのイオン移動度にしたがって分離するように配置および適合されるイオン移動度分光計またはセパレータと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1のポテンシャル差V1を通して加速し、かつ時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なるポテンシャル差V2を通して加速するように配置および適合される加速手段と、
前記加速手段によって加速されたイオンを受け取るように配置されるフラグメンテーションデバイスと
を含む質量分析計。
【請求項9】
前記加速手段が、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへと進む際に前記イオンが通過するポテンシャル差を、変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される請求項8に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記加速手段が、実質的に連続的および/または直線的および/または漸進的および/または規則的な方法で、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへと進む際に前記イオンが通過するポテンシャル差を、変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される、請求項9に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記加速手段が、実質的に非連続的および/または非直線的および/または段階的な方法で、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへと進む際に前記イオンが通過するポテンシャル差を、変更および/または変化および/または走査するように配置および適合される請求項9に記載の質量分析計。
【請求項12】
2>V1である、請求項8から11のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項13】
前記加速手段が、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへ移送される際に、前記イオンが通過するポテンシャル差を漸進的に増加するように、配置および適合される請求項8から12のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項14】
2<V1である、請求項8から11のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項15】
前記加速手段が、イオンが前記イオン移動度分光計またはセパレータから前記フラグメンテーションデバイスへ移送される際に、前記イオンが通過するポテンシャル差を低減するように、配置および適合される請求項8から11または14のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項16】
前記加速手段が、イオンが前記フラグメンテーションデバイスに入射する際に、フラグメンテーションのための実質的に最適なポテンシャル差を通過するように、前記イオンを加速するように配置および適合される請求項8から15のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項17】
前記加速手段が、イオンを前記フラグメンテーションデバイス中へ加速および/または減速するように配置および適合される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項18】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、気相電気泳動デバイスを含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項19】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、ドリフトチューブと、前記ドリフトチューブの少なくとも一部に沿って軸方向DC電圧勾配を維持するための1つ以上の電極とを含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項20】
前記ドリフトチューブの少なくとも一部に沿って、軸方向DC電圧勾配を維持するための手段をさらに含む請求項19に記載の質量分析計。
【請求項21】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、1つ以上の多重極ロッドセットを含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項22】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、1つ以上の四重極、六重極、八重極またはより高次のロッドセットを含む請求項21に記載の質量分析計。
【請求項23】
前記1つ以上の多重極ロッドセットが、軸方向にセグメント化されるか、または複数の軸方向セグメントを含む請求項21または22に記載の質量分析計。
【請求項24】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、複数の電極を含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項25】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90または100の電極を含む請求項24に記載の質量分析計。
【請求項26】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、使用時にイオンが通るアパーチャを有する請求項24または25に記載の質量分析計。
【請求項27】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、実質的に同じサイズまたは面積のアパーチャを有する請求項24、25または26に記載の質量分析計。
【請求項28】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、前記イオンガイドまたはイオントラップの軸に沿った方向にサイズまたは面積が漸進的により大きくおよび/またはより小さくなるアパーチャを有する請求項24、25または26に記載の質量分析計。
【請求項29】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、(i)≦1.0mm、(ii)≦2.0mm、(iii)≦3.0mm、(iv)≦4.0mm、(v)≦5.0mm、(vi)≦6.0mm、(vii)≦7.0mm、(viii)≦8.0mm、(ix)≦9.0mm、(x)≦10.0mm、および(xi)>10.0mmからなる群から選択される内径または内寸法を有するアパーチャを有する請求項24から28のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項30】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、複数のプレートまたはメッシュ電極を含み、前記プレートまたはメッシュ電極の少なくともいくつかが、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項31】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、複数のプレートまたはメッシュ電極を含み、前記プレートまたはメッシュ電極の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項32】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または>20のプレートまたはメッシュ電極を含む請求項30または31に記載の質量分析計。
【請求項33】
前記プレートまたはメッシュ電極は、前記イオン移動度分光計またはセパレータ内にイオンを閉じ込めるために、ACまたはRF電圧が供給される請求項30、31または32に記載の質量分析計。
【請求項34】
隣接するプレートまたはメッシュ電極は、前記ACまたはRF電圧の逆相が供給される請求項33に記載の質量分析計。
【請求項35】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、複数の軸方向セグメントを含む請求項30から34のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項36】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100の軸方向セグメントを含む請求項35に記載の質量分析計。
【請求項37】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも一部に沿って、実質的に一定のDC電圧勾配を維持するためのDC電圧手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項38】
前記DC電圧手段が、前記イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するように配置および適合される請求項37に記載の質量分析計。
【請求項39】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動するために、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形を、前記イオン移動度分光計またはセパレータを形成する電極に印加するように、配置および適合される過渡DC電圧手段をさらに含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項40】
前記過渡DC電圧手段が、前記イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形を電極に印加するように配置および適合される請求項39に記載の質量分析計。
【請求項41】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動するために、2つ以上の位相シフトACまたはRF電圧を、前記イオン移動度分光計またはセパレータを形成する電極に印加するように、配置および適合されるACまたはRF電圧手段をさらに含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項42】
前記ACまたはRF電圧手段が、前記イオン移動度分光計またはセパレータの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って、1つ以上のACまたはRF電圧を電極に印加するように、配置および適合される請求項41に記載の質量分析計。
【請求項43】
前記イオン移動度分光計またはセパレータが、複数の電極を含み、
前記質量分析計が、イオンを前記イオン移動度分光計もしくはセパレータ内に半径方向にまたは前記イオン移動度分光計もしくはセパレータの中心軸の回りに閉じ込めるために、前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記複数の電極の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%にACまたはRF電圧を印加するように配置および適合されるACまたはRF電圧手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項44】
前記ACまたはRF電圧手段が、(i)<50Vピークからピーク、(ii)50〜100Vピークからピーク、(iii)100〜150Vピークからピーク、(iv)150〜200Vピークからピーク、(v)200〜250Vピークからピーク、(vi)250〜300Vピークからピーク、(vii)300〜350Vピークからピーク、(viii)350〜400Vピークからピーク、(ix)400〜450Vピークからピーク、(x)450〜500Vピークからピーク、および(xi)>500Vピークからピーク、からなる群から選択される振幅を有するACまたはRF電圧を前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記複数の電極に供給するように配置および適合される請求項43に記載の質量分析計。
【請求項45】
前記ACまたはRF電圧手段が、(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz、および(xxv)>10.0MHzからなる群から選択される周波数を有するACまたはRF電圧を前記イオン移動度分光計またはセパレータの前記複数の電極に供給するように配置および適合される請求項43または44に記載の質量分析計。
【請求項46】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの少なくとも一部を(i)>0.001mbar、(ii)>0.01mbar、(iii)>0.1mbar、(iv)>1mbar、(v)>10mbar、(vi)>100mbar、(vii)0.001〜100mbar、(viii)0.01〜10mbar、および(ix)0.1〜1mbarからなる群から選択される圧力に維持するように配置および適合される手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項47】
前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れるイオンを、前記フラグメンテーションデバイスへまたは中へガイドまたは移送するために、前記イオン移動度分光計またはセパレータと前記フラグメンテーションデバイスとの間に配置されたイオンガイドまたは移送手段をさらに含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項48】
前記フラグメンテーションデバイスが、衝突またはフラグメンテーションセルを含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項49】
前記衝突またはフラグメンテーションセルが、衝突誘起解離(「CID」)によってイオンをフラグメンテーションするように配置される請求項48に記載の質量分析計。
【請求項50】
前記衝突またはフラグメンテーションセルが、イオンが前記衝突またはフラグメンテーションセルに入射できるようにするための上流開口と、イオンが前記衝突またはフラグメンテーションセルから出射できるようにするための下流開口とを有するハウジングを含む請求項48または49に記載の質量分析計。
【請求項51】
前記フラグメンテーションデバイスが、多重極ロッドセットを含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項52】
前記フラグメンテーションデバイスが、四重極、六重極、八重極またはより高次のロッドセットを含む請求項51に記載の質量分析計。
【請求項53】
前記多重極ロッドセットが、軸方向にセグメント化される請求項51または52に記載の質量分析計。
【請求項54】
前記フラグメンテーションデバイスが、複数の電極を含む先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項55】
前記フラグメンテーションデバイスが、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90または100の電極を含む請求項54に記載の質量分析計。
【請求項56】
前記フラグメンテーションデバイスの前記電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、使用時にイオンが通るアパーチャを有する請求項54または55に記載の質量分析計。
【請求項57】
前記フラグメンテーションデバイスの前記電極の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、実質的に同じサイズまたは面積のアパーチャを有する請求項54、55または56に記載の質量分析計。
【請求項58】
前記フラグメンテーションデバイスの前記電極の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%が、前記フラグメンテーションデバイスの軸に沿った方向にサイズまたは面積が漸進的により大きくおよび/またはより小さくなるアパーチャを有する請求項54、55または56に記載の質量分析計。
【請求項59】
前記フラグメンテーションデバイスの前記電極の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%が、(i)≦1.0mm、(ii)≦2.0mm、(iii)≦3.0mm、(iv)≦4.0mm、(v)≦5.0mm、(vi)≦6.0mm、(vii)≦7.0mm、(viii)≦8.0mm、(ix)≦9.0mm、(x)≦10.0mm、および(xi)>10.0mmからなる群から選択される内径または内寸法を有するアパーチャを有する請求項54から58のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項60】
前記フラグメンテーションデバイスが、複数のプレートまたはメッシュ電極を含み、前記プレートまたはメッシュ電極の少なくともいくつかが、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項61】
前記フラグメンテーションデバイスが、複数のプレートまたはメッシュ電極を含み、前記プレートまたはメッシュ電極の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%が、使用時にイオンが走行する平面内に概ね配置される先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項62】
前記フラグメンテーションデバイスが、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20または>20のプレートまたはメッシュ電極を含む請求項60または61に記載の質量分析計。
【請求項63】
前記プレートまたはメッシュ電極は、前記フラグメンテーションデバイス内にイオンを閉じ込めるためにACまたはRF電圧が供給される請求項60、61または62に記載の質量分析計。
【請求項64】
隣接するプレートまたはメッシュ電極は、前記ACまたはRF電圧の逆相が供給される請求項63に記載の質量分析計。
【請求項65】
前記フラグメンテーションデバイスが、複数の軸方向セグメントを含む請求項60から64のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項66】
前記フラグメンテーションデバイスが、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または100の軸方向セグメントを含む請求項65に記載の質量分析計。
【請求項67】
前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも一部に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するためのDC電圧手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項68】
前記DC電圧手段が、前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って実質的に一定のDC電圧勾配を維持するように、配置および適合される請求項67に記載の質量分析計。
【請求項69】
前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動するために、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形を、前記フラグメンテーションデバイスを形成する電極に印加するように配置および適合される過渡DC電圧手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項70】
前記過渡DC電圧手段が、前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って、1つ以上の過渡DC電圧または1つ以上の過渡DC電圧波形を電極に印加するように配置および適合される請求項69に記載の質量分析計。
【請求項71】
前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも一部に沿って少なくともいくつかのイオンを駆動するために、2つ以上の位相シフトACまたはRF電圧を、前記フラグメンテーションデバイスを形成する電極に印加するように配置および適合されるACまたはRF電圧手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項72】
前記ACまたはRF電圧手段が、前記フラグメンテーションデバイスの軸方向長さの少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%に沿って、1つ以上のACまたはRF電圧を電極に印加するように配置および適合される請求項71に記載の質量分析計。
【請求項73】
前記フラグメンテーションデバイスが、複数の電極を含み、
前記質量分析計が、イオンを前記フラグメンテーションデバイス内に半径方向にまたは前記フラグメンテーションデバイスの中心軸の回りに閉じ込めるために、前記フラグメンテーションデバイスの前記複数の電極の少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%にACまたはRF電圧を印加するように配置および適合されるACまたはRF電圧手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項74】
前記ACまたはRF電圧手段が、(i)<50Vピークからピーク、(ii)50〜100Vピークからピーク、(iii)100〜150Vピークからピーク、(iv)150〜200Vピークからピーク、(v)200〜250Vピークからピーク、(vi)250〜300Vピークからピーク、(vii)300〜350Vピークからピーク、(viii)350〜400Vピークからピーク、(ix)400〜450Vピークからピーク、(x)450〜500Vピークからピーク、および(xi)>500Vピークからピーク、からなる群から選択される振幅を有するACまたはRF電圧を前記フラグメンテーションデバイスの前記複数の電極に供給するように配置および適合される、請求項73に記載の質量分析計。
【請求項75】
前記ACまたはRF電圧手段が、(i)<100kHz、(ii)100〜200kHz、(iii)200〜300kHz、(iv)300〜400kHz、(v)400〜500kHz、(vi)0.5〜1.0MHz、(vii)1.0〜1.5MHz、(viii)1.5〜2.0MHz、(ix)2.0〜2.5MHz、(x)2.5〜3.0MHz、(xi)3.0〜3.5MHz、(xii)3.5〜4.0MHz、(xiii)4.0〜4.5MHz、(xiv)4.5〜5.0MHz、(xv)5.0〜5.5MHz、(xvi)5.5〜6.0MHz、(xvii)6.0〜6.5MHz、(xviii)6.5〜7.0MHz、(xix)7.0〜7.5MHz、(xx)7.5〜8.0MHz、(xxi)8.0〜8.5MHz、(xxii)8.5〜9.0MHz、(xxiii)9.0〜9.5MHz、(xxiv)9.5〜10.0MHz、および(xxv)>10.0MHzからなる群から選択される周波数を有するACまたはRF電圧を前記フラグメンテーションデバイスの前記複数の電極に供給するように配置および適合される請求項73または74に記載の質量分析計。
【請求項76】
前記フラグメンテーションデバイスが、イオンを表面誘起解離(「SID」)によってフラグメンテーションするように配置および適合される請求項1から48のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項77】
前記フラグメンテーションデバイスの少なくとも一部を(i)>0.0001mbar、(ii)>0.001mbar、(iii)>0.01mbar、(iv)>0.1mbar、(v)>1mbar、(vi)>10mbar、(vii)0.0001〜0.1mbar、および(viii)0.001〜0.01mbarからなる群から選択される圧力に維持するように配置および適合される手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項78】
ある動作モードにおいて、前記イオン移動度分光計またはセパレータの上流でイオンをトラップし、かつ1パルスのイオンを前記イオン移動度分光計またはセパレータへ進ませるかまたは移送するように配置および適合される手段をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項79】
前記フラグメンテーションデバイスを、イオンが実質的にフラグメンテーションされる第1の動作モードとフラグメンテーションされるイオンが実質的により少ないかまたは全くない第2の動作モードとの間で、切り換えるかまたは繰り返し切り換えるように配置および適合される制御システムをさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項80】
前記第1の動作モードにおいて、前記イオン移動度分光計またはセパレータに存在するイオンが、(i)≧10V、(ii)≧20V、(iii)≧30V、(iv)≧40V、(v)≧50V、(vi)≧60V、(vii)≧70V、(viii)≧80V、(ix)≧90V、(x)≧100V、(xi)≧110V、(xii)≧120V、(xiii)≧130V、(xiv)≧140V、(xv)≧150V、(xvi)≧160V、(xvii)≧170V、(xviii)≧180V、(xix)≧190V、および(xx)≧200Vからなる群から選択されるポテンシャル差を通して加速される請求項79に記載の質量分析計。
【請求項81】
前記第2の動作モードにおいて、前記イオン移動度分光計またはセパレータに存在するイオンが、(i)≦20V、(ii)≦15V、(iii)≦10V、(iv)≦5V、および(v)≦1Vからなる群から選択されるポテンシャル差を通して加速される請求項79または80に記載の質量分析計。
【請求項82】
前記制御システムが、1ミリ秒、5ミリ秒、10ミリ秒、15ミリ秒、20ミリ秒、25ミリ秒、30ミリ秒、35ミリ秒、40ミリ秒、45ミリ秒、50ミリ秒、55ミリ秒、60ミリ秒、65ミリ秒、70ミリ秒、75ミリ秒、80ミリ秒、85ミリ秒、90ミリ秒、95ミリ秒、100ミリ秒、200ミリ秒、300ミリ秒、400ミリ秒、500ミリ秒、600ミリ秒、700ミリ秒、800ミリ秒、900ミリ秒、1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒、8秒、9秒または10秒ごとに少なくとも1回、前記フラグメンテーションデバイスを前記第1の動作モードと前記第2の動作モードとの間で切り換えるように配置および適合される、請求項79、80または81のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項83】
イオン源をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項84】
前記イオン源が、(i)エレクトロスプレーイオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザ脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコンを用いた脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝突(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル−63放射性イオン源、および(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源からなる群から選択される請求項83に記載の質量分析計。
【請求項85】
前記イオン源が、パルス化または連続イオン源を含む請求項83または84に記載の質量分析計。
【請求項86】
前記フラグメンテーションデバイスの下流に配置された質量分析器をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項87】
前記質量分析器が、(i)フーリエ変換(「FT」)質量分析器、(ii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析器、(iii)飛行時間(「TOF」)質量分析器、(iv)直交加速度飛行時間(「oaTOF」)質量分析器、(v)軸方向加速度飛行時間質量分析器、(vi)扇形磁場質量分析計、(vii)ポールまたは3D四重極質量分析器、(viii)2Dまたは直線四重極質量分析器、(ix)ペニングトラップ質量分析器、(x)イオントラップ質量分析器、(xi)フーリエ変換オービトラップ、(xii)静電フーリエ変換質量分析計、および(xiii)四重極質量分析器からなる群から選択される請求項86に記載の質量分析計。
【請求項88】
前記イオン移動度分光計またはセパレータの上流に配置された1つ以上の質量もしくは質量対電荷比フィルタおよび/または分析器をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載の質量分析計。
【請求項89】
前記1つ以上の質量もしくは質量対電荷比フィルタおよび/または分析器が、(i)四重極質量フィルタまたは分析器、(ii)ウィーンフィルタ、(iii)扇形磁場質量フィルタまたは分析器、(iv)速度フィルタ、および(v)イオンゲートからなる群から選択される請求項88に記載の質量分析計。
【請求項90】
質量分析の方法であって、
イオン移動度分光計またはセパレータにおいて、イオンを、そのイオン移動度にしたがって分離するステップと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1の運動エネルギーE1を得るよう加速するステップと、
時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なる運動エネルギーE2を得るように加速するステップと、
フラグメンテーションデバイスにおいて前記第1および第2のイオンをフラグメンテーションするステップと
を含む方法。
【請求項91】
質量分析の方法であって、
イオン移動度分光計またはセパレータにおいて、イオンを、そのイオン移動度にしたがって分離するステップと、
時刻t1に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第1のイオンを第1のポテンシャル差V1を通して加速するステップと、
時刻t1より後の第2の時刻t2に前記イオン移動度分光計またはセパレータから現れる第2の異なるイオンを第2の異なるポテンシャル差V2を通して加速するステップと、
フラグメンテーションデバイスにおいて前記第1および第2のイオンをフラグメンテーションするステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−513941(P2008−513941A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531822(P2007−531822)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/GB2005/003543
【国際公開番号】WO2006/030205
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(504142097)マイクロマス ユーケー リミテッド (57)
【Fターム(参考)】