説明

赤外線吸収凹版インク

40℃で3Pa・s超、好ましくは5Pa・s超の粘度を有し、かつ赤外線吸収材料を含む彫刻鋼製金型印刷プロセス用の糊状のインクであり、該赤外線吸収材料が遷移元素原子類または遷移元素イオン類のd殻内の電子遷移の結果IR吸収が起こる遷移元素化合物であるインク。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はインクおよび塗料の分野に関する。具体的には、貨幣および他の機密文書の印刷に使用される彫刻鋼製金型(銅版、凹版)印刷プロセス用インクに関する。より具体的には、本発明の凹版インクは、「光学赤外線」スペクトル帯域の放射を選択的に吸収するが、その他の帯域は透過するように設計されている。
【0002】
電磁スペクトル内の「光学赤外線」(即ち、波長域700nm〜2,500nm)の放射を吸収する化合物や塗料が当業者に知られている。そのような材料は、物や文書に対する目には見えないが機械的読み取り可能な証印を製造するためだけでなく、自動処理または機械による物や文書の認証のために太陽熱吸収剤として使用されている。
【0003】
本説明においては、「赤外線」または「IR」の表現は、波長域700nm〜2,500nmのスペクトル範囲を示すのに使用する。「可視」の用語は、波長域400nm〜700nmのスペクトル範囲を示すものとする。「紫外線」または「UV」の用語は、400nmよりも短い波長域に使用するものとする。さらに、「近赤外線」または「NIR」の表現は、通常のシリコン光検出器で検知可能な放射に相当する波長域700nm〜1,100nmのスペクトル範囲を示すのに使用する。
【0004】
本説明においては、「彫刻鋼製金型印刷プロセス」、「銅版印刷プロセス」、および「凹版印刷プロセス」の用語は、同じ印刷技術に対しては同じ意味で使用する。
【0005】
赤外線関連印刷技術に関する第1のグループの初期の特許は、専ら処理の側面に関連していた。米国特許第3,705,043号(Zabiak)は、機械的読み取り可能なバーコードを印刷するための赤外線吸収(IR吸収)インクジェット印刷用のインク組成物を開示している。この特許の公開時(1972年)、バーコード読み取り装置は、技術上の理由から、「近赤外線」(700nm〜1100nm)のスペクトル範囲に限られていた。このため、「近赤外線」を「機械可視化」するために、赤外線吸収ニグロシン有機染料もインクに添加された。米国特許第3,870,528号(Eddsら、IBM)、および米国特許第4,244,741号(Kruse、US Postal Service)でも同様の技術目的が追究された。このうち後者の特許は、還元されたヘテロポリ酸(リンモリブデン酸)を無機赤外線吸収剤として使用することを教示している。これらの特許は、IR吸収物質をセキュリティーマーキングとして使用することについては言及しなかったと要約することができる。
【0006】
第2のグループの特許は機密文書に関連する。欧州公開特許EP-A-0552047号(ニシダら、Hitachi Maxell Ltd.)は、400nm〜700nmの可視スペクトル領域でIRを吸収するセキュリティ成分を覆い隠すための着色保護層を含む、印刷赤外線吸収マークを担持した機密文書を開示している。欧州公開特許EP-A-0552047号の教示によると、IR吸収剤は、肉眼ではそれ自身の存在や位置がわかならないようにする隠蔽層とともに使用しなければならない。欧州公開特許EP-A-0263446号(アベら、Dainichiseika Color & Chemicals Mfg. Co. Ltd.)は、機密文書上に隠された情報を含む複写不能印刷物と該印刷物の製造方法とを開示していて、そこではさらにIR吸収ブラックインクがIR透過性の標準4色プロセスインクとともに使用されている。「IR吸収ブラック」は、好ましくは全可視スペクトル領域および赤外線スペクトル領域にわたる領域を差別なく吸収するカーボンブラックであり、一方「IR透過ブラック」はスペクトルのうちの可視領域のみを吸収する有機染料である。
【0007】
自動紙幣処理の分野において、IR吸収は重要な役割を果たしている。実際に、流通貨幣のほとんどが目に見えるカラー印刷だけでなく、赤外線領域のスペクトルでのみ検出可能な特異的な特徴を持っている。一般的に、これらのIR特性は、銀行および自動販売の用途(現金自動預け払い機、自動販売機など)において、所定の流通証券を認識してその信憑性を確認し、特にカラー印刷によって偽造された紙幣と識別するために自動紙幣処理装置での使用が実現している。国際公開WO-A-04/016442号パンフレット(Banque de France)は、赤外線吸収材料によって保護された文書に関するものである。
【0008】
欧州公開特許EP-A-0263446号による目に見える外観(黒)の赤外線吸収インクは、IR吸収が追加的にかつ隠された状態(即ち目に見えない状態)で使用されるべきセキュリティの用途には不利であると考えられる。重ね刷りによってIR吸収インクをカムフラージュする、または目に見える同じ色のIR吸収インクとIR透過インクとを組み合わせて使用することでこの問題を回避する方法が見出されている。しかし、後者の選択肢は明確に隠すということと両立しないので、文書の設計者に対してかなりの制約を課すことになる。
【0009】
さらなるグループの特許は、目に見えないIR吸収剤を開示しており、それ自身が表に見えない状態で、すべての色調(白を含む)のインクに使用することができる。欧州公開特許EP-A-0608118号(ヨシナガら、Canon K. K.)は、複写機による複写を防止するため、機密文書に対する機械的読み取り可能な認識方法として、目に見えない情報で記録された媒体(紙幣、機密文書など)を開示している。無色でかつ可視領域のスペクトルに関しては透過性であるために人間の目には見えない近赤外線吸収性のシアニン型有機材料を使用することにより記録が実現する。同様の方法がタシマら(Dainippon Printing Co. Ltd.)によって採られた。タシマらは、目に見えないIR吸収セキュリティ成分として無機リン酸イッテルビウム(YbPO)と、それに対応するインクおよびそれを含む塗料組成物の使用について開示した。それにより、機密文書およびセキュリティパターンがともに実現化されている(日本公開特許公報JP-08-143853 A2、JP-08-209110 A2、JP-09-030104 A2、JP-09-031382 A2、JP-09-077507 A2、JP-09-104857 A2、およびJP-10-060409 A2)。最終的に、米国特許第5,911,921号(タカイら、Shin-Etsu Chemical Co. Ltd.)は、赤外線反射率がさらに低い非化学量論のリン酸イッテルビウムをIR吸収セキュリティ材料として使用することを開示している。
【0010】
したがって、この後者のグループの特許の有機IR吸収剤と無機IR吸収剤は、IR吸収剤の色が目に見えてしまうという短所を克服している。しかし、それらの使用に関しては別の短所があり、シアニン型有機染料とYbPOIR吸収剤により、かなり狭いスペクトル幅の赤外線吸収帯域しか示さない。狭帯域のIRしか吸収しないという特徴を検知する(読み取る)ためには、特に、問題になっている厳密な吸収波長を読み取る検出装置と接続する必要があり、YbPOの場合、印刷インク中の濃度が比較的高い状態でIR吸収材料を使用する必要がある。
【0011】
現在、種々多数の貨幣処理装置モデルが世界中の多くの供給元から市販されている。この装置は、紙幣のIR吸収性を点検することが可能であるにもかかわらず、あるIR波長および同じIR波長では決して作動しない。可視比色法で使用されるCIELAB基準に類する「IR色基準」は、実際には存在しない。したがって、狭帯域IR吸収剤は、既存の処理装置との適合性の理由から、一般の貨幣処理用途には適用できない。注目すべきことに、銀行および自動販売用途に使用される既存の貨幣処理装置を、それぞれ新型のIR吸収セキュリティ成分に対応するように変更することは通常不可能である。
【0012】
一方、カーボンブラックを無差別の広帯域IR吸収剤として使用するという昔からある手法は、紙幣の設計者がただ単に色を濃くするまたは黒くするしかないという既に述べたような短所がある。この種の材料の一般的な有用性をこれに加味したとしても、カーボンブラックは、IR吸収剤とは言えるがセキュリティ材料とは見なすことができない。同じことは半金属グラファイト材料についても言え、国際公開WO-A-98/28374号パンフレットでMurlは、IR吸収顔料としてこれらの材料を機密文書で使用することについて開示した。
【0013】
理想としては、貨幣処理用途に使用するIR吸収剤は、例えばあらゆる種類の目に見えるカラーインク、および裸眼では見ることができないマーキングでも使用できるように、可視領域(400nm〜700nm)で透過性でなければならない。また、標準の貨幣処理装置(1,100nm以下に感度を示すシリコンIR光検出器に基づく)で容易に認識できるように、近赤外線領域(700nm〜1,100nm)で強い吸収を示すべきである。さらに、貨幣のセキュリティに関する特異的な特徴と、全IR領域にわたって無差別に吸収する単純なカーボンブラック印刷またはグラファイト印刷とを識別できるようにするため、この場合もIR吸収剤は1,100nm〜2,500の領域でIRを透過すべきである。そのような識別は、例えば適切な光電池(Ge、InGaAsなど)を用い、1,100nm〜2,500nm領域で単純な透明性検査を行うことによって実現化できる。
【0014】
鋼製金型(銅版、凹版)印刷は、貨幣および国が発行するそれ以外の高機密文書の製造を目的とするかなり特異的な方法である。凹版印刷機は重く高価な装置で、商業印刷用途には使用できず、専ら世界の少数の高機密印刷施設で使用されている。物理的にあまり性能が高くないというセキュリティ上の特徴でさえ、凹版印刷プロセスを通して適用すると、結果的にセキュリティレベルを高めることができる。鋼製金型印刷プロセス用インクに関する関連従来技術については、出願人の欧州公開特許EP-A-0340163号およびEP-A-0432093号、米国特許第4,966,628号および第5,658,964号、ならびに国際公開WO02/094952号パンフレットを参照されたい。これらの特許の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
機密印刷用の凹版インクは、糊のようなコンシステンシー(40℃で3パスカル秒(Pa・s)を超える、好ましくは5Pa・sを超えるかなり高い粘度を有する)を特徴とし、特に固形分の含有率が高く、通常50重量%を超えるのが特徴である。紙幣などの機密文書は、日光や環境の影響(即ち湿気、酸素、洗濯および一般的に入手可能な溶媒や化学物質)に対し、さらに耐久性と耐性がなければならない。したがって、高性能なエポキシエステルまたはウレタンバインダー樹脂を含む特に耐性の高いインク剤が機密文書の印刷に使用される。凹版インクに含まれる顔料、充填剤、および他の固形分は、同様の理由から、無機化合物を選択することが好ましい。しかし、耐性が高いことが証明されている有機顔料も同じように使用することができる。
【0016】
本発明の目的は、上記の条件を満たす凹版印刷インクを製造することである。
【0017】
現在、意外にも、彫刻鋼製金型印刷プロセス用インクにより上記の目的が解決されていることが見出されている。該インクはポリマー有機バインダー、赤外線吸収材料、および必要に応じて、溶媒および/または充填剤を含み、該インクは40℃での粘度が少なくとも3Pa・s、好ましくは5Pa・sの糊のようなコンシステンシーを有する。ここで、該赤外線吸収材料は遷移元素原子または遷移元素イオンを含み、それらのd殻内における電子遷移の結果赤外線を吸収する。
【0018】
意外にも、広帯域IR吸収剤として凹版印刷インクに好適な種類の材料が発見された。このインクは、該条件と一致するほか、狭帯域IR吸収剤、および無差別にIRを吸収するカーボンブラックIR吸収剤またはグラファイトIR吸収剤の双方の欠点を克服している。有機でも無機でもあり得る該赤外線吸収材料は、不完全な電子のd殻(即ち、遷移元素原子または遷移元素イオン)を有する特定の化学元素を含んでいるのが特徴で、その原子またはイオンの該d殻内における電子遷移の結果、赤外線を吸収する。選択された適切な遷移元素原子または遷移元素イオンの化合物は、NIR(700nm〜1,100nm)領域で吸収性であるが、可視領域(400nm〜700nm)のスペクトル、および1,100nm〜2,500nmのある領域ではほぼ透過性であることが見出された。これらの材料は、該NIR領域で中強度の吸収しか示さないという事実にもかかわらず、十分な量のIR吸収材料を機密文書に転写することで有用なIRコントラスト(吸収密度)が得られるような凹版印刷に適用することができる。
【0019】
遷移元素原子または遷移元素イオンの不完全なd殻内で起こる電子のd−d遷移については、無機分光分析を行う当業者にとって公知である。ここでは、A. B. P. Lever、"Inorganic Electronic Spectroscopy"、2ndedition、"Studies in Physical and Theoretical Chemistry, Vol. 33"、Elsevier、アムステルダム、1984年、Chapter 6を参照するものとする。本発明の文脈では、「遷移元素」または「遷移金属」の用語は、周期系の化学元素配列の原子番号22(Ti)〜29(Cu)、40(Zr)〜47(Ag)、および72(Hf)〜79(Au)に用い、特に第一遷移系列(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu)に適用するものとする。
【0020】
赤外線吸収化合物中の遷移元素は、チタン(III)イオン、バナジウム(IV)=バナジルイオン、クロム(V)イオン、鉄(II)イオン、ニッケル(II)イオン、コバルト(II)イオンまたは銅(II)イオン(対応する化学式は、Ti3+、VO2+、Cr5+、Fe2+、Ni2+,Co2+、およびCu2+)などのイオン形態で存在することが好ましい。さらに、構造上の理由または蓄積効果を生かすという理由により、2種以上の遷移元素原子または遷移元素イオン、および他の原子または他のイオン(陽イオンまたは陰イオン)が該化合物中に存在してもよい。
【0021】
遷移元素原子または遷移元素イオンのd殻内における電子遷移の結果として光を吸収する材料は、中程度の特異的な吸収を示すに過ぎない。したがって、材料の量を多くすることにより、それらの材料が特定の光を吸収できないという欠点を補わなければならない(即ち、求める吸収性を実現するには材料の層の厚さを十分なものにしなくてはならない)。このため、従来技術のIR吸収材料に基づくd殻遷移は、厚い被覆層(太陽電池パネルのIR吸収塗装)で用いるか、多量のプラスチック材料中で充填剤として使用するかのいずれかであった。しかし、赤外線吸収剤に基づくd殻遷移元素は、わずか数マイクロメートル(オフセット印刷およびフレキソ印刷用途)からせいぜい10〜15マイクロメートル(スクリーン印刷用途における乾燥残留物)までの層の厚さしか採用できずかつ顔料が充填されるのはその層の厚さ全体のごく一部であるという一般的な印刷用途には使用されていない。そのような制約を受け、インク処方の当業者は、材料の量を減らして求める結果を達成するため、赤外線吸収に高い特異性を示すIR吸収材料を好んで使用する。
【0022】
かなり厚い層(50マイクロメートル以下)の高固形分インクを基板に転写することができる凹版印刷プロセスの使用が見出されている。したがって、凹版印刷プロセスを使用することにより、有用な赤外線コントラストになるように、IR吸収材料に基づく十分な量の該d殻遷移を文書に用いることができる。さらに、開示されているIR吸収材料は一般的に印刷用途には利用できず、簡単に偽造できないことから、機密印刷での使用に適している。
【0023】
遷移元素化合物の赤外線吸収特性は、特定の技術分野において知られており、すでに活用されている。適切な化学的環境でFe(2+)イオンまたはCu(2+)イオンを有する鉄(II)化合物および銅(II)化合物が、近赤外線領域における効率的な広帯域IR吸収材料となることが証明されている。適切な鉄(II)化合物または銅(II)化合物は、可視領域のスペクトルで透過性であり、わずかに黄色がかったまたは青みがかった色調を示しており、周囲の環境条件(即ち、酸素や湿気に曝されること)に対して安定性である。「適切な化学環境」とは、例えばリン酸イオンもしくはポリリン酸イオン、またはより一般的には、リンおよび酸素を含有する基である。開示されている従来技術のIR吸収材料の多くで、実際に、酸素原子によりCu(2+)イオンまたはFe(2+)イオンがリン原子と結合され、M−O−Pの原子配列が形成されている。
【0024】
米国特許第4,296,214号(カマダら、Mitsubishi Rayon Co., Ltd.)では、共重合されたアクリルジホスホン酸エステルを含有する銅(II)を有する太陽熱吸収性アクリル樹脂を開示している。米国特許第5,466,755号(サカガミら、Kureha Kagaku Kogyo K. K.)では、アクリル共重合体を含有するリン酸一水素ジエステル基およびリン酸二水素モノエステル基に基づくプラスチック製光学フィルター材料を開示しており、その中には銅(II)イオンおよび/または鉄(II)イオンが組み込まれている。さらに、米国特許第6,410,613号(オオニシら、Kureha Kagaku Kogyo K. K.)は、銅イオンを含むIR吸収リン酸エステルポリマーに関するものである。これらのポリマー材料は、波長域700nm〜1200nmにおいて近赤外線吸収剤(フィルター)として有用であるが、今日まで印刷インクに使用されることはなかった。
【0025】
米国特許第5,236,633号および第5,354,514号(サタケら、Jujo Paper Co., Ltd.)では、透過性熱可塑性ポリマー(ポリメタクリル酸、ポリカーボネート、ポリエチレン、塩化ビニルなど)、有機チオ尿素化合物、および銅化合物に基づく近赤外線吸収材料が記載されており、これらを一緒に融解し、可視領域で透過性を示す(わずかに青みがかった)IR吸収プラスチック材料を得ている。米国特許第5,723,075号(ハヤサカ、Nippon Paper Industries, Co., Ltd.)でも、二量化された有機チオ尿素誘導体が使用されている以外は同様の技術が開示されている。
【0026】
The Sherwin-Williams Companyに許可された米国特許第2,265,437号および第5,800,861号では、特に、受動的太陽熱吸収装置などを製造するためのIR吸収塗装におけるリン酸銅、塩基性リン酸銅、およびピロリン酸銅の使用について開示している。これらの塗装は可視領域で吸収性を示すことに加え、700nm〜1200nmの広帯域な吸収領域を有することが特徴である。
【0027】
銅(2+)イオンを含むガラスを含有するリン酸塩および/またはフッ化物もIR吸収剤として使用されており、特に光学工業においてIR遮断フィルターに使用されている。米国特許第5,173,212号(Speitら、Schott Glaswerke)および米国公開特許2004/0082460号(ヤマネら、HOYA Corporation)では、対応するガラス構造とそれによって得られる光吸収スペクトルとを開示している。
【0028】
日本公開特許公報JP 05-279078 A2(マナベら、Asahi Glass Co. Ltd.)では、スクリーン印刷に適用する近赤外線吸収材料について開示している。その近赤外線吸収材料は無色の銅(II)リン酸塩ガラス粉末で、樹脂材料に混合され、近赤外線レーザーによる情報の機械読み取りに使用されている。日本公開特許公報JP 06-207161 A2(ウスイら、Asahi Glass Co. Ltd.)では、半導体レーザー(810nm)用の吸収剤としてリン酸銅(II)を含有する別のスクリーン印刷インクを開示している。日本公開特許公報JP 05-093160 A2(マツダイラ、Toppan Printing Co. Ltd.)では、目に見えない機密情報を印刷するための2成分のスクリーン印刷インクを開示している。このインクは、IR吸収剤として酸化鉄(II)および/または酸化銅(II)(Asahi Glass Co. Ltd.製)を含有するリン酸ガラス粉末を含む。さらに、日本公開特許公報JP 06-107985 A2(マツダイラら、Toppan Printing Co. Ltd.)では、IR吸収剤としてガラス質の白銅(II)および/またはリン酸銅(II)/リン酸鉄(II)を含む、2成分のIR吸収インクを開示している。これらのインクは、長寿命プラスチックのクレジットカード、IDカードなどの機密文書上の機械的読み取り可能なバーコードの印刷に使用されており、これらの機密文書では、印刷された情報が半導体近赤外線レーザーによって読み取られなければならない。
【0029】
しかし、広帯域近赤外線吸収化合物を含有する該種類の銅(II)または他の遷移元素原子または他の遷移元素イオンを含む彫刻鋼製金型(銅版、凹版)印刷インクは、今のところ開示されていない。
【0030】
彫刻鋼製金型印刷プロセス用の本発明のインクは、有機バインダー樹脂、好ましくは耐性の高いエポキシエステル、ウレタンアルキドまたはUV硬化型、および本発明による赤外線吸収材料の有機バインダー樹脂を含み、所望の可視色を製造するために1種以上の顔料を含んでいてもよい。また、40℃でのインクの粘度が3Pa・sを超える、好ましくは5Pa・sを超えるように調整するために充填剤および/または溶媒を含んでいてもよく、さらに、乾燥剤、光開始剤、ワックス、およびレオロジー添加剤などの添加剤を含んでいてもよい。該赤外線吸収材料は、遷移元素原子または遷移元素イオンのd殻内の電子遷移によってIR吸収が起こる遷移元素化合物である。凹版インク剤および一般的に凹版インクの製造に使用される材料(即ち、バインダー、充填剤、溶媒、顔料および他のインク添加剤)は当業者には公知であるため、本明細書ではこれ以上論じる必要はない。
【0031】
本明細書で開示されている凹版インクのIR吸収の原因は、狭帯域のIRに吸収性を示しかつ希土類イオン(Yb(3+))のf殻内の電子遷移によってIR吸収が起こるタシマらにより開示されているYbPO赤外線吸収剤(例えば、日本公開特許公報JP 08-143853)とは異なる。また、単離されたモリブデン原子のd殻内の遷移というよりはむしろ、錯体分子イオン内の協同的な電子電荷移動遷移によってIR吸収が起こる米国特許第4,244,741号に開示されている還元されたヘテロポリ酸(リンモリブデン酸)とも異なる。
【0032】
さらに、本明細書に開示されている凹版インクのIR吸収の原因は、欧州公開特許EP-A-0608118号の狭帯域近赤外線吸収シアニン型有機染料、および米国特許第3,705,043号の広帯域ニグロシン染料、およびIR吸収フタロシアニン類およびそれに関連する化合物などの他の有機染料とは明らかに異なる。注目すべきことに、既に述べた有機染料の光吸収特性は、炭素および他の原子の電子殻のp殻などの拡張分子電子π系と関係している。しかし、このような拡張π系は化学反応性が高いという欠点がある。この理由により、いくつかの例外は別として、公知の有機染料分子の大半は環境影響下(光、湿気、空気中の酸素)であまり安定ではない。
【0033】
本発明のIR吸収剤は、「混合原子価」化合物(プルシアンブルーなど)の原子価間電荷移動帯または半導体材料(GaAsなど)のバンドギャップ吸収といった、分子または固体化合物中の原子またはイオンの協同的な原子内吸収効果およびイオン内吸収効果のいずれにも依存しない。反対に、本明細書で論じる化合物は、電子遷移(d−d遷移)の原子内(それぞれイオン内)特性にのみ依存する。原子またはイオンの化学環境によりある程度の影響も受けるが、該d−d遷移は単離された原子またはイオンの主な特性である。
【0034】
本発明との関連において、好ましいIR吸収材料は、銅(II)化合物および/または鉄(II)化合物(例えば、該元素のリン酸塩)であり、最大の耐久性を得るために固体化合物の形態であることが好ましい。しかし、あるいは、特にバインダー成分が遷移元素イオン、好ましくはCu(2+)、および/またはFe(2+)に対する特異的な結合部位を含む場合、IR吸収遷移元素原子またはIR吸収遷移元素イオンはインクのポリマーバインダー成分と結合することもできる。該結合部位は、ホスフェート基またはホスホネート基であることができ、好ましくはポリマー主鎖に架橋されたまたはポリマー主鎖上にグラフトされたリン酸二水素モノエステル基であることができる。あるいは、遷移元素原子または遷移元素イオンのIR吸収錯体および結合部位は、例えばバインダーに溶解された有機チオ尿素−銅(II)錯体のように、ポリマー中に簡単に含めることができる。
【0035】
本発明との関連において、IR吸収遷移元素原子または遷移元素イオンを含む固体IR吸収剤は、1種以上の陽イオンと1種以上の陰イオンからなる結晶化合物であることが好ましい。陰イオンは岩石を構成する陰イオン(即ち、種々の陽イオンと反応して不溶性酸化鉱物を形成する水酸化物陰イオン、酸化物陰イオン、およびフッ化物陰イオンなどや、種々のホウ酸イオン、炭酸イオン、アルミン酸イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、チタン酸イオン、バナジウム酸イオン、ヒ酸イオン、モリブデン酸イオンおよびタングステン酸イオン)から選ばれるのが好ましい。少なくとも1種の陰イオンは、リン酸イオン(PO3−)、リン酸水素イオン(HPO2−)、ピロリン酸イオン(P4−)、メタリン酸イオン(P3−)、ポリリン酸イオン、ケイ酸イオン(SiO4−)、縮合ポリケイ酸イオン、チタン酸イオン(TiO2−)、縮合ポリチタン酸イオン、バナジウム酸イオン(VO3−)、縮合ポリバナジウム酸イオン、モリブデン酸イオン(MoO2−)、縮合ポリバナジウム酸イオン、タングステン酸イオン(WO2−)、縮合ポリタングステン酸イオン、フッ化物イオン(F)、酸化物イオン(O2−)、および水酸化物イオン(OH)からなる群から選ばれるのが好ましい。
【0036】
該陰イオンと組み合わせるIR吸収陽イオンは、単独またはIR不活性の鉱物学的同族体(例えば、鉄(II)の場合はマグネシウム(II)イオン(Mg2+)、銅(II)の場合は亜鉛(II)イオン(Zn2+))との固溶体である鉄(II)イオン(Fe2+)および銅(II)イオン(Cu2+)が好ましい。
【0037】
本発明との関連における有用なIR吸収性結晶化合物とは、中程度の高温(即ち、400℃を超えない温度)まで加熱しても、組成の一部(例えば、含まれる結晶水)が損なわれないような化合物である。実際に、脱水化合物を使用することの利点、即ち、約1〜4時間(問題とする化合物による)、恒量に達するまで、空気中で200℃〜400℃の温度に加熱することにより、結晶水または他の除去可能な基を含むこれらの化合物をそれぞれ前もって脱水することの利点が見出されている。
【0038】
具体的に、本発明では以下の化合物を使用することができる。フッ化銅(II)(CuF)、水酸化フッ化銅(CuFOH)、水酸化銅(Cu(OH))、リン酸銅(Cu(PO・2HO)、無水リン酸銅(Cu(PO)、塩基性リン酸銅(II)(例えば、CuPO(OH)、しばしばCu(PO・Cu(OH)の式で表記される「燐銅鉱」;Cu(PO)(OH)、「コルネ鉱」;Cu(PO(OH)、「擬孔雀石」;CuAl(PO(OH)・5HO、「トルコ石」など)、ピロリン酸銅(II)(Cu(P)・3HO)、無水ピロリン酸銅(II)(Cu(P))、メタリン酸銅(II)(Cu(PO、より正確にはCu(Pと表記される)、フッ化鉄(II)(FeF・4HO)、無水フッ化鉄(II)(FeF)、リン酸鉄(II)(Fe(PO・8HO、「藍鉄鉱」)、リン酸リチウム鉄(II)(LiFePO、「三燐石」)、リン酸ナトリウム鉄(II)(NaFePO、「マリカイト」)、ケイ酸鉄(II)(FeSiO、「鉄かんらん石」;FeMg2−XSiO、「かんらん石」)、炭酸鉄(II)(FeCO、「鉄白雲石」、「菱鉄鉱」)、リン酸ニッケル(II)(Ni(PO・8HO)、またはメタリン酸チタン(III)(Ti(P))。さらに、結晶性IR吸収剤は、2種以上の陽イオンが結晶構造に関与しているイオン性化合物(例えば、CaFe(PO・4HO、「アナパ石」)とも混合される。同様に、2種以上の陰イオンが、既に述べた塩基性リン酸銅(そこでは、OH()が第2の陰イオンである)のように、またはフッ化リン酸マグネシウム鉄(MgFe(PO)F、「ワグネライト」)のように両方一緒になって、その構造に関与することができる。
【0039】
さらに、固体IR吸収剤は、IR吸収遷移元素イオンを含むガラスであってもよい。ガラスは、ガラス中に存在するリン酸陰イオンおよび/またはフッ化物陰イオンに対する遷移元素イオンの配位があるリン酸塩含有種および/またはフッ化物含有種が好ましい。注目すべきことに、これらの陰イオンは「分光化学系列」の下位に位置する(即ち、遷移元素イオン内で低エネルギーのd−d遷移をもたらし、イオンの赤外線吸収帯を広げる)。「分光化学系列」に関しては、A. B. P. Lever、"Inorganic Electronic Spectroscopy"、2ndedition、"Studies in Physical and Theoretical Chemistry, Vol. 33"、Elsevier、アムステルダム、1984年、Chapter 9およびそこに引用されている参考文献を参照するものとする。
【0040】
本明細書に開示された凹版インクに導入できる同じ粉末形態のIR吸収剤ガラスについては、例えば、日本公開特許公報JP 05-279078 A2および日本公開特許公報JP 05-093160 A2に記載されており、これらの特許は既に上に引用した。
【0041】
凹版インク剤用の顔料と添加剤は、好ましくは50マイクロメートル未満、より好ましくは20マイクロメートル未満、最も好ましくは10マイクロメートル未満の統計的な粒子サイズを有する。粒子サイズが100マイクロメートル(最大カットオフ値)を超える個別粒子は含まれないようにすべきである。ほとんどの場合、この目標は最終的な分級(ふるい分け)操作によって達成される。注目すべきことに、例え少数であっても、大きすぎる粒子があると彫刻部のインクが破壊されやすいといった印刷機上の問題が生じる。
【0042】
このように、本発明の凹版インクで開発した赤外線吸収材料の「光学赤外線」領域(即ち、700nm〜2500nm)における特異的な吸収は、単に原子内またはイオン内の電子のd−d遷移によって起こるものである。しかし、吸収剤材料は、開発したこのIR吸収性に加え、さらに可視領域(即ち、400nm〜700nm)においてもd−d遷移帯域を示し、かつ紫外線領域のスペクトル(即ち、400nm未満)においてもあらゆる種類の吸収帯域を示すことができる。
【0043】
しかし、本発明の凹版インクに使用されるIR吸収剤材料は、化粧塗料に使用されるニッケル顔料やコバルト顔料(「コバルトブルー」など;米国特許第3,748,165号)、または従来からの印刷用途および塗装用途に使用される鉄系黄色顔料、鉄系赤色顔料および鉄系黒色顔料などの従来技術の遷移金属顔料とは異なる。従来技術のこれらの遷移金属顔料では、可視領域での吸収効果が意図的に模索され、開発されている。しかし、本発明の基本的な考え方は、インクのあらゆる種類の可視色に適合させ、かつ目に見えないマーキングに使用できるようにするために、可視領域のスペクトル(400nm〜700nm)で無色またはほとんど色がないIR吸収顔料を使用するというものである。
【0044】
したがって、本発明のインクに使用するIR吸収材料としては、可視領域のスペクトル(400nm〜700nm)で実質的に吸収しない材料(即ち、原粉末で測定した場合の国際照明委員会(CIE)(1976)の拡散反射明度(L)が70よりも高い、好ましくは80よりも高い材料)が好ましい。
【0045】
十分な強度の吸収効果を得るために、IR吸収遷移金属原子またはIR吸収遷移金属原子イオンは、IR吸収材料中でかなり高い濃度で存在しなくてはならず、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは40重量%以上の濃度である。したがって、本発明の凹版インクに使用されるIR吸収剤材料は、レーザーの用途に使用されるルビー(Al:Cr)または遷移金属をドープしたガーネット(米国特許第3,550,033号を参照のこと)および他の結晶などの発光性化合物を含む別の遷移元素である。注目すべきことに、これらの発光性化合物は、該発光効果を得るのに適した感光性または発光性の遷移金属イオンをごく低濃度で含んでいる。
【0046】
さらに、本発明の凹版インクは、印刷文書が該IR領域のスペクトルで良好なコントラストを示すように製造するために、IR吸収材料を十分に高い濃度で含む必要がある。インク中の吸収剤材料の有用な濃度は、インクの5重量%〜70重量%、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは20重量%〜50重量%である。これらの濃度は、発光性マーカーに使用される濃度よりもはるかに高い。
【0047】
さらに、IR吸収材料の該濃度は、文書上に赤外線暗色の部分と赤外線明色の部分を作り、または赤外線中間色の図柄を見えないように印刷するために、同じ文書で使用するインク中でそれぞれ変えることができる。このことは、例えば、該IR吸収インクがIR吸収レベルの点で異なる少なくとも2種の本発明によるIR吸収インクを担持する文書によって具体化することができる。
【0048】
別の態様では、IR吸収剤を含む同様のインクは、彫刻深度の異なる部分がある凹版を用いて印刷することができる。この方法で印刷すると、特に本発明で使用される中程度のIR吸収遷移金属化合物の場合に、文書上に赤外線暗色および赤外線明色の部分が作り出される。さらに、この赤外線吸収密度の調節は、彫刻深度の違いによって種々の可視色で見えることがないように、凹版インクを可視吸収顔料で強力に着色することによってカムフラージュすることができる。
【0049】
さらに広帯域型の吸収特性を備えた本発明のIR吸収材料は、同一インク中で、当業界に開示されたあらゆる種類の他のIR吸収材料、特にIR吸収有機材料と効果的に組み合わせることができる。本文脈においては、特に、遷移金属に基づくIR吸収材料よりも狭い吸収ピークを有するIR吸収有機材料が好ましい。この組み合わせにより、さらに複雑な赤外線吸収特性を確実に生み出すことができるとともに、隠されたマーキングの精巧さと安全性が高まる。有機IR吸収材料は、この得られた機械的読み取り可能なコントラストを活用するために、同一文書に印刷される第2のインク中にも含めることができる。
【0050】
本発明のIR吸収凹版インクは、紙幣、パスポート、小切手、証明書、IDカード、取引カード、印鑑、税ラベルなどの機密文書の製造に使用するのが好ましい。本明細書では、目に見えないIR吸収模様を製造するため、IR吸収インクが単独の偽造防止対策として印刷されるかまたは同じ可視色の非IR吸収インクと併用して使用されるかのいずれかが可能である。さらに、本発明のIR吸収インクは、同一文書上で、本明細書に開示されたインクとは組成が異なる他のIR吸収インク、特に有機IR吸収剤を含むインクと組み合わせることができる。
【0051】
本発明による彫刻鋼製金型印刷用インクの製造プロセスには、該遷移元素原子または該遷移元素イオンのd殻内の電子遷移の結果赤外線吸収が起こる遷移元素原子または遷移元素イオンを含む赤外線吸収材料を、さらなる任意選択材料と一緒に、ポリマー有機バインダーに組み込む工程が含まれる。
【0052】
印刷性能および凹版印刷プロセスを達成するための粘度および他のレオロジー特性の調整を含む凹版インクの製造については当業者には公知であるため、本明細書ではこれ以上論じる必要はない。
【0053】
本発明の凹版インクについて、典型的かつ非限定的な態様を用いて今からさらに説明する。
【0054】
実施例1:
リン酸ガラス赤外線吸収剤を含む酸化乾燥型凹版インク剤(紙拭き方式の銅版凹版印刷プロセス用)
桐油−マレイン酸変性フェノール樹脂付加生成物の高沸点鉱油(PKWF 28/31)液(25.0)
長油アルキド樹脂(7.5)
未精製桐油変性アルキルフェノール樹脂のInk Solvent 6/9(S. I. C.製)液(16.0)
ポリエチレンワックス(融点130℃)(1.5)
炭酸カルシウム(天然白亜)(13.0)
リン酸ガラスIR吸収顔料()(25.0)
有色顔料(**)(5.0)
Ink Solvent 6/9(S. I. C.製)(***)(6.0)
オクチル酸コバルト乾燥剤(11%金属)(0.1)
オクチル酸マンガン乾燥剤(10%金属)(0.1)
)米国公開特許2004/0082460号の実施例1に従って、平均粒子サイズがほぼ8〜10マイクロメートル程度になるようにリン酸ガラスIR吸収剤を粉砕し、ガラスセラミックIR吸収顔料を調製した(図1)。
色の一致したインクを得るため、IR吸収特性はないが、IR吸収顔料を同じ重量の炭酸カルシウムで置き換えた。
**)所望の色調によって有色顔料を選択した。例えば、
白色:C.I.顔料ホワイト6
黄色:C.I.顔料イエロー13
赤色:C.I.顔料レッド170
緑色:C.I.顔料グリーン7
青色:C.I.顔料ブルー15:3
紫色:C.I.顔料バイオレット23
黒色:三原色の混色による黒色(C.I.顔料レッド170、C.I.顔料イエロー13、C.I.顔料ブルー15:3を適切な比率で混合)。この顔料混合物は、光学赤外線を超える領域でインクが透過性を示す「IR透過ブラック」である。
***)Ink Solvent 6/9(Shell Industrial Chemicals製)を用い、インクの粘度が40℃で5Pa・s〜10Pa・sになるように調整した。
【0055】
均一なインクを得るため、各色ともIR吸収剤入りで1回、そしてIR吸収剤なしで1回、それぞれ乾燥剤を除く配合の全成分を一緒に撹拌し、3本ロールミルに2回かけることにより、所定の可視色インクの色の一致する組み合わせを調製した。最後に乾燥剤を加え、15分間撹拌し、完成したインクを真空下で脱気した。インクの粘度が40℃で10Pa・sになるように調整した。
【0056】
このようにして得られたインクを、標準型の凹版印刷機を用い、可視色と目に見えないIR特性を含む模様として紙幣用紙に印刷した。このように、貨幣の機械処理に有用なIR吸収模様は、文書の目に見える外観にはまったく影響を及ぼさずに実現することができた。
【0057】
実施例2:
酸化乾燥型枚葉凹版インク(水拭き方式の銅版凹版印刷プロセス用)
以下の配合に従い、水を含有した非インタリーブ印刷用凹版インクを製造する。
米国特許第4,966,628号に記載の高分子界面活性剤(15.0)
アルキルフェノール−桐油付加生成物の高沸点油(Magie 500)希釈液(固形物含量80%)(8.0)
長油アルキド樹脂の高沸点鉱油(Magie 500)希釈液(固形物含量80%)(10.0)
スルフォン化ひまし油ナトリウム塩水溶液(固形物含量60%)(2.0)
微粉化ポリエチレンワックス(2.0)
高沸点鉱油(Magie 500)(3.0)
IR吸収リン酸塩顔料()(35.0)
C.I.顔料ホワイト6(3.0)
炭酸カルシウム(15.0)
多金属乾燥剤(オクチル酸コバルト、オクチル酸マンガンおよびオクチル酸ジルコニウムの高沸点鉱油希釈液(固形物含量85%))(2.0)
セルロースエーテル(2.5%〜3.0%のMCまたはsod−CMC)(***)で粘度を高めた脱イオン水(15.0)
)IR吸収リン酸塩顔料は、リン酸銅水和物を400℃で2時間、空気中で加熱することによって得られる無水リン酸銅(Cu(PO)を使用した。
【0058】
色の一致したインクを得るため、IR吸収特性はないが、IR吸収顔料を同じ重量の炭酸カルシウムに置き換えた。
***)セルロースエーテルは、メチルセルロース(MC)および/またはカルボキシメチルセルロースナトリウム(sod−CMC)の群から選択し、C. Baker、The Book and Paper Group Annual、第1巻、1982年に記載されている通りに使用した。
【0059】
均一なインクを得るため、IR吸収剤入りで1回、そしてIR吸収剤なしで1回、それぞれ乾燥剤と水を除く配合の全成分を一緒に、Molteni製撹拌機を用いて室温で20分間撹拌し、その後3本ロールミルに2回かけることにより、白色インクの色の一致する組み合わせを調製した。最後に乾燥剤と水を加え、15分間撹拌した。Molteni製撹拌機を用い、得られたインクを真空下で脱気した。インクの粘度が40℃で10Pa・sになるように調整した。
【0060】
実施例3:
以下の配合に従い、UV硬化型陽イオン重合性凹版インクを従来の方法(即ち、全成分を予備混合した後、3本ロールミルに2回かけるという方法)で製造した。
米国特許第5,658,964号に記載の陽イオン重合性ワニス(44.0)
オニウム塩系開始剤(CYRACURE UVI 6974、Union Carbide製)(7.0)
IR吸収リン酸塩顔料()(15.0)
有色顔料(**)(3.0)
乾式二酸化ケイ素(AEROSIL 200、Degussa製)(15.0)
微粉化ポリエチレンワックス(CERIDUST 9615A、Hoechst製)(5.0)
界面活性剤(SILWET L 7604、Union Carbide製)(1.0)
粘度調整剤(トリエチレングリコール、Dow Chemicals製)(10.0)
)IR吸収リン酸塩顔料は、図3に示すような吸収スペクトルを持つリン酸リチウム鉄(II)(LiFePO、「三燐石」)を用いた。
【0061】
色の一致したインクを得るため、IR吸収特性はないが、IR吸収顔料を同じ重量の炭酸カルシウムで置き換えた。
**)実施例1に示すように、所望の色調によって有色顔料を選択した。
【0062】
インクの粘度が40℃で12.5Pa・sになるように調整した。インクは、UV硬化に対して優れた応答性を示し、かつ硬化後に非常に良好な暗色を示した。インクは紙で拭き取ることができ、かつ彫刻鋼製金型用インクを機密文書の印刷に使用するための必要条件を全て満たした。
【0063】
実施例4:
IR吸収性リン酸樹脂を含むUV硬化型ウレタンアクリレート凹版インク
反応ウレタンアクリレート単量体(26.6)
IR吸収単量体()(20.0)
カルナウバワックス(4.0)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(3.0)
UV安定剤(Florstab UV-1)(2.0)
有色顔料(**)(5.0)
充填剤(CaCO)(***)(33.0)
ESACURE(登録商標)ITX(2.6)
IRGACURE 369(3.8)
)IR吸収単量体は、米国特許第5,466,755号の実施例1(図4の曲線1を参照のこと)または実施例2(図4の曲線2を参照のこと)を参照して調製した。これらの単量体と銅(II)塩、銅(II)塩と鉄(II)塩をそれぞれ一緒に温めた状態で(60℃)、重合開始剤を加えずに撹拌した。
**)実施例1に示すように、所望の色調によって有色顔料を選択した。
***)インクの粘度が40℃で5Pa・sを超えるように調整した。インクは、長波長UV硬化に対して良好な応答性を示した。
【0064】
本発明によるインク、特に実施例で例示されたインク担持した紙幣、パスポート、小切手、証明書、IDカードまたは取引カード、印鑑、税ラベルなどの印刷文書は、標準型の凹版印刷機による印刷で実現した。該文書上の目に見える特性に加え、目に見えないIR吸収模様を製造するため、IR吸収インクは単独の偽造防止対策として印刷されるか、または、代わりに同じ色調の非IR吸収インクを併用して印刷された。
【0065】
実施例5:
特異的なさらなるIR吸収ピークを持つ酸化型凹版インク(図5を参照のこと)
桐油−マレイン酸変性フェノール樹脂付加生成物の高沸点鉱油(PKWF 28/31)液(25.05)
長油アルキド樹脂(7.5)
未精製桐油変性アルキルフェノール樹脂のInk Solvent 6/9(Shell Industrial Chemicals製)液(16.0)
ポリエチレンワックス(1.5)
炭酸カルシウム(19.0)
リン酸銅水和物を400℃で2時間、空気中で加熱することによって得られる無水リン酸銅(Cu(PO)(25.0)
ヘキサデカ−(3−エトキシ−1−チオフェノラート)−フタロシアナート−亜鉛(II)(0.15)
Ink Solvent 6/9(Shell Industrial Chemicals製)(5.0)
オクチル酸コバルト(11%金属)(0.1)
オクチル酸マンガン(10%金属)(0.1)
上に記載した通りにインクを調製した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本出願の実施例1で使用するリン酸銅(II)ガラス顔料のIR吸収特性の図である。
【図2】本出願の実施例2によるリン酸銅を含む白色凹版インクのIR吸収特性の図である。
【図3】本出願の実施例3で使用するリン酸鉄(「三燐石」(LiFePO))のIR吸収特性の図である。
【図4】本出願の実施例4で使用するリン酸銅(II)ポリマーおよび/またはリン酸鉄(II)ポリマーのIR吸収特性の図である。
【図5】本出願の実施例5によるリン酸銅およびさらに有機IR吸収剤を含む凹版インクのIR吸収特性の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー有機バインダーと赤外線吸収材料とを含む彫刻鋼製金型印刷プロセス用インクであって、40℃での粘度が少なくとも3Pa・s、好ましくは少なくとも5Pa・sの糊のようなコンシステンシーを有する該インクにおいて、該赤外線吸収材料が遷移元素化合物を含み、かつその化合物の赤外線吸収が遷移元素原子類または遷移元素イオン類のd殻内の電子遷移の結果起こることを特徴とするインク。
【請求項2】
該遷移元素が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、およびCuからなる群から選択される、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
該遷移元素が、Ti3+、VO2+、Cr5+、Fe2+、Ni2+、Co2+、およびCu2+からなるイオン群から選択されるイオンである、請求項1または2に記載のインク。
【請求項4】
該IR吸収遷移元素イオン(単数または複数)を含む該赤外線吸収材料が、ガラス、好ましくはガラス中に存在するリン酸陰イオンおよび/またはフッ化物陰イオンに対する該遷移元素イオンの配位があるリン酸塩含有ガラスおよび/またはフッ化物含有ガラスである、請求項1から3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
該IR吸収遷移元素イオン(単数または複数)を含む該赤外線吸収材料が、1種以上の陽イオンと1種以上の陰イオンからなる結晶化合物である、請求項1から3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
陰イオンが、リン酸イオン(PO3−)、リン酸水素イオン(HPO2−)、ピロリン酸イオン(P4−)、メタリン酸イオン(P3−)、ポリリン酸イオン、ケイ酸イオン(SiO4−)、縮合ポリケイ酸イオン、チタン酸イオン(TiO2−)、縮合ポリチタン酸イオン、バナジウム酸イオン(VO3−)、縮合ポリバナジウム酸イオン、モリブデン酸イオン(MoO2−)、縮合ポリバナジウム酸イオン、タングステン酸イオン(WO2−)、縮合ポリタングステン酸イオン、フッ化物イオン(F)、酸化物イオン(O2−)、および水酸化物イオン(OH)からなる群から選択される、請求項5に記載のインク。
【請求項7】
該赤外線吸収材料が、フッ化銅(II)(CuF)、水酸化フッ化銅(CuFOH)、水酸化銅(Cu(OH))、リン酸銅(Cu(PO・2HO)、無水リン酸銅(Cu(PO)、塩基性リン酸銅(II)(CuPO(OH)、燐銅鉱;Cu(PO)(OH)、コルネ鉱;Cu(PO(OH)、擬孔雀石;CuAl(PO(OH)・5HO、トルコ石)、ピロリン酸銅(II)(Cu(P)・3HO)、無水ピロリン酸銅(II)(Cu(P))、メタリン酸銅(II)(Cu(P)、フッ化鉄(II)(FeF・4HO)、無水フッ化鉄(II)(FeF)、リン酸鉄(II)(Fe(PO・8HO、藍鉄鉱)、リン酸リチウム鉄(II)(LiFePO、三燐石)、リン酸ナトリウム鉄(II)(NaFePO、マリカイト)、ケイ酸鉄(II)(FeSiO、鉄かんらん石;FeMg2−XSiO、かんらん石)、炭酸鉄(II)(FeCO、鉄白雲石、菱鉄鉱)、リン酸ニッケル(II)(Ni(PO・8HO)、メタリン酸チタン(III)(Ti(P))、CaFe(PO・4HO(アナパ石)、およびMgFe(PO)F(ワグネライト)からなる化合物群から選択される、請求項5または6のいずれか1項に記載のインク。
【請求項8】
該赤外線吸収材料が、該インクの該ポリマーバインダーの成分と結合しているIR吸収遷移元素原子またはIR吸収遷移元素イオンである、請求項1から3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項9】
該インクの該ポリマーバインダーが、遷移元素イオンに対する、好ましくはCu2+、および/またはFe2+に対する特異的な結合部位を含む、請求項8に記載のインク。
【請求項10】
該結合部位が、ポリマー主鎖に架橋された、またはポリマー主鎖上にグラフトされたリン酸基である、請求項9に記載のインク。
【請求項11】
該赤外線吸収材料が、遷移元素原子または遷移元素イオンのIR吸収錯体と該ポリマーに含まれる結合部位であり、好ましくは該バインダーに溶解された有機チオ尿素−銅(II)錯体である、請求項1から3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項12】
該IR吸収材料が、原粉末で測定した場合のCIE(1976)の拡散反射明度(L)が70よりも高い、好ましくは80よりも高い、請求項1から11のいずれか1項に記載のインク。
【請求項13】
該IR吸収材料が、IR吸収遷移元素原子またはIR吸収遷移元素イオンを10重量%以上、好ましくは20重量%以上、より好ましくは40重量%以上の濃度で含む、請求項1から12のいずれか1項に記載のインク。
【請求項14】
IR吸収材料をインクの5重量%〜70重量%、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは20重量%〜50重量%の濃度で含む、請求項1から13のいずれか1項に記載のインク。
【請求項15】
追加のIR吸収剤を含むインクであって、該追加のIR吸収剤が有機化合物である、請求項14に記載のインク。
【請求項16】
該追加のIR吸収剤が、該遷移金属に基づくIR吸収材料よりも狭いIR吸収ピークを示す、請求項15に記載のインク。
【請求項17】
該遷移元素原子類または該遷移元素イオン類のd殻内の電子遷移の結果赤外線吸収が起こる遷移元素化合物を含む赤外線吸収材料を、さらなる任意選択材料と一緒にポリマー有機バインダーに組み込む工程を含んでなる、請求項1から16のいずれか1項に記載の彫刻鋼製金型印刷用インクの製造プロセス。
【請求項18】
紙幣、パスポート、小切手、証明書、IDカードまたは取引カード、印鑑、税ラベルなどの機密文書を印刷するための、請求項1から16のいずれか1項に記載の該彫刻鋼製金型印刷プロセス用インクの使用。
【請求項19】
請求項1から16のいずれか1項に記載のIR吸収インクを担持していることを特徴とする紙幣、パスポート、小切手、証明書、IDカードまたは取引カード、印鑑、税ラベルなどの機密文書。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか1項に記載のIR吸収インクを少なくとも2種担持し、これらのIR吸収インクがIR吸収レベルの点で異なることを特徴とする、請求項19に記載の機密文書。
【請求項21】
彫刻深度の異なる部分がある凹版で印刷されるIR吸収インクを担持し、結果的にIR吸収レベルの異なる部分が印刷されている、請求項19に記載の機密文書。
【請求項22】
有機IR吸収剤を含む少なくとも1種の追加のIR吸収インクを担持し、請求項19から21のいずれか1項に記載の機密文書。
【請求項23】
請求項1から16のいずれか1項に記載のIR吸収インクを、彫刻鋼製金型印刷プロセスの方法を用いて該機密文書に適用する工程を含んでなる、請求項19から21のいずれか1項に記載の機密文書の製造プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−517490(P2009−517490A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541711(P2008−541711)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068586
【国際公開番号】WO2007/060133
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(500269417)シクパ・ホールディング・ソシエテ・アノニム (23)
【Fターム(参考)】