説明

赤外線反射性黒色顔料、該赤外線反射性黒色顔料を用いた塗料及び樹脂組成物

【課題】本発明は、有害な元素を含有せず、しかも優れた赤外線反射性を有し、赤外線領域波長1500nmにおいても高い反射率を有する赤外線反射性黒色顔料を提供する。
【解決手段】実質的にCrを含有せず、少なくともCo、Mg、Fe、Al及びCuを含有する複合酸化物からなる黒色顔料であって、Cu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)がモル比で10〜90%であり、該黒色顔料の平均粒子径が0.02〜2.0μmであって、日射反射率が25%以上であり、かつ赤外線領域波長1500nmの反射率が23%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な元素を含有せず、しかも、優れた赤外線反射性を有する熱遮蔽性塗料を得ることができる赤外線反射性黒色顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外で用いられている道路、建築物、備蓄タンク、自動車、船舶等は、太陽の日射によって内部温度が上昇するため、建築物及び自動車等の外観塗装を白色から淡色にすることで太陽光を反射させ、ある程度熱遮蔽効果を高めることが行われている。
【0003】
しかしながら、殊に、屋外建築物の屋根などは、汚れを目立たなくするために、濃彩色から黒色を呈している場合が多く、外観塗装が濃彩色から黒色を有する建築物及び自動車等の場合には、淡色から白色の外観塗装を有する建築物及び自動車等に比べて太陽光を吸収しやすく、屋内の温度が著しく上昇する傾向にある。物品の輸送、保存に当たって、内部が高温になることは好ましいものではない。
【0004】
そこで、地球温暖化防止のためのエネルギー節約という観点からも、濃彩色から黒色の外観を有する建築物及び自動車等の内部温度の上昇を抑制することが強く望まれている。
【0005】
従来より、濃彩色から黒色の外観塗装を有する建築物及び自動車等の内部温度の上昇を低減するために、熱遮蔽性黒色塗料が知られている(例えば特許文献1〜3参照)。また、黒色度に優れたストロンチウム鉄酸化物ペロブスカイトが知られている(例えば特許文献4参照)。また、黒色度に優れたマグネシウム、アルミニウム含有酸化鉄が知られている(例えば特許文献5参照)。しかしながら次のような課題を有している。
【0006】
特許文献1には、CoO、Cr及びFeからなるスピネル構造を有する黒色焼成顔料が記載されているが、Crを含有するものであり、また、赤外線領域波長780〜2500nmにおける平均反射率が30%未満であり、十分な遮熱効果を有するとは言い難いものであった。
【0007】
また、特許文献2には、Feを必須成分とし、Cr、Mn又はNiOを含む焼成顔料からなる黒色顔料が記載されているが、Crを含有するものであるので好ましくない。
【0008】
また、特許文献3には、希土類元素、アルカリ土類金属及び鉄からなる黒色複合酸化物が記載されているが、十分な遮熱効果を有するとは言い難いものであった。
【0009】
また、特許文献4には、黒色度に優れたストロンチウム鉄酸化物ペロブスカイトが記載されているが、可視光領域波長250〜780nmにおける平均反射率が10%以下であって、且つ、赤外線領域波長780〜2500nmにおける平均反射率が30%未満であるので、十分な遮熱効果は得られていない。
【0010】
また、特許文献5には、黒色度に優れたマグネシウム、アルミニウム含有スピネルが記載されているが、可視光領域波長250〜780nmにおける平均反射率が10%以下であって、且つ、赤外線領域波長780〜2500nmにおける平均反射率が30%未満であるので、十分な遮熱効果は得られていない。
【0011】
また、CuOは、黒色顔料として黒色度に優れかつ熱遮蔽性に優れるが、耐酸性に課題がある。一方でCuO−Crを主成分とする顔料は、日射反射率及び近赤外線反射率が低いとの実験データも開示されている(例えば特許文献6参照)。
【0012】
上記課題を解決するため、本出願人は、有害な元素を含有せず、しかも優れた赤外線反射性を有する赤外線反射性黒色顔料を開発し既に特許出願を行っている(特許文献7参照)。この黒色顔料は、FeとCoとAlを含有し、更に、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属元素を含有する複合酸化物からなる黒色顔料であって、該黒色顔料の平均粒子径が0.02〜2.0μmである赤外線反射性黒色顔料であり、有害な元素を含有せず、しかも優れた赤外線反射性を有する。しかしながら、赤外線領域波長1500nmの反射率が不十分である。
【0013】
【特許文献1】特開2000−72990号公報
【特許文献2】特開2001−311049号公報
【特許文献3】特開2004−83616号公報
【特許文献4】特開2000−264639号公報
【特許文献5】特開2003−238164号公報
【特許文献6】特開2002−331611号公報
【特許文献7】特開2007−197570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
有害な元素を含有せず、しかも、優れた赤外線反射性を有し、赤外線領域波長1500nmにおいても高い反射率を有する熱遮蔽性塗料を得ることができる黒色顔料は、現在最も要求されているところである。さらにこれら黒色顔料が、塗料構成基材に対し優れた分散性、分散安定性を有し、塗料としての優れた貯蔵安定性を有することが好ましいことは言うに及ばない。
【0015】
本発明の目的は、有害な元素を含有せず、しかも優れた赤外線反射性を有し、赤外線領域波長1500nmにおいても高い反射率を有する赤外線反射性黒色顔料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0017】
即ち、本発明は、実質的にCrを含有せず、少なくともCo、Mg、Fe、Al及びCuを含有する複合酸化物からなる黒色顔料であって、Cu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)がモル比で10〜90%であり、該黒色顔料の平均粒子径が0.02〜2.0μmであることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料である(本発明1)。
【0018】
また本発明は、請求項1記載の赤外線反射性黒色顔料の(Co+Mg+Fe+Al+Cu)/全金属元素がモル比で50〜100%であることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料である(本発明2)。
【0019】
また本発明は、請求項1又は2記載の赤外線反射性黒色顔料の明度(L)が30以下であることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料である(本発明3)。
【0020】
また本発明は、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料の日射反射率が25%以上であり、かつ赤外線領域波長1500nmの反射率が23%以上であることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料である(本発明4)。
【0021】
また本発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料の表面がSi、Al、Zr、Tiから選ばれる一種以上の化合物で被覆されていることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料である(本発明5)。
【0022】
また本発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料を塗料構成基材中に配合したことを特徴とする塗料である(本発明6)。
【0023】
また本発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料を用いて着色したことを特徴とする樹脂組成物である(本発明7)。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、有害な元素を含有しない黒色顔料であって、しかも優れた赤外線反射性を有し、赤外線領域波長1500nmにおいても高い反射率を有するので赤外線反射性黒色顔料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0026】
先ず、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料について述べる。
【0027】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、実質的にCrを含有せず、少なくともCo、Mg、Fe、Al及びCuを含有する複合酸化物からなる黒色顔料であって、Cu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)がモル比で10〜90%である。黒色顔料中のCu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)がモル比で10%未満となると赤外線領域波長1500nmの反射率が十分に高いとは言えず、Cu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)がモル比で90%を超えると真比重が大きくなり過ぎ、塗料としたとき黒色顔料が沈降分離する場合がある。実質的にCrを含有しないとは、不可避的に各種原料由来の不純物が混入する場合もあるけれども、この場合であっても、Crの含有量は1wt%以下であり、殊に、Cr6+の含有量は10ppm以下である。
【0028】
また本発明に係る赤外線反射性黒色顔料の平均粒子径は0.02〜2.0μmである。平均粒子径が2.0μmを超える場合には、粒子サイズが大きすぎるため、着色力が低下する。平均粒子径が0.02μm未満の場合には、ビヒクル中への分散が困難となる場合がある。好ましくは0.025〜1.5μm、より好ましくは0.04〜1.2μmである。
【0029】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、(Co+Mg+Fe+Al+Cu)/全金属元素がモル比で50〜100%が好ましい。これから分かるように、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、Co、Mg、Fe、Al及びCuを含有する複合酸化物からなる黒色顔料であってよく、さらに所定の量の他の金属元素を含む複合酸化物からなる黒色顔料であってよい。これらの場合、不可避的に各種原料由来の不純物が混入する場合もあるけれども、この場合であっても、Crの含有量は1wt%以下であり、殊に、Cr6+の含有量は10ppm以下である。
【0030】
Coの含有量は、黒色顔料中の全金属元素に対して、1〜20モル%が好ましく、2〜16モル%がより好ましく、Mgの含有量は、黒色顔料中の全金属元素に対して、1〜50モル%が好ましく、2〜30モル%がより好ましい。Fe及びAlの含有量は、共に黒色顔料中の全金属元素に対して、1〜50モル%が好ましく、2〜40モル%がより好ましい。
【0031】
また本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、真比重(密度)が4.7〜6.1であることが好ましい。真比重が上記範囲内であれば、塗料構成基材に本発明に係る赤外線反射性黒色顔料を分散させたとき、塗料構成基材に対し優れた分散性、分散安定性、塗料としての優れた貯蔵安定性を有する。
【0032】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料のBET比表面積は、1〜100m/gが好ましい。BET比表面積が1m/g未満の場合には、粒子が粗大であったり、粒子及び粒子相互間で焼結が生じた粒子となっており、着色力が低下する。より好ましくは1.5〜75m/g、更により好ましくは1.8〜60m/gである。
【0033】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料の明度(L)は、上限値が30.0程度である。明度(L)が30を超える場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは26以下である。
【0034】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料のaは、−5〜+10が好ましい。aが前記範囲外の場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは−1〜+5である。
【0035】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料のbは、−5〜+10が好ましい。bが前記範囲外の場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは−1〜+5である。
【0036】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料の赤外線反射性は、波長300〜2100nmの平均反射率で示される日射反射率が25%以上であることが好ましい。日射反射率が25%未満では、日射反射率が十分に高いとは言えない。また赤外線領域波長1500nmの反射率が23%以上であることが好ましい。赤外線領域波長1500nmの反射率が23%未満では、赤外線領域波長1500nmの反射率が十分とは言えない。また赤外線領域波長1000nmの反射率が57%を超えることが好ましい。
【0037】
本発明においては、粒子表面をSi、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上の化合物によって被覆することが好ましい。後述の実施例で示すように粒子表面をSi、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上の化合物によって被覆することで、耐酸性が向上する。被覆量は赤外線反射性黒色顔料に対して0.1〜10wt%が好ましい。
【0038】
次に、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料の製造法について述べる。
【0039】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、各種原料を混合、焼成して得ることができる。
【0040】
出発原料は、前記各金属元素の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などを用いることができる。
【0041】
出発原料の混合は、均一に混合することができれば、特に限定されるものではなく、湿式混合でも乾式混合でもよい。また湿式合成であってもよい。
【0042】
加熱焼成温度は800〜1200℃が好ましく、800〜1150℃がより好ましい。加熱雰囲気は大気中である。
【0043】
加熱後の粉末は、常法に従って、水洗、粉砕を行えばよい。
【0044】
本発明においては、赤外線反射性黒色顔料の粒子表面をSi、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上の化合物によって被覆しておいてもよい。表面処理方法は、湿式あるいは乾式方法等の常法に従って行えばよい。例えば、湿式方法は湿式分散した赤外線反射性黒色顔料のスラリーに、Si、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上の可溶性化合物を、酸又はアルカリでpH調整しながら添加・混合して被覆する方法、乾式方法はヘンシェルミキサーなどの装置中で赤外線反射性黒色顔料にSi、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上のカップリング剤などにより被覆処理する方法である。
【0045】
次に、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料を配合した塗料について述べる。
【0046】
本発明に係る塗料中における赤外線反射性黒色顔料の配合割合は、塗料構成基材100重量部に対して0.5〜100重量部の範囲で使用することができ、塗料のハンドリング性を考慮すれば、好ましくは1.0〜100重量部である。
【0047】
塗料構成基材としては、樹脂、溶剤、必要により油脂、消泡剤、体質顔料、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤等が配合される。
【0048】
樹脂としては、溶剤系塗料用や油性印刷インクに通常使用されているアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ガムロジン、ライムロジン等のロジン系樹脂、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のロジン変性樹脂、石油樹脂等を用いることができる。水系塗料用としては、水系塗料用や水性インクに通常使用されている水溶性アクリル樹脂、水溶性スチレン−マレイン酸樹脂、水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ウレタンエマルジョン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0049】
溶剤としては、溶剤系塗料用に通常使用されている大豆油、トルエン、キシレン、シンナー、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、脂肪族炭化水素等を用いることができる。
【0050】
水系塗料用溶剤としては、水と水系塗料用に通常使用されているエチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルキレングリコール、グリセリン、2−ピロリドン等の水溶性有機溶剤とを混合して使用することができる。
【0051】
油脂としては、あまに油、きり油、オイチシカ油、サフラワー油等の乾性油を加工したボイル油を用いることができる。
【0052】
消泡剤としては、ノプコ8034(商品名)、SNデフォーマー477(商品名)、SNデフォーマー5013(商品名)、SNデフォーマー247(商品名)、SNデフォーマー382(商品名)(以上、いずれもサンノプコ株式会社製)、アンチホーム08(商品名)、エマルゲン903(商品名)(以上、いずれも花王株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0053】
次に、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料を含有する樹脂組成物について述べる。
【0054】
本発明に係る樹脂組成物中における赤外線反射性黒色顔料の配合割合は、樹脂100重量部に対して0.01〜200重量部の範囲で使用することができ、樹脂組成物のハンドリング性を考慮すれば、好ましくは0.05〜150重量部、更に好ましくは0.1〜100重量部である。
【0055】
本発明に係る樹脂組成物における構成基材としては、赤外線反射性黒色顔料と周知の熱可塑性樹脂とともに、必要により、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種安定剤等の添加剤が配合される。
【0056】
樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合体、アクリル系樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン・エステル、ロジン、天然ゴム、合成ゴム等を用いることができる。
【0057】
添加剤の量は、赤外線反射性黒色顔料と樹脂との総和に対して50重量%以下であればよい。添加剤の含有量が50重量%を超える場合には、成形性が低下する。
【0058】
本発明に係る樹脂組成物は、樹脂原料と赤外線反射性黒色顔料をあらかじめよく混合し、次に、混練機もしくは押出機を用いて加熱下で強いせん断作用を加えて、赤外線反射性黒色顔料の凝集体を破壊し、樹脂組成物中に赤外線反射性黒色顔料を均一に分散させた後、目的に応じた形状に成形加工して使用する。
【0059】
また本発明に係る樹脂組成物は、マスターバッチペレットを経由して得ることもできる。
【0060】
本発明におけるマスターバッチペレットは、塗料及び樹脂組成物の構成基材としての結合材樹脂と前記赤外線反射性黒色顔料とを必要により、リボンブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機で混合した後、周知の単軸混練押出機や二軸混練押出機等で混練、成形した後切断するか、又は、上記混合物をバンバリーミキサー、加圧ニーダー等で混練して得られた混練物を粉砕又は成形、切断することにより製造される。
【0061】
結合材樹脂と赤外線反射性黒色顔料の混練機への供給は、それぞれを所定比率で定量供給してもよいし、両者の混合物を供給してもよい。
【0062】
本発明におけるマスターバッチペレットは、平均長径1〜6mm、好ましくは2〜5mmの範囲である。平均短径は2〜5mm、好ましくは2.5〜4mmである。平均長径が1mm未満の場合には、ペレット製造時の作業性が悪く好ましくない。6mmを超える場合には、希釈用結合材樹脂の大きさとの違いが大きく、十分に分散させるのが困難となる。また、その形状は種々のものができ、不定形及び球形等の粒状、円柱形、フレーク状等にできる。
【0063】
本発明におけるマスターバッチペレットに使用する結合材樹脂としては、前記樹脂組成物用樹脂と同一の樹脂が使用できる。
【0064】
なお、マスターバッチペレット中の結合材樹脂の組成は、希釈用結合材樹脂と同一の樹脂を用いても、また、異なる樹脂を用いてもよいが、異なる樹脂を使用する場合には、樹脂同士の相溶性により決まる諸特性を考慮して決めればよい。
【0065】
マスターバッチペレット中に配合される赤外線反射性黒色顔料の量は、結合材樹脂100重量部に対して1〜200重量部、好ましくは1〜150重量部、より好ましくは1〜100重量部である。1重量部未満の場合には、混練時の溶融粘度が不足し、赤外線反射性黒色顔料の良好な分散混合が困難である。200重量部を超える場合には、赤外線反射性黒色顔料に対する結合材樹脂が少ないため、赤外線反射性黒色顔料の良好な分散混合が難しく、また、マスターバッチペレットの添加量のわずかな変化によって樹脂組成物中に配合される赤外線反射性黒色顔料の含有量が大きく変化するため所望の含有量に調製することが困難となり好ましくない。また、機械摩耗が激しく適当ではない。
【0066】
<作用>
本発明において最も重要な点は、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、有害元素を含有することなく、高い赤外線反射性を有し、赤外線領域波長1500nmにおいても高い反射率を有するという事実である。
【0067】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料が高い赤外線反射性を有する理由は、未だ明らかではないが、後出する実施例及び比較例から明らかなとおり、実質的にCrを含有せず、少なくともCo、Mg、Fe、Al及びCuを含有する複合酸化物からなり、Cu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)をモル比で10〜90%、平均粒子径を0.02〜2.0μmとすることで、赤外線領域波長1500nmの反射率も含め赤外線反射率を向上させることができたものである。
【0068】
また、本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、Cr6+などの有害金属元素を含有しておらず、安全な顔料である。
【実施例】
【0069】
本発明の代表的な実施例は、次の通りである。
【0070】
粒子の平均粒子径は電子顕微鏡写真に示される粒子350個の粒子径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0071】
比表面積値は、BET法により測定した値で示した。
【0072】
赤外線反射性黒色顔料の金属元素の含有量は、「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した。
【0073】
Cr6+の測定方法は、「ICP発光分光分析装置」(エスエスアイ・ナノテクノロジー(株)社製)を使用し、JIS K0102 65.2.4の「ICP 発光分光分析法」に従って測定した。
【0074】
真比重(密度)の測定方法は、JIS K5101の「顔料試験方法」に従って測定した。
【0075】
赤外線反射性黒色顔料の色相(L値、a値、b値)は、試料0.5gとヒマシ油0.5mlとをフーバー式マーラーで練ってペースト状とし、このペーストにクリアラッカー4.5gを加え、混練、塗料化してキャストコート紙上に150μm(6mil)のアプリケーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約30μm)を作製した塗膜片について、「多光源分光測色計MSC−IS−2D」(スガ試験機株式会社製)を用いて測定を行い、JIS Z 8729に定めるところに従って表色指数(L値、a値、b値)で示した。
【0076】
赤外線反射性黒色顔料の可視光領域及び赤外線領域での波長の反射性は、上記の色相を測定するために作製した塗膜片について、「分光光度計 UV−3100PC」(株式会社島津製作所)を用いて測定を行い、300〜2100nmの波長における平均反射率(%)及び1000nm、1500nmの波長における反射率(%)で示した。
【0077】
赤外線反射性黒色顔料の耐酸性の評価は、JIS K5101−8の「顔料試験方法 第8部:耐薬品性」に従い、試験管に顔料2gを2%の硫酸を20ml加え、密封して5分振り混ぜ、常温に静置させた後、ろ過分離後の溶液をICPでCu量を測定し、溶解Cuを分析した。
【0078】
赤外線反射性黒色顔料を含有する塗料の評価は、次の要領で行なった。
塗料の評価方法は、マヨネーズビン(内容積140ml)中に、ガラスビーズ90g、黒色顔料10g、アミノアルキッド樹脂(クリヤー)16.0g、溶剤6.0g配合し、ペイントコンデイショナーで40分間分散後、更にアルミアルキッド樹脂(クリヤー)50g追加後、ペイントコンデイショナーで5分分散し、ガラスビーズと分離した。静置5時間後の塗料について、安定性は目視で分離状態を判定した。
【0079】
実施例1
CoO、Al、MgO、Fe及びCuOを、組成式(CoO)・(MgO)1−x・(Fe・(Al1−y・(MO)・(CuO)において、x=0.5、y=0.5、z=0、n=0.35となるように計量、混合し電気炉で970℃で2時間焼成した。組成式中Mは金属元素である。焼成品を粉砕し平均粒子径0.6μm、BET比表面積8.5m/gの黒色顔料を得た。
【0080】
得られた黒色顔料は、可視光領域から赤外線領域波長300〜2100nmにおける平均反射率(日射反射率)が30%、赤外線領域波長1000nmにおける反射率が75%、赤外線領域波長1500nmにおける反射率が24%であった。また、耐酸性を評価した結果、溶液中のCuの濃度は100ppmと非常に小さく、さらに塗料構成基材に対する分散性、分散安定性、塗料としての貯蔵安定性とも良好であった。
【0081】
実施例2
湿式法で合成した後、820℃で2時間焼成した以外は前記実施例1と同様にして黒色顔料を得た。
【0082】
実施例3
前記実施例1と同様にして黒色顔料を得た。次いで、得られた黒色顔料を水中に湿式分散させ、70℃に保温した黒色顔料のスラリーに対し水ガラス0.5wt%を滴下しながら塩酸及び水酸化ナトリウムでpH7に調整し1時間維持した。その後、水洗・乾燥・粉砕処理した。耐酸性を評価した結果、溶液中のCuの濃度は60ppmと非常に小さかった。
【0083】
実施例4
焼成温度及び表面処理を変化させた以外は実施例3と同様にして黒色顔料を得た。
【0084】
比較例1
原料組成を変化させた以外は、実施例1と同様にして黒色顔料を得た。
【0085】
比較例2
比較例1で得られたCuを含有しない黒色顔料1モルに対して3.1モルの粉末状の酸化第二銅(CuO)を添加、自動乳鉢で30分混合し、混合物からなる黒色顔料を得た。該黒色顔料を塗料構成基材に添加混合し該塗料を5時間静置させたところ、CuOが沈降分離した。
【0086】
比較例3
平均粒子径0.5μmの粉末状のCuOである。塗料構成基材に添加混合し該塗料を5時間静置させたところCuOが沈降分離した。さらに耐酸性を評価した結果、溶液中のCuの濃度は2500ppmであった。
【0087】
実施例1〜実施例4、比較例1〜3の製造条件を表1に、得られた赤外線反射性黒色顔料の諸特性、塗膜の特性(反射率%)及び塗料の特性を表2及び表3に示した。なおCr6+の含有量が「5ppm未満」とは、前記測定装置の検出限界以下であることを示す。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る赤外線反射性黒色顔料は、赤外線反射性に優れ、赤外線領域波長1500nmにおいても高い反射率を有するので赤外線反射性黒色顔料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にCrを含有せず、少なくともCo、Mg、Fe、Al及びCuを含有する複合酸化物からなる黒色顔料であって、
Cu/(Co+Mg+Fe+Al+Cu)がモル比で10〜90%であり、該黒色顔料の平均粒子径が0.02〜2.0μmであることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料。
【請求項2】
請求項1記載の赤外線反射性黒色顔料の(Co+Mg+Fe+Al+Cu)/全金属元素がモル比で50〜100%であることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の赤外線反射性黒色顔料の明度(L)が30以下であることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料の日射反射率が25%以上であり、かつ赤外線領域波長1500nmの反射率が23%以上であることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料の表面がSi、Al、Zr、Tiから選ばれる一種以上の化合物で被覆されていることを特徴とする赤外線反射性黒色顔料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料を塗料構成基材中に配合したことを特徴とする塗料。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の赤外線反射性黒色顔料を用いて着色したことを特徴とする樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−65201(P2010−65201A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235730(P2008−235730)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】