説明

赤潮発生防止方法

【課題】赤潮の原因となるプランクトンの細胞膜を破壊して死滅させて確実に赤潮の発生を防止することができ、費用対効果にも優れた赤潮発生防止方法を提供すること。
【解決手段】プランクトン7が発生している水域1に水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮発生防止剤8を撒布することにより、プランクトン7を死滅させたり、凝集させて沈殿させることにより赤潮の発生を防止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤潮発生防止剤および赤潮発生防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、赤潮や貝毒の原因となるプランクトンとしてシャトラネ・マリナ、ヘテロシグマ・アカシオ、カレニア・ミキモトイ等の種々のプランクトンが知られている。
【0003】
これらのプランクトンの異常発生によって起こる赤潮を防止するために、天然鉱物モンモリロナイトを主成分とする入来モンモリを水中に撒布することが行われている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】水産学シリーズNo.134「粘度散布による赤潮駆除:和田実」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記入来モンモリによるプランクトンの駆除は、含有されるアルミニウムの作用によるとされている。即ち、入来モンモリを水中に撒布すると、30mg/lのアルミニウムが溶出して赤潮が駆除されるとされている(非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、入来モンモリによる赤潮駆除を行うためには多量の使用量が必要であった。具体的には、駆除するプランクトンの種類によって異なるが、効果が発揮される最低水中濃度(mg/l)は、シャトラネ・マリナの場合に1000〜2000、ヘテロシグマ・アカシオの場合に5000〜6000である。
【0007】
しかも、入来モンモリの当該最低使用量に要する費用が高額であり、費用対効果が悪いという不都合が合った。
【0008】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、赤潮の原因となるプランクトンの細胞膜を破壊して死滅させて確実に赤潮の発生を防止することができ、費用対効果にも優れた赤潮発生防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために本発明の赤潮発生防止方法は、プランクトンが発生している水域に水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮発生防止剤を撒布することにより、プランクトンを死滅させたり、凝集させて沈殿させることにより赤潮の発生を防止することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、プランクトンが発生している水域に水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮発生防止剤を撒布すると、水酸化マグネシウムの作用によりプランクトンが死滅し、更にプランクトンが水酸化マグネシウムに付着して凝集させされて沈殿する。これにより赤潮の発生が防止される。
【0011】
また、赤潮発生防止方法は、水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮発生防止剤を撒布することにより水域のpHを9〜10にすることにより赤潮の発生を防止することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤を水中に撒布すると、水域のpHが9〜10に到達し、プランクトンは細胞膜が破壊されて死滅し、更に好気性菌が活性化され、有機物の分解が促進されて、赤潮の発生が防止される。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように、本発明に係る赤潮発生防止方法によれば、赤潮の原因となるプランクトンの細胞膜を破壊して死滅させて確実に赤潮の発生を防止することができ、費用対効果にも優れたものとなる等の優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る赤潮発生防止方法の実施形態を図1から図4を参照して説明する。
【0015】
図1〜図3は本発明の赤潮発生防止方法の工程を示す説明図である。
【0016】
図1は赤潮が発生した状態を示している。海中1には、養殖用の生簀2が浮子3をもってその頂部を海面に露出させるようにして設置されている。海面の近傍には赤潮5が発生して生簀2内の魚類4が酸素の欠乏により窒息死する危険な状態にある。海底6には死滅したプランクトン7が堆積して汚泥を形成しており、生物の生息環境が悪くなっている。
【0017】
本発明の赤潮防止方法においては、図2に示すように、赤潮が発生している水域に船より酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8を所定の割合(赤潮を防止する効果を発揮できる最低量以上の量)で海面に撒布する。
【0018】
これにより水酸化マグネシウムの作用によりプランクトンが死滅し、更にプランクトンが水酸化マグネシウムに付着して凝集させられて沈殿する。
【0019】
具体的には、水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8を水中に撒布すると、水域のpHが9〜10に到達し、プランクトンは細胞膜が破壊されて死滅し、更に好気性菌が活性化され、有機物の分解が促進されて、赤潮の発生が防止される。これにより海面近傍の赤潮の発生が防止され、図3に示すように、生簀2内の生物の生息環境は改善され、魚類4も健康に育成される。
【0020】
更に、海面に撒布された水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8が海底6に沈殿しているプランクトン7に対しても海面近傍と同様に有効な赤潮除去作用を発揮してプランクトン7を死滅させたり分解させて、汚泥を綺麗にする。
【0021】
図4は本発明に用いる水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8と従来の入来モンモリを海中に撒布した場合の、海水のpHの変化を示したものである。 本発明の赤潮防止剤8を海水に対して50g/mの割合で撒布した場合には、海水の約pH8.5が30分でpH9.5を越え60分でほぼ平衡状態になった。
【0022】
また、本発明の赤潮防止剤8を海水に対して100g/mの割合で撒布した場合には、海水の約pH8.5が5分でpH9.5を越え60分でほぼ平衡状態になった。
【0023】
これに対して入来モンモリの場合には、海水のpHが上昇することはなくむしろ低下する傾向にあった。
【0024】
これにより本発明においては、入来モンモリの水中に溶出するアルミニウムによる赤潮駆除作用とは異なる作用によって赤潮を除去していることがわかる。
【実施例】
【0025】
以下、図5〜図10について具体的実施例により本発明の赤潮防止作用を説明する。
【0026】
実施例1(図5および図6)
実施例1においては、プランクトンがカレニア・ミキモトイである場合に、本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8を海水に対する撒布割合(g/m) を50、100、150、200と変化させた場合と、何も撒布しないコントロールの場合について、カレニア・ミキモトイの細胞数の時間的変化を測定した。前記撒布割合50、100、150、200(g/m) をそれぞれ水中濃度に換算すると、85、170、250、330(mg/l)となる。をその結果は図5に示す通りであり、本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8の場合は、撒布から45分経過すると撒布割合が50g/mであっても、ほぼ全部のプランクトンが死滅している。これに対して、コントロールの場合はプランクトンはほとんど減少していない。
【0027】
本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8をの撒布前において図6(a)に示す状態にあったカレニア・ミキモトイは、撒布後は同図(b)に示す通り、細胞膜が破壊されて、死滅している。
【0028】
この結果よりカレニア・ミキモトイの場合は、少なくとも50g/mの撒布割合があれば、赤潮の発生を防止することができる。
【0029】
実施例2(図7および図8)
実施例2においては、プランクトンがシャトネラ・マリナである場合に、本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8を海水に対する撒布割合(g/m) を50、100、150、200と変化させた場合と、何も撒布しないコントロールの場合について、シャトネラ・マリナの細胞数の時間的変化を測定した。その結果は図7に示す通りであり、本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8の場合は、撒布から120分経過すると撒布割合が50g/mであっても、コントロールの約14000cells/mlに対して約2000cells/mlの約1/7までに低減させられている。
【0030】
本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8をの撒布前において図8(a)に示す状態にあったシャトネラ・マリナは、撒布後は同図(b)に示す通り、細胞膜が破壊されて、死滅している。
【0031】
この結果よりシャトネラ・マリナの場合は、少なくとも50g/mの撒布割合があれば、赤潮の発生を防止することができる。
【0032】
実施例3(図9および図10)
実施例3においては、プランクトンがヘテロシグマ・アカシオである場合に、本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8を海水に対する撒布割合(g/m) を50、100、150、200と変化させた場合と、何も撒布しないコントロールの場合について、ヘテロシグマ・アカシオの細胞数の時間的変化を測定した。その結果は図9に示す通りであり、撒布から120分経過すると撒布割合が50g/mであっても、コントロールの約12000cells/mlに対して約1300cells/mlの約1/9までに低減させられている。
【0033】
本発明の水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮防止剤8をの撒布前において図10(a)に示す状態にあったヘテロシグマ・アカシオは、撒布後は同図(b)に示す通り、細胞膜が破壊されて、死滅している。
【0034】
この結果よりヘテロシグマ・アカシオの場合は、少なくとも50g/mの撒布割合があれば、赤潮の発生を防止することができる。
【0035】
次に、費用対効果について、従来の入来モンモリと本発明に共通するプランクトンであるヘテロシグマ・アカシオについて考察する。
【0036】
ヘテロシグマ・アカシオに対する本願発明の水酸化マグネシウムを主成分とした赤潮防止剤8の最低水中濃度は85(mg/l)であり、従来の入来モンモリの最低水中濃度は5000〜6000(mg/l)となり、本発明と従来例との比は、約1:60である。市販の水酸化マグネシウムと入来モンモリの価格の比は、約10:1である。これらの結果より、最低水中濃度と価格の比を乗して得られる費用対効果の本発明と従来例との比は、1:6である。従って、費用対効果は本発明が従来れに比較して6倍の優位性を有していることになる。
【0037】
なお、本発明は前記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る赤潮発生防止方法の行程を示し、赤潮が発生した状態を示す生簀部分の断面図
【図2】図1の状態に本発明の赤潮防止剤を撒布した状態を示す生簀部分の断面図
【図3】図2の状態から赤潮が除去された状態を示す生簀部分の断面図
【図4】本発明に用いる赤潮防止剤と入来モンモリとを海中に撒布した場合における海水のpHの変化を示す特性図
【図5】本発明による赤潮防止方法をカレニア・ミキモトイに適応した場合のプランクトン数の経時変化を示す棒グラフ
【図6】(a)は本発明の赤潮防止方法をカレニア・ミキモトイに適応する前の状態を示す顕微鏡写真図、(b)は適用後の顕微鏡写真図
【図7】本発明による赤潮防止方法をシャトネラ・マリナに適応した場合のプランクトン数の経時変化を示す棒グラフ
【図8】(a)は本発明の赤潮防止方法をシャトネラ・マリナに適応する前の状態を示す顕微鏡写真図、(b)は適用後の顕微鏡写真図
【図9】本発明による赤潮防止方法をヘテロシグマ・アカシオに適応した場合のプランクトン数の経時変化を示す棒グラフ
【図10】(a)は本発明の赤潮防止方法をヘテロシグマ・アカシオに適応する前の状態を示す顕微鏡写真図、(b)は適用後の顕微鏡写真図
【符号の説明】
【0039】
1 海中
5 赤潮
7 プランクトン
8 赤潮防止剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランクトンが発生している水域に水酸化マグネシウムを主成分とする赤潮発生防止剤を撒布することにより、プランクトンを死滅させたり、凝集させて沈殿させることにより赤潮の発生を防止することを特徴とする赤潮発生防止方法。
【請求項2】
赤潮発生防止剤を撒布することにより水域のpHを9〜10にすることにより赤潮の発生を防止することを特徴とする請求項1に記載の赤潮発生防止方法。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−239516(P2008−239516A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79545(P2007−79545)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(301046499)
【出願人】(591036631)社団法人マリノフォーラム二十一 (6)
【出願人】(000110882)ニチモウ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】