説明

質量流量コントローラにおける熱吸引の補償

【課題】流体の流量を制御する熱式質量流量コントローラを提供する。
【解決手段】熱式質量流量コントローラは、流体を受けるように構成されている導管と、流体が導管内を通過する際に、流体の圧力を測定するように構成されている圧力センサと、流体の周囲温度を測定するように構成されている温度センサと、流体の流速を表す出力を発生するように構成されている熱センサとを含む。熱式質量流量コントローラは、更に、熱センサからの出力、圧力センサによって測定した圧力、および温度センサによって測定した周囲温度を監視し、熱吸引によって起こる熱センサの出力のずれを補償するように、導管内における流体の流量を規制するように構成されている制御システムを含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
質量流量コントローラ(MFC)における熱吸引(thermal siphoning)は、加熱された熱式流量センサとバイパスとの間における自由滞留によって生ずる連続的な気体の循環と言うことができる。熱吸引の結果、実際の出力流速がゼロである場合でも、流速がゼロでない出力信号が発生する可能性があり、ゼロ点ドリフトと似ている。MFCの設計の中には、質量流量コントローラを垂直に設置すると熱吸引効果が一層発生し易くなる場合があり、流速を制御しようとしている流体の分子重量および圧力に比例して変動する虞れがある。
【0002】
質量流量コントローラにおけるゼロ点較正がずれる原因となることに加えて、熱吸引は、質量流量コントローラの質量流量メータのスパン即ちダイナミック・レンジの較正ずれも起こす虞れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
熱式質量流量コントローラにおける熱吸引効果を低減する、またはこれを補償する方法およびシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
流体の流量を制御する熱式質量流量コントローラは、流体を受けるように構成されている導管と、流体が導管内を通過する際に、流体の圧力を測定するように構成されている圧力センサと、流体の周囲温度を測定するように構成されている温度センサと、流体の流速を表す出力を発生するように構成されている熱センサとを含む。熱式質量流量コントローラは、更に、熱センサからの出力、圧力センサによって測定した圧力、および温度センサによって測定した周囲温度を監視し、熱吸引によって起こる熱センサの出力のずれを補償するように、導管内における流体の流量を規制するように構成されている制御システムを含む。
【0005】
熱式質量流量コントローラにおいて熱吸引を補償する方法について記載する。熱式質量流量コントローラは、導管の入口および出口の間において流体の流動を可能にするように構成されている導管と、流体の流速を表す出力を発生するように構成されている熱センサとを含む。本方法は、流体の圧力および流体の周囲温度の測定値を監視する動作と、熱吸引によって起こる熱センサの出力のずれを検出する動作と、検出したずれを補償するように、導管の入口に流入し導管の出口から流出する流体の流量を規制する動作とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
熱式質量流量コントローラにおける熱吸引を大幅に低減する、またはこれを補償するシステムおよび方法について記載する。
【0007】
図1Aおよび図1Bは、流体の質量流速を測定し制御する典型的な熱式MFCの動作を模式的に示し、更に図1Bに示すようにMFCを垂直に取り付けたときに発生する可能性がある熱吸引も示す。図1Aは、水平に取り付けた熱式MFCを示し、一方図1Bは、図1Aに示すMFCと同じ熱式MFCを示すが、垂直に取り付けられている。全体像では、熱式MFCは、流体の熱特性を用いて、流体が流れてセンサを通過する際における加熱センサの温度変化を監視することによって、流体の質量流速を測定することができる。熱式MFCは、通例、実際には流体の質量流速を測定する熱式質量流量計と、測定流量が所望の流量設定点に等しくなるように、流体の流速を規制する制御アセンブリ(弁と、弁の作動を制御する電子制御回路とを含む)とを含めばよい。通例、熱MFCは、気体および蒸気の質量流速を測定すると考えられるが、気体および蒸気以外の流体の流速も測定することができる。
【0008】
図1Aを参照すると、熱式MFC100は、熱式質量流量センサ・アセンブリ110、流速を測定/制御する流体を入口122において受けるように構成されている導管または流動本体(flow body)、および導管120内部にあるバイパス130を含むことができる。更に、熱式MFC100は、弁140、および導管120の出口123からの流体の流れを制御して供給するように、弁140の動作を制御する制御システム150を含むことができる。
【0009】
導管120または流動本体は、主流路即ちチャネル124を規定することができ、少なくとも部分的に、センサ受容壁即ちセンサ受容面170と接している。図示する実施形態では、センサ受容面170は、主流路124と実質的に平行となって示されている。導管120の入口122を通ってMFCに導入される流体の大部分は、主流路124を通過することができる。比較的少量の流体が、バイパス130によって流れを変えられ、熱式質量流量センサ・アセンブリ110を通過することができ、バイパス130の下流で主流路124に再度入ることができる。バイパス130は、圧力降下バイパスとし、主流路124間に圧力低下を発生し、流入する流体に作用して、比較的少量が熱式質量流量アセンブリを通過するようにするとよい。センサ管200の入口および出口は、主流路124の入口および出口と一致するとよく、したがって、バイパス130間の圧力降下は、センサ管200間の圧力降下と同一となることができる。
【0010】
熱式質量流量センサ・アセンブリ110は、導管120の境界の少なくとも一部を形成するセンサ受容面170に取り付けることができる。熱式質量流量センサ・アセンブリ110は、流入する流体の方向転換した部分を、センサ200の入口230および出口240間にある熱センサ内に流入させるように構成されている熱センサ200、センサ管を加熱するように構成されているセンサ・ヒータ、およびセンサに沿った2箇所以上の場所の間で温度差を測定するように構成されている温度測定システムを含むことができる。通例、熱センサ200は、センサ管としてもよい。センサ管200は、壁が薄く、小径の毛細管とすればよく、ステンレス鋼で作ればよいが、センサ管200には異なるサイズ、外形、および材料も用いることができる。
【0011】
センサ管200は、図1Aでは主流路に対して平行に水平方向に配置されて示されている熱検知部210、および図1Aでは垂直に示されている2本の脚部212を含むことができる。1対の抵抗性エレメント250および251が、熱検知部210に沿った異なる場所において、管200の熱検知部210と熱的に接触するように配置することができ、センサ管ヒータおよび温度測定システムの一部の双方として機能することができる。図1Aに示すように、抵抗性エレメント250および251は、抵抗性コイルとするとよく、これらは管の熱検知部210に沿った2箇所の場所、即ち、一方は上流側(250)、他方は下流側(251)において管200の周囲に巻回されている。センサ管200は、電流を抵抗性エレメントに印加することによって加熱することができる。このように、抵抗性エレメントは、管のヒータとして機能することができる。
【0012】
センサ管の入口に導入した流体が、実質的一定の流速で、加熱されたセンサ管を通過するに連れて、上流側エレメント250に比較して、下流側抵抗性エレメント251には増々多くの熱を移転させることができる。上流側のコイル250は、流体流によって冷却され、その熱の一部を、傍らを流れる流体に与えることができ、下流側コイル251は、加熱され、流体流に与えられたこの熱の一部を取り込むことができる。その結果、このようにして温度差ΔTを2つのエレメント間に生じさせることができ、センサ管を通過する流体の分子数(即ち、流体の質量)の尺度を提供することができる。温度差によって生ずる抵抗性エレメントの各々の抵抗変化を測定すると、温度差を判定することができ、その結果、流体の質量流速の関数として、質量流量計から出力信号が得られる。この出力信号は電圧信号とするとよいが、他の種類の信号も、熱式流量センサの出力には用いることができる。
【0013】
熱センサ管をある方位で取り付ける場合、特に、水平方向以外の方向に熱センサ部210を向ける程、センサ管が加熱されるに連れてセンサ管内部で発生する熱勾配が原因となって、熱吸引が発生する可能性がある。以下に説明するように、熱吸引は、図1Bに示すように制御弁が完全に閉鎖している場合であっても、垂直に取り付けたMFCには発生する可能性がある。
【0014】
加熱されたセンサ管の表面から気体に熱が移転するにつれて、加熱されたセンサ管内部にある気体の温度が上昇し、気体の密度が減少すると考えられる。バイパス区域内にある、冷たく密度が高い気体は、重力によって下降させられると考えられる。一方、これによって、加熱されたセンサ管内にある熱く軽い気体は上昇させられると考えられる。バイパス区域が十分に冷たい場合、加熱されたセンサ管から上昇する熱い気体は再度冷却し下降する。このように、MFC内部における気体の連続的な循環は、一般には熱吸引と呼ばれており、出力流がゼロとなるべく制御弁を完全に閉じても、発生する。
【0015】
図1Aに示すように、MFCを水平に取り付けると、対流力を合わせると0になると考えられるので、熱吸引は見られない。センサ管の水平区間210は、対流力を発生せず、2本の垂直脚部212が発生する対流力が相殺するので、浮力の合計はゼロになると考えられる。
【0016】
図1Bに示すように、MFCを90度回転させて垂直に取り付けると、センサ脚部212はもはや対流力を発生することはできない。しかしながら、熱検知部210がヒータ・コイルを内蔵しており、この状態では対流力を発生すると考えられる。何故なら、この場合熱検知部210は、水平ではなく、垂直に向けられているからである。バイパスが加熱されないので、対流の対立(convective opposition)がなく、熱吸引は発生しないと考えられる。
【0017】
一般に、熱吸引は、熱センサ出力信号におけるずれの原因となる虞れがある。熱吸引は、ゼロのずれを起こす、即ち、無出力を非ゼロ信号にずらす虞れがある。また、熱吸引は、スパンまたはダイナミック・レンジ、即ち、意図する最大流速までの質量流量計の関連する測定範囲がカバーする流速のずれを起こす虞れもある。その結果、実際の流量測定値は、流体の入口圧力および性質の関数とはならない場合がある。ゼロおよびスパン(ダイナミック・レンジ)に対する熱吸引の効果は、入口圧力および気体密度が高い程、大きくなると考えられる。
【0018】
熱吸引は、グラスホフ数(G)によって支配されると考えられる。通例、グラスホフ数は、熱吸引問題の激しさを測定するために用いることができる。グラスホフ数は、浮力の粘性力の二乗に対する比であり、一般に、センサ管周囲における自由流体熱移転を表すことができる。
【0019】
具体的には、流体が気体である一実施形態では、グラスホフ数G(次元はない)は以下の式で示すことができる。
【0020】
【数3】

【0021】
ここで、
g=重力定数
ρ=気体密度
α=気体熱体積膨張係数
T=気体温度
=周囲温度
d=センサ管の内径、および
μ=気体粘度
である。
【0022】
式(1)から分かるように、熱吸引に影響を及ぼす主要な要因には、気体密度、およびセンサ管の直径が含まれると考えられる。式(1)は、MFCにおけるセンサ管の内径を短くすれば、一般に熱吸引の効果が低減できることを示すが、このような小さな直径を有する管を製造することは難しく実用的でない場合もあり、更にMFCの設計のダイナミック・レンジを狭める可能性がある。MFCの取付姿勢は、熱吸引に大きな効果があるが、この効果はグラスホフ数の対象にはならない。
【0023】
理想気体法則を用いると、密度ρは、次の式で示される。
【0024】
【数4】

【0025】
ここで、Mは気体分子重量、Pは気体の圧力、そしてRはガス法則定数である。式(2)を式(1)に代入すると、次の式が得られる。
【0026】
【数5】

【0027】
式(3)において、R、d、およびgは定数であり、α、μ、およびMは所与の気体について既知であり、周囲温度Tは温度センサによって測定し、TはTに依存し、気体圧力Pは圧力センサによって測定する。つまり、グラスホフ数が決定される。
【0028】
熱式流量センサのゼロ流量電圧信号Vzeおよび最大範囲流量電圧信号Vfsは、以下のように、グラスホフ数およびMFC取付姿勢/位置を用いる数学的モデルによって決定することができる。
【0029】
【数6】

【0030】
【数7】

【0031】
式(4)および式(5)において、PosはMFC取付姿勢またはセンサ管の方位を示すフラグである。式(4)および式(5)は、更に、次のように一般化することができる。
【0032】
【数8】

【0033】
【数9】

【0034】
前述の式(6)および式(7)において、Pは圧力センサによって測定することができ、Tは温度センサによって測定することができ、α、μ、Mは気体特性であり、Posは、所定の係数(factor)である。言い換えると、式(6)および式(7)は、VzeおよびVfsが、測定した圧力および測定した周囲温度の既知の経験的関数であることを示す。
【0035】
熱式MFCは、所定の固定圧力P、固定周囲温度Ta0、および固定位置Posによって較正することができる。つまり、熱センサ出力電圧対流速の較正表は、次のように作成することができる。
【0036】
【表1】

【0037】
上の表において、熱センサ電圧Vは、較正圧力P、較正周囲温度Ta0、および較正位置Posにおける流量Qに対応する。
【0038】
較正表は、制御システムに保存し、後の時点における流量較正に用いることができる。入口圧力、周囲温度、およびMFC取付位置が変化しない場合、較正表は変化せず、熱式流量センサの電圧出力に基づいて、流速を判定するために直接用いることができる。しかしながら、入口圧力および/または周囲温度および/またはMFC取付位置が変化した場合、熱式流量センサの電圧出力は、熱吸引のためにずれる可能性がある。これが発生した場合、較正表はもはや正確でない、即ち、有効でないと考えられる。VzeおよびVfsは式(6)および式(7)にしたがって変化する、即ち、ずれることは分かっているので、熱吸引効果によって起こる熱式流量センサの電圧出力のずれを補償することができる。
【0039】
熱式流量センサの電圧出力に対する単純な線形補償は、次のように定式化することができる。
【0040】
1.入口圧力がP、周囲温度がT、新しいMFC取付位置がPos、そして熱式流量センサの出力電圧がVであると仮定する。
【0041】
2.ゼロ流量電圧をVze1、最大目盛流量電圧をVfs1として、式(6)および式(7)にしたがって計算する。
【0042】
3.以下の式(8)または式(9)を用いて、熱吸引を補償した熱センサ出力電圧V’を計算する。
【0043】
【数10】

すなわち
【0044】
【数11】

【0045】
4.較正表を検索して、補償熱センサ電圧出力V’に基づいて、対応する流速を見つける。
【0046】
以上の補償方法は、線形および非線形双方の方法を含み、式(6)および式(7)に基づいて、熱式流量センサ電圧出力に対する熱吸引の効果を補償するために用いることができる多くの補償方法の1つに過ぎない。式(1)から式(9)を用いることによって、そして入口圧力、周囲温度、およびMFC取付位置に対する観察を用いることによって、熱吸引によって起こる熱式流量センサの電圧出力のずれを著しく低減する、または補償することができる。即ち、MFCの中に、圧力および周囲/入口温度を測定する圧力センサおよび温度センサを含ませることによって、熱式MFCを垂直に取り付けると、特に大口径の熱式質量流量センサでは、熱吸引効果を大幅に低減することができる。制御システムは、熱吸引によって起こる熱式流量センサの電圧出力を大幅に低減するまたは補償するような方策で流体の流量を規制するように、圧力および温度測定値を監視するように較正することができる。
【0047】
図2Aは、圧力センサおよび温度センサを熱式MFC上に含ませることによって、そして圧力および温度測定値を監視して、熱吸引効果を大幅に低減することによって、熱吸引によって起こる熱式流量センサの出力信号のずれを大幅に低減するまたは補償するように設計した熱式MFC300を示す。
【0048】
全体像では、熱式MFC300は、熱式質量流量センサ310、入口322において、流速を測定/制御している流体を受けるように構成されており、流体が流出する出口323を有する導管320、および導管320内部にあるバイパス330を含む。熱式MFC300は、更に、弁340、ならびに導管320の入口322に流入し出口323から流出する流体の流量を規制するように弁340の動作を制御する制御システム370も含む。熱式流量センサ管は、ゼロ流量電圧信号Vzeおよび最大メモリ電圧信号Vfsを有することができ、入口流体圧力、入口流体温度、および加熱した流量センサ管の方位の関数とすることができる。
【0049】
熱式MFC300は、更に、温度測定システム360、圧力センサ380、および温度センサ390も含む。温度測定システム360は、加熱した流量センサ管に沿った2箇所以上の場所間における温度差を測定するように構成されている。圧力センサ380は、流体が主流路に沿って流れる際に、流体の圧力Pを測定するように構成されている。温度センサ390は、流体の周囲温度Tを測定するように構成されている。熱式流量センサは、測定した温度差を電圧出力信号Vに変換するように構成することができ、電圧出力信号を検出するように構成されている電圧検出器を含むことができる。
【0050】
熱式流量センサによる流速測定、圧力センサによる圧力測定、および温度センサによる温度測定に応答して、制御システム370は、導管320の入口に流入し出口から流出する流体の流量を規制し、熱式流量センサの電圧出力において検出されるずれを実質的に排除するまたは補償できるように構成されている。
【0051】
圧力センサ380は、熱式流量センサ310の下流側または上流側のいずれにも取り付けることができる。図2Bは、圧力センサ380および温度センサ390が熱式MFC上に取り付けられ、圧力センサ380が熱式流量センサ310の下流側に位置する熱式MFCを示す。
【0052】
要約すると、入口圧力および周囲温度情報を用いて熱式流量センサの出力信号のずれを補償することによって、熱式質量流量コントローラにおける熱吸引効果を大幅に低減するシステムおよび方法について説明した。
【0053】
以上、MFCにおいて熱吸引を実質的に排除する装置および方法のある種の実施形態について説明したが、これらの実施形態において暗示される概念は、他の実施形態においても同様に用いられることは言うまでもない。本願の保護は、以下に続く特許請求の範囲のみに限定される。
【0054】
これらの特許請求の範囲において、単数とした要素に言及する場合、具体的にそのように述べられていない限り、「1つのみ」を意味することを意図しているのではなく、「1つ以上」を意味するものとする。本開示全体を通じて記載されている種々の実施形態の要素と構造的および機能的に等価であり、当業者には周知であるまたは今後周知になる要素は、ここで引用したことにより、明示的に本願にも含まれるものとし、特許請求の範囲に包含されることを意図する。更に、ここに開示したいずれもが、かかる開示が明示的に特許請求の範囲に明記されているか否かには係わらず、公衆(the public)に献呈されることは意図していない。いずれの請求項の要素も、当該要素が「するための手段」という句を用いて明示的に明記されていなければ、または方法の請求項の場合、当該要素が「するためのステップ」という句を用いて明記されていなければ、35U.S.C.§112、第6節の規程にしたがって解釈しないこととする。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1A】図1Aは、熱式質量流量コントローラの動作、および熱吸引減少を模式的に示す。
【図1B】図1Bは、熱式質量流量コントローラの動作、および熱吸引減少を模式的に示す。
【図2A】図2Aは、熱式MFCを示し、熱吸引効果を低減するために、熱式MFC上に圧力センサおよび温度センサを取り付けている。圧力センサは、熱式流量センサの上流側に取り付けられている。
【図2B】図2Bは、熱式MFCを示し、熱吸引効果を低減するために、熱式MFC上に圧力センサおよび温度センサを取り付けている。圧力センサは、熱式流量センサの下流側に取り付けられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流量を制御する熱式質量流量コントローラであって、
前記流体を受けるように構成されている導管と、
前記流体が前記導管内を通過する際に、前記流体の圧力を測定するように構成されている圧力センサと、
前記流体の周囲温度を測定するように構成されている温度センサと、
前記流体の流速を表す出力を発生するように構成されている熱センサと、
前記熱センサからの出力、前記圧力センサによって測定した圧力、および前記温度センサによって測定した周囲温度を監視し、熱吸引によって起こる前記熱センサの出力のずれを補償するように、前記導管内における流体の流量を規制するように構成されている制御システムと、
を備えている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項2】
請求項1記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記熱センサの出力は、電圧出力から成り、
前記熱センサを加熱すると、前記流体が当該加熱されたセンサ内を通過する際に温度差を発生するように構成されており、前記温度差を測定するように構成されている温度測定システムを含み、
前記熱センサは、前記測定した温度差を前記電圧出力に変換するように構成されている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項3】
請求項2記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記制御システムは、流体流がゼロのときの電圧出力を表すゼロ流量電圧Vzeと、流体流が最大目盛のときの電圧出力を表す最大目盛流量電圧Vfsとによって前記熱センサを較正するように構成されており、
zeおよびVfsは、前記圧力センサによって測定する圧力と、前記温度センサによって測定する温度との既知の経験的関数である、熱式質量流量コントローラ。
【請求項4】
請求項3記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記熱センサは、管状外形を有する熱センサ管を備えており、
zeおよびVfsは、更に、前記測定した圧力および温度に依存するグラスホフ数Gの既知の経験的関数であり、
前記グラスホフ数Gは、次の式で示され、
【数1】

ここで、gは重力定数であり、
は、前記温度センサによって測定した周囲温度であり、
Tは、前記流体の温度であり、Tに依存し、
dは、前記熱センサ管の直径であり、
Mは、前記流体の質量であり、
Pは、前記圧力センサによって測定した圧力であり、
μは、前記流体の粘度であり、
Rは、普遍的ガス法則定数である、熱式質量流量コントローラ。
【請求項5】
請求項4記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
zeおよびVfsは、更に、前記主流路に対する前記熱センサ管の方位に依存する、熱式質量流量コントローラ。
【請求項6】
請求項5記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記熱センサ管の方位は、パラメータPosによって表され、
ここで、VzeおよびVfsは、既知の経験的関数fze(P,T,α,μ,M,Pos)およびffs(P,T,α,μ,M,Pos)によってそれぞれ表される、熱式質量流量コントローラ。
【請求項7】
請求項6記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記制御システムは、更に、対応する流速0,...,Q,...,およびQfs0における前記出力電圧の複数の較正値Vze0,...V,...Vfs0を計算し格納することによって、較正圧力P、較正周囲温度T、および較正方位Posにおいて、前記熱センサ出力を較正するように構成されており、
前記制御システムは、更に、前記複数の格納した較正値に基づいて、熱吸引によって起こる前記熱センサ出力のずれを補償するように構成されている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項8】
請求項7記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記制御システムは、更に、熱吸引によって起こる前記シフトを補償するために、内挿補間を実行するように構成されている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項9】
請求項8記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記内挿補間は、線形補間および非線形補間の内少なくとも1つから成る、熱式質量流量コントローラ。
【請求項10】
請求項7記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記制御システムは、更に、熱吸引を補償した熱センサの電圧出力Vを計算するために、圧力、温度、および出力電圧のそれぞれの測定値P、TV、およびVにおいて、前記既知の経験的関数fze(P,T,α,μ,M,Pos)およびffs(P,T,α,μ,M,Pos)を用いて、ゼロ流量電圧Vze1および最大目盛電圧Vfs1を計算するように構成されており、
前記制御システムは、更に、前記複数の格納した較正値を検索して前記計算したV’に基づいて対応する流速を求めることによって、熱吸引を補償した流速を判定するように構成されている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項11】
請求項10記載の熱式質量流量コントローラにおいて、
前記制御システムは、線形補間を実行することにより、熱吸引によって起こるずれを補償するように構成されており、
前記制御システムは、以下の式を用いて、Vze1、Vfs1に関してV’を計算するように構成されている、熱式質量流量コントローラ。
【数2】

【請求項12】
請求項1記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記圧力センサは、前記温度センサに比較して、上流側に位置する、熱式質量流量コントローラ。
【請求項13】
請求項1記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記圧力センサは、前記温度センサに比較して、下流側に位置する、熱式質量流量コントローラ。
【請求項14】
請求項1記載の熱式質量流量コントローラであって、更に、前記導管内にバイパスを備えており、該バイパスは、流体の一部を前記熱センサの入力端に向けて方向転換させるように、前記導管の入口に入る流体の流れを制限するように構成されている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項15】
請求項14記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記バイパスは、前記熱センサ間に圧力差を発生するように構成されている圧力降下バイパスから成る、熱式質量流量コントローラ。
【請求項16】
請求項2記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記温度測定システムは、
1対の感熱抵抗性エレメントであって、各々、当該エレメントの温度の関数として変動する抵抗を有する、感熱抵抗性エレメントと、
各エレメントの抵抗を測定することにより、前記エレメントの各々の温度を判定するように構成されている測定回路と、
を備えている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項17】
請求項1記載の熱式質量流量コントローラであって、更に、前記熱センサの少なくとも一部を加熱するように構成されているヒータを備えている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項18】
請求項17記載の熱式質量流量コントローラにおいて、前記ヒータは、電流を供給すると、前記センサの熱検知部を抵抗的に加熱するように構成されている1対の加熱コイルを備えている、熱式質量流量コントローラ。
【請求項19】
流体の流量を制御する熱式質量流量コントローラにおいて熱吸引を補償する方法であって、前記熱式質量流量コントローラは、前記導管の入口および出口の間において前記流体の流動を可能にするように構成されている導管と、前記流体の流速を表す出力を発生するように構成されている熱センサとを含み、
前記流体の圧力および前記流体の周囲温度の測定値を監視する動作と、
熱吸引によって起こる前記熱センサの出力のずれを検出する動作と、
前記検出したずれを補償するように、前記導管の入口に流入し前記導管の出口から流出する前記流体の流量を規制する動作と、
を備えている、方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、前記検出したずれを補償するように、前記流体の流量を規制する動作は、流体流がゼロのときの電圧出力を表すゼロ流量電圧Vzeと、流体流が最大目盛のときの電圧出力を表す最大目盛流量電圧Vfsとによって前記熱センサを較正する動作を含み、
zeおよびVfsは、前記圧力センサによって測定する圧力と、前記温度センサによって測定する温度との既知の経験的関数である、方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、
zeおよびVfsは、前記熱センサの方位Posの既知の関数であり、
前記検出したずれを補償するように、前記流体の流量を規制する動作は、更に、
対応する流速0,...,Q,...,及びQfs0における前記出力電圧の複数の較正値Vze0,...V,...Vfs0を計算し格納することによって、較正圧力P、較正周囲温度T、および較正方位Posにおいて、前記熱センサ出力を較正する動作、及び
前記複数の格納した較正値に基づいて、熱吸引によって起こる前記熱センサ出力のずれを補償する動作、
を含む、方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法において、
前記検出したずれを補償するように前記流体の流量を規制する動作は、更に、
熱吸引を補償した熱センサの電圧出力Vを計算するために、圧力、温度、および出力電圧のそれぞれの測定値P、T、およびVにおいて、前記既知の経験的関数fze(P,T,α,μ,M,Pos)およびffs(P,T,α,μ,M,Pos)を用いて、ゼロ流量電圧Vze1および最大目盛電圧Vfs1を計算する動作、及び
前記複数の格納した較正値を検索して前記計算したV’に基づいて対応する流速を求めることによって、熱吸引を補償した流速を判定する動作、
を含む、方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2009−524821(P2009−524821A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552289(P2008−552289)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/041153
【国際公開番号】WO2007/086960
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(592053963)エム ケー エス インストルメンツ インコーポレーテッド (114)
【氏名又は名称原語表記】MKS INSTRUMENTS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】