説明

赤外線センサモジュールおよびその製造方法

【課題】レンズ固着のための接着剤のはみ出しを低減し、開口径を高精度に維持しつつ、高精度で信頼性の高い赤外線検出を行うことが可能な赤外線センサモジュールを提供する。
【解決手段】基板10上に配置され、赤外線を検出する赤外線センサ素子30と、赤外線センサ素子30の出力を処理する信号処理回路素子40と、赤外線センサ素子から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線を前記赤外線センサ素子に結像するための光学部材としてのレンズ22を備えた光学部材用開口窓23を有し、赤外線センサ素子および信号処理回路素子を収容するケースとを具備した赤外線センサモジュールであって、光学部材用開口窓23は、その周縁部23Rで、光学部材を装着する面側に肉薄部を有し、光学部材の周縁部と光学部材用開口窓の周縁部との間に凹状部25を構成し、凹状部25が、接着剤24の充填される充填部を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサモジュールおよびその製造方法に係り、特に、そのレンズ固定部の接着剤流れ出し防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、赤外線センサモジュールは、非接触で温度検出を図ることができることから、人の存在を検出し、人の動きに追随して、点灯制御を行うようにした自動点灯システムや、電子レンジの庫内温度の検出、被調理物の温度分布の検出などに、広く用いられている。赤外線センサモジュールにはサーモパイル型の赤外線センサを用いたもの、量子型の赤外線センサを用いたものなどがある。
【0003】
このような赤外線センサモジュールの一例としては、図10に示すように、回路基板110上に、駆動用IC140、赤外線検知素子130を順次搭載し、レンズ用開口窓123を有する金属ケース120を装着した構造が提案されている(特許文献1)。
【0004】
このような赤外線センサモジュールでは、回路基板110に赤外線検知素子130を実装後に金属ケース120によって気密封止がなされる。
ここでレンズ用開口窓は、赤外線をパッケージ内部に取り込むものであり、この窓のサイズは、入射する赤外線量に影響を及ぼすため、光学設計により“開口径”としてそのサイズが定義される。
その一方で、レンズをケースのレンズ用開口窓に取り付ける方法として、品質・コストの観点から、エポキシ系接着剤124により固定することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−243365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように信号処理回路素子を内蔵した赤外線センサモジュールにおいては、片面凸形状のレンズにて平面側を実装面とする場合、接着剤の性質上、実装面周囲にフィレットを形成して実装がなされる。その場合、その部分が実装面からはみ出して、流れだしが発生することがある。
このとき、エポキシ系接着剤は、その性質上、赤外線を透過しないため、この流れだしによりケースのレンズ用開口窓の開口部が狭まると、センサ性能の劣化を引き起こしてしまうことがある。
【0007】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、レンズ固着のための接着剤のはみ出しを低減し、レンズ用開口窓の開口径を高精度に維持しつつ、高精度で信頼性の高い赤外線検出を行うことが可能な赤外線センサモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、基板上に配置され、赤外線を検出する赤外線センサ素子と、前記赤外線センサ素子の出力を処理する信号処理回路素子と、前記赤外線センサ素子から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線を前記赤外線センサ素子に結像するための光学部材を備えた、光学部材用開口窓を有し、前記赤外線センサ素子および前記信号処理回路素子を収容するケースとを具備した赤外線センサモジュールであって、前記光学部材用開口窓はその周縁で前記光学部材を装着する面側に肉薄部を有し、前記光学部材の周縁部と前記光学部材用開口窓の周縁部との間に凹状部を構成し、前記凹状部が、接着剤の充填される充填部を構成する。
【0009】
また、本発明は、上記赤外線センサモジュールであって、前記ケースは金属製のケースであり、前記光学部材用開口窓の前記周縁部は、端部をつぶし加工で肉薄化された肉薄部であるものを含む。
【0010】
また、本発明は、上記赤外線センサモジュールであって、前記ケースは金属製のケースであり、前記光学部材用開口窓の周縁部は、前記光学部材装着面側に形成された面取り加工部である。
【0011】
また、本発明は、上記赤外線センサモジュールであって、前記ケースまたは前記光学部材は、前記光学部材用開口窓の前記周縁部の近傍にリング状の溝部を有し、前記溝部にも前記接着剤が充填できるように構成されたものを含む。
【0012】
本発明の方法は、基板上に配置され、赤外線を検出する赤外線センサ素子と、前記赤外線センサ素子の出力を処理する信号処理回路素子とを装着する工程と、前記赤外線を前記赤外線センサ素子に結像するための光学部材を備えた光学部材用開口窓を有し、前記赤外線センサ素子および前記信号処理回路素子を収容するケースを形成する工程と、前記ケースを前記基板に装着する工程とを具備した赤外線センサモジュールの製造方法であって、前記ケースを形成する工程は、前記光学部材用開口窓の周縁で、前記光学部材を装着する面側に、肉薄部を有するように形状加工する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る赤外線センサモジュールによれば、赤外線の入射窓である、光学部材用開口窓は、その周縁で光学部材を装着する面側に肉薄部を有し、この肉薄部が光学部材の周縁部と光学部材用開口窓の周縁部との間に凹状部を構成し、この凹状部に接着剤が充填される。このため、光学部材用開口窓の周縁部の光学部材の実装面周囲に接着剤のフィレットを形成し、光学部材を装着し加熱加圧して実装がなされる場合も、接着剤は凹状部に吸収され、実装面からはみ出して、流れだしが発生するのを防止することができる。
従って、流れだしによりケースの開口部が狭まり、開口径にばらつきが生じセンサ性能の劣化を引き起こしてしまうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールを示す図であり、(a)は断面図、(b)はケースとセンサカバーを外した状態を示す上面図
【図2】は図1の要部断面図であり、(a)はケースの部分を示す断面図、(b)は更なる要部断面図
【図3】本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールを示す図であり、(a)はケースの断面図、(b)は上面図
【図4】本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールの光学部材用開口窓の周縁部を示す断面図
【図5】本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールを示す分解斜視図
【図6】本発明の実施の形態2の赤外線センサモジュールを示す断面図
【図7】本発明の実施の形態3の赤外線センサモジュールを示す断面図
【図8】本発明の実施の形態4の赤外線センサモジュールを示す断面図
【図9】(a)乃至(c)は濡れ性と接触角との関係を示す図
【図10】従来例の赤外線センサモジュールを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の赤外線センサモジュールについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールを示す断面図であり、(b)は、赤外線センサモジュールのケース内部を示す上面図である。図2は図1の要部断面図であり、(a)はケースの部分を示す断面図、(b)は更なる要部断面図である。図3(a)および(b)はケースの断面図および上面図、図4は光学部材用開口窓の周縁部を示す断面図である。また図5はこの赤外線センサモジュールを示す分解斜視図である。
本発明の実施の形態1の赤外線センサモジュールは、金属(ステンレス板)製のケース20のケース本体21に設けられた光学部材取り付け用の開口窓23が、その周縁で、光学部材としてのレンズ22を装着する面側に、肉薄部を有する。そして、このレンズ22の周縁部22Rと光学部材用開口窓23の周縁部23Rとの間に、凹状部25を構成し、凹状部25が、接着剤24の充填される充填部を構成するようにし、接着剤の光学部材用開口窓内への流れだしを防止するようにしたものである。
またこの赤外線センサモジュールは、基板10上に配置され、赤外線を検出する赤外線センサ素子30と、赤外線センサ素子30の出力を処理する信号処理回路素子40とを具備している。そして、金属製のケース20はこの赤外線センサ素子30から所定の距離を隔てて設けられる。
【0017】
なおここで用いられる赤外線センサ素子は、面実装によって基板10に搭載されたサーモパイル型センサである。そしてワイヤボンディングによって基板10に電気的に接続されている。32はボンディングワイヤである。サーモパイル型センサは、ここでは図示しないが、ポリシリコンのマイクロマシニングによって形成した熱電対において、赤外線による熱によりこれら接点間に温度差を生じさせ、この温度差により接点間に電位差を発生させる熱起電力効果(ゼーベック効果)を利用して、赤外線を電圧として検知するように構成したものである。このサーモパイル型赤外線センサは、受光した赤外線を赤外線吸収膜で熱に変換し、この熱を、直列に多数個接続された熱電対に加え、発生した温接点部の温度変化を、熱電対により電圧として出力する。このサーモパイルにおいて、赤外線を吸収する赤外線吸収膜の材料としては、赤外線吸収率の高い金黒膜やカーボン膜などが用いられている。
【0018】
そして、図示しないセンサカバーで赤外線センサ素子30が覆われている。このセンサカバーはなくてもよいが、ここでは銀ペーストなどの熱伝導性材料で前記基板10に接合されており、この銀ペーストによって、センサカバーが基板10との間での熱のやり取りをし易くしており、センサ周囲で熱が部分的にこもることがないようにすることができる。
【0019】
ここで基板10表面には図5に示すように配線導体層11が形成されており、ボンディングワイヤ32を介して赤外線センサ素子30と電気的に接続されている。また赤外線センサ素子30と信号処理回路素子40との間の電気的接続もボンディングワイヤ32を介してなされている。
【0020】
この構成によれば、光学部材用開口窓は、その周縁で、光学部材を装着する面側に、肉薄部を有し、この肉薄部が光学部材の周縁部と光学部材用開口窓の周縁部との間に、凹状部を構成し、この凹状部に、接着剤が充填される。このため、実装面周囲に接着剤のフィレットを形成し、光学部材を装着し加熱加圧して実装がなされる場合も、接着剤は凹状部に吸収され、実装面からはみ出して、流れだしが発生するのを防止することができる。
【0021】
従って、接着剤の流れだしによりケース開口部が狭まり、センサ性能の劣化を引き起こしてしまうこともない。
なお、このケースの光学部材用開口窓は打ち抜き加工後面取りを行うことによって形成される。
【0022】
前記実施の形態では、ケース20はステンレスで構成したが、銅、コバールなど他の金属を用いるようにしてもよい。また、センサカバーを導電性材料で基板に接続することにより、シールド面と電気的に接続することができ、電磁シールド性を持たせることができる。
【0023】
さらに、基板10として窒化アルミニウムなどの放熱性の高いセラミック基板を用いるとともに、センサカバーの当接する領域に配線導体層が形成されるようにすることで、より放熱性を高めることができる。
【0024】
(実施の形態2)
なお、前記実施の形態では、ケースの光学部材用開口窓23の周縁部23Rを面とり加工で形成したが、本実施の形態では、打ち抜き加工後、端部につぶし加工を施し、図6に要部断面図を示すように、凹凸をもつように構成している。すなわち光学部材用開口窓の周縁部は、端部をつぶし加工で肉薄化され、表面に凹凸を有する肉薄部23Zで構成されている。
この構成によれば、より表面積が大きくなり、接着領域が増大するため、レンズとケースとの接着性が向上する。
他は前記実施の形態1と同様であるためここでは説明を省略する。
【0025】
(実施の形態3)
なお、前記実施の形態1では、ケースの光学部材用開口窓の周縁部を面とり加工で形成したが、本実施の形態では、さらにケースは、周縁部の近傍にリング状の溝部26を有し、溝部26にも接着剤24が充填できるように構成されたことを特徴とする。
製造に際しては打ち抜き加工に用いる金型を変更するのみでよく、打ち抜き加工後、前記実施の形態1と同様に端部につぶし加工を施し、図7に要部断面図を示すように、周縁部の近傍にリング状の溝部を有するケースを形成する。また光学部材用開口窓の周縁部は、前記実施の形態1と同様端部を面取り加工で肉薄化された肉薄部で構成されている。
【0026】
この構成によれば、更に溝部26に樹脂溜まりが形成されるため、接着剤の流れ出しが確実に阻止され、更にケースとレンズの接着強度も向上する。
他は前記実施の形態1と同様であるためここでは説明を省略する。
【0027】
(実施の形態4)
なお、前記実施の形態1乃至3では、ケースを金属で構成したが、本実施の形態では、図8に断面図を示すように、ケース本体21Rをエポキシ樹脂で形成し、内壁にコバール薄膜を蒸着し、シールド部材27としたものである。本実施の形態ではケースの光学部材用開口窓の周縁部23Rは面とり加工に代えて、射出成型で肉薄部を構成するように形成されている。他部については前記実施の形態1乃至3と同様であるためここでは説明を省略する。
【0028】
製造に際しては前述したように射出成型加工に用いる金型を変更するのみでよく、光学部材用開口窓の周縁部は、前記実施の形態1と同様、端部を肉薄化された肉薄部で構成されている。
この構成によれば、接着剤の流れ出しが確実に阻止され、更にケースとレンズの接着強度も向上する。
【0029】
接着剤24が濡れ拡がる際、ケース本体21,21Rおよびレンズ22表面に対する接着剤24の濡れ性に応じた接触角を持ってフィレットを形成する。図9(a)乃至(c)は濡れ性と接触角との関係を示す図である。図9(a)は表面がポリエチレンやテフロン(登録商標)等の樹脂の場合で、接着剤24が全く濡れていない場合を示すように接触角θが180°の場合を示す。図9(b)は接着剤24が少し濡れている場合、すなわち接触角θが90°程度である場合を示す。図9(c)は表面がガラスなどの場合で、接着剤24がよく濡れている場合を示すように接触角θが90°より小さい場合を示す。この図からわかるように本発明のように、接着剤を塗布する領域の周縁に凹状部25を形成し、接着剤が流れ込むように構成しているため、接触角は接着剤の形状には影響され図、常に一定で開口窓の開口径を確保するようになっている。
【0030】
また、前記実施の形態では、光学部材としてレンズを用いたが、レンズの他、フィルタ、あるいは複数のレンズを重ねた組レンズなど適宜採用可能である。
【符号の説明】
【0031】
10 基板
20 ケース
21 ケース本体
22 レンズ(光学部材)
23 開口窓
23R 開口窓周縁部
24 接着剤
25 凹状部
26 溝部
27 シールド部材
30 赤外線センサ素子
32 ボンディングワイヤ
40 信号処理回路素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置され、赤外線を検出する赤外線センサ素子と、
前記赤外線センサ素子の出力を処理する信号処理回路素子と、
前記赤外線センサ素子から所定の距離を隔てて設けられ、外部の赤外線を前記赤外線センサ素子に結像するための光学部材を備えた光学部材用開口窓を有し、前記赤外線センサ素子および前記信号処理回路素子を収容するケースとを具備した赤外線センサモジュールであって、
前記光学部材用開口窓は、その周縁で前記光学部材を装着する面側に肉薄部を有し、前記光学部材の周縁部と前記光学部材用開口窓の周縁部との間に凹状部を構成し、
前記凹状部が、接着剤の充填される充填部を構成する赤外線センサモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記ケースは金属製のケースであり、
前記光学部材用開口窓の前記周縁部は、端部をつぶし加工で肉薄化された肉薄部である赤外線センサモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記ケースは金属製のケースであり、
前記光学部材用開口窓の周縁部は、前記光学部材装着面側に形成された面取り加工部である赤外線センサモジュール。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の赤外線センサモジュールであって、
前記ケースまたは前記光学部材は、前記光学部材用開口窓の前記周縁部の近傍にリング状の溝部を有し、前記溝部にも前記接着剤が充填できるように構成された赤外線センサモジュール。
【請求項5】
基板上に配置され、赤外線を検出する赤外線センサ素子と、前記赤外線センサ素子の出力を処理する信号処理回路素子とを装着する工程と、
前記赤外線を前記赤外線センサ素子に結像するための光学部材を備えた光学部材用開口窓を有し、前記赤外線センサ素子および前記信号処理回路素子を収容するケースを形成する工程と、
前記ケースを前記基板に装着する工程とを具備した赤外線センサモジュールの製造方法であって、
前記ケースを形成する工程は、前記光学部材用開口窓の周縁で、前記光学部材を装着する面側に、肉薄部を有するように形状加工する工程を含む、赤外線センサモジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−103206(P2012−103206A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254024(P2010−254024)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】