説明

赤色蛍光材料およびそれを含有する組成物

【課題】蛍光強度を向上させた赤色蛍光材料およびこれを用いたインク組成物の開発。
【解決手段】下記一般式(1)で表される赤色蛍光材料。
【化1】


(式中X1およびX2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。またYは炭素数1〜6のフッ化炭化水素基を表し、Z1およびZ2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。)ならびにこれを用いたインク組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【本発明の属する技術分野】本発明は可視光下で無色であり、紫外線照射下において発色、可視化する化合物、及びその組成物に関する。更に詳しくは発光強度の優れた赤色蛍光材料、及びその組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】トリス(テノイルトリフルオロアセトナート)ユーロピウム錯体やトリス(ベンゾイルトリフルオロアセトナート)ユーロピウム錯体など可視光下で無色であり、紫外線照射下で赤色に発色する化合物が知られており、各種インキなどに応用が図られている。比較的、発光の強度は高いが、さらに発光の量子収率の高い赤色蛍光材料が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は紫外線を照射すると赤色に発色する、安定性に優れ、従来の物と比較して蛍光の発光強度が向上した、赤色蛍光材料、およびそれを含有するインキ組成物を提供する事を目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記の問題を解決するために鋭意努力した結果、ナフチルトリフルオロアセトナート誘導体とトリフェニルホスフィンオキサイド誘導体を配位子としたユーロピウム錯体を得、これを用いることにより蛍光発光強度の優れた赤色発光組成物を得るに至った。すなわち本発明は(1) 下記一般式(1)で表される赤色蛍光材料、
【0005】
【化2】


【0006】(式中X1およびX2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。またYは炭素数1〜6のフッ化炭化水素基を表し、Z1、Z2およびZ3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
(2)X1およびX2がそれぞれ水素原子である、(1)の赤色蛍光材料、(3)Yがトリフルオロメチル基である、(1)または(2)に記載の赤色蛍光材料、(4)Z1、Z2およびZ3が水素原子である、(1)、(2)または(3)に記載の赤色蛍光材料、(5)(1)〜(4)の赤色蛍光材料を含有するインク組成物、に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明を詳細に説明する。本発明の赤色蛍光材料は前記式(1)で表されるもので、一般式(1)中のX1およびX2またZ1、Z2およびZ3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。ハロゲン原子としては塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。またアルキル基、アルコシキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基などのアルキル基としては直鎖または分岐状の飽和、不飽和の炭化水素基を示し、ニトロ基,シアノ基、ハロゲン原子などの置換基を有しても良い。アリール基としてはフェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。アラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。このうち好ましくは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシル基が挙げられ、アルキル基,アルコキシル基は炭素数1〜6の物が良い。さらに好ましくは水素原子、塩素原子、メチル基、エチル基が挙げられる。
【0008】Yは炭素数1〜10のフッ化炭化水素基を表し、具体例としてはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ヘプタデカフルオロオクタン基等のパーフルオロアルキル基、またはモノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリイフルオロエチル基、テトラフルオロプロピル基、オクタフルオロペンチル基などが挙げられる。好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタデカフルオロオクタン基等のパーフルオロアルキル基で更に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0009】前記一般式(1)の化合物は以下の合成例のように例えばアルコールやアセトン中、トリフェニルホスフィンオキサイド類と、例えばパーフルオロアルキル−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオンなどを水酸化ナトリウム存在下、過塩素酸ユーロピウムや塩化ユーロピウムなどと好ましくは0〜80℃で反応することにより合成される。
【0010】
【化3】


【0011】また表1に化合物例を列挙する。この中での置換基の位置はXにおいては2−ナフチルを基準に、ZにおいてはPのオルソ位を2位とした位置関係を示してあり、Phはフェニル基をBzはベンジル基をそれぞれ表す。
【0012】化合物例
【表1】


【0013】これら一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種以上を各種溶剤、樹脂バインダー、その他必要に応じて染料、顔料、界面活性剤などの添加剤を調整し、本発明の赤色蛍光材料の組成物が得られ、種々の塗料、インキなどに使用する事が出来る。本発明に用いられる溶剤としては水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、クロロホルムなどのハロゲン系溶剤、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤が挙げられる。またこれらの溶剤は単独でも用いられるが、混合した状態でも用いる事が出来る。
【0014】本発明に用いる事の出来る樹脂、バインダー類は例えばポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリブチルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース類、ポリオレフィン類などが挙げられる。インク用ワニスとしては、例えばポリアミド系油性インク用ワニス、セルロース系インク用ワニスやアクリル系インク用ワニスなどが挙げられる。
【0015】樹脂に含有させる場合は例えばポリスチレン等の樹脂と本発明の赤色材料を混合し加熱溶融溶解し射出成形器にて樹脂板とすること、例えばメタクリレートモノマーと重合開始剤を本発明の赤色蛍光材料とを混ぜ更に紫外線ランプで照射し重合させること、溶剤に溶かしたポリブチルブチラール樹脂と本発明の赤色蛍光材料をまぜスピンコートするなどにより樹脂フィルム等が得られる。各種インクワニスに適応する場合は例えばアクリル酸メチルポリマーのキシレン、メチルエチルケトン溶液に本発明の赤色発光材料を溶解させ組成物を作成し、アート紙等に塗布する事により得られる。インクジェット用インクなどには本発明の赤色蛍光材料を各種溶剤に溶解し、必要によって表面張力や粘度、導電性調整剤やバインダー樹脂、界面活性剤などの添加剤を使用する事によって組成物を得る事が出来る。
【0016】本発明において、組成物中の上記赤色蛍光材料の濃度は、使用する分野によって異なるが、一般的には組成物中に通常0.001〜10重量%、好ましくは0.01〜3重量%である。
【0017】
【実施例】以下に実施例に基づき、本発明を更に具体的に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中、部は特に指定しない限り重量部を表す。
【0018】実施例1(化合物(2)の合成)
エタノール50部、4,4,4−トリフルオロアルキル−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオン2.4部、トリフェニルホスフィンオキサイド1.7部、10%苛性ソーダ3.6部を室温にて混合し、この溶液中に塩化ユーロピウム六水塩1.1部を水30部に溶解した水溶液を滴下し、2時間撹拌した。反応終了後、析出した白色固体をろ過、水洗、乾燥し、下記式にて示される化合物(2)4部を得た。
吸収スペクトル(メタノール)吸収極大波長331nm蛍光スペクトル(メタノール)励起最大波長333nm:蛍光最大波長613nm融点80℃付近:分解点310℃付近(TG‐DTA使用)
元素分析値:炭素60.81%(理論値:62.28%)、水素3.64%(理論値3.62%)
【0019】
【化4】


【0020】実施例2(インクの作成)
メチルエチルケトン80部に化合物(2)1部を溶解し、次いで酢酸エチル10部、エタノール6部、N−メチル−2−ピロリドン2部、チオシアン酸ナトリウム1部、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体1部を加え混合溶解し、さらにこの溶液を液ろ過し本発明のインク組成物を得た。本発明のインク組成物は貯蔵中に沈殿分離が生じず、また長期間保存後も物性変化は生じなかった。この組成物をインクジェットプリンタを用いて記録を行い、紫外線を照射したところ良好に発色することを確認した。
【0021】実施例3(インクの作成)
エタノール25部に化合物(2)1部を溶解し、グラビアインキ用NCニス74部を加え撹拌溶解させることにより、グラビアインク用組成物を得た。本発明のインク組成物は貯蔵中に沈殿分離が生じず、また長期間保存後も物性変化は生じなかった。この組成物をバーコーターでアート紙上に塗布し乾燥した。紫外線を照射したところ良好に発色することを確認した。
【0022】実施例4(インクの作成)
メチルエチルケトン25部、トルエン25部に化合物(2)1部を溶解し、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート25部、フェニルグリシジルアクリレート25部、光重合開始剤として1−シクロヘキシルフェニルケトン3部を加え撹拌溶解させることにより、紫外線硬化型のインク用組成物を得た。本発明のインク組成物は貯蔵中に沈殿分離が生じず、また長期間保存後も物性変化は生じなかった。この組成物をバーコーターでアート紙上に塗布、乾燥し、高圧水銀灯にて100mJ/cm2のエネルギーを照射して硬化膜を得た。紫外線を照射したところ良好に発色することを確認した。
【0023】比較例1実施例1の4,4,4−トリフルオロアルキル−1−(2−ナフチル)−1,3−ブタンジオンの代わりに4,4,4−トリフルオロアルキル−1−(2−チエニル)−1,3−ブタンジオンを用いて得られる下記式の化合物(3)と本願発明の化合物(1)の蛍光強度を比較した。〔メタノール中、濃度10μg/ml、励起波長333nm、蛍光検出波長613nm。(日立分光蛍光光度計 F−4010)〕蛍光発光強度は以下の表2の様に本発明の赤色発光材料のほうが強く観測された。
【0024】
【化5】


【0025】表2サンプル 蛍光発光強度実施例1の化合物(2) 3000比較例1の化合物(3) 1500
【発明の効果】本発明により、紫外線を照射すると赤色に発色する、従来の物と比較して蛍光の発光強度が向上した、赤色蛍光材料、およびそれを含有する組成物が得られた。またこの化合物は有機溶剤に対する溶解度も高く、安定したインキ組成物が得られる。この蛍光材料を使用することで、発光強度が優れるためインク中への添加量が減らすことが出来、組成物の安定性向上やコストの低減という観点からも利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下記一般式(1)で表される赤色蛍光材料。
【化1】


(式中X1およびX2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。またYは炭素数1〜10のフッ化炭化水素基を表し、Z1、Z2およびZ3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコシキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
【請求項2】X1およびX2がそれぞれ水素原子である、請求項1記載の赤色蛍光材料。
【請求項3】Yがトリフルオロメチル基である、請求項1に記載の赤色蛍光材料。
【請求項4】Z1、Z2およびZ3が水素原子である、請求項1に記載の赤色蛍光材料。
【請求項5】請求項1−4記載の赤色蛍光材料を含有するインク組成物。