説明

赤外線反射性フィルム

【課題】本発明は、ゼラチンを無機化合物粒子の結着剤として用いた層の特長を生かしながら、さらにその層の耐水性を向上させることで、耐熱性および耐水性に優れた赤外線反射性フィルムを得ることを課題とする。
【解決手段】高屈折率層用無機化合物粒子および該高屈折率層用無機化合物粒子を結着させる高屈折率層用高分子化合物を含有する高屈折率層と低屈折率層用無機化合物粒子および該低屈折率層用無機化合物粒子を結着させる低屈折率層用高分子化合物と含有する低屈折率層が積み重ねられた積層構造が、基体上に形成された赤外線反射性フィルムであって、該高屈折率層用高分子化合物および該低屈折率層用高分子化合物の両方またはいずれか一方が、ゼラチンの架橋体であることを特徴とする赤外線反射性フィルムとすることで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線反射性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線を反射する赤外線反射性フィルムは、例えば、建物や乗り物の壁や窓などに貼り付けることで、建物内や乗り物内に入射する赤外線を遮蔽することができるので、建物内や乗り物内の温度上昇を防ぎ、夏場の冷房に費やすエネルギーを削減することが可能になる。特に、窓などの透明な箇所に用いるときは、赤外線は反射するが可視光線は透過する波長選択性を備えた赤外線反射性フィルムが望まれる。さらに、赤外線反射性フィルムは、高温環境や高湿環境で用いられても劣化し難いように、耐熱性および耐水性が高いことが望まれる。
【0003】
赤外線反射性フィルムとしては、無機化合物の高屈折材料で形成された高屈折率層と無機化合物の低屈折率材料で形成された低屈折率層とが交互に積層された積層構造を有するものが知られている(例えば、特許文献1)。赤外線反射性は、高屈折率層から低屈折率層に向かって赤外線が入射されるときに高屈折率層と低屈折率層の界面で得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007‐65232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無機化合物で形成された層は脆性で耐屈曲性が劣る問題がある。
【0006】
そこで、粒子状の無機化合物を用いて、その無機化合物粒子を高分子化合物で結着させることで、層の可とう性を向上させることが考えられる。本発明者は、鋭意検討した結果、無機化合物粒子を結着させるための結着剤としてゼラチンが有効であり、かつゼラチンを結着剤として用いることで、層の耐熱性が向上することを見出した。
【0007】
しかし、ゼラチンを結着剤として用いると、層の耐水性が劣るという問題が生じた。すなわち、ゼラチンは乾燥させると網目構造を持つキセロゲルになるが、キセロゲルは吸水性が高いので、ゼラチンを結着剤として用いた層は、水分を吸収して結着力が低下し、基材や他の層から剥離しやすくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、ゼラチンを無機化合物粒子の結着剤として用いた層の特長を生かしながら、さらにその層の耐水性を向上させることで、耐熱性および耐水性に優れた赤外線反射性フィルムを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、高屈折率層用無機化合物粒子および該高屈折率層用無機化合物粒子を結着させる高屈折率層用高分子化合物を含有する高屈折率層と低屈折率層用無機化合物粒子および該低屈折率層用無機化合物粒子を結着させる低屈折率層用高分子化合物を含有する低屈折率層とが積み重ねられた積層構造が、基体上に形成された赤外線反射性フィルムであって、該高屈折率層用高分子化合物および該低屈折率層用高分子化合物の両方またはいずれか一方が、ゼラチンの架橋体であることを特徴とする赤外線反射性フィルムである。
【0010】
第2の発明は、第1の発明にて、ゼラチンの架橋体が、エポキシ開環構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルムである。
【0011】
第3の発明は、第2の発明にて、エポキシ開環構造を含むゼラチンの架橋体が、シロキサン構造を含むことを特徴とする請求項2に記載の赤外線反射性フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゼラチンの架橋体で無機化合物粒子を結着させた層を有するので、耐熱性および耐水性に優れた赤外線反射性フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の赤外線反射性フィルムの断面の模式図。
【図2】本発明の赤外線反射性フィルムの製造方法で用いることができる同時多層塗布法と同時多層塗布装置の一例を示す模式図。
【図3】実施例1で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトルおよび太陽光の照射スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の赤外線反射性フィルムは、基体上に、高屈折率層と低屈折率層とが少なくとも1層ずつ積み重ねられた積層構造が形成されている。図1は、基体6に、例えば4層の高屈折率層22と3層の低屈折率層23とが、高屈折率層22、低屈折率層23の順番で交互に積み重ねた赤外線反射性フィルムの例である。なお、高屈折率層とは、その高屈折率層に隣り合う低屈折率層よりも屈折率が高い層を意味し、低屈折率層とは、その低屈折率層に隣り合う高屈折率層よりも屈折率が高い層を意味しており、本明細書では、屈折率は波長589nmの光で測定した値とする。
【0015】
また、高屈折率層は、高屈折率層用無機化合物粒子および該高屈折率層用無機化合物粒子を結着させる高屈折率層用高分子化合物を含有しており、低屈折率層は、低屈折率層用無機化合物粒子および該低屈折率層用無機化合物粒子を結着させる低屈折率層用高分子化合物を含有している。なお、高屈折率層用無機化合物粒子あるいは高屈折率層用高分子化合物とは、高屈折率層に用いられている無機化合物粒子あるいは高分子化合物を意味し、低屈折率層用無機化合物粒子あるいは低屈折率層用高分子化合物とは、低屈折率層に用いられている無機化合物粒子あるいは低分子化合物を意味する。
【0016】
さらに、高屈折率層用高分子化合物および低屈折率層用高分子化合物の両方またはいずれか一方は、ゼラチンの架橋体である。
【0017】
下記に、本発明の赤外線反射性フィルムについて、詳しく説明する。
【0018】
≪基体≫
基体は、それに形成された積層構造を支持することができるものであれば、特に限定されない。例えば、ガラス、金属、高分子化合物のフィルムを好適に用いることができる。基体は、可視光線透過性が高いことが好ましい。高分子化合物としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンテレナフタレート(PEN)などのポリエステルやトリアセチルセルロース(TAC)などのセルロースが比較的入手しやすいため好ましいが、特にこれに限定されない。基体の表面には、例えば密着性を向上させるために公知の処理を適宜施してもよい。基体の厚みは、特に限定されないが、10μm〜300μmの範囲が好ましい。なお、本明細書では、フィルム、シート、ボード、箔、板などの名称は区別しない。
【0019】
≪積層構造≫
積層構造は、少なくとも1組の高屈折率層および低屈折率層が基体に積み重ねられたものである。赤外線反射性は、高屈折率層から低屈折率層に向かって赤外線が入射されるときに高屈折率層と低屈折率層の界面で得られる。赤外線反射性を示すのであれば、高屈折率層と低屈折率層の間に他の化合物が存在していてもよい。他の化合物の厚さは、赤外線反射性に与える影響を小さくするために、0.01μm以下にすることが好ましく、電子顕微鏡で3万倍の倍率で観察されない範囲にすることがより好ましい。高屈折率層および低屈折率層が少なくとも1組あれば、その界面で赤外線反射性が得られるので、十分である。もっとも、高屈折率層と低屈折率層の界面が複数得られるように、高屈折率層および/または低屈折率層を積み重ねることによって、赤外線反射性を向上させることもできる。
【0020】
積層構造は、基体に高屈折率層、低屈折率層の順番で並んでいてもよいし、基体に低屈折率層、高屈折率層の順番で並んでいてもよい。前者では、基体側から赤外線を入光すれば赤外線反射性が得られ、後者では、基体の反対側である高屈折率層側から赤外線を入光すれば赤外線反射性が得られる。また、積層構造は、高屈折率層や低屈折率層の他に他の層を有していてもよい。基体と高屈折率層や低屈折率層との接着性を向上させるためにそれらの間に接着層を形成したり、耐擦過性や耐汚染性を付与するために基体の反対側に保護層を形成することができる。
【0021】
(高屈折率層、低屈折率層)
高屈折率層および低屈折率層は、屈折率調整用に無機化合物粒子を有するものである。また、高屈折率層および低屈折率層は、無機化合物粒子どうしを結着させる結着剤として高分子化合物を有する。
【0022】
高屈折率層の屈折率は、その高屈折率層に隣り合う低屈折率層の屈折率よりも高くなるように調整される。屈折率は、無機化合物粒子の種類や含有量を適宜選択することで主に調整することができるが、高分子化合物やその他の任意成分が含有するときはそれらの影響を受けることがあり、また、塗布や乾燥の速度や温度などの影響を受けることがある。
【0023】
低屈折率層の屈折率は、その低屈折率層に隣り合う高屈折率層の屈折率よりも低くなるように調整される。屈折率は、無機化合物粒子の種類や含有量を適宜選択することで主に調整することができるが、高分子化合物やその他の任意成分が含有するときはそれらの影響を受けることがあり、また、塗布や乾燥の速度や温度などの影響を受けることがある。
【0024】
高屈折率層の屈折率とその高屈折率層に隣り合う低屈折率層の屈折率との差は、特に限定されないが、0.1〜0.4の範囲であることが好ましい。屈折率差が0.1よりも小さいときは赤外線反射性が十分に得られないおそれがあり、0.4よりも大きいときは干渉縞が発生するおそれがあるからである。
【0025】
高屈折率層および低屈折率層の厚みは、特に限定されないが、10nm〜5μmの範囲であることが好ましい。厚みが10nmよりも小さいと赤外線反射性が十分に得られないおそれがあり、5μmよりも大きいと赤外線反射性や可視光線透過性が十分に得られないおそれがあるからである。本発明における赤外線反射性フィルムは、高屈折率層の厚みや低屈折率層の厚みを大きくしても赤外線反射性や可視光線透過性が低下しにくい傾向が見られた。その理由は明らかではないが、高屈折率層や低屈折率層に高分子化合物を含有させることで、赤外線反射性や可視光線透過性の低下が抑制されるものと推察される。もっとも、可視光線透過性に与える影響を小さくするために、高屈折率層と低屈折率層のそれぞれの各層の厚みは0.4μm以下とすることがより好ましい。
【0026】
なお、本明細書では、特に断らない限り、赤外線反射率は波長1000nmで測定した値とし、可視光線透過率は波長550nmで測定した値とする。
【0027】
(無機化合物粒子)
無機化合物粒子は、高屈折率層および低屈折率層の屈折率の調整に用いるもので、高屈折率層および低屈折率層に複数個含有されるものある。無機化合物の屈折率は、特に限定されないが、1.3〜7.0の範囲であることが好ましい。無機化合物の種類は、金属や半金属の酸化物、リン酸化物、窒化物、炭化物、ハロゲン化物などを挙げることができる。無機化合物粒子は、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0028】
高屈折率層の無機化合物粒子に用いる無機化合物として、例えば、酸化チタン、酸化鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、これらの複合化合物、これらに他の元素がドープされた化合物が挙げられ、酸化チタン、酸化スズが特に好ましい。
【0029】
低屈折率層の無機化合物粒子に用いる無機化合物として、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、フッ化カルシウム、これらの複合化合物、これらに他の元素がドープされた化合物が挙げられ、酸化ケイ素、酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0030】
無機化合物粒子の粒子径は、0.1nm〜1μmの範囲であることが好ましい。さらに0.5nm〜50nmの範囲であることが好ましい。無機化合物粒子の層中の含有量は、高分子化合物を100重量部とした場合、80重量部〜150重量部であることが好ましい。特に100重量部以上であることが好ましい。
【0031】
市販の無機化合物粒子の分散液としては、例えば「AERODISP(登録商標)−W740」(日本アエロジル株式会社製、水分散液)等のAERODISPシリーズ、「サンコロイド(登録商標)HX−M5」(日産化学工業株式会社製)等のサンコロイドシリーズ、「オプトレイク(登録商標)1120Z 8RU−25」(日揮触媒化成株式会社製)等のオプトレイクシリーズまたは、「ルドックス(登録商標)HS−40」(デュポン社製)等のルドックスシリーズなどが挙げられる。
【0032】
(高分子化合物)
高分子化合物は、高屈折率層および/または低屈折率層に含有する無機化合物粒子どうしを結着させるために用いるものである。高分子化合物が無機化合物粒子どうしを結着させているかどうかは、高屈折率層および/または低屈折率層の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して、無機化合物粒子間に高分子化合物が存在しているかどうかで確認することができる。
【0033】
本発明では、高屈折率層に用いられる高分子化合物および低屈折率層に用いられる高分子化合物の両方またはいずれか一方が、ゼラチンの架橋体である。ゼラチンの架橋体は、キセロゲルの網目が架橋された構造を有するので、耐熱性および耐水性に優れる。本発明では、高屈折率層に用いられる高分子化合物および低屈折率層に用いられる高分子化合物のいずれか一方がゼラチンの架橋体であれば、その層は耐熱性および耐水性に優れるので、赤外線反射性フィルムの耐熱性および耐水性の向上に寄与するものであり、本発明の効果が得られるものである。もっとも、高屈折率層に用いられる高分子化合物および低屈折率層に用いられる高分子化合物の両方が、ゼラチンの架橋体であることで、赤外線反射性フィルム全体の耐熱性および耐水性がより向上するため好ましい。
【0034】
また、高屈折率層と低屈折率層を合計で3層以上有する場合には、それらの層のうちでいずれか1層に用いられる高分子化合物がゼラチンの架橋体であれば、その層は耐熱性および耐水性に優れるので、赤外線反射性フィルムの耐熱性および耐水性の向上に寄与するものであり、本発明の効果が得られるものである。もっとも、高屈折率層と低屈折率層を合計で3層以上有する場合には、それらのすべての層に用いられる高分子化合物がゼラチンの架橋体であることで、赤外線反射性フィルム全体の耐熱性および耐水性がより向上するため好ましい。
【0035】
ゼラチンの架橋体としては、耐水性がより向上するので、エポキシ開環構造を含むことが好ましい。なお、エポキシ開環構造とは、エポキシ基の開環反応によって形成された化学構造を意味する。さらに、エポキシ開環構造を含むゼラチンの架橋体としては、シロキサン構造を含むことが特に好ましい。ゼラチンは、エポキシ基、またはシラン構造もしくはシラノール構造を有さないので、エポキシ基を有する架橋剤やエポキシ基およびシラン構造もしくはシラノール構造を有する架橋剤をゼラチンと反応させて、エポキシ開環構造を含むゼラチンの架橋体やシロキサン構造を含みかつエポキシ開環構造を含むゼラチンの架橋体を得ることができる。
【0036】
ゼラチンの架橋体を含有する高屈折率層または/および低屈折率層には、ゼラチンの架橋体以外の高分子化合物を含有していてもよい。高屈折率層または/および低屈折率層に含有される全ての高分子化合物を100重量部とした場合、ゼラチンの架橋体は、10重量部以上とすることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。ゼラチンの架橋体の含有量が少ないと、ゼラチンの架橋体による耐熱性および耐水性が向上しにくいからである。
【0037】
ゼラチンの架橋体が用いられない層に用いられる高分子化合物、あるいはゼラチンの架橋体と併用して用いられる高分子化合物は、無機化合物粒子どうしを結着させるために用いるものであれば特に限定されず、有機合成高分子化合物でも天然高分子化合物でもよい。有機合成高分子化合物の例として、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、メタクリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリシクロオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエーテル、ポリアセタール、セルロース、これらの共重合体が挙げられ、アクリル、メタクリルは可視光線透過性が比較的高いので特に好ましい。また、天然高分子化合物の例として、ゼラチン、寒天、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムを乾燥させた化合物が挙げられる。
【0038】
ゼラチンの架橋体が用いられない層に用いられる高分子化合物、あるいはゼラチンの架橋体と併用して用いられる高分子化合物は、無機化合物で変性された高分子化合物であることが好ましい。高分子化合物が無機化合物で変性された部位を有することで、無機化合物粒子と高分子化合物の親和性が向上して、無機化合物粒子どうしを良好に結着させることができるからである。
【0039】
無機化合物の変性の例としては、シリコーン変性などのケイ素化合物変性、スズ化合物変性、チタン化合物変性、アルミニウム化合物変性などが挙げられる。無機化合物で変性された高分子化合物は、無機化合物と高分子化合物とのグラフト重合体でもよいし、無機化合物と高分子化合物との共重合体でもよい。特にシリコーン・アクリル共重合体が無機化合物との親和性と透明性の観点から好ましく用いられる。
【0040】
ゼラチンの架橋体と併用して用いられる高分子化合物は、水溶性高分子化合物または水分散可能な高分子化合物であることが好ましい。水溶性のゼラチンと併用して層を形成することが容易になるからである。
【0041】
高分子化合物の可視光線透過率は、その高分子化合物を有する層に含有された無機化合物粒子よりも高いことが好ましい。層の可視光線透過率を向上させることができるからである。高分子化合物の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の値で5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。高分子化合物の層中の含有量は、無機化合物粒子を100重量部とした場合、67重量部〜125重量部であることが好ましい。特に100重量部以下であることが好ましい。
【0042】
(その他)
高屈折率層や低屈折率層には、さらに必要に応じて、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種添加剤を含有させることができる。また、製造方法によって上記の反応成分やゲル化成分などが含有される場合もある。これらの各種添加剤や成分は、層の屈折率に与える影響を小さくするためには、できる限り少ない方が好ましく、これらの各種添加剤や成分の層中の含有量は、高分子化合物を100重量部とした場合、10重量部未満とすることが好ましい。
【0043】
≪製造方法≫
本発明の赤外線反射性フィルムの製造方法としては、上記の本発明の赤外線反射性フィルムを得ることができる製造方法であれば、特に限定されない。
【0044】
(逐次塗布法)
本発明の赤外線反射性フィルムの製造方法としては、基体上に無機化合物粒子と結着剤形成用化合物と溶剤を混合したインクを塗布した後に乾燥して高屈折率層または低屈折率層を形成し、その高屈折率層または低屈折率層上に無機化合物粒子と結着剤形成用化合物と溶剤を混合したインクを塗布した後に乾燥して低屈折率層または高屈折率層を形成する、いわゆる逐次塗布法による製造方法を挙げることができる。このとき、低屈折率層および高屈折率層の両方またはいずれか一方の結着剤形成用化合物がゼラチンと架橋剤を含むことで、高屈折率層に用いられる高分子化合物および低屈折率層にもちいられる高分子化合物の両方またはいずれか一方をゼラチンの架橋体とすることができる。
【0045】
(同時多層塗布法)
本発明の赤外線反射性フィルムの製造方法としては、あるいは、無機化合物粒子および結着剤形成用化合物を含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを準備して、その高屈折率層形成用インキから高屈折率層形成用インキ液層を形成し、その低屈折率層形成用インキから低屈折率層形成用インキ液層を形成して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねて、積み重ねられたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層を基体に同時に塗布し、乾燥する、いわゆる同時多層塗布法による製造方法を挙げることができる。このとき、低屈折率層および高屈折率層の両方またはいずれか一方の結着剤用化合物がゼラチンと架橋剤を含むことで、高屈折率層に用いられる高分子化合物および低屈折率層にもちいられる高分子化合物の両方またはいずれか一方をゼラチンの架橋体とすることができる。
【0046】
同時多層塗布法では、積み重ねられたインキ液層を同時に基体に塗布した後で乾燥するので、逐次塗布法で起こり得るような乾燥後の層にインキを塗布したときにインキが層を溶かしてしまう問題が起こらない。そのため、層どうしの界面が明確に形成されるので、同時多層塗布法が好適である。赤外線反射性は、高屈折率層から低屈折率層に向かって赤外線が入射されるときに高屈折率層と低屈折率層の界面で得られるので、層どうしの界面が明確に形成されることで、より良好な赤外線反射性を示すからである。なお、層の界面が明確に形成しているかどうかは、例えば、赤外線反射性フィルムの断面を電子顕微鏡で倍率30,000倍で観察したときに層の積層構造を識別できるかどうかで確認することができる。
【0047】
図2は、本発明における赤外線反射性フィルムの製造方法で用いることができる同時多層塗布法と塗布装置の一例を示す模式図である。コーティングダイユニット11は、インキを押し出すスリット1、2、3を有している。もちろんスリットの数は3に限定されることなく任意の数が可能である
【0048】
例えば、図2では、スライド斜面上に設けた複数のスリットを持つコーティングダイユニット11のスリット1、2、3からインキを押し出してインキ液層1S、2S、3Sを形成させ、これらのインキ液層が傾斜に沿って落ちる際に上方のインキ液層が下方のインキ液層に乗り上げることにより、次々に積み重ねることができる。または、スライド斜面の上方に設置した複数のスリットノズルからインキを層状に流して形成させた複数のインキ液層を積み重ねることもでき、図2の塗布方法だけに限定されない。
【0049】
インキは、高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを少なくとも1種類ずつ準備して用いる。2種類以上の高屈折率層形成用インキおよび/または低屈折率層形成用インキ、あるいは密着層や保護層などを形成するためのインキを併用してもよい。高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキには、無機化合物粒子と結着剤形成用化合物をそれぞれ含有させる。無機化合物粒子や結着剤形成用化合物は、水や有機溶剤に溶解または分散させて、インキに含有させことができる。
【0050】
インキには、必要に応じて、粘度調整用などとして、水や有機溶剤を含有させることができる。また、インキには、さらに必要に応じて、各種添加剤として、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、充填剤などを含有させることができる。
【0051】
次に、例えば、準備した高屈折率層形成用インキを図2のタンク1tとタンク3tに貯蔵し、準備した低屈折率層形成用インキをタンク2tに貯蔵する。図示していないが、タンク、インキ供給ポンプ、スリットは3つに限定されず、必要な数だけ設置できる。
【0052】
高屈折率層形成用インキと低屈折率層形成用インキは、インキ供給ポンプ1p、インキ供給ポンプ2p、インキ供給ポンプ3pにより押し出されて各スリット1、2、3からから流れ出ると、コーティングダイユニット11のスライド斜面を流れ落ちる。この時スリット1から流れ出た高屈折率層形成用インキは、コーティングダイユニット11の上で広がってインキ液層1sを形成する。
【0053】
スリット2から流れ出た低屈折率層形成用インキも同様にインキ液層2sを形成して流れ落ちる。そして、インキ液層1sの上に乗り上げる形でインキ液層2sが積み重ねられる。積み重ねられたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層がコーティングロール4で搬送される基体5に同時に塗布され、その後、乾燥ゾーン6で乾燥されることで、高屈折率層および低屈折率層が積み重ねられた積層構造を基体に有する赤外線反射性フィルムが製造される。各層の厚みは、スリットからの各インキの押し出し量や基体の搬送速度で調節することができる。なお、後述するゲル化剤を利用する方法では乾燥ゾーンの前に冷却ゾーン(図示せず)を設けてインキ液層を冷却する。
【0054】
同時多層塗布法では、安定的に層どうしの界面を明確に形成させるために、積み重ねられたインキ液層どうしの混合を妨げる手段を採用することが望ましい。積み重ねられたインキ液層どうしの混合を妨げる手段としては、例えば、インキ液層の粘度、表面張力、成分含有量を調節する方法、成分を分散物としてインキ液層に含有させる方法、および反応成分やゲル化成分を利用した方法などが挙げられる。
【0055】
インキ液層の粘度、表面張力、成分含有量を調節する方法では、一般に、インキ液層の粘度を高く、表面張力を高く、成分含有量を多くすると、インキ液層どうしが混合しにくくなるが、インキ液層どうしの密着性が低下する傾向があるので、適宜調節することが望ましい。
【0056】
成分を分散物としてインキ液層に含有させる方法では、分散物の方が溶解物よりも拡散しにくいのでインキ液層どうしの混合が妨げられるが、分散物の分散が悪いと成分が偏在して、層の特性が劣化したりばらついたりするので、分散物の分散性を向上させることが望ましい。
【0057】
反応成分を利用する方法では、反応成分を含有させた高屈折率層形成用インキおよび低屈折率層形成用インキを調整して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、その高屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とその低屈折率層形成用インキ液層に含有させた反応成分とを反応させて、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層の間に反応生成物を形成させるものである。高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた時に、層間に難溶性の反応生成物が形成することで、インキ液層どうしの混合を速やかに妨げて、層どうしの界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。このような反応成分としては、一方の反応成分として、水酸基やカルボキシル基等を有する高分子化合物、例えば、ポリビニルアルコール、ポリフェノール、ポリカルボン酸等が挙げられ、他方の反応成分として、例えば、ホウ酸、水酸化チタンや有機チタンキレート化合物等のチタン化合物が挙げられる。
【0058】
ゲル化成分を利用する方法では、ゲル化成分を含有させた高屈折率層形成用インキおよび/または低屈折率層形成用インキを調整して、その高屈折率層形成用インキ液層とその低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に、その高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方に含有させたゲル化成分を冷却して、そのゲル化成分を含有させたその高屈折率層形成用インキ液層およびその低屈折率層形成用インキ液層のいずれか一方または両方の粘度を低下させるものである。高屈折率層形成用インキ液層と低屈折率層形成用インキ液層とを積み重ねた後で乾燥前に、ゲル化成分を冷却してゲル化成分を含有させたインキ液層の粘度を低下させることで、インキ液層どうしの混合を妨げて、層間の界面を明確に形成させ、良好な赤外線反射性の赤外線反射性フィルムを得ることができる。また、インキ液層の粘度が低下するので、インキ液層が塗布や乾燥の過程で流動することを防ぐことができる。インキは、必要に応じてゲル化成分のゲル化温度以上の温度になるように加温されることが望ましい。また、冷却は、ゲル化成分のゲル化温度以下の温度でおこなうことが望ましい。冷却したときにゲル化してインキ液層の粘度を低下させるためのゲル化成分としては、天然高分子化合物を好適に用いることができる。天然高分子化合物は、例えば印画紙や食品のゲル化剤として汎用されており、入手が容易だからである。例えば、ゼラチン、寒天、カラギナン、キサンタンガム、アラビアガム、グアガムを挙げることができる。ゼラチンは、結着剤形成用化合物を兼ねることができ、さらにゲル化温度が15℃〜20℃付近であり、加温によるゾル化と冷却によるゲル化を制御しやすいため、特に好ましく用いることができる。
【0059】
(ゼラチンの架橋体の形成方法)
ゼラチンの架橋体を形成する方法としては、ゼラチンと架橋剤を含有させた低屈折率層形成用インキまたは/および高屈折率層形成用インキから形成させた層を加熱して、あるいは光や電子線などを照射して、ゼラチンと架橋剤を反応させる方法を挙げることができる。
【0060】
架橋剤としては、例えば、シランカップリング剤、多官能エポキシ系架橋剤、ビニルスルホン酸系架橋剤、トリアジン系架橋剤、ミョウバン、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、イソシアネート系架橋剤を挙げることができる。架橋剤は、より耐水性が高い赤外線反射性フィルムを得ることができるので、エポキシ基を有することが好ましい。
【0061】
シランカップリング剤は、ゼラチンのアミノ基や水酸基と反応した後、アルキルシランが加水分解してシラノール基となって脱水縮合することで強固にゼラチンを架橋すると考えられる。シランカップリング剤は、反応性が高いため、他の架橋剤に比べて特に好ましい。
【0062】
シランカップリング剤としては、特にエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、2‐(3, 4‐エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。エポキシ基を有するシランカップリング剤の市販品として、エポキシ基含有シランカップリング剤(信越シリコーン株式会社、KBM‐403:3‐グリシドキシプロピルメトキシシラン)、エポキシ変性シランカップリング剤(信越シリコーン株式会社、KBM‐303、KBM‐402、KBE‐402、KBE‐403)、エポキシ基含有シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング社、Z‐6040、Z‐6043)、エポキシ基含有シランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、A‐186、A‐187、A‐1871)、シリコーンアクリル樹脂用硬化剤(DIC株式会社、ウォーターゾールWSA−950)が挙げられる。
【0063】
多官能エポキシ系架橋剤は、ゼラチンのアミノや水酸基と反応してエポキシ開環化合物を形成する。多官能エポキシ系架橋剤の市販品として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス工業株式会社、デナコールEX−512、デナコールEX−521)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス工業株式会社、デナコールEX−611、デナコールEX−612、デナコールEX−614、デナコールEX−614B、デナコールEX−622)、エポキシ樹脂(ダイセル化学工業株式会社、エポリードGT401、 HYPERLINK "javascript:openwin2('../syousai/epl#pb3600.html');" エポリードPB3600)が挙げられる。
【0064】
ビニルスルホン酸系架橋剤は、ゼラチンのアミノ基とマイケル付加反応により架橋するものと考えられる。ビニルスルホン酸系架橋剤としては、ビニルスルホン酸(東京化成工業株式会社)、およびジビニルスルホン酸誘導体が挙げられる。
【0065】
トリアジン系架橋剤は、シアヌル酸誘導体が、ゼラチンのアミノ基と水素結着で架橋するものと考えられる。トリアジン系架橋剤としては、シアヌル酸(東京化成工業株式会社)が挙げられる。
【0066】
オキサゾリン系架橋剤は、オキサゾリン基がゼラチンのカルボキシル基と反応してアミドエステルを形成するものと考えられる。オキサゾリン系架橋剤としては、オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン(日本触媒工業株式会社、エポクロス(登録商標)WS−500、WS−700、RPS‐1005)が挙げられる。なお、イソオキサゾリン誘導体も同様に用いることができる。
【0067】
カルボジイミド系架橋剤は、ゼラチンのカルボキシル基と付加反応を生じるものと考えられる。カルボジイミド系架橋剤としては、ポリカルボジイミド(日清紡ケミカル株式会社、カルボジライト(登録商標)SV−02、V−02、V−02−L2、V−04、E−01、E−02が挙げられる。
【0068】
イソシアネート系架橋剤は、ゼラチンのカルボキシル基と反応するものと考えられる。例えば、HDI系イソシアネート(旭化成ケミカルズ株式会社、デュラネート(登録商標)WB40‐100、WB40‐80D、WT20−100、WT30−100、WT50−100)が挙げられる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。
【0070】
(可視光線透過率の測定方法)
JIS R3106(1998年)に準拠して可視光線透過率を測定した。なお、可視光線は、赤外線反射性フィルムの基体とは反対側から照射した。
【0071】
(赤外線反射率の測定方法)
JIS R3106(1998年)に準拠して赤外線反射率を測定した。なお、赤外線は、赤外線反射性フィルムの基体とは反対側から照射した。
【0072】
(耐熱性の評価方法)
加熱前の赤外線反射性フィルムと温度100℃のオーブンで12時間加熱した赤外線反射性フィルムとの色を、JIS K7105、JIS Z8722に準拠した日本電色工業株式会社製の測色色差計ZE−2000で測定して色差ΔEabを求め、色差ΔEabが5以下であるかを確認することで、耐熱性を評価した。
【0073】
(耐水性の評価方法)
赤外線反射性フィルムを純水に所定時間浸漬した後、基体からの層の剥離や層の白化の有無を目視で確認し、密着性の変化はないかを確認することで、耐水性を評価した。
【0074】
(実施例1)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキAを得た。
酸化チタン水分散液
「AERODISP(登録商標)−W740」 :60重量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :12重量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
架橋剤(エポキシ基含有シランカップリング剤)
「ウォーターゾールWSA−950」 :1重量部
(DIC株式会社製、固形分100%)
シリコーンアクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :120重量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
イオン交換水(粘度と固形分の調整用) :485重量部
【0075】
実施例および比較例の全てのインキは、40℃の恒温水槽中メカニカルスターラーにて加温攪拌し、温度を下げないよう注意しながら、5μmメッシュのフィルター「ミニザルト 17594K」(株式会社ハイテック製)に通して異物を除去した。
【0076】
なお、屈折率測定の予備実験として、高屈折率層形成用インキAを基材(厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、「コスモシャイン(登録商標)、A4100」))にワイヤーバーを用いて塗布した後、120℃のオーブン中で3分間乾燥させて厚さ3μmの層を形成し、この層の屈折率を屈折率計「DVA−36L型」(株式会社溝尻光学工業所製)を用いて測定したところ、屈折率は1.6であった。
【0077】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキBを得た。
酸化ケイ素水分散液
「ルドックス(登録商標)HS―40」 :60重量部
(デュポン社製、固形分40%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :12重量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
架橋剤(エポキシ基含有シランカップリング剤)
「ウォーターゾールWSA−950」 :1重量部
(DIC株式会社製、固形分100%)
シリコーンアクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :120重量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
イオン交換水(粘度と固形分の調整用) :596重量部
【0078】
なお、屈折率測定の予備実験として、低屈折率層用形成用インキBから形成される層の屈折率を高屈折率層形成用インキAから形成される層の屈折率と同様の手順で測定したところ、屈折率は1.4であった。(高屈折率層形成用インキAを用いた場合との屈折率差:0.20)であった。
【0079】
図2のような塗布装置を用いて、約40℃に加温した高屈折率層形成用インキAをタンク1t、3tに充填し、約40℃に加温した低屈折率層用形成用インキBをタンク2tに充填した後、インキ供給ポンプ1p〜3pを稼動して約40℃に加温したコーティングダイユニット11のスリット1〜3からインキを押し出した。
【0080】
コーティングダイユニット11を流れ落ちる積み重ねられたインキ液層1s〜3sを、コーティングロール4で搬送される基体5(厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績株式会社製、「コスモシャイン(登録商標)、A4100」))の易接着処理面上に塗布した後、5℃の冷却ゾーン(図示されていない。)を通過させて、さらに80℃の乾燥ゾーン6を通過させた。これによって、PETフィルムの基体に高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層の3層の積層構造が形成された実施例1の赤外線反射性フィルムを得た。赤外線反射性フィルムの厚さから基体の厚みを差し引くことで求めた3層の積層構造の厚みは、約0.9μmだった。
【0081】
図3において、上記の実施例1で得られた赤外線反射性フィルムの反射スペクトル31、太陽光の照射スペクトル32を示す。図3より、実施例1で得られた赤外線反射性フィルムは、赤外線反射率が高くて可視光線の透過率が高いので、赤外線反射性および可視光線透過性が良好であることがわかる。
【0082】
実施例1で得られた赤外線反射性フィルムは、波長1000nmの赤外線反射率が49%、780nm〜2100nmの範囲の全赤外線反射率が16%、波長350nm〜780nmの範囲の全可視光線透過率が89%であった。層どうしの密着性が100マス中100マス残存し良好であった。
【0083】
(実施例2)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、エポキシ基含有シランカップリング剤「KBM‐403」(信越シリコーン株式会社)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例2の赤外線反射性フィルムを得た。
【0084】
(実施例3)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、イソシアネート系架橋剤「デュラネート(登録商標)WT30−100」(旭化成ケミカルズ株式会社)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例3の赤外線反射性フィルムを得た。
【0085】
(実施例4)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、カルボジイミド系架橋剤「カルボジライト(登録商標)V−02−L2」(日清紡ケミカル株式会社)2.5重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例4の赤外線反射性フィルムを得た。
【0086】
(実施例5)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、オキサゾリン系架橋剤「エポクロス(登録商標)WS−500」(株式会社日本触媒)2.5重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例5の赤外線反射性フィルムを得た。
【0087】
(実施例6)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、ミョウバン「硫酸カリウムアルミニウム、12水和物」(東京化成工業株式会社)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例6の赤外線反射性フィルムを得た。
【0088】
(実施例7)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、トリアジン系架橋剤「シアヌル酸」(東京化成工業株式会社)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例7の赤外線反射性フィルムを得た。
【0089】
(実施例8)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、ビニルスルホン酸系架橋剤「ジビニルスルホン酸」(東京化成工業株式会社)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例8の赤外線反射性フィルムを得た。
【0090】
(実施例9)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、多官能エポキシ系架橋剤「デナコール(登録商標)EX−611」(ナガセケムテックス株式会社)2重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例9の赤外線反射性フィルムを得た。
【0091】
(実施例10)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤の代わりに、アクリル基含有シランカップリング剤「KBM−5103」(信越シリコーン株式会社)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例10の赤外線反射性フィルムを得た。
【0092】
(実施例11)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキCを得た。
酸化チタン水分散液
「AERODISP(登録商標)−W740」 :60重量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :40重量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
架橋剤(エポキシ基含有シランカップリング剤)
「ウォーターゾールWSA−950」 :2重量部
(DIC株式会社製、固形分100%)
シリコーンアクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :85重量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
ポリビニルアルコール「ゴーセノール(登録商標)GM‐14」 :8重量部
(日本合成化学工業株式会社製)
イオン交換水(粘度と固形分の調整用) :445重量部
【0093】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキDを得た。
酸化ケイ素水分散液
「ルドックス(登録商標)HS―40」 :60重量部
(デュポン社製、固形分40%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :40重量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
架橋剤(エポキシ基含有シランカップリング剤)
「ウォーターゾールWSA−950」 :2重量部
(DIC株式会社製、固形分100%)
シリコーンアクリルエマルジョン
「シャリーヌ(登録商標)FE−230N」 :85重量部
(日信化学工業株式会社製、固形分10%)
有機チタン化合物「オルガチックス(登録商標)TC−400」 :5重量部
「マツモトファインケミカル株式会社製」
(DIC株式会社製、固形分100%)
イオン交換水(粘度と固形分の調整用) :556重量部
【0094】
高屈折率層形成用インキAの代わりに高屈折率層形成用インキCを用いて、低屈折率層形成用インキBの代わりに低屈折率層形成用インキDを用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例11の赤外線反射性フィルムを得た。なお、高屈折率層形成用インキCに含有させたポリビニルアルコールと低屈折率層形成用インキDに含有させた有機チタン化合物とが架橋反応して、高屈折率層と低屈折率層の間にポリビニルアルコール−チタン架橋体が形成する。実施例11の赤外線反射性フィルムの赤外線反射性は、実施例1の赤外線反射性フィルムの赤外線反射性よりも良好であった。
【0095】
(実施例12)
下記の組成物から高屈折率層形成用インキEを得た。
酸化チタン水分散液
「AERODISP(登録商標)−W740」 :60重量部
(日本アエロジル株式会社製、固形分40%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :24重量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
架橋剤(エポキシ基含有シランカップリング剤)
「ウォーターゾールWSA−950」 :1重量部
(DIC株式会社製、固形分100%)
イオン交換水(粘度と固形分の調整用) :593重量部
【0096】
下記の組成物から低屈折率層形成用インキFを得た。
酸化ケイ素水分散液
「ルドックス(登録商標)HS―40」 :60重量部
(デュポン社製、固形分40%)
ゼラチン
「アルカリ処理牛由来ゼラチンタイプB」 :24重量部
(新田ゼラチン株式会社製、固形分100%)
架橋剤(エポキシ基含有シランカップリング剤)
「ウォーターゾールWSA−950」 :1重量部
(DIC株式会社製、固形分100%)
イオン交換水(粘度と固形分の調整用) :704重量部
【0097】
高屈折率層形成用インキAの代わりに高屈折率層形成用インキEを用いて、低屈折率層形成用インキBの代わりに低屈折率層形成用インキFを用いた以外は、実施例1と同様にして、赤外線反射性および可視光線透過性が良好な実施例12の赤外線反射性フィルムを得た。層どうしの密着性が100マス中90マス残存した。
【0098】
(比較例1)
高屈折率層形成用インキCおよび低屈折率層形成用インキDのゼラチンおよび架橋剤を除外した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の赤外線反射性フィルムを得た。
【0099】
(比較例2)
高屈折率層形成用インキAおよび低屈折率層形成用インキBの架橋剤を除外した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の赤外線反射性フィルムを得た。
【0100】
≪耐熱性の評価結果≫
実施例1〜12、および比較例2の赤外線反射性フィルムの耐熱性は、色差ΔEabが5以内で良好であった。比較例1の赤外線反射性フィルムの耐熱性は、色差ΔEabが6.6〜7.3であった。
【0101】
≪耐水性測定結果≫
3分間の耐水性の評価を、実施例1〜12、および比較例2の赤外線反射性フィルムについておこなった結果、実施例1から実施例12までの赤外線反射性フィルムは、層の剥離や白化は認められず、耐水性が良好であった。比較例2の赤外線反射性フィルムは、層の剥離や白化が認められた。
さらに、実施例1,2、9、11、12の赤外線反射性フィルムについては、1時間の耐水性の評価でも、層の剥離や白化は認められず、耐水性がより良好であった。
【符号の説明】
【0102】
1t:タンク
2t:タンク
3t:タンク
1p:インキ供給ポンプ
2p:インキ供給ポンプ
3p:インキ供給ポンプ
1:スリット
2:スリット
3:スリット
1s:インキ液層
2s:インキ液層
3s:インキ液層
4:コーティングロール
5:基体
6:乾燥ゾーン
11:コーティングダイユニット
22:高屈折率層
23:低屈折率層
31:実施例1の赤外線反射性フィルムの反射スペクトル
32:太陽光の照射スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率層用無機化合物粒子および該高屈折率層用無機化合物粒子を結着させる高屈折率層用高分子化合物を含有する高屈折率層と低屈折率層用無機化合物粒子および該低屈折率層用無機化合物粒子を結着させる低屈折率層用高分子化合物と含有する低屈折率層が積み重ねられた積層構造が、基体上に形成された赤外線反射性フィルムであって、
該高屈折率層用高分子化合物および該低屈折率層用高分子化合物の両方またはいずれか一方が、ゼラチンの架橋体であることを特徴とする赤外線反射性フィルム。
【請求項2】
ゼラチンの架橋体が、エポキシ開環構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の赤外線反射性フィルム。
【請求項3】
エポキシ開環構造を含むゼラチンの架橋体が、シロキサン構造を含むことを特徴とする請求項2に記載の赤外線反射性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−109111(P2013−109111A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253282(P2011−253282)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】