質量分析計
【課題】質量分析の定性および定量能力を大幅に向上させる。
【解決手段】イオンを生成するイオン源と、イオンを蓄積、解離するリニアトラップ部310と、飛行時間によりイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析部とを具備し、リニアトラップ部310から排出されたイオンの運動エネルギーを低減し、連続化するためのバッファガスが導入され、内部に多重極電場を生成する複数の電極が配置される衝突ダンピング領域を、リニアトラップ部310と飛行時間型質量分析部との間に有し、リニアトラップ部310から衝突ダンピング領域へイオン入射可能、または入射不可能とするイオン透過調整機構をリニアトラップ部310と衝突ダンピング領域との間に有する。
【解決手段】イオンを生成するイオン源と、イオンを蓄積、解離するリニアトラップ部310と、飛行時間によりイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析部とを具備し、リニアトラップ部310から排出されたイオンの運動エネルギーを低減し、連続化するためのバッファガスが導入され、内部に多重極電場を生成する複数の電極が配置される衝突ダンピング領域を、リニアトラップ部310と飛行時間型質量分析部との間に有し、リニアトラップ部310から衝突ダンピング領域へイオン入射可能、または入射不可能とするイオン透過調整機構をリニアトラップ部310と衝突ダンピング領域との間に有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオーム解析などに用いられる質量分析計において、高感度、高質量精度、MSn分析などが求められている。従来、これらの分析がどのように行なわれたかについて簡単に説明を行う。
【0003】
MSn分析が可能な高感度質量分析法として、四重極イオントラップ質量分析計がある、四重極イオントラップ質量分析計の基本的な動作原理は周知である(例えば、特許文献1参照(従来技術1))。四重極イオントラップはリング電極および1対のエンドキャップ電極よりなるポールトラップや4本の四重極ロッド電極よりなるリニアトラップ部がある。リング電極または四重極ロッド電極間に周波数1MHz程度の高周波電圧を印加することにより、四重極イオントラップ内では、ある質量数以上のイオンが安定条件となり、蓄積することができる。
【0004】
さらに、ポールトラップにおけるMSn分析に関する報告がある(特許文献2参照(従来技術2))。この方式では、イオン源で生成したイオンをポールトラップ内に蓄積し、所望の質量を有する前駆イオンを単離する。イオン単離の後、前駆イオンに共鳴する補助的な交流電圧をエンドキャップ電極間に印加する、これによりイオン軌道を拡大させ、イオントラップに満たされたバッファガスと衝突させることによりイオンを解離する。解離生成イオンはリング電圧を掃引し、順次排出して検出する。前駆イオンの分子構造の違いにより、解離生成イオンは特有なスペクトルパターンを示すため、試料分子のより詳細な構造情報を得ることができる。
【0005】
さらに4本の四重極ロッド電極よりなるリニアトラップ部におけるMSn分析に関する報告がある(特許文献3参照(従来技術3))。ポールトラップが外部生成イオンのトラッピング効率が20%以下であるのに対して、リニアトラップ部はトラッピング効率がほぼ100%という利点がある。この方式では、イオン源で生成したイオンをリニアトラップ部内に蓄積し、所望の質量を有する前駆イオンを単離する。イオン単離の後、前駆イオンに共鳴する補助的な交流電圧を対向する一対の四重極ロッド電極間に印加する。これによりイオン軌道を拡大させ、リニアトラップ部に満たされたバッファガスと衝突させることによりイオンを解離する。解離生成イオンはリング電圧を掃引し、順次排出して検出する。前駆イオンの分子構造の違いにより、解離生成イオンは特有なスペクトルパターンを示すため、試料分子のより詳細な構造情報を得ることができる。従来例2の方式より、外部からのイオン取り込み効率が高いこと、また、スペースチャージの影響を受けにくいことから高感度である。
【0006】
リニアトラップ部を用いて高質量精度かつMSn分析を可能とする方式に関する報告がある(特許文献4参照(従来技術4))。この方式では、従来技術3と同様にリニアトラップ部内部でイオン単離やイオン解離を繰り返すことにより、MSn分析が可能である。直流電圧をリニアトラップ部前後の電極に印加することにより軸方向にリニアトラップ部から、飛行時間型質量分析部の加速領域へとイオンは導入される。イオン導入方向と加速方向とを直交配置とすることにより、加速方向の位置およびエネルギーの広がりを抑えることが出来る。この結果、従来技術3よりも高質量精度が達成可能となっている。
【0007】
また、従来技術4の感度を向上させるための報告がある(特許文献5参照(従来例5))。この方式では、リニアトラップ部を2段並べ、1段目および2段目にそれぞれ蓄積、単離、解離の役割を行わせることにより、従来例4より高感度な分析が可能であると主張している。
【0008】
また、高質量精度かつMS/MS分析を可能とする方式に関する報告がある(非特許文献1参照(従来技術6))。この方式では、四重極質量分析部で質量選択されたイオンを加速して衝突室に導入する。入射したイオンは衝突室中のバッファガスと衝突し、衝突室内で解離する。衝突室は1〜10Pa程度のArガスなどが供給され、ここに多重極電極を配置する。解離したイオンは多重極電界とバッファガス衝突により中心軸付近へ収束された後、飛行時間型質量分析部へ導入され検出される。これにより、MS/MS分析が可能となる。
【0009】
また、従来技術6の感度を向上するための方式に関する記述が特許文献6に記載されている。(特許文献6参照(従来技術7))。この方式では飛行時間型質量分析部の加速電圧印加のタイミングに同期して、衝突室出口の電圧を制御することにより、特定質量数範囲のイオンの感度が向上する効果がある。
【0010】
また、従来技術6の感度を向上させるための方式に関する報告がある(特許文献7参照(従来技術8))。この方式では、四重極ロッドにトラップした特定質量数のイオンを、補助的な交流電圧を用いることにより、軸方向に排出し、衝突室または飛行時間型質量分析部に導入することが可能である。これにより、プリカーサースキャンおよびニュートラルロススキャンのイオン利用効率が上がり、測定モードの感度が大幅に向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第293952号明細書
【特許文献2】米国再発行特許発明第34000号明細書
【特許文献3】米国特許第5420425号明細書
【特許文献4】米国特許第6020586号明細書
【特許文献5】特表2001−526447号公報
【特許文献6】米国特許第6507019号明細書
【特許文献7】米国特許第6504148号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】H.R.Morris, et al., Rapid Communication in Mass Spectrometry, 1996, Vol10, p.889.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1,2,3の方式では、イオン検出時のバッファガスとの衝突に起因するケミカルマスシフト、イオン同士のクーロン反発に起因するスペースチャージによるマスシフトにより、質量精度は数10ppm〜100ppm程度しか得られず、高い質量精度が必要とされる分野には利用できないという課題がある。
【0014】
従来技術4,5のリニアトラップ部−飛行時間型質量分析部の連結システムでは、以下の課題がある。リニアトラップ部から飛行時間型質量分析部へのイオン排出時間は、その間、他の測定が中断するため、イオンの利用効率(Duty Cycle)、ひいては感度を低下させる。このようなDuty Cycleの低下を避けるためには、リニアトラップ部から飛行時間型質量分析部へのイオン排出時間を低減する必要がある。これにはリニアトラップ部からのイオンの排出電位を大きくする必要がある。大きな排出電位を用いると飛行時間型質量分析部の加速方向のエネルギー広がりが大きくなり、その結果、質量分解能が低下する問題がある。つまり、従来例4,5の方式では感度と分解能が両立しない課題がある。
【0015】
従来技術6,7,8の方式では、MSn(n≧3)分析が不可能であり、高質量分子イオンの同定には不十分である。また、衝突室に入った後、解離したイオンがさらに解離し、これがさらに解離するといったように、イオンの解離が多段に進行し、解離生成イオンから元のイオン構造を予想するのが難しい場合があるという課題がある。
【0016】
以上のように従来技術では、高感度かつ高質量精度かつMSn(n≧3)分析が可能な質量分析計は不可能であった。
【0017】
本発明の目的は、高感度かつ高質量精度かつ、MSn(n≧3)分析が可能な質量分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の質量分析計は、イオンを生成するイオン源と、イオンを蓄積、解離するリニアトラップ部と、飛行時間によりイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析部とを具備し、リニアトラップ部から排出されたイオンが飛行時間型質量分析部に導入される際の運動エネルギーを低減し、連続化するための衝突ダンピング部を設ける。衝突ダンピング部には、バッファガスを導入し、内部にイオンをガイドし、収束する多重極電場を生成する複数の電極を配置する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、1回の測定で広い質量数範囲を測定でき高感度かつ高質量精度かつMSn分析が可能な質量分析計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した大気圧イオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計の構成を中央部で断面にした状態で示す概念図。
【図2】4重極リニアイオントラップのロッド電極16への電圧印加方法(公知技術)の概要を説明するための図。
【図3】(A)は本発明および従来技術におけるリニアトラップ部における質量数10000のイオンに対するイオン軌道シミュレーション結果を示す図、(B)は図1の飛行時間型質量分析部内に表示した座標軸のz方向座標でのイオンの位置の時間変化を示す図。
【図4】入口側エンドキャップ電極とロッド電極のオフセット間の電位差を排出電圧と定義した場合の排出電圧に対するリニアトラップ部内のイオン排出時間を示す図。
【図5】飛行時間型質量分析部のx軸方向の排出電圧に対するエネルギー広がりの標準偏差を従来方式と本発明とを対比して示す図。
【図6】飛行時間型質量分析部のシグナル検出にTDCを用いた場合の排出時間に対するダイナミックレンジを従来方式と本発明とを対比して示す図。
【図7】衝突ダンピング部320のバッファガスをヘリウム(He)またはアルゴン(Ar)とした場合の多重極電極にクアドロポールを用いた場合の衝突ダンピング部の透過効率を示す図。
【図8】(A)は、バッファガスとしてHeを使用した場合の衝突ダンピング部終端でのイオンのr方向(図1に示した座標軸参照)のビーム径を長さ×圧力をパラメータとして示す図、(B)および(C)は、同じく、r方向およびz方向(図1に示した座標軸参照)の運動エネルギーを長さ×圧力をパラメータとして示す図。
【図9】リニアトラップ部310からイオンが排出され衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400に導入される排出イオンの測定結果を示す図。
【図10】本発明を用いてMS/MS測定を行う場合の測定シーケンスを示す図。
【図11】(A)は通常のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(B)はレセルピンイオン(609amu)を単離した後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(C)はレセルピンイオンから解離したイオンのMS2分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(D)はフラグメントイオンのうち448amuのイオンを単離後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(E)は448amuのイオンを解離した後のMS3分析による測定結果の質量スペクトルを示す図。
【図12】本発明を適用したマトリックス支援レーザーイオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計を中央部で断面にした状態で示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
(実施例1)
図1は、本発明を適用した大気圧イオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計の構成を中央部で断面にした状態で示す概念図である。
【0022】
1は大気圧イオン源であり、例えば、エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン源、大気圧光イオン源、あるいは、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン源である。大気圧イオン源1で生成されたイオンは細孔2を通り、ロータリーポンプ3で排気された第1差動排気部100へと導入される。第1差動排気部100の圧力は100〜500Pa程度である。
【0023】
その後、イオンは、細孔4を通り、ターボ分子ポンプ5で排気された第2差動排気部200へと導入される。ここは0.3〜3Pa程度の圧力に維持されており、オクタポールやクアドロポールなどの多重極電極6が配置されている。この多重極電極には交互に位相を反転させた周波数1MHz程度、電圧振幅数100Vの高周波電圧が印加されており、この中でイオンは軸中心付近へ収束されるため、高い透過効率でイオンを輸送できる。
【0024】
オクタポールなどの多重極電極6で収束されたイオンは細孔7を通過し、第3差動排気部300に導入される。ゲート電極17、入口側エンドキャップ電極40の細孔を通り入口側エンドキャップ電極40、出口側エンドキャップ電極42、およびロッド電極16a,16bにより形成されたリニアトラップ部310に導入される。ロッド電極16は、図では2本しか示されていないが、4重極リニアトラップ部である場合には、図2示すように、ロッド電極16c,16dが備えられる。ロッド電極16は双曲面ロッドまたはそれを近似した丸棒ロッド、または平板、角棒など様々な形状がある。
【0025】
図2は4重極リニアイオントラップのロッド電極16への電圧印加方法(公知技術)の概要を説明するための図である。ロッド電極用電源35はトラッピング用電源56と補助交流電圧用電源57より構成する。トラッピング用電源56はロッド電極16の交互に位相の反転した周波数1MHz、振幅0〜数kVの高周波電圧を印加する。また、補助交流電源57は、向かい合った一対のロッド電極間(16a、16c間)に周波数1〜500kHz、振幅0〜数10Vの高周波電圧を印加する。向かい合った一対のロッド電極間に印加される電圧には、直流のオフセット電圧を加えることが可能である。
【0026】
第3差動排気部300は、ターボ分子ポンプ8が連続運転されて、所定の真空度が維持されており、この中にリニアトラップ部310および衝突ダンピング部320が配置される。リニアトラップ部310は絶縁スペーサー41により第3差動排気部300とは遮蔽される。リニアトラップ部310内には、ボンベ60から、開閉弁61および制御弁62を介してバッファガス(ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)など)が供給される。供給されるバッファガスの流量はフローコントローラー19により制御弁62を操作して制御される。リニアトラップ部310内部の圧力は一定に保たれている(Heの場合:0.03〜0.3Pa、Arの場合:0.005〜0.05Pa)。リニアトラップ部310内部のバッファガス圧力が高いほどトラッピング効率は高い。一方、バッファガス圧力が高すぎると、前駆イオン単離の際に質量分解能が低下することから、HeやArを用いた場合は、上記の圧力がリニアトラップ部圧力として最適である。イオンは当該リニアトラップ部310において、後述する方式により、イオン単離、イオン解離等の諸操作が行われ、MSn分析が可能である。
【0027】
リニアトラップ部310内部でこれらの諸動作が行われた後、イオンは出口側エンドキャップ電極42の細孔、イオンストップ電極18の細孔および衝突ダンピング部320の入口電極15の細孔を通過し、衝突ダンピング部320へと排出される。衝突ダンピング部320も、また、絶縁スペーサー21により第3差動排気部300とは遮蔽される。衝突ダンピング部320には、長さ0.02〜0.2m程度のオクタポール、ヘキサポールやクアドロポールなどの多重極電極20が配置されている。これらの多重極電極20は、リニアトラップ部から導入されたイオンをガイドし、収束する機能を持つ。多重極電極20としては、低い振幅電圧でビーム幅を最も小さく絞ることのできるクアドロポール電極が一番有利である。また、衝突ダンピング部320にも、ボンベ60から、開閉弁61および制御弁63を介してバッファガス(ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)など)が供給される。供給されるバッファガスの流量はフローコントローラー19により制御弁63を操作して制御される。導入されたバッファガスはイオンの運動エネルギーを低減し、イオンビームの流れを連続化する機能を持つ。
【0028】
衝突ダンピング部320と飛行時間型質量分析部400との間の細孔30は、飛行時間型質量分析部400での真空度を維持するため、0.3〜0.8mmφ程度の小孔が用いられる。なお、他の細孔2,4,7および各電極の細孔はそれほど厳密に管理されるものである必要は無く、例えば、2mmφ程度で良い。
【0029】
衝突ダンピング部320から排出されたイオンは、デフレクター22、収束レンズ23などにより、位置、エネルギーを偏向、収束され、イオン進行方向43のように進行し、押し出し電極25および引き出し電極26よりなる加速部410へ導入される。加速部410に導入されたイオンは、押し出し電極25および引き出し電極26に1〜10kHz程度の周期で電圧印加を行うことにより直交方向へ加速が行われる。イオンの加速部410への入射エネルギーと電極による加速によって得られるエネルギーにより、イオンの進行方向44は元のイオンの進行方向43に対し、70〜90°程度に偏向される。進行方向44の方向に加速されたイオンは、リフレクトロン27で折り返された後、イオン進行方向45のようにマルチチャンネルプレート(MCP)などからなる検出器28に到達し検出される。イオンは質量により飛行時間が異なるため、飛行時間と信号強度から質量スペクトルがコントローラー31に記録される。29はターボ分子ポンプであり、飛行時間型質量分析部400での真空度を維持するため、連続運転される。
【0030】
ここで、ロッド電極16に印加する電圧の電源35、エンドキャップ電極40および42に印加する電圧の電源38、押し出し電極25および引き出し電極26に印加する加速電圧供給電源34、ゲート電極17に印加する電圧の電源36およびイオンストップ電極18に印加する電圧の電源37に印加する電圧はコントローラー31により制御される。
【0031】
以下、従来技術4あるいは5で不可能であった高感度、高質量精度、広ダイナミックレンジが、本発明により同時に実現可能である理由を説明する。
【0032】
図3(A)は本発明におけるリニアトラップ部310における質量数10000のイオンに対するイオン軌道シミュレーション結果を示す図である。ロッド電極16のオフセット電圧(図2に示すVoffset)を0V、入口側エンドキャップ電極40の電圧を25V、出口側エンドキャップ電極42の電圧を−25Vに設定した。図に示すように、リニアトラップ部310の中心部にトラップされたイオンが出口側エンドキャップ電極42の方に流れてくる様子が観察される。図3(B)は、図1の飛行時間型質量分析部400内に表示した座標軸のz方向座標でのリニアトラップ部310内のイオンの位置の時間変化を示す図である。時刻0では、すべてのイオンがリニアトラップ部310の中心部に集まっているが、時間とともに、出口側エンドキャップ電極42の方に流れて来て、ほぼ5.5msから10ms程度で、全てのイオンが排出されている。ここで、排出時間にばらつきがあるのは、イオンの初期位置および初期速度がばらついていることによる。なお、図3(A),(B)に示す特性は、従来のリニアトラップ部においても同じである。
【0033】
図4は、入口側エンドキャップ電極40とロッド電極16のオフセット間の電位差を排出電圧と定義し、また、出口側エンドキャップ電極42とロッド電極16間との電位差が排出電圧と等しいと仮定した条件での排出電圧に対するリニアトラップ部310から飛行時間型質量分析部400への90%イオン排出時間を示す図である。排出電圧が大きいほど排出時間は短くなる。リニアトラップ部310内のイオン排出中は他の測定が行えないため、イオン排出時間が短いほうがDuty Cycleは高くなる。
【0034】
図5は、同じ条件で、イオンがリニアトラップ部310から飛行時間型質量分析部400へ排出されたときの、排出電圧に対する飛行時間型質量分析部400でのx軸方向(図1に示した座標軸参照)のエネルギー広がりの標準偏差を示す図である。従来技術による標準偏差は菱形で示すように、排出電圧が5Vを超えると急速にエネルギー広がりが大きくなる。これに対し、本発明では黒の四角で示すように、排出電圧が50V程度と大きくなってもエネルギー広がりはほとんど変わらない。従来技術では、リニアトラップ部310と飛行時間型質量分析部400が直結する。そのため、飛行時間型質量分析部400に導入されたイオンは、排出電圧を上げると、飛行時間型質量分析部400内でのエネルギー広がりが大きくなる。これに対して、本発明では、バッファガスによって運動エネルギーが低減され、流れが連続化されたイオンが衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400へ導入されるから、エネルギー広がりはほとんど変わらない。リニアトラップ部310から排出されたイオンの加速方向(x方向)の運動エネルギーの広がりは、飛行時間型質量分析部400の質量分解能に悪影響を与える。つまり、従来方式ではDuty Cycleと質量分解能を両立させることは出来ない。一方、本発明では、衝突ダンピング部320の効果により、リニアトラップ部310の排出電圧に依らず飛行時間型質量分析部でのエネルギー広がりはほぼ一定である。このため、イオンを、高い排出電圧を用いてリニアトラップ部310から衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400へと短時間で輸送することにより、高Dutyかつ高質量精度の分析が可能である。
【0035】
また、飛行時間型質量分析部400のシグナル検出には広くTDC(Time-to-Digital Converter)が用いられている。この場合、飛行時間型質量分析部400の加速部に複数の同一質量数のイオンが到達すると数え落としが発生する。イオン蓄積、単離、解離の一連の操作が20ms、飛行時間型質量分析部測定が2kHzで、TDCを用いた場合のダイナミックレンジを図6に示す。従来技術では、長い排出時間を用いないとダイナミックレンジは確保できない。さらに、排出時間を短くすると感度は低下する。本発明では後述する衝突ダンピング部320の効果によりイオンビームが連続化できるため、排出時間を短くしても広いダイナミックレンジの測定が可能であり、同時に感度も維持される。TDCの例を示したがADC(Analog-to-Digital Converter)を用いた場合でのこの効果は同様である。
【0036】
以下、衝突ダンピング部320の効果について、さらに、説明する。先にも述べたように、衝突ダンピング部320は、リニアトラップ部310と同様に、ターボ分子ポンプ8が連続運転されて所定の真空度が維持される第3差動排気部300に配置され、且つ、絶縁スペーサー21により第3差動排気部300とは遮蔽される。それと同時に、ボンベ60、開閉弁61、制御弁63およびフローコントローラー19によりバッファガスHeやArなどが供給され、衝突ダンピング部320の圧力は一定に保たれている。
【0037】
図7に、衝突ダンピング部320の多重極電極20にクアドロポールを用いた場合の衝突ダンピング部320の透過効率を示す。横軸にダンピングのパラメータとして一般的に用いられる圧力と長さの積を示す。このときの衝突ダンピング部320の長さは0.08m、衝突ダンピング部320と飛行時間型質量分析部400との間の細孔30は0.4mmφであった。衝突ダンピング部320の長さと圧力が、バッファガスがHeであれば0.2Pa・m〜5Pa・m、バッファガスがArであれば0.07Pa・m〜2Pa・mとすることで高透過率が得られることが図7により分かる。
【0038】
図8(A)は、バッファガスとしてHeを使用した場合の衝突ダンピング部320の終端でのイオンのr方向(図1に示した座標軸参照)のビーム径を長さ×圧力をパラメータとして示す図、(B)および(C)は、同じく、r方向およびz方向(図1に示した座標軸参照)の運動エネルギーを長さ×圧力をパラメータとして示す図である。シミュレーションでは、0.3Pa・mを超えるとビーム径が収束し、また運動エネルギーも小さくなる。ダンピングが小さすぎる(Heの場合、0.2Pa・m以下)とイオンは十分に減速されず、後部の細孔30(0.4mmφ)を通過できないことから、感度が低下したり、加速方向(x方向)の運動エネルギーが大きいことから分解能が低下したりする問題がある。また、ダンピングが大きすぎると衝突ダンピング室のイオン滞在時間が長くなり、そこでの反応や散乱によりイオンの透過率は低下してしまうと推測される。
【0039】
以上、図7、8の説明から、衝突ダンピング室の長さと圧力が、バッファガスがHeであれば0.2Pa・m〜5Pa・m、バッファガスがArであれば0.07Pa・m〜2Pa・mが高透過率であるといえる。なお、上述した圧力最適化の実施例ではHe、およびArのみが試みられているが、ガス衝突の効果はガスの平均分子量に依存するため、窒素N2(分子量32)および空気Air(平均分子量32.8)の場合は、ほぼAr(分子量40)にほぼ等しいと考えられる。なお、これらの混合気体を用いることも可能である。バッファガスとしては、反応性が低いHe、Arが適している。
【0040】
図9は、リニアトラップ部310からイオンが排出され衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400に導入される排出イオンの測定結果を示す図である。図は、サンプルとして、レセルピン/メタノール溶液を分析した結果である。0.5ms付近をピークとして、0.1〜数msまでイオンは排出される。衝突ダンピング部320のこのような特性から、リニアトラップ部310からイオンが排出されるとき以外は、不要イオンの衝突ダンピング部320への進入を阻止することが有効であり、このためには、例えば、イオンストップ電極18に、イオン排出時以外は正極性の数10〜数100Vの電圧(正イオン測定時)を印加するのが良い。
【0041】
図10は、本発明を用いてMS/MS測定を行う場合の測定シーケンスを示す図である。測定シーケンスの動作には蓄積、単離、解離および排出の4つのタイミングがある。ロッド電極16用電源35(補助交流電源57およびトラッピング電源56よりなる)、エンドキャップ電極40用電源38、加速電圧(電極25−26間の電圧)供給電源34およびゲート電極17用電源36、イオンストップ電極18用電源37に印加する電圧はコントローラー31により制御する。また、検出器28により検出されるイオン強度がコントローラー31に送られ質量スペクトルデータとして記録される。
【0042】
以下、正イオンの場合の電圧印加方法について説明する。なお、負イオンの場合は逆極性の電圧を印加すれば良い。通常の質量スペクトル(MS1)を得るには、上記説明した測定シーケンスの中で蓄積(イオン取り込み)、単離、解離、排出(イオン排出)を、図に示す手順とおりに行えばよい。MSn(n≧3)測定の場合には単離、解離のプロセスをMS/MS測定シーケンスの解離と排出の間に繰り返せば良い。
【0043】
イオン蓄積時にはロッド電極用電源35により生成する交流電圧(周波数1MHz程度、振幅0〜10kV)がロッド電極16に印加される。この間、イオン源1で生成され、各部分を通過したイオンはリニアトラップ部310内にため込まれていく。イオンと蓄積時間の典型的な値は1ms〜100ms程度である。蓄積時間が長すぎるとリニアトラップ部310内でのイオンのスペースチャージと呼ばれる現象から電界が乱れるため、これに至る前に蓄積を終了する。蓄積時、ゲート電極17に負の電圧を印加し、イオンが通過可能な状態とする。一方、イオンストップ電極18には数10V〜数100Vの正の電圧を印加してリニアトラップ部310内に導入されたイオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。
【0044】
次に、所望の前駆イオンの単離が行なわれる。例えば一対のロッド電極間(16a、16c間)に所望イオンの共鳴周波数を除いた高周波成分を重畳した電圧を印加することにより、それ以外のイオンを外部に排出して特定イオン質量範囲のイオンのみをトラップ内に残留させることができる。この外にもイオン単離の方式は様々であるが、ある質量範囲の前駆イオンのみをリニアトラップ部310内に残留させる目的においては同じである。イオン単離に要する典型的な時間は1ms〜10ms程度である。このときも、イオンストップ電極18には数10V〜数1000Vの正の電圧を印加して、イオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。
【0045】
次に単離された前駆イオンの解離が行なわれる。前駆イオンに共鳴する補助交流電圧を例えば一対のロッド電極間(16a、16c間)に印加することにより、前駆イオンの軌道が広がる。これによりイオンの内部温度は上昇し、最終的に解離する。イオン解離に要する典型的な時間は1ms〜30msである。このときも、イオンストップ電極18には数10V〜数100Vの正の電圧を印加してリニアトラップ部310内のイオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。
【0046】
最後にイオン排出が行なわれる。イオン排出はリニアトラップ部310内でz方向に電界がかかるように直流電圧を入口側エンドキャップ電極40およびロッド電極16、出口側エンドキャップ電極42に印加する。リニアトラップ部310からの排出に要する典型的な時間は0.1ms〜2msである。リニアトラップ部310内から排出されたイオンは2ms以内にすべて衝突ダンピング部320へ導入される。衝突ダンピング部320の後部では、数〜数10msのイオン広がりを持ってイオンは排出される。イオンストップ電極18には、−300〜0Vの電圧が印加され、リニアトラップ部310からのイオン排出時には排出されたイオンが衝突ダンピング部320の入口電極15の細孔に効率的に入射されるように電圧を印加する。
【0047】
先にも述べたように、イオン排出時以外にはイオンストップ電極18には数10V〜数100Vの正の電圧を印加して、リニアトラップ部310からのイオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。何故なら、それを行わない場合には、蓄積時、単離時、解離時などに排出される本来測定されるべきでは無いノイズイオンが衝突ダンピング部320に導入される。それらのノイズイオンは、図9の結果からわかるように、レセルピンイオンと同様、数ms程度衝突ダンピング部320に滞在すると考えられるため、測定されるべきイオンと測定されるべきでは無いイオンとが混合されてしまい、ノイズの大きい質量スペクトルを結果として与えることとなる。これを避けるためには、排出前にノイズイオンが排出されるまでの待ち時間を設定する必要がある。この待ち時間は単位時間あたりの測定繰り返し回数(Duty Cycle)を低下させ、ひいては感度を低下させる原因となる。イオンストップ電極18の電圧を、イオン排出時にはイオンを通過する電圧に、それ以外ではイオンを通過しない電圧に設定することにより、待ち時間の設定が不要になり、Duty Cycleの低下を防ぐことができる。
【0048】
本発明では、リニアトラップ部310は衝突ダンピング部320から飛行時間型質量分析部400への排出の完了を待たずに次の蓄積を開始することができる。すなわち、リニアトラップ部310は、衝突ダンピング部320にイオンを移した後は、リニアトラップ部310が衝突ダンピング部320と機能的に分離されるから、新しい測定試料のイオンを導入して良い。
【0049】
衝突ダンピング部320から排出され、飛行時間型質量分析部400に導入されたイオンは、リニアトラップ部310の動作と同期しない1〜10kHz程度で動作する加速部410により加速が行われ、検出器28で検出される。検出された信号は、コントローラー31に質量スペクトルとして記録される。イオンストップ電極18の働きにより、検出されたイオンは、実質上、すべて、上記MS/MSの結果として生成した解離生成イオンである。
【0050】
図11は、本発明を実施した質量分析計において得られたレセルピン/メタノール溶液のMSn分析結果を示す図である。図11(A)は通常のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。レセルピンイオン(609amu)の他、何本かのノイズイオンのピークが確認できる。図11(B)はレセルピンイオン(609amu)を単離した後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。レセルピンイオン以外のイオンがリニアトラップ部310の外へ排出され、飛行時間型質量分析部400に導入されないから、ノイズはほとんど表れていない。図11(C)はレセルピンイオンから解離したイオンのMS2分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。397amuおよび448amuのイオンの他いくつかの解離生成イオンが検出されている。図11(D)はフラグメントイオンのうち448amuのイオンを単離後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。448amuのイオン以外はトラップの外へ排出されている。図11(E)は、448amuのイオンを解離した後のMS3分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。フラグメントイオンである196amuおよび236amuのイオンが見られる。図示しないが、これらのイオンを更に単離、分解することも可能である。このような高度なMSn分析により、通常の質量分析やMS/MS分析では得られなかった試料イオンのより詳細な構造情報が得られ、高精度な分析が可能となる。なお、レセルピンイオンに関して、質量分解能5000以上、質量精度10ppm以内を達成した。
【0051】
上述したように、イオンストップ電極18の電圧を、イオン排出時にはイオンを通過する電圧に、それ以外ではイオンを通過しない電圧に設定することにより、待ち時間の設定が不要になり、Duty Cycleの低下を防ぐことができるが、これと同様の効果は、他の構成によっても実現できる。例えば、リニアトラップ部310のロッド電極16のオフセット電圧を変化させることにより、ほぼ同様の効果を得ることも可能である。すなわち、図10に示すシーケンスの蓄積、単離、解離および排出の4つのタイミングの内、蓄積、単離および解離時にはロッド電極16のオフセット電圧を衝突ダンピング部320の多重極電極20の電圧よりも低めに設定し(正イオン測定時)、イオントラップぶ310から衝突ダンピング部320へのイオン入射が起こらないようにする。また、排出時はリニアトラップのロッド電極16のオフセット電圧を衝突ダンピング部320の多重極電極20の電圧よりも高めに設定し(正イオン測定時)、イオンが入射されるようにする。イオンストップ電極18による制御の方が、簡便であるため、上述の実施例では、イオンストップ電極18によるリニアトラップ部310と衝突ダンピング部320間のイオンの開閉操作として説明した。
【0052】
(実施例2)
図12は、本発明を適用したマトリックス支援レーザーイオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計を中央部で断面にした状態で示す概念図である。図1と対比して容易に分かるように、実施例1では、サンプルのイオン化が大気圧の下で行われて質量分析計に導入されたのに対して、実施例2では、サンプルのイオン化が、0.05〜5Pa程度の真空度のイオン化室50により行なわれる点において異なる。イオン化室50はターボ分子ポンプ5で排気されて、0.05〜5Pa程度の真空度に維持される。イオン化室50には、サンプルプレート53が配置される。サンプルプレート53は、イオン化するサンプルを溶液化したサンプル溶液とマトリックス溶液と混合、滴下して乾燥させたサンプル面を有する。イオン化室50には、細孔56および57が設けられる。細孔56を挟んで大気側にレーザー源51が設けられ、イオン化室50内に反射ミラー52が設けられる。また、細孔57を挟んで大気側にCCDカメラ55が設けられ、イオン化室50内に反射ミラー54が設けられる。レーザー源51およびCCDカメラ55は、ともに、サンプルプレート53のサンプル面に対して焦点が合わされる。例えば、窒素レーザーなどのレーザー源51から、反射ミラー52を介して、サンプルプレート53のサンプル面に対してイオン化用レーザーが照射される。レーザーの照射位置が正しいかどうかは、反射ミラー54を介して、サンプルプレート53のサンプル面をCCDカメラ55でモニターして確認する。図には示さなかったが、サンプルプレート53の上下、左右の位置等の調整手段が設けられ、サンプルプレート53のサンプル面に対してイオン化用レーザーが照射されるように調整される。レーザーの照射により生成されたイオンは多重極電極6によりリニアトラップ部310へ輸送される。第3差動排気部300にイオンが導入された後の処理は、実施例1と同じである。
【0053】
(その他の実施例)
また、SELDIやDIOSなど他のレーザーイオン源を用いた場合でも本発明は同様に活用できる。
【符号の説明】
【0054】
1…大気圧イオン源、2…細孔、3…ロータリーポンプ、4…細孔、5…ターボ分子ポンプ、6…多重極電極、7…細孔、8…ターボ分子ポンプ、9…ゲート電極、13…四重極ロッド電極、15…衝突ダンピング部入口電極、18…イオンストップ電極、19…バッファガス供給機構、20…多重極電極、21…スペーサー、22…デフレクター、23…収束レンズ、25…押し出し電極、26…引き出し電極、27…リフレクトロン、28…検出器、29…ターボ分子ポンプ、30…細孔、31…コントローラー、34…加速電圧電源、35…ロッド電極用電源、36…ゲート電極用電源、37…イオンストップ電極用電源、40…入口側エンドキャップ電極、41…絶縁スペーサー、42…出口側エンドキャップ電極、43…イオン進行方向、44…イオン進行方向、45…イオン進行方向、50…マトリックス支援レーザーイオン源、51…イオン化用レーザー、52…反射ミラー、53…サンプルプレート、54…反射ミラー、55…CCDカメラ、56…トラッピング用電源、57…補助交流電源、60…ボンベ、61…バルブ、100…第1差動排気部、200…第2差動排気部、300…第3差動排気部、310…リニアトラップ部、320…衝突ダンピング部、400…飛行時間型質量分析部、410…加速部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオーム解析などに用いられる質量分析計において、高感度、高質量精度、MSn分析などが求められている。従来、これらの分析がどのように行なわれたかについて簡単に説明を行う。
【0003】
MSn分析が可能な高感度質量分析法として、四重極イオントラップ質量分析計がある、四重極イオントラップ質量分析計の基本的な動作原理は周知である(例えば、特許文献1参照(従来技術1))。四重極イオントラップはリング電極および1対のエンドキャップ電極よりなるポールトラップや4本の四重極ロッド電極よりなるリニアトラップ部がある。リング電極または四重極ロッド電極間に周波数1MHz程度の高周波電圧を印加することにより、四重極イオントラップ内では、ある質量数以上のイオンが安定条件となり、蓄積することができる。
【0004】
さらに、ポールトラップにおけるMSn分析に関する報告がある(特許文献2参照(従来技術2))。この方式では、イオン源で生成したイオンをポールトラップ内に蓄積し、所望の質量を有する前駆イオンを単離する。イオン単離の後、前駆イオンに共鳴する補助的な交流電圧をエンドキャップ電極間に印加する、これによりイオン軌道を拡大させ、イオントラップに満たされたバッファガスと衝突させることによりイオンを解離する。解離生成イオンはリング電圧を掃引し、順次排出して検出する。前駆イオンの分子構造の違いにより、解離生成イオンは特有なスペクトルパターンを示すため、試料分子のより詳細な構造情報を得ることができる。
【0005】
さらに4本の四重極ロッド電極よりなるリニアトラップ部におけるMSn分析に関する報告がある(特許文献3参照(従来技術3))。ポールトラップが外部生成イオンのトラッピング効率が20%以下であるのに対して、リニアトラップ部はトラッピング効率がほぼ100%という利点がある。この方式では、イオン源で生成したイオンをリニアトラップ部内に蓄積し、所望の質量を有する前駆イオンを単離する。イオン単離の後、前駆イオンに共鳴する補助的な交流電圧を対向する一対の四重極ロッド電極間に印加する。これによりイオン軌道を拡大させ、リニアトラップ部に満たされたバッファガスと衝突させることによりイオンを解離する。解離生成イオンはリング電圧を掃引し、順次排出して検出する。前駆イオンの分子構造の違いにより、解離生成イオンは特有なスペクトルパターンを示すため、試料分子のより詳細な構造情報を得ることができる。従来例2の方式より、外部からのイオン取り込み効率が高いこと、また、スペースチャージの影響を受けにくいことから高感度である。
【0006】
リニアトラップ部を用いて高質量精度かつMSn分析を可能とする方式に関する報告がある(特許文献4参照(従来技術4))。この方式では、従来技術3と同様にリニアトラップ部内部でイオン単離やイオン解離を繰り返すことにより、MSn分析が可能である。直流電圧をリニアトラップ部前後の電極に印加することにより軸方向にリニアトラップ部から、飛行時間型質量分析部の加速領域へとイオンは導入される。イオン導入方向と加速方向とを直交配置とすることにより、加速方向の位置およびエネルギーの広がりを抑えることが出来る。この結果、従来技術3よりも高質量精度が達成可能となっている。
【0007】
また、従来技術4の感度を向上させるための報告がある(特許文献5参照(従来例5))。この方式では、リニアトラップ部を2段並べ、1段目および2段目にそれぞれ蓄積、単離、解離の役割を行わせることにより、従来例4より高感度な分析が可能であると主張している。
【0008】
また、高質量精度かつMS/MS分析を可能とする方式に関する報告がある(非特許文献1参照(従来技術6))。この方式では、四重極質量分析部で質量選択されたイオンを加速して衝突室に導入する。入射したイオンは衝突室中のバッファガスと衝突し、衝突室内で解離する。衝突室は1〜10Pa程度のArガスなどが供給され、ここに多重極電極を配置する。解離したイオンは多重極電界とバッファガス衝突により中心軸付近へ収束された後、飛行時間型質量分析部へ導入され検出される。これにより、MS/MS分析が可能となる。
【0009】
また、従来技術6の感度を向上するための方式に関する記述が特許文献6に記載されている。(特許文献6参照(従来技術7))。この方式では飛行時間型質量分析部の加速電圧印加のタイミングに同期して、衝突室出口の電圧を制御することにより、特定質量数範囲のイオンの感度が向上する効果がある。
【0010】
また、従来技術6の感度を向上させるための方式に関する報告がある(特許文献7参照(従来技術8))。この方式では、四重極ロッドにトラップした特定質量数のイオンを、補助的な交流電圧を用いることにより、軸方向に排出し、衝突室または飛行時間型質量分析部に導入することが可能である。これにより、プリカーサースキャンおよびニュートラルロススキャンのイオン利用効率が上がり、測定モードの感度が大幅に向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第293952号明細書
【特許文献2】米国再発行特許発明第34000号明細書
【特許文献3】米国特許第5420425号明細書
【特許文献4】米国特許第6020586号明細書
【特許文献5】特表2001−526447号公報
【特許文献6】米国特許第6507019号明細書
【特許文献7】米国特許第6504148号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】H.R.Morris, et al., Rapid Communication in Mass Spectrometry, 1996, Vol10, p.889.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来技術1,2,3の方式では、イオン検出時のバッファガスとの衝突に起因するケミカルマスシフト、イオン同士のクーロン反発に起因するスペースチャージによるマスシフトにより、質量精度は数10ppm〜100ppm程度しか得られず、高い質量精度が必要とされる分野には利用できないという課題がある。
【0014】
従来技術4,5のリニアトラップ部−飛行時間型質量分析部の連結システムでは、以下の課題がある。リニアトラップ部から飛行時間型質量分析部へのイオン排出時間は、その間、他の測定が中断するため、イオンの利用効率(Duty Cycle)、ひいては感度を低下させる。このようなDuty Cycleの低下を避けるためには、リニアトラップ部から飛行時間型質量分析部へのイオン排出時間を低減する必要がある。これにはリニアトラップ部からのイオンの排出電位を大きくする必要がある。大きな排出電位を用いると飛行時間型質量分析部の加速方向のエネルギー広がりが大きくなり、その結果、質量分解能が低下する問題がある。つまり、従来例4,5の方式では感度と分解能が両立しない課題がある。
【0015】
従来技術6,7,8の方式では、MSn(n≧3)分析が不可能であり、高質量分子イオンの同定には不十分である。また、衝突室に入った後、解離したイオンがさらに解離し、これがさらに解離するといったように、イオンの解離が多段に進行し、解離生成イオンから元のイオン構造を予想するのが難しい場合があるという課題がある。
【0016】
以上のように従来技術では、高感度かつ高質量精度かつMSn(n≧3)分析が可能な質量分析計は不可能であった。
【0017】
本発明の目的は、高感度かつ高質量精度かつ、MSn(n≧3)分析が可能な質量分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の質量分析計は、イオンを生成するイオン源と、イオンを蓄積、解離するリニアトラップ部と、飛行時間によりイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析部とを具備し、リニアトラップ部から排出されたイオンが飛行時間型質量分析部に導入される際の運動エネルギーを低減し、連続化するための衝突ダンピング部を設ける。衝突ダンピング部には、バッファガスを導入し、内部にイオンをガイドし、収束する多重極電場を生成する複数の電極を配置する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、1回の測定で広い質量数範囲を測定でき高感度かつ高質量精度かつMSn分析が可能な質量分析計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した大気圧イオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計の構成を中央部で断面にした状態で示す概念図。
【図2】4重極リニアイオントラップのロッド電極16への電圧印加方法(公知技術)の概要を説明するための図。
【図3】(A)は本発明および従来技術におけるリニアトラップ部における質量数10000のイオンに対するイオン軌道シミュレーション結果を示す図、(B)は図1の飛行時間型質量分析部内に表示した座標軸のz方向座標でのイオンの位置の時間変化を示す図。
【図4】入口側エンドキャップ電極とロッド電極のオフセット間の電位差を排出電圧と定義した場合の排出電圧に対するリニアトラップ部内のイオン排出時間を示す図。
【図5】飛行時間型質量分析部のx軸方向の排出電圧に対するエネルギー広がりの標準偏差を従来方式と本発明とを対比して示す図。
【図6】飛行時間型質量分析部のシグナル検出にTDCを用いた場合の排出時間に対するダイナミックレンジを従来方式と本発明とを対比して示す図。
【図7】衝突ダンピング部320のバッファガスをヘリウム(He)またはアルゴン(Ar)とした場合の多重極電極にクアドロポールを用いた場合の衝突ダンピング部の透過効率を示す図。
【図8】(A)は、バッファガスとしてHeを使用した場合の衝突ダンピング部終端でのイオンのr方向(図1に示した座標軸参照)のビーム径を長さ×圧力をパラメータとして示す図、(B)および(C)は、同じく、r方向およびz方向(図1に示した座標軸参照)の運動エネルギーを長さ×圧力をパラメータとして示す図。
【図9】リニアトラップ部310からイオンが排出され衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400に導入される排出イオンの測定結果を示す図。
【図10】本発明を用いてMS/MS測定を行う場合の測定シーケンスを示す図。
【図11】(A)は通常のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(B)はレセルピンイオン(609amu)を単離した後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(C)はレセルピンイオンから解離したイオンのMS2分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(D)はフラグメントイオンのうち448amuのイオンを単離後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図、(E)は448amuのイオンを解離した後のMS3分析による測定結果の質量スペクトルを示す図。
【図12】本発明を適用したマトリックス支援レーザーイオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計を中央部で断面にした状態で示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
(実施例1)
図1は、本発明を適用した大気圧イオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計の構成を中央部で断面にした状態で示す概念図である。
【0022】
1は大気圧イオン源であり、例えば、エレクトロスプレーイオン源、大気圧化学イオン源、大気圧光イオン源、あるいは、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン源である。大気圧イオン源1で生成されたイオンは細孔2を通り、ロータリーポンプ3で排気された第1差動排気部100へと導入される。第1差動排気部100の圧力は100〜500Pa程度である。
【0023】
その後、イオンは、細孔4を通り、ターボ分子ポンプ5で排気された第2差動排気部200へと導入される。ここは0.3〜3Pa程度の圧力に維持されており、オクタポールやクアドロポールなどの多重極電極6が配置されている。この多重極電極には交互に位相を反転させた周波数1MHz程度、電圧振幅数100Vの高周波電圧が印加されており、この中でイオンは軸中心付近へ収束されるため、高い透過効率でイオンを輸送できる。
【0024】
オクタポールなどの多重極電極6で収束されたイオンは細孔7を通過し、第3差動排気部300に導入される。ゲート電極17、入口側エンドキャップ電極40の細孔を通り入口側エンドキャップ電極40、出口側エンドキャップ電極42、およびロッド電極16a,16bにより形成されたリニアトラップ部310に導入される。ロッド電極16は、図では2本しか示されていないが、4重極リニアトラップ部である場合には、図2示すように、ロッド電極16c,16dが備えられる。ロッド電極16は双曲面ロッドまたはそれを近似した丸棒ロッド、または平板、角棒など様々な形状がある。
【0025】
図2は4重極リニアイオントラップのロッド電極16への電圧印加方法(公知技術)の概要を説明するための図である。ロッド電極用電源35はトラッピング用電源56と補助交流電圧用電源57より構成する。トラッピング用電源56はロッド電極16の交互に位相の反転した周波数1MHz、振幅0〜数kVの高周波電圧を印加する。また、補助交流電源57は、向かい合った一対のロッド電極間(16a、16c間)に周波数1〜500kHz、振幅0〜数10Vの高周波電圧を印加する。向かい合った一対のロッド電極間に印加される電圧には、直流のオフセット電圧を加えることが可能である。
【0026】
第3差動排気部300は、ターボ分子ポンプ8が連続運転されて、所定の真空度が維持されており、この中にリニアトラップ部310および衝突ダンピング部320が配置される。リニアトラップ部310は絶縁スペーサー41により第3差動排気部300とは遮蔽される。リニアトラップ部310内には、ボンベ60から、開閉弁61および制御弁62を介してバッファガス(ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)など)が供給される。供給されるバッファガスの流量はフローコントローラー19により制御弁62を操作して制御される。リニアトラップ部310内部の圧力は一定に保たれている(Heの場合:0.03〜0.3Pa、Arの場合:0.005〜0.05Pa)。リニアトラップ部310内部のバッファガス圧力が高いほどトラッピング効率は高い。一方、バッファガス圧力が高すぎると、前駆イオン単離の際に質量分解能が低下することから、HeやArを用いた場合は、上記の圧力がリニアトラップ部圧力として最適である。イオンは当該リニアトラップ部310において、後述する方式により、イオン単離、イオン解離等の諸操作が行われ、MSn分析が可能である。
【0027】
リニアトラップ部310内部でこれらの諸動作が行われた後、イオンは出口側エンドキャップ電極42の細孔、イオンストップ電極18の細孔および衝突ダンピング部320の入口電極15の細孔を通過し、衝突ダンピング部320へと排出される。衝突ダンピング部320も、また、絶縁スペーサー21により第3差動排気部300とは遮蔽される。衝突ダンピング部320には、長さ0.02〜0.2m程度のオクタポール、ヘキサポールやクアドロポールなどの多重極電極20が配置されている。これらの多重極電極20は、リニアトラップ部から導入されたイオンをガイドし、収束する機能を持つ。多重極電極20としては、低い振幅電圧でビーム幅を最も小さく絞ることのできるクアドロポール電極が一番有利である。また、衝突ダンピング部320にも、ボンベ60から、開閉弁61および制御弁63を介してバッファガス(ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)など)が供給される。供給されるバッファガスの流量はフローコントローラー19により制御弁63を操作して制御される。導入されたバッファガスはイオンの運動エネルギーを低減し、イオンビームの流れを連続化する機能を持つ。
【0028】
衝突ダンピング部320と飛行時間型質量分析部400との間の細孔30は、飛行時間型質量分析部400での真空度を維持するため、0.3〜0.8mmφ程度の小孔が用いられる。なお、他の細孔2,4,7および各電極の細孔はそれほど厳密に管理されるものである必要は無く、例えば、2mmφ程度で良い。
【0029】
衝突ダンピング部320から排出されたイオンは、デフレクター22、収束レンズ23などにより、位置、エネルギーを偏向、収束され、イオン進行方向43のように進行し、押し出し電極25および引き出し電極26よりなる加速部410へ導入される。加速部410に導入されたイオンは、押し出し電極25および引き出し電極26に1〜10kHz程度の周期で電圧印加を行うことにより直交方向へ加速が行われる。イオンの加速部410への入射エネルギーと電極による加速によって得られるエネルギーにより、イオンの進行方向44は元のイオンの進行方向43に対し、70〜90°程度に偏向される。進行方向44の方向に加速されたイオンは、リフレクトロン27で折り返された後、イオン進行方向45のようにマルチチャンネルプレート(MCP)などからなる検出器28に到達し検出される。イオンは質量により飛行時間が異なるため、飛行時間と信号強度から質量スペクトルがコントローラー31に記録される。29はターボ分子ポンプであり、飛行時間型質量分析部400での真空度を維持するため、連続運転される。
【0030】
ここで、ロッド電極16に印加する電圧の電源35、エンドキャップ電極40および42に印加する電圧の電源38、押し出し電極25および引き出し電極26に印加する加速電圧供給電源34、ゲート電極17に印加する電圧の電源36およびイオンストップ電極18に印加する電圧の電源37に印加する電圧はコントローラー31により制御される。
【0031】
以下、従来技術4あるいは5で不可能であった高感度、高質量精度、広ダイナミックレンジが、本発明により同時に実現可能である理由を説明する。
【0032】
図3(A)は本発明におけるリニアトラップ部310における質量数10000のイオンに対するイオン軌道シミュレーション結果を示す図である。ロッド電極16のオフセット電圧(図2に示すVoffset)を0V、入口側エンドキャップ電極40の電圧を25V、出口側エンドキャップ電極42の電圧を−25Vに設定した。図に示すように、リニアトラップ部310の中心部にトラップされたイオンが出口側エンドキャップ電極42の方に流れてくる様子が観察される。図3(B)は、図1の飛行時間型質量分析部400内に表示した座標軸のz方向座標でのリニアトラップ部310内のイオンの位置の時間変化を示す図である。時刻0では、すべてのイオンがリニアトラップ部310の中心部に集まっているが、時間とともに、出口側エンドキャップ電極42の方に流れて来て、ほぼ5.5msから10ms程度で、全てのイオンが排出されている。ここで、排出時間にばらつきがあるのは、イオンの初期位置および初期速度がばらついていることによる。なお、図3(A),(B)に示す特性は、従来のリニアトラップ部においても同じである。
【0033】
図4は、入口側エンドキャップ電極40とロッド電極16のオフセット間の電位差を排出電圧と定義し、また、出口側エンドキャップ電極42とロッド電極16間との電位差が排出電圧と等しいと仮定した条件での排出電圧に対するリニアトラップ部310から飛行時間型質量分析部400への90%イオン排出時間を示す図である。排出電圧が大きいほど排出時間は短くなる。リニアトラップ部310内のイオン排出中は他の測定が行えないため、イオン排出時間が短いほうがDuty Cycleは高くなる。
【0034】
図5は、同じ条件で、イオンがリニアトラップ部310から飛行時間型質量分析部400へ排出されたときの、排出電圧に対する飛行時間型質量分析部400でのx軸方向(図1に示した座標軸参照)のエネルギー広がりの標準偏差を示す図である。従来技術による標準偏差は菱形で示すように、排出電圧が5Vを超えると急速にエネルギー広がりが大きくなる。これに対し、本発明では黒の四角で示すように、排出電圧が50V程度と大きくなってもエネルギー広がりはほとんど変わらない。従来技術では、リニアトラップ部310と飛行時間型質量分析部400が直結する。そのため、飛行時間型質量分析部400に導入されたイオンは、排出電圧を上げると、飛行時間型質量分析部400内でのエネルギー広がりが大きくなる。これに対して、本発明では、バッファガスによって運動エネルギーが低減され、流れが連続化されたイオンが衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400へ導入されるから、エネルギー広がりはほとんど変わらない。リニアトラップ部310から排出されたイオンの加速方向(x方向)の運動エネルギーの広がりは、飛行時間型質量分析部400の質量分解能に悪影響を与える。つまり、従来方式ではDuty Cycleと質量分解能を両立させることは出来ない。一方、本発明では、衝突ダンピング部320の効果により、リニアトラップ部310の排出電圧に依らず飛行時間型質量分析部でのエネルギー広がりはほぼ一定である。このため、イオンを、高い排出電圧を用いてリニアトラップ部310から衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400へと短時間で輸送することにより、高Dutyかつ高質量精度の分析が可能である。
【0035】
また、飛行時間型質量分析部400のシグナル検出には広くTDC(Time-to-Digital Converter)が用いられている。この場合、飛行時間型質量分析部400の加速部に複数の同一質量数のイオンが到達すると数え落としが発生する。イオン蓄積、単離、解離の一連の操作が20ms、飛行時間型質量分析部測定が2kHzで、TDCを用いた場合のダイナミックレンジを図6に示す。従来技術では、長い排出時間を用いないとダイナミックレンジは確保できない。さらに、排出時間を短くすると感度は低下する。本発明では後述する衝突ダンピング部320の効果によりイオンビームが連続化できるため、排出時間を短くしても広いダイナミックレンジの測定が可能であり、同時に感度も維持される。TDCの例を示したがADC(Analog-to-Digital Converter)を用いた場合でのこの効果は同様である。
【0036】
以下、衝突ダンピング部320の効果について、さらに、説明する。先にも述べたように、衝突ダンピング部320は、リニアトラップ部310と同様に、ターボ分子ポンプ8が連続運転されて所定の真空度が維持される第3差動排気部300に配置され、且つ、絶縁スペーサー21により第3差動排気部300とは遮蔽される。それと同時に、ボンベ60、開閉弁61、制御弁63およびフローコントローラー19によりバッファガスHeやArなどが供給され、衝突ダンピング部320の圧力は一定に保たれている。
【0037】
図7に、衝突ダンピング部320の多重極電極20にクアドロポールを用いた場合の衝突ダンピング部320の透過効率を示す。横軸にダンピングのパラメータとして一般的に用いられる圧力と長さの積を示す。このときの衝突ダンピング部320の長さは0.08m、衝突ダンピング部320と飛行時間型質量分析部400との間の細孔30は0.4mmφであった。衝突ダンピング部320の長さと圧力が、バッファガスがHeであれば0.2Pa・m〜5Pa・m、バッファガスがArであれば0.07Pa・m〜2Pa・mとすることで高透過率が得られることが図7により分かる。
【0038】
図8(A)は、バッファガスとしてHeを使用した場合の衝突ダンピング部320の終端でのイオンのr方向(図1に示した座標軸参照)のビーム径を長さ×圧力をパラメータとして示す図、(B)および(C)は、同じく、r方向およびz方向(図1に示した座標軸参照)の運動エネルギーを長さ×圧力をパラメータとして示す図である。シミュレーションでは、0.3Pa・mを超えるとビーム径が収束し、また運動エネルギーも小さくなる。ダンピングが小さすぎる(Heの場合、0.2Pa・m以下)とイオンは十分に減速されず、後部の細孔30(0.4mmφ)を通過できないことから、感度が低下したり、加速方向(x方向)の運動エネルギーが大きいことから分解能が低下したりする問題がある。また、ダンピングが大きすぎると衝突ダンピング室のイオン滞在時間が長くなり、そこでの反応や散乱によりイオンの透過率は低下してしまうと推測される。
【0039】
以上、図7、8の説明から、衝突ダンピング室の長さと圧力が、バッファガスがHeであれば0.2Pa・m〜5Pa・m、バッファガスがArであれば0.07Pa・m〜2Pa・mが高透過率であるといえる。なお、上述した圧力最適化の実施例ではHe、およびArのみが試みられているが、ガス衝突の効果はガスの平均分子量に依存するため、窒素N2(分子量32)および空気Air(平均分子量32.8)の場合は、ほぼAr(分子量40)にほぼ等しいと考えられる。なお、これらの混合気体を用いることも可能である。バッファガスとしては、反応性が低いHe、Arが適している。
【0040】
図9は、リニアトラップ部310からイオンが排出され衝突ダンピング部320を介して飛行時間型質量分析部400に導入される排出イオンの測定結果を示す図である。図は、サンプルとして、レセルピン/メタノール溶液を分析した結果である。0.5ms付近をピークとして、0.1〜数msまでイオンは排出される。衝突ダンピング部320のこのような特性から、リニアトラップ部310からイオンが排出されるとき以外は、不要イオンの衝突ダンピング部320への進入を阻止することが有効であり、このためには、例えば、イオンストップ電極18に、イオン排出時以外は正極性の数10〜数100Vの電圧(正イオン測定時)を印加するのが良い。
【0041】
図10は、本発明を用いてMS/MS測定を行う場合の測定シーケンスを示す図である。測定シーケンスの動作には蓄積、単離、解離および排出の4つのタイミングがある。ロッド電極16用電源35(補助交流電源57およびトラッピング電源56よりなる)、エンドキャップ電極40用電源38、加速電圧(電極25−26間の電圧)供給電源34およびゲート電極17用電源36、イオンストップ電極18用電源37に印加する電圧はコントローラー31により制御する。また、検出器28により検出されるイオン強度がコントローラー31に送られ質量スペクトルデータとして記録される。
【0042】
以下、正イオンの場合の電圧印加方法について説明する。なお、負イオンの場合は逆極性の電圧を印加すれば良い。通常の質量スペクトル(MS1)を得るには、上記説明した測定シーケンスの中で蓄積(イオン取り込み)、単離、解離、排出(イオン排出)を、図に示す手順とおりに行えばよい。MSn(n≧3)測定の場合には単離、解離のプロセスをMS/MS測定シーケンスの解離と排出の間に繰り返せば良い。
【0043】
イオン蓄積時にはロッド電極用電源35により生成する交流電圧(周波数1MHz程度、振幅0〜10kV)がロッド電極16に印加される。この間、イオン源1で生成され、各部分を通過したイオンはリニアトラップ部310内にため込まれていく。イオンと蓄積時間の典型的な値は1ms〜100ms程度である。蓄積時間が長すぎるとリニアトラップ部310内でのイオンのスペースチャージと呼ばれる現象から電界が乱れるため、これに至る前に蓄積を終了する。蓄積時、ゲート電極17に負の電圧を印加し、イオンが通過可能な状態とする。一方、イオンストップ電極18には数10V〜数100Vの正の電圧を印加してリニアトラップ部310内に導入されたイオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。
【0044】
次に、所望の前駆イオンの単離が行なわれる。例えば一対のロッド電極間(16a、16c間)に所望イオンの共鳴周波数を除いた高周波成分を重畳した電圧を印加することにより、それ以外のイオンを外部に排出して特定イオン質量範囲のイオンのみをトラップ内に残留させることができる。この外にもイオン単離の方式は様々であるが、ある質量範囲の前駆イオンのみをリニアトラップ部310内に残留させる目的においては同じである。イオン単離に要する典型的な時間は1ms〜10ms程度である。このときも、イオンストップ電極18には数10V〜数1000Vの正の電圧を印加して、イオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。
【0045】
次に単離された前駆イオンの解離が行なわれる。前駆イオンに共鳴する補助交流電圧を例えば一対のロッド電極間(16a、16c間)に印加することにより、前駆イオンの軌道が広がる。これによりイオンの内部温度は上昇し、最終的に解離する。イオン解離に要する典型的な時間は1ms〜30msである。このときも、イオンストップ電極18には数10V〜数100Vの正の電圧を印加してリニアトラップ部310内のイオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。
【0046】
最後にイオン排出が行なわれる。イオン排出はリニアトラップ部310内でz方向に電界がかかるように直流電圧を入口側エンドキャップ電極40およびロッド電極16、出口側エンドキャップ電極42に印加する。リニアトラップ部310からの排出に要する典型的な時間は0.1ms〜2msである。リニアトラップ部310内から排出されたイオンは2ms以内にすべて衝突ダンピング部320へ導入される。衝突ダンピング部320の後部では、数〜数10msのイオン広がりを持ってイオンは排出される。イオンストップ電極18には、−300〜0Vの電圧が印加され、リニアトラップ部310からのイオン排出時には排出されたイオンが衝突ダンピング部320の入口電極15の細孔に効率的に入射されるように電圧を印加する。
【0047】
先にも述べたように、イオン排出時以外にはイオンストップ電極18には数10V〜数100Vの正の電圧を印加して、リニアトラップ部310からのイオンが衝突ダンピング部320へ流れないようにする。何故なら、それを行わない場合には、蓄積時、単離時、解離時などに排出される本来測定されるべきでは無いノイズイオンが衝突ダンピング部320に導入される。それらのノイズイオンは、図9の結果からわかるように、レセルピンイオンと同様、数ms程度衝突ダンピング部320に滞在すると考えられるため、測定されるべきイオンと測定されるべきでは無いイオンとが混合されてしまい、ノイズの大きい質量スペクトルを結果として与えることとなる。これを避けるためには、排出前にノイズイオンが排出されるまでの待ち時間を設定する必要がある。この待ち時間は単位時間あたりの測定繰り返し回数(Duty Cycle)を低下させ、ひいては感度を低下させる原因となる。イオンストップ電極18の電圧を、イオン排出時にはイオンを通過する電圧に、それ以外ではイオンを通過しない電圧に設定することにより、待ち時間の設定が不要になり、Duty Cycleの低下を防ぐことができる。
【0048】
本発明では、リニアトラップ部310は衝突ダンピング部320から飛行時間型質量分析部400への排出の完了を待たずに次の蓄積を開始することができる。すなわち、リニアトラップ部310は、衝突ダンピング部320にイオンを移した後は、リニアトラップ部310が衝突ダンピング部320と機能的に分離されるから、新しい測定試料のイオンを導入して良い。
【0049】
衝突ダンピング部320から排出され、飛行時間型質量分析部400に導入されたイオンは、リニアトラップ部310の動作と同期しない1〜10kHz程度で動作する加速部410により加速が行われ、検出器28で検出される。検出された信号は、コントローラー31に質量スペクトルとして記録される。イオンストップ電極18の働きにより、検出されたイオンは、実質上、すべて、上記MS/MSの結果として生成した解離生成イオンである。
【0050】
図11は、本発明を実施した質量分析計において得られたレセルピン/メタノール溶液のMSn分析結果を示す図である。図11(A)は通常のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。レセルピンイオン(609amu)の他、何本かのノイズイオンのピークが確認できる。図11(B)はレセルピンイオン(609amu)を単離した後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。レセルピンイオン以外のイオンがリニアトラップ部310の外へ排出され、飛行時間型質量分析部400に導入されないから、ノイズはほとんど表れていない。図11(C)はレセルピンイオンから解離したイオンのMS2分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。397amuおよび448amuのイオンの他いくつかの解離生成イオンが検出されている。図11(D)はフラグメントイオンのうち448amuのイオンを単離後のMS1分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。448amuのイオン以外はトラップの外へ排出されている。図11(E)は、448amuのイオンを解離した後のMS3分析による測定結果の質量スペクトルを示す図である。フラグメントイオンである196amuおよび236amuのイオンが見られる。図示しないが、これらのイオンを更に単離、分解することも可能である。このような高度なMSn分析により、通常の質量分析やMS/MS分析では得られなかった試料イオンのより詳細な構造情報が得られ、高精度な分析が可能となる。なお、レセルピンイオンに関して、質量分解能5000以上、質量精度10ppm以内を達成した。
【0051】
上述したように、イオンストップ電極18の電圧を、イオン排出時にはイオンを通過する電圧に、それ以外ではイオンを通過しない電圧に設定することにより、待ち時間の設定が不要になり、Duty Cycleの低下を防ぐことができるが、これと同様の効果は、他の構成によっても実現できる。例えば、リニアトラップ部310のロッド電極16のオフセット電圧を変化させることにより、ほぼ同様の効果を得ることも可能である。すなわち、図10に示すシーケンスの蓄積、単離、解離および排出の4つのタイミングの内、蓄積、単離および解離時にはロッド電極16のオフセット電圧を衝突ダンピング部320の多重極電極20の電圧よりも低めに設定し(正イオン測定時)、イオントラップぶ310から衝突ダンピング部320へのイオン入射が起こらないようにする。また、排出時はリニアトラップのロッド電極16のオフセット電圧を衝突ダンピング部320の多重極電極20の電圧よりも高めに設定し(正イオン測定時)、イオンが入射されるようにする。イオンストップ電極18による制御の方が、簡便であるため、上述の実施例では、イオンストップ電極18によるリニアトラップ部310と衝突ダンピング部320間のイオンの開閉操作として説明した。
【0052】
(実施例2)
図12は、本発明を適用したマトリックス支援レーザーイオン化四重極リニアトラップ部飛行時間型質量分析計を中央部で断面にした状態で示す概念図である。図1と対比して容易に分かるように、実施例1では、サンプルのイオン化が大気圧の下で行われて質量分析計に導入されたのに対して、実施例2では、サンプルのイオン化が、0.05〜5Pa程度の真空度のイオン化室50により行なわれる点において異なる。イオン化室50はターボ分子ポンプ5で排気されて、0.05〜5Pa程度の真空度に維持される。イオン化室50には、サンプルプレート53が配置される。サンプルプレート53は、イオン化するサンプルを溶液化したサンプル溶液とマトリックス溶液と混合、滴下して乾燥させたサンプル面を有する。イオン化室50には、細孔56および57が設けられる。細孔56を挟んで大気側にレーザー源51が設けられ、イオン化室50内に反射ミラー52が設けられる。また、細孔57を挟んで大気側にCCDカメラ55が設けられ、イオン化室50内に反射ミラー54が設けられる。レーザー源51およびCCDカメラ55は、ともに、サンプルプレート53のサンプル面に対して焦点が合わされる。例えば、窒素レーザーなどのレーザー源51から、反射ミラー52を介して、サンプルプレート53のサンプル面に対してイオン化用レーザーが照射される。レーザーの照射位置が正しいかどうかは、反射ミラー54を介して、サンプルプレート53のサンプル面をCCDカメラ55でモニターして確認する。図には示さなかったが、サンプルプレート53の上下、左右の位置等の調整手段が設けられ、サンプルプレート53のサンプル面に対してイオン化用レーザーが照射されるように調整される。レーザーの照射により生成されたイオンは多重極電極6によりリニアトラップ部310へ輸送される。第3差動排気部300にイオンが導入された後の処理は、実施例1と同じである。
【0053】
(その他の実施例)
また、SELDIやDIOSなど他のレーザーイオン源を用いた場合でも本発明は同様に活用できる。
【符号の説明】
【0054】
1…大気圧イオン源、2…細孔、3…ロータリーポンプ、4…細孔、5…ターボ分子ポンプ、6…多重極電極、7…細孔、8…ターボ分子ポンプ、9…ゲート電極、13…四重極ロッド電極、15…衝突ダンピング部入口電極、18…イオンストップ電極、19…バッファガス供給機構、20…多重極電極、21…スペーサー、22…デフレクター、23…収束レンズ、25…押し出し電極、26…引き出し電極、27…リフレクトロン、28…検出器、29…ターボ分子ポンプ、30…細孔、31…コントローラー、34…加速電圧電源、35…ロッド電極用電源、36…ゲート電極用電源、37…イオンストップ電極用電源、40…入口側エンドキャップ電極、41…絶縁スペーサー、42…出口側エンドキャップ電極、43…イオン進行方向、44…イオン進行方向、45…イオン進行方向、50…マトリックス支援レーザーイオン源、51…イオン化用レーザー、52…反射ミラー、53…サンプルプレート、54…反射ミラー、55…CCDカメラ、56…トラッピング用電源、57…補助交流電源、60…ボンベ、61…バルブ、100…第1差動排気部、200…第2差動排気部、300…第3差動排気部、310…リニアトラップ部、320…衝突ダンピング部、400…飛行時間型質量分析部、410…加速部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを生成するイオン源と、
前記イオンを蓄積するイオントラップと、
前記イオントラップから排出されるイオンを収束する多重極電場を生成するダンピング室と、
前記イオントラップから前記ダンピング室へのイオンの入射可能、入射不可能を制御するイオン透過調整機構と、
前記ダンピング室より排出されるイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析計とを有することを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
前記イオン透過調整機構は、前記イオントラップ部からのイオン排出の間はイオンを入射可能とし、前記イオン排出の間以外はイオンを入射不可能に調整されていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記イオン透過調整機構は、前記イオントラップと前記ダンピング室との間に設けられたイオンストップ電極であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記イオン透過調整機構は、前記イオントラップを構成するロッド電極のオフセット電圧によりイオンの入射可能、入射不可能を制御することを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項5】
入射可能とする場合には前記オフセット電圧を前記ダンピング室の電圧より高くし、入射不可能とする場合には前記オフセット電圧をダンピング室の電圧より低く設定することを特徴とする請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記ダンピング室から前記飛行時間型質量分析計へのイオン排出の完了前に、前記イオントラップは次のイオンの蓄積を開始することを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項1】
イオンを生成するイオン源と、
前記イオンを蓄積するイオントラップと、
前記イオントラップから排出されるイオンを収束する多重極電場を生成するダンピング室と、
前記イオントラップから前記ダンピング室へのイオンの入射可能、入射不可能を制御するイオン透過調整機構と、
前記ダンピング室より排出されるイオンの質量分析を行う飛行時間型質量分析計とを有することを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
前記イオン透過調整機構は、前記イオントラップ部からのイオン排出の間はイオンを入射可能とし、前記イオン排出の間以外はイオンを入射不可能に調整されていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記イオン透過調整機構は、前記イオントラップと前記ダンピング室との間に設けられたイオンストップ電極であることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記イオン透過調整機構は、前記イオントラップを構成するロッド電極のオフセット電圧によりイオンの入射可能、入射不可能を制御することを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項5】
入射可能とする場合には前記オフセット電圧を前記ダンピング室の電圧より高くし、入射不可能とする場合には前記オフセット電圧をダンピング室の電圧より低く設定することを特徴とする請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記ダンピング室から前記飛行時間型質量分析計へのイオン排出の完了前に、前記イオントラップは次のイオンの蓄積を開始することを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−146913(P2009−146913A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81326(P2009−81326)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【分割の表示】特願2003−202179(P2003−202179)の分割
【原出願日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【分割の表示】特願2003−202179(P2003−202179)の分割
【原出願日】平成15年7月28日(2003.7.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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