説明

赤外反射耐熱布帛及びそれらからなる耐熱性防護服

【課題】本発明は、軽量で高強力且つ、高い遮熱特性を有し、通気性能のある赤外反射耐熱性布帛及びそれを用いた耐熱性防火服、防護服、作業服等に関する。
【解決手段】熱分解温度と融点が共に400℃以上であり、LOI値が25以上であり、引張強さが680MPa以上の樹脂からなるフィルムの表面に金属蒸着したフィルムをスリットして得られるスリットヤーンを経糸もしくは緯糸の少なくとも一方に製織し、通気度が20cm/m・sec以上とすることにより、軽量で高温輻射熱に対する長時間の遮熱性や難燃性に優れ、且つ蒸れ感の少ない着用性に優れた耐熱性防護服、作業服とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で高強力且つ、高い遮熱特性を有し、通気性能のある赤外反射耐熱性布帛及びそれを用いた耐熱性防火服、防護服、作業服等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消防士が消火作業時に着用する耐熱性防護服としては、近年では、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性で、難燃性の有機繊維布帛が使用されている。更に近年に火災により発生する輻射熱からの保護を目的として、これらの難燃繊維からなる布帛に熱反射フィルムを貼りあわせた防火服が提案されている。
【0003】
例えば、実開平07−40140号公報には、布帛の上に赤外反射性に優れた金属蒸着層を有するポリエステルフィルムを接着層を介して貼りあわせたものが提案されている。しかしながら、ある程度輻射熱遮断性に優れるものの、ポリエステルフィルムであるため、耐熱性が低く、短時間でフィルムが融解し輻射熱遮断性が低下し、人体が火傷を負うという問題点があった。また通気性が悪く蒸れるという問題もあった。
【0004】
更に特開平11−42295号公報には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムにアルミ蒸着した熱反射フィルムを接着剤で貼り合せたものが提案されている。しかしながら、こちらも通気性が悪く、蒸れる問題があった。ポリテトラフルオロエチレンフィルムは、ポリエステルフィルムに比べて耐熱性は向上しているため輻射熱遮断性は若干向上するものの未だ十分なものとは言えず、やはり高温の輻射熱で短時間で融解する点や、またフィルム強度が弱く金属やガラス破片で容易に破損するという問題点もあった。
【0005】
【特許文献1】実開平07−40140号公報
【特許文献2】特開平11−42295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、耐熱性特に高温の輻射熱遮断性が良好で、難燃性に優れ、高強力で軽量かつ通気性能のある赤外反射耐熱性布帛及びそれを用いた耐熱性防火服、防護服、作業服等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
熱可塑性樹脂からなるフィルムの少なくとも片面に金属層を形成した赤外線反射フィルムを細条にカットしてなるスリットヤーンを経糸もしくは緯糸の少なくとも一方に製織してなる赤外反射耐熱布帛において、該熱可塑性樹脂が、a)熱分解温度と融点が共に400℃以上、b)JIS L−1091 E法でLOI値が25以上、c)引張強さが680MPa以上である熱可塑性樹脂であり、該赤外反射耐熱布帛の通気度が20cm/m・sec以上とする赤外反射耐熱性布帛とすること及び該布帛を表地層として服地基布表面と貼り合わせた耐熱性防護服、作業服とすることにより達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の赤外反射耐熱性布帛は、熱分解温度と融点が共に400℃以上であり、LOI値が25以上であり、引張強さが680MPa以上の熱可塑性樹脂からなり、通気度が20cm/m・sec以上の布帛とすることにより、軽量、高強度、耐摩耗性、難燃性のみならず耐熱性、特に輻射熱の遮断性が従来では得られなかった長時間に亘る輻射熱遮断性を示すとともに、軽く、又通気性能があるので快適な着用性を有する耐熱性防火服、防護服となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、耐熱性、難燃性、高強度という点で、熱分解温度と融点が共に400℃以上であり、またJIS K 7201でのLOI値が25以上であり、更に引張強さが680MPa以上である熱可塑性樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂として全芳香族ポリアミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールが好ましく、中でも全芳香族ポリアミドが最も好ましい。全芳香族ポリアミドとしては、メタ系の全芳香族ポリアミドで、高いLOI値を有するポリメタフェニレンイソフタルアミドを用いることが有用であるが、フィルム強度を向上させる目的でパラ系の全芳香族ポリアミド、すなわち、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいは、これに第3成分を共重合した樹脂を単独で用いることができるし又ポリメタフェニレンイソフタルアミド混合させることも好ましい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体の一例として、コポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミドが例示される。全芳香族ポリアミドが輻射熱遮断性布帛用樹脂として優れる理由については明確ではないが、全芳香族ポリアミドは融点と分解点が400℃以上であり、400℃以上まではフィルム又は糸としての形態を保ち易く、また高温時に引張強度が高いため熱風による圧力や金属、ガラスの破片等による破損などが生じにくく、そのため従来では得られなかった長時間に亘る輻射熱遮断性に優れるものと推定している。また全芳香族ポリアミドは密度に対しての強度が高く、それ故他の素材に比して軽量で高強度とすることができる。
【0010】
上記樹脂を用いて公知の方法でフィルム化する。例えば熱溶融可能樹脂であれば適切な温度、混練条件で溶融後、Tダイから所定の厚さに設定したスリットから押し出し成型して冷却後常法により二軸延伸等してフィルム化したり、溶媒可溶樹脂の場合も適切な溶媒を選択してTダイから押し出し成型し、乾式又は湿式脱溶媒して常法により延伸しフィルム化する。
【0011】
フィルムの表面に金属皮膜を形成せしめる方法としては、従来公知の方法が用いられ、繊維や布帛表面に無電解メッキ、電気メッキ、金属蒸着、スパッタリング加工などを施す方法が好ましい。用途や目的に応じて片面又は両面に金属皮膜層を形成することが好ましい。
【0012】
上記の皮膜を形成する金属としては、アルミニウム、インジウム、ステンレス、チタン、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、スズ及びそれらの合金等が挙げられ、中でも、赤外線反射率の高いアルミが好ましい。また、これらの金属により形成される層は1層であっても、2層以上の多層であっても構わない。
【0013】
また、該フィルムに対しては、金属皮膜と繊維との密着性を向上させるために、エッチングやコロナ放電処理、又はプラズマ処理を行なうことが好ましく、中でもプラズマ処理を施すことが好ましい。更に界面活性剤などによるコンディショナー処理を施すことも有用である。
【0014】
上記の金属皮膜からなる赤外反射層を設けたフィルムを公知の方法を用いてスリット状に裁断してスリットヤーンを作成する。例えば上記赤外反射層を設けたフィルムを1〜複数枚重ねて所定幅(例えば1mm幅その他)にカットして、一方向に連続した扁平糸として製造することができる。好ましいカット幅としては0.1〜1.5mm、より好ましくは0.5〜1.0mmである。
【0015】
上記のスリットヤーンを経糸、緯糸に用いて公知の方法により織製する。この際スリットヤーンの赤外反射層を設けた面が布帛にしたとき表面になるようにすることが好ましい。
【0016】
織製された赤外反射耐熱性布帛は、通気度が20cm/m・sec以上を満足することが好ましく、蒸れ感を感じることなく快適な着用性が得られる。通気度を上記の値にするためには、経糸、緯糸の織り込み密度を表すカバーファクターを適切な値とすることにより達成できる。蒸れ感と熱遮断性をバランスするうえで通気度は20〜100cm/m・secとするのが好ましい。
【0017】
本発明の赤外反射耐熱性布帛を表地層に用いてなる耐熱性防護服は、火災により発生する輻射熱を効率的に遮断することが公知のものに比べ長時間可能となり、また強度が向上しているため火災現場等でのガラス、金属などからの防護性能を大幅に向上させることができるとともに、軽量で蒸れ感の無い赤外反射耐熱性布帛とすることができる。
【0018】
なお、本発明の耐熱防護服、作業服は、上記赤外反射布帛を用いた表地層と服地基布から構成される複合構造を有するが、各層は相互に接合されている必要はなく、重ね合わして縫合したものでよい。また、内層はファスナー等を使用して表地層から取り外し可能なようにし、洗濯が簡単に出来るような構造を有するものが好ましい。このような金属加工を施した耐熱性フィルムの裏面と基布表面とを張り合わせた耐熱性防護服、作業服は、火災により発生する輻射熱を効率的に遮断するとともに難燃性であり、また強度が非常に高いので金属、ガラス破片などからの防護性能も有するものとなる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
(1)通気度
JIS L1096−Aに準拠した方法による。
(2)輻射熱遮断性
ISO6942;1992 に準拠した方法による。測定は、内層の上に表地、フィルム層を重ねて作成した試験用衣服を規定の火炎に暴露し、該内衣の温度上昇が二度火傷に達するまでの時間を測定した。
(3)LOI値
JIS K 7201 に準拠した方法による。
(4)カバーファクター(CF)
経糸CF=経糸密度(本/inch)×(経糸デニール)1/2
緯糸CF=緯糸密度(本/inch)×(緯糸デニール)1/2
CF=経糸CF+緯糸CF
【0020】
[実施例1]
ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(2.2dtex カット長51mm 帝人テクノプロダクツ製、商標名:コーネックス)とコポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(1.5dtex カット長51mm 帝人テクノプロダクツ製、商標名:テクノーラ)とを混合比率が90:10となる割合で混合した耐熱繊維からなる紡績糸(40/2)を用いて平織リップストップに織成した織物(目付:240g/m)を公知の方法で作成し、精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。該布帛を表地層とし、中間層には、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維からなる紡績糸(番手:40/−)からなる織布(目付:75g/m)にポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム(ジャパンゴアテックス製、目付:35g/m)をラミネートしたものを使用する。熱遮蔽層として、ポリパラフェニレンテレフタルアミドフィルム(帝人アドバンストフィルム製、商標名:アラミカ)の表面にアルミ蒸着した赤外反射フィルムを0.07mmにスリット状に裁断し、それぞれ経糸、緯糸に使用してアルミ蒸着面が表面に来るように製織した。カバーファクターは1230に調整した。赤外反射布帛を表地に貼りあわせて耐熱防護服を作成した。このものについて耐熱性、引張強度及びLOIまた輻射熱遮断性、通気度の結果を表1に示す。このものは比較例2に対して通気性に優れ、長時間にわたり輻射熱遮断性に優れているものであった。
【0021】
[比較例1]
実施例1の赤外反射布帛の代わりに、輻射熱遮断層として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維の短繊維(1.4dtex、38mmカット長 帝人テクノプロダクツ製)を用いて、ウォーターニードル法により作成した不織布(目付:35g/m)を2層に積層させたものを使用し、該不織布にポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維からなる紡績糸(番手:60/1)を織成した織布(目付:75g/m)を裏地として重ね合わせたものをキルティング加工して用いる。これらの表地層、中間層、輻射熱遮断層の3層を重ねて用い縫製して耐熱性防護服を得た。得られた耐熱性防護服の輻射熱遮断性評価結果を表1示す。このものは通気性能はあるものの、輻射熱遮断性がなく実施例1にたいして約半分の時間しかもたず、実用上適するものではなかった。
【0022】
[比較例2]
熱遮蔽層としてアルミ蒸着加工した四フッ化エチレンコポリマーフィルム(エスケー社製、商品名:テフロン(登録商標)片面処理済シート)を実施例1の表地にスリット状に裁断することなく貼り合せて耐熱性防護服を作成した。このものの耐熱性、引張強度及び上記フィルムのLOIまた輻射熱遮断性評価結果を表1に併せて示す。この四フッ化エチレンコポリマーフィルムは難燃性に優れるものの、融点が低いため輻射熱で容易に融解するため輻射熱遮断時間が短く、又通気性はほぼ0に等しく、防火服として十分なものではなかった。
【0023】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0024】
耐熱性、高強度、軽量で熱遮蔽性に優れ且つ通気性にもすぐれるため、快適な着用性が得られる防火服、防護服として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなるフィルムの少なくとも片面に金属層を形成した赤外線反射フィルムを細条にカットしてなるスリットヤーンを経糸もしくは緯糸の少なくとも一方に製織してなる赤外反射耐熱布帛において、該熱可塑性樹脂が、a)熱分解温度と融点が共に400℃以上であり、b)JIS K 7201でのLOI値が25以上であり、c)引張強さが680MPa以上である熱可塑性樹脂からなることを特徴とする赤外反射耐熱布帛。
【請求項2】
通気度が20cm/m・sec以上ある請求項1記載の赤外反射耐熱布帛。
【請求項3】
金属層が、アルミニウム、インジウム、ステンレス、チタン、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、スズから選ばれた少なくとも1種類の金属から形成されたものである請求項1〜2いずれか一項記載の赤外反射耐熱布帛。
【請求項4】
金属層が、真空蒸着法又はメッキ、スパッタリング法によってフィルム表面上に形成されたものである請求項1〜3いずれか一項記載の赤外反射耐熱布帛。
【請求項5】
フィルムの少なくとも片面がプラズマ放電処理された後に金属層が形成されたものである請求項1〜4いずれか一項記載の赤外反射耐熱布帛。
【請求項6】
金属層の厚みが0.2nm〜300nmであること請求項1〜5いずれか一項記載の赤外反射耐熱布帛。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が全芳香族ポリアミドである、請求項1〜6いずれか一項記載の赤外反射耐熱布帛。
【請求項8】
請求項1〜7記載の赤外反射耐熱布帛を表地層として服地基布表面と貼り合わせたことを特徴とする赤外反射耐熱性防護服。

【公開番号】特開2008−31577(P2008−31577A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204507(P2006−204507)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】