説明

赤外線検出器の温度校正方法及び比熱容量の測定方法

【課題】赤外線検出器の温度校正方法、及び熱電対を用いずに、温度校正された赤外線検出器を用いて比熱容量を測定する方法を提供すること。
【解決手段】標準試料の一面にレーザパルス光を照射し、所定の時間、他面の温度変化を熱電対で測定すると同時に、赤外線検出器で試料の温度変化に対応した出力変化を測定し、この温度変化及び出力変化の指数関数的減衰領域を決定し、この領域内の所定の時点での赤外線検出器での測定出力に対応する熱電対での測定温度から、赤外線検出器での測定出力の温度換算係数を求める。標準試料に対するレーザパルス光の入射エネルギーを求めた後に、測定試料の一面にレーザパルス光を照射し、所定の時間、他面の温度変化を温度校正された赤外線検出器で測定し、温度変化からレーザパルス光照射時の測定試料の最高温度上昇値を求め、入射エネルギー、測定試料の重量から測定試料の比熱容量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線検出器の温度校正方法及び比熱容量の測定方法に関し、特に赤外線検出器で測定された出力の温度換算係数を求める赤外線検出器の温度校正方法及び温度校正された赤外線検出器を用いる、レーザフラッシュ法による比熱容量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザフラッシュ法は、レーザパルス光を測定対象物(以下、測定試料と称す。)に照射して測定試料を加熱し、測定試料の温度上昇から熱伝導率、熱拡散率、比熱容量を求めるものであり、極めて短時間で精度よく測定できるため、従来から、金属の比熱容量等の測定に用いられている。
【0003】
以下、レーザフラッシュ法による従来の比熱容量の測定方法について、図1を参照して詳細に説明する。
【0004】
初めに、比熱容量既知の標準試料S1の重量を測定し、その後、図1(a)に示すように、標準試料S1にシリコングリース11を塗り、受光板12を接着する。そして、標準試料S1の、受光板12を接着した面の裏面に熱電対13を接着する。次いで、受光板12が接着された標準試料S1を、受光板12がレーザ光発振器と対向するように配置し、レーザ光発振器からレーザパルス光を発振し、レーザパルス光を受光板12に照射し、標準試料S1を加熱する。レーザパルス光の照射時から、所定の時間の間(例えば10秒間)、標準試料S1の温度変化を熱電対で測定し、記録する。この温度変化の例を図1(b)に示す。この場合、熱電対の出力は、実際には電圧であるが、基準熱起電力(JIS C 1602)を基に温度に換算されて記録される。
【0005】
図1(b)は、照射後の測定時間に対する標準試料S1の温度変化を示すグラフである。この図から明らかなように、標準試料にレーザパルス光を照射すると、照射直後から試料温度は急激に上昇してピークに達すると、その後指数関数的に温度が低下する。この時、試料が有する熱容量のためレーザパルス光による加熱で試料温度がピークに達するまである程度の時間がかかる。また、熱電対による測定の場合、一般的に応答に時間がかかるため、比熱容量を求めるのに必要なレーザパルス光照射時の最高温度上昇値Tr(ΔTr)を読み取ることができない。そこで、まず、熱電対が正確に応答したと考えられる一定時間経過後の温度変化(温度低下)が指数関数的になったところから、式:Tr=Tr・exp(−c・t)により、最高温度上昇値Trを計算により求める。その後、得られたTrを以下の式1に代入してレーザパルス光の標準試料への入射エネルギーQを求める。
【0006】
Q=Tr・(Mr・Cr+Msi・Csi+Mc・Cc) ・・・(式1)
(ただし、Mr:標準試料の重量、Cr:標準試料の比熱容量、Msi:シリコングリースの重量、Csi:シリコングリースの比熱容量、Mc:受光板の重量、Cc:受光板の比熱容量)
【0007】
次いで、比熱容量未知の測定試料の最高温度上昇値Tsを求める。この場合も、上記標準試料S1と同様に、初めに、測定試料S2の重量を測定し、その後、図2(a)に示すように測定試料S2にシリコングリース11を塗り、受光板12を接着する。そして、測定試料S2の受光板12を接着した面の裏面に熱電対13を接着する。次いで、受光板12が接着された測定試料S2を、受光板12がレーザ光発振器と対向するように配置し、レーザ光発振器からレーザパルス光を発振し、受光板12にレーザパルス光を照射し、測定試料S2を加熱する。レーザパルス光照射時から所定の時間の間(例えば10秒間)、熱電対13で測定試料S2の温度変化を測定し、記録する。この温度変化の例を図2(b)に示す。
【0008】
図2(b)は、照射後の測定時間に対する測定試料S2の温度変化を示すグラフである。この図から明らかなように、図1(b)の場合と同様に、標準試料にレーザパルス光を照射すると、照射直後から試料温度は急激に上昇してピークに達すると、その後指数関数的に温度が低下する。測定試料S2の温度の低下が指数関数的になったところから、上記Trの場合と同様に、式:Ts=Ts・exp(−c・t)式により、最高温度上昇値Ts(ΔTs)を求める。その後、上記式1により求めたレーザパルス光の試料への入射エネルギーQを以下の式2に代入する。
【0009】
Q=Ts・(Ms・Cs+Msi・Csi+Mc・Cc) ・・・(式2)
【0010】
(ただし、Ms:測定試料の重量、Cs:測定試料の比熱容量、式1と同一の符号は同一のものを示す)
かくして、式2より測定試料の比熱容量Csを得ることができる。
【0011】
上記のようなレーザフラッシュ法により比熱容量を測定する方法及びその方法を実施する装置の一例が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】JIS R 1611
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記測定方法を実施するには、測定ごとに熱電対を例えば直径10mmという小さい測定試料に接着しなければならないという問題がある。また、測定試料が近年需要の高まっているセラミック等の場合には、測定試料が金属の場合よりも、さらに熱電対を接着することが難しいという問題がある。これに対し、熱電対を設けずに試料を測定するために、非接触型の測定装置として、例えば赤外線検出器を用いることが考えられるが、温度校正をするために完全黒体炉を用いる必要があり、測定装置以外にさらに別の装置が必要であるという問題があり、かつ、誤差が生じやすくなるという問題もある。この完全黒体炉を用いる場合、通常、室温から数100℃程度の範囲で炉温と赤外線検出器の出力(電圧)とを突き合わせて温度校正をするが、校正範囲が広すぎるために、温度換算時の精度を出すのに困難が伴う。
【0013】
また、受光板を試料に接着する時に、シリコングリースを気泡が入らないように、かつ、その量が試料ごとに異ならないように塗る必要があり、操作性が悪いという問題がある。さらに、比熱容量を求める場合、式1及び式2に示すように、受光板やシリコングリースの重量も含まれるため、各試料におけるシリコングリースの量の違いや重量測定誤差の影響が大きくなってしまうという問題がある。
【0014】
そこで、本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、赤外線検出器の温度校正方法、及び熱電対を用いずに、温度校正された赤外線検出器を用いて比熱容量を測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の赤外線検出器の温度校正方法は、比熱容量の測定に用いる赤外線検出器の温度校正方法において、比熱容量既知の標準試料の一方の面にレーザパルス光を照射し、照射時から所定の時間、該標準試料の他方の面の温度変化を熱電対で測定すると同時に、赤外線検出器で該標準試料の温度変化に対応した出力変化を測定し、該測定された温度変化及び出力変化から、該出力変化が指数関数的に減衰する領域及び該温度変化が指数関数的に減衰する領域を決定し、この領域内で、所定の時点での赤外線検出器で測定された出力に対応する熱電対で測定された温度から、赤外線検出器で測定された出力の温度換算係数を求めることを特徴とする。比熱容量の測定前に、赤外線検出器の温度換算係数を完全黒体炉を用いずに決定することで、赤外線検出器の出力電圧を簡易に温度換算することができる。
【0016】
本発明の比熱容量の測定方法は、標準試料に入射されたレーザパルス光の入射エネルギーを求めた後に、比熱容量未知の測定試料の一方の面に該レーザパルス光を照射し、照射時から所定の時間、該測定試料の他方の面の出力変化を赤外線検出器で測定し、測定された該出力変化から、前記赤外線検出器の温度校正方法に従って求めた温度換算係数を用いて、レーザパルス光照射時の測定試料の最高温度上昇値を求め、該最高温度上昇値、該レーザパルス光の入射エネルギー、及び測定試料の重量から、該測定試料の比熱容量を求めることを特徴とする。赤外線検出器だけで所望の効果を得ることができ、熱電対を用いる必要がないので、操作性がよい。
【0017】
また、前記測定試料及び前記標準試料は、レーザパルス光が照射される一方の面と反対側の他方の面とにカーボン塗料が塗布されていることが好ましい。カーボン塗料が塗布されることで、受光板が不要となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱電対を用いないで、非接触で比熱容量を測定するための赤外線検出器の温度校正を簡易に行うことができるという優れた効果を奏する。また、測定時に受光板が不要であるので、誤差が少ないという優れた効果を奏する。さらに、本発明の温度校正方法によれば、完全黒体炉が不要になると共に、温度換算時の精度が良くなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図3(a)、図3(b)及び図4を参照して説明する。
【0020】
本発明の温度校正方法及び比熱容量の測定方法に用いられる装置の概略を図3(a)及び(b)に示す。図3(a)は、赤外線検出器の温度校正に用いられる測定装置3a示し、図3(b)は、比熱容量の測定方法に用いられる測定装置3bを示す。装置3a及び3bは、レーザ光発振器31と、赤外線検出器32とを有する。このレーザ光発振器31は、レーザパルス光発振器であり、例えばパルスの最大出力が10Jのガラスレーザ等を用いることができる。また、赤外線検出器32としては、InSb素子やPbS素子等を使用したセンサを備えた赤外線検出器を用いることができる。
【0021】
かかる装置3bを用いて比熱容量を測定する場合、レーザ光発振器31と赤外線検出器32との間に設けた試料室33内の所定の位置に測定試料Sを配置する。この測定試料Sの一方の面にレーザパルス光を一定時間照射して加熱すると共に、照射後の測定試料Sの照射面と反対側の面の温度変化を赤外線検出器32で検出し、レーザパルス光が測定試料に入射された瞬間の測定試料の最高上昇温度Tsを求めて、測定試料の比熱容量を求める。試料室33には、試料室内の温度を上昇させ、また、下降させることができるように、加熱炉や冷却炉等の温度可変手段34が設けられている。
【0022】
図3(a)に示す装置3aを用いて行う赤外線検出器の温度校正方法及び図3(b)に示す装置3bを用いて行う試料の比熱容量の測定方法について以下説明する。
【0023】
測定の前準備として、装置3bにおいて用いられる赤外線検出器32の温度校正を、装置3aを用いて行う。本発明では、赤外線検出器の出力(電圧)の温度校正のために、黒体炉を用いず、測定装置3aのみを用いて温度校正のための温度換算係数を求める。
【0024】
まず、温度校正用の標準試料Sに熱電対35を例えばスポット溶接機で溶接し、熱電対を接着した面と、反対側のレーザパルス光入射面との両面にカーボン塗料を塗布する。次いで、レーザ光発振器31と赤外線検出器32との間の試料室33内の所定の位置に、レーザパルス光入射面がレーザ光発振器31に対向するように標準試料Sを配置する。赤外線検出器32及び熱電対35には、計測回路36が接続され、そしてこの計測回路36にはパーソナルコンピュータ(パソコン)37が接続されており、赤外線検出器32及び熱電対35からの各出力を計測し、記録できるように構成されている。
【0025】
次に、レーザ光発振器31からレーザパルス光を発振し、標準試料Sを加熱する。レーザパルス光の照射時から所定の時間、熱電対で試料温度を測定すると共に、赤外線検出器32で標準試料に対する出力電圧を測定し、その出力電圧の時間変化を記録する。
【0026】
図4は、レーザパルス光の照射後の測定時間に対する赤外線検出器32及び熱電対35の出力を示すグラフである。赤外線検出器は、応答は熱電対より速いが、その出力は温度ではなく、電圧を示している。これに対し、熱電対の出力は、上記したように、基準熱起電力(JIS C 1602)を基に換算した温度を示している。そのため、同じ照射後の測定時間における熱電対の出力と赤外線検出器の出力とを比較し、赤外線検出器の出力値を温度に換算するための温度換算係数を求める必要があり、以下、その点ついて図4を参照して説明する。
【0027】
この温度換算係数を求めるには、初めに、熱電対による温度計測データが指数関数的に減衰する領域(exp(−c・t)と一致する領域、定常温度領域)を決定する。次いで、赤外線検出器のデータが指数関数的に減衰する領域を、前記熱電対が指数関数的に減衰する領域と重複するように設定する。重複した領域の開始点をX1とする。また、X1から15〜20秒程度後の任意の点を領域の終了点X2とする。そして、この減衰領域(例えば図4中のX1からX2までの領域)内での温度変位に対する赤外線検出器の出力電圧の換算式を得る。すなわち、温度に対する放射エネルギーがほぼ4乗の係数に比例することから、上記減衰領域における熱電対による温度変位とそれに対応する赤外線検出器の出力電圧変位との関係について、4次の回帰式:aX+bX+cX+dX+e(Xは温度変位幅)を適用し、式中のa、b、c、d、eを求めることにより、赤外線検出器の温度換算係数が得られる。
【0028】
以下、得られた温度換算係数を用いて、比熱容量未知の測定試料の比熱容量を測定する方法について、図3(b)を参照して説明する。図3(b)に示す測定装置3bは、熱電対を備えていないことを除いて、図3(a)に示す装置3aと同じ構成を有するので、詳細な構成については説明を省略する。
【0029】
まず、比熱容量既知の標準試料及び比熱容量未知の測定試料の重量をそれぞれ測定する。これらの試料の形状は特に制限はなく、好ましくは円板状であり、それぞれの試料のレーザパルス光の受光面積は同一とする。その後、比熱容量既知の標準試料及び比熱容量未知の測定試料(例えば、円板形状) のそれぞれの表裏面にカーボン塗料を塗布する。次いで、標準試料をレーザ光発振器31と上記のようにして温度校正された赤外線検出器32との間に設けられている試料室33内の所定の位置に配置し、レーザパルス光を標準試料に照射し、加熱する。レーザパルス光照射から数秒〜十数秒の間、赤外線検出器32で標準試料の温度変化を測定し、記録する。そして、その温度値データから、上記したように、指数関数的に温度が減衰する領域を決定し、その傾きを調べて標準試料の最高温度上昇値Trを求める。
【0030】
この最高温度上昇値Tr、標準試料の重量Mr、及び比熱容量Crを、以下の式3に代入する。
【0031】
Q=Tr・Mr・Cr・・・(式3)
これにより、標準試料に入射されたレーザパルス光の入射エネルギーQを得ることができる。
【0032】
次に、測定試料に対し、上記した標準試料の場合と同一条件でレーザパルス光を照射し、加熱する。レーザパルス光照射から数秒〜十数秒の間、温度校正された赤外線検出器32で測定試料の温度変化を測定し、記録する。そして、標準試料の場合と同一の手順で指数関数的に温度が減衰する領域を決定し、その傾きを調べて測定試料の最高温度上昇値Tsを求める。
【0033】
このTs及び上記した入射レーザパルス光の入射エネルギーQ、測定試料の重量Msを以下の式4に代入する。
【0034】
Q=Ts・Ms・Cs・・・(式4)
かくして、測定試料の比熱容量Csを得ることができる。
【0035】
以上説明したように、本発明の比熱容量の測定方法では、熱電対を用いるのは赤外線検出器の温度校正時のみであり、実際の測定においては、温度校正された赤外線検出器を用いるので、操作性が高い。また、試料の表裏面にカーボン塗料を塗布することで、受光板及び受光板を接着するためのシリコングリースが不要となるので操作性が高いと共に、これらに起因する誤差要因がなくなる。このため、従来の熱電対式比熱容量測定方法によれば、その測定精度はプラスマイナス7%程度であったものが、本発明の比熱容量測定方法によれば、その測定精度は、測定試料の熱容量にもよるが、プラスマイナス5%程度以下であり、例えば測定試料としてタンタルを用いた場合には、以下の実施例において示すように、プラスマイナス2%程度以下である。
【0036】
以下、実施例によって本発明の測定方法を具体的に説明する。
【実施例1】
【0037】
本実施例では、比熱容量既知のタンタルを標準試料として用いて、赤外線検出器からの出力電圧の温度換算係数を求めた。
【0038】
測定装置としては、図3(a)に示す装置3aを用いた。レーザ光発振器31として、パルス最大出力:30J、発振波長:1054nmのガラスレーザを、赤外線検出器32として、InSb素子を使用したセンサを備えたものを用意した。
【0039】
まず、温度校正用の比熱容量既知の円板形状のタンタル標準試料S(重量:1473mg、比熱容量:0.137(J/g.k))に熱電対35をスポット溶接し、この標準試料の両面に、カーボン塗料を塗布した。次いで、前記レーザ光発振器31と赤外線検出器32との間に設けられた試料室33内に標準試料Sを配置した。
【0040】
その後、レーザ光発振器31からレーザパルス光を10Jで発振し、試料Sに照射して加熱した。照射から所定時間(約22秒間)、熱電対35の出力の温度変化及び赤外線検出器32の出力の電圧変化を、計測回路36及びパソコン37を介して測定し、記録した。得られたデータを、図5に示す。
【0041】
図5は、レーザパルス光の照射後の測定時間(ミリ秒)に対する赤外線検出器32及び熱電対35からの各出力の測定結果を示すグラフであり、縦軸の出力は、右側が赤外線検出器で測定された出力である電圧(V)を示し、左側が熱電対で測定された出力である温度(℃)を示している。まず、熱電対からの温度データ(図5中の曲線a)及び赤外線検出器からの電圧データ(図5中の曲線b)が、それぞれ、指数関数的に減衰する領域(exp(−c・t)と一致する領域、定常温度領域)を決定した。この場合、レーザパルス光の照射より1秒経過後(図5中のX1)から、温度変化がほぼ指数関数的に減衰するので、1秒経過以後が定常温度領域と推定し、減衰領域の終了点はレーザパルス光照射後約20秒(図5中のX2)とした。この減衰領域内の熱電対で測定した温度変化に対し、赤外線検出器で測定した出力電圧変化を、上記した4次回帰式によって、係数:
【0042】
-5.08E-1X4+1.08X3+-1.692E-2X2+2.25E-5X+4.68E-6
として得た。この係数が、赤外線検出器32で測定した出力電圧を熱電対35による検出温度で校正した温度換算係数に相当する。
【0043】
本実施例では、標準試料としてタンタルを用いたが、比熱容量が既知の金属やセラミックスであれば、特に制限なく用いることができる。
【実施例2】
【0044】
実施例1で得られた温度換算係数:-5.08E-1X4+1.08X3+-1.692E-2X2+2.25E-5X+4.68E-6を用いて、図3(b)に示す装置3bにより比熱容量未知の測定試料の比熱容量を測定した。
【0045】
本実施例では、比熱容量既知の標準試料として円板形状のサファイア試料(比熱容量:0.766(J/g・k))を用い、また、比熱容量未知の測定試料として円板形状のタンタル試料を用いた。それぞれの試料の重量は、標準試料が318mg、測定試料が1382mgであった。これらの標準試料及び測定試料のそれぞれの表裏面にカーボン塗料を塗布した。次いで、標準試料をレーザ光発振器31と赤外線検出器32との間に設けられた試料室33内の所定の位置に配置して、レーザパルス光を10Jで発振し、標準試料に照射し、加熱した。この温度校正された赤外線検出器32で、レーザパルス光照射後9秒間、試料の温度変化を測定した。測定結果を図6に示す。図6のy軸は温度に対応しており、温度校正された赤外線検出器の出力電圧を実施例1で得られた温度換算係数により温度に変換した温度変位データをグラフに示す際に、その温度変位データのピークをy軸の1.0としてプロットしてある。図6から、指数関数的に試料温度の減衰が始まった時点(図6中のP1)を照射から1秒後とし、図6中のP1以降のデータから式:Tr=Tr・exp(−c・t)により、標準試料の最高温度上昇値Trとして11.00℃を得た。この値を式3に代入すると、標準試料に入射されたレーザパルス光の入射エネルギーQは2.68Jとなった。
【0046】
次に、測定試料に対して上記標準試料の場合と同じ条件でレーザパルス光を照射し、温度校正された赤外線検出器32でレーザパルス光照射後9秒間、試料の温度変化を測定した。測定結果を図7に示す。図7のy軸も温度に対応しており、温度に変換したデータを、図6の場合と同様にプロットしてある。図7から、指数関数的に試料温度の減衰が始まった時点(図7中のP1)を照射から1秒後とし、図7中のP1以降のデータから式:Tr=Tr・exp(−c・t)により、測定試料の最高上昇温度Tsとして13.9272℃を得た。
【0047】
上記のようにして得られたTs、測定試料の重量Ms及び試料に照射されたレーザパルス光の入射エネルギーQを用いて、測定試料の比熱容量Csを式4から求めると、0.1392(J/g・k)となった。この値は、タンタルの比熱容量についてのTPRCの文献値0.137(J/g・k)とほとんど変わらず(文献値と比べて約1.6%高かった)、本発明の測定方法の精度が高いことが示された。
【0048】
本実施例の結果から、標準試料としては、サファイア以外に、比熱容量が既知の金属やセラミックスを用いることができると共に、測定試料としては、特に制限はなく、タンタル以外の金属やセラミックスを用いることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、温度校正された赤外線検出器を用いて、比熱容量を簡易に、かつより高精度で測定することが可能である。従って、本発明は、金属、セラミックの製造分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の比熱容量の測定方法の概略を説明するための図であり、(a)は測定対象である標準試料の模式的側面図、(b)は熱電対により測定した標準試料の、レーザパルス光照射後の測定時間と温度変化との関係を示すグラフである。
【図2】従来の比熱容量の測定方法の概略を説明するための図であり、(a)は測定対象である測定試料の模式的側面図、(b)は熱電対により測定した測定試料の、レーザパルス光照射後の測定時間と温度変化との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の方法を実施するための装置の模式的構成図であり、(a)は赤外線検出器の温度校正方法を実施するための装置の模式的構成図であり、(b)は比熱容量の測定方法を実施するための装置の模式的構成図である。
【図4】赤外線検出器の温度校正を説明するためのグラフである。
【図5】実施例1における赤外線検出器の温度校正を説明するためのグラフである。
【図6】実施例1における標準試料の赤外線検出器の出力変化を示すグラフである。
【図7】実施例1における測定試料の赤外線検出器の出力変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
3 測定装置 11 シリコングリース
12 受光板 13 熱電対
31 レーザ光発振器
32 赤外線検出器
33 試料室
34 温度可変手段
35 熱電対
36 計測回路
37 パーソナルコンピュータ
S1 標準試料
S2 測定試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比熱容量の測定に用いる赤外線検出器の温度校正方法であって、比熱容量既知の標準試料の一方の面にレーザパルス光を照射し、照射時から所定の時間、該標準試料の他方の面の温度変化を熱電対で測定すると同時に、赤外線検出器で該標準試料の温度変化に対応した出力変化を測定し、該測定された温度変化及び出力変化から、該出力変化が指数関数的に減衰する領域及び該温度変化が指数関数的に減衰する領域を決定し、この領域内で、所定の時点での赤外線検出器で測定された出力に対応する熱電対で測定された温度から、赤外線検出器で測定された出力の温度換算係数を求めることを特徴とする赤外線検出器の温度校正方法。
【請求項2】
請求項1記載の温度校正方法において、標準試料は、レーザパルス光が照射される一方の面と他方の面とにカーボン塗料が塗布されているものであることを特徴とする温度校正方法。
【請求項3】
標準試料に入射されたレーザパルス光の入射エネルギーを求めた後に、比熱容量未知の測定試料の一方の面に該レーザパルス光を照射し、照射時から所定の時間、該測定試料の他方の面の温度変化を、請求項1記載の赤外線検出器の温度校正方法に従って温度校正された赤外線検出器で測定し、測定された該温度変化からレーザパルス光照射時の測定試料の最高温度上昇値を求め、該最高温度上昇値、該レーザパルス光の入射エネルギー、及び測定試料の重量から、該測定試料の比熱容量を求めることを特徴とする比熱容量の測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の比熱容量の測定方法において、測定試料は、レーザパルス光が照射される一方の面と他方の面とにカーボン塗料が塗布されているものであることを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−2688(P2009−2688A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161537(P2007−161537)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000192383)アルバック理工株式会社 (26)
【Fターム(参考)】