説明

赤外線通信装置

【課題】直射日光が赤外線受光面の法線方向から照射されているような場合でも、正常に赤外線通信を行うことができる赤外線通信装置を提供する。
【解決手段】赤外線通信装置10は、受信側の受光素子1及び送信側の発光素子2と、通信部本体3とで構成するとき、受信側及び送信側の受発光素子1、2には、赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子を用いて構成する。この受発光素子としては、InGaAs素子を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線通信装置に係り、特に太陽光下の屋外においても支障なく通信が行える赤外線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、赤外線通信装置は、リモートコントローラ(以下、「リモコン」と略称する。)や、コンピュータとプリンタや他の端末機器やPDA(Personal Digital Assistnt)と呼ばれる携帯情報機器等に組み込まれ、これらの送信専用や受信専用或いは送受信を行う通信手段として使用されている。
【0003】
これら従来の赤外線通信装置では、発光素子及び受光素子に940nmから950nm付近を主波長とした波長域に感度を有するシリコン素子(以下、「Si素子」と略称する。)を使用している。これは、赤外線通信装置の使用環境が、主に屋内であるために940nmから950nm付近の外乱光が存在せず、通信に影響を与えることが皆無であったことや、Si素子の発光ダイオード(Light Emittion Diode、以下「LED」と略称する。)が安価であることからが挙げられる。
【0004】
Si素子の場合には、図5に示すように、940nmから950nmを主波長とした発光スペクトルであり、また図6に示すように相対感度特性は、900nmから1000nmまでの波長域に感度ピークが存在している。
【0005】
ところが、屋外の地表面における太陽光のスペクトルは、940nmから950nm付近には大量の太陽の外乱光が存在していることが知られている。このため、屋外でSi素子を用いて赤外線通信を行う場合、地表面の太陽光のスペクトルが大量に存在する中での通信となるから、赤外線通信の情報が太陽光の赤外線中に埋没してしまい、赤外線通信が良好に行えないことになる。
【0006】
屋内用の赤外線通信のうち、Si素子以外のLEDを用いる例としては、例えば波長の互いに異なるガリウム砒素アルミニウム化合物素子の高速用LED、及びガリウム砒素化合物素子の低速用LEDを設け、各高速用LED及び低速用LEDの発光波長に適合する情報信号を生成する高速信号生成部及び低速信号生成部と、生成された各高速用LED又は低速用LEDの発光波長に適合する各情報信号の出力を切り替える情報信号切替部とを設けることで、相手側の受信機の通信波長型式に応じて使い分けて通信することが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、赤外線領域を含んだ光波長領域に感度を有する撮像部で目的の外部赤外線装置を含んだ小領域を撮像し、その結果は画像処理され、位置検出部によって画像処理で得られた画像データを基に、一定の赤外線光量以上の領域を検知し、所定の点滅パターンで赤外線を出力する外部赤外線装置が存在するか否かを判断している。そして、目的の外部赤外線装置が存在すると判断された場合は、位置情報提示部が、当該目的の外部赤外線装置の位置情報をユーザに提示することも知られている(特許文献2参照)。
【0008】
更に、目的とする赤外線通信の実行中も撮像部をオンし、悪意の外部赤外線装置を監視し続け、撮像部による撮像結果を画像処理し、この画像処理で得られた画像データを基に、他の外部赤外線装置が存在するか否かを判断を行い、他の外部赤外線装置が存在すると判断された場合には、悪意の外部赤外線装置である可能性もあるため、直ちに赤外線通信部をオフすることで赤外線通信を中止し、赤外線通信を中止した旨を携帯電話の表示部への表示等によってユーザに報告することも知られている(特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平9−181673号公報
【特許文献2】特許公開2004−112226号公報
【特許文献3】特許公開2004−112227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の赤外線通信装置では、屋外で赤外線通信を実施する際に、赤外線通信装置の発光素子部分は太陽光の強い赤外線を含んだ光の影響により、正常に通信ができなくなるという問題を抱えていた。これは、赤外線通信に使用される赤外線の波長域には地表面の太陽光のスペクトルが大量に存在するため、太陽光の赤外線情報の中に赤外線通信の情報が埋没するということに起因する。この傾向は、特に日差しの強い夏期の炎天下の屋外での赤外線通信の場合に著しくなる。
【0011】
本発明の目的は、夏期の炎天下においてのように直射日光が赤外線受光面の法線方向から照射されているような場合でも、正常に赤外線通信を行うことができる赤外線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、送信側の赤外線発光素子と通信部本体とを有する赤外線通信装置において、前記送信側の赤外線発光素子には、赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子を用いて構成している。
【0013】
また本発明では、受信側の赤外線受光素子と通信部本体とを有する赤外線通信装置において、前記受信側の赤外線受光素子には、赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子を用いて構成している。
【0014】
更に本発明では、送信側の赤外線発光素子及び受信側の赤外線受光素子と通信部本体とを有する赤外線通信装置において、前記送信側の赤外線発光素子及び受信側の赤外線受光素子には、それぞれ赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子を用いて構成している。
【0015】
好ましくは、赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子としては、インジウムガリウム砒素素子(以下、「InGaAs素子」と称する。)を用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のように赤外線通信装置を構成すれば、屋外の地表面では殆ど存在しない赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子を用いたので、赤外線通信を確実に行え、夏期の炎天下において直射日光が赤外線受光面の法線方向から照射されているような場合であっても、支障なく赤外線通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の赤外線通信装置は、受信側及び送信側の受発光素子と通信部本体とで構成するとき、受信側及び送信側の受発光素子には、赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子を用いて赤外線通信を行うように構成する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の一実施例を、図1に示す赤外線通信装置10を用いて説明する。この赤外線通信装置10は、受信側の受光素子1及び送信側の発光素子2と、通信部本体3から構成されている。通信部本体3は、赤外線通信のアナログ情報をデジタル情報に変換するA/D変換器4と、受信情報を取り出す受信回路5、受信情報の処理を行う通信処理部6を備えている。
【0019】
また、この赤外線通信装置10には、通信処理部6で生成した送信情報をデジタル情報に変換する送信回路7と、デジタル情報をアナログ情報に変換するD/A変換器8を備えており、発光素子2から赤外線で情報を送信する構成としている。
【0020】
そして、本発明では、これら受信側及び送信側の受発光素子1、2は、赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子を使用している。赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子としては、例えばInGaAs素子を用いることができる。
【0021】
地表面における太陽光スペクトルの波長と分光放射照度の関係は、図2の特性図に示すように線Aの晴天時と、線Bの曇天時で異なっており、いずれも500nmの前後にピークがあり、これを過ぎると太陽光の波長は大気による吸収分光が著しく次第に減衰し、晴天時の地表面では、太陽光の波長が1300nmから1500nm近辺の範囲Wでは殆ど存在せず、また曇天時の地表面では、太陽光の波長が1500nm付近に若干の存在するだけとなっている。このため、本発明の赤外線通信装置10では、赤外線通信を良好に行うために、赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子を使用するようにしたものである。
【0022】
赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子の例であるInGaAs素子の場合、相対分光感度は線Gで示すように1250nmから1600nm付近までピークを有しているから、線Sで示すSi素子のように940nmから950nm近辺に相対分光感度のピークを有するものと大きく異なっている。
【0023】
また、InGaAs素子の発光スペクトルは、図3に示すように1450nm付近を主波長とした発光スペクトルであり、InGaAs素子の分光絶対感度の特性は、図4に示すように1500nmを主波長とした感度ピークを示している。
【0024】
したがって、InGaAs素子は、赤外線通信装置10の赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子として用いると、屋外の太陽光下であっても赤外線の安定した通信を良好に行うことができることになる。InGaAs素子を用いる場合、当然のことながら赤外線通信装置10の通信部本体3の構成も、この素子で通信可能なものにして使用する。
【0025】
InGaAs素子は、1400nmから1500nmの波長域の感度は良好であり、この波長域の地表面における太陽光スペクトルは、上記したように大気による吸収分光が著しく、晴天時においては殆ど存在せず、曇天時においては1500nm付近に若干の存在が認められるが、1400nmから1450nm付近の波長域は、晴天時も曇天時の双方とも殆ど存在していない。
【0026】
このことから、InGaAs素子を赤外線通信装置の発光素子や受光素子とした使用とした場合、太陽光下における屋外での赤外線の通信が、Si素子を用いる場合のような問題を全く起こすことなく、例え夏期の炎天下であっても良好に行うことができる。
【0027】
赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子、特にInGaAs素子を使用する図1の構成の赤外線通信装置10は、一般的なコンピュータと周辺機器や携帯情報機器等に組み込み、これらの機器での屋外での双方向の情報通信に使用できる。
【0028】
また、リモコン等のように送信専用の場合には、赤外線通信装置10の受光側の各部分を省き、逆に受信専用よして使用する携帯情報機器等の場合は、受光側の各部分を省いて構成し、屋外における一方向の情報通信に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例である赤外線通信装置を示すブロック図である。
【図2】晴天時及び曇天時における地表面における太陽光スペクトルの波長と分光放射照度の関係と、InGaAs素子及びSi素子の相対分光感度の関係を示す特性図である。
【図3】InGaAs素子の発光スペクトル図である。
【図4】InGaAs素子の分光感度特性図である。
【図5】Si素子の発光スペクトル図である。
【図6】Si素子の分光感度特性図である。
【符号の説明】
【0030】
1…受光素子、2…発光素子、3…通信部本体、4…A/D変換器、5…受信回路、6…通信処理部、7…送信回路、8…D/A変換器、10…赤外線通信装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信側の赤外線発光素子と通信部本体とを有する赤外線通信装置において、前記送信側の赤外線発光素子には、赤外線波長域が1300nmから1500nmの発光素子を用いて構成したことを特徴とする赤外線通信装置。
【請求項2】
受信側の赤外線受光素子と通信部本体とを有する赤外線通信装置において、前記受信側の赤外線受光素子には、赤外線波長域が1300nmから1500nmの受光素子を用いて構成したことを特徴とする赤外線通信装置。
【請求項3】
送信側の赤外線発光素子及び受信側の赤外線受光素子と通信部本体とを有する赤外線通信装置において、前記送信側の赤外線発光素子及び受信側の赤外線受光素子には、それぞれ赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子を用いて構成したことを特徴とする赤外線通信装置。
【請求項4】
請求項1から3において、前記赤外線波長域が1300nmから1500nmの受発光素子には、インジウムガリウム砒素素子を用いて構成したことを特徴とする赤外線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−158381(P2007−158381A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346294(P2005−346294)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(390023928)日立エンジニアリング株式会社 (134)
【Fターム(参考)】