説明

赤外線放射を感知する方法および装置

本発明の実施形態は、赤外線(IR)放射を感知する方法および装置に関する。特定の実施形態において、暗視デバイスは数層の有機薄膜を積層することによって製造することができる。本デバイスの実施形態は、10〜15ボルトの範囲の電圧で動作可能であり、従来の暗視デバイスと比較して、製造コストがより低い。本デバイスの実施形態は、有機光トランジスタと有機発光デバイスを直列に組み合わせることができる。特定の実施形態において、全ての電極は赤外光に対し透過性である。IR感知層はOLEDと組み合わされて、IR−可視色アップコンバージョンを提供することができる。暗電流特性の改善は、IR感知層の一部として正孔の少ない輸送層を組み込むことによって達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2009年11月24日に出願された米国仮特許出願第61/264,071号の利益を主張するものであり、いかなる図、表または図面をも含めて、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
既存の夜間明視装置は、非常に高い動作電圧を必要とし、数千ドルの費用がかかる。典型的な夜間明視装置は、専用の光源に頼る代わりに既存の光を増強する複雑な電気光学デバイスである。夜間明視装置は、可視光から赤外線まで、幅広いスペクトルの光を感知することができる。典型的な構成において、対物レンズと呼ばれる従来のレンズは、環境光や多少の近赤外光も捕らえる。集められた光は、その後、イメージ増幅管に送られる。管からは、通常約5,000ボルトの高電圧が管構成要素に出力される。イメージ増幅管は、光カソードを使って、光エネルギーの光子を電子に変換することができる。電子が管を通り抜けると、より多くの電子が管内の原子から放出され、その結果、電子はもとの数の数千倍となり得る。この増加を実現する方法の1つは、マイクロチャンネルプレート(MCP)を使うことである。MCPは、光カソードからの電子がMCPの第1の電極に当たった際に、高電圧(約5,000ボルト)バーストが電極対の電極間で送られることによって、電子がガラスマイクロチャンネル内に加速され得るように管内に配置される。電子がマイクロチャンネルを通り抜けると、それら電子は、カスケード二次放出と呼ばれる処理を使って、各チャンネルで他の電子の放出をもたらす。これらの新しい電子も他の原子とぶつかり、連鎖反応を起こし、その連鎖反応によって、ほんの少数のみが入り込んだチャンネルから数千の電子が出るようにできる。
【0003】
イメージ増幅管は、管の端でカスケード電子が蛍光物質で覆われたスクリーンに当たるように配置することができる。これらの電子は、それらが通過したチャンネルに関連して、その位置を維持する。電子のエネルギーにより蛍光物質は励起状態に達し、光子の放出をもたらす。これらの蛍光物質は、スクリーン上に暗視を特徴づける緑色の画像を生成する。電子はもとの光子と同じ配置で留まるため、信頼できる画像を生成することができる。緑色の蛍光画像は、ユーザが画像を拡大および焦点を合わせることができる接眼レンズと呼ばれる他のレンズを通して見ることができる。暗視デバイスは、モニタなどの電子ディスプレイに接続することができ、画像は接眼レンズを通して直接見ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、光アップコンバージョンデバイスが非常に多くの研究的な関心を集めており、これは、半導体ウェハ検査とともに、暗視、距離測定、セキュリティーにおける潜在用途のためである。初期の近赤外(NIR)アップコンバージョンデバイスは、ほとんどが無機半導体のヘテロ接合構造に基づいていた。これらのデバイスは、直列な2つの部分からなり、一方は光検出のため、もう一方は発光のためのものである。アップコンバージョンデバイスは、主に、光検出方法によって区別される。しかしながら、最近のデバイスでのアップコンバージョン効率は、非常に低い状態が続いている。例えば、発光ダイオード(LED)と半導体ベースの光検出器を一体化したある近赤外−可視光アップコンバージョンデバイスは、最大外部変換効率0.048(4.8%)W/Wを示したに過ぎない。無機InGaAs/InP光検出器と有機発光ダイオード(OLED)を一体化したハイブリッド無機/有機アップコンバージョンデバイスでさえ、外部変換効率0.7%W/Wを示すに過ぎない。更に、現在の無機およびハイブリッドアップコンバージョンデバイスは、製造に高い費用がかかり、それらのデバイスを製造するために使われる処理は、大面積用途との適合性がない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は赤外線(IR)放射を感知する方法および装置に関する。IR放射を感知するための特定の実施形態は、暗電流特性の改善をもたらす。一実施形態は、全有機デバイスに組み込むことができる。1つの実施形態において、有機発光デバイス(OLED)と有機光検出器を1つのデバイスに統合することによって製造可能となる全有機アップコンバージョンデバイスが提供される。本発明の一実施形態によるOLEDのIR感知層は、正孔の少ない輸送層で形成することができる。ある実施形態において、IR感知層は、OLEDに組み込むことができ、IR−可視色アップコンバージョンを提供する。
【0006】
特定の実施形態において、暗視デバイスは、数層の有機薄膜を積層することによって製造することができる。本デバイスの実施形態は、10〜15ボルトの範囲の電圧で動作可能であり、従来の暗視デバイスと比較して、製造コストがより低い。デバイスの実施形態は、有機光トランジスタと有機発光デバイスを直列に組み合わせることができる。特定の実施形態において、全電極は、赤外光に対し透過性である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態による赤外線感知アップコンバージョンデバイスのエネルギーバンド図である。
【図2】1つの電子から複数の光子を生成することを可能にする、本発明の一実施形態によるデバイスの構造を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態によるアップコンバージョンデバイスの動作を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による別の赤外線感知アップコンバージョンデバイスのエネルギーバンド図である。
【図5】図4のデバイスの構造図である。
【図6A】図4のデバイスの光−電流−電圧特性を示し、デバイスが暗所にある場合の特性を示す図である。
【図6B】図4のデバイスの光−電流−電圧特性を示し、デバイスが赤外線放射にさらされた場合の特性を示す図である。
【図7A】制御有機発光デバイスの電流効率を示す図である。
【図7B】図4のデバイスの電流効率を示す図である。
【図8A】本発明の一実施形態による100nm厚の純SnPc膜と、100nm厚のSnPc:C60の混合膜の吸光スペクトルを示す図である。
【図8B】本発明の実施形態による制御OLED(図7Aの挿入図に示す)および2つのアップコンバージョンデバイスの暗I−V特性を示す図であり、一方のデバイスは100nm厚の純SnPc膜を備え、他方のデバイスは100nm厚のSnPc:C60混合膜を備える。
【図9A】暗所および光(赤外線)放射下での本発明の一実施形態による赤外線−緑色光アップコンバージョンデバイスの光−電流−電圧特性を示す図である。
【図9B】本発明の一実施形態による赤外線−緑色光アップコンバージョンデバイスに対する電流密度の関数として、オン/オフ比のプロットを示す図である。
【図10A】図5のデバイスの光子−光子変換効率を示す図である。
【図10B】本発明の別の実施形態の量子効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態は、赤外線(IR)放射を感知する方法および装置に関する。本発明の一実施形態は、OLEDと有機光検出器を1つのデバイスに統合することによって製造することができる全有機アップコンバージョンデバイスを提供する。軽量基板、凹凸基板、または柔軟なプラスチック基板と整合性があるため、本発明の実施形態による全有機アップコンバージョンデバイスは、暗視、距離測定、セキュリティー、および半導体ウェハ検査を含むがそれらに限定されない多数の用途で使用可能である。
【0009】
特定の実施形態において、暗視デバイスは数層の有機薄膜を積層することによって製造することができる。本デバイスの実施形態は、10〜15ボルトの範囲の電圧で動作可能であり、従来の暗視デバイスと比較して、製造コストがより低い。特定の実施形態において、全電極は赤外光に対して透過性である。
【0010】
サーマルイメージングのための撮像デバイスの波長は、材料の選択によって調整することができる。特定の実施形態において、撮像デバイスは、IR感知可能である3つの層を有する赤外線吸収層を備える。一実施形態では、タンデム発光デバイス(LED)を組み込むことができ、そのタンデム発光デバイスは積層内に複数のLEDを備える。特定の実施形態において、1つの光子が撮像デバイスに入り、積層内の5つのLEDを通り、出力として5つの光子を生成する。ともに積層された5つのLEDは、単一のLEDよりも高い電圧を使用するが、それでもデバイスを低い電圧で動作可能にすることができる。5つの積層されたLEDによって、単一のLEDを備えるデバイスよりも撮像デバイスが厚くなることがあり、したがって、ノイズに対する感受性がより低い。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態において組み込むことができるIR感知アップコンバージョンデバイスのエネルギーバンド図を示す。
【0012】
図1に示すデバイスのような、本発明によるIR感知デバイスの実施形態は、IR増感体またはIR感知層、および発光デバイスの2つの部分を備えることができる。一実施形態において、図1に示すデバイスの最大量子効率は、100%である。本発明の一実施形態において、性能を向上させるために、デバイスはタンデム構造を備えて製造される。
【0013】
図2は、本発明の一実施形態による、IR感知層とLEDを組み込んだ、そのようなタンデム構造を有するデバイスを示す。この構造では、1つの電子は複数の光子を生成することができる。このデバイス構成を組み込むことで、デバイスの出力は利得を得るために高めることができる。デバイスの厚さが増すため、暗電流を低くすることができ、デバイス性能を実質的に改善することができる。
【0014】
図3は、本発明の一実施形態によるアップコンバージョンデバイスの動作を示す。図示のように、IR波長の光は、ガラス、または別の適切な透明もしくは半透明材料などの、透明、または半透明基板を通ってデバイスに入ることができる。その後、光子は、第1透明(または、半透明)電極を通り、IR感知層に当たることができる。IR感知層は、特定の実施形態において、0.8μm〜2μmの範囲で感受性を示すことができる。更に特定の実施形態において、IR感知層は、700nmから14μmの範囲、1μmから4μmの範囲、および1μmから3μmの範囲の波長で感受性を示すことができる。その後、IR感知層は、電子および正孔などのキャリアを生成することができ、そのような電子または正孔は、LEDの積層に渡される。図3において、有機発光デバイス(OLED)が示されているが、本発明において他の発光デバイスを使ってもよい。特定の実施形態において、LEDは透明、または半透明である。IR感知層からの電子などのキャリアが第1のLED(図3におけるOLED)に入り、それに対応する正孔などのキャリアと結合すると、光子が生成され、デバイスを通り抜けることができる。第1および第2のLED(図3におけるOLED1およびOLED2)の間の電荷分離層において、正孔が第1のLEDに入り、IR感知層から第1のLEDに入る電子と結合して光子を生成することができるよう、電子および正孔が生成される。ここで、5つのLEDは直列に示されており、したがって、デバイスに入る各光子に対して5つの光子が生成され得る。LEDは同一でも異なっていてもよい。以下に記載するように、LEDは薄膜として製造することができる。したがって、複数のLEDは、扱いにくいデバイスを製造することなく積層することができる。特定の実施形態において、3から8個のLEDを直列に積層することができる。他の実施形態において、より多くのLEDを積層することができる。追加のLEDが積層されると、利得が高くなくてもノイズを削減することができる。
【0015】
図3を参照すると、特定の実施形態において、正孔ブロック層(図3では図示しない)を、IR放射が入る透明電極とIR感知層の間に追加することができる。そのような層は、透明電極からIR感知層に、および/またはIR感知層から透明電極に正孔が通ることをブロックすることができる。そのような正孔ブロック層を組み込んでいる特定の実施形態は、ZnOナノ粒子、TiO2ナノ粒子、または当分野において周知である他の適切な材料を使用することができる。ZnOナノ粒子またはTiO2ナノ粒子、および/またはZnO層またはTiO2層は、IR感知層を追加する前に透明電極に積層させることができる。
【0016】
図3に示すように、特定の実施形態において、第2の透明(または半透明)電極、またはカソードは、LED積層の別の側に配置することができる。本実施形態において、電極対の間の電位は、IR感知層から第1のLEDに正孔などのキャリアを動かすことができ、電子や正孔が生成される各電荷分離層からLEDに入りカソード電極へ向けて正孔を動かすことができる。同じように、カソードによって注入された電子は第5のLEDの中に動かされ、電荷分離(生成)層で生成された電子はLEDに入り、アノードに向けて動かされる。
【0017】
透明電極は、(アルミニウムなどの)反射電極材を(インジウムスズ酸化物などの)透明材に交換することにより製造することができる。本発明の1つの実施形態において、層状CsCO3(1nm)/Ag(10nm)/ITO(100nm)電極は、頂部電極として使われる。CsCO3中間層は、カソード仕事関数を下げ、OLEDの一部として使うことのできる材料であるフェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)の電導(LUMO)エネルギーと一致させる。薄Ag層は導電性をもたらし、ITO層はカプセル封止をもたらす。薄膜積層の実施形態は、90%の光透過と5ohm/sqより低いシート抵抗を有し、これは、典型的なITO電極より70%低い。特定の実施形態において、MgAgやITOの薄膜は、透明電極、例えば、最後の発光デバイスと接触する透明電極として使用することができる。薄膜は、特定の実施形態において、厚さ20nm以下にすることができる。
【0018】
任意の波長の可視光を生成するOLEDを作り出すことができる。1つの実施形態において、有機発光層は、それぞれ青色、緑色、赤色の光を発する3つの異なる色素分子を備える。デバイスにおける3つの色素分子の相対的な存在量を制御することによって、90より大きな高演色評価数の白色光を得ることができる。別の実施形態において、3つの色素分子の相対的な存在量を変化させることによって、または異なる分子に送られる電力を変化させることによって、様々な色が得られる。
【0019】
透明なOLEDの場合、やはり(インジウムスズ酸化物などの)透明材料をカソードとして使うことができる。このようにして、光子は積層OLEDを通過することができる。これらデバイスで使われる有機材料は、これら材料のバンドギャップが高い(通常は3eVより大きい)ため、可視スペクトルにおいてほぼ透明である。例外として、所望の発光を生成する色素分子を備えることができるが、その色素分子は、通常は厚さ10〜30nmの発光層内にドーパント(典型的なドーピング濃度は約1〜10wt%)として組み込むことができる。したがって、全OLEDデバイスは、90%以上の非常に高い透過性を達成することができる。
【0020】
3重ドープ有機発光層を有する透明OLEDの製造において、下地の有機層への損傷は、インジウムスズ酸化物透明カソードのスパッタ積層中に最小にすることができる。更に、低シート抵抗、および高透過性は透明電極に対して得ることができ、電極/有機インターフェースでの高効率電荷注入を達成することができる。上記のように、CsCO3/Ag/ITOの複合電極は、OLEDに対する透明電極として使うこともできる。更に、マイクロレンズアレイが基板表面に製造されて、その方向における光の抽出を高めることもできる。更に、90より大きな演色評価数の高品質照明を提供するOLEDを作り出すことができる。
【0021】
他の実施形態において、使用される電極とLEDは、いくつかの波長の光に対して透過的であり、別の波長を吸収する。
【0022】
ある実施形態によれば、光感知層は、PbSeおよびPbS量子ドットなどの量子ドットを組み込むことができる。
【0023】
特定の実施形態において、本アップコンバージョンデバイスは、夜間明視装置、または別の光増幅装置に組み込むことができる。他の実施形態において、緑色OLEDは、緑色増幅画像を従来の夜間明視装置と同様に作り出すために使われる。
【0024】
図4は、本発明の一実施形態による別のIR感知アップコンバージョンデバイスのエネルギーバンド図を示す。一実施形態によれば、正孔の少ない注入および輸送層は、IR感知アップコンバージョンデバイスに組み込まれ、暗電流特性を改善することができる。特定の実施形態において、暗電流を削減し、したがってSNRを改善するために、1mA/cm2より小さい電流密度を有する材料を、正孔注入および輸送層のために選択することができる。あまり好適ではない実施形態において、1mA/cm2以上の電流密度を有する材料を正孔注入および輸送層に使うことができ、暗電流が増え、SNRが減るように電圧を印加すると、電極からの正孔の注入が増加する。1つの実施形態において、正孔の少ない注入および正孔輸送を示すSnPc:C60混合層により、デバイスは、IR照射無しに低暗電流を有することが可能になる。本実施形態において、IR放射にさらされない場合、OLEDを本質的にオフにすることができる。
【0025】
図5は、図4のデバイスの構造図を示す。
【0026】
図5を参照すると、有機近赤外−可視アップコンバージョンデバイスは、NIR増感体としてスズフタロシアニン(SnPc):C60バルクへテロ構造層を、蛍光エミッタとしてfac−トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)(lrppy3)層を使って提供することができる。蛍光エミッタを使うことによって、光生成は低エネルギーで実現することができ、エネルギー効率の良いOLEDを提供することができる。従来のOLED構造との違いの1つとして、本発明の一実施形態によるアップコンバージョンデバイスは、正孔の少ない輸送NIR感光層を組み込み、デバイスをIR照射の無いオフ状態に保つ。光励起すると、光生成正孔がOLEDに注入され、カソードから注入された電子と再結合され、可視光を放つ。
【0027】
図6Aおよび図6Bは、図5のデバイスの光−電流−電圧(L−I−V)特性を示す。CuPc:μh=7x10-4cm2/Vs。SnPc:μh=2x10-10cm2/Vs。図6Aは、デバイスがいかなる赤外光にもさらされない場合の特性を示す。白丸は電流密度であり、黒丸は輝度である。図示のように、本実施形態において、赤外光照射無しでは、発光は13Vまで観測されなかった。上記のように、本実施形態における高立ち上がり電圧は、SnPc:C60層からの少ない正孔注入のためである。
【0028】
図6Bは、デバイスがIR放射にさらされた場合の特性を示す。14mW/cm2の830nmレーザを、デバイスに照射するために使用した。図示のように、本実施形態において、OLEDは、レーザからの赤外照明によって2.7Vで作動した。最大オン/オフ比は12.7Vで1400を超えた。
【0029】
図7Aおよび図7Bは、制御有機発光デバイス(図7A)および図4のデバイス(図7B)の電流効率を示す。図示のように、本実施形態において、IR照明下での電流効率は、100cd/Aよりも大きい。電流効率がより高くなるにつれ、制御OLEDは、依然、不均衡に帯電し、わずかに電子優勢であるということを示す。
【0030】
本発明のある実施形態によれば、SnPc:C60バルクヘテロ構造層は、図8Aに示すような強いIR吸収、および図8Bに示すような正孔の少ない輸送特性のため、正孔の少ない輸送IR感光層に使われる。図8Bは、本発明の実施形態による制御OLED(図7Aの挿入図参照)およびNIR感光層を備えるアップコンバージョンデバイスの暗電流電圧(I−V)特性を示す。純SnPc層の追加により立ち上がり電圧は3Vから約5Vまで増加し、測定範囲にわたる動作電圧も約2V増加し、SnPcの正孔の少ない輸送特性を示す。SnPc:C60混合膜の追加は、更に、動作電圧をもう2V増加する。制御OLEDデバイスと比較すると、SnPc:C60混合層を備えるアップコンバージョンデバイスは、正孔電流の大幅な減少を示す。
【0031】
図9Aは、本発明の一実施形態による、正孔の少ない輸送NIR感光層としてSnPc:C60混合膜を備えるNIR−緑色アップコンバージョンデバイスの輝度−電流−電圧(L−I−V)特性を示す。赤外線照射無しでは、発光は電圧が13Vに達するまで検出されず、15Vで最大輝度(1cd/m2)を示す。立ち上がり電圧が高いことは、SnPc:C60混合層からの正孔輸送が少ないことを示す。電流は、カソード接点から注入される電子によって支配することができる。NIR光で照射すると、デバイスは、緑発光の発現と共に、2.7Vで作動し、15Vで853cd/m2の輝度を示した。したがって、IR光によるスイッチング効果は、図9Bに示すように顕著であり、様々な電圧でのオン/オフ比を提供する。図示のように、輝度強度の最大オン/オフ比は、12.7Vで約1400であった。
【0032】
図10Aおよび図10Bは、図4のデバイスの光子−光子変換効率(図10A)、および本発明の別の実施形態の量子効率(QE)(図10B)を示す。
【0033】
入射IR光の光子から、放射された緑色光の光子への光子−光子変換効率(ηcon)は、以下の式で計算することができる。
【数1】

ここで、hはプランク定数、cは光の速度、λは光子波長、Iphotoは光電流、fは感光層に到達した光子の割合、R(λ)は光検出器の応答性、λIRは入射赤外波長、およびPIRは入射赤外パワーである。
【0034】
ここでも、14mW/cm2の830nmレーザを、デバイスを照射するために使用した。図示のように、図4のデバイスに対し、光子−光子変換効率は印加電圧が増えるにつれて増加し、光子−光子変換効率は15Vで2.7%であった。このアップコンバージョン効率は、蛍光OLEDを使用した以前に実証された全有機アップコンバージョンデバイスの効率より大幅に高い。
【0035】
測定のためのアップコンバージョンデバイス構造において、図10Bの挿入図に示すように、光検出器構造全体は使われない。それどころか、IR吸収層が正孔注入層として使われる。したがって、正確な外部量子効率は、IR光を入れてから電荷キャリアを取り出すまで測定されない。しかしながら、外部量子効率は、本光検出器構造を作ることによって間接的に測定される。図10Bの挿入図に示すアップコンバージョンデバイスにおいて、厚さ20nmのSnPc:C60混合層が単独で使われ、14mW/cm2の830nmIRレーザがIR源として使われる。同じIR照射および同じIR吸収層の厚さで、5〜20%の外部量子効率(EQE)が得られた。
【0036】
Irppy3を基にしたOLEDのEQEは、文献では、およそ20%である。したがって、変換効率を計算すると、約1〜4%であり、実験に基づく変換効率と一致する。この変換効率は、赤色−緑色アップコンバージョンデバイスのものより、およそ10倍高い。
【0037】
「1つの実施形態」「一実施形態」「例示的な実施形態」等の本明細書におけるどのような言及も、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、または性質が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれるということを意味する。本明細書の様々な箇所において現れるそのようなフレーズは、必ずしも全てが同じ実施形態について言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、または性質が任意の実施形態と関連して記載された場合、実施形態の別のものと関連したそのような特徴、構造、または性質を使用すること、または組み合わせることは、当業者の理解の範囲に入るものと考えられる。
【0038】
本発明の実施形態に関する図および記述は簡略化してあり、本発明の明確な理解ために関連する要素は説明しているが、よく知られているであろう他の要素については、明確化のために省略していることが理解されよう。当業者は、他の要素が本発明を実現するために望ましいこと、および/または必要とされるであろうことを認識するであろう。しかしながら、そのような要素は当分野においてよく知られており、それらは本発明のより良い理解には供さないので、そのような要素の記述は本明細書では行わない。
【0039】
例示として提供された上記の例によって、本発明と、本発明に関する多くの利点についての理解が深まるであろう。上記の例は、本発明の方法、用途、実施形態、および変形のうちのいくつかを例示したものである。当然ながら、それらは本発明を限定するものとみなされない。多数の変更および修正を、本発明に対して行うことができる。
【0040】
本明細書において参照または引用された全ての特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、本明細書の明白な教示と矛盾しない限りにおいて、全ての図および表を含む全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0041】
本明細書において記述された例および実施形態は、例示的な目的のためのものに過ぎず、それに照らして様々な修正または変更が当業者に示唆され、それらも本出願の趣旨および範囲に含まれると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第1の端部が前記第1の電極と接している赤外線(IR)感知層と、
第1の端部が前記赤外線感知層の第2の端部と接している第1の発光デバイス(LED)と、
第1の端部が前記第1のLEDの第2の端部と接している第1の電荷分離層と、
第1の端部が前記電荷分離層の第2の端部と接している第2のLEDと、
自身の第2の端部と接している第2の電極と、
を備え、
電位が前記第1および第2の電極間に印加され、前記IR感知層がIR放射にさらされた場合に、感知電子および感知正孔がIR感知層内で生成され、かつ第1の正孔および第1の電子が前記第1の電荷分離槽内で生成され、前記第1の正孔および前記第1の電子の一方が前記第1のLEDに移され、前記IR感知層内で生成された前記感知電子および前記感知正孔の一方が前記第1のLEDに移され、それぞれ前記第1の正孔および前記第1の電子の一方と結合し、前記第1のLEDにおいて第1の放出光子を作り出し、前記第1の電荷分離層内で生成された前記第1の正孔および前記第1の電子の他方が前記第2のLEDに移され、前記第2のLEDに移された対応する電子または正孔と結合し、第2の放出光子を作り出す、赤外線(IR)放射感知デバイス。
【請求項2】
前記感知電子が前記第1のLEDに移り、前記第1の正孔と結合し、前記第1の電子が前記第2のLEDに移り、前記第2のLEDに移された前記対応する正孔と結合する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記感知正孔が前記第1のLEDに移され、前記第1の電子と結合し、前記第1の正孔が前記第2のLEDに移され、前記第2のLEDに移された前記対応する電子と結合する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記第2のLEDに移された前記対応する電子または正孔が、前記第2の電極から前記第2のLEDに移される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記第1の電極が、少なくとも部分的に透明である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記第1の電極が透明である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記第2の電極が、少なくとも部分的に透明である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第2の電極が透明である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第2の電極が、MgAgの膜である、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記MgAgの膜が、厚さが20μm以下である、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
少なくとも1つの追加のLEDおよび対応する少なくとも1つの追加の電荷分離層を更に備え、前記少なくとも1つの追加のLEDの各々の第1の端部は前記対応する少なくとも1つの追加の電荷分離層の第2の端部と接しており、前記少なくとも1つの追加のLEDおよび前記対応する少なくとも1つの追加の電荷分離層は、前記第1の追加の電荷分離層の前記第1の端部が前記第2のLEDの前記第2の端部と接し、前記第2の電極が前記少なくとも1つの追加のLEDのうちの最後のLEDの第2の端部と接するように前記第2のLEDの前記第2の端部と前記第2の電極の間に挿入され、前記第1の電荷分離層内で生成された前記第1の正孔および前記第1の電子の他方は、前記第2のLEDに通され、前記第2の電荷分離層から前記第2のLEDに移された対応する電子または正孔と結合し、前記第2のLEDに移された前記対応する電子または正孔は、前記第1の追加の電荷分離層内で生成された第2の電子または第2の正孔の一方であり、前記第2の電子または第2の正孔の他方は、前記第1の追加のLEDに通され、前記第2の電極または第2の追加の電荷分離層から前記第1の追加のLEDに移された対応する電子または正孔と結合する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記赤外線感知層が、1mA/cm2より低い電流密度を有する正孔の少ない輸送材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記第1の電極がITOを含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記第1のLEDおよび前記第2のLEDが発光ダイオードである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記第1のLEDおよび前記第2のLEDが有機発光デバイスである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第1のLEDおよび前記第2のLEDが有機発光ダイオードである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
前記IR感知層が有機IR感知層である、請求項15に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第1のLEDおよび前記第2のLEDが薄膜発光デバイスである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
前記少なくとも1つの追加のLEDが1つから6つの追加のLEDを含み、前記対応する少なくとも1つの追加の電荷分離層が対応する1つから6つの追加の電荷分離層を含む、請求項11に記載のデバイス。
【請求項20】
前記第1の放出光子および前記第2の放出光子が可視光子である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
前記IR感知層が0.8μmから2μmの範囲の波長を感知する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項22】
前記第1の放出光子および前記第2の放出光子が異なる波長を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項23】
前記第1の有機LEDおよび前記第2の有機LEDの少なくとも一方が、青色光を放射する第1の色素分子、緑色光を放射する第2の色素分子、および赤色光を放射する第3の色素分子を有する有機発光層を含む、請求項15に記載のデバイス。
【請求項24】
1mA/cm2未満の電流密度を有することを示すIR感知層と、
前記IR感知層上にあり、前記IR感知層内で生成された電子を受け取るように配置された有機発光ダイオード(OLED)と、
を備える、赤外線(IR)放射感知デバイス。
【請求項25】
1mA/cm2未満の電流密度を有することを示すIR感知層と、
前記IR感知層上にあり、前記IR感知層内で生成された正孔を受け取るように配置された有機発光ダイオード(OLED)と、
を備える、赤外線(IR)放射感知デバイス。
【請求項26】
前記IR感知層が前記OLEDと接しており、前記デバイスが第1の電極、および前記IR感知層と前記第1の電極の間に配置された正孔の少ない輸送層を更に備え、前記正孔の少ない輸送層が1mA/cm2未満の電流密度を有する、請求項25に記載のデバイス。
【請求項27】
正孔ブロック層がSnPc:C60を含む、請求項25に記載のデバイス。
【請求項28】
前記OLEDが蛍光エミッタを含む、請求項25に記載のデバイス。
【請求項29】
前記IR感知層が、有機赤外線吸収材料と、受容体とを含み、前記有機IR吸収材料と前記受容体が前記IR感知層内で混合される、請求項25に記載のデバイス。
【請求項30】
前記IR感知層がフラーレンを含む、請求項25に記載のデバイス。
【請求項31】
前記IR感知層が量子ドットを含む、請求項25に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2013−512439(P2013−512439A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541194(P2012−541194)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/058015
【国際公開番号】WO2011/066396
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(504433168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インク. (10)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF FLORIDA RESEATCH FOUNDATION,INC.
【Fターム(参考)】