説明

赤外線反射材料及びその製造方法並びにそれを含有した塗料、樹脂組成物

【課題】有彩色を有するとともに、優れた赤外線反射能を有する赤外線反射材料を提供する。
【解決手段】本発明の赤外線反射材料は、希土類元素と、銅元素と、を含み、必要に応じてアルカリ土類金属元素を含む複合酸化物である。また、必要に応じて、複合酸化物の粒子表面が、無機化合物及び/又は有機化合物に被覆されたものである。これらの材料は、希土類化合物と銅化合物と、更に必要に応じてアルカリ土類金属化合物等を所定量混合し、焼成するなどの方法で製造することができ、得られた複合酸化物は粉末状であるため塗料や樹脂組成物に配合して、種々の用途、例えば建造物の屋根や外壁に塗装したり、道路や歩道に塗装したりして、ヒートアイランド現象の緩和等に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物系赤外線反射材料及びその製造方法に関する。また、その赤外線反射材料を含有した塗料、樹脂組成物、更には、前記の塗料を用いた赤外線反射材に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線反射材料は、太陽光等に含まれる赤外線を反射する材料である。この材料を用いることで、アスファルトやコンクリート等で覆われた地表面、建造物等が吸収する赤外線量を減少させることができるため、ヒートアイランド現象の緩和や夏場の建造物の冷房効率の向上等に利用されている。
赤外線反射材料としては例えば、黒色系材料としてCr、Cu−Cr複合酸化物、Fe−Cr複合酸化物、Co−Fe−Cr複合酸化物、Cu−Cr−Mn複合酸化物などのクロムを含有する化合物が知られている(特許文献1を参照)。また、Y−Mn複合酸化物等の希土類元素とマンガンの複合酸化物(特許文献2を参照)等の、クロムを含有しない黒色系材料が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−72990号公報
【特許文献2】特開2002−38048号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建造物等の壁や屋根等に用いられる赤外線反射材料としては、黒色よりも有彩色が好まれている。このため、固有の色彩を有する様々な赤外線反射材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは新規赤外線反射材料の開発を進めたところ、希土類元素と、銅元素と、を含む複合酸化物が、有彩色の色調を有し、しかも、1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示すことを見出した。
【0006】
また、本発明者らは、希土類元素と、銅元素と、アルカリ土類金属元素と、を含む複合酸化物が、有彩色の色調を有し、しかも、1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示すことを見出した。
【0007】
また、これらの複合酸化物の粒子表面は、無機化合物及び/又は有機化合物に被覆されていることが、複合酸化物の水溶出性を抑制する更に向上させることができるため好ましい。
【0008】
また、前記無機化合物は、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物であることが好ましい。
【0009】
また、本発明者らは、希土類元素と、銅元素と、遷移金属元素と、を含み、1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示す複合酸化物系赤外線反射材料を、希土類化合物と、銅化合物と、遷移金属化合物と、を混合し、焼成して製造できることを見出した。
【0010】
また、本発明者らは、上記赤外線反射材料のいずれかを塗料や樹脂組成物に配合して、種々の用途に用いることができることを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、基材上に上記塗料を塗布することで、優れた赤外線反射材となることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の赤外線反射材料は、希土類元素と、銅元素と、を含む複合酸化物が、1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示し、また、青色〜緑色などの有彩色を有するため、建造物の壁や屋根等の種々の箇所に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得られた試料Aの赤外線反射率を実線で示し、実施例2で得られた試料Bの赤外線反射率を破線で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の複合酸化物系赤外線反射材料(以下、単に赤外線反射材料という場合がある。)は、希土類元素と、銅元素と、を含み、1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示す複合酸化物系赤外線反射材料(以下、二元系の赤外線反射材料という場合がある。また、本発明にかかる実施例の試料について、二元系の試料という場合がある。)である。このため、特に、近赤外線領域(800〜2500nmの波長領域)における赤外線反射能が優れている。ここで、希土類元素とは、イットリウム及び原子番号57〜71より選択される少なくとも一種の元素である。
【0015】
上記発明にかかる赤外線反射材料としては、例えば、イットリウム、銅元素、及び酸素で構成される酸化物群が挙げられる。この酸化物群の例として、YCu(Cupper Yttrium Oxide)や、YCuを主成分とし、これにY及び/又はCuOが混ざった混合物等が挙げられる。上記酸化物群については、所望の組成及び結晶構造に適宜設定することができる。
【0016】
上記の二元系の赤外線反射材料は、固有の粉体色を有している(例えば、YCuであれば、その粉体色は緑白色である。)。このような赤外線反射材料の反射率を、1500nm〜2100nm以下の波長領域において50%以上に調整することで、太陽光等に含まれる赤外線を効果的に反射することができる。また、このような赤外線反射材料を塗料等に混合して塗料等を作成する場合は、塗布された対象(例えば、アスファルトやコンクリート、或いは建造物等)が吸収する赤外線量を減少させることができるため、有用である。さらに、この塗料等を基材等に塗布してなる赤外線反射材は、ヒートアイランド現象の緩和や冷房効率の向上に有用である。なお、1500nm〜2100nmの波長領域における反射率は、赤外線反射材料としての性能を向上させるという点で、55%以上が好ましく、75%以上であることが、より好ましい。
【0017】
また、他の本発明の複合酸化物系赤外線反射材料は、希土類元素と、銅元素と、アルカリ土類金属元素を含み、1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示す複合酸化物系赤外線反射材料(以下、三元系の赤外線反射材料という場合がある。また、本発明にかかる実施例の試料について、三元系の試料という場合がある。)である。ここで、アルカリ土類金属元素とは、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムから選ばれる少なくとも一種であり、アルカリ土類金属元素として、上記元素を複数種含ませても良い。
【0018】
上記発明にかかる赤外線反射材料としては、例えば、イットリウム、アルカリ土類金属元素、銅元素、及び酸素で構成される酸化物群が挙げられる。この酸化物群の一例として、YBaCuO(Diyttrium Barium Copper Oxide)が挙げられる。上記酸化物群については、所望の組成及び結晶構造に適宜設定することができる。
【0019】
ここで、上記の二元系の赤外線反射材料や三元系の赤外線反射材料において、赤外線反射率の測定をすると、可視光領域に、反射率のピーク(以下、単にピークという場合がある)が現れる。このピークは、赤外線反射材料が、所定の波長領域における特定のスペクトルを選択的に反射する特性を有することを示している。また、このような特性を有する赤外線反射材料を混合した塗料等は、鮮明な色味を有し、色味が重要な要素である顔料として、非常に有益である。さらに、このような塗料等を基材等に塗布して赤外線反射材を作製する場合は、塗料等の有効成分を少量に抑えることができるため、コストパフォーマンスを向上させることができる。
【0020】
さらに、上記希土類元素としてイットリウムを含む三元系の赤外線反射材料は、上記希土類元素としてイットリウムを含む二元系の赤外線反射材料に比べて、上記ピークの位置が、長波長側にシフトする。このようにピークの位置がシフトすることにより、反射する可視光スペクトルを変化させることができる。また、このような特性を有する赤外線反射材料を用いることにより、色味のバリエーションが豊富な塗料等を作製することができる。さらに、このような塗料等を基材等に塗布して作製された赤外線反射材は、産業の要請による種々の用途に使い分けることができるため、有用である。
【0021】
また、赤外線反射材料に含まれる銅元素(B)とアルカリ土類金属元素(C)の原子比(モル比)が0.1≦C/B≦10となる量を含有させるのが好ましい。ここで、「C」はアルカリ土類金属元素のモル数を表し、「B」は銅元素のモル数を表し、それらの原子比(モル比)C/Bの値が0.1≦C/B≦10の範囲であると、優れた赤外線反射率を有するため好ましく、0.2≦C/B≦5の場合は、より好ましく、0.5≦C/B≦2.0の場合は、更に好ましく、0.8≦C/B≦1.2の場合は、最も好ましい。
【0022】
また、上記赤外線反射材料に、必要に応じて、更にホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等の周期表13族の元素を含有させることができる。周期表13族の元素を含有させると、それを添加しないものに比べても優れた赤外線反射能を有するため、より好ましく、周期表13族のうちアルミニウム、ガリウムから選ばれる少なくとも一種を含有させると、特に優れた近赤外線反射能を有することからより好ましい。周期表13族の元素は、複合酸化物の粒子表面及び/又は粒子内部に存在すれば良く、複合酸化物の粒子内部に存在するのが好ましい。また、本発明に係る赤外線反射材料の性能に著しく悪影響を与えない程度の十分な量において、様々なドーパントを添加することができる。ドーパントとしては、例えば、周期表における1族、3族、4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、12族、13族、14族、15族、16族、17族から選択される元素、ランタノイド元素及びアクチノイド元素が挙げられる。
【0023】
なお、上記赤外線反射材料は、赤外線反射材料の粒子表面に無機化合物及び/又は有機化合物を被覆させるのが有効である。これにより、当該赤外線反射材料の水溶出性を抑制することができる。また、このような赤外線反射材料を塗料等に混合して塗料等を作製する場合は、塗布後の溶出量を抑制することができるため、有益である。さらに、この塗料等を基材等に塗布してなる赤外線反射材は、赤外線反射材の表面に塗布された塗料等の溶出が抑制されるため、有用である。
【0024】
このような無機化合物としては、例えば、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも1つの化合物が挙げられ、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン及びスズは酸化物、水和酸化物又は水酸化物の化合物がより好ましく、リンはリン酸又はリン酸塩の化合物がより好ましい。特に、ケイ素、アルミニウムの酸化物、水和酸化物又は水酸化物が好ましい。ケイ素の酸化物、水和酸化物又は水酸化物(以下、シリカという場合がある)は、高密度シリカ又は多孔質シリカを形成するのがより好ましい。シリカ被覆処理の際のpH範囲に応じて、被覆されるシリカが多孔質となったり、非多孔質(高密度)となったりするが、高密度シリカであると緻密な被覆を形成し易いため、赤外線反射材料の水溶出性の抑制効果が高くより好ましい。そのため、赤外線反射材料の粒子表面に高密度シリカの第一被覆層を存在させ、その上に多孔質シリカの第二被覆層あるいはアルミニウムの酸化物、水和酸化物、水酸化物(以下、アルミナという場合がある)を存在させてもよい。シリカ被覆は電子顕微鏡で観察することができる。無機化合物の被覆量は適宜設定することができ、例えば、赤外線反射材料に対して0.1〜50重量%が好ましく、1.0〜20重量%がより好ましい。無機化合物の量は蛍光X線分析、ICP発光分析等の通常の方法で測定することができる。
【0025】
また、上記赤外線反射材料を被覆する有機化合物としては、例えば、有機ケイ素化合物、有機金属化合物、ポリオール類、アルカノールアミン類又はその誘導体、高級脂肪酸類又はその金属塩、高級炭化水素類又はその誘導体等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0026】
なお、本発明の赤外線反射材料において、その実施例に含まれる希土類元素、銅元素、あるいは必要に応じて含まれるアルカリ土類金属、遷移金属元素の量は、蛍光X線分析から求められる。この蛍光X線分析で得られる各成分の価数から、電荷バランスを維持するのに必要な酸素の量を算出する。また、結晶構造はX線回折により確認することができる。
【0027】
また、赤外線反射材料の赤外線反射能及び色味については、一例として、下記の方法で測定することができる。具体的には、まず、得られた試料をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、30mmφのアルミリングに試料をいれ、9.8MPaの加重をかけ、プレス成型し、白色度計NW−1(日本電色工業社製)で粉体の色を測定する。次に、得られた試料を専用セルに入れ、紫外可視近赤外分光光度計V−670(日本分光社製、標準反射板としてスペクトラロン(Labsphere社製)を使用)で分光反射率(波長350〜2500nmの光の反射率)を測定する。
【0028】
本発明の赤外線反射材料は、従来の方法を用いて製造することができる。具体的には、希土類化合物と、銅化合物とを混合し、電気炉やロータリーキルン等を使用して焼成するいわゆる固相合成法、希土類化合物と、銅化合物のシュウ酸塩を水系で合成した後、焼成するいわゆるシュウ酸塩法、希土類化合物と、銅化合物のクエン酸塩を水系で合成した後、焼成するいわゆるクエン酸塩法、希土類化合物、銅化合物の水溶液とアルカリ水溶液とを混合し、水熱処理した後、濾過し、洗浄し、乾燥するいわゆる水熱合成法などの方法を用いることができる。また、アルカリ土類金属元素を含有させる場合は、希土類化合物と銅化合物を混合する際に、アルカリ土類金属化合物を添加し混合したり、シュウ酸塩等を水系で合成する際に、アルカリ土類金属化合物を添加し混合したり、希土類酸化物と銅化合物との混合物、合成物の焼成の際に、アルカリ土類金属化合物を添加し焼成したりすることができる。
【0029】
従来の方法のうち、希土類化合物と、銅化合物とを混合し、焼成する固相合成法が適度な粒子径を有する赤外線反射材料を得られるため好ましい。また、赤外線反射材料にアルカリ土類金属元素を含ませる場合には、希土類化合物と、アルカリ土類金属化合物と、銅化合物とを混合し、焼成する固相合成法が適度な粒子径を有する赤外線反射材料を得られるため好ましい。
【0030】
前記の固相合成法において、希土類化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができ、銅化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができ、アルカリ土類金属化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩等を用いることができる。次に、前記のそれぞれの原料化合物を秤量し、混合する。混合方法は、粉体の状態で混合する乾式混合、スラリーの状態で混合する湿式混合のいずれでもよく、撹拌混合機等の従来の混合機を用いて行うことができる。また、各種の粉砕機、噴霧乾燥機、造粒機、成形機等を用いて、粉砕、乾燥、造粒、成形の際に混合することもできる。
【0031】
次いで、原料化合物の混合物を必要に応じて造粒、成形した後、焼成する。焼成の温度は少なくとも原料化合物が固相反応する温度であればよく、例えば800〜1500℃の範囲の温度であればよい。焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。焼成の際に、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の融剤を添加してもよい。焼成時間は適宜設定することができるが、1〜100時間が好ましく、10〜50時間がより好ましい。1時間より短いと反応が十分に進まないことが多く、一方、100時間より長いと焼結により粒子の硬度が高くなったり、異常に粗大な粒子が生成する場合がある。
【0032】
前記の方法、特に前記の固相合成法により得られた赤外線反射材料を再度焼成すると、結晶性がより高くなり、それによりアルカリ土類金属元素等の水溶出性を抑制することができるため好ましい。再度焼成の温度は200〜1500℃の範囲が好ましく、400〜1200℃がより好ましい。再度焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。再度焼成の時間は適宜設定することができるが、0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。
【0033】
このようにして得られた赤外線反射材料の粒子表面に、無機化合物や有機化合物を被覆するには、二酸化チタン顔料等の従来の表面処理方法を用いることができ、具体的には赤外線反射材料のスラリーに無機化合物や有機化合物を添加し被覆するのが好ましく、スラリー中で無機化合物や有機化合物を中和し析出させて被覆するのがより好ましい。また、赤外線反射材料の粉末に、無機化合物や有機化合物を添加し混合して被覆させてもよい。
具体的に赤外線反射材料の粒子表面に高密度シリカ被覆を行うには、まず、赤外線反射材料の水性スラリーをアルカリ化合物例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどによりpHを8以上、好ましくは8〜10に調整した後、加温して70℃以上、好ましくは70〜105℃とする。次いで、赤外線反射材料の水性スラリーに対してケイ酸塩を添加する。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどの種々のケイ酸塩を使用することができる。ケイ酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。次いで、ケイ酸塩の添加終了後必要に応じて更に充分に撹拌し混合した後、スラリーの温度を好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上に維持しながら、酸で中和する。ここで使用する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などが挙げられ、これらによりスラリーのpHを好ましくは7.5以下、より好ましくは7以下に調整して、赤外線反射材料の粒子表面に高密度シリカを被覆することができる。
【0034】
また、赤外線反射材料の粒子表面に多孔質シリカ被覆を行うには、まず、赤外線反射材料の水性スラリーに、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、酢酸などの酸を添加してpHを1〜4、好ましくは1.5〜3に調整する。スラリー温度は50〜70℃に調整するのが好ましい。次に、スラリーpHを前記範囲に保持しながら、ケイ酸塩と酸とを添加して多孔質シリカの被覆を形成する。ケイ酸塩としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムなどの種々のケイ酸塩を使用することができる。ケイ酸塩の添加は、通常15分間以上かけて行うのが好ましく、30分間以上がより好ましい。ケイ酸塩の添加終了後必要に応じて、アルカリ化合物を添加し、スラリーのpHを6〜9程度に調整して、赤外線反射材料の粒子表面に多孔質シリカを被覆することができる。
【0035】
一方、赤外線反射材料の粒子表面にアルミナ被覆を行うには、まず、赤外線反射材料のスラリーを水酸化ナトリウム等のアルカリでpHを8〜9に中和した後50℃以上の温度に加熱し、次に、アルミニウム化合物と酸性水溶液とを同時並行に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルミン酸塩を好適に用いることができ、酸性水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸等の水溶液を好適に用いることができる。前記の同時並行添加とは、アルミニウム化合物と酸性水溶液のそれぞれを別々に少量ずつ連続的あるいは間欠的に反応器に添加する方法をいう。具体的には反応器内のpHを8.0〜9.0に保ちながら両者を10分〜2時間程度かけて同時に添加するのが好ましい。アルミニウム化合物と酸性水溶液を添加後、酸性水溶液を更に添加しpHを5〜6程度に調整するのが好ましい。
【0036】
前記の無機化合物や有機化合物を被覆した赤外線反射材料を再度焼成すると、結晶性がより高くなり、それによりアルカリ土類金属元素等の水溶出性を抑制することができるため好ましい。再度焼成の温度は200〜1500℃の範囲が好ましく、400〜1200℃がより好ましい。再度焼成時の雰囲気はいずれの雰囲気でも行えるが、十分な赤外線反射能を保持するためには空気中で焼成するのが好ましい。再度焼成の時間は適宜設定することができるが、0.5〜24時間が好ましく、1.0〜12時間がより好ましい。
【0037】
前記の方法により得られた赤外線反射材料は、粉末、成形体等種々の形態で使用することができるが、粉末として用いる場合には、必要に応じて適宜粉砕して粒度を整えてもよく、成形体として用いる場合は、粉末を適当な大きさ、形に成形してもよい。粉砕機は例えば、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃粉砕機、ローラーミル、パルベライザー等の摩砕粉砕機、ジェットミル等の気流粉砕機を用いることができる。成形機は例えば押出し成形機等の汎用の成形機、造粒機を用いることができる。
【0038】
本発明の赤外線反射材料は、上記の製造条件を変更することにより、種々の粒子形状や粒子径を有するものとすることができる。粒子形状としては例えば板状、粒状、略球状、針状、不定形状等であってもよく、電子顕微鏡写真から測定される平均粒子径(粒子1個の最大径の算術平均値)としては0.02〜20.0μm程度のものが好ましい。平均粒子径が20.0μmを超える場合には、粒子サイズが大きすぎるため、着色力が低下する。平均粒子径が0.02μm未満の場合には、塗料中への分散が困難となる場合がある。このため、平均粒子径は好ましくは0.1〜5.0μm、より好ましくは0.2〜4.5μmであり、更に好ましくは0.3〜4.0μmである。
また、本発明の赤外線反射材料のBET比表面積値(窒素吸着による一点法)は0.05〜80m/g程度が好ましい。BET比表面積値が0.05m/g未満の場合には、粒子が粗大であったり、粒子及び粒子相互間で焼結が生じた粒子となっており、着色力が低下する。より好ましくは0.2〜15m/g、更に好ましくは0.3〜5m/gである。BET比表面積の測定は、モノソーブMS−18(ユアサアイオニクス社製)で行うことができる。このBET比表面積値から、下記式1により球状に見なした平均粒子径を算出することができる。BET比表面積値から算出される平均粒子径は0.02〜30μm程度が好ましいが、粒子形状、粒度分布等の影響により、前記の電子顕微鏡写真から算出される平均粒子径とは異なる場合がある。
式1:L=6/(ρ・S)
ここで、Lは平均粒子径(μm)、ρは試料の密度(g/cm)、Sは試料のBET比表面積値(m/g)である。
【0039】
また、本発明の赤外線反射材料は、十分な赤外線反射能を有するが、その他の赤外線反射能を有する化合物又は赤外線遮蔽(吸収)能を有する化合物を混合すると、より一層赤外線反射能を高めることができ、あるいは、特定波長の反射能を補完することができる。赤外線反射能を有する化合物又は赤外線遮蔽(吸収)能を有する化合物としては、従来から使用されているものを用いることができ、具体的には二酸化チタン、アンチモンドープ酸化スズ、酸化タングステン、ホウ化ランタン等の無機化合物、金属銀粉、金属銅粉等の金属粉などが挙げられ、二酸化チタン、金属粉がより好ましい。赤外線反射能を有する化合物又は赤外線遮蔽(吸収)能を有する化合物の種類、混合割合は、その用途に応じて適宜選定することができる。
【0040】
また、本発明の赤外線反射材料は、緑色系あるいは青色系の色調を持つが、これにその他の顔料を混合すると、赤色、黄色、緑色、青色、それらの中間色等の色彩を有するものとすることができる。前記の顔料としては、無機顔料、有機顔料、レーキ顔料等を使用することができ、具体的には、無機顔料としては二酸化チタン、亜鉛華、沈降性硫酸バリウム等の白色顔料、酸化鉄等の赤色顔料、ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)等の青色顔料、カーボンブラック等の黒色顔料、アルミニウム粉等の顔料が挙げられる。有機顔料としては、アントラキノン、ペリレン、フタロシアニン、アゾ系、アゾメチアゾ系等の有機化合物が挙げられる。顔料の種類、混合割合は、色彩・色相に応じて適宜選定することができる。
【0041】
なお、本発明の赤外線反射材料を用いた塗料とは、前記の赤外線反射材料を含有する塗料である。本発明の塗料には、インキやインクといわれる組成物が含まれるが、これら具体例は単に例示列挙されたものであって、これらに限定されることはない。
【0042】
また、上記の塗料、インキ、或いは樹脂組成物には、樹脂に対して赤外線反射材料を任意の量を含有することができ、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。また、そのほかにそれぞれの分野で使用される組成物形成材料を配合し、更に各種の添加剤を配合してもよい。
【0043】
具体的には、塗料やインキとする場合、塗膜形成材料又はインキ膜形成材料のほかに、溶剤、分散剤、顔料、充填剤、骨材、増粘剤、フローコントロール剤、レベリング剤、硬化剤、架橋剤、硬化用触媒などを配合することができる。塗膜形成材料としては例えば、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ系樹脂などの有機系成分や、オルガノシリケート、オルガノチタネート、セメント、石膏などの無機系成分を用いることができる。インキ膜形成材料としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩酢ビ系樹脂、塩素化プロピレン系樹脂などを用いることができる。これらの塗膜形成材料、インキ膜形成材料には、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など各種のものを制限なく用いることができ、モノマーやオリゴマーの紫外線硬化性樹脂を用い、光重合開始剤や光増感剤を配合し、塗布後に紫外光を照射して硬化させると、基材に熱負荷を掛けず、硬度や密着性の優れた塗膜が得られるので好ましい。
【0044】
本発明の塗料を基材上に塗布して赤外線反射材を製造することができる。この赤外線反射材は赤外線の遮蔽材として、更には遮熱材としても用いることができる。基材としては、種々の材料、材質のものを用いることができる。具体的には各種建材や土木材料等を使用することができ、製造された赤外線反射材は、家屋や工場等の屋根材、壁材又は床材、あるいは、道路や歩道を構成する舗装材などとして使用することができる。赤外線反射材の厚みは、各種の用途に応じて任意に設定でき、例えば、屋根材として用いる場合には、概ね0.1〜0.6mm、好ましくは0.1〜0.3mmとし、舗装材として用いる場合には、概ね0.5〜5mm、好ましくは1〜5mmとする。基材上に塗布するには、塗布、吹き付けによる方法や、コテによる方法が可能であり、塗布後必要に応じて乾燥したり、焼付けしたり、養生したりしてもよい。
【0045】
また、樹脂組成物とする場合、樹脂のほかに、顔料、染料、分散剤、滑剤、酸化防止材、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、殺菌剤などを本発明の赤外線反射材料とともに練り込み、フィルム状、シート状、板状などの任意の形状に成形する。樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ乳酸系樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。このような樹脂組成物は、フィルム、シート、板等の任意の形状に成形して、工業用、農業用、家庭用等の赤外線反射材として用いることができる。また、赤外線を遮蔽して遮熱材としても用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例、比較例により説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
酸化イットリウムY(高純度化学研究所製、純度99.99%)4.5168g、酸化銅CuO(高純度化学研究所製)1.5908gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間の焼成を行って、粉末(試料A)を得た。次に、得られた粉末(試料A)を、測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製X線回折装置「RINT1200」にセットし、Cu/Kα線、スキャンスピード3.0°/分の条件で測定を行ったところ、粉末の主成分が、YCuであることが確認された。
【0048】
実施例2
酸化イットリウムY(高純度化学研究所製、純度99.99%)4.5168gg、酸化銅CuO(高純度化学研究所製)1.5908g、炭酸バリウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)3.9474gをメノウ乳鉢で十分に混合・撹拌した後、アルミナルツボに所定量いれ、1200℃で4時間の焼成を行って、YBaCuO粉末(試料B)を得た。なお、得られた粉末(試料B)については、実施例1と同様の方法で特定された。
【0049】
比較例1
C.I Black pigment 28に記載されたCu−Cr酸化物の粉末を、比較試料αとした。
【0050】
(粉体色の測定)
まず、実施例で得られた試料(A、B)をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、その色味を観察した。また、得られた試料をメノウ乳鉢で十分に粉砕した後、30mmφのアルミリングに試料をいれ、9.8MPaの加重をかけ、プレス成型し、白色度計NW−1(日本電色工業社製)で粉体の色を測定した。得られた結果を表1に示す。なお、比較試料αに関しては、C.I Black pigment 28に記載されたデータを参照した。
【0051】
【表1】

【0052】
(赤外線反射率の測定)
粉体色の測定に用いられた試料を専用セルに入れ、紫外可視近赤外分光光度計V−670(日本分光社製、標準反射板としてスペクトラロン(Labsphere社製)を使用)で分光反射率(波長350〜2500nmの光の反射率)を測定する。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、試料A及び試料Bの反射能は、1500nm〜2100nmにおける赤外線反射率の最小値がそれぞれ75%と56.7%であり、これらの試料が、赤外線反射材料として好適である50パーセント以上との条件を満たしていることが確認された。
【0055】
図1及び表2に示すように、二元系の試料Aに関しては、可視光領域における反射率のピークが検出されている。このピークの中心値は500nmである。これに対し、三元系の試料Bにおいて検出された反射率のピークの中心値は540nmであり、試料Aよりも、長波長側で検出された。また、試料Aが青色の粉体色を有するのに対し、試料Bが緑色の粉体色を有することが、確認された。
【0056】
実施例で得られた試料(A、B)を用いて塗料を作製し、これらをガラス基材に塗布することにより、赤外線反射材を作製できることを確認した。
【0057】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施例によって技術範囲を限定されることは無い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素と、
銅元素と、を含み、
1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示す複合酸化物系赤外線反射材料。
【請求項2】
希土類元素と、
銅元素と、
アルカリ土類金属元素と、を含み、
1500nm以上かつ2100nm以下の波長において50%以上の反射率を示す複合酸化物系赤外線反射材料。
【請求項3】
複合酸化物の粒子表面は、無機化合物及び/又は有機化合物に被覆されている請求項1又は請求項2に記載の赤外線反射材料。
【請求項4】
前記無機化合物は、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、リン及びスズから選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物である請求項3に記載の赤外線反射材料。
【請求項5】
希土類化合物と、
銅化合物と、
アルカリ土類金属化合物と、を混合し、焼成する複合酸化物系赤外線反射材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の赤外線反射材料を含有する塗料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の赤外線反射材料を含有する樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6に記載の塗料が基材上に塗布されている赤外線反射材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57501(P2011−57501A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208405(P2009−208405)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】