説明

赤外発光ガラス

【課題】過度に限定的なガラス組成でなくともビスマスによる赤外発光が得られ、且つ溶融法を利用したガラスの製造時に均質性を確保し易く、しかも耐失透性が良好であり、モールドプレス成形に適した赤外発光ガラスを提供する。
【解決手段】ガラス全体量を100モル%とし、酸化物組成として、
(1)P:45〜75モル%、
(2)Al:3〜25モル%、
(3)RをMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種とし、RO:5モル%以上30モル%未満、並びに
(4)Bi:0.1〜5モル%、
を含有するガラス組成物からなり、励起光の照射により赤外波長域で蛍光発光することを特徴とする赤外発光ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光の照射により赤外波長域で蛍光発光する赤外発光ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
ビスマスを含有するガラスが、特定の組成域において可視域から赤外域の範囲の励起光の照射により励起し、赤外発光することが知られている。そして、この特性を利用して、ビスマスを発光種とした光増幅器用の広帯域赤外発光ガラスが開発されている。
【0003】
上記赤外発光ガラスとしては、例えば、特許文献1には、Biをドープした石英ガラス〔xBi−yAl−(1−x−y)SiO〕(但しモル%でBiは0.1〜10.0%、Alは2から20%、かつx<y)からなる光ファイバを用いた光増幅器が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ビスマスの酸化物、二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)及び2価金属酸化物を必須成分とし、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を呈するガラス組成物からなる赤外発光体又は光増幅媒体が開示されている。
【0005】
しかしながら、ビスマスを含有する従来の赤外発光ガラスには次のような問題がある。つまり、従来の赤外発光ガラスは、励起光の照射により赤外発光させるには特許文献1のように非常に限定的なガラス組成を採用する必要がある。また、ガラスの粘性が大きく、溶融法でガラスを作製する際に均質性の高いガラスを得ることは困難である。
【0006】
また、特許文献1及び2に共通して、ガラスの成形温度域でガラスが失透し易いという問題や、軟化温度が非常に高いためにモールドプレス成形に適さないという問題がある。
【0007】
よって、過度に限定的なガラス組成でなくともビスマスによる赤外発光が得られ、且つ溶融法を利用したガラスの製造時に均質性を確保し易く、しかも耐失透性が良好であり、モールドプレス成形に適した赤外発光ガラスの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−252397号公報
【特許文献2】特開2003−283028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、過度に限定的なガラス組成でなくともビスマスによる赤外発光が得られ、且つ溶融法を利用したガラスの製造時に均質性を確保し易く、しかも耐失透性が良好であり、モールドプレス成形に適した赤外発光ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、P及びAlを主成分とし、Biを含有する特定のガラス組成によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の赤外発光ガラスに関する。
1.ガラス全体量を100モル%とし、酸化物組成として、
(1)P:45〜75モル%、
(2)Al:3〜25モル%、
(3)RをMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種とし、RO:5モル%以上30モル%未満、並びに
(4)Bi:0.1〜5モル%、
を含有するガラス組成物からなり、励起光の照射により赤外波長域で蛍光発光することを特徴とする赤外発光ガラス。
2.前記励起光の波長は、400〜900nmの範囲である、上記項1に記載の赤外発光ガラス。
3.前記蛍光発光の波長は、900〜1600nmの範囲である、上記項1又は2に記載の赤外発光ガラス。
4.SiO:0〜10モル%、B:0〜10モル%、R’をLi、Na、K、Cs及びRbの少なくとも1種とし、R’O:0〜30モル%、GeO:0〜5モル%、La:0〜5モル%、Y:0〜5モル%並びにYb:0〜5モル%を含有する、上記項1〜3のいずれかに記載の赤外発光ガラス。
5.軟化温度が800℃以下である、上記項1〜4のいずれかに記載の赤外発光ガラス。
6.モールドプレス成形用である、上記項1〜5のいずれかに記載の赤外発光ガラス。
【0012】
以下、本発明の赤外発光ガラスについて詳細に説明する。
【0013】
本発明の赤外発光ガラスは、ガラス全体量を100モル%とし、酸化物組成として、
(1)P:45〜75モル%、
(2)Al:3〜25モル%、
(3)RをMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種とし、RO:5モル%以上30モル%未満、並びに
(4)Bi:0.1〜5モル%、を含有するガラス組成物からなり、励起光の照射により赤外波長域で蛍光発光することを特徴とする。
【0014】
上記特徴を有する本発明の赤外発光ガラスは、上記組成を具備することによりビスマスによる赤外発光が得られ、且つ溶融法を利用したガラスの製造時に均質性を確保し易い。しかも、耐失透性が良好であるとともに軟化温度が従来品よりも低く成形性が良好であり、モールドプレス成形に適した赤外発光ガラスである。かかる本発明の赤外発光ガラスは、赤外レーザ光源として好適に利用できる。
【0015】
は、本発明のガラス組成物において必須成分であり、ガラスの網目を形成するとともに、軟化温度の低下に有効な成分である。Pの含有量は、45〜75モル%であればよいが、50〜70モル%が好ましい。Pの含有量が75モル%を超えると、軟化温度の上昇やガラスの化学的耐久性が悪化するおそれがある。
【0016】
Alは、本発明のガラス組成物において必須成分であり、化学的耐久性の向上に有効な成分である。Alの含有量は、3〜25モル%であればよいが、5〜20モル%が好ましい。Alの含有量が25モル%を超えると、軟化温度の上昇やガラスの化学的耐久性が悪化するおそれがある。
【0017】
本発明のガラス組成物は、R(2価の金属)をMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種とし、ROを5モル%以上30モル%未満含有する。ROは、本発明のガラス組成物において必須成分であり、ガラス融液の粘性の低下、ガラスの安定性の向上等に有効な成分である。ROの含有量は、5モル%以上30モル%未満であればよいが、10〜26モル%が好ましい。ROの含有量が30モル%以上になるとガラス融液の粘性の増大やガラスの安定性が悪化するおそれがある。
【0018】
Biは、発光種のビスマスを含む成分である。ビスマスの含有量が少なすぎると、ビスマスによる赤外波長域における発光強度が弱くなるおそれがある。また、ビスマスの含有量が多すぎると、光透過スペクトルの450〜550nmの波長範囲に光吸収ピークが現れにくくなり、赤外波長域での発光強度が低下するおそれがあるとともに、ビスマスが金属まで還元され易くなり、ガラスが濃褐色や黒灰色に呈色するおそれがある。以上の観点から、本発明ではBiの含有量は0.1〜5モル%であればよいが、その中でも0.2〜4モル%が好ましい。
【0019】
SiOは、ガラスの網目を形成する成分である。SiOの含有量は、0〜10モル%が好ましく、効果を得るためには0.5モル%以上含有することが好ましく、特に1〜9モル%とすることが好ましい。SiOの含有量が10モル%を超えると、ガラス融液の粘性の増大やガラスの安定性が悪化するおそれがある。
【0020】
は、ガラスの網目を形成する成分である。Bの含有量は、0〜10モル%が好ましく、効果を得るためには0.5モル%以上含有することが好ましく、特に1〜9モル%とすることが好ましい。Bの含有量が10モル%を超えると、ガラスの化学的耐久性が悪化するおそれがある。
【0021】
R’O(但しR’はLi、Na、K、Cs及びRbからなる群から選択される少なくとも1種である。)は、ガラス融液の粘性の低下に有効な成分である。これらの1価の金属の中でも、特にLi、Na及びKの少なくとも1種が好ましい。R’Oの含有量は、0〜30モル%が好ましく、効果を得るためには0.5モル%以上含有することが好ましく、特に1〜25モル%とすることが好ましい。R’Oの含有量が10モル%を超えると、化学的耐久性が悪化するおそれがある。なお、本発明では、R’Oの中でもKOが最も好ましく、KOを0.5〜10モル%含有することが好ましく、1〜5モル%含有することがより好ましい。KOはガラス融液の粘性の低下に特に有効であるばかりでなく、耐失透性の効果も高く、また金型との反応性が低いためガラスのモールド成形性を高める点でも好ましい。
【0022】
GeO、La、Y及びYbは、いずれもガラスの化学的耐久性の向上に有効な成分である。これらは、1種又は2種以上を混合して使用できる。GeO、La、Y及びYbの含有量は、それぞれ0〜5モル%が好ましく、効果を得るためには0.5モル%以上含有することが好ましく、特に1〜4モル%とすることが好ましい。GeO、La、Y及びYbの少なくとも1種の合計量としては、10モル%程度である。GeO、La、Y及びYbの含有量がそれぞれ5モル%を超えると、ガラスの溶融性が悪化するおそれがある。
【0023】
その他、本発明の効果を妨げない範囲において、他の成分が含まれていてもよい。
【0024】
上記組成を有する本発明のガラス組成物は、400〜1000nmの範囲の波長の励起光(好ましくは600〜1000nmの範囲の波長の励起光)で励起することにより、900〜1600nmの波長範囲(好ましくは900〜1500nmの波長範囲)において蛍光発光を呈する。このような本発明のガラス組成物は、赤外レーザ光源として好適である。
【0025】
また、本発明のガラス組成物は軟化温度が800℃以下と従来品よりも低く、モールドプレス成形用ガラスとして好適である。その中でも、750℃以下が好ましい。なお、該軟化温度は、JIS R 3103-1に従い、ガラスを5℃/minで昇温した条件において、軟化点測定装置を用いて測定した値である。
【0026】
更に、本発明のガラス組成物は、耐失透性が良好である。例えば、好適な実施態様では、ガラスを電気炉内で1100〜1400℃の温度で溶融後、軟化温度付近まで降温し、該温度で2時間保持後、顕微鏡観察において失透が認められない。
【0027】
本発明の赤外発光ガラスは、上記所定の組成となるように原料を配合し、公知のガラス製造方法に従って処理すればよい。
【0028】
ガラス中の各成分の原料(ガラス原料)としては特に限定されないが、各金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物等が挙げられる。
【0029】
上記赤外発光ガラスの製造に際しては、例えば、最終的に所定の組成となるように上記原料を調合し、1100〜1400℃程度の温度で溶融・撹拌・清澄後、型に流し込み、徐冷することにより得られる。また、ガラス溶融の際は、酸素分圧が大気中より低い混合ガス雰囲気下で行ってもよい。混合ガスとしては、Nガス、N−O混合ガス、H−O混合ガス、H−N混合ガスなどが挙げられる。
【0030】
徐冷工程では、ガラスに熱的歪みが生じないように温度条件を管理することが好ましい。冷却速度としては100℃/hr以下が好ましく、50℃/hr以下がより好ましい。
【0031】
本発明の赤外発光ガラスは、赤外レーザ光源としての使用に好適である上に、軟化温度が低いためにモールドプレス成形において金型の劣化や金型との融着が生じにくく、しかも耐失透性が良好である。よって、本発明の赤外発光ガラスを用いれば、成型により、レンズ機能やコリメート機能を付与でき、複合機能を有する光学デバイスが作製できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の赤外発光ガラスは、上記組成を具備することによりビスマスによる赤外発光が得られ、且つ溶融法を利用したガラスの製造時に均質性を確保し易い。しかも、耐失透性が良好であるとともに軟化温度が従来品よりも低く成形性が良好であり、モールドプレス成形に適した赤外発光ガラスである。かかる本発明の赤外発光ガラスは、赤外レーザ光源として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で観測された発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0035】
実施例1〜4及び比較例1〜3
下記表1に示される組成となるようにガラス原料を秤量及び調合した。
【0036】
原料混合物を、石英坩堝中、1100〜1400℃で溶融、清澄、撹拌した。次に、溶融物を炭素型に流し込み、40℃/hrの速度で室温まで冷却した。冷却後、ガラスを切断、研磨することにより厚さ5mmのガラス板を得た。
【0037】
【表1】

【0038】
試験例1
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたガラス板の熱的特性及び光学的特性(軟化温度、耐失透性及び蛍光発光の特性)を調べた。
≪軟化温度≫
軟化温度は、JIS R 3103-1に従い、各ガラス板を5℃/minで昇温した条件において、軟化点測定装置を用いて測定した。軟化温度の測定値を下記表2に示す。
≪耐失透性≫
耐失透性は、石英坩堝中に各ガラス板を入れ、電気炉で1100〜1400℃の温度で溶融後に軟化温度付近まで降温し、該温度で2時間保持した後、炉外に取り出して失透の有無を顕微鏡により観察することにより調べた。
【0039】
耐失透性が良好(失透が認められない)であるものを○と評価し、不良(失透が認められる)であるものを×と評価した。評価結果を下記表2に示す。
≪蛍光発光≫
励起光として波長700nmの光を各ガラス板に照射し、900〜1600nmの範囲の波長に蛍光発光が発現するか否かを、蛍光分光光度計を用いて調べた。蛍光発光が認められたものを○、認められなかったものを×と評価した。評価結果を下記表2に示すとともに実施例1で観測された発光スペクトルを図1に示す。図1には、900〜1600nmの範囲の波長に蛍光発光が発現していることが示されている。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から明らかなように、本発明の赤外発光ガラスは、成形温度域において耐失透性が良好であり、従来品よりも軟化温度が低いことによりモールドプレス成形に適した赤外発光ガラスである。特に実施例2、3及び4は、実施例1と比較して軟化温度がより低いため金型の劣化抑制に対して有利でありモールド成形性に優れている。その中でも、実施例3及び4は、R’OとしてKOを含有することにより、実施例2と比較してより金型との反応性が低く融着が生じにくいため、特にモールド成形性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス全体量を100モル%とし、酸化物組成として、
(1)P:45〜75モル%、
(2)Al:3〜25モル%、
(3)RをMg、Ca、Sr、Ba及びZnからなる群から選択される少なくとも1種とし、RO:5モル%以上30モル%未満、並びに
(4)Bi:0.1〜5モル%、
を含有するガラス組成物からなり、励起光の照射により赤外波長域で蛍光発光することを特徴とする赤外発光ガラス。
【請求項2】
前記励起光の波長は、400〜1000nmの範囲である、請求項1に記載の赤外発光ガラス。
【請求項3】
前記蛍光発光の波長は、900〜1600nmの範囲である、請求項1又は2に記載の赤外発光ガラス。
【請求項4】
SiO:0〜10モル%、B:0〜10モル%、R’をLi、Na、K、Cs及びRbの少なくとも1種とし、R’O:0〜30モル%、GeO:0〜5モル%、La:0〜5モル%、Y:0〜5モル%並びにYb:0〜5モル%を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の赤外発光ガラス。
【請求項5】
軟化温度が800℃以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の赤外発光ガラス。
【請求項6】
モールドプレス成形用である、請求項1〜5のいずれかに記載の赤外発光ガラス。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49591(P2013−49591A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187745(P2011−187745)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行所名 公益社団法人 日本セラミックス協会 刊行物名 第6回 日本セラミックス協会関西支部 学術講演会 講演予稿集 発行年月日 2011年7月29日
【出願人】(591110654)五鈴精工硝子株式会社 (19)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】