説明

赤外線通信用光学物品及び赤外線通信用受光部

【課題】赤外線の通信帯の波長域のみを特異的に多く透過させることができ、なおかつ目視において可視光域の光を散乱反射させて白色を呈する赤外線通信用光学物品及び赤外線通信用受光部を提供すること。
【解決手段】透明なバインダー樹脂に同バインダー樹脂とは屈折率の異なる微粒子を均一に分散させて散乱反射層23を形成する。その際に一部あるいは全部の同微粒子の径Dを下記式で示される大きさとし、同微粒子に可視光域の光を散乱反射させて白色を発色させるようにするとともに、赤外線の通信帯の波長域における透過率を12%以上に設定する。散乱反射層23を基板21の外面に形成させて赤外線通信用受光部15を作製する。
D<0.4・λ÷π
D:粒子径
λ:赤外線の通信帯の波長

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器の赤外線通信及び制御用ポートに用いられる赤外線通信用光学物品及び同光学物品を使用した赤外線通信用受光部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外線を使った赤外線通信方式は、パソコン、PDA(Personal Digital Assistant)や電子手帳等の携帯型情報端末、デジタルカメラ、携帯電話等の各種の電子機器において一般的に使用されている。赤外線通信方式可能な機器は所定の(例えばIrDA規格等)赤外線通信ポートが搭載されている。このような赤外線通信ポートの窓部には可視光線にも感度を有する受光素子の外乱光による誤動作を防止する目的と、機器内部が見えないようにするために赤外線通信用受光部として赤外線のみが透過する暗色のプラスチックプレートが配設されるようになっている。
しかし、このようなプレートを用いた赤外線通信用受光部では、外観の色が黒いために、電子機器の意匠上、機器全体と或いは組み合せる部品とそぐわない場合があり、意匠設計上の制約になるという問題があった。赤外線通信用受光部の外観を任意の色に彩色することは、基体である透明プラスチックへの着色剤の添加や塗装などによって原理的には可能であるが、赤外域の透過性を保持しつつ、外観色を多種の色調に調整するのは極めて困難である。
そのため、出願人は特許文献1に開示するような基体上に赤外線を透過させる誘電体多層膜を有する赤外線通信用受光部を開発した。このような赤外線通信用受光部では赤外線の透過性を維持しながら誘電体多層膜を使用して様々な外観色を設計することができるため、意匠設計上の自由度を拡大した電子機器を提供することができるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−165493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような誘電体多層膜を使用した赤外線通信用受光部では暗色のプラスチックプレートを使用していた従来に較べれば格段に意匠設計上の自由度がアップしたものの、誘電体多層膜で発色させる場合にはどうしても金属色が伴うこととなるため、例えば、機器の筐体の色として比較的多い白色系(もちろん、必ずしも白色系に限るものではないが)には必ずしもこの特許文献1のような受光部でもデザインとしてそぐわない場合があった。そのため、特に白色の赤外線通信用受光部が更なるデザイン上の自由度の要請から求められていた。
しかし、白色とは要は外光が乱反射している状態であるため、例えば白色の顔料を基体に塗布しても、単に可視光域〜赤外線の通信帯の波長域がほぼ全域にわたって散乱されてしまうこととなって必要とされる赤外線の通信帯の波長域のみを透過させることはできなかった。また、赤外線の通信帯の波長域を透過させられる程度の曇りガラスのような薄目の着色を施しても今度は可視光域が受光されて外乱光によって機器の誤動作のおそれがある。また、白色の着色が十分ではない場合には機器内部が透けて見えてしまうデザイン上好ましくない状態が生じる可能性もある。
本発明は、上記各課題を解消するためになされたものであり、その目的は、赤外線の通信帯の波長域のみを特異的に多く透過させることができ、なおかつ目視において可視光域の光を散乱反射させて白色を呈する赤外線通信用光学物品及び赤外線通信用受光部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明では、透明なバインダー樹脂に同バインダー樹脂とは屈折率の異なる微粒子を均一に分散させて成形される赤外線通信用光学物品であって、同微粒子に可視光域の光を散乱反射させて所定の色を発色させるようにするとともに、長波長側の光の透過率が高くなるような波長依存性を有するように微粒子の平均粒径を設定し、赤外線の通信帯の波長域における透過率を12%以上に設定したことをその要旨とする。
【0006】
また、請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明において、一部あるいは全部の前記微粒子の径Dを下記式で示される大きさとしたことをその要旨とする。
【0007】
【数1】

【0008】
また、請求項3に記載の発明では請求項1に記載の発明において、一部あるいは全部の前記微粒子の径Dを下記式で示される大きさとしたことをその要旨とする。
【0009】
【数2】

【0010】
また、請求項4に記載の発明では透明基材の表面を粗面処理することで微細凹凸形状を形成し白色の散乱層を同透明基材表面に形成させた赤外線通信用光学物品であって、長波長側の光の透過率が高くなるような波長依存性を有するように同散乱層の微細凹凸形状の平均凹凸径を設定し、赤外線の通信帯の波長域における透過率を12%以上に設定したことをその要旨とする。
また、請求項5に記載の発明では請求項4に記載の発明において、一部あるいは全部の前記微細凹凸形状の径Dを上記数1で示される大きさとしたことをその要旨とする。
また、請求項6に記載の発明では請求項4に記載の発明において、一部あるいは全部の前記微細凹凸形状の径Dを上記数2で示される大きさとしたことをその要旨とする。
【0011】
請求項7に記載の発明では請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記バインダー樹脂あるいは前記透明基材中に、可視域の一部を吸収する色材を1種類以上含有させたことをその要旨とする。請求項8に記載の発明では請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記バインダー樹脂あるいは前記透明基材中に、赤外線を透過し、かつ可視域の一部を吸収する染料を含有させたことをその要旨とする。請求項9に記載の発明では請求項1〜8のいずれかに記載の発明において、前記バインダー樹脂あるいは前記透明基材中に、紫外線吸収剤を含有させたことをその要旨とする。
【0012】
このような構成では、赤外線通信用光学物品は均一に分散された微粒子あるいは粗面処理によって微細凹凸形状によって形成された散乱層による可視光域の光の散乱反射によって白色の外観を呈するようにすることが可能となる。尚、「白色」という場合には可視光の波長が散乱して曇化した状態をいうが、バインダー樹脂に微粒子が分散している場合では極めて微粒子化した場合の波長依存性によってすべての可視光が均一に散乱するわけではなく、若干の彩度を有する場合もある。ここに、分散される微粒子は長波長側の光の透過率が高くなるような波長依存性を有するように微粒子の平均粒径を設定する必要がある。赤外線の通信帯の波長域における透過率は12%以上である。これによって、赤外線の透過性能が高く、可視光の透過性能が低いという赤外線通信用に好適な光学物品を提供することができる。
ここに「赤外線通信用光学物品」とは透明なバインダー樹脂に微粒子が均一に分散されている、あるいは透明基材の表面に粗面処理によって微細凹凸形状を形成し白色の散乱層を基板表面に形成させた赤外線通信ポート位置に使用される少なくとも赤外線の通信帯の波長域の光を透過させるために成形加工された物品を広くいうものであって、可撓性の有無、厚さ、形状、素材は問われるものではない。
ここに「粗面処理」とは例えばサンドブラスト、プラズマ処理、薬品処理あるいは金型で成型品を作る際の金型面を粗面にする等の手段によって実行可能である。
ここに、サンドブラストは高圧の微粒子を透明基材の表面に吹き付けて粗面にするものである。プラズマ処理は真空に排気した処理室に、処理ガスを導入し、処理室内に設けた電極に高周波電圧を印加してプラズマを発生させ処理を行うものである。ここではプラズマにより発生した処理用ガスのイオンやラジカルにより透明基材の表面をエッチングして粗面にするものである。薬品処理とは例えば有機溶媒によるプラスチックの溶解処理が挙げられる。
【0013】
また、長波長側の光の透過率が高くなるような微粒子の波長依存性は上記数1及び数3の式にあてはまる粒径において格段に高くなる。これは数1及び数3の式にあてはまる粒径はレイリー散乱となっているためであり、このような粒径の微粒子は特に赤外線通信用光学物品おける微粒子の粒径として好適である。また、上記数2及び数4の式にあてはまる粒径では数1及び数3の式の場合よりも若干粒径が大きくなるものの微粒子の波長依存性は高いため赤外線通信用光学物品おける好適であるといえる。
散乱における波長と粒子径の関係は一般に以下の数式で示すことができる。
【0014】
【数3】

【0015】
この数式において、a<0.4であればレイリー散乱の適用される領域となり、0.4<a<3はミー散乱、a>3は回析散乱の適用される領域となる。レイリー散乱では散乱量が粒子の大きさと波長によって決定されることとなる。レイリー散乱の散乱係数Ksは以下の数式で示される。レイリー散乱では波長によって透過率に違いがあり、相対的に長波長域での透過率は高くなる傾向にある。
一方、ミー散乱や回析散乱のような大きな粒子サイズの散乱では波長に関わらず前方への指向性が強くなってしまい波長による散乱特異性は小さくなるため、透過率を調整することは困難である。
【0016】
【数4】

【0017】
従って、異なる粒子径の配合割合や粒子の種類と適宜変更することで少なくとも赤外線の通信帯の波長をレイリー散乱させることでこの波長域に所定の透過性を与え、可視光域の波長を相対的に大きく散乱させるようにすることが容易となり、赤外線通信用光学物品を白色を呈するようにすることが可能となる。
ここに、上記式1での粒径がちょうど赤外線の通信帯の波長においてレイリー散乱とミー散乱との境界付近のしきい値(赤外線の通信帯の波長を800〜900nmとして100nm前後)となる粒子は可視光域ではミー散乱となる粒子である。この粒子径を徐々に小さくしていけばレイリー散乱に移行する可視光波長帯が増えることとなる。また、粒子径が50nmより小さくなれば可視光〜赤外線の通信帯の波長はすべてレイリー散乱することとなる。このような散乱作用の違いを利用して赤外線の通信帯の波長における最適な透過率と赤外線通信用光学物品の色を調整することが好ましい。
尚、以下の粒子の粒径について例えば「粒子径100nm」という場合において粒子は完全な球形というものではないので、粒子径には各粒子における例えば3軸平均径等の計算で求めた平均的かつ統計的な値を意味している。同様に粒子群全体として100nm以下の径及び100nm以上の径をまったく含んでいないという意味ではなく、統計的に100nmを主体として構成されている粒径群という意味である。
【0018】
上記バインダー樹脂としては、少なくとも赤外線波長域において実質的に透明であって、粒子の屈折率と異なるものであれば特に限定されるものではない。例えばポリエステル、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂、フッ素系樹脂が挙げられる。より具体的には例えば、例えば多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルやフッ素系モノマーと他のモノマーとの共重合体(他のモノマーとは、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、アクリルアミド類(N−tert−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類、アクリロ二トリル誘導体等を挙げることができる。また、透明基材としてはガラス、プラスチックのどちらも使用可能である。
【0019】
また、上記粒子としては、金属、金属酸化物、樹脂あるいは気泡等を広く使用することが可能である。これらは1種類のみを単独で使用しても複数種類を混在させても構わない。金属としては例えば、ジルコニウム、アルミニウム、タンタル、チタン、錫、インジウム等が挙げられ、金属酸化物としてはそれらの酸化物が一例として挙げられる。樹脂としては例えばシリカ・アクリル複合化合物、メタクリル化合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、 シリコーン樹脂等が挙げられる。
バインダー樹脂あるいは表面にサンドブラストによる白色の散乱層が形成される透明基材は顔料、染料あるいは蛍光剤等の可視域の一部を吸収する色材を含有させることで透過特性を変更することができる。つまり散乱光が色材によって着色されたり可視光が透過する際に吸収され着色された光を散乱させることができる。
バインダー樹脂あるいは表面にサンドブラストによる白色の散乱層が形成される透明基材に、赤外線を透過し、かつ可視域の一部を吸収する染料を含有させることで透過特性を変更することができる。
バインダー樹脂あるいは表面にサンドブラストによる白色の散乱層が形成される透明基材に紫外線吸収剤を含有させることで透過特性を変更することができる。バインダー樹脂や透明基材の材質によっては紫外線によって劣化して黄ばむ等の劣化減少が生じることがあるため、それを防止し材質の耐久性を上げることを目的とするものである。紫外線吸収剤として例えば有機化合物としてパラメトキシケイ皮酸2エチルヘキシル、パラジメチルアミノ安息香酸2エチルヘキシル等が挙げられ、無機化合物として酸化チタンや酸化亜鉛の微粒子が挙げられる。
【0020】
請求項10に記載の発明では請求項1〜9のいずれかに記載の発明において、少なくとも赤外線を透過する基体の外面又は内面に請求項1の赤外線通信用光学物品を配置してなることをその要旨とする。
このような構成では、請求項1〜9のいずれか同様に赤外線通信用光学物品は白色の外観を呈するとともに、赤外線通信方式で必要とされる赤外線の通信帯の波長域での12%以上の透過率が確保されることとなる。ここに、「基体の外面」とは赤外線通信用受光部が装着される機器の筐体外側を向いた面を意味し、「内面」とは筐体の内側を向いた面を意味するものである。
「基体」とは例えば赤外線通信用光学物品が薄膜状であったり可撓性がある場合に密着状に同光学物品を形成させるものであり、その形状や厚みは問わない。具体的には例えば、ガラスやポリカーボネート、アクリル系樹脂等の樹脂材料からなる透明かつ硬質の板状体等が想定される。
【0021】
請求項11に記載の発明では請求項10に記載の発明において、前記基体は赤外線を透過するととともに可視光の透過が阻止されており、前記赤外線通信用光学物品は同基体の外面に配置されていることをその要旨とする。
請求項12に記載の発明では請求項10に記載の発明において、前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の内面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の透過を阻止する可視光吸収層を配置したことをその要旨とする。
請求項13に記載の発明では請求項10に記載の発明において、前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の外面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同基体と同光学物品の間あるいは同基体の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の透過を阻止する可視光吸収層を配置したことをその要旨とする。
これらのように赤外線通信用光学物品の内面側に可視光の透過が阻止される構成を採用することによって、赤外線通信用光学物品を透過した可視光によって可視光吸収層が暗色化することとなるため、赤外線通信用光学物品において曇価(一般にヘイズ量として評価される)が小さい白色であっても、外部から赤外線ポート内部が目視されることを防止することができる。
ここに「可視光吸収層」とは例えば可視光を吸収して暗色(黒色)を呈するとともに、赤外線を透過させる可視光吸収色素を均一にバインダ樹脂に分散させたような層構造体が挙げられる。また、誘電体多層膜によって構成することも可能である。「可視光吸収層」とは必ずしも膜体のような薄い形態でのみ存在する必要はなく、十分な厚みを有する場合も含む。
【0022】
請求項14に記載の発明では請求項10に記載の発明において、前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の内面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の一部又は全部を反射する反射層を配置したことをその要旨とする。
請求項15に記載の発明では請求項10に記載の発明において、前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の外面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同基体と同光学物品の間あるいは同基体の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の一部又は全部を前記赤外線通信用光学物品方向に反射する反射層を配置したことをその要旨とする。
これらのように反射層を赤外線通信用光学物品の内面側に配置したため、赤外線通信用光学物品を透過した可視光が反射層で反射されて再び赤外線通信用光学物品内の粒子に衝突して乱反射をすることとなり、その結果赤外線通信用光学物品の曇価が大きくなる。つまり白さがより向上することとなる。「反射層」とは必ずしも膜体のような薄い形態でのみ存在する必要はなく、十分な厚みを有する場合も含む。
【0023】
反射層としては誘電体多層膜を使用することがこの目的から最も好ましい。誘電体多層膜を用いれば反射層自身が散乱反射することなく反射率を高く設定してすべての可視光を赤外線通信用光学物品方向に再度反射させることが可能となるからである。誘電体多層膜とは所定の波長域の光を選択的に透過させ、また反射させる膜であって、多層膜としては一般にはそれ自体が多層膜構造を取ることとなる。誘電体多層膜の膜数、膜素材、膜厚を設計することによって透過光(つまり反射光)を自由に制御することが可能である。多層膜の各構成膜層は金属酸化物、金属窒化物もしくは金属フッ化物等からなる誘電体であって、例えばTiO2(二酸化チタン)、Ta25(五酸化タンタル)、ZrO2(酸化ジルコン)、Al23(酸化アルミニウム)、Nb25(五酸化ニオブ)、SiO2(酸化ケイ素)、MgF2(フッ化マグネシウム)、ZnO2(酸化亜鉛)HfO2(酸化ハフニュウム)、CaF2(フッ化カルシュウム)、SiN(窒化シリコン)らが挙げられる。誘電体多層膜は少なくとも2種の誘電体を光の透過する方向に低屈折率材料と高屈折率材料を交互に積層した交互層から構成されることが好ましい。
【0024】
請求項16に記載の発明では、請求項1〜9のいずれかの赤外線通信用光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の透過を阻止する可視光吸収層を配置したことをその要旨とする。
これによって上記と同様、赤外線通信用光学物品において曇価が小さい色であっても、外部から赤外線ポート内部が目視されることを防止することができる。請求項8は赤外線通信用光学物品自体が十分な剛性を備えており上記のような基体が不要なケースを想定している。「可視光吸収層」の定義は上記と同様である。
請求項17に記載の発明では、請求項1〜9のいずれかの赤外線通信用光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の一部又は全部を前記赤外線通信用光学物品方向に反射する反射層を配置したことをその要旨とする。
これによって上記と同様、赤外線通信用光学物品を透過した可視光が反射層で反射されて再び赤外線通信用光学物品内の粒子に衝突して散乱反射をすることとなり、その結果赤外線通信用光学物品の曇価が大きくなる。つまり白さがより向上することとなる。
【0025】
請求項18に記載の発明では請求項10〜17のいずれかに記載の発明において、最外層位置に保護層を配置したことをその要旨とする。
これによって、機器の使用に伴う擦傷、皮脂等の汚れによる劣化を防止することができる。
保護層は、ハードコートなどによる硬質化のほか、撥水コートなどのように防汚性と滑り性を合わせ持つものをスプレー法、浸漬法、スパッタ法、真空蒸着法などで成膜することができる。特に、真空蒸着法により、有機珪素系撥水剤処理を行なった場合、滑り性、防汚性に優れるほか、浸漬法、スプレー法による細部でのコート剤の溜まりが発生しない利点がある。 また、真空蒸着法では膜厚を薄く(例えば、10nm以下に)構成することができるために、干渉色の発生や誘電体多層膜の分光特性への影響を極めて小さくできる。
【発明の効果】
【0026】
上記各請求項に記載の発明によれば、赤外線の通信帯の波長域のみを特異的に多く透過させることができるとともに、目視において白色を呈する赤外線通信用光学物品及び赤外線通信用受光部を提供することができるため赤外線ポートを備えた機器の意匠設計上の自由度が拡大することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】赤外線ポートに本発明の実施の形態である赤外線通信用受光部を配置した概略構成図。
【図2】実施の形態1の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射されるとともに赤外線が透過されることを説明する説明図。
【図3】実施の形態2の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射され、可視光の一部が可視光吸収層で吸収されるとともに赤外線のみが透過されることを説明する説明図。
【図4】実施の形態3の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射され、可視光の一部が反射層で反射されるとともに赤外線のみが透過されることを説明する説明図。
【図5】実施の形態4の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射され、赤外線のみが透過されるとともに基体がハードコート層で保護されていることを説明する説明図。
【図6】実施の形態3の反射層の分光反射特性を説明するグラフ。
【図7】実施の形態5の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射されるとともに赤外線が透過されることを説明する説明図。
【図8】実施の形態6の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射され、可視光の一部が反射層で反射され、可視光の一部が可視光吸収層で吸収されるとともに赤外線のみが透過されることを説明する説明図。
【図9】実施の形態7の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射され、可視光の一部が反射層で反射されるとともに赤外線のみが透過されることを説明する説明図。
【図10】実施の形態8の赤外線通信用受光部において外光が散乱反射層で可視光が散乱反射され赤外線が透過されることを説明する説明図。
【図11】縦軸を透過率とした実施例1〜7及び比較例1の反射層の分光透過特性を説明するグラフ。
【図12】縦軸を透過率とした実施例8、9の分光透過特性を説明するグラフ。
【図13】縦軸を透過率とした実施例10の分光透過特性を説明するグラフ。
【図14】縦軸を反射率とした実施例11〜13の分光反射特性を説明するグラフ。
【図15】縦軸を透過率とした実施例11〜13の分光透過特性を説明するグラフ。
【図16】縦軸を透過率とした実施例13の分光透過特性を説明するグラフ。
【図17】縦軸を透過率とした実施例17及び18との比較をするための染料単独の分光透過特性を説明するグラフ。
【図18】縦軸を透過率とした実施例17及び18の分光透過特性を説明するグラフ。
【図19】縦軸を透過率とした実施例19の分光透過特性を説明するグラフ。
【図20】縦軸を透過率とした実施例20の分光透過特性を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1に示すように、携帯型情報端末のケース本体12には赤外線通信及び赤外線制御用のポート13が設けられている。ケース本体12内部にはポート13に面して発光素子や受光素子等からなる受光ユニット14が配設されている。ポート13には以下の実施の形態1〜実施の形態4の赤外線通信用受光部(以下、単に受光部とする)15〜18,30〜33が装着されるものとする。尚、以下の実施の形態において同一の構成については同じ部材番号を付して説明を省略する。また、本発明と直接関係のない集光光学系や投受光を1つの素子で行う複合素子等については記述を省略する。
(実施の形態1)
まず、図2に基づいて実施の形態1の受光部15について説明する。受光部15は赤外線を透過させる基体としての透明アクリル製の基板21と、基板21の外面に形成された赤外線通信用光学物品としての散乱反射層23を備えている。本実施の形態1では基板21は数mmの厚さとされている。散乱反射層23はアクリル樹脂からなるバインダー樹脂に微粒子を均一に分散させて成形させた薄膜である。微粒子はその一部あるいは全部の粒径が上記数1の式を満たし、可視光によって白色を呈するものとする。
このような受光部15では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射するため受光ユニット14の受光素子に誤作動等の影響のない程度まで可視光の透過量は減衰される。微粒子によって散乱反射した可視光によって散乱反射層23は白色を呈することとなる。
一方、赤外線は一部が散乱反射層23で散乱反射される可能性があるものの所定の透過量が確保されるため散乱反射層23を透過し、更に基板21を透過して受光ユニット14に達することとなる。従って、受光部15における赤外線によるデータ通信が可能である。
【0029】
(実施の形態2)
次に図3に基づいて実施の形態2の受光部16について説明する。受光部16は赤外線を透過させる基体としての透明アクリル製の基板21と、基板21の外面に形成された散乱反射層23と、基板21の内面に形成された可視光吸収層26とを備えている。可視光吸収層26は薄膜である。
このような受光部16では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射し、散乱反射層23は白色を呈することとなる。
ここで可視光の一部が散乱反射されあるいは微粒子と衝突することなく可視光吸収層26に達すると、可視光は吸収されて可視光吸収層26は暗色化する。そのため、散乱反射層23での曇価が小さくても可視光吸収層26による目隠し効果によって基板21の内部が目視されることはない。また、可視光が受光ユニット14に達するのを防止することができる。一方、赤外線は一部が散乱反射層23で散乱反射されるものの所定の透過量で散乱反射層23を透過し、更に可視光吸収層26及び基板21を透過して受光ユニット14に達することとなる。従って、受光部15における赤外線によるデータ通信が可能である。本実施の形態2で使用する可視光吸収層26の反射率特性の一例を図6に示す。
【0030】
(実施の形態3)
次に図4に基づいて実施の形態3の受光部17について説明する。受光部17は赤外線を透過させる基体としての透明アクリル製の基板21と、基板21の外面に形成された散乱反射層23と、基板21の内面に形成された誘電体多層薄膜からなる反射層27とを備えている。
このような受光部17では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射し、散乱反射層23は白色を呈することとなる。
ここで可視光の一部が散乱反射されあるいは微粒子と衝突することなく反射層27に達すると、可視光は反射されてその一部は散乱反射層23の微粒子によって散乱反射をする。従って、実施の形態3では散乱反射層23の曇価は上記実施の形態よりも大きくなる。また、本実施例では反射層27に青色の波長帯を主として反射するような特性としたため、散乱反射層23は青白く発色することとなる。反射層27の設計例を下記表1に示す。反射層27の反射率特性は図6に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施の形態4)
次に図5に基づいて実施の形態4の受光部18について説明する。受光部18は赤外線を透過させる基体としての透明アクリル製の基板21と、基板21の内面に形成された散乱反射層23と、基板21の外面に形成された保護層としてのハードコート層28を備えている。尚、このようなアクリル製の基板21の外面にハードコート処理を行った場合には下地処理層が必要となるが、図4ではその下地処理層の図示を省略してある。このような構成では基板21の擦傷、皮脂等による劣化をハードコート層28により防ぐことができる。
【0033】
(実施の形態5)
次に図7に基づいて実施の形態5の受光部30について説明する。実施の形態5の受光部30は基体を有さず散乱反射層23が薄膜状ではなく上記基板21と同程度の厚みを有する構成とした。散乱反射層23の内面には誘電体多層膜からなる反射層27が成膜されている。反射層27の反射率特性は上記と同様である。
このような受光部30では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射し、散乱反射層23は白色を呈することとなる。
ここで可視光の一部が散乱反射されあるいは微粒子と衝突することなく反射層27に達すると、可視光は反射されてその一部は散乱反射層23の微粒子によって散乱反射をする。従って、実施の形態5でも上記実施の形態3と同様に散乱反射層23の曇価は大きくなる。
【0034】
(実施の形態6)
次に図8に基づいて実施の形態6の受光部31について説明する。受光部31は赤外線を透過させる基体としての透明アクリル製の基板21と、基板21の外面に形成された反射層27と、反射層27の外面、つまり最外面に形成された散乱反射層23と、基板21の内面に形成された可視光吸収層26とを備えている。つまり、最外層から順に散乱反射層23、反射層27、基板21及び可視光吸収層26という層順となっている。可視光吸収層26及び反射層27の反射率特性は上記と同様である。
このような受光部31では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射し、散乱反射層23は白色を呈することとなる。
ここで可視光の一部が散乱反射されあるいは微粒子と衝突することなく反射層27に達すると、可視光は反射されてその一部は散乱反射層23の微粒子によって散乱反射をする。これによって、実施の形態6でも上記実施の形態3と同様に散乱反射層23の曇価は大きくなる。
また、反射層27を透過した可視光が可視光吸収層26に達すると、可視光は吸収されて可視光吸収層26は暗色化する。そのため、散乱反射層23での曇価が小さくても可視光吸収層26による目隠し効果によって基板21の内部が目視されることはない。また、可視光が受光ユニット14に達するのを防止することができる。一方、赤外線は一部が散乱反射層23で散乱反射されるものの所定の透過量で散乱反射層23を透過し、更に可視光吸収層26及び基板21を透過して受光ユニット14に達することとなる。従って、受光部31における赤外線によるデータ通信が可能である。
【0035】
(実施の形態7)
次に図9に基づいて実施の形態7の受光部32について説明する。実施の形態7の受光部32は基体を有さず可視光吸収層26が薄膜状ではなく上記基板21と同程度の厚みを有する構成とした。可視光吸収層26の外面には誘電体多層膜からなる反射層27が成膜され、反射層27の外面、つまり最外面には散乱反射層23が成膜されている。可視光吸収層26及び反射層27の反射率特性は上記と同様である。
このような受光部32では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射し、散乱反射層23は白色を呈することとなる。
ここで可視光の一部が散乱反射されあるいは微粒子と衝突することなく反射層27に達すると、可視光は反射されてその一部は散乱反射層23の微粒子によって散乱反射をする。従って、実施の形態7でも上記実施の形態3と同様に散乱反射層23の曇価は大きくなる。
また、反射層27を更に透過した可視光が可視光吸収層26に達すると、可視光は吸収されて可視光吸収層26は暗色化する。そのため、散乱反射層23での曇価が小さくても可視光吸収層26による目隠し効果によって受光部32の内部が目視されることはない。また、可視光が受光ユニット14に達するのを防止することができる。一方、赤外線は一部が散乱反射層23で散乱反射されるものの所定の透過量で散乱反射層23を透過し、更に反射層27及び可視光吸収層26を透過して受光ユニット14に達することとなる。従って、受光部32における赤外線によるデータ通信が可能である。
(実施の形態8)
次に図10に基づいて実施の形態8の受光部33について説明する。実施の形態8の受光部33は基体を有さず散乱反射層23が薄膜状ではなく上記基板21と同程度の厚みを有する構成とした。つまり、実施の形態7において反射層27のないより基本的な構成の受光部33である。
このような受光部33では外光に対して次のような光学的な作用が生じる。
まず、外光のうち可視光は散乱反射層23の微粒子よって散乱反射するため受光ユニット14の受光素子に誤作動等の影響のない程度まで可視光の透過量は減衰される。微粒子によって散乱反射した可視光によって散乱反射層23は白色を呈することとなる。一方、赤外線は一部が散乱反射層23で散乱反射されるものの所定の透過量で散乱反射層23を透過し受光ユニット14に達することとなる。従って、受光部33における赤外線によるデータ通信が可能である。
【0036】
(その他の実施の形態)
・上記実施の形態では赤外線通信用光学物品として散乱反射層23を使用する例を挙げたが、例えば透明アクリル製の透明基材の外面にサンドブラスト処理をした散乱反射層を形成した赤外線通信用光学物品を散乱反射層23の代わりに使用してもよい。上記実施の形態1〜7においてそのような構成に置換することが可能である。
・実施の形態5において反射層27の代わりに可視光吸収層26を同じ位置に成膜させるようにしてもよい。また反射層27の外側に可視光吸収層26を配置するようにしてもよい。
・実施の形態5において反射層27の内面に可視光吸収層26を成膜させるようにしてもよい。つまり実施の形態5の散乱反射層23と可視光吸収層26とによって反射層27を間に挟むような配置構成としてもよい。
・実施の形態6において基板21の内面の可視光吸収層26がないような構成としても構わない。
・実施の形態7において反射層27を成膜させない、つまり可視光吸収層26に直接散乱反射層23を膜させるように構成してもよい。
・実施の形態4のハードコート層28を他の実施の形態2に応用するようにしてもよい。
・実施の形態3では反射層27を散 乱反射層23よりも内面(機器側)に配置していたが、散乱反射層23の外側に配置することも可能である。この場合には反射層27は赤外線だけではなく可視光の透過性能も備えることが必要である。
・基板21の素材として上記では透明アクリル樹脂を使用したが、もちろん他のプラスチックであっても構わない。
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
実施の形態は実施の形態1〜4に使用可能な受光部である。以下、実施例2〜9も同様である。
(乱反射層用の溶液の調整)
層を構成するバインダー+微粒子としてアクリルウレタン樹脂塗料(ロックペイント株式会社製、製品名:088-0201 オパールホワイト)を用いた。本塗料は、二酸化チタン微粒子(粒径約20nm)が10〜15重量%分散されたものである。本塗料に固形分5〜7.5重量%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。
(乱反射層の成膜)
厚さ2mm、屈折率1.54の板状のガラス基体の表面にスピンコート法によって以下の条件で成膜させた。スピンコート条件としては、回転数1500rpm、回転時間90秒とし、成膜後常温常圧下で自然乾燥させた。その結果、塗膜としてのヘイズが22の実施例1の受光部を得た。この実施例1の光学特性を図11に示す。図11は縦軸を透過率、横軸を波長とした分光透過率特性のグラフである。以下図12〜図20(図14は除く)も同様である。
【0038】
<実施例2>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分6.7〜10%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって上記と同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが42の実施例2の受光部を得た。この実施例2の光学特性を図10に示す。
<実施例3>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分6.7〜10%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例2よりも若干多めの量を同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが43の実施例3の受光部を得た。この実施例3の光学特性を図11に示す。
<実施例4>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分8〜12%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例1と同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが63の実施例4の受光部を得た。この実施例4の光学特性を図11に示す。
<実施例5>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分8〜13%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例2よりも若干多めの量を同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが65の実施例5の受光部を得た。この実施例5の光学特性を図11に示す。
<実施例6>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分6.7〜10%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例5よりも若干多めの量を同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが82の実施例6の受光部を得た。この実施例6の光学特性を図11に示す。
<実施例7>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分6.7〜10%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例6よりも若干多めの量を同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが95以上の実施例7の受光部を得た。この実施例7の光学特性を図11に示す。
<比較例1>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分6.7〜10%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例6よりも若干多めの量を同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが95以上の実施例8の受光部を得た。この比較例1の光学特性を図11に示す。
【0039】
<実施例8>
実施例1と同様に乱反射層用の溶液を調整し、固形分6.7〜10%となるようトルエンにて濃度希釈し調整した。得られた溶液によって実施例6よりも若干多めの量を同様の条件のスピンコート法によって塗膜としてのヘイズが60の実施例8の受光部を得た。この実施例8の光学特性を図12に示す。
<実施例9>
実施例8によって成膜した白色の赤外線通信用光学物品の内面に、可視光吸収層26としての黒色の赤外線通信用光学物品(いわゆるIRブラック)を重ね合わせた。このときの光学特性を図12に示す。
【0040】
実施例10〜13は実施の形態3のような受光部16を想定した実施例である。
<実施例10>
1)100nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−10)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を1.5重量%分散させ、紫外線吸収剤(株式会社 大和化成研究所製ダインソーブT−53)1重量%を混ぜ、板厚0.69の平板状に成型した(以下、樹脂材Aとする)。樹脂材Aの段階のヘイズは18.5であった。
2)透明板ガラスの片面にコールドミラー膜として、SiO2/TiO2 45層、逆面にAR膜としてSiO2/TiO2 5層をそれぞれ真空蒸着法によって成膜した(以下、ミラー材Aとする)。
3)ミラー材Aのコールドミラー膜45層側に樹脂材Aを接着剤(東レ・ダウコーニング製SYLGARD(R) 184)で貼り合せた。この実施例10の光学特性を図13に示す。
【0041】
<実施例11>
100nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−10)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を1.5重量%分散させ、蛍光顔料(株式会社エポック社製:蛍光顔料ブルーl-02-001B)を0.5重量%分散させ、板厚2mmの平板状に成型した。実施例11のヘイズは81.7であった。実施例11は図14の反射特性に示すように青色付近の波長域の反射率が他の可視光に比較して大きく肉眼では青白色を呈するものである。この実施例11の光学特性を図15に示す。
<実施例12>
100nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−10)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を3重量%分散させ、蛍光顔料(株式会社エポック社製:ライムl-02-001LI)を0.5重量%分散させ、板厚2mmの平板状に成型した。実施例12のヘイズは96.7であった。実施例12は図14の反射特性に示すように青色と黄色付近の波長域の反射率が他の可視光に比較して大きく肉眼では緑白色を呈するものである。この実施例12の光学特性を図15に示す。
<実施例13>
100nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−10)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を3重量%分散させ、蛍光顔料(株式会社エポック社製:レッドl-02-001R)を0.5重量%分散させ、板厚2mmの平板状に成型した。実施例13のヘイズは88.2であった。実施例13は図14の反射特性に示すように青色と赤色付近の波長域の反射率が他の可視光に比較して大きく肉眼ではピンク白色を呈するものである。この実施例13の光学特性を図15に示す。
【0042】
実施例14〜16は実施の形態10のような受光部33を想定した実施例であり、赤外線帯域として850nmの波長で12%の透過率を維持し、一方可視域の透過率を平均で5%以下に制御した例である。
<実施例14>
150nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−15)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を3重量%分散させ、板厚4.4mmの平板状に成型した。ヘイズは90以上であった。この実施例14の光学特性を図16に示す。
<実施例15>
2.2μmの粒径のシリカ (トクヤマ社製 ファインシール)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を0.5重量%分散させ、板厚6mmの平板状に成型した。ヘイズは90以上であった。この実施例15の光学特性を図16に示す。<実施例16>
10μmの粒径のシリカ (トクヤマ社製 トクシールU)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を0.7重量%分散させ、板厚3.3mmの平板状に成型した。ヘイズは90以上であった。この実施例16の光学特性を図16に示す。
尚、実施例14〜16の光学特性の比較として実施例7の樹脂材Aの特性を図16上に図示する。
【0043】
<実施例17>
100nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−10)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を3重量%分散させ、紫外線吸収剤(株式会社 大和化成研究所製ダインソーブT−53)1重量%を混ぜ板厚1.3mmの平板状に成型した。この段階のヘイズは53.45であった。この板材を染料(日本化薬社製: Kayalon Polyster Yellow 5R−SE200)を3g/リットルの水に界面活性剤(日本乳化剤 株式会社製 ニューコール210)とキャリア剤(大和化学工業社製:ダイキャリアDK−CN)を添加し、90℃に加温した中に30分浸漬して実施例17を得た。実施例17は肉眼ではオレンジ白色を呈するものである。また、比較として上記眼鏡用樹脂に実施例17と同じ条件での染料だけを分散させたもの(樹脂材Bとする)を作成した。また、比較のため実施例17において染料のみ入れていない条件で調整したものを作成した。図17に樹脂材Bの透過特性を示す。実施例17の光学特性を図18に示す。
<実施例18>
100nmの粒径の炭酸カルシウム微粒子(白石工業社製 vigot−10)を眼鏡用に調整した眼鏡用樹脂(素材屈折率:1.6)基材中に上記微粒子を3重量%分散させ、紫外線吸収剤(株式会社 大和化成研究所製ダインソーブT−53)1重量%を混ぜ板厚1.3mmの平板状に成型した。この段階のヘイズは53.45であった。この板材を染料(双葉産業製 FSP BLUE AUL-S)を3g/リットルの水に界面活性剤(日本乳化剤 株式会社製 ニューコール210)とキャリア剤(大和化学工業社製:ダイキャリアDK−CN)を添加し、90℃に加温した中に30分浸漬して実施例18を得た。実施例18は肉眼では青白色を呈するものである。また、比較として上記眼鏡用樹脂に実施例18と同じ条件で染料だけを分散させたものを作成した(樹脂材Cとする)。図17に樹脂材Cの透過特性を示す。実施例18の光学特性を図18に示す。
【0044】
<実施例19>
1)石英ガラスの片側表面をサンドブラスト用研磨剤ホワイトアランダムWA#100を用いて、圧力0.2〜0.3MPaで数十秒程度ブラスト処理した(以下、ブラスト材Aとする)。ブラスト材Aの段階のヘイズは79であった。
2)透明板ガラスの片面にコールドミラー膜として、SiO2/TiO2 49層、逆面にAR膜としてSiO2/TiO2 5層をそれぞれ真空蒸着法によって成膜した(以下、ミラー材Bとする)。
3)ミラー材Bのコールドミラー膜49層側に、ブラスト材をブラスト側を接着剤使用しないで重ね合わせた。この実施例19の光学特性を図19に示す。
【0045】
<実施例20>
1)板厚1mmのアクリル樹脂基板を100%アセトンを含ませた布で表面を軽くこすって、その後30分風乾させた(以下、アセトン処理材Aとする)。ヘイズは87であった。
2)透明板ガラスの片面にコールドミラー膜として、SiO2/TiO2 49層、逆面にSiO2/TiO2 5層をそれぞれ真空蒸着法によって成膜した(以下、ミラー材Cとする)。
3)ミラー材Cのコールドミラー膜49層側に、アセトン処理材Aを非処理面側を接着剤使用しないで重ね合わせた。この実施例20の光学特性を図20に示す。
【0046】
(通信性能の評価について)
市販のIrDA規格の赤外線通信方式の携帯電話を2台用意し、それぞれの赤外線ポートに同じ実施例の受光部を装着し、20cm離間させて通信可能かどうかの実験を行った。その結果、実施例1〜20については通信可能であったが、比較例1では通信できなかった。
(白色発色の評価について)
上記各実施例についてのヘイズをヘイズメーターを用いて測定し、上記のような値を得た。目視においてはいずれも十分な白濁が得られていた。
【符号の説明】
【0047】
15〜18,30〜33…赤外線通信用受光部、23…赤外線通信用光学物品としての散乱反射層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なバインダー樹脂に同バインダー樹脂とは屈折率の異なる微粒子を均一に分散させて成形される赤外線通信用光学物品であって、同微粒子に可視光域の光を散乱反射させて白色を発色させるようにするとともに、長波長側の光の透過率が高くなるような波長依存性を有するように微粒子の平均粒径を設定し、赤外線の通信帯の波長域における透過率を12%以上に設定したことを特徴とする赤外線通信用光学物品。
【請求項2】
一部あるいは全部の前記微粒子の径Dを下記式で示される大きさとしたことを特徴とする請求項1に記載の赤外線通信用光学物品。
【数1】

【請求項3】
一部あるいは全部の前記微粒子の径Dを下記式で示される大きさとしたことを特徴とする請求項1に記載の赤外線通信用光学物品。
【数2】

【請求項4】
透明基材の表面を粗面処理することで微細凹凸形状を形成し白色の散乱層を同透明基材表面に形成させた赤外線通信用光学物品であって、長波長側の光の透過率が高くなるような波長依存性を有するように同散乱層の微細凹凸形状の平均凹凸径を設定し、赤外線の通信帯の波長域における透過率を12%以上に設定したことを特徴とする赤外線通信用光学物品。
【請求項5】
一部あるいは全部の前記微細凹凸形状の径Dを下記式で示される大きさとしたことを特徴とする請求項4に記載の赤外線通信用光学物品。
【数1】

【請求項6】
一部あるいは全部の前記微細凹凸形状の径Dを下記式で示される大きさとしたことを特徴とする請求項4に記載の赤外線通信用光学物品。
【数2】

【請求項7】
前記バインダー樹脂あるいは前記透明基材中に、可視域の一部を吸収する色材を1種類以上含有させたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の赤外線通信用光学物品。
【請求項8】
前記バインダー樹脂あるいは前記透明基材中に、赤外線を透過し、かつ可視域の一部を吸収する染料を含有させたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の赤外線通信用光学物品。
【請求項9】
前記バインダー樹脂あるいは前記透明基材中に、紫外線吸収剤を含有させたことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の赤外線通信用光学物品。
【請求項10】
少なくとも赤外線を透過する基体の外面又は内面に請求項1〜9のいずれかに記載の赤外線通信用光学物品を配置してなることを特徴とする赤外線通信用受光部。
【請求項11】
前記基体は赤外線を透過するととともに可視光の透過が阻止されており、前記赤外線通信用光学物品は同基体の外面に配置されていることを特徴とする請求項10に記載の赤外線通信用受光部。
【請求項12】
前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の内面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の透過を阻止する可視光吸収層を配置したことを特徴とする請求項10に記載の赤外線通信用受光部。
【請求項13】
前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の外面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同基体と同光学物品の間あるいは同基体の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の透過を阻止する可視光吸収層を配置したことを特徴とする請求項10に記載の赤外線通信用受光部。
【請求項14】
前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の内面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の一部又は全部を前記赤外線通信用光学物品方向に反射する反射層を配置したことを特徴とする請求項10に記載の赤外線通信用受光部。
【請求項15】
前記基体は透明な素材から構成されており、同基体の外面に前記赤外線通信用光学物品を配置するとともに、同基体と同光学物品の間あるいは同基体の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の一部又は全部を前記赤外線通信用光学物品方向に反射する反射層を配置したことを特徴とする請求項10に記載の赤外線通信用受光部。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれかの赤外線通信用光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の透過を阻止する可視光吸収層を配置したことを特徴とする赤外線通信用受光部。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれかの赤外線通信用光学物品の機器内面側に赤外線を透過し、かつ可視光の一部又は全部を反射する反射層を配置したことを特徴とする赤外線通信用受光部。
【請求項18】
最外層位置に保護層を配置したことを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載の赤外線通信用受光部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−65052(P2013−65052A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−287035(P2012−287035)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2009−65568(P2009−65568)の分割
【原出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】