説明

赤外線配管診断方法及び装置

【課題】長大な被測定物の配管に対し、診断信頼性を向上させて、診断コストの大幅な削減が可能となる赤外線配管診断方法及び装置を提供する。
【解決手段】表面放射率及び肉厚が既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数の特定をする。赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いてに基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化分布パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定し、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加熱照射装置と赤外線カメラを用いて肉厚を求め、これにより配管の腐食劣化状態を診断する赤外線配管診断方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図10により超音波板厚計を用いた従来の配管診断作業の概要について説明する。
i)被測定物は地上、高架、地下等に配置され、超音波板厚測定のために測定作業用
の足場を設置する。
ii)表面に錆、塗膜等が付着していると、板厚測定誤差となるため表面をサンドペー
パー等で清掃する。
iii)配管表面に測定範囲の罫書きをいれる。
iv)罫書き部分の一点ずつ超音波板厚計により板厚測定する。
v)測定板厚をパソコンに入力し、最大値・最小値・平均・標準偏差等の統計処理を
実施する。
vi)統計処理の結果、配管の劣化状態を診断し、悪いと評価された場合は補修・更新
等を検討する。
【0003】
このような超音波板厚計による配管劣化診断には次のような課題がある。
・板厚測定作業をするため、作業者が作業するための足場が必要である。このための足場設置費用が必要となる。
・流体を取扱う装置産業において、配管設置長さが、数mから数百kmにも及ぶなかで、経済的に測定できる範囲は限定されるため、配管劣化診断の信頼性は非常に低い。
・流体を取扱う装置産業において、配管は特定化学設備の管理対象物であり、防災上の観点から超音波板厚測定作業には、様々な制約条件があり、操業中の測定は難しい。
・流体を取扱う装置産業において、配管設置長さが数mから数百kmにも及ぶなかで、広範囲の超音波板厚測定作業には多大な時間と費用が必要となる。
・超音波板厚測定は、点測定あるいは数十点の連続測定であり、面測定ができないため測定作業効率が悪い。
【0004】
これらの課題に対して、従来の特許技術の特許文献1にて、加熱コイルと配管表面に貼付した熱電対による温度制御装置を用い、均一温度にした配管をサーモグラフィーで撮影解析する配管肉厚測定装置を提案しているが、加熱コイルの設置・配管表面への熱電対設置作業が必要であり足場設置も必要となる。また、一旦均一加熱する作業は煩雑となるので、これをもってしても課題を解決できない。
【0005】
また、特許文献2にて、熱感知塗料を塗布したシート型加熱器を配管に装着し発色変化モニター用カメラにて撮影解析する配管内面損傷診断装置を提案している。しかし、シート型加熱器の設置作業が必要であり、足場設置も必要となるので、これをもってしても課題を解決できない。
【0006】
更に特許文献3にて、高出力ストロボとフォーカルプレーンアレイカメラによる赤外線過渡サーモグラフィー装置を用い、昇温曲線の変曲点を利用した遠融板厚診断を提案している。配管内部にはドレン水の滞留・流動あるいは腐食錆層、泥堆積等により管内熱伝達が変化する外乱がある。また、屋外配管診断の場合、日照により配管外表面温度が晴天日中で20℃上昇し、内表面も10℃程度上昇するため外乱により同様に所定の板厚精度を得られず、これをもってしても課題を解決できない。
【0007】
同様に特許文献4にて、フラッシュランプと赤外線カメラによる欠陥検査装置による遠融板厚診断を提案している。ところが、配管内部にはドレン水の滞留・流動あるいは腐食錆層、泥堆積等により管内の熱伝達率が変化する外乱及び屋外配管診断の場合、日照による外乱により同様に所定の板厚精度を得られず、これをもってしても課題を解決できない。
【0008】
【特許文献1】特開2000-161943号公報
【特許文献2】特開平10-111185号公報
【特許文献3】特表2003-512596号公報
【特許文献4】特開2005-274202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は長大な被測定物の配管に対し遠隔から、屋内外によらず、配管表面性状、配管内面状態によらず、操業条件に制約を受けず短時間に、診断信頼性を向上させて、診断コストの大幅な削減が可能となる赤外線配管診断方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下のとおりである。
【0011】
(1) 赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚、材料欠陥を検出する赤外線配管診断方法であって、赤外線配管診断すべき配管表面に対して表面放射率が既知である黒体塗料を塗布すると共に、肉厚が既知である任意特定部位に対して基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数を予め特定し、赤外線配管診断する部位に対して所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて温度変化分布パターンを測定し、前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定し、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断することを特徴とする赤外線配管診断方法。
【0012】
(2) 前記黒体塗料の塗装は、カーボンブラックを含む放射率の高い塗料を使うことを特徴とする(1)に記載の赤外線配管診断方法。
【0013】
(3) 前記任意特定部位に対する前記基準温度変化分布パターン及び前記内部熱伝達係数を特定する前に、診断対象となる前記配管内部の状況、外表面の状況、該配管の施工環境及び該配管の腐食状態のうち1つ以上の条件に応じて断面ブロックに分割し、それぞれの断面ブロックに対して、前記基準温度変化分布パターン及び前記内部熱伝達係数を特定する1箇所以上の前記任意特定部位を設けることを特徴とする(1)又は(2)に記載の赤外線配管診断方法。
【0014】
(4) 前記基準温度変化分布パターンは、基準となる照射パターンで加熱照射した前記任意特定部位を、前記赤外線カメラを用いて測温することによって求めることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の赤外線配管診断方法。
【0015】
(5) 前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定する解析手法として、前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づく、逆解析手法を用いることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の赤外線配管診断方法。
【0016】
(6) 前記任意特定部位の既知の肉厚を得る際に、超音波板厚測定器を用いることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の赤外線配管診断方法。
【0017】
(7) 赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚、材料欠陥を検出する赤外線配管診断装置であって、赤外線配管診断すべき配管表面に対する表面放射率が既知である黒体塗料の塗布と肉厚が既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数とに関する予め特定されたデータを格納及び出力するデータ格納手段と、赤外線配管診断すべき前記配管表面を加熱照射する加熱照射手段と、前記加熱照射手段を所定の照射パターンとなるように制御する照射制御手段と、照射された前記配管表面の温度変化分布パターンを測定する赤外線カメラと、前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段と、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する診断手段と、からなることを特徴とする赤外線配管診断装置。
【0018】
(8) 前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び黒体塗料放射率に基づいて、前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定するために、逆解析手段を用いることを特徴とする(7)に記載の赤外線配管診断装置。
なお、内部熱伝達係数とは、配管内表面での熱伝達係数を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、黒体塗料を塗布することによって配管の表面放射率又はその分布を小さい誤差で且つ補正する計算なしで特定でき、逆解析ソフトにより配管内面熱伝達係数を求めることができるので、配管の表面性状、配管内面状態によらず配管診断が可能である。
【0020】
また、加熱照射と赤外線カメラを使用する配管診断ができるので、遠隔診断が可能となる。
更に、配管表面を加熱照射し、赤外線カメラを用いて、温度変化パターンを測定するので、日照の影響を受けにくく、屋外での配管診断が可能となる。
また、遠隔のため測定の際には足場不要であり、1回で広範囲を配管診断できるため、短時間の診断が可能となる。
更に、短時間の配管診断ができるため、長大な配管の診断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
まず、図1に被測定物ある配管及び本発明の装置一式を示す。図1において、被測定物である配管1は、鋼鉄製の流体配管であり、その測定範囲2を有する。図1では黒体塗料を塗布され、上架配管である配管1から遠隔の地上に加熱照射装置ランプ4、赤外線カメラ3を設置する。なお、これらの設置には三脚9を使用することができる。加熱照射装置は、加熱照射装置ランプ4、加熱照射装置アンプ7、照射制御装置6から構成される。
【0022】
照射制御装置6の信号を取り込んで赤外線カメラ画像を処理するために、照射制御装置6と赤外線カメラアンプ5が接続される。赤外線カメラ3は、電源供給及びカメラ制御する赤外線カメラアンプ5と赤外線カメラ画像を処理するパソコン8と接続され、温度測定データは赤外線カメラからパソコン8に取り込まれる。
【0023】
パソコン8には、表面放射率及び肉厚が既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数等のデータの格納出力手段と、前記基準温度変化パターン、前記内部熱伝達係数及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段と、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する診断手段と、が内蔵されている。これにより、赤外線配管診断するのに必要なデータをパソコン8に入力すれば、パソコン8より診断結果を得ることができる。また、逆解析ソフト等のソフトウエアも内蔵されており、予め特定しておく配管表面に対する任意特定部位に対する内部熱伝達係数を、必要なデータを入力することによって得ることができる。
【0024】
図3に赤外線配管診断方法の全体手順を示す。
I.配管表面に表面放射率が既知である黒体塗料を塗布する。
II.配管系統を領域に区分し、更に断面ブロックに細分する。
III.当該断面ブロックに対し、1箇所以上の任意特定部位を設け、前記任意特定部位の
板厚を測定し放射率を確定する。
IV.任意特定部位に加熱照射し、赤外線カメラを用いて測温することによって、基準温
度変化分布パターンを求める。
V.基準温度変化分布パターン、既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析ソフ
トにより、任意特定部位の内部熱伝達係数を特定する。
VI.診断部位に所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い、黒体塗料の
放射率に基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化分布パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する。
VII.推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する。
【0025】
I.放射率の確定
1)被測定物である配管表面に放射率が既知である黒体塗料を塗布する。黒体塗料を塗布した場合、次のようなことが考えられる。
・反射が少ないので、反射光のノイズが少ない。
・黒体塗料は安価なものが得易い。
・黒体塗料を塗布した範囲は放射率のバラツキが少ない。
従ってこれらのことから、補正する必要のない、低コストで、精度の高い測定ができることになる。
【0026】
II.配管系統の細分
図2には配管系統を断面ブロックに細分する細分方法を、図4にその手順を示す。
図2において配管系統を設置環境・過去の腐食形態知見により、領域を区分し、更に断面ブロックに細分する。
2)配管系統を領域に区分する。例えば図2のA,B,C,D,Eのように区分する。
3)前記各領域を当該配管内部の状況、外表面の状況、配管の施工環境及び配管の腐食状態に基づき、断面ブロックに分割する。例えば図2では配管系統Aにおいて A11,A12,A13,A14の 4つに分割している。
【0027】
III.任意特定部位の板厚の確定
図5に任意特定部位の板厚と放射率を確定する手順を示す。
それぞれの当該断面ブロックに対し、1箇所以上の前記任意特定部位を設け、前記任意特定部位の板厚を測定し放射率を確定する。
4)それぞれの当該断面ブロックに対し、1箇所以上の前記任意特定部位を設ける。図2では、一箇所設けている。
5)それぞれの任意特定部位の板厚を超音波板厚計で測定する。図2では、t1, t2, t3, t4が測定板厚となる。
6)それぞれの任意特定部位の放射率は、前記図3のIにて確定する。カーボン系の黒
体塗料を用いる場合、放射率は0.94である。
【0028】
IV. 基準温度変化分布パターンの測定
7)それぞれの任意特定部に基準となる照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて測温することによって、基準温度変化分布パターンを求める
【0029】
V. 任意特定部位の内部熱伝達係数の特定
8)基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づいて、逆解析ソフトにより、それぞれの任意特定部位の内部熱伝達係数を特定する。
αIi=f(tiiOii,qai)
αIi:配管断面ブロックiにおける配管内部の熱伝達係数
ti:配管断面ブロックiにおける板厚実測値(既知)
εi:配管断面ブロックiにおける放射率(既知)
ここでは黒体塗料を塗布するので、
εi=0.94
αOi:配管断面ブロックiにおける配管外面の熱伝達係数(既知)
λi:配管断面ブロックiにおける配管の熱伝導率(既知)
qai:配管断面ブロックiにおける加熱照明装置による入力熱流速(既 知)
f:配管の熱伝達関数
逆解析ソフトは、ある物体の表面の熱伝達係数を、その物体の伝熱定数(熱伝導率、放射率等)及びその物体の熱流に関係する条件(寸法、熱流速、温度分布等)より求めることができるソフトウエアである。
【0030】
VI.肉厚分布の推定
図6に肉厚分布を推定する手順を示す。
赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用い黒体塗料の放射率に基づいて温度変化分布パターンを測定し、基準温度変化パターン、内部熱伝達係数及び温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する。
【0031】
9)赤外線配管診断する部位に対し、所定の照射パターンで加熱照射する。
10)温度変化分布パターン:=g(tii0OiIi, λi, qai)を検出する。
ΔTOi:配管断面ブロックiにおける加熱照射による実測温度上昇量
Δτ :単位時間
g:配管の温度上昇速度関数
εi0,:黒体塗料の放射率
tiOIi ,qaは前記式で求められる。
11)温度変化分布パターンを時刻及び又は位置による関数分布として整理する。
12)基準温度変化分布パターンも同様に時刻及び又は位置による関数分布として整理する。
13)温度変化分布パターンの関数分布から放射率の差に起因する偏差を差し引く。
14)差し引き後、基準温度変化分布パターンを比較して板厚を算出する。
なお、10)〜13)の関数分布を導出するには、FEMなどが有効である。
【0032】
VII. 肉厚分布に基づく配管劣化診断
15)推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する。
【実施例】
【0033】
直径φ400mm×板厚t4.5mm〜φ3000×t8の副生ガス配管を本発明の赤外線配管診断装置を使用し診断した。
先ず、配管表面に表面放射率の既知である放射率0.94の黒体塗料を、高所作業車から塗布することによって放射率を確定する。このように黒体塗料の塗布の際には足場が必要な場合もあるが、これ以降の配管診断の際には必要ないので、足場は簡単に撤去できる簡単なものでよい。
【0034】
次に、当該系統について4つの断面ブロックに細分化し、当該断面ブロックに対し、1箇所の任意特定部位を設けた。当該任意特定部位の板厚を超音波板厚計で測定すると2.3mmである。当該任意特定部位に当該配管診断表面に対し正面で距離5mの位置から、0.7kW/m2熱エネルギーを2×2mの範囲に加熱照射し、基準温度変化分布パターン(0.03℃/secの温度上昇速度で約2℃表面温度が上昇する)を得た。基準温度変化分布パターン、板厚2.3mm、放射率0.94に基づき逆解析ソフトにより当該任意特定部位の内部熱伝達係数を求めると15.1W/m2・℃であった。
【0035】
続いて、当該断面ブロックを所定の照射パターンで加熱照射し、黒体塗料の放射率に基づいて温度変化分布パターンを測定し、時刻及び又は位置による関数分布として整理した。例えば、図7に示すように放射率0.94のある位置Aにおいて、温度変化分布パターンは、図8の曲線aになった。基準温度変化分布パターンも同様に関数分布として整理すると図8の曲線bになった。基準温度変化分布パターンと温度変化分布パターンを比較して、板厚を求めると、図9の板厚分布が求まった。実際に37年使用され最も損耗した部位で1.1mm厚さまで薄くなっていた。
【0036】
この測定結果に対し、本発明によって推定された板厚を超音波板厚計にて数十点サンプリングテストすると、その相関は良く、その誤差は、最大でも10%程度であった。本発明ではさらにその測定のない途中を十分補間できることが言える。
この測定結果を基に配管劣化診断すると、この配管系統については、喫緊に配管の破損が予測されないが、最も損耗している部位については特に早期の配管の交換が望まれる、と言った診断結果が得られた。
【0037】
なお、本発明では実機配管表面での錆、塗膜剥れ、汚れ等がある状態に対しても、黒体塗料塗布によってその放射率が割り当てられているので、これらの悪条件が重なっても、超音波板厚計の板厚と良い相関があり、表面の状態の外乱を受け難いことを確認した。
【0038】
また、本発明では晴天、曇天、日向、日陰等の日射条件が変わる環境であっても、変化量を用いるので外乱が現れず、同部位を配管診断しても、その板厚は変化せず、安定した配管診断が可能であることを確認した。
【0039】
更に、本実施例では配管内部に、模擬的に水分を含んだ泥を堆積させて、配管診断を実施したが、板厚精度には影響せず、安定した配管診断が可能であった。これは本発明において内部熱伝達係数を各断面ブロックごとに割り当てているためである。
【0040】
これら一連の診断時間は、実績より次のようであった。φ2000mm×10mの範囲の副生ガス配管を診断する場合、高さ10mの高所作業車から配管の汚れ、浮き錆及び浮き塗膜をスポンジブラシで落とした(5時間)後、当該配管の4断面ブロックの板厚を超音波板厚計で測定し(1時間)、エアレス塗装機で黒体塗料を塗布する(2時間)のに、計8時間要した。
【0041】
次に、高所作業車に赤外線カメラと加熱照射装置ランプを載せ(1時間)、高所作業者の位置を当該配管診断対象面に対し、正面で距離5mに固定し、当該配管診断対象面に2×2mの範囲に加熱照射し赤外線カメラで撮影することを4断面ブロックで行う(1時間)のに、計2時間要した。
次に、1回の診断対象面は2×2mの範囲なので、当該配管は、20回加熱照射し赤外線カメラで撮影が必要であり、1回当たり0.25時間×20回で5時間要した。
次に、4断面ブロックの熱伝達係数を算出し(0.5時間)、当該配管の2×2m範囲の板厚分布算出(0.1時間)を20回行うのに、計2.5時間要した。
【0042】
従って、φ2000mm×10mの配管診断に計15.5時間(約2日間)要した。ただし、この診断中において、必ずしも配管を用いた操業を止める必要はなく、本発明の赤外線配管診断を行うことにより、操業に影響を与えないで操業を続けることが可能である。また、本実施例で示した最初の「配管の汚れ、浮き錆及び浮き塗膜をスポンジブラシで落とす」といった作業はメンテナンス作業にも含まれるものであり、本発明の赤外線配管診断は通常のメンテナンス作業に組み込んで行なわれることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の測定装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の赤外線配管診断対象の配管系統分割例と当該分割配管系統の断面ブロック4分割した例を示す図である。
【図3】本発明の赤外線配管診断方法の全体手順を示す図である。
【図4】本発明における配管系統を領域に区分し、更に断面ブロックに細分化する手順を示す図である。
【図5】本発明における当該断面ブロックに対して任意特定部位を設け、その板厚と放射率を確定する手順を示す図である。
【図6】本発明における赤外配管線診断する部位に対して加熱照射し、赤外線カメラを用いて温度変化分布パターンを測定して肉厚分布を推定する手順を示す図である。
【図7】本発明における表面放射率が既知である黒体塗料を塗布した実施例を示す図である。
【図8】本発明における当刻断面ブロックの位置Aにおける基準温度変化分布パターンと温度変化分布パターン図を作成した実施例を示す図である。
【図9】本発明における推定板厚分布図を作成した実施例を示す図である。
【図10】従来の超音波板厚計による板厚測定及び配管劣化診断の作業フロー図である。
【符号の説明】
【0044】
1 配管
2 測定範囲
3 赤外線カメラ
4 加熱照射装置ランプ
5 赤外線カメラアンプ
6 照射制御装置
7 加熱照射装置アンプ
8 パソコン
9 三脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚、材料欠陥を検出する赤外線配管診断方法であって、
赤外線配管診断すべき配管表面に対して表面放射率が既知である黒体塗料を塗布すると共に、肉厚が既知である任意特定部位に対して基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数を予め特定し、
赤外線配管診断する部位に対して所定の照射パターンで加熱照射し、赤外線カメラを用いて温度変化分布パターンを測定し、
前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定し、当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断することを特徴とする赤外線配管診断方法。
【請求項2】
前記黒体塗料の塗装は、カーボンブラックを含む放射率の高い塗料を使うことを特徴とする請求項1に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項3】
前記任意特定部位に対する前記基準温度変化分布パターン及び前記内部熱伝達係数を特定する前に、診断対象となる前記配管内部の状況、外表面の状況、該配管の施工環境及び該配管の腐食状態のうち1つ以上の条件に応じて断面ブロックに分割し、それぞれの断面ブロックに対して、前記基準温度変化分布パターン及び前記内部熱伝達係数を特定する1箇所以上の前記任意特定部位を設けることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項4】
前記基準温度変化分布パターンは、基準となる照射パターンで加熱照射した前記任意特定部位を、前記赤外線カメラを用いて測温することによって求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項5】
前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定する解析手法として、前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び表面放射率に基づく、逆解析手法を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項6】
前記任意特定部位の既知の肉厚を得る際に、超音波板厚測定器を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤外線配管診断方法。
【請求項7】
赤外線を用いて、構造物又は建造物に施工されている配管の肉厚、材料欠陥を検出する赤外線配管診断装置であって、
赤外線配管診断すべき配管表面に対する表面放射率が既知である黒体塗料の塗布と肉厚が既知である任意特定部位に対する基準温度変化分布パターン及び内部熱伝達係数とに関する予め特定されたデータを格納及び出力するデータ格納手段と、
赤外線配管診断すべき前記配管表面を加熱照射する加熱照射手段と、
前記加熱照射手段を所定の照射パターンとなるように制御する照射制御手段と、
照射された前記配管表面の温度変化分布パターンを測定する赤外線カメラと、
前記基準温度変化分布パターン、前記内部熱伝達係数及び前記温度変化分布パターンに基づいて肉厚分布を推定する肉厚分布推定手段と、
当該推定肉厚分布に基づいて配管劣化を診断する診断手段と、からなることを特徴とする赤外線配管診断装置。
【請求項8】
前記基準温度変化分布パターン並びに既知の板厚及び黒体塗料放射率に基づいて、前記任意特定部位の前記内部熱伝達係数を特定するために、逆解析手段を用いることを特徴とする請求項7に記載の赤外線配管診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−157806(P2008−157806A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348118(P2006−348118)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】