説明

赤色系顔料及びその製造方法

【構成】 酸化鉄粒子上に形成された酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物よりなるアルミニウム化合物層と、を備え、前記アルミニウム化合物層は、光学的層厚が150〜500nmであることを特徴とする赤色系顔料。
【効果】 橙色から青赤色までの彩度の高い連続した色調を有し、しかも安定性に優れた赤色系顔料を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は赤色系顔料及びその製造方法、特に無機材料を用いた赤色系顔料及びその製造方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】赤色系顔料は、化粧品、車輌用塗料、一般塗料、プラスチック、インキ、合成皮革、印刷、雑貨、家具、装飾品、建材、一般雑貨等、各種分野において汎用されている。従来の一般的赤色系顔料としては、カーミン等の赤色有機物質を用いたものが多いが、光によって褪色劣化し、或いは安全性の問題が残る等、種々の欠点を有していた。一方、無機の赤色系顔料として、赤色酸化鉄を用いたものが周知である。即ち、薄片状の雲母粒子表面に赤色酸化鉄を被覆したもの、または雲母粒子表面に二酸化チタンを被覆した後、更に酸化鉄を被覆したもの、或いは板状赤色酸化鉄等が用いられる。これらの赤色酸化鉄を用いた無機の赤色系顔料は、安全性、耐光性が高い等の優れた利点を有している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記赤色酸化鉄を用いた赤色系顔料は、該酸化鉄特有の色である茶色がかった赤色に限定され、有機顔料のように様々な赤色系統の色相の外観色を呈する赤色系顔料を得ることはできなかった。無論、例えば雲母粒子表面に赤色酸化鉄及び他の色調を有する無機物質を被覆することにより、顔料の色調を変更することも可能ではあるが、この場合雲母粒子表面に複数種の物質の混合物を被覆することとなり、該被覆作業自体が困難であると共に、各物質による光の吸収が行われるため明度が著しく低下し、徐々に黒色に近付いてしまうという課題があった。本発明は前記従来技術の課題に鑑がみなされたものであり、その目的は明度が高くしかも鮮やかな赤色系統の色調を呈する無機物質のみからなる赤色系顔料及びその製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために本発明者等は鋭意検討した結果、赤色酸化鉄を薄片状に形成し、該板状赤色酸化鉄表面にアルミニウム化合物を所定厚さに被覆することにより、赤色酸化鉄自体の有する色相とは異なる外観色が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本出願の請求項1記載の赤色系顔料は、板状酸化鉄粒子と、前記酸化鉄粒子上に形成された酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物よりなるアルミニウム化合物層と、を備え、前記アルミニウム化合物層は、光学的層厚が150〜500nmであることを特徴とする。
【0005】請求項2記載の赤色系顔料は、板状酸化鉄粒子は板状粒子に酸化鉄層が形成されてなり、前記酸化鉄層の光学的層厚は60〜350nmであり、前記アルミニウム化合物層の光学的層厚は150〜500nmであることを特徴とする。請求項3記載の赤色系顔料は、アルミニウム化合物層は板状酸化鉄粒子に対して1〜20重量%の酸化鉄及び/または酸化鉄−アルミナ複合化合物を含むことを特徴とする。請求項4記載の赤色系顔料の製造方法は、板状粒子に対し被覆されるべき酸化鉄量が20〜100重量%の割合になるように、該酸化鉄の前駆体を含む被覆浴から沈着法により前記板状粒子に酸化鉄を被覆して酸化鉄被覆板状粒子を形成し、前記酸化鉄被覆板状粒子に対し被覆されるべき酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物量が15〜60重量%の割合になるように、該酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物の前駆体を含む被覆浴から沈着法により前記酸化鉄被覆板状粒子にアルミニウム化合物を被覆してアルミニウム化合物被覆酸化鉄被覆板状粒子を形成し、前記アルミニウム化合物被覆酸化鉄被覆板状粒子を100〜900℃で焼成することを特徴とする。請求項5記載の赤色系顔料の製造方法は、酸化鉄被覆板状粒子表面をアルミニウム化合物で被覆する際に、酸化鉄被覆板状粒子に対してさらに1〜10重量%の酸化鉄及び/又は酸化鉄−アルミニウム化合物を含むように、該酸化鉄の前駆体を、酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物の前駆体を含む被覆浴に混合し、これを沈着法により前記酸化鉄被覆板状粒子に被覆したことを特徴とする。
【0006】以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。本発明において、板状酸化鉄は、酸化鉄自体を板状に形成して得ることも可能であるが、通常は白雲母系雲母、黒雲母、金雲母、合成雲母、紅雲母、リチア雲母、タルク、カオリン、セリサイト、板状シリカ、板状アルミナ、板状二酸化チタン、板状酸化鉄、雲母チタンアルミニウム粉末、ステンレス粉末等を基礎となる板状粒子として、該板状粒子に酸化鉄を被覆することが好適である。また、市販の酸化鉄被覆雲母を本発明の赤色系顔料の中間体として用いることも可能である。
【0007】また、前記板状粒子の粒子径は特に制限されないが、化粧料等一般的な工業製品の顔料として利用する場合には、粒子径1〜50μm程度で、形状はできるだけ偏平なものの方が、美しい色調が発現されやすいため好ましい。本発明にかかる赤色系顔料を得る際の中間体となる、酸化鉄で被覆された板状粒子で使用される酸化鉄とは、α−Fe23,γ−Fe23等の赤色から褐色の酸化鉄をさす。本発明においてはこれらが単独で被覆されていても良いし、また二種類以上の混合物の形で被覆されていても良い。また水和酸化鉄FeO(OH)、黒色酸化鉄(Fe34)のように、最終の焼成工程においてFe23に酸化されるものであっても良い。
【0008】ここで、被覆される酸化鉄の量は、該酸化鉄層の光学的層厚が60〜350nmとなるようにすることが好適であり、具体的には板状粒子径が1〜50μmの場合、板状粒子100重量%に対して、20〜100重量%であり、好ましくは30〜80重量%である。被覆酸化鉄量が20重量%未満である場合には、赤色系の色調が弱くなる傾向にあり、100重量%を越える場合には酸化鉄の色調が強調されて、酸化鉄特有の茶色掛った色調になるために好ましくない。なお、ここで光学的層厚とは、幾何学的層厚に屈折率をかけたものをいう。
【0009】一方、本発明で使用されるアルミニウム化合物は、酸化アルミニウムAl23を必須成分として含有していれば、他に水和酸化アルミニウムAl23(H2O)、Al23(3H2O)や水酸化アルミニウム等が混在していても良い。本発明にかかる赤色系顔料において、被覆されるアルミニウム化合物の量は、アルミニウム化合物層の光学的層厚が150〜500nmとなるようにすることが好適であり、板状粒子径が1〜50μmの場合、中間体である酸化鉄被覆板状粒子100重量%に対して、アルミニウム化合物量は15〜60重量%であり、好ましくは20〜40重量%である。被覆されるアルミニウム化合物の量が、中間体である酸化鉄被覆板状粒子100重量%に対して15重量%未満であると、酸化鉄の本来有する色調を調整することができず、また60重量%を越えると、彩度の著しい低下が起こる。なお、被覆するアルミニウム化合物の量が、中間体である酸化鉄で被覆された板状粒子100重量%に対して25重量%以下であると橙色の色調が得られ、25〜40重量%では青赤色の色調が、40重量%以上では黄赤色の色調が得られる。
【0010】本発明の中間体である酸化鉄被覆板状粒子にアルミニウム化合物を被覆する工程において、最終の焼成温度は100〜900℃であり、好ましくは300〜800℃である。焼成温度が900℃を越えると粒子凝集が起き好ましくない。なお、本発明にかかる赤色系顔料において、アルミニウム化合物に酸化鉄及び/又は酸化鉄−アルミナ複合酸化物を、酸化鉄被覆板状粒子に対し1〜20重量%、好ましくは5〜15重量%被覆すると、更に彩度の改善された赤色系顔料を得ることができる。
【0011】本発明にかかる赤色系顔料の製造方法としては、次のような方法を挙げることができる。即ち、板状粒子表面を酸化鉄で被覆する方法として、市販の白雲母顔料等の板状粒子を水に分散させ、これに塩化(I)鉄、塩化(II)鉄、硫酸(I)鉄、硫酸(II)鉄、硝酸(I)鉄、硝酸(II)鉄等の鉄塩の水溶液と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を、pHを一定に保ちながら同時に少量ずつ添加して、中和分解によって水和酸化鉄で被覆し、これを300〜800℃の高温で焼成する方法、或いは市販の白雲母顔料を水に分散させ、これに塩化(I)鉄、塩化(II)鉄、硫酸(I)鉄、硫酸(II)鉄、硝酸(I)鉄、硝酸(II)鉄等の鉄塩の水溶液と尿素を予め添加しておき、これを80〜100℃に加熱して中和分解させ、水和酸化鉄で被覆した後150〜800℃の高温で焼成する方法、鉄化合物を高温で気化させて、これを直接板状粒子に沈着させる方法等が挙げられる。
【0012】また、酸化鉄で被覆された本発明の中間体を、アルミニウム化合物で被覆する方法としては次のものが例示される。即ち、前記酸化鉄被覆板状粒子を水に分散させ、これに塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩水溶液と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性溶液を、pHを一定に保ちながら同時の少量ずつ添加して、中和分解によって水和酸化アルミニウムで被覆し、これを150〜700℃の高温で焼成する方法、或いは酸化鉄被覆板状粒子を水に分散させて、これに塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等のアルミニウム塩の水溶液と尿素を予め添加しておき、これを80〜100℃に加熱して中和分解させ、水和酸化アルミニウムで被覆した後、150〜800℃の高温で焼成する方法などが挙げられる。また、アルミニウム化合物に酸化鉄及び/又は酸化鉄−アルミナ複合酸化物を含有させる方法としては、酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物で酸化鉄被覆板状粒子を被覆する際に、鉄塩水溶液とアルミニウム塩水溶液を予め混合しておき、これを前記方法で中和分解して被覆すれば良い。
【0013】
【作用】前述したように、本発明にかかる赤色系顔料は、赤色酸化鉄の有する色調を調整するため、アルミニウム化合物を用いている。即ち、一般の顔料は特定波長の光のみを吸収し、他の波長の光を反射する物質を用いる。そして、その顔料に各種波長の光の集合体である白色光を照射すると、そのうちの特定波長の光成分のみが吸収され該吸収光と補色関係に有る反射光により前記顔料の色調が規定される。すなわち、赤色酸化鉄においては、酸化鉄特有の色である茶色がかった赤色が前記反射光に相当する。そして、一般的な顔料の考え方をするならば、顔料の色を調整するためには他の波長域の光を吸収する物質を加えることが必要である。
【0014】しかしながら、この場合吸収波長帯域が拡大することとなり、顔料の色調は徐々に無彩色に近付き彩度が低下してしまう。そこで、本発明者らは光の干渉作用を用い、酸化鉄被覆雲母の色調を調整することとしたのである。すなわち板状粒子表面を酸化鉄で被覆し、更に該酸化鉄被覆粒子をアルミニウム化合物で被覆した場合、顔料構造は図1に模式的に示されるように構成される。ここで、雲母10は薄片状でありその周囲に酸化鉄12が薄層状に被覆されている。そして、酸化鉄層12の周囲に更に酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物14が被覆されている。なお、雲母10及びアルミニウム化合物14は白色且つ光の透過度が高く、酸化鉄層12は前述した通り茶色がかった赤色である。
【0015】このような顔料に白色光16が照射されると、該照射光16の一部はアルミ化合物層14の表面で反射された白色光18となり、一方酸化鉄層12表面及び雲母10表面による反射光20,22はそれぞれ酸化鉄により一部波長域の吸収が行われ、茶色がかった赤色光となる。そして、該赤色反射光20,22と前記白色反射光18が干渉を生じ、赤色反射光20,22の特定波長の光のみを強調するため、シャープな色調の反射光(干渉光)が得られるのである。すなわち、図2に示すように、例えば白色反射光18と赤色反射光20,22は、アルミニウム化合物層14の層厚に依存する光路差を有する。そして、反射光20,22の中で図2(A)に示すような波長の光成分と、反射光18の中の同じ波長の光成分は、光路差(L=アルミニウム化合物層の約2倍)により、赤色反射光20,22の光成分の山の部分が白色光18の光成分の谷の部分に位置することとなり、両者は打消し合い、同図(C)に示すように外観上消えてしまう。
【0016】ところが、同図(D)に示すように、前記(A)の半分の波長の光成分の場合、赤色反射光20,22と白色反射光18の各光成分は一波長分ずれ、両者の山の部分、谷の部分が重なり、同図(F)に示すように振幅増幅が行われる。この結果、赤色反射光20,22の特定波長の光のみが強調され、酸化鉄そのものの反射光に比較し遥かにシャープな色調を得ることができるのである。なお、本発明にかかる赤色系顔料にはアルミニウム化合物が被覆されているが、該アルミニウム化合物の光透過性は極めて高く、全体として反射光18,20,22の総光量はさほど低下せず、従来のように複数種の顔料物質を混合した場合のように彩度が著しく低下することもない。
【0017】なお、本発明においては前述したように干渉作用により色調の調整を行っているため、該干渉作用を生起させるための光路差が重要な要件となる。図2より明らかなように光路差が光の波長の半波長となる場合に該波長域の光強度が実質的に大きく減少し、光路差が光の波長と同一ないしその整数倍となる場合に該波長域の光強度が実質的に大きく増加する。このため、光路差が可視光域の波長の光の強度調整を行うように調整しなければならない。また、前記図1に示す例においては、反射光18が白色光であったが、例えばアルミニウム化合物に酸化鉄及び/又は酸化鉄−アルミナ複合酸化物を含有させると、反射光18が赤色光となり、赤色反射光18,20,22の相互の干渉作用により色調を調整することができる。この結果、彩度を更に改善させることが可能となる。
【0018】以上のように、本発明にかかる赤色系顔料によれば、アルミニウム化合物層14の層厚に依存した光の干渉を利用することにより、明度、彩度等の色調にすぐれた赤色系顔料を得ることができる。しかも、該赤色系顔料は、基本的に酸化鉄及びアルミニウム化合物よりなる無機物質から形成されているので、安定性、安全性、耐光性、耐酸性、耐アルカリ性、耐溶媒性、耐熱性等にも極めて優れている。
【0019】
【実施例】以下、実施例に基づき本発明にかかる赤色系顔料及びその製造方法を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、配合量は全て重量%で示されている。
色調と層厚の関係まず、本発明において特徴的なアルミニウム化合物層の層厚と色調の関係について説明する。ここでは、次の方法により各種アルミニウム化合物層厚の赤色系顔料を形成し、その色調を調べた。市販の白雲母(平均粒径30μm)100gを500mlの水に分散させ、90℃に加熱、撹拌しながら10wt%の塩化第二鉄(六水和物)所定量を5ml毎分の速度で添加した。この時0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加して反応終了までpHを4.5〜5.0に保持する。そして、生成物を濾過、乾燥後、500℃で2時間焼成して、酸化鉄被覆雲母を得た。
【0020】次に得られた酸化鉄被覆雲母100g、硫酸アルミニウム(14水和物)所定量及び尿素200gを1000mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中500℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母を得た。なお、色調は、赤色系顔料5gを石英製粉末色調測定用セルに量りとり、十分に配向させた後、一定圧でプレスして測定用サンプルを作成した。次に測定用サンプルを分光測色機(日立C−2000)で測色した。また、各層厚は光学的層厚により表示した。
【0021】
【表1】
塩化第二鉄量 33,75g 酸化鉄層厚30nm────────────────────────────────────硫酸アルミニウム量(g) 31 95 160 220 315 380────────────────────────────────────酸化アルミニウム層厚(nm) 0 50 150 250 350 500 600────────────────────────────────────H.V./C 3.0R 3.8R 4.8R 3.9 R 4.0R 4.5R 3.0R 3.8 4.3 4.98 5.16 5.18 5.0 4.44 /6.80 /6.81 /7.06 /7.62 /7.40 /6.60 /1.00────────────────────────────────────
【0022】
【表2】
塩化第二鉄量 45.0g 酸化鉄層厚60nm────────────────────────────────────硫酸アルミニウム量(g) 31 95 160 220 315 380────────────────────────────────────酸化アルミニウム層厚(nm) 0 50 150 250 350 500 600────────────────────────────────────H.V./C 3.5R 3.7R 8.4R 2.3R 7.4R 7.0R 5.3R 3.34 3.60 4.42 4.81 4.80 4.69 4.00 /6.92 /6.95 /7.78 /8.31 /8.16 /7.54 /6.06────────────────────────────────────
【0023】
【表3】
塩化第二鉄量 120g 酸化鉄層厚70nm────────────────────────────────────硫酸アルミニウム量(g) 31 95 160 220 315 380────────────────────────────────────酸化アルミニウム層厚(nm) 0 30 150 250 350 500 600────────────────────────────────────H.V./C 3.5R 3.7R 8.5R 0.3R 6.4R 5.7R 3.5R 3.19 3.30 4.08 4.80 4.90 4.42 3.48 /6.90 /6.90 /7.88 /8.48 /8.22 /7.50 /6.10────────────────────────────────────
【0024】
【表4】
塩化第二鉄量 200g 酸化鉄層厚250nm────────────────────────────────────硫酸アルミニウム量(g) 31 95 160 220 315 380────────────────────────────────────酸化アルミニウム層厚(nm) 0 50 150 250 350 500 600────────────────────────────────────H.V./C 3.5R 3.7R 7.1R 9.3RP 6.1R 5.3R 3.0R 3.00 3.12 4.01 4.44 4.81 4.01 3.08 /7.00 /7.05 /8.10 /8.52 /8.33 /8.14 /6.22────────────────────────────────────
【0025】
【表5】
塩化第二鉄量 260g 酸化鉄層厚350nm────────────────────────────────────硫酸アルミニウム量(g) 0 31 95 160 220 315 380────────────────────────────────────酸化アルミニウム層厚(nm) 0 50 150 250 350 500 600────────────────────────────────────H.V./C 3.5R 3.8R 8.0R 0.8R 6.8R 6.0R 4.0R 2.80 2.84 3.23 4.12 4.36 3.43 2.80 /6.85 /6.86 /7.60 /8.28 /8.16 /7.40 /6.18 ────────────────────────────────────
【0026】
【表6】
塩化第二鉄量 350g 酸化鉄層厚450nm────────────────────────────────────硫酸アルミニウム量(g) 0 31 95 160 220 315 380────────────────────────────────────酸化アルミニウム層厚(nm) 0 30 150 250 350 500 600────────────────────────────────────H.V./C 3.8R 4.0R 4.5R 4.1R 4.0R 3.9R 3.1R 2.40 2.42 2.72 3.02 3.18 3.06 3.06 /6.20 /6.44 /6.56 /6.62 /6.46 /6.10 /5.68────────────────────────────────────
【0027】以上のように、本発明によれば、酸化鉄層が60nm未満であると十分な赤色を得ることができない。また、酸化アルミニウムの層厚が150nm未満であると酸化鉄の有する色調が強調され、その調整を行うことができない。このように、茶色がかった赤色の酸化鉄被覆雲母に、無色ないし白色の酸化アルミニウムを被覆することにより、それぞれ極めてシャープで且つ各種色調の赤色系顔料を得ることができる。
【0028】実施例1市販の白雲母100gを500mlの水に分散させ、90℃に加熱、撹拌しながら10wt%の塩化第二鉄(六水和物)1300mlを5ml毎分の速度で添加した。この時0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加して反応終了までpHを4.5〜5.0に保持する。そして、生成物を濾過、乾燥後、500℃で2時間焼成して、酸化鉄被覆雲母136gを得た。次に得られた酸化鉄被覆雲母100g、硫酸アルミニウム(14水和物)175g及び尿素200gを1000mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中500℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母127gを得た。得られた粉末は紫赤色の鮮やかな外観色と光沢を併せもったものであった。
【0029】実施例2市販の酸化鉄被覆雲母(Merck社製Iriodin524)100g、硫酸アルミニウム(14水和物)233g及び尿素250gを1000mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中400℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母138gを得た。得られた粉末は青赤色の鮮やかな外観色と光沢を併せもったものであった。
【0030】実施例3市販の白雲母100gを500mlの水に分散させ、更に2Mの硫酸チタニル20mlを添加した後、90℃に加熱、撹拌しながら2時間この条件を保持した。水洗、濾過、乾燥後、800℃で焼成して二酸化チタン被覆雲母101gを得た。次に得られた二酸化チタン被覆雲母30gを水300mlに分散させ、90℃に加熱撹拌しながら10wt%の塩化第二鉄(六水和物)1000mlを5ml毎分の速度で添加した。この時0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加して反応終了までpHを4.5〜5.0に保持した。そして、生成物を濾過、乾燥後、500℃で2時間焼成して、酸化鉄被覆雲母チタン57.0gを得た。更に得られた酸化鉄被覆雲母チタン50g、塩化アルミニウム(6水和物)100g及び尿素100gを500mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中400℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母チタン61gを得た。得られた粉末は橙色の鮮やかな外観色と光沢を併せもったものであった。
【0031】実施例4市販の酸化鉄被覆雲母(Merck社製Iriodin524)100g、硫酸アルミニウム(14水和物)260g、塩化第二鉄20g、及び尿素300gを1000mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中400℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母146gを得た。得られた粉末は青赤色の鮮やかな外観色と光沢を併せもったものであった。
【0032】実施例5市販の酸化鉄被覆雲母(Merck社製Iriodin524)50gを500mlの水に分散させ、90℃に加熱、撹拌しながら10wt%硫酸アルミニウム(14水和物)水溶液2000mlを、1N水酸化ナトリウム水溶液でpHを4.5〜5.0に保ちながら、10ml毎分の速度で添加して、水洗、濾過、乾燥後、大気中400℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母65gを得た。得られた粉末は青赤色の鮮やかな外観色と光沢を併せもったものであった。
【0033】実施例6市販の雲母チタン(Merck社製Iriodin215)100gを500mlの水に分散させ、90℃に加熱、撹拌しながら10wt%の塩化第二鉄(六水和物)2000mlを5ml毎分の速度で添加した。この時0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加して反応終了までpHを4.5〜5.0に保持した。そして生成物を濾過、乾燥後、500℃で2時間焼成して酸化鉄被覆雲母チタン160gを得た。次に得られた酸化鉄被覆雲母チタン100g、硫酸アルミニウム(14水和物)175g及び尿素200gを1000mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中500℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆雲母チタン123gを得た。得られた粉末は橙色の鮮やかな外観色と光沢を併せもったものであった。
【0034】実施例7市販のカオリナイト100g、塩化第二鉄(六水和物)100g及び尿素150gを1000mlの水に分散させ、90℃で4時間加熱、撹拌した後、生成物を濾過、乾燥し、その後500℃で2時間焼成して、酸化鉄被覆カオリナイト127gを得た。次に得られた酸化鉄被覆カオリナイト100g、硫酸アルミニウム(14水和物)120g及び尿素250gを1000mlの水に分散させ、これを加熱し、沸騰状態で4時間撹拌して、水洗、濾過、乾燥後、大気中500℃で焼成して酸化アルミニウム被覆酸化鉄被覆カオリナイト116gを得た。得られた粉末は黄橙色の外観色をもったものであった。
【0035】以上の実施例1〜7で得られた本発明の製品である赤色系顔料の材料特性を試験した。比較のため米国Mearl社より市販されている着色雲母チタン(酸化鉄被覆雲母、およびカーミン添加雲母チタン)の顔料特性を同様に試験した。試験項目は外観色調、酸安定性、アルカリ安定性、光安定性、熱安定性であり、試験方法と試験結果を以下に示す。
■外観色調本発明品である赤色系顔料および市販の着色雲母チタン5gを石英製粉末色調測定用セルに秤り取り、十分に配向させた後、一定圧でプレスして測定用サンプルを作成した。次に測定用サンプルを分光測色機(日立C−2000)で測色した。測色は3回の平均値を採った。
■酸安定性本発明品である赤色系顔料および市販の着色雲母チタン1.5gをそれぞれ共栓50ml入り試験管に入れ、これに2N塩酸水溶液30mlを加えて分散後、試験管立てに立てて静置し、24時間後の色調を肉眼で観察した。
■アルカリ安定性本発明品である赤色系顔料および市販の着色雲母チタン1.5gをそれぞれ共栓50ml入り試験管に入れ、これに2N水酸化ナトリウム水溶液30mlを加えて分散後、試験管立てに立てて静置し、24時間後の色調を肉眼で観察した。
■光安定性本発明品である赤色系顔料および市販の着色雲母チタン2.5gをそれぞれ厚さ3mm、一辺20mmの正方形のアルミ製中皿に成形し、これにキセノンランプを30時間照射した。照射前後の色調を分光測色機(日立C−2000)で測色して、測色値から照射前後の色差(△E)を求めた。
■熱安定性本発明品である赤色系顔料および市販の着色雲母チタン3.0gをそれぞれ20ml入り磁性ルツボに秤り取り、大気中400℃で2時間熱処理した。処理前後の色調を分光測色機(日立C−2000)で測色して、測色値から照射前後の色差(△E)を求めた。
それぞれの安定性試験の結果を表8に示した。
【0036】
【表7】
比較例に用いた顔料───────────────────────────────── 比較例1 クロイゾネルージュフランベ TiO2+Mica+Fe2O3───────────────────────────────── 比較例2 クロイゾネレッド TiO2+Mica+Carmin─────────────────────────────────
【0037】
【表8】
色調および安定性試験結果──────────────────────────────────── 色調 H.V./C. 酸安定性 アルカリ安定性 光安定性 熱安定性────────────────────────────────────実施例1 0.7R 4.0/8.3 ◎ ◎ 0.71 0.81 2 8.5RP 4.5/8.2 ◎ ◎ 0.74 0.65 3 7.0R 4.0/9.0 ◎ ◎ 0.82 0.74 4 9.0RP 4.2/8.2 ◎ ◎ 0.77 0.35 5 0.5R 4.5/8.0 ◎ ◎ 0.60 0.55 6 7.5R 4.8/8.1 ◎ ◎ 0.79 0.75 7 8.0R 3.8/7.1 ◎ ◎ 0.65 0.88────────────────────────────────────比較例1 2.8R 4.9/6.9 ○ ◎ 0.77 0.83 2 2.3RP 5.4/7.5 × × 22.1 40.3────────────────────────────────────評価の基準: ◎ 全く変色が認められず高い安定性をもつ○ 目視で若干変色が認められるが依然良好な安定性をもつ× 変色が認められ安定性が低い
【0038】表2の結果から本発明の製品である赤色系顔料は、板状粒子を被覆する酸化鉄および、またはアルミニウム化合物の量比を変えることによって、黄赤から青赤までの色調を任意に調整できることが理解される。また本発明品である赤色系顔料のもつ彩度は、有機物質を添加している比較例2のクロイゾネレッドと同程度かそれよりも高い。無機顔料でこのように有機顔料に匹敵する彩度をもつものは極めて稀であり、本発明の製品である板状赤色複合材料の市販無機顔料に対する色調優位性は明らかである。更に表2の結果から本発明品である赤色系顔料は、比較例1の市販の酸化鉄被覆雲母とほぼ同程度か、これを上回る安定性をもつ。特に酸安定性では市販の酸化鉄被覆雲母より優れている。これは市販の酸化鉄被覆雲母は酸によって酸化鉄が溶出するのに対して、本発明品である赤色系顔料では粒子表面が酸安定性に優れた酸化アルミニウムで完全に被覆されているためである。またカーミンを添加した比較例2の雲母チタンは、カーミンの安定性が劣るために、過酷な条件下では褪色劣化が激しい。
【0039】
【発明の効果】上記説明したように本発明にかかる赤色系顔料によれば、板状酸化鉄の表面を酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物で被覆することで、橙色から青赤色までの彩度の高い連続した色調を有し、しかも安定性に優れた赤色系顔料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】,
【図2】本発明にかかる赤色系顔料の色調調整作用を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 板状酸化鉄粒子と、前記酸化鉄粒子上に形成された酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物よりなるアルミニウム化合物層と、を備え、前記アルミニウム化合物層は、光学的層厚が150〜500nmであることを特徴とする赤色系顔料。
【請求項2】 請求項1記載の赤色系顔料において、板状酸化鉄粒子は板状粒子に酸化鉄層が形成されてなり、前記酸化鉄層の光学的層厚は60〜350nmであり、前記アルミニウム化合物層の光学的層厚は150〜500nmであることを特徴とする赤色系顔料。
【請求項3】 請求項1又は2記載の顔料において、アルミニウム化合物層は板状酸化鉄粒子に対して1〜20重量%の酸化鉄及び/または酸化鉄−アルミナ複合化合物を含むことを特徴とする赤色系顔料。
【請求項4】 板状粒子に対し被覆されるべき酸化鉄量が20〜100重量%の割合になるように、該酸化鉄の前駆体を含む被覆浴から沈着法により前記板状粒子に酸化鉄を被覆して酸化鉄被覆板状粒子を形成し、前記酸化鉄被覆板状粒子に対し被覆されるべき酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物量が15〜60重量%の割合になるように、該酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物の前駆体を含む被覆浴から沈着法により前記酸化鉄被覆板状粒子にアルミニウム化合物を被覆してアルミニウム化合物被覆酸化鉄被覆板状粒子を形成し、前記アルミニウム化合物被覆酸化鉄被覆板状粒子を100〜900℃で焼成することを特徴とする赤色系顔料の製造方法。
【請求項5】 請求項4記載の方法において、酸化鉄被覆板状粒子表面をアルミニウム化合物で被覆する際に、酸化鉄被覆板状粒子に対してさらに1〜20重量%の酸化鉄及び/又は酸化鉄−アルミニウム化合物を含むように、該酸化鉄の前駆体を、酸化アルミニウムを含むアルミニウム化合物の前駆体を含む被覆浴に混合し、これを沈着法により前記酸化鉄被覆板状粒子に被覆することを特徴とするせきしよく系顔料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−100794
【公開日】平成6年(1994)4月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−277897
【出願日】平成4年(1992)9月22日
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)