説明

赤外顕微鏡装置および分光分析方法

【課題】 優れた深さ空間分解能および空間分解能を有する赤外分光装置の提供
【解決手段】試料照射部および光検出器を具備した赤外顕微鏡であって、前記試料照射部が赤外線が照射されるための試料が載置される試料台、および前記試料に照射するための赤外線または試料を透過したもしくは試料から反射された赤外線を通過させるための小孔を有するプローブを試料が載置される部位の近傍に有することを特徴とする赤外顕微鏡装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定部位の赤外吸収スペクトルを測定することで、分子の構造解析や不純物などの検知をする赤外顕微鏡装置およびそれを用いて試料の状態を観測するための分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に赤外線を照射して、その赤外線照射により試料から透過あるいは反射した光を分析する赤外分光顕微鏡装置は、既に市販されている。従来の装置は、分解能を向上させるために近接場効果を利用しており、その効果を出すために、金属製の鋭利なプローブが使用されていた(特許文献1参照)。しかしながら、さらなる空間分解能への要求がなされてきた。
【特許文献1】特開2003−294618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、赤外顕微鏡である光分析装置であって、光の回折限界を越えた空間分解能での微小部の分析が可能な赤外顕微鏡装置および分光分析方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成をとる。
1.試料照射部および光検出器を具備した赤外顕微鏡であって、前記試料照射部が赤外線が照射されるための試料が載置される試料台、および前記試料に照射するための赤外線または試料を透過したもしくは試料から反射された赤外線を通過させるための小孔を有するプローブを試料が載置される部位の近傍に有することを特徴とする赤外顕微鏡装置、
2.プローブの形状が、中空であり、かつ底面は存在せず、頂点が試料に対向している錐形であることを特徴とする前記赤外顕微鏡装置、
3.プローブの形状が角錐または円錐であることを特徴とする前記いずれかの赤外顕微鏡装置、
4.プローブの小孔の直径が10μm以下である前記いずれかの赤外顕微鏡装置、
5.プローブの主たる構成材料が金属、半導体およびセラミックスから選ばれるものであることを特徴とする前記いずれかに記載の赤外顕微鏡装置、
6.プローブの主たる構成材料が半導体又はセラミックスであって、プローブ15の構成材料の試料側の面および/又は反対側の面に、0.1nm〜300nmの厚みの金属薄膜が被覆されていることを特徴とする前記いずれかの赤外顕微鏡装置、
7.さらに照射するための赤外線を集光するための集光器または試料を透過した赤外線もしくは試料から反射された赤外線を集光するための集光器を有することを特徴とする前記いずれかの赤外顕微鏡装置、
8.前記いずれかの赤外顕微鏡装置を用い試料台の上に試料を載置し、赤外線を照射し、試料からの透過光または反射光の光の強度を測定することを特徴とする分光分析方法、
9.試料が半導体、強誘電体、金属酸化物、金属窒化物、有機物、ポリマーから選ばれるものである前記分光分析方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明の赤外顕微鏡を使用することにより空間分解能が極めて向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の赤外顕微鏡装置の概要を、装置内部を示す図1を用いて説明する。
【0007】
装置自体に必須ではないが測定される試料8が載置されるための試料台7が設けられている。光源11から発せられた赤外線は分光器10で分光されミラーを介して図1では上のほうから試料8に到達する。試料を透過した赤外線を測定する場合、赤外線は図1では下の方に透過し、ミラーを介して光検出器12に到達する。一方試料で反射された赤外線を測定する場合、反射した赤外線は図1では上の方に進み、ミラー2を介して、右方向、さらに下方向に進み、そして分光器10を通り、切り替えミラー16を通じて光検出器12に到達する構造となっている。図1の装置では、本発明の装置では、必須ではないが、試料から反射した光または透過した光を集光するために、試料台を挟んで集光器6がふたつ設けられている。上の集光器6が反射した光を集光するため、下の集光器6が透過した光を集光するためである。構造としてはカセグレイン鏡というミラー式集光器が例示される。集光器は、図2に示す形態のようなカセグレイン鏡からなる集光器6の代わりに、放物面鏡や楕円鏡を用いても構わない。
【0008】
本発明の赤外分光装置には、図1に示すように赤外分光用の分光器10で分光した光を用いてプローブ15と集光器6で試料8からの光を集光している。しかし、分光器10は、後述のレーザ照射による発光を分析するため、試料を透過した、もしくは反射した光の後に配置してもよい。後で本発明の装置でレーザ照射する用途も説明するが、レーザ照射からの発光を分析するためラマン分光用の分光器であってもよい。またフォトルミネッセンス用分光器を設けてもよい。このような分光器としては、回折格子型分光器、プリズム型分光器、光学フィルター型分光器などのダイクロイックミラー型分光器が使用できる。さらに分光器によって処理された光を検知する光検出器12が設けられる。検出器としては、赤外検出器のほか、光電子増倍管やcharge coupled device(CCD)、2次元マルチチャネル検出器などが一般的に使用される。これらの分光システムを設けることで、強度像だけではなく、スペクトルを測定することができるようになり、試料のより詳細な情報を得ることが可能となる。さらに、測定点各所につきスペクトルを測定し解析することで、強度像だけでなく、信号強度のピーク位置の場所依存性や信号線の半値幅の場所依存性を可視化することも可能となる。本発明において、光照射により試料から発生した光のどの波長領域を検出するかは特に限定されないが、好ましくは100nm〜100000nmの極端紫外から、可視、近赤外、赤外領域までの電磁波を検出する。
【0009】
本発明で使用される光源11は、グローバーランプやシンクロトロン放射光、レーザ光等の任意の光源を用いることができる。なお赤外顕微鏡装置内に光源を設けることもできるが、外部にシンクロトロン放射の光源、レーザ光源を設けることもできる。光源から放出される赤外線のビーム径を数mm以下に絞る手段を有していることが好ましい。
【0010】
試料台7の材質としては、特に制限はない。また試料台7の位置決めをするために試料台にはx−y−zステージ9が付設されている。試料位置の微調整ができるように、パルスモーター駆動ステージやピエゾ素子を使用したステージ(図示していない)上に固定されている方が好ましい。
【0011】
また本発明では、リボルバーは、照射するビーム径を変える機能を有するリボルバー5を設けることができる。また試料の状態が簡単にわかるように、可視光の顕微鏡である試料観察部1を設けることができる。
【0012】
図1に示した装置の、ふたつの集光器6、試料8、試料台7の部分を拡大したものが図2である。
【0013】
図2では本発明の装置の特徴であるプローブ15が設けられている(なお、図1ではプローブ15は図示していなかった)。プローブ15は、試料方向に突出した構造を有し、その頂点には小孔14を有している。当該小孔14は試料台7に載置される試料の表面の近傍に設けられる。当該小孔は試料への赤外線を透過させるためである。プローブの形態としては、図3に示すがごとく、頂点を試料側に向け、中空かつ底面は存在しない形態である。角錐、円錐などの錐形であり、さらに好ましくは、四角錐または円錐である。かような形態のプローブを用いることにより、高い空間分解能が提供される。。
【0014】
小孔14の大きさとしては、近接場効果によっての高分解能を得るために、なるべく小さいことが好ましく、直径が10μm以下であることが望ましい。なお孔の形状が真円でない場合には、孔の面積と同じ面積を持つ円の直径として算出することができる。
【0015】
プローブ15の形状が角錐や円錐の場合は、錐の高さが100μm以下であることが好ましい。試料と小孔との距離は、小孔14の直径と同程度かそれ以下であることが望ましい。その方が試料とプローブ15との間で生じる相互作用が強くなり、信号強度が著しく向上するからである。また図3に示すようにプローブ15はその固定のためにカンチレバー13によって支持されていることが好ましい。
【0016】
このようなプローブを使用することにより、小孔14だけを通過した赤外線のみを試料に照射することができるため、光は小さく絞られ、小孔の効果により極めて狭い領域からのものからしか透過されない。その結果、従来よりも大幅に空間分解能が優れ(例えば2倍以上)、しかも、測定深さも大幅に浅くなり、優れるようになる(例えば10分の1以上)。
【0017】
プローブの構成材料としては金属、半導体およびセラミックスが例示される。また半導体またはセラミックスを使用した場合には、試料側の面および/又は反対側の面に、金属膜が被覆していることが好ましく、好ましい厚みは0.1nm〜300nmである。金属薄膜の材質は、Ag、CuおよびAuよりなる群から選ばれる一つの材料を主な構成材料、好ましくは60質量%以上とすることが好ましい。さらに後述の赤外光やラマン光の分析に用いた場合、Ag、Cu、Auは金属材料のなかでも強度の増強効果が大きく、信号強度の増大が著しいという特徴もある。
【0018】
以上説明した赤外分光装置に、光源11から赤外線以外の発光装置、例えば各種波長を発光可能なレーザ発生装置に置き換えると、図2に示すように照射された光線3がプローブ15の小孔14を通過するようレーザ発光装置を配置することにより、この装置により、赤外分光分析の他に、ラマン光分析および/またはフォトルミネッセンス分析を行うことができる。特にプローブが小孔を有することにより、微細な領域のみに光線3を照射することができる。小孔の直径が300nm以下とすれば、近接場効果により極めて高い分解能を得ることができる。
【0019】
例えば、レーザ光源11を集光ミラーである集光器6を通して、プローブ15に照射し、プローブ15が接触した試料、又はプローブ15に近接する試料との相互作用で発生した近接場ラマン散乱光(あるいは近接場フォトルミネッセンス)を、同じプローブ15を通して、集光器6で集光し、ラマン光用の分光器10で分光することにより、光の回折限界を超える空間分解能で、近接場ラマン散乱光や近接場フォトルミネッセンスを測定することができる。プローブ15と集光器6を共有することで、赤外光とラマン散乱光の同一場所の同時測定や赤外光とフォトルミネッセンスの同一場所の同時測定、または同時でなくても試料交換、移動を行うことなく測定を行うことができる。
【0020】
本発明の赤外分光装置を用いて測定する測定項目は、試料から発生した光から得られる情報であれば特に限定されないが、基本は赤外スペクトルおよび/または赤外強度分布像であり、赤外線以外のレーザなどの光照射装置を具備することによりラマンスペクトル、ラマン強度分布像、フォトルミネッセンススペクトル、フォトルミネッセンス強度分布像をとることができる。
【0021】
本発明の赤外分光装置で分析可能な試料に特に制限はないが、ポリマー、半導体、酸化物、窒化物、強誘電体などの分析に特に有効である。中でも、ポリマーやポリマーアロイ、半導体、酸化物、窒化物および強誘電体から選ばれる少なくとも1種を使用した各種電子機器用素子は、年々高集積化、微小化の一途をたどっているため、微小部の分析が可能な本発明の赤外分光複合装置を用いた分析に好適な試料である。
【0022】
本発明の赤外分光装置は、各種電子機器用素子のなかでも特に、液晶ディスプレイ、有機EL素子、有機半導体レーザ、発光ダイオード、フォトダイオード、有機トランジスタ、プラズマディスプレイ(PDP)パネル等の分析に有効に用いられる。
【0023】
また、光源として、放射光赤外ビームラインを利用した本発明の装置では、高輝度な光源が得られるので、ナノメータレベルの薄膜材料の分析が短時間で行えるだけでなく、小孔14とプローブ15を有する近接場探針を用いることにより、高深さ分解能及び高空間分解能での赤外分光測定が可能になる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0025】
図4に示すように、エポキシ樹脂にポリエチレンテレフタレート樹脂を包埋した後、ミニターで、膜厚が約10μmになるように膜状に切り出した。薄片化した試料を図1に示す形態の試料台を有する赤外顕微鏡にマウントした。しぼり4を10μm×10μmに固定して、赤外光をエポキシ樹脂を含んだポリエチレンテレフタレート樹脂部分に上から入射させ、その赤外透過スペクトルを測定した。この際、プローブ15は載置していない。その際、透過した赤外線は下の方からの光路を通じたものである。測定の結果、ポリエチレンテレフタレート樹脂の透過スペクトルに重畳して、エポキシ樹脂の透過スペクトルが観測された。
【0026】
次に、PET試料の表面近傍に、頂点が試料側に配置され、頂点に直径10μmφの開口部を有する四角錐の形状(底面は存在しない)を有するプローブ15を配置し、赤外光3を小孔14を通じてPETに照射し、その赤外透過スペクトルを測定した。その結果、四角錐の形状(底面は存在しない)を有するプローブを通して測定した場合は、エポキシ樹脂の赤外透過スペクトルは観測されず、PET部分のみの赤外透過スペクトルが検出され、プローブ無し有りで、空間分解能が遥かに向上することが分った。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の赤外分光装置の内部を示す概略図
【図2】図1における試料台、試料および集光器付近を拡大した概略図
【図3】プローブの概略図
【図4】実施例の試料の形態
【符号の説明】
【0028】
1:試料観察部
2:ミラー
3:光線
4:しぼり
5:リボルバー
6:集光器
7:試料台
8:試料
9:X−Y−Zステージ
10:分光器
11:光源
12:光検出器
13:カンチレバー
14:小孔
15:プローブ
16:切り替えミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料照射部および光検出器を具備した赤外顕微鏡であって、前記試料照射部が赤外線が照射されるための試料が載置される試料台、および前記試料に照射するための赤外線または試料を透過したもしくは試料から反射された赤外線を通過させるための小孔を有するプローブを試料が載置される部位の近傍に有することを特徴とする赤外顕微鏡装置。
【請求項2】
プローブの形状が、中空であり、かつ底面は存在せず、頂点が試料に対向している錐形であることを特徴とする請求項1の赤外顕微鏡装置。
【請求項3】
プローブの形状が角錐または円錐であることを特徴とする請求項2記載の赤外顕微鏡装置。
【請求項4】
プローブの小孔の直径が10μm以下である請求項1〜3いずれかに記載の赤外顕微鏡装置。
【請求項5】
プローブの主たる構成材料が金属、半導体およびセラミックスから選ばれるものであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の赤外顕微鏡装置。
【請求項6】
プローブの主たる構成材料が半導体又はセラミックスであって、プローブ15の構成材料の試料側の面および/又は反対側の面に、0.1nm〜300nmの厚みの金属薄膜が被覆されていることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の赤外顕微鏡装置。
【請求項7】
さらに照射するための赤外線を集光するための集光器または試料を透過した赤外線もしくは試料から反射された赤外線を集光するための集光器を有することを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の赤外顕微鏡装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの赤外顕微鏡装置を用い、試料台の上に試料を載置し、赤外線を照射し、試料からの透過光または反射光の光の強度を測定することを特徴とする分光分析方法。
【請求項9】
試料が半導体、強誘電体、金属酸化物、金属窒化物、有機物、ポリマーから選ばれるものである請求項8記載の分光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−85382(P2010−85382A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258097(P2008−258097)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000151243)株式会社東レリサーチセンター (10)
【Fターム(参考)】