説明

質量分析計

【課題】質量分析計
【解決手段】イオン検出器からの信号出力がアナログ−デジタル変換器を使用してデジタル化される質量分析計が開示される。飛行時間データがまだ取得されている間に、デジタル化信号からバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルが動的に減じられる。電子雑音を低減させるために、閾値もまた、デジタル化信号に動的に適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン検出器システム、質量分析計、イオンを検出する方法、および質量分析の方法に関するものである。好ましい実施形態は、飛行時間データまたは質量スペクトルデータの取得中に、変動するベースライン値をイオン検出器信号から動的に減じる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析計を含む多くの分析機器のためのデータ記録エレクトロニクスの一部として、時間−デジタル変換器(TDC:Time to Digital Converter)およびアナログ−デジタル変換器(ADC:Analogue to Digital Converter)を使用することが知られている。
【0003】
時間−デジタル変換器を組み入れた飛行時間型質量分析計が知られている。この飛行時間型質量分析計においては、イオン検出器に到着するイオンから生じる信号であって所定の検出基準を満たす信号が、トリガ事象に対して相対的な特定の到着時間に関連づけられた単一の二進値として記録される。イオン到着イベントの記録をトリガするために、固定振幅閾値が使用されてよい。イオン到着イベントに対応する飛行時間データは、イオン到着イベントのヒストグラムを形成するために組み合わされ、次いで、さらなる処理に備えて飛行時間スペクトルとして示される。時間−デジタル変換器は、比較的弱い信号を検出可能である利点を有するが、これらの変換器の使用は、複数のイオンが時間的にごく接近して到着する可能性が比較的低くとどまるような状況に制限される。
【0004】
時間−デジタル変換器を使用してひとたびイオン到着イベントが記録されると、イオン到着イベントの後に、さらなるイオン到着イベントをイオン検出器によって記録することができない深刻な時間遅延すなわち無駄時間が続く。高信号強度では、無駄時間の影響によって、一部のイオン到着イベントが記録されない結果になる。これは、結果として、信号強度の表示を不正確にするとともに、イオン到着時間の測定も不正確にする。これらの影響は、イオン検出器システムの有効ダイナミックレンジを不利に制限する。
【0005】
アナログ−デジタル変換器を組み入れた飛行時間型質量分析計であって、イオン検出器に到着するイオンから生じる信号がトリガ事象に対して相対的にデジタル化される、飛行時間型質量分析計が知られている。相次ぐトリガ事象からのデジタル化信号は、さらなる処理に備えて飛行時間スペクトルを生成するために、加算されるまたは平均化される。ある特定の既知の信号平均器は、イオン検出器から出力される信号を、3〜4GHzの周波数および8ビットまたは10ビットの強度分解能でデジタル化することができる。
【0006】
アナログ−デジタル変換器の使用は、イオン強度が比較的高い状況において、イオン検出器に対して歪みによる問題を生じることなく複数のイオン到着を記録することを可能にする。しかしながら、通常は、デジタイザエレクトロニクス、イオン検出器、および関連の増幅器からの電子雑音によって、低強度信号の検出が制限される。電子雑音は、イオン検出器システムの有効ダイナミックレンジを制限する。
【0007】
時間−デジタル変換器とアナログ−デジタル変換器との組み合わせを使用しようと試みるイオン検出器システムが知られている。このようなイオン検出器システムは、ダイナミックレンジ全体を増大させる目的で、各タイプの記録機器の持つ異なる特性の利点を十分に活用しようとするものである。しかしながら、時間−デジタル変換器とアナログ−デジタル変換器とを組み合わせたイオン検出器システムは、比較的高価であり、その結果としての検出器エレクトロニクスは、較正および動作が比較的複雑である。
【0008】
各トリガ事象からのデジタル化データに対して直流オフセットまたは固定ファームウェア閾値を課すことによって、アナログ−デジタル変換器イオン検出システムのダイナミックレンジを増大させる試みが、知られている。その結果、閾強度値を超えるデジタル化信号のみが、引き続き記録される。この方法は、データの加算に先立ってアナログ雑音を効果的に除去することによって、検出制限を向上させている。しかしながら、この既知のアプローチは、記録される直流ベースラインのレベルの短期的および長期的なばらつきの問題に対して認識または対処しようとするものではない。
【0009】
直流レベルの変化は、周囲温度の変化の結果として生じる記録エレクトロニクス内または信号増幅エレクトロニクス内のコンポーネントの熱ドリフトを含む、様々に異なる要因によって生じえる。
【0010】
直流レベルの変化に影響を及ぼすもう1つの要因は、電子倍増管またはマイクロチャネルプレート(MCP:micro-channel plate)検出器などのイオン検出機器の出力が、通常は比較的高電圧にあることである。したがって、それに続く増幅器および記録機器がグラウンド電位またはそれに近い電位で動作することを可能にするために、容量結合、誘導結合、またはその他の形態の交流結合が用いられてよい。例えば、デジタル化に先立ってアナログパルス幅を維持するために、高速交流増幅器が用いられてよい。しかしながら、交流結合エレクトロニクスの使用は、信号の局所的な大きさに関連したベースライン・レベル、信号トリガ事象に対して生成される信号の大きさの合計、および回路の容量に関連付けられた時定数の、短期的および長期的な変化を引き起こす可能性がある。
【0011】
アナログ雑音の寄与を低減させるために固定閾値が用いられる場合は、閾値に相対的なあらゆるベースラインドリフトは、結果として、雑音レベルを閾値より上にドリフトさせる、または信号強度を閾値より下に降下させる可能性がある。いずれの状況も、記録される信号に対し、望ましくない歪みをもたらす。これらの影響は、時間−デジタル変換器を固定事象カウント閾値とともに使用する場合にも見られる。
【0012】
イオン検出器からの出力信号がアナログ−デジタル変換器(ADC)によってデジタル化される飛行時間型質量分析計が知られている。アナログ−デジタル変換器に接続されたプロセッサが、ベースライン値および閾値を決定し、アナログ信号のうち閾値にある部分または閾値を下回る部分にベースライン値を割り当てる。アナログ−デジタル変換器システムは、アナログ信号が閾値を上回る場合にアナログ信号強度を表す強度を記録するように構成される。
【0013】
この既知のアプローチにしたがうと、計算された閾値を下回る信号は、計算されたベースライン値に設定される。閾値を上回る信号は、そのまま維持される、すなわちアナログ信号の強度に設定される。加算または平均化される前の最終データには、なおも、個々の飛行時間スペクトル内または個々の飛行時間スペクトル間に潜在的にある任意の直流ばらつきが存在する。検出エレクトロニクスまたは増幅エレクトロニクスの一部として直流結合を用いるシステムでは、ベースラインの値の短期的および長期的なばらつきは、イオン検出器に到着するイオン信号の大きさに依存する。飛行時間型質量分析計において生成されるような非反復信号の場合は、ベースライン値は、各飛行時間スペクトル内および連続する飛行時間スペクトル間において変動する。これらの異なるベースラインは、最終出力において加算または平均化される。
【0014】
後に続く処理に先立ってベースラインのオフセットおよびばらつきを打ち消すことができないと、後に続くデータ分析に誤差が生じる。例えば、もしデータに閾値レベルが適用される場合は、信号の切り捨てによって、データの損失および不正確な範囲決定がもたらされる。データは、ピーク積分において不定量のベースラインオフセットを含む可能性があり、これは、定量的測定を歪ませ、誤ったピークの検出を引き起こす可能性がある。
【0015】
実際のオフセットにもかかわらず、ベースライン値がゼロに設定される場合は、記録される信号の見た目の大きさに大きな誤差がある可能性があり、これは、やはり、最終データの定量誤差をもたらす。
【0016】
既知のすなわち従来のアプローチは、各飛行時間記録期間の終わり、すなわち飛行時間データの取得後の後処理段階においてベースライン値の計算を行うものであることに、留意することが重要である。次いで、デジタル化信号を棄却することなくアナログ雑音を棄却することができるように、デジタル化信号内の各地点に対し、ベースラインに対して相対的に閾値が計算される。このようなアプローチは、集中計算型であり、高スペクトルレートで動作している場合に問題を生じる。従来の直交加速方式飛行時間型質量分析計は、例えば、個々の飛行時間スペクトルが10,000〜100,000スペクトル毎秒のレートで取得される速度で動作しえる。各スペクトルは、データ損失を生じることなく処理および加算または平均化されなければならず、これは、明らかに簡単でない問題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
改善された質量分析計および質量分析の方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様にしたがって、イオンを検出する方法であって、
イオン検出器によって出力される第1の信号を、対応する複数の第1の信号値を生成するためにデジタル化することと、
先行期間t1の間の第1の信号または複数の第1の信号値の中央値または他の関数を決定することによって、第1の信号または複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定することと、
複数の第2の信号値を生成するために、第1の信号または複数の第1の信号値から第1の信号または複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に減じることと、
を含む方法が提供される。
【0019】
推定される直流バックグラウンド・レベルの動的な決定および減算は、結果として、例えば直流結合の影響ゆえの歪みを生じないようにイオンスペクトルを向上させることが好ましい。データの速度および品質も、大幅に向上される。
【0020】
第1の信号または複数の第1の信号値の中央値は、第1の信号または複数の第1の信号値の50%点を含むことが好ましい。第1の信号または複数の第1の信号値のその他の関数は、第1の信号または複数の第1の信号値の(50%ではない)別のパーセント点を含むことが好ましい。例えば、その他の関数は、第1の信号または複数の第1の信号値の40%点、45%点、48%点、52%点、55%点、または60%点を含んでよい。その他の決定が第1の信号または複数の第1の信号値の固定%点ではなく平均またはその他の関数の決定であるような、次善の好ましい実施形態も考えられる。
【0021】
第1の信号をデジタル化する段階は、第1の信号をデジタル化するためにアナログ−デジタル変換器(ADC)を使用することを含むことが好ましい。アナログ−デジタル変換器は、使用時に、(i)<1GHz、(ii)1〜2GHz、(iii)2〜3GHz、(iv)3〜4GHz、(v)4〜5GHz、(vi)5〜6GHz、(vii)6〜7GHz、(viii)7〜8GHz、(ix)8〜9GHz、(x)9〜10GHz、および(xi)>10GHzからなる群より選択されるデジタル化レートで動作されることが好ましい。
【0022】
アナログ−デジタル変換器は、(i)少なくとも4ビット、(ii)少なくとも5ビット、(iii)少なくとも6ビット、(iv)少なくとも7ビット、(v)少なくとも8ビット、(vi)少なくとも9ビット、(vii)少なくとも10ビット、(viii)少なくとも11ビット、(ix)少なくとも12ビット、(x)少なくとも13ビット、(xi)少なくとも14ビット、(xii)少なくとも15ビット、および(xiii)少なくとも16ビットからなる群より選択される分解能を含むことが好ましい。
【0023】
第1の信号または複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定する段階は、
(a)飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータの取得中にバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定すること、ならびに/あるいは
(b)一群のイオンによって所定の時間区間に生成される第1の信号について、バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定することであって、前記所定の時間区間は、その一群のイオンが加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入った後で、かつその群内の全てのイオンがイオン検出器に到着するより前の期間である、決定、ならびに/あるいは
(c)一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータがまだ取得されている間において、かつ、前記一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータが完全に取得された後の後処理後段階としてではなく、リアルタイムで、バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定すること、
を含むことが好ましい。
【0024】
第1の信号または第1の信号値の他の関数を決定する段階は、先行期間t1の間に第1の信号または第1の信号値のパーセント点を決定することを含むことが好ましい。パーセント点は、(i)<10%、(ii)10〜20%、(iii)20〜30%、(iv)30〜40%、(v)40〜50%、(vi)50〜60%、(vii)60〜70%、(viii)70〜80%、(ix)80〜90%、および(x)>90%からなる群より選択される範囲内にあることが好ましい。40〜60%の範囲内のパーセント点が、特に好ましい。
【0025】
先行期間t1の間に第1の信号または複数の第1の信号値の中央値または他の関数を決定する段階は、第1の信号または第1の信号値が、第1の信号または複数の第1の信号値の決定された現行の中央値または他の関数より大きいかまたは小さいかを決定することを、さらに含むことが好ましい。
【0026】
もし第1の信号または第1の信号値が、第1の信号または複数の第1の信号値の決定された現行の中央値または他の関数より大きいならば、決定された中央値または他の関数に、第1の一定値が加えられることが好ましい。もし第1の信号または第1の信号値が、第1の信号または複数の第1の信号値の決定された現行の中央値または他の関数より小さいならば、決定された中央値または他の関数から、第2の一定値が減じられることが好ましい。
【0027】
第1の一定値は、第2の一定値と実質的に同じであることが好ましい。あるいは、第1の一定値と第2の一定値は、実質的に異なってよい。
【0028】
第1の信号または複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定する段階は、一実施形態にしたがって、第1のベースライン値レジスタおよび/または第2のベースライン部分レジスタを提供することを含む。もし第1の信号または第1の信号値が、第1のベースライン値レジスタに格納されている値より大きいならば、第2のベースライン部分レジスタに格納されている値に、整数値が加えられることが好ましい。もし第1の信号または第1の信号値が、第1のベースライン値レジスタに格納されている値より小さいならば、第2のベースライン部分レジスタに格納されている値から、整数値が減じられることが好ましい。
【0029】
好ましい実施形態にしたがうと、加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入る一群のイオンに対応する一セットの飛行時間データまたは質量スペクトルデータが取得されている間に、期間Tにわたって少なくともx個の第1の信号値またはデータ値が得られることが好ましく、ここで、xは、(i)<1000、(ii)1000〜5000、(ii)5000〜10000、(iii)10000〜50000、(iv)50000〜100000、(v)100000〜500000、(vi)500000〜1000000、および(vii)>1000000からなる群より選択されることが好ましい。先行期間t1は、y個の第1の信号値またはデータ値が得られる期間に対応することが好ましく、ここで、yは、(i)<10、(ii)10〜50、(iii)50〜100、(iv)100〜500、(v)500〜1000、(vi)1000〜5000、(vii)5000〜10000、(viii)10000〜50000、および(ix)>50000からなる群より選択されることが好ましい。
【0030】
好ましい実施形態にしたがうと、加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入る一群のイオンに対応することが好ましい一セットの飛行時間データまたは質量スペクトルデータは、(i)<500ns、(ii)500〜1000ns、(iii)1〜5μs、(iv)5〜10μs、(v)10〜50μs、(vi)50〜100μs、(vii)100〜500μs、(viii)500〜1000μs、および(ix)>1msからなる群より選択される期間Tにわたって取得されることが好ましい。先行期間t1は、(i)<5ns、(ii)5〜10ns、(iii)10〜50ns、(iv)50〜100ns、(v)100〜500ns、(vi)500〜1000ns、(vii)1〜5μs、(viii)5〜10μs、(ix)10〜50μs、(x)50〜100μs、(xi)100〜500μs、(xii)500〜1000μs、および(xiii)>1msからなる群より選択されることが好ましい。
【0031】
先行期間t1の期間Tに対する割合は、(i)≦50%、(ii)≦10%、(iii)≦5%、(iv)≦1、(v)≦0.5%、(vi)≦0.1%、(vii)≦0.05%、(viii)≦0.01%、(ix)≦0.005%、(x)≦0.001%、(xi)≦0.0005%、(xii)≦0.0001%、(xiii)≦0.00005%、および(xiv)≦0.00001%からなる群より選択されることが好ましい。
【0032】
好ましい実施形態のさらなる重要な態様は、第2の信号値を閾値と比較することを含む。好ましい実施形態にしたがうと、もし第2の信号値が閾値を下回るならば、その第2の信号値は、ゼロの値を割り当てられるか、または実質的に低減されることが好ましい。もし第2の信号値が閾値を上回るすなわち閾値を超えるならば、その第2の信号値は、実質的に変わらないままである(または次善の好ましい実施形態にしたがって比較的少量のみ低減される)ことが好ましい。
【0033】
第2の信号値を閾値と比較する段階は、
(a)飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータの取得中に、第2の信号値を閾値と動的に比較すること、ならびに/あるいは
(b)一群のイオンによって生成される第1の信号に対応する第2の信号値を、その一群のイオンが加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入った後でなおかつその群内の全てのイオンがイオン検出器に到着するより前の期間に、閾値と動的に比較すること、ならびに/あるいは
(c)一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータがまだ取得されている間において、かt、前記一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータが完全に取得された後の後処理後段階としてではなく、リアルタイムで、第2の信号値を閾値と動的に比較すること
を含むことが好ましい。
【0034】
本発明の別の態様にしたがって、上述のような方法を含む質量分析の方法が提供される。
【0035】
本発明の別の態様にしたがって、イオン検出器システムであって、
イオン検出器によって出力される第1の信号を、対応する複数の第1の信号値を生成するためにデジタル化するように構成および適応される機器と、
先行期間t1の間に第1の信号または複数の第1の信号値の中央値または他の関数を決定することによって第1の信号または複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定するように構成および適応される機器と、
複数の第2の信号値を生成するために、第1の信号または複数の第1の信号値から第1の信号または複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に減じるように構成および適応される機器と、
を含むイオン検出器システムが提供される。
【0036】
本発明の別の態様にしたがって、上述のようなイオン検出器システムをさらに含む質量分析計が提供される。
【0037】
質量分析計は、さらに、
(a)イオン検出器システムの上流に配置されるイオン源であって、(i)エレクトロスプレイ・イオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザ脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコン上脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレイ・イオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源、および(xviii)サーモスプレイイオン源からなる群より選択されるイオン源、ならびに/あるいは
(b)イオン検出器システムの上流に配置される1つまたは2つ以上のイオンガイド、ならびに/あるいは
(c)イオン検出器システムの上流に配置される1つもしくは2つ以上のイオン移動度分離機器および/または1つもしくは2つ以上の電界非対称イオン移動度分析計機器、ならびに/あるいは
(d)イオン検出器システムの上流に配置される1つまたは2つ以上のイオントラップまたはイオン捕捉領域、ならびに/あるいは
(e)イオン検出器システムの上流に配置される1つまたは2つ以上の衝突、フラグメンテーション、または反応のセルであって、(i)衝突誘起解離(「CID」)フラグメンテーション機器、(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーション機器、(iii)電子移動解離フラグメンテーション機器、(iv)電子捕獲解離フラグメンテーション機器、(v)電子衝突または電子衝撃解離フラグメンテーション機器、(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーション機器、(vii)レーザ誘起解離フラグメンテーション機器、(viii)赤外線放射誘起解離機器、(ix)紫外線放射誘起解離機器、(x)ノズル−スキマ界面フラグメンテーション機器、(xi)インソースフラグメンテーション機器、(xii)イオン源衝突誘起解離フラグメンテーション機器、(xiii)熱源または温度源フラグメンテーション機器、(xiv)電場誘起フラグメンテーション機器、(xv)磁場誘起フラグメンテーション機器、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション機器、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション機器、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション機器、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション機器、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション機器、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション機器、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション機器、(xxiii)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−イオン反応機器、(xxiv)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−分子反応機器、(xxv)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−原子反応機器、(xxvi)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−準安定イオン反応機器、(xxvii)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−準安定分子反応機器、および(xxviii)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−準安定原子反応機器、からなる群より選択される1つまたは2つ以上の衝突、フラグメンテーション、または反応のセル、ならびに/あるいは
(f)(i)四重極質量分析器、(ii)2D型または直線型の四重極質量分析器、(iii)Paulによるまたは3D型の四重極質量分析器、(iv)Penningトラップ質量分析器、(v)イオントラップ質量分析器、(vi)磁場セクタ型質量分析器、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(「ICR」)質量分析器、(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析器、(ix)静電型またはオービトラップ質量分析器、(x)フーリエ変換静電型またはオービトラップ質量分析器、(xi)フーリエ変換質量分析器、(xii)飛行時間型質量分析器、(xiii)直交加速方式飛行時間型質量分析器、および(xiv)線形加速方式飛行時間型質量分析器からなる群より選択される質量分析器、
のいずれかを含むことが好ましい。
【0038】
本発明の別の態様にしたがって、質量分析の方法であって、
先行期間にわたり、イオン検出器から出力される第1の信号の中央値またはその他のパーセント点を動的に決定することと、
第2の信号を生成するために、第1の信号から中央値またはその他のパーセント点を動的に減じることと、
もし第2の信号が閾値を実質的に超えないならば、その第2の信号に閾値を動的に適用し、第2の信号値をゼロ(またはゼロに近い値)に設定することと、
を含む方法が提供される。
【0039】
本発明の別の態様にしたがって、質量分析計であって、
先行期間にわたり、イオン検出器から出力される第1の信号の中央値またはその他のパーセント点を動的に決定するための機器と、
第2の信号を生成するために、第1の信号から中央値またはその他のパーセント点を動的に減じるための機器と、
もし第2の信号が閾値を実質的に超えないならば、その第2の信号に閾値を動的に適用し、第2の信号値をゼロ(またはゼロに近い値)に設定するための機器と、
を含む質量分析計が提供される。
【0040】
好ましい実施形態にしたがって、イオン検出器におけるイオンの到着から得られる出力信号を生成することが好ましい質量分析計が提供される。出力信号は、時間とともに強度または大きさを変化させることが好ましい。好ましい実施形態にしたがうと、出力信号についてのベースラインに対応する値は、データ(例えば飛行時間データまたは質量スペクトルデータ)が取得されている間に頻繁な時間間隔で繰り返し決定されることが好ましい。ベースライン値は、データセットが取得された後の後処理段階ではなくデータが実際に取得されている間に、頻繁ななおかつ/または実質一定の時間間隔で、出力信号から繰り返し減じられることが好ましい。
【0041】
好ましい実施形態にしたがうと、イオン検出器からの出力信号は、比較的高周波数で出力信号をサンプリングするように構成されることが好ましいアナログ−デジタル変換器(ADC)を使用してデジタル化されることが好ましい。
【0042】
取得中の任意の特定の時点で減じられることが好ましいベースライン値は、特定の時点の直前または特定の時点より前でなおかつ直前以外の時点であることが好ましい(1つのデータセットの合計取得期間と比べて)比較的短い期間にわたる、出力信号のインテロゲーションによって決定されることが好ましい。
【0043】
一実施形態にしたがうと、出力信号からベースライン値を減じた後に結果として得られる信号は、さらに、所定の閾値を下回る場合にリアルタイムでゼロに設定されてよい。
【0044】
質量分析計は、直交加速方式飛行時間型質量分析計などの飛行時間型質量分析計を含むことが好ましい。しかしながら、その他の次善の好ましい実施形態にしたがうと、質量分析計は、時間とともに大きさを変化させる出力信号を提供するその他のタイプの質量分析計を含む。例えば、質量分析計は、四重極質量フィルタ、直線型四重極イオントラップ、3D型四重極イオントラップ、または磁場セクタ型質量分析計を含んでよい。
【0045】
計算されたベースライン値をイオン信号から動的に減じると、好ましいことに、極めて短時間のベースライン雑音より他に実質いかなるベースライン・レベルのばらつきも示さないスペクトルが得られる。好ましいことに、それより他のあらゆるベースライン雑音は、スペクトル全体を通してゼロに設定される。スペクトルは、直接加算されるか、あるいは加算または平均化に先立って固定閾値または別のピーク検出方法を使用して先ず処理されるかしてよい。この追加の処理は、ピーク検出または位置ルーチンを伴ってよい。
【0046】
好ましいことに、好ましい実施形態は、最終的な飛行時間スペクトルまたは質量スペクトルの速度および品質を、従来の方法によって得られるスペクトルと比べて大幅に向上させる。好ましいことに、一度の取得時間内に生じるベースラインのばらつきは、各スペクトルから、ひいては加算後もしくは平均化後の任意の最終データから、大幅に低減されるまたはそうでなければ実質的に除去される。これは、好ましいことに、データ内において、より簡単になおかつより正確に対象範囲を発見および特定することを可能にする。変動するベースラインの除去は、また、データ内におけるイオン信号の定量化の正確さを大幅に向上させる。
【0047】
次に、例示のみを目的として示されるその他の装置構成とともに、本発明の様々な実施形態が、添付の図面を参照にしながら単なる例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】デジタル化された1つの飛行時間スペクトルを示している。
【図2】図1に示された飛行時間スペクトルを、計算されたベースラインとともに示している。
【図3】従来の方式で処理された後の、図1に示されたデータに対応する飛行時間スペクトルを示している。
【図4】本発明の一実施形態にしたがって得られる、図1に示されたデータに対応する飛行時間スペクトルを示している。
【図5】本発明の一実施形態にしたがって処理された後の、図1に示されたデータに対応する飛行時間スペクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0049】
次に、本発明の好ましい実施形態が、図1を参照にして説明される。図1は、牛のインスリンのサンプルからの[M+6H]6+同位体群を質量分析して得られた1つの飛行時間スペクトルの一部を示している。図1に示されたイオンは、およそ42μsの飛行時間を有するものとして測定された。サンプルは、エレクトロスプレイ・イオン化によってイオン化され、陽イオンは、直交加速方式飛行時間型の質量分析計または質量分析器を使用して分析された。イオンは、マイクロチャネルプレートイオン検出器を使用して検出された。高エネルギの検体イオンによって生成された二次電子が、次いで増幅され、その結果生じた電流が、グラウンド電位に容量結合された。電流は、次いで、電流−電圧変換器を使用して増幅され、8ビットの垂直分解能のアナログ−デジタル変換器を使用して5GHzの周波数でデジタル化された。
【0050】
最も強いすなわち最も集中的なイオン信号は、同位体群の中から同じ質量対電荷比を有する複数のイオンが同時に到着した結果として得られた。最も弱い信号は、イオンが個別にイオン検出器に到着した結果として得られた。
【0051】
図1から明らかなように、最大のイオン到着イベント後に、ベースラインのレベルのシフトが認められる。ベースライン・レベルのシフトは、一部には、イオン検出器内および増幅エレクトロニクス内における交流結合の影響による。また、直流ベースラインもゼロレベルより上にオフセットしていることに留意されたい。
【0052】
図2は、図1に示された飛行時間データに、飛行時間スペクトル全体にわたって推定ベースライン値を重ね合わせて表示したものである。
【0053】
図3は、従来の方式で処理された後の、図1に示されたデータを示している。全てのデータが得られた後、次いで、それらのデータをもとに、ベースライン値が計算された。計算されたベースラインに対して相対的な固定値に設定された閾値が適用された。閾値は、電子雑音より高く設定された。閾値未満であったデータ点は、計算されたベースライン値に等しい値を割り当てられた。閾値を超えていたデータ点は、変わらないまま維持された、すなわちアナログ−デジタル変換器によって記録された信号に等しい値を割り当てられた。
【0054】
図3からは、飛行時間スペクトルの雑音は低減されているものの、例えば比較的集中したイオン到着イベント後に生じるベースライン・レベルの変化については補正がなされていないことが明らかである。飛行時間データに関連した平均直流オフセットも、変わらないままである。
【0055】
図4は、本発明の一実施形態にしたがって得られる対応する信号を示している。好ましい実施形態にしたがって、データがまだ取得されている過程にある(すなわち後処理段階ではない)時点において、ベースライン値が動的に計算され、各データ点から動的に減じられた。この好ましい実施形態の特に有利な態様は、比較的集中したイオン信号の到着に起因するベースライン値の変化が、データが実際に取得されている間に補正されることにある。この好ましい実施形態のもう1つの等しく有利な特徴は、データに関連した直流オフセットが、動的に補正されることにある。データが取得された後、そのデータは、次いで、同様に取得および処理された次のスペクトルとともに足し合わされてよく、または平均化されてよい。あるいは、データは、スペクトルの加算または平均化に先立って、さらなる処理を先ず経てもよい。
【0056】
図5は、本発明の好ましい一実施形態にしたがって処理された後の、図4に示されたデータを示しており、固定閾値が、データに適用されている。閾値を下回るデータ点は、ゼロに設定され、閾値を上回るデータ点は、それらの値を保持することを許された、すなわちアナログ−デジタル変換器によって記録された信号から、計算されたベースラインを減じた後の値に等しい値を割り当てられた。閾値の適用は、結果として得られる飛行時間スペクトルの雑音、およびベースラインのばらつきを、低減させる。
【0057】
有利なことに、ベースライン計算段階、ベースライン減算段階、および雑音閾値処理段階(あわせて図5に示される飛行時間スペクトルを得る)は、各データ点に対し、それが取得されている間に並列プロセッサを使用して実質的に同時に実施されてよい。
【0058】
好ましい実施形態にしたがった方法は、出力信号のベースラインに対応する値を繰り返し決定することと、各データ点について、計算されたベースライン値に所定の閾値レベルを加算することによって、そのデータ点に対して閾値を割り当てることと、を含むものと見なされてよい。出力信号が閾値を下回る場合は、ゼロの値が割り当てられることが好ましい。出力信号が閾値を上回る場合は、計算されたベースライン値を出力信号から減じたものに対応する値が割り当てられることが好ましい。
【0059】
好ましい実施形態にしたがうと、各データ点の決定とともに、そのデータの中央値(すなわち50%点)または別のパーセント点の迅速な決定がなされることが好ましい。中央値またはその他の好ましいパーセント点は、決定されたベースライン値として使用されることが好ましい。このアプローチは、好ましいことに、迅速であるという利点があり、なおかつ、ベースライン・レベルのあらゆる変化に動的に適応することができる。
【0060】
一実施形態にしたがって、2つのレジスタが提供されてよい。第1のレジスタは、ベースライン値レジスタ(BV:baseline value register)を含むことが好ましく、第2のレジスタは、ベースライン部分レジスタ(BF:baseline fraction register)を含むことが好ましい。ベースライン値レジスタBV内の値は、好ましくはベースラインの初期推定値を含む値に設定されることが好ましい。ベースラインの推定値は、バックグラウンド・スペクトル(すなわちいかなる検体も存在しない場合のスペクトル)を記録することによって、または任意値もしくは予測値に値を設定することによって決定されてよい。長さnを有するベースライン部分レジスタBF内の値は、n/2に設定されることが好ましい。
【0061】
第1のデジタル化データ点において、もし記録された値がベースライン値レジスタBVに格納されている値より大きい場合は、ベースライン部分レジスタBF内の値は、整数値Aだけ増分されて、n/2+Aに等しくなることが好ましい。しかしながら、もし記録された値がベースライン値レジスタBVに格納されている値より小さい場合は、ベースライン部分レジスタBF内の値は、整数値Bだけ減少されて、n/2−Bに等しくなることが好ましい。
【0062】
もしベースライン部分レジスタBF内の値がゼロからnまでの範囲内にある(すなわち0<BF<n)場合は、ベースライン値レジスタBV内の値がデータ点から減じられ、その値が格納されることが好ましい。
【0063】
ベースライン部分レジスタBF内の値がnに等しい場合には、ベースライン値レジスタBV内の値は、データ点から減じられる前に量Cだけ増加されることが好ましく、その値が格納されることが好ましい。ベースライン部分レジスタBF内の値は、次いで、次のデータ点の検討に先立って、n/2に等しい値にリセットされることが好ましい。
【0064】
ベースライン部分レジスタBF内の値がゼロに等しい場合は、ベースライン値レジスタBV内の値は、データ点から減じられる前に量Dだけ減少されることが好ましく、その値が格納されることが好ましい。ベースライン部分レジスタBF内の値は、次いで、次のデータ点の検討に先立って、n/2に等しい値にリセットされることが好ましい。
【0065】
プロセスは、飛行時間スペクトルが取得されている間に、飛行時間スペクトル内の各データ点に対して順々に繰り返されることが好ましい。
【0066】
上述されたアプローチは、図2に示されたベースライン・レベルを計算するために使用された。この特定の例では、nは50に設定され、Aは8に設定され、Bは1に設定され、CおよびDは8ビットデジタイザの1ビットに等しくなるように設定された。
【0067】
質量分析計が例えば四重極質量フィルタ、イオントラップ、または磁場セクタ型質量分析計を含みえるような、その他の次善の好ましい実施形態が考えられる。
【0068】
ベースライン・レベルに対応する値は、アナログ・エレクトロニクス、デジタル・エレクトロニクス、またはアナログおよびデジタルの両エレクトロニクスの組み合わせを使用して決定されてよい。
【0069】
ベースライン・レベルは、アナログ・エレクトロニクス、デジタル・エレクトロニクス、またはアナログおよびデジタルの両エレクトロニクスの組み合わせを使用して減じられてよい
【0070】
次善の好ましい実施形態にしたがうと、信号は、バックグラウンドの減算が実施された直後に時間−デジタル変換器(TDC)を使用して記録されてよい。この実施形態にしたがうと、出力信号は、アナログ−デジタル変換器を使用してデジタル化されるのではなく、その代わりに、出力信号は、例えばデジタル−アナログ変換器(DAC:Digital to Analogue Converter)から得られることが好ましい基準値と比較されることが好ましい。比較をなすために使用されることが好ましい比較器からの出力は、カウンタを増分するまたは減少させるために使用されてよく、該カウンタは、次いで、基準値を提供するデジタル−アナログ変換器を駆動するために使用されてよい。基準値は、決定されたベースライン値を含むことが好ましく、出力信号から減じられることが好ましい。
【0071】
本発明は、好ましい実施形態を参照にして説明されてきたが、当業者ならば、添付の特許請求の範囲に定められた本発明の範囲から逸脱することなく各種の変更を形態および詳細に加えられることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを検出する方法であって、
イオン検出器によって出力される第1の信号をデジタル化して、対応する複数の第1の信号値を生成することと、
先行期間t1の間の前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の中央値または他の関数を決定することによって、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定することと、
前記第1の信号または前記複数の第1の信号値から、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に減じて、複数の第2の信号値を生成することと、
を備える方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記第1の信号をデジタル化する前記段階は、アナログ−デジタル変換器(ADC)を使用して前記第1の信号をデジタル化することを含み、
前記アナログ−デジタル変換器は、
(a)使用時に、(i)<1GHz、(ii)1〜2GHz、(iii)2〜3GHz、(iv)3〜4GHz、(v)4〜5GHz、(vi)5〜6GHz、(vii)6〜7GHz、(viii)7〜8GHz、(ix)8〜9GHz、(x)9〜10GHz、および(xi)>10GHzからなる群より選択されるデジタル化レートで動作され、なおかつ/あるいは
(b)(i)少なくとも4ビット、(ii)少なくとも5ビット、(iii)少なくとも6ビット、(iv)少なくとも7ビット、(v)少なくとも8ビット、(vi)少なくとも9ビット、(vii)少なくとも10ビット、(viii)少なくとも11ビット、(ix)少なくとも12ビット、(x)少なくとも13ビット、(xi)少なくとも14ビット、(xii)少なくとも15ビット、および(xiii)少なくとも16ビットからなる群より選択される分解能を含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定する前記段階は、
(a)飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータの取得中に、前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定すること、ならびに/あるいは
(b)一群のイオンによって所定の時間区間に生成される第1の信号について、前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定することであって、前記所定の時間区間は、前記一群のイオンが加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入った後で、前記群内の全てのイオンがイオン検出器に到着するより前の期間である、決定、ならびに/あるいは
(c)一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータがまだ取得されている間において、かつ、前記一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータが完全に取得された後の後処理後段階としてではなく、リアルタイムで、前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定すること、を含む、方法。
【請求項4】
請求項1、2、または3のいずれかに記載の方法であって、
前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の他の関数を決定する前記段階は、前記先行期間t1の間の前記第1の信号または前記複数の第1の信号値のパーセント点を決定することを含み、
前記パーセント点は、(i)<10%、(ii)10〜20%、(iii)20〜30%、(iv)30〜40%、(v)40〜50%、(vi)50〜60%、(vii)60〜70%、(viii)70〜80%、(ix)80〜90%、および(x)>90%からなる群より選択される範囲内にある、方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の方法であって、
先行期間t1の間の前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の中央値または他の関数を決定する前記段階は、前記第1の信号または前記第1の信号値が、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の決定された現行の中央値または他の関数より大きいかまたは小さいかを決定することを、さらに含み、
(a)もし前記第1の信号または前記第1の信号値が、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の前記決定された現行の中央値または他の関数より大きいならば、前記決定された中央値または他の関数に、第1の一定値が加えられ、なおかつ
(b)もし前記第1の信号または前記第1の信号値が、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の前記決定された現行の中央値または他の関数より小さいならば、前記決定された中央値または他の関数から、第2の一定値が減じられ、
前記第1の一定値は、前記第2の一定値と実質的に同じであるまたは実質的に異なる、方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法であって、
前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に決定する前記段階は、第1のベースライン値レジスタおよび/または第2のベースライン部分レジスタを提供することを含み、
(a)もし前記第1の信号または前記第1の信号値が、前記第1のベースライン値レジスタに格納されている値より大きいならば、前記第2のベースライン部分レジスタに格納されている値に、整数値が加えられ、なおかつ
(b)もし前記第1の信号または前記第1の信号値が、前記第1のベースライン値レジスタに格納されている値より小さいならば、前記第2のベースライン部分レジスタに格納されている値から、整数値が減じられる、方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法であって、
(a)加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入る一群のイオンに対応する一セットの飛行時間データまたは質量スペクトルデータが取得されている間に、期間Tにわたって少なくともx個の第1の信号値またはデータ値が得られ、
xは、(i)<1000、(ii)1000〜5000、(ii)5000〜10000、(iii)10000〜50000、(iv)50000〜100000、(v)100000〜500000、(vi)500000〜1000000、および(vii)>1000000からなる群より選択され、なおかつ/あるいは
(b)前記先行期間t1は、y個の第1の信号値またはデータ値が得られる期間に対応し、
yは、(i)<10、(ii)10〜50、(iii)50〜100、(iv)100〜500、(v)500〜1000、(vi)1000〜5000、(vii)5000〜10000、(viii)10000〜50000、および(ix)>50000からなる群より選択される、方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の方法であって、
(a)加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入る一群のイオンに対応する一セットの飛行時間データまたは質量スペクトルデータは、(i)<500ns、(ii)500〜1000ns、(iii)1〜5μs、(iv)5〜10μs、(v)10〜50μs、(vi)50〜100μs、(vii)100〜500μs、(viii)500〜1000μs、および(ix)>1msからなる群より選択される期間Tにわたって取得され、なおかつ/あるいは
(b)前記先行期間t1は、(i)<5ns、(ii)5〜10ns、(iii)10〜50ns、(iv)50〜100ns、(v)100〜500ns、(vi)500〜1000ns、(vii)1〜5μs、(viii)5〜10μs、(ix)10〜50μs、(x)50〜100μs、(xi)100〜500μs、(xii)500〜1000μs、および(xiii)>1msからなる群より選択される、方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法であって、
前記先行期間t1の前記期間Tに対する割合は、(i)≦50%、(ii)≦10%、(iii)≦5%、(iv)≦1、(v)≦0.5%、(vi)≦0.1%、(vii)≦0.05%、(viii)≦0.01%、(ix)≦0.005%、(x)≦0.001%、(xi)≦0.0005%、(xii)≦0.0001%、(xiii)≦0.00005%、および(xiv)≦0.00001%からなる群より選択される、方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の方法であって、さらに、
前記第2の信号値を閾値と比較することを備え、
(a)もし前記第2の信号値が前記閾値を下回るならば、前記第2の信号値は、ゼロの値を割り当てられるか、または実質的に低減され、なおかつ/あるいは
(b)もし前記第2の信号値が前記閾値を上回るならば、前記第2の信号値は、実質的に変更されない、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記第2の信号値を閾値と比較する前記段階は、
(a)飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータの取得中に、前記第2の信号値を前記閾値と動的に比較すること、ならびに/あるいは
(b)前記第2の信号値を前記閾値と動的に比較することであって、
前記前記第2の信号値は、一群のイオンによって所定の時間区間に生成される第1の信号に対応し、
前記所定の時間区間は、前記一群のイオンが加速されて飛行時間型質量分析器の飛行時間領域すなわちドリフト領域に入った後であり、なおかつ前記群内の全てのイオンがイオン検出器に到着するより前の期間である、比較、ならびに/あるいは
(c)一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータがまだ取得されている間において、かつ、前記一群のイオンに関連する一セットの飛行時間データおよび/または質量スペクトルデータが完全に取得された後の後処理後段階としてではなく、リアルタイムで、前記第2の信号値を前記閾値と動的に比較することを含む、方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の方法を備える質量分析の方法。
【請求項13】
イオン検出器システムであって、
イオン検出器によって出力される第1の信号を、デジタル化して、対応する複数の第1の信号値を生成するように構成および適応される機器と、
先行期間t1の間の前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の中央値または他の関数を決定することによって、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値のバックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを、動的に決定するように構成および適応される機器と、
前記第1の信号または前記複数の第1の信号値から、前記第1の信号または前記複数の第1の信号値の前記バックグラウンド・レベルすなわちベースライン・レベルを動的に減じて、複数の第2の信号値を生成するように構成および適応される機器と、
を備えるイオン検出器システム。
【請求項14】
請求項13に記載のイオン検出器システムをさらに備える質量分析計。
【請求項15】
請求項14に記載の質量分析計であって、さらに、
(a)前記イオン検出器システムの上流に配置されるイオン源であって、(i)エレクトロスプレイ・イオン化(「ESI」)イオン源、(ii)大気圧光イオン化(「APPI」)イオン源、(iii)大気圧化学イオン化(「APCI」)イオン源、(iv)マトリックス支援レーザ脱離イオン化(「MALDI」)イオン源、(v)レーザ脱離イオン化(「LDI」)イオン源、(vi)大気圧イオン化(「API」)イオン源、(vii)シリコン上脱離イオン化(「DIOS」)イオン源、(viii)電子衝撃(「EI」)イオン源、(ix)化学イオン化(「CI」)イオン源、(x)電界イオン化(「FI」)イオン源、(xi)電界脱離(「FD」)イオン源、(xii)誘導結合プラズマ(「ICP」)イオン源、(xiii)高速原子衝撃(「FAB」)イオン源、(xiv)液体二次イオン質量分析(「LSIMS」)イオン源、(xv)脱離エレクトロスプレイ・イオン化(「DESI」)イオン源、(xvi)ニッケル63放射性イオン源、(xvii)大気圧マトリックス支援レーザ脱離イオン化イオン源、および(xviii)サーモスプレイイオン源からなる群より選択されるイオン源、ならびに/あるいは
(b)前記イオン検出器システムの上流に配置される1つまたは2つ以上のイオンガイド、ならびに/あるいは
(c)前記イオン検出器システムの上流に配置される1つもしくは2つ以上のイオン移動度分離機器、および/または1つもしくは2つ以上の電界非対称イオン移動度分析計機器、ならびに/あるいは
(d)前記イオン検出器システムの上流に配置される1つまたは2つ以上のイオントラップまたはイオン捕捉領域、ならびに/あるいは
(e)前記イオン検出器システムの上流に配置される1つまたは2つ以上の衝突、フラグメンテーション、または反応のセルであって、(i)衝突誘起解離(「CID」)フラグメンテーション機器、(ii)表面誘起解離(「SID」)フラグメンテーション機器、(iii)電子移動解離フラグメンテーション機器、(iv)電子捕獲解離フラグメンテーション機器、(v)電子衝突または電子衝撃解離フラグメンテーション機器、(vi)光誘起解離(「PID」)フラグメンテーション機器、(vii)レーザ誘起解離フラグメンテーション機器、(viii)赤外線放射誘起解離機器、(ix)紫外線放射誘起解離機器、(x)ノズル−スキマ界面フラグメンテーション機器、(xi)インソースフラグメンテーション機器、(xii)イオン源衝突誘起解離フラグメンテーション機器、(xiii)熱源または温度源フラグメンテーション機器、(xiv)電場誘起フラグメンテーション機器、(xv)磁場誘起フラグメンテーション機器、(xvi)酵素消化または酵素分解フラグメンテーション機器、(xvii)イオン−イオン反応フラグメンテーション機器、(xviii)イオン−分子反応フラグメンテーション機器、(xix)イオン−原子反応フラグメンテーション機器、(xx)イオン−準安定イオン反応フラグメンテーション機器、(xxi)イオン−準安定分子反応フラグメンテーション機器、(xxii)イオン−準安定原子反応フラグメンテーション機器、(xxiii)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−イオン反応機器、(xxiv)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−分子反応機器、(xxv)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−原子反応機器、(xxvi)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−準安定イオン反応機器、(xxvii)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−準安定分子反応機器、および(xxviii)イオンを反応させて付加イオンまたは生成イオンを形成するためのイオン−準安定原子反応機器、からなる群より選択される1つまたは2つ以上の衝突、フラグメンテーション、または反応のセル、ならびに/あるいは
(f)(i)四重極質量分析器、(ii)2D型または直線型の四重極質量分析器、(iii)Paulによるまたは3D型の四重極質量分析器、(iv)Penningトラップ質量分析器、(v)イオントラップ質量分析器、(vi)磁場セクタ型質量分析器、(vii)イオンサイクロトロン共鳴(「ICR」)質量分析器、(viii)フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(「FTICR」)質量分析器、(ix)静電型またはオービトラップ質量分析器、(x)フーリエ変換静電型またはオービトラップ質量分析器、(xi)フーリエ変換質量分析器、(xii)飛行時間型質量分析器、(xiii)直交加速方式飛行時間型質量分析器、および(xiv)線形加速方式飛行時間型質量分析器からなる群より選択される質量分析器、
のいずれかを備える質量分析計。
【請求項16】
質量分析の方法であって、
先行期間にわたり、イオン検出器から出力される第1の信号の中央値またはその他のパーセント点を、動的に決定することと、
前記中央値またはその他のパーセント点を前記第1の信号から動的に減じて、第2の信号を生成することと、
もし前記第2の信号が閾値を実質的に超えないならば、前記第2の信号に前記閾値を動的に適用し、第2の信号値をゼロに設定することと、
を備える方法。
【請求項17】
質量分析計であって、
先行期間にわたり、イオン検出器から出力される第1の信号の中央値またはその他のパーセント点を、動的に決定するための機器と、
前記第1の信号から前記中央値またはその他のパーセント点を動的に減じて、第2の信号を生成するための機器と、
もし前記第2の信号が閾値を実質的に超えないならば、前記第2の信号に前記閾値を動的に適用し、第2の信号値をゼロに設定するための機器と、
を備える質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−527019(P2010−527019A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507972(P2010−507972)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001663
【国際公開番号】WO2008/139193
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509314666)マイクロマス・ユーケイ・リミテッド (19)
【氏名又は名称原語表記】MICROMASS UK LIMITED
【Fターム(参考)】