説明

赤外光反射板、赤外光反射性合わせガラス、並びにコレステリック液晶層を有する積層体及び合わせガラス

【課題】選択反射特性が改善された赤外光反射板の提供。
【解決手段】基板、並びに基板の少なくとも一方の表面上に、コレステリック液晶相を固定してなる少なくとも4つの光反射層X1、X2、X3及びX4をこの順に有し、光反射層X1及びX2のそれぞれの反射中心波長がλ1(nm)であり互いに等しく、互いに逆方向の円偏光を反射し、光反射層X3及びX4のそれぞれの反射中心波長がλ2(nm)であり互いに等しく、且つ互いに逆方向の円偏光を反射し、並びに、λ1及びλ2がλ1<λ2を満足する赤外光反射板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する赤外光反射板であって、主に建造物及び車両等の窓の遮熱に利用される赤外光反射板、及びそれを利用した赤外光反射性合わせガラスに関する。また、本発明は、コレステリック液晶層を有する積層体、及び当該積層体を利用した合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギーへの関心の高まりから省エネに関する工業製品へのニーズは高く、その一つとして住宅及び自動車等の窓ガラスの遮熱、つまり日光による熱負荷を減少させるのに効果のある、ガラス及びフィルムが求められている。日光による熱負荷を減少させるのには、太陽光スペクトルの可視光領域または赤外領域のいずれかの太陽光線の透過を防ぐことが必要である。
【0003】
断熱・遮熱性の高いエコガラスとしてよく用いられるのがLow−Eペアガラスと呼ばれる熱放射を遮断する特殊な金属膜をコーティングした複層ガラスである。特殊な金属膜は、例えば特許文献1に開示された真空成膜法により複数層を積層することで作製できる。真空成膜よって作製される、これらの特殊な金属膜のコーティングは反射性能に非常に優れるものの、真空プロセスは生産性が低く、生産コストが高い。また、金属膜を使うと、電磁波を同時に遮蔽してしまうために携帯電話等の使用では、電波障害を引き起こしたり、自動車に使用した場合にはETCが使えないなどの問題がある。
特許文献2には、金属微粒子を含有する層を有する熱線反射性透明基材が提案されている。金属微粒子を含有する膜は、可視光の透過性能に優れるものの、遮熱に大きく関与する波長700〜1200nmの範囲の光に対する反射率が低く、遮熱性能を高くできないという問題がある。
また、特許文献3には、赤外線吸収色素を含む層を有する熱線遮断シートが開示されている。赤外線吸収色素を利用すると、日射透過率を下げることができるものの、日射の吸収による膜面温度上昇と、その熱の再放出によって遮熱性能が低下するという問題がある。
【0004】
また、特許文献4には、所定の特性の位相差フィルムと反射型円偏光板とを有する、赤外線に対する反射能を有する積層光学フィルムが開示され、該位相差フィルムとして、コレステリック液晶相を利用した例が開示されている。
また、特許文献5には、可視光透過性サブストレートと赤外光反射性コレステリック液晶層とを備えた赤外光反射性物品が開示されている。
また、特許文献6には、複数のコレステリック液晶層を備えた偏光素子が開示されているが、この様な、コレステリック液晶層を積層してなる積層体は、主には、可視光領域の光を効率的に反射させる用途に供せられるものである。
また、特許文献7には、液晶分子のヘリカル軸の方向が実質的に一致するとともに、その液晶分子の旋回方向が同一な液晶層を複数積層してなる円偏光抽出光学素子が開示されている。
【0005】
実際に、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を有する光反射膜を利用して、特定の波長の光を完全に反射することは困難であり、通常は、λ/2板という、特殊な位相差板を利用するのが一般的である。例えば、特許文献4及び5では、同一の方向の旋光性を有し、且つ同一の螺旋ピッチを有する、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を、λ/2板の両面にそれぞれ形成することで、所定の波長の右偏光及び左偏光を反射する試みがなされている。
【0006】
しかし、上記した通りλ/2板は特殊な位相差板であり、その作製が困難であり、作製コストが上昇する。また、材料が特殊のものに制限され、その結果、用途が制限される場合がある。さらに、通常、λ/2板は、層面に対して法線方向から入射する光に対しては、λ/2板として作用するものの、斜めから入射する光に対しては、厳密にはλ/2板として機能しない。そのため、上記λ/2板を組合せた構成では、斜め方向から入射する光を完全に反射できないという問題がある。
【0007】
一方、従来、2枚以上のガラスを中間膜で接着し、破損したときにガラス破片が飛び散らないようにした合わせガラスが、自動車用の部材等として種々提案されている。中問膜の材料として、ポリビニルブチラール樹脂が利用されている。この様な構成の合わせガラスに対しては、実用化に際して、事前に耐光性試験が行われ、長時間紫外光を照射して、劣化の有無が確認されている。
ところで、コレステリック液晶相は、光反射層としての利用のみならず、電界により色相が変化する層等の種々の機能層としての利用についても提案され、コレステリック液晶層を合わせガラス中に挟むことも試みられている(例えば、特許文献8の実施例1)。しかし、コレステリック液晶層を内部に有する合わせガラスについて耐光性試験を行うと、気泡が生じてしまい、実用化には改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−263486号公報
【特許文献2】特開2002−131531号公報
【特許文献3】特開平6−194517号公報
【特許文献4】特許第4109914号公報
【特許文献5】特表平2009−514022号公報
【特許文献6】特許第3500127号公報
【特許文献7】特許第3745221号公報
【特許文献8】特開2008−304762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の第1の課題は、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する赤外光反射板について、λ/2板の使用を必須とせずに、反射特性を改善することであり、並びに、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する赤外光反射板の選択反射特性を改善し、特に遮熱性の高い赤外光反射板を提供することである。
また、本発明の第2の課題は、コレステリック液晶層を内部に有する合わせガラスの耐光性を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の課題を解決するため、本発明者が鋭意検討した結果、同一の波長域の光に対する選択反射特性を有するとともに、互いに逆の旋光性(即ち右又は左旋光性)のコレステリック液晶相を固定してなる光反射層を隣接させて基板上に配置すれば、基板の光学特性に影響を受けることなく、当該波長域の左円偏光及び右円偏光のいずれをも反射できることがわかった。他の波長域の光に対する選択反射特性を有するとともに、互いに逆の旋光性(即ち右又は左旋光性)のコレステリック液晶相を固定してなる光反射層の1組をさらに積層することで、反射特性の広帯域化が図れるとの知見も得られた。しかし、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を隣接させて、簡易な塗布方式で形成しようとすると、上層の光反射層の配向制御が困難となり、所望の特性が得られない場合があることがわかった。この知見に基づきさらに検討した結果、より下層に配置される光反射層の反射中心波長が、より下層に配置される光反射層の反射中心波長よりも短波長であると、選択反射特性が改善され、特に遮熱性の高い赤外光反射板が得られるとの知見を得、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記第1の課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 基板、並びに基板の少なくとも一方の表面上に、コレステリック液晶相を固定してなる少なくとも4つの光反射層X1、X2、X3及びX4を基板側からこの順で有し、
光反射層X1及びX2それぞれの反射中心波長がλ1(nm)であり互いに等しく、且つ互いに逆方向の円偏光を反射し、
光反射層X3及びX4のそれぞれの反射中心波長がλ2(nm)であり互いに等しく、且つ互いに逆方向の円偏光を反射し、並びに、
λ1<λ2を満足する、
波長700nm以上の赤外線を反射する赤外光反射板。
[2] 光反射層X1及びX2の反射中心波長λ1(nm)が、800〜1150nmの範囲にあり、光反射層X3及びX4の反射中心波長λ2(nm)が、1000〜1400nmの範囲にある[1]の赤外光反射板。
[3] 光反射層X1及び光反射層X3がそれぞれ同一の回転方向の円偏光を反射するとともに、光反射層X1の配向秩序が、光反射層X3の配向秩序よりも高い[1]又は[2]の赤外光反射板。
[4] 光反射層X1及び光反射層X3がそれぞれ同一の回転方向の円偏光を反射するとともに、光反射層X1の配向秩序が、光反射層X3の配向秩序よりも高く、並びに光反射層X2及び光反射層X4がそれぞれ同一の回転方向の円偏光を反射するとともに、光反射層X2の配向秩序が、光反射層X4の配向秩序よりも高い[1]又は[2]の赤外光反射板。
[5] 光反射層X1及び光反射層X3が、右旋回性のキラル剤を含有し、光反射層X2及びX4が左旋回性のキラル剤を含有する[1]〜[4]のいずれかの赤外光反射板。
[6] 光反射層X2、X3及びX4がそれぞれ、下層の光反射層の表面に塗布された液晶組成物をコレステリック液晶相とし、当該コレステリック液晶相を固定することで形成された層である[1]〜[4]のいずれかの赤外光反射板。
[7] 前記基板が、ポリマーフィルムである[1]〜[6]のいずれかの赤外光反射板。
[8] 少なくとも1つの最外層として、易接着層を有する[1]〜[7]のいずれかの赤外光反射板。
[9] 前記易接着層が、ポリビニルブチラール樹脂を含有する[8]の赤外光反射板。
[10] 前記易接着層が、少なくとも1種の紫外線吸収剤を含有する[8]又は[9]の赤外光反射板。
[11] 2枚のガラス板と、その間に[1]〜[10]のいずれかの赤外光反射板とを有する赤外光反射性合わせガラス。
【0012】
また、上記第2の課題を解決するため、本発明者が種々検討した結果、前述のコレステリック液晶層を内部に有する合わせガラスについて耐光性試験を行った際に生じる気泡は、コレステリック液晶層と中間膜との間に発生しているとの知見が得られた。さらにこの知見に基づいて検討した結果、この気泡の発生は、コレステリック液晶層と中間膜との密着力が不十分であることによるものであること、さらに、中間膜と接する最外層として、中間膜に対する易接着性を有する層を形成することで、この問題を解決し得るとの知見を得て、本発明を解決するに至った。
【0013】
上記第2の課題を解決するための手段は以下の通りである。
[12] 基板と、その表面及び/又はその裏面に、1層又は2層以上のコレステリック液晶層と、少なくとも一方の最外層としてポリビニルブチラール樹脂を含む易接着層と、を少なくとも有する積層体。
[13] 前記易接着層が、ポリビニルブチラール樹脂を含有する塗布液を、コレステリック液晶層の表面に塗布して形成された層である[12]の積層体。
[14] 双方の最外層として、ポリビニルブチラール樹脂を含む易接着層を有する[12]又は[13]の積層体。
[15] 一方の最外層として前記易接着層を有し、他方の最外層としてアクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択されるいずれかを含有するアンダーコート層を有する[12]又は[13]の積層体。
[16] 前記易接着層が、少なくとも1種の紫外線吸収剤を含有する[12]〜[15]のいずれかの積層体。
[17] 前記易接着層が、波長380nm以下の紫外線の透過率を0.1%以下にする層である[16]の積層体。
[18] それぞれの内面に中間膜を有する2枚のガラス板と、その間に[12]〜[17]のいずれかの反射性積層体とを有する合わせガラス。
[19] 前記中間膜が、ポリビニルブチラール樹脂又はエチレン・酢酸ビニル共重合体を含有する[18]の合わせガラス。
【発明の効果】
【0014】
第1の本発明によれば、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する赤外光反射板について、λ/2板の使用を必須とせずに、反射特性を改善することができる。本発明によれば、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層を複数有する赤外光反射板の選択反射特性を改善し、特に遮熱性の高い赤外光反射板を提供することができる。
また第2の本発明によれば、コレステリック液晶層を内部に有する合わせガラスの耐光性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の本発明の赤外光反射板の一例の断面図である。
【図2】第1の本発明の赤外光反射板の一例の断面図である。
【図3】第1の本発明の赤外光反射板の一例(第2の本発明の積層体の一例でもある)の断面図である。
【図4】第1の本発明の赤外光反射板の一例(第2の本発明の積層体の一例でもある)の断面図である。
【図5】第2の本発明の積層体の一例の断面図である。
【図6】第2の本発明の積層体の一例の断面図である。
【図7】第2の本発明の合わせガラスの一例の断面図である。
【図8】第2の本発明の合わせガラスの一例の断面図である。
【図9】コレステリック液晶相を固定してなる層の配向秩序を説明するために用いた顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、コレステリック液晶相を固定してなる層の配向秩序は、以下の通り定義される。
本明細書において、コレステリック液晶相を固定してなる層の配向秩序は、膜面とコレステリック液晶相の螺旋軸とがなす角度の平均値として定義され、液晶分子配向の均一性を表す一つの指標である。前記角度は、コレステリック液晶相を固定してなる層の断面を、電子顕微鏡観察することによって確認することができる。秩序が最も高い場合には、コレステリック液晶の螺旋ピッチの1/2周期で現れる濃淡像が膜面に平行に現れる。その顕微鏡写真の一例を図9に示した。この濃淡像は断面での液晶分子の方位と関連しており、この規則正しい縞模様が膜面に平行であることは、コレステリック液晶相の螺旋軸が膜面に対して均一に垂直になっていることを示す。一方、秩序が低い場合には、縞模様の間隔は同一であるが、膜面に平行でない領域すなわち螺旋軸が膜面法線からずれた領域が存在し、秩序が低くなるにつれて、その領域の割合やずれ角が増大していく。従って、具体的には、配向秩序は、サンプルの断面を電子顕微鏡観察し、コレステリック液晶の螺旋ピッチの1/2周期で現れる濃淡像を得、その各縞の垂線と膜面との角度をそれぞれ算出し、その平均値として求めることができる。
【0017】
また、本明細書において、コレステリック液晶相を固定してなる層の屈折率異方性Δnは、以下の通り定義される。
本明細書においては、コレステリック液晶相を固定して形成される層の屈折率異方性Δnは、選択反射特性を示す波長(具体的には、波長1000nm近傍)でのΔnを意味する。具体的には、まず、サンプルとして、螺旋軸を膜面に対して均一に配向させたコレステリック液晶相を固定した層を配向処理した、若しくは配向膜を付与した基板(ガラス、フィルム)上に形成する。当該層の選択反射を測定し、そのピーク幅Hwを求める。また、サンプルの螺旋ピッチpを別途測定する。螺旋ピッチは、断面TEM観察することによって測定可能である。これらの値を以下の式に代入することで、サンプルの屈折率異方性Δnを求めることができる。
Δn=Hw/p
【0018】
また、本明細書中、各層の「反射中心波長が互いに等しい」については、本発明が属する技術分野において一般的に許容される誤差も考慮されることは勿論である。一般的には、反射中心波長については±30nm程度の差があっても同一とみなされるであろう。
【0019】
第1の本発明
以下、図面を用いて、第1の本発明の赤外光反射板の実施形態について説明する。
図1に示す赤外光反射板は、基板12の一方の表面に、それぞれ、コレステリック液晶相を固定してなる光反射層14a、14b、16a及び16bを有する。基板12は、例えば、ポリマーフィルムであり、その光学特性については特に制限はない。本発明では、特に、面内レターデーションReについてバラツキのある部材を基板として用いてもよい。この点で、基板としてλ/2を用い、その光学特性を光反射特性の改善に積極的に利用している従来技術とは区別される。但し、基板12としてλ/2板等の正確に位相差が調整されている位相差板を利用することを妨げるものではない。
【0020】
具体的には、基板12の光学特性については特に制限はなく、位相差を示す位相差板であっても、又は光学的に等方性の基板であってもよい。即ち、基板12は、その光学特性が厳密に調整された、λ/2板等の位相差板である必要はない。本発明においては、基板12の波長1000nmにおける面内レターデーションRe(1000)のバラツキが、20nm以上であるポリマーフィルム等からなっていてもよい。さらに、Re(1000)のバラツキが100nm以上であるポリマーフィルム等からなっていてもよい。また基板の面内レターデーションについても特に制限はなく、例えば、波長1000nmの面内レターデーションRe(1000)が、800〜13000nmである位相差板等を用いることができる。基板として利用可能なポリマーフィルムの例については、後述する。
【0021】
光反射層14a、14b、16a及び16bは、コレステリック液晶相を固定してなる層であるので、当該コレステリック液晶相の螺旋ピッチに基づいて、特定の波長の光を反射する光選択反射性を示す。本実施形態では、隣接する光反射層14aと14bは、それぞれのコレステリック液晶相の螺旋方向が互いに逆であるとともに、その反射中心波長λ14が同一である。また、同様に、隣接する光反射層16aと16bは、それぞれのコレステリック液晶相の螺旋方向が互いに逆であるとともに、その反射中心波長λ16が同一である。本実施形態では、λ14≠λ16を満足するので、光反射層14aと14bによって所定の波長λ14の左円偏光及右円偏光を選択反射するとともに、光反射層16aと16bによって、波長λ14よりも長波長である所定の波長λ16の左円偏光及び右円偏光を選択反射する。
【0022】
図1に示す赤外光反射板10は、波長700nm以上の赤外線を反射する赤外光反射板であり、即ち、光反射層14aと14bによる選択反射の中心波長λ14、及び光反射層16aと16bによる選択反射の中心波長λ16も、それぞれ波長700nm以上になっているのが好ましい。赤外光反射板10は、λ14<λ16を満足する。一例では、反射中心波長λ14が、800〜1150nm(好ましくは850〜1100nm、又は800〜1050nm)の範囲にあり、並びに反射中心波長λ16が、1000nm〜1400nm(好ましくは1050〜1350nm、又は1050〜1300nm)の範囲にある。
【0023】
上記反射中心波長を示すコレステリック液晶相の螺旋ピッチは、一般的には、500〜1350nm程度(好ましくは500〜900nm程度、より好ましくは550〜800nmnm程度)である。また、各光反射層の厚みは、1μm〜8μm程度(好ましくは3〜8μm程度)である。但し、これらの範囲に限定されるものではない。層の形成に用いる材料(主には液晶材料及びキラル剤)の種類及びその濃度等を調整することで、所望の螺旋ピッチの光反射層を形成することができる。また層の厚みは、塗布量を調整することで所望の範囲とすることができる。
【0024】
上記した通り、隣接する光反射層14aと14bは、それぞれのコレステリック液晶相の螺旋方向が互いに逆であり、同様に、隣接する光反射層16aと16bは、それぞれのコレステリック液晶相の螺旋方向が互いに逆である。この様に、逆向きのコレステリック液晶相からなり、選択反射の中心波長が同一の光反射層を隣接して配置することで、同波長の左円偏光及び右円偏光の双方を反射することができる。この作用は、基板12の光学特性とは無関係であり、基板12の光学特性には影響されずに得られる作用である。
【0025】
一方で、所望のコレステリック液晶相からなる光反射層を隣接して形成することは、従来困難とされていた。例えば、別々の仮支持体上に、所望のコレステリック液晶相からなる層をそれぞれ形成し、これらの層をラミネートして貼り合わせる方法;又は、液晶組成物中に、それぞれの光反射層として適するコレステリック液晶相を形成可能な材料を混合しておき、当該組成物を支持体等の表面に塗布して途膜とした後、乾燥・熱配向時に相分離させて、2層のコレステリック液晶層を形成する方法;などが知られている。しかし、前者のラミネート加工を利用する方法は、コストが高くなり、また後者の相分離を利用する方法では、膜厚みが全体として厚くなり、配向状態が悪化し、また相分離の界面のゆらぎによっても、同様に配向状態が悪化するという問題があった。塗布を繰り返すことで、光反射層の積層構造が得られれば、ラミネート加工といった高コストの工程が不要であり、及び相分離といった制御が困難な工程も不要となるので好ましい。しかし、塗布・乾燥・硬化を複数回繰り返して、コレステリック液晶相からなる光反射層の積層構造を構築する方法では、より上層を形成する際の液晶の配向制御が困難となることがわかった。本発明者が鋭意検討した結果、この原因は、液晶組成物からなる光反射層の表面に配向の乱れがあると、その表面に、液晶組成物を塗布して同様に光反射層を形成しようとしても、その配向乱れの影響で、上層の光反射層の配向が乱れ、所望のコレステリック液晶相の状態とならないことが一因であることがわかった。コレステリック液晶相の配向秩序が低くなると、選択反射ピークの形状がブロードになって、最大反射率が低下したり、配向欠陥の散乱によるヘイズが発生し、好ましくない。即ち、より上層の光反射層の配向がより乱れる傾向があると、より上層の光反射層に負担させる選択反射特性が、十分に機能しない傾向がある。一方で、赤外光反射板を、遮熱性の観点で改善するためには、赤外光のうち熱上昇の寄与度が大きい、短波長の光を反射によって遮断することが重要である。本発明では、下層の1組の光反射層で選択反射される中心波長が、より上層の1組の光反射層で選択反射される中心波長よりも短波長とすることで、上記塗布方法で各光反射層の積層構造を構築しても、遮熱性に優れる赤外光反射板を提供している。
【0026】
即ち、図1中、下層の1組の光反射層14a及び14bの中心選択波長λ14と、上層の1組の光反射層16a及び16bの中心選択波長λ16とが、λ14<λ16を満足している。塗布方法により形成すると、上記した通り、通常、より上層の光反射層の配向秩序が低下する傾向になるので、配向秩序は、光反射層14a、14b、16a及び16bの順に低下するものと考えられる。しかし、上層の1組の光反射層16a及び16bの配向秩序が、下層の1組の光反射層14a及び14bの配向秩序より劣っていても、下層の1組の光反射層14a及び14bの配向秩序が高いので、これらによって、熱の上昇効果への寄与度が大きい、より短波長(λ14)の左円偏光及び右円偏光が、高い選択性で反射される。その結果、遮熱性が大きく損なわれることはない。遮熱性の点では、光反射層14a及び14bの配向秩序は、80°以上であるのが好ましく、勿論90°であることが最も好ましい。一方、光反射層16a及び16bの配向秩序は、70〜80°程度であってもよい。
【0027】
また、塗布方法によると、1組の光反射層14aと14b、及び1組の光反射層16aと16bとで比較しても、より上層の光反射層14b及び16bは、より下層の光反射層14a及び16aよりも、それぞれ配向秩序が低下する傾向がある。同一の反射中心波長を有する、互いに逆向きの螺旋構造を有する1組の光反射層間で、この様に配向秩序に差があると、選択反射特性が低下する場合がある。これを解決するためには、光反射層14aの屈折率異方性Δn14a、及び光反射層14bの屈折率異方性Δn14bが、Δn14b<Δn14aを満足し、且つ光反射層16aの屈折率異方性Δn16a、及び光反射層16bの屈折率異方性Δn16bが、Δn16b<Δn16aを満足するのが好ましい。この関係を満足していると、光反射層14a及び16aのそれぞれ表面に液晶組成物を塗布して、コレステリック液晶相とし、その状態を固定して光反射層14b及び16bをそれぞれ形成しても、光反射層14b及び16bの配向状態は良好であり、所望の光反射特性を示す。屈折率異方性が上記条件を満足することと、この効果との関係についての詳細は明らかではないが、本発明者は以下の通り推察している。光反射層のΔnは、コレステリック液晶相を固定する際の重合条件や、その形成に用いる液晶組成物の組成に依存して変動する値であるが、通常は組成物中に最も高い比率で含有される棒状液晶が示すΔnに近い値となる。よって、Δnがより高い棒状液晶を主原料として含有する液晶組成物を利用して光反射層を形成すれば、自ずと光反射層のΔnも高くなる。一方、所望の螺旋ピッチを得るために添加するキラル剤の濃度が高くなる場合は、棒状液晶の配合比率が相対的に低下するため組成物としてのΔnは小さくなる。従って、Δnが元々高い棒状液晶を含有し、且つキラル剤等の添加剤が少量である液晶組成物を利用して下層の光反射層を形成すれば、下層の光反射層のΔnは高くなる。Δnが高い液晶は、キラル剤等の添加剤を添加しなくても、所望のコレステリック液晶相状態となるので、添加剤等の存在による界面の乱れや、配向の乱れなどがなく、下層を形成できる。その結果、配向状態が良好で乱れがない下層の表面に、上層用の液晶組成物を塗布することができ、所望のコレステリック液晶相をより安定的に形成でき、その結果、所望の特性を満足する上層の光反射層を形成できることによるものと、推察している。
【0028】
一例として、光反射層14aが右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、即ち右円偏光を選択反射し、及び光反射層14bが左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、即ち左円偏光を選択反射し;同様に、光反射層16aが右旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、即ち右円偏光を選択反射し、及び光反射層16bが左旋回性のキラル剤を含有する液晶組成物からなり、即ち左円偏光を選択反射する例が挙げられる。市販されている右旋回性のキラル剤は、市販されている左旋回性のキラル剤と比較して、捩れ力が高いものが多く存在する。捩れ力のより高いキラル剤を利用すれば、添加量をより少なくでき、よって、上記例によれば、Δn14b<Δn14a、及びΔn16b<Δn16aを満足する各光反射層を、幅広い種類の材料から選択して形成できる。
【0029】
図2に、本発明の他の実施形態の赤外光反射板の断面図を示す。図2に示す赤外光反射板10’は、図1の赤外光反射板10と同様、基板12、その一方の表面上に光反射層14a、14b、16a及び16bを有する。これらの特性及びその関係については、赤外光反射板10と同様である。赤外光反射板10’は、さらに、基板12の他方の表面上に、光反射層18a及び18bを有する。光反射層18aと18bも、光反射層14aと14b、及び光反射層16aと16bと同様、それぞれのコレステリック液晶相が、互いに逆の螺旋方向であり、且つ互いの反射中心波長が同一という特徴がある。但し、光反射層18a及び18bの反射中心波長λ18は、光反射層14a及び14bの反射中心波長λ14、並びに光反射層16a及び16bの反射中心波長λ16のいずれとも等しくない。よって、赤外光反射板10’は、赤外光反射板10と同様に、光反射層14a及び14bによる反射中心波長λ14の左円偏光及び右円偏光に対する選択反射特性、並びに光反射層16a及び16bによる反射中心波長λ16の左円偏光及び右円偏光に対する選択反射特性を示すとともに、光反射層18a及び18bによる反射中心波長λ18の左円偏光及び右円偏光に対する選択反射特性を示し、選択反射の波長域をより広帯域化されている。
【0030】
一例では反射中心波長λ14が、800〜1000nm(より好ましくは、850〜950nm)の範囲であり、λ16が900〜1100nm(より好ましくは、950〜1050nm)の範囲であり、λ18が1000〜1200nm(より好ましくは、1050〜1150nm)の範囲であり、さらに他の一組の光反射層を有し、当該光反射層の反射中心波長が1100〜1300nm(好ましくは、1150〜1250nm)の範囲である。但し、この例に限定されるものではない。
【0031】
光反射層18a及び18bの形成方法については特に制限はない。より簡易な方法としては、上記した通り、基板の表面に液晶組成物を塗布し、コレステリック液晶相状態とした後に、その配向状態を固定して光反射層18aを形成した後、光反射層18aの表面に同様にして、光反射層18bを形成する方法が挙げられる。この方法では、上記した通り、下層の表面性状や配向状態が、その上に形成される層の配向状態等に影響するので、この方法で製造する場合には、光反射層18aの屈折率異方性Δn18a、及び光反射層18bの屈折率異方性Δn18bは、Δn18b<Δn18aを満足しているのが好ましい。
【0032】
本発明の赤外光反射板の態様は、図1及び図2に示す態様に限定されるものではない。基板の一方の表面上に、3組(合計で6層)以上光反射層積層した構成であってもよいし、また、基板の双方の表面上に、2組(合計で8層)以上光反射層積層した構成であってもよい。また、図2に示すとおり、基板の一方の表面上と他方の表面上とで、光反射層の数が異なっていてもよいし、同一であってもよい。また、同一の反射中心波長を示す2組以上の光反射層を有する態様であってもよい。
【0033】
また、本発明の赤外光反射板は、反射波長をより広帯域化することを目的として、他の赤外光反射板と組み合わせて用いても勿論よい。また、コレステリック液晶相の選択反射特性以外の原理により所定の波長の光を反射する光反射層を有していてもよい。組合せ可能な部材としては、特表平4−504555号公報に記載の複合膜及びそれを構成している各層、並びに特表2008−545556号公報に記載の多層ラミネート等が挙げられる。
【0034】
また、本発明の赤外光反射板は、他の部材と接着するのを容易とするために、最外層に易接着層を有していてもよい。図3及び図4に、図1及び図2の赤外光反射板10及び10’の最外層として、易接着層24を形成した例をそれぞれ示した。易接着層24については、後述する第2の本発明に利用される易接着層の好ましい例と同様である。例えば、易接着層24が、主成分としてポリビニルブチラール樹脂を含有すると、合わせガラスの中間膜との熱接着性が向上し、赤外光反射板10及び10’を、容易に合わせガラス中に挟み込むことができる。また、易接着層24と中間膜との密着性が高いので耐光性にも優れ、長時間自然光に曝されても、気泡の発生などによる劣化がないので好ましい。易接着層24中に紫外線吸収剤を添加すると、さらに耐光性が改善され、長時間の自然光の照射による黄変色も抑制できるので好ましい。
【0035】
次に、第1の本発明の赤外光反射板の作製に用いられる材料及び作製方法の例について詳細に説明する。
1.光反射層形成用材料
本発明の赤外光反射板では、各光反射層の形成に、硬化性の液晶組成物を用いるのが好ましい。前記液晶組成物の一例は、棒状液晶化合物、光学活性化合物(キラル剤)、及び重合開始剤を少なくとも含有する。各成分を2種以上含んでいてもよい。例えば、重合性の液晶化合物と非重合性の液晶化合物との併用が可能である。また、低分子液晶化合物と高分子液晶化合物との併用も可能である。更に、配向の均一性や塗布適性、膜強度を向上させるために、水平配向剤、ムラ防止剤、ハジキ防止剤、及び重合性モノマー等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、前記液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤等を光学的性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0036】
(1) 棒状液晶化合物
本発明に使用可能な棒状液晶化合物の例は、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0037】
本発明に利用する棒状液晶化合物は、重合性であっても非重合性であってもよい。重合性基を有しない棒状液晶化合物については、様々な文献(例えば、Y. Goto et.al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1995, Vol. 260, pp.23-28)に記載がある。
重合性棒状液晶化合物は、重合性基を棒状液晶化合物に導入することで得られる。重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基が特に好ましい。重合性基は種々の方法で、棒状液晶化合物の分子中に導入できる。重合性棒状液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0038】
(2) 光学活性化合物(キラル剤)
前記液晶組成物は、コレステリック液晶相を示すものであり、そのためには、光学活性化合物を含有しているのが好ましい。但し、上記棒状液晶化合物が不正炭素原子を有する分子である場合には、光学活性化合物を添加しなくても、コレステリック液晶相を安定的に形成可能である場合もある。前記光学活性化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。光学活性化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物もカイラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。光学活性化合物(キラル剤)は、重合性基を有していてもよい。光学活性化合物が重合性基を有するとともに、併用する棒状液晶化合物も重合性基を有する場合は、重合性光学活性化合物と重合性棒状液晶合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、光学活性化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性光学活性化合物が有する重合性基は、重合性棒状液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、光学活性化合物の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
また、光学活性化合物は、液晶化合物であってもよい。
【0039】
前記液晶組成物中の光学活性化合物は、併用される液晶化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。光学活性化合物の使用量は、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル剤として用いられる光学活性化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0040】
本発明の赤外光反射板は、コレステリック液晶相の螺旋方向が互いに逆の光反射層が隣接した構造を有する。本発明の好ましい例として、この隣接する1組の光反射層が、下層となる光反射層の屈折率異方性が、上層となる光反射層の屈折率異方性より大きい例が挙げられる。上記した通り、層の屈折率異方性は、主原料として用いる液晶材料の屈折率異方性や、添加されるキラル剤の添加量等に影響されるものである。右旋回性のキラル剤として、捩れ力が強いものが、左旋回性のキラル剤よりも多く市場に提供されている。よって、同一の螺旋ピッチのコレステリック液晶相を形成する場合は、右旋回性のキラル剤の添加量を、左旋回性のキラル剤の添加量よりも少量とすることができ、その結果、層の屈折率異方性Δnを低くすることができる。よって、下方の光反射層の形成用液晶組成物としては、右旋回性のキラル剤を含有する組成物を利用し、情報の光反射層の形成用液晶組成物としては、左旋回性のキラル剤を含有する組成物を利用する態様は、材料の選択の幅も広く、好ましい。
【0041】
(3) 重合開始剤
前記光反射層の形成に用いる液晶組成物は、重合性液晶組成物であるのが好ましく、そのためには、重合開始剤を含有しているのが好ましい。本発明では、紫外線照射により硬化反応を進行させるので、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0042】
光重合開始剤の使用量は、液晶組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
(4) 配向制御剤
前記液晶組成物中に、安定的に又は迅速にコレステリック液晶相となるのに寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例には、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、及び下記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物が含まれる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなり、また赤外領域での反射率が増大する。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、コレステリック液晶相の螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示すため好ましくない。
配向制御剤として利用可能な前記含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーの例は、特開2007−272185号公報の[0018]〜[0043]等に記載がある。
【0044】
以下、配向制御剤として利用可能な、下記一般式(X1)〜(X3)について、順に説明する。
【0045】
【化1】

【0046】
式中、R1、R2及びR3は各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X1、X2及びX3は単結合又は二価の連結基を表す。R1〜R3で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基又はフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2及びX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、―NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−及び−SO2−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0047】
【化2】

【0048】
式中、Rは置換基を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、R1、R2、及びR3で表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同様である。mは、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0049】
【化3】

【0050】
式中、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R4、R5、R6、R7、R8及びR9でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(XI)におけるR1、R2及びR3で表される置換基の好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0051】
本発明において配向制御剤として使用可能な、前記式(X1)〜(X3)で表される化合物の例には、特開2005−99248号公報に記載の化合物が含まれる。
なお、本発明では、配向制御剤として、前記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0052】
前記液晶組成物中における、一般式(X1)〜(X3)のいずれかで表される化合物の添加量は、液晶化合物の質量の0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。
【0053】
2. 基板
本発明の赤外光反射板は、基板を有するが、当該基板は自己支持性があり、上記光反射層を支持するものであれば、材料及び光学的特性についてなんら限定はない。用途によっては、紫外光に対する高い透明性が要求されるであろう。所定の光学特性を満足するように、生産工程を管理して製造される、λ/2板等の特殊の位相差板であってもよいし、また、面内レターデーションのバラツキが大きく、具体的には、波長1000nmの面内レターデーションRe(1000)のバラツキで表現すれば、Re(1000)のバラツキが20nm以上、また100nm以上であり、所定の位相差板としては使用不可能なポリマーフィルム等であってもよい。また基板の面内レターデーションについても特に制限はなく、例えば、波長1000nmの面内レターデーションRe(1000)が、800〜13000nmである位相差板等を用いることができる。
【0054】
可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。前記基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、などが挙げられる。
【0055】
3. 赤外光反射板の製造方法
本発明の赤外光反射板は、塗布方法によって作製されるのが好ましい。製造方法の一例は、
(1) 基板等の表面に、硬化性の液晶組成物を塗布して、コレステリック液晶相の状態にすること、
(2) 前記硬化性の液晶組成物に紫外線を照射して硬化反応を進行させ、コレステリック液晶相を固定して光反射層を形成すること、
を少なくとも含む製造方法である。
(1)及び(2)の工程を、基板の一方の表面上で4回繰り返すことで図1に示す構成と同様の構成の赤外光反射板を作製することができる。また、(1)及び(2)の工程を、基板の一方の表面上で4回繰り返し、その前、その後、もしくは同時に、基板の他方の表面上で2回繰り返すことで、図2に示す構成と同様の構成の赤外光反射板を作製することができる。
【0056】
前記(1)工程では、まず、基板又は下層の光反射層の表面に、前記硬化性液晶組成物を塗布する。前記硬化性の液晶組成物は、溶媒に材料を溶解及び/又は分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。前記塗布液の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、液晶組成物をノズルから吐出して、塗膜を形成することもできる。
【0057】
次に、表面に塗布され、塗膜となった硬化性液晶組成物を、コレステリック液晶相の状態にする。前記硬化性液晶組成物が、溶媒を含む塗布液として調製されている態様では、塗膜を乾燥し、溶媒を除去することで、コレステリック液晶相の状態にすることができる場合がある。また、コレステリック液晶相への転移温度とするために、所望により、前記塗膜を加熱してもよい。例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、コレステリック液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的にコレステリック液晶相の状態にすることができる。前記硬化性液晶組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し、熱エネルギーの浪費、基板の変形、変質等からも不利になる。
【0058】
次に、(2)の工程では、コレステリック液晶相の状態となった塗膜に、紫外線を照射して、硬化反応を進行させる。紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。この工程では、紫外線を照射することによって、前記液晶組成物の硬化反応が進行し、コレステリック液晶相が固定されて、光反射層が形成される。
紫外線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm2〜800mJ/cm2程度が好ましい。また、前記塗膜に紫外線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
【0059】
硬化反応を促進するため、加熱条件下で紫外線照射を実施してもよい。また、紫外線照射時の温度は、コレステリック液晶相が乱れないように、コレステリック液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。好ましい酸素濃度としては、10%以下が好ましく、7%以下がさらに好ましく、3%以下が最も好ましい。紫外線照射によって進行される硬化反応(例えば重合反応)の反応率は、層の機械的強度の保持等や未反応物が層から流出するのを抑える等の観点から、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましい。反応率を向上させるためには照射する紫外線の照射量を増大する方法や窒素雰囲気下あるいは加熱条件下での重合が効果的である。また、一旦重合させた後に、重合温度よりも高温状態で保持して熱重合反応によって反応をさらに推し進める方法や、再度紫外線を照射する(ただし、本発明の条件を満足する条件で照射する)方法を用いることもできる。反応率の測定は反応性基(例えば重合性基)の赤外振動スペクトルの吸収強度を、反応進行の前後で比較することによって行うことができる。
【0060】
上記工程では、コレステリック液晶相が固定されて、光反射層が形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、紫外線照射によって進行する硬化反応により、コレステリック液晶相の配向状態を固定する。
なお、本発明においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に光反射層中の液晶組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、液晶組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0061】
4. 赤外光反射板の用途
本発明の赤外光反射板は、波長700nm以上(より好ましくは800〜1300nm)に反射ピークのある選択反射特性を示す。この様な特性の反射板は、住宅、オフィスビル等の建造物、又は自動車等の車両の窓に、日射の遮熱用の部材として貼付される。又は、本発明の赤外光反射板は、日射の遮熱用の部材そのもの(たとえば、遮熱用ガラス、遮熱用フィルム)として、その用途に供することができる。
【0062】
本発明の赤外光反射板は、波長800〜1300nmでの日射の最大反射率90%以上を達成可能であり、勿論100%であるのが最も好ましい。また、特に本発明の赤外光反射板は、建物内、車内等の温度上昇に大きく寄与する波長900nm〜1300nm程度の反射率に優れているという特徴、即ち遮熱性に優れている。
赤外光反射板としてその他の重要な性能は、可視光の透過率とヘイズである。材料の選択及び製造条件等を調整して、用途に応じて、好ましい可視光の透過率及びヘイズを示す赤外光反射板を提供できる。例えば可視光の透過率が高い用途に用いられる態様では、可視光の透過率が90%以上であり、且つ赤外の反射率が上記反応を満足する赤外光反射板とすることができる。
【0063】
第2の本発明
第2の本発明は、コレステリック液晶層を内部に有する合わせガラスの耐光性の改善に寄与するものである。なお、第2の発明では、「コレステリック液晶層」は、「コレステリック液晶相」を固定してなる層のみならず、「コレステリック液晶相」の状態に少なくともなり、温度変化等によって、他の液晶相に転移し得る層を含む意味で用いる。
以下、第2の本発明について詳細に説明する。
【0064】
第2の本発明は、基板と、その表面及び/又は裏面上に、1層又は2層以上のコレステリック液晶層と、少なくとも一方の最外層としてポリビニルブチラール樹脂を含む易接着層と、を少なくとも有する積層体に関する。合わせガラスは、一般的には、2枚のガラス板の内面に形成された中間膜を熱接着して作製される。この合わせガラスの内部に、1層又は2層以上のコレステリック液晶層を有する積層体を挟み込む場合には、コレステリック液晶層の表面を中間膜と熱接着させることになるが、これらの密着力が不十分であるため、長時間自然光に曝され、温度が上昇すると、コレステリック液晶層と中間膜との間に気泡が発生して、透明性が低下する。本発明の積層体は、最外層に易接着層を有するので、ガラス板中に挟み込む際に、当該易接着層の表面を中間膜と熱接着させればよく、密着力が改善され、ひいては耐光性が改善される。
【0065】
本発明の積層体は、その表面及び裏面の双方の最外層として、易接着層を有していてもよいし、表面の最外層として前記易接着層を有し、裏面の最外層としてアンダーコート層を有していてもよい。図5に、前者の態様の一例の断面模式図を、図6に後者の態様の一例の断面模式図を示す。図5に示す積層体20は、1層又は2層以上のコレステリック液晶層を有する部材22の表面及び裏面の双方の最外層として、易接着層24を有し、また、図6に示す積層体20’は、1層又は2層以上のコレステリック液晶層を有する部材22の表面の最外層として、易接着層24を有し、及び部材22の裏面の最外層として、アンダーコート層26を有する。
【0066】
コレステリック液晶層を有する部材22が、例えば、図1に示す赤外光反射板の様に、基板の一方の表面のみに1層以上のコレステリック液晶層を有する態様では、最上層であるコレステリック液晶層(図1では光反射層16b)の表面に易接着層24を形成し、ポリマーフィルム等からなる基板(図1では基板12)の裏面に易接着層24又はアンダーコート層26を形成するのが好ましい。また、コレステリック液晶層を有する部材22が、例えば、図2に示す赤外光反射板の様に、基板の表面及び裏面の双方に、1層以上のコレステリック液晶層を有する態様では、最上層であるコレステリック液晶層(図2では光反射層16b)の表面に易接着層24を形成し、また最下層であるコレステリック液晶層(図2では光反射層18b)の表面にも易接着層24を形成するのが好ましい。
【0067】
図7及び図8に、図5及び図6に示す積層体を内部に有する合わせガラスの一例の断面模式図を示す。図7に示す合わせガラス30は、図5に示す積層体20の上下の易接着層24と、上下のガラス板28の内面に形成された中間膜27とを、熱接着して製造することができる。図8に示す合わせガラス30’は、図6に示す積層体20’の易接着層24と、ガラス板28の内面に形成された中間膜27とを熱接着して、及び積層体20’のアンダーコート層26と、ガラス板28の内面に形成された中間膜27とを熱接着して製造することができる。
【0068】
図7及び図8に示す合わせガラス30及び30’は、内部に挟み込んだ積層体20及び20’を選択することにより種々の機能を有する。例えば、図1及び図2に示す様な、コレステリック液晶層を光反射層として利用した積層体を選択することにより、所定の波長範囲の光に対して反射特性を有する合わせ光反射性合わせガラスとなる。
【0069】
図7及び図8に示す合わせガラス30及び30’は、例えば一方のガラス板28の表面を屋外に、他方のガラス板28の表面を屋内に向けて配置される。コレステリック液晶層の中には、紫外線の照射によって劣化して黄変するものもある。易接着層24が、紫外線吸収性であると、屋外からの紫外線によってコレステリック液晶層が黄変するのを抑制でき、より耐光性が改善されるので好ましい。例えば、図7及び図8の合わせガラス30及び30’を、図中の上側のガラス板28を屋外に向けて配置する場合には、易接着層24(図7においては上側の易接着層24)に、紫外線吸収剤を添加して、紫外線吸収性とするのが好ましい。易接着層と中間膜(図7と図8においては上側の易接着層24と上側の中間膜27)とで、波長380nm以下の紫外線の透過率を0.1%以下にする作用があると、紫外線による黄変を格段に軽減できるので好ましい。
【0070】
次に、第2の本発明の積層体及び合わせガラスの作製に利用される種々の材料及び方法について詳細に説明する。
1. 易接着層
第2の本発明の積層体は、少なくとも1つの最外層として、ポリビニルブチラール樹脂を含有する易接着層を有する。ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸触媒で反応させて生成するポリビニルアセタールの一種であり、下記構造の繰り返し単位を有する樹脂である。
【0071】
【化4】

【0072】
前記易接着層は、塗布により形成するのが好ましい。例えば、コレステリック液晶層の表面に、塗布により形成してもよい。より具体的には、ポリビニルブチラール樹脂の1種を有機溶媒に溶解して塗布液を調製し、該塗布液を、コレステリック液晶層等の表面に塗布して、所望により加熱して乾燥し、易接着層を形成することができる。塗布液の調製に用いる溶媒としては、例えば、メトキシプロピルアセテート(PGMEA)、メチルエチルケトン(MEK)、イソプロパノール(IPA)等を用いることができる。塗布方法としては、従来公知の種々の方法を利用することができる。乾燥時の温度は、塗布液の調製に用いた材料によって好ましい範囲が異なるが、一般的には、140〜160℃程度であるのが好ましい。乾燥時間についても特に制限はないが、一般的には、5〜10分程度である。
【0073】
易接着層中には、上記したとおり、紫外線吸収剤を添加するのが好ましい。特に、屋外側に配置されるガラス板と、コレステリック液晶層との間に配置される易接着層中に添加するのが好ましい。使用可能な紫外線吸収剤の例には、ベンゾトリアゾール系、ベンゾジチオール系、クマリン系、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛などが挙げられる。特に好ましい前記紫外線吸収剤の例には、Tinuvin326,328,479(いずれもチバ・ジャパン社製)等が含まれる。また、前記紫外線吸収剤の種類、配合量は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、易接着層が、波長380nm以下の紫外線の透過率を0.1%以下にする作用があると、紫外線による黄変を格段に軽減できるので好ましい。よって、この特性を満足する様に、紫外線吸収剤の種類及び配合量を決定するのが好ましい。
【0074】
2. アンダーコート層
本発明の第2の積層体は、ガラスの内面に形成された中間膜との接着性を改善するために、アンダーコート層を有していてもよい。アンダーコート層は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が含有する層である。
例えば、PETフィルム等のポリマーフィルムの一方の表面のみに、1層又は2層以上のコレステリック液晶層を有する積層体を、合わせガラス中に挟み込む場合には、ポリマーフィルムの裏面と、ガラスの内面の中間膜とを熱接着させることになる。ポリマーマーフィルムの材料によっては、中間膜との接着性が不十分なものもあり、アンダーコート層を形成することで、接着性を改善することができる。アンダーコート層は、一般的には、塗布によって形成される。また、市販されているポリマーフィルムの中には、アンダーコート層が付与されているものもあるので、それらの市販品を基板として利用することもできる。
【0075】
前記アンダーコート層の厚みについては特に制限はないが、一般的には、0.1〜2.0μm程度であるのが好ましい。
【0076】
3.合わせガラス
合わせガラスの作製に用いる2枚のガラス板は、それぞれ、表面に中間膜を有する合わせガラス用のガラス板であり、一般的なものを使用することができる。中間膜は、一般的には、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)又はエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)を主原料として含有する。前記易接着層は、いずれの材料を主原料とする中間膜に対しても接着性が良好である。特に、ポリビニルブチラール樹脂を主原料とする中間膜との熱接着性に優れる。
【0077】
ガラス板の厚みについては特に制限はなく、用途に応じて好ましい範囲が変動する。例えば、輸送車両のフロントガラス(ウインドウシールド)の用途では、一般的には、2.0〜2.3mmの厚みのガラス板を用いるのが好ましい。また、中間膜の厚みは、一般的には、380〜760μm程度である。
【実施例】
【0078】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0079】
1.第1の発明の実施例
下記表に示す組成の塗布液(A)、(B)、(C)、及び(D)をそれぞれ調製した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【化5】

【0085】
【化6】

【0086】
(1) 調製した各塗布液を、ワイヤーバーを用いて、乾燥後の乾膜の厚みが6μmになるように富士フイルム(株)製PETフィルム上に、室温にて塗布した。
(2) 室温にて30秒間乾燥させてコレステリック液晶相とした後、125℃の雰囲気で2分間加熱し、その後95℃でフュージョン製Dバルブ(ランプ90mW/cm)にて、出力60%で6〜12秒間UV照射し、コレステリック液晶相を固定して、膜(光反射層)を作製した。
(3)室温まで冷却した後、上記工程(1)及び(2)を繰り返した。
【0087】
上記方法により、下記表に示す赤外光反射板をそれぞれ作製した。
作製した各反射板について、分光光度計を用いて900〜1300nmの日射スペクトルに対して反射する遮断性能を評価した。
また、遮熱性については、900〜1300nmの反射率が75%以上のものを優(○)と評価し、75%未満70%以上のものを良(△)と評価し、70%未満のものを劣(×)と評価した。
【0088】
【表5】

【0089】
実施例1の作製方法において、上記工程(2)における、UV照射時の膜温度を25〜100℃の間で調整すること及び配向熟成時間を調整することで、螺旋軸角度(配向秩序)を調整し、下記の赤外光反射板(参考例1)を作製した。
上記と同様にして、反射率及び遮熱性を評価した。参考例1の赤外光反射板の評価結果を、実施例1の赤外光反射板の評価結果とともに、下記表に示す。
【0090】
【表6】

【0091】
上記表に示すとおり、参考例1でも実施例1と同様、中心反射波長が1000nmの光反射層X1及びX2を、基板側のより近くに配置しているが、光反射層X1及びX2の配向秩序度が、光反射層X3及びX4の配向秩序度より小さいので、反射率が70%まで低下し、実施例1と比較して、遮熱性が劣っていた。
【0092】
2.第2の発明の実施例
(1)実施例11
基板として、厚み188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」という)を準備した。このPETフィルムは、富士フイルム製商品名「FPA14−188」であり、両面にウレタン樹脂とアクリル樹脂とからなるアンダーコート層を有していた。
この基板の片面に、上記実施例で用いた塗布液(A)を塗布して、乾燥し、硬化させてコレステリック液晶層を形成した。
【0093】
次に、下記の組成の易接着層用塗布液1を調製した。この塗布液を、コレステリック液晶層の表面に、乾燥膜厚が2μmとなるようにバー塗布し、温度150℃で7分間乾燥し、易接着層を形成した。この様にして、易接着層を有する積層体11を作製した。
・易接着層用塗布液1
メトキシプロピルアセテート(PGMEA) 100質量部
ポリビニルブチラール樹脂
(B1776 台湾 長春株式会社製) 10質量部
【0094】
次に、厚み2mmのクリアガラス(日本板硝子社製)であって表面にPVB中間膜(15ミル(1ミル=1/1000インチ=0.0254mm))を有するガラス板を2枚準備し、PVB中間膜を内側にして配置し、その間に、上記積層体11を挟み、加熱処理で接着させて、合わせガラスを作製した。
【0095】
(2)実施例12
以下の組成の易接着層用塗布液2を調製した。
・易接着層用塗布液2
メトキシプロピルアセテート(PGMEA) 100質量部
紫外線吸収剤(Tinuvin326、チバ・ジャパン社製) 2.5質量部
HALS(Tinuvin152、チバ・ジャパン社製) 2.5質量部
ポリビニルブチラール樹脂
(B1776 台湾 長春株式会社製) 10質量部
【0096】
実施例11において使用した塗布液1を、上記で調製した塗布液2に代えて易接着層を形成した以外は、実施例11と同様にして、易接着層を有する積層体12を作製した。さらに、積層体11を積層体12に代えた以外は同様にして、合わせガラスを作製した。
【0097】
(3)比較例11
易接着層を形成しなかった以外は、実施例11と同様にして合わせガラスを作製した。
(4)比較例12
厚み2mmのクリアガラス(日本板硝子社製)であって表面にPVB中間膜(15ミル)を有するガラス板を2枚準備し、PVB中間膜を内側にして配置し、その間になにも挟まず、合わせガラスを作製した。
【0098】
(5)耐光性試験
上記で作製した各合わせガラスについて、以下の条件で耐光性試験を行い、気泡の発生の有無及び黄変色の程度の観点で評価した。
・耐光性試験条件
装置 :岩崎電機 アイスーパーUV(メタルハライド)
BP温度 :63℃
照射面 :易接着層面側及びコレステリック液晶層側から暴露
照射時間 :200時間照射後に評価
結果を下記表に示す。
【0099】
【表7】

【符号の説明】
【0100】
10、10’ 赤外光反射板(第1の本発明の赤外光反射板)
12 基板
14a 光反射層(光反射層X1)
14b 光反射層(光反射層X2)
16a 光反射層(光反射層X3)
16b 光反射層(光反射層X4)
18a 光反射層
18b 光反射層
20、20’ 積層体(第2の本発明の積層体)
22、22’ コレステリック液晶層を有する部材
24 易接着層
26 アンダーコート層
27 中間膜
28 ガラス板
30、30’ 合わせガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、並びに基板の少なくとも一方の表面上に、コレステリック液晶相を固定してなる少なくとも4つの光反射層X1、X2、X3及びX4を基板側からこの順で有し、
光反射層X1及びX2それぞれの反射中心波長がλ1(nm)であり互いに等しく、且つ互いに逆方向の円偏光を反射し、
光反射層X3及びX4のそれぞれの反射中心波長がλ2(nm)であり互いに等しく、且つ互いに逆方向の円偏光を反射し、並びに、
λ1<λ2を満足する、
波長700nm以上の赤外線を反射する赤外光反射板。
【請求項2】
光反射層X1及びX2の反射中心波長λ1(nm)が、800〜1150nmの範囲にあり、光反射層X3及びX4の反射中心波長λ2(nm)が、1000〜1400nmの範囲にある請求項1に記載の赤外光反射板。
【請求項3】
光反射層X1及び光反射層X3がそれぞれ同一の回転方向の円偏光を反射するとともに、光反射層X1の配向秩序が、光反射層X3の配向秩序よりも高い請求項1又は2に記載の赤外光反射板。
【請求項4】
光反射層X1及び光反射層X3がそれぞれ同一の回転方向の円偏光を反射するとともに、光反射層X1の配向秩序が、光反射層X3の配向秩序よりも高く、並びに光反射層X2及び光反射層X4がそれぞれ同一の回転方向の円偏光を反射するとともに、光反射層X2の配向秩序が、光反射層X4の配向秩序よりも高い請求項1又は2に記載の赤外光反射板。
【請求項5】
光反射層X1及び光反射層X3が、右旋回性のキラル剤を含有し、光反射層X2及びX4が左旋回性のキラル剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外光反射板。
【請求項6】
光反射層X2、X3及びX4がそれぞれ、下層の光反射層の表面に塗布された液晶組成物をコレステリック液晶相とし、当該コレステリック液晶相を固定することで形成された層である請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤外光反射板。
【請求項7】
前記基板が、ポリマーフィルムである請求項1〜6のいずれか1項に記載の赤外光反射板。
【請求項8】
少なくとも1つの最外層として、易接着層を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の赤外光反射板。
【請求項9】
前記易接着層が、ポリビニルブチラール樹脂を含有する請求項8に記載の赤外光反射板。
【請求項10】
前記易接着層が、少なくとも1種の紫外線吸収剤を含有する請求項8又は9に記載の赤外光反射板。
【請求項11】
2枚のガラス板と、その間に請求項1〜10のいずれか1項に記載の赤外光反射板とを有する赤外光反射性合わせガラス。
【請求項12】
基板と、その表面及び/又はその裏面に、1層又は2層以上のコレステリック液晶層と、少なくとも一方の最外層としてポリビニルブチラール樹脂を含む易接着層と、を少なくとも有する積層体。
【請求項13】
前記易接着層が、ポリビニルブチラール樹脂を含有する塗布液を、コレステリック液晶層の表面に塗布して形成された層である請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
双方の最外層として、ポリビニルブチラール樹脂を含む易接着層を有する請求項12又は13に記載の積層体。
【請求項15】
一方の最外層として前記易接着層を有し、他方の最外層としてアクリル樹脂、ウレタン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択されるいずれかを含有するアンダーコート層を有する請求項12又は13に記載の積層体。
【請求項16】
前記易接着層が、少なくとも1種の紫外線吸収剤を含有する請求項12〜15のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項17】
前記易接着層が、波長380nm以下の紫外線の透過率を0.1%以下にする層である請求項16に記載の積層体。
【請求項18】
それぞれの内面に中間膜を有する2枚のガラス板と、その間に請求項12〜17のいずれか1項に記載の反射性積層体とを有する合わせガラス。
【請求項19】
前記中間膜が、ポリビニルブチラール樹脂又はエチレン・酢酸ビニル共重合体を含有する請求項18に記載の合わせガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−286644(P2010−286644A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140162(P2009−140162)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】