説明

赤外波長域で蛍光を発するガラス組成物

本発明は、広い波長範囲において発光機能や光増幅機能を示すガラス組成物を提供する。このガラス組成物は、ビスマス酸化物、酸化アルミニウム、およびガラス網目形成体を含み、ガラス網目形成体の主成分が酸化シリコン以外の酸化物であり、ビスマス酸化物に含まれるビスマスが発光種として機能し、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を発する。好ましいガラス網目形成体はBまたはPである。このガラス組成物は、さらに1価または2価の金属の酸化物を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、発光体または光増幅媒体として機能しうるガラス組成物に関する。
【背景技術】
Nd、Er、Prなどの希土類元素が添加され、赤外域で蛍光を発するガラスが知られている。このガラスを用いたレーザ発光や光増幅は、1990年代を中心に研究された。このガラスの発光は希土類イオンにおける4f電子の輻射遷移によって生じる。4f電子は外殻電子により遮蔽されているため、発光が得られる波長域は狭い。このため、増幅できる光の波長やレーザ発振が可能な波長の範囲が制限される。
これを考慮し、特開平11−317561号公報および特開2001−213636号公報は、多量(例えば20モル%以上)のBiと発光元素としてのErとを含み、利用できる波長範囲が80nm以上であるガラス組成物を開示している。しかし、発光種がErであるため、波長範囲の拡張は100nm程度が限度である。また、ガラス組成物の屈折率が約2と高いため、光通信で用いられる石英ガラス製光ファイバと接続すると界面での反射による問題が生じやすい。
特開平6−296058号公報、特開2000−53442号公報および特開2000−302477号公報は、発光元素としてCrまたはNiを含有し、発光の波長幅が広いガラス組成物を開示している。Crを発光元素とするガラス組成物における主成分はAlであり、ガラス網目形成体は少量(20モル%以下)に制限されている。このため、このガラス組成物は融解時や成形時に失透しやすい。Niを発光元素とするガラス組成物には、Niイオン、Ni2+イオンを含む微細結晶、6配位構造をとるNiイオンの少なくとも1つを含有させることが必要であり、同時に金属Niの微粒子が析出する。このため、このガラス組成物も失透しやすい。
特開平11−29334号公報は、Biをドープした石英ガラスを開示している。このガラス組成物では、Biがゼオライト中にクラスタ化されており、発光の波長幅が広がっている。しかし、この石英ガラスでは、Biがクラスタ化して互いに極めて近接しているため、近接するBi間で失活が起こりやすく、光増幅の効率が低い。この石英ガラスはゾルゲル法を用いて作製されるため、乾燥時の収縮や焼結時のクラックの発生が大型のガラスまたは光ファイバの量産に際して問題となる。
特開2002−252397号公報は、Bi−Al−SiO系の石英ガラスを用いた光ファイバ増幅器を開示している。これを用いれば、0.8μm帯の半導体レーザを励起光源として1.3μm帯の光増幅を行うことができる。この増幅器は、石英ガラス系の光ファイバとの整合性に優れている。しかし、この石英ガラスは1750℃以上で熔融する必要があって屈伏点も1000℃以上に達する。このため、光ファイバの製造は容易ではなく、製造したとしても透過率が低くなる。
【発明の開示】
本発明の目的は、赤外波長域、特に光通信に用いられる広い波長範囲において、発光機能や光増幅機能を示す新たなガラス組成物を提供することにある。
本発明によるガラス組成物は、ビスマス酸化物、酸化アルミニウム、およびガラス網目形成体を含み、ガラス網目形成体の主成分が酸化シリコン以外の酸化物であり、ビスマス酸化物に含まれるビスマスが発光種として機能し、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を発することを特徴とする。
本明細書において、主成分とは、含有率が最も高い成分をいう。
本発明によれば、赤外域の広い波長範囲で蛍光を発し、石英ガラスよりも低温で熔融するガラス組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、光増幅特性評価用光学系として用いた、本発明の光増幅装置の一例を示す図である。
図2は、光増幅特性評価用光学系における1100nm帯用光検出系を示す図である。
図3は、光増幅特性評価用光学系における1300nm帯用光検出系を示す図である。
図4は、光ファイバの光増幅特性評価用光学系として用いた、本発明の光増幅装置の別の例を示す図である。
図5は、本発明のガラス組成物の光透過スペクトルの一例を示す図である。
図6は、本発明のガラス組成物の光吸収ピークの半値幅の測定例を示す図である。
図7は、本発明のガラス組成物による蛍光スペクトルの一例を示す図である。
図8は、本発明のガラス組成物の光透過スペクトルの別の一例を示す図である。
図9は、本発明のガラス組成物による蛍光スペクトルの別の一例を示す図である。
図10は、本発明のガラス組成物の光増幅特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、組成を示す%はすべてモル%である。
本発明のガラス組成物は、ビスマス酸化物、酸化アルミニウム(Al)、およびガラス網目形成体を必須成分として含有する。Alは、ガラス網目形成体として分類するにはガラス網目形成能が不足している。代表的なガラス網目形成体は酸化シリコンであるが、本発明では、酸化シリコン以外の酸化物がガラス網目形成体の主成分となる。この主成分は、例えば酸化ホウ素(B)、五酸化リン(P)、酸化ゲルマニウム(GeO)または二酸化テルル(TeO)であり、好ましくはBまたはPである。このガラス組成物は、750℃以下の屈伏点を有しうる。
本発明のガラス組成物は、400nmから900nm、好ましくは400nmから850nmの波長範囲、に光吸収ピークを有することが好ましい。光吸収ピークは、例えば、400nmから550nmの波長範囲および650nmから750nmの波長範囲から選ばれる少なくとも一方、好ましくは両方の波長範囲に存在するとよい。750nmから900nmの波長範囲に光吸収ピークが存在してもよい。
本発明のガラス組成物に400nmから900nmの波長範囲にある励起光が照射されたときに、発せられる蛍光の強度が最大となる波長は、例えば900nmから1600nm、好ましくは1000nmから1600nm、より好ましくは1000nmから1400nmの範囲にある。本発明によれば、この蛍光の波長に対する半値幅を、少なくとも150nm、例えば150nm以上400nm以下にまで広げることができる。この広い半値幅には、少なくとも発光種がビスマスの陽イオンであることが寄与している。本発明のガラス組成物は、励起光の照射により、波長範囲900nmから1600nmの少なくとも一部で増幅利得を提供する光増幅媒体とすることもできる。
本発明のガラス組成物は、1価または2価の金属の酸化物をさらに含むことが好ましい。この酸化物はガラス化を容易にする。2価の金属の酸化物は、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOから選ばれる少なくとも1種が好適である。1価の金属の酸化物は、LiO、NaOおよびKOから選ばれる少なくとも1種が好適である。MgOおよびLiOは好ましい成分であり、ガラス組成物はこの2つの酸化物の少なくとも一方を含有することが好ましい。1価または2価の金属の酸化物の含有率は3〜40%が適当である。
本発明のガラス組成物において、Biに換算したビスマス酸化物の含有率は0.01〜15%、特に0.01〜5%が好ましい。酸化アルミニウムの含有率は5〜30%が好ましい。ガラス網目形成体の主成分の含有率は30〜90%が好ましい。
本発明のガラス組成物の好ましい組成を以下に例示する。
第1の例は、ガラス網目形成体の主成分としてBを含む組成である。この組成は、B:30〜90%、Al:5〜30%、LiO:0〜30%、NaO:0〜15%、KO:0〜5%、MgO:0〜40%、CaO:0〜30%、SrO:0〜5%、BaO:0〜5%、ZnO:0〜25%、TiO:0〜10%、ZrO:0〜5%で示される成分を含み、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+LiO+NaO+KOが3〜40%の範囲にあり、かつ、0.01〜15%のBiに換算したビスマス酸化物を含む。
第2の例は、ガラス網目形成体の主成分としてPを含む組成である。この組成は、P:50〜80%、Al:5〜30%、LiO:0〜30%、NaO:0〜15%、KO:0〜5%、MgO:0〜40%、CaO:0〜30%、SrO:0〜15%、BaO:0〜15%、ZnO:0〜15%、TiO:0〜10%、ZrO:0〜5%、SiO:0〜20%で示される成分を含み、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+LiO+NaO+KOが3〜40%の範囲にあり、かつ、0.01〜15%のBiに換算したビスマス酸化物を含む。この例におけるSrOおよびBaOの含有率は0〜5%がより好ましい。
ガラス組成物の原材料における塩類、例えば炭酸塩、アンモニウム塩の比率が高くなると、熔融の際に原材料が激しく発泡することがある。激しい発泡が生じるとガラスの清澄に好ましくない。ガラス網目形成体の主成分としてPを含むガラス組成物の原材料にはアンモニウム塩が用いられることが多く、この原材料ではアンモニウム塩の比率が高くなる。この場合は、特に、予めアンモニウム塩を分解してから原材料を熔融することが好ましい。
このように、本発明のガラス組成物を製造する際には、ガラス組成物の原材料を熔融する熔融工程と、熔融した原材料を冷却する工程とを含み、アンモニウム塩を含み、上記原材料の少なくとも一部となる第1材料を、少なくとも上記アンモニウム塩が分解する温度に保持する熱処理工程を、上記熔融工程の前にさらに含む製造方法によることが好ましい。
の原料となるリン含有アンモニウム塩としては、例えばリン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムが挙げられる。上記第1材料には、上記アンモニウム塩とともに、その他の塩類、例えば炭酸塩を含ませてもよい。酸化物である原料は熱処理の必要がないため、第1材料とは別の第2材料として調合してもよい。上記熱処理工程では、アンモニウム塩を含む材料を300℃以上、例えば500〜1100℃で、アンモニウム塩の分解に足りる間、熱処理することが好ましい。熔融工程における加熱温度は、熱処理工程における処理温度以上、例えば1250〜1500℃である。
アンモニウム塩の分解によりビスマスが還元されると、ガラス組成物の発光機能が低下する。このため、ビスマス酸化物の原料は第1材料とは別の第2材料に含ませるとよい。上記製造方法は、ビスマス酸化物の原料またはビスマス酸化物そのものを含む第2材料と第1材料とを混合する工程を、上記熱処理工程の後であって上記熔融工程の前にさらに含む方法とすることが好ましい。
ビスマスの還元防止のために、ガラスの原材料の一部を硫酸塩または硝酸塩としてもよい。ビスマス酸化物の原料またはビスマス酸化物は、硫酸塩および硝酸塩から選ばれる少なくとも一方とともに熔融することが好ましい。
以下、本発明のガラス組成物の具体的な実施形態についての特性の評価方法を説明する。
(光透過スペクトル)
試料ガラスを切断し、20mm×30mm×厚さ3mmの平行平板になるように表面を鏡面研磨し、板状試料を作製した。市販の分光光度計を用い、板状試料の光透過スペクトルを波長290〜2500nmの範囲で測定した。この光透過スペクトルの波長400〜550nm、650〜750nmのそれぞれの範囲に光吸収ピークが現れているかどうかも確認した。
光吸収スペクトルの半値幅は、以下のようにして求めた。まず、光透過スペクトルをモル吸光係数に換算して(即ちビスマス酸化物をBiに換算し、このBiを1%含み、光路長が1cmであるときの吸光係数に換算して)、光吸収スペクトルを作成した。この光吸収スペクトルにおけるピークの両側のテールに共通接線を引いてそれをベースラインとした。このベースラインと平行でかつピークに接するように引いたトップラインを引き、さらに、このトップラインとベースラインとを2分割するこれらラインに平行なミドルラインを引いた。そして、このミドルラインとスペクトルとの2つの交点の波長差を半値幅とした。
光透過スペクトルには、所定の波長範囲に、トップラインとベースラインとの差が0.01cm−1mol−1以上となる光吸収ピークが存在することが好ましい。
(蛍光スペクトル)
蛍光スペクトルは上記と同じ板状試料を用い、市販の分光蛍光光度計により測定した。所定の波長を有する各励起光について、蛍光の発光の波長は800nm〜1600nmの範囲について測定した。なお、測定時の試料温度は室温とした。
測定された蛍光スペクトルに現れた発光ピーク波長、および発光強度がピーク値の半分以上になる波長幅(発光半値幅)、および発光ピーク波長における発光強度を求めた。発光強度は任意単位であるが、試料形状および測定時の試料の設置位置を同一としているため、その比較は可能である。発光半値幅は、光吸収ピークの半値幅と同様の方法で求めた。
(蛍光寿命)
蛍光寿命も上記と同じ板状試料を用いて分光蛍光光度計により測定した。所定波長のパルス光によって励起したときの発光の時間的減衰を測定した。この測定は励起波長に応じた所定波長、例えば励起波長500nmに対しては1140nm、で行った。こうして得た減衰曲線に対し、指数関数をフィッティングすることにより、蛍光寿命を算出した。
(光増幅特性)
図1に示す測定装置を用いて光増幅特性を測定した。光増幅のエネルギー源となる励起光の波長は532nm、増幅すべき信号光の波長は1064nmおよび1314nmの2種類とした。この装置では、励起光と信号光とが試料ガラス中で空間的に重なり、試料ガラスを透過した信号光が増幅される。
波長532nmの励起光20の光源26には、半導体レーザ(LD)励起Nd−YAG緑色レーザからの連続光を用いた。励起光20は、焦点距離300mmの凸レンズ52で集光し、試料ガラス10の厚み方向中央部に、焦点位置62がくるようにレンズ52の位置などを調整した。
一方、信号光30は、波長が1064nmの場合には、励起光源26とは別の半導体レーザ励起Nd−YAGレーザ36を光源とし、パルス幅数nsのパルス光とした。波長が1314nmの場合、信号光30は、その波長の半導体レーザ36からの連続光とした。信号光30は、励起光20とは逆方向から試料ガラス10に入射させ、焦点距離500mmまたは1000mmの凸レンズ54で集光して、試料ガラス10の厚み方向中央部に、焦点位置62がくるようにレンズ54の位置などを調整した。レンズ52とレンズ54との焦点距離の組み合わせは、信号光ビームの通過する空間が、励起光ビームの通過する空間内に、十分含まれるように選択した。
信号光30と励起光20の合波・分波は、波長選択性反射鏡72,74を用いて行った。これらの反射鏡72,74は、励起光20は通過するが信号光30は反射するように構成した。
信号光の波長が1064nmの場合は、信号光の反射鏡として、通常の透明な板ガラスを用いた。透明な板ガラスの場合、表面で数%の反射が生じる。光源(Nd−YAGレーザ)36から出た波長1064nmの信号光30は、反射鏡74で一部が反射され、試料ガラス10中に入射され、これを透過した信号光32、すなわち増幅された信号光32は反射鏡72でその一部が反射され、レンズ56を介して光検出系80に導かれる。
2枚の反射鏡72,74における波長1064nmの光の反射率は高くはないが、信号光30はパルス光であり、その尖頭値が非常に大きいため(レーザの出射位置でメガワットクラス)、測定は容易である。なお、励起光20は、反射鏡72をほとんど損失なく通過して、試料ガラス10に達する。試料ガラスでの光増幅に寄与しなかった励起光22は、反射鏡74に達するが、この反射鏡での反射量はわずかであるので、信号光源36に悪影響を与えることはない。
信号光の波長が1064nmの場合における、光検出系80の詳細を図2に示す。遮光カバー88で覆った光検出系80に導かれた信号光32を、可視光カットフィルタ82に通し、さらに波長1064nmの光のみ通過する干渉フィルタ84を通して、信号光成分以外の光を除去する。信号光は、光検出器86で光信号強度に対応した電気信号に変換され、信号ケーブル92を通じて、オシロスコープ90上に表示される。光検出器86としては、例えばSi系フォトダイオードを用いればよい。
信号光の波長が1314nmの場合は、反射鏡72,74として、波長1314nmに対して高反射率をもつ誘電体多層膜ミラーを用いた。波長1314nmの信号光源(LD)36から出射された信号光30は、反射鏡74で反射され、試料ガラス10中に入射される。増幅された信号光32は、反射鏡72で反射されて光検出系80に導かれる。励起光20は、反射鏡72をほとんど損失なく通過して、試料ガラス10に達する。光増幅に寄与しなかった励起光22は、反射鏡74に達し、わずかに反射される。この反射光が信号光源36に入射するのを防ぐため、波長532nmに対して高反射率をもつように構成した誘電体多層膜ミラー(図示しない)を挿入した。
信号光波長が1314nmの場合における、光検出系80の詳細を図3に示す。光検出系80に導かれた信号光32は、焦点距離の長い(例えば1000mm)のレンズ58でピンホール83付近に集光される。ピンホールを通すことで信号光以外の方向に進む成分、すなわちASE(Amplified Spontaneous Emission)光および散乱光成分を除去できる。さらに、分光プリズム55を通過させることにより、波長532nmの励起光成分を除去し、信号光成分のみを光検出器86に入射させる。光信号は、それに対応した電気信号に変換され、信号ケーブル92を通じて、オシロスコープ上に表示される。光検出器86としては、例えばGe系フォトダイオードを使用すればよい。
図1に示した光学系では、励起光20の進行方向と信号光30の進行方向とが逆向きであるが、これに限らず、例えば両方の光の進行方向を一致させてもよい。試料ガラスの形状を、ブロック状ではなくファイバ状としてもよい。
上述の光学系を用いた光増幅の測定は、以下のようにして行った。
試料ガラス10を両面が互いに平行となるように鏡面研磨し、ブロック状試料とした。試料ガラスの厚みは、励起光の波長、例えば波長523nmにおいて、透過率が約95%になる厚みとした。この試料ガラスを図1に示した位置にセットし、信号光30と励起光20とが、試料ガラス10の内部でよく重なるように調整を行った。
その後、まず、信号光30を試料ガラス10に照射し、試料ガラス10を透過してきた信号光32の強度をオシロスコープ90で測定した。次に、信号光30の照射を続けたまま、励起光20を試料ガラス10に照射し、同様に信号光32の強度をオシロスコープ90で測定した。信号光だけを照射したときの透過信号光の強度と、信号光と励起光とを同時に照射したときの透過信号光の強度とを比較することにより、光増幅現象を確認できる。
(光ファイバ増幅実験)
図4に示した測定装置を用いて光ファイバ試料の光増幅特性を測定した。光増幅のエネルギー源となる励起光21の波長は808nm、増幅すべき信号光30の波長は1314nmとした。この装置では、励起光21と信号光30とが試料ファイバコアへの入り口部分となる光ファイバ端14付近で空間的に重なり、試料ファイバ12を透過してきた信号光34が増幅される。
波長808nmの励起光、および波長1314nmの信号光の光源28,38にはいずれも半導体レーザからの連続光を用いた。
信号光と励起光の合波・分波は、波長選択反射鏡76を用いて行った。この反射鏡76は、信号光30は通過するが励起光21は反射するように構成した。
光ファイバ12から出射した光はレンズ57を用いて光検出器87に導いた。光路の途中に、信号光を透過し励起光を遮断するフィルタ81を挿入し、検出器では信号光のみが検出されるようにした。
図4に示した光学系では、励起光の進行方向と信号光の進行方向とを一致させたが、これに限らず、例えば両方の光の進行方向を逆方向としてもよい。波長選択反射鏡では、信号光を反射させ、励起光を透過させてもよく、反射鏡以外の手段によって信号光および励起光を光ファイバに入射させてもよい。
上述の光学系を用いた光増幅の測定は以下のようにして行った。試料光ファイバは断面が鏡面になるように切断し、上記の測定装置にセットし、信号光と励起光とが光ファイバのコアに十分に入射するように調整した。
その後、まず信号光30を試料光ファイバ12の端面14に照射し、試料光ファイバ12を透過してきた信号光34の強度をオシロスコープ90で測定した。次いで、信号光30の照射を続けたまま、励起光21を試料光ファイバ12に照射し、信号光34の強度をオシロスコープ90で測定した。信号光だけを照射したときの透過信号光の強度と、信号光と励起光とを同時に照射したときの透過信号光の強度とを比較することにより、光増幅現象を確認できる。
図1および図4、特に図4に示した装置は、評価装置の例示であるとともに、本発明の光増幅装置の構成例でもある。このように、光増幅装置は、本発明のガラス組成物とともに、励起光の光源および信号光の光源を含む。光増幅装置は、図示した構成に限らず、例えば信号光の光源に代えて信号入力用光ファイバを、光検出器に代えて信号出力用光ファイバを、それぞれ配置してもよい。また、励起光と信号光との合波・分波を、ファイバカプラを用いて行ってもよい。このような光増幅装置を用いれば、本発明のガラス組成物に励起光と信号光とを入射させ、この信号光を増幅する信号光の増幅方法を実施できる。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)−ホウ酸系ガラス−
表1に示した各組成となるように、通常用いられる原料である酸化ホウ素、アルミナ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、三酸化ビスマス(Bi)などを秤量して原材料バッチを調合した。
三酸化ビスマスの不要な還元の防止とガラスの清澄とを目的として、MgO原料の一部として、試薬として市販されている硫酸マグネシウム(MgSO)を用いた。また、NaOを含む組成では、NaO原料の一部として硫酸ナトリウム(ボウ硝NaSO)を用いた。これら硫酸塩の量は、三酸化ビスマスに対するモル比で1/20以上とした。
調合したバッチをアルミナルツボに投入して1400℃の電気炉中で4時間保持し、その後、鉄板上に流し出して冷却した。流し出したガラス融液は10数秒で固化した。このガラスを500℃の電気炉中で30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで徐冷して試料ガラス(サンプル11〜18)とした。
これら試料ガラスについて測定した特性を表1に示す。試料ガラスは、いずれも目視観察において赤色ないし赤褐色を示した。いずれの試料ガラスの光透過スペクトルにも波長400nm〜550nmおよび650〜750nmの範囲に光吸収ピークが存在した。図5にサンプル11の光透過スペクトルを、図6にサンプル11の光吸収スペクトルをそれぞれ示す。図6に示した波長490nmにおける光吸収ピークの半値幅は100nmとなる。いずれの試料ガラスにも、30nm以上の半値幅を有する光吸収ピークが存在した。
いずれの試料ガラスからも赤外域での蛍光が観測された。図7にサンプル11の蛍光スペクトルを示す。波長500nm、700nmの各波長の光照射による励起によって波長900〜1400nmに及ぶ広い発光が得られていることが確認できる。サンプル11を含め、いずれの試料ガラスからも150μm以上の発光半値幅が得られた。また、いずれの試料ガラスからも250μs以上の発光寿命(蛍光寿命)が得られた。
いずれの試料ガラスにおいても、波長532nmの励起光により、波長1064nmおよび1314nmの信号光が増幅することが確認できた。表1に示したように、蛍光スペクトルにおいて発光が最大となる波長は、すべての試料ガラスについて、1064nmと1314nmとの間の波長域にある。このような試料ガラスによれば上記波長域の少なくとも一部において光増幅が可能であり、この光増幅は、試料ガラスの広い波長範囲での発光を考慮すると少なくとも250nmの範囲で行うことができる。
なお、表1には示さないが、これらのガラスの屈伏点はいずれも750℃以下であった。
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、表2に示した各組成となるようにガラス原料を調合し、試料ガラスを作製した。ただし、サンプル103では、調合したバッチを白金ルツボに投入して1450℃の電気炉中で4時間保持し、その後、鉄板上に流し出して冷却した。このガラスを550℃の電気炉中で30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで徐冷して試料ガラスとした。
これらの試料ガラスを用い、実施例1と同様に特性を測定した。結果を表2に示す。
サンプル101および102は、表面につやがなく内部まで完全に失透していた。サンプル103は、一般的なソーダライムガラス組成を有するが、無色透明でその透過スペクトルにも光吸収ピークは観察されず、400nmから850nmの波長範囲の光を照射しても赤外域で発光しなかった。
(実施例2)−リン酸系ガラス−
本実施例では、3種類の製造方法A〜Cを用いてガラス組成物を得た。
・製造方法A(熱処理してから熔融する方法)
表3に示した各組成となるように、通常の原料であるリン酸二水素アンモニウム、アルミナ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、チタニア、ジルコニア、シリカ、酸化亜鉛および三酸化ビスマスなどを秤量して原材料バッチを調合した。リン供給源として、上記アンモニウム塩に代え、その他の塩やリン酸を用いても差し支えない。
ここでも、MgO原料の一部として、試薬として市販されている硫酸マグネシウム(MgSO)を用いた。また、NaOを含む組成では、NaO原料の一部として硫酸ナトリウム(ボウ硝NaSO)を用いた。硫酸塩の量は、酸化物換算で0.5モル%とした。
調合したバッチをアルミナルツボに投入して電気炉中で室温から1000℃まで4時間かけて昇温し、さらに1000℃のまま4時間保持した。このゆっくりとした昇温はアルミナルツボの破損の防止に有効である。この昇温とこれに続く加熱の間、バッチに含まれる炭酸塩およびアンモニウム塩が分解される。こうして酸化物以外の塩を予め分解しておくと、熔融工程における激しい発泡を防止できる。
熱処理の後、バッチは、そのアルミナルツボに投入したまま1400℃の電気炉に移し、4時間保持して熔融し、その後、鉄板上に流し出して冷却した。流し出したガラス融液は10数秒で固化した。このガラスを電気炉中で600℃、30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで徐冷して試料ガラスとした。
・製造方法B(熱処理したBiを含まないバッチにBi含有バッチを添加し、熔融する方法)
用いるガラス原料は方法Aと同じである。ただし、ガラス原材料は三酸化ビスマスおよび硫酸マグネシウムを除く原料からなる第1バッチと、この2つの原料を含む第2バッチとに分け、表3の各組成となるように調合した。ここでも、方法Aと同様、原料の一部は所定量の硫酸塩とした。
まず、第1バッチを方法Aと同様に熱処理した。次に、このバッチをアルミナルツボから取り出し、第2バッチとよく混合した。引き続き、混合したバッチをアルミナルツボに投入して1400℃で4時間保持して熔融した。ガラス融液は、その後、方法Aと同様、鉄板上に流し出して冷却し、電気炉を用いて徐冷して試料ガラスとした。この方法によれば、アンモニウム塩の分解に伴うビスマスの還元を防止できる。
・製造方法C(Biを含まないガラスにBiを添加して再熔融する方法)
方法Aと同様のガラス原料を、方法Bと同様、第1バッチ、第2バッチに分けて調合した。
方法Bと同様、第1バッチを上記と同様に熱処理した。引き続き、このバッチを、そのアルミナルツボのまま1400℃の電気炉に移し、2時間保持して熔融し、その後、鉄板上に流し出して固化させた。この固体は泡を含むものの、無色透明のガラスとなった。
このガラスを粉砕し、第2バッチを添加してよく混合し、アルミナルツボに投入し、電気炉中1400℃で4時間保持して熔融した。以降、方法Aと同様、鉄板上に流し出して冷却し、電気炉を用いて徐冷して試料ガラスとした。
この方法によっても、アンモニウム塩の分解に伴うビスマスの還元を防止できる。さらに、この方法によれば、泡、脈理、着色ムラの少ない均質性に優れたガラスが得やすくなる。
方法A〜方法Cのいずれかにより、試料ガラスを得た(サンプル21〜28)。これら試料ガラスについて測定した特性を表3に示す。ここで、透過率は試料ガラスの表面のフレネル反射損を差し引いた値である。
試料ガラスは、いずれも目視観察において赤色ないし赤褐色を示した。いずれの試料ガラスの光透過スペクトルにも波長400nm〜550nmおよび650〜750nmの範囲に光吸収ピークが存在した。図8にサンプル21〜24の光透過スペクトルを示すが、他のサンプルから同様の特徴を示すスペクトルが得られた。
いずれの試料ガラスからも赤外域での蛍光が観測された。図9にサンプル21の蛍光スペクトルを示す。サンプル21を含め、いずれの試料ガラスからも150μm以上の発光波長幅が得られた。また、いずれの試料ガラスからも、励起光の波長が450nmのときに200μs以上、励起光の波長が700nmのときに300μs以上の発光寿命(蛍光寿命)が得られた。
いずれの試料ガラスにおいても、波長532nmの励起光により、波長1064nmおよび1314nmの信号光が増幅することが確認できた。実施例2で作製したすべての試料ガラスの発光が最大となる波長も、1064nmと1314nmとの間の波長域にあった。
実施例2で作製したいずれの試料ガラスにおいても、半値幅が30nm以上の光吸収ピークが観察された。いずれの試料ガラスにおいても、屈伏点は750℃以下になった。
【実施例3】
さらに試料光ファイバを作製して光増幅特性を測定した。試料光ファイバは、サンプル21の組成を有するガラスをコアガラスとして、サンプル24からBiを除いた組成を有するガラスをクラッドガラスとしてそれぞれ用い、コア径が50μmとなるように作製した。試料光ファイバは、その断面が鏡面になるように長さ10cmに切断して用いた。
光波長1314nmの信号光を入射させながら一定強度の励起光を一定周期でチョッパ(図4では図示省略)により断続照射すると、励起光が照射されている間、信号光の強度が増加した。図10に、信号光強度の変化をオシロスコープで測定した結果を示す。波長1314nmにおいて、13.0倍(11dB)の増幅利得が得られたことが確認できる。
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、表4に示した各組成となるように、原料を調合し、試料ガラスを作製した。
ただし、比較例201では、調合したバッチをアルミナルツボに投入して1750℃で4時間保持した。比較例201では、ルツボからガラス融液を流し出すことができなかったため、ルツボのまま徐冷し、試料ガラスを切り出した。試料ガラスは赤色に着色していたが、泡や脈理が非常に多く、波長1000〜1600nmの範囲では光透過率が30%程度しか得られなかった。比較例202では、白色不透明の固化物が得られたが、これはごく一部しか融解していなかった。比較例203では、融液を流し出した後、冷却中に失透した。
以下、実施例、比較例の結果を参照しつつ、組成限定の理由を説明する。
ビスマス酸化物は、本発明のガラス組成物が発光ないし光増幅を発するための必須成分である。ビスマス酸化物は、三酸化ビスマス(Bi)または五酸化ビスマス(Bi)が好ましい。ビスマス酸化物の含有率が少なすぎると、ビスマス酸化物による赤外域における発光強度が弱くなりすぎてしまう。一方、含有率が高すぎると、光透過スペクトルの450〜550nmの波長範囲に光吸収ピークが現れにくくなり、赤外域での発光強度が低下する。ビスマス酸化物の含有量(Bi換算)は、0.01〜5%、さらには0.01〜3%、特に0.1〜3%が好ましい。
ガラス網目形成体の主成分の好ましい例の一つはBである。Bの含有率が高くなるに従ってガラス組成物はより強く発光するが、同時にガラス融液の粘度が高くなり、90%を超えるとガラス組成物の製造が困難になる。一方、Bの含有率が低くすぎるとガラス組成物の赤外域の発光強度が低下し、さらには失透が生じやすくなる。Bの含有率が30%未満ではガラス組成物が得られない。したがって、Bの含有率は、30〜90%が好ましく、34〜75%がより好ましく、45〜75%が特に好ましい。
ガラス網目形成体の主成分として好ましい別の例はPである。失透を避け、均質なガラスを得るためには、Pの含有率は50〜80%が好ましく、60〜75%がより好ましい。
Alは、ビスマス酸化物がガラス組成物において赤外発光を呈するために必須の成分である。その含有率が5%未満の場合は、この効果が現れない。一方、Alの含有率が高くなるに従ってガラス組成物の発光強度は強くなるが、含有率が30%を超えるとガラス原材料の溶解性が悪化し、完全に熔解したとしても失透しやすくなる。したがって、Alの含有率は5〜30%、さらには10〜30%が好ましく、10〜25%がより好ましく、5〜25%が特に好ましい。
2価金属酸化物MO(MO=MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)および1価金属酸化物RO(RO=LiO+NaO+KO)は、組成物のガラス化のために添加することが好ましい。この観点からは、MO+ROを少なくとも3%添加するとよい。MO+ROの含有率の増加に従ってガラスの均質化は容易になる、一方、MO+ROの含有率が40%を超えると失透が極めて生じやすくなる。したがって、RO+MOの含有量は3〜40%、さらには5〜35%が好ましく、5〜30%がより好ましく、10〜30%が特に好ましい。
MOおよびROの原料の一部として、硫酸塩(MSO;RSO)、硝酸塩(M(NO;RNO)などの酸化性の高い塩を用いるとよい。熔融中に酸化性の高い化合物が生じ、ビスマスの還元を抑制できるからである。還元性を抑制すると、白金または白金系合金製のルツボなどの熔融容器の侵食も抑制できる。硫酸塩および硝酸塩の量は、モル比で表示して、ビスマス酸化物の1/20以上が好ましい。
MgOは重要なガラス網目修飾体である。MgOは、原材料バッチの熔解性を高める。しかし、MgOの含有率が高すぎるとガラス組成物が濃褐色を示し、450〜550nmの波長範囲の光吸収ピークが弱くなり、それとともに発光強度が急激に低下する。MgOの含有率が高すぎるとガラス融液の粘度が低下し過ぎて失透が生じやすくなる。MgOの含有率は、0〜40%、さらには0.1〜35%が好ましく、0.1〜30%がより好ましく、0.5〜30%が特に好ましい。
CaOは、MgOと同様に原材料バッチの熔解性を高め、ガラスの耐失透性を高める特性ではMgOよりも優れている。しかし、MgOと同様、CaOの含有率が高すぎると、ガラスは濃褐色を示し、発光強度が低下する。このため、CaOの含有率は、0〜30%、さらには0〜20%が好ましく、0〜18%がより好ましく、0〜10%が特に好ましい。
SrOは、MgO、CaOと同様、原材料バッチの熔解性を高める。SrOは、少量(例えば0.1%以上)であってもガラスの耐失透性を大幅に改善する。しかし、SrOは、ビスマスによる発光の強度を急激に低下させる作用が強いため、その含有率は0〜15%が好ましく、0〜5%がより好ましい。
BaOも、MgO、CaOと同様、原材料バッチの熔解性を高める。BaOは、他の2価金属の酸化物よりも屈折率を高める効果が高い。屈折率が高くなるとガラス表面の光沢も強くなるため、赤色ないし赤褐色の発色も強まる。このため、BaOは例えば0.1%以上の範囲で添加するとよい。しかし、BaOは、発光強度を急激に低下させる作用が強いため、その含有率は0〜15%が好ましく、0〜5%がより好ましい。
ZnOもまた原材料バッチの熔解性を高める。ZnOはCaO、SrO、BaOと比較して、ガラスを赤色ないし赤褐色に発色させる効果が高い。ZnOは、MgOと比較して、ガラスの屈折率を高める作用にも優れている。これを考慮して少量(例えば0.1%以上)のZnOを添加してもよい。しかし、MgOと同様、ZnOの含有率が高すぎると、ガラスは濃褐色を示し、発光強度が低下する。ZnOの含有率が高すぎると、ガラスが分相して乳濁し、透明なガラスが得られなくもなる。したがって、ZnOの含有率は、0〜25%、さらには0〜15%が好ましく、0〜10%がより好ましい。
LiOは重要なガラス網目修飾体である。LiOは、熔解温度を低下させて熔解性を高め、ガラスの屈折率を高める。LiOの適量の添加は光吸収を高めて発光強度を高めるため、LiOは0.1%以上添加するとよい。しかし、MgOと同様、LiOの含有率が高すぎると、ガラスは濃褐色を示し、発光強度が低下する。LiOの含有率がさらに高くなると、ガラス融液の粘度が低下して失透が生じやすくなる。LiOの含有率は、0〜30%が好ましく、0〜15%がより好ましく、0〜12%が特に好ましい。
NaOは、熔融温度とともに液相温度を低下させ、ガラスの失透を抑制する。しかし、NaOは、ガラスを濃褐色として発光を弱める作用が強い。したがって、NaOの含有率は、0〜15%が好ましく、0〜5%がより好ましい。
Oは、液相温度を低下させ、ガラスの失透を抑制する。しかし、KOは、少量でもガラスの赤外域での発光を弱める。したがって、KOの含有率は、0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましい。
TiOは、ガラスの屈折率を高め、発光を助ける。BaOは発光強度を低下させる作用が強いが、TiOは逆に発光強度を高める効果を有する。しかし、TiOにはガラスを乳濁させる作用がある。したがって、TiOの含有率は、0〜10%が好ましく、0〜5%がより好ましい。
ZrOは、TiOと同様、ガラスの屈折率を高め、赤外発光を助ける。しかし、ZrOは、ガラスの結晶化を促し、ガラスの密度を高める作用を有する。したがって、失透および密度の上昇を避けるため、ZrOの含有率は、0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましい。
本発明のガラス組成物は、複数種のガラス網目形成体を含んでいてもよく、例えばSiOを含有していても構わない。SiOの添加は失透の抑制に効果がある。しかし、SiOの含有率が高すぎると、ガラス融液の粘性が極度に高くなり、組成物の均質化を妨げる。SiOの含有率は0〜20%が好ましい。
本発明のガラス組成物は、上記の成分以外に、屈折率の制御、温度粘性特性の制御、失透の抑制などを目的として、Y、La、Ta、NbおよびInを、好ましくは合計で5%以下となるように、含んでいてもよい。
さらに、本発明のガラス組成物は、熔解時の清澄、ビスマスの還元防止などを目的として、As、Sb、SO、SnO、Fe、ClおよびFを、好ましくは合計で1%以下となるように、含んでいてもよい。
なお、ガラスの原材料には、微量の不純物として上記以外の成分が混入することもある。しかし、これら不純物の合計の含有率が1%未満であれば、ガラス組成物の物性に及ぶ影響は小さく、実質上問題とならない。
本発明のガラス組成物は、発光機能、光増幅機能の発揮に、Nd、Er、Pr、Ni、Crを必要とせず、これら元素を実質的に含まなくてもよい。ここで、実質的に含まないとは、ガラス中で最も安定な酸化物に換算したときの含有率が1%未満、好ましくは0.1%未満であることをいう。
本発明のガラス組成物は、光通信で主に用いられている波長領域の一つである1310nm帯、およびNd−YAGレーザの発振波長である1064nmにおいて用いることができる。本発明によれば、これまで適切な光増幅材料が報告されていなかった1100〜1300nmの波長範囲で動作する新たな光増幅媒体を提供できる。本発明のガラス組成物は、少なくともその好ましい形態において、900nmから1400nmにわたる広い蛍光スペクトルを提供できる。これを利用すれば、この広い波長範囲内で動作する光増幅装置を提供できる。




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス酸化物、酸化アルミニウム、およびガラス網目形成体を含み、前記ガラス網目形成体の主成分が酸化シリコン以外の酸化物であり、前記ビスマス酸化物に含まれるビスマスが発光種として機能し、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を発するガラス組成物。
【請求項2】
ガラス網目形成体の主成分が、五酸化リン、酸化ホウ素、酸化ゲルマニウムまたは二酸化テルルである請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
400nmから900nmの波長範囲に光吸収ピークを有する請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
400nmから900nmの波長範囲にある励起光が照射されたときに発せられる蛍光の強度が最大となる波長が900nmから1600nmの範囲にある請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
前記蛍光の波長に対する半値幅が少なくとも150nmである請求項4に記載のガラス組成物。
【請求項6】
励起光の照射により、900nmから1600nmの波長範囲の少なくとも一部で信号光の増幅利得を提供する請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項7】
1価または2価の金属の酸化物をさらに含む請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項8】
前記2価の金属の酸化物が、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOから選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載のガラス組成物。
【請求項9】
前記1価の金属の酸化物が、LiO、NaOおよびKOから選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載のガラス組成物。
【請求項10】
1価または2価の金属の酸化物を3〜40モル%の範囲で含む請求項7に記載のガラス組成物。
【請求項11】
Biに換算したビスマス酸化物を0.01〜15モル%の範囲で含む請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項12】
Biに換算したビスマス酸化物を0.01〜5モル%の範囲で含む請求項11に記載のガラス組成物。
【請求項13】
酸化アルミニウムを5〜30モル%の範囲で含む請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項14】
ガラス網目形成体の主成分を30〜90モル%の範囲で含む請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項15】
モル%により表示して、
30〜90
Al 5〜30
LiO 0〜30
NaO 0〜15
O 0〜 5
MgO 0〜40
CaO 0〜30
SrO 0〜5
BaO 0〜5
ZnO 0〜25
TiO 0〜10
ZrO 0〜 5
で示される成分を含み、
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+LiO+NaO+KOが3〜40モル%の範囲にあり、かつ、
0.01〜15モル%のBiに換算したビスマス酸化物を含む請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項16】
モル%により表示して、
50〜80
Al 5〜30
LiO 0〜30
NaO 0〜15
O 0〜 5
MgO 0〜40
CaO 0〜30
SrO 0〜15
BaO 0〜15
ZnO 0〜15
TiO 0〜10
ZrO 0〜 5
SiO 0〜20
で示される成分を含み、
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+LiO+NaO+KOが3〜40モル%の範囲にあり、かつ、
0.01〜15モル%のBiに換算したビスマス酸化物を含む請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項17】
請求項1に記載のガラス組成物を含む光ファイバ。
【請求項18】
請求項1に記載のガラス組成物を含む光増幅装置。
【請求項19】
請求項1に記載されたガラス組成物の製造方法であって、
前記ガラス組成物の原材料を熔融する熔融工程と、熔融した前記原材料を冷却する工程とを含み、
アンモニウム塩を含み、前記原材料の少なくとも一部となる第1材料を、少なくとも前記アンモニウム塩が分解する温度に保持する熱処理工程を、前記熔融工程の前にさらに含むガラス組成物の製造方法。
【請求項20】
ビスマス酸化物の原料またはビスマス酸化物を含む第2材料と前記第1材料とを混合する工程を、前記熱処理工程の後であって前記熔融工程の前にさらに含む請求項19に記載のガラス組成物の製造方法。
【請求項21】
請求項1に記載のガラス組成物に励起光と信号光とを入射させ、前記信号光を増幅する信号光の増幅方法。

【国際公開番号】WO2004/058657
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【発行日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509750(P2005−509750)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016651
【国際出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】