赤血球モニター及び赤血球のモニタリング方法
【課題】 赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知することができるようにする。
【解決手段】 人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されている2個の電極21,22の間に、周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測するインピーダンス計測部3と、インピーダンス計測部3により計測された電極21,22間のインピーダンスZから赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定する接触抵抗特定部4とを設け、電気二重層容量特定部5が接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctを用いて、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定する。
【解決手段】 人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されている2個の電極21,22の間に、周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測するインピーダンス計測部3と、インピーダンス計測部3により計測された電極21,22間のインピーダンスZから赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定する接触抵抗特定部4とを設け、電気二重層容量特定部5が接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctを用いて、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、埋込み型の人工心臓、または、手術用の人工心肺装置や人工透析装置等の体外循環回路に適用されて、赤血球の凝集状態の変化を検知する赤血球モニター及び赤血球のモニタリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
初めて臨床試験が開始された第一世代の人工心臓は、大型の拍動式であったが、種々の改良が施されることで、今日では、非接触小型回転式の人工心臓(第三世代の人工心臓)が主流になってきている。
第三世代の人工心臓は、日本の機械工学分野において得意とされている非接触軸受け技術が適用されているが、既に、臨床応用段階に入っており、在宅治療を行うことができるところまできている。
【0003】
しかし、このような第三世代の人工心臓においても、血栓や溶血が生じることがあるという大きな問題点を有している。
即ち、血流のせん断速度がごく低い場合、赤血球が人工心臓に滞留することで血栓(血液凝固)が生じることがある。もし、血栓が生じると脳梗塞等の発生や人工心臓の停止を招く恐れがある。
一方、血流のせん断速度がかなり高い場合、赤血球が破壊され易くなり溶血を招くことがある。
【0004】
したがって、血栓や溶血の発生を防止するためには、血圧や血流速度の動的な制御が必要不可欠である。万一、血栓や溶血が生じたときには、速やかに血栓や溶血を検知して、適切な処置を施す必要がある。
しかしながら、現時点では、血液検査により血液の状態を調べることは可能であるが、血栓や溶血をリアルタイム、かつ正確に検知できる赤血球モニターは開発されていない。そのため、迅速、かつ、正確に血栓や溶血の発生を検知することは極めて困難であるのが実情である。
【0005】
なお、以下の特許文献1には、血栓が生じると血管内の局所的なヘマトクリック値が増加することで、血栓の形成の成長に伴って赤血球の吸光度が上昇し、反射光の強度が低下することに着目している血液特性測定プローブ(赤血球モニター)が開示されている。
即ち、この血液特性測定プローブでは、近赤外光を血液中に照射して、その血液に対する近赤外光の反射光強度を測定することにより、血栓の形成状況を計測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再表2007−105805号公報(段落番号[0005])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の赤血球モニターは以上のように構成されているので、近赤外光を血液中に照射して、その血液に対する近赤外光の反射光強度を測定すれば、血栓の形成状況を計測することができる。しかし、血液に対する近赤外光の照射角度によっては、近赤外光の反射光が散乱するなどの現象が生じるため、その反射光の強度を正確に測定することができず、血栓の形成状況の計測精度が劣化することがある課題があった。
また、血液に対する近赤外光の反射光強度を測定することができても、血栓以外の要因で反射光強度が変化する場合も考えられるし、その反射光強度から血栓の表面積(血栓の大きさ)を物理的に計測するものでもないため、血栓の形成状況を正確に把握することが困難である課題があった。
【0008】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、赤血球の界面における電気二重層容量が赤血球の表面積の関数となることに着目し、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知することができる赤血球モニター及び赤血球のモニタリング方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る赤血球モニターは、赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知するようにしたものである。
【0010】
この発明に係る赤血球モニターは、血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測手段と、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定手段とを設け、電気二重層容量特定手段が接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定するようにしたものである。
【0011】
この発明に係る赤血球モニターは、接触抵抗特定手段が、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから、血液が流れている空間内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗を特定し、電気二重層容量特定手段が、接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量を特定するようにしたものである。
【0012】
この発明に係る赤血球モニターは、インピーダンス計測手段が、複数の電極の間に印加される交流電圧の周波数を順次切り換えながら、各周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測し、接触抵抗特定手段が、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、実数成分が最大になるインピーダンス及び実数成分が最小になるインピーダンスを探索し、赤血球の界面における接触抵抗として、前記最大の実数成分と前記最小の実数成分との差分を算出し、電気二重層容量特定手段が、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、虚数成分が最大になるインピーダンスを探索し、そのインピーダンスがインピーダンス計測手段により計測される際に印加された交流電圧の周波数と前記接触抵抗から、赤血球の界面における電気二重層容量を特定するようにしたものである。
【0013】
この発明に係る赤血球モニターは、電気二重層容量特定手段により特定された電気二重層容量が所定の下限容量より小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定する凝集状態変化認定手段を設けるようにしたものである。
【0014】
この発明に係る赤血球モニターは、複数の電極が人工心臓の動脈送血管の周囲に設置されているようにしたものである。
【0015】
この発明に係る赤血球モニターは、複数の電極が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されているようにしたものである。
【0016】
この発明に係る赤血球のモニタリング方法は、赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知するようにしたものである。
【0017】
この発明に係る赤血球のモニタリング方法は、血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測処理ステップと、インピーダンス計測処理ステップで計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定処理ステップと、接触抵抗特定処理ステップで特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する電気二重層容量特定処理ステップとを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知し、ひいては血栓を予兆の段階で検知することができる効果がある。
また、構成によっては、赤血球の凝集状態が変化している位置を特定することができることもある効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1による赤血球モニターを示す構成図である。
【図2A】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す側面図(複数の赤血球が塊になっていない状態)である。
【図2B】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す側面図(複数の赤血球が塊になっている状態)である。
【図2C】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図(複数の赤血球が塊になっていない状態)である。
【図2D】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図(複数の赤血球が塊になっている状態)である。
【図3】この発明の実施の形態1による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【図4】赤血球が血漿中に存在する場合の電気抵抗の種類を示す説明図である。
【図5】Cole−Coleプロットの一例を示す説明図である。
【図6A】血液を所定速度(2.625×10-6m3/s)で流して、インピーダンスZを計測した場合の実験結果を示す説明図である。
【図6B】血液を所定速度(6.5625×10-6m3/s)で流して、インピーダンスZを計測した場合の実験結果を示す説明図である。
【図7】血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
【図8】インピーダンス計測部3により生成されるCole−Coleプロットを示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2による赤血球モニターを示す構成図である。
【図10】周囲にM個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態2による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【図12】血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
【図13】インピーダンス計測部12により生成されるCole−Coleプロットを示す説明図である。
【図14】赤血球の凝集状態が変化している位置を示す説明図である。
【図15】赤血球の凝集状態が変化している位置を示す交点Ndが存在しない場合を示す説明図である。
【図16】赤血球の凝集状態が変化している位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による赤血球モニターを示す構成図である。
図2A及び図2Bは周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す側面図であり、図2C及び図2Dは周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図である。
図1及び図2A〜図2Dにおいて、人工心臓の動脈送血管1は患者の血管と接続されており、周囲には2個の電極21,22が設置されている。
図2A及び図2Cは、複数の赤血球11が塊になっていない状態を示しており、図2B及び図2Dは、複数の赤血球11が塊になっている状態を示している。
【0021】
インピーダンス計測部3は例えばLCRメータなどから構成されており、2個の電極21,22の間に印加される交流電圧V(fn)の周波数fn(n=1,2,・・・,N)を順次切り換えながら、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測(インピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、インピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測)する処理を実施する。
このように、インピーダンス計測部3が、交流電圧V(fn)の周波数fnを順次切り換えながら、電極21,22間のインピーダンスZを計測する方法は、一般に“インピーダンス・スペクトロスコピー法”と呼ばれている。
なお、インピーダンス計測部3はインピーダンス計測手段を構成している。
【0022】
接触抵抗特定部4は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、インピーダンス計測部3により計測されたインピーダンスZ(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZ)の中から、レジスタンスRが最大であるインピーダンスZRmax(レジスタンスが「Rpw+Rct」であるインピーダンス)を探索するとともに、レジスタンスRが最小であるインピーダンスZRmin(レジスタンスが「Rpw」であるインピーダンス)を探索する処理を実施する。ただし、Rpw,Rctの内容は後述する。
また、接触抵抗特定部4はインピーダンスZRmaxのレジスタンスRpw+RctからインピーダンスZRminのレジスタンスRpwを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct(=(Rpw+Rct)−Rpw)を算出する処理を実施する。
なお、接触抵抗特定部4は接触抵抗特定手段を構成している。
【0023】
電気二重層容量特定部5は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、インピーダンス計測部3により計測されたインピーダンスZ(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZ)の中から、リアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxを探索する処理を実施する。
また、電気二重層容量特定部5はインピーダンス計測部3によりインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧V(fn)の周波数fn(以下、この周波数fnを「周波数fmaxC」と称する)と、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctとから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定する処理を実施する。
なお、電気二重層容量特定部5は電気二重層容量特定手段を構成している。
【0024】
凝集状態変化認定部6は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電気二重層容量特定部5により特定された電気二重層容量Cdlが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨(即ち、赤血球が凝集している旨)を認定して、その認定結果を出力する処理を実施する。なお、凝集状態変化認定部6は凝集状態変化認定手段を構成している。
認定結果提示部7は例えば液晶表示器やスピーカなどから構成されており、凝集状態変化認定部6から出力された認定結果の表示や音声出力を行う。
【0025】
図1の例では、赤血球モニターの構成要素である電極21,22、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、赤血球モニターの構成要素の一部(例えば、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
【0026】
例えば、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7を1つのコンピュータで構成する場合、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図3はこの発明の実施の形態1による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【0027】
次に動作について説明する。
この実施の形態1では、赤血球モニターが人工心臓における赤血球の凝集状態(血栓が発生する予兆の段階)を検知する例を説明する。
この赤血球モニターは、人工心臓の動脈送血管1(例えば、直径が10mm程度の管路)を流れる血液中の赤血球の表面積を把握することで、複数の赤血球が塊になって流れている状態(血液が凝固している状態)であるか否かを判別するものである。
【0028】
ここで、図4は赤血球が血漿中に存在する場合の電気抵抗の種類を示す説明図である。
図4において、抵抗R1は赤血球11の内部の電気抵抗であり、R2は血漿12の電気抵抗である。
また、R3は赤血球11と赤血球11の接触界面における電気抵抗であり、R4は赤血球11と血漿12の接触界面における電気抵抗である。
さらに、R5は赤血球11と電極21の接触界面における電気抵抗であり、R6は血漿12と電極22の接触界面における電気抵抗である。
【0029】
人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されている2個の電極21,22に直流電圧を印加して、電極21,22間の抵抗を測定しても、電気抵抗R1〜R6のそれぞれを区別することができないが、2個の電極21,22に印加する交流電圧V(fn)の周波数fn(n=1,2,・・・,N)を順次切り換えながら、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測(インピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、インピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測)すれば、電気抵抗R1〜R6のそれぞれを区別することができる。
【0030】
これらの電気抵抗R1〜R6の中で、赤血球の内部の電気抵抗R1と、血漿の電気抵抗R2とは、緩和時間が短く応答速度が速い特性を有しているが、電気抵抗R3〜R6は、緩和時間が長く応答速度が遅い特性を有している。
一般的には、赤血球と赤血球の接触界面における電気抵抗R3は、赤血球と血漿の接触界面における電気抵抗R4よりも小さい場合が多く、赤血球の界面における電気抵抗成分である接触抵抗Rctのみを抽出することができる(接触抵抗Rctの抽出方法は後述する)。
【0031】
また、赤血球が誘電体である場合、赤血球の界面には電気抵抗の他に、電気二重層容量が形成される。
動脈送血管1の周囲に設置されている電極21,22は金属であるため、一般的には、電極21,22の界面における電気二重層容量は無視することができ、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlのみを抽出することができる(電気二重層容量Cdlの抽出方法は後述する)。
【0032】
ここで、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlは、赤血球の表面積の関数となるものである。
したがって、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを抽出し、その電気二重層容量Cdlが小さければ、赤血球の表面積が小さいことになるため、血液の凝固が生じていると考えられる。
即ち、複数の赤血球が凝固(凝集)していると、複数の赤血球の表面同士がくっついて、複数の赤血球がバラバラの状態で流れている場合の赤血球の個数よりも赤血球の個数が少なくなって、赤血球の表面が減少する。そのため、複数の赤血球が凝固している場合、複数の赤血球が凝固していない場合(複数の赤血球がバラバラの状態で流れている場合)の赤血球の表面積の総和と比較し、複数の赤血球の体積の総和が同じであっても、赤血球の表面積の総和が小さくなる。
一方、その電気二重層容量Cdlが大きければ、赤血球の表面積が大きいことになるため、血液の凝固が生じていないと考えられる。
これにより、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl及び赤血球の表面積は、血液凝固が生じているか否かの指標とすることができる。
【0033】
以下、図1の赤血球モニターの処理内容を具体的に説明する。
まず、インピーダンス計測部3は、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf1(例えば、f1=1MHz)に設定し(図3のステップST1)、周波数f1の交流電圧V(f1)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST2)。
インピーダンス計測部3は、周波数f1の交流電圧V(f1)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZとして、そのインピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、そのインピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測する(ステップST3)。
インピーダンス計測部3は、その計測結果である電極21,22間のインピーダンスZを例えば内部のメモリに記録する(ステップST4)。
【0034】
インピーダンス計測部3は、周波数f1の交流電圧V(f1)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了すると、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf2(例えば、f2=1.05MHz)に高める変更を行って(ステップST6)、周波数f2の交流電圧V(f2)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST2)。
インピーダンス計測部3は、周波数f2の交流電圧V(f2)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZとして、そのインピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、そのインピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測する(ステップST3)。
インピーダンス計測部3は、その計測結果である電極21,22間のインピーダンスZを例えば内部のメモリに記録する(ステップST4)。
【0035】
インピーダンス計測部3は、周波数fNの交流電圧V(fN)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了するまで、ステップST2〜ST6の処理を繰り返し実施する。
即ち、インピーダンスZの計測回数がN回に到達するまで、ステップST2〜ST6の処理を繰り返し実施する(ステップST5)。
【0036】
インピーダンス計測部3は、周波数fNの交流電圧V(fN)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了すると、図5に示すように、内部のメモリに記録にしている各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZを複素平面(横軸:レジスタンスR、縦軸:リアクタンスX)上にプロットすることで、その複素平面上に描かれるインピーダンスZの軌跡であるCole−Coleプロットを生成する(ステップST7)。
図5はCole−Coleプロットの一例を示す説明図であり、渦巻き状のCole−Coleプロットが生成される。
【0037】
ここで、図6A及び図6Bは血液を異なる速度(2.625×10-6m3/s、及び、6.5625×10-6m3/s)で流して、インピーダンスZを計測した場合の実験結果を示す説明図である。
図6A及び図6Bの実験結果は、赤血球の表面積の相違や血液が流れる速度の相違で、生成されるCole−Coleプロットの形状が変化することを表している。
図6A及び図6Bにおいて、φは赤血球の表面積であり、φ=0.6とφ=0.3の場合を示している。
【0038】
図7は血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
図7において、Rpwは血漿の電気抵抗(上記の電気抵抗R2に相当する)であり、Rctは赤血球の界面における接触抵抗(上記の電気抵抗R3に相当する)である。
また、Cdlは赤血球の界面における電気二重層容量(上記の電気抵抗R4に相当する)である。
さらに、Lは赤血球と電極の接触界面におけるインダクタンス(上記の電気抵抗R5に相当する)であり、RLは血漿と電極の接触界面における電気抵抗(上記の電気抵抗R6に相当する)である。
なお、ZFはインダクタンスL及び電気抵抗RLの直列回路と接触抵抗Rctからなる並列回路のファラデーインピーダンスである。
【0039】
動脈送血管1の内部における電気的成分が図7の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部3により計測されるインピーダンスZは、下記の式(1)のように表される。
【0040】
【数1】
ただし、jは虚数単位、ωは交流の角振動数である。
【0041】
また、動脈送血管1の内部における電気的成分が図7の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部3により生成されるCole−Coleプロットは、図8に示すようなプロットになる。
【0042】
【数2】
ただし、a1,a2,aXは電気抵抗に関する定数、fmaxCはリアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
また、fmaxLはインダクタンスLが最大であるインピーダンスZLmaxが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
【0043】
ここでは、インピーダンス計測部3が2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に高めていく例を示したが、交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に下げていくようにしてもよい。
また、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔は、等間隔でもよいし、不等間隔でもよい。
例えば、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔を不等間隔とする場合、レジスタンスRが最大になるインピーダンスZRmax、レジスタンスRが最小になるインピーダンスZRminや、リアクタンスXが最大になるインピーダンスZXmaxが計測される可能性が高いと考えられる周波数fnの付近の間隔を、これらのインピーダンスが計測される可能性が低いと考えられる周波数fnの付近の間隔よりも狭くする態様が考えられる。
【0044】
接触抵抗特定部4は、インピーダンス計測部3がCole−Coleプロットを生成すると、そのCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZのレジスタンスRを比較し、レジスタンスRが最大であるインピーダンスZRmaxを探索する(ステップST8)。
図8の例では、レジスタンスRが最大であるインピーダンスZRmaxとして、レジスタンスが「Rpw+Rct」であるインピーダンスが探索される。
【0045】
次に、接触抵抗特定部4は、Cole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZのレジスタンスRを比較し、レジスタンスRが最小であるインピーダンスZRminを探索する(ステップST9)。
図8の例では、レジスタンスRが最小であるインピーダンスZRminとして、レジスタンスが「Rpw」であるインピーダンスが探索される。
【0046】
接触抵抗特定部4は、インピーダンスZRmaxとインピーダンスZRminを探索すると、そのインピーダンスZRmaxのレジスタンスRpw+Rctから、インピーダンスZRminのレジスタンスRpwを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rctを算出する(ステップST10)。
Rct=(Rpw+Rct)−Rpw (6)
【0047】
ここでは、接触抵抗特定部4が、インピーダンスZRmaxのレジスタンスRpw+Rctから、インピーダンスZRminのレジスタンスRpwを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rctを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の接触抵抗Rctの算出結果や実験結果などに基づいて、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZと、赤血球の界面における接触抵抗Rctとの対応関係を示すマップを予め作成し、接触抵抗特定部4が、当該マップを参照して、インピーダンス計測部3により計測されたインピーダンスZから、赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定するようにしてもよい。
【0048】
電気二重層容量特定部5は、インピーダンス計測部3がCole−Coleプロットを生成すると、そのCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZのリアクタンスXを比較し、リアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxを探索する(ステップST11)。
図8の例では、リアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxとして、周波数fmaxCの交流電圧V(fmaxC)が印加された場合に計測されたインピーダンスが探索される。
【0049】
電気二重層容量特定部5は、インピーダンスZXmaxを探索すると、インピーダンス計測部3によりインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC)の周波数fmaxCと、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctとを上記の式(3)に代入して、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを算出する(ステップST12)。
【0050】
ここでは、電気二重層容量特定部5が、インピーダンス計測部3によりインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC)の周波数fmaxCと、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctとを上記の式(3)に代入して、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の電気二重層容量Cdlの算出結果や実験結果などに基づいて、赤血球の界面における接触抵抗Rctと電気二重層容量Cdlの対応関係を示すマップを予め作成し、電気二重層容量特定部5が、当該マップを参照して、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定するようにしてもよい。
【0051】
凝集状態変化認定部6は、電気二重層容量特定部5が電気二重層容量Cdlを算出すると、その電気二重層容量Cdlと予め設定された下限容量Clthを比較する。
ただし、下限容量Clthは、実験等により得られる閾値であるが、例えば、統計的に血栓が形成される確率が30%や50%、あるいは、80%以上の電気二重層容量Cdlを閾値とする態様が考えられる。
凝集状態変化認定部6は、電気二重層容量Cdlと下限容量Clthを比較して、その電気二重層容量Cdlが下限容量Clthより小さい場合(ステップST13)、赤血球の表面積が小さいので、赤血球の凝集状態に変化がある旨(赤血球が凝集している旨)を認定して、その認定結果を出力する(ステップST14)。
【0052】
ここでは、凝集状態変化認定部6は、1個の下限容量Clthが設定されて、1個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdlを比較するものについて示したが、値が異なる複数個の下限容量Clthが設定されて、複数個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdlを比較するようにしてもよい。
例えば、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が10%以上の電気二重層容量に相当する下限容量Clth,1と、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が80%以上の電気二重層容量に相当する下限容量Clth,2とが設定されている場合、凝集状態変化認定部6が、下限容量Clt,1、Clth,2と電気二重層容量Cdlを比較する。
そして、凝集状態変化認定部6は、電気二重層容量Cdl<下限容量Clth,2であれば、赤血球の凝集状態に大きな変化がある旨を認定して、その認定結果を出力し、下限容量Clth,2≦電気二重層容量Cdl<下限容量Clth,1であれば、赤血球の凝集状態に小さな変化がある旨を認定して、その認定結果を出力するようにする。
【0053】
認定結果提示部7は、凝集状態変化認定部6から赤血球の凝集状態に変化がある旨を示す認定結果を受けると、その認定結果を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、その認定結果を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する(ステップST15)。
なお、認定結果提示部7は、凝集状態変化認定部6から認定結果を受けなければ、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する。あるいは、メッセージ等の表示や音声出力を行わない。
【0054】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されている2個の電極21,22の間に、周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測するインピーダンス計測部3と、インピーダンス計測部3により計測された電極21,22間のインピーダンスZから赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定する接触抵抗特定部4とを設け、電気二重層容量特定部5が接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctを用いて、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定するように構成したので、その電気二重層容量Cdlから赤血球の表面積を把握することができるようになり、その結果、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知し、ひいては血栓を予兆の段階で検知することができる効果を奏する。
【0055】
また、この実施の形態1によれば、電気二重層容量特定部5により特定された電気二重層容量Cdlが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定して、その認定結果を出力する凝集状態変化認定部6を設けるように構成したので、電気二重層容量Cdlと赤血球の表面積との対応関係が分からないユーザでも、赤血球の凝集状態に変化があることを速やかに認識することができる効果を奏する。
【0056】
また、この実施の形態1によれば、2個の電極21,22が人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されているように構成したので、人工心臓における赤血球の凝集状態の変化を検知することができる効果を奏する。
【0057】
なお、この実施の形態1では、予め下限容量Clthが凝集状態変化認定部6に設定されているものについて示したが、その下限容量Clthの設定を受け付けるマンマシンインタフェース部(例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなど)を実装し、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、その下限容量Clthを適宜設定するようにしてもよい。
【0058】
これにより、赤血球の凝集が問題となる確率が少しでもあれば、凝集状態変化認定部6から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が10%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
一方、赤血球の凝集が問題となる確率がかなり高いときに限り、凝集状態変化認定部6から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が90%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
【0059】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、動脈送血管1の周囲に2個の電極21,22が設置されているものを示したが、動脈送血管1の周囲にM(M≧3)個の電極21,22,・・・,2Mが設置されていてもよい。
この実施の形態2では、M個の電極21,22,・・・,2Mを動脈送血管1の周囲に設置することにより、動脈送血管1内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量を特定する例を説明する。
【0060】
図9はこの発明の実施の形態2による赤血球モニターを示す構成図である。
図10は周囲にM個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図である。
図9及び図10において、人工心臓の動脈送血管1は患者の血管と接続されており、周囲にはM個の電極21,22,・・・,2Mが設置されている。
電極選択部11はM個の電極21〜2Mの中から、インピーダンス計測部12による計測対象の2個の電極2i,2jを順次選択する切換スイッチである。
【0061】
インピーダンス計測部12は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jの間に印加される交流電圧V(fn)の周波数fn(n=1,2,・・・,N)を順次切り換えながら、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極2i,2j間のインピーダンスZi,jを計測(インピーダンスZi,jの実数成分であるレジスタンスRi,jと、インピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXi,jを計測)する処理を実施する。
例えば、電極選択部11により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Zi,jは電極2iと電極2jの間のインピーダンスとなる。
例えば、M=12であれば、2個の電極2i,2jの組み合わせが66通りになるため、66通りのインピーダンスZi,jを計測する。
なお、電極選択部11及びインピーダンス計測部12からインピーダンス計測手段が構成されている。
【0062】
接触抵抗特定部13は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、インピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,jから、血液が流れている動脈送血管1内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定する処理を実施する。
即ち、接触抵抗特定部13はインピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,j(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極2i,2j間のインピーダンスZi,j)の中から、レジスタンスRi,jが最大であるインピーダンスZRmax−i,j(レジスタンスが「Rpw−i,j+Rct−i,j」であるインピーダンス)を探索するとともに、レジスタンスRi,jが最小であるインピーダンスZRmin−i,j(レジスタンスが「Rpw−i,j」であるインピーダンス)を探索する処理を実施する。
また、接触抵抗特定部13はインピーダンスZRmax−i,jのレジスタンスRpw−i,j+Rct−i,jからインピーダンスZRmin−i,jのレジスタンスRpw−i,jを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,j(=(Rpw−i,j+Rct−i,j)−Rpw−i,j)を算出する処理を実施する。
なお、接触抵抗特定部13は接触抵抗特定手段を構成している。
【0063】
電気二重層容量特定部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、接触抵抗特定部13より特定された接触抵抗Rct−i,jを用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定する処理を実施する。
即ち、電気二重層容量特定部14はインピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,j(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極2i,2j間のインピーダンスZi,j)の中から、リアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jを探索する処理を実施する。
また、電気二重層容量特定部14はインピーダンス計測部12によりインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧V(fn)の周波数fn(以下、この周波数fnを「周波数fmaxC−i,j」と称する)と、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rct−i,jとから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを算出する処理を実施する。
なお、電気二重層容量特定部14は電気二重層容量特定手段を構成している。
【0064】
凝集状態変化認定部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電気二重層容量特定部14により特定された電気二重層容量Cdl−i,jが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定して、その認定結果を出力するとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報を出力する処理を実施する。
なお、凝集状態変化認定部15は凝集状態変化認定手段を構成している。
【0065】
認定結果提示部16は例えば液晶表示器やスピーカなどから構成されており、凝集状態変化認定部15から出力された認定結果の表示や音声出力を行うとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置の表示を行う。
【0066】
図9の例では、赤血球モニターの構成要素である電極21,22,・・・,2M、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、赤血球モニターの構成要素の一部(例えば、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
【0067】
例えば、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16を1つのコンピュータで構成する場合、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図11はこの発明の実施の形態2による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【0068】
次に動作について説明する。
電極選択部11は、例えば、インピーダンス計測部12の指示の下、M個の電極21〜2Mの中から、インピーダンス計測部12による計測対象の2個の電極2i,2jを順次選択し、2個の電極2i,2jをインピーダンス計測部12と電気的に接続する(ステップST21)。
例えば、M個の電極21〜2Mの中から、下記の順番で、2個の電極2i,2jを選択して、2個の電極2i,2jをインピーダンス計測部12と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2M)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2M)
:
→(電極2M−1+電極2M)
例えば、M=12であれば、2個の電極2i,2jの組み合わせは66通りになる。
【0069】
インピーダンス計測部12は、電極選択部11が2個の電極2i,2jを選択することで(この段階では、説明の便宜上、電極選択部11が電極21,22を選択しているものとする)、電極21及び電極22と電気的に接続されると、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf1(例えば、f1=1MHz)に設定し(ステップST22)、周波数f1の交流電圧V(f1)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST23)。
インピーダンス計測部12は、周波数f1の交流電圧V(f1)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZ1,2として、そのインピーダンスZ1,2の実数成分であるレジスタンスR1,2と、そのインピーダンスZ1,2の虚数成分であるリアクタンスX1,2を計測する(ステップST24)。
インピーダンス計測部12は、計測結果である電極21,22間のインピーダンスZ1,2を例えば内部のメモリに記録する(ステップST25)。
【0070】
インピーダンス計測部12は、周波数f1の交流電圧V(f1)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了すると、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf2(例えば、f2=1.05MHz)に高める変更を行って(ステップST27)、周波数f2の交流電圧V(f2)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST23)。
インピーダンス計測部12は、周波数f2の交流電圧V(f2)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZ1,2として、そのインピーダンスZ1,2の実数成分であるレジスタンスR1,2と、そのインピーダンスZ1,2の虚数成分であるリアクタンスX1,2を計測する(ステップST24)。
インピーダンス計測部12は、計測結果である電極21,22間のインピーダンスZ1,2を例えば内部のメモリに記録する(ステップST25)。
【0071】
インピーダンス計測部12は、周波数fNの交流電圧V(fN)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZ1,2の計測が完了するまで、ステップST23〜ST27の処理を繰り返し実施する。
即ち、インピーダンスZ1,2の計測回数がN回に到達するまで、ステップST23〜ST27の処理を繰り返し実施する(ステップST26)。
【0072】
次に、電極選択部11は、2個の電極21,23を選択する(ステップST21)。
インピーダンス計測部12は、電極選択部11が2個の電極21,23を選択すると(ステップST21)、2個の電極21,22が選択された場合と同様にして、電極21,23間のインピーダンスZ1,3を計測して、そのインピーダンスZ1,3を例えば内部のメモリに記録する。
即ち、インピーダンス計測部12は、2個の電極2i,2jについて、電極選択部11により全ての組み合わせが選択されるまで、ステップST21〜ST27の処理を繰り返し実施する(ステップST28)。
これにより、例えば、M=12であれば、全部で66通りのインピーダンスZ1,2,Z1,3,・・・,ZM−1,Mが計測されて、これらのインピーダンスZ1,2,Z1,3,・・・,ZM−1,Mが例えば内部のメモリに記録される。
【0073】
インピーダンス計測部12は、インピーダンスZ1,2,Z1,3,・・・,ZM−1,Mの計測が完了すると、図5に示すように、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、内部のメモリに記録にしている各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jを複素平面(横軸:レジスタンスRi,j、縦軸:リアクタンスXi,j)上にプロットすることで、その複素平面上に描かれるインピーダンスZi,jの軌跡であるCole−Coleプロットを生成する(ステップST29)。
【0074】
ここで、図12は血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
図12において、Rpw−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している血漿の電気抵抗(上記の電気抵抗R2に相当する)であり、Rct−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の界面における接触抵抗(上記の電気抵抗R3に相当する)である。
また、Cdl−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の界面における電気二重層容量(上記の電気抵抗R4に相当する)である。
さらに、Li,jは電極2iと電極2jの間に存在している赤血球と電極2i,2jの接触界面におけるインダクタンス(上記の電気抵抗R5に相当する)であり、RL−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している血漿と電極2i,2jの接触界面における電気抵抗(上記の電気抵抗R6に相当する)である。
なお、ZF−i,jはインダクタンスLi,j及び電気抵抗RL−i,jの直列回路と接触抵抗Rct−i,jからなる並列回路のファラデーインピーダンスである。
【0075】
動脈送血管1の内部における電気的成分が図12の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部12により計測されるインピーダンスZi,jは、下記の式(11)のように表される。
【0076】
【数3】
ただし、jは虚数単位、ωは交流の角振動数である。
【0077】
また、動脈送血管1の内部における電気的成分が図12の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部12により生成されるCole−Coleプロットは、図13に示すようなプロットになる。
【0078】
【数4】
ただし、a1−i,j,a2−i,j,aX−i,jは電気抵抗に関する定数、fmaxC−i,jはリアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
また、fmaxL−i,jはインダクタンスLi,jが最大であるインピーダンスZLmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
【0079】
ここでは、インピーダンス計測部12が2個の電極2i,2jの間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に高めていく例を示したが、交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に下げていくようにしてもよい。
また、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔は、等間隔でもよいし、不等間隔でもよい。
例えば、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔を不等間隔とする場合、レジスタンスRi,jが最大になるインピーダンスZRmax−i,j、レジスタンスRi,jが最小になるインピーダンスZRmin−i,jや、リアクタンスXi,jが最大になるインピーダンスZXmax−i,jが計測される可能性が高いと考えられる周波数fnの付近の間隔を、これらのインピーダンスが計測される可能性が低いと考えられる周波数fnの付近の間隔よりも狭くする態様が考えられる。
【0080】
接触抵抗特定部13は、インピーダンス計測部12が電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、Cole−Coleプロットを生成すると、2個の電極2i,2jの組み合わせに対応するCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jのレジスタンスRi,jを比較し、レジスタンスRi,jが最大であるインピーダンスZRmax−i,jを探索する(ステップST30)。
図13の例では、レジスタンスRi,jが最大であるインピーダンスZRmax−i,jとして、レジスタンスが「Rpw−i,j+Rct−i,j」であるインピーダンスが探索される。
【0081】
次に、接触抵抗特定部13は、2個の電極2i,2jの組み合わせに対応するCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jのレジスタンスRi,jを比較し、レジスタンスRi,jが最小であるインピーダンスZRmin−i,jを探索する(ステップST31)。
図13の例では、レジスタンスRi,jが最小であるインピーダンスZRmin−i,jとして、レジスタンスが「Rpw−i,j」であるインピーダンスが探索される。
【0082】
接触抵抗特定部13は、インピーダンスZRmax−i,jとインピーダンスZRmin−i,jを探索すると、そのインピーダンスZRmax−i,jのレジスタンスRpw−i,j+Rct−i,jから、インピーダンスZRmin−i,jのレジスタンスRpw−i,jを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを算出する(ステップST32)。
Rct−i,j=(Rpw−i,j+Rct−i,j)−Rpw−i,j (16)
これにより、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jが算出される。
【0083】
ここでは、接触抵抗特定部13が、インピーダンスZRmax−i,jのレジスタンスRpw−i,j+Rct−i,jから、インピーダンスZRmin−i,jのレジスタンスRpw−i,jを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の接触抵抗Rct−i,jの特定結果や実験結果などに基づいて、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jと、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jとの対応関係を示すマップを予め作成し、接触抵抗特定部13が、当該マップを参照して、インピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,jから、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定するようにしてもよい。
【0084】
電気二重層容量特定部14は、インピーダンス計測部12が電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、Cole−Coleプロットを生成すると、2個の電極2i,2jの組み合わせに対応するCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jのリアクタンスXi,jを比較し、リアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jを探索する(ステップST33)。
図13の例では、リアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jとして、周波数fmaxC−i,jの交流電圧V(fmaxC−i,j)が印加された場合に計測されたインピーダンスが探索される。
【0085】
電気二重層容量特定部14は、インピーダンスZXmax−i,jを探索すると、インピーダンス計測部12によりインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC−i,j)の周波数fmaxC−i,jと、接触抵抗特定部13により特定された接触抵抗Rct−i,jとを上記の式(13)に代入して、電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを算出する(ステップST34)。
これにより、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jが特定される。
【0086】
ここでは、電気二重層容量特定部14が、インピーダンス計測部12によりインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC−i,j)の周波数fmaxC−i,jと、接触抵抗特定部13により特定された接触抵抗Rct−i,jとを上記の式(13)に代入して、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の電気二重層容量Cdl−i,jの算出結果や実験結果などに基づいて、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jと電気二重層容量Cdl−i,jの対応関係を示すマップを予め作成し、電気二重層容量特定部14が、当該マップを参照して、接触抵抗特定部13により特定された接触抵抗Rct−i,jから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定するようにしてもよい。
【0087】
凝集状態変化認定部15は、電気二重層容量特定部14が電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に電気二重層容量Cdl−i,jを特定すると、2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、当該電気二重層容量Cdl−i,jと予め設定された下限容量Clthを比較する。
凝集状態変化認定部15は、電気二重層容量Cdl−i,jと下限容量Clthを比較して、その電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さい場合(ステップST35)、電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の表面積が小さいので、赤血球の凝集状態に変化がある旨(赤血球が凝集している旨)を認定して、その認定結果を出力する(ステップST36)。
また、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jを示す情報を出力する。
【0088】
ここでは、凝集状態変化認定部15は、1個の下限容量Clthが設定されて、1個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdl−i,jを比較するものについて示したが、図1の凝集状態変化認定部6と同様に、値が異なる複数個の下限容量Clthが設定されて、複数個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdl−i,jを比較するようにしてもよい。
また、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの距離が長くなる程、電気二重層容量特定部14により特定される電気二重層容量Cdl−i,jが小さくなる傾向があるため、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2j毎に下限容量Clthが設定されるようにしてもよい。
即ち、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの距離が長い程、小さな下限容量Clthが設定されるようにしてもよい。
【0089】
認定結果提示部16は、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態に変化がある旨を示す認定結果を受けると、その認定結果を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、その認定結果を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する(ステップST37)。
その際、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jを示す情報を受けると、2個の電極2i,2jの間の位置を表示する。例えば、2個の電極2i−電極2jを結ぶ線分Li−jを表示する。
これにより、ユーザは、赤血球の凝集状態が変化している位置が、電極2iと電極2jの間にあることを認識することができる。
【0090】
なお、認定結果提示部16は、凝集状態変化認定部15から認定結果を受けなければ、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する。あるいは、メッセージ等の表示や音声出力を行わない。
【0091】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、接触抵抗特定部13が、インピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,jから、血液が流れている動脈送血管1内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定し、電気二重層容量特定部14が、接触抵抗特定部13より特定された接触抵抗Rct−i,jを用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定するように構成したので、電気二重層容量Cdl−i,jから流れている位置が異なる複数の赤血球の表面積を把握することができるようになり、その結果、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知することができるとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を特定することができる効果を奏する。
【0092】
また、この実施の形態2によれば、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、電気二重層容量特定部14により特定された電気二重層容量Cdl−i,jが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定して、その認定結果を出力するとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報を出力する凝集状態変化認定部15を設けるように構成したので、電気二重層容量Cdl−i,jと赤血球の表面積との対応関係が分からないユーザでも、赤血球の凝集状態に変化があることを速やかに認識することができるとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を速やかに認識することができる効果を奏する。
【0093】
さらに、この実施の形態2によれば、M個の電極21〜2Mが人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されているように構成したので、人工心臓における赤血球の凝集状態の変化を正確に検知することができる効果を奏する。
【0094】
なお、この実施の形態2では、予め下限容量Clthが凝集状態変化認定部15に設定されているものについて示したが、その下限容量Clthの設定を受け付けるマンマシンインタフェース部(例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなど)を実装し、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、その下限容量Clthを適宜設定するようにしてもよい。
【0095】
これにより、赤血球の凝集が問題とされる確率が少しでもあれば、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題とされる確率が10%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
一方、赤血球の凝集が問題とされる確率がかなり高いときに限り、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題とされる確率が90%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
【0096】
また、この実施の形態2では、凝集状態変化認定部15が、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jを示す情報を出力すると、認定結果提示部7が、赤血球の凝集状態が変化している位置として、2個の電極2i,2jの間の位置を表示するようにしているが、以下に示すように、赤血球の凝集状態が変化している位置を更に具体的に表示するようにしてもよい。
【0097】
人工心臓の動脈送血管1には、上述したように、M個の電極21〜2Mが設置されているが、例えば、M=12であれば、2個の電極2i,2jの組み合わせが66通りになり、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、電気二重層容量特定部14が、電気二重層容量Cdl−i,jを算出するので、全部で66通りの電気二重層容量Cdl−i,jを算出する。
したがって、この場合、凝集状態変化認定部15は、66通りの電気二重層容量Cdl−i,jと下限容量Clthを比較し、どの組み合わせの電極2i,2jのときに、その電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなるかを特定する。
【0098】
凝集状態変化認定部15は、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が少なくとも2個以上ある場合、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を実施する。ただし、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が1個である場合、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を実施せず、上記の通り、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jを示す情報を出力する。
以下、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を説明する。
【0099】
例えば、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が2個であり、電極21−電極25の組み合わせと、電極24−電極2Mの組み合わせが、下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせであるとすると、図14に示すように、電極21と電極25を結ぶ線分L1−5と、電極24−電極2Mを結ぶ線分L4−Mとの交点Ndが、赤血球の凝集状態が変化している位置であるとして特定する。
この場合、凝集状態変化認定部15は、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、交点Ndの位置を示す座標情報を認定結果提示部16に出力する。
ここでは、凝集状態変化認定部15が、交点Ndの位置を示す座標情報を出力しているが、交点Ndの位置を示す座標情報の代わりに、線分L1−5と線分L4−Mの交点Ndが“凝集状態の変化位置である”旨を示すフラグ情報を出力するようにしてもよい。
【0100】
認定結果提示部16は、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、交点Ndの位置を示す座標情報を受けると、赤血球の凝集状態が変化している位置として、交点Ndの位置を表示する(図14を参照)。この場合、認定結果提示部16は、更に、電極21と電極25を結ぶ線分L1−5、及び、電極24−電極2Mを結ぶ線分L4−Mに関する情報を凝集状態変化認定部15から受け取り、これらの線分に関する情報を表示しても良い。
凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、交点Ndの位置を示す座標情報ではなく、線分L1−5と線分L4−Mの交点Ndが“凝集状態の変化位置である”旨を示すフラグ情報を受けているときは、認定結果提示部16が、線分L1−5と線分L4−Mの交点Ndを特定して、その交点Ndの位置を表示する。
これにより、ユーザは、赤血球の凝集状態が変化している位置の概略的な位置(2個の電極の間の位置)ではなく、具体的な位置(交点Ndの位置)を認識することができる。
【0101】
ただし、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が2個である場合でも、下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせが、例えば、電極22−電極24の組み合わせと、電極25−電極2Mの組み合わせであるような場合、図15に示すように、電極22と電極24を結ぶ線分L2−4と、電極25−電極2Mを結ぶ線分L5−Mとが交わらない。
このような場合、凝集状態変化認定部15は、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極22,24を示す情報と、電極25,2Mを示す情報とを認定結果提示部16に出力する。
【0102】
ここでは、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が2個であるときに、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を実施するものについて示したが、その組み合わせの数が2個以上であればよく、例えば、その組み合わせの数が3個である場合、図16に示すように、複数個の交点Nd1,Nd2が現れることがある。更に、組み合わせの数が4個以上の多数であり、複数個の交点Nd1,Nd2,Nd3,Nd4等が現れることがある。
このような場合には、凝集状態変化認定部15が、複数個の交点Nd1,Nd2等を示す座標情報を認定結果提示部16に出力する。
この出力に基づく表示を認定結果提示部16が行う場合、複数個の交点Nd1,Nd2等を示す座標情報に基づき生成された画像(即ち、赤血球を含む血液が流れる管の断面図、及び、その管の断面図内で複数個の交点Nd1,Nd2等を結んだ画像)を表示することにより、赤血球の凝集状態が変化している部分の形状(即ち、凝集状態の赤血球の形状)を把握しやすいように表示しても良い。
更に、例えば上述のような12個の電極21〜2Mが設置されており、66通りの電極の組み合わせがある場合、66通りの電極の組み合わせの各々につき、赤血球を含む血液が流れる管が延びる方向における複数個所につき、赤血球の凝集状態が変化している位置の特定(複数個の交点の特定)を行って、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す座標情報を出力し、その情報に基づき、赤血球の凝集状態が変化している部分の形状の立体的な表示を行うことも可能である。
【0103】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、2個又はM個の電極2が人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されているものを示したが、2個又はM個の電極2が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されているようにしてもよい。
このように、2個又はM個の電極2が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されている場合、その体外循環回路における赤血球の凝集状態を迅速かつ正確に検知することができる効果を奏する。
したがって、赤血球モニターは、埋込み型の人工心臓や体外循環回路などに応用可能な技術であるが、本発明を更に発展させることによって、例えば、飛行機内等で発症するエコノミークラス症候群を未然に防止する技術にも応用できる可能性がある。
【0104】
参考の形態.
上記実施の形態1〜3では、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定することで、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知する赤血球モニターについて示したが、特許(特許第03772237号)に開示されている技術を当該赤血球モニターに適用するようにしてもよい。
【0105】
特許第03772237号には、多次元多点測定によって、液体、気体、固体が混じっている混相流内において、液体や気体内の固体の濃度分布や、液体内の気体分布を可視化計測する技術が開示されている。
即ち、計測対象物の外周に多数の電極を配置させて、各電極間のキャパシタンスやインピーダンスを測定し、画像再構成法を利用して、その測定結果から固体や気体の濃度分布を画像化する技術が開示されている。
【0106】
人工心臓の動脈送血管1又は体外循環回路の周囲にM個の電極2を配置して、特許第03772237号に開示されている技術を当該赤血球モニターに適用すれば、各電極間のキャパシタンスやインピーダンスの測定結果から、赤血球の濃度分布を画像化することができる。
【0107】
尚、赤血球の界面における電気二重層容量の特定は、前述の各実施の形態に記載されたものには限られず、例えば、様々な条件等を考慮した実験や算出等により、複数の電極間のインピーダンスと電気二重層容量の対応関係を示すマップを作成しておき、このマップを使用して電気二重層容量を特定する形態、その他の形態が取られ得る。即ち、本発明は、赤血球の界面における電気二重層容量が赤血球の表面積の関数となることに着目し、赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知する点にその特徴を有するものである。
【符号の説明】
【0108】
1 人工心臓の動脈送血管、21,22,・・・,2M 電極、3,12 インピーダンス計測部(インピーダンス計測手段)、4,13 接触抵抗特定部(接触抵抗特定手段)、5,14 電気二重層容量特定部(電気二重層容量特定手段)、6,15 凝集状態変化認定部(凝集状態変化認定手段)、7,16 認定結果提示部、11 電極選択部(インピーダンス計測手段)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、埋込み型の人工心臓、または、手術用の人工心肺装置や人工透析装置等の体外循環回路に適用されて、赤血球の凝集状態の変化を検知する赤血球モニター及び赤血球のモニタリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
初めて臨床試験が開始された第一世代の人工心臓は、大型の拍動式であったが、種々の改良が施されることで、今日では、非接触小型回転式の人工心臓(第三世代の人工心臓)が主流になってきている。
第三世代の人工心臓は、日本の機械工学分野において得意とされている非接触軸受け技術が適用されているが、既に、臨床応用段階に入っており、在宅治療を行うことができるところまできている。
【0003】
しかし、このような第三世代の人工心臓においても、血栓や溶血が生じることがあるという大きな問題点を有している。
即ち、血流のせん断速度がごく低い場合、赤血球が人工心臓に滞留することで血栓(血液凝固)が生じることがある。もし、血栓が生じると脳梗塞等の発生や人工心臓の停止を招く恐れがある。
一方、血流のせん断速度がかなり高い場合、赤血球が破壊され易くなり溶血を招くことがある。
【0004】
したがって、血栓や溶血の発生を防止するためには、血圧や血流速度の動的な制御が必要不可欠である。万一、血栓や溶血が生じたときには、速やかに血栓や溶血を検知して、適切な処置を施す必要がある。
しかしながら、現時点では、血液検査により血液の状態を調べることは可能であるが、血栓や溶血をリアルタイム、かつ正確に検知できる赤血球モニターは開発されていない。そのため、迅速、かつ、正確に血栓や溶血の発生を検知することは極めて困難であるのが実情である。
【0005】
なお、以下の特許文献1には、血栓が生じると血管内の局所的なヘマトクリック値が増加することで、血栓の形成の成長に伴って赤血球の吸光度が上昇し、反射光の強度が低下することに着目している血液特性測定プローブ(赤血球モニター)が開示されている。
即ち、この血液特性測定プローブでは、近赤外光を血液中に照射して、その血液に対する近赤外光の反射光強度を測定することにより、血栓の形成状況を計測するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再表2007−105805号公報(段落番号[0005])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の赤血球モニターは以上のように構成されているので、近赤外光を血液中に照射して、その血液に対する近赤外光の反射光強度を測定すれば、血栓の形成状況を計測することができる。しかし、血液に対する近赤外光の照射角度によっては、近赤外光の反射光が散乱するなどの現象が生じるため、その反射光の強度を正確に測定することができず、血栓の形成状況の計測精度が劣化することがある課題があった。
また、血液に対する近赤外光の反射光強度を測定することができても、血栓以外の要因で反射光強度が変化する場合も考えられるし、その反射光強度から血栓の表面積(血栓の大きさ)を物理的に計測するものでもないため、血栓の形成状況を正確に把握することが困難である課題があった。
【0008】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、赤血球の界面における電気二重層容量が赤血球の表面積の関数となることに着目し、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知することができる赤血球モニター及び赤血球のモニタリング方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る赤血球モニターは、赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知するようにしたものである。
【0010】
この発明に係る赤血球モニターは、血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測手段と、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定手段とを設け、電気二重層容量特定手段が接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定するようにしたものである。
【0011】
この発明に係る赤血球モニターは、接触抵抗特定手段が、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから、血液が流れている空間内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗を特定し、電気二重層容量特定手段が、接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量を特定するようにしたものである。
【0012】
この発明に係る赤血球モニターは、インピーダンス計測手段が、複数の電極の間に印加される交流電圧の周波数を順次切り換えながら、各周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測し、接触抵抗特定手段が、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、実数成分が最大になるインピーダンス及び実数成分が最小になるインピーダンスを探索し、赤血球の界面における接触抵抗として、前記最大の実数成分と前記最小の実数成分との差分を算出し、電気二重層容量特定手段が、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、虚数成分が最大になるインピーダンスを探索し、そのインピーダンスがインピーダンス計測手段により計測される際に印加された交流電圧の周波数と前記接触抵抗から、赤血球の界面における電気二重層容量を特定するようにしたものである。
【0013】
この発明に係る赤血球モニターは、電気二重層容量特定手段により特定された電気二重層容量が所定の下限容量より小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定する凝集状態変化認定手段を設けるようにしたものである。
【0014】
この発明に係る赤血球モニターは、複数の電極が人工心臓の動脈送血管の周囲に設置されているようにしたものである。
【0015】
この発明に係る赤血球モニターは、複数の電極が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されているようにしたものである。
【0016】
この発明に係る赤血球のモニタリング方法は、赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知するようにしたものである。
【0017】
この発明に係る赤血球のモニタリング方法は、血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測処理ステップと、インピーダンス計測処理ステップで計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定処理ステップと、接触抵抗特定処理ステップで特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する電気二重層容量特定処理ステップとを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知し、ひいては血栓を予兆の段階で検知することができる効果がある。
また、構成によっては、赤血球の凝集状態が変化している位置を特定することができることもある効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1による赤血球モニターを示す構成図である。
【図2A】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す側面図(複数の赤血球が塊になっていない状態)である。
【図2B】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す側面図(複数の赤血球が塊になっている状態)である。
【図2C】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図(複数の赤血球が塊になっていない状態)である。
【図2D】周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図(複数の赤血球が塊になっている状態)である。
【図3】この発明の実施の形態1による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【図4】赤血球が血漿中に存在する場合の電気抵抗の種類を示す説明図である。
【図5】Cole−Coleプロットの一例を示す説明図である。
【図6A】血液を所定速度(2.625×10-6m3/s)で流して、インピーダンスZを計測した場合の実験結果を示す説明図である。
【図6B】血液を所定速度(6.5625×10-6m3/s)で流して、インピーダンスZを計測した場合の実験結果を示す説明図である。
【図7】血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
【図8】インピーダンス計測部3により生成されるCole−Coleプロットを示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2による赤血球モニターを示す構成図である。
【図10】周囲にM個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図である。
【図11】この発明の実施の形態2による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【図12】血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
【図13】インピーダンス計測部12により生成されるCole−Coleプロットを示す説明図である。
【図14】赤血球の凝集状態が変化している位置を示す説明図である。
【図15】赤血球の凝集状態が変化している位置を示す交点Ndが存在しない場合を示す説明図である。
【図16】赤血球の凝集状態が変化している位置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による赤血球モニターを示す構成図である。
図2A及び図2Bは周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す側面図であり、図2C及び図2Dは周囲に2個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図である。
図1及び図2A〜図2Dにおいて、人工心臓の動脈送血管1は患者の血管と接続されており、周囲には2個の電極21,22が設置されている。
図2A及び図2Cは、複数の赤血球11が塊になっていない状態を示しており、図2B及び図2Dは、複数の赤血球11が塊になっている状態を示している。
【0021】
インピーダンス計測部3は例えばLCRメータなどから構成されており、2個の電極21,22の間に印加される交流電圧V(fn)の周波数fn(n=1,2,・・・,N)を順次切り換えながら、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測(インピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、インピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測)する処理を実施する。
このように、インピーダンス計測部3が、交流電圧V(fn)の周波数fnを順次切り換えながら、電極21,22間のインピーダンスZを計測する方法は、一般に“インピーダンス・スペクトロスコピー法”と呼ばれている。
なお、インピーダンス計測部3はインピーダンス計測手段を構成している。
【0022】
接触抵抗特定部4は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、インピーダンス計測部3により計測されたインピーダンスZ(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZ)の中から、レジスタンスRが最大であるインピーダンスZRmax(レジスタンスが「Rpw+Rct」であるインピーダンス)を探索するとともに、レジスタンスRが最小であるインピーダンスZRmin(レジスタンスが「Rpw」であるインピーダンス)を探索する処理を実施する。ただし、Rpw,Rctの内容は後述する。
また、接触抵抗特定部4はインピーダンスZRmaxのレジスタンスRpw+RctからインピーダンスZRminのレジスタンスRpwを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct(=(Rpw+Rct)−Rpw)を算出する処理を実施する。
なお、接触抵抗特定部4は接触抵抗特定手段を構成している。
【0023】
電気二重層容量特定部5は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、インピーダンス計測部3により計測されたインピーダンスZ(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZ)の中から、リアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxを探索する処理を実施する。
また、電気二重層容量特定部5はインピーダンス計測部3によりインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧V(fn)の周波数fn(以下、この周波数fnを「周波数fmaxC」と称する)と、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctとから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定する処理を実施する。
なお、電気二重層容量特定部5は電気二重層容量特定手段を構成している。
【0024】
凝集状態変化認定部6は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電気二重層容量特定部5により特定された電気二重層容量Cdlが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨(即ち、赤血球が凝集している旨)を認定して、その認定結果を出力する処理を実施する。なお、凝集状態変化認定部6は凝集状態変化認定手段を構成している。
認定結果提示部7は例えば液晶表示器やスピーカなどから構成されており、凝集状態変化認定部6から出力された認定結果の表示や音声出力を行う。
【0025】
図1の例では、赤血球モニターの構成要素である電極21,22、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、赤血球モニターの構成要素の一部(例えば、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
【0026】
例えば、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7を1つのコンピュータで構成する場合、インピーダンス計測部3、接触抵抗特定部4、電気二重層容量特定部5、凝集状態変化認定部6及び認定結果提示部7の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図3はこの発明の実施の形態1による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【0027】
次に動作について説明する。
この実施の形態1では、赤血球モニターが人工心臓における赤血球の凝集状態(血栓が発生する予兆の段階)を検知する例を説明する。
この赤血球モニターは、人工心臓の動脈送血管1(例えば、直径が10mm程度の管路)を流れる血液中の赤血球の表面積を把握することで、複数の赤血球が塊になって流れている状態(血液が凝固している状態)であるか否かを判別するものである。
【0028】
ここで、図4は赤血球が血漿中に存在する場合の電気抵抗の種類を示す説明図である。
図4において、抵抗R1は赤血球11の内部の電気抵抗であり、R2は血漿12の電気抵抗である。
また、R3は赤血球11と赤血球11の接触界面における電気抵抗であり、R4は赤血球11と血漿12の接触界面における電気抵抗である。
さらに、R5は赤血球11と電極21の接触界面における電気抵抗であり、R6は血漿12と電極22の接触界面における電気抵抗である。
【0029】
人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されている2個の電極21,22に直流電圧を印加して、電極21,22間の抵抗を測定しても、電気抵抗R1〜R6のそれぞれを区別することができないが、2個の電極21,22に印加する交流電圧V(fn)の周波数fn(n=1,2,・・・,N)を順次切り換えながら、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測(インピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、インピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測)すれば、電気抵抗R1〜R6のそれぞれを区別することができる。
【0030】
これらの電気抵抗R1〜R6の中で、赤血球の内部の電気抵抗R1と、血漿の電気抵抗R2とは、緩和時間が短く応答速度が速い特性を有しているが、電気抵抗R3〜R6は、緩和時間が長く応答速度が遅い特性を有している。
一般的には、赤血球と赤血球の接触界面における電気抵抗R3は、赤血球と血漿の接触界面における電気抵抗R4よりも小さい場合が多く、赤血球の界面における電気抵抗成分である接触抵抗Rctのみを抽出することができる(接触抵抗Rctの抽出方法は後述する)。
【0031】
また、赤血球が誘電体である場合、赤血球の界面には電気抵抗の他に、電気二重層容量が形成される。
動脈送血管1の周囲に設置されている電極21,22は金属であるため、一般的には、電極21,22の界面における電気二重層容量は無視することができ、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlのみを抽出することができる(電気二重層容量Cdlの抽出方法は後述する)。
【0032】
ここで、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlは、赤血球の表面積の関数となるものである。
したがって、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを抽出し、その電気二重層容量Cdlが小さければ、赤血球の表面積が小さいことになるため、血液の凝固が生じていると考えられる。
即ち、複数の赤血球が凝固(凝集)していると、複数の赤血球の表面同士がくっついて、複数の赤血球がバラバラの状態で流れている場合の赤血球の個数よりも赤血球の個数が少なくなって、赤血球の表面が減少する。そのため、複数の赤血球が凝固している場合、複数の赤血球が凝固していない場合(複数の赤血球がバラバラの状態で流れている場合)の赤血球の表面積の総和と比較し、複数の赤血球の体積の総和が同じであっても、赤血球の表面積の総和が小さくなる。
一方、その電気二重層容量Cdlが大きければ、赤血球の表面積が大きいことになるため、血液の凝固が生じていないと考えられる。
これにより、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl及び赤血球の表面積は、血液凝固が生じているか否かの指標とすることができる。
【0033】
以下、図1の赤血球モニターの処理内容を具体的に説明する。
まず、インピーダンス計測部3は、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf1(例えば、f1=1MHz)に設定し(図3のステップST1)、周波数f1の交流電圧V(f1)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST2)。
インピーダンス計測部3は、周波数f1の交流電圧V(f1)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZとして、そのインピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、そのインピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測する(ステップST3)。
インピーダンス計測部3は、その計測結果である電極21,22間のインピーダンスZを例えば内部のメモリに記録する(ステップST4)。
【0034】
インピーダンス計測部3は、周波数f1の交流電圧V(f1)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了すると、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf2(例えば、f2=1.05MHz)に高める変更を行って(ステップST6)、周波数f2の交流電圧V(f2)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST2)。
インピーダンス計測部3は、周波数f2の交流電圧V(f2)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZとして、そのインピーダンスZの実数成分であるレジスタンスRと、そのインピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXを計測する(ステップST3)。
インピーダンス計測部3は、その計測結果である電極21,22間のインピーダンスZを例えば内部のメモリに記録する(ステップST4)。
【0035】
インピーダンス計測部3は、周波数fNの交流電圧V(fN)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了するまで、ステップST2〜ST6の処理を繰り返し実施する。
即ち、インピーダンスZの計測回数がN回に到達するまで、ステップST2〜ST6の処理を繰り返し実施する(ステップST5)。
【0036】
インピーダンス計測部3は、周波数fNの交流電圧V(fN)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了すると、図5に示すように、内部のメモリに記録にしている各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZを複素平面(横軸:レジスタンスR、縦軸:リアクタンスX)上にプロットすることで、その複素平面上に描かれるインピーダンスZの軌跡であるCole−Coleプロットを生成する(ステップST7)。
図5はCole−Coleプロットの一例を示す説明図であり、渦巻き状のCole−Coleプロットが生成される。
【0037】
ここで、図6A及び図6Bは血液を異なる速度(2.625×10-6m3/s、及び、6.5625×10-6m3/s)で流して、インピーダンスZを計測した場合の実験結果を示す説明図である。
図6A及び図6Bの実験結果は、赤血球の表面積の相違や血液が流れる速度の相違で、生成されるCole−Coleプロットの形状が変化することを表している。
図6A及び図6Bにおいて、φは赤血球の表面積であり、φ=0.6とφ=0.3の場合を示している。
【0038】
図7は血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
図7において、Rpwは血漿の電気抵抗(上記の電気抵抗R2に相当する)であり、Rctは赤血球の界面における接触抵抗(上記の電気抵抗R3に相当する)である。
また、Cdlは赤血球の界面における電気二重層容量(上記の電気抵抗R4に相当する)である。
さらに、Lは赤血球と電極の接触界面におけるインダクタンス(上記の電気抵抗R5に相当する)であり、RLは血漿と電極の接触界面における電気抵抗(上記の電気抵抗R6に相当する)である。
なお、ZFはインダクタンスL及び電気抵抗RLの直列回路と接触抵抗Rctからなる並列回路のファラデーインピーダンスである。
【0039】
動脈送血管1の内部における電気的成分が図7の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部3により計測されるインピーダンスZは、下記の式(1)のように表される。
【0040】
【数1】
ただし、jは虚数単位、ωは交流の角振動数である。
【0041】
また、動脈送血管1の内部における電気的成分が図7の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部3により生成されるCole−Coleプロットは、図8に示すようなプロットになる。
【0042】
【数2】
ただし、a1,a2,aXは電気抵抗に関する定数、fmaxCはリアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
また、fmaxLはインダクタンスLが最大であるインピーダンスZLmaxが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
【0043】
ここでは、インピーダンス計測部3が2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に高めていく例を示したが、交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に下げていくようにしてもよい。
また、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔は、等間隔でもよいし、不等間隔でもよい。
例えば、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔を不等間隔とする場合、レジスタンスRが最大になるインピーダンスZRmax、レジスタンスRが最小になるインピーダンスZRminや、リアクタンスXが最大になるインピーダンスZXmaxが計測される可能性が高いと考えられる周波数fnの付近の間隔を、これらのインピーダンスが計測される可能性が低いと考えられる周波数fnの付近の間隔よりも狭くする態様が考えられる。
【0044】
接触抵抗特定部4は、インピーダンス計測部3がCole−Coleプロットを生成すると、そのCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZのレジスタンスRを比較し、レジスタンスRが最大であるインピーダンスZRmaxを探索する(ステップST8)。
図8の例では、レジスタンスRが最大であるインピーダンスZRmaxとして、レジスタンスが「Rpw+Rct」であるインピーダンスが探索される。
【0045】
次に、接触抵抗特定部4は、Cole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZのレジスタンスRを比較し、レジスタンスRが最小であるインピーダンスZRminを探索する(ステップST9)。
図8の例では、レジスタンスRが最小であるインピーダンスZRminとして、レジスタンスが「Rpw」であるインピーダンスが探索される。
【0046】
接触抵抗特定部4は、インピーダンスZRmaxとインピーダンスZRminを探索すると、そのインピーダンスZRmaxのレジスタンスRpw+Rctから、インピーダンスZRminのレジスタンスRpwを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rctを算出する(ステップST10)。
Rct=(Rpw+Rct)−Rpw (6)
【0047】
ここでは、接触抵抗特定部4が、インピーダンスZRmaxのレジスタンスRpw+Rctから、インピーダンスZRminのレジスタンスRpwを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rctを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の接触抵抗Rctの算出結果や実験結果などに基づいて、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZと、赤血球の界面における接触抵抗Rctとの対応関係を示すマップを予め作成し、接触抵抗特定部4が、当該マップを参照して、インピーダンス計測部3により計測されたインピーダンスZから、赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定するようにしてもよい。
【0048】
電気二重層容量特定部5は、インピーダンス計測部3がCole−Coleプロットを生成すると、そのCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZのリアクタンスXを比較し、リアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxを探索する(ステップST11)。
図8の例では、リアクタンスXが最大であるインピーダンスZXmaxとして、周波数fmaxCの交流電圧V(fmaxC)が印加された場合に計測されたインピーダンスが探索される。
【0049】
電気二重層容量特定部5は、インピーダンスZXmaxを探索すると、インピーダンス計測部3によりインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC)の周波数fmaxCと、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctとを上記の式(3)に代入して、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを算出する(ステップST12)。
【0050】
ここでは、電気二重層容量特定部5が、インピーダンス計測部3によりインピーダンスZXmaxが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC)の周波数fmaxCと、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctとを上記の式(3)に代入して、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の電気二重層容量Cdlの算出結果や実験結果などに基づいて、赤血球の界面における接触抵抗Rctと電気二重層容量Cdlの対応関係を示すマップを予め作成し、電気二重層容量特定部5が、当該マップを参照して、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定するようにしてもよい。
【0051】
凝集状態変化認定部6は、電気二重層容量特定部5が電気二重層容量Cdlを算出すると、その電気二重層容量Cdlと予め設定された下限容量Clthを比較する。
ただし、下限容量Clthは、実験等により得られる閾値であるが、例えば、統計的に血栓が形成される確率が30%や50%、あるいは、80%以上の電気二重層容量Cdlを閾値とする態様が考えられる。
凝集状態変化認定部6は、電気二重層容量Cdlと下限容量Clthを比較して、その電気二重層容量Cdlが下限容量Clthより小さい場合(ステップST13)、赤血球の表面積が小さいので、赤血球の凝集状態に変化がある旨(赤血球が凝集している旨)を認定して、その認定結果を出力する(ステップST14)。
【0052】
ここでは、凝集状態変化認定部6は、1個の下限容量Clthが設定されて、1個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdlを比較するものについて示したが、値が異なる複数個の下限容量Clthが設定されて、複数個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdlを比較するようにしてもよい。
例えば、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が10%以上の電気二重層容量に相当する下限容量Clth,1と、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が80%以上の電気二重層容量に相当する下限容量Clth,2とが設定されている場合、凝集状態変化認定部6が、下限容量Clt,1、Clth,2と電気二重層容量Cdlを比較する。
そして、凝集状態変化認定部6は、電気二重層容量Cdl<下限容量Clth,2であれば、赤血球の凝集状態に大きな変化がある旨を認定して、その認定結果を出力し、下限容量Clth,2≦電気二重層容量Cdl<下限容量Clth,1であれば、赤血球の凝集状態に小さな変化がある旨を認定して、その認定結果を出力するようにする。
【0053】
認定結果提示部7は、凝集状態変化認定部6から赤血球の凝集状態に変化がある旨を示す認定結果を受けると、その認定結果を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、その認定結果を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する(ステップST15)。
なお、認定結果提示部7は、凝集状態変化認定部6から認定結果を受けなければ、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する。あるいは、メッセージ等の表示や音声出力を行わない。
【0054】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されている2個の電極21,22の間に、周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZを計測するインピーダンス計測部3と、インピーダンス計測部3により計測された電極21,22間のインピーダンスZから赤血球の界面における接触抵抗Rctを特定する接触抵抗特定部4とを設け、電気二重層容量特定部5が接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rctを用いて、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定するように構成したので、その電気二重層容量Cdlから赤血球の表面積を把握することができるようになり、その結果、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知し、ひいては血栓を予兆の段階で検知することができる効果を奏する。
【0055】
また、この実施の形態1によれば、電気二重層容量特定部5により特定された電気二重層容量Cdlが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定して、その認定結果を出力する凝集状態変化認定部6を設けるように構成したので、電気二重層容量Cdlと赤血球の表面積との対応関係が分からないユーザでも、赤血球の凝集状態に変化があることを速やかに認識することができる効果を奏する。
【0056】
また、この実施の形態1によれば、2個の電極21,22が人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されているように構成したので、人工心臓における赤血球の凝集状態の変化を検知することができる効果を奏する。
【0057】
なお、この実施の形態1では、予め下限容量Clthが凝集状態変化認定部6に設定されているものについて示したが、その下限容量Clthの設定を受け付けるマンマシンインタフェース部(例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなど)を実装し、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、その下限容量Clthを適宜設定するようにしてもよい。
【0058】
これにより、赤血球の凝集が問題となる確率が少しでもあれば、凝集状態変化認定部6から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が10%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
一方、赤血球の凝集が問題となる確率がかなり高いときに限り、凝集状態変化認定部6から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題となる確率が90%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
【0059】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、動脈送血管1の周囲に2個の電極21,22が設置されているものを示したが、動脈送血管1の周囲にM(M≧3)個の電極21,22,・・・,2Mが設置されていてもよい。
この実施の形態2では、M個の電極21,22,・・・,2Mを動脈送血管1の周囲に設置することにより、動脈送血管1内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量を特定する例を説明する。
【0060】
図9はこの発明の実施の形態2による赤血球モニターを示す構成図である。
図10は周囲にM個の電極が設置されている人工心臓の動脈送血管を示す断面図である。
図9及び図10において、人工心臓の動脈送血管1は患者の血管と接続されており、周囲にはM個の電極21,22,・・・,2Mが設置されている。
電極選択部11はM個の電極21〜2Mの中から、インピーダンス計測部12による計測対象の2個の電極2i,2jを順次選択する切換スイッチである。
【0061】
インピーダンス計測部12は例えばLCRメータなどから構成されており、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jの間に印加される交流電圧V(fn)の周波数fn(n=1,2,・・・,N)を順次切り換えながら、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極2i,2j間のインピーダンスZi,jを計測(インピーダンスZi,jの実数成分であるレジスタンスRi,jと、インピーダンスZの虚数成分であるリアクタンスXi,jを計測)する処理を実施する。
例えば、電極選択部11により選択された2個の電極が電極2iと電極2jである場合、Zi,jは電極2iと電極2jの間のインピーダンスとなる。
例えば、M=12であれば、2個の電極2i,2jの組み合わせが66通りになるため、66通りのインピーダンスZi,jを計測する。
なお、電極選択部11及びインピーダンス計測部12からインピーダンス計測手段が構成されている。
【0062】
接触抵抗特定部13は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、インピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,jから、血液が流れている動脈送血管1内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定する処理を実施する。
即ち、接触抵抗特定部13はインピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,j(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極2i,2j間のインピーダンスZi,j)の中から、レジスタンスRi,jが最大であるインピーダンスZRmax−i,j(レジスタンスが「Rpw−i,j+Rct−i,j」であるインピーダンス)を探索するとともに、レジスタンスRi,jが最小であるインピーダンスZRmin−i,j(レジスタンスが「Rpw−i,j」であるインピーダンス)を探索する処理を実施する。
また、接触抵抗特定部13はインピーダンスZRmax−i,jのレジスタンスRpw−i,j+Rct−i,jからインピーダンスZRmin−i,jのレジスタンスRpw−i,jを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,j(=(Rpw−i,j+Rct−i,j)−Rpw−i,j)を算出する処理を実施する。
なお、接触抵抗特定部13は接触抵抗特定手段を構成している。
【0063】
電気二重層容量特定部14は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、接触抵抗特定部13より特定された接触抵抗Rct−i,jを用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定する処理を実施する。
即ち、電気二重層容量特定部14はインピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,j(各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合の電極2i,2j間のインピーダンスZi,j)の中から、リアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jを探索する処理を実施する。
また、電気二重層容量特定部14はインピーダンス計測部12によりインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧V(fn)の周波数fn(以下、この周波数fnを「周波数fmaxC−i,j」と称する)と、接触抵抗特定部4により特定された接触抵抗Rct−i,jとから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを算出する処理を実施する。
なお、電気二重層容量特定部14は電気二重層容量特定手段を構成している。
【0064】
凝集状態変化認定部15は例えばCPUを実装している半導体集積回路、ワンチップマイコン、あるいは、パーソナルコンピュータなどから構成されており、電気二重層容量特定部14により特定された電気二重層容量Cdl−i,jが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定して、その認定結果を出力するとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報を出力する処理を実施する。
なお、凝集状態変化認定部15は凝集状態変化認定手段を構成している。
【0065】
認定結果提示部16は例えば液晶表示器やスピーカなどから構成されており、凝集状態変化認定部15から出力された認定結果の表示や音声出力を行うとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置の表示を行う。
【0066】
図9の例では、赤血球モニターの構成要素である電極21,22,・・・,2M、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16のそれぞれが専用のハードウェアで構成されているものについて示したが、赤血球モニターの構成要素の一部(例えば、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16)が1つのコンピュータで構成されていてもよい。
【0067】
例えば、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16を1つのコンピュータで構成する場合、電極選択部11、インピーダンス計測部12、接触抵抗特定部13、電気二重層容量特定部14、凝集状態変化認定部15及び認定結果提示部16の処理内容を記述しているプログラムを当該コンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図11はこの発明の実施の形態2による赤血球のモニタリング方法(赤血球モニターの処理内容)を示すフローチャートである。
【0068】
次に動作について説明する。
電極選択部11は、例えば、インピーダンス計測部12の指示の下、M個の電極21〜2Mの中から、インピーダンス計測部12による計測対象の2個の電極2i,2jを順次選択し、2個の電極2i,2jをインピーダンス計測部12と電気的に接続する(ステップST21)。
例えば、M個の電極21〜2Mの中から、下記の順番で、2個の電極2i,2jを選択して、2個の電極2i,2jをインピーダンス計測部12と電気的に接続する。
(電極21+電極22)→(電極21+電極23)→・・・→(電極21+電極2M)
→(電極22+電極23)→(電極22+電極24)→・・・→(電極22+電極2M)
:
→(電極2M−1+電極2M)
例えば、M=12であれば、2個の電極2i,2jの組み合わせは66通りになる。
【0069】
インピーダンス計測部12は、電極選択部11が2個の電極2i,2jを選択することで(この段階では、説明の便宜上、電極選択部11が電極21,22を選択しているものとする)、電極21及び電極22と電気的に接続されると、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf1(例えば、f1=1MHz)に設定し(ステップST22)、周波数f1の交流電圧V(f1)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST23)。
インピーダンス計測部12は、周波数f1の交流電圧V(f1)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZ1,2として、そのインピーダンスZ1,2の実数成分であるレジスタンスR1,2と、そのインピーダンスZ1,2の虚数成分であるリアクタンスX1,2を計測する(ステップST24)。
インピーダンス計測部12は、計測結果である電極21,22間のインピーダンスZ1,2を例えば内部のメモリに記録する(ステップST25)。
【0070】
インピーダンス計測部12は、周波数f1の交流電圧V(f1)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZの計測が完了すると、2個の電極21,22の間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnをf2(例えば、f2=1.05MHz)に高める変更を行って(ステップST27)、周波数f2の交流電圧V(f2)を2個の電極21,22の間に印加する(ステップST23)。
インピーダンス計測部12は、周波数f2の交流電圧V(f2)を印加すると、2個の電極21,22間のインピーダンスZ1,2として、そのインピーダンスZ1,2の実数成分であるレジスタンスR1,2と、そのインピーダンスZ1,2の虚数成分であるリアクタンスX1,2を計測する(ステップST24)。
インピーダンス計測部12は、計測結果である電極21,22間のインピーダンスZ1,2を例えば内部のメモリに記録する(ステップST25)。
【0071】
インピーダンス計測部12は、周波数fNの交流電圧V(fN)が印加された場合の電極21,22間のインピーダンスZ1,2の計測が完了するまで、ステップST23〜ST27の処理を繰り返し実施する。
即ち、インピーダンスZ1,2の計測回数がN回に到達するまで、ステップST23〜ST27の処理を繰り返し実施する(ステップST26)。
【0072】
次に、電極選択部11は、2個の電極21,23を選択する(ステップST21)。
インピーダンス計測部12は、電極選択部11が2個の電極21,23を選択すると(ステップST21)、2個の電極21,22が選択された場合と同様にして、電極21,23間のインピーダンスZ1,3を計測して、そのインピーダンスZ1,3を例えば内部のメモリに記録する。
即ち、インピーダンス計測部12は、2個の電極2i,2jについて、電極選択部11により全ての組み合わせが選択されるまで、ステップST21〜ST27の処理を繰り返し実施する(ステップST28)。
これにより、例えば、M=12であれば、全部で66通りのインピーダンスZ1,2,Z1,3,・・・,ZM−1,Mが計測されて、これらのインピーダンスZ1,2,Z1,3,・・・,ZM−1,Mが例えば内部のメモリに記録される。
【0073】
インピーダンス計測部12は、インピーダンスZ1,2,Z1,3,・・・,ZM−1,Mの計測が完了すると、図5に示すように、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、内部のメモリに記録にしている各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jを複素平面(横軸:レジスタンスRi,j、縦軸:リアクタンスXi,j)上にプロットすることで、その複素平面上に描かれるインピーダンスZi,jの軌跡であるCole−Coleプロットを生成する(ステップST29)。
【0074】
ここで、図12は血漿と赤血球が混在している動脈送血管1の内部における電気的成分を示す等価回路である。
図12において、Rpw−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している血漿の電気抵抗(上記の電気抵抗R2に相当する)であり、Rct−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の界面における接触抵抗(上記の電気抵抗R3に相当する)である。
また、Cdl−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の界面における電気二重層容量(上記の電気抵抗R4に相当する)である。
さらに、Li,jは電極2iと電極2jの間に存在している赤血球と電極2i,2jの接触界面におけるインダクタンス(上記の電気抵抗R5に相当する)であり、RL−i,jは電極2iと電極2jの間に存在している血漿と電極2i,2jの接触界面における電気抵抗(上記の電気抵抗R6に相当する)である。
なお、ZF−i,jはインダクタンスLi,j及び電気抵抗RL−i,jの直列回路と接触抵抗Rct−i,jからなる並列回路のファラデーインピーダンスである。
【0075】
動脈送血管1の内部における電気的成分が図12の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部12により計測されるインピーダンスZi,jは、下記の式(11)のように表される。
【0076】
【数3】
ただし、jは虚数単位、ωは交流の角振動数である。
【0077】
また、動脈送血管1の内部における電気的成分が図12の等価回路で表される場合、インピーダンス計測部12により生成されるCole−Coleプロットは、図13に示すようなプロットになる。
【0078】
【数4】
ただし、a1−i,j,a2−i,j,aX−i,jは電気抵抗に関する定数、fmaxC−i,jはリアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
また、fmaxL−i,jはインダクタンスLi,jが最大であるインピーダンスZLmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧Vの周波数である。
【0079】
ここでは、インピーダンス計測部12が2個の電極2i,2jの間に印加する交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に高めていく例を示したが、交流電圧V(fn)の周波数fnを段階的に下げていくようにしてもよい。
また、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔は、等間隔でもよいし、不等間隔でもよい。
例えば、交流電圧V(fn)の周波数fnの間隔を不等間隔とする場合、レジスタンスRi,jが最大になるインピーダンスZRmax−i,j、レジスタンスRi,jが最小になるインピーダンスZRmin−i,jや、リアクタンスXi,jが最大になるインピーダンスZXmax−i,jが計測される可能性が高いと考えられる周波数fnの付近の間隔を、これらのインピーダンスが計測される可能性が低いと考えられる周波数fnの付近の間隔よりも狭くする態様が考えられる。
【0080】
接触抵抗特定部13は、インピーダンス計測部12が電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、Cole−Coleプロットを生成すると、2個の電極2i,2jの組み合わせに対応するCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jのレジスタンスRi,jを比較し、レジスタンスRi,jが最大であるインピーダンスZRmax−i,jを探索する(ステップST30)。
図13の例では、レジスタンスRi,jが最大であるインピーダンスZRmax−i,jとして、レジスタンスが「Rpw−i,j+Rct−i,j」であるインピーダンスが探索される。
【0081】
次に、接触抵抗特定部13は、2個の電極2i,2jの組み合わせに対応するCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jのレジスタンスRi,jを比較し、レジスタンスRi,jが最小であるインピーダンスZRmin−i,jを探索する(ステップST31)。
図13の例では、レジスタンスRi,jが最小であるインピーダンスZRmin−i,jとして、レジスタンスが「Rpw−i,j」であるインピーダンスが探索される。
【0082】
接触抵抗特定部13は、インピーダンスZRmax−i,jとインピーダンスZRmin−i,jを探索すると、そのインピーダンスZRmax−i,jのレジスタンスRpw−i,j+Rct−i,jから、インピーダンスZRmin−i,jのレジスタンスRpw−i,jを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを算出する(ステップST32)。
Rct−i,j=(Rpw−i,j+Rct−i,j)−Rpw−i,j (16)
これにより、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jが算出される。
【0083】
ここでは、接触抵抗特定部13が、インピーダンスZRmax−i,jのレジスタンスRpw−i,j+Rct−i,jから、インピーダンスZRmin−i,jのレジスタンスRpw−i,jを減算することで、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の接触抵抗Rct−i,jの特定結果や実験結果などに基づいて、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jと、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jとの対応関係を示すマップを予め作成し、接触抵抗特定部13が、当該マップを参照して、インピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,jから、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定するようにしてもよい。
【0084】
電気二重層容量特定部14は、インピーダンス計測部12が電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、Cole−Coleプロットを生成すると、2個の電極2i,2jの組み合わせに対応するCole−Coleプロットを参照して、各周波数fnの交流電圧V(fn)が印加された場合のインピーダンスZi,jのリアクタンスXi,jを比較し、リアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jを探索する(ステップST33)。
図13の例では、リアクタンスXi,jが最大であるインピーダンスZXmax−i,jとして、周波数fmaxC−i,jの交流電圧V(fmaxC−i,j)が印加された場合に計測されたインピーダンスが探索される。
【0085】
電気二重層容量特定部14は、インピーダンスZXmax−i,jを探索すると、インピーダンス計測部12によりインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC−i,j)の周波数fmaxC−i,jと、接触抵抗特定部13により特定された接触抵抗Rct−i,jとを上記の式(13)に代入して、電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを算出する(ステップST34)。
これにより、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jが特定される。
【0086】
ここでは、電気二重層容量特定部14が、インピーダンス計測部12によりインピーダンスZXmax−i,jが計測される際に印加された交流電圧V(fmaxC−i,j)の周波数fmaxC−i,jと、接触抵抗特定部13により特定された接触抵抗Rct−i,jとを上記の式(13)に代入して、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを算出する方法を示したが、これは一例に過ぎず、他の方法で、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定するようにしてもよい。
例えば、過去の電気二重層容量Cdl−i,jの算出結果や実験結果などに基づいて、赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jと電気二重層容量Cdl−i,jの対応関係を示すマップを予め作成し、電気二重層容量特定部14が、当該マップを参照して、接触抵抗特定部13により特定された接触抵抗Rct−i,jから、赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定するようにしてもよい。
【0087】
凝集状態変化認定部15は、電気二重層容量特定部14が電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に電気二重層容量Cdl−i,jを特定すると、2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、当該電気二重層容量Cdl−i,jと予め設定された下限容量Clthを比較する。
凝集状態変化認定部15は、電気二重層容量Cdl−i,jと下限容量Clthを比較して、その電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さい場合(ステップST35)、電極2iと電極2jの間に存在している赤血球の表面積が小さいので、赤血球の凝集状態に変化がある旨(赤血球が凝集している旨)を認定して、その認定結果を出力する(ステップST36)。
また、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jを示す情報を出力する。
【0088】
ここでは、凝集状態変化認定部15は、1個の下限容量Clthが設定されて、1個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdl−i,jを比較するものについて示したが、図1の凝集状態変化認定部6と同様に、値が異なる複数個の下限容量Clthが設定されて、複数個の下限容量Clthと電気二重層容量Cdl−i,jを比較するようにしてもよい。
また、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの距離が長くなる程、電気二重層容量特定部14により特定される電気二重層容量Cdl−i,jが小さくなる傾向があるため、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2j毎に下限容量Clthが設定されるようにしてもよい。
即ち、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの距離が長い程、小さな下限容量Clthが設定されるようにしてもよい。
【0089】
認定結果提示部16は、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態に変化がある旨を示す認定結果を受けると、その認定結果を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、その認定結果を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する(ステップST37)。
その際、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jを示す情報を受けると、2個の電極2i,2jの間の位置を表示する。例えば、2個の電極2i−電極2jを結ぶ線分Li−jを表示する。
これにより、ユーザは、赤血球の凝集状態が変化している位置が、電極2iと電極2jの間にあることを認識することができる。
【0090】
なお、認定結果提示部16は、凝集状態変化認定部15から認定結果を受けなければ、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をディスプレイに表示する。あるいは、赤血球の凝集状態に変化がない旨を示すメッセージ等をスピーカから音声出力する。あるいは、メッセージ等の表示や音声出力を行わない。
【0091】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、接触抵抗特定部13が、インピーダンス計測部12により計測されたインピーダンスZi,jから、血液が流れている動脈送血管1内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗Rct−i,jを特定し、電気二重層容量特定部14が、接触抵抗特定部13より特定された接触抵抗Rct−i,jを用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量Cdl−i,jを特定するように構成したので、電気二重層容量Cdl−i,jから流れている位置が異なる複数の赤血球の表面積を把握することができるようになり、その結果、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知することができるとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を特定することができる効果を奏する。
【0092】
また、この実施の形態2によれば、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、電気二重層容量特定部14により特定された電気二重層容量Cdl−i,jが予め設定された下限容量Clthより小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定して、その認定結果を出力するとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報を出力する凝集状態変化認定部15を設けるように構成したので、電気二重層容量Cdl−i,jと赤血球の表面積との対応関係が分からないユーザでも、赤血球の凝集状態に変化があることを速やかに認識することができるとともに、赤血球の凝集状態が変化している位置を速やかに認識することができる効果を奏する。
【0093】
さらに、この実施の形態2によれば、M個の電極21〜2Mが人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されているように構成したので、人工心臓における赤血球の凝集状態の変化を正確に検知することができる効果を奏する。
【0094】
なお、この実施の形態2では、予め下限容量Clthが凝集状態変化認定部15に設定されているものについて示したが、その下限容量Clthの設定を受け付けるマンマシンインタフェース部(例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなど)を実装し、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、その下限容量Clthを適宜設定するようにしてもよい。
【0095】
これにより、赤血球の凝集が問題とされる確率が少しでもあれば、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題とされる確率が10%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
一方、赤血球の凝集が問題とされる確率がかなり高いときに限り、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態に変化がある旨の認定結果が出力されることをユーザが希望する場合、ユーザがマンマシンインタフェース部を操作して、例えば、統計的に赤血球の凝集が問題とされる確率が90%以上の電気二重層容量Cdlが下限容量Clthとなるように設定すればよい。
【0096】
また、この実施の形態2では、凝集状態変化認定部15が、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極選択部11により選択された2個の電極2i,2jを示す情報を出力すると、認定結果提示部7が、赤血球の凝集状態が変化している位置として、2個の電極2i,2jの間の位置を表示するようにしているが、以下に示すように、赤血球の凝集状態が変化している位置を更に具体的に表示するようにしてもよい。
【0097】
人工心臓の動脈送血管1には、上述したように、M個の電極21〜2Mが設置されているが、例えば、M=12であれば、2個の電極2i,2jの組み合わせが66通りになり、電極選択部11により選択される2個の電極2i,2jの組み合わせ毎に、電気二重層容量特定部14が、電気二重層容量Cdl−i,jを算出するので、全部で66通りの電気二重層容量Cdl−i,jを算出する。
したがって、この場合、凝集状態変化認定部15は、66通りの電気二重層容量Cdl−i,jと下限容量Clthを比較し、どの組み合わせの電極2i,2jのときに、その電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなるかを特定する。
【0098】
凝集状態変化認定部15は、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が少なくとも2個以上ある場合、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を実施する。ただし、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が1個である場合、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を実施せず、上記の通り、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jを示す情報を出力する。
以下、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を説明する。
【0099】
例えば、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が2個であり、電極21−電極25の組み合わせと、電極24−電極2Mの組み合わせが、下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせであるとすると、図14に示すように、電極21と電極25を結ぶ線分L1−5と、電極24−電極2Mを結ぶ線分L4−Mとの交点Ndが、赤血球の凝集状態が変化している位置であるとして特定する。
この場合、凝集状態変化認定部15は、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、交点Ndの位置を示す座標情報を認定結果提示部16に出力する。
ここでは、凝集状態変化認定部15が、交点Ndの位置を示す座標情報を出力しているが、交点Ndの位置を示す座標情報の代わりに、線分L1−5と線分L4−Mの交点Ndが“凝集状態の変化位置である”旨を示すフラグ情報を出力するようにしてもよい。
【0100】
認定結果提示部16は、凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、交点Ndの位置を示す座標情報を受けると、赤血球の凝集状態が変化している位置として、交点Ndの位置を表示する(図14を参照)。この場合、認定結果提示部16は、更に、電極21と電極25を結ぶ線分L1−5、及び、電極24−電極2Mを結ぶ線分L4−Mに関する情報を凝集状態変化認定部15から受け取り、これらの線分に関する情報を表示しても良い。
凝集状態変化認定部15から赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、交点Ndの位置を示す座標情報ではなく、線分L1−5と線分L4−Mの交点Ndが“凝集状態の変化位置である”旨を示すフラグ情報を受けているときは、認定結果提示部16が、線分L1−5と線分L4−Mの交点Ndを特定して、その交点Ndの位置を表示する。
これにより、ユーザは、赤血球の凝集状態が変化している位置の概略的な位置(2個の電極の間の位置)ではなく、具体的な位置(交点Ndの位置)を認識することができる。
【0101】
ただし、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が2個である場合でも、下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせが、例えば、電極22−電極24の組み合わせと、電極25−電極2Mの組み合わせであるような場合、図15に示すように、電極22と電極24を結ぶ線分L2−4と、電極25−電極2Mを結ぶ線分L5−Mとが交わらない。
このような場合、凝集状態変化認定部15は、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す情報として、電極22,24を示す情報と、電極25,2Mを示す情報とを認定結果提示部16に出力する。
【0102】
ここでは、電気二重層容量Cdl−i,jが下限容量Clthより小さくなる電極2i,2jの組み合わせの数が2個であるときに、赤血球の凝集状態が変化している位置の具体的な特定処理を実施するものについて示したが、その組み合わせの数が2個以上であればよく、例えば、その組み合わせの数が3個である場合、図16に示すように、複数個の交点Nd1,Nd2が現れることがある。更に、組み合わせの数が4個以上の多数であり、複数個の交点Nd1,Nd2,Nd3,Nd4等が現れることがある。
このような場合には、凝集状態変化認定部15が、複数個の交点Nd1,Nd2等を示す座標情報を認定結果提示部16に出力する。
この出力に基づく表示を認定結果提示部16が行う場合、複数個の交点Nd1,Nd2等を示す座標情報に基づき生成された画像(即ち、赤血球を含む血液が流れる管の断面図、及び、その管の断面図内で複数個の交点Nd1,Nd2等を結んだ画像)を表示することにより、赤血球の凝集状態が変化している部分の形状(即ち、凝集状態の赤血球の形状)を把握しやすいように表示しても良い。
更に、例えば上述のような12個の電極21〜2Mが設置されており、66通りの電極の組み合わせがある場合、66通りの電極の組み合わせの各々につき、赤血球を含む血液が流れる管が延びる方向における複数個所につき、赤血球の凝集状態が変化している位置の特定(複数個の交点の特定)を行って、赤血球の凝集状態が変化している位置を示す座標情報を出力し、その情報に基づき、赤血球の凝集状態が変化している部分の形状の立体的な表示を行うことも可能である。
【0103】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、2個又はM個の電極2が人工心臓の動脈送血管1の周囲に設置されているものを示したが、2個又はM個の電極2が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されているようにしてもよい。
このように、2個又はM個の電極2が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されている場合、その体外循環回路における赤血球の凝集状態を迅速かつ正確に検知することができる効果を奏する。
したがって、赤血球モニターは、埋込み型の人工心臓や体外循環回路などに応用可能な技術であるが、本発明を更に発展させることによって、例えば、飛行機内等で発症するエコノミークラス症候群を未然に防止する技術にも応用できる可能性がある。
【0104】
参考の形態.
上記実施の形態1〜3では、赤血球の界面における電気二重層容量Cdlを特定することで、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知する赤血球モニターについて示したが、特許(特許第03772237号)に開示されている技術を当該赤血球モニターに適用するようにしてもよい。
【0105】
特許第03772237号には、多次元多点測定によって、液体、気体、固体が混じっている混相流内において、液体や気体内の固体の濃度分布や、液体内の気体分布を可視化計測する技術が開示されている。
即ち、計測対象物の外周に多数の電極を配置させて、各電極間のキャパシタンスやインピーダンスを測定し、画像再構成法を利用して、その測定結果から固体や気体の濃度分布を画像化する技術が開示されている。
【0106】
人工心臓の動脈送血管1又は体外循環回路の周囲にM個の電極2を配置して、特許第03772237号に開示されている技術を当該赤血球モニターに適用すれば、各電極間のキャパシタンスやインピーダンスの測定結果から、赤血球の濃度分布を画像化することができる。
【0107】
尚、赤血球の界面における電気二重層容量の特定は、前述の各実施の形態に記載されたものには限られず、例えば、様々な条件等を考慮した実験や算出等により、複数の電極間のインピーダンスと電気二重層容量の対応関係を示すマップを作成しておき、このマップを使用して電気二重層容量を特定する形態、その他の形態が取られ得る。即ち、本発明は、赤血球の界面における電気二重層容量が赤血球の表面積の関数となることに着目し、赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を迅速かつ正確に検知する点にその特徴を有するものである。
【符号の説明】
【0108】
1 人工心臓の動脈送血管、21,22,・・・,2M 電極、3,12 インピーダンス計測部(インピーダンス計測手段)、4,13 接触抵抗特定部(接触抵抗特定手段)、5,14 電気二重層容量特定部(電気二重層容量特定手段)、6,15 凝集状態変化認定部(凝集状態変化認定手段)、7,16 認定結果提示部、11 電極選択部(インピーダンス計測手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知する赤血球モニター。
【請求項2】
血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測手段と、前記インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定手段と、前記接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する電気二重層容量特定手段とを備えた赤血球モニター。
【請求項3】
接触抵抗特定手段は、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから、血液が流れている空間内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗を特定し、
電気二重層容量特定手段は、前記接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量を特定する
ことを特徴とする請求項2記載の赤血球モニター。
【請求項4】
インピーダンス計測手段は、複数の電極の間に印加される交流電圧の周波数を順次切り換えながら、各周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測し、
接触抵抗特定手段は、前記インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、実数成分が最大になるインピーダンス及び実数成分が最小になるインピーダンスを探索し、赤血球の界面における接触抵抗として、前記最大の実数成分と前記最小の実数成分との差分を算出し、
電気二重層容量特定手段は、前記インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、虚数成分が最大になるインピーダンスを探索し、そのインピーダンスが前記インピーダンス計測手段により計測される際に印加された交流電圧の周波数と前記接触抵抗から、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する
ことを特徴とする請求項2または請求項3記載の赤血球モニター。
【請求項5】
電気二重層容量特定手段により特定された電気二重層容量が所定の下限容量より小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定する凝集状態変化認定手段を設けたことを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の赤血球モニター。
【請求項6】
複数の電極が人工心臓の動脈送血管の周囲に設置されていることを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか1項記載の赤血球モニター。
【請求項7】
複数の電極が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されていることを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか1項記載の赤血球モニター。
【請求項8】
赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知する赤血球のモニタリング方法。
【請求項9】
血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測処理ステップと、前記インピーダンス計測処理ステップで計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定処理ステップと、前記接触抵抗特定処理ステップで特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する電気二重層容量特定処理ステップとを備えた赤血球のモニタリング方法。
【請求項1】
赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知する赤血球モニター。
【請求項2】
血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測手段と、前記インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定手段と、前記接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する電気二重層容量特定手段とを備えた赤血球モニター。
【請求項3】
接触抵抗特定手段は、インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスから、血液が流れている空間内で、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における接触抵抗を特定し、
電気二重層容量特定手段は、前記接触抵抗特定手段により特定された接触抵抗を用いて、流れている位置が異なる複数の赤血球の界面における電気二重層容量を特定する
ことを特徴とする請求項2記載の赤血球モニター。
【請求項4】
インピーダンス計測手段は、複数の電極の間に印加される交流電圧の周波数を順次切り換えながら、各周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測し、
接触抵抗特定手段は、前記インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、実数成分が最大になるインピーダンス及び実数成分が最小になるインピーダンスを探索し、赤血球の界面における接触抵抗として、前記最大の実数成分と前記最小の実数成分との差分を算出し、
電気二重層容量特定手段は、前記インピーダンス計測手段により計測された複数の電極間のインピーダンスの中から、虚数成分が最大になるインピーダンスを探索し、そのインピーダンスが前記インピーダンス計測手段により計測される際に印加された交流電圧の周波数と前記接触抵抗から、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する
ことを特徴とする請求項2または請求項3記載の赤血球モニター。
【請求項5】
電気二重層容量特定手段により特定された電気二重層容量が所定の下限容量より小さい場合、赤血球の凝集状態に変化がある旨を認定する凝集状態変化認定手段を設けたことを特徴とする請求項2から請求項4のうちのいずれか1項記載の赤血球モニター。
【請求項6】
複数の電極が人工心臓の動脈送血管の周囲に設置されていることを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか1項記載の赤血球モニター。
【請求項7】
複数の電極が手術用又は透析用の体外循環回路の周囲に設置されていることを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか1項記載の赤血球モニター。
【請求項8】
赤血球の界面における電気二重層容量に基づき、赤血球の凝集状態の変化を検知する赤血球のモニタリング方法。
【請求項9】
血液が流れている空間の周囲に設置されている複数の電極の間に、所定の周波数の交流電圧が印加された場合の複数の電極間のインピーダンスを計測するインピーダンス計測処理ステップと、前記インピーダンス計測処理ステップで計測された複数の電極間のインピーダンスから赤血球の界面における接触抵抗を特定する接触抵抗特定処理ステップと、前記接触抵抗特定処理ステップで特定された接触抵抗を用いて、赤血球の界面における電気二重層容量を特定する電気二重層容量特定処理ステップとを備えた赤血球のモニタリング方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−52944(P2012−52944A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196423(P2010−196423)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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