説明

赤色、緑色、および青色の副要素を有する積層白色OLED

本発明は、効率的な有機発光デバイス(OLED)に関する。より具体的には、白色発光OLED、即ちWOLEDに関する。本明細書のデバイスは、通常赤色、緑色、青色を発光する、3つの発光性の副要素を採用して、可視スペクトルを十分にカバーする。この副要素は電荷発生層によって仕切られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2008年10月28日出願の米国仮特許出願第61/109,074号明細書の優先権を主張するものであり、これらの全内容を、本明細書に援用する。
【0002】
米国政府の権利に関する記述
本発明は、エネルギー省により授与された契約番号DE−FG02−07ER84809により政府の支援によってなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、効率的な有機発光デバイス(OLED)に関する。より具体的には、白色発光OLED、即ちWOLEDに関する。本発明のデバイスは、通常赤色、緑色、青色を発光する、3つの発光性の副要素を採用して、可視スペクトルを十分にカバーする。この副要素は電荷発生層によって仕切られる。これによって、色調の強いレンダリングインデックスを示す明るく効率的なWOLEDの構造が可能になる。
【背景技術】
【0004】
有機物質を用いるオプトエレクトロニクスデバイスは、多くの理由により、ますます望ましいものとなってきている。そのようなデバイスを作るために用いられる物質の多くは比較的安価であり、そのため有機オプトエレクトロニクスデバイスは、無機デバイスに対してコスト上の優位性についての潜在力を持っている。加えて、有機デバイスは、柔軟性等の有機物質固有の特性により、柔軟な基板上への作製等の特定の用途に適している。有機オプトエレクトロニクスデバイスの例には、有機発光デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池、および有機光検出器が含まれる。OLEDについては、有機物質は従来の物質に対して性能的優位性を有し得る。例えば、有機発光層が発光する波長は一般に適切なドーパントで容易に調節され得る。
【0005】
本明細書で用いるように、「有機」という用語は、有機オプトエレクトロニクスデバイスを作製するために用いることができる重合体並びに低分子有機物質を含む。「低分子」とは、重合体ではない任意の有機物質を指し、「低分子」は実際には非常に大きくてもよい。低分子はいくつかの状況では繰り返し単位を含んでもよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることは、分子を「低分子」の群から排除しない。低分子は、例えば重合体主鎖上のペンダント基として、あるいは主鎖の一部として、重合体中に組み込まれてもよい。低分子は、コア残基上に作り上げられた一連の化学的殻から成るデンドリマーのコア残基として働くこともできる。デンドリマーのコア残基は、蛍光性またはリン光性低分子発光体であることができる。デンドリマーは「低分子」であってよく、OLEDの分野で現在用いられている全てのデンドリマーは低分子であると考えられる。一般に、低分子は、単一の分子量を持つ明確な化学式を有するが、重合体は分子ごとに変わり得る化学式と分子量とを有する。本明細書で用いるとおり、「有機」はヒドロカルビル配位子およびヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0006】
OLEDは、デバイスに電圧を印加した場合に光を発する薄い有機膜を用いる。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明、およびバックライト等の用途で用いるためのますます興味ある技術となってきている。いくつかのOLEDの材料と構成が、米国特許第5,844,363号明細書、同第6,303,238号明細書、および同第5,707,745号明細書に記載されており、これらの明細書はその全体を参照により本願に援用する。
【0007】
OLEDデバイスは一般に(常にではないが)少なくとも電極の1つを通して光を発するように意図され、1つ以上の透明電極が、有機オプトエレクトロニクスデバイスにおいて有用であり得る。例えば、インジウムスズオキシド(ITO)等の透明電極材料は、ボトム電極として用いることができる。米国特許第5,703,436号明細書および同第5,707,745号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に開示されているような透明なトップ電極も用いることができる。ボトム電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、トップ電極は透明である必要はなく、高い電気伝導度を持つ厚く且つ反射性の金属層から成っていてもよい。同様に、トップ電極を通してのみ光を発することが意図されたデバイスについては、ボトム電極は不透明および/または反射性であってよい。電極が透明である必要がない場合は、より厚い層の使用はより良い伝導度をもたらすことができ、反射性電極を用いることは透明電極に向けて光を反射し返すことによって他方の電極を通して放射される光の量を多くすることができる。完全に透明なデバイスも作製でき、この場合は両方の電極が透明である。側方発光OLEDも作製することができ、そのようなデバイスでは1つまたは両方の電極が不透明または反射性であり得る。
【0008】
本明細書で用いるように、「トップ」は基板から最も遠くを意味する一方で、「ボトム」は基板に最も近いことを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスの場合、ボトム電極とは基板に最も近い電極であり、通常最初に作製される電極である。ボトム電極は、基板に最も近いボトム面と基板から遠いトップ面の2つの表面を有する。第一の層が第二の層「上に配置される」と記述した場合は、第一の層は基板からより遠くに配置される。第一の層が第二の層と「物理的に接触している」と特定されていない限り、第一の層と第二の層との間に別の層があってよい。例えば、カソードとアノードとの間に様々な有機層があったとしても、カソードはアノードの「上に配置される」と記載され得る。
【0009】
本明細書で用いるように、「溶液処理(加工)可能」とは、溶液または懸濁液形態のいずれかで、液体媒体中に溶解、分散、または輸送でき、および/または液体媒体から堆積され得ることを意味する。
【0010】
本明細書で用いるように、且つ当業者によって一般に理解されているように、第一の「最高被占軌道」(HOMO)または「最低空軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空のエネルギー準位により近い場合は、第二のHOMOまたはLUMOのエネルギー準位よりも「大きい」かまたは「高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位に対する負のエネルギーとして測定されるので、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さな絶対値をもつIP(より小さな負のIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さな絶対値を持つ電子親和力(EA)(より小さな負のEA)に相当する。従来のエネルギー準位ダイヤグラム上では、上端(トップ)を真空準位として、物質のLUMOエネルギー準位は、同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも上である。「より高い」HOMOまたはLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMOまたはLUMOエネルギー準位よりも、そのようなダイヤグラムの上端(トップ)近くに現れる。
【0011】
白色照明源の質は、簡単なパラメータの組で記述可能である。光源の色は、そのCIE色度座標xおよびyによって与えられる。このCIE座標は通常2次元座標上に示される。単色は、左下の青から始まり、右下の赤色へと、時計回りの方向のカラースペクトルを通っている馬蹄形の曲線の周囲上に位置する。特定のエネルギーとスペクトル形状の光源のCIE座標は、その曲線の領域内に位置する。全ての波長の光を合計すると、このダイヤグラムの中心にある、白すなわち中性点が一様に与えられる(CIE、X−Y座標、0.33,0.33)。2つ以上の光源からの光を混合すると、その個別の光源のCIE座標の強度加重平均によって表される色の光が与えられる。したがって、2つ以上の光源からの光を混合することを使用して、白色光を生じさせることができる。2つの成分および3つの成分の白色光源がオブサーバと同一であると思われる一方で(CIE、X−Y座標、0.32,0.33)、それらは照明源とは同等ではない可能性がある。照明のためにこれらの白色光源を用いることを考えた場合、光源のCIE座標に加えてCIE演色指数(CRI)が有用となり得る。CRIは、いかにその光源が、照明される物体の色を表現するかの目安となる。その標準光源に対する特定光源の完全な合致により100のCRIが得られる。少なくとも70のCRI値が特定用途に対して許容され得るが、好ましい白色光源は約80以上の大きなCRIを有し得る。
【0012】
白色有機発光ダイオード(WOLED)は、新しい世代のソリッドステート光源としてその潜在能力を示している。しかしながら、一般的な照明アプリケーション用に実用化するには、高輝度(例えば、約1000cd/m)で高効率を取得することが必要である。従来のWOLEDは、単一の発光層(EML)または複数の発光層(拡張領域での励起子形成を可能にする)のいずれかで赤色、緑色、青色(R、G、およびB)のリン光および/または蛍光ドーパントを導入している。後者の構造の場合、これらのアーキテクチャの構成要素の相対的なエネルギーに設定される複数の制約条件により、ホストドーパントとリン光ドーパントの適切な組合せは困難となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国仮特許出願第61/109,074号明細書
【特許文献2】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献3】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献4】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献5】米国特許第5,703,436号明細書
【特許文献6】米国特許第4,769,292号明細書
【特許文献7】米国特許第6,310,360号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2002/0034656号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2002/0182441号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0072964号明細書
【特許文献11】国際公開02/074015号パンフレット
【特許文献12】米国特許第6,602,540B2号明細書
【特許文献13】米国特許第6,548,956B2号明細書
【特許文献14】米国特許第6,576,134B2号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2003/02309890号明細書
【特許文献16】米国特許第5,247,190号明細書
【特許文献17】米国特許第6,091,195号明細書
【特許文献18】米国特許第5,834,893号明細書
【特許文献19】米国特許第6,013,982号明細書
【特許文献20】米国特許第6,087,196号明細書
【特許文献21】米国特許出願第10/233,470号明細書
【特許文献22】米国特許第6,294,398号明細書
【特許文献23】米国特許第6,468,819号明細書
【特許文献24】米国特許公開出願第2004/0209116号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Nature,vol.395,151〜154頁,1998
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,vol.75,No.1,4〜6頁(1999)
【非特許文献3】J.Appl.Phys.,90,5048頁(2001)
【非特許文献4】「Inorganic Chemistry」(第2版),Prentice Hall(1998)
【非特許文献5】Adv.Mater.2003,15,1043
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の個々の副要素が垂直に積層され、透明の電荷発生層(CGL)によって電気的に接続された積層型OLEDを提供する。この赤色、緑色、青色の副要素からの発光の組合せにより、積層デバイスから白色の発光を実現する。
【0016】
本発明の一実施形態では、積層有機発光デバイスは、カソードと、リン光赤色発光物質を含む発光層を有する赤色発光副要素と、電荷発生層とリン光緑色発光物質を含む発光層を有する緑色発光副要素と、電荷発生層と、リン光青色発光物質を含む発光層を有する青色発光副要素と、アノードとを順番に有し、発光物質の結合された発光がデバイスから白色発光をもたらす。
【0017】
本発明の別の実施形態では、積層有機発光デバイスは、カソードと、リン光赤色発光物質を含む発光層を有する赤色発光副要素と、電荷発生層と、リン光青色発光物質を含む発光層を有する青色発光副要素と、電荷発生層と、リン光緑色発光物質を含む発光層を有する緑色発光副要素と、アノードと、を順番に有し、発光物質の結合された発光がデバイスから白色発光をもたらす。
【0018】
本発明の別の実施形態では、カソードと、リン光赤色発光物質を含む発光層を有する赤色発光副要素と、電荷発生層と、リン光緑色発光物質を含む発光層を有する緑色発光副要素と、電荷発生層と、リン光青色発光物質を含む発光層を有する青色発光副要素と、アノードと、を順番に有し、発光物質の結合された発光がデバイスから白色発光をもたらし、赤色、緑色、および青色の副要素のそれぞれは実質的に電荷均衡されている。積層内の各副要素内で電荷均衡と高効率を達成するために、要素ごとに様々な電荷均衡メカニズムを使用することができる。これには、(1)ETLの厚さを調整すること、(2)EMLの周りに電荷阻止層を挿入すること、(3)HTLの厚さを調整することが含まれる。したがって、本発明の好適な実施形態では、電荷均衡ファクタγは、積層デバイスの副セルのそれぞれについてほぼ不変である。好ましくは、サブセルごとの電荷均衡ファクタは、約0.9〜1であり、より好ましくは約0.95〜1である。
【0019】
好適な実施形態では、各副要素は、正孔輸送層、電子輸送層、および発光層を有し、発光層は正孔輸送層、電子輸送層、または独立層である。
【0020】
本発明の好適な実施形態では、積層OLEDの発光層のそれぞれは、最大発光の少なくとも90%を提供するように、アンチノードに十分近い位置にある。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、電荷発生層は、MoO、V、ITO、TiO、WO、およびSnOから選択した材料から成る。
【0022】
本発明の目的は、高効率の積層WOLEDを提供することである。したがって、好適な実施形態では、デバイスは少なくとも約30%の総最大外部量子効率を有する。
【0023】
本発明の別の目的は、高輝度で高効率の積層WOLEDを提供することである。したがって、好適な実施形態では、デバイスは、約1000cd/mの輝度で少なくとも約28%の総外部量子効率を有する。
【0024】
本発明のさらなる目的は、室内照明アプリケーションに適切な白色発光を有する積層WOLEDを提供することである。したがって、好適な実施形態では、デバイスは、CIE座標(X=0.37±0.08、Y=0.37±0.08)を有する光を発光する。
【0025】
本発明のさらなる目的は、高CRIを有する積層WOLEDを提供することである。したがって、好適な実施形態では、デバイスは少なくとも70のCRI、より好ましくは少なくとも75のCRIを有する光を発光する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】電荷発生層ならびに他の層によって分離される個々の副要素を有する積層有機発光デバイスを示す。
【図2】発光層ならびに他の層を有する副要素を示す。
【図3】本発明の白色OLEDの概略的なデバイス構造は、電荷発生層によって分離される赤色、緑色、および青色副要素を有する。
【図4】赤色、緑色、青色OLED副要素からなる実施例1におけるR−G−B WOLEDの概略的なエネルギーレベル図である。
【図5】副要素ごとの発光スペクトルを、積層OLED構造内の該位置の関数として示す。
【図6】電流密度(J=1、10、100mA/cm)での実施例1におけるデバイスについて測定およびシミュレーションされた電気発光スペクトルを示す。シミュレーションされたスペクトルは、Rセル、Gセル、Bセルから生成されるフォト比を合わすことにより、キャビティ拡張および抽出効率に基づいて表わされる。
【図7】実施例1の積層OLEDと、独立した個々の副要素を含む制御デバイスとにおける電流密度対電圧特性のグラフを示す。
【図8】実施例1のR−G−B SOLEDの場合と、赤色、緑色、青色の個々の制御デバイスについて電流密度の関数として総外部量子効率を電流密度の関数として示す(参考用)。
【図9】実施例1のR−G−B SOLEDの場合と、赤色、緑色、青色の個々の制御デバイス場合とについて電流密度の関数として総外部パワー効率を電流密度の関数として示す(参考用)。矢印は、輝度1000cd/mでの値を示す。
【図10】副要素の順序B−G−R(実線)とR−G−B(点線)を有する光学的に最適化された積層デバイスの発光スペクトルを示す。
【図11】抽出されたパワーを示し、微小共振器効果および抽出効率を、積層OLEDにおける位置と波形の関数として検討する。
【図12】(a)3副要素トリス(フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))SOLEDのエネルギーレベルの図と、(b)提案された熱的に支援されるトンネリングモデルにおけるCGLのエネルギーレベルを示す。ここで、φはMoO価電子バンド最大に関するトラップレベルであり、φはトンネリングバリアである。正孔(○)と電子(●)は電界のもとで解離される。これにより、Jh,CGLおよびJe,CGLの電流密度がそれぞれ生じる。
【図13】(a)電子オンリーデバイスおよび(b)正孔オンリーデバイスの提案されるエネルギーレベル図を示す。
【図14】(a)厚さ50Å(□)、100Å(○)、200Å(△)のMoOを有する電子オンリーデバイスの室温J−V特性と、(b)159K(□)および296K(○)のもとで、MoO(Al500Å/Li:BCP100Å/NPD400Å/MoO50Å/Al500Å)を持たない正孔オンリーデバイスのJ−V特性を示す。
【図15】(a)C−V特性と、(b)200Hzの周波数で厚さ50Å(□)、100Å(○)、200Å(△)のMoOを有する電子オンリーデバイスの算出された空乏幅と、(c)Liドーピングなし(□)で、モル比1:10のLi:BCP(○)とモル比1:1のLi:BCP(△)を有する、厚さ100ÅのMoOを持つ電子オンリーデバイスの算出された空乏幅とを示す。
【図16】159K〜296Kの範囲を変化する温度のもとで、厚さが(a)50Å、(b)100Å、(c)200ÅのMoOを有する電子オンリーデバイスについての電流密度(J)対逆電界(E)を示す。実線は式(1)と式(2)に従った適合度であり、表Iにリストしたトンネリングおよびトラップエネルギーバリアの両方をもたらす。
【図17】印加電界E=2.0×10V/cmでの電子オンリーデバイスについての電流密度(J)対1000/T(Tは温度)を示す。200Åの厚さのMoOを有するデバイスの場合は例外(この場合はE=2.6×10V/cmが使用される)。実線の適合は、表Iにリストしたトラップエネルギーレベルφを示す。
【図18】180K〜296Kの範囲を変化する温度のもとで、厚さが(a)50Å、(b)100Å、(c)200ÅのMoOを有する正孔オンリーデバイスについての電流密度(J)対逆電界(E)を示す。実線は式(1)と式(2)に従った適合度であり、表Iにリストしたトンネリングおよびトラップエネルギーバリアの両方をもたらす。
【図19】印加電界E=1.6×10V/cmでの正孔オンリーデバイスについての電流密度(J)対1000/T(Tは温度)を示す。実線の適合は、表Iにリストしたトラップエネルギーレベルφを示す。
【図20】(a)3つの副要素を持つSOLEDの電荷均衡を確立する電流の概略図(電流密度の方向は矢印によって示され、寄生漏洩電流は点線で示される)と、(b)外部量子効率と(c)セルL(□)、セルM(▽)、セルR(○)、および制御デバイス(△)のパワー効率とを示す。
【図21】(a)外部量子効率と、(b)様々なBCP厚さを有するセルRのパワー効率とを示す。
【図22】(a)外部量子効率と、(b)セルR内に様々なBCP厚さを有するG−G−G SOLEDのパワー効率とを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、個別の赤色(R)、緑色(G)、および青色(B)の副要素が垂直に積層され、電荷発生層(CGL)によって電気的に接続される積層型OLEDを提供する。
【0028】
一般に、OLEDは、アノードとカソードとの間に配置され、且つこれらに電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が流されると、有機層に、アノードは正孔を注入し、カソードは電子を注入する。注入された正孔と電子はそれぞれ、反対に帯電した電極に向かって移動する。電子と正孔が同じ分子に局在するとき、「励起子」(これは、励起エネルギー状態を有する局在化した電子−正孔対である)が形成される。励起子が光放出機構によって緩和するときに光が放射される。いくつかの場合には、励起子はエキシマーまたはエキシプレックスに局在化され得る。無放射機構、例えば熱緩和も起こり得るが、一般には望ましくないと考えられている。
【0029】
初期のOLEDでは、例えば米国特許第4,769,292号明細書(その全体を参照により援用する)に開示されているように、一重項状態から発光(「蛍光」)する発光分子を用いた。蛍光発光は一般に、10ナノ秒未満の時間フレームで起こる。
【0030】
より最近、三重項状態から発光(「リン光」)する発光物質を有するOLEDが実証された。Baldoら,「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」,Nature,vol.395,151〜154頁, 1998(「Baldo−I」)、およびBaldoら,「Very high−efficiency green organic light−emitting devices based on electrophosphorescence」,Appl.Phys.Lett.,vol.75,No.1,4〜6頁(1999)(「Baldo−II」)(これらはその全体を参照により援用する)。リン光は「禁制」遷移と呼ばれることがあり、何故ならこの遷移がスピン状態の変化を必要とし、量子力学はこのような遷移は好ましくないことを示しているからである。結果として、リン光は一般に、少なくとも10ナノ秒を超える時間フレームで起こり、典型的には100ナノ秒を超える。リン光の自然な放射寿命が長すぎると、三重項が無放射機構により減衰して全く光が放出されないということがあり得る。有機リン光は、しばしば、非共有電子対を有するヘテロ原子を含む分子においてもまた、非常に低温で観察される。2,2’−ビピリジンはこのような分子である。無放射的減衰機構は、通常、温度に左右されるので、液体窒素の温度でリン光を示す有機物質は、通常、室温ではリン光を示さない。しかし、Baldoにより実証されたように、室温で実際にリン光を発するリン光化合物を選択することによって、この問題を解決できる。代表的な発光層には、米国特許第6,303,238号明細書、米国特許第6,310,360号明細書;米国特許出願公開第2002/0034656号明細書;同第2002/0182441号明細書;同第2003/0072964号明細書;および国際公開02/074015号パンフレットに開示されているようなドープされているかまたはドープされていないリン光有機金属物質が含まれる。
【0031】
一般に、OLED内の励起子は、約3:1の比で、すなわち、約75%の三重項と25%の一重項として生成されると考えられている。Adachiら、「Nearly 100% Internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」,J.Appl.Phys.,90,5048頁(2001)(これはその全体を参照により援用する)を参照されたい。多くの場合、一重項励起子は「項間交差」を通じて三重項励起状態に容易にエネルギーを移動できるが、三重項励起子はそれらのエネルギーを一重項励起状態に容易には移動できない。結果として、リン光OLEDで100%の内部量子効率が理論的には可能である。蛍光デバイスにおいては、三重項励起子のエネルギーは、通常、デバイスを昇温させる無放射減衰過程に費やされるので、結果的に内部量子効率はずっと小さくなる。三重項励起状態から発光するリン光物質を用いるOLEDが、例えば、米国特許第6,303,238号明細書(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。
【0032】
リン光発光に先立って、三重項励起状態から中間の非三重項状態への遷移が起こり、そこから発光減衰が起こり得る。例えば、ランタニド元素に配位した有機分子は、しばしば、ランタニド金属に局在化した励起状態からリン光を発する。しかし、このような物質は三重項励起状態から直接リン光を発するのでなく、代わりに、ランタニド金属イオンに集中した原子励起状態から発光する。ユーロピウムジケトネート錯体はこれらのタイプの化学種の1つの群を例示する。
【0033】
三重項からのリン光は、有機分子を大きな原子番号の原子のごく近くに、好ましくは結合を通じて留めることによって、蛍光を超えて強めることができる。この現象は、重原子効果と呼ばれ、スピン−軌道カップリングとして知られている機構によって生じる。このようなリン光遷移は、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)等の有機金属分子の励起金属配位子電荷移動(excited metal−to−ligand charge transfer)(MLCT)状態から観察され得る。
【0034】
本明細書で用いるとおり、「三重項エネルギー」という用語は、所定の物質のリン光スペクトル中に認められる最も高いエネルギー的特徴部分に対応するエネルギーを言う。最も高いエネルギー的特徴部分は、必ずしも、リン光スペクトル中の最大強度を有するピークではなく、例えば、そのようなピークの高エネルギー側の明瞭な肩の極大値であり得る。
【0035】
本明細書で使用されるような用語「有機金属」は、当業者によって一般に理解されるとおりであり、例えば、Gary L MiesslerおよびDonald A.Tarrによる「Inorganic Chemistry」(第2版),Prentice Hall(1998)に示されているようなものである。それ故に、用語「有機金属」は、炭素−金属結合を通じて金属に結合された有機基を有する化合物を言う。このクラスは、それ自体は、ヘテロ原子からの供与結合のみを有する物質である配位化合物、例えば、アミン、ハロゲン化物、擬ハロゲン化物(CN、その他)の金属錯体等を含まない。実際には、有機金属化合物は一般に、有機種への1つまたは複数の炭素−金属結合に加えて、ヘテロ原子からの1つまたは複数の供与結合を含む。有機種への炭素−金属結合は、金属原子と、フェニル、アルキル、アルケニル等の有機基の炭素原子との間の直接結合を言うが、CNまたはCOの炭素等の「無機炭素」への金属の結合は言わない。
【0036】
図1は、積層型有機発光デバイス100を示す。その図は必ずしも縮尺どおりには描かれていない。デバイス100は、基板110、アノード120、正孔注入層130、OLED副要素140、電荷生成層150、電子注入層160、保護層170、およびカソード180を含んでもよい。カソード180は、第1の導電層182および第2の導電層184とを有する複合カソードであってよい。デバイス100は、述べた層を順々に堆積させることによって作製し得る。
【0037】
図2は、副要素140を示す。各OLED副要素140は、正孔注入層220、正孔輸送層225、電子阻止層230、発光層235、正孔阻止層240、電子輸送層245、電子注入層250、保護層255を含んでもよい。各個別の副要素は他の副要素とは異なる層構造を有してもよく、および/または様々な物質で構成することが可能である。
【0038】
基板110は、所望の構造特性を備えた任意の適切な基板であってよい。基板110は柔軟であっても堅くてもよい。基板110は、透明、半透明、または不透明であり得る。プラスチックおよびガラスは好ましい堅い基板物質の例である。プラスチックおよび金属箔は好ましい柔軟基板物質の例である。基板110は、回路の作製を容易にするために半導体物質であってもよい。例えば、基板110は、続いて基板上に堆積されるOLEDを制御できる回路がその上に作製されているシリコンウェハであってもよい。他の基板を使用してもよい。基板110の物質および厚さは、所望の構造特性および光学特性が得られるように選択され得る。
【0039】
アノード120は、有機層に正孔を輸送するために十分な導電性である任意の適切なアノードであってよい。アノード120の材料は、好ましくは、約4eVより大きい仕事関数を有する(「高仕事関数材料」)。好ましいアノード材料には、導電性金属酸化物、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)、並びに金属が含まれる。アノード120(および基板110)は、ボトム発光デバイスを作るために十分に透明であり得る。好ましい透明基板とアノードの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に堆積された市販のITO(アノード)である。柔軟且つ透明な基板−アノードの組合せは、米国特許第5,844,363号明細書および米国特許第6,602,540B2号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に開示されている。アノード120は不透明および/または反射性であり得る。反射性アノード120は、デバイスのトップからの発光量を増加させるために、いくつかのトップ発光デバイスでは好ましいものであり得る。アノード120の材料および厚さは、所望の導電特性および光学特性が得られるように選択され得る。アノード120が透明である場合、特定の材料に対して、所望の導電性をもたせるのに十分なだけ厚いが、それでも所望の透明度をもたせるのに十分なだけ薄い厚さの範囲があり得る。他のアノード材料および構造を用いてもよい。
【0040】
一般に、注入層は、一つの層、例えば電極または電荷発生層から、隣接する有機層への電荷担体の注入を向上させ得る物質から構成される。注入層は電荷輸送機能も果たし得る。デバイス100において、正孔注入層130は、アノード120から隣接する有機層への正孔の注入を向上させる如何なる層であってもよい。CuPcは、ITOアノード120および他のアノードからの正孔注入層として使用され得る物質の例である。デバイス100において、電子注入層160は、隣接する有機層への電子の注入を向上させる如何なる層であってもよい。LiF/Alは、隣接する層から電子輸送層への電子注入層として用い得る物質の例である。他の物質または物質の組合せを注入層に用いてもよい。特定のデバイス構成に応じて、注入層はデバイス100において示されているものとは異なる位置に配置されてもよい。注入層のより多くの例は、Luらの米国特許出願第09/931,948号明細書(これはその全体を参照により援用する)に記載されている。正孔注入層は、スピンコートされたポリマー(例えばPEDOT:PSS)などの、溶液によって堆積された物質を含んでいるか、あるいは、それは蒸着された低分子物質(例えば、CuPcまたはMTDATA)でもあり得る。
【0041】
正孔注入層(HIL)は、アノードまたは電荷生成層から正孔注入物質への効率的な正孔の注入をもたらすように、アノード表面を平坦化し、または濡らし得る。正孔注入層はまた、HILの一方の側に隣接するアノード層とHILの反対側の正孔輸送層とに都合よく適合するHOMO(最高被占軌道)エネルギー準位(本明細書に記載されている相対的イオン化ポテンシャル(IP)エネルギーにより定義される)を有する電荷担体成分を有することもできる。「電荷担体成分」は、実際に正孔を輸送するHOMOエネルギー準位を担う物質である。この成分はHILのベース物質であるか、あるいは、それはドーパントであってもよい。ドープされたHILを用いることにより、ドーパントをその電気的特性で選択でき、ホストをモルホロジー的特性(例えば、濡れ性、柔軟性、靱性など)によって選択できる。HIL物質の好ましい特性は、正孔がアノードからHIL物質に効率的に注入されることができるということである。特に、HILの電荷担体成分は、好ましくは、アノード材料のIPより約0.7eVを超えて大きくはないIPを有する。より好ましくは、電荷担体成分は、アノード材料より約0.5eVを超えて大きくはないIPを有する。同様の考慮は、正孔が注入される如何なる層にも適用される。HIL物質は、HIL物質が従来の正孔輸送物質の正孔伝導度よりも実質的に小さい正孔伝導度を有し得るという点で、OLEDの正孔輸送層に通常使用される従来の正孔輸送物質からさらに区別される。本発明のHILの厚さは、アノード層または電荷生成層の表面を平坦化しまたは濡らすことを助けるために十分に厚くてよい。例えば、10nmほどの薄いHILの厚さでも、非常に滑らかなアノード表面に対しては許容可能であり得る。しかし、アノード表面は非常に粗い傾向があるので、いくつかの場合には50nm以下のHILの厚さが望ましい。
【0042】
積層OLED 100は、3つの個々の副要素140を備えている。各副要素は、好ましくは異なる原色を発光する。したがって、積層デバイスは好ましくは赤色発光副要素と、緑色発光副要素と、青色発光副要素を含む。個々の副要素の発光を結合することにより、デバイスから白色発光をもたらすのが理想的である。
【0043】
副要素は、発光層である少なくとも1つの有機層を含む。即ち、積層デバイスに電圧が印加された場合に当層は光を放射することができる。発光層はリン光発光物質(ホスト物質内のドーパントとして好ましい)を含む。より好適なデバイス構造では、各副要素は少なくとも2つの層を有し、このうち1つは電子輸送層であり、もう1つは正孔輸送層である。この実施形態では、電子輸送層または正孔輸送層のいずれかが発光層となり得る。特定の好適な実施形態では、電子輸送層が発光層である。他の好適なデバイス構造では、副要素は少なくとも3つの層を備える(電子輸送層、発光層、および正孔輸送層)。このような独立した発光層を有する実施形態では、発光層は主に伝導電子または正孔となり得る。副要素には追加の層を追加してもよい。図2は、副要素140を示す。各OLED副要素140は、正孔注入層220、正孔輸送層225、電子阻止層230、発光層235、正孔阻止層240、電子輸送層245、電子注入層250、保護層255を含んでもよい。積層OLED 100内の各OLED副要素140は、同じ層構造を持つことも、他の副層とは異なる層構造を持つこともできる。
【0044】
電荷発生層150は、隣接した層に電荷担体を注入するが、直接の外部接続を持たない層である。電荷発生層150は、積層OLEDの副要素140を分離する。電荷発生層150のそれぞれは、同じ物質から構成することも、異なる組成物を有することも可能である。電荷発生層を有する積層OLEDに電圧が印加されると、電荷発生層は、電荷発生層のカソード側の有機リン光副要素に正孔を注入し、アノード側の有機リン光副要素に電子を注入することができる。当業者によって理解されるように、層またはデバイスの「アノード側」は、層またはデバイスに正孔が入ると予想される、層またはデバイスの側部を示す。同様に、「カソード側」は、層またはデバイスに電子が入ると予想される、層またはデバイスの側部を示す。
【0045】
各電荷発生層は、ドープされたn型(ドープされたLi、Cs、Mg、などで)層とp型(金属酸化物、F4−TCNQなど)層を接触させることにより形成することができる。好適な実施形態では、ドープされたn型層は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属でドープされた有機層から選択することができるが(LiでドープされたBCPまたはMgでドープされたAIq)、LiでドープされたBCPが好ましい。他の好適な実施形態では、電荷発生層は、安定した金属酸化物から選択される無機物質を含む(MoO、V、ITO、TiO、WO、およびSnOなど)。本発明の特定の好適な実施形態では、電荷発生層はMoOまたはVの層を採用するが、MoOが最も好ましい。
【0046】
保護層を使用することにより、後続の製造時に基礎層を保護することができる。例えば、金属または金属酸化物のトップ電極を製造するのに使用するプロセスでは有機層が損傷する場合があり、保護層を使用することによりそのような損傷を抑制または回避することができる。デバイス100では、保護層170は、カソード180の製造時に基礎有機層に対する損傷を抑制することができる。保護層は、輸送する担体のタイプについて(デバイス100の場合は電子)高い担体移動度を有することが好ましい。結果、デバイス100の動作電圧が大幅に上昇することはない。保護層で使用され得る物質の例として、CuPc、BCP、および種々の金属フタロシアニンが挙げられる。他の物質または物質の組合せを使用することができる。保護層170の厚さは、有機保護層160が堆積された後で発生する製造プロセスに起因する基礎層に対する損傷がわずかで済むような、または損傷が発生しないような厚さであることが好ましく、また、デバイス100の動作電圧が大幅に上昇するような厚さでないことが好ましい。保護層170をドープすることにより、その導電性を高めることができる。例えば、CuPcまたはBCP保護層は、Liでドープすることができる。保護層の詳細については、Luらの米国特許出願第09/931,948号明細書(これはその全体を参照により援用する)に記載されている。
【0047】
カソード180は、カソード180が電子を伝導し、且つデバイス100の有機層に電子を注入できるような、当技術分野で公知の如何なる適切な物質または物質の組合せであってもよい。カソード180は透明または不透明であってよく、また反射性であってよい。金属および金属酸化物は適切なカソード材料の例である。カソード180は単層であっても、複合構造を有していてもよい。図1は、薄い金属層182と、より厚い導電性金属酸化物層184とを有する複合カソード180を示している。複合カソードにおいて、より厚い層164のための好ましい材料には、ITO、IZO、および当技術分野において公知のその他の物質が含まれる。米国特許第5,703,436号明細書、米国特許第5,707,745号明細書、米国特許第6,548,956B2号明細書、および米国特許第6,576,134B2号明細書(これらは全体を参照により援用する)は、スパッタリングによって堆積させた透明で導電性のITO層が上に重なったMg:Agなどの薄い金属層を有する複合カソードを含めたカソードの例を開示している。その下にある有機層と接触しているカソード180の部分は、それが単層カソード180、複合カソードの薄い金属層182、または何らかのその他の部分であるかどうかにかかわらず、約4eVより小さい仕事関数を有する材料(「低仕事関数材料」)から作られていることが好ましい。その他のカソード材料および構造を用いてもよい。
【0048】
正孔輸送層225には、正孔を輸送できる物質が含まれる。正孔輸送層225は真性(ドープされていない)であってもドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用され得る。α−NPDおよびTPDは真性正孔輸送層の例である。p型ドープ正孔輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003−02309890号明細書(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、50:1のモル比でF−TCNQでドープされたm−MTDATAである。好適な正孔輸送化合物は、α−NPD、TPD、MTDATA、HMTPDなどの芳香族第三アミンを含むがこれに限定されるものではない。他の正孔輸送層を用いてもよい。
【0049】
発光層235は、アノード120とカソード180との間に電流を流したときに発光し得る有機物質を含む。好ましくは、発光層235は、リン光発光物質を含む。リン発光物質が好ましいのは、当該物質に関連する発光効率がより高いためである。発光層235は更に、電子、正孔、および/または励起子を捕捉し、それにより励起子が発光機構によってその発光物質から緩和することができる発光物質でドープされた、電子および/または正孔を輸送可能なホスト物質も含んでいてもよい。発光層235は、輸送特性および発光特性を併せ持つ単一物質を含んでいてもよい。発光物質がドーパントであるか主成分であるかにかかわらず、発光層235は、発光物質の発光を調整するドーパント等の他の物質を含み得る。発光層235は、組み合わされて所望の光スペクトルを発光できる複数の発光物質を含んでいてもよい。リン光発光物質の例には、Ir(ppy)が含まれる。ホスト物質の例には、Alq、CBPおよびmCPが含まれる。発光物質およびホスト物質の例は、Thompsonらの米国特許第6,303,238号明細書(これはその全体を参照により援用する)に開示されている。発光物質は多くのやり方で発光層235に含めることができる。例えば、発光性の低分子がポリマーに組み込まれてもよい。これは、いくつかのやり方によって、例えば、低分子を、別個の独立した分子種としてポリマーにドープすることによって、あるいは、低分子をポリマー骨格に組み込み、コポリマーを形成することによって、あるいは、低分子をペンダント基としてポリマーに結合させることによって、実施できる。他の発光層物質および構造を用いてもよい。例えば、低分子の発光物質は、デンドリマーのコアとして存在してもよい。
【0050】
多くの有用な発光物質は、金属中心に結合した1つまたは複数の配位子を含む。配位子は、それが有機金属発光物質の光活性特性に直接寄与する場合、「光活性」とよぶことができる。「光活性」配位子は、金属と共同で、光子が放出されるときに、電子がそこから移動するエネルギー準位およびそこへ移動するエネルギー準位を提供し得る。他の配位子は「補助」ということができる。補助配位子は、例えば光活性配位子のエネルギー準位をシフトさせることによって分子の光活性特性を改変し得るが、補助配位子は発光に直接関与するエネルギー準位を直接提供はしない。1つの分子において光活性である配位子は別の分子においては補助であり得る。光活性および補助のこれらの定義は本発明を限定しない理論を意図している。
【0051】
電子輸送層245は電子を輸送できる物質を含み得る。電子輸送層245は、真性(ドープされていない)であっても、またはドープされていてもよい。ドーピングは導電性を高めるために使用され得る。Alqは真性電子輸送層の例である。n型ドープ電子輸送層の例は、Forrestらの米国特許出願公開第2003−02309890号明細書(これはその全体を参照により援用する)に開示されている、1:1のモル比でLiによりドープされたBPhenである。他の電子輸送層を用いてもよい。
【0052】
電子輸送層の電荷担体(キャリア)成分は、電子輸送層のLUMO(最低空軌道)エネルギー準位へ、電子がカソードから効率的に注入され得るように選択できる。「電荷担体成分」は、実際に電子を輸送するLUMOエネルギー準位を担う物質である。この成分はベース物質であっても、あるいはそれはドーパントであってもよい。有機物質のLUMOエネルギー準位は一般にその物質の電子親和力により特徴付けることができ、カソードの相対的電子注入効率は一般にカソード材料の仕事関数によって特徴付けることができる。これは、電子輸送層およびそれに隣接するカソードの好ましい特性は、ETL(電子輸送層)の電荷担体成分の電子親和力とカソード材料の仕事関数とによって特定できることを意味する。特に、高い電子注入効率を達成するためには、カソード材料の仕事関数は、電子輸送層の電荷担体成分の電子親和力より、好ましくは約0.75eVを超えては大きくなく、より好ましくは約0.5eVを超えては大きくない。同様の考慮は、電子が注入される如何なる層にも適用される。
【0053】
阻止層(blocking layer)は、発光層から出て行く電荷担体(電子もしくは正孔)および/または励起子の数を減らすために使用できる。電子阻止層230は、電子が発光層235を離れて正孔輸送層225のほうへ向かうことを妨害するために、発光層235と正孔輸送層225との間に配置できる。同様に、正孔阻止層240は、正孔が発光層235を離れて電子輸送層245のほうへ向かうことを妨害するために、発光層235と電子輸送層245との間に配置できる。阻止層はまた、励起子が発光層から拡散して出て行くのを妨害するためにも使用できる。阻止層の理論と使用は、Forrestらの米国特許第6,097,147号明細書および米国特許出願公開第2003−02309890号明細書(これらは全体を参照により援用する)に、より詳細に記載されている。
【0054】
本明細書で用いており、かつ、当業者により理解されているように、「阻止層」という用語は、この層が、デバイスを通っての電荷担体および/または励起子の輸送を著しく抑制するバリアを提供することを意味するが、この層が電荷担体および/または励起子を必ずしも完全に妨害することは示唆してはいない。デバイス中にこのような阻止層が存在することにより、阻止層を欠いた類似のデバイスと比べて、実質的により高い効率をもたらし得る。また、阻止層は、OLEDの所望の領域に発光を限定するためにも使用できる。
【0055】
代替え実施形態では、図1のOLEDは「反転」OLEDの形式となり得る。この場合、基板はアノードではなくカソードに隣接する。このような反転デバイスは、基板上に順番に、説明した層を堆積することにより製造することができる。
【0056】
図1および2に例示されている簡単な層状構造は非限定的な例として与えられており、本発明の実施形態は多様な他の構造と関連して使用できることが理解される。記載されている具体的な物質および構造は事実上例示であり、その他の物質および構造も使用できる。設計、性能、およびコスト要因に基づいて、実用的なOLEDは様々なやり方で上記の記載された様々な層を組み合わせることによって実現でき、あるいは、いくつかの層は完全に省かれ得る。したがって、特定の層では、2つ以上の層の機能を1つの層に結合することができる。具体的に記載されていない他の層を含むこともできる。具体的に記載したもの以外の物質を用いてもよい。本明細書に記載されている例の多くは単一の物質を含むものとして様々な層を記載しているが、物質の組合せ(例えばホストおよびドーパントの混合物、またはより一般的には混合物)を用いてもよいことが理解される。また、層は様々な副層(sublayer)を有してよい。本明細書において様々な層に与えられている名称は、厳格に限定することを意図するものではない。例えば、正孔輸送層は正孔を輸送し且つ発光層に正孔を注入するので、正孔輸送層として、あるいは正孔注入層として記載され得る。一実施形態において、OLEDは、カソードとアノードとの間に配置された「有機層」を有するものとして説明できる。この有機層は単一の層を含むか、または、例えば図1および2に関連して記載された様々な有機物質の複数の層をさらに含むことができる。
【0057】
具体的に記載されていない構造および物質、例えばFriendらの米国特許第5,247,190号明細書(これはその全体を参照により援用する)に開示されているようなポリマー物質で構成されるOLED(PLED)、も使用することができる。さらなる例として、単一の有機層を有するOLEDを使用できる。OLEDは、例えば、Forrestらの米国特許第5,707,745号明細書(これはその全体を参照により援用する)に記載されているように積重ねてもよい。OLEDの構造は、図1および2に示されている簡単な層状構造から逸脱していてもよい。例えば、基板は、光取出し(out−coupling)を向上させるために、Forrestらの米国特許第6,091,195号明細書(これはその全体を参照により援用する)に記載されているメサ構造、および/またはBulovicらの米国特許第5,834,893号明細書(これはその全体を参照により援用する)に記載されているピット構造などの、角度の付いた反射表面を含み得る。
【0058】
特に断らないかぎり、様々な実施形態の層のいずれも、何らかの適切な方法によって堆積され得る。有機層については、好ましい方法には、熱蒸着(thermal evaporation)、インクジェット(例えば、米国特許第6,013,982号明細書および米国特許第6,087,196号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、有機気相成長(organic vapor phase deposition)(OVPD)(例えば、Forrestらの米国特許第6,337,102号明細書(その全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびに有機気相ジェットプリンティング(organic vapor jet printing)(OVJP)による堆積(例えば、米国特許出願第10/233,470号明細書(これはその全体を参照により援用する)に記載されている)が含まれる。他の適切な堆積方法には、スピンコーティングおよびその他の溶液に基づく方法が含まれる。溶液に基づく方法は、好ましくは、窒素または不活性雰囲気中で実施される。その他の層については、好ましい方法には熱蒸着が含まれる。好ましいパターニング方法には、マスクを通しての堆積、圧接(cold welding)(例えば、米国特許第6,294,398号明細書および米国特許第6,468,819号明細書(これらはその全体を参照により援用する)に記載されている)、ならびにインクジェットおよびOVJPなどの堆積方法のいくつかに関連するパターニングが含まれる。その他の方法も用いることができる。堆積される物質は、それらを特定の堆積方法に適合させるために改変されてもよい。例えば、分岐したまたは分岐のない(好ましくは少なくとも3つの炭素を含む)アルキルおよびアリール基などの置換基が、溶液加工性を高めるために、低分子に用いることができる。20以上の炭素原子を有する置換基を用いてもよく、3〜20の炭素が好ましい範囲である。非対称構造を有する物質は対称構造を有するものよりも良好な溶液加工性を有し得るが、これは、非対称物質は、より小さな再結晶化傾向を有し得るからである。デンドリマー置換基は、低分子が溶液加工を受ける能力を高めるために用いることができる。
【0059】
本明細書に開示した分子は、本発明の範囲から外れることなく多くの様々なやり方で置換できる。例えば、3つの二座配位子を有する化合物に置換基を追加して、その置換基を付加した後で1つ以上の二座配位子を一緒に連結して、例えば、四座または六座配位子を形成することができる。その他のそのような連結を形成することができる。この種の連結は、当分野で「キレート効果」として一般的に理解されているものによって、連結のない類似の化合物と比較して安定性を高めることができると考えられる。
【0060】
本発明の実施形態により製造されたデバイスは多様な消費者製品に組み込むことができ、これらの製品には、フラットパネルディスプレイ、コンピュータのモニタ、テレビ、広告板、室内もしくは屋外の照明灯および/または信号灯、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明な(fully transparent)ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザープリンタ、電話機、携帯電話、携帯情報端末(personal digital assistant)(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ビューファインダー、マイクロディスプレイ、乗り物、大面積壁面(large area wall)、映画館またはスタジアムのスクリーン、あるいは標識が含まれる。パッシブマトリクスおよびアクティブマトリクスを含め、様々な制御機構を用いて、本発明にしたがって製造されたデバイスを制御できる。デバイスの多くは、18℃から30℃、より好ましくは室温(20〜25℃)などの、人にとって快適な温度範囲において使用することが意図されている。
【0061】
好適な実施形態では、各副要素は正孔輸送層と、電子輸送層と、発光層とを含み、発光層は、正孔輸送層、電子輸送層、または独立層である。
【0062】
赤色発光副要素は、リン光赤色発光物質を含む発光層を有する。リン光赤色発光物質は当技術分野で公知であり、イリジウム(III)ビス(2−フェニルキノリル−N,C’)アセチルアセトナート(PQIr)を含む。
【0063】
緑色発光副要素は、リン光緑色発光物質を含む発光層を有する。リン光緑色発光物質は当技術分野で公知であり、トリス(フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))を含む。
【0064】
青色発光副要素は、リン光青色発光物質を含む発光層を有する。リン光青色発光物質は当技術分野で公知であり、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルプリジナト)テトラキス(l−ピラゾリル)ホウ酸塩(FIr6)を含む。リン光青色発光ドーパントが使用される場合、高エネルギーギャップホストまたは「ワイドギャップ」ホスト物質からホストを選択するのが好ましい。ワイドギャップホストは約3.0eVより大きなエネルギーギャップを有し、好ましくは、エネルギーギャップは約3.2eV以上であり、約3.5eV以上のエネルギーギャップが特に優先され得る。ワイドギャップのホスト物質は、米国特許公開出願第2004/0209116号明細書(その全体を参照により本明細書に援用する)に開示されている物質から選択可能である。発光層内の発光物質に加えて、電荷担体ドーパントが採用され得る。
【0065】
本発明の積層型デバイスにより、効率が高くバランスの良い白色の発光を達成する際には、積層型デバイス内の赤色、青色、および緑色の順番が重要な検討課題となる。各OLED副要素からのバランスのとれた発光強度を得るには、光学干渉を制御し、積層構造内で微小共振器効果を最適化して、所望の白色パフォーマンスを達成することが重要となり得る。積層OLED内の赤色、緑色、および青色の副ユニットの抽出効率は、固有モード展開と高度な境界条件との組合せに基づくCavity Modeling Framework(CAMFR)ソフトウェアによって取得可能である。赤色、緑色、および青色副ユニットの順序と、有機層の厚さを変更すると、シミュレーションでは、大気へ抽出されるパワーが、波長とソース位置(即ち、トップ、ミドル、およびボトムがあり、ボトム副要素はITO/基板に最も近く、トップ副要素はカソードに最も近い)との関数となることを示す。結果として、異なる順序で配置された赤色、緑色、および青色副要素は異なる抽出効率を有し、したがって、積層型デバイスの色温度と演色性(CRI)が異なり、他のパラメータは同じに維持される。
【0066】
本発明のある好適な実施形態では、赤色発光副要素は、積層WOLEDにおけるトップ副要素である。一実施形態では、赤色発光副要素はトップ副要素であり、緑色発光副要素はミドル副要素であり、青色発光副要素はボトム副要素である(図3Aを参照)。別の実施形態では、赤色発光副要素はトップ副要素であり、青色発光副要素はミドル副要素であり、緑色発光副要素はボトム副要素である(図3Bを参照)。
【0067】
最適化された特定のRGB順序の場合、金属電極に対する各発光体の場所を調整することによりさらに最適化することができる。発光体がその光学アンチノードの1つにより近い場合(発光体とカソード間の往復位相変化=(2n+1)π、ここでn=1,2など)、対応する発光は増大され得る。逆もまた同様である。発光体の場所を調整する一方法は、担体移動度が高い層を副要素に追加する、または副要素の1つまたは複数の層の層厚を調整するというものである。発光層は、当該発光体の場合、アンチノードとの距離の約20%以内であることが好ましい。したがって、好適な実施形態では、発光層の少なくとも2つ、より好ましくは発光層のすべては、最大発光の少なくとも90%、より好ましくは最大発光の少なくとも95%を提供するように、アンチノードと十分な近さにある。
【0068】
さらなる検討事項は、電極または電荷発生層から隣接する副要素への電荷担体の注入効率となり得る。良好な電気的注入と良好な演色との間にはトレードオフが存在し得る。したがって、例えば、デバイスからの白色発光のCRIおよびCIEパラメータを最大限に高めるには、発光副要素における順番が重要となり得る。本発明の特定の実施形態では、バランスのとれた白色発光を取得するとき、赤色および青色の副要素に対して弱い発光の緑色要素は受け入れられ、好適でさえもある。この実施形態では、2つの隣り合う電荷発生層からの注入効率は、隣接する電極からの注入よりも効率が低くなり得るので、緑色副要素はミドル副要素であることが好ましい。
【0069】
化合物CGLからの電荷注入は、2つのステッププロセスに基づいてモデル化され得る。これには、(1.2±0.2)eVの注入バリアを超えるトンネル援助熱電子放出と、MoO価電子バンド端上の(0.06±0.01)eVでの酸素空孔によるトラップレベルが含まれる。
【0070】
理論によって制限されることなく、電子注入は、図12bに示すように、金属酸化物(例えば、MoO)の価電子バンドの最大よりも上のエネルギーφに位置するトラップへ熱イオンによりに励起された電子を介して発生すると考えられている。これに続き、隣接するドープされた有機層の薄い空乏領域を介したフィールド援助トンネリングが行われる。印加電圧Vにおいて、図12のCGL界面領域における電子(Je,CGL)と正孔(Jh,CGL)の電流密度は以下の式で表わされる。
e,CGL=Jh,CGL=qvfP(V) (1)
ここで、f = 1/(1+exp[qφ/kT])フェルミディラック関数である。qは素電荷である。kはボルツマン定数である。Tは温度である。φは金属酸化物(MoO)価電子バンド最大よりも上のトラップレベルである。veは自由電子の速度である。Nはトラップ濃度である。P(V)は、高さφの界面バリアを超えるトンネリング確率である。
【数1】

ここで、三角エネルギーバリアの
【数2】

ここで、E(V)は電圧Vでの電界である。msは有機半導体における電子有効質量である。V,mはブランク定数を2πで割り算したものである。
【0071】
電流密度Jでの励起子生成レートは次式で表わされる。
【数3】

ここで、G(x,J)は、EMLにおける位置xと位置x+dxとの間の励起子のボリューム生成レートであり、EML/ETL界面ではx=0となる。EMLの全幅にわたって積分が行われる。電荷バランス係数γは、EMLに注入された電子に対する正孔の比であり、次式で求められる。
【数4】

【0072】
ここで、Jh,A、h,C、Je,A、Je,Cは、EMLのアノード(A)側およびカソード(C)側における正孔(h)および電子(e)電流密度である。高効率の電子燐光性OLEDの場合、電荷バランスファクタはほぼ不変であり、同じ数の電子と正孔が再結合ゾーンに同時に存在することを示す。
【0073】
本発明の好適な様態では、積層OLEDの効率は、各副要素間で効率と電荷注入のバランスを取ることにより改善される。積層デバイスを有する各副セルは、バランスよく帯電するのが好ましい。本発明の特定の実施形態では、3つの副要素を有する積層OLEDのトップ要素は、従来のカソードとCGL(例えば、MoO/Li:BCP)アノードを有する。ミドルOLEDはカソードとアノード両方にCGLを有する。ボトム要素は、CGLカソードとITOアノードから成る。スタック内の各副要素で一様に高い効率を達成するには、要素ごとに異なる電荷バランシングメカニズムを使用できる。例えば、(1)ETLの厚さの調整、(2)EMLの周辺への電荷阻止層の挿入、(3)HTLの厚さの調整。
【0074】
したがって、本発明の好適な実施形態では、電荷バランスファクタγは、積層デバイス内の副セルのそれぞれに対してほぼ不変である。好ましくは、副セルのそれぞれの電荷バランスファクタは約0.9〜1であり、より好ましくは0.95〜1である。
【0075】
本発明の最適な積層WOLEDは高い効率を示す。好適な実施形態では、本発明の積層デバイスの総最大外部量子効率は少なくとも約30%である。より好ましくは、本発明の積層デバイスの総最大外部量子効率は少なくとも約35%である。特定の好適な実施形態では、本発明の積層WOLEDは、高輝度で高い効率を有することになる。本発明の特に好適な積層WOLEDの総外部量子効率は、1000cd/mの輝度において、少なくとも約28%であり、より好ましくは少なくとも約32%である。
【0076】
赤色、緑色、および青色の副要素からの結合された発光は、積層OLEDからの白色発光をもたらす。好適な実施形態では、デバイスは、CIE座標がX=0.37±0.08およびY=0.37±0.08の光を放射することができる。より好ましくは、デバイスは、CIE座標がX=0.33±0.02およびY=0.33±0.02の光を放射することができる。さらに、本発明のデバイスは、CRIが少なくとも約70である白色発光を生成できることが好ましい。より好ましくは、CRIは約75より高く、さらに好ましくはCRIは約80より高い。
【0077】
本明細書で説明する種々の実施形態は、例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲の限定を意図するものではないことを理解されたい。例えば、本明細書中に記載した物質および構造の多くは、本発明の思想から離れることなく、その他の物質および構造で置き換えることができる。どうして本発明が機能するかについての様々な理論は、限定されることを意図していないことが理解される。例えば、電荷移動に関する理論は限定することを意図していない。
【0078】
物質の定義と略語
CBP 4,4’−N,N−ジカルバゾール−ビフェニル
m−MTDATA 4,4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン
Alq 8−トリス−ヒドロキシキノリンアルミニウム
Bphen 4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン
n−Bphen n−ドープされたBPhen(リチウムでドープ)
−TCNQ テトラフルオロ−テトラシアノ−キノジメタン
p−MTDATA p−ドープされたm−MTDATA(F−TCNQでドープ)
Ir(ppy) トリス(2−フェニルピリジン)−イリジウム
Ir(ppz) トリス(1−フェニルピラゾロト,N,C(2’)イリジウム(III)
BCP 2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン
TAZ 3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−5−フェニル−1,2,4−トリアゾール
CuPc 銅フタロシアニン
ITO インジウムスズオキシド
NPD N,N’−ジフェニル−N−N’−ジ(1−ナフチル)−ベンジジンTPD N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−トリル)−ベンジジン
BAlq アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)4−フェニルフェノレート
mCP 1,3−N,N−ジカルバゾール−ベンゼン
DCM 4−(ジシアノエチレン)−6−(4−ジメチルアミノスチリル−2−メチル)−4H−ピラン
DMOA N,N’−ジメチルキナクリドン
PEDOT:PSS ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホネート(PSS)の水性分散物
hfac ヘキサフルオロアセチルアセトナト
1,5−COD 1、5シクロオクタジエン
VTES ビニルトリエチルシラン
BTMSA ビス(トリメチルシリル)アセチレン
Ru(acac)3 トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)
C60 Carbon 60 (「バックミンスターフラーレン」)
FIr6 ビス−(4’,6’−ジフルオロフェニルプリジナト)テトラキス(l−ピラゾリル)ホウ酸塩PQIr イリジウム(III)ビス(2−フェニルキノリル−N,C2’)アセチルアセトナート
UGH2 p−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン
HTL 正孔輸送層
ETL 電子輸送層
EML 発光層
CGL 電荷発生層
【実施例】
【0079】
次に本発明の特定の代表的な実施形態について説明する。これには、係る実施形態をどのように製造できるかの説明も含まれる。特定の方法、物質、条件、プロセスパラメータ、装置などは、必ずしも発明の範囲を制限するものではない。
【0080】
実施例1
20Ω/sqインジウムスズ酸化物でプレコートされたガラス基板を清浄液で脱脂し、溶剤で浄化し、その後、UV/オゾンで10分間処置して、10−7Torrの高真空に移行させた。真空を破壊することなく熱蒸発によってB、G、およびRのOLEDサブ要素を順番に堆積した。10nmBPhen層はLiにて1:1のモル比でドープし、後続の10nmMoOは各副要素の中間に間隔を置いて位置する。リチウム(ここでは、n型のドーパント)は、不純物を追加して電子をLUMO状態に移行させるためのものである。OLED副要素ごとに、HTLとしての4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(NPD)の40nmフィルムを堆積し、その後、25nmのEML、50nm厚のBPhenのETLを続ける。ここでは、デバイス駆動電圧を下げるために、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1、10−フェナントロリン(BCP)ではなくBPhenを使用する。また、電荷漏れがエネルギーバリアによって効果的に保護されない場合に高バイアスで良好な電荷バランスを維持するには、通常より厚い(50nm)BPhen層が堆積されることに留意されたい。
【0081】
青色、緑色、および赤色の発光は、ビス(4’,6’−ジフルオロフェニルプリジナト)テトラキス(l−ピラゾリル)ホウ酸塩(FIr6)、トリス(フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、およびIr(III)−ビス(2−フェニルキノリル−N,C2)−アセチルアセトナート(PQIr)のリン光ドーパントからそれぞれ得られる。ドーパントのそれぞれに対するホスト材料を最適化するために、ドーパント/ホストの組合せが、青色発光用のFIr6:/p−ビス−(トリフェニルシリル)ベンゼン(UGH2)、緑色発光用のIr(ppy):4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、赤色発光用のPQIr:4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)として選択される。ドーピング濃度は、セルごとに8wt%〜10wt%の間で制御される。最後に、LiF(0.8nm)およびAl(120nm)から成るカソードをシャドウマスクで堆積して、直径1.0mmのデバイス領域を定義した。
【0082】
固定された電流密度での輝度は、およそ独立したOLEDセルごとのその合計として増大する。図4は、R、G、およびB OLEDセルから成るR−G−B SOLEDのエネルギーレベルの回路図を示す。数値は、真空(eV)に対する各HOMOおよびLUMOエネルギーを示す。Fir6、Ir(ppy)、およびPQIrのHOMOおよびLUMOエネルギーは、それぞれ、(6.1eV、3.1eV)、(5.1eV、2.6eV)、および(5.0eV、2.7eV)となる。矢印は、電荷およびMoO電荷発生層からの担体注入を示す。
【0083】
各OLED要素からのバランスのとれた発光の場合、所望の白色パフォーマンスを達成するには、積層デバイスでの弱微小共振器効果を制御することが重要となり得る。したがって、構造を最適化するには、伝達マトリックスシミュレーションに基づいて積層構造内のR、G、およびBセルの抽出効率を算出する。シミュレーションで採用された有機体(ITOおよびMoO)の複素屈折率は、それぞれ、1.7、1.9〜0.036i、および1.9〜0.3iである。3つのセルの順番と有機層の厚さを変更すると、シミュレーションでは、大気へ抽出されるパワーが、波長とソース位置(即ち、トップ、ミドル、およびボトムがあり、ボトム層はITO基板に隣接)との関数となることを示す。結果として、異なる順序で配置されたR、G、およびB副要素は異なる抽出効率を有し、したがって、積層型デバイスの色温度と演色性(CRI)が異なり、他のパラメータは同じに維持される。対応する光学アンチノードに近い3つのEMLを動かすと、Commission Internationale de L’Eclairage(CIE)座標が(0.39,0.42)で、電流密度J=10mA/cmでの演色性がCRI=79の場合、B−G−R(RはITOアノードに隣接する)の順番は最適なカラーバランスをもたらし、輝度>1000cd/mという結果が推測される。
【0084】
図5は、副要素ごとに発光スペクトルを積層構造におけるその位置の関数として示し、キャビティの拡張と抽出効率が考慮されている。図11は、微小共振器効果を考慮して抽出されたパワーと抽出効率とを、使用されるSOLEDの特定の厚さにおける位置と波長の関数として示す。最適化されたドーピング濃度の場合、上記に説明した構成は、6つの順序配置(RBG、RGBなど)のうちの1つであり、これにより、計算されたCommission Internationale de L’Eclairage(CIE)座標(0.39,0.42)と、電流密度J=10mA/cmでのCRI値79が与えられる。そして、各セルがIQEアプローチユニティを持ち、CGLが正孔および電子の生成の点で効率的であるという想定のもとで、輝度>1000cd/mという結果が推測される。
【0085】
図6は、様々な電流密度(J=1、10、100mA/cm)でのデバイスに関する実験によるおよびシミュレーションによる電気発光スペクトルを示している。CIE座標とCRI値は、それぞれ、J=1mA/cmにおいて(0.46,0.36)および61、J=100mA/cmにおいて(0.36,0.37)および78である。シミュレートされたスペクトルは、各セルから生成された光子の比を表1に示す番号と合わすことにより、キャビティ拡張と抽出効率とに基づいて表わされる。図7では、積層構造と制御デバイスの電流密度対電圧特性を比較している。点線は、制御装置のJ−V曲線に基づく積層デバイスの理想的なJ−V曲線であり、MoO層での電圧降下は考慮されていない。SOLEDにおける駆動電圧は、3つすべての制御装置の駆動電圧の合計(実線)と比較するとそれを超過する部分が存在する。CGLでのエネルギーバリアに起因するこの結果は、電力効率における(10.3±0.7)%の付随する低減を説明している。
【0086】
RGB SOLEDおよびモノクロOLED制御デバイスについて、積分球で測定された外部量子およびパワーの効率を図8と図9に示す。青色、緑色、および赤色は、それぞれ(13.9±1.0)%、(17.5±1.0)%、および(20.1±1.0)%での提示EQEピークを制御する。RGB SOLEDのパワー効率および合計EQEは、電流密度J=82μA/cmのηext=(36±2)%で、J=17μA/cmのη=(21±1)lm/Wでそれぞれ最大値を有する。これらの値は、J=2mA/cmに対応する1000cd/mで(32±2)%および(13±1)lm/Wにロールオフする。RGB SOLEDの最大外部効率は、広域の電流密度にわたって3つの個々の要素のEQEの合計にほぼ相当し、透明CGLでの損失が最小であることを示している。SOLED EQEの一致は実線で示され、B、G、およびR要素で発光強度比0.7:0.5:1がもたらされる。積層におけるオン位置での励起子形成のこの依存関係は、CGLおよびITOアノードの注入効率に起因する。
【0087】
表1は、内部量子効率と、3つの積層要素から生成されるわずかな光子とを示す。電流密度が上昇すると、赤色要素の励起子形成に対して青色要素と緑色要素での励起子形成の増大が観測される。これは、電流依存性電子と、CGLからの正孔注入効率とを示す。
【0088】
【表1】

【0089】
R−G−B SOLEDのパワー効率の成分の中でも、Vλ/Vとして定義された電気効率は、パワー効率の改良に重要である。Vλは発光光子エネルギー(eV)であり、Vは、特定の電流密度での動作電流であることに、留意されたい。SOLEDの電気効率は、0.14(J=lmA/cm)〜0.09(J=100mA/cm)に降下し、それぞれ、同じ電流密度での、B、G、およびR制御デバイスの0.25、0.38、および0.28に匹敵する。それを増大するには、電荷輸送、および特にCGLからの電荷注入を改良する。
【0090】
要約すると、すべてのリン光発光体を使用して、およびMoO/Li:BPhenなどの透明CGLを使用して製造されるR−G−B SOLEDにはデバイスパフォーマンスに改良が見られる。白色発光とSOLED効率は、効率的な電荷注入を達成する色発光要素の順序と、高CRIでの最大アウトカップリング効率との間のトレードオフを利用することにより最適化されている。デバイスは、最大合計外部量子(ηext=(36±2)%)とパワー効率(η=(21±1)lm/W)に到達する。これらの結果は、電子燐光性RGB SOLEDが、室内照明用の高輝度および効率を達成するための候補であるアーキテクチャを表していることを証明している。
【0091】
実施例2
CGLアーキテクチャをさらに理解および最適化するために、透明な金属酸化物をベースにしたCGLでの電荷生成が系統的に研究されている。電流密度−電圧(J−V)特性と、キャパシタンス−電圧(C−V)特性が、様々な厚さのMoO層を含む電子オンリーデバイスおよび正孔オンリーデバイスについて広範な温度にわたって解析されている。LiBCP/MoO CGLの最適化されたパフォーマンスは、MoOの厚さと、BCDでのLiドーピング比を変化させることで立証される。MoO価電子バンド最大よりも上の(0.06±0.01)eVでのトラップレベルから隣接する有機層への熱的に支援されたトンネリングは、電子オンリーデバイスおよび正孔オンリーデバイスの両方でのJ−V特性の温度依存性を説明するために提案される。
【0092】
電子オンリーデバイスと正孔オンリーデバイスの両方を洗剤および溶剤で清浄されたガラス基板上に用意し、10分間、UV/オゾン処理にさらした後、直ちに基準圧10−7Torrの真空チャンバに移した。図13aに示す電子オンリーデバイスの場合、正孔注入を最小限に抑える50nm厚のAlカソードを、1mm幅の縞模様のシャドウマスクを介してガラス基板に堆積した。このあと、40nm厚のBCP層と、10nm厚のLiでドープされたBCP層を1:1のモル比で堆積した。この表面には、異なる厚さ(5、10、20nm)のMoO層を堆積し、その後に、第2の50nm厚のAlカソードを、アノードの縞模様に垂直に配置された1mm幅の縞模様シャドウマスクを介して堆積した。同様に正孔オンリーデバイスの場合(図13b)、ガラス基板上に50nm厚のAl電極を堆積し、それに続けて、10nm厚のLiでドープされたBCPを1:1のモル比で堆積すると共に、様々な厚さ(0、5、10、20nm)のMoOを堆積した。次に、40nm厚の4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(NPD)層を正孔輸送層(HTL)として堆積し、その後に、50nm厚のMoO、電子阻止層(FBL)を堆積し、50nm厚のAlカソードでキャップした。
【0093】
エネルギーレベル図で使用されるイオン化ポテンシャルと仕事関数は、文献から取得したものである。MoOに対しては、5.7eVの仕事関数を使用する。
【0094】
特性評価については、サンプルを低温槽に設置し、そこで温度を159Kから269Kまで変化させ、パラメータアナライザ(HP4145B)を使用してJ−V特性を測定した。C−V測定では、インピーダンス/ゲインフェーズアナライザ(HP4194A)を採用し、このアナライザから自由担体濃度と界面バリアの位置を推測した。C−V測定値は200Hzの周波数で取得した。これは、誘電緩和を考慮するのに十分な低さの周波数である。デバイスの光学特性評価では、前に説明した標準的な方法を使用する較正された検出器の基準を採用している(S.R.Forrest,D.D.C.Bradley and M.E.Thompson,Adv.Mater.2003,15,1043)。
【0095】
50Å、100Å、200ÅのMoO厚さを有する電子オンリーデバイスの室温でのJ−V特性を図14aに示す。電子注入の場合、BCP側のAl電極はMoO側のAl電極に対して正にバイアスされる。J−V特性における整流の不足は、CGLおよびカソードからのほぼ一様な効率の電子注入を示している。順方向バイアス(V>0)のもとで、MoO厚への依存度が観測され、100Åは電子オンリーデバイスにおいて最適化された厚さである。図14bは、MoOが導入されていない正孔オンリーデバイスを示し、所与の順方向バイアスでの電流密度は296K〜159Kの温度範囲で減少されており、±5Vで〜10の整流比が室温で観測される。
【0096】
電子オンリーデバイスのC−V特性を図15aに示す。キャパシタンスから算出した空乏層を図15bに示す。図15cでは、厚さ100ÅのMoO層を有するCGLについて、界面空乏幅での様々な自由担体濃度の結果が立証される。BCP内のLiの濃度は、それぞれ24Åおよび85Åの空乏幅に対応して、1:1〜1:10のモル比に変化する。Liドーピングを持たないデバイスは、厚さ10Åの完全に空乏化した領域を示す。
【0097】
159K〜296Kの範囲の様々な温度における1/E(V)の関数としての電流密度は、図13aに示す電子オンリー(図16)デバイスに対してグラフ化されている。ここで、電界は、2.7Vの内蔵電位を引き算した後の、電荷発生層の厚さに対する印加電圧の比として認識される。接点/有機層の界面での小さな電圧降下、および高度にLiでドープされた層にわたる小さな電圧降下は無視される。図17では、電流密度J対1000/Tが電界E=2.0×10V/cmに対してグラフ化され、このグラフから、トラップ活性化エネルギーφを取得することができる。正孔オンリーデバイスに関する対応するグラフを、それぞれ図18および図19に示す。
【0098】
MoO層の存在は、図14aと図14bの比較により示されるように、効率的な電荷発生にとって重要である。逆バイアスのもとでは、BCPでの高Li濃度により、NPDとAlカソード(相まって、正孔注入を強化する)との間の厚さ50ÅのMoOにより、Al接点は、ほぼオームの法則に従う。しかし、順方向バイアスでは、電子注入と正孔注入は両方とも電極で低下され、電流密度は、CGLからの担体生成の結果となる。逆バイアスおよび順方向バイアスにおいて電子と正孔について効率的注入と輸送が促進される場合、図14aに示すように、様々なMoO厚さを持つ電子オンリーデバイスについては、対称的なJ−V特性が観測される。様々な厚さのMoOを有するCGLの中で、100Åの厚さのCGLを有するデバイスは、高い発生効率を示しており、順方向バイアスでの>2Vにおいて、電流は50Åおよび200Åの厚さのMoO層の場合に比べて3倍〜4倍の大きさである。50ÅではMoOは薄すぎて完全で均一なカバレッジを発生することができない。したがって、この界面での注入が低下する。一方、100Å未満の厚さでは、トンネリング注入が大幅に衰える。
【0099】
正孔オンリーデバイスのJ−V特性は、類似した、MoO厚さへの依存度を示す。図14bに示すのは、Al(500Å)/Li:BCP(100Å)/NPD(400Å)/MoO(50Å)/Al(500Å)といった構造を持ち、MoOなしの正孔オンリーデバイスのJ−V特性を示している。ここで、Alカソードに隣接する厚さ50ÅのMoOは、EBLとしての役割を果たす。順方向バイアスではMoOが存在しないため担体生成の効率が悪く、結果として、室温、±5Vでは〜10の整流比が生じる。フィルム堆積時に導入されたMoO内の欠陥状態での電子キャプチャおよび遅延再発光のせいで、図14b(−5V〜5Vまでスイープされた電圧の場合、−1.2Vでゼロ電流が発生)に示す159Kでのヒステリシス動作が発生する可能性がある。
【0100】
電荷担体生成効率の厚さ依存性を理解できるよう、図15aに電子オンリーデバイスのC−V測定値が示されている。ドープされたBCP層内の空乏幅は、MoOの厚さが50Å、100Å、200ÅであるCGLについてはそれぞれ、30Å、24Å、26Åである(図15b)。担体濃度を特定するのに使用される相対的な静的誘電率は、有機層の場合、3.0である。1:1 Li:BCPの場合、BCP内の電子濃度は、空乏幅24Åから推測される場合に、N=1019〜1020cm‐3になるように計算される。これはLi:BCPドーピング濃度の1:1のモル比に従っており、Li原子あたり1つの電子を示唆している。Nの推定値は、前に電導率測定からレポートされた値(〜1018cm−3)よりかなり大きく、ドープされたフィルムの担体密度とLiドーピング濃度との差を説明するためにBCP−Li複合体を形成することが提案された。ドープされたBCP層は、効率的な電子注入を可能にする非常に薄い空乏層を保証する。トンネリング確率がトンネル距離の指数関数となるので、100Åの厚さのMoOサンプルは、使用されている他の厚さに比べて最も高いトンネリング注入効率をもたらす。
【0101】
エネルギーバリアφを抽出するために、様々なMoOの厚さを有する電子オンリーデバイスのJ対E−1特性を図16にグラフ化している。ここでEは、印加電圧から内蔵電位2.7Vを引き算することにより算出される。Li:BCPおよびMoOはそれぞれ高度にドープされたn型およびp型半導体物質であるので、Li:BCP/MoOジャンクションでの内蔵電位は、BCP LUMO(3.OeV)とMoO価電子バンド最大(5.7eV)との差によって決定される。log(J)対E‐1の直線関係は、温度範囲296K〜159Kの温度範囲でデバイスについて観測される。これらのデータをEq.(1)に適合させることにより得られるエネルギーバリアφを表IIに示す。
【0102】
トラップ活性化エネルギーφを抽出するために、この同じデータについて電流密度J対1000/Tが図17にグラフ化されている。適合のスロープ(実線)は、MoOの厚さとは無関係にφ=(0.06±0.01)eVをもたらす。インターセプトは値qvt−10A/cmをもたらす。v−10cm/sの電子熱運動速度を取ることにより、表IIにリストしたようにトラップ濃度N〜1018/cmを取得する。
【0103】
正孔オンリーに対する類似したグラフを図18と図19に示す。CGL内の電界は、ドープされていないNPDにわたって電圧降下があるため、電子オンリーデバイスの場合に比べて推定が複雑である。したがって、以下のデバイス:ITO(1500Å)/NPD(400Å)/MoO(100Å)/Al(500Å)を製造してEを求めた。これらのデータから、φとφを取得して、表IIに結果も示した。電子オンリーデバイスと正孔オンリーデバイスの両方について取得されたエネルギーとトラップ密度の一致は、このモデルを有意に支える。
【0104】
【表2】

【0105】
実施例3
3つ以上の副要素を持つ緑色発光SOLEDのパフォーマンスに関して電荷生成効率の結果を求めるために、カソード(セルL)またはアノード(セルR)のいずれか、またはその両方としてCGLを使用するOLED(図20を参照)と、ITOアノード/Alカソードの組合せを持つ制御デバイスを製造した。表IIIに詳細な構造を提供する。セルRおよびセルMについては、厚さ20ÅのAlをITOに直接堆積して、金属/有機界面でのバンドアライメントを保証し、CGLからITOへの電子の移動を防止する重要なエネルギーバリアを小さくすることに留意されたい。
【0106】
【表3】

【0107】
各デバイスのEQEおよびPEを図20bと図20cに示す。制御デバイスは、電流密度J=0.13mA/cmでのピークフォワード表示EQE=(8.9±0.2)%を示している。これは、前に報告されたIr(ppy)3ベースの電子燐光性OLEDに類似している。ピークフォワード表示EQE=(10.5±0.2)%はセルLの場合J=0.37mA/cmにて観測され、EQE=(10.6±0.2)%はセルMの場合にJ=39μA/cmにて観測される。対照的に、セルRは、J=0.92mA/cmの電流密度で、大幅に減少したピークEQE=(5.3±0.2)%を示す。セルL、セルM、およびセルRに対するPEは、制御デバイスのPE=(23±l)lm/Wと比較して、それぞれ(26±1)、(29±1)、(15±l)lm/Wの最大値を有する。
【0108】
高効率と高輝度を達成するために、CGLは、式(3)と式(4)で提案されるようにSOLED内で接続電極として使用される場合、好ましくは各発光要素内の電荷バランスを提供する。図20aに示すデバイスの場合、電流密度の関数として観測されるNPD発光は存在しないので、デバイスは正孔リッチであると推測する。セルL内のCGLによって達成されるEMLへの改良された電子輸送は、拡張されたEQEをもたらす。対照的に、セルR内の正孔漏洩は、電荷不均衡とEQEを生じさせる。それは、セルL、セルM、および制御OLEDの場合よりかなり少ない。CGLによって導入された光学界面効果と3つすべてのセル内の薄いAl層は、転送マトリックスシミュレーションに基づいて算出されるが、これにより、パワー効率においてわずかな効果(3%)しかもたらされず、セルRのEQEの減少の原因となり得ないことに留意されたい。
【0109】
制御デバイスの効率を積層内の各副要素のそれらと比較すると、セルL、セルM、セルRについて以下の電荷均衡関数を取得する(例えば図20a)。
【数5】

【0110】
両電極の電荷的中性のもとでは、次の式が存在する。
【数6】

【0111】
式(5a〜5d)は、γCell−L=1、YCell−M=0.96、γCell−R=0.49を与え、これは先の2つのセル電荷均衡がほぼ一致していることを示唆する。しかし、セルRでは、Jh,R=0.19mA/cmの大きな正孔電流不均衡が存在し、その存在は当該副要素の大幅に減少したEQEをもたらす。
【0112】
セルRを最適化するために、正孔電流を、様々な厚さのBCP(300Å〜600Å)を使用して制御した。図21に示すように、300Å、400Å、500Å、600ÅのBCP厚さについて、それぞれ(3.7±0.2)%、(5.1±0.2)%、(8.3±0.2)%、および(8.6±0.2)%のピークEQEが観測される。対応するパワー効率の最大値は、(11±l)lm/W、(15±1)lm/W、(24±1)lm/W、(22±1)lm/Wである。BCP厚さが500Åおよび600Åであるデバイスについて、EQEおよびPEの増大が観測される。したがって、輸送層の厚さ(即ち、その抵抗)を変更するだけでセル効率を大幅に改善することができる。これにより、セルR内の電荷不均衡は効率損失の主なメカニズムであるという結果がサポートされる。電荷均衡を達成する種々の手段のうち、EMLへのオームの法則に従う正孔および電子注入が最適となり得る。したがって、増大する層抵抗とは対照的に電荷阻止層を採用することにより(ここで行われる)、積層内の要素ごとにPEとEQEの最高の組合せが提供される。
【0113】
セルR内の様々なBCP厚さ(400Å〜600Å)を有するG−G−G SOLEDのEQEとPEをそれぞれ図22aおよび図22bに示す。BCP厚さとして300Å、400Å、500Å、および600Åを有するデバイスは、電流密度J=1.4×10−4A/cmにおいて、(20.5±1.0)%、(21.6±1.0)%、(24.3±1.0)%、(23.1±1.0)%でそれぞれピークに達するフォワード表示EQEを示す。最適化されたG−G−G SOLED(セルR内に500Å厚のBCPを有する)は、電流密度J=1.7×10−5A/cmにてピークフォワード表示PE=(19±1)lm/Wを示す。これにより、J=1.2×10−3A/cmに対応して1000cd/mで(12±1)lm/Wにロールオフされる。G−G−G SOLEDのEQEは、広範な電流密度にわたる3つの独立したOLEDのEQEのほぼ合計であり、これは、透明なCGLでの損失が最小であることを示している。
【0114】
本発明は特定の実施例および好適な実施形態について説明されているが、本発明はこれらの実施例および実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。したがって、請求される本発明は当業者には明らかなように特定の実施例および好適な実施形態からの変形例を含む。
【符号の説明】
【0115】
100 積層型有機発光デバイス
110 基板
120 アノード
130 正孔注入層
140 OLED副要素
150 電荷生成層
160 電子注入層
170 保護層
180 カソード
182 第1の導電層
184 第2の導電層
220 正孔注入層
225 正孔輸送層
230 電子阻止層
235 発光層
240 正孔阻止層
245 電子輸送層
250 電子注入層
255 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機発光デバイスであって、
カソードと、
リン光青色発光物質を含む発光層を有する青色発光副要素と、
電荷発生層と、
リン光緑色発光物質を含む発光層を有する緑色発光副要素と、
電荷発生層と、
リン光赤色発光物質を含む発光層を有する赤色発光副要素と、
アノードと、
を順番に有し、
前記発光物質の結合された発光が前記デバイスから白色発光をもたらす、有機発光デバイス。
【請求項2】
各副要素が正孔輸送層と、電子輸送層と、発光層とを含み、前記発光層が正孔輸送層、電子輸送層、または独立層である、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項3】
前記デバイスが、CIE座標(X=0.37±0.08、Y=0.37±0.08)を有する光を発光する、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】
前記デバイスが少なくとも約30%の最大外部量子効率を可能にする、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】
前記電荷発生層がp型層に隣接するn型層を有する、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項6】
前記p型層がMoO、V、ITO、TiO、WO、およびSnOから選択される物質を有する、請求項5に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】
前記p型層がMoOを有する、請求項6に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】
各副要素の前記発光層が、当該発光体のアンチノードまでの距離の約20%内にある、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項9】
前記発光層の少なくとも2つが、最大発光の少なくとも90%を提供するように、アンチノードに十分近い位置にある、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項10】
各発光層が、最大発光の少なくとも90%を提供するように、アンチノードに十分近い位置にある、請求項9に記載の有機発光デバイス。
【請求項11】
有機発光デバイスであって、
カソードと、
リン光緑色発光物質を含む発光層を有する緑色発光副要素と、
電荷発生層と、
リン光青色発光物質を含む発光層を有する青色発光副要素と、
電荷発生層と、
リン光赤色発光物質を含む発光層を有する赤色発光副要素と、
アノードと、
を順番に有し、
前記発光物質の結合された発光が前記デバイスから白色発光をもたらす、有機発光デバイス。
【請求項12】
各副要素が正孔輸送層と、電子輸送層と、発光層とを含み、前記発光層が正孔輸送層、電子輸送層、または独立層である、請求項11に記載の有機発光デバイス。
【請求項13】
前記デバイスが、CIE座標(X=0.37±0.08、Y=0.37±0.08)を有する光を発光する、請求項11に記載の有機発光デバイス。
【請求項14】
前記デバイスが少なくとも約30%の最大外部量子効率を可能にする、請求項11に記載の有機発光デバイス。
【請求項15】
前記電荷発生層がp型層に隣接するn型層を有する、請求項11に記載の有機発光デバイス。
【請求項16】
前記p型層がMoO、V、ITO、TiO、WO、およびSnOから選択される物質を有する、請求項15に記載の有機発光デバイス。
【請求項17】
前記p型層がMoOを有する、請求項16に記載の有機発光デバイス。
【請求項18】
各副要素の前記発光層が、当該発光体のアンチノードまでの距離の約20%内にある、請求項11に記載の有機発光デバイス。
【請求項19】
前記発光層の少なくとも2つが、最大発光の少なくとも90%を提供するように、アンチノードに十分近い位置にある、請求項11に記載の有機発光デバイス。
【請求項20】
各発光層が、最大発光の少なくとも90%を提供するように、アンチノードに十分近い位置にある、請求項19に記載の有機発光デバイス。
【請求項21】
有機発光デバイスであって、
カソードと、
リン光青色発光物質を含む発光層を有する青色発光副要素と、
電荷発生層と、
リン光緑色発光物質を含む発光層を有する緑色発光副要素と、
電荷発生層と、
リン光赤色発光物質を含む発光層を有する赤色発光副要素と、
アノードと、
を有し、
各副セルの電荷均衡ファクタが約0.9〜1であり、
前記発光物質の結合された発光が前記デバイスから白色発光をもたらす、有機発光デバイス。
【請求項22】
各副セルの電荷均衡ファクタが約0.95〜1である、請求項21に記載の有機発光デバイス。
【請求項23】
各副要素が正孔輸送層と、電子輸送層と、発光層とを含み、前記発光層が正孔輸送層、電子輸送層、または独立層である、請求項21に記載の有機発光デバイス。
【請求項24】
前記デバイスが、CIE座標(X=0.37±0.08、Y=0.37±0.08)を有する光を発光する、請求項21に記載の有機発光デバイス。
【請求項25】
前記デバイスが少なくとも約30%の最大外部量子効率を可能にする、請求項21に記載の有機発光デバイス。
【請求項26】
前記電荷発生層がp型層に隣接するn型層を有する、請求項21に記載の有機発光デバイス。
【請求項27】
前記p型層がMoO、V、ITO、TiO、WO、およびSnOから選択される物質を有する、請求項26に記載の有機発光デバイス。
【請求項28】
前記p型層がMoOを含む、請求項27に記載の有機発光デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2012−507175(P2012−507175A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534708(P2011−534708)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/062354
【国際公開番号】WO2010/062643
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(509119061)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン (14)
【Fターム(参考)】