赤外線配管診断方法、及び赤外線配管診断装置
【課題】長大な被測定物の配管に対し、遠隔から、屋内外によらず、配管表面に塗装不要で、配管表面性状、配管内面状態によらず、操業条件に制約を受けず短時間に、診断信頼性を向上させて、診断コストの大幅な削減が可能となる赤外線配管診断方法を提供する。
【解決手段】予め赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップの作成、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をしておき(ステップS401)、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射すると共に、前記放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定し、推定肉厚分布より配管劣化を診断する(ステップS407)。
【解決手段】予め赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップの作成、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をしておき(ステップS401)、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射すると共に、前記放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定し、推定肉厚分布より配管劣化を診断する(ステップS407)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱照射装置と赤外線カメラを用いて肉厚を求め、これにより配管腐食劣化状態を診断するための赤外線配管診断方法、及び赤外線配管診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すフローチャートを用いて、超音波板厚計(超音波板厚測定器)を用いた従来の配管診断作業の概要について説明する。
【0003】
まず、ステップS301において、被測定物は、地上、高架、地下等に配置され、超音波板厚測定の為、測定作業用の足場を設置する。
【0004】
次に、ステップS302において、表面に錆、塗膜等が付着していると、板厚測定誤差となる為、表面をサンドペーパー等で清掃する。
【0005】
次に、ステップS303において、配管表面に測定範囲の罫書きをいれる。
【0006】
次に、ステップS304において、罫書き部分を一点ずつ超音波板厚計により板厚測定する。
【0007】
次に、ステップS305において、測定板厚をパソコンに入力し、最大値、最小値、平均、標準偏差等の統計処理を実施する。
【0008】
次に、ステップS306において、統計処理の結果、配管の劣化状態を診断し、悪いと評価された場合は、補修や更新等を検討する。
【0009】
【特許文献1】特開2000−161943号公報
【特許文献2】特開平10−111185号公報
【特許文献3】特表2003−512596号公報
【特許文献4】特開2005−274202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような超音波板厚計による配管劣化診断には次のような課題がある。
【0011】
まず、板厚測定作業をする為、作業者が作業する為の足場が必要である。このための足場設置費用が必要となる。
流体を取扱う装置産業において、配管設置長さが数mから数百kmにも及ぶなかで、経済的に測定できる範囲は、限定されるため配管劣化診断の信頼性は非常に低い。
流体を取扱う装置産業において、配管は特定化学設備の管理対象物であり、防災上の観点から超音波板厚測定作業には様々な制約条件があり、操業中の測定は難しいものがある。
流体を取扱う装置産業において、配管設置長さが数mから数百kmにも及ぶなかで、広範囲の超音波板厚測定作業には多大な時間と費用が必要となる。
超音波板厚測定は、点測定あるいは数十点の連続測定であり、面測定ができないため測定作業効率が悪い。
【0012】
これらの課題に対して、特許文献1にて、加熱コイルと配管表面に貼付した熱電対による温度制御装置を用い、均一温度にした配管をサーモグラフィーで撮影解析する配管肉厚測定装置を提案しているが、加熱コイルの設置・配管表面への熱電対設置作業が必要であり足場設置も必要となり、また一旦均一加熱する作業は汎雑となるので、これをもってしても課題を解決できない。
【0013】
また、特許文献2にて、熱感知塗料を塗布したシート型加熱器を配管に装着し、発色変化モニター用カメラにて撮影解析する配管内面損傷診断装置を提案しているが、シート型加熱器の設置作業が必要であり、足場設置も必要となるので、これをもってしても課題を解決できない。
【0014】
更に、特許文献3にて、高出力ストロボとフォーカルプレーンアレイカメラによる赤外線過渡サーモグラフィー装置を用い、昇温曲線の変曲点を利用した遠融板厚診断を提案しているが、配管表面状態が不均一な場合は、表面放射率の不均一性外乱により板厚精度が大幅に低下し、これを防止する為にカーボン基材塗料塗布を推奨しており、多大な塗料コストを要する。また、配管内部にはドレン水の滞留・流動あるいは、腐食錆層、泥堆積等により管内熱伝達が変化する外乱がある。また、屋外配管診断の場合、日照による外乱により同様に所定の板厚精度を得られず、これをもってしても課題を解決できない。
【0015】
同様に特許文献4にて、フラッシュランプと赤外線カメラによる欠陥検査装置による遠融板厚診断を提案しているが、配管表面状態が不均一な場合は、表面放射率の不均一性外乱により板厚精度が大幅に低下し、また、配管内部にはドレン水の滞留・流動あるいは、腐食錆層、泥堆積等により管内の熱伝達率が変化する外乱及び屋外配管診断の場合、日照による外乱により同様に所定の板厚精度を得られず、これをもってしても課題を解決できない。
【0016】
本発明は係る実情に鑑みて、長大な被測定物の配管に対し、遠隔から、屋内外によらず、配管表面に塗装不要で、配管表面性状、配管内面状態によらず、操業条件に制約を受けず短時間に、診断信頼性を向上させて、診断コストの大幅な削減が可能となる赤外線配管診断方法及び赤外線配管診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下の通りである。
(1)赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断方法であって、予め赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップの作成、並びに、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をしておき、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて前記放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定することを特徴とする赤外線配管診断方法。
(2)前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化を診断することを特徴とする前記(1)に記載の赤外線配管診断方法。
(3)前記放射率マップは、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定することによって作成されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の赤外線配管診断方法。
(4)前記放射率マップは、赤外線配管診断の対象となる前記配管表面温度が略均一な状態において、まず、前記配管の任意表面の前記略均一な温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布として得られるデータを測定し、続いて、前記接触式温度計で測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率分布を特定することによって作成されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の赤外線配管診断方法。
(5)前記任意特定部位に対する前記基準温度変化分布パターンの測定、及び前記内部熱伝達係数の特定の前に、診断の対象となる前記配管を、当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態のうち、1つ以上の条件に応じて断面ブロックに分割し、それぞれの当該断面ブロックに対し、前記基準温度変化分布パターンを測定、及び前記内部熱伝達係数を特定するための1箇所以上の前記任意特定部位を設けることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(6)前記基準温度変化分布パターンは、基準となる照射パターンで加熱照射した前記任意特定部位を、前記赤外線カメラを用いて測温することによって求めることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(7)前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定する解析手法として、前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づく、逆解析手法を用いることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(8)前記任意特定部位の既知の表面放射率を得る際に黒体塗料を用いることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(9)前記任意特定部位の既知の肉厚を得る際に超音波板厚測定器を用いることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(10)赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断装置であって、予め測定された赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップ、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数を格納及び出力するデータ格納手段と、赤外線配管診断する配管表面を加熱照射する加熱照射手段と、前記加熱照射手段を所定の照射パターンに制御する照射制御手段と、照射された前記配管表面の温度変化分布パターンを測定する赤外線撮像手段と、前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段とを備えたことを特徴とする赤外線配管診断装置。
(11)前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化診断を行う手段を備えたことを特徴とする前記(10)に記載の赤外線配管診断装置。
(12)前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画データを取り込む静止画取り込み手段と、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割する表面分割手段と、前記領域ごとに放射率を特定することによって前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする前記(10)又は(11)に記載の赤外線配管診断装置。
(13)前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である略均一な温度分布の配管の表面から赤外線カメラにて測定された温度分布データとして現れたデータを取り込む手段と、前記配管の任意表面の温度を測定する接触式温度計による計測値を取り込む手段と、前記接触式温度計による計測値より前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率を求める任意部位放射率演算手段と、前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率と前記温度分布データより前記配管表面の放射率を求める表面放射率演算手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする前記(10)又は(11)に記載の赤外線配管診断装置。
(14)前記内部熱伝達係数は、前記基準温度変化分布パターン並びに前記既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析手法により特定されることを特徴とする前記(10)〜(13)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば放射率マップ作成手段により放射率を求め、逆解析ソフトにより配管内面熱伝達係数を求めることができるので、配管の表面性状、配管内面状態によらず配管診断が可能である。
また、配管の表面性状によらず配管診断ができるので、配管表面へ放射率が既知の塗料を塗装することが不要となる。
また、加熱照射と赤外線カメラを使用する配管診断ができるので、遠隔診断が可能となる。
また、配管表面を加熱照射し、赤外線カメラを用いて、温度変化パターンを測定するので、日照の影響を受けにくく、屋外での配管診断が可能となる。
また、遠融のため足場不要、配管表面への塗装も不要であり、1回で広範囲を配管診断できるので、短時間の診断が可能となる。
さらに、短時間の配管診断ができるので、長大な配管の診断が可能となる。
なお、本発明は、配管の劣化を診断する際に特に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、図1に被測定物である配管及び本発明を適用した赤外線配管診断装置一式を示す。
【0020】
図1において、被測定物である配管1は、鋼鉄製の流体配管である。図1では上架配管である配管1から遠隔の地上に加熱照射装置ランプ4、赤外線カメラ3を設置する。加熱照射装置は、加熱照射装置ランプ4、加熱照射装置アンプ7、照射制御装置6から構成される。
【0021】
また、図示のように照射制御装置6の信号を取り込んで赤外線カメラ画像を処理するために、照射制御装置6は赤外線カメラアンプ5と接続される。赤外線カメラ3は、電源供給及びカメラ制御する赤外線カメラアンプ5と赤外線カメラ画像を処理するパソコン8と接続され、温度測定データは赤外線カメラ3からパソコン8に取り込まれる。
【0022】
図12に示す本実施形態の赤外線配管診断装置のシステム構成を示す図に示されるように、パソコン8には、予め測定された赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップ、並びに、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数等のデータの格納出力部8−1と、前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数、及び後述する温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定部8−2と、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する診断部8−3とが内蔵されている。
【0023】
これにより、赤外線配管診断するのに必要なデータをパソコン8に入力すれば、パソコン8より診断結果を得ることができる。また、放射率作成ソフト及び逆解析ソフト等のソフトウエアも、内蔵されており、予め特定しておく配管表面に対する放射率マップ及び任意特定部位に対する内部熱伝達係数等の必要なデータを入力することによって所定の値を得ることができる。
【0024】
更に、パソコン8には、放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画データを取り込む静止画取り込み部8−4と、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割する表面分割部8−5と、前記領域ごとに放射率を特定することによって前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段が内蔵されている場合がある。
また、パソコン8には、放射率マップを作成するために、赤外線配管診断の対象となる配管表面温度が均一な状態において表面の温度分布データを取り込む温度分布データ取り込み部8−7と、前記配管表面の任意部位の表面温度を測定する接触式温度計による計測値を取り込む接触式温度計計測値取り込み部8−8と、任意部位の接触式温度計による計測値より任意部位の放射率を演算する任意部位放射率演算部8−9と、任意部位の放射率と前記温度分布データより表面放射率を演算する表面放射率演算部8−10と、前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段が内蔵されている場合もある。これらの放射率マップ作成手段の詳細については、後述する。
【0025】
次に、図4に示すフローチャートを用いて赤外線配管診断方法の全体手順を示す。
【0026】
まず、ステップS401において、配管表面の放射率マップを作成する。
【0027】
次に、ステップS402において、配管系統を領域に区分し、さらに断面ブロックに細分する。
【0028】
次に、ステップS403において、当該断面ブロックに対し、1箇所以上の任意特定部位を設け、前記任意特定部位の板厚を測定し表面放射率を確定する。
【0029】
次に、ステップS404において、任意特定部位に加熱照射し、赤外線カメラを用いて測温することによって、基準温度変化分布パターンを求める。
【0030】
次に、ステップS405において、基準温度変化分布パターン、既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析ソフトにより、任意特定部位の内部熱伝達係数を特定する。
【0031】
次に、ステップS406において、診断部位に、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い、放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化分布パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する。
【0032】
そして、ステップS407において、推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する。
【0033】
次に、放射率マップの作成について説明する。即ち、図4におけるステップS401の詳細に係る説明である。図5Aに配管表面放射率マップの決定手順のフローチャートを示す。ここでの放射率マップの作成は、前述の静止画取り込み部8−4と、表面分割部8−5と、放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段でなされる。なお、放射率マップ作成手段を構成する各要素は、パソコン8に内蔵せずに、他のパソコン等で作成するようにしてもよい。
【0034】
この被測定物、即ち、配管1は、流体により内部が腐食して減肉している。最初に配管の表面状態(錆、塗膜の剥れ、汚れ等)に基づく配管表面の放射率マップを作成する為に以下の手順を行う。
【0035】
まず、ステップS501において、赤外線配管診断する対象である配管をデジタルカメラにて撮影し、静止画を得る。
【0036】
次に、ステップS502において、加熱照射しない自然状態において、赤外線カメラで配管表面を撮影し、赤外線カメラ画像を得る。
【0037】
次に、ステップS503において、静止画像と赤外線カメラ画像との画格を合わせる。
【0038】
次に、ステップS504において、両画像より、放射率類型別の領域の画定をする。
【0039】
次に、ステップS505において、各領域の放射率を、事前に求めた類型別の放射率より求める。
【0040】
そして、ステップS506において、赤外線画像の各画素の放射率を決定し、放射率マップが完成する。
【0041】
以上、まとめると、この実施形態による放射率マップは、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定することによって作成される。
【0042】
次に、別な方法による放射率マップの作成について説明する。即ち、図4におけるステップS401の詳細の前記図5Aを用いて説明したものと異なる別の実施形態に係る説明である。図5Bに配管表面放射率マップの決定手順のフローチャートを示す。ここでの放射率マップの作成は、前述の温度分布データ取り込み部8−7と、任意部位の接触式温度計による計測値を取り込む接触式温度計計測値取り込み部8−8と、任意部位放射率演算部8−9と、表面放射率演算部8−10と、放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段でなされる。なお、放射率マップ作成手段を構成する各要素は、パソコン8に内蔵せずに、他のパソコン等で作成するようにしてもよい。
【0043】
この被測定物、即ち、配管1は、前記図5Aで説明した実施形態のときと同様に、流体により内部が腐食して減肉している。最初に配管の表面状態(錆、塗膜の剥れ、汚れ等)に基づく配管表面の放射率マップを作成する為に以下の手順を行う。
【0044】
まず、ステップS551において、赤外線配管診断する対象である配管表面が均一な温度状態において、任意部位の表面温度を接触式温度計にて測定する。好ましくは、略均一な温度状態を得るには、操業条件の変化が少ない状態にし、そのときの気象条件は、光の少ない未明(夜)で夜露の無い無風状態が望ましい。
【0045】
次に、ステップS552において、配管表面が均一な温度状態において、赤外線カメラにて温度分布を測定し、赤外線画像を得る。
【0046】
次に、ステップS553において、配管表面の前記接触式温度計による計測値より、前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率を求める。
【0047】
次に、ステップS554において、接触式温度計により測定した測定部位の放射率と前記ステップS552で得た温度分布データより前記配管表面の放射率を求める。
【0048】
そして、ステップS555において、赤外線画像の各画素の放射率を決定し、放射率マ
ップが完成する。
【0049】
以上、まとめると、この実施形態による放射率マップは、診断の対象となる前記配管表面温度が均一な状態において、まず、前記配管の表面温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布を測定し、続いて、前記接触式温度計により測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率を特定することによって作成される。
【0050】
次に、配管系統の細分について説明する。即ち、図4におけるステップS402の詳細に係る説明である。図2には細分方法を模式的に説明するための図を示し、図6にはその手順のフローチャートを示す。図2に示すように、配管系統を設置環境や過去の腐食形態知見により、領域を区分し、さらに断面ブロックに細分する。以下、図6を基に、その手順を説明する。
【0051】
まず、ステップS601において、配管系統を領域に区分する。例えば図2のA、B、C、D、Eのように区分する。
【0052】
そして、ステップS602において、前記各領域を当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態に基づき、断面ブロックに分割する。例えば図2では配管系統Aにおいて、A11、A12、A13、A14の4つに分割している。
【0053】
次に、任意特定部位の板厚と表面放射率の確定について説明する。即ち、図4におけるステップS403の詳細に係る説明である。図7に任意特定部位の板厚と表面放射率を確定する手順のフローチャートを示す。概要は、それぞれの当該断面ブロックに対し、1箇所以上の前記任意特定部位を設け、前記任意特定部位の板厚を測定し放射率を確定する。以下、図2も用いて、その手順を説明する。
【0054】
まず、ステップS701において、それぞれの当該断面ブロックに対し、1箇所以上の前記任意特定部位を設ける。本実施形態では、図2に示すように一箇所設けている。
【0055】
次に、ステップS702において、それぞれの任意特定部位の板厚を超音波板厚計(超音波板厚測定器)で測定する。図2では、t1、t2、t3、t4が測定板厚となる。
【0056】
次に、ステップS703において、それぞれの任意特定部位に既知の黒体塗料を塗布して放射率を確定する。例えば、カーボン系の黒体塗料を用いる場合、放射率は0.94である。
【0057】
次に、基準温度変化分布パターンの測定について説明する。即ち、図4におけるステップS404の詳細に係る説明である。基準温度変化分布測定パターンの測定は、それぞれの任意特定部に基準となる照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて測温することによってなされる。
【0058】
次に、任意特定部位の内部熱伝達係数の特定について説明する。即ち、図4におけるステップS405の詳細に係る説明である。この特定は、基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析ソフトにより逆解析することで、それぞれの任意特定部位の内部熱伝達係数を特定する。本実施形態における逆解析の概要は以下の式で表される。
【0059】
αIi=f(ti,εi,αOi,λi,qai)
αIi:配管断面ブロックiにおける配管内部の熱伝達係数
ti:配管断面ブロックiにおける板厚実測値(既知)
εi:配管断面ブロックiにおける放射率(既知)、
ここでは黒体塗料を塗布するので、εi=0.94
αOi:配管断面ブロックiにおける配管外面の熱伝達係数(既知)
λi:配管断面ブロックiにおける配管の熱伝導率(既知)
qai:配管断面ブロックiにおける加熱照明装置による入力熱流速(既知)
f:配管の熱伝達関数
【0060】
逆解析ソフトは、ある物体の表面の熱伝達係数を、その物体の伝熱定数(熱伝導率、放射率等)及びその物体の熱流に関係する条件(寸法、熱流束、温度分布等)より求めることができるソフトウエアである。
【0061】
次に、肉厚分布の推定について説明する。即ち、図4におけるステップS406の詳細に係る説明である。図8に肉厚分布を推定する手順のフローチャートを示す。概要は、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化分布パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する。
【0062】
まず、ステップS801において、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射する。
【0063】
次に、ステップS802において、赤外線カメラを用い放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定する。温度変化分布パターンは以下の式で表される。
【0064】
温度変化分布パターン:=g(ti,εi0,αOi,αIi, λi, qai)
ΔTOi:配管断面ブロックiにおける加熱照射による実測温度上昇量
τ:単位時間
g:配管の温度上昇速度関数
εi0:放射率マップの放射率
ti,αOi,αIi,λi ,qaは前記式で求められる。
【0065】
次に、ステップS803において、温度変化分布パターンを時刻及び位置の少なくともいずれかによる関数分布として整理する。
【0066】
次に、ステップS804において、基準温度変化分布パターンも同様に時刻及び位置の少なくともいずれかによる関数分布として整理する。
【0067】
次に、ステップS805において、温度変化分布パターンの関数分布から放射率の差に起因する偏差を差し引く。
【0068】
そして、ステップS806において、差し引き後、基準温度変化分布パターンを比較して板厚を算出する。なお、ステップS802〜S805の関数分布を導出するには、FEM(Finite Element Method)などの手法が有効である。
【0069】
そして、以上のようにして推定した肉厚分布に基づき、配管劣化診断を行う。即ち、図4におけるステップS407の処理であり、具体的には、配管劣化を診断する。
【0070】
(実施例)
以下、本発明の赤外線配管診断装置を実際に使用した実施例、及びその結果について説明する。この例では、直径φ400mm×板厚t4.5mm〜直径φ3000mm×板厚t8mmの副生ガス配管を診断した例である。
【0071】
図9は、当該配管の写真を取って表面性状により領域分割し、放射率を割り振ったものを模式的に表した図である。例えば、この図の各領域に放射率を割り振ると放射率マップが定まる。
【0072】
次に、当該系統について、4つの断面ブロックに細分化し、当該断面ブロックに対し、1箇所の任意特定部位を設けた。当該任意特定部位の板厚を超音波板厚計で測定すると2.3mmであり、この部位に放射率0.94の黒体塗量を塗布した。当該任意特定部位に加熱照射し、基準温度変化分布パターンを得た。そして、基準温度変化分布パターン、板厚2.3mm、放射率0.94に基づき逆解析ソフトにより当該任意特定部位の内部熱伝達係数を求めると15.1W/m2・℃であった。
【0073】
続いて、当該断面ブロックを所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、時刻及び位置の少なくともいずれかによる関数分布として整理した。例えば、放射率0.91のある位置Aにおいて、この関数分布から、任意特定部位の放射率0.94との差に起因する偏差を差し引くと、図10の曲線aになった。基準温度変化分布パターンも同様に関数分布として整理すると図10の曲線bになった。基準温度変化分布パターンと温度変化パターンを比較して、板厚を求めると、図11の板厚分布が求まった。
【0074】
実際に測定したところ、37年使用された配管の最も損耗した部位であり、1.1mmの厚さまで薄くなっていた。
【0075】
この測定結果に対し、本発明によって推定された板厚を超音波板厚計にて数十点サンプリングテストすると、その相関は良く、その誤差は、最大でも10%程度であった。本発明ではさらにその測定のない途中を十分補間できることが言える。
【0076】
この測定結果を基に配管劣化診断すると、この配管系統については、喫緊に配管の破損が予測されないが、最も損耗している部位については特に早期の配管の交換が望まれる、と言った診断結果が得られた。
【0077】
なお、本発明では実機配管表面での錆、塗膜剥れ、汚れ等がある状態に対しても、それぞれ放射率マップによってその放射率が割り当てられているので、これらの悪条件が重なっても、超音波板厚計の板厚と良い相関があり、表面の状態の外乱を受け難いことを確認した。
【0078】
また、本発明では晴天、曇天、日向、日陰等の日射条件が変わる環境であっても、変化量を用いるので外乱が現れず、同部位を配管診断しても、その板厚は変化せず、安定した配管診断が可能であることを確認した。
【0079】
さらに、本発明では配管内部に、模擬的に水分を含んだ泥を堆積させて、配管診断を実施したが、板厚精度には影響せず、安定した配管診断が可能である。これは本発明において内部熱伝達係数を各断面ブロックごとに割り当てているためである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係る赤外線配管診断装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る赤外線配管診断対象の配管系統分割例と当該分割配管系統の断面ブロックを4分割した例を示す図である。
【図3】従来の超音波板厚計による板厚測定及び配管劣化診断の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の赤外線配管診断方法の全体手順を示すフローチャートである。
【図5A】本発明の赤外線配管診断方法において、配管表面放射率マップの決定手順を示すフローチャートであり、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定する方法のフローチャートである。
【図5B】本発明の赤外線配管診断方法において、配管表面放射率マップの決定手順を示すフローチャートであり、赤外線配管診断の対象となる前記配管表面温度が均一な状態において、まず、前記配管の任意表面温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布を測定し、続いて前記接触式温度計により測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率分布を特定する方法のフローチャートである。
【図6】本発明の赤外線配管診断方法において、配管系統を領域に区分し、さらに断面ブロックに細分化する手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の赤外線配管診断方法において、断面ブロックに対し、任意特定部位を設け、その板厚と放射率を確定する手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の赤外線配管診断方法において、赤外配管線診断する部位に対し、加熱照射し、赤外線カメラを用いて温度変化分布パターンを測定し、肉厚分布を推定する手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の赤外線配管診断方法において求めた放射率マップの例を示す図である。
【図10】本発明の赤外線配管診断方法において求めた断面ブロックの所定位置における基準温度変化分布パターンと温度変化分布パターンを示す図である。
【図11】本発明の赤外線配管診断方法において求めた推定板厚分布図を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る赤外線配管診断装置のシステム構成を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 配管
3 赤外線カメラ(赤外線撮像手段)
4 加熱照射装置ランプ
5 赤外線カメラアンプ
6 照射制御装置
7 加熱照射装置アンプ
8 パソコン
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱照射装置と赤外線カメラを用いて肉厚を求め、これにより配管腐食劣化状態を診断するための赤外線配管診断方法、及び赤外線配管診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すフローチャートを用いて、超音波板厚計(超音波板厚測定器)を用いた従来の配管診断作業の概要について説明する。
【0003】
まず、ステップS301において、被測定物は、地上、高架、地下等に配置され、超音波板厚測定の為、測定作業用の足場を設置する。
【0004】
次に、ステップS302において、表面に錆、塗膜等が付着していると、板厚測定誤差となる為、表面をサンドペーパー等で清掃する。
【0005】
次に、ステップS303において、配管表面に測定範囲の罫書きをいれる。
【0006】
次に、ステップS304において、罫書き部分を一点ずつ超音波板厚計により板厚測定する。
【0007】
次に、ステップS305において、測定板厚をパソコンに入力し、最大値、最小値、平均、標準偏差等の統計処理を実施する。
【0008】
次に、ステップS306において、統計処理の結果、配管の劣化状態を診断し、悪いと評価された場合は、補修や更新等を検討する。
【0009】
【特許文献1】特開2000−161943号公報
【特許文献2】特開平10−111185号公報
【特許文献3】特表2003−512596号公報
【特許文献4】特開2005−274202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような超音波板厚計による配管劣化診断には次のような課題がある。
【0011】
まず、板厚測定作業をする為、作業者が作業する為の足場が必要である。このための足場設置費用が必要となる。
流体を取扱う装置産業において、配管設置長さが数mから数百kmにも及ぶなかで、経済的に測定できる範囲は、限定されるため配管劣化診断の信頼性は非常に低い。
流体を取扱う装置産業において、配管は特定化学設備の管理対象物であり、防災上の観点から超音波板厚測定作業には様々な制約条件があり、操業中の測定は難しいものがある。
流体を取扱う装置産業において、配管設置長さが数mから数百kmにも及ぶなかで、広範囲の超音波板厚測定作業には多大な時間と費用が必要となる。
超音波板厚測定は、点測定あるいは数十点の連続測定であり、面測定ができないため測定作業効率が悪い。
【0012】
これらの課題に対して、特許文献1にて、加熱コイルと配管表面に貼付した熱電対による温度制御装置を用い、均一温度にした配管をサーモグラフィーで撮影解析する配管肉厚測定装置を提案しているが、加熱コイルの設置・配管表面への熱電対設置作業が必要であり足場設置も必要となり、また一旦均一加熱する作業は汎雑となるので、これをもってしても課題を解決できない。
【0013】
また、特許文献2にて、熱感知塗料を塗布したシート型加熱器を配管に装着し、発色変化モニター用カメラにて撮影解析する配管内面損傷診断装置を提案しているが、シート型加熱器の設置作業が必要であり、足場設置も必要となるので、これをもってしても課題を解決できない。
【0014】
更に、特許文献3にて、高出力ストロボとフォーカルプレーンアレイカメラによる赤外線過渡サーモグラフィー装置を用い、昇温曲線の変曲点を利用した遠融板厚診断を提案しているが、配管表面状態が不均一な場合は、表面放射率の不均一性外乱により板厚精度が大幅に低下し、これを防止する為にカーボン基材塗料塗布を推奨しており、多大な塗料コストを要する。また、配管内部にはドレン水の滞留・流動あるいは、腐食錆層、泥堆積等により管内熱伝達が変化する外乱がある。また、屋外配管診断の場合、日照による外乱により同様に所定の板厚精度を得られず、これをもってしても課題を解決できない。
【0015】
同様に特許文献4にて、フラッシュランプと赤外線カメラによる欠陥検査装置による遠融板厚診断を提案しているが、配管表面状態が不均一な場合は、表面放射率の不均一性外乱により板厚精度が大幅に低下し、また、配管内部にはドレン水の滞留・流動あるいは、腐食錆層、泥堆積等により管内の熱伝達率が変化する外乱及び屋外配管診断の場合、日照による外乱により同様に所定の板厚精度を得られず、これをもってしても課題を解決できない。
【0016】
本発明は係る実情に鑑みて、長大な被測定物の配管に対し、遠隔から、屋内外によらず、配管表面に塗装不要で、配管表面性状、配管内面状態によらず、操業条件に制約を受けず短時間に、診断信頼性を向上させて、診断コストの大幅な削減が可能となる赤外線配管診断方法及び赤外線配管診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下の通りである。
(1)赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断方法であって、予め赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップの作成、並びに、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をしておき、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて前記放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定することを特徴とする赤外線配管診断方法。
(2)前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化を診断することを特徴とする前記(1)に記載の赤外線配管診断方法。
(3)前記放射率マップは、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定することによって作成されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の赤外線配管診断方法。
(4)前記放射率マップは、赤外線配管診断の対象となる前記配管表面温度が略均一な状態において、まず、前記配管の任意表面の前記略均一な温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布として得られるデータを測定し、続いて、前記接触式温度計で測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率分布を特定することによって作成されることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の赤外線配管診断方法。
(5)前記任意特定部位に対する前記基準温度変化分布パターンの測定、及び前記内部熱伝達係数の特定の前に、診断の対象となる前記配管を、当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態のうち、1つ以上の条件に応じて断面ブロックに分割し、それぞれの当該断面ブロックに対し、前記基準温度変化分布パターンを測定、及び前記内部熱伝達係数を特定するための1箇所以上の前記任意特定部位を設けることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(6)前記基準温度変化分布パターンは、基準となる照射パターンで加熱照射した前記任意特定部位を、前記赤外線カメラを用いて測温することによって求めることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(7)前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定する解析手法として、前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づく、逆解析手法を用いることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(8)前記任意特定部位の既知の表面放射率を得る際に黒体塗料を用いることを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(9)前記任意特定部位の既知の肉厚を得る際に超音波板厚測定器を用いることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断方法。
(10)赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断装置であって、予め測定された赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップ、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数を格納及び出力するデータ格納手段と、赤外線配管診断する配管表面を加熱照射する加熱照射手段と、前記加熱照射手段を所定の照射パターンに制御する照射制御手段と、照射された前記配管表面の温度変化分布パターンを測定する赤外線撮像手段と、前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段とを備えたことを特徴とする赤外線配管診断装置。
(11)前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化診断を行う手段を備えたことを特徴とする前記(10)に記載の赤外線配管診断装置。
(12)前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画データを取り込む静止画取り込み手段と、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割する表面分割手段と、前記領域ごとに放射率を特定することによって前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする前記(10)又は(11)に記載の赤外線配管診断装置。
(13)前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である略均一な温度分布の配管の表面から赤外線カメラにて測定された温度分布データとして現れたデータを取り込む手段と、前記配管の任意表面の温度を測定する接触式温度計による計測値を取り込む手段と、前記接触式温度計による計測値より前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率を求める任意部位放射率演算手段と、前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率と前記温度分布データより前記配管表面の放射率を求める表面放射率演算手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする前記(10)又は(11)に記載の赤外線配管診断装置。
(14)前記内部熱伝達係数は、前記基準温度変化分布パターン並びに前記既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析手法により特定されることを特徴とする前記(10)〜(13)のいずれか1つに記載の赤外線配管診断装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、例えば放射率マップ作成手段により放射率を求め、逆解析ソフトにより配管内面熱伝達係数を求めることができるので、配管の表面性状、配管内面状態によらず配管診断が可能である。
また、配管の表面性状によらず配管診断ができるので、配管表面へ放射率が既知の塗料を塗装することが不要となる。
また、加熱照射と赤外線カメラを使用する配管診断ができるので、遠隔診断が可能となる。
また、配管表面を加熱照射し、赤外線カメラを用いて、温度変化パターンを測定するので、日照の影響を受けにくく、屋外での配管診断が可能となる。
また、遠融のため足場不要、配管表面への塗装も不要であり、1回で広範囲を配管診断できるので、短時間の診断が可能となる。
さらに、短時間の配管診断ができるので、長大な配管の診断が可能となる。
なお、本発明は、配管の劣化を診断する際に特に好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、図1に被測定物である配管及び本発明を適用した赤外線配管診断装置一式を示す。
【0020】
図1において、被測定物である配管1は、鋼鉄製の流体配管である。図1では上架配管である配管1から遠隔の地上に加熱照射装置ランプ4、赤外線カメラ3を設置する。加熱照射装置は、加熱照射装置ランプ4、加熱照射装置アンプ7、照射制御装置6から構成される。
【0021】
また、図示のように照射制御装置6の信号を取り込んで赤外線カメラ画像を処理するために、照射制御装置6は赤外線カメラアンプ5と接続される。赤外線カメラ3は、電源供給及びカメラ制御する赤外線カメラアンプ5と赤外線カメラ画像を処理するパソコン8と接続され、温度測定データは赤外線カメラ3からパソコン8に取り込まれる。
【0022】
図12に示す本実施形態の赤外線配管診断装置のシステム構成を示す図に示されるように、パソコン8には、予め測定された赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップ、並びに、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数等のデータの格納出力部8−1と、前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数、及び後述する温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定部8−2と、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する診断部8−3とが内蔵されている。
【0023】
これにより、赤外線配管診断するのに必要なデータをパソコン8に入力すれば、パソコン8より診断結果を得ることができる。また、放射率作成ソフト及び逆解析ソフト等のソフトウエアも、内蔵されており、予め特定しておく配管表面に対する放射率マップ及び任意特定部位に対する内部熱伝達係数等の必要なデータを入力することによって所定の値を得ることができる。
【0024】
更に、パソコン8には、放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画データを取り込む静止画取り込み部8−4と、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割する表面分割部8−5と、前記領域ごとに放射率を特定することによって前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段が内蔵されている場合がある。
また、パソコン8には、放射率マップを作成するために、赤外線配管診断の対象となる配管表面温度が均一な状態において表面の温度分布データを取り込む温度分布データ取り込み部8−7と、前記配管表面の任意部位の表面温度を測定する接触式温度計による計測値を取り込む接触式温度計計測値取り込み部8−8と、任意部位の接触式温度計による計測値より任意部位の放射率を演算する任意部位放射率演算部8−9と、任意部位の放射率と前記温度分布データより表面放射率を演算する表面放射率演算部8−10と、前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段が内蔵されている場合もある。これらの放射率マップ作成手段の詳細については、後述する。
【0025】
次に、図4に示すフローチャートを用いて赤外線配管診断方法の全体手順を示す。
【0026】
まず、ステップS401において、配管表面の放射率マップを作成する。
【0027】
次に、ステップS402において、配管系統を領域に区分し、さらに断面ブロックに細分する。
【0028】
次に、ステップS403において、当該断面ブロックに対し、1箇所以上の任意特定部位を設け、前記任意特定部位の板厚を測定し表面放射率を確定する。
【0029】
次に、ステップS404において、任意特定部位に加熱照射し、赤外線カメラを用いて測温することによって、基準温度変化分布パターンを求める。
【0030】
次に、ステップS405において、基準温度変化分布パターン、既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析ソフトにより、任意特定部位の内部熱伝達係数を特定する。
【0031】
次に、ステップS406において、診断部位に、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い、放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化分布パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する。
【0032】
そして、ステップS407において、推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する。
【0033】
次に、放射率マップの作成について説明する。即ち、図4におけるステップS401の詳細に係る説明である。図5Aに配管表面放射率マップの決定手順のフローチャートを示す。ここでの放射率マップの作成は、前述の静止画取り込み部8−4と、表面分割部8−5と、放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段でなされる。なお、放射率マップ作成手段を構成する各要素は、パソコン8に内蔵せずに、他のパソコン等で作成するようにしてもよい。
【0034】
この被測定物、即ち、配管1は、流体により内部が腐食して減肉している。最初に配管の表面状態(錆、塗膜の剥れ、汚れ等)に基づく配管表面の放射率マップを作成する為に以下の手順を行う。
【0035】
まず、ステップS501において、赤外線配管診断する対象である配管をデジタルカメラにて撮影し、静止画を得る。
【0036】
次に、ステップS502において、加熱照射しない自然状態において、赤外線カメラで配管表面を撮影し、赤外線カメラ画像を得る。
【0037】
次に、ステップS503において、静止画像と赤外線カメラ画像との画格を合わせる。
【0038】
次に、ステップS504において、両画像より、放射率類型別の領域の画定をする。
【0039】
次に、ステップS505において、各領域の放射率を、事前に求めた類型別の放射率より求める。
【0040】
そして、ステップS506において、赤外線画像の各画素の放射率を決定し、放射率マップが完成する。
【0041】
以上、まとめると、この実施形態による放射率マップは、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定することによって作成される。
【0042】
次に、別な方法による放射率マップの作成について説明する。即ち、図4におけるステップS401の詳細の前記図5Aを用いて説明したものと異なる別の実施形態に係る説明である。図5Bに配管表面放射率マップの決定手順のフローチャートを示す。ここでの放射率マップの作成は、前述の温度分布データ取り込み部8−7と、任意部位の接触式温度計による計測値を取り込む接触式温度計計測値取り込み部8−8と、任意部位放射率演算部8−9と、表面放射率演算部8−10と、放射率割り当て部8−6とからなる放射率マップ作成手段でなされる。なお、放射率マップ作成手段を構成する各要素は、パソコン8に内蔵せずに、他のパソコン等で作成するようにしてもよい。
【0043】
この被測定物、即ち、配管1は、前記図5Aで説明した実施形態のときと同様に、流体により内部が腐食して減肉している。最初に配管の表面状態(錆、塗膜の剥れ、汚れ等)に基づく配管表面の放射率マップを作成する為に以下の手順を行う。
【0044】
まず、ステップS551において、赤外線配管診断する対象である配管表面が均一な温度状態において、任意部位の表面温度を接触式温度計にて測定する。好ましくは、略均一な温度状態を得るには、操業条件の変化が少ない状態にし、そのときの気象条件は、光の少ない未明(夜)で夜露の無い無風状態が望ましい。
【0045】
次に、ステップS552において、配管表面が均一な温度状態において、赤外線カメラにて温度分布を測定し、赤外線画像を得る。
【0046】
次に、ステップS553において、配管表面の前記接触式温度計による計測値より、前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率を求める。
【0047】
次に、ステップS554において、接触式温度計により測定した測定部位の放射率と前記ステップS552で得た温度分布データより前記配管表面の放射率を求める。
【0048】
そして、ステップS555において、赤外線画像の各画素の放射率を決定し、放射率マ
ップが完成する。
【0049】
以上、まとめると、この実施形態による放射率マップは、診断の対象となる前記配管表面温度が均一な状態において、まず、前記配管の表面温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布を測定し、続いて、前記接触式温度計により測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率を特定することによって作成される。
【0050】
次に、配管系統の細分について説明する。即ち、図4におけるステップS402の詳細に係る説明である。図2には細分方法を模式的に説明するための図を示し、図6にはその手順のフローチャートを示す。図2に示すように、配管系統を設置環境や過去の腐食形態知見により、領域を区分し、さらに断面ブロックに細分する。以下、図6を基に、その手順を説明する。
【0051】
まず、ステップS601において、配管系統を領域に区分する。例えば図2のA、B、C、D、Eのように区分する。
【0052】
そして、ステップS602において、前記各領域を当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態に基づき、断面ブロックに分割する。例えば図2では配管系統Aにおいて、A11、A12、A13、A14の4つに分割している。
【0053】
次に、任意特定部位の板厚と表面放射率の確定について説明する。即ち、図4におけるステップS403の詳細に係る説明である。図7に任意特定部位の板厚と表面放射率を確定する手順のフローチャートを示す。概要は、それぞれの当該断面ブロックに対し、1箇所以上の前記任意特定部位を設け、前記任意特定部位の板厚を測定し放射率を確定する。以下、図2も用いて、その手順を説明する。
【0054】
まず、ステップS701において、それぞれの当該断面ブロックに対し、1箇所以上の前記任意特定部位を設ける。本実施形態では、図2に示すように一箇所設けている。
【0055】
次に、ステップS702において、それぞれの任意特定部位の板厚を超音波板厚計(超音波板厚測定器)で測定する。図2では、t1、t2、t3、t4が測定板厚となる。
【0056】
次に、ステップS703において、それぞれの任意特定部位に既知の黒体塗料を塗布して放射率を確定する。例えば、カーボン系の黒体塗料を用いる場合、放射率は0.94である。
【0057】
次に、基準温度変化分布パターンの測定について説明する。即ち、図4におけるステップS404の詳細に係る説明である。基準温度変化分布測定パターンの測定は、それぞれの任意特定部に基準となる照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて測温することによってなされる。
【0058】
次に、任意特定部位の内部熱伝達係数の特定について説明する。即ち、図4におけるステップS405の詳細に係る説明である。この特定は、基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析ソフトにより逆解析することで、それぞれの任意特定部位の内部熱伝達係数を特定する。本実施形態における逆解析の概要は以下の式で表される。
【0059】
αIi=f(ti,εi,αOi,λi,qai)
αIi:配管断面ブロックiにおける配管内部の熱伝達係数
ti:配管断面ブロックiにおける板厚実測値(既知)
εi:配管断面ブロックiにおける放射率(既知)、
ここでは黒体塗料を塗布するので、εi=0.94
αOi:配管断面ブロックiにおける配管外面の熱伝達係数(既知)
λi:配管断面ブロックiにおける配管の熱伝導率(既知)
qai:配管断面ブロックiにおける加熱照明装置による入力熱流速(既知)
f:配管の熱伝達関数
【0060】
逆解析ソフトは、ある物体の表面の熱伝達係数を、その物体の伝熱定数(熱伝導率、放射率等)及びその物体の熱流に関係する条件(寸法、熱流束、温度分布等)より求めることができるソフトウエアである。
【0061】
次に、肉厚分布の推定について説明する。即ち、図4におけるステップS406の詳細に係る説明である。図8に肉厚分布を推定する手順のフローチャートを示す。概要は、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化分布パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する。
【0062】
まず、ステップS801において、赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射する。
【0063】
次に、ステップS802において、赤外線カメラを用い放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定する。温度変化分布パターンは以下の式で表される。
【0064】
温度変化分布パターン:=g(ti,εi0,αOi,αIi, λi, qai)
ΔTOi:配管断面ブロックiにおける加熱照射による実測温度上昇量
τ:単位時間
g:配管の温度上昇速度関数
εi0:放射率マップの放射率
ti,αOi,αIi,λi ,qaは前記式で求められる。
【0065】
次に、ステップS803において、温度変化分布パターンを時刻及び位置の少なくともいずれかによる関数分布として整理する。
【0066】
次に、ステップS804において、基準温度変化分布パターンも同様に時刻及び位置の少なくともいずれかによる関数分布として整理する。
【0067】
次に、ステップS805において、温度変化分布パターンの関数分布から放射率の差に起因する偏差を差し引く。
【0068】
そして、ステップS806において、差し引き後、基準温度変化分布パターンを比較して板厚を算出する。なお、ステップS802〜S805の関数分布を導出するには、FEM(Finite Element Method)などの手法が有効である。
【0069】
そして、以上のようにして推定した肉厚分布に基づき、配管劣化診断を行う。即ち、図4におけるステップS407の処理であり、具体的には、配管劣化を診断する。
【0070】
(実施例)
以下、本発明の赤外線配管診断装置を実際に使用した実施例、及びその結果について説明する。この例では、直径φ400mm×板厚t4.5mm〜直径φ3000mm×板厚t8mmの副生ガス配管を診断した例である。
【0071】
図9は、当該配管の写真を取って表面性状により領域分割し、放射率を割り振ったものを模式的に表した図である。例えば、この図の各領域に放射率を割り振ると放射率マップが定まる。
【0072】
次に、当該系統について、4つの断面ブロックに細分化し、当該断面ブロックに対し、1箇所の任意特定部位を設けた。当該任意特定部位の板厚を超音波板厚計で測定すると2.3mmであり、この部位に放射率0.94の黒体塗量を塗布した。当該任意特定部位に加熱照射し、基準温度変化分布パターンを得た。そして、基準温度変化分布パターン、板厚2.3mm、放射率0.94に基づき逆解析ソフトにより当該任意特定部位の内部熱伝達係数を求めると15.1W/m2・℃であった。
【0073】
続いて、当該断面ブロックを所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、時刻及び位置の少なくともいずれかによる関数分布として整理した。例えば、放射率0.91のある位置Aにおいて、この関数分布から、任意特定部位の放射率0.94との差に起因する偏差を差し引くと、図10の曲線aになった。基準温度変化分布パターンも同様に関数分布として整理すると図10の曲線bになった。基準温度変化分布パターンと温度変化パターンを比較して、板厚を求めると、図11の板厚分布が求まった。
【0074】
実際に測定したところ、37年使用された配管の最も損耗した部位であり、1.1mmの厚さまで薄くなっていた。
【0075】
この測定結果に対し、本発明によって推定された板厚を超音波板厚計にて数十点サンプリングテストすると、その相関は良く、その誤差は、最大でも10%程度であった。本発明ではさらにその測定のない途中を十分補間できることが言える。
【0076】
この測定結果を基に配管劣化診断すると、この配管系統については、喫緊に配管の破損が予測されないが、最も損耗している部位については特に早期の配管の交換が望まれる、と言った診断結果が得られた。
【0077】
なお、本発明では実機配管表面での錆、塗膜剥れ、汚れ等がある状態に対しても、それぞれ放射率マップによってその放射率が割り当てられているので、これらの悪条件が重なっても、超音波板厚計の板厚と良い相関があり、表面の状態の外乱を受け難いことを確認した。
【0078】
また、本発明では晴天、曇天、日向、日陰等の日射条件が変わる環境であっても、変化量を用いるので外乱が現れず、同部位を配管診断しても、その板厚は変化せず、安定した配管診断が可能であることを確認した。
【0079】
さらに、本発明では配管内部に、模擬的に水分を含んだ泥を堆積させて、配管診断を実施したが、板厚精度には影響せず、安定した配管診断が可能である。これは本発明において内部熱伝達係数を各断面ブロックごとに割り当てているためである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態に係る赤外線配管診断装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る赤外線配管診断対象の配管系統分割例と当該分割配管系統の断面ブロックを4分割した例を示す図である。
【図3】従来の超音波板厚計による板厚測定及び配管劣化診断の手順を示すフローチャートである。
【図4】本発明の赤外線配管診断方法の全体手順を示すフローチャートである。
【図5A】本発明の赤外線配管診断方法において、配管表面放射率マップの決定手順を示すフローチャートであり、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定する方法のフローチャートである。
【図5B】本発明の赤外線配管診断方法において、配管表面放射率マップの決定手順を示すフローチャートであり、赤外線配管診断の対象となる前記配管表面温度が均一な状態において、まず、前記配管の任意表面温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布を測定し、続いて前記接触式温度計により測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率分布を特定する方法のフローチャートである。
【図6】本発明の赤外線配管診断方法において、配管系統を領域に区分し、さらに断面ブロックに細分化する手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の赤外線配管診断方法において、断面ブロックに対し、任意特定部位を設け、その板厚と放射率を確定する手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の赤外線配管診断方法において、赤外配管線診断する部位に対し、加熱照射し、赤外線カメラを用いて温度変化分布パターンを測定し、肉厚分布を推定する手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の赤外線配管診断方法において求めた放射率マップの例を示す図である。
【図10】本発明の赤外線配管診断方法において求めた断面ブロックの所定位置における基準温度変化分布パターンと温度変化分布パターンを示す図である。
【図11】本発明の赤外線配管診断方法において求めた推定板厚分布図を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る赤外線配管診断装置のシステム構成を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 配管
3 赤外線カメラ(赤外線撮像手段)
4 加熱照射装置ランプ
5 赤外線カメラアンプ
6 照射制御装置
7 加熱照射装置アンプ
8 パソコン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断方法であって、
予め赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップの作成、並びに、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をしておき、
赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、
赤外線カメラを用いて前記放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、
前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定することを特徴とする赤外線配管診断方法。
【請求項2】
前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化を診断することを特徴とする請求項1に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項3】
前記放射率マップは、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定することによって作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項4】
前記放射率マップは、赤外線配管診断の対象となる前記配管表面温度が略均一な状態において、まず、前記配管の任意表面の前記略均一な温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布として得られるデータを測定し、続いて、前記接触式温度計で測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率分布を特定することによって作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項5】
前記任意特定部位に対する前記基準温度変化分布パターンの測定、及び前記内部熱伝達係数の特定の前に、診断の対象となる前記配管を、当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態のうち、1つ以上の条件に応じて断面ブロックに分割し、それぞれの当該断面ブロックに対し、前記基準温度変化分布パターンを測定、及び前記内部熱伝達係数を特定するための1箇所以上の前記任意特定部位を設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項6】
前記基準温度変化分布パターンは、基準となる照射パターンで加熱照射した前記任意特定部位を、前記赤外線カメラを用いて測温することによって求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項7】
前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定する解析手法として、前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づく、逆解析手法を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項8】
前記任意特定部位の既知の表面放射率を得る際に黒体塗料を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項9】
前記任意特定部位の既知の肉厚を得る際に超音波板厚測定器を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項10】
赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断装置であって、
予め測定された赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップ、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数を格納及び出力するデータ格納手段と、
赤外線配管診断する配管表面を加熱照射する加熱照射手段と、
前記加熱照射手段を所定の照射パターンに制御する照射制御手段と、
照射された前記配管表面の温度変化分布パターンを測定する赤外線撮像手段と、
前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段とを備えたことを特徴とする赤外線配管診断装置。
【請求項11】
前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化診断を行う手段を備えたことを特徴とする請求項10に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項12】
前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画データを取り込む静止画取り込み手段と、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割する表面分割手段と、前記領域ごとに放射率を特定することによって前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする請求項10又は11に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項13】
前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である略均一な温度分布の配管の表面から赤外線カメラにて測定された温度分布データとして現れたデータを取り込む手段と、前記配管の任意表面の温度を測定する接触式温度計による計測値を取り込む手段と、前記接触式温度計による計測値より前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率を求める任意部位放射率演算手段と、前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率と前記温度分布データより前記配管表面の放射率を求める表面放射率演算手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする請求項10又は11に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項14】
前記内部熱伝達係数は、前記基準温度変化分布パターン並びに前記既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析手法により特定されることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項1】
赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断方法であって、
予め赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップの作成、並びに、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をしておき、
赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、
赤外線カメラを用いて前記放射率マップに基づいて温度変化分布パターンを測定し、
前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定することを特徴とする赤外線配管診断方法。
【請求項2】
前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化を診断することを特徴とする請求項1に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項3】
前記放射率マップは、配管の表面性状を複数の類型に分類すると共に各類型ごとに放射率を測定し、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画を基に、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割して、前記領域ごとに放射率を特定することによって作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項4】
前記放射率マップは、赤外線配管診断の対象となる前記配管表面温度が略均一な状態において、まず、前記配管の任意表面の前記略均一な温度を接触式温度計にて測定し、次に、赤外線カメラにて前記配管表面の温度分布として得られるデータを測定し、続いて、前記接触式温度計で測定した計測値との差異より、前記配管表面の放射率分布を特定することによって作成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項5】
前記任意特定部位に対する前記基準温度変化分布パターンの測定、及び前記内部熱伝達係数の特定の前に、診断の対象となる前記配管を、当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態のうち、1つ以上の条件に応じて断面ブロックに分割し、それぞれの当該断面ブロックに対し、前記基準温度変化分布パターンを測定、及び前記内部熱伝達係数を特定するための1箇所以上の前記任意特定部位を設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項6】
前記基準温度変化分布パターンは、基準となる照射パターンで加熱照射した前記任意特定部位を、前記赤外線カメラを用いて測温することによって求めることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項7】
前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定する解析手法として、前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づく、逆解析手法を用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項8】
前記任意特定部位の既知の表面放射率を得る際に黒体塗料を用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項9】
前記任意特定部位の既知の肉厚を得る際に超音波板厚測定器を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項10】
赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚を検出する赤外線配管診断装置であって、
予め測定された赤外線配管診断する配管表面に対する放射率マップ、表面放射率及び肉厚の既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数を格納及び出力するデータ格納手段と、
赤外線配管診断する配管表面を加熱照射する加熱照射手段と、
前記加熱照射手段を所定の照射パターンに制御する照射制御手段と、
照射された前記配管表面の温度変化分布パターンを測定する赤外線撮像手段と、
前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数、及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段とを備えたことを特徴とする赤外線配管診断装置。
【請求項11】
前記肉厚分布の推定結果に基づいて配管劣化診断を行う手段を備えたことを特徴とする請求項10に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項12】
前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である配管の表面の静止画データを取り込む静止画取り込み手段と、前記配管表面をその類型化された性状の領域に分割する表面分割手段と、前記領域ごとに放射率を特定することによって前記配管表面の放射率を割り当てる放射率割り当て手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする請求項10又は11に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項13】
前記放射率マップを作成するために、赤外線配管診断する対象である略均一な温度分布の配管の表面から赤外線カメラにて測定された温度分布データとして現れたデータを取り込む手段と、前記配管の任意表面の温度を測定する接触式温度計による計測値を取り込む手段と、前記接触式温度計による計測値より前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率を求める任意部位放射率演算手段と、前記接触式温度計により測定した測定部位の放射率と前記温度分布データより前記配管表面の放射率を求める表面放射率演算手段と、を有する放射率マップ作成手段を更に備えたことを特徴とする請求項10又は11に記載の赤外線配管診断装置。
【請求項14】
前記内部熱伝達係数は、前記基準温度変化分布パターン並びに前記既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析手法により特定されることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の赤外線配管診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−134221(P2008−134221A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214859(P2007−214859)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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