説明

赤血球が混在するデバイス上の目的細胞検出方法

【課題】分離工程の不完全性を担保し、多数残存するノイズ細胞を積層した状態であっても目的細胞であるレア細胞を検出できる方法を提供すること。
【解決手段】工程(a):目的細胞および非目的細胞を含む細胞懸濁液を基板上に展開する工程;工程(b):蛍光標識体を用いて、目的細胞を標識する工程;工程(c):目的細胞を標識した蛍光標識体に対応する励起光を照射して得られる発光シグナルの、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第一の情報と、非目的細胞によってその一部が吸収される該励起光とは異なる波長の光を照射して得られる非目的細胞の光学特性値の、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第二の情報とを取得する工程;ならびに工程(d):第一の情報および第二の情報に基づいて、目的細胞の有無に関する情報を得る工程を含むことを特徴とする、目的細胞の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的細胞の検出方法に関する。さらに詳細には、本発明は、体液中に極微量に存在するレア細胞(すなわち目的細胞)を特別な分離技術なしで検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レア細胞を検出するためには、ヘテロ細胞集団からレア細胞のみを分離し、検査細胞数を低減させる方法が一般的である。
しかしながら、厳密にレア細胞を分離することは難しく、また分離工程でレア細胞を損失(ロス)してしまう可能性が高く、検出精度が低下してしまうという問題がある。
【0003】
さらに、一般的な病理細胞診において、細胞の検出には細胞集団を単層に展開する必要があり、そのため展開できる細胞数には制限が生じる。また、細胞同士が重なった場合は、検査対象から外されることなどから、一部検査による偏った検出や事象見逃しが問題となっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、操作による血球損失をなくすため赤血球溶解・希釈を必要とせず、全血(10μL程度)を走査毛細管に入れ蛍光観察する際に、赤血球の吸収・散乱および自家蛍光の影響を受けない蛍光色素(すなわち、赤血球が妨害しない励起波長を有する蛍光色素)を選択し、目的細胞である白血球を検出する方法が開示されている。白血球を検出した結果の一例として、図2(a)および(b)に示すように、走査毛細管中において、ローレックス作用のために均一には分布しない赤血球である非標識化細胞(86)と、白血球である標識化細胞(120,122,124)とに対応する、走査毛細管を横断する走査ラインからの蛍光反応をプロットしたグラフが得られている。このグラフから、積層した細胞集団が多量の血漿に置換するため、走査するレーザービームが赤血球群に出会うとバックグランドシグナルが低下することがわかる。
【0005】
しかしながら、このような方法では、走査毛細管を洗浄することができないことから、フリーの蛍光色素由来の発光シグナルを分離できる程度に充分な標識化細胞由来の発光シグナルが必要となるため、標識化抗体が標的とする分子の発現量が低い場合には、検出が困難となる場合がある。さらに、癌患者から採取した血液10mL当りに含まれる腫瘍細胞が10個程度と極めて少ないことを考慮すると、一度に20μLの血液しか扱えない特許文献1に記載の方法では腫瘍細胞を20μL中に含まない可能性が高い。
【0006】
他方、特許文献2には、間隙を調整したチャンバ内に、赤血球溶血も希釈もしていない全血をアプライ(20μL)し、静置により赤血球凝集(クラスター)を引き起こさせることによって小窩(クラスター同士の間に残った開放領域)を形成させ、他の細胞の観察が容易となる検出方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、クラスターの中に目的細胞が紛れた場合、その目的細胞を見落とす虞がある。さらに、特許文献1に記載の方法と同様に、一度に20μLの血液しか扱えない特許文献2に記載の方法では腫瘍細胞を20μL中に含まない可能性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2000−510572号公報(特許第3623513号公報)
【特許文献2】特表2003−526082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、分離工程の不完全性を担保し、多数残存するノイズ細胞を積層した状態であっても目的細胞であるレア細胞を検出できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、赤血球の光特性(光吸収や自家蛍光)を利用し、かつ標識化した細胞のシグナルを取得することで、目的細胞を多層中でも観察できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の目的細胞の検出方法は、
工程(a):目的細胞および非目的細胞を含む細胞懸濁液を基板上に展開する工程;
工程(b):蛍光標識体を用いて、目的細胞を標識する工程;
工程(c):目的細胞を標識した蛍光標識体に対応する励起光を照射して得られる発光シグナルの、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第一の情報と、非目的細胞によってその一部が吸収される該励起光とは異なる波長の光を照射して得られる非目的細胞の光学特性値の、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第二の情報とを取得する工程;ならびに
工程(d):第一の情報および第二の情報に基づいて、目的細胞の有無に関する情報を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0012】
上記光学特性値は、非目的細胞に由来する吸光度(吸収・散乱・反射)または自家蛍光強度であることが好ましい。
上記細胞懸濁液は、血液であることが好ましい。
【0013】
上記工程(a)の前に、さらに、血液から赤血球数を減らす前処理工程を有することが好ましい。
上記目的細胞は、血中遊離癌細胞〔CTC〕または白血球であってもよく、上記非目的細胞は、赤血球であることが好ましい。
【0014】
上記蛍光標識体の発光波長のピークは、赤血球の主要な吸収波長領域である400nm以上550nm以下に含まれないことが好ましい。
上記工程(d)における目的細胞の有無に関する情報は、上記第一の情報における発光シグナルの強度の補正値であることが好ましい。
【0015】
上記発光シグナルの強度の補正値は、上記第一の情報における発光シグナルの強度と上記第二の情報における吸光度と陰性対照としての上記非目的細胞のみからなる吸光度とから、算出されることが好ましい。
【0016】
上記工程(d)は、上記第一の情報および上記第二の情報に基づいて、上記工程(a)で得られた基板上の目的細胞の位置に関する情報をさらに得ることができる。
上記工程(d)は、さらに目的細胞が最表層に位置するか、または非目的細胞の下方に埋もれているか否かの情報を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、レア細胞等の目的細胞を分離する工程を含まず、その分多数残存するノイズ細胞を積層した状態でも目的細胞を検出できる方法を提供できる。このように細胞同士が積層した状態によって、より細胞占有面積(デバイス基板の大きさ)を小さくすることができる。
【0018】
このような検出方法によって、分離工程の不完全性が担保されるとともに、検出時の検査細胞総数が多くなり、その結果検出精度が向上する。また、圧倒的多数の非目的細胞の存在により、目的細胞がその中に埋没した状態であっても、非目的細胞の光学特性値(吸光度や自家蛍光)を測定することにより、目的細胞からの発光シグナルの補正を行い、より正確な標識化細胞の発光シグナルを求めることなどもでき、より正確な目的細胞の個数算出を行うことができる。
【0019】
さらに、本発明の検出方法は、一般的な血液塗沫検査よりも、より多数の事象を検出できる方法として応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施例1において、基板上に展開され、暫く静置された細胞(赤血球,白血球およびCTC)が自重で基板表面に接着した際の、いくつかの態様(1),(3),(4)、ならびに陽性対照(2)および陰性対照(5)の横断面図を模式的に示した図を示す。
【図2】図2(a),(b)はそれぞれ、特許文献1の図6A,Bに相当するものであって、(a)は、不均一なヘマトクリット層を有する三態様の標識化細胞(120,122,124)を有する走査毛細管の横断面図を示し、(b)は、(a)のサンプルに沿って横断する走査ラインにより作られる蛍光シグナルのグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る目的細胞を検出する方法について詳細に説明する。
本発明の検出方法は、下記工程(a)〜(d)を含むことを特徴とするものであり、本発明で用いる細胞懸濁液が血液である場合は、さらに前処理工程および/または補正工程を含むことが好ましい。
【0022】
工程(a):目的細胞および非目的細胞を含む細胞懸濁液を基板上に展開する工程。
工程(b):蛍光標識体を用いて、目的細胞を標識する工程。
工程(c):目的細胞を標識した蛍光標識体に対応する励起光を照射して得られる発光シグナルの、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第一の情報と、非目的細胞によってその一部が吸収される該励起光とは異なる波長の光を照射して得られる非目的細胞の光学特性値の、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第二の情報とを取得する工程。
【0023】
工程(d):第一の情報および第二の情報に基づいて、目的細胞の有無に関する情報を得る工程。
前処理工程:血液から非目的細胞である赤血球数を減らす工程。
【0024】
補正工程:上記目的細胞の蛍光シグナルの強度と上記非目的細胞の光学特性値の強度との演算により、蛍光シグナル強度を補正する工程。補正工程ついては、実施例で詳細に説明する。
【0025】
光学特性値は、吸光度(吸収・散乱・反射)または自家蛍光強度であることが好ましく、より好ましくは吸光度である。
本発明の検出方法は、目的細胞の位置、すなわち平面的な縦横方向のみならず高さ方向も含めた位置に関する情報が得られるため、目的細胞が非目的細胞の下層ではなく、最表層に位置していれば、上方より目的細胞を個々に採取し、遺伝子やタンパク質発現の分子解析等の分析に用いることができる。
【0026】
<細胞懸濁液>
本発明で用いる細胞懸濁液としては、例えば、血液やその他体液,または組織由来の細胞や培養細胞等が懸濁した溶液などが挙げられ、これらのうち、血液が好ましい。
【0027】
細胞懸濁液が血液である場合、目的細胞としては、「レア細胞」や「白血球」などが挙げられる。「レア細胞」としては、例えば、血中遊離癌細胞〔CTC〕,内皮細胞,内皮前駆細胞,幹細胞などが挙げられ、これらのうち、CTCが好ましい。なお、ヘテロ細胞集団からなる血液において、本発明では、赤血球を特に「ノイズ細胞」とも言い、赤血球は、血液1mLに含有される細胞数が3.8×109〜6.2×109個であるのに対して、白血球は4.1×106〜1.09×107個、CTCに関しては血液10mL中に数個程度である。また、赤血球は、400〜550nmに主要な吸収波長領域を有し、これは赤血球が元々含有しているヘモグロビンによるものである。
【0028】
<蛍光標識体>
本発明で用いる蛍光標識体は、非目的細胞によるシグナル強度の過度の減少を避けるため、その発光波長のピークが、非目的細胞の主要な吸収波長領域(400nm以上550nm以下)に含まれないものが好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、表1に記載の蛍光標識体が本発明で用いることのできるものとして挙げられる。
【0029】
【表1】

これら蛍光標識体の他に、発光波長が400nm以上550nm以下に含まれない発光波長を有する蛍光ナノ粒子やアップコンバージョン粒子も本発明に用いることができる。
【0030】
蛍光色素として上記二種以上の蛍光標識体等を同時に本発明に用いると、より診断精度が向上するため好ましい。ここで、異なる二種の蛍光標識体(蛍光色素)とは、発光波長のピークが異なることを意味する。検出器の構成や精度にもよるが、それぞれの発光波長のピークを検出できる程度に互いの発光波長のピークが異なるものを用いることが好ましい。
【0031】
これら蛍光色素を用いて細胞を標識する際、細胞膜表面上あるいは細胞内に存在する特定の分子を特異的に認識し結合する抗体に蛍光色素を固定化させたものを用いることが好ましい。
このような抗体としては、例えば、表2に記載されたもの等が挙げられる。
【0032】
【表2】

例えば、CTCには、第一の蛍光色素で標識化した抗CD45抗体と、第二の蛍光色素で標識化した抗CK抗体とを結合させることができる。したがって、それらを併用して、第一の蛍光色素由来のシグナルと第二の蛍光色素由来のシグナルとの両方を発する部位を検出することにより、非特異的吸着などによるノイズを排除し、より確実にCTCの位置を特定することができる。
【0033】
抗体に蛍光色素を固定化する方法としては、例えば、アミンカップリングする方法,チオールカップリングする方法,アルデヒドカップリングする方法などが挙げられるが、本発明はこれらの方法に限定されない。
【0034】
<細胞懸濁液が血液である場合>
細胞懸濁液が血液であり、多量の赤血球に混在する微量の白血球およびCTCを同定する一態様を、以下具体的に説明する。
【0035】
[前処理工程]
この工程は、細胞懸濁液が血液である場合、特に血液から非目的細胞である赤血球数を減らす工程であり、工程(a)を実施する前に実施することが好ましい。より具体的な手順を以下に説明する。
【0036】
エチレンジアミン四酢酸〔EDTA〕を用いて血液凝固を阻止した血液を、ウシ血清アルブミン〔BSA〕添加リン酸緩衝食塩水〔PBS〕で希釈し、フィコール密度勾配媒体を入れた遠心管チューブに重層する。遠心分離後、バフィコート層を含む上清を採取する。この上清は残存赤血球,白血球,その他レア細胞(CTC,内皮細胞,内皮前駆細胞,幹細胞など)を含んでいる。
【0037】
あるいは、EDTAを用いて血液凝固を阻止した血液を、室温で5分間、等張性塩化アンモニウム緩衝液で一部溶解させる。遠心分離後、残留する血球細胞ペレットをBSA添加PBSに再懸濁させてもよい。
【0038】
[工程(a)および(b)]
工程(a)および(b)はそれぞれ、目的細胞および非目的細胞を含む細胞懸濁液を基板上に展開する工程および蛍光標識体を用いて、目的細胞を標識する工程であり、これら工程の順序は工程(a)が先であっても工程(b)が先であってもよい。細胞懸濁液が血液であり、工程(a)に続いて工程(b)を実施する具体的な手順を以下に説明する。
【0039】
上清中の細胞をパラホルムアルデヒド中で固定化し、PBSで洗浄後、BSAおよび界面活性剤であるTween20を含むPBSでブロッキングし、細胞膜を透過性にする。
次に、白血球同定のためのAlexa Fluor 647固定化抗CD45抗体とCTC同定のためのAlexa Fluor 790固定化抗CK抗体との混合抗体試薬液を平面基板に浸して、37℃で30分間〜1時間インキュベートする。その後余剰な抗体試薬を洗浄する。
【0040】
細胞膜を透過性にした細胞懸濁液を、基板上間隙が100μmである空間内に満たすように展開する。図1に示すように、暫く静置することによって、自重で細胞が基板表面に接着し、細胞の層または塊の上にさらに細胞が重なる場合がある。
【0041】
[工程(c)]
工程(c)は、蛍光標識体に対応する励起光を照射して得られる発光シグナルの、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第一の情報と、非目的細胞によってその一部が吸収される該励起光とは異なる波長の光を照射して得られる非目的細胞の光学特性値の、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第二の情報とを取得する工程である。
【0042】
上記の、工程(a)に続いて工程(b)を実施した手順の後の工程(c)の具体的な手順を以下に説明する。
蛍光励起用として半導体レーザを基板上の細胞に照射し、抗体に固定化した蛍光色素Alexa Fluor 647およびAlexa Fluor 790の蛍光シグナルを、蛍光フィルタを用いて取得する(第一の情報の取得)。次に、吸収測定用としてArレーザ(488nm)を基板上の細胞に照射して吸収量を計測する(第二の情報の取得)。赤血球の吸収が大きい領域は400〜550nmであり、赤血球が多い場所では吸収量が多くなる。
【0043】
なお、半導体レーザとArレーザとの照射する順序は逆であってもよいが、蛍光色素の褪色や細胞への影響を考慮して長波長側(すなわち半導体レーザ)から照射することが好ましい。また蛍光シグナルの取得は同時であってもよい。
【0044】
[工程(d)]
工程(d)とは、第一の情報および第二の情報に基づいて、目的細胞の有無に関する情報を得る工程であり、好ましくは、工程(a)で得られた基板上の目的細胞の位置に関する情報をさらに得ることができ、より好ましくは、さらに目的細胞が最表層に位置するか、あるいは非目的細胞の下方に埋もれているか否かの情報を得ることができる。
【0045】
工程(d)については、実施例でさらに詳細に説明する。
なお、白血球またはCTCが高さ方向の積層する場合について、白血球またはCTCは赤血球に対して、極めて数が少ないため、積層する確率はかなり低いと考えられ、例え積層したとしても、双方の横方向の位置はずれている場合が多く、高さ方向まできれいにそろって積層することは考えにくい。また、白血球またはCTCに標識される蛍光色素量は、厳密には細胞1個1個で差異はあるが、ほぼ同程度であると考えられる。
【0046】
以上の実施形態においては、光学特性値として「吸光度」を例にとって説明した。特に、CTCまたは白血球を目的細胞とし赤血球をノイズ細胞である非目的細胞として、目的細胞を標識した蛍光標識体に対応した発光シグナルを、非目的細胞とした赤血球による吸光度を用いて補正することができる。この「吸光度」に代えて、赤血球やその他細胞に含まれる自家蛍光を発する物質、例えば、NADH、NADPH、フラビンタンパク質などを利用し、それらを含有する細胞を非目的細胞として、目的細胞に基づく発光シグナルを、非目的細胞の自家蛍光を用いて補正することもできる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[実施例1]
<工程(b):細胞の蛍光標識>
被験者から採血した血液(1mL)に、白血球標識用のAlexa Flour 647(インビトロゲン社)で標識した抗CD45抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)溶液を10μL添加し、室温暗所で30分反応させた。さらに、パラホルムアルデヒド(和光純薬)を4%になるように加えて、ゆるやかに混和し、室温暗所にて、15分間反応させた。
【0048】
ここに、リン酸緩衝食塩水〔PBS〕を充分量加えて混和し、遠心分離にて洗浄を行い、次に細胞膜透過処理用として0.1% Tween20を含むPBSを1mL、および、CTC標識用のAlexa Flour790(インビトロゲン社)で標識した抗CK抗体(Micromet社)溶液10μLを添加して、ゆるやかに混和し、室温暗所にて、30分反応させた。
この後、遠心分離により細胞に結合していない抗体試薬を除去し、新たにPBSを添加して再懸濁させ、基板への細胞アプライサンプルとした。
【0049】
<工程(a):基板への展開>
得られた細胞アプライサンプル(すなわち、蛍光標識した細胞懸濁液)の一部を、基板上間隙が100μmである空間へマイクロピペットにて展開させ、数分放置して細胞を自重にて積層させた。
【0050】
<工程(c):シグナル検出>
まず、細胞が展開された基板全面にわたり、直径100〜500μmの範囲で蛍光シグナルのスキャンを行い、次に、微弱であっても蛍光シグナルが検出された個所について、直径1〜20μmの範囲(測定エリア)で詳細に下記の蛍光シグナル〔S〕および吸光度〔Abs〕の検出を行い、同時にバックグランド〔B〕を測定した。
【0051】
目的細胞であるCTC由来および白血球由来のシグナルを検出するために、Alexa Flour 790およびAlexa Flour 647をそれぞれ励起する、半導体レーザ(780nm)およびHe-Neレーザ(633nm)を照射し、その蛍光シグナル〔S〕の位置および強度(第一の情報)を取得した。
【0052】
次に、非目的細胞である赤血球の光学特性値、この場合、吸光度を測定するために、Arレーザー(488nm)を照射し、吸光度〔Abs〕の位置および強度(第二の情報)を取得した。
【0053】
<補正工程:シグナル補正>
蛍光用の励起光(半導体レーザ)で照射して得られた蛍光シグナル〔S〕に対して、同一測定エリア内で吸光度測定用のプローブ光(Arレーザ)を照射して得られた吸光度〔Abs〕からCTCを含まない非目的細胞(赤血球のみ)のときの吸光度を基準値(陰性対照とする。図1の(5)に対応する。)として、CTCを含む場合は、その吸光度を基準値から引いて逆数を掛けた値に蛍光シグナル量を補正した。
【0054】
なお、CTCの個数は、補正蛍光シグナル量に対してバックグラウンドの値が1以上(S’/B>3)のときにカウントする。
工程(c)で得られた蛍光シグナル〔S〕,バックグラウンド〔B〕,吸光度〔Abs〕およびこの工程で補正された蛍光シグナル〔S’〕を表3にまとめる。なお、表中の(1)〜(5)は図1の(1)〜(5)にそれぞれ対応する。また、(2)は陽性対照として用いた。
【0055】
【表3】

本実施例においては、以下の計算式を用いて、S’を算出した。
【0056】
S’=S×{1/(Abs陰性対照−Abs)}
この補正した蛍光シグナル値S’を基に算出した、最下段のS’/Bの値が3以上あれば、目的細胞(白血球およびCTC)が存在するものと判断することができる。
【0057】
<工程(d)>
吸光度が変化したエリアでの蛍光シグナル量補正によって、白血球由来のシグナルに埋もれていたCTC由来のシグナルを換算し、個数をカウントした。このとき、吸光度は透過で検出し、蛍光は反射方向にて検出した。
【0058】
目的細胞は、表3のS’/Bの値が(1)〜(4)においていずれも3以上であるから、CTCおよび白血球が存在していることがわかる。従来のように、Sのみの値を用いて判断した場合、特に(1)および(4)はSが1(陽性対照である(2)が1.00である)未満であるので、(1)および(4)では目的細胞が存在しないものと結論してしまう虞がある。
【0059】
なお、蛍光検出は反射方向、透過方向、反射・透過の両方であってもよい。また、吸光度が基準値よりも低い場合は、測定エリア内にCTCが含まれていて、同一領域の蛍光強度から非ターゲット内のCTCの位置情報を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る目的細胞の検出方法を用いて、被験者から採血した血液(10mL)から回収した細胞を観察した場合、赤血球のクラスター中にCTCが埋もれていても検出できることから、極微量のCTC等を高精度で検出することができる。
【符号の説明】
【0061】
86・・・非標識化細胞
120,122,124・・・標識化細胞
126,128,130・・・細胞ピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(a):目的細胞および非目的細胞を含む細胞懸濁液を基板上に展開する工程;
工程(b):蛍光標識体を用いて、目的細胞を標識する工程;
工程(c):目的細胞を標識した蛍光標識体に対応する励起光を照射して得られる発光シグナルの、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第一の情報と、非目的細胞によってその一部が吸収される該励起光とは異なる波長の光を照射して得られる非目的細胞の光学特性値の、工程(a)で得られた基板上の位置および強度に関する第二の情報とを取得する工程;ならびに
工程(d):第一の情報および第二の情報に基づいて、目的細胞の有無に関する情報を得る工程
を含むことを特徴とする、目的細胞の検出方法。
【請求項2】
上記光学特性値が、非目的細胞に由来する吸光度または自家蛍光強度である請求項1に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項3】
上記細胞懸濁液が、血液である請求項1または2に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項4】
上記工程(a)の前に、さらに、血液から赤血球数を減らす前処理工程を有する請求項3に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項5】
上記目的細胞が、血中遊離癌細胞〔CTC〕である請求項1〜4のいずれか一項に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項6】
上記目的細胞が、白血球である請求項1〜4のいずれか一項に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項7】
上記非目的細胞が、赤血球である請求項目1〜6のいずれか一項に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項8】
上記蛍光標識体の発光波長のピークが、赤血球の主要な吸収波長領域である400nm以上550nm以下に含まれない請求項1〜7のいずれかに記載の検出方法。
【請求項9】
上記工程(d)における目的細胞の有無に関する情報が、上記第一の情報における発光シグナルの強度の補正値である請求項1〜8のいずれか一項に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項10】
上記発光シグナルの強度の補正値が、上記第一の情報における発光シグナルの強度と上記第二の情報における非目的細胞の光学特性値を用いて算出される請求項9に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項11】
上記工程(d)が、上記第一の情報および上記第二の情報に基づいて、上記工程(a)で得られた基板上の目的細胞の位置に関する情報をさらに得る請求項1〜10のいずれか一項に記載の目的細胞の検出方法。
【請求項12】
上記工程(d)が、さらに目的細胞が非目的細胞の下方に埋もれているか否かの情報を得る請求項1〜11のいずれか一項に記載の目的細胞の検出方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−27370(P2013−27370A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166952(P2011−166952)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「血中分子・遺伝子診断自動化システムの研究開発(血中がん遺伝子診断の検体処理自動化システム)」共同研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】