説明

赤色蛍光体と、その製造方法および白色発光装置

【課題】第1光によって励起されて赤色光を発光する用に構成した赤色蛍光体を提供する。
【解決手段】赤色蛍光体は、以下に示す化学式(1)
Eu(MO)(PO
を有し、ここでAがLi,Na,K,Rb,CsまたはAgであり、MがMo,Wまたはその組み合わせ(Mo(1−x))である。赤色蛍光体は、高輝度および高い色純度の赤色光を付与することができる。さらに、前記赤色蛍光体の組成が酸化物を含むため、赤色蛍光体は高い化学的安定性および長い寿命を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色蛍光体と、その製造方法および赤色蛍光体を内蔵する白色発光装置に関するものである。特に、本発明は、高い色純度、高輝度および高い化学安定性を有する赤色蛍光体と、その製造方法および当該赤色蛍光体を内蔵する白色発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の環境保全技術の進歩に伴って、白色発光ダイオードは、現在低い電力消費、簡潔さ、低い駆動電圧、水銀を使用しない等の利点を有する。したがって、白色発光ダイオードは、フラットパネルディスプレーおよびイルミネーションのバックライトモジュールに広く適用されてきた。白色発光ダイオードの発光性能を向上させるためには、蛍光体の研究開発が大きな役割を果たす。その結果、異なる新しい蛍光体が提供されてきた。
【0003】
日亜化学工業によって特許文献1(米国特許第5998925号明細書)に開示された白色発光装置において、当該白色発光装置が主としてセリウムをドープしたガーネット蛍光粉末(YAl12:Ce3+,YAG:Ce)を用いて青色発光ダイオードによって発光された青色光を黄色光に変換し、この青色光と黄色光を混合することにより白色光を発生するようにする。しかし、青色発光ダイオードおよびセリウムをドープしたガーネット蛍光体によって発生した白色光は、色温度が高いという問題を常に有する。特に、動作電流を上げると、この高い色温度の問題がさらに悪化する。なお、白色発光スペクトルは赤色成分を含まないので、上記方法によって発生した白色光は演色性が劣り、その結果照明光源として使用する際に不十分な演色性である。例えば、この白色光で照射された赤色の物体は、淡いオレンジ色となる。
【0004】
上記の問題は、白色発光スペクトルにける赤色成分を増加させることによって解決することができる。ORSAMによって公開された特許文献2(WO02/11173号明細書)によれば、紫外光〜青色光(370nm〜480nm)の発光波長を有する発光ダイオードを赤色蛍光粉末および黄−緑色蛍光粉末によって構成された二重蛍光粉末システムと一緒に作動させて、白色光を発生させる。ここで、赤色蛍光粉末の化学式はMS:Eu2+であり、MはBa,Sr,Ca,MgまたはZnを表す。黄−緑色蛍光粉末の化学式は、MEu2+,Ce3+であり、MはBa,Sr,Ca,MgまたはZnで、NはAl,Ga,In,Y,LaまたはGdを表す。
【0005】
上述した二重蛍光粉末システムによって発生した白色光は、高い色温度および不十分な演色性の問題を解決する手助けをする。しかし、ここで用いた蛍光粉末の成分はすべて空気中の水分と容易に反応する硫化物を含むため、該二重蛍光粉末システムは化学安定性が劣る。加えて、紫外光の長時間の照射で、二重蛍光粉末システムが容易に劣化し、寿命が不十分であるという問題を有する。さらに、硫化物は熱安定性が劣るので、主成分として硫化物を含む蛍光粉末は、用途が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5998925号明細書
【特許文献2】国際公開第02/11173号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、高輝度および高い色純度の赤色光を付与する赤色蛍光体を本発明では提供する。
【0008】
さらに、赤色蛍光体の製造方法を本発明では提供する。該製造方法を低い焼結温度で適用することによって、高い化学安定性を有する赤色蛍光体を得ることができる。
【0009】
さらに、上記赤色蛍光体を含む白色発光装置を本発明では提供する。当該白色発光装置は、良好な演色性を有する白色光を付与し、また寿命が長い。
【0010】
前述の観点から、第1の光によって励起されて赤色光を発光するのに適合した赤色蛍光体を本発明では提供する。この赤色蛍光体は、下記の化学式(1)
Eu(MO)(PO
で表わされることを特徴とし、ここでAはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)または銀(Ag)を表し、Mはモリブデン(Mo)、タングステン(W)またはそれらの組み合わせ(Mo(1−x))を表す。
【0011】
本発明の実施態様によれば、第1光の波長は360nm〜550nmの範囲である。
【0012】
本発明の実施態様によれば、第1光の波長は、394±10nmの近紫外光波長、465±10nmの青色光波長または535±10nmの黄−緑色光波長を含む。
【0013】
本発明の実施態様によれば、赤色光の波長は614nmを含む。
【0014】
本発明の実施態様によれば、Mがモリブデンおよびタングステンの組み合わせ、すなわち(Mo(1−x))であるとき、xは0〜1のモル分率である。
【0015】
本発明の実施態様によれば、赤色光の色度座標は(0.66,0.33)とすることができる。
【0016】
本発明の実施態様によれば、赤色光の相対輝度は1.5〜1.9(cd/m)である。
【0017】
本発明の実施態様によれば、赤色蛍光体を白色発光ダイオードに適用する。
【0018】
本発明はまた、赤色蛍光体の製造方法も提供する。まず、酸化ユウロピアム(Eu)と、リン酸水素ジアンモニウム((NHHPO)と、金属モリブデン酸塩もしくは金属タングステン酸塩または金属モリブデン酸塩と金属タングステン酸塩との組み合わせとを含む混合物を、化学量論にしたがって用意する。次に、この混合物を混合し、粉砕する。その後、この混合物を焼結して赤色蛍光体を得る。
【0019】
本発明の実施態様によれば、混合物を混合粉砕する時間は30分間である。
【0020】
本発明の実施態様によれば、混合物を焼結する温度は600℃である。
【0021】
本発明の実施態様によれば、混合物を焼結する時間は6時間〜10時間の範囲である。
【0022】
本発明の実施態様によれば、赤色蛍光体は、下記の化学式(1)
Eu(MO)(PO
で表わされることを特徴とし、ここでAはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)または銀(Ag)を表し、Mはモリブデン(Mo)、タングステン(W)またはそれらの組み合わせ(Mo(1−x))を表す。
【0023】
本発明の実施態様によれば、赤色蛍光体の物理的および化学的特性を同定するための特性同定工程をさらに含む。
【0024】
本発明の実施態様によれば、前記特性同定工程が、X線回折分析、蛍光スペクトル分析、色度座標分析または紫外光−可視光反射スペクトル分析を行うことを含む。
【0025】
さらに、発光ダイオード(LED)チップおよび光起電性の発光蛍光体を含む白色発光装置を本発明では提供する。LEDチップは第1の光を発光する。光起電性の発光蛍光体は、少なくとも上述の赤色蛍光体を含む。ここで、光起電性の発光蛍光体を前記第1の光によって励起して第2の光を発光し、該第1光および第2光を混合して白色光を発生する。
【0026】
本発明の実施態様によれば、第1光の波長は360nm〜550nmの範囲である。
【0027】
本発明の実施態様によれば、第1光の波長は394±10nmの近紫外光波長、465±10nmの青色光波長または535±10nmの黄−緑色光波長を含む。
【0028】
本発明の実施態様によれば、光起電性の発光蛍光体は、黄色蛍光体、青色蛍光体または緑色蛍光体をさらに含む。赤色蛍光体を随意に黄色蛍光体、青色蛍光体および緑色蛍光体と協働するように構成する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の赤色蛍光体は新規な化学構造を有するため、高い色純度および高輝度の赤色光を付与することができる。特に、本発明で提供する赤色蛍光体の製造方法において、赤色蛍光体の組成が化学安定性に劣る硫化物の代わりに酸化物を含むため、赤色蛍光体は高い化学安定性を有する。さらに、焼結に必要な温度が低いので、エネルギー消費をなお低減する。加えて、本発明の白色発光装置が前述の赤色蛍光体を利用するため、良好な演色性と、長い寿命とを有する白色光を付与する。
【0030】
本発明の前述および他の特徴および利点をより理解するため、図面とともにいくつかの実施例を詳細に以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0031】
添付の図面は、本発明をさらに理解するために与え、本明細書に組み込み、本明細書の一部を構成するものとする。図面は、本発明の実施形態を示し、説明と共に、本発明の趣旨を説明するものとする。
【0032】
【図1】本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の製造方法の概略的なフローチャートである。
【図2】本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の励起スペクトルである。
【図3】本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の発光スペクトルである。
【図4】本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の色度座標の概略図である。
【図5】本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体のX線回折図である。
【図6】本発明の一実施態様に係る白色発光装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
新規な赤色蛍光体を本発明では提供する。該赤色蛍光体は、高い色純度および高輝度の赤色光を生成することができる独特の化学結晶構造を有する。不十分な演色性という従来の問題点を解決する他に、前記新規な赤色蛍光体はまた、硫化物構造を排除して、化学安定性が劣る問題点を基本的に解決する。従って、赤色蛍光体と、その製造方法および該赤色蛍光体を用いる白色発光装置を以下に開示する。
【0034】
赤色蛍光体
本発明で提供する赤色蛍光体は、第1光によって励起して赤色光を発光するように構成する。この赤色蛍光体は、以下に示す化学式(1)を特徴とする。
Eu(MO)(PO
【0035】
ここで、Aはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)または銀(Ag)を表し、Mはモリブデン(Mo)、タングステン(W)またはその組み合わせ(Mo(1−x))を表す。
【0036】
式(1)のMがMoおよびWの組み合わせ(Mo(1−x))であるとき、xは0〜1のモル分率であることを示す必要がある。なお、第1光の波長は360nm〜550nmの範囲である。すなわち、赤色蛍光体は、紫外光から青色光および黄−緑光の波長を有する第1光によって励起して赤色光を発光するように構成する。
【0037】
より詳細には、赤色蛍光体は、特定の波長、好ましくは394±10nmの近紫外光の波長、465±10nmの青色光波長または535±10nmの黄−緑色光波長を有する光をよく吸収し得る式(1)によって表される化学構造を有する。特定波長の光エネルギーを吸収後、赤色蛍光体は、赤色光の形でエネルギーを放出する。この赤色光の波長は、例えば614nm(以下の図2に示すように)である。
【0038】
さらに、赤色蛍光体によって放出された赤色光は、NTSC色度座標の位置(0.66,0.33)の色純度を有する。言い換えれば、赤色光の色純度は、飽和赤(以下の図4に示すように)に近い。その上、赤色蛍光体の相対輝度は、さらに1.5〜1.9(cd/m)(以下の表1に示すように)に到達する。
【0039】
さらに、赤色蛍光体が高輝度および高い色純度の赤色光を与えるため、この赤色蛍光体を白色LEDに適用する用に構成される。
【0040】
赤色蛍光体の製造方法
図1は、本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の製造方法のフローチャートである。まず、図1の工程S1において、酸化ユウロピアム(Eu)、リン酸水素ジアンモニウム((NHHPO)と、金属モリブデン酸塩もしくは金属タングステン酸塩または金属モリブデン酸塩および金属タングステン酸塩の組み合わせとを含む混合物を化学量論にしたがって用意する。
【0041】
より詳細には、赤色蛍光体の製造方法において、赤色蛍光体の各成分の組成比を式(1)に示すようなモル分率従って調整する。ここで、例えば、金属モリブデン酸塩は、モリブデン酸ナトリウム(NaMoO)、金属タングステン酸塩は、タングステン酸ナトリウム(NaWO)である。
【0042】
次に、工程S2において、前記混合物を混合、粉砕する。工程S2においてより均一な混合物を得るためには、混合物の混合および粉砕は約30分間必要である。
【0043】
その後、工程S3に示すように、混合粉砕した混合物を焼結して赤色蛍光体を形成する。工程S3で焼結を行う場合、均一に混合粉砕した混合物を、例えば酸化アルミニウムるつぼに入れる。次いで、酸化アルミニウムるつぼを高温炉に入れ、焼結を600℃で約6〜10時間行って赤色蛍光体を得る。
【0044】
上記工程を実行することによって得た赤色蛍光体は酸化物状態にあり、AEu(MO)(PO)の化学式(1)で表すことができる。ここで、Aはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)または銀(Ag)を表し、Mはモリブデン(Mo)、タングステン(W)またはそれらの組み合わせ(Mo(1−x))を表す。
【0045】
続いて、図1の工程S4に示すように、特性同定工程S4をさらに工程S1〜S3の実行によって製造した赤色蛍光体に対して実行して、赤色蛍光体の物理的および化学的特性を同定することができる。詳細には、特性同定工程が、X線回折分析、蛍光スペクトル分析、色度座標分析または紫外光−可視光反射スペクトル分析を行うことを含む。しかし、本発明はこれに限定することはない。
【0046】
本発明において提供するような赤色蛍光体の製造方法において、使用した主成分は、塩基性金属モリブデン酸塩、塩基性金属タングステン酸塩、Euおよび(NHHPOであることに注目すべきである。さらに、必要な焼結温度がほんの約600℃である。セリウムをドープした従来のガーネット蛍光体(焼結温度1500℃)、従来のケイ酸塩およびゲルマニウム酸塩蛍光体(焼結温度1000℃〜1200℃)および硫黄含有赤色蛍光体(焼結温度1100℃〜1200℃)と比較して、本発明の赤色蛍光体が前記製造方法においてより低い焼結温度で形成され、したがって必要な電力消費および必要な製造コストを下げることができる。
【0047】
さらに、本発明の赤色蛍光体の組成が化学的安定性に劣る硫化物の代わりに酸化物を含むので、この赤色蛍光体は高い化学的安定性を有する。すなわち、本発明の赤色蛍光体は、紫外光の長期間照射下または高温環境下において長寿命と、広範囲の用途とを得ることができる。
【0048】
以下に、前述した実施態様に従って製造した3種類の赤色蛍光体を列挙する。さらに、特性評価の結果を図2〜図5に示す。ここで、図2は、本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の励起スペクトルである。図3は、本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の発光スペクトルである。図4は、本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体の色度座標の概略図である。図5は、本発明の一実施態様に係る赤色蛍光体のX線回折スペクトルである。加えて、2個の商用の赤色蛍光体を比較のため例示し、本発明において達成した機能および効果を明示する。
【実施例1】
【0049】
図1に示すように、NaWO,Euおよび(NHHPOを化学量論にしたがって混合することにより混合物を形成する。次に、この混合物を30分間の粉砕後、酸化アルミニウムるつぼに置く。その後、るつぼを高温炉に入れ、600℃で8時間焼結して赤色蛍光体NaEu(WO)(PO)を得る。
【0050】
その後、紫外光−可視光反射スペクトル分析、蛍光スペクトル分析、色度座標分析およびX線回折分析をNaEu(WO)(PO)に対して実行する。蛍光励起スペクトル分析の結果を図2に示す。蛍光発光スペクトル分析の結果を図3に示す。色度座標分析の結果を図4に示す。X線回折分析の結果を図5に示す。
【0051】
より詳細には、蛍光スペクトル分析によると、異なる波長の第1光を、Spex Fluorolog−3スペクトロ蛍光計(Instruments S.A., Edison, N.J., U.S.A.)を介して得ることができる。第1光の波長は360nm〜550nmの範囲にある。Spex Fluorolog−3スペクトロ蛍光計によって発生した第1光が測定すべき赤色蛍光体を通過した後、光電子倍増管(Hamamatsu Photonics R928)を利用して、吸収した第1光の強度または第2光の強度を測定する。第2光は、赤色蛍光体によって発光される。色度座標の測定は、CIE1931座標系を利用することによって行う。本例において、色度座標を色分析器(Laiko Dt-100)により測定する。
【0052】
図2を参照するに、実施例1における赤色蛍光体NaEu(WO)(PO)の吸収スペクトルは、x=0で吸収ピークを示す。ここで、実施例1の吸収スペクトルは、394±10nmの近紫外光波長、465±10nmの青色光波長および535±10nmの黄−緑色光波長で明白な吸収強度を有する。より詳細には、吸収強度は394nmの近紫外光波長で最高である。加えて、250nm〜350nmの波長での吸収ピークは、主に電荷移動帯(CTB)によって起こる。
【0053】
次に図3を参照するに、実施例1の赤色蛍光体NaEu(WO)(PO)の発光スペクトルは、x=0で吸収ピークを示す。394nmの近紫外光波長の光を実施例1の赤色蛍光体に適用し、発光スペクトルを測定すると、複数の線形発光領域(,J=1,2,3,4)が580nm〜720nmの波長で生ずる。特に、最高強度の放射光が614nmの波長で線形発光領域に発生する。
【0054】
4個の線形発光領域が、励起状態から基底状態に戻るEu3+の特性スペクトル(,J=1,2,3,4)に属することを説明する。実施例1〜3における特性スペクトルにおいて、より明白な強度を有する2個の線形発光領域は、およびである。590nmの波長に位置する線形発光領域の強度は、磁気双極子特性に関連する。614nmの波長に位置する線形発光領域の強度は、電気双極子遷移に関連する。
【0055】
Eu3+イオンが本発明の赤色蛍光体における結晶格子の非中心対称性の位置を取るため、4f→4f電気双極子遷移がより起こりやすい。したがって、電気双極子の発光強度が増大する。逆に、磁気双極子の発光強度が低下する。要するに、実施例1の赤色蛍光体において、主な吸収ピークは、著しく飽和した赤色光遷移の発光であることが観察できる。
【0056】
さらに、図4を参照するに、赤色蛍光体の色度座標は、NTSC色度座標で(0.66,0.33)である。すなわち、赤色光の色純度は飽和赤に近づく。
【0057】
加えて、図5を参照するに、実施例1における赤色蛍光体NaEu(WO)(PO)のX線回折分析は、x=0で吸収ピークを示す。X線回折分析により、赤色蛍光体の格子構造がわかる。
【実施例2】
【0058】
実施例1と同様に、実施例2は図1に示す製造方法を開示する。本例の製造方法によれば、NaMoO,NaWO,Euおよび(NHHPOを化学量論にしたがって混合することにより混合物を形成する。該混合物の粉砕および焼結後、実施例2の赤色蛍光体NaEu(WO0.5(MoO0.5(PO)を得る。
【0059】
同様に、特性同定を実施例2の赤色蛍光体に対して行い、その結果を図2〜5に示す。実施例2の赤色蛍光体NaEu(WO0.5(MoO0.5(PO)の吸収がx=0.5で示される。
【0060】
実施例2は、組成における金属モリブデン酸塩対金属タングステン酸塩のモル分率が0.5:0.5であることに特徴付けられることに注目すべきである。実施例2における赤色蛍光体のスペクトル特性は、実施例1における赤色蛍光体のものと類似するため、ここで繰り返し説明しない。両者の違いは、異なるピーク強度にある。より詳細には、図3の発光スペクトルにおいて、実施例2のNaEu(WO0.5(MoO0.5(PO)によって発光された赤色光(波長614nm)が最高強度を有する。
【実施例3】
【0061】
実施例1と同様に、実施例3は図1に示す製造方法を開示する。本例の製造方法によれば、NaMoO,Euおよび(NHHPOを化学量論にしたがって混合することにより混合物を形成する。該混合物の粉砕および焼結後、実施例3の赤色蛍光体NaEu(MoO)(PO)を得る。
【0062】
同様に、特性同定を実施例3の赤色蛍光体に対して行い、その結果を図2〜5に示す。実施例3の赤色蛍光体NaEu(MoO)(PO)の吸収がx=1で示される。
【0063】
実施例3における赤色蛍光体のスペクトル特性は、実施例1における赤色蛍光体のものと類似するため、ここで繰り返し説明しない。両者間の違いは、異なるピーク強度にある。前述の分析結果から、本発明の実施例1〜3の赤色蛍光体すべてが、特定波長範囲内で高い光吸収を達成し、波長614nmの赤色光領域で高い発光強度を有する。
【0064】
前述したことを考慮に入れると、本発明で開示した赤色蛍光体は、高い色純度、高輝度および高彩度の赤色光を提供する。本発明の実施例1〜3を、商用の赤色蛍光体(比較例1および比較例2)とさらなる説明のために比較する。実施例1〜3に開示した赤色蛍光体と、比較例における商用の赤色蛍光体とを、実施例1に記述した測定装置を用いて同じ条件下で測定し、その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1を参照するに、実施例1〜3は、本発明で提供した赤色蛍光体である。比較例1は、商用の赤色蛍光体Kasei Optonix P22−RE3(YS:Eu3+)である。比較例2は、商用の赤色蛍光体Kasei Optonix KX−681B(LaS:Eu3+)である。
【0067】
表1から明らかなのは、実施例1〜3の色度座標が比較例1のものと一致し、すべて(0.66,0.33)である。言い換えれば、実施例1〜3に開示した赤色蛍光体から得られた赤色光は、商用の蛍光体と同じ色純度を有する。さらに、赤色光は、NTSC規定の純赤(0.67,0.33)に近づく。
【0068】
実施例1〜3のすべてにおける相対輝度は、比較例1〜2のものより大きいことに注目すべきである。特に実施例2において、Mo対Wのモル分率が0.5:0.5であるとき、相対輝度は1.9(cd/m)であり、これは表1において最も高い。表1に示した比較により、本発明の赤色蛍光体によって発光した赤色光は、高い色純度と、従来の商用製品の相対輝度よりも高い相対輝度とを有する。
【0069】
白色発光装置
図6は、本発明の一実施態様に係る白色発光装置の概略図である。図6を参照するに、白色発光装置200は、LEDチップ210と、光起電性の発光蛍光体220とを含む。LEDチップ210は第1光L1を発光し、光起電性の発光蛍光体220は少なくとも上述の赤色蛍光体を含む。ここで、光起電性の発光蛍光体220を第1光L1によって励起して第2光L2を発光する。第1光L1および第2光L2を混合して白色光を発生する。
【0070】
第1光L1の波長は360nm〜550nmの範囲である。第1光L1の波長が394±10nmの近紫外光波長、465±10nmの青色光波長または535±10nmの黄−緑色光波長を含む場合、光起電性の発光蛍光体220(少なくとも上述の赤色蛍光体を含む)は、第2光L2を発光するように励起される。
【0071】
加えて、光起電性の発光蛍光体220は、さらに黄色蛍光体(図示せず)、青色蛍光体(図示せず)または緑色蛍光体(図示せず)を含むことができる。前述の赤色蛍光体を随意に黄色蛍光体、青色蛍光体および緑色蛍光体と協働するように構成される。
【0072】
より詳細には、白色発光装置200における光起電性の発光蛍光体220は、本発明で提供した赤色蛍光体、二重蛍光体システムまたは多重蛍光体システムとすることができる。例えば、光起電性の発光蛍光体220が単に本発明で提供した赤色蛍光体であるとき、LEDチップ210は、例えば青−緑LEDとすることができる。このとき、LEDチップ210により発光された第1光L1(青−緑色光)と、赤色蛍光体により発光された第2光L2(赤色光)とを混合して白色光を発生する。
【0073】
光起電性の発光蛍光体220が二重蛍光体システムであるとき、光起電性の発光蛍光体220は、例えば、本発明の赤色蛍光体と他の黄色蛍光体の混合物である。ここで、LEDチップ210は、第1光L1(青色光)を発光するための青色LEDとすることができる。第2光L2は、赤色光と黄色光の混合である。第1光L1および第2光L2を混合した後、白色光が発生する。
【0074】
さらに、光起電性の発光蛍光体220はまた、本発明の赤色蛍光体と、緑色蛍光体と、青色蛍光体との混合物とすることができる。LEDチップ210は、紫外LEDとすることができる。このとき、LEDチップ210により発生された第1光L1は紫外光であり、光起電性の発光蛍光体220により発生された第2光L2は、青色光と緑色光と赤色光である。次いで、紫外光、青色光、緑色光および赤色光を混合して白色光を発生する。
【0075】
上述したように、白色発光装置200は、異なる蛍光体システムまたは異なるLEDの組み合わせを適用することによって白色光を発生することができる。白色発光装置200の配置および組み合わせは、その目的および考察にしたがって当業者によって調整できる。
【0076】
要するに、本発明で提供した赤色蛍光体と、その製造方法および白色発光装置は、少なくとも以下の利点を有する。
【0077】
赤色蛍光体が独特の結晶構造を有するため、白色光の演色性を改良するように高輝度および高い色純度の赤色光を発生させることができる。さらに、本発明の赤色蛍光体は酸化物を含むので、赤色蛍光体は、硫化物含有蛍光粉末と比較して、高い化学的安定性(湿度および熱的安定性)を有する。また、本発明で提供した赤色蛍光体の製造方法は、必要な焼結温度が低く、その結果電力消費を減少できる。さらに、本発明で提供した白色発光装置は、前記赤色蛍光体を利用する。したがって、白色発光装置の寿命および応用範囲が、共に拡大される。
【0078】
本発明を上述の実施態様につき説明したが、開示した実施態様に対する修正を本発明の趣旨から離れることなく実行できることは当業者に明らかである。したがって、本発明の範囲は、添付の請求項によって定義し、上述の詳細な説明によっては定義しない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光によって励起されて赤色光を発光するように構成した赤色蛍光体で、
下記の化学式(1)
Eu(MO)(PO
ここでAはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)または銀(Ag)であり、Mはモリブデン(Mo)、タングステン(W)またはその組み合わせ(Mo(1−x))であるものによって表わされることを特徴とする赤色蛍光体。
【請求項2】
前記第1光の波長が360nm〜550nmの範囲である請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項3】
前記第1光の波長が394±10nmの近紫外光波長、465±10nmの青色光波長または535±10nmの黄−緑色光波長を備える請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項4】
前記赤色光の波長が614nmからなる請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項5】
Mがモリブデンおよびタングステンの組み合わせ(Mo(1−x))で、xが0〜1のモル分率である請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項6】
前記赤色光の色度座標の対が(0.66,0.33)である請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項7】
前記赤色光の相対輝度が1.5〜1.9(cd/m)である請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項8】
前記赤色蛍光体を白色発光ダイオードに適合させる請求項1に記載の赤色蛍光体。
【請求項9】
酸化ユウロピアム(Eu)と、リン酸水素ジアンモニウム((NHHPO)と、金属モリブデン酸塩もしくは金属タングステン酸塩または金属モリブデン酸塩と金属タングステン酸塩との組み合わせとを含む混合物を化学量論にしたがって用意し、
該混合物を混合し、粉砕し、
前記混合物を焼結して赤色蛍光体を得ることを備える赤色蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記混合物を混合および粉砕する時間が30分である請求項9に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記混合物の焼結温度が600℃である請求項9に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記混合物の焼結時間が6時間〜10時間である請求項9に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記赤色蛍光体が以下の化学式(1)
Eu(MO)(PO
からなり、Aがリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)または銀(Ag)であり、Mがモリブデン(Mo)、タングステン(W)、またはそれらの組み合わせ(Mo(1−x))である請求項9に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記赤色蛍光体の物理的および化学的特性を同定する特性同定工程をさらに備える請求項9に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項15】
前記特性同定工程がX線回折分析、蛍光スペクトル分析、色度座標分析または紫外光−可視光反射スペクトル分析を行うことを備える請求項14に記載の赤色蛍光体の製造方法。
【請求項16】
第1の光を発光する発光ダイオードチップと、少なくとも請求項1に記載した赤色蛍光体を備える光起電性の発光蛍光体とを備え、前記光起電性の発光蛍光体を前記第1光によって励起して第2の光を発光し、また前記第1光および前記第2光を混合して白色光を発生する白色発光装置。
【請求項17】
前記第1光の波長が360nm〜550nmの範囲である請求項16に記載の白色発光装置。
【請求項18】
前記第1光の波長が394±10nmの近紫外光波長、465±10nmの青色光波長または535±10nmの黄−緑色光波長を備える請求項16に記載の白色発光装置。
【請求項19】
前記光起電性の発光蛍光体が
黄色蛍光体、青色蛍光体または緑色蛍光体をさらに備え、前記赤色蛍光体を随意に前記黄色蛍光体、青色蛍光体および緑色蛍光体と協働して用いるように構成する請求項16に記載の白色発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−242051(P2010−242051A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−134443(P2009−134443)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年12月3日 映像情報メディア学会主催の「The 15▲th▼ International Display Workshops(IDW’08)(第15回ディスプレイ国際ワークショップ)」のプログラム及びProceedingsにて公開 平成20年12月4日 映像情報メディア学会主催の「The 15▲th▼ International Display Workshops(IDW’08)(第15回ディスプレイ国際ワークショップ)」にて文書をもって発表
【出願人】(509112785)中華映管股▲ふん▼有限公司 (6)
【Fターム(参考)】