説明

質量測定の精度を維持するためのシステムおよび方法

試料の各質量分析スキャン中に、以前のスキャンに基づいて基準特徴が更新される。基準特徴信頼値を伴う基準特徴は、複数の初期スキャンから生成される。試料の各後続スキャンについて、試料特徴および試料特徴信頼値が計算される。基準特徴と試料特徴とは、共通特徴を決定するように整合される。共通特徴の信頼加重回帰を使用して、質量分析計の質量式のための定数が決定される。試料特徴の新しい質量値を計算するために、定数および質量式が使用される。試料特徴を使用して基準特徴が更新され、較正のための基準特徴の精度を維持するために基準特徴信頼値が再計算される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
質量分析計の較正は、計器の作動にとって不可欠な部分であるが、較正後に一定期間にわたって質量を割り当てる能力は、計器の高周波数および低周波数の変化によって悪影響を受ける。高周波数変化は、スキャン毎に生じ、電力供給の不安定性、ノイズ、および他の要因を原因としている。低周波数の変化は、例えば、温度変化による緩やかな変化によって生じる。
【0002】
原則的には、全てのスキャンを較正するために基準化合物を使用することが可能であるが、これにはいくつかの欠点がある。化合物を導入するための方法が必要となる。基準化合物の質量範囲は、対象とする範囲を含む必要がある。基準および被分析物の信号レベルは、化合物を抑制する被分析物または被分析物を抑制する化合物によって妨害され得る、適正な値に維持する必要がある。最適な結果のために、および完全な質量範囲を含むためには、概して、いくつかの化合物(例えば、10の化合物)が必要である。最後に、全てのスキャンを較正するために基準化合物を使用すると、実験はより複雑になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本教示の1つ以上の実施形態を詳細に記載する前に、当業者は、本教示が、それらの応用において、以下の発明の詳細な説明に記載されるか、または図面に示される構造の詳細、構成要素の配列、およびステップの配列に制限されていないことを理解するであろう。また、本明細書で使用される表現および用語は、説明目的であり、制限するものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0004】
当業者は、以下に記載する図面が例示目的のみであることを理解するであろう。図面は、いかなる方法によっても、本教示の範囲を制限するよう意図されない。
【図1】図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステムを示すブロック図である。
【図2】図2は、現在の教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法を示す例示的なフローチャートである。
【図3】図3は、本教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するためのシステムを示す概略図である。
【図4】図4は、本教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法を実施する個別のソフトウェアモジュールのシステムの概略図である。
【図5】図5は、本教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法による、およびこの方法によらない、試料の多数のスキャンにおける特定の質量の質量精度の例示的なプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
(コンピュータによって実装されるシステム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム100を示す、ブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するための、バス102と連結されるプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100はまた、ベースコールを決定するための、バス102に連結されるランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得る、メモリ106と、プロセッサ104によって実行される命令とを含む。メモリ106はまた、プロセッサ104によって実行される命令の実行中に一時的な変数または他の中間情報を記憶するために使用され得る。コンピュータシステム100はさらに、プロセッサ104に対する静的情報および命令を記憶するための、バス102に連結されるリードオンリメモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスを含む。情報および命令を記憶するために、磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110が提供され、バス102に連結される。
【0006】
コンピュータシステム100は、コンピュータユーザに情報を表示するための、陰極線管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に、バス102を介して連結され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114が、プロセッサ104に情報およびコマンド選択を通信するために、バス102に連結される。他の種類のユーザ入力デバイスは、プロセッサ104に方向情報およびコマンド選択を通信するための、およびディスプレイ112上でのカーソル移動を制御するための、マウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。この入力デバイスは典型的には、デバイスが平面内で位置を指定することを可能にする、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)の2つの軸において2つの自由度を有する。
【0007】
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある特定の実装に従って、メモリ106中に含まれる1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを実行するプロセッサ104に応答して、コンピュータシステム100によって結果がもたらされる。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ可読媒体から、メモリ106に読み込まれ得る。メモリ106中に含まれる命令のシーケンスの実行によって、プロセッサ104は、本明細書に記載するプロセスを実施する。あるいは、本教示を実行するためのソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、有線回路が使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路およびソフトウェアの任意の特定の組み合わせに限定されない。
【0008】
ここで使用される「コンピュータ可読媒体」という用語は、実行のために、プロセッサ104に命令を提供することに関与する、任意の媒体を指す。そのような媒体は、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体が挙げられるが、これらに限定されない、多くの形態を取り得る。不揮発性媒体としては、例えば、記憶デバイス110等の光または磁気ディスクが挙げられる。揮発性媒体としては、メモリ106等の動的メモリが挙げられる。伝送媒体としては、バス102を含むワイヤを含む、同軸ケーブル、銅線、および光ファイバが挙げられる。
【0009】
コンピュータ可読媒体の一般的な形態としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、もしくは任意の他の磁気媒体、CD−ROM、任意の他の光媒体、パンチカード、紙テープ、任意の他の孔パターンを有する物理媒体、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH−EPROM、任意の他のメモリチップもしくはカートリッジ、または任意の他のコンピュータが読み取ることができる有形媒体が挙げられる。
【0010】
実行のために、プロセッサ104に1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを伝送することに、種々の形態のコンピュータ可読媒体が関与し得る。例えば、命令は、最初、リモートコンピュータの磁気ディスク上で伝送され得る。リモートコンピュータは、命令をその動的メモリにロードし、モデムを使用して電話線を通して命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルなモデムは、電話線上でデータを受信し、赤外線トランスミッタを使用して、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に連結される赤外線検出器は、赤外線信号で伝送されるデータを受信し、バス102上にデータを配置することができる。バス102は、データをメモリ106に伝送し、そこから、プロセッサ104は、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信される命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前あるいは後に、記憶デバイス110上に記憶され得る。
【0011】
種々の実施形態に従って、方法を実施するようにプロセッサによって実行されるように構成される命令は、コンピュータ可読媒体上に記憶される。コンピュータ可読媒体は、デジタル情報記憶するデバイスであり得る。例えば、コンピュータ可読媒体は、ソフトウェアを記憶するための、当該技術分野で既知のような、コンパクトディスクリードオンリーメモリ(CD−ROM)を含む。コンピュータ可読媒体は、実行されるように構成される命令を実行するのに好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0012】
本教示の種々の実装の以下の説明は、例示および説明目的で示されている。それは、包括的なものではなく、本教示を開示される正確な形態に限定しない。修正および変更が、上記の教示を踏まえて可能であるか、または本教示の実践から得られ得る。さらに、記載された実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独で実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向プログラミングシステムの両方で実装され得る。
【0013】
(データ処理の方法)
概して、質量分析計の質量式は、1つ以上の測定された変数および定数の関数として表すことができる。例えば、飛行時間型(TOF)計測器において、測定された変数は飛行時間(t)であり、質量式は、
【0014】
【化1】

であり、式中、定数はaおよびtである。
【0015】
個々の質量分析スキャンの較正を修正するために単一化合物の連続的な導入(ロック質量)が使用されているが、パフォーマンスは低い。これは、単一の測定では、質量式における定数の全てを調整することが可能ではないためである。例えば、TOF測定器の質量式において、定数aおよびtの両方を調整することは可能ではない。加えて、単一のピークを使用することによって導入される誤差は、平均化により誤差が低減し、干渉に対して影響を受けにくくなるため、常に、複数のピークを使用する場合よりも大きくなる。
【0016】
質量分析スキャンの較正は、2つの別々のステップを含むこともできる。第1のステップは、既知の質量の1つ以上の化合物を必要とする最良の質量精度を得るための較正を伴う。第2のステップは、共通基準へのシステムの同期の維持を伴い、システムは、正確であることもないこともあり得、その質量または質量(複数)が未知であり得る。第1のステップは、データが取得される前または後に実施することができる。データが取得された後に第1のステップが実施される場合、第1のステップは、初期の共通基準が調整されるため、全てのスペクトルに適用される。
【0017】
種々の実施形態では、システムの共通基準への同期を維持するために、各質量分析スキャン中に、バックグラウンドおよび実験的なスペクトルが取得および使用される。十分な感度およびスペクトル内質量精度を仮定すると、平均的に、全てのイオンは、較正のシフトによって同様に影響を受けるので、全てのイオン(被分析物およびバックグラウンド)を監視し、わずかな較正のシフトを追跡することが可能である。
【0018】
上記の既知のロック質量による較正の調整は、イオンを識別した後のスペクトルの再較正を伴う。さらに、スペクトル内に存在する化合物は、例えばペプチドデータベース検索の結果から識別できる。これらの識別された化合物は、次いで、識別されていないイオンのより良い質量精度を取得するために使用できる。対照的に、各質量分析スキャン中にバックグラウンドおよび実験的なスペクトルが取得および使用されるアプローチにおいて、個別のスペクトルを共通基準に調整するために、複数の未知のイオンが使用される。
【0019】
図2は、本開示に従う試料の質量分析中に、較正基準特徴の精度を維持するための方法200を示す例示的なフローチャートである。
【0020】
方法200のステップ210では、複数の測定を生成する複数のスキャンは、質量分析計を使用して実施され、質量分析計からプロセッサを使用して複数の測定が得られる。実施されるスキャンの数は使用される質量分析計に依存するが、数は、生じている高周波数の変化を正確に含むように十分にすべきである。複数のスキャンは、例えば、複数のバックグラウンドスキャンである。種々の実施形態では、複数のスキャンは、バックグラウンドおよび被分析物を含む複数のスキャンである。
【0021】
ステップ220では、複数の測定から基準特徴が計算され、基準特徴のうちの各基準特徴の基準特徴信頼値は、プロセッサを使用して計算される。基準特徴および基準特徴信頼値は、基準特徴によって表される基準イオンの識別を決定せずに計算される。
【0022】
種々の実施形態では、特徴は、他のデータからの特徴と整合させることができるデータの表示である。特徴は、ピークのリスト、ピークの典型的なもののリスト、またはスペクトルを含むことができるが、これらに制限されない。ピークの典型的なものには、ピークの図心またはピークの重心を含むことができるが、これらに制限されない。基準特徴信頼値は、例えば、基準特徴の強度、基準特徴の飽和度(the degree of saturation)、および基準特徴が観察された回数に基づく。種々の実施形態では、基準特徴および基準特徴信頼値は、ステップ210で実施される複数のスキャンの信頼加重平均から決定される。
【0023】
実行される質量分析の開始時に基準特徴が決定され、例えば、以降の(実験的)スペクトルを修正するように用いられる。基準特徴は、バックグラウンドおよび被分析物の信号変化につれて、以降の実行中に更新される。
【0024】
ステップ230では、質量分析計を使用して試料のスキャンが実施され、複数の試料測定が、プロセッサを使用してスキャンに対して質量分析計から取得される。
【0025】
ステップ240では、複数の試料測定から試料特徴が計算され、プロセッサを使用して、試料特徴の各試料特徴に対して試料特徴信頼値が計算される。試料特徴および試料特徴信頼値は、また、プロセッサを使用して試料特徴によって表される試料イオンの識別を決定せずに計算される。試料特徴信頼値は、例えば、試料特徴の強度および試料特徴の飽和度に基づく。
【0026】
ステップ250では、プロセッサを使用して基準特徴および試料特徴を整合させることにより、基準特徴および試料特徴に共通である共通特徴が決定される。
【0027】
ステップ260では、プロセッサを使用して、共通特徴の信頼加重回帰を使用して、質量分析計の質量式の新しい定数が計算される。回帰は、例えば、標準線形または非線形方法を使用して実施される。多数の共通特徴を検出することにより、質量式の定数のより正確な値が得られる。例えば、多数のピークは30よりも多い。種々の実施形態では、質量式は、飛行時間、四重極、イオントラップ、フーリエ変換、オービトラップ、または磁場型質量分析計についての質量式を含むことができるが、これらに制限されない。飛行時間型質量分析計の質量の式は、例えば、
【0028】
【化2】

である。この式の定数は、aおよびtを含む。
【0029】
ステップ270では、プロセッサを使用して、質量式および新しい定数からの試料特徴について、新しい質量が計算される。
【0030】
ステップ280では、試料特徴を使用して基準特徴が更新され、プロセッサを使用して基準特徴信頼値が再計算される。例えばこれらを試料特徴と統合することにより、基準特徴が更新される。種々の実施形態では、共通特徴によって表されるピークの質量は、基準特徴を試料特徴と統合するように平均化される。新しい試料特徴の信頼値は、最初は低く、試料の以降のスキャンにおいて試料特徴が観察される場合に増加する。種々の実施形態では、基準特徴の更新は、試料特徴のリストにおいて、スキャンの最大数より多く観察されていない、または所定の時間の長さに対して観察されていない、基準特徴を除くことを含む。
【0031】
ステップ230〜280は、試料についてなされる各さらなる質量分析スキャンについて、再び実施される。
【0032】
各スキャンは、その前のスキャンに対して較正されるので、全ての以降のスキャンが初期較正に対して較正される。このアプローチは、低周波数および高周波数の較正シフトの両方を効率的に除去する。なお、ここでも、較正の精密さを維持するためにイオンの識別または質量を知ることは必ずしも必要ではない。分析の前に既知の質量を使用して、または分析後の実行から選択されたスペクトルを較正することにより、絶対較正を実施できる。方法200は、リアルタイムで実施され、例えば、ユーザによる介入を必要としない。
【0033】
図3は、本教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するためのシステム300を示す概略図である。システム300は、質量分析計310およびプロセッサ320を含む。プロセッサ320は、コンピュータ、マイクロプロセッサ、または質量分析計310からの制御信号およびデータを送受信でき、データを処理できるデバイスにすることができるが、これらに制限されない。質量分析計310は、飛行時間型(TOF)、四重極、イオントラップ、フーリエ変換、オービトラップ、または磁気型質量分析計を含むことができるが、これらに制限されない。
【0034】
プロセッサ320は、質量分析計310と通信している。質量分析計310およびプロセッサ320は、多数のステップを実施する。
【0035】
(1)質量分析計310は、複数の測定を生成する複数のスキャンを実施する。
【0036】
(2)プロセッサ320は、質量分析計310から複数の測定を取得する。
【0037】
(3)プロセッサ320は、複数の測定から基準特徴を計算し、基準特徴によって表される基準イオンの識別を決定せずに、基準特徴のうちの各基準特徴についての基準特徴信頼値を計算する。
【0038】
(4)質量分析計310は、試料のスキャンを実施する。
【0039】
(5)プロセッサ320は、スキャンに対して質量分析計310から複数の試料測定を取得する。
【0040】
(6)プロセッサ320は、複数の試料測定から試料特徴を計算し、試料特徴によって表される試料イオンの識別を決定せずに、試料特徴の各試料特徴について、試料特徴信頼値を計算する。
【0041】
(7)プロセッサ320は、基準特徴および試料特徴を整合させることにより、基準特徴および試料特徴に共通である共通特徴を決定する。
【0042】
(8)プロセッサ320は、共通特徴の信頼加重回帰を使用して、質量分析計310の質量式の定数を計算する。
【0043】
(9)プロセッサ320は、質量式および定数から試料特徴の新しい質量を計算する。
【0044】
(10)プロセッサ320は、試料特徴を使用して基準特徴を更新し、基準特徴信頼値を再計算する。
【0045】
ステップ(4)〜(10)は、試料にこれ以上スキャンが実施されなくなるまで繰り返される。
【0046】
種々の実施形態では、コンピュータプログラム製品は、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法を実施するように、そのコンテンツがプロセッサ上で実施される命令を有するプログラムを含む、有形のコンピュータ可読記憶媒体を含む。この方法は、別個のソフトウェアモジュールのシステムによって実施される。
【0047】
図4は、本教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法を実施する個別のソフトウェアモジュールのシステム400の概略図である。システム400は、測定モジュール410と、回帰モジュール420と、基準モジュール430とを含む。
【0048】
測定モジュール410、回帰モジュール420、および基準モジュール430は、多数のステップを実施する。
【0049】
(1)測定モジュール410は、複数のスキャンを実施する質量分析計から複数の測定を取得する。
【0050】
(2)基準モジュール430は、複数の測定から基準特徴を計算し、基準特徴によって表される基準イオンの識別を決定せずに、基準特徴のうちの各基準特徴についての基準特徴信頼値を計算する。
【0051】
(3)測定モジュール410は、試料のスキャンを実施する質量分析計から複数の試料測定を取得する。
【0052】
(4)回帰モジュール420は、複数の試料測定から試料特徴を計算し、試料特徴によって表される試料イオンの識別を決定せずに、試料特徴の各試料特徴についての試料特徴信頼値を計算する。
【0053】
(5)回帰モジュール420は、基準特徴および試料特徴を整合させることにより、基準特徴および試料特徴に共通である共通特徴を決定する。
【0054】
(6)回帰モジュール420は、共通特徴の信頼加重回帰を使用して、質量分析計の質量式の定数を計算する。
【0055】
(7)基準モジュール430は、質量式および定数から試料特徴の新しい質量を計算する。
【0056】
(8)基準モジュール430は、試料特徴を使用して基準特徴を更新し、基準特徴信頼値を再計算する。
【0057】
ステップ(3)〜(8)は、試料にスキャンがこれ以上実施されなくなるまで繰り返される。
【0058】
本教示の側面は、以下の実施例を考慮してさらに理解され得、それらは、いかなる方法によっても、本教示の範囲を制限するものと見なされない。
【0059】
(データ実施例)
図5は、本教示に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法による、およびこの方法によらない、試料の多数のスキャンにおける、特定の質量の質量精度の例示的なプロット500である。
【0060】
プロット500におけるデータ値510は、種々の実施形態に従う、質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するための方法によらない、試料の多数のスキャンにおける特定の質量の質量精度または較正ドリフトを示す。データ値510は、およそプラスマイナス100万分の2〜3の短期間の変化、およびおよそ100万分の6の長期間のドリフトを示す。
【0061】
プロット500のデータ値520は、種々の実施形態に従う、質量分析中の較正基準特徴の精度を維持するための方法による、試料の多数のスキャンにおける特定の質量の質量精度を示す。データ値520は、およそプラスマイナス100万分の0.3の有効精度を示す。なお、これは、典型的には、正確に較正することが困難な高い質量におけるものである(良好な範囲を有する基準化合物を見出すことおよび導入することは困難であり、イオン強度は多くの場合、低い)。
【0062】
本教示は、種々の実施形態と併せて記載されているが、本教示は、そのような実施形態に限定されるよう意図されていない。反対に、本教示は、当業者によって理解されるように、種々の代替物、修正物、および同等物を包含する。
【0063】
さらに、種々の実施形態の記載において、本明細書は、特定のステップの順序として方法および/またはプロセスを示し得る。しかしながら、方法またはプロセスは、該方法またはプロセスが本明細書に記載する特定のステップの順序に依存しない程度にまで、記載する特定のステップの順序に限定されるべきではない。当業者が理解するように、他のステップの順序が可能であり得る。したがって、本明細書に記載する特定のステップの順序は、特許請求の範囲の制限と解釈されるべきではない。さらに、該方法またはプロセスに関する特許請求の範囲は、書かれた順序でのそれらのステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、該順序が変更され、それにもかかわらず、種々の実施形態の精神および範囲の範囲内にとどまることを容易に理解することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の質量分析中に較正基準特徴の精度を維持するためのシステムであって、
質量分析計と、
前記質量分析計と通信しているプロセッサと
を備え、
(a)前記質量分析計は、複数の測定を生成する複数のスキャンを実施し、
(b)前記プロセッサは、前記質量分析計から前記複数の測定を取得し、
(c)前記プロセッサは、前記複数の測定から基準特徴を計算し、かつ、前記基準特徴によって表される基準イオンの識別を決定せずに、前記基準特徴のうちの各基準特徴の基準特徴信頼値を計算し、
(d)前記質量分析計は、試料のスキャンを実施し、
(e)前記プロセッサは、前記スキャンに対する前記質量分析計からの複数の試料測定を取得し、
(f)前記プロセッサは、前記複数の試料測定から試料特徴を計算し、かつ、前記試料特徴によって表される試料イオンの識別を決定せずに、前記試料特徴のうちの各試料特徴の試料特徴信頼値を計算し、
(g)前記プロセッサは、前記基準特徴と前記試料特徴とを整合させることによって、前記基準特徴と前記試料特徴とに共通である共通特徴を決定し、
(h)前記プロセッサは、前記共通特徴の信頼加重回帰を使用して、前記質量分析計の質量式の定数を計算し、
(i)前記プロセッサは、前記質量式および前記定数から前記試料特徴の新しい質量を計算し、
(j)前記プロセッサは、前記試料特徴を使用して前記基準特徴を更新し、かつ前記基準特徴信頼値を再計算し、
(k)ステップ(d)〜(k)は、前記試料にこれ以上スキャンが実施されなくなるまで繰り返される、
システム。
【請求項2】
前記基準特徴は、基準ピークリストを含み、前記試料特徴は、試料ピークリストを含み、前記共通特徴は、共通ピークリストを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記基準特徴は、基準スペクトルを含み、前記試料特徴は、試料スペクトルを含み、前記共通特徴は、共通スペクトルを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
基準特徴信頼値は、基準特徴の基準ピークの強度、前記基準ピークの飽和度、および前記基準ピークが観察された回数に基づく、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
試料特徴信頼値は、試料特徴の試料ピークの強度および前記試料ピークの飽和度に基づく、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、試料特徴において、スキャンの最大数より多く観察されていない基準質量を除去することにより、前記基準特徴を更新する、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記質量式は、飛行時間型質量分析計の質量式を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記定数は、飛行時間型質量分析計の前記質量式の定数を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
試料の質量分析中に較正基準特徴の精度を維持する方法であって、
(a)質量分析計を使用して、複数の測定を生成する複数のスキャンを実施することと、
(b)プロセッサを使用して、前記質量分析計から前記複数の測定を取得することと、
(c)前記プロセッサを使用して、前記複数の測定から基準特徴を計算し、かつ、前記基準特徴によって表される基準イオンの識別を決定せずに、前記基準特徴のうちの各基準特徴の基準特徴信頼値を計算することと、
(d)前記質量分析計を使用して、前記試料のスキャンを実施することと、
(e)前記プロセッサを使用して、前記スキャンに対する前記質量分析計からの複数の試料測定を取得することと、
(f)前記プロセッサを使用して、前記複数の試料測定から試料特徴を計算し、かつ、前記試料特徴によって表される試料イオンの識別を決定せずに、前記試料特徴のうちの各試料特徴の試料特徴信頼値を計算することと、
(g)前記プロセッサを使用して、前記基準特徴と前記試料特徴とを整合させることによって、前記基準特徴と前記試料特徴とに共通である共通特徴を決定することと、
(h)前記プロセッサを使用して、前記共通特徴の信頼加重回帰を使用して前記質量分析計の質量式の定数を計算することと、
(i)前記プロセッサを使用して、前記質量式および前記定数から前記試料特徴の新しい質量を計算することと、
(j)前記プロセッサを使用して、前記試料特徴を使用して前記基準特徴を更新し、かつ前記基準特徴信頼値を再計算することと、
(k)前記試料にこれ以上スキャンが実施されなくなるまで、こと(d)〜(k)を繰り返すことと
を含む、方法。
【請求項10】
前記基準特徴は、基準ピークリストを含み、前記試料特徴は、試料ピークリストを含み、前記共通特徴は、共通ピークリストを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記基準特徴は、基準スペクトルを含み、前記試料特徴は、試料スペクトルを含み、前記共通特徴は、共通スペクトルを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記基準特徴信頼値は、前記基準特徴の基準ピークの強度、前記基準ピークの飽和度、および前記基準ピークが観察された回数に基づく、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記試料特徴信頼値は、前記試料特徴の試料ピークの強度および前記試料ピークの飽和度に基づく、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記基準特徴は、前記試料特徴において、スキャンの最大数よりも多く観察されていない基準質量を除去することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記質量式は、飛行時間型質量分析計の質量式を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記定数は、前記飛行時間型質量分析計の前記質量式の定数を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
有形コンピュータ可読記憶媒体を備えるコンピュータプログラム製品であって、前記有形コンピュータ可読記憶媒体のコンテンツが、試料の質量分析中に較正基準特徴の精度を維持する方法を実施するために、プロセッサ上で実施される命令を伴うプログラムを含み、
前記方法は、
(a)システムを提供することであって、前記システムは、個別のソフトウェアモジュールを含み、前記個別のソフトウェアモジュールは、測定モジュールと、回帰モジュールと、基準モジュールとを備える、ことと、
(b)前記測定モジュールを使用して、複数のスキャンを実施する質量分析計から複数の測定を取得することと、
(c)前記基準モジュールを使用して、前記複数の測定から基準特徴を計算し、かつ前記基準特徴によって表される基準イオンの識別を決定せずに、前記基準特徴のうちの各基準特徴の基準特徴信頼値を計算することと、
(d)前記測定モジュールを使用して、前記試料のスキャンを実施する前記質量分析計から複数の試料測定を取得することと、
(e)前記回帰モジュールを使用して、前記複数の試料測定から試料特徴を計算し、前記試料特徴によって表される試料イオンの識別を決定せずに、前記試料特徴のうちの各試料特徴の試料特徴信頼値を計算することと、
(f)前記回帰モジュールを使用して、前記基準特徴と前記試料特徴とを整合させることにより、前記基準特徴と前記試料特徴とに共通である共通特徴を決定することと、
(g)前記回帰モジュールを使用して、前記共通特徴の信頼加重回帰を使用して前記質量分析計の質量式の定数を計算することと、
(h)前記基準モジュールを使用して、前記質量式および前記定数から前記試料特徴の新しい質量を計算することと、
(i)前記基準モジュールを使用して、前記試料特徴を使用して前記基準特徴を更新し、かつ前記基準特徴信頼値を再計算することと、
(j)前記試料にこれ以上のスキャンが実施されなくなるまで、こと(d)〜(k)を繰り返すことと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項18】
前記基準特徴は、基準スペクトルを含み、前記試料特徴は、試料スペクトルを含み、前記共通特徴は、共通スペクトルを含む、請求項17に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項19】
前記基準特徴は、基準スペクトルを含み、前記試料特徴は、試料スペクトルを含み、前記共通特徴は、共通スペクトルを含む、請求項17に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項20】
基準特徴信頼値は、前記基準特徴の基準ピークの強度、前記基準ピークの飽和度、および前記基準ピークが観察される回数に基づく、請求項17に記載のコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−506835(P2013−506835A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532057(P2012−532057)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2009/059564
【国際公開番号】WO2011/040933
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(509245740)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ (6)
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】