説明

赤血球から抗体解離液を調製する方法

【課題】 抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを、遠心洗浄を行うことなく分離し、赤血球から抗体解離液を調製する方法を提供すること。
【解決手段】 赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤血球から抗体解離液を調製する方法、並びに赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸血検査の一つとして、赤血球に結合している抗体を解離し同定する試験、すなわち抗体解離試験が知られている(非特許文献1)。たとえば、体内の赤血球が自己抗体や不規則抗体に感作されている場合、自己抗体や不規則抗体と反応しない血球を含む血液を輸血する必要があるため、赤血球に結合している抗体を解離し同定することは、輸血検査において重要な意味を有する。
【0003】
抗体解離試験は、赤血球から抗体を解離し、その後、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを分離することにより行われる。
【0004】
赤血球からの抗体の解離は、低pHでイオン結合を阻害する「酸解離」と呼ばれる手法、50〜56℃に温度を上げる「熱解離」と呼ばれる手法、抗原抗体結合部位の結合力を、表面張力の低い有機溶媒により反発作用に変化させる「DT解離」と呼ばれる手法、またはクロロキンを用いる「クロロキン解離」と呼ばれる手法により行われる。
【0005】
抗体を解離した赤血球と解離抗体を含有する抗体解離液との分離は、遠心洗浄により行われる。しかし、遠心洗浄の操作は手間がかかるため、多数の検体に対して抗体解離試験を行う大量処理には適していない。
【非特許文献1】Immunohematology Methods and Procedures, First ed., American Rod Cross National Reference Laboratory, 1993, p.67-82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを、遠心洗浄を行うことなく分離し、赤血球から抗体解離液を調製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、赤血球を、レクチンを介して磁性粒子または容器底面に結合させることができることを見出し、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを、遠心洗浄を行うことなく分離することを可能にし、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一つの態様によれば、赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、
赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、
当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む方法である。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む方法である。
【0010】
更に別の態様によれば、本発明は、赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する工程と、
固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを、遠心洗浄を行うことなく分離することが可能である。したがって、本発明の方法は、多数の検体に対し自動化大量処理を行う際に特に優れている。
【0012】
本発明の方法は、解離抗体を含有する抗体解離液を必要とする任意の試験、たとえば自己抗体保有者への適合血の選択などに有用である。また、本発明の方法は、赤血球に結合している微量の抗体を集める際にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について説明するが、以下の記載は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。
【0014】
[第一の実施形態]
第一の実施形態において本発明の抗体解離液の調製方法は、
(1-1)赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、
(1-2)当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
(1-3)当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む。
【0015】
本発明において、「赤血球」として、任意の被検生物より採取した赤血球を用いることができる。
【0016】
以下、(1-1)〜(1-3)の工程順に説明する。
【0017】
(1-1)の工程において、赤血球に結合している抗体を赤血球から溶液中に解離させる。
【0018】
抗体の解離は、当該技術分野で公知の手法、たとえば酸解離、熱解離、クロロキン解離と呼ばれる手法により行うことができる。これらの手法については、上述の非特許文献1を参照することができる。
【0019】
抗体の解離は、後述の実施例に記載されるとおり、市販の抗体解離用試薬(酸解離試薬 例えばDiaCidel(DiaMed AG製))を用いて簡便に行うことができる。たとえば、抗体解離用試薬DiaCidelと赤血球含有溶液を混合し、10〜60秒間(後述の実施例1では30秒間)撹拌することにより、赤血球に結合している抗体を赤血球から周囲の溶液中に解離させることができる。抗体解離用試薬DiaCidelを用いた手法は、低pHグリシン緩衝液を用いた酸解離法である。
【0020】
次いで(1-2)の工程において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る。
【0021】
(1-2)の工程において、まず「レクチンを結合した磁性粒子」を調製する。
【0022】
「磁性粒子」は、免疫検査等で使用される任意の磁性体封入粒子であり、たとえばゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子、ポリスチレン等の合成樹脂で構成される粒子に磁性体を封入したものなどが挙げられる。
【0023】
「ゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子」は、後述の実施例1に記載のとおり、公知の手法に従って作製することができる。封入される磁性体としては、磁性体封入粒子が磁力により液体中を移動可能であれば、任意の磁性体を使用することができ、たとえば、フェリコロイド(タイホ工業(株))等を使用することができる。磁性体の封入量は、ゼラチンアラビアゴムコアセルベートの総重量に対し、たとえば0.01〜0.123重量%とすることができる。
【0024】
ゼラチンアラビアゴムコアセルベートの作製(析出)にあたり酸が添加されるが、酸の添加量に応じてコアセルベートの直径を調節することができる。本発明においてゼラチンアラビアゴムコアセルベート磁性粒子は、赤血球と複合体を形成し、赤血球を磁力により集めるために機能する。このため、その粒径は、0.1〜200μmであることが好ましく、1〜30μmであることがより好ましく、2〜12μmであることが更に好ましい。
【0025】
磁性粒子へのレクチンの結合は、公知の手法、たとえば後述の実施例1に記載のとおり、EDAC/NHS法で磁性粒子にレクチンを結合させることにより行うことができる。磁性粒子に結合させるレクチンとしては、好ましくは、エニシダレクチン(CSA)またはチョウセンアサガオレクチン(DSA)を使用することができる。
【0026】
(1-1)の工程で得られた「抗体を解離した赤血球」と上述の「レクチンを結合した磁性粒子」とを混合し、20〜60秒間(後述の実施例1では30秒間)撹拌して、赤血球・磁性粒子複合体を得ることができる。
【0027】
次いで(1-3)の工程において、赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る。
【0028】
磁力による吸引は、たとえば、赤血球・磁性粒子複合体を含有する容器の底面または側面に磁石を近づけることにより行うことができる。容器の底面または側面に磁石を近づけ、赤血球・磁性粒子複合体を、磁石を近づけた面に集めることにより、赤血球・磁性粒子複合体を除く溶液の部分を、抗体解離液として得ることができる。得られた抗体解離液を別の溶液に移し替えることにより、赤血球・磁性粒子複合体と抗体解離液とをそれぞれ別の容器に分離し、それぞれをその後の分析のために使用することができる。
【0029】
このようにレクチンを結合した磁性粒子を使用することにより、遠心分離操作をすることなく簡便に抗体解離液を得ることができる。
【0030】
別の側面に従って、本発明は、上記工程を用いて赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法を提供する。すなわち、本発明は、赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法であって、
赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、
当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として赤血球から分離する工程
を含む方法を提供する。
【0031】
[第二の実施形態]
第二の実施形態において本発明の抗体解離液の調製方法は、
(2-1)溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
(2-2)赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
(2-3)当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む。
【0032】
第一の実施形態が(1-1)の解離工程の後に(1-2)の複合体形成工程を行うのに対し、第二の実施形態は、複合体形成工程の後に解離工程を行う点で両者は異なる。すなわち、第二の実施形態は、先に赤血球・磁性粒子複合体を形成し、その後、赤血球に結合している抗体を溶液中に解離させることにより、抗体解離液を得る。
【0033】
このように第二の実施形態に係る方法は、第一の実施形態に係る方法と工程の順序が異なる点を除けば、第一の実施形態に係る方法と同じであるため、その詳細については、第一の実施形態の説明を参照することができる。
【0034】
別の側面に従って、本発明は、上記工程を用いて赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法を提供する。すなわち、本発明は、赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として赤血球から分離する工程
を含む方法を提供する。
【0035】
[第三の実施の形態]
第三の実施形態において本発明の抗体解離液の調製方法は、
(3-1)溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する工程と、
(3-2)固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む。
【0036】
(3-1)の工程において、溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する。
【0037】
「容器」は、プラスチック、ガラス製の容器、たとえばマイクロタイタープレート、試験管型の小容器などを使用することができる。また、容器の内壁面に固相化するレクチンは、好ましくは、小麦胚芽レクチン(WGA)、エニシダレクチン(CSA)、チョウセンアサガオレクチン(DSA)、ピーナツレクチン(PNA)、またはハリエニシダレクチン(H)を使用することができる。
【0038】
レクチンを介した赤血球の固相化は、後述の実施例2に記載されるとおり行うことができ、たとえば、レクチン含有溶液を容器に入れ、2〜8℃に冷却して6〜18時間(オーバーナイト)インキュベートすることにより、容器の内壁面をレクチンでコートし、その後、レクチンコート容器に赤血球を入れて10〜30分間静置して、赤血球を固相化することができる。本発明において内壁面は、底面と側面の両方であってもよいし、底面または側面のみであってもよい。
【0039】
ただし、後述の実施例2において、レクチンを介した赤血球の固相化は、血清タンパク質の存在により、阻害されることが示されているため、レクチンを介して容器の内壁面に赤血球を固相化する際には、血清タンパク質の混入を防ぐことが望ましい。具体的には、赤血球の試料をあらかじめ遠心洗浄する(生理食塩液で1〜2回洗浄する)ことにより、赤血球の試料中に血清タンパク質が混入するのを防ぐことが可能である。
【0040】
次いで(3-2)の工程において、固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を溶液中に解離させる。
【0041】
抗体の解離は、上述のとおり、当該技術分野で公知の手法、たとえば酸解離、熱解離、クロロキン解離等により行うことができる。抗体を赤血球から溶液中に解離させることにより、固相化された赤血球を除く溶液の部分を、抗体解離液として得ることができる。得られた抗体解離液を別の溶液に移し替えることにより、固相化された赤血球と抗体解離液とをそれぞれ別の容器に分離し、それぞれをその後の分析のために使用することができる。
【0042】
このように赤血球を予め固相化することにより、遠心分離操作をすることなく簡便に抗体解離液を得ることができる。
【0043】
別の側面に従って、本発明は、上記工程を用いて赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法を提供する。すなわち、本発明は、赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器底面に固相化する工程と、
固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として赤血球から分離する工程
を含む方法を提供する。
【実施例】
【0044】
実施例1
(1)赤血球結合用磁性粒子の作成
コアセルベートの主要構成材料のゼラチンS1757はニッピ工業、アラビアゴムは仙波糖化工業より入手した。エタノール、1N NaOH、1N酢酸、グルタルアルデヒド、Tween20は和光純薬製を使用した。コアセルベートは、撹拌機で600rpmで撹拌を行い、合成した。
【0045】
0.6 gのアラビアゴムをEtOH:H2O(2:1)69 mlに溶かし、更に10% Tween20 0.2 ml、フェリコロイドW10(タイホー工業)0.1 mlを添加し、1N NaOHでpHを10〜11に調整したのち、40℃に加温した4%ゼラチン水溶液(ニッピ工業)10 mlを混合した。撹拌しながら、0.2 N酢酸をゆっくり添加し、コアセルベートを作製した。予め求めたpH 5において酢酸添加を中止して、目的径約10μmの磁性体粒子を作製した。コアセルベートが形成されたら、氷水の入ったバットにて撹拌して10℃以下に冷却し、ゲル化した。その後、グルタルアルデヒドを2 ml加え、そのまま30分間撹拌し、室温で一晩静置して、コアセルベート(磁性体粒子)を架橋した。
【0046】
このようにして磁性体封入ゼラチンアラビアゴムコアセルベートを作成した。
【0047】
次いで、磁性体封入ゼラチンアラビアゴムコアセルベートに、バインダー物質としてチョウセンアサガオレクチン(DSA)を結合し、レクチン結合磁性粒子を作成した。
【0048】
架橋したコアセルベートは、純水で洗浄後、20%(V/V)に調整した。その10mLを分取して、沈さに10mLのN−ヒドロキシスクシンイミド(ナカライテスク(株))0.01g/mLとEDAC(Sigma Chemical)0.01g/mL水溶液を加え、攪拌しながら室温で2時間反応させた。反応後、コアセルベートを洗浄し、DSA(Jオイルミルズ製)を0.01M MES pH 5に10μg/mLになるように溶解したものを加えて、室温で一晩反応させた。反応後はBSA/PBS(0.1%BSA含PBS pH7.2)で3回洗浄して、BSAでブロッキングを行い、0.1%BSA含PBS pH7.2に10%(V/V)濃度で浮遊させた。
【0049】
(2)赤血球結合用磁性粒子による赤血球の捕捉確認
(1)で作成した5%(V/V)濃度の赤血球結合用磁性粒子の浮遊液(25μL)に、O、AまたはB型の赤血球3%浮遊液1滴(50μL)(試薬血球Ortho社セレクトジェン、アファーマジェン)を加えて、時計皿上で撹拌した。3分後に血球凝集を目視観察した。
【0050】
赤血球結合用磁性粒子のバインダー物質として、チョウセンアサガオレクチン(DSA)の代わりに種々のバインダー物質を用いて実験を行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0051】
表1において、0、+、++、及び+++とある表示は、図1に示すような凝集状態を表すものとする。図1は、時計皿全体の様子とその一部を拡大した様子を模式的に示す。即ち、(a)“0”は磁性粒子と赤血球が反応しない状態を表す。(b)“+”は、磁性粒子と赤血球が弱く凝集し、細かい凝集を生じた状態を表す。(c)“++”は、磁性粒子と赤血球が強く凝集し、比較的大きな凝集を生じた状態を表す。(d)“+++”は、磁性粒子と赤血球が強く凝集し、大きい凝集塊を生じた状態を表す。
【0052】
表1に示したように、磁性粒子に固定化した状態で赤血球を凝集させる能力を有するバインダー物質として、エニシダレクチン(CSA)及びチョウセンアサガオレクチン(DSA)が有効であることがわかった。特にDSAの凝集力が強く、最も好適に用いられることが示された。そのほかのバインダー物質、WGA、PNA、Hレクチンは、プレートに固相化した状態では結合能を有するにもかかわらず(下記表2参照)、磁性粒子に固定化した状態では結合能を示さなかった。
【0053】
更に、ドナー由来の血漿が混入した状態において、赤血球結合用磁性粒子が赤血球を凝集する能力を測定した。
【0054】
上記と同じ方法を用いて、血清が25%混入した状態における赤血球凝集力を観察した。O型ドナー赤血球を使用した。この結果も併せて表1に示す。O、AまたはB型の赤血球に対して凝集力を有したバインダー物質は、血漿成分の混入があっても同様に赤血球を凝集できることが確認された。
【0055】
以上の結果から、赤血球を結合するための磁性粒子に用いることができるバインダー物質は、エニシダレクチン(CSA)及びチョウセンアサガオレクチン(DSA)であることが明らかになった。従って、赤血球結合用磁性粒子としては、ゼラチンアラビアゴムコアセルベートを担体とする磁性粒子に、エニシダレクチン(CSA)及びチョウセンアサガオレクチン(DSA)から選択されるバインダー物質が固定化されたものが好適に用いられる。
【0056】
(3)抗体解離液の調製
(3−1)第一の実施形態の例
抗体解離用試薬DiaCidel(DiaMed AG製)の酸溶液1滴(50μL)と、抗D感作赤血球(3%)(自家調整;O型 Rh(+)血球に抗Dポリクローナル抗体を感作)1滴(50μL)を混合し、30秒間撹拌した。これにより赤血球に結合している抗体を解離させた。そこに(1)で作成した赤血球結合用磁性粒子5 v/v %(25μL)を加えて、撹拌し、磁石を近づけた。その結果、酸溶液中でも赤血球が凝集し、磁石で捕捉できることが確認された。磁石で赤血球・磁性粒子複合体を捕捉し、残りの液体部分を抗体解離液として得た。
【0057】
(3−2)第二の実施形態の例
(3−1)と同様に、抗D感作赤血球(3%)1滴(50μL)と、(1)で作成した赤血球結合用磁性粒子5 v/v %(25μL)を混合し、30秒間撹拌し、先に赤血球・磁性粒子複合体を形成した。そこに抗体解離用試薬DiaCidel(DiaMed AG製)の酸溶液1滴(50μL)を加えて、撹拌し、磁石を近づけた。酸溶液の添加により赤血球に結合している抗体を解離させ、磁石で赤血球・磁性粒子複合体を捕捉し、これにより、残りの液体部分を抗体解離液として得た。
【0058】
このように先に赤血球・磁性粒子複合体を形成し、その後、赤血球に結合している抗体を解離させる順序でも、赤血球・磁性粒子複合体を磁石で捕捉できることが確認された。
【0059】
(4)抗体解離液のアッセイ
(3−1)で得られた抗体解離液および(3−2)で得られた抗体解離液をそれぞれ、DiaCidel(DiaMed AG製)の中和溶液で中和した。その後、その25μLを検体として、DiaMed社AHGカードとID DiaCell I,IIで抗体の検出を行った。その結果、抗体解離液中に抗D抗体を認めた。
【0060】
以上より、本発明の方法を用いて、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを遠心洗浄を行うことなく分離できることが証明された。
【0061】
実施例2
(1)赤血球固相用プレートの作成
Nalge-Nunc社の平底マイクロプレートに予めWGA(小麦胚芽レクチン)をコートしたプレートを作成した。すなわち、Nalge-Nunc社の平底マイクロプレートに、0.1Mの炭酸バッファーで10μg/mLに希釈したWGA(ホーネンコーポレーション)を50μL/well分注して、冷蔵オーバーナイトインキュベート後、生理食塩水で洗浄し、BSA/PBS 50μLを分注してブロッキングした。
【0062】
(2)赤血球固相用プレートによる赤血球の捕捉確認
(1)で作成した赤血球固相用プレートに、試薬赤血球(Ortho社サージスクリーンI)1滴(3%、50μL/well)を分注して、10分間放置後、生理食塩水で3回洗浄して、血球結合を観察した(この結果は、下記表2において「タンパクフリー」の場合の結果として示される)。また、AB型血清5%を添加した3%赤血球(50μL/well)を分注して、血清蛋白存在下での血球結合も試みた(この結果は、下記表2において「タンパク存在下」の場合の結果として示される)。
【0063】
赤血球固相用プレートのバインダー物質として、WGA(小麦胚芽レクチン)の代わりに種々のバインダー物質を用いて実験を行った。血球結合の結果を、以下の表2に示す。
【表2】

【0064】
表2に示されるとおり、プレートに固相化された状態で赤血球を結合する能力を有するバインダー物質として、小麦胚芽レクチン、エニシダレクチン、チョウセンアサガオレクチン、ピーナツレクチン、ハリエニシダレクチンが有効であることがわかった。
【0065】
しかし、上述のバインダー物質を使用した場合であっても、血清蛋白存在下では、血清タンパク質の存在により赤血球の結合が阻害された。
【0066】
以上の結果から、赤血球を固相化するためのプレートに用いることができるバインダー物質は、小麦胚芽レクチン、エニシダレクチン、チョウセンアサガオレクチン、ピーナツレクチン、ハリエニシダレクチンであることが明らかになった。従って、赤血球固相用プレートとしては、プレートに小麦胚芽レクチン、エニシダレクチン、チョウセンアサガオレクチン、ピーナツレクチン、ハリエニシダレクチンから選択されるバインダー物質が固相化されたものが好適に用いられる。
【0067】
ただし、血清蛋白存在下では、上記バインダー物質を介した赤血球の固相化が妨害されるため、上記バインダー物質を介して容器の内壁面に赤血球を固相化する際には、血清タンパク質の混入を防ぐことが望ましい。
【0068】
(3)抗体解離液の調製
D陽性O型赤血球(自家調整;Ortho社サージスクリーンIに抗D血清を感作した)を0.8%に希釈し、(1)で作成したマイクロプレートに分注後、10分放置して生理食塩水で洗浄して、赤血球固相プレートを得た。ここに、抗D血清を50μL添加し、15分間反応させたあと、マイクロプレートウォッシャーを使用し、生理食塩水で5回洗浄した。洗浄後、抗体解離用試薬DiaCidel(DiaMed AG製)を25μL加えて30秒間放置後、固相化された赤血球を除く溶液の部分を、抗体解離液として得た。
【0069】
(4)抗体解離液の反応性の確認
(2)で得た抗体解離液25μlをDiaCidel(DiaMed AG製)の中和溶液で中和した。その後、その25μLを検体としてDiaMed社AHGカードとID DiaCell I,IIで抗体の検出を行った。その結果、抗体解離液中に抗D抗体を認めた。
【0070】
以上より、本発明の方法を用いて、抗体を解離した赤血球と、解離抗体を含有する抗体解離液とを遠心洗浄を行うことなく分離できることが証明された。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】レクチンを結合した磁性粒子による赤血球の凝集状態を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、
赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、
当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む方法。
【請求項2】
赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む方法。
【請求項3】
前記レクチンが、エニシダレクチン(CSA)またはチョウセンアサガオレクチン(DSA)である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
赤血球から抗体解離液を調製する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する工程と、
固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として得る工程
を含む方法。
【請求項5】
前記レクチンが、小麦胚芽レクチン(WGA)、エニシダレクチン(CSA)、チョウセンアサガオレクチン(DSA)、ピーナツレクチン(PNA)、またはハリエニシダレクチン(H)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法であって、
赤血球を含有する溶液中において、赤血球から、赤血球に結合している抗体を解離させる工程と、
当該溶液中において、抗体を解離した赤血球と、レクチンを結合した磁性粒子とを混合し、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として赤血球から分離する工程
を含む方法。
【請求項7】
赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して磁性粒子に結合させ、赤血球・磁性粒子複合体を得る工程と、
赤血球・磁性粒子複合体から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させる工程と、
当該溶液中の赤血球・磁性粒子複合体を磁力により吸引し、当該溶液を抗体解離液として赤血球から分離する工程
を含む方法。
【請求項8】
赤血球と赤血球結合抗体とを分離する方法であって、
溶液中において、赤血球をレクチンを介して容器の内壁面に固相化する工程と、
固相化された赤血球から、赤血球に結合している抗体を当該溶液中に解離させ、当該溶液を抗体解離液として赤血球から分離する工程
を含む方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−60416(P2010−60416A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226071(P2008−226071)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】