説明

赤外線反射フィルム

【課題】両面に赤外線反射膜を有する赤外線反射フィルムと同等の遠赤外線反射性能を有しながら、製造コストが安く、また、可視光の透過率が高い、実用性の良好な赤外線反射フィルムを実現する。
【解決手段】赤外線反射フィルム10は、ポリオレフィンフィルムまたはポリシクロオレフィンフィルムからなる基材フィルム12を備える。基材フィルム12は、二枚の主面を有し、一方の主面には赤外線反射層11が積層され、他方の主面は、空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面する。赤外線反射層11の表面は、空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線反射フィルム(熱線反射フィルム)に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線反射フィルムは、建物、乗物などの窓に貼着されて、冷暖房の効果を向上させることに用いられる。また、赤外線反射フィルムは、冷蔵(冷凍)ショーケースの窓に貼着されて、保冷効果を向上させることにも用いられる。
【0003】
図5は、従来の赤外線反射フィルム70の断面図である。従来の赤外線反射フィルム70は、基材フィルム71(透明な高分子フィルム)の片面に、赤外線反射層72を積層したものである。基材フィルム71は積層の下地となるフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好んで用いられる。
【0004】
赤外線反射層72は、金属薄膜層を高屈折率の透明誘電体層で挟んだ積層膜である。赤外線反射層72は、可視光線を透過させるが、赤外線は反射する。赤外線反射層72はスパッタリング法などで基材フィルム71の上に形成される。
【0005】
赤外線反射層72側(上側)からの照射光73に含まれる遠赤外線は、赤外線反射層72で反射される。しかし、基材フィルム71側(下側)からの照射光74に含まれる遠赤外線は、以下に述べるように、大部分が基材フィルム71に吸収される。
【0006】
ポリエチレンテレフタレートは、C=O基、C−O基、芳香族基を多く含むため、波長5μm〜25μmの遠赤外領域に振動吸収が生じる。そのため、ポリエチレンテレフタレートは、遠赤外線を吸収する性質がある。
【0007】
図5の赤外線反射フィルム70は、基材フィルム71としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いている。このため、基材フィルム71は、基材フィルム71側(下側)からの照射光74に含まれる遠赤外線の一部を吸収して温度が上昇する。
【0008】
基材フィルム71は、赤外線反射層72の下側への反射光に含まれる遠赤外線の一部を吸収して、さらに温度が上昇する。結果的に、基材フィルム71側(下側)からの照射光74の大部分は、基材フィルム71に吸収される。これにより、基材フィルム71自体が赤外線を再放射するようになる。
【0009】
図5の赤外線反射フィルム70は、照射光73が赤外線反射層72側(上側)から来る場合は、遠赤外線を反射するが、照射光74が基材フィルム71側(下側)から来る場合は、遠赤外線を反射しない。このため図5の赤外線反射フィルム70は、赤外線反射性能が不十分である。
【0010】
図6は、従来の他の赤外線反射フィルム80の断面図である(特許文献1:特開2011−104887)。図6の赤外線反射フィルム80は、基材フィルム81の片面に、赤外線反射層82および保護層83を積層したものである。基材フィルム81は積層の下地となるフィルムであり、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好んで用いられる。
【0011】
赤外線反射層82は、金属薄膜層を高屈折率の透明誘電体層で挟んだ積層膜である。赤外線反射層82は、可視光線を透過させるが、遠赤外線は反射する。赤外線反射層82はスパッタリング法などで基材フィルム81の上に形成される。
【0012】
図6の赤外線反射フィルム80においては、保護層83として、ポリシクロオレフィン層が用いられる。ポリシクロオレフィンは、基本構造が炭素原子と水素原子から構成されるため、遠赤外領域の吸収が少ない。このため保護層83側(上側)からの照射光84に含まれる遠赤外線は、保護層83にほとんど吸収されずに赤外線反射層82に到達し、赤外線反射層82で反射される。赤外線反射層82による反射光85に含まれる遠赤外線も、保護層83にほとんど吸収されず、外部に出射する。このため保護層83の温度はほとんど上昇しない。
【0013】
しかし、基材フィルム81側(下側)からの照射光86に含まれる遠赤外線は、以下に述べるように、大部分が基材フィルム81に吸収される。
【0014】
図6の赤外線反射フィルム80においては基材フィルム81としてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いている。このため、基材フィルム81は、基材フィルム81側(下側)からの照射光に含まれる遠赤外線の一部を吸収して温度が上昇する。基材フィルム81は、赤外線反射層82の下側への反射光に含まれる遠赤外線の一部を吸収して、さらに温度が上昇する。結果的に、基材フィルム81側(下側)からの照射光86の大部分は、基材フィルム81に吸収される。これにより、基材フィルム81自体が赤外線を再放射するようになる。
【0015】
図6の赤外線反射フィルム80は、照射光84が保護層83側(上側)から来る場合は遠赤外線を反射するが、照射光86が基材フィルム81側(下側)から来る場合は、遠赤外線を反射しない。このため図6の赤外線反射フィルム80は、赤外線反射性能が不十分である。
【0016】
図7は、従来の更に他の赤外線反射フィルム90(赤外線カットフィルター)の断面図である(特許文献2:特開2006−30944)。図7の赤外線反射フィルム90は、基材フィルム91(透明な樹脂フィルム)の両面に、赤外線反射膜92、93を積層したものである。基材フィルム91は積層の下地となるフィルムであり、ノルボルネン系樹脂フィルムやポリエーテルスルフォン樹脂フィルムが用いられる。
【0017】
赤外線反射膜92、93は、誘電体層Aと、誘電体層Aより屈折率の高い誘電体層Bを交互に積層した誘電体多層膜である。赤外線反射膜92、93は、可視光線は透過させるが、遠赤外線は反射する。赤外線反射膜92、93は蒸着法で基材フィルム91の上に形成される。
【0018】
図7の赤外線反射フィルム90は両面に赤外線反射膜92、93を有するため、基材フィルム91の材質と関係なく、上側からの照射光94に含まれる遠赤外線も、下側からの照射光95に含まれる遠赤外線も、同じように反射する。従って、図7の赤外線反射フィルム90は赤外線反射性能が良い。
【0019】
しかし、図7の赤外線反射フィルム90は、両面に赤外線反射膜92、93を積層しなければならないため、製造コストが高い。
【0020】
また、図7の赤外線反射フィルム90は両面に赤外線反射膜92、93を有するため、可視光の透過率が低い。そのため、図7の赤外線反射フィルム90を建築物の窓に用いると、室内が暗くなる。また、図7の赤外線反射フィルム90を冷蔵(冷凍)ショーケースの窓に貼着すると、冷蔵(冷凍)ショーケースの中が見にくくなる。このため図7の赤外線反射フィルム90は実用性に難がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2011−104887号公報
【特許文献2】特開2006−30944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、両面に赤外線反射膜92、93を有する図7の赤外線反射フィルム90と同等の遠赤外線反射性能を有しながら、製造コストが安く、また、可視光の透過率が高い、実用性の良好な赤外線反射フィルムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
(1)本発明の赤外線反射フィルムは、ポリオレフィンフィルムまたはポリシクロオレフィンフィルムからなる基材フィルムを備える。基材フィルムは、二枚の主面を有する。基材フィルムの一方の主面には赤外線反射層が積層される。積層された赤外線反射層の表面は、空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面する。基材フィルムの他の主面は、空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面する。空気、窒素ガス、不活性ガスの気圧は1気圧には限らず、1気圧より高くてもよいし、低くてもよい。
(2)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、ポリオレフィンフィルムは、ポリエチレンフィルムまたはポリプロピレンフィルムである。
(3)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、ポリシクロオレフィンフィルムは、ポリノルボルネンフィルムである。
(4)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、赤外線反射層側から測定した垂直放射率、および、基材フィルム側から測定した垂直放射率は、いずれも0.40以下である。
(5)本発明の赤外線反射フィルムは、可視光透過率が50%以上である。
(6)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、赤外線反射層は金属薄膜と高屈折率薄膜の積層膜からなる。
(7)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、金属薄膜は金、銀、銅、アルミニウム、パラジウムまたはこれらの合金からなる。
(8)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、高屈折率薄膜の屈折率は1.8〜2.7である。
(9)本発明の赤外線反射フィルムにおいて、高屈折率薄膜は、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)、亜鉛酸化物、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、錫酸化物、インジウム酸化物またはこれらの組合せからなる。
(10)本発明の赤外線反射フィルム実装体は、枠と本発明の赤外線反射フィルムを備える。本発明の赤外線反射フィルムの周辺部は枠に固定される。
(11)本発明の赤外線反射フィルム実装体は、枠と、本発明の赤外線反射フィルムと、透明ガラス板あるいは透明プラスチック板を備える。本発明の赤外線反射フィルムの周辺部は枠に固定される。透明ガラス板あるいは透明プラスチック板は、赤外線反射フィルムと空隙を隔てて、枠に固定される。空隙には、空気、窒素ガスまたは不活性ガスが充填される。あるいは空隙は真空である。
(12)本発明の赤外線反射フィルム実装体は、枠と、本発明の赤外線反射フィルムと、複数の透明ガラス板あるいは複数の透明プラスチック板を備える。複数の透明ガラス板あるいは複数の透明プラスチック板は、互いに空隙を隔てて枠に固定される。空隙には空気、窒素ガスまたは不活性ガスが充填される。あるいは空隙は真空である。透明ガラス板と透明ガラス板の間の空隙の中、あるいは、透明プラスチック板と透明プラスチック板の間の空隙の中に、本発明の赤外線反射フィルムが設置される。本発明の赤外線反射フィルムは、透明ガラス板あるいは透明プラスチック板に接しないように設置される。本発明の赤外線反射フィルムは周辺部が枠に固定される。
(13)本発明の冷蔵ショーケースまたは冷凍ショーケースは、本発明の赤外線反射フィルム実装体を窓部に備える。
(14)本発明の建築物は、本発明の赤外線反射フィルム実装体を窓部に備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明の赤外線反射フィルムは片面だけに赤外線反射膜を有するが、両面に赤外線反射膜を有する図7の赤外線反射フィルム90と同等の赤外線反射性能を有する。本発明の赤外線反射フィルムは片面だけに赤外線反射膜を有するため製造コストが安く、また、可視光の透過率が高い。本発明の赤外線反射フィルムは可視光の透過率が高いため、建築物の窓に用いても、室内が暗くならない。また、本発明の赤外線反射フィルムを冷蔵(冷凍)ショーケースの窓に貼着しても、冷蔵(冷凍)ショーケースの中が見にくくならない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)本発明の赤外線反射フィルムの断面図、(b)本発明の赤外線反射フィルム実装体の断面図
【図2】(a)本発明の赤外線反射フィルム実装体の断面図、(b)本発明の赤外線反射フィルム実装体の断面図
【図3】参考例の赤外線反射フィルム実装体の断面図
【図4】断熱性測定装置の断面図
【図5】従来の赤外線反射フィルムの断面図
【図6】従来の赤外線反射フィルムの断面図
【図7】従来の赤外線反射フィルムの断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
[赤外線反射フィルム]
図1(a)は本発明の赤外線反射フィルム10の断面図である。本発明の赤外線反射フィルム10は、基材フィルム12と、基材フィルム12の片側主面の全面に積層された赤外線反射層11からなる。赤外線反射層11の表面(上側の面)および基材フィルム12の他の主面(下側の面)は、空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面する。
【0027】
赤外線反射層11側(上側)から照射光13が入射した場合、照射光13に含まれる遠赤外線は、赤外線反射層11により反射される。このため、照射光13に含まれる遠赤外線は本発明の赤外線反射フィルム10を透過できない。そこで、例えば、本発明の赤外線反射フィルム10を用いて、赤外線反射層11を外側にして密閉空間を形成すると、外部から遠赤外線を含む照射光13が照射されても、密閉空間内部の温度はほとんど上昇しない。逆に赤外線反射層11を内側にして密閉空間を形成すると、密閉空間内部に熱源がある場合、密閉空間内の熱エネルギーが遠赤外線として外部に放出されることが防止されるため、密閉空間内部の温度が上昇しやすい。すなわち、本発明の赤外線反射フィルム10は断熱フィルムの機能を有する。
【0028】
基材フィルム12は、ポリオレフィンフィルムまたはポリシクロオレフィンフィルムである。ポリオレフィンおよびポリシクロオレフィンは、C−H基の伸縮振動が、赤外線の短波長側(中赤外領域)に現われる。そのため、ポリオレフィンおよびポリシクロオレフィンは、遠赤外線をほとんど吸収しない。
【0029】
このため、基材フィルム12側(下側)から照射光14が入射した場合、照射光14に含まれる遠赤外線は、基材フィルム12にほとんど吸収されることなく、赤外線反射層11に達する。
【0030】
赤外線反射層11は基材フィルム12と接しているが、基材フィルム12がポリオレフィンフィルムまたはポリシクロオレフィンフィルムであるため、後述するように、赤外線反射層11の赤外線反射機能は失われない。そのため基材フィルム12を通過した遠赤外線は赤外線反射層11により反射され、再び基材フィルム12を通過して、外部に出射する。このとき基材フィルム12は通過する遠赤外線をほとんど吸収しない。この結果、照射光14に含まれる遠赤外線は本発明の赤外線反射フィルム10を透過できない。そこで、例えば、本発明の赤外線反射フィルム10を用いて、基材フィルム12を外側にして密閉空間を形成すると、外部から遠赤外線を含む照射光14が照射されても、密閉空間内部の温度はほとんど上昇しない。逆に基材フィルム12を内側にして密閉空間を形成すると、密閉空間内部に熱源がある場合、密閉空間内の熱エネルギーが遠赤外線として外部に放出されることが防止されるため、密閉空間内部の温度が上昇しやすい。結局、本発明の赤外線反射フィルム10は、密閉空間を形成したとき、赤外線反射層11が外側であっても内側であっても、断熱フィルムの機能を有する。
【0031】
このようにして照射光13が赤外線反射層11側(上側)から入射した場合も、照射光14が基材フィルム12側(下側)から入射した場合も、赤外線反射フィルム10の赤外線放射率を低く抑えることができる。本発明の赤外線反射フィルム10の垂直放射率は、赤外線反射層11側(上側)から測定しても、基材フィルム12側(下側)から測定しても、好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.2以下である。その結果、本発明の赤外線反射フィルム10は高い断熱性を示す。
【0032】
[赤外線反射層11]
本発明に用いられる赤外線反射層11は、可視光線を透過させ、赤外線を反射する。赤外線反射層11単体の可視光線透過率は、好ましくは50%以上である。赤外線反射層11単体の可視光線の垂直放射率は、好ましくは0.1以下である。
【0033】
赤外線反射層11は、通常、金属薄膜と高屈折率薄膜を積層して構成された多層膜である。金属薄膜を形成する材料は、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、パラジウムまたはこれらの合金である。金属薄膜の厚さは、可視光線透過率と赤外線反射率が共に高くなるように、好ましくは5nm〜1,000nmの範囲で調整される。
【0034】
高屈折率薄膜は、例えば二酸化チタンや二酸化ジルコニウムである。高屈折率薄膜の屈折率は、好ましくは1.8〜2.7である。高屈折率薄膜を形成する材料として、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)、チタン酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、錫酸化物、インジウム酸化物など、あるいはこれらの組合せが用いられる。高屈折率薄膜の厚さは、好ましくは20nm〜100nmの範囲で調整される。
【0035】
金属薄膜および高屈折率薄膜は、例えば、スパッタ法、真空蒸着法、プラズマCVD法などにより形成される。これらの方法により、赤外線反射層11を、基材フィルム12上に強固に密着積層することができる。赤外線反射層11の、基材フィルム12に接する側は、金属薄膜および高屈折率薄膜のどちらでもよい。
【0036】
[基材フィルム12]
本発明に用いられる基材フィルム12は、ポリオレフィンフィルムまたはポリシクロオレフィンフィルムである。ポリオレフィンおよびポリシクロオレフィンは遠赤外領域の吸収が小さい。そのため、基材フィルム12の厚さを調整することにより、例えば、波長5μm〜25μmの範囲(遠赤外領域)の光の最小透過率を高く(例えば、50%以上)することができる。
【0037】
基材フィルム12に用いられるポリオレフィンは、好ましくは、ポリエチレンまたはポリプロピレンである。基材フィルム12に用いられるポリシクロオレフィンは、好ましくは、ポリノルボルネンである。
【0038】
基材フィルム12の厚さは、好ましくは10μm〜150μmである。基材フィルム12の厚さが10μm未満であると、赤外線反射層11の支持性が低下するおそれがある。一方、基材フィルム12の厚さが150μmを超えると、赤外領域の吸収が無視できなくなり、断熱性が低下するおそれがある。
【0039】
[赤外線反射フィルム10の実装体]
図1(a)の赤外線反射フィルム10は単独では自立性が無い。そこで、図1(b)のように、枠15に赤外線反射フィルム10の周辺部を固定した赤外線反射フィルム実装体20が、本願発明者により発明された。
【0040】
赤外線反射フィルム10の周辺部を枠15に固定しても、赤外線反射機能は変化しない。すなわち照射光13が赤外線反射層11側(上側)から入射した場合も、照射光14が基材フィルム12側(下側)から入射した場合も、照射光13、14に含まれる遠赤外線は反射される。
【0041】
図1(b)の赤外線反射フィルム実装体20は露出しているため、赤外線反射フィルム10に直接触れるおそれのある所では使用しにくい。
【0042】
そこで図2(a)のように、枠15に、赤外線反射フィルム10の周辺部を固定するとともに、枠15に透明なガラス板16がはめ込まれた赤外線反射フィルム実装体30が、本願発明者により発明された。
【0043】
図2(a)の赤外線反射フィルム実装体30において、ガラス板16は、赤外線反射フィルム10の片側にある。透明なガラス板16の代わりに、透明なプラスチック板(例えばアクリル板やポリカーボネート板)を用いることもできる。本明細書ではこれらの透明な板を、代表的に、ガラス板16と呼ぶ。
【0044】
図2(a)では、赤外線反射フィルム10の基材フィルム12側にガラス板16があるが、赤外線反射フィルム10の表裏を逆にして、赤外線反射層11側にガラス板16を設置してもよい。
【0045】
図2(a)の赤外線反射フィルム実装体30において重要なことは、赤外線反射フィルム10とガラス板16の間に空隙を設け、赤外線反射フィルム10がガラス板16と接触しないようにしたことである。赤外線反射フィルム10とガラス板16の間の空隙には、空気、窒素ガス、あるいは不活性ガスが充填されていてもよいし、空隙は真空でもよい。本明細書では、赤外線反射フィルム10とガラス板16の間の空隙を、代表的に、空気層17と呼ぶ。
【0046】
一般に、赤外線反射層11は、表面が空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空と接しているときのみに、赤外線を反射する。すなわち、赤外線反射層11は、高分子フィルムやガラス板、あるいは接着剤や粘着剤に接していると、接している側は赤外線を反射する機能を失う。従って、赤外線反射層11は高分子フィルムやガラス板、あるいは接着剤や粘着剤と接しないようにする必要がある。
【0047】
但し、赤外線反射層11は、ポリオレフィンフィルムあるいはポリシクロオレフィンフィルムと接しているときは、例外的に、赤外線を反射する機能を失わない。そのため、ポリオレフィンフィルムおよびポリシクロオレフィンフィルムは、赤外線反射層11を形成するとき、基材フィルム12として使用することができる。すなわち、ポリオレフィンフィルムおよびポリシクロオレフィンフィルムを基材フィルム12として使用した場合は、基材フィルム12側からの照射光に含まれる遠赤外線を反射することができる。
【0048】
しかし、一般的な高分子フィルム、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムは、赤外線反射層11を形成するための基材フィルムとして使用することができない。ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材フィルムとして用いると、赤外線反射層の基材フィルムと接している側は赤外線を反射する機能を失うため、基材フィルム側からの照射光に含まれる遠赤外線は反射できない。
【0049】
図2(a)の赤外線反射フィルム実装体30において、赤外線反射フィルム10側(上側)からの照射光13は、直接赤外線反射フィルム10に当たる。そのため照射光13に含まれる遠赤外線は、赤外線反射層11により反射される。
【0050】
図2(a)の赤外線反射フィルム実装体30において、ガラス板16側(下側)からの照射光14は、ガラス板16と空気層17を通過した後、赤外線反射フィルム10に当たる。照射光14に含まれる遠赤外線は、赤外線反射フィルム10で反射され、空気層17とガラス板16を通過して、下側に出射する。
【0051】
このようにして、図2(a)の赤外線反射フィルム実装体30においては、赤外線反射フィルム10側(上側)からの照射光13に含まれる遠赤外線も、ガラス板16側(下側)からの照射光14に含まれる遠赤外線も、赤外線反射フィルム10により反射される。
【0052】
実用性をさらに向上させるため、赤外線反射フィルム実装体40においては、図2(b)のように、枠15に2枚のガラス板16、18を互いに空隙を隔てて枠15に固定し、空隙内に赤外線反射フィルム10を設置する。赤外線反射フィルム10は、ガラス板16、18に接しないように設置し、周辺部を枠15に固定する。
【0053】
図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40においては、赤外線反射フィルム10は2枚のガラス板16、18により隔離保護されているため、赤外線反射フィルム10に直接触れるおそれがない。そのため、図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40は実用性が高い。
【0054】
図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40においても、赤外線反射フィルム10とガラス板16、18の間に空間を設け、赤外線反射フィルム10がガラス板16、18と接触しないようにする。赤外線反射フィルム10とガラス板16、18の間の空間には、空気、窒素ガスあるいは不活性ガスが充填されていてもよいし、真空でもよい。本明細書では、赤外線反射フィルム10とガラス板16、18の間の空間を、代表的に、空気層17、19と呼ぶ。
【0055】
図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40において、上側からの照射光13は、ガラス板18と空気層19を通過した後、赤外線反射フィルム10に当たる。照射光13に含まれる遠赤外線は、赤外線反射フィルム10で反射され、空気層19とガラス板18を通過して、上側に出射する。
【0056】
図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40において、下側からの照射光14は、ガラス板16と空気層17を通過した後、赤外線反射フィルム10に当たる。照射光14に含まれる遠赤外線は、赤外線反射フィルム10で反射され、空気層17とガラス板16を通過して、下側に出射する。
【0057】
このようにして、図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40においては、上側からの照射光13に含まれる遠赤外線も、下側からの照射光14に含まれる遠赤外線も、赤外線反射フィルム10により反射される。
【0058】
図3の赤外線反射フィルム実装体50は参考例である。図3の赤外線反射フィルム実装体50は、図2(b)の赤外線反射フィルム実装体40において、空気層17、19をなくしたものである。そのため、赤外線反射フィルム10とガラス板16、18が接触している。図3のような、空気層のない構成の赤外線反射フィルム実装体50では、赤外線反射フィルム10の遠赤外線を反射する能力が失なわれる。
【0059】
従って、図3のような、赤外線反射フィルム10とガラス板16、18の間に空気層のない赤外線反射フィルム実装体50は、照射光13、14に含まれる遠赤外線を反射することができない。そのため、図3の赤外線反射フィルム実装体50は、実用性がない。
【実施例】
【0060】
[実施例1]
厚さ23μmのポリノルボルネンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。ITO膜はインジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide)膜であり、APC膜は、銀98重量%、パラジウム1重量%、銅1重量%の合金膜である。
【0061】
[実施例2]
厚さ40μmのポリノルボルネンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。
【0062】
[実施例3]
厚さ100μmのポリノルボルネンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。
【0063】
[実施例4]
厚さ7μmのポリノルボルネンフィルムに、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。厚さ7μmのポリノルボルネンフィルムは、厚さ23μmのポリノルボルネンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム)を同時二軸延伸して作製した。
【0064】
[実施例5]
厚さ10μmのポリプロピレンフィルム(東レ社製)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。
【0065】
[実施例6]
厚さ23μmのポリノルボルネンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ30nmのAu膜を積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。
【0066】
[実施例7]
厚さ23μmのポリノルボルネンフィルム(日本ゼオン社製ゼオノアフィルム)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ30nmのAl膜を積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。
【0067】
[比較例1]
厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製ダイアホイル)に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射フィルムを得た。
【0068】
[比較例2]
厚さ1.1mmのガラス板に、RFマグネトロンスパッタ法により、厚さ35nmのITO膜と厚さ15nmのAPC膜を交互に積層して赤外線反射層を形成し、赤外線反射板を得た。
【0069】
[比較例3]
実施例5で得られた赤外線反射フィルムを、厚さ20μmのアクリル粘着剤を介して、厚さ1.1mmのガラス板に貼着し、赤外線反射板を得た。
【0070】
[評価]
実施例1〜7および比較例1〜3の赤外線反射フィルム(赤外線反射板)の、放射率および断熱ボックス内の温度を、表1に示す。
【0071】
【表1】

表1中、ITOはIndium Tin Oxide(インジウム錫酸化物)である。APCは、銀98重量%、パラジウム1重量%、銅1重量%の合金膜である。
【0072】
表1に示すように、実施例1〜7の赤外線反射フィルムは、比較例1〜3の赤外線反射フィルム(赤外線反射板)よりもボックス内温度が高く、断熱効果が高い。
【0073】
[測定方法]
[垂直放射率]
角度可変反射アクセサリを装着したVarian社製フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)(FTS7000S)を用いて、波長5μm〜25μmの赤外光の正反射率を測定し、JIS R 3106−2008(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)に準じて垂直放射率を求めた。
【0074】
[可視光線透過率]
JIS A 5759−2008(建築窓ガラス用フィルム)に準じて、日立ハイテク社製分光光度計U−4100を用いて、可視光線透過率を測定した。
【0075】
[断熱性]
図4に断熱性測定装置を示す。図4に示すように、ヒーター61と熱電対62を備えた断熱ボックス60の開口部に、実施例1〜7および比較例1〜3の赤外線反射フィルム63(赤外線反射板)を貼着して、断熱ボックス60を密閉状態とした。このとき、赤外線反射フィルム63の赤外線反射層64を内側に、基材フィルム65を外側にした。断熱ボックス60の内法は、10cm×10cm×14cmである。断熱ボックス60の壁(断熱材:カネカ社製カネライトフォーム)の厚さは20mmである。
【0076】
出力一定のヒーター61で断熱ボックス60内を加熱し、赤外線反射フィルム63(赤外線反射板)から1cm離れた箇所の、断熱ボックス60内の温度を熱電対62で測定した。
【0077】
赤外線反射フィルム63(赤外線反射板)の断熱性が優れているほど、断熱ボックス60内の温度が高くなる。断熱ボックス60内の温度により、赤外線反射フィルム63の断熱性を評価した。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の赤外線反射フィルムおよび赤外線反射フィルム実装体の用途に特に制限は無い。本発明の赤外線反射フィルム実装体は、例えば、建物や乗物などの窓、植物などを入れる透明ケース、冷凍もしくは冷蔵のショーケースの窓に用いられ、冷暖房効果の向上や、急激な温度変化を防止するために用いられる。
【符号の説明】
【0079】
10 赤外線反射フィルム
11 赤外線反射層
12 基材フィルム
13 接着層
14 照射光
15 枠
16 ガラス板
17 空気層
18 ガラス板
19 空気層
20 赤外線反射フィルム実装体
30 赤外線反射フィルム実装体
40 赤外線反射フィルム実装体
50 赤外線反射フィルム実装体
60 断熱ボックス
61 ヒーター
62 熱電対
63 赤外線反射フィルム
64 赤外線反射層
65 基材フィルム
70 赤外線反射フィルム
71 基材フィルム
72 赤外線反射層
73 照射光
74 照射光
80 赤外線反射フィルム
81 基材フィルム
82 赤外線反射層
83 保護層
84 照射光
85 反射光
86 照射光
90 赤外線反射フィルム
91 基材フィルム
92 赤外線反射膜
93 赤外線反射膜
94 照射光
95 照射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二枚の主面を有する、ポリオレフィンフィルムまたはポリシクロオレフィンフィルムからなる基材フィルムと、
前記基材フィルムの一の主面に積層された赤外線反射層を備え、
前記赤外線反射層の表面は空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面し、
前記基材フィルムの他の主面は空気、窒素ガス、不活性ガス、あるいは真空のいずれかに面する赤外線反射フィルム。
【請求項2】
前記ポリオレフィンフィルムがポリエチレンフィルムまたはポリプロピレンフィルムである請求項1に記載の赤外線反射フィルム。
【請求項3】
前記ポリシクロオレフィンフィルムがポリノルボルネンフィルムである請求項1に記載の赤外線反射フィルム。
【請求項4】
前記赤外線反射層側から測定した垂直放射率、および、前記基材フィルム側から測定した垂直放射率が、いずれも0.40以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の赤外線反射フィルム。
【請求項5】
可視光透過率が50%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の赤外線反射フィルム。
【請求項6】
前記赤外線反射層が金属薄膜と高屈折率薄膜の積層膜からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の赤外線反射フィルム。
【請求項7】
前記金属薄膜が金、銀、銅、アルミニウム、パラジウムまたはこれらの合金からなる、請求項6に記載の赤外線反射フィルム。
【請求項8】
前記高屈折率薄膜の屈折率が1.8〜2.7である、請求項6または7に記載の赤外線反射フィルム。
【請求項9】
前記高屈折率薄膜がインジウム錫酸化物(ITO)、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、錫酸化物、インジウム酸化物またはこれらの組合せを含む、請求項6〜8のいずれかに記載の赤外線反射フィルム。
【請求項10】
枠と、
請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線反射フィルムを備え、
前記赤外線反射フィルムの周辺部は前記枠に固定された赤外線反射フィルム実装体。
【請求項11】
枠と、
請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線反射フィルムと、
透明ガラス板あるいは透明プラスチック板を備え、
前記赤外線反射フィルムの周辺部は前記枠に固定され、
前記透明ガラス板あるいは透明プラスチック板は、前記赤外線反射フィルムと空隙を隔てて前記枠に固定され、
前記空隙には、空気、窒素ガスまたは不活性ガスが充填されるか、あるいは前記空隙は真空である赤外線反射フィルム実装体。
【請求項12】
枠と、
請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線反射フィルムと、
複数の透明ガラス板あるいは複数の透明プラスチック板を備え、
前記複数の透明ガラス板あるいは複数の透明プラスチック板は、互いに空隙を隔てて前記枠に固定され、
前記空隙には空気、窒素ガスまたは不活性ガスが充填されているか、あるいは前記空隙は真空であり、
前記空隙内に、前記透明ガラス板あるいは透明プラスチック板に接しないように前記赤外線反射フィルムが設置され、
前記赤外線反射フィルムの周辺部は前記枠に固定された赤外線反射フィルム実装体。
【請求項13】
請求項11または12に記載の赤外線反射フィルム実装体を窓部に備えた冷蔵ショーケースまたは冷凍ショーケース。
【請求項14】
請求項11または12に記載の赤外線反射フィルム実装体を窓部に備えた建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−61370(P2013−61370A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197860(P2011−197860)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】