説明

赤外Q値を評価し等級分けした水晶片

【課題】人工水晶原石から切り出した水晶片のα値を、赤外線分光光度計を用いずに、水晶片が含有する所定の複数の不純物元素濃度から、予め作成した線量計を用いて推定し、JIS C 6704を用いて対応する赤外Q値を評価し等級分けした水晶片を提供する。
【解決手段】人工水晶原石を所定のα値別に複数種類準備し、不純物元素の含有濃度をX軸にα値、Y軸に測定された該含有濃度をそれぞれ前記所定の不純物元素毎にプロットして、不純物濃度との相関関係を示す検量線を準備する工程と、測定された前記水晶片に含有される前記所定の複数の所定の不純物濃度を、それぞれ前記検量線と対照して前記水晶片のα値を推定する工程と、前記α値をJISに規定する等級と対照させて赤外Q値を評価する工程と、から赤外Q値を評価し等級分けしたことを特徴とする水晶片。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α値が異なる水晶片別に、α値と不純物元素の含有濃度とをそれぞれプロットして、予め作成した検量線から赤外Q値を評価し等級分けした水晶片に関する。
【背景技術】
【0002】
水熱合成法によって製造された人工水晶原石の品質を決定する要素としては、主に、インクルージョン密度、エッチチャンネル密度、α値などがある。人工水晶原石の状態にあるこれらの要素を評価する場合の評価方法は、JIS C 6704及びIEC 60758に、その評価手順がそれぞれ標準化されて記載されている(非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】JIS C 6704
【非特許文献2】IEC 60758
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人工水晶から切断され、水晶振動子、水晶フィルタ、光学素子などに使用される水晶片についてのエッチチャンネル密度、インクルージョン密度の評価は、前述したJIS C 6704及びIEC 60758に記載される方法に準じて評価することができる。しかし、α値(赤外線吸収係数)については、これらのJIS及びIEC規格に記載されている測定方法では、Yカットで水晶片の厚みを10.0mmとし、かつ、Y面ポリッシュ研磨をした試料を用いて赤外分光光度計を使用して測定することが規定されている。そのため、特に、ATカット、STカットなどの特定な切断角度で切断され、かつ、厚みの小さな(10.0mm以下)水晶片のα値の測定をすることは、実用上、殆ど不可能であった。
【0005】
さらに、通常、人工水晶原石及び水晶片の品質は、人工水晶育成時の育成ロット単位で保証されている。特に、α値は、人工水晶の成長速度と相関関係があり、同一育成ロットで育成された人工水晶同志を比較すると、その成長速度が大きいほど、α値が大きくなる傾向がある。また、同一育成ロットで育成された人工水晶であっても、それらの成長速度にバラツキがあるため、α値にも人工水晶原石単位でバラツキが生じ、さらに、切断した人工水晶原石が異なれば、α値も異なることになる。
【0006】
このため、従来、水晶片(ブランク)のα値を評価する場合には、各人工水晶原石に添付された育成ロット単位毎の品質保証書を当該人工水晶原石の評価に用いるしか術がなく、結局、当該品質保証書が妥当なものか否かを技術的に確認することができない、とする問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明の赤外Q値を評価し等級分けした水晶片では、水熱合成法を用いて育成した人工水晶原石から切り出した水晶片のα値を、赤外線分光光度計により計測せずに、水晶片が含有する複数の不純物元素の元素濃度から、予め作成した検量線(相関線)を用いて推定し、JISに規定するα値の等級に対応する赤外Q値を評価し等級分けした水晶片を得るようにする。
【0008】
本発明は、人工水晶原石を所定のα値別に複数種類準備し、該複数の人工水晶原石に含有される複数の所定の不純物元素の含有濃度を所定の分析法により測定し、該測定結果を、X軸にα値を、また、Y軸に測定された該含有濃度をそれぞれ前記所定の不純物元素毎にプロットして、前記α値と前記測定された不純物濃度との相関関係を示す検量線を準備する工程と、評価したい水晶片に含有される前記複数の所定の不純物濃度を所定の分析法により測定する工程と、測定された前記水晶片に含有される前記所定の複数の所定の不純物濃度をそれぞれ前記検量線と対照して前記水晶片のα値を推定する工程と、前記α値をJISに規定する等級と対照させて赤外Q値を評価する工程と、からなることを特徴とする赤外Q値を評価し等級分けした水晶片に関する。
【0009】
本発明では、前記JISに規定する等級と対照させるα値として前記推定した複数のα値の平均値を用いることを特徴とする。
【0010】
本発明では、前記複数の所定の不純物元素が、Al,Na及びLiであることを特徴とする。
【0011】
本発明に用いる、前記所定の分析方法が、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)質量分析法、フレームレス原子吸光分析法及び二次イオン質量分析法であることを特徴とする。
【0012】
本発明は、前記水晶片が、人工水晶原石のZ領域またはX領域から切り出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、人工水晶原石から切り出した水晶片の状態で予め作成した検量線を用いて水晶片のα値の評価が可能となるので、水晶片の切断角度及び厚さの如何を問わずにα値の評価ができ、かつ、水晶片に添付された品質保証書の妥当性を簡単に確認できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の水晶片の赤外Q値の評価に用いる検量線であって、不純物元素(Al,Na,Li)のα値とAl,Na,Liに含まれる不純物含有濃度との相関関係を示すグラフである。
【図2】本発明の水晶片の赤外Q値評価の工程を示すフローチャートである。
【図3】α値とQ値の相関関係の例を示すグラフである。
【図4】Z板種水晶を用いて育成した人工水晶のY断面図であって、人工水晶の各成長領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の赤外Q値を評価し等級分けした水晶片について、本願明細書に記載の表及び添付した図面に基いて説明する。
【0016】
育成された人工水晶原石に含有される主な不純物元素には、Al(アルミニウム)、Na(ナトリウム)、Li(リチウム)などがある。
【0017】
そして、これらの不純物元素の含有濃度は、人工水晶のα値と密接な相関関係、すなわち、α値が小さいほど、不純物元素の含有濃度が小さくなることが実証されている。本発明では、この相関関係を利用してα値から水晶片の赤外Q値を評価する。
【0018】
まず、人工水晶原石をα値別に、数種類準備し、ICP−MS(ICP質量分析)法により、それぞれの原石に含有されている不純物元素のAl,Na,Liの含有量を測定する。ここで、その測定結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
この測定結果を、図1に示すように、X軸にα値、Y軸に上述した不純物元素の含有濃度をそれぞれ不純物元素ごとにα値0.01〜0.22の範囲で4〜5点でプロットし、片対数相関グラフを作成する(図2、工程S1参照)。
【0021】
これにより、図1に見るように、各不純物元素について、α値(横軸)と不純物元素濃度(縦軸)との明確な相関関係が確認できる。本発明では、これらの相関関係を検量線として使用する。
【0022】
他方、評価したい水晶片についても、水晶片に含有されるこれら不純物元素の含有濃度を、Z領域について、例えば、ICP−MS(前出)、FLAA(フレームレス原子吸光分析法)、SIMS(二次イオン質量分析法)などによって測定する(工程S2参照)。ここに、その測定結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
そして、測定された各不純物元素の濃度を前出の図1に示した相関グラフと比較対照して、評価したい水晶片のα値を推定する(工程S3参照)。しかし、実際には、各不純物元素によって推定されるα値にはバラツキがあるので、それぞれの推定されたα値の平均値を使用する。ここで、表2に示す各不純物元素の濃度(Al:1.8,Na:0.18,Li:0.43)を用いて図1により縦軸に示す濃度から横軸に示すα値をプロットすると、それぞれ、Al:0.019,Na:0.024,Li:0.017となり、それらのα値の平均値を算出すると、0.020となり、この数値を評価したい水晶片のα値とする。
【0025】
そして、図3(JIS C 6704、図10参照)に示すように、α値(波数3500cm-1)はQ値(Q×106)と反比例の相関関係を有するから(Q値の換算式:106/Q=0.061+9.143α−3.58α2)、表3に示すJIS C 6704で規定する、赤外線吸収係数α値(波数3.585cm-1の場合)の等級と対照させて相当する推定赤外Q値を評価する(工程S4参照)。前述した事例の場合は、評価したい水晶片の平均α値は、0.020であるから、表3に示すJISに規定する等級A(α:0.024以下、高品質の水晶振動子用)になり、その推定赤外Q値は、表3から300×104と評価されることになる。
【0026】
【表3】

【0027】
ここで、水晶振動子、水晶片フィルタ、光学素子などに使用される人工水晶原石から切り出された水晶片は、通常、図4に示す、人工水晶原石の成長領域の一つであるZ領域から切り出される。
【0028】
しかし、これらの水晶片の中には、X領域から水晶片を切り出すものもあるが、このような場合には、予めX領域を使用した数種の人工水晶原石を用いてα値を推定し、前述した検量線を作成しておけばよいから、本願発明の赤外Q値を評価し等級分けした水晶片は、水晶片の成長領域を問わず適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
α:α値(赤外線吸収係数)
Q:Q値
X:水晶の電気軸
Z:水晶の光学軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工水晶原石を所定のα値別に複数種類準備し、該複数の人工水晶原石に含有される複数の所定の不純物元素の含有濃度を所定の分析法により測定し、X軸にα値、Y軸に測定された該含有濃度をそれぞれ前記所定の不純物元素毎にプロットして、前記α値と前記測定された不純物濃度との相関関係を示す検量線を準備する工程と、
評価したい水晶片に含有される前記複数の所定の不純物濃度を所定の分析法により測定する工程と、
測定された前記水晶片に含有される前記所定の複数の所定の不純物濃度をそれぞれ前記検量線と対照して前記水晶片のα値を推定する工程と、
前記α値をJISに規定する等級と対照させて赤外Q値を評価する工程と、から赤外Q値を評価し等級分けしたことを特徴とする水晶片。
【請求項2】
前記JISに規定する等級と対照させるα値として、前記推定した複数のα値の平均値を用いることを特徴とする請求項1に記載の水晶片。
【請求項3】
前記複数の所定の不純物元素が、Al,Na及びLiであることを特徴とする請求項1に記載の水晶片。
【請求項4】
前記所定の分析方法が、ICP質量分析法、フレームレス原子吸光分析法及び二次イオン質量分析法であることを特徴とする請求項1に記載の水晶片。
【請求項5】
前記水晶片が、人工水晶原石のZ領域またはX領域から切り出されることを特徴とする請求項1に記載の水晶片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−75780(P2013−75780A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215947(P2011−215947)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】