説明

赤外カットフィルタ

【課題】所望の反射帯域の整数分の1の波長領域における光の遮断を抑制する赤外カットフィルタを提供する。
【解決手段】基板1と、基板1上に形成された、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなる多層膜2とを有し、多層膜2において各膜は(LMHM)周期で積層された、又は各膜が(LMHM)周期で積層された部分を有する赤外カットフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種光学機器の光学系に用いられる多層膜積層型の赤外カットフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラや監視カメラ、ビデオカメラ等の撮像装置において、CCDやCMOS等の固体撮像素子と呼ばれる光電変換素子が一般的に用いられている。CCDやCMOS等の撮像素子は、人間の視覚と異なる感度を有しており、人間が感じることのできる波長域(可視域)の他に、可視域よりも波長の長い赤外域の光に対しても感度を有している。そのため、これらの固体撮像素子を可視域の撮像用途に使用する場合、撮像素子から得られた画像情報と、人間が見る画像情報とが異なるという現象が生じる。このような現象を防止するために、一般に固体撮像素子を用いた撮像装置では、選択的に赤外光を遮断し、かつ可視光を透過する機能を有する赤外カットフィルタを撮像素子の前面に配置している。
【0003】
代表的な赤外カットフィルタの一つとして、誘電体積層膜タイプの赤外カットフィルタが挙げられる。誘電体積層膜タイプの赤外カットフィルタは、基板上に誘電体の膜を積層したものであり、積層された膜の各面における光の干渉を利用して、赤外光の透過を選択的に遮断する機能を有する。
【0004】
通常、可視域用の固体撮像素子に用いられる赤外カットフィルタは、波長約400〜650 nmの可視光を透過し、波長約650〜1100 nmの赤外光を遮断する場合が多い。
【0005】
誘電体積層膜タイプの赤外カットフィルタは、一般的に、基板上に高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に積層した構成を有しており、積層する各膜の光学膜厚nd(各膜の屈折率をnとし、各膜厚をdとする。)が、遮断する光の波長帯域の中心波長に相当する波長を設計波長λとすると、nd=λ/4の関係を有している(例えば、特許文献1参照。)。このような構成を有するフィルタは、積層された膜の各面における光の干渉により、最も効率的に設計波長λを中心とするある幅の波長帯域の光の反射率を増加させることにより、光を遮断することができる。なお実際には、このように誘電体膜の積層により特定波長の光を遮断させるフィルタは、nd=λ/4に相当する光学膜厚を有する膜の層を基本構成とし、光学特性の最適化のために各膜厚を微調整している場合が多い。
【0006】
ここで、上述の誘電体積層膜タイプの赤外カットフィルタは、多層膜における光の干渉効果を利用しているため、その原理上、所望の反射帯域(所望の波長の光を遮断する帯域)の整数分の1(設計波長λの1/4の厚さの膜を積層した一般的な赤外カットフィルタにおいては、特に1/3)の波長の光に対しても干渉効果が顕著に現れる傾向がある。そのため、対象となる反射帯域の光だけでなく、その整数分の1の波長の光の反射率も増大してしまう。従って、赤外光の波長帯域である約650〜1100 nmの領域の1/3に相当する約210〜360 nmの領域にも干渉効果により反射帯が形成される。しかし約210〜360 nmの領域は紫外光に相当し、従来の撮像装置においては未使用領域であったため、反射帯が形成されることにより紫外光が遮断されても赤外カットフィルタの特性としては利用上特に問題がなかった。
【0007】
しかしながら、最近のCCDやCMOS等の固体撮像素子の利用範囲の拡大により、工業分野、医療分野等で利用されるカメラ、ビデオカメラ、監視カメラ、顕微鏡、検査装置、センサ等において、従来の可視域での利用に加え、紫外域の波長の光も利用(受光、撮像)する用途が増えてきている。そのため、紫外域に発生する反射帯も問題となり、反射域の整数分の1の波長の光の遮断を抑制可能な赤外カットフィルタが望まれている。
【0008】
【特許文献1】特許第3679268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、所望の反射帯域の整数分の1の波長領域における光の遮断を抑制する赤外カットフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、基板に高屈折率膜、低屈折率膜及び中屈折率膜を所定の周期で積層させるか、所定の周期で積層された部分を設けることにより、所望の反射帯域の整数分の1の波長領域に形成される反射帯による光の遮断を抑制することができることを発見し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は具体的に以下の手段により達成することができる。
(1) 基板と、前記基板上に形成された、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなる積層膜とを有し、前記積層膜が(LMHM)周期で積層されていることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(2) 基板と、前記基板上に形成された、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなり、かつ(LMHM)周期で積層された部分を有する多層膜とを有することを特徴とする赤外カットフィルタ。
(3) 上記(2) に記載の赤外カットフィルタにおいて、前記多層膜の一部が高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとが交互に積層してなる(AB)多層膜であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(4) 上記(3) に記載の赤外カットフィルタにおいて、設計波長をλとすると、前記(AB)多層膜の各層の光学膜厚がλ/4であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(5) 上記(1)〜(4) のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、設計波長をλとすると、(LMHM)周期における光学膜厚の合計がλ/2であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(6) 上記(5)に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜H及び中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/10であり、低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/5であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(7) 上記(5) に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/6であり、中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/12であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(8) 上記(6) に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜Hの屈折率をnとし、低屈折率膜Lの屈折率をnとし、中屈折率膜Mの屈折率をnとすると、下記式(1)
【数1】

の関係をほぼ満たすことを特徴とする赤外カットフィルタ。
(9) 上記(7) に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜Hの屈折率をnとし、低屈折率膜Lの屈折率をnとし、中屈折率膜Mの屈折率をnとすると、下記式(2)
【数2】

の関係をほぼ満たすことを特徴とする赤外カットフィルタ。
(10) 上記(1)〜(9) のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、赤外域で遮断特性を示すとともに、可視域及び紫外域で透過特性を示すことを特徴とする赤外カットフィルタ。
(11) 上記(4)〜(10) のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、設計波長λは650〜1100 nmであることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(12) 上記(1)〜(11) のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、高屈折率膜HはZrO2,HfO2, Ta2O5,Nb2O5,TiO2からなる群から選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(13) 上記(1)〜(12) のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、低屈折率膜LはSiO2,MgF2からなる群から選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(14) 上記(1)〜(13) のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、中屈折率膜Mは高屈折率膜Hの材料と低屈折率膜Lの材料との混合物からなることを特徴とする赤外カットフィルタ。
(15) 上記(1)〜(14) のいずれかに記載の赤外カットフィルタを備えた撮像装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の赤外カットフィルタは、所望の反射帯域の整数分の1の波長領域における光の遮断を抑制することができ、もって赤外域の光を遮断しつつ、可視域及び紫外域の光を選択的に透過させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[1] 赤外カットフィルタ
図1に本発明の一実施例である赤外カットフィルタを示す。この赤外カットフィルタは、基板1と、基板1に形成された、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなる多層膜2とからなり、多層膜2において各膜は(LMHM)周期で積層されている。
【0014】
多層膜2の(LMHM)周期における各膜の光学膜厚nd(各膜の屈折率をnとし、各物理膜厚をdとする。)の合計は、設計波長をλとするとλ/2であるのが好ましい。ここで「設計波長」とは、本発明の赤外カットフィルタによる反射帯域のほぼ中心の波長をいう。このように各膜の光学膜厚ndの合計をλ/2として(LMHM)周期構成を繰り返すことにより、周期構成と各層の光の干渉効果とにより設計波長λを中心として形成された反射帯域における光を遮断することができる。
【0015】
その上、(LMHM)構成自体が、設計波長λの整数分の1における反射帯の発生を抑制する条件(反射防止条件)を満たしているため、設計波長λを中心とする反射帯域の整数分の1の波長帯域において反射帯の生成が抑制される。このように、(LMHM)周期構成を繰り返す多層膜を有する赤外カットフィルタを設けることで、設計波長λを中心としたある幅の波長帯域で反射特性を有するだけでなく、設計波長λの整数分の1における反射帯の発生を抑制することにより光の遮断を防ぐことができる。
【0016】
各膜の光学膜厚は、(LMHM)周期における合計の厚さは適宜設定可能であるが、高屈折率膜H及び中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/10であり、低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/5であるまた各膜の光学膜厚がλ/10であるのが好ましい。このとき、各膜の屈折率が下記式(1)
【数3】

の関係をほぼ満たしているのが好ましい。ここで、nは高屈折率膜Hの屈折率であり、nは低屈折率膜Lの屈折率であり、nは中屈折率膜Mの屈折率である。このように各膜の屈折率及び厚さを設定することにより、赤外カットフィルタの遮断及び透過の効果をより高めることができ、特に設計波長λを中心とする反射帯域の1/2及び1/3の波長帯域における反射帯の発生を抑制することができる。
【0017】
また(LMHM)周期において、高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/6であり、中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/12であるのが好ましい。このとき、各膜の屈折率が下記式(2)
【数4】

の関係をほぼ満たしているのが好ましい。このように各膜の屈折率及び厚さを設定することにより、赤外カットフィルタの遮断及び透過の効果をより高めることができ、特に設計波長λを中心とする反射帯域の1/2、1/3及び1/4の波長帯域における反射帯の発生を抑制することができる。
【0018】
本発明の赤外カットフィルタにおける設計波長λは650〜1100 nmであるのが好ましい。このように設計波長λを設定することにより、近赤外光を選択的に遮断すると同時に、可視域及び紫外域の光を選択的に透過するフィルタの役割も備える近赤外光用の赤外カットフィルタが得られる。
【0019】
基板1は、赤外カットフィルタに使用できて、かつ透過帯域における吸収が少ない材料であれば特に限定されないが、ガラス、結晶、セラミックス、樹脂等が好ましく、石英ガラスが特に好ましい。
【0020】
高屈折率膜Hは、所望の屈折率を満たすものであれば特に限定されないが、ZrO2,HfO2, Ta2O5,Nb2O5,TiO2等が好ましく、ZrO2が特に好ましい。低屈折率膜Lは、所望の屈折率を満たすものであれば特に限定されないが、SiO2,MgF2等が好ましく、SiO2が特に好ましい。
【0021】
中屈折率膜Mは、所望の屈折率を満たすものであれば特に限定されないが、単一材料を用いても良いし、高屈折率材料と低屈折率材料との混合物を用いても良い。単一材料であればAl2O5,MgOが好ましく、高屈折率材料と低屈折率材料との混合物であれば、SiO2とZrO2とを混合したものが好ましい。
【0022】
上述の本発明の赤外カットフィルタにおける光学膜厚は、各光線入射角度や、膜の材質、基板の材質及び赤外カットフィルタの周囲の環境(入射媒質)に合わせて、リップルの除去等のために、各膜の光学膜厚の微調整や基板や表面付近の膜構成の適宜修正等の最適化を行っても良い。
【0023】
上記の例では設計波長λは反射帯域のほぼ中心に設定されるが、本発明はこれに限らず、反射帯域内に異なる設計波長λを複数設けて、各設計波長λに対応する(LMHM)多層膜を基板に積層させても良い。これにより、各設計波長λを中心としたある波長帯域で遮断特性が得られる上に、各設計波長λの整数分の1の波長を中心とする波長帯域で反射帯の生成を抑制することができる。
【0024】
図1に示す赤外カットフィルタでは、多層膜2をすべて(LMHM)周期で構成しているが、本発明の赤外カットフィルタはこれに限らず、所望の特性が得られる範囲で、(LMHM)周期の構成が多層膜2の一部に適宜設けられていても良い。例えば、多層膜2として、(LMHM)周期の構成する(LMHM)多層膜と、高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとが交互に積層してなる(AB)多層膜とで構成しても良い。
【0025】
図2に本発明の別の実施例による赤外カットフィルタを示す。この赤外カットフィルタは、基板1と、基板1に形成された、高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとが交互に積層してなる(AB)多層膜と、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなり、各膜が(LMHM)周期で積層された(LMHM)多層膜とからなる。
【0026】
(AB)多層膜と(LMHM)多層膜とを組み合わせることにより、赤外域の光を遮断しつつ、可視域及び紫外域の光を選択的に透過させることができる。その上に、(LMHM)多層膜より(AB)多層膜のほうが一周期の層数が少ないため、(LMHM)多層膜のみで構成する場合と比べて、多層膜全体の層数を減らすことができる。
【0027】
高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとが交互に積層してなる(AB)多層膜の一周期における各膜の光学膜厚ndの合計は、λ/2であるのが好ましく、各層の光学膜厚ndがそれぞれλ/4であるのが好ましい。
【0028】
なお図 2では基板1上に(AB)多層膜を設け、その上に(LMHM)多層膜を設ける構成としているが、基板1上に(LMHM)多層膜を設け、その上に(AB)多層膜を設ける構成としても良い。
【0029】
本発明の赤外カットフィルタは、種々の撮像装置に用いることができるが、例えば、デジタルカメラ、監視カメラ、ビデオカメラ等が挙げられる。
【0030】
[2] 赤外カットフィルタの製造方法
本発明の赤外カットフィルタの製造における基板1への多層膜2の形成工程の一例として、スパッタリング法を用いて形成する方法を、図3に示すスパッタリング成膜装置を用いて以下説明する。
【0031】
図3に示す例では、真空チャンバ10の側面には、真空チャンバ10を真空排気するための排気装置11と、高屈折率膜Hの材料からなるターゲット13と、ターゲット13から膜材料を飛散させるためのスパッタ電源14と、低屈折率膜Lの材料からなるターゲット15と、ターゲット15から膜材料を飛散させるためのスパッタ電源16が設けられており、真空チャンバ10内には、複数の基板1を設置可能な回転自在な円筒状の基板ホルダ12が設けられており、基板ホルダ12は上面で回転機構17と接続している。
【0032】
まず真空チャンバ10内を排気装置11により排気する。基板1に高屈折率膜Hを形成する場合、回転機構17を駆動させて基板ホルダ12を回転させながら、スパッタ電源14を稼動しターゲット13に電力を投入することにより高屈折率膜Hの材料を飛散させて基板1に付着させる。その際、ターゲット15に電力を投入するためのスパッタ電源16は稼動させず、低屈折率膜Lの材料は飛散しないため、高屈折率膜Hの材料のみを成膜することができる。
【0033】
基板1に低屈折率膜Lを形成する場合、円筒状の基板ホルダ12を回転させながら、スパッタ電源16を稼動しターゲット15に電力を投入することにより低屈折率膜Lの材料を飛散させて基板1に付着させる。その際、ターゲット13に電力を投入するためのスパッタ電源14は稼動させず、高屈折率膜Hの材料は飛散しないため、低屈折率膜Lの材料のみを成膜することができる。
【0034】
基板1に中屈折率膜Mを形成する場合、円筒状基板ホルダ12を回転させながら、スパッタ電源14およびスパッタ電源16を稼動し、ターゲット13とターゲット15の両方に電力を投入することにより、高屈折率膜Hの材料と低屈折率膜Lの材料を同時に飛散し、それを高速で回転させた基板ホルダ12に設置した基板1の表面に堆積させることにより、高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの材料が混合した膜が基板1に付着する。高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの材料の飛散量をスパッタ電源14およびスパッタ電源16の出力によりそれぞれ調節することにより、所望の屈折率となる材料の混合比を有する中屈折率膜Mが得られる。
【0035】
このように、形成する膜の種類に応じて、高屈折率材料源であるターゲット13及び低屈折率材料源であるターゲット15から膜材料をそれぞれ飛散させることにより、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなる多層膜2を基板1に形成することができる。
【0036】
また高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとからなる(AB)多層膜を基板1に形成する場合、ターゲット13として高屈折率膜Aの材料を使用し、ターゲット15として高屈折率膜Bの材料を使用して、交互に積層することにより(AB)多層膜が得られる。
【0037】
図3に示すスパッタリング成膜装置では、中屈折率膜Mを高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの材料を混合させて形成しているが、本発明の赤外カットフィルタを形成する方法はこれに限らず、例えば、中屈折率膜Mの材料を備える中屈折率材料源を別途設けても良い。
【0038】
基板1に各膜を形成する方法はスパッタリング法に限らず、所望の成膜が可能なものであれば良く、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト法、CVD法等を用いても良い。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
まず基板1に、高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとからなる(AB)多層膜を図4(a),(b) に示す構成で20層積層した。基板1として石英ガラス、高屈折率膜AとしてZrO2、低屈折率膜BとしてSiO2を使用した。設計波長λ1を760 nmとし、高屈折率膜A及び低屈折率膜Bの光学膜厚をそれぞれλ1/4とした。ZrO2の屈折率は2.344であり、SiO2の屈折率は1.478であった。石英ガラスの屈折率は1.46であり、空気の屈折率を1.00とした。
【0041】
その上に、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mが(LMHM)周期で積層された(LMHM)多層膜を図4(a),(b) に示す構成で41層形成した。高屈折率膜HとしてZrO2、低屈折率膜LとしてSiO2、中屈折率膜MとしてZrO2とSiO2との混合材料を使用した。設計波長λ2を960 nmとし、高屈折率膜H及び中屈折率膜Mの光学膜厚をλ2/10とし、低屈折率膜Lの光学膜厚をλ2/5とした。ZrO2の屈折率nは2.344であり、SiO2の屈折率nは1.478であり、中屈折率膜Mの屈折率nは式(1) より1.964と設定した。各膜の積層には図3のスパッタリング装置を使用した。
【0042】
得られた赤外カットフィルタの空気中における分光透過率を測定した。得られた結果を図5に示す。図5から分かるように、650〜1150 nmの赤外光が遮断され、かつ透過領域が300〜650 nmの紫外域も含んでいた。このことから、設計波長λ2=960 nmを中心とする遮断領域の1/3に相当する波長領域(波長320 nm付近の領域)の反射帯の形成が抑制されているのが分かる。このように、赤外域に遮断特性を有し、かつ可視域及び紫外域の光を選択的に透過する赤外カットフィルタが得られた。
【0043】
実施例2
まず基板1に、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mを、(LMHM)周期で、図6(a),(b) に示す構成で40層形成した。基板1及び各膜は実施例1と同じものを用いた。設計波長λ1を760 nmとし、高屈折率膜H及び中屈折率膜Mの光学膜厚をλ1/10とし、低屈折率膜Lの光学膜厚をλ1/5とした。
【0044】
その上に、設計波長をλ2=960 nmに変更して、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mを、(LMHM)周期で、図6(a),(b) に示す構成で41層形成した。高屈折率膜H及び中屈折率膜Mの光学膜厚をλ1/10とし、低屈折率膜Lの光学膜厚をλ1/5とした。各膜の積層には図3のスパッタリング装置を使用した。
【0045】
得られた赤外カットフィルタの空気中における分光透過率を測定した。得られた結果を図7に示す。図7から分かるように、650〜1150 nmの赤外光が遮断され、かつ透過領域が250〜650 nmと紫外域も含んでいた。このことから、設計波長λ2=760 nmを中心とする遮断領域の1/3に相当する波長領域(波長250 nm付近の領域)の反射帯の形成が抑制され、かつ設計波長λ2=960 nmを中心とする遮断領域の1/3に相当する波長領域(波長320 nm付近の領域)の反射帯の形成が抑制されているのが分かる。
【0046】
実施例3
まず基板1に、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mを、(LMHM)周期で、図8(a),(b) に示す構成で40層形成した。基板1及び各膜は実施例1と同じものを用いた。設計波長λ1を760 nmとし、高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/6とし、中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/12とした。
【0047】
その上に、設計波長をλ2=960 nmに変更して、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mを、(LMHM)周期で、図8(a),(b) に示す構成で41層形成した。高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/6とし、中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/12とした。各膜の積層には図3のスパッタリング装置を使用した。
【0048】
得られた赤外カットフィルタの空気中における分光透過率を測定した。得られた結果を図9に示す。図9から分かるように、650〜1150 nmの赤外光が遮断され、かつ透過領域が200〜650 nmと紫外域も含んでいた。このことから、設計波長λ2=760 nmを中心とする遮断領域の1/3に相当する波長領域(波長250 nm付近の領域)及び1/4に相当する波長領域(波長190 nm付近の領域)の反射帯の形成が抑制され、かつ設計波長λ2=960 nmを中心とする遮断領域の1/3に相当する波長領域(波長320 nm付近の領域)及び1/4に相当する波長領域(波長240 nm付近の領域)の反射帯の形成が抑制されているのが分かる。
【0049】
比較例1
基板1に、高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとからなる(AB)多層膜を図10(a),(b) に示す構成で20層積層した。基板1及び各膜A,Bは実施例1と同じものを用いた。設計波長λ1を760 nmとし、高屈折率膜A及び低屈折率膜Bの光学膜厚をそれぞれλ1/4とした。
【0050】
その上に、設計波長をλ2=960 nmに変更して、高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとからなる(AB)多層膜を、図10(a),(b) に示す構成で21層形成した。高屈折率膜A及び低屈折率膜Bの光学膜厚をそれぞれλ1/4とした。各膜の積層には図3のスパッタリング装置を使用した。
【0051】
得られた赤外カットフィルタの空気中における分光透過率を測定した。得られた結果を図11に示す。図11から分かるように、650〜1150 nmの赤外光が遮断され、かつ透過領域が350〜650 nmと可視域に存在しているが、250〜350 nmの紫外域に反射帯が形成された。このように、設計波長λ2=960 nmを中心とする遮断領域の1/3に相当する波長領域(波長320 nm付近の領域)の反射帯が形成され、紫外光が遮断された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施例による赤外カットフィルタを示す説明図である。
【図2】本発明の別の実施例による赤外カットフィルタを示す説明図である。
【図3(a)】スパッタリング装置を示す上面図である。
【図3(b)】スパッタリング装置を示す側面図である。
【図4(a)】実施例1の赤外カットフィルタを示す説明図である。
【図4(b)】実施例1の赤外カットフィルタの多層膜の構成を示す図である。
【図5】実施例1の赤外カットフィルタの分光透過率特性を示すグラフである。
【図6(a)】実施例2の赤外カットフィルタを示す説明図である。
【図6(b)】実施例2の赤外カットフィルタの多層膜の構成を示す図である。
【図7】実施例2の赤外カットフィルタの分光透過率特性を示すグラフである。
【図8(a)】実施例3の赤外カットフィルタを示す説明図である。
【図8(b)】実施例3の赤外カットフィルタの多層膜の構成を示す図である。
【図9】実施例3の赤外カットフィルタの分光透過率特性を示すグラフである。
【図10(a)】比較例1の赤外カットフィルタを示す説明図である。
【図10(b)】比較例1の赤外カットフィルタの多層膜の構成を示す図である。
【図11】比較例1の赤外カットフィルタの分光透過率特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1・・・基板
2・・・多層膜
10・・・真空チャンバ
11・・・排気装置
12・・・基板ホルダ
13,15・・・ターゲット
14,16・・・スパッタ電源
17・・・回転機構
A,H・・・高屈折率膜
B,L・・・低屈折率膜
M・・・中屈折率膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなる積層膜とを有し、前記積層膜が(LMHM)周期で積層されていることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項2】
基板と、前記基板上に形成された、高屈折率膜H、低屈折率膜L及び中屈折率膜Mからなり、かつ(LMHM)周期で積層された部分を有する多層膜とを有することを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項3】
請求項2に記載の赤外カットフィルタにおいて、前記多層膜の一部が高屈折率膜Aと低屈折率膜Bとが交互に積層してなる(AB)多層膜であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載の赤外カットフィルタにおいて、設計波長をλとすると、前記(AB)多層膜の各層の光学膜厚がλ/4であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、設計波長をλとすると、(LMHM)周期における光学膜厚の合計がλ/2であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項6】
請求項5に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜H及び中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/10であり、低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/5であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項7】
請求項5に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜H及び低屈折率膜Lの光学膜厚がλ/6であり、中屈折率膜Mの光学膜厚がλ/12であることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項8】
請求項6に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜Hの屈折率をnとし、低屈折率膜Lの屈折率をnとし、中屈折率膜Mの屈折率をnとすると、下記式(1)
【数1】

の関係をほぼ満たすことを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項9】
請求項7に記載の赤外カットフィルタにおいて、(LMHM)周期における高屈折率膜Hの屈折率をnとし、低屈折率膜Lの屈折率をnとし、中屈折率膜Mの屈折率をnとすると、下記式(2)
【数2】

の関係をほぼ満たすことを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、赤外域で遮断特性を示すとともに、可視域及び紫外域で透過特性を示すことを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項11】
請求項4〜10のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、設計波長λは650〜1100 nmであることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、高屈折率膜HはZrO2,HfO2, Ta2O5,Nb2O5,TiO2からなる群から選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、低屈折率膜LはSiO2,MgF2からなる群から選ばれた少なくとも一種からなることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の赤外カットフィルタにおいて、中屈折率膜Mは高屈折率膜Hの材料と低屈折率膜Lの材料との混合物からなることを特徴とする赤外カットフィルタ。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の赤外カットフィルタを備えた撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図9】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−139693(P2008−139693A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327304(P2006−327304)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】