説明

赤外線無線通信用光源

【課題】操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を提供すること。
【解決手段】本発明の第1の態様に係る赤外線無線通信用光源100は、少なくとも陰極105と、陽極102と、発光層104とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子110を、赤外線光源として用いたものである。これにより、広い角度範囲で均一な指向性を有し、操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を提供することができる。特に、指向角度0°から60°における相対光強度が50%から150%の範囲であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線無線通信用光源に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)素子は、近年の高度な映像・情報化社会の本格的な進展やマルチメディアシステムの急速な普及に伴い、フラットパネルディスプレイ分野での利用がさかんに行われるようになっている。これは、有機EL素子が、低消費電力、薄型化が可能である上、広視野角であるという利点を有するためである。
【0003】
また、有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機EL層を挟持した構造を有しており、電極間に電圧を印加することにより有機EL層自体が発光する自発光素子である。白色発光が可能な有機EL素子が開発されて以来、照明装置や液晶表示装置のバックライト等の面光源への応用が急速に広がり、実用化されつつある(非特許文献1参照)。
【0004】
ところで、照明やテレビ等の様々な家電製品の遠隔操作は、その便利さにより広く用いられている。特に最近の高齢化社会到来により、加速的に一般化している。さらに、情報化社会の進展により、携帯電話間や携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)間、あるいは、これら端末とパーソナルコンピュータとの間での、比較的小容量のデータ情報交換が頻繁に行われるようになってきた。
【0005】
これらの家電製品の遠隔操作端末装置(リモコン)と本体との間のデータ通信や、情報機器間の通信には、赤外線を用いた無線による光通信システムが、一般的に用いられる。このような近距離の赤外線無線通信における赤外線光源としては、通常、赤外発光ダイオードが用いられている。この赤外発光ダイオードの場合、十分な光強度を得るために、点光源から出射される赤外線を集光する必要がある。そのため、指向性の強い砲弾型の発光ダイオードが多く用いられている。
【非特許文献1】「有機ELのすべて」、城戸淳二著、日本実業出版社、2003年2月20日、第4章、p.140〜143
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、指向性の強い光源を用いた場合、リモコン端末などの赤外線送信機から送信された赤外光を、家電製品などの赤外線受信機が受信できるように、ある程度正確に赤外線送信機を操作する必要があるが、操作性に劣るという問題があった。
【0007】
さらに、これらの砲弾型発光ダイオードの高さは通常4mm以上あり、比較的薄型が容易な表面実装型発光ダイオードでも2mm以下を実現することは困難であった。このことは、小型・薄型化が要求される機器、特に携帯電話やPDAへの組み込み上、大きな問題となっていた。
【0008】
本発明はこのような事情を背景としてなされたものであり、操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係る赤外線無線通信用光源は、少なくとも陰極と、陽極と、発光層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を、赤外線光源として用いたものである。これにより、操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を提供することができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る赤外線無線通信用光源は、上記の赤外線無線通信用光源において、指向角度30°における相対光強度が50%以上であることを特徴とするものである。これにより、操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を提供することができる。
【0011】
本発明の第3の態様に係る赤外線無線通信用光源は、上記の赤外線無線通信用光源において、指向角度が0°から60°における相対光強度が50%から150%の範囲、より好ましくは、80%から120%の範囲であることを特徴するものである。これにより、操作性が格段に優れた赤外線無線通信用の光源を提供することができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る赤外線無線通信用光源は、上記の赤外線無線通信用光源において、前記赤外線光源は面光源であることを特徴とするものである。これにより、生産性に優れた赤外線無線通信用光源を提供することができる。
【0013】
本発明の第5の態様に係る赤外線無線通信用光源は、上記の赤外線無線通信用光源において、前記発光層は真空蒸着により形成されることを特徴とするものである。これにより、生産性に優れた赤外線無線通信用光源を提供することができる。
【0014】
本発明の第6の態様に係る赤外線無線通信用光源は、上記の赤外線無線通信用光源において、前記赤外線光源の厚みが1.5mm以下であることを特徴とするものである。これにより、小型化・薄型化に有利な赤外線無線通信用光源を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0017】
本発明の実施の形態に係る赤外線無線通信用の有機EL光源について、図1を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る有機EL光源100の構成の一例を示す模式図である。図1に示すように、有機EL光源100は、素子基板101、陽極102、絶縁層103、有機層104、陰極105、封止基板106、リード線107、リード端子108、接着材109、捕水材113を有している。
【0018】
素子基板101は、ガラスなどの透明絶縁材料からなる矩形状の平板部材である。陽極102は、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明性導電材料からなり、素子基板101上に形成されている。また、素子基板101上には、陽極102から延設されたリード線107及びリード線107の端部に配置されるリード端子108が設けられている。なお、リード線107及びリード端子108の少なくとも一部が、低抵抗化のために、下層にITO、接続部となる上層にアルミニウム等の金属材料の積層膜から形成されていてもよい。
【0019】
絶縁層103は、ポリイミドなどの絶縁材料からなり、陽極102と後述する陰極105との絶縁を確保するために設けられている。絶縁層103には、発光する位置に対応して開口部が設けられている。
【0020】
有機層104は、一般的な正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層を順次積層した構成を有している。有機層104は、前述した絶縁層103の開口部に対応した位置に、所定の大きさで配置されている。
【0021】
ここで、正孔注入層兼正孔輸送層としては、厚み数10nm程度のα−NPB(4, 4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)、Cu−Pc(銅フタロシアニン)、TPD(N, N'-ジフェニル-N, N'-(3-メチルフェニル)-1, 1'-ビフェニル-4, 4'-ジアミン)などを用いることができる。発光層としては、厚み数10nm程度の赤外発光物質であれば、特には限定されないが、ビスベンジミダゾ[2, 1-a:1', 2'-b']アンスラ[2, 1, 9-def:6, 5, 10-d'e'f']ジイソキノリン-6, 11-ジオンが、特に、好ましい。電子輸送層としては、厚み数10nmのAlq3(トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム)膜が好ましい。
【0022】
陰極105は、アルミニウムなどの導電性材料からなり、有機層104上に設けられている。なお、ここでは図示していないが、陰極105から引き出されるリード線の端部に形成されるリード端子も素子基板101に設けられている。
【0023】
封止基板106は、光源中に水分や酸素が入らないように設けられている。封止基板106としては、ステンレス、アルミニウムなどの金属の他、ガラス、アクリル系樹脂などを使用することができる。封止基板106は、陽極102、絶縁層103、有機層104、陰極105からなる有機EL素子110を収納するための、凹部111を有している。封止基板106と素子基板101とは、紫外線硬化型の接着材109を介して固着されている。素子基板101、封止基板106、接着材109とで形成される気密空間に有機EL素子110は配置されている。また、リード線107の一部とリード端子108とからなる引き出し部112が素子基板101、封止基板106、接着材109とで形成される空間から露出しているため、封止基板106は素子基板101よりも大きさが小さくなっている。
【0024】
気密空間内には、画素などへの水分や酸素の影響を抑制し、安定した発光特性を維持するための捕水材113が設けられている。捕水材113は、封止基板106上の、有機EL素子110と対向する面に形成された凹部111に設けられている。捕水材113としては、無機系の乾燥剤や、水分と反応性の高い有機金属化合物を膜状にしたもの、フッ素系オイルからなる不活性液体中に固体の吸湿剤を混合したものなどを用いることができる。
【0025】
次に、有機EL光源100の製造方法を説明する。まず、素子基板101上にITOを成膜し、感光性樹脂をITO上に塗布し、露光・現像・エッチングを行って、陽極102及びリード線107及びリード端子108を形成する。
【0026】
次に、陽極102の上に、絶縁層103の材料を塗布し、露光・現像を行って、開口部を形成する。開口部は、陽極102の大きさに対応して形成される。そして、絶縁層103上にマスクを用いた真空蒸着(以下、マスク蒸着という)により、有機層104を構成する各層を順次積層する。さらに、マスク蒸着により、アルミニウム等の金属膜からなる陰極105、陰極のリード線及びリード端子を形成する。マスク蒸着は、ディップコーティングやスピンコーティングなどの塗布法に比べ、必要な領域にのみ蒸着層を形成できるため、生産性に優れており、好ましい。
【0027】
最後に、素子基板101上に形成された有機EL素子を水分から守るために、封止基板106で有機EL素子を封止する。封止基板106の捕水材113形成面を素子基板101の有機EL素子形成面に対向配置して、シール材109により、双方の基板を接着する。このように、素子基板101と封止基板106とをシール材109を用いて貼り合わせた単純な構造であるため、厚みを薄くすることが可能であり、小型・薄型化に有利である。
【0028】
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。まず、厚み0.5mmのソーダライムガラス基板上に、厚み150nmのITO膜を、スパッタリングにより形成した。次に、フォトリソグラフィプロセスによりITOをパターニングし、陽極101、リード線107及びリード端子108を形成した。その上に、Al膜をスパッタリングにより形成し、フォトリソグラフィプロセスによりパターニングし、リード端子108をITOとアルミニウムとの積層構造とした。
【0029】
次に、感光性ポリイミド樹脂をスピン塗布した後、フォトリソグラフィプロセスによりパターニングし、4mm×10mmの開口部を形成した。これを焼成して絶縁膜103を形成した。
【0030】
次に、赤外線発光層となる有機層104を形成した。詳細には、正孔注入層兼正孔輸送層として厚み50nmのα−NPB(4, 4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル)膜、発光層として厚み50nmの下記化学式(1)に示す赤外発光物質であるビスベンジミダゾ[2, 1-a:1', 2'-b']アンスラ[2, 1, 9-def:6, 5, 10-d'e'f']ジイソキノリン-6, 11-ジオンの膜、電子輸送層として厚み50nmのAlq3(トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム)膜、電子注入層として厚み0.5nmのLiF膜を順次マスク蒸着し、有機層104を形成した。
【化1】

【0031】
その上に、陰極106として厚み100nmのAl膜をマスク蒸着によって形成した。そして、シール材109を介して、捕水材113が配置された厚み0.7mmの封止基板106と素子基板101とを接着した。有機EL光源100の全体の厚みは、1.22mmであった。厚みは薄いほど好ましいが、1.5mm以下であれば、有意に小型・薄型化に役立つ。
【0032】
このようにして形成した実施例に係る有機EL光源100を、図2に示すように、指向角度θを変化させ、フォトダイオード200により光強度を測定した。ここで、指向角度θは面光源である有機EL光源100を構成する面の法線方向を基準とした角度である。また、有機EL光源100の正面すなわち指向角度θ=0°の場合の光強度に対する光強度を相対光強度という。発光波長は802nmであった。操作性向上のためには、指向角度30°における相対光強度が50%以上であることが好ましい。また、指向角度0°から60°における相対光強度が50%から150%の範囲、さらには、指向角度0°から60°における相対光強度が80%から120%の範囲であることが好ましい。これにより、極めて良好な操作性を得ることができる。
【0033】
図3は、指向角度に対する相対光強度を示すグラフである。図3に示すように、実施例に係る有機EL光源100は、指向角度0°から60°の範囲において、相対光強度99%から107%であり、極めて広い角度範囲でも均一な指向性を示す。従って、実施例に係る有機EL光源100により、操作性に優れた赤外線無線通信用の光源を実現することができる。また、光源部の厚みを1.5mm以下にすることができる。
【0034】
[比較例]
赤外発光ダイオードとしてローム社製SIR−56SF3Fを用い、実施例と同様に指向角度θを変化させ、フォトダイオード200により光強度を測定した。この結果を図3に、実施例とともに示した。指向角度θの増加とともに、相対光強度が急激に低下し、鋭い指向性を有している。なお、発光波長は949nm、光源の厚み(高さ)は実装端子部を除いても8.5mmであった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係る有機EL光源の構成の一例を示す模式図である。
【図2】実施例に係る有機EL光源の指向性の試験方法を示す模式図である。
【図3】実施例に係る有機EL光源の指向角度に対する相対光強度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
100 有機EL光源
101 素子基板
102 陽極
103 絶縁層
104 有機層
105 陰極
106 封止基板
107 リード線
108 リード端子
109 接着材
110 有機EL素子
111 凹部
112 引き出し部
113 捕水材
200 フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陰極と、陽極と、発光層とを備えた有機エレクトロルミネッセンス素子を、赤外線光源として用いた赤外線無線通信用光源。
【請求項2】
指向角度30°における相対光強度が50%以上である請求項1に記載の赤外線無線通信用光源。
【請求項3】
指向角度が0°から60°における相対光強度が50%から150%の範囲である請求項1に記載の赤外線無線通信用光源。
【請求項4】
前記赤外線光源は面光源である請求項1、2又は3に記載の赤外線無線通信用光源。
【請求項5】
前記発光層は真空蒸着により形成される請求項4に記載の赤外線無線通信用光源。
【請求項6】
前記赤外線光源の厚みが1.5mm以下である請求項4に記載の赤外線無線通信用光源。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−211012(P2008−211012A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46814(P2007−46814)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】