説明

赤外線撮像装置及び赤外線画像の表示方法

【課題】航空機の運航上有用な特定対象を操縦士が容易に認識できるように赤外線画像を表示することができる赤外線撮像装置及び赤外線画像の表示方法の提供。
【解決手段】航空機に搭載される赤外線撮像装置であって、前記航空機に固定され、被写体から放射される赤外線を検知する検知部と、前記検知部から順次出力される信号に基づいて前記被写体の二次元の温度情報を生成する処理部と、前記二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する表示部とを少なくとも備え、前記処理部は、前記二次元の温度情報に基づいて前記被写体から予め設定した特定対象(稜線などの指標となる対象、電線や他の航空機などの障害物となる対象)を抽出し、前記被写体の前記特定対象以外の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定して、前記特定対象を識別可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線撮像装置及び赤外線画像の表示方法に関し、特に、ヘリコプタや小型飛行機などの航空機に搭載される赤外線撮像装置及び航空機の運航を支援する赤外線画像の表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線撮像装置は、物体から放射される赤外線を検知するものであり、夜間や視界が悪い悪天候時においても画像を取得できるという特徴がある。そこで、赤外線撮像装置を医療用や消防防災用、警備用のヘリコプタや小型飛行機などの航空機に搭載し、赤外線撮像装置で撮像した赤外線画像を表示して運航の支援に利用している。
【0003】
このような赤外線撮像装置は、航空機の進行方向を撮像して被写体から放射される赤外線を検知する検知部と、検知部から出力される信号を処理する処理部と、赤外線画像を表示する表示部などで構成される。また、検知部は、集光光学系及び検知器などからなり、マウントにより航空機に固定される。
【0004】
上記赤外線撮像装置では、目標物から放射された赤外線は集光光学系によって検知器に集光され、集光された赤外線は検知器で電気信号に変換されて処理部に送られ、処理部では電気信号を温度情報に変換して二次元の温度情報を生成し、表示部で二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する。そして、操縦士は赤外線画像から運航上の指標となる対象や障害物となる対象などを識別し、それらを利用して航空機を制御する。
【0005】
このようなヘリコプタに搭載される赤外線撮像装置として、例えば、下記特許文献1には、空中を移動可能な機体と、機体の位置を特定する機体位置特定手段と、機体に搭載され、地表面上の目標物を撮影する撮影手段と、機体に対して、撮影手段の向いている方向を検出する方向検出手段と、地表面の三次元的な位置を表すデータを記録しておく地表面記録手段と、機体位置特定手段、撮影手段、方向検出手段および地表面記録手段からの出力に応答し、機体の位置から撮影手段の向いている方向に延ばした直線と地表面との交点を算出し、目標物の位置として特定する演算処理手段とを含む位置特定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−285590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、赤外線画像は物体の温度に応じて階調を変化させた画像(例えば、白黒表示の場合は高温部を白、低温部を黒、疑似カラーの場合は高温部を赤、低温部を青などで表示した画像)であるため、目視では見えない、若しくは見にくい対象であっても検知することができ、航空機の運航に利用することができる。
【0008】
例えば、空の温度は非常に低く、地表と温度差があるため、赤外線画像ではその境界線を識別することができる。また、凹凸のある山では山肌の面の方向によって温度が異なるため、赤外線画像ではその境界線を識別することができる。そして、これらの境界線(稜線)を指標にして航空機を操縦することができる。
【0009】
また、地表から離れている電線などは地表よりも温度が低くなるため、赤外線画像では電線を識別することができる。また、ヘリコプタや飛行機などの航空機はエンジン部分の温度が高くなるため、赤外線画像では航空機を識別することができる。そして、このような電線や航空機などの障害物を避けるように航空機を操縦することができる。
【0010】
一方、赤外線画像では、温度の高い対象は目立つように(白黒表示では白く、疑似カラーでは赤く)表示されるため、その他の対象が識別しにくくなる。例えば、人家が多い地域の上空を飛行する場合には、多数の人家が白く(又は赤く)表示されるために、稜線などの指標となる対象や電線や航空機などの障害物となる対象(これらを総称して特定対象と呼ぶ。)が識別しにくくなってしまう。
【0011】
そのため、航空機の操縦士は、航空機の運航上有用な特定対象を抽出することが困難となり、安全に航空機を操縦することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、航空機の運航上有用な特定対象を操縦士が容易に認識できるように赤外線画像を表示することができる赤外線撮像装置及び赤外線画像の表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、航空機に搭載される赤外線撮像装置であって、前記航空機に固定され、被写体から放射される赤外線を検知する検知部と、前記検知部から順次出力される信号に基づいて前記被写体の二次元の温度情報を生成する処理部と、前記二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する表示部とを少なくとも備え、前記処理部は、前記二次元の温度情報に基づいて前記被写体から予め設定した特定対象を抽出し、前記被写体の前記特定対象以外の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定して、前記特定対象を識別可能にするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の赤外線撮像装置及び赤外線画像の表示方法によれば、航空機の運航上有用な特定対象を操縦士が容易に認識できるように赤外線画像を表示することができる。
【0015】
その理由は、赤外線撮像装置は、検知部から出力される信号に基づいて生成した被写体の二次元の温度情報から、予め定められたルールに従って、運航上有用な特定対象を抽出し、被写体の特定対象以外の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定し、必要に応じて、特定対象の温度情報を予め定めた一定の高い値に設定して、特定対象を識別可能に表示するからである。
【0016】
また、赤外線撮像装置は、二次元の温度情報から特定対象を抽出した場合には、特定対象を抽出したことを操縦士に知らせる警告を行うからである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例に係るヘリコプタの構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係る赤外線撮像装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施例に係る検知器の構成を示す回路図である。
【図4】本発明の一実施例に係る処理部の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の一実施例に係る処理部に含まれる演算部の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の一実施例に係る赤外線撮像装置を用いた赤外線画像の表示手順を示すフローチャート図である。
【図7】本発明の一実施例に係る赤外線撮像装置で撮像した赤外線画像(遠方に空を望む被写体の画像)の一例を示す図である。
【図8】図7の赤外線画像の特定対象(稜線)を識別できるようにした画像の一例を示す図である。
【図9】本発明の一実施例に係る赤外線撮像装置で撮像した赤外線画像(電線を含む被写体の画像)の一例を示す図である。
【図10】図9の赤外線画像の特定対象(電線)を識別できるようにした画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
背景技術で示したように、ヘリコプタや小型飛行機などの航空機に赤外線撮像装置を搭載し、進行方向を撮像して取得した赤外線画像を運航の支援に利用している。しかしながら、赤外線画像は、高温の対象が目立つように表示されるため、稜線などの指標となる対象や、電線や他の航空機などの障害物となる対象のような、運航上有用な特定対象が識別しにくいという問題があった。
【0019】
ここで、空の温度は非常に低く、かつ、画面上部で連続していることから、所定の温度で連続する所定の大きさの領域があれば、その領域を空として特定し、領域の境界線を稜線として特定することができる。また、山肌は面の方向によって温度が異なることから、所定の温度範囲で連続する所定の大きさの領域があれば、その領域を山肌として特定し、領域の境界線を稜線として特定することができる。
【0020】
また、電線は地表から離れた場所にあるために地表よりも温度が低く、かつ、連続する長い線で構成されることから、略一定の温度で連続する所定の長さの直線又は曲線があれば、その直線又は曲線を電線として特定することができる。また、航空機のエンジン部分は温度が高く、かつ、背景に対して移動することから、所定の温度以上の移動物体があれば、その移動物体を他の航空機として特定することができる。
【0021】
そこで、本発明の一実施の形態では、上述したルールに従って、検知部から出力される信号に基づいて生成した被写体の二次元の温度情報から、稜線などの指標となる対象や、電線や他の航空機などの障害物となる対象、すなわち、運航上有用な特定対象を抽出し、被写体の特定対象以外の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定し、必要に応じて、特定対象の温度情報を予め定めた一定の高い値に設定して、特定対象を識別可能にして赤外線画像を表示する。また、運航上有用な特定対象を抽出した場合には、特定対象を抽出したことを操縦士に知らせる警告を行い、特定対象が見過ごされないようにする。
【0022】
これにより、操縦士は様々な対象が表示される赤外線画像から、運航上有用な特定対象を簡単に識別することができ、安全に航空機を操縦することができる。
【実施例】
【0023】
上記した本発明の一実施の形態についてさらに詳細に説明すべく、本発明の一実施例に係る赤外線撮像装置及び赤外線画像の表示方法について、図1乃至図10を参照して説明する。図1は、本発明の一実施例に係るヘリコプタの構成を模式的に示す斜視図であり、図2は、赤外線撮像装置の構成を模式的に示すブロック図である。また、図3は、検知器の構成を示す回路図であり、図4は、処理部の構成を示すブロック図、図5は、処理部の中の演算部の構成を示すブロック図である。また、図6は、本実施例の赤外線撮像装置を用いて赤外線画像を表示する手順を示すフローチャート図であり、図7乃至図10は、本実施例の赤外線撮像装置を用いて撮像した赤外線画像(図7及び図9は処理前の画像、図8及び図10は処理後の画像)の一例を示す図である。
【0024】
図1に示すように、本実施例の赤外線撮像装置20は、夜間や視界が悪い環境でも使用される医療用や消防防災用、警備用などのヘリコプタや小型飛行機などの航空機(本実施例ではヘリコプタ10とする。)に設置されるものである。
【0025】
この赤外線撮像装置20は、図2に示すように、マウント24によりヘリコプタ10の所定の位置(例えば、ヘリコプタ10の底部)に固定され、ヘリコプタ10の進行方向を撮像して被写体から放射される赤外線を検知する検知部21と、検知部21から出力される信号を処理して被写体の二次元の温度情報を生成すると共に、稜線などの指標となる対象や電線や他の航空機などの障害物となる対象(特定対象)を識別しやすくする処理を行う処理部25と、二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する表示部26と、必要に応じて、特定対象の選択などの操作を行う操作部27などで構成される。また、上記検知部21は、レンズやミラーなどの集光光学系22と、入射した赤外線を電気信号に変換する検知器23などで構成される。
【0026】
なお、ヘリコプタ10の進行方向とは、ヘリコプタ10の正面のみならず、正面の上方、下方、側方を含む。また、図2では、検知部21と処理部25を別々に構成しているが、検知部21と処理部25を一体的に構成してもよい。また、本実施例では、検知部21でヘリコプタ10の進行方向を撮像する構成とするが、撮像方向は進行方向に限定されず、例えば、ヘリコプタ10の下方などを撮像する構成としてもよい。
【0027】
以下、検知器23と処理部25の詳細について説明する。
【0028】
[検知器]
図3に示すように、検知器23は、複数の画素が二次元のマトリクス状に配列された赤外線検出素子と、赤外線検出素子からの信号を処理する信号処理部などで構成され、信号処理部は、基板内に作り込まれる内部回路と、基板外に設けられる外部回路などで構成される。
【0029】
赤外線検出素子の各々の画素は、例えば、ボロメータ23aなどの温度抵抗素子とMOSトランジスタ23bなどの選択素子とで構成され、MOSトランジスタ23bのソースはGNDに接続され、MOSトランジスタ23bのドレインはボロメータ23aを介して垂直信号線23dに接続され、MOSトランジスタ23bのゲートは水平信号線23cに接続されている。また、垂直信号線23dと出力端子OUTの間には、PチャネルMOSトランジスタとNチャネルMOSトランジスタなどからなるトランスファゲート23gが接続されている。
【0030】
そして、水平信号線23cは垂直シフトレジスタ23e及びアンド回路23hによって順次選択され、垂直信号線23dは水平シフトレジスタ23f及びアンド回路23iによって順次選択され、選択された水平信号線23c及び垂直信号線23dが交差する画素のボロメータ23aの赤外線映像信号が出力端子OUTから出力される。
【0031】
なお、本実施例では、複数の画素が二次元に配列された赤外線検出素子を用いて二次元の温度情報を生成する構成としているが、赤外線検出素子の画素構成は任意であり、例えば、画素が一次元に配列された赤外線検出素子や1つの画素からなる赤外線検出素子を用い、ポリゴンミラー等の光学系で走査して二次元の温度情報を生成する構成としてもよい。また、赤外線検出素子は温度抵抗素子に限らず、入射赤外線を電気信号に変換可能な素子であればよい。
【0032】
[処理部]
図4に示すように、検知器23から出力される赤外線映像信号を処理する処理部25は、増幅器25aと、A/D変換器25bと、フレームメモリ25cと、演算部25dと、D/A変換器25eなどで構成される。
【0033】
増幅器25aは、検知器23からの赤外線映像信号を増幅し、A/D変換器25bに渡す。A/D変換器25bは、赤外線映像信号をディジタル信号に変換して、フレームメモリ25cに記憶する。演算部25dは、フレームメモリ25cから順次データを読み出し、予め記憶したテーブルを参照して各画素のディジタル信号を温度情報に変換して二次元の温度情報を生成し、特定対象を識別しやすくする処理を行ってD/A変換器25eに出力する。D/A変換器25eは、ディジタル信号をアナログの表示映像信号に変換し、表示部26に出力する。
【0034】
すなわち、本実施例の赤外線撮像装置の特徴部分である演算部25dは、図5に示すように、特定対象抽出部と、特定対象強調処理部としても機能する。
【0035】
特定対象抽出部は、予め定めたルール(具体的内容は後述する。)に従って、二次元の温度情報から、稜線などの指標となる対象や電線や他の航空機などの障害物となる対象などの特定対象を抽出する。
【0036】
特定対象強調処理部は、被写体の特定対象以外を消去(すなわち、特定対象以外の画素の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定)して、特定対象を識別しやすくする。また、特定対象の温度が高くない場合(特定対象が稜線や電線などの場合)は、特定対象以外の温度を低くしても特定対象が識別しにくいことから、特定対象を明確化(すなわち、特定対象の画素の温度情報を予め定めた一定の高い値に設定)して、特定対象を識別しやすくする。
【0037】
なお、処理部25や演算部25dは図4及び図5の構成に限定されず、検知器23から出力される信号に基づいて二次元の温度情報を生成する共に、特定対象を識別しやすくする処理が実行できる構成であればよい。
【0038】
次に、本実施例の赤外線撮像装置を用いて赤外線画像を表示する手順について、図6のフローチャート図及び図7乃至図10の赤外線画像例を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明において、特定対象(1つでも複数でもよい。)は、予め操作部27によって設定されているものとする。
【0039】
ヘリコプタ10の操縦士等が赤外線撮像装置を起動、若しくは、ヘリコプタ10の起動に連動して赤外線撮像装置が自動的に起動すると、ステップS101で、検知部21はヘリコプタ10の進行方向を撮像して被写体から放射される赤外線を検知して、赤外線映像信号を処理部25に送信する。
【0040】
次に、ステップS102で、処理部25は、検知部21から受信した赤外線映像信号を増幅、A/D変換してフレームメモリに格納した後、検知器23の各画素のデータを温度情報に変換して二次元の温度情報を生成する。そして、処理部25(特定対象抽出部)は、二次元の温度情報から予め定めた特定対象を抽出する。
【0041】
例えば、図7のように遠方に空を望む被写体を撮像した場合、空は物体から放射される赤外線がほとんどなく、地表に比べて十分に温度が低いことから、所定の温度範囲(例えば、約−10℃以下)の画素が連続する所定の大きさの領域(空などの背景)を特定し、その領域の境界線を稜線(地平線)として抽出する。
【0042】
また、凹凸のある山では、山肌の面の向きによって日中の太陽光の吸収具合や樹木の生え方などが異なり、山肌の面の向きによって温度が異なることから、所定の温度範囲内で連続する所定の大きさの領域を特定し、その領域の境界線を稜線(尾根)として抽出する。
【0043】
ここで、所定の大きさの領域に限定しているのは、被写体内に予め設定した温度範囲の他の対象が存在する場合があり、それらが特定対象として抽出されるのを防止するためである。また、上記では予め設定した温度範囲の画素が連続する領域を特定したが、温度情報が不連続となる画素を特定し、それらの画素が線状に繋がっている場合に、その線を稜線として抽出する構成としてもよい。
【0044】
また、図9のように電線や鉄塔などの障害物を含む被写体を撮像した場合、電線は地表から離れた場所にあるために地表との温度差があり、かつ、所定の長さの直線又は曲線で構成されることから、略一定の温度で連続する所定の長さの直線又は曲線を特定し、その直線又は曲線を電線として抽出する。また、鉄塔は地表から突出しているために地表との温度差があることから、電線の経路上で地表と温度差がある部分を特定し、その部分を鉄塔として抽出する。
【0045】
ここで、所定の長さの直線又は曲線に限定しているのは、被写体内に略一定の温度で連続する線状の他の対象が存在する場合があり、それらが特定対象として抽出されるのを防止するためである。
【0046】
また、ヘリコプタや飛行機などの他の航空機を含む被写体を撮像した場合、航空機のエンジン部分は背景に比べて十分に温度が高く、かつ、背景に対して移動することから、所定の時間間隔で撮像した被写体の二次元の温度情報から、所定の温度以上の画素で、その画素の位置が背景に対して変化している移動物体を特定し、その移動物体を他の航空機として抽出する。
【0047】
また、濃い霧が発生している場合やヘリコプタ10が飛行する高度に雲が発生している場合、安全上、それらは避けて飛行することが好ましい。そこで、霧や雲を含む被写体を撮像した場合、霧や雲は背景(例えば、空)に比べて温度が高く、背景(例えば、地表)に比べて温度が一定していることから、所定の温度範囲の画素が連続する所定の大きさの領域を特定し、その領域を霧や雲として抽出する。
【0048】
そして、特定対象を抽出しなかった場合(ステップS103のNoの場合)は、ステップS106に遷移して、処理部25は、特定対象に対する処理を行っていない二次元の温度情報をHMDやモニタなどの表示部26に出力し、表示部26は、その二次元の温度情報に基づいて赤外線画像を表示し、撮像終了が指示されていなければ(ステップS107のNo)、ステップS101に戻って同様の処理を繰り返す。
【0049】
一方、特定対象を抽出した場合(ステップS103のYesの場合)は、ステップS104で、処理部25(特定対象強調処理部)は、特定対象を識別しやすくする処理を行う。
【0050】
例えば、図7及び図9の画像において、被写体中の特定対象(稜線や電線)以外の画素の温度情報を、予め定めた一定の低い値(例えば、最低の階調の温度)に設定する。また、特定対象(稜線や電線)は温度が低く、そのままでは識別しにくいため、必要に応じて、特定対象の画素の温度情報を、予め定めた一定の高い値(例えば、最高の階調の温度)に設定する。
【0051】
また、他の航空機を含む画像においても、被写体中の特定対象(他の航空機)以外の画素の温度情報を予め定めた一定の低い値(例えば、最低の階調の温度)に設定する。なお、航空機のエンジン部分は十分に温度が高く、そのままでも認識可能なため、特定対象の画素の温度情報は変更する必要はないが、航空機のエンジン部分だけでは航空機自体を特定しにくいため、例えば、公知の画像処理技術を利用して航空機全体を特定し、航空機全体の画素の温度情報を予め定めた一定の高い値(例えば、最高の階調の温度)に設定してもよい。
【0052】
また、霧や雲を含む画像においても、被写体中の特定対象(霧や雲)以外の画素の温度情報を予め定めた一定の低い値(例えば、最低の階調の温度)に設定し、必要に応じて、特定対象の画素の温度情報を、予め定めた一定の高い値(例えば、最高の階調の温度)に設定する。
【0053】
次に、必要に応じて、ステップS105で、特定対象を抽出したことを操縦士に知らせる警告を行う。この警告の方法は任意であり、例えば、ステップS106で赤外線画像を表示するHMDやモニタなどの表示部26に警告メッセージを表示してもよいし、HMDヘリコプタ10に備えるスピーカなどから警告メッセージを出力してもよいし、ヘリコプタ10に備える警告ランプ等を点灯/点滅させてもよい。
【0054】
その後、ステップS106で、処理部25は、特定対象に対する処理を行った二次元の温度情報をHMDやモニタなどの表示部26に出力し、表示部26は、その二次元の温度情報に基づいて赤外線画像を表示し、撮像終了が指示されていなければ(ステップS107のNo)、ステップS101に戻って同様の処理を繰り返す。
【0055】
例えば、図7の画像において、特定対象として稜線(地平線)を抽出した場合は、図8(a)に示すように、特定対象以外を消去(例えば、白黒表示において黒で表示)、若しくは目立たなくして表示(例えば、疑似カラーにおいて青で表示)し、必要に応じて、特定対象を強調表示(例えば、白黒表示において白、疑似カラーにおいて赤で表示)し、特定対象(地平線)を識別しやすくする。
【0056】
同様に、特定対象として稜線(地平線と尾根)を抽出した場合は、図8(b)に示すように、特定対象以外の画素を消去若しくは目立たなくして表示し、必要に応じて、特定対象を強調表示して、特定対象(地平線と尾根)を識別しやすくする。
【0057】
また、図9の画像において、特定対象として電線及び鉄塔を抽出した場合は、図10(a)に示すように、特定対象以外の画素を消去(例えば、白黒表示において黒で表示)、若しくは目立たなくして表示(例えば、疑似カラーにおいて青で表示)し、必要に応じて、特定対象を強調表示(例えば、白黒表示において白、疑似カラーにおいて赤で表示)し、特定対象(電線や鉄塔)を識別しやすくする。
【0058】
また、特定対象として、稜線(尾根)と電線及び鉄塔を抽出した場合は、図10(b)に示すように、特定対象以外の画素を消去若しくは目立たなくして表示し、必要に応じて、特定対象を強調表示して、特定対象(尾根と電線及び鉄塔)を識別しやすくする。
【0059】
また、図示していないが、特定対象として他の航空機を抽出した場合、霧や雲を抽出した場合も、特定対象以外の画素を消去若しくは目立たなくして表示し、必要に応じて、特定対象を強調表示して、特定対象(他の航空機、霧や雲)の画素を識別しやすくする。
【0060】
なお、図8及び図10は、本実施例の赤外線画像の一例であり、特定対象が画面上で識別しやすくなる表示形態であればよい。例えば、特定対象以外の画素は、必ずしも完全に消去する必要はなく、特定対象の画素よりも十分に低い温度(階調)で表示されればよい。また、特定対象以外は必ずしも同じ温度(階調)で表示する必要はなく、一定の割合で温度(階調)を落として表示してもよい。
【0061】
このように、本実施例の赤外線撮像装置20によれば、検知部21から出力される信号に基づいて生成した二次元の温度情報から予め設定した特定対象を抽出し、被写体の特定対象以外の画素の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定し、必要に応じて、特定対象の画素の温度情報を予め定めた一定の高い値に設定して、特定対象を強調した赤外線画像を表示するため、特定対象を容易に識別することができる。また、特定対象を抽出した場合は、特定対象を抽出したことを知らせる警告を行うため、特定対象の見落としを未然に防止することができる。そして、これらにより、ヘリコプタ10を安全に運航することができる。
【0062】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、その構成や制御方法は適宜変更可能である。
【0063】
例えば、上記実施例では、指標となる対象として地平線、稜線を例示したが、滑走路やヘリポートなどの目標として使用可能な任意の対象を選択することができる。また、上記実施例では、障害物となる対象として電線及び鉄塔、他の航空機、霧や雲を例示したが、高い建物などの回避すべき任意の対象を選択することができる。
【0064】
また、赤外線撮像装置で検出する赤外線の波長も特に限定されず、3〜5μm帯を検出しても良いし、8〜12μm帯を検出しても良いし、これらを組み合わせても良い。また、赤外線画像と可視画像を組み合わせた画像を処理/表示してもよい。
【0065】
また、上記実施例では、二次元の温度情報を生成する際に、特定対象を抽出して、特定対象以外の画素の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定したが、二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する際に、特定対象を抽出して、特定対象以外の画像をマスクして表示されないようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、医療用や消防防災用、警備用のヘリコプタや小型飛行機などの航空機に搭載される赤外線撮像装置及び当該赤外線撮像装置における赤外線画像の表示方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 ヘリコプタ
20 赤外線撮像装置
21 検知部
22 集光光学系
23 検知器
23a ボロメータ
23b MOSトランジスタ
23c 水平信号線
23d 垂直信号線
23e 垂直シフトレジスタ
23f 水平シフトレジスタ
23g トランスファゲート
23h、23i アンド回路
24 マウント
25 処理部
25a 増幅器
25b A/D変換器
25c フレームメモリ
25d 演算部
25e D/A変換器
26 表示部
27 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機に搭載される赤外線撮像装置であって、
前記航空機に固定され、被写体から放射される赤外線を検知する検知部と、前記検知部から順次出力される信号に基づいて前記被写体の二次元の温度情報を生成する処理部と、前記二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する表示部とを少なくとも備え、
前記処理部は、前記二次元の温度情報に基づいて前記被写体から予め設定した特定対象を抽出し、前記被写体の前記特定対象以外の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定して、前記特定対象を識別可能にする、ことを特徴とする赤外線撮像装置。
【請求項2】
前記特定対象は稜線であり、
前記処理部は、前記二次元の温度情報から、所定の温度範囲で連続する所定の大きさの領域を特定し、前記領域の境界線を前記稜線として抽出する、ことを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項3】
前記特定対象は電線であり、
前記処理部は、前記二次元の温度情報から、略一定の温度で連続する所定の長さの直線又は曲線を特定し、前記直線又は曲線を前記電線として抽出する、ことを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項4】
前記特定対象は他の航空機であり、
前記処理部は、前記二次元の温度情報から、所定の温度以上の移動物体を特定し、前記移動物体を前記他の航空機として抽出する、ことを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記特定対象の温度情報を予め定めた一定の高い値に設定する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載の赤外線撮像装置。
【請求項6】
前記処理部は、前記二次元の温度情報から前記特定対象を抽出した場合は、前記特定対象を抽出したことを前記航空機の操縦士に知らせる警告を行う、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一に記載の赤外線撮像装置。
【請求項7】
航空機に搭載される赤外線撮像装置を用いた赤外線画像の表示方法であって、
前記航空機に固定される検知部を用いて、被写体から放射される赤外線を検知する第1ステップと、
前記検知部から順次出力される信号に基づいて前記被写体の二次元の温度情報を生成する第2ステップと、
前記二次元の温度情報に基づいて前記被写体から予め設定した特定対象を抽出する第3ステップと、
前記被写体の前記特定対象以外の温度情報を予め定めた一定の低い値に設定して、前記特定対象を識別可能にする第4ステップと、
前記二次元の温度情報に基づく赤外線画像を表示する第5ステップと、を有する、ことを特徴とする赤外線画像の表示方法。
【請求項8】
前記特定対象は稜線であり、
前記第3ステップでは、前記二次元の温度情報から、所定の温度範囲で連続する所定の大きさの領域を特定し、前記領域の境界線を前記稜線として抽出する、ことを特徴とする請求項7に記載の赤外線画像の表示方法。
【請求項9】
前記特定対象は電線であり、
前記第3ステップでは、前記二次元の温度情報から、略一定の温度で連続する所定の長さの直線又は曲線を特定し、前記直線又は曲線を前記電線として抽出する、ことを特徴とする請求項7に記載の赤外線画像の表示方法。
【請求項10】
前記特定対象は他の航空機であり、
前記第3ステップでは、前記二次元の温度情報から、所定の温度以上の移動物体を特定し、前記移動物体を前記他の航空機として抽出する、ことを特徴とする請求項7に記載の赤外線画像の表示方法。
【請求項11】
前記第4ステップでは、更に、前記特定対象の温度情報を予め定めた一定の高い値に設定する、ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか一に記載の赤外線画像の表示方法。
【請求項12】
前記第3ステップにおいて、前記赤外線画像から前記特定対象を抽出した場合は、前記特定対象を抽出したことを前記航空機の操縦士に知らせる警告を行う、ことを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一に記載の赤外線画像の表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−153850(P2011−153850A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14143(P2010−14143)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】