説明

赤外線遮蔽材料微粒子分散体および赤外線遮蔽体

【課題】タングステン酸化物や複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、紫外線による色調変化が抑制された赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体を板状、フィルム状および薄膜状に形成した赤外線遮蔽体を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式WyOzで表記されるタングステン酸化物または/および一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物微粒子と、着色防止剤とを、媒体中に含有させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体を調製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸化物、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、さらに、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体を用いた赤外線遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、赤外線遮蔽体の需要が急増しており、赤外線遮蔽体に関する特許が多く提案されている。例えば、各種建築物や車両の窓材等の分野において、可視光線を十分に取り入れながら近赤外領域の光を遮蔽し、明るさを維持しつつ室内の温度上昇を抑制することを目的としたもの、PDP(プラズマディスプレイパネル)から前方に放射される近赤外線が、コードレスフォンや家電機器のリモコンに誤動作を引き起こしたり、伝送系光通信に悪影響を及ぼすことを防止することを目的としたもの、等がある。
【0003】
特許文献1には、透明樹脂フィルム層(1)と、近赤外線吸収剤としてジイモニウム系化合物を含有する透明近赤外線遮蔽層(2)と、透明樹脂フィルム層(3)と、前記透明近赤外線遮蔽層(2)の色調を補整する色材を含有する透明色調補整層(4)とを積層した多層構造を有することを特徴とする近赤外線遮蔽フィルムが提案されている。
【0004】
本発明者らは、特許文献2において、可視光線領域を透過させ近赤外線領域を遮蔽する耐候性の良い無機材料微粒子を、平均分散粒子径が800nm以下のタングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子により構成することによって、近赤外線吸収力が大きく耐久性に優れ、安価に作製できるプラズマディスプレイパネル用近赤外線吸収フィルターを提案している。
【0005】
【特許文献1】特開2001−133624号公報
【特許文献2】特開2006−154516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に述べたタングステン酸化物、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、優れた赤外線遮蔽材料である。
しかし本発明者らの検討によると、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物や複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、長期間にわたって紫外線を受けると、色調の変化、透過率の低下が起きることが判明した。このため、当該分散体を窓材等に用いる場合、色調が暗くなる傾向が見られる。この為、当該分散体を、太陽光を受ける屋外用途等へ用途拡大するのは困難であることが判明した。
【0007】
そこで本発明者らは、長期間にわたって紫外線を受けても、色調の変化、透過率の低下が起こらず、窓材等に用いても色調が暗くならない、タングステン酸化物、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体を作製することを課題とした。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物や複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、紫外線による色調変化が抑制された赤外線遮蔽材料微粒子分散体、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体を板状、フ
ィルム状および薄膜状に形成した赤外線遮蔽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持つタングステン酸化物や複合タングステン酸化物の微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体の紫外線による色調変化の現象について鋭意研究を行った。
【0010】
そして、当該研究の結果、上述したタングステン酸化物等の微粒子を媒体となる高分子材料に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体に紫外線を照射すると、紫外線のエネルギーによって、当該高分子材料の高分子鎖が切断されて活性な有害ラジカルが次々に発生すること、当該有害ラジカルの次々に発生により、高分子の劣化が連鎖的に進むだけでなく、当該連鎖的な反応により生成した有害ラジカルが、赤外線遮蔽材料微粒子分散体または赤外線遮蔽体中に分散する上記タングステン酸化物や複合タングステン酸化物微粒子に作用すること、即ち、当該有害ラジカルが、タングステン酸化物や複合タングステン酸化物中のタングステン原子を還元する作用を発揮することで、新たに5価のタングステン(有色)が生成増加し、当該5価のタングステンの生成増加に伴って着色濃度が高くなることに想到した。
【0011】
ここで、本発明者らは、タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体中に、リン元素を含有するリン系着色防止剤を始めとする着色防止剤を、同時に存在させることで、紫外線により発生した有害ラジカルを捕捉して、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子中にあるタングステン原子の還元を防止し、当該赤外線遮蔽材料の紫外線による色調変化を抑制する構成に想到し本発明に至った。
【0012】
即ち、上述の課題を解決するための第1の手段は、
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と、着色防止剤とが、媒体中に含有されていることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0013】
第2の手段は、
前記着色防止剤が、リンを含有し、且つ、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基の内いずれか1種以上の基を含有するものであることを特徴とする第1の手段に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0014】
第3の手段は、
前記タングステン酸化物微粒子、または/および、前記複合タングステン酸化物微粒子が、粒子直径1nm以上、800nm以下の微粒子であることを特徴とする第1または第2の手段に記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体分散体である。
【0015】
第4の手段は、
前記タングステン酸化物微粒子、または/および、前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする第1から第3の手段のいず
れかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0016】
第5の手段は、
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶または立方晶から選択される1種以上の結晶構造を含むことを特徴とする第1から第4の手段のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0017】
第6の手段は、
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内いずれか1種類以上の元素であり、且つ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とする第1から第5の手段のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0018】
第7の手段は、
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする第1から第6の手段のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0019】
第8の手段は、
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂の内いずれか1種類以上であることを特徴とする第1から第7の手段のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0020】
第9の手段は、
第1から第8の手段のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率を60%以上、70%以下とし、
前記着色防止剤を含有しない他は、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体と同組成を有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体へ、強度が100mW/cmの紫外線を2時間照射した後の可視光透過率の低下率を100%と規格化したとき、
当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体へ、同強度の紫外線を同時間照射した後の可視光透過率の低下率が70%以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体である。
【0021】
第10の手段は、
第1から第9の手段のいずれかに記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を、板状、フィルム状または薄膜状に形成したものであることを特徴とする赤外線遮蔽体である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、可視光領域においては透明で、近赤外線領域においては吸収を持ち、紫外線照射下においては着色変化が抑制されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、1.タングステン酸化物、複合タングステン酸化物、2.着色防止剤、3.タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色機構と、当該紫外線による着色機構に対する着色防止剤の作用機構、4.赤外線遮蔽材料微粒子分散体、5.本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体の特性評価、の順に説明する。
【0024】
1.タングステン酸化物、複合タングステン酸化物
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体および赤外線遮蔽体に用いられる、タングス
テン酸化物、複合タングステン酸化物について説明する。
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺にある電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このような物質の粉末を光の波長より小さい微粒子とすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱が低減されて可視光領域の透明性が得られる。尚、本明細書において、透明性とは、可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高いという意味で用いている。
【0025】
一般に、WO中には有効な自由電子が存在しないため、WOは近赤外線領域の吸収反射特性が少なく、赤外線遮蔽材料としては有効ではない。一方、酸素欠損を持つ3酸化タングステンや、3酸化タングステンにNa等の陽性元素を添加したいわゆるタングステンブロンズは、導電性材料であり、自由電子を持つ材料である。さらに、これら材料の単結晶等を分析した結果からも、赤外線領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0026】
本発明者等は、当該タングステンと酸素との組成範囲が特定範囲にあるとき、赤外線遮蔽材料として特に有効なものとなることを見出した。そして、当該可視光領域においては透明でありながら、赤外線遮蔽材料として特に有効なタングステン酸化物、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を媒体に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体、および、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体より製造した赤外線遮蔽体を得た。
【0027】
本発明の赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物である。
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物において、当該タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比が3よりも少なく、さらには、当該赤外線遮蔽材料をWyOzと記載したとき、2.2≦z/y≦2.999である。このz/yの値が、2.2以上であれば、当該赤外線遮蔽材料中に目的以外であるWOの結晶相が現れるのを回避することが出来るとともに、材料としての化学的安定性を得ることが出来るので有効な赤外線遮蔽材料として適用できる。一方、このz/yの値が、2.999以下であれば必要とされる量の自由電子が生成され効率よい赤外線遮蔽材料となる。
【0028】
ここで、当該WOに対し、上述した酸素量の制御と、自由電子を生成する元素の添加とを併用することで、より効率の良い赤外線遮蔽材料を得ることが出来る。
まず、当該WOへ、元素M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素)を添加し、一般式MxWyOzで表記される複合タングステン酸化物とすることで、当該WO中に自由電子が生成され、近赤外線領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、1000nm付近の近赤外線吸収材料として有効となるため好ましい。
【0029】
次に、元素Mの添加量を示すx/yの値について説明する。
x/yの値は、0.001≦x/y≦1であることが好ましい。
x/yの値が0.001より大きければ、十分な量の自由電子が生成され目的とする赤
外線遮蔽効果を得ることが出来る。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線遮蔽効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1より小さければ、当該赤外線遮蔽材料中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0030】
また、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上であることが好ましい。
【0031】
ここで、元素Mを添加された当該MxWyOzにおける、安定性の観点からは、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちのうちから選択される1種類以上の元素であることがより好ましく、赤外線遮蔽材料としての光学特性、耐候性を向上させる観点からは、前記元素Mにおいてアルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素に属するものが、さらに好ましい。
【0032】
次に、酸素量の制御を示すz/yの値について説明する。
z/yの値は、2.2≦z/y≦3.0であることが好ましい。
これは、MxWyOzで表記される赤外線遮蔽材料においても、上述したWyOzで表記される赤外線遮蔽材料と同様の機構が働くことに加えz/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給があるため、2.2≦z/y≦3.0が好ましく、さらに好ましくは2.45≦z/y≦3.0である。
【0033】
さらに、上述の複合タングステン酸化物微粒子が六方晶の結晶構造を有する場合、当該微粒子の可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照しながら説明する。図1において、符号1で示すWO単位にて形成される8面体が、6個集合して六角形の空隙が構成され、当該空隙中に、符号2で示す元素Mが配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。当該複合タングステン酸化物微粒子は、結晶質であっても非晶質であっても構わない。
【0034】
この六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域の透過が向上し、近赤外領域の吸収が向上する。ここで、一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され、具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Snを添加したとき六方晶が形成されやすい。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すれば良く、上記元素に限定される訳ではない。
【0035】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物微粒子が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、更に好ましくは0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0036】
また、六方晶以外で、正方晶、立方晶のタングステンブロンズも赤外線遮蔽材料として有効である。結晶構造によって、近赤外線領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光線領域の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順であり、よって、より可視光領域の光を透過して、より赤外線領域の光を遮蔽する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0037】
尚、本発明に係る、タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料は、近赤外線領域、特に1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0038】
また、当該赤外線遮蔽材料の粒子の粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持した応用に使用する場合は、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、800nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0039】
この粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下、好ましくは100nm以下が良い。この理由は、粒子の粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm〜780nmである可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。即ち、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に反比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい、粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0040】
上記粒子径を800nm以下と選択することにより、赤外線遮蔽材料微粒子を媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体のヘイズ値は可視光透過率85%以下でヘイズ値を30%以下とすることができる。ヘイズ値が30%よりも大きい値であると、曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られない。
【0041】
また、本発明の赤外線遮蔽材料を構成する微粒子の表面が、Si、Ti、Zr、Alの一種類以上を含有する酸化物で被覆されていることは、当該赤外線遮蔽材料の耐候性の向上の観点から好ましい。
【0042】
また、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子において、一般式WyOzにおいて、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、所謂「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外線領域の吸収特性も良いので、赤外線遮蔽材料として好ましい。
【0043】
2.着色防止剤
本発明で用いられる「着色防止剤」とは、連鎖開始阻害機能、連鎖禁止機能、過酸化物分解機能、の各機能のうち、いずれか1以上の機能を備えている化合物をいう。
ここで、連鎖開始阻害機能とは、有害な過酸化物ラジカルを発生させる触媒となる金属イオンを不活性化し、当該過酸化物ラジカルによる連鎖反応の開始を阻害する機能のこと
である。
次に、連鎖禁止機能とは、発生した過酸化物ラジカルを不活性化させ、過酸化物ラジカルの作用による新たな過酸化物ラジカル発生という連鎖反応を抑制する機能のことである。
さらに、過酸化物分解機能とは、過酸化物を不活性な化合物に分解し、過酸化物が分解してラジカル化する反応を阻害する機能のことである。
本発明に係る当該着色防止剤は、上記タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子中のタングステン原子を還元する有害な過酸化物ラジカルの発生や増加を、上述の機能により阻害するものである。
【0044】
本発明で使用する着色防止剤の種類について説明する。
本発明において、(a)リン系着色防止剤、(b)アミド系着色防止剤、(c)アミン系着色防止剤、(d)ヒンダードアミン系着色防止剤(e)ヒンダードフェノール系着色防止剤、(f)硫黄系着色防止剤、のいずれの系統の着色防止剤も使用可能である。なかでも、(a)リン系着色防止剤が望ましく、特に、分子内にホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基の内いずれか1種以上の基を含有するリン系着色防止剤が、紫外線照射時の着色抑制効果が高いため望ましい。
尚、上記の着色防止剤は、単独で用いても良いが、2種以上を組み合わせて用いても良い。使用する分散媒体によっては、主に連鎖開始阻害機能を有する着色防止剤と、主に連鎖禁止機能を有する着色防止剤と、主に過酸化物分解機能を有する着色防止剤とを、併用することで高い着色抑制効果を得られる場合がある。
【0045】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体中における、当該着色防止剤の最適含有量は、使用する着色防止剤や分散媒体の種類により異なる。しかし、一般に、分散媒体中に0.01wt%以上、20wt%以下、さらに好ましくは0.1wt%以上、15wt%以下が良い。赤外線遮蔽材料微粒子分散体中の着色防止剤の含有量が0.01wt%以上であれば、紫外線によって発生したラジカルを十分に補足でき、有害ラジカルが連鎖的に発生するのを抑制するので5価のタングステンの生成を抑制することができ、紫外線による着色を抑制する効果が得られる。一方、分散媒体中における含有量が20wt%以下であれば、たとえ分散媒体としてUV硬化樹脂を用いた場合であっても、上記着色防止剤が樹脂高分子のラジカル重合を殆ど阻害しない為、赤外線遮蔽材料微粒子分散体の透明性や強度を保つことが出来好ましい。尤も、分散媒体として、熱硬化性樹脂、または/および、熱可塑性樹脂を用いる場合は、当該分散媒体中に20wt%以上含有させても良い。
【0046】
各種の着色防止剤について、具体例と一般的な機能について以下説明する。
(a)リン系着色防止剤
着色防止剤の第1の具体例は、リンを含有するリン系着色防止剤である。さらには、リンを含むリン系官能基を備えた化合物が好ましい。
ここで、リン系官能基には、3価のリンを含むものと、5価のリンを含むものとがあるが、本発明にいう「リン系官能基」には、いずれのものであっても良い。
次の(化1)の式で3価のリンを含むリン系官能基を備えたリン系着色防止剤、(化2)の式で5価のリンを含むリン系官能基を備えたリン系着色防止剤の一般式を示す。
【化1】

【化2】

【0047】
尚、(化1)の式および(化2)の式において、x、y、zは、0または1の値をとる。また、R、RおよびRは、一般式Cで表される直鎖、環状、もしくは分岐構造のある炭化水素基、または、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、または、水素原子である。さらに、yまたはzが1の場合には、RまたはRは、金属原子でもよい。
【0048】
また、本発明において「リン系官能基」とは、(化1)(化2)の式において、Rを除いた部分(すなわち、一般式:−O−P(O)(O)、または、一般式:−O−P(O)(O)(O)で表されるもの)をいう。リン系官能基の例としては、具体的には、ホスホン酸基(−P(O)(OH))、リン酸基(−O−P(O)(OH))、ホスホン酸エステル基(−P(O)(OR)(OR))、リン酸エステル基(−O−P(O)(OR)(OR))、ホスフィン基(−P(R)(R))等が挙げられる。
【0049】
これらのリン系官能基の内、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基およびリン酸エステル基等の5価のリンを含有する官能基は、主として連鎖開始阻害機能(すなわち、隣接するリン系官能基によって金属イオンをキレート的に捕捉する機能)を有していると考えられている。
一方、ホスフィン基等の3価のリンを含有するリン系官能基は、主として過酸化物分解機能(すなわち、P原子が自ら酸化することによって過酸化物を安定な化合物に分解する機能)を有していると考えられている。
これらのリン系官能基の中でも、ホスホン酸基を備えたホスホン酸系着色防止剤は、金属イオンを効率よく捕捉でき、耐加水分解性などの安定性に優れるので、着色防止剤として特に好適である。
【0050】
低分子型のリン系着色防止剤の好適な例として、具体的には、リン酸(HPO)、トリフェニルフォスファイト((CO)P)、トリオクタデシルフォスファイト((C1827O)P)、トリデシルフォスファイト((C1021O)P)、トリラウリルトリチオフォスファイト([CH(CH11S]P)等が挙げられる。
【0051】
また、高分子型のリン系着色防止剤の好適な例として、具体的には、ポリビニルホスホン酸、ポリスチレンホスホン酸、ビニル系リン酸(例えば、アクリルリン酸エステル(CH=CHCOOPO(OH))、ビニルアルキルリン酸エステル(CH=CHR−O−PO(OH)、Rは、−(CH−)などの重合体)、ホスホン酸基を導入したポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルエーテルケトン樹脂、直鎖型フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、直鎖型ポリスチレン樹脂、架橋型ポリスチレン樹脂、直鎖型ポリ(トリフルオロスチレン)樹脂、架橋型(トリフルオロスチレン)樹脂、ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、ポリ(アリルエーテルケトン)樹脂、ポリ(アリレンエーテルスルホン)樹脂、ポリ(フェニルキノサンリン)樹脂、ポリ(ベンジルシラン)樹脂、ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン
樹脂、ポリスチレン−グラフト−ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスチレン−グラフト−テトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。
【0052】
さらに、本発明に係る、タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料へ、曇りのない優れた透明性を付与し、かつ、タングステン酸化物微粒子、または/および、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色を効果的に抑制する為、分散媒体の種類によっては、高分子型のリン系着色防止剤が好ましい場合もある。さらに加えて、当該高分子型のリン系着色防止剤へ、さらに架橋構造を導入した高分子型のリン系着色防止剤が好ましい場合もある。
【0053】
(b)アミド系着色防止剤
着色防止剤の第2の具体例は、分子内にアミド結合(−CO−NH−)を有する化合物(以下、「アミド系着色防止剤」という場合がある。)からなる着色防止剤である。アミド系着色防止剤は、主として連鎖開始阻害機能(すなわち、アミド結合のO原子とN原子によって金属イオンがキレート的に捕捉される機能)を有していると考えられる。
【0054】
低分子型のアミド系着色防止剤の好適な例として、N−サリシロイル−N’−アルデヒドヒドラジン(C(OH)−CONHNHCHO)、N−サリシロイル−N’−アセチルヒドラジン(C(OH)−CONHNHCOCH)、N,N’−ジフェニル−オキサミド(C−NHCOCONH−C)、N,N’−ジ(2−ヒドロキシフェニル)オキサミド(C(OH)−NHCOCONH−C(OH))等が挙げられる。
【0055】
また、高分子型のアミド系着色防止剤の好適な例として、上記低分子型のアミド系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記低分子型のアミド系着色防止剤が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤のところで説明したことと同様である。
【0056】
(c)アミン系着色防止剤
着色防止剤の第3の具体例は、分子内にベンゼン核と、当該ベンゼン核に結合するアミノ基(−NH)またはイミノ結合(−NH−)を有する化合物(以下、「アミン系着色防止剤」という場合がある。)からなる着色防止剤である。
当該アミン系着色防止剤は、主として連鎖禁止機能(すなわち、ベンゼン核に結合したアミノ基またはイミノ結合がラジカルを捕捉することで、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられている。
【0057】
低分子型のアミン系着色防止剤の好適な例としては、フェニル−β−ナフリルアミン(C−NH−C10)、α−ナフチルアミン(C10NH)、N,N’−ジ−第2ブチル−p−フェニレンジアミン((CHCNH−C−NHC(CH)、フェノチアジン(CSNHC)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(C−NH−C−NH−C)等が挙げられる。
【0058】
また、高分子型のアミン系着色防止剤の好適な例としては、上記アミン系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記アミン系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤のところで説明したことと同様である。
【0059】
(d)ヒンダードアミン系着色防止剤
着色防止剤の第4の具体例は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン誘導体または1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン誘導体(以下、「ヒンダードアミン系着色防止剤」という。)である。
ヒンダードアミン系着色防止剤は、主として連鎖禁止機能(すなわち、ラジカルを捕捉して、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられる。
【0060】
低分子型のヒンダードアミン系着色防止剤の例としては、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクトキシピペリジニル)セバケート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ジトリデシル・ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ジトリデシル・ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルオキシカルボニル)ブチルカルボニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルオキシカルボニル)ブチルカルボニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、2,4,6−トリス{N−シクロヘキシル−N−(2−オキソ−3,3,5,5−テトラメチルピペラジノ)エチル}−1,3,5−トリアジン等がある。
【0061】
好ましくは、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペン
タメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンであり、より好ましくは、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)2−ブチル−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4.5]デカン−2,4−ジオン、2,2,4,4−テトラメチル−20−(β−ラウリルオキシカルボニル)−エチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]ヘネイコサン−21−オン、トリデシル・トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンがある。
【0062】
また、高分子型のヒンダードアミン系着色防止剤の好適な例としては、上記ヒンダードアミン系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記ヒンダードアミン系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤のところで説明したことと同様である。
【0063】
(e)ヒンダードフェノール系着色防止剤
着色防止剤の第5の具体例は、フェノール性OH基のo−位に第三ブチル基等の大きな基が導入された化合物(以下、「ヒンダードフェノール系着色防止剤」という場合がある。)である。ヒンダードフェノール系着色防止剤は、上記ヒンダードアミン系着色防止剤と同様、主として連鎖禁止機能(すなわち、フェノール性OH基がラジカルを捕捉して、ラジカルによる連鎖反応を抑制する機能)を有していると考えられる。
【0064】
低分子型のヒンダードフェノール系着色防止剤の好適な例として、2,6−第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−第三ブチル−フェノール、2,4−ジ−メチル−6−第3ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−第三ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0065】
また、高分子型のヒンダードフェノール系着色防止剤の好適な例としては、上記ヒンダードフェノール系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記ヒンダードフェノール系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤のところで説明したことと同様である。
【0066】
但し、上記各種の着色防止剤の有害ラジカル補足過程は、未解明な点も多く、上記以外
の作用が働いている可能性もあり、上記作用に限定されるわけではない。
【0067】
(f)硫黄系着色防止剤
着色防止剤の第6の具体例は、分子内に2価の硫黄を有する化合物(以下、「硫黄系着色防止剤」という場合がある。)である。硫黄系着色防止剤は、主として過酸化物分解機能(すなわち、S原子が自ら酸化することによって過酸化物を安定な化合物に分解する機能)を有していると考えられる。
低分子型の硫黄系着色防止剤の好適な例としては、ジラウリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1225)、ジステアリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1837)、ラウリルステアリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1837)(CHCHCOOC1225))、ジミリスチルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1429)、ジステアリルβ、β’−チオジブチレート(S(CH(CH)CHCOOC1839)、2−メルカプトベンゾイミダゾール(CNHNCSH)、ジラウリルサルファイド(S(C1225)等が挙げられる。
【0068】
また、高分子型の硫黄系着色防止剤の好適な例としては、上記硫黄系着色防止剤を側鎖に持つビニル、アクリル、メタクリル、スチリル等のモノマーの重合体や、上記硫黄系着色防止剤の構造が主鎖に組み込まれた重合体等が挙げられる。
尚、低分子型の化合物よりも高分子型の化合物が好ましい場合があること、および高分子型の化合物を用いる場合には、さらに架橋構造を導入しても良ことは、リン系着色防止剤のところで説明したことと同様である。
【0069】
3.タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色機構と、当該紫外線による着色機構に対する着色防止剤の作用機構
まず、本実施の形態に係る上記タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の紫外線による着色機構について説明する。
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体を構成する媒体樹脂に紫外線が照射された際、当該紫外線のエネルギーによって当該媒体樹脂の高分子鎖が切断され分解する過程の反応において有害なラジカルである、プロトン、重金属イオン、水素脱離ラジカル、過酸化ラジカル、ヒドロキシラジカル等の二次的な物質が次々に発生する。すると、今度は当該二次的な物質である有害ラジカルが当該媒体樹脂の高分子鎖を切断するので、高分子の劣化と有害ラジカルの発生とが連鎖的に進む。するとこれら連鎖的に発生した有害ラジカルの何れかが、当該タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子中のタングステン原子に還元的に作用し、新たに5価のタングステンを生成する。当該5価のタングステンは、濃青色を発色する。その為、赤外線遮蔽材料微粒子分散体中に、当該5価のタングステンが増加するに伴って着色濃度が高くなると推定される。
【0070】
尤も、媒体樹脂中に発生したラジカルが、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を着色させるメカニズムに関しては、未解明な部分が多い。しかし、一つの仮説として、上述のような機構が推察される。さらに、媒体樹脂の高分子骨格のラジカル化が、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子の着色に関与していると推察される。そこで、これらのラジカル生成反応や、ラジカル生成の連鎖反応を抑制することが、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の耐久性を向上させることにつながるとの結論に至った。すなわち、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体中へ、上記着色防止剤を存在させることで、紫外線により発生した有害ラジカルを捕捉してしまう。そして当該有害ラジカルの捕捉により、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子の着色(新たな5価のタングステンの生成)を防ぎ、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の紫外線による色調変化を抑制できることを見出したのである。
【0071】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、上記タングステン酸化物微粒子または/および複合タングステン酸化物微粒子と、着色防止剤とを、媒体樹脂中に分散させる構成とした。当該構成をとることによって、紫外線照射に伴う5価のタングステンの生成を抑制し、着色変化を抑制することを実現した。この結果、本発明に係る赤外線遮蔽微粒子分散体へ、紫外線を照射した後の、当該赤外線遮蔽微粒子分散体における可視光透過率の低下率を抑制することが出来た。当該可視光透過率の低下率抑制については、後述する「5.本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体の特性評価」にて具体的に説明する。
【0072】
4.赤外線遮蔽材料微粒子分散体
本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を適用した赤外線遮蔽材料微粒子分散体の製造方法としては、当該微粒子を適宜な媒体樹脂中に上記着色防止剤とともに分散し、所望の基材表面に形成する方法がある。この方法は、あらかじめ高温で焼成したタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を、基材樹脂中、または媒体樹脂によって基材表面に結着させることが可能である。この為、耐熱温度の低い基材材料への応用が可能であるとともに、形成の際に大型の装置を必要とせず安価であるという利点がある。
【0073】
(a)タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子と着色防止剤とを媒体樹脂中に分散して赤外線遮蔽材料微粒子分散体とし、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体を基材表面に形成する方法
適宜な溶媒中へ、本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を分散させ、上述した着色防止剤を溶解させた後、ここへ媒体樹脂を添加して混合物とする。そして、当該混合物を所望の基材表面にコーティングし、溶媒を蒸発させ、所定の方法で媒体樹脂を硬化させれば、当該赤外線遮蔽材料微粒子と当該着色防止剤が媒体樹脂中に分散した薄膜の形成が可能となる。
【0074】
当該コーティングの方法は、基材表面に赤外線遮蔽材料微粒子含有樹脂が均一にコートできる方法であればよく、特に限定されないが、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、スプレーコート法、ディップコート法等が挙げられる。
また、適宜な媒体樹脂の選択により、本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子と、着色防止剤とを、溶媒を使用することなく直接媒体樹脂中に分散して混合物とすることも可能である。当該混合物は、基材表面に塗布後に、溶媒を蒸発させる必要が無く、環境的、工業的に好ましい。
【0075】
上記媒体樹脂は、例えば、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、電子線硬化樹脂、常温硬化樹脂、熱可塑樹脂等が目的に応じて選定可能である。
具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ふっ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。
また、媒体樹脂に代替して、金属アルコキシドをバインダーとして用いることも可能である。この場合、当該金属アルコキシドとしては、Si、Ti、Al、Zr等のアルコキシドが好ましく用いられる。さらに、これら金属アルコキシドを用いたバインダーは、加水分解後に加熱することで酸化物膜を形成することが可能である。
【0076】
上記基材は、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。透明基材材料としては、PET、アクリル、ウレタン、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、ふっ素樹脂等が、各種目的に応じて使用可能である。また、樹脂以外の透明基材材料としては、ガラスを用いることもできる。
【0077】
(b)タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子と着色防止剤とを、基材中に微粒子として分散する方法
また、本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子と、上述した着色防止剤とを用いる別の方法として、当該酸化物微粒子と当該着色防止剤とを基材中に分散させても良い。
【0078】
当該酸化物微粒子と当該着色防止剤とを基材中に分散させるには、当該酸化物微粒子と当該着色防止剤とを基材表面から浸透させても良いし、基材を当該基材の溶融温度以上に加熱して溶融させた後、当該酸化物微粒子と当該着色防止剤と当該溶融樹脂とを混合して混合物としても良い。このようにして得られた混合物は、所定の方法でフィルムやボード状に成形し、赤外線遮蔽体として応用可能である。
【0079】
例えば、PET樹脂を基材とし、当該PET樹脂へ、本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子と、上述した着色防止剤とを分散する製造方法例について説明する。
まず、適宜な溶媒中へ、本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を分散させ、上述した着色防止剤を溶解させた後、ここへペレット状等のPET樹脂を添加して混合物とし分散溶媒を蒸発させる。次に、当該混合物をPET樹脂の溶融温度である300℃程度に加熱して、PET樹脂を溶融させた後、十分混合し冷却することで、本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子と着色防止剤とを分散したPET樹脂の製造が可能となる。
【0080】
本発明に係るタングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子を、適宜な溶媒中へ分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、超音波照射、ビーズミル、サンドミル等を使用することができる。また、均一な分散体を得るために、各種添加剤を添加したり、pH調整したりしても良い。
【0081】
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体は、上記の構成をとることにより、紫外線照射を受けた際に、5価のタングステンの生成が抑制され、この結果、当該分散体の着色変化が抑制された。
【0082】
5.本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体の特性評価
本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、紫外線照射による着色変化の抑制効果の評価方法について説明する。
(1)本発明に係る着色防止剤を含有しない赤外線遮蔽材料微粒子分散体を調製する。そして、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体へ所定量の紫外線を照射し、当該紫外線照射による色調変化に起因する可視光透過率の低下量を測定する。
(2)本発明に係る着色防止剤を含有する以外は、前記(1)と同様の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を調製する。そして、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体へ所定量の紫外線を照射し、当該照射による色調変化に起因する可視光透過率の低下量を測定する。
(3)前記(1)で得られた可視光透過率の低下量を100%と規格化したときの(2)で得られた可視光透過率の低下量を算定し、当該算定値から本発明に係る着色防止剤を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体の耐紫外線変色抑制能を評価する。
【0083】
例えば、本発明に係る着色防止剤を含有しない赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、紫外線照射前の可視光透過率が70%、紫外線照射後の可視光透過率が50%であり、本発明に係る着色防止剤を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体において、紫外線照射後の可視光透過率が68%であったとする。
この場合、本発明に係る着色防止剤を含有しない赤外線遮蔽材料微粒子分散体における
可視光透過率の変化量△は、70%−50%=20%である。一方、本発明に係る着色防止剤を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体における可視光透過率の変化量△は70%−68%=2%である。
従って、本発明に係る着色防止剤を含有しない赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△を100%と規格化したとき、本発明に係る着色防止剤を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△は10%と算定される。
但し、上記所定量の紫外線とは、岩崎電気社製アイスーパーUVテスター(SUV−W131)を使用して、100mW/cmの強度で紫外線を2時間連続照射したものである(このとき、ブラックパネル温度は60℃とした。)。
【0084】
当該算定方法によれば、本発明に係る赤外線遮蔽材料微粒子分散体着色防止剤の耐紫外線変色抑制能を客観的に評価することが出来る。
さらに、本発明者らの検討によれば、本発明に係る着色防止剤を含有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△が70%以下、さらに好ましくは60%以下であれば、本発明に係る着色防止剤の耐紫外線変色抑制能を十分に確認することが出来、実用上も太陽光線等に含まれる紫外線に起因する着色変化が抑制されている。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
Cs0.33WO粉末を8重量部と、トルエン84重量部と、分散剤8重量部とを混合し、分散処理を行い、平均分散粒子径80nmの分散液(A液)とした。このA液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部と、リン系着色防止剤であるレゾルシノール−ビス(ジフェニル−ホスフェート)[味の素(株)製、商品名:レオフォスRDP]16重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズ値は0.5%であり、透明性が極めて高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射した後、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%、ヘイズ値は0.5%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は2%と小さく、色調変化も少ないことがわかった。当該低下量と、後述する比較例1のデータとから赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△を算定したところ11.1%となり、十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。
また、当該紫外線照射後も、ヘイズ値は変化しておらず、透明性を保持していることがわかった。
尚、2時間の紫外線照射は、岩崎電気社製アイスーパーUVテスター(SUV−W131)を使用し、100mW/cmの強度で連続照射した(このとき、ブラックパネル温度は60℃とした。)。
【0086】
(実施例2)
上記A液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部と、リン系着色防止剤であるビスフェノールA−ビス(ジフェニル−ホスフェート)[味の素(株)製、商品名:レオフォスBAPP]16重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズ値は0.5%であり、透明性が極めて
高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%、ヘイズ値は0.5%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は2%と小さく、実施例1と同様に算定した赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△は11.1%となり、十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。また、ヘイズ値は変化しておらず、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0087】
(実施例3)
上記A液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部と、リン系着色防止剤であるSolutia社製リン酸エステル溶液[商品名:SPE−0570]8重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズ値は0.9%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は68.5%、ヘイズ値は0.9%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は1.5%と小さく、実施例1と同様に算定した赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△は8.3%となり、十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。また、ヘイズ値は変化しておらず、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0088】
(実施例4)
上記A液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部と、ヒンダードアミン系着色防止剤である4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン8重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズ値は1.6%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は60.7%、ヘイズ値は1.7%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は9.3%と小さく、実施例1と同様に算定した赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△は51.6%となり、十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。また、ヘイズ値の変化量も小さく、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0089】
(実施例5)
上記A液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部と、ヒンダードフェノール系着色防止剤である2,6−第三ブチル−p−クレゾール8重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の
光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズ値は1.4%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は59.5%、ヘイズ値は1.6%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は10.5%と小さく、実施例1と同様に算定した赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△は58.3%となり、十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。また、ヘイズ値の変化量も小さく、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0090】
(実施例6)
上記A液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部と、硫黄系着色防止剤であるジラウリルチオジプロピオネート(S(CHCHCOOC1225)16重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は70%で可視光領域の光を十分透過している事が分かった。さらにヘイズ値は1.8%であり、透明性が高く内部の状況が外部からもはっきり確認できた。透過色調は、美しい青色となった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は62.8%、ヘイズ値は2.0%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は7.2%と小さく、実施例1と同様に算定した赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率の変化量△は40.0%となり、十分な耐紫外線変色抑制能を有していることが判明した。また、ヘイズ値の変化量も小さく、紫外線照射後も透明性を保持していることがわかった。
【0091】
(比較例1)
上記A液100重量部と、ハードコート用紫外線硬化樹脂(固形分100%)50重量部とを混合して赤外線遮蔽材料微粒子分散体液とした。この赤外線遮蔽材料微粒子分散体液を、ガラス基板(HPE−50)上にバーコーターを用いて塗布、成膜した。この成膜を80℃で60秒乾燥し溶剤を蒸発させた後、高圧水銀ランプで硬化させ赤外線遮蔽膜を得た。
この赤外線遮蔽膜の光学特性を測定したところ、可視光透過率は68%、ヘイズ値は0.4%であった。
この赤外線遮蔽膜に紫外線を2時間照射し、同様に光学特性を測定したところ、可視光透過率は50%、ヘイズ値は0.4%であった。紫外線照射による可視光透過率の低下量は18%と大きく、色調も変化していた。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】六方晶結晶構造の模式的な平面図
【符号の説明】
【0093】
1.WO単位
2.元素M

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記されるタングステン酸化物、または/および、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3)で表記される複合タングステン酸化物微粒子と、着色防止剤とが、媒体中に含有されていることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項2】
前記着色防止剤が、リンを含有し、且つ、ホスホン酸基、リン酸基、ホスホン酸エステル基、ホスフィン基の内いずれか1種以上の基を含有するものであることを特徴とする請求項1記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項3】
前記タングステン酸化物微粒子、または/および、前記複合タングステン酸化物微粒子が、粒子直径1nm以上、800nm以下の微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体分散体。
【請求項4】
前記タングステン酸化物微粒子、または/および、前記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式WyOz(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦z/y≦2.999)で表記される組成比のマグネリ相を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項5】
前記複合タングステン酸化物微粒子が、六方晶、正方晶または立方晶から選択される1種以上の結晶構造を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項6】
前記M元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内いずれか1種類以上の元素であり、且つ、六方晶の結晶構造を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項7】
前記媒体が、樹脂またはガラスであることを特徴とする請求項1から6のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項8】
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂の内いずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体の可視光透過率を60%以上、70%以下とし、
前記着色防止剤を含有しない他は、当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体と同組成を有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体へ、強度が100mW/cmの紫外線を2時間照射した後の可視光透過率の低下率を100%と規格化したとき、
当該赤外線遮蔽材料微粒子分散体へ、同強度の紫外線を同時間照射した後の可視光透過率の低下率が70%以下であることを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか記載の赤外線遮蔽材料微粒子分散体を、板状、フィルム状または薄膜状に形成したものであることを特徴とする赤外線遮蔽体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−208274(P2008−208274A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48010(P2007−48010)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】