説明

赤外線フィルタ及びその製造方法

【課題】製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にする。
【解決手段】赤外線フィルタ1は、赤外線を透過する基板2と、基板2表面上に交互に多層積層されたGe膜及びYF膜とを備える。これにより、多層膜構造を形成する際にZnSを使用することがないので、製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や動物等の対象物を検知するためのセンサに適用して好適な赤外線フィルタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、多層積層された薄膜それぞれの界面における光の干渉現象を利用することにより赤外線波長領域の光のみを透過させる赤外線フィルタが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−313013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の赤外線フィルタは、多層膜構造の一部にZnS(硫化亜鉛)膜を使用しているために、成膜時に発生する異臭を避けるために専用の成膜室を設ける必要がある等、製造時や廃棄時の取り扱いが困難であった。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、製造時や廃棄時の取り扱いが容易な赤外線フィルタ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る赤外線フィルタは、赤外線を透過する基板と、基板表面上に交互に多層積層されたゲルマニウム膜及びフッ化物膜とを備える。また、本発明に係る赤外線フィルタの製造方法は、イオンビームアシスト蒸着法を利用して赤外線を透過する基板表面上にゲルマニウム膜とフッ化物膜を交互に多層積層する工程を有する。
【0006】
なお、上記フッ化物膜としては、YF(フッ化イットリウム)膜、MgF(フッ化マグネシウム)膜,CaF(フッ化カルシウム)膜,NaAlF(六フッ化アルミニウムナトリウム)膜,NaF(フッ化ナトリウム)膜,LiF(フッ化リチウム)膜,LaF(フッ化ランタン)膜等を例示することができる。また、上記フッ化物膜は(002)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有することが望ましい。フッ化物膜が(002)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有することにより、膜間の格子整合性に由来する膜内の引張応力を小さくし、膜間の密着性を高めることができるので、ゲルマニウム膜とフッ化物膜の密着力が強い、すなわち強度が高い赤外線フィルタを形成することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る赤外線フィルタ及びその製造方法によれば、多層膜構造を形成する際、非毒物であるフッ化物を使用し、ZnS(硫化亜鉛)膜を使用することがないので、製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる赤外線フィルタの構成及びその製造方法について詳しく説明する。
【0009】
〔赤外線フィルタの構成〕
本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1は、図1に示すように、赤外線を透過する基板2と、基板2表面上に交互に多層積層されたGe膜(ゲルマニウム膜)及びフッ化物膜としてのYF(フッ化イットリウム)膜とを備える。なお、本実施形態では、フッ化物膜としてYF膜を用いたが、本発明はYF膜に限定されることはなく、例えばMgF膜,CaF膜,NaAlF膜,NaF膜,LiF膜,LaF膜等のその他のフッ化物膜を用いてもよい。
【0010】
〔赤外線フィルタの製造方法〕
上記赤外線フィルタ1は、図2に示すようなRFイオンビーム銃11からSiウェハ等の基板2表面に向けてイオンビームを照射しながら蒸着材料が充填された坩堝12を加熱することにより基板2表面上に成膜するイオンビームアシスト蒸着装置13により製造することができる。具体的には、基板2表面上にGe膜を成膜する際は、RFイオンビーム銃11からAr(アルゴン)イオンビームを照射しながら坩堝12を加熱することにより、基板2表面上にGeを蒸着させる。また、基板2表面上にYF膜を成膜する際は、RFイオンビーム銃11からO(酸素)イオンビームを照射しながら坩堝12を加熱することにより、基板2表面上にYFを蒸着させる。
【0011】
なお、各膜の成膜レートは、水晶センサ14によって検出され、所定の大きさになるように調整されている。そして、赤外光源15から基板2の裏面に向けて赤外線光を照射し、基板2と多層膜を透過してきた赤外線光を赤外光センサ16によって検出すると共に、可視光センサ17によって基板2の裏面において反射した光を検出する光学センサ18によって、製造された赤外線フィルタ1の性能を評価する。
【0012】
また、アルゴンイオンの加速電圧を500[V]で固定した状態で酸素イオンの加速電圧を0(酸素イオンの照射無し)〜150[V]の範囲で変化させた場合、図3のX線回折図形に示すように、酸素イオンの加速電圧が30[V]以上100[V]以下である場合、YF膜は(002)面を主とした面方向に配向した結晶構造を有することが明らかになった。また、形成された多層膜に対しテープ試験(市販のセロテープ(登録商標)を膜表面に貼り付け、表面垂直方向に一定の力で引っ張り、膜が剥がれるか否かを評価することにより、Ge膜とYF膜の密着力を調べる試験)を行った所、図4に示すように、酸素イオンの加速電圧を30[V]以上100[V]以下として製造した多層膜のみテープ試験に合格した。また、多層膜内の引張応力を測定した所、図5に示すように引張応力はイオン加速電圧の増加に伴い増加することが明らかになった。このことから、酸素イオンの加速電圧を30[V]以上100[V]以下程度とし、YF膜は(002)面を主とした面方向に配向した結晶構造を有するようにすることにより、膜間の格子整合性に由来する膜内の引張応力を小さくし、膜間の密着性を高めることができ、結果として、Ge膜とHfO膜の密着力が強い赤外線フィルタが製造できることが知見される。
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1は、赤外線を透過する基板2と、基板2表面上に交互に多層積層されたGe膜及びYF膜とを備える。そして、このような構成によれば、多層膜構造を形成する際にZnSを使用することがないので、製造時や廃棄時における赤外線フィルタの取り扱いを容易にすることができる。
【0014】
また、本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1によれば、YF膜は(002)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するので、Ge膜とYF膜の密着力が高まり、強度が高い赤外線フィルタを提供することができる。また、本発明の実施形態となる赤外線フィルタ1によれば、Ge膜及びYF膜はイオンビームアシスト蒸着法により成膜されるので、イオンの衝突効果によって緻密で密着性のよい多層膜を成膜することができる。
【0015】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。このように、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態となる赤外線フィルタの構成を示す断面図である。
【図2】図1に示す赤外線フィルタを製造する際に用いられるイオンビームアシスト蒸着装置の構成を示す模式図である。
【図3】イオン加速電圧の変化に伴うYF膜の結晶構造の変化を示すX線回折図形である。
【図4】異なるイオン加速電圧によって形成された多層膜についてテープ試験を行った結果を示す。
【図5】異なるイオン加速電圧によって形成された多層膜について膜内の引張応力を測定した結果を示す。
【符号の説明】
【0017】
1:赤外線フィルタ
2:基板
11:RFイオン銃
12:坩堝
13:イオンビームアシスト蒸着装置
14:水晶センサ
15:赤外光源
16:赤外光センサ
17:可視光センサ
18:光学モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を透過する基板と、
前記基板表面上に交互に多層積層されたゲルマニウム膜及びフッ化物膜と
を備えることを特徴とする赤外線フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載の赤外線フィルタであって、
前記フッ化物膜は(002)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有することを特徴とする赤外線フィルタ。
【請求項3】
イオンビームアシスト蒸着法を利用して赤外線を透過する基板表面上にゲルマニウム膜とフッ化物膜を交互に多層積層する工程を有することを特徴とする赤外線フィルタの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の赤外線フィルタの製造方法であって、
前記フッ化物膜が(002)面を主とする面方向に配向した結晶構造を有するようにイオン加速電圧を調整する工程を有することを特徴とする赤外線フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−316283(P2007−316283A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145110(P2006−145110)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】