説明

赤外吸収式ガス分析装置

【課題】受光部の信号の温度補償のみならず、試料ガス濃度の温度補償も行うことができ、これにより高精度の測定を行うことが可能な赤外吸収式ガス分析装置を提供する。
【解決手段】測定セルの内部に赤外光源16および受光部18が配置され、測定セル内に導入した試料ガス24に赤外光源から赤外光を照射し、この赤外光を受光部で検出するとともに、受光部で検出した赤外光強度に基づいて試料ガス中の特定ガス成分の濃度を算出する赤外吸収式ガス分析装置において、測定セル内の受光部の近傍に内部温度センサ26を設置するとともに、測定セル外の測定セルの近傍に外部温度センサ28を設置し、内部温度センサより検出した温度および/または外部温度センサにより検出した温度を用いて温度補償を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ガス中の特定ガス成分の濃度を測定する赤外吸収式ガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料ガス中に含まれる特定のガス成分を測定するための装置として、非分散型赤外吸収式ガス分析装置(NDIR)が使用されている(例えば、特許文献1参照)。この非分散型赤外吸収式ガス分析装置の測定セルの一例を図3に示す。図3において、10は試料ガス導入口12および試料ガス排出口14を有するセル本体、16はセル本体10内の一端側に配置された赤外光源、18はセル本体10内の他端側に配置された受光部を示す。また、図中20、22はそれぞれセル本体10の両端開口部を閉塞する閉塞板を示す。本例の測定セルでは、試料ガス導入口12からセル本体10内に試料ガス24を導入するとともに、セル本体10内の試料ガス24に赤外光源16から赤外光を照射し、この赤外光を受光部18で検出する。この場合、受光部18に光学フィルタ(図示せず)を設け、目的成分が吸収する波長以外の波長の光をカットする。
【0003】
上述した非分散型赤外吸収式ガス分析装置は、ガス濃度計やガス漏洩検知器に利用されているが、目的ガスの濃度を測定するに当たり、目的ガスの赤外領域にある特定吸収波長帯域の吸光度を検出し、下記ランバート・ベルの法則によりガス濃度を決定している。具体的には、目的ガスの特定吸収波長での透過光(サンプル光)の強度を、その目的ガスの吸収がない波長における透過光(参照光)の強度に対する吸光度として演算し、これに温度等の条件を補正して濃度算出を行っている。
【0004】
<ランバート・ベルの法則>
A=log(I/I)=εcd
A:吸光度。
:参照光強度。
:サンプル光強度。
ε:物質固有の吸光係数。
c:ガス濃度。
d:セル長。
【0005】
【特許文献1】特開平11−23527号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した赤外吸収式ガス分析装置の受光部で赤外線センサとして使用されている焦電センサは、赤外線の熱エネルギーを吸収して生じる温度差により誘起されるセラミックの表面電荷を計測しているため、その出力は周囲温度の影響を受ける。そのため、実用的には、図3に示すように、受光部18の近傍に温度センサ26を配置して受光部の出力の温度補償を行っている。
【0007】
これに対し、測定セルの温度や試料ガスの温度については、ランバート・ベルの法則の前記式に温度の要素がないことから、温度補償は行われていない。
【0008】
しかし、測定セルとしてフローセルを用い、試料ガスを連続的にモニタリングする場合や、連続的にガス漏洩を検知する場合などには、測定セルの周囲温度の変化による導入試料ガス濃度の変化が問題となり、高精度の測定を行うためには、上記試料ガス濃度についての温度補償を行うことが必要となる。
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、受光部の信号の温度補償のみならず、試料ガス濃度の温度補償も行うことができ、これにより高精度の測定を行うことが可能な赤外吸収式ガス分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々検討を行った結果、次の知見を得た。すなわち、赤外吸収式ガス分析装置では、検出したいガスの吸収のある波長帯域の赤外線だけを透過させるバンドパスフィルタ(光学フィルタ)を透過した光をサンプル信号とし、検出したいガスの吸収波長帯域以外の波長帯域の赤外線を透過させるバンドパスフィルタを透過した光を参照信号として、検出したいガスの濃度を算出している。ガス濃度を測定する際、試料ガスの吸光度を算出し、ガス濃度に換算する過程で、温度条件が変化した場合の演算補償式を組み込んでいる。温度補償を行うためには、温度センサが必要であり、従来の赤外吸収式ガス分析装置では、温度センサは受光部に近い位置に配置され、受光部の信号の温度補償を行っている。ところが、実際の吸光度の温度補償には、受光部の温度変化による信号量の変化の他に、実際の試料ガスの温度による熱膨張の変化に起因する吸光度の変化など、様々な条件の組み合わせによる変化を考慮する必要がある。これに対し、従来の赤外吸収式ガス分析装置では、温度センサは受光部に近接している状態であるため、実際の試料ガス温度が変化した場合に、温度センサが周囲温度の変化に追従していない場合が生じていた。そこで、本発明者らは、受光部の信号の温度補償を行うための測定セル内部の温度センサに加え、試料ガス濃度の温度補償のために、導入試料ガス温度に対応する測定セルの周囲ガス温度を検知するように、測定セルの外部に温度センサを新たに設置し、状況に応じて上記温度センサの一方または両方を用いて温度補償を行うことにより、受光部の信号の温度補償のみならず、試料ガス濃度の温度補償も行うことができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、測定セルの内部に赤外光源および受光部が配置され、前記測定セル内に導入した試料ガスに前記赤外光源から赤外光を照射し、この赤外光を前記受光部で検出するとともに、前記受光部で検出した赤外光強度に基づいて試料ガス中の特定ガス成分の濃度を算出する赤外吸収式ガス分析装置において、前記測定セル内の前記受光部の近傍に内部温度センサを設置するとともに、前記測定セル外の前記測定セルの近傍に外部温度センサを設置し、前記内部温度センサより検出した温度および/または前記外部温度センサにより検出した温度を用いて温度補償を行うことを特徴とする赤外吸収式ガス分析装置を提供する。
【0012】
本発明では、内部温度センサにより検出した温度を用いて受光部の信号の温度補償を行い、外部温度センサにより検出した温度を用いて試料ガス濃度の温度補償を行うことができる。これは、内部温度センサにより検出した温度は受光部の温度に対応し、外部温度センサにより検出した温度は導入試料ガスの温度に対応するからである。
【0013】
また、本発明では、状況に応じ、内部温度センサによる温度補償および外部温度センサによる温度補償の両方を行ったり、一方のみを行ったり、両方を行わなかったりすることができる。
【0014】
本発明の赤外吸収式ガス分析装置は、非分散型赤外吸収式ガス分析装置等に構成することができる。また、本発明の赤外吸収式ガス分析装置としては、例えば、環境中の二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、テトラフルオロメタン、テトラフルオロエタン等のパーフルオロカーボン、六フッ化硫黄、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類といった赤外吸光活性物質を測定するものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の赤外吸収式ガス分析装置は、内部温度センサおよび外部温度センサを配置したことにより、受光部の信号の温度補償および試料ガス濃度の温度補償を行うことができ、目的のガス成分濃度を精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳しく説明する。図1は本発明の一実施形態に係る非分散型赤外吸収式ガス分析装置の測定セルを示す概略図である。
【0017】
本例の測定セルは、図3に示した測定セルにおいて、セル本体10の内部において受光部18の近傍に設置された前記内部温度センサ26に加え、セル本体10の外部においてセル本体10の近傍に設置された外部温度センサ28を設けたものである。この場合、蓋体20を延ばし、この蓋体20の延ばした部分に外部温度センサ28を取り付けてある。上記の点以外は、図1の測定セルは図3の測定セルと同じであるため、図1において図3と同一構成の部分には、同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0018】
本例の測定セルを用いた赤外吸収式ガス分析装置では、内部温度センサ26で測定した温度により受光部18の信号(サンプル信号および参照信号)の温度補償を行い、外部温度センサ28で測定した温度により試料ガス濃度の温度補償を行う。この場合、状況に応じ、上記2種類の温度補償を同時に行ってもよく、一方の温度補償を行ってもよく、両温度補償をいずれも行わなくてもよい。すなわち、受光部18の温度変化が無いときには受光部18の信号の温度補償は行わなくてもよく、試料ガスの温度変化が無いときには試料ガス濃度の温度補償は行わなくてもよい。
【0019】
なお、本発明の光源ユニットは上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更することが可能である。例えば、測定セル内部における内部温度センサの設置位置および測定セル外部における外部温度センサ設置位置は適宜選択することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明を具体的に示す。本実施例では、図1の測定セルを用いた赤外吸収式ガス分析装置を使用して実験を行った。試料ガスである測定ガスの種類はテトラフルオロメタン(CF)とし、測定ガスの流量は0.5L/minとした。測定は、CFガスを測定セル内に流し始めたときから行った。また、測定セル等のセンサユニットは、外部ケースに入れた状態で測定を行った。外部ケースの外気温度は、測定セル外部の外部温度センサ28の温度と同一である。
【0021】
測定ガス濃度が一定の状態で、測定セルの外部温度が変化したときの温度データを記録した。測定セル外部の外部温度センサに比べ、測定セル内部の内部温度センサは、測定セル内部にあるため応答速度が遅いことがわかる(図2(a)参照)。また、受光部のセンサ信号(サンプル信号および参照信号)自体は、受光部が測定セル内部にあるため、内部温度センサの温度応答に追従している(図2(c)参照)。これに対し、センサ信号を測定ガスの吸光度に算出した値は、測定セル外部にある外部温度センサの温度応答に追従している(図2(b)参照)。より具体的には、前記算出した値からガス濃度に換算するようになるため、ガス濃度が外部温度センサの温度応答に追従することになる。
【0022】
以上のことから、受光部のセンサ信号(サンプル信号および参照信号)は、内部温度センサの信号によって温度補正を行うことにより、測定セル内部におけるセンサ信号の温度の影響はなくなる。それにより、測定セル内部の基準ガス(ゼロガス)のベースラインを一定にすることができる。なお、ゼロガスとしては、窒素ガスあるいはアルゴンガスなどの不活性ガスが用いられている。一方、測定セルの外部温度による影響を受ける試料ガス自体の濃度については、外部温度センサの信号により温度補償を行うことによって補正することができるようになる。すなわち、測定セル内部のセンサ自体の要因によるゼロベースラインは、内部温度センサにより補正することによってこの影響をなくし、測定値である試料ガス濃度の外部温度による変化値(濃度勾配)は、外部温度センサによって補正することにより、目的ガス成分を精度良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る赤外吸収式ガス分析装置の測定セルを示す概略図である。
【図2】(a)〜(c)はそれぞれ実施例での測定結果を示すもので、(a)は外部温度センサおよび内部温度センサによる検出温度の経時変化を示すグラフ、(b)は吸光度算出値の経時変化を示すグラフ、(c)はサンプル信号および参照信号の経時変化を示すグラフである。
【図3】非分散型赤外吸収式ガス分析装置の測定セルの一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0024】
10 セル本体
16 赤外光源
18 受光部
24 試料ガス
26 内部温度センサ
28 内部温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定セルの内部に赤外光源および受光部が配置され、前記測定セル内に導入した試料ガスに前記赤外光源から赤外光を照射し、この赤外光を前記受光部で検出するとともに、前記受光部で検出した赤外光強度に基づいて試料ガス中の特定ガス成分の濃度を算出する赤外吸収式ガス分析装置において、前記測定セル内の前記受光部の近傍に内部温度センサを設置するとともに、前記測定セル外の前記測定セルの近傍に外部温度センサを設置し、前記内部温度センサより検出した温度および/または前記外部温度センサにより検出した温度を用いて温度補償を行うことを特徴とする赤外吸収式ガス分析装置。
【請求項2】
前記内部温度センサにより検出した温度を用いて受光部の信号の温度補償を行い、前記外部温度センサにより検出した温度を用いて試料ガス濃度の温度補償を行うことを特徴とする請求項1に記載の赤外吸収式ガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−139135(P2009−139135A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313497(P2007−313497)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【出願人】(501149950)バイオニクス機器株式会社 (6)
【Fターム(参考)】