説明

赤外線センサ

【課題】 筐体からの輻射熱の影響を抑制することができる赤外線センサを提供すること。
【解決手段】 絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に形成され第1の感熱素子3Aに接続された導電性の第1の配線膜4A及び第2の感熱素子3Bに接続された導電性の第2の配線膜4Bと、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、絶縁性フィルムの一方の面に固定されて該絶縁性フィルムを支持すると共に第1の感熱素子及び第2の感熱素子を内部の収納部に収納する筐体とを備え、第1の配線膜4Aが、第1の感熱素子3Aの周囲にまで配されて第2の配線膜4Bよりも大きな面積で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物からの赤外線を検知して該測定対象物の温度等を測定する赤外線センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物から輻射により放射される赤外線を非接触で検知して測定対象物の温度を測定する温度センサとして、赤外線センサが使用されている。
例えば、特許文献1には、保持体に設置した樹脂フィルムと、該樹脂フィルムに設けられ保持体の導光部を介して赤外線を検知する赤外線検知用感熱素子と、樹脂フィルムに遮光状態に設けられ保持体の温度を検知する温度補償用感熱素子と、を備えた赤外線温度センサが提案されている。この赤外線温度センサでは、導光部の内側面に赤外線吸収膜を形成すると共に、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めている。また、この赤外線温度センサは、アルミニウムなどの熱伝導度が大きい金属材料で形成された保持体内に設けられている。
【0003】
また、特許文献2には、赤外線検知用感熱素子と、温度補償用感熱素子と、これらを密着固定する樹脂フィルムと、赤外線の入射窓側に赤外線検知用感熱素子を配置すると共に赤外線を遮蔽する遮蔽部側に温度補償用感熱素子を配置した枠体を有するケースと、を備えた赤外線検出器が提案されている。この赤外線検出器では、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させて赤外線の吸収を高めていると共に、赤外線検知用感熱素子と温度補償用感熱素子との熱勾配を無くすために熱伝導の良い材料で枠体を形成している。また、赤外線検知用感熱素子及び温度補償用感熱素子には、リード線がサーミスタに接続された松葉型のサーミスタが採用されている。この赤外線検出器は、樹脂または金属のケース内に固定されている。
これら特許文献1及び2の赤外線センサでは、樹脂フィルムにカーボンブラック等の赤外線吸収材料を含有させると共に一方の感熱素子側を温度補償用に遮光する構造が採用されているが、赤外線吸収材料を含有した樹脂フィルムの熱伝導が高く、赤外線検知用と温度補償用との感熱素子間で温度差分が生じ難いという不都合があった。また、これら感熱素子間で温度差分を大きくするためには、感熱素子間の距離を大きくする必要があり、全体形状が大きくなってしまい、小型化が困難になる問題がある。さらに、温度補償用の感熱素子を遮光する構造をケース自体に設ける必要があるため、高価になってしまう。
また、特許文献2では、熱伝導の良い枠体を採用しているため、赤外線吸収膜からの熱も放熱されてしまい感度が劣化する不都合がある。また、リード線が接続された松葉型のため、サーミスタとリード線との間で熱の空間伝導が生じてしまう。
さらに、一方の感熱素子について赤外線を筐体で遮光する構造を採用しているが、赤外線を遮っているだけで遮蔽部分が赤外線を吸収してしまい、遮蔽部分の温度が変化してしまうことからリファレンスとして不完全となってしまう不都合があった。
【0004】
そのため、特許文献3に示すように、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、絶縁性フィルムの一方の面に形成され第1の感熱素子及び第2の感熱素子に別々に接続された複数対の導電性の配線膜と、第1の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線吸収膜と、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜とを備えている赤外線センサが開発されている。なお、この赤外線センサは、樹脂製の筐体に支持されている。
【0005】
この赤外線センサでは、赤外線吸収膜による部分的な赤外線吸収と赤外線反射膜による部分的な赤外線反射とにより、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム上で第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができる。すなわち、フィルムに赤外線吸収材料等を含有させていない低熱伝導性の絶縁性フィルムでも、赤外線吸収膜によって絶縁性フィルムの第1の感熱素子の直上部分のみに赤外線吸収による熱を伝導させることができる。特に、薄い絶縁性フィルムを挟んで赤外線吸収膜の熱が伝導されるため、感度の劣化がなく、高い応答性を有している。また、赤外線吸収膜の面積を任意に設定可能であるため、測定対象物との距離に合わせた赤外線検出の視野角を面積で設定でき、高い受光効率を得ることができる。また、赤外線反射膜によって絶縁性フィルムの第2の感熱素子の直上部分における赤外線を反射してその吸収を阻止することができる。なお、絶縁性フィルム上に赤外線吸収膜と赤外線反射膜とを形成しているので、赤外線吸収膜と赤外線反射膜との間の熱を伝導する媒体が、空気以外にこれら膜が対向した間の絶縁性フィルムのみとなり、伝導する断面積が小さくなる。したがって、相互の感熱素子への熱が伝わり難くなり、干渉が少なくなって検出感度が向上する。このように、低熱伝導性の絶縁性フィルム上で互いに熱の影響が抑制された第1の感熱素子と第2の感熱素子とが、それぞれ赤外線吸収膜の直下と赤外線反射膜の直下との絶縁性フィルムの部分的な温度を測定する構造を有している。したがって、赤外線検知用とされる第1の感熱素子と温度補償用とされる第2の感熱素子との良好な温度差分を得られ、高感度化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−156284号公報(段落番号0026、図2)
【特許文献2】特開平7−260579号公報(特許請求の範囲、図2)
【特許文献3】特開2011−13213号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来の赤外線センサは、樹脂または金属からなるケース内に設置されているが、ケース自体が過熱され輻射熱を放出すると該輻射熱を受けた赤外線センサの感度が変化してしまう場合があった。例えば、特許文献3の赤外線センサの場合、図7および図8に示すように、絶縁性フィルム2を透過した赤外線により筐体7自体が過熱され輻射熱を放出すると該輻射熱を受けた絶縁性フィルム2の温度が変化して感熱素子3Aおよび感熱素子3Bの感度が変わってしまう不都合がある。また、筐体7と絶縁性フィルム2とに温度差があると、筐体7からの輻射熱により温度検出に影響が生じてしまうおそれがある。なお、高コストの金属に替えて低コストな樹脂で筐体7を形成すると、使用された樹脂の放射率の影響で特性が異なるため、製造ロットなどにより特性が変わったり、経年変化により特性が変わったりすることから、高精度な測定が難しいという不都合があった。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、筐体からの輻射熱の影響を抑制することができる赤外線センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明の赤外線センサは、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、前記絶縁性フィルムの一方の面に固定されて該絶縁性フィルムを支持すると共に前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子を内部の収納部に収納する筐体とを備え、前記第1の配線膜が、前記第1の感熱素子の周囲にまで配されて前記第2の配線膜よりも大きな面積で形成されていることを特徴とする。
【0010】
この赤外線センサでは、絶縁性フィルムを支持すると共に第1の感熱素子及び第2の感熱素子を内部の収納部に収納する筐体を備え、第1の配線膜が、第1の感熱素子の周囲にまで配されて第2の配線膜よりも大きな面積で形成されているので、大きな面積の第1の配線膜が、絶縁性フィルムを透過して筐体に照射される赤外線を遮断すると共に筐体から放射される輻射熱を遮断して絶縁性フィルムへの熱影響を抑制することができる。さらに、絶縁性フィルムの赤外線を吸収した部分からの熱収集を改善すると共に、絶縁性フィルムの赤外線反射膜が形成された部分と熱容量が近づくので、変動誤差を小さくすることができる。なお、第1の配線膜の面積及び形状は、絶縁性フィルムの赤外線反射膜が形成された部分と熱容量がほぼ等しくなるように設定することが好ましい。
【0011】
第2の発明の赤外線センサは、第1の発明において、前記第2の配線膜と前記赤外線反射膜とが、平面視において前記収納部の上部を塞ぐ形状とされていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、第2の配線膜と赤外線反射膜とが、平面視において収納部の上部を塞ぐ形状とされているので、第2の配線膜と赤外線反射膜とにより絶縁性フィルムを透過して収納部内へ抜ける赤外線を収納部の上部全体で遮断することができ、筐体が加熱されることをさらに抑制することができる。
【0012】
第3の発明の赤外線センサは、第1又は第2の発明において、前記筐体内の前記絶縁性フィルムに対向する底面に、赤外線を反射する底面反射膜が形成されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、筐体内の絶縁性フィルムに対向する底面に、赤外線を反射する底面反射膜が形成されているので、筐体内の底面から放射される輻射熱を底面反射膜で直接反射させて遮断することで対向する絶縁性フィルムや感熱素子への影響をさらに抑制することができる。
【0013】
第4の発明の赤外線センサは、第1から第3のいずれかの発明において、前記筐体が、樹脂で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この赤外線センサでは、筐体が樹脂で形成されているので、金属の場合に比べて安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る赤外線センサによれば、第1の配線膜が、第1の感熱素子の周囲にまで配されて第2の配線膜よりも大きな面積で形成されているので、大きな面積の第1の配線膜により絶縁性フィルムを透過する赤外線を遮断し、さらに筐体からの輻射熱を遮断して絶縁性フィルムへの熱影響を抑制すると共に、赤外線反射膜が形成された部分との熱容量が近づくことで変動誤差を小さくして高精度な温度検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る赤外線センサの一実施形態を示す断面図である。
【図2】本実施形態において、感熱素子が接着される前の絶縁性フィルムを示す底面図(a)および配線膜と収納部と赤外線反射膜との位置関係を示す底面図(b)である。
【図3】本実施形態において、感熱素子が接着される前の絶縁性フィルムを示す平面図である。
【図4】本実施形態において、赤外線センサを示す斜視図である。
【図5】本実施形態において、筐体を除いた赤外線センサを示す斜視図である。
【図6】本実施形態において、筐体を示す平面図である。
【図7】本発明に係る赤外線センサの比較例において、感熱素子が接着される前の絶縁性フィルムを示す底面図である。
【図8】本発明に係る赤外線センサの比較例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る赤外線センサの一実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の赤外線センサ1は、図1から図4に示すように、絶縁性フィルム2と、該絶縁性フィルム2の一方の面(下面)に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bと、絶縁性フィルム2の一方の面に形成され第1の感熱素子3Aに接続された導電性金属膜である一対の第1の配線膜4A及び第2の感熱素子3Bに接続された導電性金属膜である一対の第2の配線膜4Bと、第2の感熱素子3Bに対向して絶縁性フィルム2の他方の面に設けられた赤外線反射膜6と、絶縁性フィルム2の一方の面に固定されて該絶縁性フィルム2を支持すると共に第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを内部の収納部7aに収納する筐体7とを備えている。
【0018】
上記第1の配線膜4Aは、図2に示すように、第1の感熱素子3Aの周囲にまで配されて第2の配線膜4Bよりも大きな面積で形成されている。これらの第1の配線膜4Aは、一対の中央に第1の感熱素子3Aを配し、一対で外形状が赤外線反射膜6と略同じ四角形状に設定されている。すなわち、第1の配線膜4Aの面積及び形状は、絶縁性フィルム2の赤外線反射膜6が形成された部分と熱容量がほぼ等しくなるように設定している。
【0019】
また、第1の配線膜4Aと赤外線反射膜6とは、平面視において収納部7aの上部を塞ぐ形状とされている。すなわち、図2の(b)に示すように、絶縁性フィルム2の上方側から視た際(平面視)に、一対で外形状が赤外線反射膜6と略同じ四角形状に設定されている第1の配線膜4Aと赤外線反射膜6とで、直方体形状の収納部7aの上部の略全体を塞いでいる。
【0020】
また、一対の第1の配線膜4Aには、その一端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された第1の接着電極5Aが接続されていると共に、他端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された第1の端子電極8Aが接続されている。
また、一対の第2の配線膜4Bは、線状に形成されており、その一端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された第2の接着電極5Bが接続されていると共に、他端部にそれぞれ絶縁性フィルム2上に形成された第2の端子電極8Bが接続されている。
なお、上記第1の接着電極5A及び第2の接着電極5Bには、それぞれ第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bの端子電極3aが半田等の導電性接着剤で接着される。
【0021】
上記絶縁性フィルム2は、ポリイミド樹脂シートで形成され、赤外線反射膜6、第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bが銅箔で形成されている。すなわち、これらは、絶縁性フィルム2とされるポリイミド基板の両面に、赤外線反射膜6、第1の配線膜4A及び第2の配線膜4Bとされる銅箔のフロート電極がパターン形成された両面フレキシブル基板によって作製されたものである。
【0022】
さらに、上記赤外線反射膜6は、図3に示すように、第2の感熱素子3Bの直上に四角形状で配されており、銅箔と、該銅箔上に積層された金メッキ膜とで構成されている。
この赤外線反射膜6は、絶縁性フィルム2よりも高い赤外線放射率を有する材料で形成され、上述したように、銅箔上に金メッキ膜が施されて形成されている。なお、金メッキ膜の他に、例えば鏡面のアルミニウム蒸着膜やアルミニウム箔等で形成しても構わない。この赤外線反射膜6は、第2の感熱素子3Bよりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0023】
上記第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bは、図5に示すように、両端部に端子電極3aが形成されたチップサーミスタである。このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bとして、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料で形成されている。なお、これら第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bは、各端子電極3aを対応する第1の接着電極5A上又は第2の接着電極5B上に接合させて絶縁性フィルム2に実装されている。
【0024】
特に、本実施形態では、第1の感熱素子3Aおよび第2の感熱素子3Bとして、Mn,CoおよびFeの金属酸化物を含有するセラミックス焼結体、すなわちMn−Co−Fe系材料で形成されたサーミスタ素子を採用している。さらに、このセラミックス焼結体は、立方晶スピネル相を主相とする結晶構造を有していることが好ましい。特に、セラミックス焼結体としては、立方晶スピネル相からなる単相の結晶構造が最も望ましい。
【0025】
上記筐体7は、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)等の樹脂で形成されており、第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを収納すると共に絶縁性フィルム2よりも熱伝導率の低い空気で覆う空間である収納部7aが内部に設けられている。
この筐体7内の絶縁性フィルム2に対向する底面には、赤外線を反射する底面反射膜9が形成されている。この底面反射膜9は、上記赤外線反射膜6と同様の膜が採用可能である。
【0026】
筐体7は、図4および図6に示すように、側面に設けられ第1の配線膜4Aまたは第2の配線膜4Bの第2の端子電極8Bに上端が接続されていると共に底部まで延在された複数の側面電極部10aと、側面下部において側面電極部10aの下端に接続されて設けられ外部の回路基板上に接続させる複数の実装用外部端子10bとを備えている。すなわち、本実施形態の赤外線センサ1は表面実装型とされている。なお、側面電極部10aと実装用外部端子10bとは、例えば錫めっきされた銅合金で形成されている。
【0027】
このように本実施形態の赤外線センサ1は、絶縁性フィルム2を支持すると共に第1の感熱素子3A及び第2の感熱素子3Bを内部の収納部7aに収納する筐体7を備え、第1の配線膜4Aが、第1の感熱素子3Aの周囲にまで配されて第2の配線膜4Bよりも大きな面積で形成されているので、大きな面積の第1の配線膜4Aが、絶縁性フィルム2を透過して筐体7に照射される赤外線を遮断すると共に筐体7から放射される輻射熱を遮断して絶縁性フィルム2への熱影響を抑制することができる。さらに、絶縁性フィルム2の赤外線を吸収した部分からの熱収集を改善すると共に、絶縁性フィルム2の赤外線反射膜6が形成された部分と熱容量が近づくので、変動誤差を小さくすることができる。
【0028】
また、第2の配線膜4Bと赤外線反射膜6とが、平面視において収納部7aの上部を塞ぐ形状とされているので、第2の配線膜4Bと赤外線反射膜6とにより絶縁性フィルム2を透過して収納部7a内へ抜ける赤外線を収納部7aの上部全体で遮断することができ、筐体7が加熱されることをさらに抑制することができる。
【0029】
さらに、筐体7内の絶縁性フィルム2に対向する底面に、赤外線を反射する底面反射膜9が形成されているので、筐体7内の底面から放射される輻射熱を底面反射膜9で直接反射させて遮断することで対向する絶縁性フィルム2や感熱素子3A,3Bへの影響をさらに抑制することができる。
なお、筐体7が樹脂で形成されているので、金属の場合に比べて安価に製造することができる。
【0030】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
例えば、上記実施形態では、第1の感熱素子が赤外線を直接吸収した絶縁性フィルムから伝導される熱を検出しているが、第1の感熱素子の直上であって絶縁性フィルム上に赤外線吸収膜を形成しても構わない。この場合、さらに第1の感熱素子における赤外線吸収効果が向上して、第1の感熱素子と第2の感熱素子とのより良好な温度差分を得ることができる。すなわち、この赤外線吸収膜によって測定対象物からの輻射による赤外線を吸収するようにし、赤外線を吸収し発熱した赤外線吸収膜から絶縁性フィルムを介した熱伝導によって、直下の第1の感熱素子の温度が変化するようにしてもよい。
【0032】
この赤外線吸収膜は、絶縁性フィルムよりも高い赤外線吸収率を有する材料で形成され、例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収材料を含むフィルムや赤外線吸収性ガラス膜(二酸化珪素を71%含有するホウケイ酸ガラス膜など)で形成されているもの等が採用可能である。特に、赤外線吸収膜は、アンチモンドープ酸化錫(ATO)膜であることが望ましい。このATO膜は、カーボンブラック等に比べて赤外線の吸収率が良いと共に耐光性に優れている。また、ATO膜は、紫外線で硬化させるので、接着強度が強く、カーボンブラック等に比べて剥がれ難い。
なお、この赤外線吸収膜は、第1の感熱素子よりも大きなサイズでこれを覆うように形成することが好ましい。また、赤外線吸収膜を設ける場合は、赤外線反射膜側の熱容量と略等しくなるように各配線膜を含めて面積や形状を設定する必要がある。
【0033】
また、チップサーミスタの第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しているが、薄膜サーミスタで形成された第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しても構わない。
なお、感熱素子としては、上述したように薄膜サーミスタやチップサーミスタが用いられるが、サーミスタ以外に焦電素子等も採用可能である。
【0034】
また、上記実施形態の筐体では、第1の感熱素子及び第2の感熱素子を収納する一つの収納部を内部に設けているが、筐体内部に仕切り壁を設け、第1の感熱素子及び第2の感熱素子をそれぞれ個別に収納する一対の収納部を設けても構わない。また、収納部内は、絶縁性フィルムよりも熱伝導率の低い空気による空間としているが、絶縁性フィルムよりも熱伝導率の低い発泡樹脂を充填しても構わない。
【0035】
さらに、上記実施形態では、第1の配線膜の面積を大きくし、第2の配線膜は線状に形成しているが、第2の配線膜の面積をある程度大きく設定しても構わない。この場合、赤外線反射膜側の熱容量が変わるため、周辺温度の変化に対して考慮する必要があり、反射側と吸収側とで、できるだけ熱容量が同じになるように各配線膜や赤外線反射膜の形状および面積を設定する必要がある。
【符号の説明】
【0036】
1…赤外線センサ、2…絶縁性フィルム、3A…第1の感熱素子、3B…第2の感熱素子、4A,104A…第1の配線膜、4B…第2の配線膜、6…赤外線反射膜、7…筐体、7a…収納部、9…底面反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、
前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に固定されて該絶縁性フィルムを支持すると共に前記第1の感熱素子及び前記第2の感熱素子を内部の収納部に収納する筐体とを備え、
前記第1の配線膜が、前記第1の感熱素子の周囲にまで配されて前記第2の配線膜よりも大きな面積で形成されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線センサにおいて、
前記第1の配線膜と前記赤外線反射膜とが、平面視において前記収納部の上部を塞ぐ形状とされていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の赤外線センサにおいて、
前記筐体内の前記絶縁性フィルムに対向する底面に、赤外線を反射する底面反射膜が形成されていることを特徴とする赤外線センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の赤外線センサにおいて、
前記筐体が、樹脂で形成されていることを特徴とする赤外線センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225693(P2012−225693A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91616(P2011−91616)
【出願日】平成23年4月16日(2011.4.16)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】