説明

赤外線温度センサ

【課題】熱源の温度を感度良く測定できる温度センサを提供する。
【解決手段】赤外線吸収膜100の熱量を検知することにより熱源の温度に対応した電気信号を出力する赤外線検知用感熱素子10と、赤外線検知用感熱素子から電気信号を出力するためのリードパターン31,32と、赤外線吸収膜の温度をさらに上昇させるための熱効果パターン50に加え、赤外線吸収膜に分布する熱量を赤外線検知用感熱素子に集熱するための集熱パターンや熱の流出を抑えるためのミアンダパターン33を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱源の温度を非接触測定する赤外線温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱源から輻射される赤外線の熱量を検出することにより、熱源の温度を非接触測定する温度センサが開示されている。この温度センサは、温度補償用感熱素子および赤外線検知用感熱素子があり、赤外線検知用感熱素子には熱源からの赤外線を効率よく吸収する赤外線吸収膜を備えており、赤外線受光に起因する赤外線吸収膜の温度上昇を感熱素子で検知する。また赤外線検知用感熱素子側の空洞部には開口部があり赤外線が入射するのに対し、温度補償用感熱素子側の空洞部には開口部が無く赤外線が直接入射しない。
【0003】
赤外線検知用感熱素子は感温素子などから構成されている。感温素子は、温度に対応して電気的特性が変化する温度特性を有しており、赤外線吸収膜上に形成された銅箔パターンにより、感温素子から出力される電気信号が外部に取り出され、熱源の温度を推定することができる。このような感温素子として、抵抗温度特性を有するサーミスタ、サーモパイル、金属測温度体等が知られている。また、赤外線吸収膜として、遠赤外線の波長帯域を吸収する特性を有するポリイミド等の高分子フィルムが知られている。
【0004】
赤外線検知用感熱素子から信号を赤外線吸収膜外部に取り出すためには、電気信号を伝達するため銅箔からなるリードパターンが必要となるが、これは、赤外線検知用感熱素子からの外部への熱の流出経路にもなる。赤外線検知用感熱素子から熱が流出すると赤外線検知用感熱素子の温度が低下し、センサの感度が低下する。
【0005】
この対策として、特許文献2に見られるように、リードパターンの一部につづら折り状の屈折部を設けることが一般的に行われていた。つづら折り状の屈折部により熱抵抗を高くすることにより、赤外線検知用感熱素子から赤外線吸収膜外部への熱の流出を減少させ赤外線検知用感熱素子の温度低下を防いで、センサの感度を保とうとしている。このように、つづら折り状の屈折部はあくまでも赤外線検知用感熱素子からの熱の流出を防ぐという原理にとどまり、赤外線吸収膜全体の温度をより高めることにより感度を上げるという積極的なものではなかった。
【0006】
また、つづら折り状の屈折部の形状については、温度変化に対する応答性から幅や長さに制限があった。したがって温度低下を防ぐためには長いほうが良いが、むやみに長くすることは応答性のうえから好ましくない。リードパターンの幅を大きくすれば熱抵抗が下がるが、リードパターン自体の熱容量が増えるので、応答性を悪くする要因となる可能性がある。
【0007】
上記の、電気信号を伝達するためのリードパターンに使われているような、つづら折り状の屈折部や、ジグザグ状のパターンや、蛇行パターンなどのパターンをここでは、ミアンダパターンと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−194630号公報
【特許文献2】実用新案登録公報2506241号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上説明したように、赤外線検知用感熱素子の電気信号を伝達するためのリードパターンであって、ミアンダパターンを含む従来のリードパターンのみでの、温度に対応して電気的特性が変化する温度特性、すなわち感度調整には制約があった。しかし、赤外線吸収膜自体の温度をより高める手段があれば、ミアンダパターンの制約とは独立に赤外線温度センサの感度を向上させることが出来る。
本発明は、以上の点を考慮してなされたもので、従来よりさらに赤外線吸収膜の温度を増加させることにより、感度を向上させることを目的とした赤外線温度センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係わる赤外線温度センサは、熱源から輻射される赤外線を吸収して発熱する赤外線吸収膜と、前記赤外線吸収膜の熱量を検知することにより前記熱源の温度に対応した電気信号を出力する赤外線検知用感熱素子と、前記電気信号を赤外線検知用感熱素子から外部に導くためのリードパターンと、前記赤外線吸収膜を透過した赤外線を反射あるいは吸収するための少なくとも1つ以上の熱効果パターンを有しており、前記リードパターンと熱効果パターンは、銅箔からなり、かつ前記赤外線吸収膜上に形成されていることを特徴としている。
【0011】
本発明は、赤外線吸収膜の温度をさらに増加させるものである。従来は赤外線検知用感熱素子の温度低下をジグザグ状のミアンダパターンによる熱抵抗により防ぐものであったが、本発明は赤外線吸収膜自体の温度をさらに上昇させることにより、赤外線検知用感熱素子の温度も上昇させ、赤外線温度センサの感度の向上を図るものである。
なお、従来の非接触温度センサには、特許文献1に見られるように周囲温度を検出するための温度補償用感熱素子をセンサモジュール内に持つ方式と、特許文献2に見られるようにセンサモジュールに温度補償用感熱素子を持たない方式があるが、本考案は赤外線吸収膜そのものの温度を上昇させるため、いずれの方式であっても感度を向上させる効果がある。
【0012】
本発明の電気信号を伝達するリードパターンには、ミアンダパターンを備え、熱抵抗を高くすることにより、赤外線検知用感熱素子から赤外線吸収膜外部への熱の流出を減少させ赤外線検知用感熱素子の温度低下を防いでいる。
【0013】
前記熱効果パターンは、前記赤外線吸収膜全体に分散していて、赤外線吸収膜に、島状に分布している。
【0014】
リードパターンは電気信号を伝達し、ミアンダパターンを備え熱抵抗を高くすることにより赤外線検知用感熱素子から赤外線吸収膜外部への熱の流出を減少させ赤外線検知用感熱素子の温度低下を防いでいる。
【0015】
そして、前記熱効果パターンは前記赤外線吸収膜を透過した赤外線を反射あるいは吸収するためのものであり電気信号の伝送に係わらない、すなわち、電気信号を伝送しないパターンである。したがって、熱効果パターンは、電気信号を伝送しなければ、リードパターンと繋がっていてもよい。また、熱効果パターン同士も、切り離されていても良いし、お互いが連結されていても良い。前記熱効果パターンに加えて、さらに
【0016】
また、前記リードパターンや前記熱効果パターンに加えて、さらに集熱パターンを備えても良い。集熱パターンは前記赤外線検知用感熱素子を起点として前記赤外線吸収膜上に放射状に形成されており、前記赤外線吸収膜に分布する熱量を短い距離で前記赤外線検知用感熱素子に集熱するため、赤外線量の変化に対する赤外線センサの応答性を高めることが出来る。
【0017】
以上のように、熱効果パターンにより、赤外線吸収膜の温度を上げられるので赤外線温度センサの感度を向上することができる。集熱パターンを加えれば、赤外線吸収膜の温度上昇をすばやく赤外線検知用感熱素子に伝えることができ、また、リードパターンにミアンダパターンを加えれば、赤外線検知用素子からの熱の流出を抑えることができ、感度も応答性も優れた赤外線温度センサが実現できる。このように、熱効果パターンはミアンダパターンとの組合わせによって感度を高める効果を発揮するが、さらに集熱パターンと組み合わせることにより、応答性も改善され、総合的に優れた赤外線温度センサを実現できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、赤外線吸収膜を透過した赤外線を反射あるいは吸収するための熱効果パターンによって、赤外線吸収膜自体の温度をさらに上昇させることにより、赤外線検知用感熱素子の温度も上昇し、赤外線温度センサの感度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1における赤外線温度センサの上面図である。
【図2a】実施形態1における赤外線吸収膜と銅箔パターンの断面図である。
【図2b】実施形態1における赤外線吸収膜と銅箔パターンの拡大断面図である。
【図3】赤外線の透過割合の波長特性を示すグラフである。
【図4】実施形態2における赤外線温度センサの上面図である。
【図5】実施形態3における赤外線温度センサの上面図である。
【図6】実施形態4における赤外線温度センサの上面図である。
【図7】実施形態5における赤外線温度センサの上面図である。
【図8】実施形態6における赤外線温度センサの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。同一の部材については同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。なお、図面は、模式的なものであり、部材相互間の寸法の比率や部材の形状等は、本発明の効果が得られる範囲内で現実のセンサ構造とは異なっていてもよい。
【0021】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係わる赤外線温度センサ1の上面図である。赤外線温度センサ1は、赤外線吸収膜100を備え、赤外線吸収膜100の熱量を検知することにより熱源の温度に対応した電気信号を出力する赤外線検知用感熱素子10と、赤外線検知用感熱素子10から電気信号を伝送、出力するためのリードパターン31、32と、多数の熱効果パターン50を備える。
【0022】
赤外線吸収膜100の材質は、熱源からの輻射赤外線を吸収して発熱する材質であればよく、例えば、遠赤外線と称される4μm〜10μmの波長帯域の光に吸収スペクトラムを有する材質が望ましい。このような材質として、フッ素、シリコーン、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリカーボネート、PPS(ポリフェニレンスルフィド)等の高分子材料からなる樹脂が好ましい。
【0023】
赤外線検知用感熱素子10は、温度に応じて電気的特性が変化する感温素子であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、抵抗温度特性を有するサーミスタ、サーモパイル、金属測温度体などが好適である。赤外線検知用感熱素子10は、リードパターン31、32にそれぞれ接続する電極11,12を備えており、赤外線検知用感熱素子10の温度変化に対応する電気特性の変化は、熱源の温度に対応する電気信号としてリードパターン31、32から伝送され外部に取り出される。
【0024】
またリードパターン31、32は、銅箔からなり、外部へ流出する熱量を減らすため、蛇行が施され、すなわち図1のミアンダパターン33を有しており、熱抵抗を高めている。赤外線検知用感熱素子10が例えば抵抗温度特性を有するサーミスタである場合には、赤外線検知用感熱素子10の温度変化は、抵抗値変化として現れる。赤外線検知用感熱素子10に電流を流すことより、赤外線検知用感熱素子10の抵抗値変化は、外部に直列に接続された図示しない固定抵抗とで分圧された電圧変化として検出される。赤外線検知用感熱素子10の出力電圧は、熱源の温度に対応する電気信号として信号処理される。しかし、ミアンダパターン33は必ずしも必須ではない。
【0025】
熱効果パターン50は、銅箔からなり、赤外線吸収膜100の前記熱源と反対側の面に形成され、熱効果パターン50の赤外線吸収膜100と接する面は赤外線のうち赤外線吸収膜100を透過する周波数成分をある割合で反射あるいは吸収し、赤外線吸収膜100自体の温度をさらに上昇させることにより、赤外線検知用感熱素子10の温度も上昇し、赤外線温度センサの感度の向上を図るものである。
【0026】
熱効果パターン50は、赤外線吸収膜100全体に分散していて、赤外線吸収膜に、島状に分布している。島状パターンは、サーミスタなどの感温素子で検知した赤外線検知用感熱素子の電気信号を伝えるためではなく、赤外線吸収膜を透過した赤外線を吸収あるいは反射するためのものであるが、前記赤外線吸収膜の前記熱源と反対側の面に形成され、電気信号を伝えるためのリードパターンと同一の工程により同時に形成されるものである。赤外線吸収膜上の銅箔からなるリードパターン、熱効果各パターンの形成にとくに特殊な工程を付加する必要はない。
【0027】
そして、熱効果パターン50は赤外線吸収膜100を透過した赤外線を反射あるいは吸収するためのものであり電気信号の伝送に係わらず、熱伝導のみに係わるパターンであって、外部の電気信号伝送には係わらない、すなわち、電気信号を伝送しないパターンである。したがって、熱効果パターン50は、電気信号を伝送しなければ、リードパターン31、32と繋がっていてもよい。また、熱効果パターン50同士も、切り離されていても良いし、お互いが連結されていても良い。
【0028】
図2aと図2bは、図1の赤外線吸収膜100及び熱効果パターン50の材料である銅箔パターンの断面図である。入射する赤外線L1は赤外線吸収膜100をある割合で透過する。この透過する割合は図3のような赤外線吸収膜100の材質による波長特性によって決まる。透過した赤外線は熱効果パターン50の材料である銅箔パターンの赤外線吸収膜100と接する面で、図2aの赤外線L2のようにある割合は反射され、図2aの赤外線L3のように残りは銅箔パターンに吸収される。この割合は銅箔パターンの赤外線吸収膜100と接する面の状態に依存し、接する面すなわち界面状態が平滑であれば赤外線が反射される割合が多く、界面状態が粗ければ銅箔パターンに吸収される割合が多くなる。
【0029】
図2bに示すように、熱効果パターン50の材料である銅箔パターンの赤外線吸収膜100と接する面は微視的に見ると、銅箔パターン裏面すなわち、赤外線吸収膜100と接する面、全体に分布する無数の微小な突起が赤外線吸収膜に食い込んで噛合っている。これをアンカー効果という。このように境界面に微細な凹凸があるため、銅箔パターンは赤外線をある割合で吸収する。特に、銅箔パターンの凹凸の谷底から山の頂までの距離が2μm以上から、赤外線吸収効果が現れる。
【0030】
熱効果パターン50の材料である銅箔パターンの赤外線吸収膜100と接する面に吸収された赤外線の周波数成分は銅箔パターンの温度上昇をもたらす。銅箔の温度上昇は赤外線吸収膜100に伝わる。赤外線吸収膜100には吸収されなかった赤外線成分も銅箔パターンにより吸収されるため銅箔の温度が上昇する。結果的に赤外線吸収膜100の温度上昇に貢献することになる。特に銅箔がアンカー効果により、銅箔の一方の面が、赤外線吸収膜に密接に噛合っている場合は、銅箔の温度上昇は効率よく赤外線吸収膜に伝わる。
【0031】
また、熱効果パターン50の材料である銅箔パターンの赤外線吸収膜100と接する面で反射された周波数成分は再び赤外吸収膜100を透過するので、再びある割合で吸収され、赤外線吸収膜100の温度上昇に貢献する。以上述べたように、熱効果パターン50が無い場合より、在る場合のほうが赤外線吸収膜100の温度が上昇する。従って、赤外線温度センサの感度が高まる。
【0032】
この原理をさらに詳しく説明する。
赤外線のある周波数成分E(f)に対しフィルムの表面反射率がr、 吸収率がaであるとすると、
フィルムに吸収されるのは、
E(f)×a …(式1)
フィルムを透過し銅箔裏面に達するは、
E(f)×(1−a−r)であるので
銅箔裏面の吸収率がbであると銅箔に吸収されるのは、
E(f)×(1−a−r)×b …(式2)
銅箔で反射されるのは、
E(f)×(1−a−r)×(1−b)
反射され再びフィルムに吸収されるのは、
E(f)×(1−a−r)×(1−b)×a…(式3)
従ってフィルム及び銅箔に吸収される総計は、(式1)、(式2)、(式3)を足して、
E(f)×(a+(1−a−r)×(a+b−a×b))…(式4)
これに対し、銅箔が無いとすると、フィルムによる吸収は、
E(f)×a …(式5)
のみであるので、銅箔による吸収の増加分は、(式4)から(式5)を引いて、
E(f)×(1−a−r)×(a+b−a×b)…(式6)
(1−a−r)>0、a <1かつb<1なので、(a+b−a×b)>0、
ゆえに、(式6)>0
従って、銅箔があれば常に無い場合より全体の吸収は増加する。
【0033】
熱効果パターン50は、前記赤外線吸収膜100全体に分散しているが赤外線吸収膜上に占める面積は大きいほど吸収される赤外線の総量は増える。熱効果パターン50ひとつひとつの大きさが大きいと熱容量も増大する。また熱効果パターン50の中で熱の流れが発生して安定するのに時間がかかるため、温度変化に対する応答性が低下する。従って図1の実施形態1では、島状の熱効果パターン50は円形状であって、一定の大きさ以下であり、それぞれは連結されていない。島状で円形の熱効果パターン50の直径はリードパターン幅の0.5倍から2.5倍程度である。
【0034】
ひとつの熱効果パターン50はその面積及びそれに隣接する領域の熱だけを吸収し、熱効果パターン50ひとつの熱容量自体は限定される。従って応答は速い。このような小さな熱効果パターン50が赤外線吸収膜100全体に多数分布する、すなわち全体に分散している。熱効果パターン50が占める面積が増大しても、それらは細かく分割されていて大きな熱容量の塊とならないため、応答性の低下は少ない。
【0035】
従って、図1の実施形態1では、熱効果パターン50は多数の島状の熱効果パターン50として分布している。なお、本実施形態1では熱効果パターン50は円形で揃った大きさであるが、これに限らず、多角形であったり、ドーナッツ型であったりしてもよい。また形状や大きさの異なるものが混在していても良い。
【0036】
【表1】

【0037】
図1に示す実施形態1の効果を表1に示している。すなわち表1は、島状の円形の熱効果パターンがない場合と有る場合について、各温度データを示している。180℃の検出対象から11mmの距離に赤外線吸収膜100をおいた。検出対象物からの赤外線を受けると赤外線吸収膜100の温度は周囲温度から上昇する。従来の赤外線吸収膜では、周囲温度からの温度上昇は7.6℃であったが、図1のように島状の円形の熱効果パターン50を付加した場合、周温度上昇は8.3℃となり、9%増加した。
【0038】
また、熱効果パターン50は、FPC(フレキシブルプリント基板)の通常の工程で、リードパターン31、32、集熱パターン40と同様に、もともと銅箔付のフィルムをエッチングして形成されるものであるので、とくに熱効果パターン50のために工程が増えるわけではない。銅箔パターンの形状を工夫するだけで温度上昇を増加させることが出来るから感度がよくなるということである。
【0039】
(実施形態2)
図4は実施形態2に係わる赤外線温度センサ2の赤外線吸収膜100の上面図であり、
図1の実施形態1にさらに集熱パターン40を付加したものである。
集熱パターン40は、銅箔パターンからなり、赤外線検知用感熱素子10を起点として赤外線吸収膜100上に放射状に形成されており、赤外線吸収膜100に分布する熱量を赤外線検知用感熱素子10に集熱するためのものである。赤外線吸収膜100の各所に分布している熱量を捕捉し、これを赤外線検知用感熱素子10に集熱させるための集熱パターンである。赤外線検知用感熱素子10からの熱の赤外線吸収膜100の外部への流出はミアンダパターン33を含んだリードパターン31,32などの熱抵抗を高める手段で、防止することが出来る。
【0040】
集熱パターン40は、赤外線吸収膜100の前記熱源と反対側の面に形成され、熱効果パターン50やリードパターン31、32と同一の工程により同時に形成されるものである。赤外線吸収膜100上の銅箔からなるリード、集熱、熱効果各パターンの形成に特別な工程を付加する必要はない。
【0041】
集熱パターン40は赤外線検知用感熱素子10に効率良く集熱できるように、電極11、12を起点として赤外線吸収膜100上に放射状に形成されている。集熱パターン40は、電気信号の伝送に係わるパターンではなく、熱伝導のみに係わるパターンであるため、外部の部品に接続することなく、赤外線吸収膜100上で終端、すなわち、一端は電極11、12に接続されているが、他端は開口端になっている。すなわち、集熱パターン40は、電気信号の伝送に係わらず、熱伝導のみに係わるパターンであって、外部の電気信号伝送には係わることなく終端している。このため、集熱パターン40から外部に熱が流出することはなく、集熱パターン40の終端から赤外線検知用感熱素子10へ向かって一方向に熱が流れる。
【0042】
集熱パターン40は、赤外線吸収膜100の各所に蓄熱している熱量を万遍なく捕捉するために、電極11、12を起点として赤外線吸収膜100の外周端部に向かって枝分かれしながら放射状に形成されているのが好ましい。このような構成により、赤外線吸収膜100に分布する熱量は、集熱パターン40の枝と枝との間に島状に点在し、赤外線吸収膜100と赤外線検知用感熱素子10との間の温度勾配により、赤外線検知用感熱素子10へ向けて熱の流れを生じさせることができる。
【0043】
また、集熱パターン40を放射状に形成することで、熱を捕捉できる集熱範囲を拡大することが可能になり、集熱効率を高めることができる。また、集熱パターン40の根元部分(集熱パターン40と電極11、12との接続部分)から赤外線吸収膜100の各点へ至る伝熱経路を短くできるため、赤外線吸収膜100に分布する熱量を低熱抵抗の伝熱経路を通じて赤外線検知用感熱素子10へ素早く集熱することができる。これにより、赤外線検知用感熱素子10は熱源の温度変化に対して応答性よく反応することができる。
【0044】
このように、ミアンダパターン33を含んだリードパターン31,32と熱効果パターン50に、さらに集熱パターン40を組合わせることにより、感度の上昇に加えて応答性の向上も図ることができる。上述では熱効果パターン50はミアンダパターン33を含んだリードパターン31,32と繋がっていてもよいし切り離されていても良いしことを述べたが、同様に、熱効果パターン50は集熱パターン40とも繋がっていてもよいし切り離されていても良い。
【0045】
(実施形態3)
図5は実施形態3に係わる赤外線温度センサ3の赤外線吸収膜100の上面図である。
実施形態3は集熱パターン40の先端に熱効果パターン50を連結させている。
【0046】
図5のように集熱パターン40に熱効果パターン50を連結させると、熱効果パターン50の温度を集熱パターン40に直接伝えることが出来るので、赤外線検知用感熱素子10の温度も上昇しやすくなる。実施形態3の熱効果パターン50は、電気信号の伝送に係わらず、熱伝導のみに係わるパターンであって、外部の電気信号伝送には係わることなく終端している。
【0047】
(実施形態4)
図6は実施形態4に係わる赤外線温度センサ4の赤外線吸収膜100の上面図である。図6は熱効果パターン50同士を細い銅箔パターン、すなわち連結パターン34で連結させた実施形態4である。熱効果パターン50同士をつなぐ連結パターン34の幅は熱効果パターン50の直径の1/5以下程度の細さなので熱抵抗が高いため、熱効果パターン50一つ一つの応答速度は連結していない場合とあまり変わらない。
【0048】
熱効果パターン50が網状に連結されるので、赤外線吸収膜100上のホットスポットと呼ばれる温度分布の高い部分の熱量が分散される。従来、温度分布の高い部分が生じてもその温度はその場所にとどまり、赤外線吸収膜100全体の温度上昇に貢献しなかったが、このように熱効果パターン50を連結することにより温度分布の高い部分の温度上昇を赤外線吸収膜100全体の温度上昇に活かすことができる。
【0049】
連結パターン34で集熱パターン40と連結させても良い。連結パターン34は細いが短くかつ全体としては多数あるので、全体としての熱のまわりは速い。また、連結パターン34は、熱効果パターン50の隙間領域の熱を集める作用もある。熱効果パターン50が網状に連結されるので、銅箔の温度上昇を集熱パターン40に直接伝えることが出来るので、赤外線検知用感熱素子10の温度も上昇しやすくなる。
【0050】
(実施形態5)
図7は実施形態5に係わる赤外線温度センサ5の赤外線吸収膜100の上面図である。図7は、熱効果パターン50からさらに針状のパターン51を出したもので、赤外線吸収膜100表面と熱効果パターンの境界の周長が大きくなるため、赤外線吸収膜との熱の授受が行われやすくなる。
【0051】
(実施形態6)
図8は実施形態6に係わる赤外線温度センサ6の赤外線吸収膜100の上面図である。図8は、赤外線吸収膜100上でなるべく多くの部分に熱効果パターン50を施すように、感熱素子10、集熱パターン40、リードパターン31、32以外の領域に隙間無く熱効果パターン50を施したものである。熱効果パターン50同士に隙間が無いので、赤外線吸収膜100面積のなかで熱効果パターン50が占める割合をさらに多くすることが出来るが、熱効果パターン50が細かく分断されていないので熱効果パターン50の熱容量は大きくなり、応答性が遅くなる。しかし、銅箔が25μm以下の薄いものである場合は、もともとその熱容量も小さいため応答性の低下も比較的少ない。
【符号の説明】
【0052】
1、2、3、4、5、6 赤外線温度センサ
10 赤外線検知用感熱素子
11、12 電極
100 赤外線吸収膜
31、32 リードパターン
33 ミアンダパターン
34 連結パターン
40 集熱パターン
50 熱効果パターン
51 針状のパターン
L1、L2、L3 赤外線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源から輻射される赤外線を吸収して発熱する赤外線吸収膜と、
前記赤外線吸収膜の熱量を検知することにより前記熱源の温度に対応した電気信号を出力する赤外線検知用感熱素子と、
前記電気信号を赤外線検知用感熱素子から外部に導くためのリードパターンと、
前記赤外線吸収膜を透過した赤外線を反射あるいは吸収するための少なくとも1つ以上の熱効果パターンを有しており、
前記リードパターンと熱効果パターンは、銅箔からなり、かつ前記赤外線吸収膜上に形成されていることを特徴とする赤外線温度センサ。
【請求項2】
前記リードパターンは、ミアンダパターンを備えていることを特徴とする請求項1に記載の赤外線温度センサ。
【請求項3】
前記赤外線吸収膜に分布する熱量を前記赤外線検知用感熱素子に集熱するための集熱パターンを備えていることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載の赤外線温度センサ。
【請求項4】
前記集熱パターンは、前記赤外線検知用感熱素子を起点として前記赤外線吸収膜上に放射状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の赤外線温度センサ。
【請求項5】
前記熱効果パターンは、前記赤外線吸収膜全体に分散していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の赤外線温度センサ。
【請求項6】
前記熱効果パターンは、前記赤外線吸収膜の前記熱源と反対側の面に形成され、熱効果パターンである銅箔の一方の面全体に分布した微小な突起をもち、前記突起が赤外線吸収膜に食い込んで噛合うことにより、前記赤外線吸収膜との界面は凹凸になっていることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の赤外線温度センサ。
【請求項7】
前記熱効果パターンの前記赤外線吸収膜との界面の前記凹凸の谷底から山の頂までの距離は2μm以上になっていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の赤外線温度センサ。
【請求項8】
前記熱効果パターンは、前記赤外線検知用感熱素子とリードパターンと集熱パターンが存在する領域以外の領域に、前記熱効果パターンが島状に分布していることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の赤外線温度センサ。
【請求項9】
前記島状の熱効果パターンは、円形であって、その直径はリードパターンの幅の0.5倍から2.5倍であることを特徴とする請求項8に記載の赤外線温度センサ。
【請求項10】
前記熱効果パターン同士が線状のパターンで電気的に連結されていることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の赤外線温度センサ。
【請求項11】
前記熱効果パターン同士が線状のパターンで電気的に連結されていて、かつ、前記線状のパターンの幅は、前記島状の熱効果パターンの直径の1/5以下であることを特徴とする請求項8に記載の赤外線温度センサ。



【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50365(P2013−50365A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188066(P2011−188066)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】